説明

導電性層積層フィルム及び透明導電膜付き樹脂成型品

【課題】
曲面に対しても透明導電膜を積層できるようにするための透明導電層転写フィルムと、該透明導電層転写フィルムを曲面を備えた樹脂成型品に用いて得られる、透明導電膜付き樹脂成型品を提供することである。
【解決手段】
インモールド成型用金型内に、熱可塑性樹脂フィルムを基材とし、該基材の表面に、直接又は離型層を介して、導電性物質による導電性層と、を積層してなる導電性層積層フィルムを設置し、次いで、その金型を用いて、インモールド成型法により樹脂成型品を製造し、次いで、導電性層積層フィルムを構成する基材を剥離し、次いで、前記基材を剥離した状態の前記樹脂成型品を加熱処理することで最表面に露出している前記導電性層を酸化し、これを透明導電膜とすること、で得られることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は導電性層を転写するのに用いられる積層フィルム及び該積層フィルムを用いて得られる樹脂成型品に関するものであって、具体的には、最表面部分に透明導電膜が設けられた形状を有する樹脂成型品と、これを製造するのに用いられる積層フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
昨今様々な日常生活の中で、種々多用な透明導電膜が普及し、利用されている。例えば銀行のATM等のタッチパネルでは透明導電膜が透明電極として用いられており、また地球温暖化問題が深刻化する中、クリーンエネルギーとして有望視されている太陽電池にもやはり同様に透明導電膜が透明電極として広く用いられている。また液晶ディスプレイ等のパネルに透明導電膜を積層することにより、透明導電膜を利用して電磁波の透過を制御する、という利用方法も提案されている。
【0003】
このように透明導電膜を利用するに際して、透明導電膜を積層する基板としてガラス板を利用することが多い。これは透明導電膜を形成する工程、即ち、まず基板に導電性のある導電性層を積層し、次いで導電性層を積層した基板ごと加熱処理を施すことにより、導電性層を透明なものとしてこれを透明導電膜とする、という工程中、高熱処理を施す際に、高熱に耐えうる基板としてガラス板が最も適しているからである。
【0004】
しかし昨今、透明導電膜を利用する機器の薄型軽量化が急激に進むようになると、例えばモバイル機器や携帯電話等に見られるように、透明導電膜を備えた機器は従来静置された状況で利用されていたところ、屋外での利用も活発なものとなり、それに伴い、軽量であることや、落下などの衝撃や外圧等に対しても耐性のある透明導電膜であることが求められるようになり始めた。そこで基板として用いられる物質は徐々にガラス板からプラスチックフィルムへと移行するようになってきている。これは、高熱処理にもある程度耐えられる高分子樹脂が提供されるようになっており、さらには、フィルム状であれば耐えられなくとも、ある程度の厚みや量がある高分子樹脂であれば、高熱処理にもある程度耐えられるようになってきており、また加熱されることで透明導電膜となる導電性層に関しても、従来よりも低い加熱温度で透明導電膜と出来るように工夫がなされてきている、という状況によるものでもある。
【0005】
ところで上述したような工程で実際に透明導電膜を基板上に形成するには、基板を1枚ごとに積層・加熱処理をすることで基板に透明導電膜を積層する、という手法が広く採用されている。これはガラス板を基板としたものであれば、物理的にも一枚一枚、枚葉に加工せざるをえないからである。また基板をプラスチックフィルムとするのであれば、ロール状のプラスチックフィルムをもって、連続加工を行うことも可能であるが、この場合、加工中に透明導電膜に傷がついてしまうと、そのプラスチックフィルム全体が不良品となってしまう可能性が高く、また加熱処理の過程で基材となるプラスチックフィルムにダメージが発生する、等の問題が生じても同様にそれ全体が不良品となってしまうことも多いので、実際にはガラス板の場合と同様に、枚葉にて直接積層や加熱処理などの加工を施す場合も多い。
【0006】
そこで、プラスチックフィルムにダメージを負わせないように、転写という手法を用いて透明導電膜を予め離型性のあるプラスチックフィルムの表面に積層しておき、これを基板であるプラスチックフィルム上に転写することによって積層することが提案されている。例えば特許文献1に記載された発明は、透明導電膜を所望の箇所に転写することにより積層することを可能としたものであり、その構成は、プラスチックフィルム/透明導電性層/接着層、というものである。
