説明

導電性熱可塑性樹脂組成物及びプラスチック成形品

導電性熱可塑性樹脂組成物及びプラスチック成形品が提供される。
前記導電性熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂の80〜99.9重量部と、カーボンナノチューブの0.1〜10重量部と、前記熱可塑性樹脂及びカーボンナノチューブを合わせた100重量部を基準として、衝撃補強材の0.1〜10重量部と、前記熱可塑性樹脂及びカーボンナノチューブを合わせた100重量部を基準として、導電性金属酸化物の0.1〜10重量部とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[技術分野]
本発明は、導電性熱可塑性樹脂組成物及びプラスチック成形品に関するものである。より具体的には、本発明は、より向上した導電性とともに、優れた諸般物性、例えば、耐衝撃性を有する導電性熱可塑性樹脂の提供を可能にする導電性熱可塑性樹脂組成物及びプラスチック成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
[背景技術]
熱可塑性樹脂は、加熱すると軟化して可塑性を表し、冷却すると固化するプラスチックをいう。このような熱可塑性樹脂は、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、アクリル樹脂、スチレン樹脂またはビニル樹脂などの汎用プラスチックと、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂またはポリイミド樹脂などのエンジニアリングプラスチックとに大別される。
【0003】
前記熱可塑性樹脂は、加工性及び成形性に優れており、各種の生活用品、OA機器、電気・電子製品などに広範囲に適用されている。また、熱可塑性樹脂が使用される製品の種類及び特性によれば、優れた加工性及び成形性のみならず、特殊な性質を付加した高付加価値の材料として熱可塑性樹脂を使用しようとする試みが継続的に行われている。特に、熱可塑性樹脂に導電性を付与し、このような導電性熱可塑性樹脂を、自動車、各種の電気装置や電子組立体及び電気ケーブルに電磁波遮蔽性能などを付与するために利用する試みが大いに行われている。
【0004】
このような導電性熱可塑性樹脂は、通常、熱可塑性樹脂にカーボンブラック、炭素繊維、金属粉末、金属コーティング無機粉末または金属繊維などの導電性添加剤を混合した導電性熱可塑性樹脂組成物を使用して製造される。ところが、前記導電性添加剤の相当量が添加されない限り、前記導電性熱可塑性樹脂の導電性を所望の程度に充分に確保することが難しく、相当量の導電性添加剤を添加すると、前記導電性熱可塑性樹脂の基本的な機械的特性のひとつである、耐衝撃性が大いに低下するおそれがある。
【0005】
一方、前記導電性添加剤としてカーボンナノチューブを使用し、前記導電性熱可塑性樹脂に優れた導電性を付与する試みがあった。
【0006】
しかしながら、熱可塑性樹脂にカーボンナノチューブを混合し、この複合樹脂混合物を射出して導電性熱可塑性樹脂を得ようとすると、前記射出中に発生するせん断応力によってカーボンナノチューブの移動性(mobility)と予期せぬ配向性(unexpected orientation)が生じる。結果として、導電性熱可塑性樹脂内のカーボンナノチューブ間の分離(disconnection)が生じて、導電性が低下するおそれがある。したがって、前記カーボンナノチューブを適用した場合にも、所望の導電性を得るためには、相当量のカーボンナノチューブを添加する必要がある。相当量の前記カーボンナノチューブを添加すると、導電性熱可塑性樹脂の基本的な機械的物性のひとつである、耐衝撃性が低下することは避けられない。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
[技術的解決方法]
本発明の一形態によれば、熱可塑性樹脂の80〜99.9重量部と、カーボンナノチューブの0.1〜10重量部と、前記熱可塑性樹脂及びカーボンナノチューブを合わせた100重量部を基準として、衝撃補強材の0.1〜10重量部と、前記熱可塑性樹脂及びカーボンナノチューブを合わせた100重量部を基準として、導電性金属酸化物の0.1〜10重量部とを含む導電性熱可塑性樹脂組成物が提供される。
【0008】
その他の本発明の各実施形態の詳細は、以下の詳細な説明に含まれている。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[最良の形態]
