説明

導電性樹脂組成物とその成形体

【課題】高抵抗領域および面内分布において抵抗の安定性に優れた樹脂組成物とその成形体を提供する。
【解決手段】[CNF-P]と[CNF-T]を分散させた樹脂、または[CNF−F]と[CNF-T]を分散させた樹脂、または[CNF-P]と[CNF−F]と[CNF-T]を分散させた樹脂であって、面内分布において最も低い表面抵抗RLと最も高い表面抵抗RHの対数値の差が1以下〔[Log10RH−Log10RL]≦1〕であることを特徴とし、好ましくは、[CNF-T]に対する[CNF-P]の混合割合、[CNF−F]の混合割合、あるいは[CNF-P]と[CNF−F]の合計混合割合が、何れも50/50〜99.9/0.1であり、樹脂中のこれらのカーボンナノファイバーの合計含有量が何れも0.5〜12質量%であり、平均表面抵抗Rが106〜1013Ω/□である導電性樹脂組成物とその成形体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高抵抗安定性および面内安定性に優れた導電性樹脂組成物とその成形体に関する。より詳しくは、導電材として樹脂組成物に配合するカーボンナノファイバーについて、プレートタイプのカーボンナノファイバー[CNF-P]、チューブタイプのカーボンナノファイバー[CNF-T]、フィシュボーンタイプのカーボンナノファイバー[CNF−F]を用い、[CNF-P]と[CNF-T]の二種を併用し、または[CNF−F]と[CNF-T]の二種を併用し、あるいは[CNF-P]と[CNF−F]と[CNF-T]の三種を併用して高抵抗安定性および面内安定性を高めた導電性樹脂組成物とその成形体に関する。
【0002】
一般に、複写機、ファクシミリ、プリンタなどの電子写真方式の画像形成装置や静電記録装置に用いられる各種の部品、例えば、帯電、現像、転写、定着、除電、クリーニング、給紙、搬送用などのブレード、ローラ、ベルト、ブラシなどには導電性樹脂組成物、導電性エラストマー組成物、および導電性塗料などが用いられている。本発明はこれらの材料として好適であり、特に半導電領域(103〜1012Ω・cm、中抵抗領域とも云う)において安定な導電性と面内の均一性に優れた導電性を有する導電性組成物とその成形体に関する。
【背景技術】
【0003】
複写機、ファクシミリ、プリンタなどの電子写真方式に基づく画像形成装置や静電記録装置等には導電性樹脂組成物や導電性エラストマー組成物、および導電性塗料などの導電性組成物が多く用いられている。従来の導電性組成物は、例えば、シリコーンやポリウレタン、エピクロルヒドリン,NBR,EPDMなどの絶縁性エラストマー、ポリカーボネイト(PC)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、エチレンテトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)等の絶縁性樹脂をベースにして、これにイオン導電材料、導電性ポリマー、カーボンブラック、金属酸化物等の導電物質を添加したものが用いられている。これらの導電性組成物は導電物質の添加量を調整することによって機能上必要な導電性を付与しているものが多いが、近年、これらのOA機器の高性能化に伴い、導電性についてより厳密な制御が要求されている。
【0004】
ところが、カーボンや金属酸化物等の粉末状の導電物質はその僅かな添加量のズレや、材料温度、成型温度、成型時間等の条件の僅かな変化、更には成型方法の違いによって導電パスの形態が変化しやすいために導電性が大きく変動すると云う問題がある。特に半導電領域において、成型物の形状や成型条件などを注意して管理しても成型物全体に亘って安定な導電性を付与させることが難しい場合が頻繁にある。
【0005】
