説明

導電性ゴム部材及びその製造方法

【課題】 低硬度で且つ成形性に優れ、電気抵抗値が安定した導電性ゴム部材を提供する。
【解決手段】 ムーニー粘度ML(1+4)100℃が10〜50で、且つ重量平均分子量Mwが10000以上である低粘度ヒドリン系ポリマーを含むゴム基材に導電性付与材を配合した材料から成形した導電性弾性体からなることを特徴とする導電性ゴム部材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真式複写機及びプリンター、またはトナージェット式複写機及びプリンター等の画像形成装置の感光体等に一様な帯電を付与するために用いられる導電性ロールやブレード等に特に好適な導電性ゴム部材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子写真式複写機及びプリンターなどの画像形成装置の導電性ロールには、ポリウレタン、シリコーンゴム、エチレンプロピレンゴム(EPDM)、ニトリルブタジエンゴム(NBR)、又はスチレン・ブタジエンゴム(SBR)等に、カーボンブラック等の導電性物質を分散させて導電性を付与した導電性ゴム部材が用いられている。
【0003】
このような導電性ロールは、導電性充填剤が均一に分散し難く、ロールの周方向や幅方向において電気抵抗値がばらつきやすいという問題や、製品ごとの電気抵抗値の制御が困難であるという問題がある。また、ゴム硬度が高くなりやすく、感光体との密着性が十分に得られないために帯電が不均一になりやすいという問題点があった。
【0004】
そこで、上述した問題を解決するものとして、NBR(ニトリルブタジエンゴム)とEPDM(エチレンプロピレンジエンゴム)を混合してなる非相溶性のブレンド物に、特性の異なる2種類のカーボンブラックを分散させて構成した半導電性ロール(特許文献1参照)や、NBRとEPDMと第三のゴムとしてCRあるいはSBRの混合物に、二種類以上のカーボンブラックを分散させた半導電性ロール(特許文献2参照)が提案されている。しかしながら、ポリマーに依存する電気抵抗値のムラが生じやすいという問題があった。
【0005】
また、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)にイオン導電性ゴムのエピクロルヒドリンゴム(ECO)を混合してなるイオン導電性ゴム成分に所定量のカーボンブラックを配合した導電性ゴムローラ(特許文献3参照)が報告されている。しかしながら、エピクロルヒドリンゴム(ECO)は加工性が悪く、ゴム組成物を所望の形状に成形しにくいという問題があった。
【0006】
なお、加工性を改良するためには、可塑剤、軟化剤が一般的に用いられるが、感光体を汚染するため使用が制限される。そこで、エピクロルヒドリンゴム(ECO)に低粘度NBRをブレンドして加工性を改良すると同時に低硬度化した導電性ゴム組成物が提案されている(特許文献4参照)。しかしながら、エピクロルヒドリンゴム(ECO)の割合が多いブレンドでは、耐オゾン性に優れるが、低硬度化によるニップ量の確保の効果が十分に得られなくなり、さらに成形性も悪くなってしまう。
【0007】
また、ムーニー粘度が1以下である液状、粘調体の低分子量エピクロルヒドリン系重合体を用いた半導電性ロールは、低圧縮永久歪みを保持し、エピクロルヒドリン系重合体自身が加硫して固定されるため、感光体汚染が少なくなることが報告されている(特許文献5参照)。しかしながら、液状、粘調体の低分子量エピクロルヒドリン系重合体は、半導電性ゴムロールとした際に未反応成分がブリードして感光体を汚染する虞があった。
【0008】
【特許文献1】特開平8−334995号公報(請求項等)
【特許文献2】特開平10−254215号公報(請求項等)
【特許文献3】特開2004−263059号公報(請求項等)
【特許文献4】特開平11−65269号公報(請求項等)
【特許文献5】特開平11−272039号公報(請求項等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような事情に鑑み、低硬度で且つ成形性に優れ、電気抵抗値が安定した導電性ゴム部材及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決する本発明の第1の態様は、ムーニー粘度ML(1+4)100℃が10〜50で、且つ重量平均分子量Mwが10000以上である低粘度ヒドリン系ポリマーを含むゴム基材から成形した導電性弾性体からなることを特徴とする導電性ゴム部材にある。
【0011】
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載の導電性ゴム部材において、前記低粘度ヒドリン系ポリマーは、重量平均分子量Mwのピークを2つ以上有するものであり、最も低分子量側の重量平均分子量Mwのピークが10000〜200000であることを特徴とする導電性ゴム部材にある。
【0012】
本発明の第3の態様は、第2の態様に記載の導電性ゴム部材において、前記最も低分子量側の重量平均分子量Mwのピークが、他の重量平均分子量Mwのピークよりも小さいことを特徴とする導電性ゴム部材にある。
【0013】
本発明の第4の態様は、第1〜3の何れかの態様に記載の導電性ゴム部材において、前記導電性弾性体が導電性付与材を添加して成形されたものであることを特徴とする導電性ゴム部材にある。
【0014】
本発明の第5の態様は、第1〜4の何れかの態様に記載の導電性ゴム部材において、前記ゴム基材は、他材質のポリマーを1種又は2種以上含むことを特徴とする導電性ゴム部材にある。
【0015】
本発明の第6の態様は、第5の態様に記載の導電性ゴム部材において、前記他材質のポリマーは、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、天然ゴム(NR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、エチレンプロピレンゴム(EPDM)、ポリウレタン、アクリルゴム(ACM)、ポリイソプレン、クロロプレンゴム(CR)及びエピクロルヒドリンゴムからなる群から選択される少なくとも1つであることを特徴とする導電性ゴム部材にある。
