説明

導電性材料及びその製造方法、抵抗体ペースト、抵抗体、電子部品

【課題】 例えば10kΩ/□以上の高い抵抗値を有し、温度特性(TCR)及び耐電圧特性(STOL)の両立を図る。
【解決手段】 Ru複合酸化物粒子を主体とし、当該Ru複合酸化物粒子の結晶子サイズが0.02μm以上平均粒径以下であり、平均粒径が0.05μm以上0.30μm以下である。Ru複合酸化物粒子はCaRuO、SrRuO、BaRuOから選ばれる少なくとも1種である。焼成により得られたRu複合酸化物粒子を熱処理することによりRu複合酸化物粒子の結晶子サイズが制御され、さらに粉砕することにより平均粒径が制御されている。熱処理の温度は1400℃以上1700℃以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Ru複合酸化物を含有する導電性材料及びその製造方法、抵抗体ペースト、抵抗体、電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば抵抗体ペーストは、一般に、抵抗値の調節及び結合性を与えるためのガラス材料と、導電性材料と、有機ビヒクルとを主たる成分として構成されており、これを基板上に印刷した後、焼成することによって、厚さ5μm〜20μm程度の厚膜抵抗体が形成される。そして、この種の抵抗体ペースト(厚膜抵抗体)においては、通常、導電性材料として酸化ルテニウム(RuO)や鉛ルテニウム酸化物等が用いられ、ガラスとして酸化鉛(PbO)系ガラス等が用いられている。
【0003】
近年、環境問題が盛んに議論されてきており、鉛等の有害物質の電子部品からの排除が進められている。前記抵抗体ペーストや厚膜抵抗体も例外ではなく、鉛フリーとするための研究が行われている。
【0004】
抵抗体ペーストの鉛フリー化における課題の一つとして、特に高抵抗(10kΩ/□以上)の抵抗体ペーストにおいて、温度特性(TCR)と耐電圧特性(STOL)の両立が挙げられる。例えば、従来の鉛系抵抗体ペーストにおいて用いられてきた金属酸化物を添加することによるTCRの調節を、そのまま鉛フリーの組成に応用した場合、電圧印加による抵抗値の変動が鉛系組成と比較して大きく起こるため、結果としてTCRとSTOLの両立を実現することは困難である。
【0005】
このような事情から、鉛を含まないガラス材料、鉛を含まない導電性材料、及び有機ビヒクルを主成分とする抵抗体ペーストにおいて、添加物としてCaTiO若しくはNiOを添加し、温度特性(TCR)と耐電圧特性(STOL)とを両立する試みがなされている(例えば、特許文献1等を参照)。
【0006】
特許文献1には、抵抗体ペーストに例えばCaTiOを0vol%超、13vol%以下、若しくはNiOを0vol%超、12vol%以下含有させることが好ましく、さらにはCuO、ZnO、MgO等の添加物を同時に添加させることが好ましい旨の記述があり、それにより、高い抵抗値を有しながらも、抵抗値の温度特性(TCR)および耐電圧特性(STOL)が小さい抵抗体を得ることに適した鉛フリーの抵抗体ペーストを提供することが可能であるとされている。
【特許文献1】特開2003−197405号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特に10kΩ/□以上の高抵抗領域において、従来の鉛系抵抗体ペーストと比較すると、鉛フリーの抵抗体ペーストのSTOL特性は、鉛系抵抗体ペーストと同等レベルには達しておらず、さらなる特性の向上を図る必要がある。例えば特許文献1記載の発明のように、添加物を多量に含有させることでTCR特性を調整した抵抗体ペーストを用いて形成された抵抗体では、従来の鉛系組成の抵抗体ペーストを用いた場合よりもSTOL特性が低下する傾向にある。したがって、添加物を添加しない状態、すなわちガラス組成物及び導電性材料からなる組成の抵抗体ペーストを用いて形成された抵抗体の段階で、STOL特性をさらに向上させる必要がある。
【0008】
