説明

導電性防眩膜形成用組成物、導電性防眩膜及びディスプレイ

【課題】優れた帯電防止効果と防眩効果を有し、膜の可視光透過率が非常に高く且つ透過画像の色相が自然である導電性防眩膜を形成し得る組成物、そのような導電性防眩膜並びにそのような導電性防眩膜を表示面に有するディスプレイを提供すること。
【解決手段】バインダー成分及び該バインダー成分中に分散した水酸化錫粉体及び透光性微粒子からなり、水酸化錫粉体とバインダー成分との合計質量をX、透光性微粒子の質量をYとした場合にX/Yの質量比が99.9/0.1〜50/50の範囲内である導電性防眩膜形成用組成物、そのような組成物から得られる導電性防眩膜、並びにそのような導電性防眩膜を表示面に有するディスプレイ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は導電性防眩膜形成用組成物、導電性防眩膜及び表示面に導電性防眩膜を有するディスプレイに関し、より詳しくは、多様な透明基材の表面、特にLCDやプラズマディスプレイ等の表示面に塗布又は印刷し、乾燥させることにより、高い防眩効果と優れた帯電防止効果を有し、色相吸収が無いので膜の可視光透過率が非常に高く且つ透過画像の色相が自然である導電性防眩膜を形成し得る組成物、そのような導電性防眩膜並びにそのような導電性防眩膜を表示面に有するディスプレイに関する。
【背景技術】
【0002】
TVブラウン管やコンピュータのディスプレイ等として用いられている陰極線管は、赤色、緑色、青色に発光する蛍光面に電子ビームを衝突させることによって文字や画像を表示面に映し出すものであるから、この表示面に発生する静電気により埃が付着して視認性が低下する。また最近、壁掛けテレビ等としての応用が進められているプラズマディスプレイにおいても、静電気の発生が指摘されている。その対策として、FPD表示面に貼られている光学フィルムに導電性を付与し、埃の付着を防ぐ機能が要求されている。また、蛍光灯等の外部光が映り込むことにより画像が見えにくいという問題があり、対策として、高い透過率を保ちつつ、防眩機能を付与させることが求められてきている。
【0003】
これらの問題を解決するために、従来は、銀、金等の微粒子を液中に均一に分散させた塗布液を表示装置の表示面上に塗布し乾燥させるか、又はスパッタ法や蒸着法によって導電性の透明金属薄膜を形成し、この透明金属薄膜の上層及び/又は下層に、これとは屈折率が異なる透明層を積層して帯電防止並びに反射防止を図っている。例えば、電磁波遮蔽効果及び反射防止効果に優れた透明導電膜として、平均粒径2〜200nmの金属微粒子からなる透明導電性微粒子層と、これとは屈折率が異なる透明被膜とからなるものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。更に、シリカ、アクリル、ウレタンビーズ等の有機又は無機の粒子を添加して防眩性を付与した膜を積層したものが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
また、酸化物半導体透明膜は、一般に可視光に対して高い光透過率を示し、低抵抗でかつ膜強度が強いために、液晶ディスプレイなどの透明電極や太陽電池の窓材料、熱線反射膜、帯電防止膜など多方面に利用されている。このような酸化物半導体として、酸化錫、アンチモンを含有する酸化錫(以下、ATOと記載する)、錫を含有する酸化インジウム(以下、ITOと記載する)等が知られている(例えば、特許文献3〜8参照)。
【0005】
従来は、絶縁体上に金属又は半導体性金属酸化物を真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティングなどの気相法により堆積させる方法、バインダー成分(結合剤)である樹脂溶液中に分散させた分散液を塗料又はインクとして塗布又は印刷する塗工法等が知られている。
【0006】
【特許文献1】特開平8−77832号公報
【特許文献2】特開平11−115087号公報
【特許文献3】特開平5−289313号公報
【特許文献4】特開平6−295666号公報
【特許文献5】特開平7−242844号公報
【特許文献6】特開平8−143792号公報
【特許文献7】特開平8−199096号公報
【特許文献8】特開平11−181335号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、金属微粒子として銀を用いた場合に得られる導電膜では、銀の光透過スペクトルに依存して400〜500nmの透過光に吸収が生じ、導電膜が黄色に着色し、透過画像の色相が不自然に変化するという問題や、膜の可視光平均透過率が低いために膜厚分布に起因した透過色のムラが目立ち易く、その防止のために生産性が悪化するという問題があった。
