説明

少なくとも1つの有機層配列を有する電子素子

本発明は、アノードと、カソードと、少なくとも1つの有機層配列とを有する電子素子、特に発光電子素子に関する。上記少なくとも1つの有機層配列は、アノードとカソードとの間に配置されると共にアノードおよびカソードに電気接触している。上記少なくとも1つの有機層配列はまた、アノードとカソードとに電位が印加されると電荷を生成する領域であって、p型の有機半導体材料から成る層と、アノードの導電層と接触しているn型の有機半導体材料から成るn型ドープされた層とによって形成されるnp接合を有する領域、および、アノードとカソードとに電位が印加されるとさらなる電荷を生成する領域であって、n型の有機半導体材料から成る層と、カソードの導電層と接触しているp型の有機半導体材料から成るp型ドープされた層とによって形成されるpn接合を有する領域のうちの少なくとも1つの領域を有している。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、アノード、カソード、および、少なくとも1つの有機層配列を有する電子素子、特に発光電子素子に関する。前記少なくとも1つの有機層配列は、アノードとカソードとの間に配置されると共にアノードおよびカソードに電気接触している。
【0002】
〔発明の背景〕
このような電子素子は、様々な実施形態において知られている。前記様々な実施形態には、例えば、有機発光ダイオード(OLED)、有機ダイオード、有機太陽電池、および有機トランジスタといった有機発光素子が含まれる。一実施例では、特に発光領域を含む多数の独立した有機層配列がアノードとカソードとの間に積層されたスタック型の有機発光素子も知られている。つまり、例えばスタック型構造のOLEDが知られている。
【0003】
典型的には、有機層配列は、重なり合って配置された多数の有機層を含む。有機層配列の内部には、1つまたは複数のpn接合が設けられていてもよい。これについては、スタック型OLEDにおいて公知の通りである(EP第1 478 025 A2号を参照されたい。スタック型OLEDでは、このようなpn接合は、一実施例において、p型ドープされた正孔輸送層とn型ドープされた電子輸送層とによって形成されており、前記正孔輸送層および前記電子輸送層は、互いに直接接触した状態で形成されている。このようなpn接合は、電位が印加されると、特に前記p型ドープされた正孔輸送層と前記n型ドープされた電子輸送層との間の境界領域において電荷が生成される電荷生成構造である。
【0004】
有機発光ダイオードにおいて公知の設計では、ドープされた電荷キャリア輸送層を用いた場合、p型ドープされた正孔輸送層は、アノードに接触しているか、または、p型ドープされた正孔輸送層と前記アノードとの間に配置された正孔注入層に接触している。n型ドープされた電子輸送層は、カソードに接触しているか、または、n型ドープされた電子輸送層とカソードとの間に配置された電子注入層に接触している。
【0005】
ドープされた有機層を形成するには、1つまたは複数のドーピング材料が有機マトリクス材の中に導入される。ここで、有機マトリクス材とは有機半導体材料である。有機マトリクス−半導体材料がアクセプタの形のドーパントを含む場合、層はp型ドープされた有機層と呼ばれる。導入された有機マトリクス材用のドーパントがドナーを形成する場合、ドープされた層はn型ドープされた有機層と呼ばれる。
【0006】
電気ドーピングとは、本願の意味するところでは、導入された1つまたは複数のドーピング材料が、マトリクス材と酸化還元反応し、これによって、1つまたは複数のドーピング材料とマトリクス材との間に少なくとも部分的に電荷移動が行われること、すなわち、これらの材料間を電荷が移動することをさす。このようにして、層内に(追加的に)自由電荷キャリアが形成される。前記自由電荷キャリアによって層の導電率は向上する。マトリクス材には、ドープされていない材料よりも高い密度の電荷キャリアが生成される。導電率には、電荷キャリアの密度×電荷キャリアの移動度=導電率といった物理的関係が成り立つ。酸化還元反応によって形成されたマトリクス材中の電荷キャリアの一部は、1つの電極から注入される必要はなく、むしろこのような電荷キャリアは、電気ドーピングの結果、層内において既に利用可能である。
【0007】
他方、正孔の形の電荷キャリアを輸送することが可能な場合、すなわち、半導体材料内の正孔の移動度が輸送に十分な程度である場合、半導体材料は、p型の半導体材料と呼ばれる。同様に、電子の形の電荷キャリアを輸送することが可能な場合、すなわち、半導体材料内の電子の移動度が輸送に十分な程度である場合、半導体材料は、n型の半導体材料と呼ばれる。
【0008】
有機電子素子内のエネルギー特性を改善するために、文献WO第2005/109542 A1号には、n型の有機半導体材料から成る層とp型の有機材料から成る層とによってpn接合を形成することが提案されている。ここでは、n型の有機半導体材料から成る層は、アノードとして構成された電極と接触している。このようにして、正孔の形の電荷キャリアがp型の有機半導体材料から成る層の中により良好に注入されることを実現する。
