説明

導電性ポリマー複合材料及びそれを用いた電場応答性高分子膜

【課題】導電性フィラーをポリマーに配合することにより絶縁体であるポリマーに導電性を持たせる導電性ポリマー複合材料において、ポリマーが有する柔軟性を保ちながら高い導電性を有し、加えて、成形加工性にも優れた導電性ポリマー複合材料を提供する。
【解決手段】母材となるポリマーに導電性フィラーを配合した導電性ポリマー複合材料において、導電性フィラーの配合量が臨界体積分率以上であるとともにその導電性フィラーの一部又は全てに植物系カーボンブラックを用いることにより前記の課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性を有するポリマー複合材料に関するものであって、さらに詳しくは、母材となるポリマーに配合する導電性フィラーを改良することによって得られた導電性、柔軟性に優れた導電性ポリマー複合材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、絶縁体であるポリマーに導電性フィラーを配合し、導電性を付与することは古くから行われており、そのための各種の導電性フィラーが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
一般に知られている導電性フィラーとしては、(1)カーボンブラック、黒鉛、炭素繊維等のグラファイト構造を有する炭素材料、(2)金属繊維、金属粉末、金属箔、金属片等の金属材料、(3)金属酸化物等の無機材料等が挙げられる。特に、少量の配合量で高い導電性を得るために、カーボンブラック又は中空炭素フィブリルの使用が進みつつある(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
通常の導電性フィラーは、球状、片状、繊維状、樹枝状、角状、海綿状、不規則状、盤状、粒状、ぶどう状、涙滴状等があり、電気的な特性は、導電性フィラーの電気的特性に依存するが、導電性フィラーの形状や粉径、分散状態、表面処理等にも依存する(例えば、非特許文献1参照)。
【0005】
絶縁体であるポリマーに、導電性を付与するために導電性フィラーを配合すると、図1に示すように、配合量の増加に対して、体積固有抵抗(Ω・m)が緩やかに減少するが、ある配合量で体積固有抵抗が絶縁領域から導電領域に劇的に減少し、ポリマーが絶縁体から導電体に転移するパーコレーションと呼ばれる現象が見られる。この現象は絶縁体のマトリックス内で導電性フィラーが、図2に示すように、3次元のネットワークを形成するためと説明されており、この時の配合量が「臨界体積分率」と呼ばれている。この臨界体積分率は、母材となるポリマーの種類及び導電性フィラーの種類に応じて、ほぼ決まった値をとる。
【0006】
したがって、導電性ポリマーの体積固有抵抗を低い値にするためには、臨界体積分率よりも多くの導電性フィラーを配合する必要がある(例えば、特許文献3参照)。
【0007】
また、粒状の導電性フィラーよりも繊維状の導電性フィラーを用いることにより、臨界体積分率を小さくすることができる。つまり、より少ない導電性フィラーの配合で、臨界体積分率を超えることになり、導電性を得ることができる。これは、図3に示すように、繊維状の導電性フィラーを用いた場合、粒状の導電性フィラーに比べて少ない配合量で3次元のネットワークを形成しやすいためである。さらに、繊維状の導電性フィラーを用いた場合、導電性ポリマーの引っ張り強度が強くなる傾向もある。
【0008】
さらに、本発明者らは、誘電体エラストマーを主要構成要素とする電場応答性高分子膜(Electroactive Polymer)を用いた発電に成功し(例えば、特許文献4参照)、その電極に導電性ポリマー複合材料を用いることが提案されている(例えば、非特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2007−92039号公報(第10−11頁)
【特許文献2】特開2002−53747号公報(第3頁)
【特許文献3】特開2007−234547号公報(第4−10頁)
【特許文献4】特開2008−141840号公報
【非特許文献1】高野宏美編「最新導電材料技術大全集(上巻)」技術情報協会、2007年10月31日、p.149−195
【非特許文献2】高野宏美編「最新導電材料技術大全集(下巻)」技術情報協会、2007年10月31日、p.401−402
