説明

導電性組成物

【課題】本発明は、均一塗膜の形成が可能であり、形成された塗膜中において、導電性成分が局在化することによって、導電性成分の配合量を最小限にすることが可能な導電性組成物の提供を目的とする。
【解決手段】ポリアニオン(A−1)によってドープされたπ共役高分子(A−2)と、塩基性有機化合物(A−3)とのイオン対であり、有機溶剤中で溶解または分散可能である導電性材料(A)、非導電性のバインダー(B)、親水性化合物(C)、および、前記化合物(A−3)と前記バインダー(B)とを溶解または分散する有機溶剤(D)、を含んでなる導電性組成物であって、
前記化合物(A−3)、前記バインダー(B)、および前記化合物(C)それぞれの溶解度パラメーター(SP値)をそれぞれδ(A−3)、δ(B)、δ(C)(J/cm31/2とすると、δ(A−3)<δ(B)<δ(C)、であることを特徴とする導電性組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性組成物に関し、さらに詳しくは、工業的に汎用であり、乾燥工程で環境に対して負荷のかかるハロゲン系溶剤を使用することなく、水溶性の低い溶剤中でも安定に溶解または分散された導電性組成物に関し、その導電性組成物は、均一塗膜の形成が可能であり、形成された塗膜中において、導電性成分が局在化することによって、導電性成分の配合量を最小限にすることを可能にし、塗膜に求められる導電性以外の物性の低下を最小限に抑えることが可能である。形成される塗膜は、透過度および抵抗特性が非常に優れており、各種帯電防止剤、電池、防食塗料、EMIシールド、化学センサー、表示素子、非線形材料、防食剤、接着剤、繊維、帯電防止塗料、導電性塗料、防食塗料、電着塗料、メッキプライマー、電気防食、電池の蓄電能力向上に適用可能である。
【背景技術】
【0002】
電子工学および光学製品の様々な性能が、導電性を有するπ共役高分子を含有させることによって高められるという認識が高まっている。そのような物の例には、様々な電子工学的実施のみならず、帯電防止コーティング剤や帯電防止フィルムが含まれる。
【0003】
電子工学および光学製品は極めて高い耐水性や平滑性などを要求されるため、汎用有機溶剤系での検討が続けられると予想されるが、π共役高分子の多くが汎用有機溶剤系樹脂に対して十分に溶解または分散することができないために、不十分な導電性、不十分な透明性、低安定性、困難な加工条件を抱えている。
【0004】
例えば、特許文献1に開示されるスルホン酸基および/またはカルボキシル基を有する水溶性アニリン系導電性ポリマーを主成分とする静電塗装用導電性プライマー組成物、および該組成物を用いた静電塗装方法は、簡便な方法で塗工可能であり、導電性に優れ、静電塗装効果の点でも優れている。しかしながら該発明で用いられている導電性ポリマーは水溶性であるため、帯電防止膜として十分な耐水性を有しておらず、上塗りとして水系のベースコートを用いた場合には導電性ポリマーの色がベースコートに混ざってしまい、また汎用溶剤系樹脂に配合した場合は、溶解または十分な分散性を得ることができないという課題点を有している。
【0005】
また、特許文献2や特許文献3では、良好な導電性、透明度、安定性、加水分解抵抗性および加工特性を有する導電性組成物、およびその製造方法が報告されている。ただし、該組成物は、水または低級アルコール等の水と任意の割合で混和する溶剤中で製造されており、酢酸エチル、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、トルエン、シクロへキサノンなどの、工業的に汎用な溶剤を用いて製造することができず、従って、汎用な溶剤型コーティング剤への適用が困難であった。
【0006】
さらに、特許文献4に開示されるチオフェン混合物中の水を置換する溶媒交換法では、チオフェンとしてBaytronTM製剤を用いて水の一部または全てを少なくとも一つの他の溶媒で効率よく置換する方法を提供している。しかしながら、水以外の溶媒として低アルキルアセトアミド、ジオールおよびトリオールを含む低級アルコール、ピロリドン、低アルキルピロリドン、高アルキルピロリドン、低アルキルスルホキシドおよびそれらの混合物や、好ましい低級アルコールとしてグリコールまたはグリセリンを挙げ、適した低アルキルスルホキシドにはジメチルスルホキシド(DMSO)が含まれ、特に好ましい溶媒としてN,N−ジメチルアセトアミド(DMAC)およびN−メチルピロリドン(NMP)が含まれており、さらにアセトニトリル、ベンゾニトリル、メチルアセテート、ジクロロメタン、ジエチルエーテル、ジメトキシエタン、N,N−ジメチルホルムアミド、ニトロベンゼン、ニトロメタン、プロピオニトリルおよびプロピレン炭酸塩、ジクロロメタンとジブロモメタンなどが挙げられている。これらは、親水性が強く汎用な溶剤型コーティング剤への適用が困難な溶剤、または、乾燥工程で環境に対して負荷のかかるハロゲン系溶剤であり、工業的に汎用な溶剤ではない。すなわち、特許文献4では、チオフェン混合物を酢酸エチル、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、トルエン、シクロへキサノンなどの、水溶性が低く、工業的に汎用な溶剤中に安定に溶解または分散されているものは開示されていない。
【0007】
特許文献2〜5では、ポリスチレンスルホン酸によってドープされたポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)を用いて、塗膜に導電性を付与しながら、π共役高分子の量を少量に抑える検討の例が記載されている。この中で最も少量なのが、重量で塗膜中の15%であり、塗膜の他の性能を保持するためにはより少量で導電性を発現する必要がある。
【特許文献1】特開平10−147748号公報
【特許文献2】特開平7−90060号公報
【特許文献3】特開平8−48858号公報
【特許文献4】特表2004−532292号公報
