説明

導電性黒色ペースト組成物及び該組成物を用いたバス電極の製造方法

【課題】遮蔽効果と高い導電性の双方を兼ね備えた単一の黒色層からなるバス電極を形成できる。ペースト材料の利用効率を向上できる。フォトリソグラフィ法を用いた従来の製造工程の煩雑さを改善し、製造工程を簡略化できる。
【解決手段】PDP10を構成するフロントガラス基板11上にオフセット印刷法又はスクリーン印刷法によりバス電極16を形成するための導電性黒色ペースト組成物であって、組成物が1〜10質量%の黒色酸化物粉末と、1〜10質量%の硫化物粉末と、1〜25質量%のガラス粉末と、35〜85質量%の金属粉末と、残部が有機系ビヒクルとを含み、黒色酸化物粉末の平均粒径が0.05〜0.5μmであり、かつ黒色酸化物粉末の比表面積が3〜50m2/gであることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマディスプレイパネル(Plasma Display Panel、以下、PDPという。)のフロントガラス基板上にバス電極を形成するのに好適な導電性黒色ペースト組成物及び該組成物を用いたバス電極の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
PDPはガスを封入した密閉空間である放電セルの電極対に電圧を印加し、プラズマ放電を発生させ、ガスから発生する紫外線を放電セル内に塗布された蛍光体に照射し、蛍光体を励起させてこれを発光させることにより情報を表示する表示デバイスである。
【0003】
PDPの画像表示方法について以下、図5を参照しながら更に説明する。PDPはフロントガラス基板11とリアガラス基板12との間に放電の広がりを一定領域に抑え、表示を規定のセル内で行わせると同時に、かつ均一な放電空間を確保するために隔壁13が設けられる。フロントガラス基板11の内面にはバス電極16が設けられ、リアガラス基板12の内面には、バス電極16に対向してアドレス電極17が設けられる。両基板11,
12は隔壁13により区画される。区画された内部にはガスが封入され、放電空間14が形成される。PDPはこの放電空間14内で相対向するバス電極16とアドレス電極17との間にプラズマ放電を生じさせることにより、この放電空間14内に封入されているガスから発生する紫外線を放電空間14内に設けた蛍光体18G,18B,18Rに当てることにより表示を行うものである。
【0004】
近年、PDPの高画質化が求められ、その対策の一つとしてハイコントラスト化が挙げられる。従来、PDPのコントラストは、ブラウン管テレビと比べ低いものであったが、このコントラストを低下させる原因の1つが、室内光の反射輝度の高さである。
【0005】
室内光は可視光であるが、PDPを構成する放電セル内の蛍光体に対する可視光の反射率が高いため、蛍光体に当たって反射した室内光が視聴者の目に入り、蛍光体による発光の視認を弱める原因を引き起こしていた。
【0006】
そのため、最近のPDPでは、室内光の反射によるコントラスト低下を解決する対策として、フロント基板における室内光の遮蔽率を向上させることにより、室内光がPDPを構成する放電セル内に射し込むのを防止する方法が採用されている。例えば、従来、銀などを主成分とする白色層1層のみで構成されていたバス電極を、図5に示すように、先ず黒色ペーストを塗布して黒色層16bを形成し、その上に白色層16aを積層することで白黒2層16a,16bから構成されるバス電極16とする方法である(例えば、特許文献1参照。)。
【0007】
上記バス電極の黒色層のような黒色膜を形成するための材料として耐熱性黒顔料、有機バインダ、光重合性モノマー、光重合開始剤及び有機ビーズを含有することを特徴とする光硬化性樹脂組成物、及び黒色層が上記光硬化性樹脂組成物により形成されることを特徴とするPDP用前面基板が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。前記特許文献2に示される光硬化性樹脂組成物によるバス電極を構成する黒色層を形成するためにフォトリソグラフィ法が使用されている。
【0008】
具体的には、先ず、透明電極が形成されたフロントガラス基板の全面に光硬化性樹脂組成物を塗布し、乾燥してタックフリーの黒層を形成する。形成した黒層に対し、バス電極のパターンを有するフォトマスクを重ね合わせ、露光する。次に、黒層の全面にAg等の導電性粉末を含有する導電性の高い組成物を塗布し、乾燥してタックフリーの白層(導電性層)を形成する。これにバス電極の露光パターンを有するフォトマスクを重ね合わせ、露光する。次に、アルカリ水溶液により現像して非露光部分を除去し、焼成することにより、フロントガラス基板の透明電極の上に、黒層(下層)電極と白層(上層)電極とからなるバス電極と、ブラックマトリックスとが形成される。フォトリソグラフィ法では、黒層の材料として、光硬化の性質を有する光硬化性モノマーなどを含んだ、いわゆる感光性の黒色ペーストが使用されている。ここで、「タック」とは、粘着力の度合いを示す値である。
【特許文献1】特開2004−63247号公報(請求項1)