【0016】
本発明の第7の態様は、第1〜6の何れかの態様に記載の導電性ゴム部材において、前記導電性弾性体の表層部が、イソシアネート化合物を含む表面処理液を含浸させて形成した表面処理層となっていることを特徴とする導電性ゴム部材にある。
【0017】
本発明の第8の態様は、第7の態様に記載の導電性ゴム部材において、前記導電性弾性体の表面処理液が、さらにカーボンブラックと、アクリルフッ素系ポリマー、アクリルシリコーン系ポリマー、及びポリエーテル系ポリマーから選択される少なくとも1種のポリマーとの少なくとも一方を含有したものであることを特徴とする導電性ゴム部材にある。
【0018】
本発明の第9の態様は、第1〜6の何れかの態様に記載の導電性ゴム部材において、前記導電性弾性体の表面にコート層を有することを特徴とする導電性ゴム部材にある。
【0019】
本発明の第10の態様は、第1〜9の何れかの態様に記載の導電性ゴム部材がロール形状であることを特徴とする導電性ゴム部材にある。
【0020】
本発明の第11の態様は、導電性弾性体からなる導電性ゴム部材の製造方法であって、ムーニー粘度ML(1+4)100℃が10〜50で、且つ重量平均分子量Mwが10000以上である低粘度ヒドリン系ポリマーを含むゴム基材と導電性付与材とを混合して加熱硬化することにより導電性弾性体を成形することを特徴とする導電性ゴム部材の製造方法にある。
【0021】
本発明の第12の態様は、第11の態様に記載の導電性ゴム部材の製造方法において、前記ゴム基材が他材質のポリマーを1種又は2種以上含むものであり、前記導電性弾性体の成形性、又は前記導電性弾性体の圧縮永久歪みを良好にすることのいずれを優先させるかによって、前記他材質のポリマーと前記導電性付与材とを先に混合するか、前記低粘度ポリマーと前記導電性付材とを先に混合するかを選択することを特徴とする導電性ゴム部材の製造方法にある。
【0022】
本発明の第13の態様は、第12の態様に記載の導電性ゴム部材の製造方法において、前記導電性弾性体の成形性を優先させるために、前記他材質のポリマーと前記導電性付与材を混合した後、前記低粘度ヒドリン系ポリマーを混合して加熱硬化することにより導電性弾性体を成形することを特徴とする導電性ゴム部材の製造方法にある。
【0023】
本発明の第14の態様は、第12の態様に記載の導電性ゴム部材の製造方法において、前記導電性弾性体の圧縮永久ひずみを良好にすることを優先させるために、前記低粘度ヒドリン系ポリマーと前記導電性付与材とを混合した後、前記他材質のポリマーを混合して加熱硬化することにより導電性弾性体を成形することを特徴とする導電性ゴム部材の製造方法にある。
【発明の効果】
【0024】
本発明によると、低硬度で且つ成形性に優れ、電気抵抗値が安定した導電性ゴム部材を提供することができる。例えば、感光体に当接する部材として使用した場合、低硬度であるためにニップ量が十分に確保でき、且つ電気抵抗値が安定しているため、感光体を均一に帯電させることができる導電性ゴム部材となる。
【0025】
本発明の製造方法によれば、上述した導電性ゴム部材を製造することができる。また、製造方法によって、導電性弾性体の成形性、又は導電性弾性体の圧縮永久歪みのいずれかを優先させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明の導電性ゴム部材は、ムーニー粘度ML(1+4)100℃が10〜50で、且つ重量平均分子量Mwが10000以上である低粘度ヒドリン系ポリマーを含むゴム基材から成形した導電性弾性体からなるものである。このように粘度が低く、重量平均分子量Mwが10000以上である低粘度ヒドリン系ポリマーを含むゴム基材を用いることで、低硬度で、且つ押出し性や型流れ性等の成形性に優れた導電性ゴム部材となる。また、導電性ゴム部材が低硬度となることで、一定の押圧加重における変形量(ニップ量)を十分に確保することができ、当接する部材を均一に帯電させることができるものとなる。
【0027】
かかる低粘度ヒドリン系ポリマーは、ムーニー粘度ML(1+4)100℃が10〜50で、且つ重量平均分子量Mwが10000以上である。低粘度ヒドリン系ポリマーのムーニー粘度ML(1+4)100℃は10〜50であり、一般的に使用されるエピクロルヒドリンゴム(ムーニー粘度ML(1+4)100℃が50〜100)よりもムーニー粘度ML(1+4)100℃が低いものである。そして、低粘度ヒドリン系ポリマーの重量平均分子量Mwは10000以上であり、より好ましくは10000〜200000であり、さらに好ましくは50000〜200000である。一般的に使用されるエピクロルヒドリンゴムよりも重量平均分子量Mwが低いものである。
【0028】
ここで、低粘度ヒドリン系ポリマーは、重量平均分子量Mwのピークを2つ以上有するものであってもよい。重量平均分子量Mwのピークが複数存在する場合、最も低分子側の重量平均分子量Mwのピークが10000以上、すなわち、重量平均分子量Mwのピークがすべて10000以上であればよく、好ましくは最も低分子量側の重量平均分子量Mwのピークが10000〜200000であり、さらに好ましくは50000〜200000である。また、最も低分子量側の重量平均分子量Mwのピークは、他の重量平均分子量Mwのピークよりも小さくてもよい。すなわち、低粘度ヒドリン系ポリマーは、低分子量側の重量平均分子量Mwよりも高分子量側の重量平均分子量Mwが主となるものであってもよい。
【0029】
なお、低粘度ヒドリン系ポリマーは、重量平均分子量Mwが10000より小さいと、未反応成分が残留してブリードしてしまう虞がある。また、ムーニー粘度ML(1+4)100℃が10より小さいヒドリン系ポリマーであると、粘度が低すぎるために、加熱硬化した際に所望の弾性を得ることができなくなってしまう。