【特許文献5】特開2003−154616号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、工業的に汎用であり、乾燥工程で環境に対して負荷のかかるハロゲン系溶剤を使用することなく、水溶性の低い溶剤中でも安定に溶解または分散された導電性組成物の提供を目的とする。さらに、均一塗膜の形成が可能であり、形成された塗膜中において、導電性成分が局在化することによって、導電性成分の配合量を最小限にすることを可能にし、塗膜に求められる導電性以外の物性の低下を最小限に抑えることが可能な導電性組成物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ポリアニオン(A−1)によってドープされたπ共役高分子(A−2)と、塩基性有機化合物(A−3)とのイオン対であり、有機溶剤中で溶解または分散可能である導電性材料(A)、非導電性のバインダー(B)、親水性化合物(C)、および、前記化合物(A−3)と前記バインダー(B)とを溶解または分散する有機溶剤(D)、を含んでなる導電性組成物であって、
前記化合物(A−3)、前記バインダー(B)、および前記化合物(C)それぞれの溶解度パラメーター(SP値)をそれぞれδ(A−3)、δ(B)、δ(C)(J/cm31/2とすると、δ(A−3)<δ(B)<δ(C)、であることを特徴とする導電性組成物に関する。
【0010】
さらに本発明は、化合物(A−3)、バインダー(B)、および化合物(C)の溶解度パラメーター(SP値)が、δ(A−3)<23、23<δ(B)<28、および、28<δ(C)であることを特徴とする上記導電性組成物に関する。
【0011】
さらに本発明は、化合物(C)が、2つ以上のヒドロキシル基を有する上記導電性組成物に関する。
【0012】
さらに本発明は、バインダー(B)が、重合性不飽和基を有する上記導電性組成物に関する。
【0013】
さらに本発明は、バインダー(B)とは異なるバインダー(E)を含み、(E)の溶解度パラメーター(SP値)をδ(E)(J/cm31/2とすると、δ(E)<δ(A−3)であり、かつ、
バインダー(E)とバインダー(B)との重量比が、1:99〜50:50であることを特徴とする上記導電性組成物に関する。
【0014】
さらに本発明は、バインダー(E)が、重合性不飽和基を有する上記導電性組成物に関する。
【0015】
さらに本発明は、光重合開始剤(F)を含む上記導電性組成物に関する。
【0016】
さらに本発明は、上記導電性組成物を形成してなる導電膜に関する。
【0017】
さらに本発明は、上記導電性組成物を基材上に形成する工程を含むことを特徴とする導電膜の製造方法に関する。
【0018】
さらに本発明は、基材と上記導電膜とを有する積層体に関する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によって、各種帯電防止剤、電池、防食塗料、EMIシールド、化学センサー、表示素子、非線形材料、防食剤、接着剤、繊維、帯電防止塗料、導電性塗料、防食塗料、電着塗料、メッキプライマー、電気防食、電池の蓄電能力向上することが可能である。特に、透明性、膜硬度など導電性以外の膜物性が必要とされる、反射防止膜、ハードコート膜、光学用粘接着剤、光学部材用保護フィルムなどの光学材料においては、本発明の特徴を有利に用いることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明の導電性組成物は、以下の成分を含むものである。
【0021】
(A)ポリアニオン(A−1)によってドープされたπ共役高分子(A−2)と、塩基性有機化合物(A−3)とのイオン対であり、有機溶剤中で溶解または分散可能である導電性材料。(以下「導電性成分(A)」)
(B)非導電性のバインダー。(以下「バインダー(B)」)
(C)親水性化合物。(以下「化合物(C)」
(D)前記導電性成分(A)およびバインダー(B)を溶解または分散する有機溶剤。
【0022】
(以下「溶剤(D)」)
本発明の導電性組成物は、基材上に塗布し、室温または加熱により溶剤(D)を揮発させることで、導電性成分(A)が多く含まれる層と、導電性成分(A)がほとんど含まれない層とを形成することができる。このように、本発明の導電性組成物を使用することにより、導電性成分(A)を塗膜中で局在化させることができ、必要な導電性を保つための導電性成分(A)の量を最小限に抑えることができる。このとき、導電性成分(A)が多く含まれる層は、必要な導電性が保たれている限り、塗膜中のどの部分に存在してもなんら問題はない。また、必ずしも層を形成していなくてもよく、塗膜中で導電性成分(A)が多く含むドメインが膜中で連続的に存在し、その結果面内方向において必要な導電性が保たれていればなんら問題ない。特に、塗膜表面に導電性成分(A)を多く含む層が形成されることが、高導電性を必要とする場合や、導電性成分(A)の量を最小限に抑える場合に好ましい。
【0023】
化合物(C)は、導電性成分(A)を塗膜中で局在化させる過程において、局在化を促進または誘発する成分である。化合物(C)が、導電性成分(A)よりもバインダー(B)と親和する化合物であると、導電性成分(A)とバインダー(B)の相溶性が化合物(C)によって変化し、局在化の促進または誘発する機能を発現すると考えられる。
【0024】
各成分の親和性は、溶解度パラメーター(SP値)から予測することが可能である。SP値は、化合物の分子構造からFedors法(POLYMER ENGINEERING AND SCIENCE,FEBRUARY,1974,Vol.14,No.2 147−154に記載)によって計算することができる。化合物(A−3)、バインダー(B)、化合物(C)それぞれの溶解度パラメーター(SP値)をそれぞれδ(A−3)、δ(B)、δ(C)(J/cm31/2とすると、
δ(A−3)<δ(B)<δ(C)、
の関係にあることが、導電性成分(A)の局在化を促進または誘発するためには好ましい。さらには、δ(A−3)<23、23<δ(B)<28、および、28<δ(C)であることがより好ましく、さらには、δ(A−3)<23、23<δ(B)<27、および、30<δ(C)であることが特に好ましい。
【0025】
次に、本発明で用いる導電性組成物の各成分について説明する。
<ポリアニオン(A−1)によってドープされたπ共役高分子(A−2)と、塩基性有機化合物(A−3)とのイオン対であり、有機溶剤中で溶解または分散可能である導電性材料(A)>
