説明

導電性酸化物微粒子分散液と透明導電膜形成用塗布液、及び透明導電膜

【課題】液晶など各種表示デバイス等の透明導電膜を塗布法で形成する際に用いられ、分散剤を全く含まなくても導電性酸化物微粒子が安定して分散した導電性酸化物微粒子分散液及び、これにバインダーを添加して得られる透明導電膜形成用塗布液、及びこれを塗布、乾燥、硬化して得られる透明導電膜を提供する。
【解決手段】ハロゲン元素で表面修飾された平均粒径1〜500nmの導電性酸化物微粒子(A)が、分散剤を含まない有機溶剤(B)に分散した導電性酸化物微粒子分散液であって、有機溶剤(B)が環状ケトンを主成分とし、かつ該分散液中に含まれる水分量が、導電性酸化物微粒子100重量部に対し1.5重量部以下であることを特徴とする導電性酸化物微粒子分散液などにより提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性酸化物微粒子分散液と透明導電膜形成用塗布液、及び透明導電膜に関し、より詳しくは、液晶など各種表示デバイス等の透明導電膜を塗布法で形成する際に用いられ、分散剤を全く含まなくても導電性酸化物微粒子が安定して分散した導電性酸化物微粒子分散液及び、これにバインダーを添加して得られる透明導電膜形成用塗布液、及びこれを塗布、乾燥、硬化して得られる透明導電膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、LCDなどの各種表示デバイス等の透明電極には、スパッタリングやイオンプレーティング等に代表される物理的成膜法を用いて形成されるインジウム−錫酸化物(ITO)の透明導電膜が用いられてきた。その中でも、スパッタリング法で得られる透明導電膜(以下、スパッタリングITO膜と略称する)が最も広く用いられている。
しかし、近年のディスプレイの大型化に伴い、スパッタリングITO膜の作製にかかる設備投資コストの増大や、省資源という観点からみたITO膜材料の利用効率の低さ等が問題になっている。即ち、大面積の基材上にスパッタリングITO膜を形成するためには、大空間を高真空にするための大掛かりな設備投資が必要である。また、ITOスパッタリングターゲット材の2割程度しか実際の透明導電膜に利用されず、7割程度はスクラップとしてインジウムの回収に回されているのが実情である。
【0003】
そこで、高価な設備を必要としない塗布法を用いて、透明導電膜を形成する研究が行われている。塗布法とは、酸化インジウム、酸化錫、酸化亜鉛等を主成分とする導電性酸化物粉(フィラー)と樹脂バインダーを含有する塗布液(透明導電膜形成用塗布液)を基材上に塗布し、乾燥、硬化の過程を経て、透明導電膜を形成するものである。真空を必要としないため、スパッタリングITO膜を作製する場合と比較して、設備投資コストが大幅に抑えられる利点がある。また、必要な部分にだけ塗布液を塗布(印刷)すれば良いため、透明導電材料の利用効率も高く、材料が節約できる省資源な方法でもある。
【0004】
しかしながら、従来の塗布法で得られる透明導電膜は、膜の抵抗値が高いという問題があった。一般に、各種表示デバイス、タッチパネル、電子ペーパー等の透明電極等に透明導電膜を適用する場合には、そのデバイスの方式等にもよるが、膜の表面抵抗値として1000Ω/□(オーム・パー・スクエア)程度以下を要求される場合が多く、この表面抵抗値と高い透明性(透過率、ヘイズ[光の散乱度合い]が重要なパラメータとなる)を両立することが難しかった。
【0005】
例えば、特許文献1には、導電性微粒子と樹脂バインダーからなる塗料を塗布乾燥させ、更に加圧することで導電膜を作製する方法が開示されている。しかし、得られる導電膜の表面抵抗は、2μmの膜厚で10Ω/□(オーム・パー・スクエア)程度と高く、各種表示デバイス、タッチパネル、電子ペーパー等の透明電極として適用するには難がある。
【0006】
また、導電性酸化物粉を含む塗料をコーティングして低抵抗の膜を得るため、例えば導電性酸化物粉を金属ロールで挟んで圧縮する方法(特許文献2)が提案されている。この方法によれば、0.5μmの膜厚で2kΩ/□の抵抗値を実現することができる。しかしながら、塗膜の大面積化を図る場合には金属ロールを大きくする必要があり、その場合は加圧圧力(総圧)が大きくなるため、金属ロールのたわみ等により圧力が不均一になる等の技術的な問題や、ロールの剛性を確保するために設備が大きくなりすぎるなどの問題がある。
【0007】
更に、ITO粉と分散剤としてのカップリング剤を含む塗料をガラス基板に塗布して、300℃以上の高温で焼成する方法(特許文献3)が提案されている。しかしながら、基材としてプラスチックを用いる場合には、高温に加熱するとプラスチックが軟化するため、このような熱処理を適用することはできない。例えば、透明性、耐有機溶剤性、ハンドリング、コストなどの問題から、基材として好適なPETフィルムを用いる場合、適用可能な温度は約150℃までであり、この方法を適用することは不可能である。
【0008】
一般に、導電性酸化物微粒子の粒子径を小さくしていくと、粒子間の凝集力が増大して、微粒子同士が凝集し易くなる。透明導電膜形成用塗布液において、導電性酸化物微粒子の凝集が生じると、得られる透明導電膜のヘイズが悪化して透明性が低下し、膜の均一性が悪化して膜強度が低下するなどの問題を生じる。従って、透明導電膜形成用塗布液には、透明性や膜強度に優れた塗膜を形成するために導電性酸化物微粒子が十分な分散性を有することが求められる。また、透明導電膜形成用塗布液は、長期間にわたって容易に保存できるように、その導電性酸化物微粒子の分散安定性を長期間維持することが求められる。
【0009】
上記導電性酸化物微粒子の凝集防止(分散安定化)には、高分子ポリマーや界面活性剤等の分散剤を透明導電膜形成用塗布液に適用する方法が一般に用いられている。ここで、分散剤は、凝集する微粒子間に浸透しながら微粒子表面に吸着し、分散処理の過程で凝集状態をほぐしながら溶剤中への均一分散化を可能とする(特許文献4参照)。
しかしながら、微粒子が小さくなるとその表面積が増大するため、十分に安定化させるためには大量の分散剤が必要になる。透明導電膜形成用塗布液に大量の分散剤を配合すると、当該塗布液を用いて形成した塗膜にも分散剤が多量に存在して導電性酸化物微粒子の表面を覆い、導電性酸化物微粒子同士の接触が阻害されるため、導電性が悪化するという問題があった。
【0010】
また、各種デバイス作製のため、透明導電膜形成用塗布液を用いて得られた透明導電膜上に各種機能性膜を塗布法により積層する場合には、透明導電膜中に残る分散剤が機能性膜内に溶出し、機能性膜に悪影響を与える恐れもあり好ましいとは言えなかった。
