説明

導電性シリコーン組成物及びその製造方法

【解決手段】(A)平均組成式(1)
aR’bSiO(4-a-b)/2 (1)
で表される一分子中に少なくとも2個のケイ素原子に結合したアルケニル基を含有するオルガノポリシロキサン、
(B)一分子中に少なくとも2個のケイ素原子に結合した水素原子を含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン、
(C)銀粉末又は銀メッキされた微粉末粒子、
(D)導電性微粉末(但し、銀・銅及びそれらを含む金属を除く)、
(E)付加反応触媒、
(F)脂肪酸、脂肪酸誘導体及びそれらの金属塩から選ばれる1種又は2種以上
を含有する付加硬化型導電性シリコーン組成物。
【効果】本発明の導電性シリコーン組成物は、1.0×10-2Ω・cm以下の高導電率を与える硬化物、特にシリコーンゴムを形成することができ、かつ塗布性が可能で、その形状保持性が良好であり、更には保存安定性も良好なものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性シリコーンゴム等の導電性シリコーン硬化物を与える導電性シリコーン組成物に関し、特に、高導電性であり、かつ、塗布が可能であり、塗布後(硬化前)の形状保持性に優れた付加硬化型導電性シリコーン組成物、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
導電性シリコーンゴム組成物は、硬化した後、導電性に優れたシリコーンゴムとなり、特にシリコーンの特長を発揮できる耐熱性が要求される分野等で使用されている。導電性シリコーンゴム組成物としては、従来一分子中に少なくとも2個のアルケニル基を有するオルガノポリシロキサンと一分子中に少なくとも2個のケイ素原子結合水素原子を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンと白金系触媒と銀粉末からなる付加硬化型導電性シリコーンゴム組成物が知られている。高導電性を付与するためのフィラーは還元銀粉末、電解銀粉末、アトマイズ銀粉末、シリカや銅粉に銀メッキコートを施したものが使用されてきた。形状は、球状、扁平状、樹枝状、不定形状等の様々なものがあるが、銀粉末を高充填することができ、高導電率組成物とすることが可能な扁平状の銀粉末が多く使用されている。
【0003】
しかし、銀粉や銅粉などの金属粉あるいは銀メッキが施されたフィラーを付加硬化型シリコーンゴム組成物に添加すると、白金族触媒に作用して硬化性が悪化したり、経時で硬化しなくなる問題があった。
【0004】
また、高導電性シリコーンゴム組成物は主に導体間の電気接続に用いられるが、銀粉を高充填とするために塗布が可能である低粘度のシリコーンゴム組成物を用いる必要があり、ディスペンサーによる塗布やスクリーン印刷をすると形状が崩れてしまうという問題があった。
これらに関する先行文献としては、下記のものが挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭61−266462号公報
【特許文献2】特開平3−170581号公報
【特許文献3】特開平5−230373号公報
【特許文献4】特開平7−133432号公報
【特許文献5】特開平7−150048号公報
【特許文献6】特開2000−336273号公報
【特許文献7】特開2002−212426号公報
【特許文献8】特開2004−27087号公報
【特許文献9】特開2004−176165号公報
【特許文献10】特開2005−162827号公報
【特許文献11】特開2006−328302号公報
【特許文献12】特開2008−303233号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、塗布が可能で塗布後の形状保持性及び保存安定性に優れた高導電性シリコーン組成物及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を重ねた結果、高導電性と形状保持性を両立させるため、高充填された銀粉末による白金触媒の不活性化を抑え、保存安定性に優れた組成物とするために、更に導電性微粉末、並びに脂肪酸、脂肪酸誘導体及びそれらの金属塩から選ばれる1種又は2種以上を添加することが有効であることを見出し、本発明をなすに至った。
【0008】
即ち、本発明は、
(A)下記平均組成式(1)
aR’bSiO(4-a-b)/2 (1)