本発明に用いるπ共役高分子(A−2)は、たとえば、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリフェニレン、ポリフェニレンビニレン、ポリナフタレン、ポリイソチアナフテン、ポリフラン、ポリセレノフェン、ポリフルオレン、ポリカルバゾール、これらの誘導体が挙げられ、それぞれ対応する単量体を重合して得ることができる。また、2種以上の単量体を共重合したものも含まれる。
【0026】
上記の単量体として、好ましくは、チオフェン、3−チオフェンカルボキシアミド、3−チオフェンマロン酸、3−チオフェンメタノール、3−チオフェンエタノール、3,4−ジメトキシチオフェン、3,4−ジエトキシチオフェン、3,4−エチレンジオキシチオフェン、3−チオフェンアルデヒド、3−ヘキシルチオフェン、3−オクチルチオフェン、3−ブチルチオフェン、3−ドデシルチオフェン、3−ドコシルチオフェン、3−チオフェンカルボン酸、3−チオフェンアセトニトリル、3−チオフェンカルボキシアルデヒド、3−チオフェンアセチルクロライド、3−チオフェンホウ酸、3−チオフェンカルボキシルクロライド、3−チオフェンエタンスルフォネート、3−チオフェンブタンスルフォネート、ピロール、アニリン、アニリン−2,5−ジスルホン酸ナトリウム、アミノベンゼンスルホン酸、オルト−アニシジン、メタ−アニシジン、オルト−アニシジン塩酸塩、メタ−アニシジン塩酸塩、カルバゾール、3−(N−カルバゾイル)プロピン等を使用することができ、これら単量体は、単独でも2種類以上を併用しても使用することができる。
【0027】
次に、本発明に用いるポリアニオン(A−1)について説明する。ポリアニオン(A−1)を構成する酸基含有単量体としては、例えば、スルホン酸基、リン酸基、カルボキシル基、またはそれらと塩基性化合物との塩形成基などの官能基を含有する単量体であれば、特に限定されないが、スルホン酸基、リン酸基などの強酸基を含有するものが好ましく使用できる。
【0028】
スルホン酸基を含有する単量体としては、例えば、スチレンスルホン酸、アリルオキシベンゼンスルホン酸、メタリルオキシベンゼンスルホン酸、ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、メタリルスルホン酸、4−スルフォニックアシドブチルメタクリレート、イソプレンスルホン酸、スルホブチルメタクリレート、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、スルホエチルメタクリレートなどが挙げられる。これらの単量体は、単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができ、アンモニア、トリエチルアミン、水酸化ナトリウムなどの塩基で中和した塩形成基の状態で使用することもできる。さらに、樹脂を重合した後、硫酸、発煙硫酸、スルファミン酸等のスルホン化剤によりスルホン化することも好ましい。
【0029】
リン酸基を含有する単量体としては、例えば、3−クロロ−2−アシッドホスホキシプロピル(メタ)アクリレート、アシッドホスホキシポリオキシエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、モノ(2−ヒドロキシエチルアクリレート)アシッドホスフェート、モノ(2−ヒドロキシエチルメタクリレート)アシッドホスフェート、モノ(2−ヒドロキシプロピルアクリレート)アシッドホスフェート、モノ(2−ヒドロキシプロピルメタクリレート)アシッドホスフェート、モノ(3−ヒドロキシプロピルアクリレート)アシッドホスフェート、モノ(3−ヒドロキシプロピルメタクリレート)アシッドホスフェート、ジフェニル−2−アクリロイルオキシエチルホスフェート、ジフェニル−2−メタクリロイルオキシエチルホスフェートなどが挙げられる。これらの単量体は、単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができ、アンモニア、トリエチルアミン、水酸化ナトリウムなどの塩基で中和した塩形成基の状態で使用することもできる。
【0030】
カルボキシル基を含有する単量体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸等のエチレン性不飽和モノカルボン酸;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等のエチレン性不飽和多価カルボン酸およびそれらの酸無水物;マレイン酸メチル、イタコン酸メチル等のエチレン性不飽和多価カルボン酸の部分エステル化物;等を挙げることができる。これらの単量体は、単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができ、アンモニア、トリエチルアミン、水酸化ナトリウムなどの塩基で中和した塩形成基の状態で使用することができる。
【0031】
ポリアニオン(A−1)は、前記酸基含有単量体以外の単量体と共重合することができる。酸基含有単量体と共重合可能な他の単量体は、公知の化合物を何等制限なく使用することができる。例えば、1,3−ブタジエン、イソプレン、2−クロロ−1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン等の共役ジエン単量体;スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン等の芳香族ビニル単量体;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル等のエチレン性不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体;アクリルアミド、メタクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド等のエチレン性不飽和カルボン酸アミド単量体;(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキル、グリセリンジ(メタ)アクリレ―ト等のエチレン性不飽和カルボン酸ヒドロキシアルキルエステル単量体;酢酸ビニル等のカルボン酸ビニルエステル単量体;(メタ)アクリロニトリル、N−ビニルピロリドン、(メタ)アクリロイルモルホリン、シクロヘキシルマレイミド、イソプロピルマレイミド、(メタ)アクリル酸グリシジル等が挙げられる。これらは単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0032】
