説明

小型船舶

【課題】多機掛け船外機型の小型船舶において、旋回時にアクセルレバー操作を省略可能とし、速度などの走行状態に応じて各船外機の出力を調整し、ハンドル操作だけで容易に効率よく旋回できる小型船舶を提供する。
【解決手段】 ハンドル7と、該ハンドル7の操舵角を検出する操舵角センサ9と、船尾に取付けられた複数の船舶推進機3a,3bと、各船舶推進器に連結された電動舵切り装置15と、前記各船舶推進機3a,3bの出力を制御する制御装置12とを備えた小型船舶において、前記制御装置12は、前記操舵角及び船の走行状態に応じて、前記各船舶推進機3a,3bの推力を調整し、船舶推進機全体での推力及びその方向を制御するものであり、前記ステアリングホイールの回転操作による操舵角に応じて、前記各船舶推進機3a,3bの推力の大きさが調整され推力差を設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の船外機やスターンドライブ等の船舶推進機(以下単に船外機という)を備えた多機掛け船外機型の小型船舶に関する。
【背景技術】
【0002】
小型船舶の船尾に取付けられた船外機は、それ自体で舵の機能を有し、ハンドルの操舵角に応じた転舵角だけスイベル軸廻りに回転し、船体に対し船尾から推力を付与することにより転舵角に応じた方向に旋回する。このような船外機の舵切り動作を行うための電動ステアリング装置が特許文献1に開示されている。電動式の舵切り装置を用いることにより、ハンドル操舵角に応じた転舵角だけモータを駆動して船外機を転舵動作させることができる。これにより、容易に確実に舵切り動作を行うことができる。この場合、船外機出力が推力として船体に対し船尾側から作用する。この船外機出力は、操縦席にハンドルとともに備わるアクセルレバーの操作によって調整される。アクセルレバーは、中央に所定角度の中立範囲を有し、これより前側に倒すと前進シフト位置に移行し、前側へのレバー倒し角度に応じてスロットルが開いて前進出力が増加する。逆に後側に倒すと後進シフト位置に移行する。
【0003】
船尾に2機の船外機を並列して取り付けた2機掛け船外機では、それぞれの船外機に対しアクセルレバーが備わり、船外機ごとに出力調整ができる。
【0004】
図8は、多機掛け船外機(この例は2機掛け)による旋回動作の説明図である。(A)は転舵角が大きい場合、(B)は転舵角が小さい場合を示す。
(A)の場合、船体1の船尾板2に取付けられた2機の船外機3a,3bの各出力に応じた推力Fにより、旋回中心に対し回転モーメントM1,M2が作用する。この回転モーメントM1,M2は回転中心に対し、船体1を同じ方向に旋回させるように作用する。
【0005】
一方、(B)の場合、船外機3a,3bの各推力Fによる回転モーメントM3,M4は回転中心に対し相互に逆方向に作用する。この例の場合、船外機3aによる回転モーメントM3は、意図する旋回方向と逆方向に回転するように作用する。したがって、このような場合には、船外機3aの出力を逆方向(後進側)に作用させた方が旋回動作については効率よくできる。しかし、出力を逆方向に作用させると、全体としての前進推力が小さくなり、低速の場合はほとんど問題ないが、速度が大きくなるとエネルギーロスや過度な速度低下を引き起こし、運転感覚を低下させる。特にフルスロットル付近の高速走行中には、一方を後進側にシフトすることは無理であり、また一方の出力を低下させて出力差により旋回すると、全体の推力低下によって速度が大きく低下し、運転感覚の低下が顕著になる。
【0006】
したがって、2機掛け船外機の場合には、ハンドルによる操舵角操作とともに、各船外機のアクセルレバーを、操舵角及びそのときの速度や加速度あるいはシフト位置などの走行状態に応じて別々に操作する必要があり、非常に面倒である。
一方、2機掛け推進機において、各推進機の推進力の方向と強さを任意に設定できるようにした船舶用操縦装置が特許文献2に開示されている。この特許文献2の操縦装置は、ハンドルの他にジョイスティック等の全方向性指示器を備え、ジョイスティックにより指示された方向に応じて2機の推進機の操舵角をそれぞれ変えるとともにそれぞれの推力を変えて旋回動作させるものである。
しかし、この特許文献2の操縦装置では、ハンドルの他にジョイスティックを必要とし構造が複雑になる。また、各推進機の転舵方向、すなわち水平面内における推進機の推力の方向をそれぞれ変えるため、旋回半径や速度などによっては、各推進機の推力がキャンセルしあって、大きなエネルギーロスを生じる場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第2959044号公報