【特許文献1】特開平9−109259号公報
【特許文献2】特開2001−328195号公報
【特許文献3】特開平8−199096号公報
【特許文献4】特開平5−120921公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、このような従来の事情に鑑み、液晶など各種表示デバイス等の透明導電膜を塗布法で形成する際に用いられ、分散剤を全く含まなくても導電性酸化物微粒子が安定して分散した導電性酸化物微粒子分散液及び、これにバインダーを添加して得られる透明導電膜形成用塗布液、及びこれを塗布、乾燥、硬化して得られる透明導電膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、導電性酸化物微粒子を含有する透明導電膜形成用塗布液を用いて透明導電膜を形成する際に、表面をハロゲン修飾した導電性酸化物微粒子に対して有機溶剤の種類を変えて種々検討した結果、特定の環状ケトン化合物を主溶媒とする有機溶剤を用い、導電性酸化物微粒子分散液に含まれる水分量を特定値以下に低減させることで、分散剤を全く用いなくとも、導電性酸化物微粒子を安定的に分散することができ、これにバインダー成分を含有させた塗布液を用いれば、優れた導電性を有する透明導電膜が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、ハロゲン元素で表面修飾された平均粒径1〜500nmの導電性酸化物微粒子(A)が、分散剤を含まない有機溶剤(B)に分散した導電性酸化物微粒子分散液であって、有機溶剤(B)が環状ケトン化合物を主成分とし、かつ該分散液中に含まれる水分の量が、導電性酸化物微粒子100重量部に対し1.5重量部以下であることを特徴とする導電性酸化物微粒子分散液が提供される。
【0014】
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、導電性酸化物微粒子(A)が、酸化インジウム、酸化錫、又は酸化亜鉛から選ばれる少なくとも一種の金属酸化物を主成分として含有する微粒子であることを特徴とする導電性酸化物微粒子分散液が提供される。
また、本発明の第3の発明によれば、第2の発明において、導電性酸化物微粒子(A)が、錫がドープされた酸化インジウムを主成分として含有する金属酸化物微粒子であることを特徴とする導電性酸化物微粒子分散液が提供される。
また、本発明の第4の発明によれば、第1の発明において、ハロゲン元素が塩素であることを特徴とする導電性酸化物微粒子分散液が提供される。
【0015】
また、本発明の第5の発明によれば、第1の発明において、有機溶剤(B)が、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、2−(1−シクロヘキシニル)シクロヘキサノン、2−シクロヘキシルシクロヘキサノン、シクロヘプタノン、シクロオクタノン、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、γ−カプロラクトン、又はイソホロンから選ばれる少なくとも一種の環状ケトン化合物であることを特徴とする導電性酸化物微粒子分散液が提供される。
また、本発明の第6の発明によれば、第1又は5の発明において、環状ケトン化合物の含有量が、有機溶剤(B)全体に対して80質量%以上であることを特徴とする導電性酸化物微粒子分散液が提供される。
さらに、本発明の第7の発明によれば、第1の発明において、有機溶剤(B)の含有量が、分散液全体に対して20〜95質量%であることを特徴とする導電性酸化物微粒子分散液が提供される。
【0016】
一方、本発明の第8の発明によれば、第1〜7のいずれかの発明に係り、導電性酸化物微粒子分散液が、更にバインダー成分(C)を含有することを特徴とする透明導電膜形成用塗布液が提供される。
さらに、本発明の第9の発明によれば、第8の発明において、バインダー成分(C)が、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、常温硬化性樹脂、紫外線硬化性樹脂、又は電子線硬化性樹脂等から選択されるいずれかの有機樹脂であることを特徴とする透明導電膜形成用塗布液が提供される。
【0017】
また、本発明の第10の発明によれば、第8又は9の発明に係り、透明導電膜形成用塗布液をプラスチック製基材又はセラミック製基材上に塗布し、乾燥した後に、硬化処理が施されて得られる透明導電膜が提供される。
さらに、本発明の第11の発明によれば、第10の発明において、プラスチック製基材が、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムであることを特徴とする透明導電膜が提供される。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、簡単且つ安価な塗布法によって、高い透明性と優れた導電性を有する透明導電膜を形成可能な透明導電膜形成用塗布液、その調製に用いられる導電性酸化物微粒子分散液を提供することができる。
また、本発明の透明導電膜形成用塗布液により形成される透明導電膜は、分散剤を含まないため、優れた導電性と透明性を有するだけでなく、透明導電膜上に各種機能性膜を塗布法で形成する場合に、当該機能性膜に分散剤が溶出することがないので、機能性膜の膜特性の劣化を抑えることができる。従って、本発明の透明導電膜は、液晶ディスプレイ等の各種表示デバイス、タッチパネル、電子ペーパー等の透明電極等として好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
1.導電性酸化物微粒子分散液
本発明の導電性酸化物微粒子分散液は、ハロゲン元素で表面修飾された平均粒径1〜500nmの導電性酸化物微粒子(A)が、分散剤を含まない有機溶剤(B)に分散した導電性酸化物微粒子分散液であって、有機溶剤(B)が環状ケトン化合物を主成分とし、かつ該分散液中に含まれる水分の量が、導電性酸化物微粒子100重量部に対し1.5重量部以下であることを特徴とする。
【0020】
すなわち、本発明は、表面がハロゲン元素で修飾された導電性酸化物微粒子が、分散剤を全く用いなくとも、シクロへキサノン、γ−ブチロラクトンなど特定の環状ケトンを主成分とする有機溶剤に対して良好に分散すること、一方、導電性酸化物微粒子が良好に分散していた分散液であっても、その中に微量の水分が混入すると分散体の構造が著しく破壊されてしまうことをベースにして生み出されたものである。
【0021】
(A)導電性酸化物微粒子