【特許文献2】特開2005−8700号公報(請求項1及び4、明細書[0052]、図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記特許文献1及び2では、先ず、黒色ペーストを塗布して黒色層を形成した後、その上に白色層を積層することでバス電極を形成する。そのため、白黒2層をそれぞれ別の材料及び別工程で形成しなければならず、しかも黒色層を形成する方法としてフォトリソグラフィ法を使用しているため塗布、乾燥、露光、現像、焼成といった煩雑な製造工程を踏まなければならない。
【0010】
また、フォトリソグラフィ法では露光した部分以外は後工程で除去してしまうため、ペースト材料の利用効率が極めて悪く、除去するペースト材料に含まれる元素の種類によっては、処理方法やリサイクル等にコストがかかるという問題も生じていた。
【0011】
そこで本発明は、このような従来技術が抱える課題を解決するためになされたものである。
【0012】
本発明の目的は、遮蔽効果と高い導電性の双方を兼ね備えた単一の黒色層からなるバス電極を形成し得る導電性黒色ペースト組成物を提供することにある。
【0013】
本発明の別の目的は、ペースト材料の利用効率を向上し得る導電性黒色ペースト組成物を用いたバス電極の製造方法を提供することにある。
【0014】
本発明の更に別の目的は、フォトリソグラフィ法を用いた従来の製造工程の煩雑さを改善し、製造工程を簡略化し得る導電性黒色ペースト組成物を用いたバス電極の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
請求項1に係る発明は、プラズマディスプレイパネルを構成するフロントガラス基板上にバス電極を形成するための導電性黒色ペースト組成物であって、組成物が1〜10質量%の黒色酸化物粉末と、1〜10質量%の硫化物粉末と、1〜25質量%のガラス粉末と、35〜85質量%の金属粉末と、残部が有機系ビヒクルとを含み、前記黒色酸化物粉末の平均粒径が0.05〜0.5μmであり、かつ前記黒色酸化物粉末の比表面積が3〜50m2/gであることを特徴とする導電性黒色ペースト組成物である。
【0016】
請求項1に係る発明では、本発明のペースト組成物が各成分を上記範囲の割合で含むことにより、焼成時に硫化物が基板との界面付近に生成するAg2S又はCuSによる反応層により十分な黒色が得られる。そのため、高い導電性を確保するために金属粉末の含有割合を高くし、黒色酸化物粉末の含有割合を低くしても、Ag2S又はCuSによる反応層との併用により十分な遮蔽効果が得られる。これにより、従来、室内光の遮蔽効果を有する黒色層と導電層である白色層の2層により構成されていたバス電極を、遮蔽効果と高い導電性の双方を兼ね備えた単一の黒色層により形成することができる。なお、使用する硫化物粉末自体は黒色である必要はない。また、黒色酸化物粉末の平均粒径及び比表面積を上記範囲内にすることにより、精細でライン乱れのないパターンを形成することができる。
【0017】
請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明であって、黒色酸化物粉末がCo、Cr、Cu、Mn、Fe及びNiからなる群より選ばれた1種の金属元素を含む金属酸化物、又は2種以上の金属元素を含む複合酸化物或いはこれらの混合物である導電性黒色ペースト組成物である。
【0018】
請求項3に係る発明は、請求項1に係る発明であって、硫化物粉末がCu、Fe、Zn、Ag、Sb、Al、Co、Ni及びSnからなる群より選ばれた1種の金属元素を含む金属硫化物、又は2種以上の金属元素を含む複合硫化物或いはこれらの混合物である導電性黒色ペースト組成物である。
【0019】
請求項3に係る発明では、本発明の導電性黒色ペースト組成物の成分として上記硫化物粉末を使用するため、形成したバス電極において十分な黒色度を得るのに好適である。
【0020】
請求項4に係る発明は、請求項1に係る発明であって、ガラス粉末が酸化鉛、酸化ビスマス、酸化亜鉛、酸化ホウ素、酸化ケイ素、酸化リン、酸化カルシウム及び酸化チタンからなる群より選ばれた1又は2以上の酸化物を含む450〜550℃の軟化点を有するフリットガラスである導電性黒色ペースト組成物である。
【0021】
請求項5に係る発明は、請求項1に係る発明であって、金属粉末が、Au、Ag、Cu及びNiからなる群より選ばれた1又は2以上の金属粉末である導電性黒色ペースト組成物である。
【0022】
請求項6に係る発明は、図3及び図4に示すように、請求項1ないし5いずれか1項に記載の導電性黒色ペースト組成物をオフセット印刷法又はスクリーン印刷法により基板上に塗膜し、塗膜を焼成してバス電極を形成することを特徴とするバス電極の製造方法である。
【0023】
請求項6に係る発明では、微小な黒色酸化物粉末及び硫化物粉末を使用したペースト組成物を用いるため、精細でライン乱れのないパターンを形成することができる。また、本発明に係る導電性黒色ペースト組成物を用いてバス電極を製造するため、白黒2層をそれぞれ別の材料及び別工程で形成する必要がないため、製造工程を簡略化できる。従来の製造工程に使用されていたフォトリソグラフィ法では、所望の面全体にペースト組成物を塗布してから露光し、不必要な部分を除去して廃棄しなければならない。しかし、本発明の製造方法ではオフセット印刷法又はスクリーン印刷法により塗膜するため、必要な部分にのみペースト組成物を塗布すれば良いので、使用する材料に無駄がなく、ペースト材料の利用効率を向上することができる。また、フォトリソグラフィ法を用いた場合の塗布、乾燥、露光、現像、焼成といった製造工程の煩雑さを改善し、製造工程を簡略化することができる。