以下、本発明の具体的な実施形態を当業者が自明に実施可能な程度に詳細に説明する。ただし、これは、本発明に対する例示として提示されるもので、本発明は、これによって制限されるものでなく、後述する請求項の範疇によって定義されるものに過ぎない。
【0010】
本発明のひとつの実施形態によれば、熱可塑性樹脂の80〜99.9重量部と、カーボンナノチューブの0.1〜10重量部と、前記熱可塑性樹脂及びカーボンナノチューブを合わせた100重量部を基準として、衝撃補強材の0.1〜10重量部と、前記熱可塑性樹脂及びカーボンナノチューブを合わせた100重量部を基準として、導電性金属酸化物の0.1〜10重量部とを含む導電性熱可塑性樹脂組成物が提供される。
【0011】
上述のように、前記導電性熱可塑性樹脂組成物は、カーボンナノチューブと導電性金属酸化物を含む。したがって、前記導電性熱可塑性樹脂組成物の射出中に、前記導電性金属酸化物は、前記カーボンナノチューブの予期せぬ配向と移動を抑制することができるため、カーボンナノチューブ間の分離を抑制する。したがって、前記導電性熱可塑性樹脂組成物を用いて、より優れた導電性を有する導電性熱可塑性樹脂を提供することができる。また、前記樹脂組成物に含まれる衝撃補強材は、前記カーボンナノチューブ及び導電性金属酸化物の添加によって生じる前記導電性熱可塑性樹脂の機械的特性(例えば、耐衝撃性)が低下することを抑制することができる。そのため、前記導電性熱可塑性樹脂組成物を用いて、より優れた導電性に加えて、優れた耐衝撃性を有する導電性熱可塑性樹脂を提供できうる。
【0012】
以下、導電性熱可塑性樹脂組成物の各構成成分について具体的に説明する。
【0013】
前記導電性熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂の80〜99.9重量部を含む。
【0014】
熱可塑性樹脂としては、押出または射出成形が可能な汎用およびエンジニアリングプラスチックを含む熱可塑性樹脂を制限なしに使用することができる。
【0015】
熱可塑性樹脂の例としては、ポリアセタール、アクリル樹脂、ポリカーボネート、スチレン樹脂、ポリエステル、ビニル樹脂、ポリフェニレンエーテル、ポリオレフィン、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、ポリアリレート、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリアリルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、フッ素樹脂、ポリイミド、ポリエーテルケトン、ポリベンゾオキサゾール、ポリオキサジアゾール、ポリベンゾチアゾール、ポリベンズイミダゾール、ポリピリジン、ポリトリアゾール、ポリピロリジン、ポリジベンゾフラン、ポリスルホン、ポリウレア、ポリホスファゼン及び液晶重合体樹脂を挙げることができる。また、これら樹脂を共重合または混合し、前記熱可塑性樹脂として使用することもできる。
【0016】
ところが、前記導電性熱可塑性樹脂の物理的性質または適用される製品の種類などを考慮し、前記熱可塑性樹脂としては、これに制限されないが、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンビニルアセテート共重合体、エチレンメチルメタクリレート共重合体樹脂などのポリオレフィン樹脂;スチレン樹脂;ポリアミド、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートのようなポリエステル及びポリカーボネートなどの熱可塑性エンジニアリングプラスチックを好ましく使用することができる。
【0017】
一方、以下では、前記熱可塑性樹脂に適したポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂及びポリオレフィン樹脂について詳細に説明する。
【0018】
まず、前記熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン樹脂を使用することができる。
【0019】
前記ポリオレフィン樹脂は、オレフィン単量体のラジカル重合反応、または金属触媒重合反応によって製造される。特に、チーグラー・ナッタ(Ziegler−Natta)触媒、メタロセン(metallocene)触媒またはフィリップス(Phillips)触媒を用いて製造されたポリオレフィン樹脂を好ましく使用することができる。ただし、ポリオレフィン樹脂の製造方法は、特に制限されるものでなく、当業者に公知の他の製造方法で製造されたポリオレフィン樹脂を使用することができる。