ポリアニオン(A−1)は、上記単量体を、開始剤を用いてラジカル重合することで得ることができる。
【0033】
さらに、本発明に用いるポリアニオン(A−1)は、エポキシ樹脂の末端エポキシ基の少なくとも一部を、リン含有酸でエステル化することにより生ずる水溶性リン酸エステル化物でもあり得る。
【0034】
ポリアニオン(A−1)の重量平均分子量は、好ましくは1,000〜2,000,000の範囲、より好ましくは2,000〜500,000の範囲である。
【0035】
次に、塩基性有機化合物(A−3)について説明する。ポリアニオン(A−1)によってドープされたπ共役高分子(A−2)は、通常ポリアニオン(A−1)が過剰に含まれており、水または極性の高い有機溶剤にしか溶解または分散しない。塩基性有機化合物(A−3)を添加することで、この過剰のアニオンをキャップし、より極性の低い有機溶剤に溶解または分散できる。
【0036】
化合物(A−3)は、公知のアミン化合物(A−3a)またはカチオン性乳化剤(A−3b)もしくは塩基性樹脂(A−3c)などが使用できる。特に化合物(A−3)の溶解度パラメーターδ(A−3)が、δ(A−3)<23であることが好ましい。
【0037】
本発明で用いるアミン化合物(A−3a)としては、例えば、N−メチルオクチルアミン、メチルベンジルアミン、N−メチルアニリン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジエタノールアミン、N−メチルエタノールアミン、ジ−n−プロピルアミン、ジイソプロピルアミン、メチル−イソプロパノールアミン、ジブチルアミン、ジ−2−エチルヘキシルアミン、アミノエチルエタノールアミン、3−アミノ−1−プロパノール、イソプロピルアミン、モノエチルアミン、2−エチルヘキシルアミン、t−ブチルアミン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0038】
さらに本発明で用いる前記カチオン性乳化剤(A−3b)としては、例えば、モノメチルアミン、モノエチルアミン、ステアリルアミン等の1級アミンの塩酸塩、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジステアリルアミン等の2級アミンの塩酸塩、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ステアリルジメチルアミン等の3級アミンの塩酸塩、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のエタノールアミン類の塩酸塩、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン等のポリエチレンポリアミン類の塩酸塩、ステアリルトリメチルアンモニウムクロリド、ジステアリルジメチルアンモニウムクロリド、ステアリルジメチルアンモニウムクロリド等の4級アンモニウム塩等が挙げられ、単独使用または併用することができる。
【0039】
アミン化合物(A−3a)およびカチオン性乳化剤(A−3b)の使用量に制限はないが、π共役高分子(A−2)とポリアニオン(A−1)との合計をベースとして、1〜100,000重量%、好ましくは10〜10,000重量%の範囲で添加されるのが好ましい。
【0040】
さらに本発明で用いる前記塩基性樹脂(A−3c)の一例としては、特許文献6〜9に開示されているポリエステル系、アクリル系、ウレタン系等のアミノ基(1級、2級、3級、4級塩)含有高分子共重合物からなるものである。このような塩基性樹脂(A−3c)としては、例えば、Solsperse24000(ゼネカ株式会社製)、Disperbyk−160、Disperbyk−161、Disperbyk−162、Disperbyk−163、Disperbyk−170(ビックケミー社製)、アジスパーPB711、アジスパーPB821、アジスパーPB822、アジスパーPB824(味の素株式会社製)等が挙げられ、単独使用または併用することができる。塩基性樹脂(A−3c)の使用量に制限はないが、π共役系高分子(A−2)とポリアニオン(A−1)との合計をベースとして、1〜100,000重量%が好ましく、さらには、10〜10,000重量%の範囲で添加されるのがより好ましい。
(特許文献6)特開昭61−174939号公報
(特許文献7)特開昭46−7294号公報
(特許文献8)特開平09―169821号公報
(特許文献9)特開昭60−166318号公報
【0041】
導電性、透明性などを考慮すると、ポリアニオン(A−1)としてスチレンスルホン酸の単独重合または共重合体、π共役高分子(A−2)として3,4−エチレンジオキシチオフェンの単独重合または共重合体を用いたものが好ましい。塩基性有機化合物(A−3)としては、GPC測定におけるポリスチレン換算の重量平均分子量が、500〜1,000,000であるのが好ましく、1,000〜500,000であるのが特に好ましい。重量平均分子量が、500未満では十分な立体障害が得られず、分散効果が低下する場合があり、重量平均分子量が1,000,000より大きくても逆に凝集作用を生じる場合があり、好ましくない。また、化合物(A−3)のアミン価は、5〜200mgKOH/gが好ましく、さらには5〜50mgKOH/gが特に好ましい。アミン価が5mgKOH/g未満では、アニオンとの相互作用が不十分になり、十分な分散効果が得られない場合がある。また、アミン価が200mgKOH/gより大きい場合は、π共役系高分子(A−2)にドープしたポリアニオン(A−1)への親和部に比べ、立体障害層が少なくなり、分散効果が不十分になる場合がある。上記の理由から塩基性有機化合物(A−3)としては、塩基性樹脂(A−3c)が好ましい。
【0042】