そこで本発明はこのような従来の実情に鑑みて提案されたものであり、例えば10kΩ/□以上の高い抵抗値を有し、温度特性(TCR)及び耐電圧特性(STOL)の両立を図ることができる抵抗体を実現することが可能な導電性材料及びその製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は、前記導電性材料を使用することで、高抵抗で温度特性(TCR)及び耐電圧特性(STOL)に優れ、さらには熱的な安定性にも優れる抵抗体ペースト、及びこの抵抗体ペーストを用いて作製された抵抗体、さらにはこの抵抗体を有する電子部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、温度特性(TCR)及び耐電圧特性(STOL)の両立が可能な導電性材料について長期に亘り研究を重ねた結果、結晶子サイズと平均粒径とを特定の数値範囲に規定したRu複合酸化物粒子が、このような目的に適う導電性材料であるとの結論を得るに至った。
【0010】
本発明は、このような知見に基づいて完成されたものである。すなわち、本発明に係る導電性材料は、Ru複合酸化物粒子を主体とし、当該Ru複合酸化物粒子の結晶子サイズが0.02μm以上平均粒径以下であり、平均粒径が0.05μm以上0.30μm以下であることを特徴とする。また、本発明に係る抵抗体ペーストは、ガラス組成物及び導電性材料を含有し、これらが有機ビヒクルと混合されてなる抵抗体ペーストであって、前記導電性材料は、Ru複合酸化物粒子を主体とし、当該Ru複合酸化物粒子の結晶子サイズが0.02μm以上平均粒径以下であり、平均粒径が0.05μm以上0.30μm以下であることを特徴とする。また、本発明に係る抵抗体は、前記抵抗体ペーストを用いて形成されたことを特徴とする。また、本発明に係る電子部品は、前記抵抗体を有することを特徴とする。
【0011】
以上のように結晶子サイズ及び平均粒径の両方を特定の数値範囲に制御されたRu複合酸化物粒子は、従来の結晶子サイズ及び平均粒径を持つRu複合酸化物粒子に比べ、TCR特性及びSTOL特性の両方に優れる材料であり、したがって、係るRu複合酸化物を抵抗体ペースト、抵抗体の導電性材料として用いることで、10kΩ/□以上の高抵抗でTCR特性及びSTOL特性が両立される。
【0012】
また、本発明に係る導電性材料の製造方法は、Ru複合酸化物粒子を1400℃以上1700℃以下で熱処理することにより熱処理後の結晶子サイズが0.02μm以上平均粒径以下となるように制御し、さらに粉砕することにより平均粒径が0.05μm以上0.30μm以下となるように制御することを特徴とする。
【0013】
本発明の導電性材料の製造方法においては、通常の焼成温度より高い温度範囲である1400℃以上1700℃以下の範囲内でRu複合酸化物粒子を熱処理し、Ru複合酸化物の結晶子サイズを制御するとともに、粉砕により平均粒径を制御することにより、抵抗体に用いられたときに10kΩ/□以上の高抵抗でTCR特性及びSTOL特性を両立することが可能なRu複合酸化物粒子を得ることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の導電性材料は、例えば抵抗体ペーストや抵抗体に適用した場合、高抵抗で且つTCR特性及びSTOL特性を両立することが可能な抵抗体を得ることができる。したがって、本発明によれば、高抵抗で温度特性(TCR)及び耐電圧特性(STOL)に優れた抵抗体ペースト、抵抗体、電子部品を提供することが可能である。
【0015】
また、本発明の導電性材料の製造方法によれば、抵抗体ペーストや抵抗体に用いられた場合に、高抵抗でTCR特性及びSTOL特性を両立することが可能なRu複合酸化物を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明に係る導電性材料及びその製造方法、この導電性材料を含有する抵抗体ペースト、この抵抗体ペーストを用いて形成された抵抗体、及びこの抵抗体を有する電子部品について説明する。
【0017】
本発明の導電性材料は、Ru複合酸化物粒子を主体とし、Ru複合酸化物粒子の結晶子サイズが0.02μm以上平均粒径以下であり、平均粒径が0.05μm以上0.30μm以下であるものである。本発明では、Ru複合酸化物粒子の結晶子サイズを従来に比べて大きいサイズに規定することが重要であり、具体的には結晶子サイズを0.02μm以上に規定する。また、結晶子サイズだけでなく平均粒径の規定も重要であり、0.30μm以下とすることが必要である。Ru複合酸化物粒子の結晶子サイズを0.02μm以上とし、且つ平均粒径を0.30μm以下とすることにより、TCR特性及びSTOL特性(特にSTOL)の両立が図られる。また、Ru複合酸化物粒子の結晶子サイズは粒子径よりも大きくはならないため、結晶子サイズの上限は平均粒径とする。また、Ru複合酸化物粒子の平均粒径が小さすぎると導電性材料同士の連結が困難となるため、使用に適した抵抗値を得ることができなくなることから、0.05μm以上とする。Ru複合酸化物粒子の結晶子サイズはX線回折により測定することができ、平均粒径は走査型電子顕微鏡により測定することができる。