【0020】
また、前記熱可塑性樹脂としては、ポリエステル樹脂を使用することもできる。
【0021】
前記ポリエステル樹脂は、重合体鎖にエステル結合を含み、加熱によって溶融されうる。前記ポリエステル樹脂は、ジカルボン酸及びジヒドロキシ化合物の縮重合反応によって得られる。ただし、ポリエステル樹脂の製造方法は、これに制限されるものでなく、当業者に公知の他の製造方法で製造されたポリエステル樹脂を使用することができる。また、前記ポリエステル樹脂としては、ホモポリエステル樹脂またはコポリエステル樹脂を制限なしに使用することができる。
【0022】
そして、前記熱可塑性樹脂としては、ポリカーボネート樹脂を使用することができる。
【0023】
前記ポリカーボネート樹脂は、例えば、下記化学式(1)で表されるジフェノール化合物と、ホスゲン(phosgene)、ギ酸ハロゲン(halogen formateまたは炭酸ジエステル(diester carbonate)とを反応させて得られる芳香族ポリカーボネート樹脂を含むことができる。
【0024】
【化1】

【0025】
式中、Aは、単結合、C−Cのアルキレン、C−Cのアルキリデン(alkylidene)、C−Cのシクロアルキリデン、−S−または−SO−を表し、Xはハロゲンを表し、nは0、1または2を表す。
【0026】
このとき、化学式1で表されるジフェノール化合物としては、4,4’−ジヒドロキシジフェニル、2,2−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−プロパン、2,4−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−2−メチルブタン、1,1−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−シクロヘキサン、2,2−ビス−(3−クロロ−4−ヒドロキシフェニル)−プロパン及び2,2−ビス−(3,5−ジクロロ−4−ヒドロキシフェニル)−プロパンなどが挙げられる。このうち、2,2−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−プロパン、2,2−ビス−(3,5−ジクロロ−4−ヒドロキシフェニル)−プロパンまたは1,1−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−シクロヘキサンが好ましい。また、ビスフェノール−A(Bisphenol−A:BPA)とも呼ばれる2,2−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−プロパンがより好ましい。
【0027】
また、前記ポリカーボネート樹脂は、15,000〜50,000g/molの重量平均分子量を有することができる。
【0028】
そして、前記ポリカーボネート樹脂としては、ポリカーボネート樹脂の種類に制限なく使用することができ、具体的には、線状または分岐状ポリカーボネート樹脂、もしくはポリエステルカーボネート共重合体樹脂を使用することができる。このとき、前記分岐状ポリカーボネート樹脂は、前記化学式1で表されるジフェノール化合物の全量に対して0.05〜2モル%の3価またはそれ以上の多官能化合物、例えば、3価またはそれ以上のフェノール基を含む化合物を添加して製造することができる。また、前記ポリエステルカーボネート共重合体樹脂は、エステル前駆体、例えば、2官能カルボン酸の存在下で重合反応することで得られる。ポリエステルカーボネート共重合体樹脂は、単独で使用したり、他のポリカーボネート樹脂と混合して使用することができる。
【0029】
また、前記ポリカーボネート樹脂としては、ホモポリカーボネート樹脂またはコポリカーボネート樹脂、もしくはこれらの混合物を使用することもできる。
【0030】
以上では、熱可塑性樹脂の好ましい例として、これらに制限されるわけではないが、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂及びポリエステル樹脂について説明した。それぞれの熱可塑性樹脂における構成及び製造方法は、当業者に自明に知られている。
【0031】
一方、前記導電性熱可塑性樹脂組成物は、カーボンナノチューブをさらに含む。カーボンナノチューブが含まれることで、熱可塑性樹脂は優れた導電性を有することができる。