(式中、Rはアルケニル基、R’は脂肪族不飽和結合を持たない非置換又は置換の炭素数1〜10の一価炭化水素基、a、bは、0<a≦2、0<b<3、0<a+b≦3を満たす数である。)
で表される一分子中に少なくとも2個のケイ素原子に結合したアルケニル基を含有するオルガノポリシロキサン:100質量部、
(B)一分子中に少なくとも2個のケイ素原子に結合した水素原子を含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン:(A)成分中の全ケイ素原子結合アルケニル基に対して(B)成分中のケイ素原子に結合した水素原子が0.5〜5.0倍モルとなる量、
(C)銀粉末又は銀メッキされた微粉末粒子:100〜1,500質量部、
(D)導電性微粉末(但し、銀・銅及びそれらを含む金属を除く):0.5〜30質量部、
(E)付加反応触媒:触媒量、及び
(F)脂肪酸、脂肪酸誘導体及びそれらの金属塩から選ばれる1種又は2種以上:0.1〜20質量部
を含有する付加硬化型導電性シリコーン組成物を提供する。
【0009】
この場合、(D)成分としてはカーボンブラックが好ましい。また(B)成分の一部として、一分子中に少なくとも2個のケイ素原子に結合した水素原子を有すると共に、アルコキシ基及びエポキシ含有基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンを含有することが好ましく、(F)成分がステアリン酸であることが好ましい。本発明の付加硬化型導電性シリコーン組成物は、E型粘度計による23℃におけるチクソ比(10rpmの粘度/20rpmの粘度)が1.5以上であることが好ましく、本発明組成物の硬化物の導電率が1.0×10-2Ω・cm以下であることが好ましい。
更に、本発明は、上記(A)〜(F)成分を含有する付加硬化型導電性シリコーン組成物を製造するに際し、(E)成分と(F)成分を予め混合したものを他成分と混合する付加硬化型導電性シリコーン組成物の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の導電性シリコーン組成物は、1.0×10-2Ω・cm以下の高導電率を与える硬化物、特にシリコーンゴムを形成することができ、かつ塗布性が可能で、その形状保持性が良好であり、更には保存安定性も良好なものである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の導電性シリコーン組成物は、
(A)下記平均組成式(1)
aR’bSiO(4-a-b)/2 (1)
(式中、Rはアルケニル基、R’は脂肪族不飽和結合を持たない非置換又は置換の炭素数1〜10の一価炭化水素基、a、bは、0<a≦2、0<b<3、0<a+b≦3を満たす数である。)
で表される一分子中に少なくとも2個のケイ素原子に結合したアルケニル基を含有するオルガノポリシロキサン:100質量部、
(B)一分子中に少なくとも2個のケイ素原子に結合した水素原子を含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン:(A)成分中の全ケイ素原子結合アルケニル基に対して(B)成分中のケイ素原子に結合した水素原子が0.5〜5.0倍モルとなる量、
(C)銀粉末又は銀メッキされた微粉末粒子:100〜1,500質量部、
(D)導電性微粉末(但し、銀・銅及びそれらを含む金属を除く):0.5〜30質量部、
(E)付加反応触媒:触媒量、及び
(F)脂肪酸、脂肪酸誘導体及びそれらの金属塩から選ばれる1種又は2種以上:0.1〜20質量部
を含有する。
【0012】
(A)アルケニル基含有オルガノポリシロキサン
(A)成分のアルケニル基含有オルガノポリシロキサンは、下記平均組成式(1)で表され、一分子中に少なくとも2個のケイ素原子に結合したアルケニル基を含有するものである。
aR’bSiO(4-a-b)/2 (1)
(式中、Rはアルケニル基、R’は脂肪族不飽和結合を持たない非置換又は置換の炭素数1〜10の一価炭化水素基、a、bは、0<a≦2、0<b<3、0<a+b≦3を満たす数である。)
【0013】
(A)成分のアルケニル基含有オルガノポリシロキサンは、この組成物の主剤(ベースポリマー)であり、一分子中に平均2個以上(通常2〜50個)、好ましくは2〜20個、より好ましくは2〜10個程度のケイ素原子に結合したアルケニル基を含有する。(A)成分のオルガノポリシロキサンのアルケニル基Rとしては、例えば、ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基等が挙げられ、特に、ビニル基であることが好ましい。(A)成分のアルケニル基の結合位置としては、例えば、分子鎖末端及び/又は分子鎖側鎖が挙げられる。