例えば、球状カーボンブラックを単独で用いることによって電圧依存性を緩和した導電性組成物が知られているが(特許文献1、2)、この導電性組成物は体積固有抵抗が109Ω・cm以上のものは、カーボン量が±0.5質量%程度相違し、かつ成形条件(成形速度、温度、湿度)が相違するなどによって、体積抵抗値が10Ω・cm以上ずれる場合がある。この他に、白色導電粉末と中空マイクロファイバーを含む導電性ポリマーが知られている(特許文献3)。これは、双方を混合することによって黒色化を抑えて良好な白色を有し、さらに任意の色に着色できるようにしたものであるが、中抵抗域〜高抵抗域での電気抵抗の安定性については全く認識されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−106657号公報
【特許文献2】特開平11−190328号公報
【特許文献3】特開平09−111135号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、従来の導電性樹脂組成物における上記問題を解決したものであり、導電材として樹脂組成物に配合するカーボンナノファイバーについて、[CNF-P]と[CNF-T]の二種を併用し、または[CNF−F]と[CNF-T]の二種を併用し、あるいは[CNF-P]と[CNF−F]と[CNF-T]の三種を併用して高抵抗安定性および面内安定性を高めた導電性樹脂組成物とその成形体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の構成によって上記課題を解決した導電性組成物とその成形体に関する。
〔1〕プレートタイプのカーボンナノファイバー[CNF-P]とチューブタイプのカーボンナノファイバー[CNF-T]を分散させた樹脂であって、面内分布において最も低い表面抵抗RLと最も高い表面抵抗RHの差が対数値において1以下〔[Log10RH−Log10RL]≦1〕であることを特徴とする導電性樹脂組成物。
〔2〕[CNF-P]と[CNF-T]の混合割合が、[CNF-P]/[CNF-T]=50/50〜99.9/0.1、樹脂中の[CNF-P]と[CNF-T]の合計含有量が0.5〜12質量%であり、平均表面抵抗Rが106〜1013Ω/□である上記[1]に記載する導電性樹脂組成物。
〔3〕フィシュボーンタイプのカーボンナノファイバー[CNF−F]とチューブタイプのカーボンナノファイバー[CNF-T]を分散させた樹脂であって、面内分布において最も低い表面抵抗RLと最も高い表面抵抗RHの差が対数値において1以下〔[Log10RH−Log10RL]≦1〕であることを特徴とする導電性樹脂組成物。
〔4〕[CNF−F]と[CNF-T]の混合割合が、[CNF−F]/[CNF-T]=50/50〜99.9/0.1、樹脂中のCNF−FとCNF-Tの合計含有量が0.5〜12質量%であり、平均表面抵抗Rが106〜1013Ω/□である上記[3]に記載する導電性樹脂組成物。
〔5〕[CNF-P]と[CNF−F]と[CNF-T]を分散させた樹脂であって、面内分布において最も低い表面抵抗RLと最も高い表面抵抗RHの差が対数値において1以下〔[Log10RH−Log10RL]≦1〕であることを特徴とする導電性樹脂組成物。
〔6〕[CNF-P]と[CNF−F]と[CNF-T]の合計混合割合が、([CNF-P]+[CNF−F])/[CNF-T]=50/50〜99.9/0.1、樹脂中の[CNF-P]と[CNF−F]と[CNF-T]の合計含有量が0.5〜12質量%であって、平均表面抵抗Rが106〜1013Ω/□である上記[5]に記載する導電性樹脂組成物。
〔7〕カーボンナノファイバーの添加量がx質量%のときの平均表面抵抗がRx、カーボンナノファイバーの添加量が(x+1)質量%のときの平均表面抵抗がR(x+1)であるとき、平均表面抵抗の差が対数値において1以下〔[Log10Rx−Log10R(x+1)]≦1〕である上記[1]〜上記[6]の何れかに記載する導電性樹脂組成物。
〔8〕上記[1]〜上記[7]の何れかに記載する導電性樹脂組成物であって、[CNF-P]と[CNF-T]、または[CNF−F]と[CNF-T]、または[CNF-P]と[CNF−F]と[CNF-T]の分散液を樹脂塗料中に分散混合させてなる導電性塗料。