【0032】
前記カーボンナノチューブは、優れた機械的強度、高い初期ヤング弾性率(Young’s modulus)及び高アスペクト比を有する。また、前記カーボンナノチューブは、高い導電性と熱安定性を保有している。したがって、カーボンナノチューブを前記熱可塑性樹脂に混合することで、前記熱可塑性樹脂に優れた導電性を付与することができる。
【0033】
また、前記カーボンナノチューブは、アーク放電法(Arc−discharge)、熱分解法(pyrolysis)、レーザーアブレーション法(laser ablation)、プラズマ化学気相蒸着法(PECVD)、熱化学気相蒸着法、電気分解法または火炎合成法(flame synthesis)などで作製することができる。しかしながら、カーボンナノチューブの作製方法はこれに制限されない。よって、任意の方法で作製されたカーボンナノチューブが前記導電性熱可塑性樹脂組成物に制限なしに使用されうる。
【0034】
前記カーボンナノチューブは、構成する壁の個数によって単層カーボンナナノチューブ、二層カーボンナノチューブまたは多層カーボンナノチューブに分類される。これら全てのカーボンナノチューブは、前記導電性熱可塑性樹脂組成物に制限なしに用いられうる。
【0035】
前記カーボンナノチューブは、1〜50nm、好ましくは2〜10nmの厚さを有し、0.01〜10μm、好ましくは1〜10μmの長さを有する。前記厚さ及び長さに基づいて、前記カーボンナノチューブは、100以上、好ましくは100〜1000のアスペクト比(L/D)を有する。その結果、前記カーボンナノチューブは、熱可塑性樹脂に均一に分配されることで、前記導電性熱可塑性樹脂が優れた導電性を有しうる。
【0036】
そして、前記カーボンナノチューブは、0.1〜10重量部の含量で前記導電性熱可塑性樹脂組成物に用いられる。前記カーボンナノチューブは、1〜5重量部で用いられるのが好ましい。前記カーボンナノチューブの含量が0.1重量部未満であると、前記導電性熱可塑性樹脂に所望の程度の導電性を付与するのが難しい。前記カーボンナノチューブの含量が10重量部を超えると、前記導電性熱可塑性樹脂の機械的特性及び物理的特性が低下するおそれがある。
【0037】
また、前記導電性熱可塑性樹脂組成物は、さらに衝撃補強材を含む。衝撃補強材としては、任意のゴム系衝撃補強材、例えば、コアシェルグラフト共重合体、シリコン重合体、オレフィン重合体、及びこれらの混合物からなる群より選択されるゴム衝撃補強材を使用することができる。
【0038】
このような衝撃補強材が導電性熱可塑性樹脂組成物に含まれることで、それらの中でゴム粒子が分配され、それらの物理的特性、例えば、耐衝撃性がより向上する。したがって、導電性熱可塑性樹脂に導電性を付与するために用いられるカーボンナノチューブまたは後述する導電性金属酸化物によって導電性熱可塑性樹脂の物理的特性の低下を補償することにより、より優れた物理的特性の導電性熱可塑性樹脂が得られる。
【0039】
コアシェルグラフト共重合体は、ゴム単量体を重合し、得られたゴム重合体のゴムコアに、所定の不飽和化合物をグラフトして得られる。コアシェルグラフト共重合体は、不飽和化合物がゴムコアにグラフトして硬いシェル形態となるコアシェル構造をなしている。
【0040】
コアシェルグラフト共重合体は、例えば、C〜Cのジエン系ゴム単量体、アクリレート系ゴム単量体及びシリコンゴム単量体からなるグループから選択された少なくとも一つ以上を重合したゴム重合体コアに、メチルメタクリレート、スチレンまたはアクリロニトリルなどの不飽和化合物がグラフトしたコアシェル構造をなしている。
【0041】
前記コアシェルグラフト共重合体は、ゴムコア20〜90重量%及び前記ゴムコアにグラフトされているシェル10〜80重量%を含むことが好ましい。これによって、導電性熱可塑性樹脂の機械的特性、例えば、耐衝撃性をより効果的に補償することができる。
【0042】
また、前記コアシェルグラフト共重合体を得るための前記ジエン系ゴム単量体としては、ブタジエンゴム、アクリルゴム、エチレン/プロピレンゴム、スチレン/ブタジエンゴム、アクリロニトリル/ブタジエンゴム、イソプレンゴム及びエチレン−プロピレン−ジエンの共重合体(EPDM)ゴムなどを使用することができる。そして、前記アクリレート系ゴム単量体としては、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ヘキシルメタクリレート及び2−エチルヘキシルメタクリレートなどを使用することができる。また、ゴム単量体を重合するための硬化剤としては、エチレングリコールジメタクリレート、プロピレングリコールジメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート、1,4−ブチレングリコールジメタクリレート、アリルメタクリレート及びトリアリルシアヌレートなどを使用することができる。