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところが、前述したように、導電性ポリマーの体積固有抵抗を下げるために、臨界体積分率より、多くの導電性フィラーを配合すると、図4に示すように、母材となるポリマーのマトリックス内における接合点が少なくなる。すなわち、母材となるポリマーのマトリックスが導電性フィラーにより分断される状態になるため、引っ張り強度や弾性等の特性を損なうという課題があった。
【0010】
また、導電性フィラーとポリマーとの複合材料によるモールド成形タイプの二次電池用電極や燃料電池用セパレータの検討も多くなされているが、高い導電性を発現させるために導電性フィラーの配合量を増やすと溶融流動性が低下し成形加工が困難となり、射出成形又は圧縮成形において成形材料が金型キャビティのすみずみまで行きわたらず、キャビティを完全に充填しきれない所謂ショートショットになりやすいという課題があった。
【0011】
また、繊維状の導電性フィラーを用いた場合、その引っ張り強度は強くなる傾向があるものの、弾性は低下し、ポリマーの柔軟性が損なわれるという課題があった。
【0012】
さらに、電場応答性高分子膜の電極に導電性ポリマーを用いた場合、導電性ポリマーの弾性を電場応答性高分子膜の伸張・収縮に対応して柔軟に伸び縮みできるようにすると導電性が低下するため発電効率あるいは駆動効率が低下し、一方、導電性ポリマーの導電性を高めると弾性が低下するため電場応答性高分子膜の伸張・収縮に電極が対応できず耐久性が低下するという課題があった。
【0013】
そこで、本発明が解決しようとする技術的課題、すなわち、本発明の第1の目的は、導電性フィラーをポリマーに配合することにより絶縁体であるポリマーに導電性を持たせる複合材料において、ポリマーが有する柔軟性を保ちながら高い導電性を有し、加えて、成形加工性にも優れた導電性ポリマー複合材料を提供することである。
【0014】
さらに、本発明の第2の目的は、柔軟性を保ちながら高い導電性を有する導電性ポリマー複合材料を用いて、発電素子あるいはアクチュエータとして用いた場合に優れた発電効率あるいは駆動効率を実現するとともに、優れた耐久性を実現する電場応答性高分子膜を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、導電性ポリマー複合材料の母材となるポリマーに配合する導電性フィラーとして植物系カーボンブラックを用いることが、前記課題の解決にきわめて効果的であることを見出し、かかる知見に基づき本発明を完成するに到った。
【0016】
すなわち、本請求項1に係る発明は、母材となるポリマーに導電性フィラーを配合した導電性ポリマー複合材料において、前記導電性フィラーの配合量が臨界体積分率以上であるとともに該導電性フィラーの一部又は全てに植物系カーボンブラックを用いていることにより、前記課題を解決したものである。
なお、本発明における「植物系カーボンブラック」とは、植物又はその種子を原料とし、この繊維を耐炎化、すなわち、酸素がある雰囲気中において200〜300℃で一定時間加熱した後、炭素化、すなわち、酸素のない雰囲気中において1000℃以上で焼くことにより製造される炭素粉末で、原料の持つ空洞状構造又は繊維状構造を炭素化後も維持しているものを意味している。
【0017】
そして、本請求項2に係る発明は、請求項1に係る導電性ポリマー複合材料において、前記植物系カーボンブラックが空洞状構造を有し、該空洞状構造の内部に母材となるポリマーが入り込んでいることにより、前記課題をさらに解決したものである。
【0018】
また、本請求項3に係る発明は、請求項1に係る導電性ポリマー複合材料において、前記植物系カーボンブラックが繊維状構造を有し、該繊維状構造に存在する隙間にポリマーが入り込んでいることにより、前記課題をさらに解決したものである。
【0019】
また、本請求項4に係る発明は、請求項1乃至請求項3のいずれかに係る導電性ポリマー複合材料において、前記導電性フィラーの一部に金属性フィラー、ケッチェンブラック、カーボンナノチューブ、メソフェーズカーボン、コークス、天然黒鉛、人工黒鉛、気相法炭素繊維から選ばれる少なくとも1種の導電材料を含んでいることにより、前記課題をさらに解決したものである。
【0020】
ここで、金属性フィラー、ケッチェンブラック、カーボンナノチューブ、メソフェーズカーボン、コークス、天然黒鉛、人工黒鉛、気相法炭素繊維は、いずれもポリマーの導電性を向上させる目的で配合される導電剤としての共通した性質を有する導電材料である。