【0007】
【特許文献1】特開平8−160424号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしこの特許文献1に記載の転写箔では、基本的に平面に対してしか美麗に転写することが出来ない。換言すれば、転写箔ではあるものの、透明導電膜は硬度が高いため割れやすく、換言すればプラスチックフィルム及びその積層物に柔軟性や曲面への追従性が備わっていないため、平面以外の場所に転写をしようとすると曲部においてひび割れ等が容易に生じてしまい、透明導電膜としての機能を発揮できないこととなってしまう。
【0009】
一方、昨今の意匠性の高まり等により、従来は平面のみであったところ、最近では曲面に対してであっても透明導電膜を設けることが望まれる状況が生じ始めている。例えば前述した電磁波の制御を行おうとする場合、必ずしもその面は平面とは限らないことも考えられるが、曲面に対して特許文献1に記載の転写箔を利用しようとしても、ほんの少しの曲面であっても透明導電膜が割れてしまい転写できず、結果として曲面に対してはこの転写箔は利用できない。
【0010】
またいわゆるウェットコーティング法の考え方を用いて曲面を有する成型物の表面に直接透明導電膜を積層することも考えられる。即ち、曲面状に導電性を有する物質を塗布し、その後塗布面に対して紫外線照射する、加熱処理する、等の手法によって、塗布により形成された導電性層を透明導電膜とすることが理論的には考えられるが、そもそもこのような手法では曲面に対して膜厚を均一なものとすることは至極困難であると言わざるを得ない。そして均一でない膜厚であれば、透明導電膜として機能をしないため、結局この手法であっても曲面上に透明導電膜を形成することは出来ない。
【0011】
そしてさらに複雑な曲面に対して透明導電膜を設けるのであれば、上述の転写箔であれば曲面に追従性がないため利用できず、また枚葉にて加工するのと同じ考え方により、立体形状を備えたもの個々に対して透明導電性層を積層する工程を実施するならば非常に非効率かつ複雑な工程とならざるをえず、現実的ではない。
【0012】
本発明はこのような問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、曲面に対しても透明導電膜を積層できるようにするための透明導電層転写フィルムと、該透明導電層転写フィルムを曲面を備えた樹脂成型品に用いて得られる、透明導電膜付き樹脂成型品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、本願発明の請求項1に記載の発明は、ポリエチレンテレフタレートフィルム、アクリル系樹脂フィルム、ウレタン系樹脂フィルム、ポリカーボネート系樹脂フィルム、ポリオレフィン系樹脂フィルム、又はフッ素樹脂フィルム、の何れかよりなる熱可塑性樹脂フィルムを基材とし、該基材の表面に、直接又は離型層を介して、インジウム、スズ、亜鉛、またはこれらの金属酸化物、またはこれらの金属又は金属酸化物の合金、のいずれかによる導電性層と、を積層してなること、を特徴とする。
【0014】
本願発明の請求項2に記載の発明は、インモールド成型用金型内に、ポリエチレンテレフタレートフィルム、アクリル系樹脂フィルム、ウレタン系樹脂フィルム、ポリカーボネート系樹脂フィルム、ポリオレフィン系樹脂フィルム、又はフッ素樹脂フィルム、の何れかよりなる熱可塑性樹脂フィルムを基材とし、該基材の表面に、直接又は離型層を介して、インジウム、スズ、亜鉛、またはこれらの金属酸化物、またはこれらの金属又は金属酸化物の合金、のいずれかによる導電性層を積層してなる導電性層積層フィルムを、インモールド成型完了時において前記基材側が外側になるように設置し、次いで、前記導電性層積層フィルムが設置された金型を用いて、インモールド成型法により樹脂成型品を製造し、次いで、表面に前記導電性層積層フィルムが貼着されたままの状態の前記樹脂成型品から前記導電性層積層フィルムを構成する基材を剥離し、次いで、前記基材を剥離した状態の前記樹脂成型品を加熱処理することで最表面に露出している前記導電性層を酸化し、これを透明導電膜とすること、で得られることを特徴とする。
【0015】