【0043】
そして、前記シリコンゴム単量体としては、ヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン、トリメチルトリフェニルシクロトリシロキサン、テトラメチルテトラフェニルシクロテトラシロキサン及びオクタフェニルシクロテトラシロキサンなどを使用することができる。また、前記シリコンゴム単量体を重合するための硬化剤としては、トリメトキシメチルシラン、トリエトキシフェニルシラン、テトラメトキシシラン及びテトラエトキシシランなどを使用することができる。
【0044】
ただし、前記コアシェルグラフト共重合体を形成するためのゴム単量体としては、制限されるものでなく、ジエン系ゴム単量体、アクリレート系ゴム単量体及びシリコンゴム単量体が含まれる。さらに、特別な制限なく、任意のジエン系ゴム単量体、アクリレート系ゴム単量体及びシリコンゴム単量体が用いられうる。
【0045】
上述したように、前記衝撃補強材として、シリコン重合体またはオレフィン重合体もまた使用される。
【0046】
このとき、前記シリコン重合体としては、ヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン、トリメチルトリフェニルシクロトリシロキサン、テトラメチルテトラフェニルシクロテトラシロキサン及びオクタフェニルシクロテトラシロキサンからなる群より選択された一つ以上のシリコンゴム単量体を重合した重合体、及びこれらの混合物を使用することもできる。このとき、前記シリコンゴム単量体を重合するための硬化剤としては、トリメトキシメチルシラン、トリエトキシフェニルシラン、テトラメトキシシランまたはテトラエトキシシランなどを使用することができる。
【0047】
また、前記オレフィン重合体としては、エチレン、プロピレン、イソプロピレン、ブチレン及びイソブチレンからなる群より選択された一つ以上の単量体を重合した重合体及びこれらの混合物を使用することもできる。前記オレフィン重合体は、オレフィン重合触媒、例えば、チーグラー・ナッタ触媒を用いて製造することができる。他の方法として、選択的な構造の重合体を得るために、メタロセン系触媒を用いることもできる。このとき、熱可塑性樹脂と重合体の分散性を向上させるために、無水マレイン酸のような官能基をオレフィン重合体にグラフトすることもできる。
【0048】
衝撃補強材の適した例としてシリコン重合体及びオレフィン重合体を上述した。シリコン重合体またはオレフィン重合体は、熱可塑性樹脂の機械的特性、例えば、耐衝撃性を改善できると知られているものであれば、特に制限なく使用することができる。
【0049】
衝撃補強材は、前記熱可塑性樹脂及びカーボンナノチューブを合わせた100重量部を基準として、0.1〜10重量部の含量範囲で含まれうる。これによって、導電性熱可塑性樹脂の耐衝撃性、引張強度、屈曲強度及び屈曲弾性率などの物理的特性をより向上させることができ、カーボンナノチューブの配向性及び移動性を抑制することによって、前記導電性熱可塑性樹脂に優れた導電性を付与することができる。
【0050】
前記導電性熱可塑性樹脂組成物は、さらに、導電性金属酸化物を含む。導電性金属酸化物は、前記導電性熱可塑性樹脂組成物の射出中に前記カーボンナノチューブの配向性または移動性を抑制することで、カーボンナノチューブ間の分離を抑制することができる。したがって、より優れた導電性を有する導電性熱可塑性樹脂を得ることができる。
【0051】
前記導電性金属酸化物としては、導電性を有する任意の金属酸化物でありうる。導電性金属酸化物の例としては、酸化チタニウム、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化スズ、酸化インジウムスズ、酸化アンチモン、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化バリウム、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化クロミウム及び酸化鉄が挙げられる。導電性金属酸化物としては、これらを単独でも混合物でも使用することができる。また、導電性金属酸化物の導電性をより向上させるために、アルミニウム、ガリウム、ゲルマニウム、インジウム及びスズからなる群より選択される金属で導電性金属酸化物をドーピング、コーティングまたは混合しうる。さらに、その他の物理的・化学的技術を用いて金属酸化物と金属を結合させうる。そして、前記導電性金属酸化物としては、形状に制限はなく、粒子型、繊維型、薄型またはアモルファス(amorphous)型であってよい。