【発明の効果】
【0024】
以上述べたように、本発明の導電性黒色ペースト組成物によれば、ペースト組成物が1〜10質量%の黒色酸化物粉末と、1〜10質量%の硫化物粉末と、1〜25質量%のガラス粉末と、35〜85質量%の金属粉末と、残部が有機系ビヒクルとを含むことにより、焼成時に硫化物が基板との界面付近に生成するAg2S又はCuSによる反応層により十分な黒色が得られる。そのため、高い導電性を確保するために金属粉末の含有割合を高くし、黒色酸化物粉末の含有割合を低くしても、Ag2S又はCuSによる反応層との併用により十分な遮蔽効果が得られる。これにより、遮蔽効果と高い導電性の双方を兼ね備えた単一の黒色層から構成されるバス電極を形成することができる。遮蔽効果と高い導電性の双方を兼ね備えた単一の黒色層によるバス電極を形成することにより、従来のように、白黒2層をそれぞれ別の材料及び別工程で形成する必要がないため、製造工程を簡略化できる。また、平均粒径が0.05〜0.5μmであり、かつ比表面積が3〜50m2/gである微小な黒色酸化物粉末を成分として含むため、精細でライン乱れのないパターンを形成することができる。更に、本発明ではオフセット印刷法又はスクリーン印刷法を使用するため、フォトリソグラフィ法を用いた場合に比べてペースト材料の利用効率を向上でき、また、フォトリソグラフィ法を用いた場合の塗布、乾燥、露光、現像、焼成といった製造工程の煩雑さを改善し、製造工程を簡略化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
次に本発明を実施するための最良の形態を図面に基づいて説明する。
【0026】
本発明の導電性黒色ペースト組成物は、図1に示すように、PDP10を構成するフロントガラス基板11上にバス電極16を形成するために使用される。本発明の導電性黒色ペースト組成物は、1〜10質量%の黒色酸化物粉末と、1〜10質量%の硫化物粉末と、1〜25質量%のガラス粉末と、35〜85質量%の金属粉末と、残部が有機系ビヒクルとを含むように構成される。黒色酸化物粉末の平均粒径は0.05〜0.5μmの範囲内であり、かつ黒色酸化物粉末の比表面積は3〜50m2/gの範囲内である。なお、本明細書において、平均粒径は、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(堀場製作所製 LA−950)にて測定し、粒子径基準を個数として演算した50%平均粒子径(D50)をいう。このレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置による個数基準平均粒径の値は、走査型電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ製 S−4300SE及びS−900)により観察した画像において、任意の50個の粒子について粒径を実測したときのその平均粒径とほぼ一致する。また比表面積は、ガス吸着量測定装置(Quantachrome製 AUTOSORB−1)を用い、気体吸着法(BET3点法)にてN2ガスを用い吸着量を測定後、比表面積を算出した値である。
【0027】
本発明の導電性黒色ペースト組成物に含まれる各成分を上記範囲内にすることにより、図1に示すような、遮蔽効果と高い導電性の双方を兼ね備えた単一の黒色層から構成されるバス電極を形成することができる。十分な遮蔽効果を得るための黒色を得るには、黒色酸化物粉末の含有割合を高くする必要があるが、黒色酸化物粉末は非導電性の粉末であるため、黒色酸化物粉末の含有割合を高くすると、導電性は低下する。一方、高い導電性を得るために黒色酸化物粉末の含有割合を低くして金属粉末の割合を高くすると、黒色度が低下して十分な遮蔽効果が得られない。しかし、図2に示すように、本発明の導電性黒色ペースト組成物によれば、成分として含まれる硫化物により、焼成時に酸素が十分に取り込まれない基板11との界面付近にAg2S又はCuSによる黒色の反応層25ができる。そのため、高い導電性を得るために金属粉末の含有割合を高くして黒色酸化物粉末の含有割合を低くしても、十分な遮蔽効果が得られる。また、Ag2S、CuS自体は導電性の悪い材料であるが、基板11との界面付近である層内部にのみ存在するため、バス電極16の表面の電気抵抗を下げることなく遮蔽効果が得られる。
【0028】