【0021】
そして、本請求項5に係る電場応答性高分子膜は、請求項1乃至請求項4のいずれか記載の導電性ポリマー複合材料からなる電極が誘電体エラストマーを挟持していることにより、前記課題をさらに解決したものである。
【0022】
なお、本発明における「電場応答性高分子膜」とは、米国のカリフォルニア州に本拠を構えるSRIインターナショナルで開発された新素材であって、アクリル系樹脂やシリコーン系樹脂等からなる弾性を有する薄い高分子(誘電体エラストマー)を伸び縮み可能な柔軟な電極で挟んだ構造をしており、EPAM(イーパム:Electroactive Polymer Artificial Muscle)という商品名で市販されているものである。
【0023】
ここで、この電場応答性高分子膜が、発電する原理の概要について、図5及び図6に基づき説明する。
【0024】
電場応答性高分子膜1は、2つの柔軟な電極1b、1cに挟まれたアクリル系樹脂やシリコーン系樹脂等の高分子膜1aで構成されている。従来、多用されていたアクチュエーション(駆動)モードでは、図5に示すように電極間に電位差を与えると、静電力により高分子膜1aが厚さ方向に収縮し、その結果として、電場応答性高分子膜1が面方向に伸張し、アクチュエータとして機能する。
【0025】
一方、発電モードでは、図6に示すようにアクチュエーション(駆動)モードと逆の動き、すなわち、電場応答性高分子膜1に波力、風力、水力や人的作用等の外部的圧力、伸張力を与えて、電場応答性高分子膜1を伸張させることにより発電する。
【0026】
これらモードでは、電場応答性高分子膜1は、可変容量コンデンサーのように機能していると考えられる。電場応答性高分子膜1が何らかの力により伸張された際に発電の元となる微量の電荷を電場応答性高分子膜1に与える。この電荷は、電場応答性高分子膜1の高分子膜1aの表面上に現れる。そして、この膜が弛緩する際、電場応答性高分子膜1の弾性力が電場圧力に対抗して働き、その結果、電気エネルギーが増加する。ミクロ的には、高分子膜1aの弾性力により電荷を各電極1b、1cに向けて押し出し(収縮状態で高分子膜1aの厚さが増加)、また電極1b、1c上において各電荷間の距離が短くなる(収縮状態で平面領域が減少)。
【0027】
このような電荷の変化が電圧差を増加させ、その結果、静電エネルギー量が増加し、電気エネルギーとして外部の負荷に供給可能になり、電場応答性高分子膜が発電素子として機能する。
【発明の効果】
【0028】
本請求項1に係る発明によれば、母材となるポリマーに導電性フィラーを配合した導電性ポリマー複合材料において、導電性フィラーの配合量が臨界体積分率以上であるとともに導電性フィラーの一部又は全てに植物系カーボンブラックを用いていることにより、植物又はその種子を原料として作られた植物系カーボンブラックは、植物又はその種子の空洞状構造あるいは繊維状構造を残したまま耐炎化、炭素化されるため、繊維状に絡み合った構造を有しており、その粒子間の結合は、従来の導電性フィラーと同様、粒子間の表面接触によるものの他に、その繊維が絡み合うことによっても行われ、それ故、粒子同士の接触面積が大きく体積固有抵抗を低くすることができるので、導電性ポリマー複合材料の導電性が飛躍的に向上させることができる。
【0029】
そして、本請求項2に係る発明によれば、請求項1に係る導電性ポリマー複合材料において、植物系カーボンブラックが空洞状構造を有し、その空洞状構造の内部に母材となるポリマーが入り込んでいることにより、植物系カーボンブラックを高濃度に配合させてもポリマーの弾性を損なうことがなく、従来より、導電性フィラーの配合量を増やすことができるので、体積固有抵抗をさらに低くすることができるので、導電性ポリマー複合材料の導電性がさらに向上する。すなわち、導電性フィラー中の植物系カーボンブラックが有する空間の内部に母材となるポリマーが入り込むため、隣接した導電性フィラー同士の結合が表面接触によるものの他に、植物系カーボンブラックが有する空間に入り込んだポリマーによっても保たれることになる。そのため、導電性フィラーの配合量を従来より増加させても弾性を損なうことなく、成形加工性及び導電性を向上させることができる。
【0030】