【0014】
(A)成分のオルガノポリシロキサンにおいて、アルケニル基以外のケイ素原子に結合した有機基R’としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基等のアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基;クロロメチル基、3−クロロプロピル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基等のハロゲン化アルキル基などが挙げられ、特に、メチル基、フェニル基であることが好ましい。
【0015】
このような(A)成分の分子構造としては、例えば、直鎖状、一部分岐を有する直鎖状、環状、分岐鎖状、三次元網状等が挙げられるが、基本的に主鎖がジオルガノシロキサン単位(D単位)の繰り返しからなり、分子鎖両末端がトリオルガノシロキシ基で封鎖された直鎖状のジオルガノポリシロキサン、直鎖状のジオルガノポリシロキサンと分岐鎖状あるいは三次元網状のオルガノポリシロキサンの混合物であることが好ましい。
【0016】
この場合、レジン状(分岐鎖状、三次元網状)のオルガノポリシロキサンとしては、アルケニル基とSiO4/2単位(Q単位)及び/又はR”SiO3/2(T単位)(R”はR又はR’)を含有するオルガノポリシロキサンであれば特に制限されないが、SiO4/2単位(Q単位)と、RR’2SiO1/2単位やR’3SiO1/2単位等のM単位からなり、M/Qのモル比が0.6〜1.2であるレジン状オルガノポリシロキサンや、T単位とM単位及び/又はD単位からなるレジン状オルガノポリシロキサン等が例示される。
レジン状のオルガノポリシロキサンの配合量は、組成物の塗布性及び銀粉末の充填性の点から直鎖状オルガノポリシロキサンとレジン状オルガノポリシロキサンの好ましい配合割合が質量比で好ましくは70:30〜100:0、特に好ましくは80:20〜100:0となる量である。
【0017】
aは、0<a≦2、好ましくは0.001≦a≦1、bは、0<b<3、好ましくは0.5≦b≦2.5、a+bは、0<a+b≦3、好ましくは0.5≦a+b≦2.7を満たす数である。なお、直鎖状のオルガノポリシロキサンの場合は、0.001≦a≦1、0.5≦b≦2.1、1.8≦a+b≦2.2であることが好ましい。
【0018】
(A)成分の23℃における粘度は、得られるシリコーン組成物の物理的特性が良好であり、また、組成物の取り扱い作業性、塗布性が良好であることから、100〜5,000mPa・sの範囲内であることが好ましく、特に100〜1,000mPa・sの範囲内であることが好ましい。直鎖状オルガノポリシロキサンにレジン状オルガノポリシロキサンを併用する場合は、レジン状オルガノポリシロキサンは直鎖状オルガノポリシロキサンに溶解するため、混合して均一な状態での粘度とする。なお、本発明において、粘度は回転粘度計により測定することができる。
【0019】
このような(A)成分のオルガノポリシロキサンとしては、例えば、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルビニルポリシロキサン、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖メチルビニルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、式:R13SiO0.5で示されるシロキサン単位と式:R122SiO0.5で示されるシロキサン単位と式:R12SiOで示されるシロキサン単位と式:SiO2で示されるシロキサン単位からなるオルガノシロキサン共重合体、式:R13SiO0.5で示されるシロキサン単位と式:R122SiO0.5で示されるシロキサン単位と式:SiO2で示されるシロキサン単位からなるオルガノシロキサン共重合体、式:R122SiO0.5で示されるシロキサン単位と式:R12SiOで示されるシロキサン単位と式:SiO2で示されるシロキサン単位からなるオルガノシロキサン共重合体、式:R12SiOで示されるシロキサン単位と式:R1SiO1.5で示されるシロキサン単位もしくは式:R2SiO1.5で示されるシロキサン単位からなるオルガノシロキサン共重合体、及びこれらのオルガノポリシロキサンの2種以上からなる混合物が挙げられる。
【0020】