これにより、図5に示すような、従来、室内光の遮蔽率を向上させるための黒色層16aと、銀などを主成分とした導電層である白色層16bの2層により構成されていたバス電極16を、図1に示すような、遮蔽効果と高い導電性の双方を兼ね備えた単一の黒色層により形成することができる。黒色酸化物粉末の含有割合を上記1〜10質量%の範囲内としたのは、下限値未満では形成されるバス電極が、基板との界面付近以外の部分において十分な黒色が得られず遮蔽率が低下するからであり、上限値を越えると、非導電性粉末を多く含むため、バス電極としての十分な導電性が得られないからである。硫化物粉末の含有割合を上記1〜10質量%の範囲内としたのは、下限値未満では形成されるバス電極が、基板との界面付近において十分な黒色を有する反応層が得られず遮蔽率が低下するからであり、上限値を越えると、焼成後、反応層の形成に関与しない非導電性の硫化物がバス電極の表面付近に多く存在し、導電性が低下するからである。ガラス粉末の含有割合を上記1〜25質量%の範囲内としたのは、下限値未満では、マトリックス状に広がるガラス粉末の存在が少なすぎるため基板との密着性が悪くなり、上限値を越えると、導電性を持つ粉末成分に対して非導電性の粉末成分を多く含むため、十分な導電性が得られないからである。金属粉末の含有割合を上記35〜85質量%の範囲内としたのは、下限値未満では十分な導電性が得られず、上限値を越えると金属光沢の反射による白色が増し、黒色度が低下するからである。このうち、黒色酸化物粉末の含有割合は5〜10質量%、硫化物粉末の含有割合は2〜8質量%、ガラス粉末の含有割合は5〜20質量%、金属粉末の含有割合は45〜75質量%の範囲内であることが好ましい。
【0029】
また、平均粒径及び比表面積が上記範囲内である微小な黒色酸化物粉末を使用することにより、精細でライン乱れのないパターンを形成することができる。黒色酸化物粉末の平均粒径を上記0.05〜0.5μm、かつ比表面積を上記3〜50m2/gの範囲内としたのは、平均粒径が下限値未満又は比表面積が上限値を越えると、比表面積が大きくなりすぎて、ペースト中の溶剤や樹脂などの流動性が悪くなり、チキソトロピー性が高いペースト組成物になる不具合を生じるからである。一方、平均粒径が上限値よりも大きく又は比表面積が下限値未満になると粒径が大き過ぎるために、ライン乱れが大きくなり、精細なパターンを形成できないからである。このうち、黒色酸化物粉末の平均粒径は0.05〜0.3μmの範囲内、比表面積は10〜45m2/gの範囲内であることが好ましい。
【0030】
黒色酸化物粉末はCo、Cr、Cu、Mn、Fe及びNiからなる群より選ばれた1種の金属元素を含む金属酸化物、又は2種以上の金属元素を含む複合酸化物或いはこれらの混合物であるであることが好ましい。このうち、Co34粉末、Fe,Mn,Cu複合酸化物又はCu,Cr,Mn複合酸化物が特に好ましい。
【0031】
硫化物粉末は、Cu、Fe、Zn、Ag、Sb、Al、Co、Ni及びSnからなる群より選ばれた1種の金属元素を含む金属硫化物、又は2種以上の金属元素を含む複合硫化物或いはこれらの混合物であることが好ましい。このうち、反応性が高く、高い黒色を得るのに好適であるという理由から、CuS、FeS、AgSが特に好ましい。また、硫化物粉末は、平均粒径ができるだけ小さいものを使用することが好ましく、このうち、0.05〜1.0μmの範囲内であることが好ましい。硫化物粉末の平均粒径が上記範囲内であれば、精細でライン乱れのないパターンの形成において好適である。
【0032】
ガラス粉末は、酸化鉛、酸化ビスマス、酸化亜鉛、酸化ホウ素、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化リン、酸化カルシウム及び酸化チタンからなる群より選ばれた1種又は2種以上の酸化物を含む400〜550℃の軟化点を有するフリットガラスであることが好適である。フリットガラスの軟化点は450〜550℃が特に好ましい。軟化点を上記範囲内としたのは、軟化点が下限値未満のフリットガラスでは、ガラス粉末がペースト組成物中の有機系ビヒクルを構成するバインダ樹脂の脱バインダを妨げてしまい、この導電性黒色ペースト組成物を用いて形成したバス電極は、抵抗値が上昇する傾向がある。また、軟化点が上限値を越えるフリットガラスでは、ガラス粉末がガラス基板との間の十分なアンカーを与え難い傾向があるためである。ガラス粉末の平均粒径は0.05〜1.0μmであることが好ましい。0.05μm未満では、基板との密着性に優れたバス電極が形成できるものの、現状では、0.05μm未満のガラス粉末を得るにはコストと時間がかかりすぎる。また、1.0μmを越えると、ガラスが偏在してしまうため、ガラス粉末が軟化して無色透明になった後、遮蔽率の低い箇所が発生する傾向がある。具体的には、PbO−B23−SiO2、ZnO−B23−SiO2、PbO−B23−SiO2−Al23、PbO−ZnO−B23−SiO2、PbO−B23−SiO2−Al23−ZnO、PbO−B23−SiO2−CaO、B23−ZnO−Bi23、B23−Bi23、B23−ZnO、Bi23−B23−SiO2、ZnO−P25−SiO2、P25−B23−Al23、ZnO−P25−TiO2などの組み合わせが挙げられる。
【0033】
金属粉末は、Au、Ag、Cu及びNiからなる群より選ばれた1又は2以上の金属粉末であることが好ましい。このうち、高い導電性が得られることから、Ag粉末が特に好ましい。金属粉末の平均粒径は0.1〜0.7μmの範囲内であることが好ましい。金属粉末の平均粒径が前記範囲内であれば、精細でライン乱れのないパターンの形成において好適である。