【0018】
ここで、Ru複合酸化物粒子としては、CaRuO、SrRuO、BaRuO等のうち少なくとも1種が挙げられ、特にCaRuOであることが好ましい。CaRuO、SrRuO、BaRuO等、中でもCaRuOを用いることにより、従来、高抵抗用途に用いられているPbRu等と同等の抵抗率を有する導電性材料を得ることができる。これらの複合酸化物は化学量論組成からずれていてもよい。
【0019】
以下、本発明の導電性材料の製造方法について説明する。導電性材料に用いられる結晶子サイズ及び平均粒径が前述の範囲とされたRu複合酸化物粒子は、基本的には、原料となる混合粉末を焼成しRu複合酸化物を作製した後、さらに1400℃以上1700℃以下で熱処理し、粉砕することにより作製される。
【0020】
先ず、Ru複合酸化物粒子の原料粉末を所定量混合し、混合物を調製する。原料としては、所望の組成のRu複合酸化物を得られれば特に限定されないが、例えばRuOや、Ca、Sr、Ba等のアルカリ土類金属を含有する化合物、例えばCaCO、SrCO、BaCO等を用いることができる。
【0021】
次に、混合物を焼成し、Ru複合酸化物粒子を作製する。すなわち、原料の混合粉末を熱処理し、固相反応を進行させる。原料を焼成する際の焼成温度は、1400℃未満とされ、例えば1200℃程度とすることが好ましい。焼成温度を1400℃以上とすると、混合物中のRuOが分解し、すなわち昇華し、Ru複合酸化物粒子が得られないおそれがある。
【0022】
次に、前記焼成により得られたRu複合酸化物粒子に対し、1400℃以上1700℃以下で熱処理を行い、Ru複合酸化物粒子の結晶子サイズが0.02μm以上平均粒径以下となるように制御する。ここでの熱処理は、原料を焼成し、固相反応を進行させてRu複合酸化物粒子を作製するための先の熱処理とは異なり、1400℃以上の高温で行うことが重要である。前述のように焼成しただけのRu複合酸化物粒子の結晶子サイズは小さく、0.02μmに満たないものである。したがって、焼成後のRu複合酸化物粒子に対し1400℃以上の高温で熱処理を行うことにより、Ru複合酸化物粒子の結晶子サイズを本発明で規定する0.02μm以上に制御する必要がある。なお、Ru複合酸化物粒子に対する熱処理温度が1400℃未満である場合、結晶子サイズを0.02μm以上に制御することが難しくなる。また、熱処理温度の上限は、1700℃とする。その理由は1700℃を超えるとRu複合酸化物が分解し、収率を低下させるおそれがあるためである。Ru複合酸化物粒子に対する熱処理は、空気中等で行なうことができる
【0023】
次に、熱処理により結晶子サイズが制御されたRu複合酸化物粒子を粉砕することにより、Ru複合酸化物粒子の平均粒径が0.30μm以下、好ましくは0.05μm以上0.30μm以下となるように制御する。粉砕は例えばボールミル等により行なうことができる。
【0024】
本発明の抵抗体ペーストは、ガラス組成物、導電性材料、及び必要に応じて添加物を含み、これらが有機ビヒクルと混合されてなるものである。そして、導電性材料として、前述の結晶子サイズ及び平均粒径が制御されたRu複合酸化物粒子を用いる。抵抗体ペースト中の導電性材料の含有量は、ガラス組成物、導電性材料、及び添加物の合計重量を100重量%とした場合に、9.4重量%〜53.3重量%とするのが好ましい。導電性材料の含有量が前記範囲を下回る場合、抵抗値が高くなりすぎてしまい、抵抗体ペーストとしての使用に適さなくなるおそれがある。逆に、導電性材料の含有量が前記範囲を越えると、ガラス組成物による導電性材料の結着が不十分になり、信頼性が低下するおそれがある。
【0025】
ガラス組成物は、特に限定されないが、本発明では環境保全上、鉛を実質的に含まない鉛フリーのガラス組成物を用いることが好ましい。なお、本発明において、「鉛を実質的に含まない」とは、不純物レベルとは言えない量を越える鉛を含まないことを意味し、不純物レベルの量(例えば、ガラス組成物中の含有量が0.05重量%以下程度)であれば含有されていてもよい趣旨である。鉛は、不可避不純物として極微量程度に含有されることがある。