ここで、上記式中のR1はアルケニル基以外の一価炭化水素基であり、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基等のアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基;クロロメチル基、3−クロロプロピル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基等のハロゲン化アルキル基などが挙げられる。また、上記式中のR2はアルケニル基であり、例えば、ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、へプテニル基などが挙げられる。
【0021】
(B)オルガノハイドロジェンポリシロキサン
本発明の組成物に用いるオルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)は、一分子中に少なくとも2個(通常、2〜300個)、好ましくは3個以上(例えば、3〜150個程度)、より好ましくは3〜100個程度のケイ素原子に結合した水素原子(即ち、SiH基)を含有するものであり、直鎖状、分岐状、環状、或いは三次元網状構造の樹脂状物のいずれでもよい。このようなオルガノハイドロジェンポリシロキサンとしては、例えば、下記平均組成式(2)で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサンが挙げられる。
【0022】
c3dSiO(4-c-d)/2 (2)
(式中、R3は独立に脂肪族不飽和結合を含有しない非置換又は置換の一価炭化水素基、又はアルコキシ基であり、c及びdは、0<c<2、0.8≦d≦2かつ0.8<c+d≦3となる数であり、好ましくは0.05≦c≦1、1.5≦d≦2かつ1.8≦c+d≦2.7となる数である。また、一分子中のケイ素原子の数(又は重合度)は、2〜100個、特に3〜50個が好ましい。)
【0023】
ここで、上記式中R3の脂肪族不飽和結合を含有しない非置換又は置換の一価炭化水素基としては、前記のR’として例示したものと同様のものが挙げられるほか、メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基、置換一価炭化水素基として、エポキシ基含有一価炭化水素基等が挙げられ、代表的なものは炭素数が1〜10、特に炭素数が1〜7のものであり、好ましくはメチル基等の炭素数1〜3の低級アルキル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基、炭素数1〜4のアルコキシ基である。この場合、エポキシ基含有一価炭化水素基としては、上記非置換の一価炭化水素基、特にアルキル基の水素原子の1個又はそれ以上をグリシジル基、グリシドキシ基で置換したものが挙げられる。R3として特に好ましくはメチル基、メトキシ基、エトキシ基、エポキシ基含有一価炭化水素基である。
【0024】
このようなオルガノハイドロジェンポリシロキサンとしては、例えば、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、1,3,5,7−テトラメチルテトラシクロシロキサン、1,3,5,7,8−ペンタメチルペンタシクロシロキサン、メチルハイドロジェンシクロポリシロキサン、メチルハイドロジェンシロキサン・ジメチルシロキサン環状共重合体、トリス(ジメチルハイドロジェンシロキシ)メチルシラン等のシロキサンオリゴマー;分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、分子鎖両末端シラノール基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、分子鎖両末端シラノール基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体等;R32(H)SiO1/2単位とSiO4/2単位からなり、任意にR33SiO1/2単位、R32SiO2/2単位、R3(H)SiO2/2単位、(H)SiO3/2単位又はR3SiO3/2単位を含み得るシリコーンレジン(但し、R3は前記と同じである)などの他、これらの例示化合物においてメチル基の一部又は全部をエチル基、プロピル基等の他のアルキル基で置換したものなどが挙げられ、更には下記式
【化1】

(式中、R3は前記と同じであり、s、tはそれぞれ0又は1以上の整数である。)
等で表されるものが挙げられる。