【0034】
有機系ビヒクルは、アルカリ可溶性樹脂を有機溶剤に溶解することにより調整されたものを使用することが好ましい。黒色酸化物粉末、硫化物粉末、ガラス粉末及び金属粉末の分散性向上のための分散剤や、ペースト粘度調整のための粘度調整剤等を必要に応じて加える。
【0035】
本発明のバス電極の製造方法は、上記導電性黒色ペースト組成物を用いてオフセット印刷法又はスクリーン印刷法により基板上にバス電極を形成することを特徴とする。本発明の導電性黒色ペースト組成物は、微小な黒色酸化物粉末及び硫化物粉末を使用するため、精細でライン乱れのないパターンを形成することができる。また、従来、室内光の遮蔽率を向上させるための黒色層と、銀などを主成分とした導電層である白色層の2層からなるバス電極をそれぞれ別の材料及び別工程で形成していたが、本発明に係る導電性黒色ペースト組成物を用いることにより、単一の黒色層でバス電極を形成できるため、製造工程を大幅に簡略化できる。更に、本発明の製造方法ではオフセット印刷法又はスクリーン印刷法により塗膜するため、必要な部分にのみペースト組成物を塗布すれば良いので、使用する材料に無駄がなく、従来のフォトリソグラフィ法を用いた場合に比べてペースト材料の利用効率を向上することができる。また、フォトリソグラフィ法を用いた場合の塗布、乾燥、露光、現像、焼成といった製造工程の煩雑さを改善し、製造工程を簡略化することができる。
【0036】
次に、本発明のバス電極の製造方法を用いて、PDP用前面基板を形成する方法を説明する。
【0037】
先ず、図3(a)に示すような、フロントガラス基板11を用意し、図3(b)に示すように、フロントガラス基板11に透明電極23を形成する。ここで形成する透明電極23は、プラズマ放電に必要であり、かつ発光の妨げにならないように透明な材質で形成される。具体的には、透明電極23はITO(Indium Tin Oxide)やSnO2等の酸化膜が使用され、スパッタリング、蒸着等の真空成膜法やCVD(Chemical Vapor Deposition)法によって形成される。
【0038】
次いで、図3(c)に示すように、形成した透明電極23上に、本発明の導電性黒色ペースト組成物を、オフセット印刷法又はスクリーン印刷法によりフロントガラス基板11上に塗布膜15を形成する。本発明の方法では、微小な黒色酸化物粉末及び硫化物粉末を含むペースト組成物を用いるため、精細でライン乱れのない塗布膜を形成することができる。
【0039】
次いで、図3(d)に示すように、フロントガラス基板11上に形成された塗布膜15を500〜600℃の温度で焼成する。この焼成の際、図2に示すように、酸素が十分に取り込まれない基板との界面付近にAg2S又はCuSによる黒色の反応層25ができる。これにより、遮蔽効果と金属粉末による高い導電性の双方を兼ね備えた単一の黒色層から構成されるバス電極16が形成される。
【0040】
次いで、図3(e)に示すように、透明電極23及びバス電極16を覆うように、フロントガラス基板11の全面に透明誘電体層21を形成する。透明誘電体層21は電極の保護と放電時に誘電体層表面に壁電荷を形成してメモリ機能を持たせるために形成するものである。この透明誘電体層21は、バス電極16上に20〜40μmの厚みとなるように形成される。
【0041】
次に、図4(a)に示すように、形成した透明誘電体層21の上に、黒色ペースト組成物をオフセット印刷法により塗布、焼成することにより、ブラックストライプ24を形成する。ブラックストライプ24を形成することで、外光反射率が低下し、コントラストが改善される。
【0042】
次に、図4(b)に示すように、透明誘電体層21の上に、ブラックストライプ24と同じ高さになるように、カラーフィルタ22を形成する。続いて、図4(c)に示すように、カラーフィルタ22及びブラックストライプ24の上に、透明誘電体層21を形成する。更に、図4(d)に示すように、透明誘電体層21の上に、保護膜19を形成する。
保護膜19を形成するのは、放電によるイオン衝撃で誘電体層がダメージを受け、パネル寿命が短くなるのと、プラズマ放電に必要な二次電子放出の効率が悪いため、放電電圧が高くなるのを防ぐためである。保護膜19はMgOが使用され、電子ビーム蒸着、イオンプレーティング、スパッタリングによって形成することができる。
【0043】
以上、図3(a)〜図4(d)の各工程を経ることにより、PDP用の前面基板が得られる。
【実施例】
【0044】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
【0045】
<実施例1>
次の表1に示すように、黒色酸化物粉末として平均粒径0.2μm、比表面積28m2/gのCo34粉末、硫化物粉末としてFeS粉末、ガラス粉末としてPbO−B23−SiO2、金属粉末としてAg粉末、それから有機系ビヒクルを用意した。次に、Co34粉末4質量%、FeS粉末3質量%、ガラス粉末15質量%、Ag粉末50質量%、また有機系ビヒクルとしてアルカリ可溶性樹脂18質量%及び溶剤10質量%を遊星攪拌により予め混合した。更に、この混合物を3本ロールにて十分に混合し、分散させることで導電性黒色ペースト組成物を得た。