【特許文献2】特開平1−285486号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記従来技術を考慮したものであって、多機掛け船外機型の小型船舶において、旋回時にアクセルレバー操作を省略可能とし、速度などの走行状態に応じて各船外機の出力を調整し、ハンドル操作だけで容易に効率よく旋回できる小型船舶の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1の発明は、ステアリングホイールと、該ステアリングホイールの操舵角を検出する操舵角センサと、船尾に取付けられた複数の船舶推進機と、各船舶推進機に連結された電動舵切り装置と、前記各船舶推進機の出力を制御する制御装置とを備えた小型船舶において、前記制御装置は、前記操舵角及び船の走行状態に応じて、前記各船舶推進機の推力を調整し、船舶推進機全体での推力及びその方向を制御するものであり、前記ステアリングホイールの回転操作による操舵角に応じて、前記各船舶推進機の推力の大きさが調整され推力差を設定することを特徴とする小型船舶を提供する。
【0010】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記各船舶推進機の推力の大きさは、前記各船舶推進機の出力、トリム角度又はプロペラの高さの少なくともいずれか一つを調整することで調整されることを特徴とする。
【0011】
請求項3の発明は、請求項1または請求項2の発明において、前記各船舶推進機の出力は、スロットル開度、点火時期、燃料噴射及びシフトのうち少なくとも1つを用いて調整されることを特徴とする。
【0012】
請求項4の発明は、請求項1ないし請求項3のいずれか一の発明において、前記各船舶推進機の推力の大きさは、旋回方向内側の船舶推進機の推力を旋回方向外側の船舶推進機の推力よりも小さくすることを特徴とする。
【0013】
請求項5の発明は、請求項1ないし請求項3のいずれか一の発明において、前記各船舶推進機の推力の大きさは、旋回方向内側の船舶推進機の推力を後進方向に作用させ、旋回方向外側の船舶推進機の推力を前進方向に作用させることを特徴とする。
【0014】
請求項6の発明は、請求項1ないし請求項5のいずれか一の発明において、推力モードオン・オフスイッチを設け、前記推力モードオン・オフスイッチがオンのときに前記各船舶推進機の推力差を調整することを特徴とする。
【0015】
請求項7の発明は、請求項1ないし請求項5のいずれか一の発明において、前記制御装置は、前記操舵角及び船の走行状態に加えて、アクセルレバーの位置又はスロットルバルブの開度に応じて各船舶推進機の推力を調整することを特徴とする。
【0016】
請求項8の発明は、請求項1ないし請求項7のいずれか一の発明において、前記操舵角が所定値以下の場合には前記制御装置は前記各船舶推進機の推力差を設定しないことを特徴とする。
【0017】
請求項9の発明は、請求項1ないし請求項8のいずれか一の発明において、前記操舵角が所定値以上の場合には前記制御装置は前記各船舶推進機の推力差を一定とすることを特徴とする。
【0018】
請求項10の発明は、請求項1ないし請求項9のいずれか一の発明において、前記走行状態とは前記小型船舶の速度であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
請求項1の発明によれば、旋回時に操船者が、ステアリングホイールを操作すると、操舵角が変化し旋回方向や半径に応じた操舵角が検出される。これにより、操船者の旋回の意思が検出される。制御装置により予め、複数の船舶推進機が操舵角及び船の走行状態に応じた最適な出力差により方向変更するように各船舶推進機の出力を調整、あるいはトリム角調整による推力作用方向の上下方向の調整又はプロペラ高さ調整による推力作用点の上下方向の調整を行い、船舶推進機全体での推力及びその方向を制御することにより、操船者は個々の船舶推進機のアクセルレバーを操作することなく、ステアリング操作だけで、各船舶推進機の出力を的確に調整して推力差により船の走行状態に応じて容易に効率よく旋回あるいは外力に抗して直進走行する等の走行方向の制御ができる。特に低速時の小回り旋回が簡単なステアリング操作のみで容易にできる。
【0020】
請求項3の発明によれば、各船舶推進機は、それぞれスロットル開度、点火時期、燃料噴射(インジェクタの噴射タイミング及び噴射量等のデューティ制御)あるいはシフトのいずれかを用いて適正に出力制御される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明が適用される小型船舶の全体平面図。