【0008】
また、錫を含有する酸化インジウムを用いた導電膜形成用組成物で得られる透明導電膜でも、同様に黄色や青色に着色し、透過画像の色相が不自然に変化するという問題があった。ATOやITOの酸化物半導体透明膜は、赤外線領域、特に近赤外線領域に急峻な吸収があるために青味を帯びている。また、酸化錫などの赤外線領域に吸収の無い酸化物半導体透明膜においても400nm付近の光透過率が低く、黄味を帯びている。そのため従来の酸化物半導体透明膜においては可視光領域の分光曲線がフラットにならず、透過光の色相が不自然に変化するという問題があった(図1のITOの場合の波長と光透過率との相関関係及びSnO2の場合の波長と光透過率との相関関係を示すグラフを参照のこと)。そのため透明基板を用いても、透明性が高く、導電性などの膜特性が実用目的に必要な水準に達している透明導電膜を得ることが困難であった。また、これまで、ATOやITO等の酸化物半導体と透光性微粒子とを組み合わせることで防眩効果を付与したものはあったが、色味があり、高い透明性を有する導電性防眩膜を得ることは困難であった。
【0009】
本発明は、上記の諸問題を解決するためになされたものであり、優れた帯電防止効果を有し、色相吸収が無いので膜の可視光透過率が非常に高く且つ透過画像の色相が自然であり、更に、高い防眩効果を有する導電性防眩膜を形成し得る組成物、そのような導電性防眩膜並びにそのような導電性防眩膜を表示面に有するディスプレイを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記の目的を達成するために鋭意検討した結果、バインダー成分中に水酸化錫粉体及び透光性微粒子を特定の量比で分散させることにより望ましい結果が得られることを見出し、本発明に到達した。
【0011】
即ち、本発明の導電性防眩膜形成用組成物は、バインダー成分及び該バインダー成分中に分散した水酸化錫粉体及び透光性微粒子からなり、水酸化錫粉体とバインダー成分との合計質量をX、透光性微粒子の質量をYとした場合にX/Yの質量比が99.9/0.1〜50/50の範囲内であることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の導電性防眩膜は、上記の導電性防眩膜形成用組成物を塗布又は印刷し、乾燥させて得られるものであることを特徴とする。
【0013】
更に、本発明のディスプレイは、表示面に上記の導電性防眩膜を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の導電性防眩膜形成用組成物は、塗料又はインクとして基板に塗布又は印刷し、乾燥させることによって基板上に導電性防眩膜を形成することができる。従って、比較的耐熱性の低い樹脂基板や多様な形状の基板にも適用でき、導電性防眩膜を連続的に大量生産でき、また大面積化も容易である。得られる導電性防眩膜については、成膜条件を調整することにより、例えば、表面抵抗値が好ましくは107〜1012Ω/□、より好ましくは107〜1011Ω/□、光透過率が好ましくは85%以上、ヘイズが好ましくは3〜50%、より好ましくは8〜40%という、透明性、導電性、そして防眩性のいずれにも優れた導電性防眩膜となる。従って、本発明の導電性防眩膜形成用組成物は、液晶などの透明電極や、太陽電池の窓材料、赤外線反射膜、帯電防止膜、タッチパネル、面発熱体、電子写真記録など広範囲な分野に利用可能であり、各分野において優れた性能を示すことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の導電性防眩膜形成用組成物においては、バインダー成分中に水酸化錫粉体及び透光性微粒子が分散しており、該水酸化錫粉体として水酸化錫自体の粉体又はドーパントとしてP、Al、In、Zn及びSbの少なくとも一種を含む水酸化錫粉体を用いることができる。
【0016】
本発明で用い得る水酸化錫粉体は図1に示すように、広範囲の波長に渡って光透過率の優れたものであり、このような水酸化錫粉体は市販品を利用してもよく、或いは公知の方法(例えば、錫の塩化物が溶解した酸性溶液をアルカリで中和して水酸化物を共沈させ、この共沈物を乾燥させる)で製造することもできる。この水酸化錫粉体は平均一次粒子径が0.2μm以下の超微粒子であることが好ましい。粒子径が0.2μm以下である場合には透明膜が得られるが、0.2μmを超えると得られる膜の透明性が低下する傾向がある。しかし、得られる透明膜の透明性が重要でない用途に対しては、0.2μmより大粒径の水酸化錫粉体も使用できる。なお、使用する水酸化錫の結晶性は、X線回折分析により判断して、アモルファス状態が好ましいが、一部が結晶化されていても良い。また水酸化錫の圧粉体抵抗は1×109Ω・cm以下であることが好ましい。