〔9〕上記[8]に記載の塗料を機材に塗布、乾燥あるいは焼成して得られる導電性機材。
〔10〕上記[1]〜上記[7]の何れかに記載する導電性樹脂組成物からなる導電性コンパウンド樹脂。
〔11〕上記[10]のコンパウンド樹脂を射出成形または押し出し成形してなる導電性樹脂成形物。
【発明の効果】
【0009】
本発明の導電性樹脂組成物は、[CNF-P]と[CNF-T]の二種を併用し、または[CNF−F]と[CNF-T]の二種を併用し、あるいは[CNF-P]と[CNF−F]と[CNF-T]の三種を併用し、これらを樹脂に分散させたものであるので、表面抵抗が均一であり、表面抵抗について高い面内安定性を有している。具体的には、表面抵抗の面内分布において最も低い表面抵抗RLと最も高い表面抵抗RHの対数値の差が1以下〔[Log10RH−Log10RL]≦1〕である。
【0010】
また、本発明の導電性樹脂組成物は、高抵抗領域において平均表面抵抗が安定しており、例えば、CNF合計単位含有量(1質量%)あたりの平均表面抵抗の変化は対数値において1以下であり、これは表面抵抗Rが108Ω/□以上の領域においても変わらない。
【0011】
本発明の導電性樹脂組成物は、表面抵抗が均一であり、かつ高抵抗領域(108〜1013Ω/□)の表面抵抗の制御が容易なので、OA機器の高性能化において導電性を精度よく制御した導電材料を提供することができる。また、本発明の導電性樹脂組成物は表面抵抗が安定であるので、導電性塗料や導電性機材、導電性コンパウンド樹脂やその成形体について、良好な品質を有する成形体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例1〜3、比較例5の結果を示すグラフ
【図2】実施例6〜8、比較例5の結果を示すグラフ
【図3】カーボンナノファイバーの3種類の形態を示す模式図
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施形態に基づいて具体的に説明する。
本発明の導電性樹脂組成物は、カーボンナノファイバーについて、以下の(イ)(ロ)(ハ)に示すように、プレートタイプのカーボンナノファイバー[CNF-P]、チューブタイプのカーボンナノファイバー[CNF-T]、フィシュボーンタイプのカーボンナノファイバー[CNF−F]の二種または三種を併用したものである。
【0014】
〔イ〕[CNF-P]と[CNF-T]の二種を分散させた樹脂であって、面内分布において最も低い表面抵抗RLと最も高い表面抵抗RHの対数値の差が1以下〔[Log10RH−Log10RL]≦1〕であることを特徴とする導電性樹脂組成物。
〔ロ〕[CNF−F]と[CNF-T]の二種を分散させた樹脂であって、面内分布において最も低い表面抵抗RLと最も高い表面抵抗RHの差が対数値において1以下〔[Log10RH−Log10RL]≦1〕であることを特徴とする導電性樹脂組成物。
〔ハ〕[CNF-P]と[CNF−F]と[CNF-T]の三種を分散させた樹脂であって、面内分布において最も低い表面抵抗RLと最も高い表面抵抗RHの差が対数値において1以下〔[Log10RH−Log10RL]≦1〕であることを特徴とする導電性樹脂組成物。
【0015】
カーボンナノファイバー[CNF]について、図3(A)(B)(C)(D)に示すように、プレートタイプ[CNF-P]、チューブタイプ[CNF-T]、および、フィシュボーンタイプ(魚骨型)[CNF−F]が知られている。
【0016】
図3(A)に示すように、プレートタイプのカーボンナノファイバー[CNF-P]は、平面状のグラファイト網がファイバーの縦軸に対して実質的に垂直に複数積層して形成された平均直径10〜500nmであって、アスペクト比が3以上のカーボンナノファイバーである。
【0017】
図3(B)に示すように、チューブタイプのカーボンナノファイバー[CNF-T]は、複数のチューブ状のグラファイト網が同心円状に積層して形成された平均直径5〜100nmであって、アスペクト比が5以上のカーボンナノファイバーである。
【0018】