【図2】本発明に係る操舵制御系の要部構成図。
【図3】本発明に係る舵切り装置の構成図。
【図4】本発明に係る小型船舶の旋回動作の説明図。
【図5】本発明に係る船外機の出力制御動作を示すフローチャート。
【図6】船外機の推力差の設定説明図。
【図7】故障モードの動作を説明するためのフローチャート。
【図8】多機掛け船外機型の小型船舶の旋回動作説明図。
【図9】トリム角調整の説明図。
【図10】プロペラ高さ調整の説明図。
【図11】船底の接水面の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1は、本発明に係る2機掛け船外機型の小型船舶の全体平面構成図である。
船体1の船尾板2に2機の船外機3a,3bがそれぞれクランプブラケット4を介して取付けられる。各船外機3a,3bは、スイベル軸(鉛直軸)6廻りに回転可能である。スイベル軸6の上端部にステアリングブラケット5が固定される。ステアリングブラケット5の前端部に電動モータ式の舵切り装置15(図3参照)が連結される。舵切り装置15の電動モータが矢印Aのようにスライドすることにより、ステアリングブラケット5を介して船外機3a,3bが転舵角に応じてスイベル軸6廻りに回転する。各船外機3a,3b及び舵切り装置15は、それぞれコントローラ11を介して制御装置(ECU)12に連結され、制御装置12により船外機のエンジン出力制御及び舵切り装置15の転舵角制御が行われる。
船外機3a,3bは、それぞれチルトシリンダ(図示しない)によりチルト軸廻りに回転可能であり、上陸時などにほぼ水平位置まで回転して引き上げられる。また、船外機3a,3bはそれぞれトリムシリンダ(図示しない)により上記チルト軸廻りに回転可能であり、航行中に船外機のトリム角を調整してプロペラの推力方向を鉛直面内で上下に回動して調整することができる(後述の図9参照)。
また、船外機3a,3bは、それぞれクランプブラケット4を介して船尾のトランサム(図示しない)に取付けられ、航行中に上下方向の位置が調整可能である(後述の図10参照)。
【0023】
操縦席にハンドル7が備わる。ハンドル7の回転操作による操舵角は、ハンドル軸8を介して操舵角センサ9により検出される。検出された操舵角はケーブル10を介して制御装置12に送られる。ハンドル軸8には反力モータ14が連結され、操舵角や外力状態に応じた反トルクが制御装置12で演算され、この反トルクが反力モータ14によりハンドル7に付与される。これにより、操船者に対し、船の走行状態に合せてハンドル操作に応じた反力が付与され、ハンドル操作したときの重い感じや軽い感じ等の運転感覚が得られる。
【0024】
制御装置12には、走行状態検出手段16が接続される。走行状態検出手段16は、速度センサ、姿勢センサ、ヨーレートセンサ、横加速度センサ、エンジン状態センサ、シフト位置センサ、アクセルセンサなどで構成される。速度センサによる速度の検出は、船底に設けた羽根車で直接水に対する速度を検出してもよいし、GPSにより地上に対する位置を計測して速度を演算してよいし、あるいはエンジンの回転数やスロットル開度から速度を予測して求めてもよい。姿勢センサは、ジャイロ等を用いて船体のロール角やピッチ角を検出して船の姿勢を検出する。ヨーレートセンサは、船の旋回状態を検出する。横加速度センサは、旋回時の遠心力を検出する。エンジン状態センサは、スロットル開度やエンジン回転数を検出する。シフト位置センサは、前進後進のシフト位置を検出する。アクセルセンサは、アクセルレバーからスロットル開度状態を検出する。走行状態としてさらに、加速度状態を速度データから演算して求めてもよい。また、各船外機の舵切り装置に荷重センサを設け、転舵時に船体に作用する外力を検出してもよい。外力は、舵切り装置のモータに設けたトルクセンサから検出してもよい。さらに、各船外機のエンジン出力軸あるいはプロペラ軸にトルクセンサを設け、各船外機の推力を走行状態データとして検出してもよい。このような走行状態検出手段16により船の走行状態が検出され、そのデータは制御装置12に送られる。
【0025】
図2は、本発明に係る小型船舶の操舵制御系の要部構成図である。
ハンドル7の回転操作角度は操舵角センサ9で検出され、操舵角データが制御装置12に入力される。制御装置12には、前述の走行状態検出データが入力される。制御装置12は、操舵角や走行状態データに応じてハンドルへの反力の目標トルクを算出し、反力モータ14を駆動してハンドル7に反力を付与する。