【0030】
ここで、低粘度ヒドリン系ポリマーは、イオン導電性ポリマーであり、単独で1.0×104〜1.0×109Ω、好ましくは1.0×107〜1.0×109Ωの中抵抗の電気抵抗値を示すものである。このため、低粘度ヒドリン系ポリマーを含むゴム基材から成形した導電性弾性体は、導電性付与材を配合することなく中抵抗とすることもできる。低粘度ヒドリン系ポリマーは特に限定されず、例えば、エピクロルヒドリン単独重合体、エピクロルヒドリン−エチレンオキサイド共重合体、エピクロルヒドリン−アリルグリシジルエーテル共重合体、エピクロルヒドリン−エチレンオキサイド−アリルグリシジルエーテル三元共重合体、エピクロルヒドリン−エチレンオキサイド−プロピレンオキサイド−アリルグリシジルエーテル四元共重合体、これらの誘導体などを挙げることができる。
【0031】
また、ゴム基材は、上述した低粘度ヒドリン系ポリマーを含むものであればよく、適宜、他材質のポリマーをブレンドすることができる。ゴム基材が他材質のポリマーを含むことにより、成形性及び導電性付与材の分散性がより向上する。
【0032】
他材質のポリマーとしては、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、天然ゴム(NR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、エチレンプロピレンゴム(EPDM)、エピクロルヒドリンゴム、ポリウレタン、アクリルゴム(ACM)、クロロプレンゴム(CR)、及びポリイソプレン等を挙げることができ、勿論、これらは併用してもよい。なお、ここでいうアクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)は、水添NBR、液状NBRを含むものである。上述した他材質のポリマーは、用途・目的に応じて、種類や組み合わせを適宜選択して調整できる。
【0033】
ポリウレタン、ポリイソプレン等は結晶性が高く凝集力が高いため、ブレンドすると強度が高く且つ比較的硬度の高い導電性弾性体とすることができる。また、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、アクリルゴム(ACM)、及びクロロプレンゴム(CR)は、SP値(溶解度パラメーター)が高く極性が高いため、ブレンドすると電気特性の均一性に優れた導電性弾性体とすることができる。なお、SP値(溶解性パラメーター)とは、物質が溶剤などにどれだけ溶けやすいかを数値化した値であり、極性の指標となるものである。エチレンプロピレンゴム(EPDM)は、カーボンブラック等の導電性付与材との相性がよく、より導電性付与材の分散性を向上させることができる。
【0034】
また、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)は、電気特性の面から特に好ましい。ソリッドとする場合は、低温での特性及び相溶性の面から低・中・高ニトリルタイプのNBRが好ましく、発泡体とする場合は、耐ガス透過性の面から高・極高ニトリルが好ましい。なお、液状NBRは、耐汚染性に優れた軟化剤として用いることができる。
【0035】
上述した他材質のポリマーのムーニー粘度は特に限定されない。ムーニー粘度ML(1+4)100℃が50より小さいポリマーをブレンドした場合は、低硬度の導電性ゴム部材を容易に得ることができる。一方、ムーニー粘度ML(1+4)100℃が50より大きいポリマーをブレンドした場合は、ブレンド前と比べてゴム硬度を若干高く調整することができ、研磨加工性に優れた導電性ゴム部材とすることができる。
【0036】
上述した低粘度ヒドリン系ポリマーと、他材質のポリマーとの配合する割合は、100:0〜50:50が好ましく、さらに好ましくは95:5〜70:30である。低粘度ヒドリン系ポリマーの割合が少なくなりすぎると、十分な効果が得られなくなるためである。
【0037】
導電性弾性体の電気抵抗値を1.0×107Ω以下とする場合は、ゴム基材に導電性付与材を配合して導電性弾性体を成形する。ゴム基材に配合する導電性付与材は特に限定されないが、各種カーボンブラックが好ましい。また、金属粉などの電子導電性付与材や、イオン導電性付与材、又はこれらの両者を混合して用いることができる。イオン導電性付与材としては、有機塩類、無機塩類、金属錯体、イオン性液体等が挙げられる。有機塩類、無機塩類としては、過塩素酸リチウム、4級アンモニウム塩、三フッ化酢酸ナトリウムなどが挙げられる。また、金属錯体としては、ハロゲン化第二鉄−エチレングリコールなどを挙げることができ、具体的には、特許第3655364号公報に記載されたジエチレングリコール−塩化第二鉄錯体などを挙げることができる。一方、イオン性液体は、室温で液体である溶融塩であり、常温溶融塩とも呼ばれるものであり、特に、融点が70℃以下、好ましくは30℃以下のものをいう。具体的には、特開2003−202722号公報に記載された1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルフォニル)イミド、1−ブチル−3−エチルイミダゾリウム(トリフルオロメチルスルフォニル)イミドなどを挙げることができる。
【0038】
本発明にかかる導電性弾性体は、上述した低粘度ヒドリン系ポリマーに、適宜、他のポリマー、導電性付与材等を配合して加熱硬化することにより成形される。
【0039】
図1に本発明の導電性ゴム部材の一例としての導電性ロールの断面図を示す。図1(a)に示すように導電性ロール10は、芯金11上に導電性弾性体12を有するものである。このとき、導電性弾性体12は、成形された後、外表面が研磨されていても研磨されていなくてもよい。
【0040】
また、図1(b)に示すように、導電性ロール10は導電性弾性体12の表層部が表面処理層12aとなっていてもよく、図1(c)に示すように、導電性ロール10は導電性弾性体12の表面にコート層13を有していてもよい。