図3(C)、(D)に示すように、フィシュボーンタイプ(魚骨型)のカーボンナノファイバー[CNF−F]は、グラファイト網が、ファイバー軸に対して0°より大きくかつ90°より小さい範囲内の角度で複数積層し、かつファイバー軸の中心線で線対称とした様な形状で、平均直径は10〜500nmであって、アスペクト比が3以上のカーボンナノファイバーである。
【0019】
このフィシュボーンタイプ(魚骨型)のカーボンナノファイバー[CNF−F]には、図3(C)に示したような底の空いたカップ様のグラファイト網が複数積層した形状を有し、内部に大きな中空構造を持つもの、また図3(D)に示したような中空構造を持たないものなどがある。
【0020】
本発明の導電性樹脂組成物は、導電材として樹脂組成物に配合するカーボンナノファイバーについて、[CNF-P]と[CNF-T]の二種を併用し、または[CNF−F]と[CNF-T]の二種を併用し、または[CNF-P]と[CNF−F]と[CNF-T]の三種を併用し、これらを樹脂中に分散させて導電性を持たせた樹脂であり、表面抵抗について高い面内安定性(均一性)を有している。具体的には、表面抵抗の面内分布において、最も低い表面抵抗RLと最も高い表面抵抗RHの対数値の差(以下、表面抵抗の分布差と云う)が1以下〔[Log10RH−Log10RL]≦1〕である。
【0021】
カーボンナノファイバーについて、[CNF-P]と[CNF-T]、[CNF−F]と[CNF-T]、または[CNF-P]と[CNF−F]と[CNF-T]を併用せず、これらを個別に使用すると、表面抵抗の分布差を1以下にするのが難しい。例えば、比較例1、4に示すように、[CNF-P]と[CNF-T]を併用せずに[CNF-T]のみを用いた場合、表面抵抗の分布差は2.71(比較例1)、3.0(比較例4)であり、表面抵抗の分布差が大きい。
【0022】
一方、[CNF-P]と[CNF-T]を併用し、または[CNF−F]と[CNF-T]を併用し、または[CNF-P]と[CNF−F]と[CNF-T]を併用すると、比較的高抵抗である[CNF-P]または[CNF−F]の導電パスが[CNF-T]によって結合されるので、全体にわたる接触条件の分布がなくなるため表面抵抗の分布差を1以下に制御することができる。
【0023】
[CNF-P]と[CNF-T]の混合割合は、[CNF-P]/[CNF-T]=50/50〜99.1/0.1の範囲が好ましい。また、[CNF−F]と[CNF-T]の混合割合は、[CNF−F]/[CNF-T]=50/50〜99.1/0.1の範囲が好ましい。また、[CNF-P]と[CNF−F]と[CNF-T]の混合割合は、([CNF-P]+[CNF−F])/[CNF-T]=50/50〜99.9/0.1の範囲が好ましい。
【0024】
[CNF-P]の混合割合、あるいは[CNF−F]の混合割合、あるいは[CNF-P]と[CNF−F]の合計混合割合よりも[CNF-T]が多いと、[CNF−T]の導電性が支配的になり、[CNF-P]あるいは[CNF−F]の導電性を生かすことができない。一方、[CNF-T]の混合割合が0.1より少ないと、[CNF-P]、あるいは[CNF−F]、あるいは[CNF-P]と[CNF−F]と[CNF-T]を混合する効果が乏しくなるので好ましくない。
【0025】
樹脂中の[CNF-P]と[CNF-T]の合計含有量、樹脂中の[CNF−F]と[CNF-T]の合計含有量、樹脂中の[CNF-P]と[CNF−F]と[CNF-T]の合計含有量は、何れも0.5〜12質量%が好ましい。これらの含有量が0.5質量%より少ないと十分な導電性が得られず、12質量%よりも多くても導電性が頭打ちになる上、形成された樹脂フィルムの強度が劣化し始める。
【0026】