【0046】
なお、有機系ビヒクルは、アルカリ可溶性樹脂を有機溶媒に溶解することにより調整した。この有機系ビヒクルには、作製する導電性黒色ペースト組成物に応じて、適宜分散剤や粘度調整剤等の添加剤を加えている。分散剤は、黒色酸化物粉末、ガラス粉末及び金属粉末の分散性向上のために、粘度調整剤は、ペーストの粘度調整のために適宜添加した。
【0047】
<実施例2>
次の表1に示すように、黒色酸化物粉末として平均粒径0.1μm、比表面積32m2/gのFe,Mn,Cu複合酸化物粉末、硫化物粉末としてCuS粉末、ガラス粉末としてBi23−B23−SiO2、金属粉末としてAg粉末、それから有機系ビヒクルを用意した。次に、Fe,Mn,Cu複合酸化物粉末7質量%、CuS粉末2質量%、ガラス粉末10質量%、Ag粉末63質量%、また有機系ビヒクルとしてアルカリ可溶性樹脂12質量%及び溶剤6質量%の割合で、実施例1と同じ方法により導電性黒色ペースト組成物を得た。
【0048】
<実施例3>
次の表1に示すように、黒色酸化物粉末として平均粒径0.3μm、比表面積21m2/gのCu,Cr,Co複合酸化物粉末、硫化物粉末としてAgS粉末、ガラス粉末としてBi23−B23−SiO2、金属粉末としてAg粉末、それから有機系ビヒクルを用意した。次に、Cu,Cr,Co複合酸化物粉末5質量%、AgS粉末3質量%、ガラス粉末12質量%、Ag粉末50質量%、また有機系ビヒクルとしてアルカリ可溶性樹脂20質量%及び溶剤10質量%の割合で、実施例1と同じ方法により導電性黒色ペースト組成物を得た。
【0049】
<実施例4>
次の表1に示すように、黒色酸化物粉末として平均粒径0.25μm、比表面積15m2/gのCo34粉末、硫化物粉末としてCuS粉末、ガラス粉末としてBi23−B23−SiO2、金属粉末としてAg粉末、それから有機系ビヒクルを用意した。次に、Co34粉末3質量%、CuS粉末6質量%、ガラス粉末3質量%、Ag粉末65質量%、また有機系ビヒクルとしてアルカリ可溶性樹脂15質量%及び溶剤8質量%の割合で、実施例1と同じ方法により導電性黒色ペースト組成物を得た。
【0050】
<比較例1>
次の表1に示すように、黒色酸化物粉末として平均粒径0.25μm、比表面積15m2/gのCo34粉末、ガラス粉末としてBi23−B23−SiO2、金属粉末としてAg粉末、それから有機系ビヒクルを用意した。次に、Co34粉末5質量%、ガラス粉末15質量%、Ag粉末50質量%、また有機系ビヒクルとしてアルカリ可溶性樹脂20質量%及び溶剤10質量%の割合で、実施例1と同じ方法により導電性黒色ペースト組成物を得た。即ち、この比較例1のペースト組成物には、硫化物粉末は含まれていない。
【0051】
<比較例2>
次の表1に示すように、黒色酸化物粉末として平均粒径0.6μm、比表面積12m2/gのFe,Mn,Cu複合酸化物粉末、ガラス粉末としてBi23−B23−SiO2、金属粉末としてAg粉末、それから有機系ビヒクルを用意した。次に、Fe,Mn,Cu複合酸化物粉末5質量%、ガラス粉末15質量%、Ag粉末50質量%、また有機系ビヒクルとしてアルカリ可溶性樹脂20質量%及び溶剤10質量%の割合で、実施例1と同じ方法により導電性黒色ペースト組成物を得た。即ち、この比較例2のペースト組成物には、硫化物粉末は含まれていない。
【0052】
<比較例3>
次の表1に示すように、黒色酸化物粉末として平均粒径0.3μm、比表面積21m2/gのCo34粉末、硫化物粉末としてCuS粉末、ガラス粉末としてPbO−B23−SiO2、金属粉末としてAg粉末、それから有機系ビヒクルを用意した。次に、Co34粉末6.9質量%、CuS粉末0.1質量%、ガラス粉末15質量%、Ag粉末50質量%、また有機系ビヒクルとしてアルカリ可溶性樹脂18質量%及び溶剤10質量%の割合で、実施例1と同じ方法により導電性黒色ペースト組成物を得た。
【0053】
<比較例4>
次の表1に示すように、黒色酸化物粉末として平均粒径0.25μm、比表面積15m2/gのFe,Mn,Cu複合酸化物粉末、硫化物粉末としてCuS粉末、ガラス粉末としてBi23−B23−SiO2、金属粉末としてAg粉末、それから有機系ビヒクルを用意した。次に、Fe,Mn,Cu複合酸化物粉末4質量%、CuS粉末15質量%、ガラス粉末10質量%、Ag粉末53質量%、また有機系ビヒクルとしてアルカリ可溶性樹脂12質量%及び溶剤6質量%の割合で、実施例1と同じ方法により導電性黒色ペースト組成物を得た。
【0054】
<比較例5>
次の表1に示すように、黒色酸化物粉末として平均粒径0.5μm、比表面積10m2/gのCo34粉末、硫化物粉末としてCuS粉末、ガラス粉末としてPbO−B23−SiO2、金属粉末としてAg粉末、それから有機系ビヒクルを用意した。次に、Co34粉末15質量%、CuS粉末5質量%、ガラス粉末15質量%、Ag粉末35質量%、また有機系ビヒクルとしてアルカリ可溶性樹脂20質量%及び溶剤10質量%の割合で、実施例1と同じ方法により導電性黒色ペースト組成物を得た。
【0055】
<比較例6>