【0052】
前記導電性金属酸化物としては、導電性酸化亜鉛を好ましく使用することができる。そして、前記導電性酸化亜鉛は、様々な酸化亜鉛を用いて製造することができる。導電性酸化亜鉛は、基本構成粒子(いわゆる1次粒子)の状態、またはこれら基本構成粒子が融着によって連結された凝集粒子(いわゆる2次粒子)の状態からなる。このうち、凝集粒子であることが好ましい。
【0053】
また、前記導電性酸化亜鉛は、平均粒径が300nm以下、好ましくは200nm以下である。
【0054】
そして、前記導電性酸化亜鉛は、アルミニウム、ガリウム、ゲルマニウム、インジウム及びスズからなる群より選択されるひとつの金属と酸化亜鉛が結合した構造を有する。結合は、ドーピング、コーティング、混合またはその他の物理的・化学的結合技術でなしえる。
【0055】
前記導電性金属酸化物は、熱可塑性樹脂及びカーボンナノチューブを合わせた100重量部を基準として、0.1〜10重量部、好ましくは0.5〜5重量部の含量範囲で用いられうる。前記導電性金属酸化物の含量が0.1重量部未満であると、カーボンナノチューブの予期せぬ配向性または移動性を抑制できなくなる。結果として、カーボンナノチューブ間の分離を効果的に抑制することができなくなり、したがって導電性熱可塑性樹脂の導電性が低下するおそれがある。一方、前記導電性金属酸化物の含量が10重量部を超えると、導電性熱可塑性樹脂の機械的特性、例えば、耐衝撃性が低下するおそれがある。
【0056】
導電性熱可塑性樹脂組成物は、目的とする用途に合う添加剤をさらに含むこともできる。添加剤の例としては、ビニル共重合体、潤滑剤、離型剤、可塑剤、核剤、安定剤、難燃剤、顔料、染料、補強材及び無機物添加剤などが挙げられる。添加剤は、30重量部以下の含量範囲で前記導電性熱可塑性樹脂組成物に含まれる。
【0057】
導電性熱可塑性樹脂の製造は、各構成成分を混合して導電性熱可塑性樹脂組成物を製造し、前記樹脂組成物を押出機内で溶融・押出する一般的な方法を通してなしえる。プラスチック成形品は前記導電性熱可塑性樹脂から製造されうる。
【0058】
本発明の他の実施形態によれば、導電性熱可塑性樹脂組成物によって製造されたプラスチック成形品が提供される。プラスチック成形品は、例えば、熱可塑性樹脂基材と、前記熱可塑性樹脂基材に分散されているカーボンナノチューブ、前記熱可塑性樹脂基材に分散されている衝撃補強材及び前記熱可塑性樹脂基材に分散されている導電性金属酸化物とを含みうる。
【0059】
プラスチック成形品は、カーボンナノチューブと、前記熱可塑性樹脂に分散されたカーボンナノチューブの配向性または移動性を抑制する導電性金属酸化物との相互作用によって、より向上した導電性を有することができる。また、前記熱可塑性樹脂に分散された前記衝撃補強材は、カーボンナノチューブ及び導電性金属酸化物の含有により、プラスッチク成形品の耐衝撃性などの機械的特性の低下が補償され、よってプラスチック成形品は優れた機械的特性を有する。
【0060】
したがって、前記プラスチック成形品は、自動車、電気装置や電子組立体または電気ケーブルに導電性を付与し、帯電防止、静電気放電などの多様な用途に広範に好ましく使用される。
【実施例】
【0061】
[発明の形態]
以下、本発明の実施例を通して、本発明をより詳細に理解しうる。ただし、この実施例によって本発明が制限されることはない。
【0062】
後述する実施例及び比較例で使用する(A)熱可塑性樹脂(ポリカーボネート樹脂)、(B)カーボンナノチューブ、(C)衝撃補強材及び(D)導電性金属酸化物の詳細は、以下の通りである。
【0063】
(A)熱可塑性樹脂(ポリカーボネート樹脂)
熱可塑性樹脂から選択されたポリカーボネート樹脂として、重量平均分子量(Mw)が25,000g/molであるビスフェノール−Aポリカーボネートを使用した。
【0064】
(B)カーボンナノチューブ
カーボンナノチューブとして、厚さが10〜50nm、長さが1〜2μm、多層カーボンナノチューブである(株)CNT社のC−tube 100製品を使用した。