導電性成分(A)の導電性をより向上するために適宜添加剤を加えてもよい。添加剤としてはラクタム、糖類および糖類誘導体、アルキレンジオール類、ポリエチレングリコール類、フランカルボン酸、ハロゲン置換酢酸などが挙げられる。具体的には、N−メチルピロリドン、ピロリドン、カプロラクタム、N−メチルカプロラクタム、N−オクチルピロリドン、ショ糖、グルコース、フルクトース、ラクトース、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、2−フランカルボン酸、3−フランカルボン酸、ジクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸、トリフルオロエタノール、m−クレゾールなどが挙げられる。
【0043】
<非導電性のバインダー(B)>
本発明で用いるバインダー(B)は、溶剤に溶解または分散可能であれば特に限定されるものではない。例えば、石油樹脂、カゼイン、セラック、ロジン変性マレイン酸樹脂、ロジン変性フェノール樹脂、ニトロセルロース、セルロースアセテートブチレート、環化ゴム、塩化ゴム、酸化ゴム、塩酸ゴム、フェノール樹脂、アルキド樹脂、ポリエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アミノ樹脂、エポキシ樹脂、ビニル樹脂、塩化ビニル、塩化ビニル−酢酸ビニル酸性基含有ウレタン樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、乾性油、合成乾性油、スチレン変性マレイン酸、ポリアミド樹脂、塩素化ポリプロピレン、ブチラール樹脂、塩化ビニリデン樹脂等が挙げられる。特に、塗膜に耐水性、耐溶剤性やハードコート性などを付与する場合は、光硬化性樹脂であることがより好ましい。
【0044】
バインダー(B)の溶解度パラメーター(SP値)をδ(B)とすると、22<δ(B)<28であることが好ましい。さらには23<δ(B)<27であることがより好ましい。
【0045】
<バインダー(B)とは異なるバインダー(E)>
本発明では、バインダー(B)とは異なるバインダー(E)を配合することができる。ここでバインダー(E)は、SP値において、δ(E)<δ(A)となるバインダーであることを特徴とする。このとき、バインダー(E)とバインダー(B)との重量比が、1:99〜50:50であることが好ましく、さらには1:99〜30:70であることがより好ましい。バインダー(E)の重量が50:50を超えてしまうと、導電性成分(A)の層の形成を妨げる場合がある。
【0046】
さらに、バインダー(B)および/またはバインダー(E)は、重合性不飽和基を有する化合物が好ましく、2つ以上有するものが特に好ましい。重合性不飽和基としては(メタ)アクリロイル基、ビニル基、アリル基、ビニルオキシ基、(メタ)アクリロイルフェニル基、ビニルフェニル基、ビニルオキシフェニル基、アリルフェニル基、マレイン酸基、イタコン酸基等が挙げられる。
【0047】
バインダー(B)および/またはバインダー(E)が、重合性不飽和基を有する化合物である場合、本発明の導電性組成物は、光硬化性の導電性組成物として使用することができる。光硬化性の導電性組成物として使用する場合は、光重合開始剤(F)を添加することができる。光重合開始剤(F)としては、光励起によってビニル重合を開始できる機能を有するものであれば特に限定はなく、例えばモノカルボニル化合物、ジカルボニル化合物、アセトフェノン化合物、ベンゾインエーテル化合物、アシルフォスフィンオキシド化合物、アミノカルボニル化合物等が使用できる。これらは上記化合物に限定されず、紫外線により重合を開始させる能力があればどのようなものでも構わない。これらは単独使用または併用することができ、使用量に制限はないが、被硬化物の乾燥重量の合計100重量部に対して1〜20重量部の範囲で添加されるのが好ましい。また、増感剤として公知の有機アミンを加えることもできる。
【0048】
<親水性化合物(C)>
化合物(C)は、SP値において、δ(A−3)<δ(B)<δ(C)の関係にある化合物である。特に28<δ(C)であることが好ましい。さらには30<δ(C)であることがより好ましい。また、化合物(C)が、2つ以上のヒドロキシ基を有する化合物であることが、特に好ましい。
【0049】
化合物(C)は、上記に示すSP値の範囲である化合物であれば、特に制限されるものではない。また、塗布後、溶剤(D)を乾燥する際に、溶剤(D)とともに揮発しても、揮発せずに塗膜中に残存しても、塗膜物性に支障がない範囲であればなんら問題ない。化合物(C)が揮発性の化合物の場合、溶剤(D)よりも沸点が高く、蒸発速度が遅いことが好ましい。具体的には、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールなどのポリエチレングリコール類、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオールなどのアルキレングリコール類、グリセリン、ショ糖、グルコース、ソルビトールなどの糖類またはその誘導体、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどのアルコールアミン類、チオジグリコールなどの硫黄含有ポリオール、などが挙げられる。
【0050】
<化合物(A)ならびにバインダー(B)を溶解または分散する有機溶剤(D)>
溶剤(D)は、化合物(A)ならびにバインダー(B)を溶解または分散し、均一で安定しているものであれば、特に限定されるものではなく、アルコール類、ケトン類、エステル類、エーテル類、セロソルブ類、芳香族炭化水素類、脂肪族炭化水素類など、種々の液状媒体であり、1種または2種以上の混合溶剤として使用することができる。具体的には、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、トルエン、キシレン、等が挙げられる。
【0051】
この他、本発明の導電性組成物には、目的を損なわない範囲で任意成分として、さらに溶剤、染料、酸化防止剤、重合禁止剤、レベリング剤、保湿剤、粘度調整剤、防腐剤、抗菌剤、アンチブロッキング剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、電磁波シールド剤、球状フィラー等を添加することができる。
【0052】