【0026】
ガラス組成物は、抵抗体とされたとき、抵抗体中で導電性材料及び添加物を基板と結着させる役割を持つ。ガラス組成物は、原料として、修飾酸化物成分、網目形成酸化物成分等を混合して用いることができる。主たる修飾酸化物成分としては、アルカリ土類酸化物、具体的にはCaO、SrO、BaOから選ばれる少なくとも1種を挙げることができる。また、網目形成酸化物成分としては、B及びSiOを挙げることができる。また、前記主たる修飾酸化物成分の他、その他の修飾酸化物成分として、任意の金属酸化物を用いることができる。具体的な金属酸化物は、例えばAl、ZrO、MgO、TiO、SnO、KO、NaO、LiO、CuO、NiO、ZnO、CoO、MnO、Fe、Cr、Y、V等から選ばれる少なくとも一種であり、中でもZrO、Al、MnOから選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0027】
ガラス組成物における各成分の含有量にはそれぞれ最適範囲が存在し、例えば主たる修飾酸化物成分の含有量が少なすぎると、導電性材料との反応性が低下し、TCR、STOL特性を劣化させるおそれがある。逆に、主たる修飾酸化物成分の含有量が多すぎる場合、抵抗体を形成した時に、過剰な金属酸化物の析出が起こり、特性、信頼性を劣化させるおそれがある。網目形成酸化物成分の含有量が少ない場合、組成物のガラス化が困難となるため、抵抗体を形成した時に、過剰な金属酸化物の析出が起こり、信頼性を著しく低下させるおそれがある。逆に、網目形成酸化物成分の含有量が多すぎる場合、ガラス組成物の耐水性が低下するため、抵抗体としたときの信頼性を著しく低下させるおそれがある。また、ガラス組成物の軟化点が高くなり、所定の焼成温度にて抵抗体を形成した場合、抵抗体の焼結が不十分となり、信頼性を著しく低下させるおそれもある。また、その他の修飾酸化物成分の含有量が少なすぎる場合、ガラス組成物の耐水性が低下するため、抵抗体としたときの信頼性を著しく低下させるおそれがある。逆に、その他の修飾酸化物成分の含有量が多すぎる場合、抵抗体を形成した時に、過剰な金属酸化物の析出が起こり、特性、信頼性を劣化させるおそれがある。
【0028】
抵抗体ペースト中のガラス組成物の含有量は、導電性材料、ガラス組成物、添加物の合計の重量を100重量%とした時に、47.7重量%〜90.6重量%とするのが好ましい。含有量が少ない場合、導電性材料、添加物の結着が不十分となり、信頼性が著しく低下するおそれがある。逆に、ガラス組成物の含有量が前記範囲を越えると、抵抗値が高くなり過ぎてしまい、抵抗体ペーストとしての使用に適さなくなるおそれがある。
【0029】
抵抗体ペーストには、前述のガラス組成物、導電性材料の他、特性の調整等を目的として、添加物が含まれていてもよい。抵抗体ペーストにおける添加物の含有量は、ガラス組成物、導電性材料、及び添加物の合計重量を100重量%とした場合に、0〜27.2重量%とするのが好ましい。添加物の含有量が少ない場合、十分な特性の調整が困難となる。逆に、添加物の含有量が多すぎる場合、導電性材料、添加物の結着が不十分となり、信頼性が著しく低下する。
【0030】
添加物としては、任意の金属酸化物を用いることができる。具体的には、MgO、TiO、SnO、ZnO、CoO、CuO、NiO、MnO、Mn、Fe、Cr、Y、V、CaTiO、SrTiO、BaTiO等が挙げられる。中でもCuO、NiO、MgO、CaTiO、SrTiO、BaTiOが好ましい。
【0031】
有機ビヒクルは、ガラス組成物、導電性材料と添加物とを混練しペースト化させる役割を有し、この種の抵抗体ペーストに用いられるものがいずれも使用可能である。有機ビヒクルは、バインダを有機溶剤中に溶解することによって調製されるものである。バインダとしては、特に限定されず、例えば、エチルセルロース、ポリビニルブチラール等、各種バインダから適宜選択すればよい。有機溶剤も限定されず、テルピネオール、ブチルカルビトール、アセトン、トルエン等、各種有機溶剤から適宜選択すればよい。さらに、抵抗体ペーストの物性を調節するために、分散剤等の各種添加剤を加えてもよい。
【0032】