【0017】
本発明で用い得るドーパントとして、P、Al、In、Zn及びSbの少なくとも一種を含む水酸化錫粉体は市販品として入手することができ、また、公知の方法(例えば、リンと錫の各塩化物が溶解した酸性溶液をアルカリで中和してリン/錫の水酸化物を共沈させ、この共沈物を乾燥させる)で製造することもできる。ドーパントとしてP、Al、In、Zn及びSbの少なくとも一種を含む水酸化錫粉体においては、(ドーパント+Sn)に対するドーパントの量が0.1〜20at%の範囲内であることが好ましく、1〜15at%の範囲内であることがより好ましい。ドーパント含有量がこの範囲から外れると、ドーパント含有水酸化錫粒子自体の抵抗が高くなるため、形成された膜の導電性が低下する傾向がある。このドーパントとしてP、Al、In、Zn及びSbの少なくとも一種を含む水酸化錫粉体は上記と同様に平均一次粒子径が0.2μm以下の超微粒子であることが好ましい。
【0018】
本発明の導電性防眩膜形成用組成物においては、水酸化錫自体の粉体及びドーパントとしてP、Al、In、Zn及びSbの少なくとも一種を含む水酸化錫粉体よりなる群から選ばれる水酸化錫粉体(以下、単に水酸化錫粉体と記載する)とバインダー成分との質量比(水酸化錫粉体/バインダー成分)は、好ましくは5/95〜95/5の範囲内、より好ましくは15/85〜90/10の範囲内、最も好ましくは25/75〜85/15の範囲内である。水酸化錫粉体の量が上記質量比で5/95より少ないと、得られる膜は透明性が十分であっても、導電性が悪くなる傾向がある。逆に、水酸化錫粉体が上記質量比で95/5より多いと、粉体の分散性が悪くなり、得られた導電膜の透明性、基板への密着性が低くなり、膜性能が低下する傾向がある。
【0019】
本発明の導電性防眩膜形成用組成物においては、透光性微粒子として、例えば、無機フィラー及び樹脂フィラーよりなる群から選ばれる少なくとも1種を用いることができる。無機フィラーとして、例えば、シリカ、アルミナ、タルク、ジルコニア、酸化亜鉛又は酸化チタンからなるフィラーを挙げることができる。透光性の乏しい無機フィラーに関しては、微粒化することで透光性を持たせることが可能である。また、樹脂フィラーとして、例えば、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエチレン樹脂、エポキシ樹脂又はシリコーン樹脂からなるフィラーを挙げることができる。このような透光性微粒子として市販品を利用することができる。透光性微粒子の形状については球形であることが好ましい。また、透光性微粒子の粒子径は0.1〜10μmであることが好ましく、2〜8μmであることがより好ましい。これらの粒子を用いて、均一な凹凸形状を有する膜を形成するか、または上記の無機フィラーを微粒化したものや樹脂フィラーを用いて、内部ヘイズを有する膜を形成することにより、塗膜に防眩性を持たせることができる。更に、水酸化錫粉体とバインダー成分との合計質量をX、透光性微粒子の質量をYとした場合にX/Yの質量比が99.9/0.1〜50/50の範囲内であることが必要であり、99/1〜80/20の範囲内であることが好ましい。透光性微粒子の量が上記のX/Yの質量比の範囲よりも少ないと、得られる導電性防眩膜において光を拡散する効果が不足するため、高い透明性と導電性が得られても、十分な防眩効果を得ることが困難になる。また、透光性微粒子の量が上記のX/Yの質量比の範囲よりも多いと、得られる導電性防眩膜において防眩性は向上するものの、ヘイズ値が高くなり過ぎて透過画像の鮮明度が低くなり、且つ光の透過率が低くなる。
【0020】
本発明の導電性防眩膜形成用組成物においては、使用する溶媒に溶解でき、水酸化錫粉体及び透光性微粒子を分散させることができ、成膜できるバインダー成分であれば、一般的に塗料で用いられている任意のバインダー成分を特に制限なく用いることができる。例えば、アルキド樹脂、ポリエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ビニル樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、フタル酸樹脂、アミノ樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアクリルシリコーン樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、もしくはこれらを変性したバインダー樹脂等を1種単独で用いることも、2種類以上を併用することもできる。