本願発明の請求項3に記載の発明は、インモールド成型用金型内に、ポリエチレンテレフタレートフィルム、アクリル系樹脂フィルム、ウレタン系樹脂フィルム、ポリカーボネート系樹脂フィルム、ポリオレフィン系樹脂フィルム、又はフッ素樹脂フィルム、の何れかよりなる熱可塑性樹脂フィルムを基材とし、該基材の表面に、直接又は離型層を介して、インジウム、スズ、亜鉛、またはこれらの金属酸化物、またはこれらの金属又は金属酸化物の合金、のいずれかによる導電性層を積層してなる導電性層積層フィルムを、インモールド成型完了時において前記導電性層側が外側になるように設置し、次いで、前記導電性層積層フィルムが設置された金型を用いて、インモールド成型法により樹脂成型品を製造し、次いで、前記導電性層積層フィルムが貼着した状態の前記樹脂成型品を加熱処理することで最表面に露出している前記導電性層を酸化し、これを透明導電膜とすること、で得られることを特徴とする。
【0016】
本願発明の請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の透明導電膜付き樹脂成型品において、前記導電性層のさらに表面に保護フィルムを貼着してなり、前記加熱処理直前に前記保護フィルムを剥離しておくこと、を特徴とする。
【0017】
本願発明の請求項5に記載の発明は、樹脂板表面に、ポリエチレンテレフタレートフィルム、アクリル系樹脂フィルム、ウレタン系樹脂フィルム、ポリカーボネート系樹脂フィルム、ポリオレフィン系樹脂フィルム、又はフッ素樹脂フィルム、の何れかよりなる熱可塑性樹脂フィルムを基材とし、該基材の表面に、直接又は離型層を介して、インジウム、スズ、亜鉛、またはこれらの金属酸化物、またはこれらの金属又は金属酸化物の合金、のいずれかによる導電性層を積層してなる導電性層積層フィルムを、前記導電性層側を前記樹脂板表面に貼付し、次いで、前記導電性層積層フィルムが貼付されたままの状態の樹脂板をインサート成型加工することにより樹脂成型品となし、次いで、前記基材を剥離し、次いで、それを加熱処理することで最表面に露出している前記導電性層を酸化し、これを透明導電膜とすること、で得られることを特徴とする。
【0018】
本願発明の請求項6に記載の発明は、樹脂板表面に、ポリエチレンテレフタレートフィルム、アクリル系樹脂フィルム、ウレタン系樹脂フィルム、ポリカーボネート系樹脂フィルム、ポリオレフィン系樹脂フィルム、又はフッ素樹脂フィルム、の何れかよりなる熱可塑性樹脂フィルムを基材とし、該基材の表面に、直接、インジウム、スズ、亜鉛、またはこれらの金属酸化物、またはこれらの金属又は金属酸化物の合金、のいずれかによる導電性層を積層してなる導電性層積層フィルムを、前記基材側を前記樹脂板表面に貼付し、次いで、前記導電性層積層フィルムが貼付されたままの状態の樹脂板をインサート成型加工することにより樹脂成型品となし、次いで、表面に前記導電性層積層フィルムが貼着されたままの状態の前記樹脂成型品を加熱処理することで最表面に露出している前記導電性層を酸化し、これを透明導電膜とすること、で得られることを特徴とする。
【0019】
本願発明の請求項7に記載の発明は、請求項6に記載の透明導電膜付き樹脂成型品において、前記導電性層のさらに表面に保護フィルムを貼着してなり、前記加熱処理直前に前記保護フィルムを剥離しておくこと、を特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
以上のように、従来は所望の箇所に透明導電膜を積層、形成しようとしても、その手法や積層、形成出来る場所に制限があったところ、本願発明によれば、転写が可能な箇所であり、かつ被転写体にある程度の耐熱性があれば、たとえその箇所が曲面であってもその箇所に透明導電膜となる導電性層を転写し、続いてこれを処理することにより透明導電膜とすることによって曲面の表面であっても透明導電膜を形成することが可能となる導電性層積層フィルムを得ることができ、また該積層フィルムを用いることにより、外形に曲面を有する樹脂成形品であってもその表面に透明導電膜を積層することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本願発明の実施の形態について説明する。尚、ここで示す実施の形態はあくまでも一例であって、必ずもこの実施の形態に限定されるものではない。
【0022】
(実施の形態1)
本願発明に係る導電性層積層フィルムについて第1の実施の形態として説明する。
【0023】