【0009】
〔発明の概要〕
本発明の課題は、改善された動作特性を有する、アノード、カソード、および、アノードとカソードとの間に配置された少なくとも1つの有機層配列を備える電子素子を実現することにある。
【0010】
本発明によれば、この課題は、独立請求項1に記載の電子素子によって解決される。
【0011】
本発明に従って、アノード、カソード、および、少なくとも1つの有機層配列を備える電子素子、特に発光電子素子を実現する。少なくとも1つの有機層配列は、アノードとカソードとの間に配置されると共にアノードおよびカソードに電気接触しており、アノードおよびカソードに電位が印加されると電荷を生成する領域であって、p型の有機半導体材料から成る層と、アノードの導電層と接触しているn型の有機半導体材料から成るn型ドープされた層とによって形成されるnp接合を有する領域、および、アノードおよびカソードに電位が印加されるとさらなる電荷を生成する領域であって、n型の有機半導体材料から成る層と、カソードの導電層と接触しているp型の有機半導体材料から成るp型ドープされた層とによって形成されるpn接合を有する領域のうちの少なくとも1つの領域を有している。
【0012】
np接合/pn接合を用いることによって、有機層配列内に、自由電荷キャリアを、1つまたは両方の電極(アノード、カソード)に隣接して効果的に生成可能であることが分かった。電位がアノードおよびカソードに印加されると、自由電荷キャリアが、特に接合を形成する層の間の接合領域において生成される。
【0013】
ドーピングを用いることによって形成される導電性によって、動作電圧は、従来技術と比べて低減される。特に、電荷キャリア輸送時の欠点を生じさせることなく、np接合/pn接合のドープされた層の厚さを大きな範囲で変動させることが可能になる。
【0014】
従来の有機発光素子は、1つの型の電荷キャリア(通常は電子)を注入することが、別の型の電荷キャリア(つまり正孔)を注入することよりも困難であるという問題を有していた。これによって、結果的に電荷キャリア注入のバランスが崩れてしまう。このため、素子の電流効率が低減する場合が多い。これは例えば、電荷キャリアが効果的に再結合しないため、バランスの取れていない空間電荷が形成されるからである。これに関して、考えられる特に有利な構成は、カソードとの接合、および、アノードとの接合に同一のpn接合を用いた形の構成である。両方のpn接合が同一の構成をしているため、電荷キャリアの生成は、電子を提供する場合にも正孔を提供する場合にも同じ様に有効に行われる。これによって電荷キャリアのバランスが改善され、素子内の発光効率が向上する。
【0015】
さらに、提案するpn接合の利用法によって、従来の有機発光ダイオードでは用いられなかった接点材料の使用が可能になる。このため例えば、AuまたはITOを、カソードの形の上部電極として実施することが可能になる。すなわち、素子が動作している間、このコンタクトは電圧源の陰極に接続された状態で実施され得る。技術的理由によって特定の電極材料を使用することが望ましいが、従来の素子構造では電荷キャリア輸送層に一般的に用いられる有機材料に対して不適合が生じる場合(例えば化学反応や原子またはイオンの拡散)、ここに提案する1つまたは2つのpn接合を利用することによって、金属または輸送材料をより自由に選択することが出来る。例えば、AlまたはAgといった、仕事関数が5.1eVよりも小さく、好ましくは4.5eVよりも小さい金属をアノードとして用いることが可能である。同時に、AuまたはITOといった、仕事関数が4.2eVよりも大きい金属をカソードとして用いることも可能である。さらに、カソードと接続された正孔輸送材料、および/または、アノードと接続された電子輸送材料を用いることも可能になる。このようにして、適合する好適な接点材料と、有機輸送材料とを組み合わせることが容易になる。
【0016】
有機発光素子を利用する際の大きな問題は、いわゆる反転構造を実現することが極めて困難なことである。反転構造とは、カソードが基板の上にあり、アノードが上部コンタクトを形成した構造である。従来、このような構造は、利用されている非反転構造と比べて、動作電圧が明らかに高く、耐用年数が明らかに短いことによって特徴付けられていた。1つまたは2つのpn接合を使用することによって、反転構造の特性は改善される。これは、非反転構造において用いられるアノードおよびカソード用の電極材料、例えばアノード用のITO、および、カソード用のAgまたはAlは、今まで通り素子の同じ位置に、つまりITOは底部コンタクト、およびAgまたはAlは上部コンタクトとして保持され得るが、これらは、反転構造では、1つまたは複数のpn接合と接続されてカソードおよびアノードとして機能するからである。
【0017】