本発明において、導電性酸化物微粒子は、酸化インジウム、酸化錫、又は酸化亜鉛から選ばれる少なくとも一種の金属酸化物を主成分として含有するものである。
【0022】
すなわち、導電性酸化物微粒子としては、酸化インジウム、酸化錫、酸化亜鉛のいずれか一つ以上を主成分とする導電性酸化物微粒子であって、例えば、インジウム−錫酸化物(ITO)微粒子、インジウム亜鉛酸化物(IZO)微粒子、インジウム−タングステン酸化物(IWO)微粒子、インジウム−チタン酸化物(ITiO)微粒子、インジウムジルコニウム酸化物微粒子、錫アンチモン酸化物(ATO)微粒子、フッ素錫酸化物(FTO)微粒子、アルミニウム亜鉛酸化物(AZO)微粒子、ガリウム亜鉛酸化物(GZO)微粒子等が挙げられるが、透明性と導電性を具備していれば良く、これらに限定されない。
但し、中でも錫がドープされた酸化インジウムを主成分として含有するITOが、高い可視光線透過率と優れた導電性を両立できる点で最も高特性であり、好ましい。
【0023】
導電性酸化物微粒子の平均粒径は、1〜500nmが好ましく、5〜100nmが更に好ましい。平均粒径が1nm未満では導電性酸化物微粒子分散液や透明導電膜形成用塗布液の製造が困難となり、また得られる透明導電膜の抵抗値が高くなる。一方、500nmを超えると、導電性酸化物微粒子分散液や透明導電膜形成用塗布液中で導電性酸化物微粒子が沈降し易く取扱いが容易でなくなると同時に、透明導電膜において高透過率と低抵抗値を同時に達成することが困難になるからである。
また、5〜100nmが更に好ましいのは、透明導電膜の特性(透過率、抵抗値)と導電性酸化物微粒子分散液や透明導電膜形成用塗布液の安定性(導電性酸化物微粒子の沈降)等をバランスよく兼ね備えることが可能となるからである。
【0024】
導電性酸化物微粒子分散液や透明導電膜形成用塗布液中に含まれる上記導電性酸化物微粒子の形状としては、球状や粒状が一般的であり、それら球状、粒状が緻密に充填して得られる透明導電膜は、可視光線の散乱が少なく透明性に優れるという利点があり好ましい。一方、本発明においては、上記球状、粒状の導電性酸化物微粒子に加えて、繊維状(針状、棒状、ウィスカーも含む)や板状のものを用いることも可能である。
【0025】
これら繊維状や板状の導電性酸化物微粒子を用いて得られる透明導電膜は、透明導電膜形成用塗布液においてバインダー成分が多く含有されていても導電性酸化物微粒子間の接触が確保されやすく、したがって膜強度と導電性の両立を図りやすい利点がある。ただし、上記繊維状や板状の導電性酸化物微粒子は、緻密に充填した膜構造を形成し難いため、微粒子とバインダーマトリックスの界面で可視光線を散乱しやすく、ヘイズ値(曇り度合いを示す)が高い透光性導電膜になりやすい傾向がある。透明導電膜の用途によっては、例えば分散型エレクトロルミネッセンス素子の透明電極のように、可視光線の吸収のない透光性導電膜が求められるデバイスもあるため、導電性酸化物微粒子の形状は、その用途に応じ、適宜選択すればよい。
尚、本発明において、上記導電性酸化物微粒子の粒径は、球状や粒状の微粒子についてはその直径を示し、繊維状や板状の微粒子については、それぞれ、太さ、厚さを示す。
【0026】
また、導電性酸化物微粒子の表面は、ハロゲン元素で表面修飾されていなければならない。ハロゲン元素には、フッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)等が挙げられ、中でも、取扱いが最も容易であり好適に使用できるという理由から、特に塩素で修飾されていることが好ましい。
導電性酸化物微粒子の表面がハロゲン元素で修飾されていない場合、導電性酸化物微粒子分散液や透明導電膜形成用塗布液において所望の分散性を得ることが難しく、得られる透明導電膜の導電性と透明性が低下しやすい。
ハロゲン元素による修飾方法については、導電性酸化物微粒子の表面にハロゲン元素を導入できれば、特に限定されるものではない。また、ハロゲン元素による表面修飾は、微粒子の製造工程において同時に行ってもよく、本発明の目的を害さない範囲で微粒子の製造後に行ってもよい。
【0027】
ここで、導電性酸化物微粒子を修飾するハロゲン元素の量としては、導電性酸化物微粒子の比表面積(粒子径)にもよるが、たとえば粒子径0.03μm程度であれば、導電性酸化物微粒子1モルに対して、0.005〜0.04モル、好ましくは0.01〜0.03モルであることが良い。0.005モル未満、及び0.04モルを超える場合は、良好な分散を得ることができず、場合によってはゲル化してしまい、導電性酸化物微粒子分散液や透明導電膜形成用塗布液を得ることができなくなる。また、仮に透明導電膜形成用塗布液が得られたとしても、形成される塗膜はヘイズの高い不透明な膜となってしまう。
【0028】
(B)有機溶剤
本発明において、有機溶剤は、導電性酸化物微粒子を分散させるのに用いる溶媒であり、環状ケトン化合物を主成分とするものである。具体的には、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、2−(1−シクロヘキシニル)シクロヘキサノン、2−シクロヘキシルシクロヘキサノン、シクロヘプタノン、シクロオクタノン、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、γ−カプロラクトン、又はイソホロンから選ばれる少なくとも一種の環状ケトン化合物である。
特に、シクロヘキサノン及び/またはγ−ブチロラクトンを主成分とする環状ケトン化合物が好ましい。尚、イソホロンは、ケトン系溶剤の中でも毒性・有害性が高いものの一つであることから、作業性や作業環境等に留意して用いる必要がある。
【0029】
このような環状ケトン化合物が導電性酸化物微粒子を安定的に分散させる理由は定かではないが、その含酸素環状構造と、ハロゲン元素で修飾された導電性酸化物微粒子の表面が親和性を有するため、上記有機溶剤に極めて良好な分散性を示すものと考えられる。
【0030】
本発明の導電性酸化物微粒子分散液には、成膜性を改善する等の目的で、シクロペンタノン(沸点131℃)、シクロヘキサノン(沸点156℃)、2−(1シクロヘキシニル)シクロヘキサノン、2−シクロヘキシルシクロヘキサノン、シクロヘプタノン(沸点180℃)、シクロオクタノン(沸点195〜197℃)、γ−ブチロラクトン(沸点198〜208℃)、γ−バレロラクトン(沸点207℃)、又は、γ−カプロラクトン(沸点220℃)、又はイソホロン(沸点215℃)に加え、分散を悪化させない範囲で各種溶剤を少量添加することもできる。環状ケトン化合物の含有量は、有機溶剤(B)全体に対して80%以上であることが望ましい。80%未満であると、分散性が悪化する場合がある。