【0041】
表面処理層12aは、導電性弾性体12を表面処理液に浸漬させる又は表面処理液をスプレー塗布などにより塗布し、乾燥硬化させることにより形成することができ、表面処理液は導電性弾性体12の表層部に含浸されて表面処理層12aとなる。
【0042】
ここで、表面処理液は、有機溶剤に、少なくともイソシアネート成分を溶解させたものである。
【0043】
表面処理液に含まれるイソシアネート成分としては、2,6−トリレンジイソシアネート(TDI)、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、パラフェニレンジイソシアネート(PPDI)、1,5−ナフタレンジイソシアネート(NDI)及び3,3−ジメチルジフェニル−4,4’−ジイソシアネート(TODI)などのイソシアネート化合物、および前記の多量体および変性体などを挙げることができる。さらに、ポリオールとイソシアネートからなるプレポリマーを挙げることができる。
【0044】
また、表面処理液には、ポリエーテル系ポリマーを含有させてもよい。ここで、ポリエーテル系ポリマーは、有機溶剤に可溶であるのが好ましく、また、活性水素を有して、イソシアネート化合物と反応して化学的に結合可能なものが好ましい。
【0045】
活性水素を有する好適なポリエーテル系ポリマーとしては、例えば、エピクロルヒドリンゴムが挙げられる。ここでいうエピクロルヒドリンゴムは未加硫状態のものを指す。エピクロルヒドリンゴムは、表面処理層に導電性と共に弾性を付与することができるため好ましい。なお、エピクロルヒドリンゴムは、末端に活性水素(水酸基)を有しているが、ユニットに水酸基、アリル基などの活性水素を有しているものも好ましい。なお、エピクロルヒドリンゴムとしては、エピクロルヒドリン単独重合体、エピクロルヒドリン−エチレンオキサイド共重合体、エピクロルヒドリン−アリルグリシジルエーテル共重合体、エピクロルヒドリン−エチレンオキサイド−アリルグリシジルエーテル三元共重合体やその誘導体などを挙げることができる。
【0046】
活性水素を有する他の好適なポリエーテル系ポリマーとしては、水酸基又はアリル基を有するポリマーが挙げられ、例えば、ポリオール、グリコール等が挙げられる。このようなポリエーテル系ポリマーは活性水素を有する基を両末端に備えたものよりも片末端にのみ備えたものが好ましい。また、数平均分子量が300〜1000であることが好ましい。表面処理層に弾性を付与することができるためである。このようなポリエーテル系ポリマーとしては、例えば、ポリアルキレングリコールモノメチルエーテル、ポリアルキレングリコールジメチルエーテル、アリル化ポリエーテル、ポリアルキレングリコールジオール、ポリアルキレングリコールトリオール等を挙げることができる。
【0047】
このように表面処理液にポリエーテル系ポリマーを添加することで、表面処理層の柔軟性や強度が向上し、その結果、所望のロールの表面が磨耗したり、当接する感光体等の表面を傷つけたりする虞がなくなる。
【0048】
また、表面処理液には、アクリルフッ素系ポリマー及びアクリルシリコーン系ポリマーから選択されるポリマーを含有させてもよい。
【0049】
本発明の表面処理液に用いられるアクリルフッ素系ポリマー及びアクリルシリコーン系ポリマーは、所定の溶剤に可溶でイソシアネート化合物と反応して化学的に結合可能なものである。アクリルフッ素系ポリマーは、例えば、水酸基、アルキル基、又はカルボキシル基を有する溶剤可溶性のフッ素系ポリマーであり、例えば、アクリル酸エステルとアクリル酸フッ化アルキルのブロックコポリマーやその誘導体等を挙げることができる。また、アクリルシリコーン系ポリマーは、溶剤可溶性のシリコーン系ポリマーであり、例えば、アクリル酸エステルとアクリル酸シロキサンエステルのブロックコポリマーやその誘導体等を挙げることができる。
【0050】
また、表面処理液には、導電性付与材としてさらにアセチレンブラック、ケッチェンブラック、トーカブラック等のカーボンブラックを添加してもよい。
【0051】
表面処理液に用いられるカーボンブラックは、イソシアネート成分に対して0〜40質量%であるのが好ましい。多すぎると脱落、物性低下等の問題が生じ好ましくないからである。
【0052】
また、表面処理液中のアクリルフッ素系ポリマー及びアクリルシリコーン系ポリマーは、イソシアネート成分に対し、アクリルフッ素系ポリマー及びアクリルシリコーン系ポリマーの総量を10〜70質量%となるようにするのが好ましい。10質量%より少ないとカーボンブラック等を表面処理層中に保持する効果が小さくなる。一方、ポリマー量が70質量%より多いと、帯電ロールの電気抵抗値が上昇し放電特性が低下するという問題や、相対的にイソシアネート成分が少なくなって有効な表面処理層が形成できないという問題がある。
【0053】
さらに、表面処理液は、イソシアネート成分、および必要に応じて含有されるこれらポリエーテル系ポリマー、アクリルフッ素系ポリマー及びアクリルシリコーン系ポリマーを溶解する有機溶剤を含有する。有機溶剤としては特に限定されないが、酢酸エチル、メチルエチルケトン(MEK)、トルエン等の有機溶剤を用いればよい。
【0054】
上述したように、導電性弾性体12の表層部に表面処理液を含浸・硬化させて表面処理層12aを設けることで、表面処理層12aは、導電性弾性体12の表層部に含浸されて一体的に設けられる。このような表面処理層12aは、主にイソシアネート成分が硬化して形成されたもので、イソシアネート成分の密度が表面から内部に向かって漸次疎になるように一体的に形成される。従って、導電性ゴム部材の表面への可塑剤等汚染物質のブリードを防ぐことができるため、感光体への汚染性に優れた導電性ゴム部材となる。
【0055】