本発明の導電性組成物に感光性樹脂を含まない場合は、基材に塗工後、自然または強制乾燥によって透明導電膜を得られる。本発明の導電性組成物に感光性樹脂を含む場合は、基材に塗工後、自然または強制乾燥によって後にラジエーション硬化を行っても良いし、塗工に続いてラジエーション硬化させた後に自然または強制乾燥しても構わないが、自然または強制乾燥後にラジエーション硬化した方が好ましい。電子線で硬化させる場合は、水による硬化阻害又は有機溶剤の残留による塗膜の強度低下を防ぐため、自然または強制乾燥後にラジエーション硬化を行うのが好ましい。ラジエーション硬化のタイミングは塗工と同時でも構わないし、塗工後でも構わない。公知のラジエーション硬化方法により硬化させ硬化物とすることができ、活性エネルギー線としては、電子線、紫外線、400〜500nmの可視光を使用することができる。
【0053】
照射する電子線の線源には熱電子放射銃、電界放射銃等が使用できる。また、紫外線および400〜500nmの可視光の線源(光源)には、例えば、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、ガリウムランプ、キセノンランプ、カーボンアークランプ等を使用することができる。具体的には、点光源であること、輝度の安定性から、超高圧水銀ランプ、キセノン水銀ランプが用いられることが多い。照射する活性エネルギー線量は、5〜2000mJの範囲で適時設定できるが、工程上管理しやすい50〜1000mJの範囲であることが好ましい。
【0054】
また、これら紫外線または電子線と、赤外線、遠赤外線、熱風、高周波加熱等による熱の併用も可能である。
【0055】
本発明の導電性組成物から得られた導電膜は、低い表面抵抗値を示し、導電性材料から帯電防止材料まで様々な用途で使用できる。さらに得られた塗膜は、ヘイズが低くかつ透明性に優れる。帯電防止用途においては、表面抵抗値で1014(Ω/□)以下が好ましく、1012(Ω/□)以下、さらには1010(Ω/□)以下であることが特に好ましい。
【0056】
本発明の導電性組成物は、有機または無機基材に塗布し、積層体として得ることができる。適当な無機基材の例には、ガラス、酸化物または酸化性もしくは非酸化性セラミック(例えば、酸化アルミニウム、窒化ケイ素)が挙げられる。適当な有機基材の例には、純粋な有機重合体、共重合体またはその混合物が挙げられ、例えば、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリエステル(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート)、ポリアミド、ポリイミド、随時ガラス繊維強化されたエポキシ樹脂、セルロース誘導体(例えば、三酢酸セルロース)、ポリオレフィン(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン)が挙げられる。
【0057】
本発明の導電性組成物は、均一塗膜の形成が可能であり、形成される塗膜は、透過度および抵抗特性が非常に優れており、各種帯電防止剤、電池、防食塗料、EMIシールド、光学用コート剤、化学センサー、表示素子、非線形材料、防食剤、接着剤、繊維、帯電防止塗料、導電性塗料、防食塗料、電着塗料、メッキプライマー、電気防食等の用途に使用することができる。
【実施例】
【0058】
以下に実施例をもって本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、%、部は、特に断らない限り重量%、重量部を意味する。
【0059】
本発明の導電性組成物から得られた透明導電膜の全光線透過率は、基材に導電性組成物と塗工後、乾燥させたあとにヘイズメーター(「NDH2000」、日本電色工業(株)製)を用いて測定した。
【0060】
本発明の導電性組成物から得られた透明導電膜のHAZEは、基材に導電性組成物と塗工後、乾燥させたあとにヘイズメーター(「NDH2000」、日本電色工業(株)製)を用いて測定した。
【0061】
分子量測定は、ゲル透過クロマトグラフ(GPC:「HLC−8220GPC」東ソー株式会社製)を用いて測定した。
【0062】
評価を行うために使用した基材として、湿潤フィルム厚さ100μmのPETフィルムを用いた。
【0063】
<塩基性有機化合物(A−3)の合成>
(製造例1)
撹拌機、還流冷却管、ガス導入管、温度計を備えた4口フラスコに、12−ヒドロキシステアリン酸(伊藤製油株式会社製)12.16g、カプロラクトン(ダイセル化学株式会社製:プラクセルM)87.72g、テトラブチルチタネート(松本製薬工業株式会社製:オルガチックスTA−25)0.088gを仕込み、窒素ガスを吹き込みながら160℃に昇温し、5時間反応させた。その後、100℃まで冷却し、ポリアリルアミンの20%水溶液30.00g加え、昇温して、反応液中の水を取り除いた。120℃まで昇温し、2時間反応させた。次いで、シクロヘキサノン105.97gを加え、塩基性有機化合物(A−3)のシクロヘキサノン溶液を得た。固形分50%、数平均分子量(Mn)1,564、重量平均分子量(Mw)6,609、アミン価8.907mgKOH/gであった。
【0064】
(製造例2)
撹拌機、還流冷却管、ガス導入管、温度計を備えた4口フラスコに、12−ヒドロキシステアリン酸(伊藤製油株式会社製)12.17g、カプロラクトン(ダイセル化学株式会社製:プラクセルM)87.79g、テトラブチルチタネート(松本製薬工業株式会社製:オルガチックスTA−25)0.088gを仕込み、窒素ガスを吹き込みながら160℃に昇温し、5時間反応させた。その後、100℃まで冷却し、ポリアリルアミンの20%水溶液60.55g加え、昇温して、反応液中の水を取り除いた。140℃まで昇温し、2時間反応させた。次いで、シクロヘキサノン112.06gを加え、塩基性有機化合物(A−3)のシクロヘキサノン溶液を得た。固形分50%、数平均分子量(Mn)1,538、重量平均分子量(Mw)5,556、アミン価11.045mgKOH/gであった。
【0065】
<溶剤(D)に分散させた導電性成分(A)の作製>
(製造例3)
ポリアニオン(A−1)によってドープされたπ共役系導電性高分子(A−2)として、ポリスチレンスルホン酸水溶液存在下でポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)を合成したH.C.Starck社製のBAYTRON P AGを用いた。BAYTRON P AGは溶媒が水で不揮発分が1.2%であり、mol比でスチレンスルホン酸:3,4−エチレンジオキシチオフェン=2.5:1.0であった。