上記目的のために環状ケトンと併用できる有機溶剤としては、環状ケトン以外のケトン系溶剤、アルコール系溶剤、エステル系溶剤、グリコール系溶剤、グリコール誘導体、ベンゼン誘導体などを挙げることができる。
【0031】
具体的には、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルプロピルケトン、メチルイソブチルケトン(MIBK)等のケトン系溶剤;メタノール(MA)、エタノール(EA)、1−プロパノール(NPA)、イソプロパノール(IPA)、ブタノール、ペンタノール、ベンジルアルコール、ジアセトンアルコール(DAA)等のアルコール系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、ギ酸アミル、酢酸イソアミル、プロピオン酸ブチル、酪酸イソプロピル、酪酸エチル、酪酸ブチル、乳酸メチル、乳酸エチル、オキシ酢酸メチル、オキシ酢酸エチル、オキシ酢酸ブチル、メトキシ酢酸メチル、メトキシ酢酸エチル、メトキシ酢酸ブチル、エトキシ酢酸メチル、エトキシ酢酸エチル、3−オキシプロピオン酸メチル、3−オキシプロピオン酸エチル、3−メトキシプロピオン酸メチル、3−メトキシプロピオン酸エチル、3−エトキシプロピオン酸メチル、3−エトキシプロピオン酸エチル、2−オキシプロピオン酸メチル、2−オキシプロピオン酸エチル、2−オキシプロピオン酸プロピル、2−メトキシプロピオン酸メチル、2−メトキシプロピオン酸エチル、2−メトキシプロピオン酸プロピル、2−エトキシプロピオン酸メチル、2−エトキシプロピオン酸エチル、2−オキシ−2−メチルプロピオン酸メチル、2−オキシ−2−メチルプロピオン酸エチル、2−メトキシ−2−メチルプロピオン酸メチル、2−エトキシ−2−メチルプロピオン酸エチル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、ピルビン酸プロピル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、2−オキソブタン酸メチル、2−オキソブタン酸エチル等のエステル系溶剤;エチレングリコール、ジエチレングリコールなどのグリコール系溶剤;エチレングリコールモノメチルエーテル(MCS)、エチレングリコールモノエチルエーテル(ECS)、エチレングリコールイソプロピルエーテル(IPC)、エチレングリコールモノブチルエーテル(BCS)、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールメチルエーテル(PGM)、プロピレングリコールエチルエーテル(PE)、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート(PGM−AC)、プロピレングリコールエチルエーテルアセテート(PE−AC)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル等のグリコール誘導体;トルエン、キシレン、メシチレン、ドデシルベンゼン等のベンゼン誘導体などがある。
その他に、ホルムアミド(FA)、N−メチルホルムアミド、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルフォキシド(DMSO)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、テトラヒドロフラン(THF)、クロロホルム、ミネラルスピリッツ、ターピネオール等も使用できるが、これらに限定されるものではない。
【0032】
ただし、上記溶剤の中には吸湿しやすいものもあり、それらの溶剤を用いる場合には、導電性酸化物微粒子分散液や透明導電膜形成用塗布液への配合過程において、吸湿しないように十分な注意を要する。
【0033】
これらの溶剤に水分が含まれる場合には前述の理由から予め除去しておく必要があり、例えば、合成ゼオライトやアルミノシリケート等の脱水剤を用いて水分を吸着させる方法で行うことができる。前述のように、溶剤中の水分量が多くなると、導電性酸化物微粒子を一時的に良好に分散できたとしても、やがて分散体の構造が著しく破壊されてしまい安定な分散液とすることができない。
【0034】
本発明の導電性酸化物微粒子分散液における有機溶剤(B)の含有量は、特に限定されるわけではないが、分散液全体に対して20〜95質量%であることが望ましい。有機溶剤(B)の含有量が20質量%未満であると、導電性酸化物微粒子の濃度が高くなりすぎて分散液としての液状を保てなくなってゲル化、または固形化してしまう。一方、95質量%を超えると導電性酸化物微粒子の濃度が低くなりすぎて、形成される透明導電膜の膜厚が薄くなりすぎるため好ましくない。好ましい有機溶剤(B)の含有量は、分散液全体に対して30〜70質量%である。
【0035】
本発明において、導電性酸化物微粒子分散液に含まれる水分の量としては、導電性酸化物微粒子100重量部に対して、1.5重量部以下でなければならない。好ましい水分量は0.5重量部以下である。1.5重量部よりも水分量が多い場合は、良好な分散を得ることができず、場合によってはゲル化(クリーム状)してしまい、良好な導電性酸化物微粒子分散液を得ることができなくなる。また、仮に透明導電膜形成用塗布液が得られたとしても、それを用いて形成される塗膜はヘイズの高い不透明な膜になってしまう。
導電性酸化物微粒子分散液中の水分含有量がより少ない方が好ましいのは、良好な分散を得ることに加えて、大気中での分散安定性を確保するためでもある。すなわち、上記分散液、塗布液を大気中に放置すると、吸湿して次第に水分含有量が増加するからであり、水分含有量が少ないもの程大気中に放置されても長い間分散安定性を確保できる。
【0036】
2.導電性酸化物微粒子分散液の製造方法
本発明において、導電性酸化物微粒子分散液を製造するには、ハロゲン元素で表面修飾された平均粒径1〜500nmの導電性酸化物微粒子(A)を、環状ケトン系化合物を主成分とする有機溶剤(B)と、汎用の方法を用いて良く混合した後、導電性酸化物微粒子(A)の分散処理を施すが、その際に得られる分散液中の水分量が導電性酸化物微粒子100重量部に対し1.5重量部以下とする必要がある。
【0037】