【0026】
2機の船外機3a,3bが船体の船尾板2(図1)に取付けられる。各船外機3a,3bの舵切り装置15は、制御装置12に接続され、制御装置12から転舵角の指令値を受け、電動モータ(図示しない)を駆動して転舵動作させる。制御装置12は、さらに各船外機3a,3bのエンジン(図示しない)に接続され、エンジンのスロットル開度や燃料噴射及び点火時期を制御して各船外機ごとに出力を制御する。
各船外機3a,3bはトランサム27を介して船尾板2に取付けられ、後述(図10)のように、各船外機の高さ位置が調整可能であり、プロペラ軸25とともにプロペラ26の高さ位置を変えることができる。
各船外機3a,3bにはトリムシリンダ28が備わり、トリム動作可能である。トリム動作により、後述(図9)のように、プロペラ軸25の上下方向の傾きを変えることができる。
本発明では、各船外機の出力調整又はトリム角調整又はプロペラの高さ位置調整により、舵切り装置15による転舵動作をさせることなく、船の走行方向を制御することができる。
【0027】
図3は、舵切り装置の構成図である。
舵切り装置15を構成する電動モータ20は、DD(Direct Drive)型モータであり、ネジ棒19に装着され、このネジ棒19に沿って摺動する。ネジ棒19の両端は支持部材22により船尾板(図示しない)に固定される。23はクランプブラケットのクランプ部分であり、24はチルト軸である。船外機3a,3b(図1)のスイベル軸6にステアリングブラケット5が固定され、このステアリングブラケット5の前端部5aに、連結ブラケット21を介して電動モータ20が連結される。
【0028】
このような構成において、ハンドル操舵量に応じて電動モータ20をネジ棒19に沿って摺動させることにより、船外機がスイベル軸6廻りに回動して転舵することができる。
【0029】
図4(A)〜(C)は、本発明に係る2機掛け船外機型の小型船舶の旋回動作説明図である。
(A)は、前述の図8(A)と同様に転舵角が大きい場合であり、図8(A)に比べ旋回方向内側の船外機3aの出力に応じた推力Faを小さくし、外側の船外機3bの推力Fbを大きくしている。これにより、合計の推力を低下させることなく保持するとともに、旋回中心廻りの回転モーメントを大きくして小回りな旋回動作をさせることができる。
【0030】
(B)は、前述の図8(B)と同様に転舵角が小さい場合である。図4(B)では、旋回方向内側の船外機3aの出力方向を逆にして推力Faを後進方向に作用させている。これにより、極低速の旋回時に、両船外機3a,3bの回転モーメントを同一方向にして合計の回転モーメントを大きくし、効率よく旋回することができる。
【0031】
(C)は、転舵角が0°の場合に、両船外機3a,3bの出力差によって旋回する例を示す。船外機3aの推力Faより船外機3bの推力Fbを大きくすることにより(Fa<Fb)、船は点線矢印で示すように旋回する。
【0032】
図5は、本発明に係る小型船舶の旋回動作制御のフローチャートである。
ステップS1:
制御装置12(図1、図2)による旋回動作制御が推力モードで行うか否かを判定する。推力モードは、予め設定されたプログラムにしたがって、複数の船外機に対しそれぞれ出力を調整して推力差を設け、この推力差により旋回する制御方法である。推力モードか否かは、推力モードオン・オフスイッチの状態で判断する。推力モードオン・オフスイッチは、例えば操縦席のアクセルレバーの近傍に備わる。この推力モードオン・オフスイッチによる判断に代えて、速度を検出し、低速時には自動的に推力モードとなるように設定してもよい。
【0033】
ステップS2:
推力モードではない場合に、通常のハンドル操作とアクセルレバー操作により旋回動作する転舵制御モードで各船外機を制御する。
【0034】
ステップS3:
推力モードの場合に、ハンドル操作によるハンドル回転操作角を操舵角センサ(図2)により検出する。これにより操船者の旋回しようとする意思が検出される。
【0035】
ステップS4:
現時点でのアクセル状態を検出する。これは、アクセルレバーの位置又はスロットルバルブの開度を検出することにより検出できる。
【0036】
ステップS5:
走行状態検出手段16(図2)により速度等の走行状態を検出する。
【0037】
ステップS6:
上記ステップS3〜S5で検出した操舵角、アクセル状態及び走行状態に応じて、各船外機の推力を設定する。これにより、走行状態に応じて、効率よく旋回できるように各船外機の出力が調整され、推力差が設定される。この場合、ハンドルの操舵角とともに特にアクセル状態を考慮して出力を調整し推力差を設定することが好ましい。また、操舵角に応じてその操舵角に対応する適度なヨーレート範囲を設定し、このヨーレート範囲内となるように出力を調整し推力差を設定することが好ましい。また、速度に応じて安定して効率よく旋回できるように、速度を考慮して推力差を設定することが好ましい(図6参照)。推力差を設定するときの各船外機の出力は、大きさだけでなく、前進後進のシフト方向も調整される。
さらにこの推力差は、各船外機のトリム角度及び/又はプロペラの高さを調整することにより変えることができる。トリム角度調整により、船体に対する各船外機の推力の作用方向が、鉛直面内で上下方向に変化して調整される(図9参照)。
プロペラの高さ調整により、船体に対する各船外機推力の作用点の上下方向の位置が調整される(図10参照)。
【0038】
ステップS7:
設定した推力差になるように、各船外機の出力を調整する。出力は、各船外機のスロットル開度、点火時期、燃料噴射(インジェクタの噴射タイミング及び噴射量等のデューティ制御)あるいはシフトのうちいずれか1つあるいは複数を用いて制御される。
さらに、前述のように、各船外機のトリム角度及び/又はプロペラの高さを調整することにより、推力差が制御される(図11参照)。
【0039】
図6は、速度に応じた推力差設定の説明図である。
図示したように、操舵角αに応じて推力差が設定される。操舵角αが0〜α1までの極小さい間は、推力差はもたせない。操舵角αがα1〜α2までの間では、操舵角に比例して推力差をもたせる。操舵角がα2以上になると推力差は一定に設定する。
また、速度が小さいほど推力差を大きくする。速度が小さいほど旋回半径を小さくして急旋回しても安定した旋回動作ができるからである。
【0040】
図7は、本発明に係る小型船舶の故障モードを含む動作のフローチャートである。
このフローは、前述の図5のフローにおける推力モード判定ステップS1のYesの後に故障モード判定ステップT1を加えたものである。ステップT1で舵切り装置が故障か否かを判別する。故障の判別は、舵切り装置に設けた電動モータの位置センサによる検出値とモータの回転位置センサによる検出値が大きくずれている場合や、異常な検出値を示した場合、あるいは舵切り装置に設けた荷重センサが異常な値を示した場合などに故障と判別する。故障でなければそのまま前述のステップS4に進む。故障の場合にはステップT2に進む。
【0041】
ステップT2では、舵切り装置の転舵角を固定して両船外機の出力差のみにより旋回動作させる。この場合、故障を検出した時点でモータを停止し、その位置で転舵角を固定し、以降ハンドルの操舵角に応じて両船外機の出力差を演算し、この出力差により旋回動作させる。故障検出時点で、モータが可動状態であれば、モータを駆動して転舵角をゼロの位置(舵切り装置が中央の位置で直進状態)に戻し、この中央位置で両船外機の出力差を演算して旋回動作させる。船外機を中央位置に戻してから出力差を設定することにより、左右方向にバランスよく旋回動作させることができる。
図9は、トリム角調整の説明図である。
(A)は、船外機3の基準軸(例えばクランク軸芯)Cが垂直方向であって、トリム角がゼロの状態を示す。この状態では、プロペラ26のプロペラ軸25は水平であって、船体1に対するプロペラ26による推力Fの方向は、水平方向前方である。
(B)は、上記(A)の状態からトリムアップして、基準軸Cを垂直方向からθだけ前傾したトリム角θの状態を示す。この状態では、プロペラ軸25は基準軸Cを含む鉛直面内でトリム角θだけ下方に傾く。したがって、船体1に対するプロペラ26による推力Fの方向は、θだけ下方に傾く。これにより、船体1に対し、船首が上に持ち上がるモーメントが作用する(矢印B)。
図10は、プロペラの高さ調整の説明図である。
船外機3は、クランプブラケット4を介してトランサム27に取付けられる。トランサム27は船外機3とともに船体1に対し上下に移動可能である。(A)及び(B)はそれぞれトランサム27の上昇位置及び下降位置を示す。これにより、プロペラ軸25の上下位置が調整可能になり、船体1に対するプロペラ26の推力Fの作用点の上下位置が変わる。プロペラ26の位置を下げることにより、(B)に示すように、船首が上に持ち上がるようなモーメントが作用する(矢印B)。
図11は、船底の接水面の説明図である。
(A)は、両船外機3a,3bが、同じトリム角且つ同じプロペラ高さの状態を示す。この場合には、斜線で示す接水面は左右均等である。