【0065】
(C)衝撃補強材
衝撃補強材として、三菱化学社のエチルアクリレート−ブタジエン−スチレン共重合体であるC−223A(平均粒径:100nm〜1μm)を使用した。
【0066】
(D)導電性金属酸化物
導電性金属酸化物として、Hakushi Tech社の製品である23−Kの導電性酸化亜鉛を使用した。
【0067】
実施例1〜5及び比較例1〜4
実施例1〜5及び比較例1〜4で使用した成分組成を、下記の表1及び2に示した。表1及び2の組成に従い各成分を混合して導電性熱可塑性樹脂組成物を製造した。この組成物をL/D=36、Φ=45mmである二軸押出機を使用して押出した後、押出物をペレットに製造した。10oz射出機で射出温度270℃で射出し、各種の物理的特性及び導電性を測定するための10cm×10cmの試片を製造した。
【0068】
まず、表面抵抗測定機を使用して、前記試片に対する導電性(表面抵抗)を測定した(導電性評価)。
【0069】
また、一定の重さの振り子を用いてプラスチックのアイゾット衝撃強度を測定する米国の標準試験方法であるASTM D256に従い、前記試片のノッチアイゾット衝撃強度(1/8”)を測定した(耐衝撃性評価)。
【0070】
導電性及び耐衝撃性の測定結果を、下記の表1及び2に示した。
【0071】
【表1】

【0072】
【表2】

【0073】
上記の表1及び2より、カーボンナノチューブ、衝撃補強材及び導電性金属酸化物のすべての成分を含んだ実施例1〜5の試片は、これらの成分のうち何れか一つまたは二つのみを含む比較例1、3及び4の試片に比べて、優れた導電性を示した。また、実施例1〜5の試片は、衝撃補強材を含まない比較例2の試片に比べて、優れた耐衝撃性を示した。
【0074】
したがって、実施例1〜5の試片は、比較例1〜4の試片と比べて、優れた導電性及び耐衝撃性を有することが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂の80〜99.9重量部と、
カーボンナノチューブの0.1〜10重量部と、
前記熱可塑性樹脂及びカーボンナノチューブを合わせた100重量部を基準として、衝撃補強材の0.1〜10重量部と、
前記熱可塑性樹脂及びカーボンナノチューブを合わせた100重量部を基準として、導電性金属酸化物の0.1〜10重量部と、を含む導電性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂は、ポリアセタール、アクリル樹脂、ポリカーボネート、スチレン樹脂、ポリエステル、ビニル樹脂、ポリフェニレンエーテル、ポリオレフィン、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、ポリアリレート、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリアリルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、フッ素樹脂、ポリイミド、ポリエーテルケトン、ポリベンゾオキサゾール、ポリオキサジアゾール、ポリベンゾチアゾール、ポリベンズイミダゾール、ポリピリジン、ポリトリアゾール、ポリピロリジン、ポリジベンゾフラン、ポリスルホン、ポリウレア、ポリホスファゼン、液晶重合体樹脂、及びこれらの共重合体または混合物からなる群より選択される、請求項1に記載の導電性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂はポリカーボネート樹脂を含み、
前記ポリカーボネート樹脂は、下記化学式(1)のジフェノール化合物と、ホスゲン、ギ酸ハロゲンまたは炭酸ジエステルとを反応して製造された芳香族ポリカーボネート樹脂を含む、請求項2に記載の導電性熱可塑性樹脂組成物。
【化1】

式中、Aは、単結合、C−Cのアルキレン、C−Cのアルキリデン、C−Cのシクロアルキリデン、−S−または−SO−を表し、Xはハロゲンを表し、nは0、1または2を表す。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂は、15,000〜50,000g/molの重量平均分子量を有するポリカーボネート樹脂を含む、請求項2に記載の導電性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