前記有機ビヒクルの配合比率であるが、ガラス組成物、導電性材料、及び添加物を合計した合計重量(W1)と、有機ビヒクルの重量(W2)の比率(W2/W1)が、0.25〜4(W2:W1=1:0.25〜1:4)であることが好ましい。より好ましくは、前記比率(W2/W1)が0.5〜2である。前記比率を外れると、抵抗体を例えば基板上に形成するのに適した粘度の抵抗体ペーストを得ることができなくなるおそれがある。
【0033】
抵抗体を形成するには、前述の成分を含む抵抗体ペーストを例えば基板上にスクリーン印刷等の手法で印刷(塗布)し、850℃程度の温度で焼成すればよい。基板としては、Al基板やBaTiO基板の誘電体基板や、低温焼成セラミック基板、AlN基板等を用いることができる。基板形態としては、単層基板、複合基板、多層基板のいずれであってもよい。多層基板の場合、抵抗体は、表面に形成してもよいし、内部に形成してもよい。
【0034】
抵抗体の形成に際しては、通常、基板に電極となる導電パターンを形成するが、この導電パターンは、例えば、AgやPt等の良導電材料を含む導電ペーストを印刷することにより形成することができる。また、形成した抵抗体の表面に、ガラス膜等の保護膜を形成してもよい。
【0035】
本発明の抵抗体を適用可能な電子部品としては特に限定されないが、例えば単層又は多層の回路基板、チップ抵抗器等の抵抗器、アイソレータ素子、C−R複合素子、モジュール素子の他、積層チップコンデンサ等のコンデンサやインダクタ等が挙げられ、コンデンサやインダクタ等の電極部分にも適用することができる。
【0036】
また、本発明の導電性材料は、抵抗体ペーストや抵抗体の導電性材料に限らず、あらゆる用途の導電性材料として利用することができ、例えば直接基板上に本発明の導電性材料を含むパターンを形成し、電極や配線として利用することも可能である。
【実施例】
【0037】
以下、本発明を適用した具体的な実施例について、実験結果に基づいて説明する。なお、本発明は以下の実施例の記載に限定されるものではない。
【0038】
<導電性材料の作製>
導電性材料A〜Eの作製
CaCO粉末とRuO粉末とを所定量秤量し、ボールミルにて混合して乾燥した。得られた粉末を5℃/分の速度で1200℃まで昇温し、その温度を5時間保持した後に5℃/分の速度で室温まで冷却することによって、CaRuOの粉末を得た。得られた粉末をボールミルにて粉砕し、導電性材料Aを得た。また、ボールミルでの粉砕時間を導電性材料Aのときの3倍〜3倍として、導電性材料B〜導電性材料Eを得た。
【0039】
導電性材料F〜Nの作製
CaCO粉末とRuO粉末とを所定量秤量し、ボールミルにて混合して乾燥した。得られた粉末を5℃/分の速度で1200℃まで昇温し、その温度を5時間保持した後に5℃/分の速度で室温まで冷却することによって、CaRuOの粉末を得た。
【0040】
得られたCaRuO粉末に対して、再度、5℃/分の速度で1400℃まで昇温し、その温度を1時間保持した後に5℃/分の速度で室温まで冷却することによって熱処理を行った。得られた粉末をボールミルにて粉砕し、導電性材料Fを得た。また、ボールミルでの粉砕時間を導電性材料Fのときの3倍〜3倍として、導電性材料G〜導電性材料Jを得た。なお、粉砕時間は導電性材料Aと導電性材料Fとで同じである。また、再熱処理時の保持温度を1500℃としたこと以外は、導電性材料F〜導電性材料Jの作製方法に準じて、導電性材料K〜導電性材料Nを得た。
【0041】
それぞれの導電性材料についてX線回折を行い、回折線の半値幅より結晶子サイズを求めた。また、得られた粉末を走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察を行い、平均粒径を算出した。結果を表1に示す。なお、以下の表も同様であるが、本発明で規定する範囲から外れる導電性材料又は試料(比較例に相当)には、*印を付した。
【0042】
【表1】

【0043】
<ガラス組成物の作製>
、SiO、CaCO、ZrOを所定量秤量し、ボールミルにて混合した後、乾燥した。得られた粉末を5℃/分の速度で1300℃まで昇温し、その温度に1時間保持した後、水中に投入することによって急冷し、ガラス化した。得られたガラス化物をボールミルで粉砕し、ガラス組成物粉末を得た。作製したガラス組成物の組成は、CaO:B:SiO:ZrO=34:36:25:5(モル%)である。
【0044】
<添加物>
添加物として、CuO、NiO、MgO等を用いた。
【0045】