【0025】
また、接着性が重要な場合は、(B)成分の一部又は全部に下記式(3)、(4)で示されるような分子中にメトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基及び/又はエポキシ含有基を有するものを使用することが好ましい。特に式(4)で表されるような分子中にアルコキシ基とグリシジル基、グリシドキシ基、グリシドキシプロピル基等のエポキシ含有基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、接着性向上には効果的である。
【化2】

【0026】
本発明の組成物に用いるオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、公知の方法で得ることができ、例えば、一般式:R3SiHCl2及びR32SiHCl(式中、R3は前記と同じである)から選ばれる少なくとも1種のクロロシランを(共)加水分解し、或いは該クロロシランと一般式:R33SiCl及びR32SiCl2(式中、R3は前記と同じである)から選ばれる少なくとも1種のクロロシランを組み合わせて共加水分解し、縮合することにより得ることができる。また、オルガノハイドロジェンポリシロキサンは、このように(共)加水分解縮合して得られたポリシロキサンを平衡化したものでもよい。
【0027】
(B)成分の配合量は、(A)成分中の全ケイ素原子に結合したアルケニル基に対して(B)成分中のケイ素原子に結合した水素原子が0.5〜5.0倍モルとなる量であることが好ましく、より好ましくは0.7〜3.0倍モルとなる量である。0.5未満でも5.0以上でも、架橋バランスが崩れ十分な強度の硬化物が得られない場合がある。
【0028】
(C)銀粉末又は銀メッキされた微粉末粒子
シリコーン組成物の硬化物に導電性を付与するために、本発明では導電性フィラーとしては、銀粉末又は銀メッキされた微粉末粒子が使用される。銀粉末については、具体的に還元銀粉末、電解銀粉末、アトマイズ銀粉末が例示される。(C)成分の形状は球状、扁平状、樹枝状、不定形状等の様々なものがあるが、特に限定されない。ただ、高導電性組成物とするため銀粉を高充填するには扁平状の銀粉末が好ましい。また、銀メッキされた微粉末粒子については、メッキされる基材がシリカや銅といったものが市販されているが、特には限定されない。表面を銀でコートするには、球状の基材であることが好ましい。(C)成分の平均粒子径も特に限定されないが、好ましくは0.1〜15μmである。この平均粒子径は、レーザー光回折法による粒度分布測定装置における累積質量平均値D50として求めることができる。
【0029】
銀粉は、その製造過程により、防錆剤や凝集防止のための潤滑剤等が含まれている。それらが付加反応触媒である白金族触媒に作用すると、硬化遅延を引き起こしたり、全く硬化しなくなる場合もある。そこで、銀粉や銀メッキフィラーは大量の水あるいはアセトンやメチルエチルケトンといった有機溶剤で予め洗浄した後乾燥させたものを使用することが好ましい。
【0030】
(C)成分の配合量は、(A)成分100質量部に対して100〜1,500質量部であることが必要であり、より好ましくは300〜1,000質量部である。(C)成分が100質量部より少ない場合、硬化物の導電率が低下し、1,500質量部より多い場合組成物の取り扱いが困難となる。
【0031】
(D)導電性微粉末(但し、銀・銅及びそれらを含む金属を除く)
(D)成分は、組成物の導電性を保ちつつチクソ性を向上させ、形状保持性を高めるために使用する。導電性を付与する粉末としては、カーボンブラックや導電性亜鉛華などが挙げられるが、高導電率を有する組成物とする本発明においてはカーボンブラックを使用することがより好ましい。
【0032】
カーボンブラックとしては、通常導電性ゴム組成物に常用されているものが使用し得、例えばアセチレンブラック、コンダクティブファーネスブラック(CF)、スーパーコンダクティブファーネスブラック(SCF)、エクストラコンダクティブファーネスブラック(XCF)、コンダクティブチャンネルブラック(CC)、1,500〜3,000℃程度の高温で熱処理されたファーネスブラックやチャンネルブラック等を挙げることができる。これらの中で、アセチレンブラックは不純物含有率が少ない上、発達した2次ストラクチャー構造を有することから導電性に優れており、本発明において特に好適に使用される。
【0033】