すなわち、本発明の導電性酸化物微粒子分散液は、例えば、表面がハロゲン元素で修飾された導電性酸化物微粒子を水分含有量の低いシクロペンタノン、シクロヘキサノン、2−(1−シクロヘキシニル)シクロヘキサノン、2−シクロヘキシルシクロヘキサノン、シクロヘプタノン、シクロオクタノン、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、γ−カプロラクトン、又はイソホロンから選ばれる少なくとも一種の環状ケトン化合物を含んだ有機溶剤に分散させて得ることができる。分散処理としては、超音波処理、ホモジナイザー、ペイントシェーカー、ビーズミル等の汎用の方法を適用することができる。
【0038】
分散処理の雰囲気は、特に制限されるわけではないが、処理時間が長い場合は、処理液が入れられた容器を密閉するか、あるいは分散処理を行う空間(処理装置内や処理室)を除湿機により除湿するか、除湿した空気を供給する等して、空気中の水分が処理液中に混入しないようにすることが好ましい。また、処理時間は、用いる原料の種類、処理量、分散処理装置の種類などによっても異なるが、例えば超音波処理であれば、数十秒〜数十分とすることができる。
【0039】
このような分散処理によって、例えば、導電性酸化物微粒子の平均粒径が30nmである場合、分散液中の導電性酸化物微粒子の平均分散粒径を130〜150nm程度にすることができる。なお、導電性酸化物微粒子の平均粒径は、導電性酸化物微粒子分散液を透過電子顕微鏡(TEM)で観察して求めることができる。また、分散液中の平均分散粒径は、各種粒度測定装置(例えばレーザー散乱方式)を用いて測定することができる。ここで、レーザー散乱方式等の粒度測定装置で測定される平均分散粒径は、一般に、測定試料として微粒子濃度を0.01質量%以下になるように溶剤で希釈してから求められるため、溶剤希釈時のソルベントショックによる凝集の影響を少なからず受けている。
したがって、例えば、上述のように平均分散粒径が130〜150nm程度の場合であっても、あくまでもこの値は粒度測定装置で測定された値であり、相対的な値として考える必要がある。通常、希釈を行わずに測定できる特殊な粒度測定装置で測定した場合の平均分散粒径は、試料の希釈を行って測定された値の1/3〜1/2程度であることが多い。
【0040】
3.透明導電膜形成用塗布液
本発明の透明導電膜形成用塗布液は、導電性酸化物微粒子分散液に対して、更にバインダー成分(C)を含有させたものである。
【0041】
上記した本発明の導電性酸化物微粒子分散液は、そのまま基材に塗布してから乾燥させ、必要に応じ焼成させることで、透明導電膜を形成することも可能である。しかし、導電性酸化物微粒子同士の結合が弱いため、そのままでは膜強度が極めて弱い透明導電膜となることが多い。そのため、更に透明導電膜上に透明バインダー成分を含む塗布液等をオーバーコートする必要があって、成膜工程が煩雑になり、またオーバーコートによる2層構造となるため、透明導電膜の電極配線は絶縁性のオーバーコート層を介しない様に工夫しなければならず、必ずしも実用的とは言えない。そこで、本発明では、上記導電性酸化物微粒子分散液にバインダー成分を加えて透明導電膜形成用塗布液とすることが望ましい。
【0042】
(C)バインダー成分
バインダー成分は、導電性酸化物微粒子同士を結合して透明導電膜の導電性と強度を高めると共に、基材と透明導電膜の密着力を高める働きを有する成分である。バインダー成分としては、有機及び/又は無機バインダーを用いることが可能であり、上記役割を満たすように、透明導電膜形成用塗布液を適用する基材や膜形成条件等を考慮して、適宜選定することができる。
【0043】
有機バインダー(樹脂バインダー)としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、常温硬化性樹脂、紫外線硬化性樹脂、電子線硬化性樹脂等から適宜選択することができる。
例えば、熱可塑性樹脂は、その種類、構造によって種々のガラス転移点(Tg)をもつため、基材の耐熱性に合わせて適宜選択することが好ましい。熱可塑性樹脂としては、一般に知られた熱可塑性樹脂を用いることができるが、高いガラス転移点(Tg)を有するものが好ましい。ガラス転移点(Tg)が高いと、硬化のための加熱処理温度から室温まで冷却する過程で、バインダー樹脂の体積収縮をそのまま導電性酸化物微粒子同士の接合力に転化できるため、透明導電膜の導電性を向上させる効果を有するからである。また、熱可塑性樹脂としてメタクリル樹脂等のアクリル樹脂、ポリエステル樹脂等が挙げられる。
【0044】
また、熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、フッ素樹脂等、常温硬化性樹脂としては、2液性のエポキシ樹脂や各種ウレタン樹脂等、紫外線硬化性樹脂としては、各種オリゴマー、モノマー、光開始剤を含有する樹脂等、電子線硬化性樹脂としては各種オリゴマー、モノマーを含有する樹脂等を挙げることができるが、これら樹脂に限定されるものではない。ここで、透明導電膜に耐溶剤性が求められる場合は、上記有機バインダーは、架橋可能な樹脂でなければならず、熱硬化性樹脂、常温硬化性樹脂、紫外線硬化性樹脂、または電子線硬化性樹脂等から適宜選定することができる。
【0045】
また、無機バインダーとしては、シリカゾル、アルミナゾル、ジルコニアゾル、チタニアゾル等を主成分とするバインダーを挙げることができる。例えば、上記シリカゾルとしては、テトラアルキルシリケートに水や酸触媒を加えて加水分解し、脱水縮重合を進ませた重合物、あるいはテトラアルキルシリケートを既に4〜5量体まで重合を進ませた市販のアルキルシリケート溶液を、更に加水分解と脱水縮重合を進行させた重合物等を利用することができる。
【0046】
尚、脱水縮重合が進行し過ぎると、溶液粘度が上昇して最終的に固化してしまうので、脱水縮重合の度合いについては、基材上に塗布可能な上限粘度以下に調整する。ただし、脱水縮重合の度合いは、上記上限粘度以下のレベルであれば特に限定されないが、膜強度、耐候性等を考慮すると、重量平均分子量で500〜50000程度が好ましい。そして、このアルキルシリケート加水分解重合物(シリカゾル)は、透明導電膜形成用塗布液の塗布・乾燥後の加熱時において脱水縮重合反応(架橋反応)がほぼ完結し、硬いシリケートバインダーマトリックス(酸化ケイ素を主成分とするバインダーマトリックス)になる。
【0047】
バインダーとして、有機−無機のハイブリッドバインダーを用いることもできる。例えば、前述のシリカゾルを一部有機官能基で修飾したバインダーや、シリコンカップリング剤等の各種カップリング剤を主成分とするバインダーが挙げられる。
【0048】
上記無機バインダーや有機−無機のハイブリッドバインダーを用いた透明導電膜は、必然的に優れた耐溶剤性を有しているが、基材との密着力や、透明導電膜の柔軟性等を考慮し、適宜選定する必要がある。