また、本発明にかかる導電性弾性体12は、溶媒の浸透性に優れるものであるため、表面処理時間を短縮して表面処理層12aを設けることができる。また、上述したように、本発明にかかる低粘度ヒドリン系ポリマーは一般的に使用されるエピクロルヒドリンゴムよりも重量平均分子量Mwが低いものであるため、イソシアネート化合物、及び必要に応じて含有される導電性付与材等の表面処理成分が低粘度ヒドリン系ポリマーの間に緻密に含浸されて表面処理層が形成される。これにより耐汚染性が向上した導電性ゴム部材となる。また、導電性ゴム部材の表層部の電気抵抗値を容易に調整することができる。
【0056】
導電性弾性体12の表面にコート層13を設ける場合は、例えば、導電性弾性体12にコーティング剤を塗布し、乾燥硬化させることにより、コート層13を成形する。コーティング剤としては、ウレタン、アクリルウレタン、ナイロン、NBR等の周知の材料を用いることができる。なお、コーティング剤を塗布する方法としては、ディップコート法、ロールコート法、スプレーコート法等を用いるのが好適である。
【0057】
本発明にかかる導電性ゴム部材は、導電性弾性体上に表面処理層又はコート層を設けることにより、導電性弾性体に添加した可塑剤の導電性ゴム部材表面へのブリードを防ぐことができる。すなわち、本発明の導電性ゴム部材は当接する感光体等の汚染をする虞のないものとなる。
【0058】
本発明にかかる導電性ゴム部材は、例えば、導電性ロールやブレード等に用いて好適なものである。
【0059】
本発明にかかる導電性弾性体は、上述したゴム基材に、適宜、導電性付与材を配合して、加熱硬化して成形したものである。このような導電性弾性体は、成形性が良好なため、インジェクション成形、押出成形などにより容易に成形される。
【0060】
ここで、本発明にかかる低粘度ポリマーは、他材質のポリマーと導電性付与材とを混合する場合に、混合する順によって、成形性、又は成形体の特性が変化するという性質を有するものである。すなわち、本発明にかかる導電性弾性体は、適宜、製造方法を選択することで、用途・目的に応じたものとすることができる。
【0061】
導電性弾性体を成形する際には、導電性弾性体の成形性、又は前記導電性弾性体の圧縮永久歪みのいずれを優先させるかによって、他材質のポリマーと導電性付与材とを先に混合するか、低粘度ポリマーと導電性付与材とを先に混合するかを選択する。
【0062】
導電性弾性体の成形性を優先させる場合は、他材質のポリマーと導電性付与材を混合した後、低粘度ヒドリン系ポリマーを混合して加熱硬化することにより導電性弾性体を成形する。
【0063】
導電性弾性体の圧縮永久歪みを良好にすることを優先させる場合は、低粘度ヒドリン系ポリマーと導電性付与材とを混合した後、他材質のポリマーを混合して加熱硬化することにより導電性弾性体を成形する。
【0064】
また、導電性付与材の分散性をより向上させるためには、予め導電性付与材の分散性が良好な他材質のポリマーに導電性付与材を均一に分散させた後に、低粘度ヒドリン系ポリマーを配合するのが好ましい。
【0065】
上述した方法により製造した導電性弾性体に、必要に応じて、表面処理層又はコート層を設けることにより、導電性ゴム部材とする。
【0066】
以下本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0067】
(実施例1)
ムーニー粘度ML(1+4)100℃が43で最も低分子量側の重量平均分子量Mwのピークが150000のエピクロルヒドリン−エチレンオキサイド−アリルグリシジルエーテル三元共重合体(以下、GECO(1))100質量部に、導電性カーボンブラック(ケッチェンEC:ケッチェンブラック・インターナショナル社製)10質量部、アクセルTRA(川口化学社製)1質量部、サンセラーTET(三新化学工業社製)1質量部、硫黄1質量部を添加してロールミキサーで混練りし、これをφ6mmのシャフトに押出し成型後、180℃で20分間加硫を行い、内径φ6mm、外径φ10mmの導電性ロールを得た。同様の方法によりテストサンプルを作成した。
【0068】
(実施例2)
ムーニー粘度ML(1+4)100℃が77のアクリロニトリルブタジエンゴム(3370:JSR社製)50質量部に、導電性カーボンブラック(ケッチェンEC:ケッチェンブラック・インターナショナル社製)10質量部を添加して混練り後、GECO(1)を50質量部配合してロールミキサーで混練りし、次いで、アクセルTRA(川口化学社製)1質量部、サンセラーTET(三新化学工業社製)1質量部、硫黄1質量部を添加してロールミキサーで混練りし、これをφ6mmのシャフトに押出し成型後、180℃で20分間加硫を行い、内径φ6mm、外径φ10mmの導電性ロールを得た。同様の方法によりテストサンプルを作成した。
【0069】
(実施例3)
GECO(1)50質量部に、導電性カーボンブラック(ケッチェンEC:ケッチェンブラック・インターナショナル社製)10質量部を添加して混練り後、アクリロニトリルブタジエンゴム(3370:JSR社製)50質量部を配合してロールミキサーで混練りし、アクセルTRA(川口化学社製)1質量部、サンセラーTET(三新化学工業社製)1質量部、硫黄1質量部を添加してロールミキサーで混練りした後、これをφ6mmのシャフトに押出し成型後、180℃で20分間加硫を行い、内径φ6mm、外径φ10mmの導電性ロールを得た。同様の方法によりテストサンプルを作成した。
【0070】
(実施例4)
ムーニー粘度ML(1+4)100℃が77のアクリロニトリルブタジエンゴム(3370:JSR社製)40質量部に、B型粘度計(70℃)で5600mPa・sの液状アクリロニトリルブタジエンゴム(ニポール1312:JSR社製)10質量部を添加してムーニー粘度ML(1+4)100℃を39.2に調整し、導電性カーボンブラック(ケッチェンEC:ケッチェンブラック・インターナショナル社製)10質量部を混練り後、GECO(1)を50質量部配合してロールミキサーで混練りし、アクセルTRA(川口化学社製)1質量部、サンセラーTET(三新化学工業社製)1質量部、硫黄1質量部を添加してロールミキサーで混練りし、これをφ6mmのシャフトに押出し成型後、180℃で20分間加硫を行い、内径φ6mm、外径φ10mmの導電性ロールを得た。同様の方法によりテストサンプルを作成した。