本発明の導電性樹脂組成物は、高抵抗領域において平均表面抵抗が安定しており、例えば、CNF合計単位含有量(1質量%)あたりの平均表面抵抗の変化は対数値において1以下である。具体的には、カーボンナノファイバーの添加量がx質量%のときの平均表面抵抗がRx、カーボンナノファイバーの添加量が(x+1)質量%のときの平均表面抵抗がR(x+1)であるとき、平均表面抵抗の差が対数値において1以下〔[Log10Rx−Log10R(x+1)]≦1〕である。これは図1に示すように、表面抵抗Rが108Ω/□以上の高抵抗領域においても変わらない。一方、CNF-Tだけを使用した比較例5は108Ω/□以上の高抵抗領域において表面抵抗が急激に増加し、高抵抗領域の平均表面抵抗が不安定である。
【0027】
CNFを塗料や樹脂に分散させるには、CNF表面を酸化処理して分散性を高め、予めCNF分散液を調製し、これを塗料や樹脂に加えるとよい。また、表面処理したCNFを、塗料を構成する溶媒に分散させ、この分散液を塗料に混合するとよい。
【0028】
本発明の導電性樹脂組成物は多様な形態で利用することができる。例えば、[CNF-P]と[CNF-T]の分散液、または[CNF−F]と[CNF-T]の分散液、または[CNF-P]と[CNF−F]と[CNF-T]の分散液を樹脂塗料中に分散混合させて導電性塗料を得ることができる。また、この塗料を機材に塗布、乾燥あるいは焼成して導電性機材を製造することができる。また、本発明の導電性樹脂組成物からなる導電性コンパウンド樹脂を原料とし、射出成形などの成形方法によって導電性に優れた樹脂成形物を容易に製造することができる。
【実施例】
【0029】
以下、本発明の実施例を比較例と共に示す。各例において、表面抵抗はダイヤインスツルメンツ製のハイレスタ表面抵抗測定装置によって測定した。実施例1〜5、比較例1〜4の結果を表1に示した。実施例6〜11、比較例6〜8の結果を表2に示した。また、実施例1〜3および比較例5の結果を図1に示した。実施例6〜8および比較例5の結果を図2に示した。
【0030】
〔実施例1〕
[CNF-T]濃度を4質量%に調整したN-メチルピロリドン分散液、[CNF-P]濃度を4質量%に調整したN-メチルピロリドン分散液、市販のポリイミドワニス(固形分濃度18質量%)をそれぞれ準備し、ポリイミドワニスの固形分に対して、[CNF-T]を1.17質量%、[CNF-P]を5.7質量%になるように混合攪拌して均一な塗料を調製した。この塗料をバーコーターにてガラス基板上に塗布し、120℃に加熱して溶媒のNMPを蒸発させ、その後、350℃で熱処理し、[CNF-T]および[CNF-P]が分散したポリイミド塗膜(縦90mm×横270mm)を得た。この塗膜を縦3等分および横9等分に区切り(計27分割)、各区分の表面抵抗を測定した。平均表面抵抗は7.2×1010Ω/□であり、表面抵抗の分布差[Log10RH−Log10RL]は0.49であった。
【0031】
〔実施例2〕
[CNF−T]、[CNF−P]の分散液、およびポリイミドワニスを使用し、ポリイミドワニスの固形分に対して[CNF−T]を1.12質量%、[CNF−P]を7.6質量%になるように混合した以外は、実施例1と同様に塗膜を作成し、その表面抵抗を測定した。平均表面抵抗は2.4×109Ω/□であり、表面抵抗の分布差は0.61であった。
【0032】
〔実施例3〕
[CNF−T]、[CNF−P]の分散液、およびポリイミドワニスを使用し、ポリイミドワニスの固形分に対して[CNF−T]を1.17質量%、[CNF−P]を4.6質量%になるように混合した以外は、実施例1と同様に塗膜を作成し、その表面抵抗を測定した。平均表面抵抗は3.1×1011Ω/□であり、表面抵抗の分布差は0.73であった。
【0033】
〔実施例4〕
ポリカーボネイト樹脂に、[CNF−T]と[CNF−P]をそれぞれ2質量%、4質量%含有するように添加して混錬し、コンパウンドを製造した。このコンパウンドを熱プレスにて厚さ40μmのシート、半径15cmの円盤状のシートをおのおの作成し、面内の表面抵抗を10箇所測定した。平均表面抵抗は3.4×109Ω/□であり、表面抵抗の分布差は0.54であった。
【0034】
〔実施例5〕
樹脂をポリカーボネイトからペット樹脂に変更した以外は実施例4と同様の組成のコンパウンドを作成し、熱プレスシートを作成してその表面抵抗を測定した。平均表面抵抗は8×108Ω/□であり、表面抵抗の分布差は0.26であった。