【0049】
これらの各種バインダーは、そのまま用いることもできるが、粘度が高いものである場合には、前記と同様な有機溶剤、すなわちシクロペンタノン、シクロヘキサノン、2−(1−シクロヘキシニル)シクロヘキサノン、2−シクロヘキシルシクロヘキサノン、シクロヘプタノン、シクロオクタノン、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、γ−カプロラクトン、又はイソホロンから選ばれる少なくとも一種の環状ケトン化合物を含んだ有機溶剤に溶解して用いることが好ましい。
また、透明導電膜形成用塗布液中の、導電性酸化物微粒子とバインダー成分の割合は、仮に導電性酸化物微粒子とバインダー成分の比重をそれぞれ7.2程度(ITOの比重)、1.2程度(通常の有機樹脂バインダーの比重)と仮定した場合、重量比で、導電性酸化物微粒子:バインダー成分=70:30〜97:3、好ましくは75:25〜95:5、更に好ましくは80:20〜90:10が良い。その理由は、70:30よりバインダー成分が多いと透明導電膜の抵抗が高くなりすぎ、逆に97:3よりバインダー成分が少ないと透明導電膜の強度が低下すると同時に、基材との十分な密着力が得られなくなるからである。
【0050】
本発明の透明導電膜形成用塗布液は、前記した表面がハロゲン元素で修飾された導電性酸化物微粒子を水分含有量の低い環状ケトン化合物を主成分とする有機溶剤に混合して分散させた導電性酸化物微粒子分散液を用い、これにバインダー成分を配合し、同様に分散させて得ることができる。
【0051】
4.透明導電膜
本発明の透明導電膜は、前記透明導電膜形成用塗布液をプラスチック製基材又はセラミック製基材上に塗布し、乾燥した後に、透明導電膜形成用塗布液の種類により加熱処理(乾燥硬化、熱硬化)、紫外線照射処理(紫外線硬化)、電子線照射処理(電子線硬化)等の硬化処理が施されて得られるものである。
【0052】
基材としては、有機基材や無機基材が適用でき、通常は透明基材が用いられる。各種プラスチック基材(板、フィルム)やセラミック基材、具体的には、プラスチックであれば、エポキシ、アクリル、ポリカーボネート(PC)、ポリエーテルサルホン(PES)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ウレタン、ナイロン樹脂、フッ素系樹脂等を用いることができる。中でも、安価で且つ透明性、強度に優れ、柔軟性も兼ね備えている等の観点から、PETフィルムを用いることが好ましい。セラミックであれば、例えば、各種ガラス、アルミナ、ジルコニア等を用いることができる。
【0053】
基材の厚さは、特に制限されるものではなく、用途に応じて適宜選択できる。近年、各種表示デバイスの軽薄短小化の流れを受けて、基材としてなるべく薄いものが求められる傾向があり、プラスチック基材のPETフィルムであれば、厚さが100μm以下のものが好ましい。
尚、プラスチック基材には、透明導電膜との密着力を高めるために、易接着処理、具体的には、プライマー処理、プラズマ処理、コロナ放電処理、短波長紫外線照射処理、シリコンカップリング処理等を予め施しておくことが好ましい。
【0054】
上記透明導電膜形成用塗布液は、スクリーン印刷、ブレードコーティング、ワイヤーバーコーティング、スプレーコート、ロールコート、ダイコート、スリットコート、グラビア印刷、フレキソ印刷、オフセット印刷、インクジェット印刷、ディスペンサー塗布等の方法で基材上に塗布・乾燥された後、前述の硬化処理が施され、透明導電膜が得られる。
【0055】
基材の加熱処理温度は、その耐熱性や透明導電膜形成用塗布液中の溶剤の沸点等を考慮して、適宜選択することが好ましい。例えば、基材がPETフィルムからなる場合、塗布膜を150℃以下で加熱することが好ましい。150℃を超えるとフィルムが軟化して変形しやすくなると同時に、フィルムから低分子成分のオリゴマーがフィルム表面に析出して白化する現象を引き起こすからである。
これにより得られる透明導電膜の膜特性は、可視光透過率:80%以上、好ましくは85%以上、ヘイズ値:10%以下、好ましくは7%以下、表面抵抗値:1000Ω/□以下、好ましくは800Ω/□以下である。
【実施例】
【0056】
以下、本発明の実施例を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。また、本文中の「%」は「質量%」を示し、また「部」は「重量部」を示している。
【0057】
(実施例1)
塩素で表面修飾された平均粒径0.03μmの粒状のITO微粒子(Sn含有量=6重量%、塩素=0.5重量%、ITO:Cl=1:0.02[モル比]、圧粉抵抗[100Kgf/cm]=0.18Ω・cm)24gを、溶剤としてのγ−ブチロラクトン(水分含有量:0.02%未満)24gと混合し、3分間、超音波分散処理を行い、平均分散粒径137nmのITO微粒子が分散した実施例1に係る導電性酸化物微粒子分散液を得た。(水分量は、導電性酸化物微粒子100重量部に対し0.02重量部未満)。この分散液は、密閉したガラス容器中での常温保管にて、1ヶ月以上良好な分散状態を維持した。上記分散液中の導電性酸化物微粒子の平均分散粒径は大塚電子(株)製のレーザー散乱式粒度分析計(ELS−800)を用いて測定した。
上記導電性酸化物微粒子分散液48gに、アクリル樹脂(三菱レイヨン社製、BR−83)6gを46gのγ−ブチロラクトンに溶かした樹脂バインダー溶液52gを添加しよく攪拌し、ITO微粒子がバインダーを含む溶剤に分散した実施例1に係る透明導電膜形成用塗布液を得た。この透明導電膜形成用塗布液は、密閉したガラス容器中での常温保管にて、1ヶ月以上良好な分散状態を維持した。
基材としてのPETフィルム(帝人(株)製、厚さ100μm)の一方の面に易接着処理としてのコロナ放電処理を施した後、その処理面に、上記透明導電膜形成用塗布液をワイヤーバーコーティング(線径:0.3mm)し、60℃で3分間乾燥した後、120℃で15分間加熱し硬化させ実施例1に係る透明導電膜を得た。この透明導電膜の膜特性は、可視光透過率:89.1%、ヘイズ値:6.1%、表面抵抗値:660Ω/□であった。
尚、上述の透明導電膜の透過率及びヘイズ値は、透明導電膜だけの値であり、それぞれ下記計算式1及び2により求められる。
[計算式1]
透明導電膜の透過率(%)=[(透明導電膜が形成された基材ごと測定した透過率)/基材の透過率]×100
[計算式2]
透明導電膜のヘイズ値(%)=(透明導電膜が形成された基材ごと測定したヘイズ値)−(基材のヘイズ値)