【0021】
更に、上記バインダー成分中には必要に応じて架橋剤を含有させても良く、例えば、アミノ基等の塩基性官能基、OH基等の中性官能基、カルボキシル基等の酸性官能基、イソシアネート基等の反応性官能基を1分子中に2つ以上有する任意の架橋剤を用いることができる。
【0022】
また、上記バインダー成分はラジカル重合性モノマーであってもよく、ラジカル重合性の不飽和基(α,β−エチレン性不飽和基)を有しているモノマーであれば、アミノ基等の塩基性官能基を有するもの、OH基等の中性官能基を有するもの、カルボキシル基等の酸性官能基を有するもの、或いはこのような官能基を有していないもの、のいずれでもよい。
【0023】
さらに、本発明の導電性防眩膜形成用組成物には、その目的を損なわない範囲内で、慣用の各種添加剤を配合してもよい。このような添加剤の例として、分散剤、分散助剤、重合禁止剤、硬化触媒、酸化防止剤、レベリング剤等を挙げることができる。
【0024】
本発明の導電性防眩膜形成用組成物においては、上記バインダー成分を溶解又は分散させると共に、水酸化錫粉体及び透光性微粒子を分散させることができるが基材を侵さない溶剤であれば、一般的に塗料で用いられている任意の溶剤を特に制限なく用いることができる。例えば、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、トルエン、m−キシレン等の炭化水素、テトラクロロメタン、トリクロロエチレン等のハロゲン化炭化水素、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、イソホロン、シクロヘキサン等のケトン、ジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソアミル等のエステル、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、n−ペンタノール、2−エチルヘキサノール、シクロヘキサノール、ジアセトンアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン等のアルコール、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエーテル/アルコールやエーテル/エステル、又はこれら混合系を用いることができる。そのような溶剤の使用量については、水酸化錫粉体及び透光性微粒子を分散させて最終的に得られる組成物の粘性が塗布又は印刷に適したものとなるように調整する。本発明の導電性防眩膜形成用組成物においては粘度が2〜10000cps(E型粘度計:20℃)の範囲内にあることが好ましい。
【0025】
本発明の導電性防眩膜形成用組成物は、例えば、上記バインダー成分に必要に応じて有機溶媒を加えて希釈したバインダー成分溶液中に水酸化錫粉体及び透光性微粒子を分散させることにより製造することができる。また、水酸化錫粉体及び透光性微粒子を有機溶媒に分散させ、その後、上記バインダー成分を加えて分散させることによっても製造することができる。無論、バインダー成分、水酸化錫粉体、透光性微粒子及び有機溶媒の4成分を同時に混合し、分散させることによっても製造することができる。このような分散操作は、常法により、ペイントシェーカー、ボールミル、サンドミル、セントリミル、三本ロール等によって行うことができる。無論、通常の攪拌操作によって分散させることもできる。
【0026】
本発明の導電性防眩膜形成用組成物を塗布して本発明の導電性防眩膜を形成する基板としては、電気・電子機器をはじめとして様々な分野において広く用いられている各種の合成樹脂、ガラス、セラミックス等を挙げることができ、これらはシート状、フィルム状、板状等の任意の形状であり得る。合成樹脂の具体例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂及びフェノール樹脂等を挙げることができるが、これらに制限されるものではない。
【0027】
本発明の導電性防眩膜形成用組成物の基板への塗布又は印刷は常法により、例えば、ロールコート、スピンコート、スクリーン印刷などの手法で行うことができる。その後、塗膜を硬化させる。上記バインダー成分が重合し、水酸化錫粉体及び透光性微粒子が樹脂で結合された導電性防眩膜が形成される。この導電性防眩膜の膜厚は一般的に0.5〜10μmの範囲内であることが好ましく、2〜8μmの範囲内であることがより好ましい。