(D)成分の添加量は、(A)成分100質量部に対し0.5〜30質量部であり、より好ましくは1〜25質量部、特に好ましくは3〜20質量部である。添加量が0.5質量部より少ない場合にはチクソ性向上効果が十分ではなく、組成物の塗布後の形状保持性が悪くなり、30質量部より多い場合は粘度が上昇しすぎて組成物の作業性が低下する。
【0034】
(E)付加反応触媒
本発明に用いる付加反応触媒(ヒドロシリル化反応触媒)は、前記の(A)成分のアルケニル基と(B)成分のケイ素原子に結合した水素原子(即ち、SiH基)との付加反応を促進するための触媒であり、ヒドロシリル化反応に用いられる触媒として白金族金属系触媒等の周知の触媒が挙げられる。
【0035】
この白金族金属系触媒としては、ヒドロシリル化反応触媒として白金、ロジウム、パラジウム等の白金族金属系触媒等の公知のものが全て使用できる。例えば、白金黒、ロジウム、パラジウム等の白金族金属単体;H2PtCl4・yH2O、H2PtCl6・yH2O、NaHPtCl6・yH2O、KHPtCl6・yH2O、Na2PtCl6・yH2O、K2PtCl4・yH2O、PtCl4・yH2O、PtCl2、Na2HPtCl4・yH2O(式中、yは0〜6の整数であり、好ましくは0又は6である)等の塩化白金、塩化白金酸及び塩化白金酸塩;アルコール変性塩化白金酸(米国特許第3,220,972号明細書参照);塩化白金酸とオレフィンとのコンプレックス(米国特許第3,159,601号明細書、同第3,159,662号明細書、同第3,775,452号明細書参照);白金黒、パラジウム等の白金族金属をアルミナ、シリカ、カーボン等の担体に担持させたもの;ロジウム−オレフィンコンプレックス;クロロトリス(トリフェニルフォスフィン)ロジウム(ウィルキンソン触媒);塩化白金、塩化白金酸又は塩化白金酸塩とビニル基含有シロキサン、特にビニル基含有環状シロキサンとのコンプレックス等が挙げられる。これらの中で好ましいものとして、相溶性の観点及び塩素不純物の観点から、塩化白金酸をシリコーン変性したものが挙げられ、具体的には、例えば塩化白金酸をテトラメチルジビニルジシロキサンで変性した白金触媒が挙げられる。
【0036】
(E)成分の添加量は、白金原子にして(A)成分に対し、質量換算で0.5〜1,000ppm、好ましくは1〜500ppm、より好ましくは5〜200ppmである。
【0037】
(F)脂肪酸、脂肪酸誘導体及びそれらの金属塩から選ばれる脂肪酸類
(F)成分である脂肪酸、脂肪酸誘導体、又はそれらの金属塩は、組成物の付加硬化性を安定化するのに配合するものであり、市販のものも使用できる。
(F)成分の添加量は、(A)成分100質量部に対して、0.1〜20質量部、好ましくは0.1〜5質量部である。0.1質量部未満であると保存安定性向上効果が不十分となることがあり、20質量部を超えると硬化性が悪くなる。ここで、脂肪酸、脂肪酸誘導体及びそれらの金属塩から選ばれる1種又は2種以上の好ましい炭素数は8以上であり、より好ましくは8〜20である。
【0038】
脂肪酸の具体的な例としては、カプリル酸、ウンデシレン酸、ラウリル酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、マーガリン酸、ステアリン酸、アラギン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、メリシン酸、ミリストレイン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸などが例示される。
【0039】
脂肪酸誘導体の例としては、脂肪酸エステル、脂肪族アルコールのエステルなどが挙げられる。脂肪族エステルとしては、上記脂肪酸等とC1〜C5の低級アルコールエステル、ソルビタンエステル、グリセリンエステル等の多価アルコールエステルが例示される。脂肪族アルコールのエステルとしては、カプリリルアルコール、カプリルアルコール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、ステアリルアルコール等の飽和アルコールなどの脂肪酸アルコールのグルタル酸エステルやスペリン酸エステルのような2塩基酸エステル、クエン酸エステルのような3塩基酸エステルが例示される。
【0040】