本実施の形態に係る導電性層積層フィルムは、ポリエチレンテレフタレートフィルム、アクリル系樹脂フィルム、ウレタン系樹脂フィルム、ポリカーボネート系樹脂フィルム、ポリオレフィン系樹脂フィルム、又はフッ素樹脂フィルム、の何れかよりなる熱可塑性樹脂フィルムを基材とし、該基材の表面に、直接又は離型層を介して、インジウム、スズ、亜鉛、またはこれらの金属酸化物、またはこれらの金属又は金属酸化物の合金、のいずれかによる導電性層と、を積層した構成を有している。以下、順次具体的に説明する。
【0024】
まず最初に基材となるフィルムであるが、これは上述した何れかの部材であればよく、要すれば熱可塑性樹脂フィルムであれば良い、ということである。これは、後述の樹脂成型品をインサート法又はインモールド法で製造する際に、本実施の形態に係る積層フィルムを用いるのであるが、そのときに基材となるプラスチックフィルムが破断、破損してはいけないからである。
【0025】
例えば樹脂成型品をインサート法又はインモールド法で製造する際に、その表面に意匠を施すことを所望する場合、その意匠を印刷層として積層してなる転写箔を予め金型に設置、又は原材料となる樹脂板に予め貼着しておき、次いでインサート法又はインモールド法による工程を実施し、樹脂成型品が完成した段階ではまだその最表面に貼着したままの転写箔の基材を、樹脂成型工程が完了した後に剥離することにより、所望の意匠をその表面に施された樹脂成型品が得られるのであるが、本実施の形態に係る導電性層積層フィルムの用い方は、上述した意匠を施すために用いられる転写箔と略同様である。即ち樹脂成型品の最表面に透明導電膜を設けることを所望する場合、本実施の形態に係る積層フィルムをその所望の箇所に設置し、次いでインサート法又はインモールド法により樹脂成型品を製造し、その工程が完了後にはまだ積層フィルムは無傷のままでその最表面に貼着していなければならないことが必須であり、この時に基材となるプラスチックフィルムが溶融・破損してもいけないし、さらにはインサート法又はインモールド法の金型において、いわゆる深絞りと呼ばれる曲面などが存在する場合、その曲面の形状に本実施の形態に係る積層フィルムが追従しなければならず、そのためにも基材となるプラスチックフィルムには追従性が要求され、換言すればその曲面箇所で破断してはならない、ということが重要だからである。
【0026】
以上、要すれば、基材となるプラスチックフィルムには、樹脂成型品をインサート法又はインモールド法で製造加工する際の高温に耐えられる熱可塑性を有し、なおかつ製造時に用いられる金型に存在する曲面に対しても、それ自体が破損、破断等が生じない程に追従性が備わっていることが大切なのである。
【0027】
尚、基材として用いられるこれらのプラスチックフィルムの厚みとしては、20μm以上100μm以下であることが、より好ましくは50μm以下であることが好ましい。これは、基材としてのプラスチックフィルムの厚みが薄ければ薄いほど、本実施の形態に係る積層フィルムを製造する時の1ロールあたりの長さを長い物とすることが出来るので原反の生産性を向上させ、またコストを下げるという観点から好適なのではあるが、厚みが20μm未満となってしまうと、基材となるプラスチックフィルム自体が容易に破損、破断してしまい、さらに上述したインサート法又はインモールド法で加工する際に破断する可能性が高い、さらに後述するようにこの基材たるプラスチックフィルム表面に金属蒸着層を積層する時に基材であるプラスチックフィルム自体が破損してしまうことがあり好ましくない。また50μm以上とすると、後述するように厚みのある基材プラスチックフィルムを多数使用すると全体の厚みが必要以上に厚くなってしまう、インサート法又はインモールド法で樹脂成型品を製造する際に、予め用意される本実施の形態に係る積層フィルム全体の厚みが厚くなると、金型への追従性が弱くなる、等の不具合が生じてしまい、好ましくない。よって、本実施の形態では上述のような範囲の厚みとすることが好適と言えるのである。
【0028】
次にその表面に積層される導電性層につき説明する。
この導電性層は、前述した基材であるプラスチックフィルムの表面に、直接又は離型層を介して、インジウム、スズ、亜鉛、またはこれらの金属酸化物、またはこれらの金属又は金属酸化物の合金、即ち導電性を有し、それ自体が加熱処理を施されることにより透明導電性層となりうる物質、のいずれかによる導電性物質を積層することにより得られる。
【0029】
基材であるプラスチックフィルム上への積層方法は従来公知の手法であって構わないが、本実施の形態ではスパッタリング法によるものであることとする。またその厚みについては10nm以上100nm以下であることが好ましい。