<有機ビヒクルの作製>
バインダとしてエチルセルロース、有機溶剤としてテルピネオールを用い、有機溶剤を加熱撹拌しながらバインダを溶かして、有機ビヒクルを作製した。
【0046】
<抵抗体ペーストの作製>
前述の導電性材料の粉末と、ガラス組成物粉末、添加物、及び有機ビヒクルを各組成になるように秤量し、3本ロールミルで混練し、抵抗体ペーストを得た。抵抗体ペーストの組成は、導電性材料、ガラス組成物及び添加物の合計重量を100とした時の各成分の重量比率で表したとき、導電性材料としてのCaRuOが19.8重量%、ガラス組成物としてのCaO−B−SiO−ZrOが55.0重量%、添加物としてのNiOが16.7重量%、MgOが5.0重量%、CuOが3.5重量%である。なお、導電性材料粉末、ガラス組成物粉末及び添加物粉末の合計重量と有機ビヒクルの重量の比は、得られた抵抗体ペーストがスクリーン印刷に適した粘度となるように、重量比で1:0.25〜1:4の範囲で調合し、抵抗体ペーストを作製した。
【0047】
<抵抗体の作製>
96%のアルミナ基板上に、Ag−Pt導体ペーストを所定形状にスクリーン印刷して乾燥させた。Ag−Pt導体ペーストにおけるAgの割合は95重量%、Ptの割合は5重量%とした。このアルミナ基板をベルト炉に入れ、投入から排出まで1時間のパターンで焼き付けを行った。この時の焼き付け温度は850℃、その温度での保持時間は10分間とした。
【0048】
このようにして導体が形成されたアルミナ基板上に、先に作製した抵抗体ペーストをスクリーン印刷法にて所定の形状(1mm×1mmの方形状)のパターンで塗布し、乾燥した。その後、導体焼き付けと同じ条件で抵抗体ペーストを焼き付け、厚膜抵抗体を得た。
【0049】
<抵抗体の特性評価>
(1)抵抗値
Agilent Technologies 社製の製品番号 34401Aにより測定。試料数24個の平均値を求めた。
【0050】
(2)TCR
室温25℃を基準として、−55℃、125℃へ温度を変えた時の抵抗値変化率を求めた。試料数10個の平均値である。−55℃、25℃、125℃の抵抗値をR-55、R25、R125(Ω/□)とおき、以下の2つの式のうち数値の大きい方をTCR値とした。
TCR(ppm/℃)=((R-55-R125)/R25/80)×1000000、
TCR(ppm/℃)=((R125-R25)/R25/100)×1000000
【0051】
(3)STOL(耐電圧特性)
厚膜抵抗体に試験電圧を5秒間印加し、その前後における抵抗値の変化率を求めた。試料数10個の平均値である。試験電圧=2.5×定格電圧であり、定格電圧=√(R/8)、Rは抵抗値(Ω/□)である。計算した試験電圧が200Vを越える抵抗値を持つ抵抗体については、試験電圧を200Vにて行った。
【0052】
(4)経時変化
抵抗体の信頼性試験の一つである。温度85℃、相対湿度85%の環境下に厚膜抵抗体を1000時間放置し、その前後における抵抗値の変化率ΔR(%)を求めた。経時変化率(ΔR)≦±1.0%が特性の基準となる。
【0053】
<導電性材料の検討>
導電性材料として導電性材料A〜導電性材料Nを用いて試料1〜14を作製し、抵抗体の特性(抵抗値、TCR、STOL及び経時変化)を評価した。抵抗体の特性の評価結果を表2に示す。
【0054】
【表2】

【0055】
表2中、導電性材料A〜導電性材料Eと導電性材料F〜導電性材料Jとの比較から、Ru複合酸化物粒子に再熱処理を行うことにより結晶子サイズを0.02μm以上に制御可能であることがわかる。また、試料1〜試料10において、導電性材料の平均粒径が同じ試料同士(例えば試料3と試料8等)を比較すると、再熱処理を行い結晶子サイズを制御することによって、TCR特性及びSTOL特性のいずれも改善し、また、経時変化も小さい値となることが確認された。
【0056】
また、導電性材料F〜導電性材料Jから、粉砕時間を調節することにより平均粒径を適当な範囲内に制御可能であることがわかり、特に平均粒径を0.05μm〜0.30μmとした導電性材料を抵抗体ペーストに用いることにより、TCR特性及びSTOL特性のいずれも改善し、経時変化も小さい抵抗体が得られることが確認された。この傾向は、再熱処理時の温度を1500℃とし結晶子サイズを0.045μmとした導電性材料を用いた場合(試料11〜試料14)でも同様に見られた。
【0057】