次の表1に示すように、黒色酸化物粉末として平均粒径0.2μm、比表面積32m2/gのFe,Mn,Cu複合酸化物粉末、硫化物粉末としてCuS粉末、ガラス粉末としてBi23−B23−SiO2、金属粉末としてAg粉末、それから有機系ビヒクルを用意した。次に、Fe,Mn,Cu複合酸化物粉末0.1質量%、CuS粉末5質量%、ガラス粉末10質量%、Ag粉末63質量%、また有機系ビヒクルとしてアルカリ可溶性樹脂15質量%及び溶剤6.9質量%の割合で、実施例1と同じ方法により導電性黒色ペースト組成物を得た。
【0056】
<比較例7>
次の表1に示すように、黒色酸化物粉末として平均粒径0.6μm、比表面積12m2/gのFe,Mn,Cu複合酸化物粉末、硫化物粉末としてCuS粉末、ガラス粉末としてPbO−B23−SiO2、金属粉末としてAg粉末、それから有機系ビヒクルを用意した。次に、Fe,Mn,Cu複合酸化物粉末2質量%、CuS粉末2質量%、ガラス粉末0.1質量%、Ag粉末90質量%、また有機系ビヒクルとしてアルカリ可溶性樹脂2.9質量%及び溶剤3.0質量%の割合で、実施例1と同じ方法により導電性黒色ペースト組成物を得た。
【0057】
<比較例8>
次の表1に示すように、黒色酸化物粉末として平均粒径0.25μm、比表面積15m2/gのFe,Mn,Cu複合酸化物粉末、硫化物粉末としてCuS粉末、ガラス粉末としてPbO−B23−SiO2、金属粉末としてAg粉末、それから有機系ビヒクルを用意した。次に、Fe,Mn,Cu複合酸化物粉末4質量%、CuS粉末6質量%、ガラス粉末30質量%、Ag粉末30質量%、また有機系ビヒクルとしてアルカリ可溶性樹脂20質量%及び溶剤10質量%の割合で、実施例1と同じ方法により導電性黒色ペースト組成物を得た。
【0058】
<比較例9>
次の表1に示すように、黒色酸化物粉末として平均粒径0.7μm、比表面積2m2/gのCo34粉末、硫化物粉末としてCuS粉末、ガラス粉末としてBi23−B23−SiO2、金属粉末としてAg粉末、それから有機系ビヒクルを用意した。次に、Co34粉末5質量%、CuS粉末5質量%、ガラス粉末10質量%、Ag粉末60質量%、また有機系ビヒクルとしてアルカリ可溶性樹脂12質量%及び溶剤8質量%の割合で、実施例1と同じ方法により導電性黒色ペースト組成物を得た。
【0059】
<比較例10>
次の表1に示すように、黒色酸化物粉末として平均粒径0.006μm、比表面積65m2/gのCo34粉末、硫化物粉末としてCuS粉末、ガラス粉末としてBi23−B23−SiO2、金属粉末としてAg粉末、それから有機系ビヒクルを用意した。次に、Co34粉末5質量%、CuS粉末5質量%、ガラス粉末10質量%、Ag粉末60質量%、また有機系ビヒクルとしてアルカリ可溶性樹脂12質量%及び溶剤8質量%の割合で、実施例1と同じ方法により導電性黒色ペースト組成物を得た。
【0060】
【表1】

<比較試験1>
実施例1〜4及び比較例1〜10で得られた導電性黒色ペースト組成物を用いて、以下のオフセット印刷性、最小線幅、保存安定性、抵抗値についての評価を行った。その結果を次の表3に示す。
【0061】
(1) オフセット印刷性:導電性黒色ペースト組成物をオフセット印刷機(日本電子精機社製)でガラス基板上に印刷した際の転写性等をオフセット印刷性として評価した。オフセット印刷性の具体的な評価は、導電性黒色ペースト組成物がブランケットからガラス基板上に転写される際に、ライン形状に乱れが無く、100%転写され、ブランケットに残留ペーストがない状態を「良好」の評価とし、ライン形状に一部、にじみや乱れが確認されるも、ブランケット上には残留ペースト組成物が無く100%転写できた場合を「可」の評価として、大きな形状乱れや印刷斑、欠損箇所などが確認されたり、ブランケット上に転写できないペーストが残留した場合を「不可」の評価とした。
【0062】
(2) 最小線幅:オフセット印刷が可能な線幅を50μm、70μm、100μm及び150μmの4種の線幅で表し、この線幅を最小線幅とした。
【0063】
次に、実施例1〜4及び比較例1〜10で得られた導電性黒色ペースト組成物をスクリーン印刷法によりガラス基板上に塗布し、この塗布膜を580℃で30分間焼成してバス電極を形成した。形成したバス電極について、以下の黒色度、密着性及び導電性についての評価を行った。その結果を次の表2に示す。
【0064】
(3) 黒色度:形成したバス電極について、カラーコンピュータ(スガ試験器社製)を用いて黒色度を測定した。具体的には、CIELab表示方式によるLab表記方法のL値を求めた。なお、L値が小さいほど黒色度が高い。
【0065】
(4) 密着性:形成したバス電極について、JIS−K5400に準拠した碁盤目テープテスト法により、バス電極の密着性を評価した。密着性の具体的な評価は、碁盤の目テープテストを実施した際に、テープ側のバス電極が転写されず、ガラス基板上にバス電極が100%密着している場合を「良好」の評価とし、テープとガラス基板の両方にバス電極が内部破壊を起こして付着した場合を「可」の評価とし、テープ側に多くのバス電極が付着し、薄利後の界面にガラス基板が観察された際を「不可」の評価とした。
【0066】
(5)導電性:100μm程度の幅で形成したバス電極の長手方向に10cm程度の間隔を設けた状態で、パターンの2点間の線抵抗をマルチメータにて測定した。