【0030】
なおここで選択される物質は、要すれば最終的に従来公知の透明導電性層を形成する物質であればよいが、この時点で従来公知の透明導電性層となっている必要はない。これはすでに説明をしたように、本実施の形態に係る導電性層積層フィルムは、インサート法又はインモールド法により製造される樹脂成型品の最表面に透明導電性の膜を形成するために用いられるものであり、具体的には転写された導電性層を加熱処理すること、等の手法によりこれを透明導電膜とする、という用い方をするため、転写する前からすでに透明導電膜として完成している必要はないのである。
【0031】
この点に関し別な観点から述べるならば、曲面部分に透明導電膜を形成することを試みるために、単純に曲面部分に導電性を備えた塗料を塗布し、これを硬化させる、という手法を考えることも出来るが、この場合、塗布した層の厚みがどの箇所においても全て均一となるように塗布することはほぼ不可能であり、このような方法によっては実際には有効な透明導電膜を積層することは出来ない。
【0032】
そこで「塗布する」という行為の代わりに導電性を備えた物質を所望の箇所に転写することにより、その厚みを略均一とする、いわゆる液だれ状にしない、という効果を得ることが本願発明の目的でもあるので、積層フィルムの時点において導電性層は透明でなくとも構わないし、透明であっても構わない、要は該導電性層を所望の箇所に積層し、次いでこれを加工することにより透明導電膜とすることができれば良いのである。
【0033】
なお、この導電性層は基材であるプラスチックフィルムの表面に積層するに際して、離型層を介しても構わない。これは、基材であるプラスチックフィルムそれ自体に充分な離型性が備わっておればよいが、備わっていない場合、導電性層を転写する際に該導電性層を美麗に離型するために必要なのである。
【0034】
この離型層としては、従来公知のものであって良く、例えば従来転写箔の離型層の材料として用いられるシリコーン樹脂やフッ素樹脂などを原材料とすればよい。
【0035】
また、転写を所望する樹脂との相性によっては、本実施の形態に係る導電性層積層フィルムの最表面、具体的には導電性層のさらに表面に接着層を積層してあっても構わない。この接着層については、従来公知の転写フィルムに用いられるものであってよく、例えば従来転写箔の接着層の材料として用いられる、ポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂等を原材料とすればよい。
【0036】
そして別途説明する実施の形態における利用方法に応じて、導電性層の表面に導電性層を保護するための保護フィルムを積層又は貼着することも考えられる。この際の保護フィルムとしては、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルムなどが好適である。
【0037】
なお、以上の説明では基材プラスチックフィルムに対して導電性層を1層積層することとしていたが、実際に基材プラスチックフィルム1枚と導電性層1層だけであれば、これをインサート法又はインモールド法による樹脂成型物の製造時に用いたら破断、破損してしまう可能性は否定できない。
【0038】
そこで、導電性層を複数積層することにより、1層が破断しても大丈夫なように対処することが考えられる。例えば基材プラスチックフィルム/導電性層/基材プラスチックフィルム/導電性層、といった構成とする、ということである。
【0039】
このようにしておけば、仮に最外層に該当する部分が破損、破断してしまっても、その層を取り除き、残りの部分を利用すれば、美麗な転写が完成しており、その結果後述するような曲面を有した樹脂成型品の曲面部分であっても導電性層を積層することができるのである。
【0040】
なお、基材プラスチックフィルムと導電性層とを複数積層する場合、その数はどちらも同数であり、かつ2以上10以下であることが好ましいといえる。そしてこの数で収める場合であってもやはり積層フィルム全体としての厚みがあまり生じてしまわないように、基材プラスチックフィルム及び導電性層個々の厚みも一定の範囲内とすることが好ましいのである。さらにより一層効果を引き出す為の数は2以上であって5以下である。
【0041】
(実施の形態2)
次に、第1の実施の形態で説明した導電性層積層フィルムを用いて、その最表面に透明導電膜を設けてなる透明導電膜付き樹脂成型品につき説明する。