脂肪酸金属塩における脂肪酸の例としては、カプリル酸、ウンデシレン酸、ラウリル酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、マーガリン酸、ステアリン酸、アラギン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、メリシン酸、ミリストレイン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸などが挙げられ、金属としては、例えば、リチウム、カルシウム、マグネシウム、亜鉛等が挙げられる。
【0041】
(F)成分としては、脂肪酸が好ましく、ステアリン酸がより好ましい。(F)成分は単独で使用してもよいが、予め(E)成分と混合したものを使用するのが保存安定性をより向上させることができるため好ましい。
【0042】
本発明の組成物は、通常の付加硬化型シリコーン組成物と同様に1液組成物でも使用直前に混合する2液組成物でもよいが、作業性の点から1液組成物とすることが好ましい。
【0043】
本発明の組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で各種の添加剤を更に添加することができる。特に、本発明の組成物を1液型で使用する際の貯蔵安定性向上のために、ヒドロシリル化反応抑制剤を配合することができる。反応抑制剤としては、従来から公知のものを使用することができ、例えばアセチレン系化合物、アルケニル基を2個以上含有する化合物、アルキニル基を含有する化合物や、トリアリルイソシアヌレートやその変性品などが挙げられる。これらの中でも、アルケニル基又はアルキニル基を有する化合物の使用が望ましい。
これらの反応抑制剤の添加量は、少なすぎるとヒドロシリル化反応の遅延効果が得られない場合があり、逆に多すぎると硬化そのものが阻害されてしまう場合があるため、(A)〜(F)成分の合計量100質量部に対して0.01〜1.0質量部の範囲であることが好ましい。
また、接着性を向上させるためにシランカップリング剤を配合することもできる。
【0044】
本発明の付加硬化型導電性シリコーン組成物の製造方法としては、例えば(A)〜(F)成分及びその他の任意成分をプラネタリーミキサー、ニーダー、品川ミキサー等の混合機で混合する方法等が挙げられる。この場合、(E)成分と(F)成分とを予め混合したものを他成分と混合することが組成物の保存安定性をより向上させる点で好ましい。
【0045】
本発明において、組成物の粘度とチクソ係数は塗布後の形状安定性においては重要な因子である。E型粘度計を使用したときの回転速度が10rpmの時の23℃における組成物の粘度が10Pa・s以上500Pa・s以下、特に20〜200Pa・sであることが好ましい。粘度が低すぎると、ディスペンサー等により塗布した際あるいは加熱硬化時に流れて形状が保持できない場合がある。また、粘度が高すぎると、ディスペンサーで塗布する場合に糸引きを生じたり、スクリーン印刷する場合にはマスクのパターンに十分に追従できず、パターンの欠損を起こすおそれがある。なお、23℃における組成物の10rpmにおける粘度と20rpmにおける粘度との比(10rpm/20rpm)(以下、チクソ係数と示す)は、1.5以上、特に2.0〜5.0であることが好ましい。このチクソ係数が1.5未満であると、塗布した形状を安定させることが不十分となる場合があるため、塗布後の形状安定性が重要な場合は、チクソ係数が1.5以上のものを用いることが好ましい。
【0046】
本発明の組成物の硬化条件としては、100〜150℃で1〜120分間硬化させることが望ましい。この場合、硬化物の導電率は、(C)、(D)成分の配合量を調整して1.0×10-2Ω・cm以下とすることが好ましく、特に1.0×10-2〜1.0×10-5Ω・cmであることが好ましい。
【実施例】
【0047】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0048】
[実施例1〜4、比較例1〜4]
下記に示す成分を、表1,2に示す配合量で、(株)シンキー製自転・公転ミキサー(あわとり練太郎)により均一に混合してシリコーンゴム組成物を調製した。実施例及び比較例中、粘度は23℃でE型粘度計(東機産業(株)製RE80)により測定した値である。
(A)一分子中にケイ素原子に直結したビニル基を2個有し、粘度600mPa・sであるメチルビニルポリシロキサン
(B−1)23℃における粘度が5mPa・sで、水素ガス発生量が350ml/gであるメチルハイドロジェンポリシロキサン
(B−2)式(4)で示されるSiH基含有化合物
【化3】

(C)福田金属箔粉工業(株)製銀粉(AgC−237)をアセトンで洗浄、乾燥させたもの
(D)電気化学工業(株)製デンカブラックHS−100