【0066】
酢酸エチル56.67gに塩基性有機化合物(A−3)としてアジスパーPB−821(味の素ファインテクノ社製、数平均分子量(Mn)1,531、重量平均分子量5,845、アミン価10.75)を9.40g溶解させた溶液にBAYTRON P AGを50.31g加えて、ディスパーを用いて室温で1時間攪拌し、乳化物を得た。ロータリーエバポレーターを用いて、この乳化物から水を取り除いた。必要に応じて適宜酢酸エチルを加えた。最終的に不揮発分15%の導電性成分(A)の酢酸エチル分散体を66.67g得た。
【0067】
(製造例4)
シクロヘキサノン47.27gに塩基性有機化合物(A−3)として製造例1で得られた溶液を18.80g溶解させた溶液にBAYTRON P AGを50.31g加えて、ディスパーを用いて室温で1時間攪拌し、乳化物を得た。ロータリーエバポレーターを用いて、この乳化物から水を取り除いた。必要に応じて適宜酢酸エチルを加えた。最終的に不揮発分15%の導電性成分(A)のシクロヘキサノン分散体を66.67g得た。
【0068】
(製造例5)
塩基性有機化合物(A−3)として製造例2で得られた溶液を使用した以外は製造例4と同様にして、不揮発分15%の導電性成分(A)のシクロヘキサノン分散体を66.67g得た。
【0069】
<バインダー(B)の合成>
(製造例6)
撹拌機、還流冷却管、ドライエアー導入管、温度計を備えた4口フラスコに、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(三菱化学株式会社製)80.0部、ペンタエリスリトールトリアクリレート(日本化薬株式会社製:KAYARAD PET−30)250.0部、ヒドロキノン0.16部、メチルエチルケトン(MEK)141.2部を仕込み、60℃まで昇温した。次いで触媒として1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン(東京化成工業株式会社製)1.65部を加え、90℃で6時間撹拌し、グリシジルメタクリレート(ダウ・ケミカル日本株式会社製)77.3部、メチルエチルケトン(MEK)33.9部を加え、次いで触媒として、ジメチルベンジルアミン2.65部を加え、90℃で8時間撹拌し、室温まで冷却して、多官能(メタ)アクリレート化合物である非導電性バインダー(B)のメチルエチルケトン(MEK)溶液を得た。この反応溶液は淡黄色透明で固形分70%、数平均分子量(Mn)870、重量平均分子量(Mw)2,830であった。
【0070】
(製造例7)
撹拌機、還流冷却管、ドライエアー導入管、温度計を備えた4口フラスコに、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸二無水物(新日本理化株式会社製:BT−100)46.36部、ペンタエリスリトールトリアクリレート(日本化薬株式会社製:KAYARAD PET−30)416.92部、ヒドロキノン0.25部、メチルエチルケトン(MEK)218.44部を仕込み、60℃まで昇温した。次いで触媒として1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン(東京化成工業株式会社製)2.53部を加え、90℃で6時間撹拌し、グリシジルメタクリレート(ダウ・ケミカル日本株式会社製)129.14部、メチルエチルケトン(MEK)57.08部を加え、次いで触媒として、ジメチルベンジルアミン4.06部を加え、90℃で8時間撹拌し、室温まで冷却して、多官能(メタ)アクリレート化合物である非導電性バインダー(B)のメチルエチルケトン(MEK)溶液を得た。この反応溶液は無色透明で固形分70%、数平均分子量(Mn)794、重量平均分子量(Mw)2,003であった。
【0071】
(製造例8)
撹拌機、還流冷却管、ドライエアー導入管、温度計を備えた4口フラスコに、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸二無水物(新日本理化株式会社製:BT−100)90.00部、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート(日本化薬株式会社製:KAYARAD DPHA)383.51部、ヒドロキノン0.13部、メチルエチルケトン(MEK)184.87部を仕込み、60℃まで昇温した。次いで触媒として1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン(東京化成工業株式会社製)1.35部を加え、90℃で6時間撹拌し、グリシジルメタクリレート(ダウ・ケミカル日本株式会社製)66.52部、メチルエチルケトン(MEK)29.42部を加え、次いで触媒として、ジメチルベンジルアミン2.13部を加え、90℃で8時間撹拌し、室温まで冷却して、多官能(メタ)アクリレート化合物である非導電性バインダー(B)のメチルエチルケトン(MEK)溶液を得た。この反応溶液は無色透明で固形分70%、数平均分子量(Mn)904、重量平均分子量(Mw)1,906であった。
【0072】
(製造例9)
撹拌機、還流冷却管、ドライエアー導入管、温度計を備えた4口フラスコに、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(三菱化学株式会社製)35.61部、2−ヒドロキシエチルアクリレート(日本触媒株式会社製:BHEA)28.11部、ヒドロキノン0.07部、メチルエチルケトン(MEK)27.64部を仕込み、60℃まで昇温した。次いで触媒として1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン(東京化成工業(株)製)0.70部を加え、90℃で6時間撹拌し、グリシジルメタクリレート(ダウ・ケミカル日本株式会社製)34.41部、メチルエチルケトン(MEK)15.22部を加え、次いで触媒として、ジメチルベンジルアミン1.10部を加え、90℃で8時間撹拌し、室温まで冷却して、多官能(メタ)アクリレート化合物である非導電性バインダー(B)のメチルエチルケトン(MEK)溶液を得た。この反応溶液は無色透明で固形分70%、数平均分子量(Mn)842、重量平均分子量(Mw)1,237であった。