【0071】
(実施例5)
ムーニー粘度ML(1+4)100℃が77のアクリロニトリルブタジエンゴム(3370:JSR社製)50質量部に、導電性カーボンブラック(ケッチェンEC:ケッチェンブラック・インターナショナル社製)5質量部を混練り後、GECO(1)を50質量部配合してロールミキサーで混練りし、過塩素酸リチウム0.2質量部、アクセルTRA(川口化学社製)1質量部、サンセラーTET(三新化学工業社製)1質量部、硫黄1質量部を添加してロールミキサーで混練りし、これをφ6mmのシャフトに押出し成型後、180℃で20分間加硫を行い、内径φ6mm、外径φ10mmの導電性ロールを得た。同様の方法によりテストサンプルを作成した。
【0072】
(実施例6)
ムーニー粘度ML(1+4)100℃が77のアクリロニトリルブタジエンゴム(3370:JSR社製)30質量部、導電性カーボンブラック(ケッチェンEC:ケッチェンブラック・インターナショナル社製)6質量部、GECO(1)70質量部とした以外は実施例2と同様にして導電性ロールを得た。同様の方法によりテストサンプルを作成した。
【0073】
(実施例7)
ムーニー粘度ML(1+4)100℃が77のアクリロニトリルブタジエンゴム(3370:JSR社製)10質量部、導電性カーボンブラック(ケッチェンEC:ケッチェンブラック・インターナショナル社製)2質量部、GECO(1)90質量部とした以外は実施例2と同様にして導電性ロールを得た。同様の方法によりテストサンプルを作成した。
【0074】
(実施例8)
カーボンブラックを配合しなかった以外は実施例6と同様にして導電性ロールを得た。同様の方法によりテストサンプルを作成した。
【0075】
(比較例1)
GECO(1)の代わりに、アクリロニトリルブタジエンゴムを用いた以外は、実施例1と同様にして比較例1の導電性ロールを得た。同様の方法によりテストサンプルを作成した。
【0076】
(比較例2)
GECO(1)の代わりに、ムーニー粘度ML(1+4)100℃が57で重量平均分子量Mwが280000のエピクロルヒドリン−エチレンオキサイド−アリルグリシジルエーテル三元共重合体(以下、GECO(2))を用いた以外は、実施例1と同様にして比較例2の導電性ロールを得た。同様の方法によりテストサンプルを作成した。
【0077】
(比較例3)
GECO(1)の代わりに、GECO(2)を用いた以外は、実施例2と同様にして比較例3の導電性ロールを得た。同様の方法によりテストサンプルを作成した。
【0078】
(比較例4)
GECO(1)の代わりに、GECO(2)を用いた以外は、実施例3と同様にして比較例4の導電性ロールを得た。同様の方法によりテストサンプルを作成した。
【0079】
(試験例1)成形性評価
各実施例及び各比較例において、ゴム基材と、導電性付与材等を混合して得た混練物のムーニー粘度ML(1+4)100℃を測定した。結果を表1に示す。
【0080】
表1に示すように、低粘度ヒドリン系ポリマーから成形した実施例1の混練物は、NBRを配合した比較例1の混練物及びエピクロルヒドリンゴムから成形した比較例2の混練物よりも、ムーニー粘度ML(1+4)100℃が低かった。また、実施例2の混練物は、低粘度ヒドリン系ポリマーの代わりにエピクロルヒドリンゴムを用いた比較例3の混練物よりもムーニー粘度ML(1+4)100℃が低く、実施例3の混練物は低粘度ヒドリン系ポリマーの代わりにエピクロルヒドリンゴムを用いた比較例4の混練物よりもムーニー粘度ML(1+4)100℃が低かった。これより、ムーニー粘度ML(1+4)100℃が10〜50で、且つ重量平均分子量Mwが10000以上である低粘度ヒドリン系ポリマーを含むゴム基材を配合した混練物は、NBRやエピクロルヒドリンゴムに比べて成形性に優れるものであることがわかった。
【0081】
また、実施例2の混練物は、実施例3の混練物よりもムーニー粘度ML(1+4)100℃が低かった。これより、他材質のポリマーと導電性付与材等とを先に混合することで、成形性が向上することがわかった。
【0082】
さらに、実施例4に示すように、液状NBRを配合してGECO(1)より低ムーニー粘度とした他材質のポリマーに導電性付与材を先に混合すると、GECO(1)の成形性を保持させることができることがわかった。
【0083】
(試験例2)機械的特性評価
各実施例及び各比較例のテストサンプル(厚さ12mm)のゴム硬度及び圧縮永久ひずみ(CS)を測定した。なお、圧縮永久ひずみは、JIS K6262に準拠し、25%圧縮して測定したものである。
【0084】
また、各実施例及び各比較例の研磨加工性を評価した。研磨加工性が良好であった場合を○、研磨加工性が普通であった場合を△とした。さらに、各実施例及び各比較例の導電性ロールの研磨加工後の表面粗さRzを測定し、比較例1の導電性ロールの表面粗さRzを基準としたときの相対比を求めた。結果を表1に示す。
【0085】
実施例2及び3の導電性ロールはいずれも実施例1の導電性ロールに比べて、高硬度であった。これより、低粘度ヒドリン系ポリマーに、他材質のポリマーを配合することで、低硬度領域で所望の硬度の導電性ロールを容易に得られることがわかった。
【0086】
また、低粘度のヒドリン系ポリマーに導電性付与材等を混合した後に他材質のポリマーを混合して成形した導電性ロール(実施例3)は、他材質のポリマーに導電性付与材等を混合した後に低粘度のヒドリン系ポリマーを混合して成形した導電性ロール(実施例2)に比べて圧縮永久ひずみが低下しており、混合の順によって圧縮永久ひずみを低下させることができることがわかった。さらに、実施例5〜7より、カーボンブラックの量や、低粘度ポリマーと他材質のポリマーとのブレンド比率を調整することで圧縮永久ひずみと硬度を所望の値に調整することができることがわかった。