前記カーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブまたは多層カーボンナノチューブを含む、請求項1に記載の導電性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
前記カーボンナノチューブは、1〜50nmの厚さ及び0.01〜10μmの長さを有する、請求項1に記載の導電性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項7】
前記カーボンナノチューブは100〜1000のアスペクト比を有する、請求項1に記載の導電性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項8】
前記衝撃補強材は、コアシェルグラフト共重合体、シリコン重合体、オレフィン重合体及びこれらの混合物からなる群より選択される、請求項1に記載の導電性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項9】
前記コアシェルグラフト共重合体は、C〜Cのジエン系ゴム単量体、アクリレート系ゴム単量体及びシリコンゴム単量体からなる群より選択された少なくとも一つ以上から重合されたゴムコアに、
メチルメタクリレート、スチレン及びアクリロニトリルからなる群より選択された少なくとも一つ以上の不飽和化合物がグラフトされてコアシェル構造をなしている、請求項8に記載の導電性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項10】
前記シリコン重合体は、ヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン、トリメチルトリフェニルシクロトリシロキサン、テトラメチルテトラフェニルシクロテトラシロキサン及びオクタフェニルシクロテトラシロキサンからなる群より選択された少なくとも一つ以上の単量体からなる重合体を含む、請求項8に記載の導電性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項11】
前記オレフィン重合体は、エチレン、プロピレン、イソプロピレン、ブチレン及びイソブチレンからなる群より選択された少なくとも一つ以上の単量体からなる重合体を含む、請求項8に記載の導電性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項12】
前記導電性金属酸化物は、酸化チタニウム、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化スズ、酸化インジウムスズ、酸化アンチモン、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化バリウム、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化クロミウム、酸化鉄及びそれらの混合物からなる群より選択された少なくとも一つ以上を含む、請求項1に記載の導電性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項13】
前記導電性酸化亜鉛は、アルミニウム、ガリウム、ゲルマニウム、インジウム及びスズからなる群より選択された金属が結合した酸化亜鉛を含む、請求項12に記載の導電性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項14】
請求項1〜13のうちいずれか1項に記載の導電性熱可塑性樹脂組成物によって製造されるプラスチック成形品。
【請求項15】
熱可塑性樹脂基材と、
前記熱可塑性樹脂基材に分散されているカーボンナノチューブと、
前記熱可塑性樹脂基材に分散されている衝撃補強材と、
前記熱可塑性樹脂基材に分散されている導電性金属酸化物と、
を含むプラスチック成形品。

【公表番号】特表2010−513655(P2010−513655A)
【公表日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−542623(P2009−542623)
【出願日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際出願番号】PCT/KR2006/005856
【国際公開番号】WO2008/078849
【国際公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【出願人】(500005066)チェイル インダストリーズ インコーポレイテッド (263)
【Fターム(参考)】