(B)は、一方の船外機3bをトリムアップした状態(図9(B))又はプロペラの高さを下げた状態(図10(B))を示す。この状態では、船外機3b側の接水面積が小さくなり、その分だけ接水抵抗が減少し、船体1に対し矢印Dのような旋回モーメントが作用する。
このように、トリム角又はプロペラ高さを調整することにより、船外機を転舵動作させることなく、旋回することができる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、船外機やスターンドライブなどの船舶推進機を船尾に複数機取付けた小型船舶に対し適用できる。
【符号の説明】
【0043】
1:船体、2:船尾板、3a,3b:船外機、4:クランプブラケット、5:ステアリングブラケット、5a:前端部、6:スイベル軸、7:ハンドル、8:ハンドル軸、9:操舵角センサ、10:信号ケーブル、11:コントローラ、12:制御装置、14:反力モータ、15:舵切り装置、16:走行状態検出手段、19:ネジ棒、20:電動モータ、21:連結ブラケット、22:支持部材、23:クランプ部、24:チルト軸、25:プロペラ軸、26:プロペラ、27:トランサム、28:トリムシリンダ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリングホイールと、該ステアリングホイールの操舵角を検出する操舵角センサと、船尾に取付けられた複数の船舶推進機と、各船舶推進機に連結された電動舵切り装置と、前記各船舶推進機の出力を制御する制御装置とを備えた小型船舶において、
前記制御装置は、前記操舵角及び船の走行状態に応じて、前記各船舶推進機の推力を調整し、船舶推進機全体での推力及びその方向を制御するものであり、前記ステアリングホイールの回転操作による操舵角に応じて、前記各船舶推進機の推力の大きさが調整され推力差を設定することを特徴とする小型船舶。
【請求項2】
前記各船舶推進機の推力の大きさは、前記各船舶推進機の出力、トリム角度又はプロペラの高さの少なくともいずれか一つを調整することで調整されることを特徴とする請求項1に記載の小型船舶。
【請求項3】
前記各船舶推進機の出力は、スロットル開度、点火時期、燃料噴射及びシフトのうち少なくとも1つを用いて調整されることを特徴とする請求項1または2に記載の小型船舶。
【請求項4】
前記各船舶推進機の推力の大きさは、旋回方向内側の船舶推進機の推力を旋回方向外側の船舶推進機の推力よりも小さくすることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一に記載の小型船舶。
【請求項5】
前記各船舶推進機の推力の大きさは、旋回方向内側の船舶推進機の推力を後進方向に作用させ、旋回方向外側の船舶推進機の推力を前進方向に作用させることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一に記載の小型船舶。
【請求項6】
推力モードオン・オフスイッチを設け、前記推力モードオン・オフスイッチがオンのときに前記各船舶推進機の推力差を調整することを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか一に記載の小型船舶。
【請求項7】
前記制御装置は、前記操舵角及び船の走行状態に加えて、アクセルレバーの位置又はスロットルバルブの開度に応じて各船舶推進機の推力を調整することを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか一に記載の小型船舶。
【請求項8】
前記操舵角が所定値以下の場合には前記制御装置は前記各船舶推進機の推力差を設定しない請求項1ないし請求項7のいずれか一に記載の小型船舶。
【請求項9】
前記操舵角が所定値以上の場合には前記制御装置は前記各船舶推進機の推力差を一定とする請求項1ないし請求項8のいずれか一に記載の小型船舶。
【請求項10】
前記走行状態とは前記小型船舶の速度である請求項1ないし請求項9のいずれか一に記載の小型船舶。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−46185(P2012−46185A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−266518(P2011−266518)
【出願日】平成23年12月6日(2011.12.6)
【分割の表示】特願2005−284993(P2005−284993)の分割
【原出願日】平成17年9月29日(2005.9.29)
【出願人】(000010076)ヤマハ発動機株式会社 (3,045)