また、本請求項3に係る発明によれば、請求項1に係る導電性ポリマー複合材料において、植物系カーボンブラックが繊維状構造を有し、その繊維状構造に存在する隙間にポリマーが入り込んでいることにより、植物系カーボンブラック同士の繊維状構造の絡み合いと繊維状構造の隙間に入り込むポリマーとにより導電性フィラーのネットワークが保たれるため、引っ張り強度及び弾性を向上させることができる。
【0031】
さらに、本請求項4に係る発明によれば、請求項1乃至請求項3のいずれかに係る導電性ポリマー複合材料において、導電性フィラーの一部に金属性フィラー、ケッチェンブラック、カーボンナノチューブ、メソフェーズカーボン、コークス、天然黒鉛、人工黒鉛、気相法炭素繊維から選ばれる少なくとも1種の導電材料を含んでいることにより、植物系カーボンブラックの空洞状あるいは繊維状の構造の隙間に導電材料が入り込むため、導電材料の配合量を従来より増加させても引っ張り強度や弾性を損なうことなく、成形加工性及び導電性を向上させることができる。
【0032】
そして、本請求項5に係る電場応答性高分子膜によれば、請求項1乃至請求項4のいずれか記載の導電性ポリマー複合材料が電場応答性高分子膜の電極を形成することにより、電場応答性高分子膜の伸張・収縮に対応して柔軟に電極が追従するとともに電極の導電性が高いため、電場応答性高分子膜を発電素子あるいはアクチュエータとして用いた場合に、優れた発電効率あるいは駆動効率を実現するとともに、優れた耐久性を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
本発明の導電性ポリマー複合材料は、母材となるポリマーに導電性フィラーを配合し、その導電性フィラーの配合量が臨界体積分率以上であるとともに導電性フィラーの一部又は全てに植物系カーボンブラックを用いることにより、ポリマーが有する柔軟性を保ちながら高い導電性を有するものであれば、その具体的な実施の態様は、如何なるものであっても何ら構わない。
【0034】
例えば、本発明の導電性ポリマー複合材料は、母材となるポリマーと導電性フィラーを主要成分としているが、製造上又は機能上等の必要性に応じて、離型剤、紫外線安定剤、増粘剤、バインダー等を添加成分として配合しても構わない。
【0035】
また、本発明の電場応答性高分子膜は、母材となるポリマーに導電性フィラーを配合し、その導電性フィラーの配合量が臨界体積分率以上であるとともに導電性フィラーの一部又は全てに植物系カーボンブラックを用いた導電性ポリマー複合材料が電場応答性高分子膜の電極を形成することにより、この電場応答性高分子膜を発電素子あるいはアクチュエータとして用いた場合に優れた発電効率あるいは駆動効率を実現し、加えて優れた耐久性を実現するものであれば、その具体的な実施の態様は、如何なるものであっても何ら構わない。
【0036】
例えば、本発明の電場応答性高分子膜は、発電素子として用いた場合に優れた発電効率及び耐久性を実現するものであるが、電場応答性高分子膜の伸張・収縮に対応して柔軟に電極が追従するとともに電極の導電性が高いため、駆動素子として用いた場合にも優れた駆動効率及び耐久性を実現することができる。
【実施例1】
【0037】
以下、本発明の一実施形態である実施例1の導電性ポリマー複合材料について、図7及び図8を参照しつつ、さらに具体的に説明する。
【0038】
実施例1の導電性ポリマー複合材料は、母材となるポリマー80〜10体積%と導電性フィラー20〜90体積%からなる。具体的な導電性フィラーの配合量は、母材となるポリマーの種類及び導電性フィラーの種類に応じて、臨界体積分率以上となるように決定される。
【0039】
母材となるポリマーとしては、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂を用いることができる。ここで熱硬化性樹脂としては、例えば、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、ポリスチレン(PS)、ポリ塩化ビニル(PVC)、アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合合成樹脂(ABS樹脂)、アクリル樹脂(PMMA)、ポリイミド(PI)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、フッ素樹脂、ポリアセタール(POM)、ポリアミド系樹脂(PA)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリカーボネート(PC)等が挙げられる。これらの中でも、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、ポリスチレン(PS)、アクリル樹脂(PMMA)、ポリイミド(PI)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、フッ素樹脂、ポリカーボネート(PC)が耐水性や耐熱性等の点から好ましく、1種または2種以上を混合したものでもよい。