また、透明導電膜の表面抵抗は、三菱化学(株)製の表面抵抗計ロレスタAP(MCP−T400)を用い測定した。ヘイズ値と可視光透過率は、村上色彩技術研究所製のヘイズメーター(HR−200)を用いて測定した。
【0058】
(実施例2)
溶剤にシクロヘキサノン(水分含有量:0.04%未満)を使用した他は実施例1と同様にして、平均分散粒径138nmのITO微粒子が分散した実施例2に係る導電性酸化物微粒子分散液を得た。(水分量は、導電性酸化物微粒子100重量部に対し0.04重量部未満)。この分散液は、密閉したガラス容器中での常温保管にて、1ヶ月以上良好な分散状態を維持した。
上記導電性酸化物微粒子分散液48gに、アクリル樹脂(三菱レイヨン社製、BR−83)6gを46gのシクロヘキサノンに溶かした樹脂バインダー溶液52gを添加しよく攪拌し、ITO微粒子がバインダーを含む溶剤に分散した実施例2に係る透明導電膜形成用塗布液を得た。この透明導電膜形成用塗布液は、密閉したガラス容器中での常温保管にて、1ヶ月以上良好な分散状態を維持した。
上記透明導電膜形成用塗布液を用いた以外は実施例1と同様にして透明導電膜を作製した。この透明導電膜の膜特性は、可視光透過率:88.9%、ヘイズ値:7.1%、表面抵抗値:735Ω/□であった。
【0059】
(実施例3)
溶剤にイソホロン(水分含有量:0.02%未満)を使用した他は実施例1と同様にして、平均分散粒径133nmのITO微粒子が分散した実施例3に係る導電性酸化物微粒子分散液を得た。(水分量は、導電性酸化物微粒子100重量部に対し0.02重量部未満)。この分散液は、密閉したガラス容器中での常温保管にて、1ヶ月以上良好な分散状態を維持した。
上記導電性酸化物微粒子分散液48gに、アクリル樹脂(三菱レイヨン社製、BR−83)6gを46gのイソホロンに溶かした樹脂バインダー溶液52gを添加しよく攪拌し、ITO微粒子がバインダーを含む溶剤に分散した実施例3に係る透明導電膜形成用塗布液を得た。この透明導電膜形成用塗布液は、密閉したガラス容器中での常温保管にて、1ヶ月以上良好な分散状態を維持した。
上記透明導電膜形成用塗布液を用いた以外は実施例1と同様にして透明導電膜を作製した。この透明導電膜の膜特性は、可視光透過率:89.2%、ヘイズ値:6.5%、表面抵抗値:655Ω/□であった。
【0060】
(実施例4)
溶剤にγーバレロラクトン(水分含有量:0.02%未満)を用いた以外は実施例1と同様にして、平均分散粒径139nmのITO微粒子が分散した実施例4に係る導電性酸化物微粒子分散液を得た。(水分量は、導電性酸化物微粒子100重量部に対し0.02重量部未満)。この分散液は、密閉したガラス容器中での常温保管にて、1ヶ月以上良好な分散状態を維持した。
上記導電性酸化物微粒子分散液48gに、アクリル樹脂(三菱レイヨン社製、BR−83)6gを46gのγーバレロラクトンに溶かした樹脂バインダー溶液52gを添加しよく攪拌し、ITO微粒子がバインダーを含む溶剤に分散した実施例4に係る透明導電膜形成用塗布液を得た。この透明導電膜形成用塗布液は、密閉したガラス容器中での常温保管にて、1ヶ月以上良好な分散状態を維持した。
上記透明導電膜形成用塗布液を用いた以外は実施例1と同様にして透明導電膜を作製した。この透明導電膜の膜特性は、可視光透過率:87.5%、ヘイズ値:7.5%、表面抵抗値:790Ω/□であった。
【0061】
(実施例5)
溶剤にシクロペンタノン(水分含有量:0.02%未満)を用いた以外は実施例1と同様にして、平均分散粒径145nmのITO微粒子が分散した実施例5に係る導電性酸化物微粒子分散液を得た。(水分量は、導電性酸化物微粒子100重量部に対し0.02重量部未満)。この分散液は、密閉したガラス容器中での常温保管にて、1ヶ月以上良好な分散状態を維持した。
上記導電性酸化物微粒子分散液48gに、アクリル樹脂(三菱レイヨン社製、BR−83)6gを46gのシクロペンタノンに溶かした樹脂バインダー溶液52gを添加しよく攪拌し、ITO微粒子がバインダーを含む溶剤に分散した実施例4に係る透明導電膜形成用塗布液を得た。この透明導電膜形成用塗布液は、密閉したガラス容器中での常温保管にて、1ヶ月以上良好な分散状態を維持した。
上記透明導電膜形成用塗布液を用いた以外は実施例1と同様にして透明導電膜を作製した。この透明導電膜の膜特性は、可視光透過率:87.2%、ヘイズ値:9.3%、表面抵抗値:890Ω/□であった。
【0062】
(比較例1)
塩素で表面修飾されていない平均粒径0.03μmの粒状のITO微粒子(Sn含有量=6重量%、塩素=0.05重量%以下、ITO:Cl=1:0.002以下[モル比]、圧粉抵抗[100Kgf/cm]=0.25Ω・cm)24gを、溶剤としてのγ−ブチロラクトン(水分含有量:0.02%未満)24gと混合し、超音波分散処理を行ったが、クリーム状になり良好な導電性酸化物微粒子分散液を得ることはできなかった。
クリーム状になってしまったため、透明導電膜形成用塗布液としての評価はしていない。
【0063】
(比較例2)
塩素で表面修飾されたITO微粒子が溶剤に分散した実施例1に係る導電性酸化物微粒子分散液20gを、大気開放(25℃、55%RH)したガラス容器に入れ24時間攪拌した。上記導電性酸化物微粒子分散液は、大気中の水分を吸湿しクリーム状になり再度超音波分散処理を行っても良好な導電性酸化物微粒子分散液を得ることはできなかった。吸湿した水分量は、0.16gであり、導電性酸化物微粒子100重量部に対し1.6重量部であった。尚、水分量分析はカールフィッシャー法で行った。
クリーム状になってしまったため、透明導電膜形成用塗布液としての評価はしていない。
【0064】
(比較例3)
塩素で表面修飾された平均粒径0.03μmの粒状のITO微粒子(Sn含有量=6重量%、塩素=0.5重量%、ITO:Cl=1:0.02[モル比]、圧粉抵抗[100Kgf/cm]=0.18Ω・cm)24gを、溶剤としてのジアセトンアルコール(水分含有量:0.04%未満)24gと混合し、超音波分散処理を行ったところ、クリーム状になり良好な導電性酸化物微粒子分散液を得ることはできなかった。
クリーム状になってしまったため、透明導電膜形成用塗布液としての評価はしていない。
【0065】
(比較例4)
塩素で表面修飾された平均粒径0.03μmの粒状のITO微粒子(Sn含有量=6重量%、塩素=0.5重量%、ITO:Cl=1:0.02[モル比]、圧粉抵抗[100Kgf/cm]=0.18Ω・cm)24gを、溶剤としてのジアセトンアルコール(水分含有量:0.04%未満)21.87gと高分子分散剤2.13gを混合し、超音波分散処理を行い、平均分散粒径141nmのITO微粒子が分散した比較例4に係る導電性酸化物微粒子分散液を得た。この分散液は、常温保管にて、1ヶ月以上良好な分散状態を維持した。