【0035】
〔比較例1〕
[CNF−T]分散液およびポリイミドワニスを使用し、ポリイミドワニスの固形分に対して[CNF−T]を1.1質量%になるように混合した([CNF−P]は併用せず)。それ以外は実施例1と同様に塗膜を作成し、その表面抵抗を測定した。平均表面抵抗は2.5×1011Ω/□であり、表面抵抗の分布差は2.71であった。
【0036】
〔比較例2〕
[CNF−T]に代えて[CNF−P]を用い、[CNF−P]の添加量を13質量%とした以外は実施例1と同様に塗膜を作成し、その表面抵抗を測定した。平均表面抵抗は1.2×1011Ω/□であり、表面抵抗の分布差は2.26であった。
【0037】
〔比較例3〕
[CNF−T]、[CNF−P]の分散液、およびポリイミドワニスを使用し、ポリイミドワニスの固形分に対して[CNF−T]を0.2質量%、[CNF−P]を0.2質量%になるように混合した以外は、実施例1と同様に塗膜を作成し、その表面抵抗を測定した。平均表面抵抗は1.0×1013Ω/□以上であった。
【0038】
〔比較例4〕
ポリカーボネイト樹脂に[CNF−T]だけを2質量%になるように添加して混錬した以外は実施例4と同様にして熱プレスシート(厚さ40μm)を作成し、面内の表面抵抗を10箇所測定した。平均表面抵抗は1×107Ω/□であり、表面抵抗の分布差は3.0であった。
【0039】
〔比較例5〕
[CNF−T]だけを使用し、その使用量をおのおの1.0質量%、1.1質量%、1.4質量%、1.6質量%、3質量%、5質量%、10質量%とした以外は実施例1と同様に塗膜を作成し、その表面抵抗を測定した。その結果を図1および図2の▲でプロットした。このデータより明らかなように、[CNF−T]だけを使用して高抵抗値のコントロールを行おうとした場合には、CNF添加量が2質量%以下の高抵抗領域において、表面抵抗の急激な変化が見られ、高抵抗値のコントロールは困難になる。
【0040】
表1の比較例1および比較例2に示すように、[CNF−T]あるいは[CNF−P]だけを使用して高抵抗領域の表面抵抗をコントロールしようとした場合には、表面抵抗の分布差が大きくなり、抵抗値の安定した塗膜の作成はできなかった。また、[CNF−T]と[CNF−P]の合計量が0.4の比較例3は表面抵抗が大幅に高くなり、そのコントロールは不可能であった。同様に、比較例4は樹脂を変えて[CNF−T]だけを用いた例であり、比較例1〜2と同様に、単一組成の導電材であるため表面抵抗分布差が大きい。
【0041】
一方、図1に示すように、実施例1〜実施例3では、高抵抗領域(109〜1013Ω/□)において表面抵抗の変化は一定であり、急激に変化する現象は見られない。具体的には、図1に示すように、CNF合計単位含有量(1質量%)あたりの平均表面抵抗Rの変化は表面抵抗を示す対数グラフにおいて一桁以下である。従って、表面抵抗の制御が容易である。
【0042】
【表1】

【0043】
〔実施例6〕
[CNF−T]濃度を4質量%に調整したN-メチルピロリドン分散液、[CNF−F]濃度を4質量%に調整したN-メチルピロリドン分散液、市販のポリイミドワニス(固形分濃度18質量%)をそれぞれ準備し、ポリイミドワニスの固形分に対して、[CNF−T]を0.75質量%、[CNF−F]を10質量%になるように混合攪拌して均一な塗料を調製した。この塗料をバーコーターにてガラス基板上に塗布し、120℃に加熱して溶媒のNMPを蒸発させ、その後、350℃で熱処理し、[CNF−T]および[CNF−F]が分散したポリイミド塗膜(縦90mm×横270mm)を得た。この塗膜を縦3等分および横9等分に区切り(計27分割)、各区分の表面抵抗を測定した。平均表面抵抗は1.9×1010Ω/□であり、表面抵抗の分布差[Log10RH−Log10RL]は0.52であった。
【0044】
〔実施例7〕