以上のように、結晶子サイズを0.02μm以上平均粒径以下とし、且つ平均粒径を0.05μm以上0.30μm以下とすることによって、高抵抗を示し、TCR特性、STOL特性及び信頼性のいずれにおいても優れた抵抗体が実現されることが明らかとなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ru複合酸化物粒子を主体とし、当該Ru複合酸化物粒子の結晶子サイズが0.02μm以上平均粒径以下であり、平均粒径が0.05μm以上0.30μm以下であることを特徴とする導電性材料。
【請求項2】
前記Ru複合酸化物粒子がCaRuO、SrRuO、BaRuOから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1記載の導電性材料。
【請求項3】
焼成により得られたRu複合酸化物粒子を熱処理することにより前記Ru複合酸化物粒子の前記結晶子サイズが制御され、さらに粉砕することにより前記平均粒径が制御されていることを特徴とする請求項1又は2記載の導電性材料。
【請求項4】
前記熱処理の温度が1400℃以上1700℃以下であることを特徴とする請求項3記載の導電性材料。
【請求項5】
Ru複合酸化物粒子を1400℃以上1700℃以下で熱処理することにより熱処理後の結晶子サイズが0.02μm以上平均粒径以下となるように制御し、さらに粉砕することにより平均粒径が0.05μm以上0.30μm以下となるように制御することを特徴とする導電性材料の製造方法。
【請求項6】
前記Ru複合酸化物としてCaRuO、SrRuO、BaRuOから選ばれる少なくとも1種を用いることを特徴とする請求項5記載の導電性材料の製造方法。
【請求項7】
ガラス組成物及び導電性材料を含有し、これらが有機ビヒクルと混合されてなる抵抗体ペーストであって、
前記導電性材料は、Ru複合酸化物粒子を主体とし、当該Ru複合酸化物粒子の結晶子サイズが0.02μm以上平均粒径以下であり、平均粒径が0.05μm以上0.30μm以下であることを特徴とする抵抗体ペースト。
【請求項8】
前記Ru複合酸化物粒子がCaRuO、SrRuO、BaRuOから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項7記載の抵抗体ペースト。
【請求項9】
焼成により得られたRu複合酸化物粒子を熱処理することにより前記Ru複合酸化物粒子の前記結晶子サイズが制御され、さらに粉砕することにより前記平均粒径が制御されていることを特徴とする請求項7又は8記載の抵抗体ペースト。
【請求項10】
前記熱処理の温度が1400℃以上1700℃以下であることを特徴とする請求項9記載の抵抗体ペースト。
【請求項11】
前記ガラス組成物が、網目形成酸化物としてB及びSiOを含有し、主たる修飾酸化物成分としてCaO、SrO、BaOから選ばれる少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項7〜10のいずれか1項記載の抵抗体ペースト。
【請求項12】
前記ガラス組成物が、その他の修飾酸化物成分としてZrO、Al、ZnOから選ばれる少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項11記載の抵抗体ペースト。
【請求項13】
添加物としてNiO、CuO、MgOから選ばれる少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項7〜12のいずれか1項記載の抵抗体ペースト。
【請求項14】
導電性材料、ガラス組成物及び任意の添加物を合計した合計重量と、前記ビヒクルの重量との比が1:0.25〜1:4であることを特徴とする請求項7〜13のいずれか1項記載の抵抗体ペースト。
【請求項15】
請求項7〜請求項14のいずれか1項記載の抵抗体ペーストを用いて形成されたことを特徴とする抵抗体。
【請求項16】
請求項15記載の抵抗体を有することを特徴とする電子部品。

【公開番号】特開2006−79908(P2006−79908A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−261623(P2004−261623)
【出願日】平成16年9月8日(2004.9.8)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】