【0040】
また、熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、アルキド樹脂、アクリル樹脂、メラミン樹脂、キシレン樹脂、グアナミン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、アリルエステル樹脂、イミド樹脂、ウレタン樹脂等が挙げられる。これらの中でも、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、アリルエステル樹脂が耐熱性、難燃性、耐水性等の点から好ましく、1種または2種以上を混合したものでもよい。
【0041】
導電性フィラーとしては、鉄粉、アルミニウム粉、鉄繊維、片状アルミフレーク、片状亜鉛フレーク、ステンレス鋼ファイバー、銀フレーク等の金属性フィラー、ケッチェンブラック、カーボンナノチューブ、メソフェーズカーボン、コークス、天然黒鉛、人工黒鉛、気相法炭素繊維の中から選ばれる1種以上の導電材料を用いることができる。
【0042】
そして、本実施例においては、これらの導電性フィラーに、一定量の植物系カーボンブラックを配合させる。あるいは、これらの導電性フィラーに換えて導電性フィラーの全てを植物系カーボンブラックとしてもよい。
【0043】
本実施例で使用する植物系カーボンブラックとしては、樹木、籾殻、種子、果実の搾り粕等の植物由来の原料を耐炎化、すなわち、酸素がある雰囲気中において200〜300℃で一定時間加熱した後、炭素化、すなわち、酸素のない雰囲気中において1000℃以上で焼くことにより製造される炭素粉末が用いられる。
【0044】
このような植物系カーボンブラックは、原料の持つ空洞状構造あるいは繊維状構造を炭素化後も維持している。そのため、例えば、植物の種子を原料として得られた空洞状構造を有する植物系カーボンブラックを用いた場合、図7に示すように、植物系カーボンブラックの空洞状構造の内部に母材となるポリマーが入り込んで、隣接した植物系カーボンブラック同士の結合が表面接触によるものの他に、植物系カーボンブラックが有する空間に入り込んだポリマーによっても保たれることになる。そのため、植物系カーボンブラックーの配合量を増加させても弾性を損なうことなく、成形加工性及び導電性を向上させることができる。
【0045】
また、例えば、樹木を原料として得られた繊維状構造を有する植物系カーボンブラックを用いた場合、図8に示すように、繊維状構造に存在する隙間にポリマーが入り込んで、植物系カーボンブラック同士の繊維状構造の絡み合いと繊維状構造の隙間に入り込むポリマーとにより導電性フィラーのネットワークが保たれるため、引っ張り強度及び弾性を向上させることができる。
【0046】
本実施例の導電性ポリマー複合材料は、前記各成分を、例えば、ロール、押出機、ニーダー、バンバリーミキサー、プラネタリーミキサー、ヘンシェルミキサー等の樹脂分野で一般に用いられている混合機、混練機を使用し、均一に混合させて得ることができる。
【0047】
本実施例の導電性ポリマー複合材料を二次電池の電極や電場応答性高分子膜の電極に使用するような板状や膜状の成形体にする方法は、特に制限されるものはないが、例えば、圧縮成形法、トランスファー成形法、射出成形法、注型法、射出圧縮成形法を好適に用いることができる。
【0048】
寸法精度の良い板状や膜状の成形体を得るためには、まず、押出機、ロール、カレンダー等を用いて所定の厚み、幅の板や膜に成形した後、再度、ロールやカレンダーで圧延することが好ましい。また、成形体中のボイドやエアーをなくすためには、真空状態で押出成形することが好ましい。
【0049】
以上のように、実施例1の導電性ポリマー複合材料は、導電性フィラーが有する空間に母材となるポリマーが入り込むため、隣接した導電性フィラー同士の接合が空間に入り込んだポリマーによっても保たれることになる。このため、導電性フィラーの混入量を従来より増加させても弾性を損なうことがなく、導電性を向上させることができ、その効果は甚大である。