【0087】
また、低粘度のヒドリン系ポリマーとNBRとを配合した実施例2〜6の導電性ロールは、低粘度のヒドリン系ポリマー又はNBRからなる導電性ロール(実施例1、比較例1)よりも表面粗さRzが低かった。低粘度のヒドリン系ポリマーとNBRとを配合することで、研磨加工性が向上したためであると考えられる。なお、実施例7の導電性ロールは、NBRの配合割合が低かったためかNBRからなる比較例1の導電性ロールよりも表面粗さRzが高かったが、実施例1の導電性ロールよりも表面粗さRzが低かった。
【0088】
実施例1〜8の導電性ロールは、従来の導電性ロール(比較例1〜4の導電性ロール)と同程度の機械的特性であり、かつ従来のロールよりも低硬度で、成形性に優れるものとなることがわかった。
【0089】
(試験例3)電気抵抗測定
各実施例及び各比較例のテストサンプル(155mm×205mm、厚さ2mm)の体積抵抗率を測定した。なお、測定は、テストサンプルと電極部材との間の体積抵抗率をULTRA HIGH RESISTANCE METER R8340A(アドバンテスト社製)を用い、23℃×55%の環境下にて測定した。この結果を表1に示す。
【0090】
導電性付与材を配合していない実施例8のテストサンプルは体積抵抗率が1.54×10Ω・cmであった。そして、導電性付与材を配合した実施例1〜4のテストサンプルは体積抵抗率が10Ω・cm以下と低抵抗であり、測定限界であった。これに対し、同量のカーボンブラックを配合した比較例1のテストサンプルは1.71×107Ω・cmであり、体積抵抗率が高かった。これより、本発明の導電性ゴム部材は、カーボンブラックを少量加えることで、容易に低抵抗部材となることがわかった。
【0091】
また、実施例5より、カーボンブラックの量を調整することにより、中抵抗領域も安定して得られることがわかった。
【0092】
【表1】

【0093】
(試験例4)
実施例1〜5及び比較例1〜4の導電性ロールの表面状態をレーザー顕微鏡(VK−9500:Keyence社製)により観察した。それぞれの導電性ロールの表面の20倍、50倍、150倍の写真を図2〜10に示す。
【0094】
実施例1の導電性ロールの表面(図2)では、カーボンブラックの凝集が確認された。これに対し、実施例2及び3の導電性ロールの表面(図3及び4)では、カーボンブラックの凝集の低下が確認された。これより、低粘度ヒドリン系ポリマーに他材質のポリマーを配合することで、カーボンブラックの分散性が向上することがわかった。
【0095】
なお、実施例2の表面(図3)と実施例3の表面(図4)とを比較したが、カーボンブラックの分散性の違いは確認できなかった。
【0096】
実施例4の導電性ロールの表面(図5)においては、カーボンブラックの凝集がほとんど確認されなかった。これより、低粘度の他種ポリマーに予め導電性付与材を添加してから、低粘度ヒドリン系ポリマーを混合しても、分散性が向上することがわかった。
【0097】
(試験例5)
実施例1〜3及び比較例1〜4のテストサンプル(30mm×5mm、厚さ2mm)を、酢酸エチルに浸漬させて、浸漬時間に対する体積変化率を下記式より求めた。なお、表面処理液に浸漬前のテストサンプルの体積をV(cm)、表面処理液に浸漬後のテストサンプルの体積をV(cm)とした。結果を表2に示す。また、酢酸エチル浸漬3分後の体積変化率の結果を図11に示す。
【0098】
【数1】

【0099】
【表2】

【0100】
図11に示すように、各実施例のテストサンプルは、ゴム基材以外の条件が同じテストサンプルよりも体積変化率が大きかった(実施例1と比較例1及び比較例2、実施例2と比較例3、実施例3と比較例4)。これより、本発明にかかる導電性弾性体は、表面処理液の浸透性に優れ、導電性弾性体の表層部に表面処理層を設ける場合、表面処理液への浸漬時間を従来よりも短縮することができる。
【0101】
(試験例6)表面処理後のロール抵抗測定
各実施例及び各比較例の導電性ロールを研磨した後、表面処理液を含浸させることにより、表層部に表面処理層を形成した。具体的には、イソシアネート化合物20質量部を酢酸エチル100質量部で希釈した表面処理液に、各テストサンプルを浸漬させた後、加熱硬化させることにより表面処理層を形成した。
【0102】
表層部に表面処理層を設けた各導電性ロールについて、電気抵抗値を測定した。図12に示すように、導電性ロール10をSUS304板からなる電極部材40の上に載置し、芯金11の両端に100g荷重をかけた状態で、芯金11と電極部材40との間の電気抵抗値を、23℃×55%の環境下にて、ULTRA HIGH RESISTANCE METER R8340A(株式会社アドバンテスト製)を用いて測定した。なお、このときの印加電圧はDC−100Vであった。結果を表3及び表4に示す。
【0103】
【表3】

【0104】
【表4】

【0105】
低抵抗領域の実施例1〜4の導電性ロールは(試験例3参照)、表面処理層を形成することにより、容易に中抵抗領域とすることができた。これより、表層部に表面処理層を設けることにより、導電性ロールの抵抗値を調整することができることがわかった。
【0106】
また、表面処理後の実施例2及び実施例6の導電性ロールに100Vを印加して、周方向360度の電気抵抗値の測定を行った。結果を図13に示す。
【0107】
カーボン導電の実施例2の導電性ロール、イオン導電の実施例6の導電性ロールのいずれにおいても、電気抵抗値が安定していることが確認された。これより、本発明の導電性ゴム部材は、電気抵抗値が安定していることがわかった。
【0108】
以上より、ムーニー粘度ML(1+4)100℃が10〜50で、且つ重量平均分子量Mwが10000以上である低粘度ヒドリン系ポリマーを含むゴム基材に導電性付与材を配合した材料から成形した導電性弾性体からなる本発明の導電性ゴム部材は、低硬度で、成形性に優れ、電気抵抗値が安定したものとなることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0109】