【0028】
基板上に本発明の導電性防眩膜形成用組成物から形成された本発明の導電性防眩膜は、例えば、表面抵抗値が好ましくは107〜1012Ω/□、より好ましくは107〜1011Ω/□、光透過率が好ましくは85%以上、ヘイズが好ましくは3〜50%、より好ましくは8〜40%という、透明性、導電性、そして防眩性のいずれにも優れた導電性防眩膜となる。このような導電性防眩膜は電子写真記録の埃防止膜として、或いは帯電防止膜等として利用可能であり、例えば、ディスプレイの表示面に用いることができる。
【実施例】
【0029】
以下に、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明する。実施例で使用した水酸化錫粉体は平均一次粒子径が0.05μmの粒子であり、粉体抵抗が1×107Ω・cmで あり、またドーパントとしてリンを含む水酸化錫粉体はSn+Pに対するPの量が5.0at%であり、平均一次粒子径が0.05μmの粒子であった。また、実施例及び比較例において「部」は全て「質量部」である。
【0030】
実施例1
バインダー成分としてのアクリルレジン溶液(ダイヤナールLR−90、固形分30%、三菱レイヨン株式会社製商品名)230部を、水酸化錫粉体30部、溶剤としてのイソプロピルアルコール150部及びガラスビーズ250部と共に容器に入れ、ペイントシェーカーで、粒ゲージにより分散状態を確認しながら、5時間練合した。練合後、ガラスビーズを取り除き、粘稠な液状物を得た。更に、この粘稠な液状物に、透光性微粒子であるサイロホービック#200(無機フィラー、粒子径4.0μm、富士シリシア株式会社製)をイソプロピルアルコール中に分散させた透光性微粒子分散液(NV.20%)50部を添加した。その後、ロールコーターを用いてその粘稠な液状物を膜厚75μmのPETフィルム(東洋紡A4300、光透過率91%、ヘイズ0.7%)上に塗布し、有機溶媒を蒸発させた後、60℃で10分間乾燥させて厚み3μmの導電性防眩膜を作製した。
【0031】
実施例2
サイロホービック#200をイソプロピルアルコール中に分散させた透光性微粒子分散液(NV.20%)50部の代わりに有機フィラーMX−300(粒子径2.8μm、綜研化学株式会社製)をイソプロピルアルコール中に分散させた透光性微粒子分散液(NV.10%)100部を添加した以外は実施例1と同様に処理して厚み2.5μmの導電性防眩膜を作製した。
【0032】
実施例3
サイロホービック#200をイソプロピルアルコール中に分散させた透光性微粒子分散液(NV.20%)の添加量を50部から100部に変更した以外は実施例1と同様に処理して厚み3μmの導電性防眩膜を作製した。
【0033】
実施例4
水酸化錫粉体30部の代わりに上記のドーパントとしてリンを含む水酸化錫粉体30部を添加した以外は実施例1と同様に処理して厚み3μmの導電性防眩膜を作製した。
【0034】
実施例5
水酸化錫粉体30部、溶剤としての酢酸ブチル200部及びガラスビーズ250部を容器に入れ、ペイントシェーカーで、粒ゲージにより分散状態を確認しながら、5時間練合した。練合後、ガラスビーズを取り除き、その分散液をバインダー成分としてのアクリル樹脂(ダイヤナールHR−633、固形分50%、三菱レイヨン株式会社製商品名)70部及びメラミン樹脂(ユーバン225、固形分60%、三井化学株式会社製商品名)58部と共に、ディスパーにより十分に撹拌しながら混合し、粘稠な液状物を得た。更に、この粘稠な液状物に、透光性微粒子である上記のサイロホービック#200をイソプロピルアルコール中に分散させた透光性微粒子分散液(NV.20%)50部を添加した。その後、ロールコーターを用いてその粘稠な液状物を膜厚75μmのPETフィルム(東洋紡A4300、光透過率91%、ヘイズ0.7%)上に塗布し、有機溶媒を蒸発させた後、120℃で15分間乾燥させて厚み3μmの導電性防眩膜を作製した。
【0035】
実施例6
バインダー成分としてのアクリルレジン溶液(ダイヤナールLR−90、固形分30%、三菱レイヨン株式会社製商品名)の量を230部から100部に変更し、水酸化錫粉体の量を30部から70部に変更した以外は実施例1と同様に処理して厚み5μmの導電性防眩膜を作製した。
【0036】
比較例1
水酸化錫粉体30部の代わりにITO粉体30部を用いた以外は実施例1と同様に処理して厚み5μmの導電性防眩膜を作製した。
【0037】