【0067】
【表2】

表2から明らかなように、実施例1〜4と比較例1,2を比較すると、硫化物を含まない比較例1,2では、L値及び抵抗値が大きくなり、室内光の遮蔽に十分な黒色度及びバス電極としての十分な導電性が得られなかった。このことから、硫化物粉末を使用することが効果的であることが確認された。実施例1〜4と比較例3,4を比較すると、硫化物粉末の含有割合が1質量%未満の比較例3では、L値が大きくなり室内光の遮蔽に十分な黒色度が得られなかった。一方、硫化物粉末の含有割合が10質量%を越える比較例4では、十分な導電性が得られなかった。このことから、硫化物粉末の含有割合は、1〜10質量%の範囲内が効果的であることが確認された。実施例1〜4と比較例5,6を比較すると、黒色酸化物粉末の含有割合が10質量%を越える比較例5ではL値が小さくなり高い黒色度が得られたものの、抵抗値が大きくなりすぎて十分な導電性が得られなかった。一方、黒色酸化物粉末の含有割合が1質量%未満である比較例6では、高い導電性は得られたものの、L値が大きくなり室内光の遮蔽に十分な黒色度が得られなかった。このことから、黒色酸化物粉末の含有割合は1〜10質量%の範囲内が効果的であることが確認された。実施例1〜4と比較例7,8を比較すると、ガラス粉末の含有割合が1質量%未満で、金属粉末の含有割合が85質量%を越える比較例7では、高い導電性は得られたものの、L値が大きくなり室内光の遮蔽に十分な黒色度が得られなかった。一方、ガラス粉末の含有割合が25質量%を越え、金属粉末の含有割合が35質量%未満の比較例8では、抵抗値が大きくなりすぎて十分な導電性が得られなかった。このことから、ガラス粉末の含有割合は1〜25質量%、金属粉末の含有割合は35〜85質量%の範囲にすることが効果的であることが確認された。実施例1〜4と比較例9,10を比較すると、平均粒径が0.5μmを越え、比表面積が3m2/g未満の比較例9では、オフセット印刷性が「可」の評価にとどまった。一方、平均粒径が0.05μm未満で、比表面積が50m2/gを越える比較例10では、密着性が不可となった。このことから、黒色酸化物粉末の平均粒径は0.05〜0.5μm、かつ黒色酸化物粉末の比表面積は3〜50m2/gの範囲にすることが効果的であることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明のバス電極が単一の黒色層で構成されるPDPの放電セルを示す図。
【図2】本発明の導電性黒色ペースト組成物を用いて形成されたバス電極の断面を模式的に示した図。
【図3】本発明のPDP用前面基板の製造工程の前段を示す図。
【図4】本発明のPDP用前面基板の製造工程の後段を示す図。
【図5】従来のバス電極が黒色層と白色層の2層で構成されるPDPの放電セルを示す図。
【符号の説明】
【0069】
10 PDP
11 フロントガラス基板
16 バス電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマディスプレイパネルを構成するフロントガラス基板上にバス電極を形成するための導電性黒色ペースト組成物であって、
前記組成物が1〜10質量%の黒色酸化物粉末と、1〜10質量%の硫化物粉末と、1〜25質量%のガラス粉末と、35〜85質量%の金属粉末と、残部が有機系ビヒクルとを含み、前記黒色酸化物粉末の平均粒径が0.05〜0.5μmであり、かつ前記黒色酸化物粉末の比表面積が3〜50m2/gであることを特徴とする導電性黒色ペースト組成物。
【請求項2】
黒色酸化物粉末がCo、Cr、Cu、Mn、Fe及びNiからなる群より選ばれた1種の金属元素を含む金属酸化物、又は2種以上の金属元素を含む複合酸化物或いはこれらの混合物である請求項1記載の導電性黒色ペースト組成物。
【請求項3】
硫化物粉末がCu、Fe、Zn、Ag、Sb、Al、Co、Ni及びSnからなる群より選ばれた1種の金属元素を含む金属硫化物、又は2種以上の金属元素を含む複合硫化物或いはこれらの混合物である請求項1記載の導電性黒色ペースト組成物。
【請求項4】
ガラス粉末が酸化鉛、酸化ビスマス、酸化亜鉛、酸化ホウ素、酸化ケイ素、酸化リン、酸化カルシウム及び酸化チタンからなる群より選ばれた1又は2以上の酸化物を含む450〜550℃の軟化点を有するフリットガラスである請求項1記載の導電性黒色ペースト組成物。
【請求項5】
金属粉末がAu、Ag、Cu及びNiからなる群より選ばれた1又は2以上の金属粉末である請求項1記載の導電性黒色ペースト組成物。
【請求項6】
請求項1ないし5いずれか1項に記載の導電性黒色ペースト組成物をオフセット印刷法又はスクリーン印刷法により基板上に塗膜し、前記塗膜を焼成してバス電極を形成することを特徴とするバス電極の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−135090(P2009−135090A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−267071(P2008−267071)
【出願日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】