【図1】本発明の一実施形態である導電性ロールの断面図である。
【図2】実施例1の導電性ロールの表面の写真である。
【図3】実施例2の導電性ロールの表面の写真である。
【図4】実施例3の導電性ロールの表面の写真である。
【図5】実施例4の導電性ロールの表面の写真である。
【図6】実施例5の導電性ロールの表面の写真である。
【図7】比較例1の導電性ロールの表面の写真である。
【図8】比較例2の導電性ロールの表面の写真である。
【図9】比較例3の導電性ロールの表面の写真である。
【図10】比較例4の導電性ロールの表面の写真である。
【図11】試験例5の結果を示す図である。
【図12】試験例6の測定方法を説明する図である。
【図13】試験例6の結果を示す図である。
【符号の説明】
【0110】
10 導電性ロール
11 芯金
12 導電性弾性体
12a 表面処理層
13 コート層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ムーニー粘度ML(1+4)100℃が10〜50で、且つ重量平均分子量Mwが10000以上である低粘度ヒドリン系ポリマーを含むゴム基材から成形した導電性弾性体からなることを特徴とする導電性ゴム部材。
【請求項2】
請求項1に記載の導電性ゴム部材において、前記低粘度ヒドリン系ポリマーは、重量平均分子量Mwのピークを2つ以上有するものであり、最も低分子量側の重量平均分子量Mwのピークが10000〜200000であることを特徴とする導電性ゴム部材。
【請求項3】
請求項2に記載の導電性ゴム部材において、前記最も低分子量側の重量平均分子量Mwのピークが、他の重量平均分子量Mwのピークよりも小さいことを特徴とする導電性ゴム部材。
【請求項4】
請求項1〜3の何れかに記載の導電性ゴム部材において、前記導電性弾性体が導電性付与材を添加して成形されたものであることを特徴とする導電性ゴム部材。
【請求項5】
請求項1〜4の何れかに記載の導電性ゴム部材において、前記ゴム基材は、他材質のポリマーを1種又は2種以上含むことを特徴とする導電性ゴム部材。
【請求項6】
請求項5に記載の導電性ゴム部材において、前記他材質のポリマーは、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、天然ゴム(NR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、エチレンプロピレンゴム(EPDM)、ポリウレタン、アクリルゴム(ACM)、ポリイソプレン、クロロプレンゴム(CR)及びエピクロルヒドリンゴムからなる群から選択される少なくとも1つであることを特徴とする導電性ゴム部材。
【請求項7】
請求項1〜6の何れかに記載の導電性ゴム部材において、前記導電性弾性体の表層部が、イソシアネート化合物を含む表面処理液を含浸させて形成した表面処理層となっていることを特徴とする導電性ゴム部材。
【請求項8】
請求項7に記載の導電性ゴム部材において、前記導電性弾性体の表面処理液が、さらにカーボンブラックと、アクリルフッ素系ポリマー、アクリルシリコーン系ポリマー、及びポリエーテル系ポリマーから選択される少なくとも1種のポリマーとの少なくとも一方を含有したものであることを特徴とする導電性ゴム部材。
【請求項9】
請求項1〜6の何れかに記載の導電性ゴム部材において、前記導電性弾性体の表面にコート層を有することを特徴とする導電性ゴム部材。
【請求項10】
請求項1〜9の何れかに記載の導電性ゴム部材がロール形状であることを特徴とする導電性ゴム部材。
【請求項11】
導電性弾性体からなる導電性ゴム部材の製造方法であって、ムーニー粘度ML(1+4)100℃が10〜50で、且つ重量平均分子量Mwが10000以上である低粘度ヒドリン系ポリマーを含むゴム基材と導電性付与材とを混合して加熱硬化することにより導電性弾性体を成形することを特徴とする導電性ゴム部材の製造方法。
【請求項12】
請求項11に記載の導電性ゴム部材の製造方法において、前記ゴム基材が他材質のポリマーを1種又は2種以上含むものであり、前記導電性弾性体の成形性、又は前記導電性弾性体の圧縮永久歪みを良好にすることのいずれを優先させるかによって、前記他材質のポリマーと前記導電性付与材とを先に混合するか、前記低粘度ポリマーと前記導電性付材とを先に混合するかを選択することを特徴とする導電性ゴム部材の製造方法。
【請求項13】
請求項12に記載の導電性ゴム部材の製造方法において、前記導電性弾性体の成形性を優先させるために、前記他材質のポリマーと前記導電性付与材を混合した後、前記低粘度ヒドリン系ポリマーを混合して加熱硬化することにより導電性弾性体を成形することを特徴とする導電性ゴム部材の製造方法。
【請求項14】
請求項12に記載の導電性ゴム部材の製造方法において、前記導電性弾性体の圧縮永久ひずみを良好にすることを優先させるために、前記低粘度ヒドリン系ポリマーと前記導電性付与材とを混合した後、前記他材質のポリマーを混合して加熱硬化することにより導電性弾性体を成形することを特徴とする導電性ゴム部材の製造方法。

【図1】
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【図12】
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【図13】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−303390(P2008−303390A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−124021(P2008−124021)
【出願日】平成20年5月9日(2008.5.9)
【出願人】(000227412)シンジーテック株式会社 (99)
【Fターム(参考)】