上記導電性酸化物微粒子分散液48gに、アクリル樹脂(三菱レイヨン社製、BR−83)6gを46gのジアセトンアルコールに溶かした樹脂バインダー溶液52gを添加しよく攪拌し、ITO微粒子がバインダーを含む溶剤に分散した比較例4に係る透明導電膜形成用塗布液を得た。
上記透明導電膜形成用塗布液を用いた以外は実施例1と同様にして透明導電膜を作製した。この透明導電膜の膜特性は、可視光透過率:88.7%、ヘイズ値:7.5%、表面抵抗値:4500Ω/□であった。
【0066】
(比較例5)
塩素で表面修飾された平均粒径0.03μmの粒状のITO微粒子(Sn含有量=6重量%、塩素=0.5重量%、ITO:Cl=1:0.02[モル比]、圧粉抵抗[100Kgf/cm]=0.18Ω・cm)24gを、溶剤としてのメチルイソブチルケトン(MIBK)(水分含有量:0.04%未満)24gと混合し、超音波分散処理を行ったところ、クリーム状になり良好な導電性酸化物微粒子分散液を得ることはできなかった。クリーム状になってしまったため、透明導電膜形成用塗布液としての評価はしていない。
【0067】
「評価」
実施例1〜5を比較例1と比べると、塩素で表面修飾されたITO微粒子を分散剤を用いずに水分含有量の低いγ−ブチロラクトン、シクロヘキサノン、イソホロン、γ−バレロラクトン、又はシクロペンタノンに分散させた各実施例の導電性酸化物微粒子分散液、それを用いて得られた透明導電膜形成用塗布液が良好な分散性を示すのに対し、塩素で表面修飾されていないITO微粒子を、分散剤を用いずに水分含有量の低いγ−ブチロラクトンに分散させた比較例1の導電性酸化物微粒子分散液はクリーム状であり、良好な分散性を示していない。
実施例1と比較例2を比べると、実施例1の導電性酸化物微粒子分散液が良好な分散性を示すのに対し、その導電性酸化物微粒子分散液が吸湿して水分含有量が増加した比較例2の導電性酸化物微粒子分散液はクリーム状となり良好な分散性を示していない。
実施例1〜5と比較例3を比べると、各実施例のγ−ブチロラクトン、シクロヘキサノン、イソホロン、γ−バレロラクトン、又はシクロペンタノンを有機溶剤に用い分散剤を含まない導電性酸化物微粒子分散液が良好な分散性を示すのに対し、ジアセトンアルコールを有機溶剤に用い分散剤を含まない比較例3の導電性酸化物微粒子分散液はクリーム状となり良好な分散性を示していない。実施例1〜5を、有機溶剤としてメチルイソブチルケトン(MIBK)を用いた比較例5を比べた場合も同様である。
さらに、実施例1〜5と比較例4を比べると、各実施例のγ−ブチロラクトン、シクロヘキサノン、イソホロン、γ−バレロラクトン、又はシクロペンタノンを有機溶剤に用い分散剤を含まない透明導電膜形成用塗布液が良好な分散性を示し、かつ、その塗布液で形成された透明導電膜が優れた導電性を有する(表面抵抗値:660〜890Ω/□)のに対し、ジアセトンアルコールを有機溶剤に用い分散剤を含む比較例4の透明導電膜形成用塗布液は、良好な分散性を示すものの、その塗布液で形成された透明導電膜は導電性が著しく悪い(表面抵抗値:4500Ω/□)ことがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハロゲン元素で表面修飾された平均粒径1〜500nmの導電性酸化物微粒子(A)が、分散剤を含まない有機溶剤(B)に分散した導電性酸化物微粒子分散液であって、有機溶剤(B)が環状ケトン化合物を主成分とし、かつ該分散液中に含まれる水分の量が、導電性酸化物微粒子100重量部に対し1.5重量部以下であることを特徴とする導電性酸化物微粒子分散液。
【請求項2】
導電性酸化物微粒子(A)が、酸化インジウム、酸化錫、又は酸化亜鉛から選ばれる少なくとも一種の金属酸化物を主成分として含有する微粒子であることを特徴とする請求項1に記載の導電性酸化物微粒子分散液。
【請求項3】
導電性酸化物微粒子(A)が、錫がドープされた酸化インジウムを主成分として含有する金属酸化物微粒子であることを特徴とする請求項2に記載の導電性酸化物微粒子分散液。
【請求項4】
ハロゲン元素が、塩素であることを特徴とする請求項1に記載の導電性酸化物微粒子分散液。
【請求項5】
有機溶剤(B)が、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、2−(1−シクロヘキシニル)シクロヘキサノン、2−シクロヘキシルシクロヘキサノン、シクロヘプタノン、シクロオクタノン、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、γ−カプロラクトン、又はイソホロンから選ばれる少なくとも一種の環状ケトン化合物であることを特徴とする請求項1に記載の導電性酸化物微粒子分散液。
【請求項6】
環状ケトン化合物の含有量が、有機溶剤(B)全体に対して80質量%以上であることを特徴とする請求項1又は5に記載の導電性酸化物微粒子分散液。
【請求項7】
有機溶剤(B)の含有量が、分散液全体に対して20〜95質量%であることを特徴とする請求項1に記載の導電性酸化物微粒子分散液。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の導電性酸化物微粒子分散液が、更にバインダー成分(C)を含有することを特徴とする透明導電膜形成用塗布液。
【請求項9】
バインダー成分(C)が、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、常温硬化性樹脂、紫外線硬化性樹脂、又は電子線硬化性樹脂等から選択されるいずれかの有機樹脂であることを特徴とする請求項8に記載の透明導電膜形成用塗布液。
【請求項10】
請求項8又は9に記載の透明導電膜形成用塗布液をプラスチック製基材又はセラミック製基材上に塗布し、乾燥した後に、硬化処理が施されて得られる透明導電膜。
【請求項11】
プラスチック製基材が、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムであることを特徴とする請求項10に記載の透明導電膜。

【公開番号】特開2008−34345(P2008−34345A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−63238(P2007−63238)
【出願日】平成19年3月13日(2007.3.13)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】