一般的に、樹脂成型品を製造するには、いわゆるインサート法やインモールド法が利用されることがある。その詳細についてはここでは省略するが、このような手法を用いることで、樹脂を原材料とした複雑な外形を有する成型品を得ることが可能である。
【0042】
そしてそのような曲面を多用した複雑な外形を有する樹脂成型品の表面に透明導電性層を設けたものが本実施の形態に係る透明導電膜付き樹脂成型品である。
【0043】
その製造方法に関し、インモールド法の場合により簡単に説明する。
まず最初にインモールド用の金型に第1の実施の形態に係る導電性層積層フィルムを設置する。次いで、準備のできた金型を用いて、インモールド法による成型を行う。このようにして得られる樹脂成型品の表面には導電性層積層フィルムが貼着しているが、次にこの貼着している導電性層積層フィルムの基材であるプラスチックフィルムを剥離する。このようにすることで、樹脂成型品の表面に導電性層が積層された状態となる。
【0044】
そして樹脂成型品の表面に貼着された導電性層を加熱処理することにより、この導電性層を透明導電膜とする。この際の処理方法は、従来公知の手法であってよく、例えば紫外線を照射して硬化させることも考えられるし、加熱することにより硬化させることも考えられる。
【0045】
このようにして得られた、表面に透明導電膜を備えた透明導電膜付き樹脂成型品であれば、その外形や曲面の形状等に関わりなく、膜厚が略均一な透明導電膜を備えることができる。
【0046】
また金型に導電性積層フィルムを設置するとき、基材となるプラスチックフィルムが最も外側に来るように設置すれば上述した通りでよいが、逆にプラスチックフィルムが樹脂成形品と接する側になるように設置された場合は、得られた樹脂成型品においてはすでに導電性層が最も外側に位置することになるので、その後は特に基材を剥離せずともそのまま最も外側に位置する導電性層を処理すればよい。しかしこの場合、最終的に透明導電膜になるまでに導電性層が傷つく場合も充分に考えられるので、これに対しては保護フィルム等を導電性層の表面に予め貼着しておくことも好ましい。この場合であれば、導電性層を処理する直前に保護フィルムを剥離すればよい。なお、このように用いられる保護フィルムとしては、ポリプロピレンフィルム、ポリエチレンフィルム等が好適に用いられる。
【0047】
なお、以上はインモールド法の場合について説明をしたが、インサート法による製造の場合、即ち最初に原料となる樹脂板がすでに存在し、これを加熱・加圧することで加工する場合、樹脂板を加工する前に予め樹脂板の表面に第1の実施の形態に係る導電性層積層フィルムを貼着しておけばよい。その貼着の方向については、導電性層が最も外側に位置するように貼着しておけばよい。そしてこの場合は、導電性層が加熱されて透明導電性層となるまでの間、傷つかないようにするために、前述と同様、導電性層のさらに表面に保護フィルムを貼着しておくことも好ましい形態であると言える。
【0048】
また、インサート法の場合において、原料樹脂板に導電性層積層フィルムを貼着するに際して、貼着の方向を前記とは逆、即ち基材が外側に位置するように貼着することも考えられる。この際は、基材が積層されたままインサート成型を実行し、これが完了した時に基材を剥離し、そして基材を剥離することで最表面に位置することになる導電性層を加熱処理し、これを透明導電膜とする、というような手法とすることも考えられる。このような手法であれば、インサート成型時において基材が存在することよりインサート成型の加熱から導電性層が保護されることとなるので好適である、ということを付言しておく。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレンテレフタレートフィルム、アクリル系樹脂フィルム、ウレタン系樹脂フィルム、ポリカーボネート系樹脂フィルム、ポリオレフィン系樹脂フィルム、又はフッ素樹脂フィルム、の何れかよりなる熱可塑性樹脂フィルムを基材とし、該基材の表面に、
直接又は離型層を介して、
インジウム、スズ、亜鉛、またはこれらの金属酸化物、またはこれらの金属又は金属酸化物の合金、のいずれかによる導電性層と、
を積層してなること、
を特徴とする、導電性層積層フィルム。
【請求項2】
インモールド成型用金型内に、
ポリエチレンテレフタレートフィルム、アクリル系樹脂フィルム、ウレタン系樹脂フィルム、ポリカーボネート系樹脂フィルム、ポリオレフィン系樹脂フィルム、又はフッ素樹脂フィルム、の何れかよりなる熱可塑性樹脂フィルムを基材とし、該基材の表面に、