比較例2
水酸化錫粉体30部の代わりに酸化錫粉体30部を用いた以外は実施例1と同様に処理して厚み5μmの導電性防眩膜を作製した。
【0038】
比較例3
透光性微粒子分散液を添加しなかった以外は実施例1と同様に処理して厚み3μmの導電性防眩膜を作製した。
【0039】
比較例4
透光性微粒子分散液(NV.20%)の添加量を50部から600部に変更した以外は実施例1と同様に処理して厚み3μmの導電性防眩膜を作製した。
【0040】
比較例5
透光性微粒子分散液(NV.20%)の添加量を50部から0.25部に変更した以外は実施例1と同様に処理して厚み3μmの導電性防眩膜を作製した。
【0041】
実施例及び比較例で得た導電性防眩膜について、その全線光透過率及びヘイズを東京電色技術センター製TC−HIII DPKで測定した。測定値は基材を含んだ値である。また、表面抵抗値を三菱化学株式会社製のハイレスタIP MCP−HT260表面抵抗器で測定した。それらの測定結果を第1表にまとめて示す。
【0042】
【表1】

【0043】
第1表中、Pは導電性粉体(水酸化錫粉体等)を意味し、Bはバインダー成分を意味し、Xは導電性粉体とバインダー成分との合計質量を意味し、Yは透光性微粒子の質量を意味する。
【0044】
第1表に示すデータから明らかなように、水酸化錫粉体及び透光性微粒子を含んでいる本発明の導電性防眩膜形成用組成物を塗布した場合(実施例1〜6)には、表面抵抗値が107〜1012Ω/□、光透過率が85%以上、ヘイズ3〜50%という、透明性、導電性、そして防眩性のいずれにも優れた導電性防眩膜が得られ、FPD用光学フィルムの機能を十分満足するものであった。ITO粉体又は酸化錫粉体を含んでいる導電膜形成用組成物を塗布した場合(比較例1〜2)には、光透過率が85%未満であった。また、透光性微粒子の添加量が適正範囲でない場合(比較例3〜5)には、所望の防眩機能が得られなかった。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】各種導電性粉体の波長と光透過率との相関関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バインダー成分及び該バインダー成分中に分散した水酸化錫粉体及び透光性微粒子からなり、水酸化錫粉体とバインダー成分との合計質量をX、透光性微粒子の質量をYとした場合にX/Yの質量比が99.9/0.1〜50/50の範囲内であることを特徴とする導電性防眩膜形成用組成物。
【請求項2】
水酸化錫粉体/バインダー成分の質量比が5/95〜95/5の範囲内であることを特徴とする請求項1記載の導電性防眩膜形成用組成物。
【請求項3】
透光性微粒子が無機フィラー及び樹脂フィラーよりなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1又は2記載の導電性防眩膜形成用組成物。
【請求項4】
水酸化錫粉体がドーパントとしてP、Al、In、Zn及びSbの少なくとも一種を含む水酸化錫粉体であることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の導電性防眩膜形成用組成物。
【請求項5】
P、Al、In、Zn及びSbの少なくとも一種のドーパントの量が、(ドーパント+Sn)に対して0.1〜20at%であることを特徴とする請求項4記載の導電性防眩膜形成用組成物。
【請求項6】
請求項1〜5の何れかに記載の導電性防眩膜形成用組成物を塗布又は印刷し、乾燥させることによって得られるものであることを特徴とする導電性防眩膜。
【請求項7】
表面抵抗値が107〜1012Ω/□であり、光透過率が85%以上であり、ヘイズが3〜50%である請求項6記載の導電性防眩膜。
【請求項8】
表示面に請求項6又は7記載の導電性防眩膜を有することを特徴とするディスプレイ。

【図1】
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【公開番号】特開2007−327015(P2007−327015A)
【公開日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−161586(P2006−161586)
【出願日】平成18年6月9日(2006.6.9)
【出願人】(597065282)株式会社ジェムコ (151)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【出願人】(000003322)大日本塗料株式会社 (275)
【Fターム(参考)】