【実施例2】
【0050】
次に、本発明の別の実施形態である実施例2の電場応答性高分子膜について説明する。電場応答性高分子膜及びそれを用いた具体的な発電方法は、既に、前述の特許文献1において説明しているので、割愛する。
【0051】
電場応答性高分子膜の電極材料は、ポリマーやシリコンオイル等に導電性フィラーを配合したものが用いられている。この電極材料に実施例1で説明した導電性ポリマー複合材料を用いることにより、電極の体積固有抵抗を低くすることができる。その結果、電極で生じるロスを減少させることができる。また、電場応答性高分子膜は、動作時に電極が伸張・収縮するため、この電極として弾性を損なうことなく高い導電性を有する実施例1で説明した導電性ポリマー複合材料を用いることにより、アクチュエータ動作の場合、動作効率を改善することになり、発電動作の場合は、発電効率を向上させることができる。
【0052】
さらに、実施例1で説明したように、導電性フィラーの一部又は全てに植物系カーボンブラックを用いた導電性ポリマーは、弾性を損なうことなく、金属性フィラー、ケッチェンブラック、カーボンナノチューブ等の配合量を増加させることが可能で、導電性をさらに向上させることができる。したがって、導電性フィラーの一部又は全てに植物系カーボンブラックを用いた導電性ポリマーは、電場応答性高分子膜を用いたアクチュエータや発電装置の実用化のためのブレークスルーとなるものであり、その効果は甚大である。
【実施例3】
【0053】
さらに、本発明の別の適用例について説明する。実施例1として説明した導電性ポリマー複合材料の特性は、イオン導電性高分子・貴金属接合体(Ionic Polymer−Metal Composite:IPMC)やポリピロール(導電性高分子)を用いたアクチュエータ等、柔軟な電極を有するソフトアクチュエータ(Electroactive polymer:EAP)に対しても同様に適用できる。
【0054】
例えば、図9に示すように、導電性高分子であるポリピロールに植物系カーボンブラックを混練させるとともに、電解液を浸み込ませることにより、この種のソフトアクチュエータ(Electroactive polymer:EAP)を簡単に製造できるとともにアクチュエータの動作効率を改善させることができる。また発電素子として用いた場合、発電効率も向上させることができる。
【0055】
ここで、図9に示したソフトアクチュエータ(Electroactive polymer:EAP)の動作原理を概説する。導電性高分子であるポリピロールと白金などからなる対極とを電解液中に浸して、ポリピロールと対極間に電圧の印加と極性の入れ替えを行うことにより、ポリピロールの高分子鎖のコンフォメーション変化及びドーパントイオン(マイナスイオン)のポリピロールへの出入り(ドーピング/アンドーピング)によりポリピロールが伸縮する。すなわち、図9に示すように、ポリピロール側をプラスにするとポリピロール中にマイナスイオンが取り込まれてポリピロールが膨潤する。反対に、ポリピロール側をマイナスにするとポリピロール中に取り込まれたマイナスイオンが電解液中に放出されてポリピロールが収縮する。
【0056】
そして、母材となるポリマーであるポリピロール中に植物系カーボンブラックを配合させることにより、植物系カーボンブラックの空洞状構造内あるいは繊維状構造内の空間に電解液が浸み込むことにより、簡単にアクチュエータを作ることができる。また、電解液とポリピロールとの接触面積が増えることで、アクチュエータの動作効率が改善され、また、発電素子として用いた場合、発電効率が改善される。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の導電性ポリマー複合材料は、導電性フィラーの一部又は全てに植物系カーボンブラックを用いることによって、カーボンナノチューブのような高価な導電剤を用いることなく導電性ポリマーの導電性を改善し、しかも、植物系カーボンブラックは、空洞状構造あるいは繊維状構造を有しているため、母材となるポリマーに分散させやすく、導電性ポリマーの柔軟性・成型加工性をも改善するので、有機ELディスプレイ等の各種電子機器の電極への応用、デンドライド現象(金属イオンの樹枝状の析出)を防止し、安全に大電流を流すことが要求されるリチウムイオン電池等の二次電池への応用、電極の表面積を大きくすることが要求される電気二重層コンデンサの電極への応用、導電性を向上させ内部抵抗を低くすることにより周波数特性の改善を図る目的における電解コンデンサの電解液の代替としての応用、帯電防止、導電性、電波吸収効率等の性能を向上させることが要求される導電性塗料への応用、量産性、コスト低減が要求される燃料電池の電極への応用等、その産業上の利用可能性はきわめて高い。