【0073】
(製造例10)
撹拌機、還流冷却管、ガス導入管、温度計を備えた4口フラスコに、窒素ガス雰囲気下、メチルイソブチルケトン(MIBK)を41.43部仕込んで90℃まで加熱し、滴下漏斗を用いて、メチルイソブチルケトン(MIBK)11.05部、グリシジルメタクリレート(日本油脂株式会社製:ブレンマーG)27.07部、アクリル酸エチル(日本触媒株式会社製:EA)0.28部、メタクリル酸メチル(日本触媒株式会社製:MMA)0.28部、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(株式会社ジャパンファインケム製:ABN−R)0.66部を混合したものを滴下した。90℃で3時間攪拌し、さらに、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル0.17部をMIBK2.76部に溶かした溶液を滴下し、90℃で1時間反応させた。その後、ガス導入管から空気を導入し、加熱してMIBKを30部取り除いた。この後、アクリル酸(日本触媒株式会社:AA)13.31部、N,N−ジメチルベンジルアミン(和光純薬株式会社製)0.20部、p−メトキシフェノール(和光純薬株式会社製)0.02部、MIBK2.76部を混合した溶液を滴下し、105℃で10時間反応させた。この反応溶液は無色透明で固形分60%、数平均分子量(Mn)2,300、重量平均分子量(Mw)8,300であった。
【0074】
(実施例1)
製造例3で作製した導電性成分(A)の酢酸エチル分散体3.33部、製造例6で作製したバインダー(B)のMEK溶液3.57部、化合物(C)としてエチレングリコール0.70部、溶剤(D)として酢酸エチル1.80部、光重合開始剤(F)としてイルガキュア184の20%酢酸エチル溶液を0.75部配合し、不揮発分30%の導電性組成物を得た。この組成物をバーコーター#10を用いてPETフィルム上に塗布し、100℃のオーブンで2分間乾燥した。これにメタルハライドランプを用いて、400mJ/cm2の紫外線を照射して導電膜を作製した。この導電膜について表面抵抗、ヘイズ、全光線透過率を測定した。
【0075】
(実施例2〜13、比較例1〜7)
実施例2〜13、比較例1〜7は、下記表1〜表3にまとめたように配合した以外は、実施例1と同様の操作にて、配合、塗布、評価を行った。評価結果についても表1〜表3にまとめた。表1〜表3中のバインダーにおいて、製造例6〜10以外のものは次に示すものである。
DA−721:デナコールアクリレートDA−721(ナガセケムテックス株式会社製)
DA−722:デナコールアクリレートDA−722(ナガセケムテックス株式会社製)
DPHA:KAYARAD DPHA(日本化薬株式会社製)
M−220:アロニックスM−220(東亞合成株式会社製)
M−210:アロニックスM−210(東亞合成株式会社製)
【0076】
実施例13、比較例4を除き、不揮発分中の組成比は、
[(A−1)+(A−2)]/(A−3)/[(B)+(E)]/(F)=1.0/15.7/83.3/5.0
であり、
実施例13は、
[(A−1)+(A−2)]/(A−3)/[(B)+(E)]/(F)=0.5/7.8/91.7/5.0
比較例4は、
[(A−1)+(A−2)]/(A−3)/[(B)+(E)]/(F)=3.0/47.0/50.0/5.0
である。
【0077】
【表1】

【0078】
【表2】

【0079】
【表3】

表1〜表3に示すように、各成分のSP値が特定の関係にある実施例1〜13は、導電性が良好であり、さらに塗膜のHAZEが低く透明性も良好であったのに対し、比較例1〜6の組成物は、導電性、塗膜の透明性のいずれかが不良であり、全てが良好となるものは得られなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアニオン(A−1)によってドープされたπ共役高分子(A−2)と、塩基性有機化合物(A−3)とのイオン対であり、有機溶剤中で溶解または分散可能である導電性材料(A)、非導電性のバインダー(B)、親水性化合物(C)、および、前記化合物(A−3)と前記バインダー(B)とを溶解または分散する有機溶剤(D)、を含んでなる導電性組成物であって、
前記化合物(A−3)、前記バインダー(B)、および前記化合物(C)それぞれの溶解度パラメーター(SP値)をそれぞれδ(A−3)、δ(B)、δ(C)(J/cm31/2とすると、δ(A−3)<δ(B)<δ(C)、であることを特徴とする導電性組成物。
【請求項2】
化合物(A−3)、バインダー(B)、および化合物(C)の溶解度パラメーター(SP値)が、δ(A−3)<23、23<δ(B)<28、および、28<δ(C)であることを特徴とする請求項1記載の導電性組成物。
【請求項3】
化合物(C)が、2つ以上のヒドロキシル基を有する請求項1または2記載の導電性組成物。
【請求項4】
バインダー(B)が、重合性不飽和基を有する請求項1〜3いずれか記載の導電性組成物。
【請求項5】
バインダー(B)とは異なるバインダー(E)を含み、(E)の溶解度パラメーター(SP値)をδ(E)(J/cm31/2とすると、δ(E)<δ(A−3)であり、かつ、
バインダー(E)とバインダー(B)との重量比が、1:99〜50:50であることを特徴とする請求項1〜4いずれか記載の導電性組成物。
【請求項6】
バインダー(E)が、重合性不飽和基を有する請求項5記載の導電性組成物。
【請求項7】
光重合開始剤(F)を含む請求項4または6記載の導電性組成物。
【請求項8】
請求項1〜7いずれか記載の導電性組成物を形成してなる導電膜。
【請求項9】
請求項1〜7いずれか記載の導電性組成物を基材上に形成する工程を含むことを特徴とする導電膜の製造方法。
【請求項10】
基材と請求項8記載の導電膜とを有する積層体。

【公開番号】特開2008−169308(P2008−169308A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−4132(P2007−4132)
【出願日】平成19年1月12日(2007.1.12)
【出願人】(000222118)東洋インキ製造株式会社 (2,229)
【Fターム(参考)】