(E−1)塩化白金酸から誘導した、テトラメチルジビニルジシロキサンを配位子として有する白金触媒(白金原子量:1質量%)
(E−2)上記(E−1)とステアリン酸を質量比3/2で混合したもの
(F)ステアリン酸
(G)BET法による比表面積が200m2/gであり、表面がヘキサメチルジシラザンで処理された煙霧質シリカ
(反応抑制剤)1−エチニル−1−シクロヘキサノール
【0049】
得られたシリコーンゴム組成物の導電率、粘度、チクソ係数、形状保持性、保存安定性の結果を表1,2に併記する。なお、導電率、形状保持性、保存安定性は下記に示す方法で行った。
[導電率の測定]
シリコーンゴム組成物を、1mm厚みの金型内で150℃/1時間オーブンキュアすることにより導電性シリコーンゴムシートを成形した。
導電率の測定は、
KEITHLEY 237 High Voltage Source Measure Unit(定電流電源)
KEITHLEY 2000 Multimeter(電圧計)
を用いて行った。
[形状保持性]
形状保持性については、25mm×250mm(厚み0.5mm)のステンレススチール(SUS)板に組成物を載せ、30度傾けて150℃/1時間硬化させたときの組成物の流れ性により、◎(全く変化なし)、○(流れないが少し傾く)、△(1〜3mm流れる)、×(3mmを超えて流れる)と判断した。
[保存安定性]
製造直後及び5℃で2ヶ月保存した組成物を150℃/1時間硬化させた時の硬度をデュロメータタイプA硬度計で測定した。
【0050】
【表1】

【0051】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)下記平均組成式(1)
aR’bSiO(4-a-b)/2 (1)
(式中、Rはアルケニル基、R’は脂肪族不飽和結合を持たない非置換又は置換の炭素数1〜10の一価炭化水素基、a、bは、0<a≦2、0<b<3、0<a+b≦3を満たす数である。)
で表される一分子中に少なくとも2個のケイ素原子に結合したアルケニル基を含有するオルガノポリシロキサン:100質量部、
(B)一分子中に少なくとも2個のケイ素原子に結合した水素原子を含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン:(A)成分中の全ケイ素原子結合アルケニル基に対して(B)成分中のケイ素原子に結合した水素原子が0.5〜5.0倍モルとなる量、
(C)銀粉末又は銀メッキされた微粉末粒子:100〜1,500質量部、
(D)導電性微粉末(但し、銀・銅及びそれらを含む金属を除く):0.5〜30質量部、
(E)付加反応触媒:触媒量、
(F)脂肪酸、脂肪酸誘導体及びそれらの金属塩から選ばれる1種又は2種以上:0.1〜20質量部
を含有することを特徴とする付加硬化型導電性シリコーン組成物。
【請求項2】
(D)成分がカーボンブラックである請求項1記載の付加硬化型導電性シリコーン組成物。
【請求項3】
(B)成分の一部として、一分子中に少なくとも2個のケイ素原子に結合した水素原子を有すると共に、アルコキシ基及びエポキシ含有基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンを含有する請求項1又は2記載の付加硬化型導電性シリコーン組成物。
【請求項4】
(F)成分がステアリン酸である請求項1〜3のいずれか1項に記載の付加硬化型導電性シリコーン組成物。
【請求項5】
E型粘度計による23℃におけるチクソ比(10rpmの粘度/20rpmの粘度)が1.5以上である請求項1〜4のいずれか1項に記載の付加硬化型導電性シリコーン組成物。
【請求項6】
硬化物の導電率が1.0×10-2Ω・cm以下である請求項1〜5のいずれか1項に記載の付加硬化型導電性シリコーン組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の(A)〜(F)成分を含有する付加硬化型導電性シリコーン組成物を製造するに際し、(E)成分と(F)成分を予め混合したものを他成分と混合することを特徴とする付加硬化型導電性シリコーン組成物の製造方法。

【公開番号】特開2013−100464(P2013−100464A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−202255(P2012−202255)
【出願日】平成24年9月14日(2012.9.14)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】