【0058】
また、本発明の電場応答性高分子膜は、簡単な構成で、軽量で、メンテナンスもほとんど必要なく、動作時に機械音がほとんどしないという特性を活かして、様々な条件下及び分野で利用可能である発電装置やアクチュエータを提供するものである。例えば、発電装置としては、波力、水力、風力等の緩やかな動きによる発電、タイヤ空気圧センサの電源装置、樹木の幹や枝の揺れを利用した発電、排ガス等の気体圧力を用いた発電、排水等の水圧を用いた発電、乗り物が走行する時に生じる振動や衝撃による発電、非常用電源として人力による発電、トンネル内等の狭い空間で生じる圧力変化による発電等、また、アクチュエータとしては、既存のモータ、ソレノイド等の代替、介護機器、リハビリ機器、ロボット、医療手術デバイス等、その産業上の利用可能性は、きわめて高い。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】導電性ポリマー複合材料のパーコレーション現象を説明する図。
【図2】粒状の導電性フィラーを配合した導電性ポリマー複合材料の3次元ネットワークを説明する概念図。
【図3】繊維状の導電性フィラーを配合した導電性ポリマー複合材料の3次元ネットワークを説明する概念図。
【図4】多量の導電性フィラーを配合した従来の導電性ポリマー複合材料の3次元ネットワークを説明する概念図。
【図5】電場応答性高分子膜の駆動モードの動作原理を説明する図。
【図6】電場応答性高分子膜の発電モードの動作原理を説明する図。
【図7】実施例1の空洞状構造を有する植物系カーボンブラックを配合した導電性ポリマー複合材料の3次元ネットワークを説明する概念図。
【図8】実施例1の繊維状構造を有する植物系カーボンブラックを配合した導電性ポリマー複合材料の3次元ネットワークを説明する概念図。
【図9】実施例3の導電性高分子を用いたアクチュエータの概念図。
【符号の説明】
【0060】
1 ・・・ 電場応答性高分子膜(EPAM)
1a ・・・(電場応答性高分子膜の)高分子膜
1b、1c ・・・(電場応答性高分子膜の)電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
母材となるポリマーに導電性フィラーを配合した導電性ポリマー複合材料において、
前記導電性フィラーの配合量が臨界体積分率以上であるとともに該導電性フィラーの一部又は全てに植物系カーボンブラックを用いていることを特徴とする導電性ポリマー複合材料。
【請求項2】
前記植物系カーボンブラックが空洞状構造を有し、該空洞状構造の内部に母材となるポリマーが入り込んでいることを特徴とする請求項1記載の導電性ポリマー複合材料。
【請求項3】
前記植物系カーボンブラックが繊維状構造を有し、該繊維状構造に存在する隙間にポリマーが入り込んでいることを特徴とする請求項1記載の導電性ポリマー複合材料。
【請求項4】
前記導電性フィラーの一部に金属性フィラー、ケッチェンブラック、カーボンナノチューブ、メソフェーズカーボン、コークス、天然黒鉛、人工黒鉛、気相法炭素繊維から選ばれる少なくとも1種の導電材料を含んでいることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか記載の導電性ポリマー複合材料。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか記載の導電性ポリマー複合材料からなる電極が誘電体エラストマーを挟持していることを特徴とする電場応答性高分子膜。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−53250(P2010−53250A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−219841(P2008−219841)
【出願日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【出願人】(506399169)株式会社HYPER DRIVE (13)
【Fターム(参考)】