[CNF−T]、[CNF−F]の分散液、およびポリイミドワニスを使用し、ポリイミドワニスの固形分に対して[CNF−T]を0.75質量%、[CNF−F]を7.5質量%になるように混合した以外は、実施例6と同様に塗膜を作成し、その表面抵抗を測定した。平均表面抵抗は5.2×1011Ω/□であり、表面抵抗の分布差は0.63であった。
【0045】
〔実施例8〕
[CNF−T]、[CNF−F]の分散液、およびポリイミドワニスを使用し、ポリイミドワニスの固形分に対して[CNF−T]を0.75質量%、[CNF−F]を5質量%になるように混合した以外は、実施例6と同様に塗膜を作成し、その表面抵抗を測定した。平均表面抵抗は8.0×1012Ω/□であり、表面抵抗の分布差は0.71であった。
【0046】
〔実施例9〕
ポリカーボネイト樹脂に、[CNF−T]と[CNF−F]をそれぞれ2質量%、4質量%含有するように添加して混錬し、コンパウンドを製造した。このコンパウンドを熱プレスにて厚さ40μmのシート、半径15cmの円盤状のシートをおのおの作成し、面内の表面抵抗を10箇所測定した。平均表面抵抗は1.2×1010Ω/□であり、表面抵抗の分布差は0.57であった。
【0047】
〔実施例10〕
樹脂をポリカーボネイトからペット樹脂に変更した以外は実施例9と同様の組成のコンパウンドを作成し、熱プレスシートを作成してその表面抵抗を測定した。平均表面抵抗は3.3×109Ω/□であり、表面抵抗の分布差は0.34であった。
【0048】
〔実施例11〕
[CNF−T]濃度を4質量%に調整したN-メチルピロリドン分散液、[CNF−P]濃度を4質量%に調整したN-メチルピロリドン分散液、[CNF−F]濃度を4質量%に調整したN-メチルピロリドン分散液、市販のポリイミドワニス(固形分濃度18質量%)をそれぞれ準備し、ポリイミドワニスの固形分に対して、[CNF−T]を0.75質量%、[CNF−P]を4.0質量%、[CNF−F]を4.0質量%になるように混合攪拌して均一な塗料を調製した。この塗料をバーコーターにてガラス基板上に塗布し、120℃に加熱して溶媒のNMPを蒸発させ、その後、350℃で熱処理し、[CNF−T]、[CNF−P]、[CNF−F]が分散したポリイミド塗膜(縦90mm×横270mm)を得た。この塗膜を縦3等分および横9等分に区切り(計27分割)、各区分の表面抵抗を測定した。平均表面抵抗は1.3×1011Ω/□であり、表面抵抗の分布差[Log10RH−Log10RL]は0.60であった。
【0049】
〔比較例6〕
[CNF−T]分散液およびポリイミドワニスを使用し、ポリイミドワニスの固形分に対して[CNF−T]を1.1質量%になるように混合した([CNF−F]は併用せず)。それ以外は実施例6と同様に塗膜を作成し、その表面抵抗を測定した。平均表面抵抗は2.5×1011Ω/□であり、表面抵抗の分布差は2.71であった。
【0050】
〔比較例7〕
[CNF−T]に代えて[CNF−F]を用い、[CNF−F]の添加量を13質量%とした以外は実施例6と同様に塗膜を作成し、その表面抵抗を測定した。平均表面抵抗は8.9×1011Ω/□であり、表面抵抗の分布差は2.54であった。
【0051】
〔比較例8〕
[CNF−T]、[CNF−F]の分散液、およびポリイミドワニスを使用し、ポリイミドワニスの固形分に対して[CNF−T]を0.2質量%、[CNF−F]を0.2質量%になるように混合した以外は、実施例6と同様に塗膜を作成し、その表面抵抗を測定した。平均表面抵抗は1.0×1013Ω/□以上であった。
【0052】
表2の比較例6および比較例7に示すように、[CNF−T]あるいは[CNF−F]だけを使用して高抵抗領域の表面抵抗をコントロールしようとした場合には、表面抵抗の分布差が大きくなり、抵抗値の安定した塗膜の作成はできなかった。また、[CNF−T]と[CNF−F]の合計量が0.4の比較例8は表面抵抗が大幅に高くなり、そのコントロールは不可能であった。
【0053】