直接又は離型層を介して、
インジウム、スズ、亜鉛、またはこれらの金属酸化物、またはこれらの金属又は金属酸化物の合金、のいずれかによる導電性層を積層してなる導電性層積層フィルムを、
インモールド成型完了時において前記基材側が外側になるように設置し、
次いで、前記導電性層積層フィルムが設置された金型を用いて、インモールド成型法により樹脂成型品を製造し、
次いで、表面に前記導電性層積層フィルムが貼着されたままの状態の前記樹脂成型品から前記導電性層積層フィルムを構成する基材を剥離し、
次いで、前記基材を剥離した状態の前記樹脂成型品を加熱処理することで最表面に露出している前記導電性層を酸化し、これを透明導電膜とすること、
で得られることを特徴とする、透明導電膜付き樹脂成型品。
【請求項3】
インモールド成型用金型内に、
ポリエチレンテレフタレートフィルム、アクリル系樹脂フィルム、ウレタン系樹脂フィルム、ポリカーボネート系樹脂フィルム、ポリオレフィン系樹脂フィルム、又はフッ素樹脂フィルム、の何れかよりなる熱可塑性樹脂フィルムを基材とし、該基材の表面に、
直接又は離型層を介して、
インジウム、スズ、亜鉛、またはこれらの金属酸化物、またはこれらの金属又は金属酸化物の合金、のいずれかによる導電性層を積層してなる導電性層積層フィルムを、
インモールド成型完了時において前記導電性層側が外側になるように設置し、
次いで、前記導電性層積層フィルムが設置された金型を用いて、インモールド成型法により樹脂成型品を製造し、
次いで、前記導電性層積層フィルムが貼着した状態の前記樹脂成型品を加熱処理することで最表面に露出している前記導電性層を酸化し、これを透明導電膜とすること、
で得られることを特徴とする、透明導電膜付き樹脂成型品。
【請求項4】
請求項3に記載の透明導電膜付き樹脂成型品において、
前記導電性層のさらに表面に保護フィルムを貼着してなり、
前記加熱処理直前に前記保護フィルムを剥離しておくこと、
を特徴とする、透明導電膜付き樹脂成型品。
【請求項5】
樹脂板表面に、
ポリエチレンテレフタレートフィルム、アクリル系樹脂フィルム、ウレタン系樹脂フィルム、ポリカーボネート系樹脂フィルム、ポリオレフィン系樹脂フィルム、又はフッ素樹脂フィルム、の何れかよりなる熱可塑性樹脂フィルムを基材とし、該基材の表面に、直接又は離型層を介して、インジウム、スズ、亜鉛、またはこれらの金属酸化物、またはこれらの金属又は金属酸化物の合金、のいずれかによる導電性層を積層してなる導電性層積層フィルムを、
前記導電性層側を前記樹脂板表面に貼付し、
次いで、前記導電性層積層フィルムが貼付されたままの状態の樹脂板をインサート成型加工することにより樹脂成型品となし、
次いで、前記基材を剥離し、
次いで、それを加熱処理することで最表面に露出している前記導電性層を酸化し、これを透明導電膜とすること、
で得られることを特徴とする、透明導電膜付き樹脂成型品。
【請求項6】
樹脂板表面に、
ポリエチレンテレフタレートフィルム、アクリル系樹脂フィルム、ウレタン系樹脂フィルム、ポリカーボネート系樹脂フィルム、ポリオレフィン系樹脂フィルム、又はフッ素樹脂フィルム、の何れかよりなる熱可塑性樹脂フィルムを基材とし、該基材の表面に、直接、インジウム、スズ、亜鉛、またはこれらの金属酸化物、またはこれらの金属又は金属酸化物の合金、のいずれかによる導電性層を積層してなる導電性層積層フィルムを、
前記基材側を前記樹脂板表面に貼付し、
次いで、前記導電性層積層フィルムが貼付されたままの状態の樹脂板をインサート成型加工することにより樹脂成型品となし、
次いで、表面に前記導電性層積層フィルムが貼着されたままの状態の前記樹脂成型品を加熱処理することで最表面に露出している前記導電性層を酸化し、これを透明導電膜とすること、
で得られることを特徴とする、透明導電膜付き樹脂成型品。
【請求項7】
請求項6に記載の透明導電膜付き樹脂成型品において、
前記導電性層のさらに表面に保護フィルムを貼着してなり、
前記加熱処理直前に前記保護フィルムを剥離しておくこと、
を特徴とする、透明導電膜付き樹脂成型品。

【公開番号】特開2007−12354(P2007−12354A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−189565(P2005−189565)
【出願日】平成17年6月29日(2005.6.29)
【出願人】(000235783)尾池工業株式会社 (97)
【Fターム(参考)】