一方、図2に示すように、実施例6〜実施例8では、高抵抗領域(109〜1013Ω/□)において表面抵抗の変化は一定であり、急激に変化する現象は見られない。具体的には、図2に示すように、CNF合計単位含有量(1質量%)あたりの平均表面抵抗Rの変化は表面抵抗を示す対数グラフにおいて一桁以下である。従って、表面抵抗の制御が容易である。
【0054】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレートタイプのカーボンナノファイバー[CNF-P]とチューブタイプのカーボンナノファイバー[CNF-T]を分散させた樹脂であって、面内分布において最も低い表面抵抗RLと最も高い表面抵抗RHの差が対数値において1以下〔[Log10RH−Log10RL]≦1〕であることを特徴とする導電性樹脂組成物。
【請求項2】
[CNF-P]と[CNF-T]の混合割合が、[CNF-P]/[CNF-T]=50/50〜99.9/0.1、樹脂中の[CNF-P]と[CNF-T]の合計含有量が0.5〜12質量%であり、平均表面抵抗Rが106〜1013Ω/□である請求項1に記載する導電性樹脂組成物。
【請求項3】
フィシュボーンタイプのカーボンナノファイバー[CNF−F]とチューブタイプのカーボンナノファイバー[CNF-T]を分散させた樹脂であって、面内分布において最も低い表面抵抗RLと最も高い表面抵抗RHの差が対数値において1以下〔[Log10RH−Log10RL]≦1〕であることを特徴とする導電性樹脂組成物。
【請求項4】
[CNF−F]と[CNF-T]の混合割合が、[CNF−F]/[CNF-T]=50/50〜99.9/0.1、樹脂中のCNF−FとCNF-Tの合計含有量が0.5〜12質量%であり、平均表面抵抗Rが106〜1013Ω/□である請求項3に記載する導電性樹脂組成物。
【請求項5】
[CNF-P]と[CNF−F]と[CNF-T]を分散させた樹脂であって、面内分布において最も低い表面抵抗RLと最も高い表面抵抗RHの差が対数値において1以下〔[Log10RH−Log10RL]≦1〕であることを特徴とする導電性樹脂組成物。
【請求項6】
[CNF-P]と[CNF−F]と[CNF-T]の合計混合割合が、([CNF-P]+[CNF−F])/[CNF-T]=50/50〜99.9/0.1、樹脂中の[CNF-P]と[CNF−F]と[CNF-T]の合計含有量が0.5〜12質量%であって、平均表面抵抗Rが106〜1013Ω/□である請求項5に記載する導電性樹脂組成物。
【請求項7】
カーボンナノファイバーの添加量がx質量%のときの平均表面抵抗がRx、カーボンナノファイバーの添加量が(x+1)質量%のときの平均表面抵抗がR(x+1)であるとき、平均表面抵抗の差が対数値において1以下〔[Log10Rx−Log10R(x+1)]≦1〕である請求項1〜請求項6の何れかに記載する導電性樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1〜請求項7の何れかに記載する導電性樹脂組成物であって、[CNF-P]と[CNF-T]、または[CNF−F]と[CNF-T]、または[CNF-P]と[CNF−F]と[CNF-T]の分散液を樹脂塗料中に分散混合させてなる導電性塗料。
【請求項9】
請求項8に記載の塗料を機材に塗布、乾燥あるいは焼成して得られる導電性機材。
【請求項10】
請求項1〜請求項7の何れかに記載する導電性樹脂組成物からなる導電性コンパウンド樹脂。
【請求項11】
請求項10のコンパウンド樹脂を射出成形または押し出し成形してなる導電性樹脂成形物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−7046(P2010−7046A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−47034(P2009−47034)
【出願日】平成21年2月27日(2009.2.27)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【出願人】(597065282)三菱マテリアル電子化成株式会社 (151)
【Fターム(参考)】