p型の有機半導体材料では、正孔の形の電荷キャリアの移動度が10−7cm/Vsよりも大きく、好ましくは10−5cm/Vsよりも大きい場合が有効である。さらに、ドープされたp型の有機半導体材料が、対Fc/Fc基準で0.5Vよりも小さい、好ましくは対Fc/Fc基準で0Vよりも小さい、さらに好ましくは対Fc/Fc基準で−0.5Vよりも小さい低酸化電位を有していることが有効である。結果的に、ドープされたp型の有機半導体材料が、10−7S/cmよりも大きく、好ましくは10−5S/cmよりも大きく、さらに好ましくは10−3S/cmよりも大きい導電率を有している場合が有効である。
【0018】
n型の有機半導体材料では、電子の形の電荷キャリアの移動度が10−7cm/Vsよりも大きく、好ましくは10−5cm/Vsよりも大きい場合が有効である。さらに、ドープされたn型の有機半導体材料が、対Fc/Fc基準で−2.5Vよりも大きい、好ましくは対Fc/Fc基準で−2.0Vよりも大きい、さらに好ましくは対Fc/Fc基準で−1.5Vよりも大きい高酸化電位を有していることが有効である。結果的に、ドープされたn型の有機半導体材料が、10−7S/cmよりも大きく、好ましくは10−5S/cm、さらに好ましくは10−3S/cmよりも大きい導電率を有している場合が有効である。
【0019】
さらに、n型ドープされたn型の有機半導体層の材料の最低非占有分子軌道(LUMO「Lowest Unoccupied Molecular Orbital」)と、隣接するp型の有機半導体材料から成る層の最高占有分子軌道(HOMO「Highest Occupied Molecular Orbital」)との間のエネルギー差が1.5eVよりも小さく、好ましくは1.0eVよりも小さく、さらに好ましくは0.5eVよりも小さい場合が有効である。上記隣接するp型の有機半導体材料から成る層が同じくp型にドープされている場合、エネルギー差は2.5eVよりも小さく、好ましくは2.0eVよりも小さく、さらに好ましくは1.5eVよりも小さいことが有効である。
【0020】
追加的または選択的に、p型の有機半導体材料から成るp型ドープされた層のHOMOと、隣接するn型の有機半導体材料から成る層のLUMOとの間のエネルギー差が、1.5eVよりも小さく、好ましくは1.0eVよりも小さく、さらに好ましくは0.5eVよりも小さくなるようにしてもよい。上記隣接するn型の有機半導体材料から成る層が同じくn型にドープされている場合、エネルギー差は2.5eVよりも小さく、好ましくは2.0eVよりも小さく、さらに好ましくは1.5eVよりも小さいことが有効である。
【0021】
本発明の好ましい一発展形態では、上記n型の有機半導体材料から成る層は、別のn型ドープされた層である。このn型ドーピングを用いて、電子の形の自由電荷キャリアを提供する。
【0022】
本発明の実用的な一形態では、上記p型の有機半導体材料から成る層は、別のp型ドープされた層であってよい。このp型ドーピングを用いて、正孔の形の自由電荷キャリアを提供する。
【0023】
本発明の有効な一実施形態では、p型の有機半導体材料から成る層は、正孔輸送層および電子ブロック層から成る層の種類の群から選択された少なくとも1つの層の種類として形成される。正孔輸送層は、正孔の輸送に十分な程度の正孔の移動度を有して形成されていることによって特徴付けられる。簡素化した一実施形態では、p型の有機半導体材料から成る層は電子ブロック層であり、前記電子ブロック層によって、電子がアノードの方向に輸送されることは阻止されるが、正孔の形の電荷キャリアは輸送される。この特性は、電子ブロック層において、電子輸送および正孔輸送の場合でエネルギー障壁が異なることに基づいている。
【0024】
本発明の一発展形態では、n型の有機半導体材料から成る層は、電子輸送層および正孔ブロック層から成る層の種類の群から選択された少なくとも1つの層の種類として形成されていることが好ましい。電子輸送層は、電子の輸送に十分な程度の電子の移動度を有して形成されていることによって特徴付けられる。簡素化した一実施形態では、n型の有機半導体材料から成り、カソードの導電層と接触している層は正孔ブロック層であり、この正孔ブロック層によって、有機層配列における電荷キャリアの輸送は、カソードの方向から遮断されるが、電子の形の電荷キャリアは輸送される。この特性は、正孔ブロック層における電子および正孔を輸送するためのエネルギー障壁が異なることに基づいている。
【0025】
本発明の有効な一形態では、少なくとも1つの有機層配列は、1つの発光領域を含んでいてよい。前記発光領域は、選択的に単層または多層に構成されていることが可能である。前記発光領域では、自由電荷キャリア、すなわち電子および正孔は、光を放出することによって再結合する。この発光領域には、1つまたは複数の発光材料が配置されていてもよく、複数の発光材料が配置された場合、この光は異なる色を照射し、全体的に好ましくは白色光を生成することが可能である。
【0026】
本発明の実用的な一形態では、上記p型の有機半導体材料から成る層は、上記発光領域の一部として形成されていてよい。その後、この発光領域は、有機層配列の内部において、n型の有機半導体材料から成るn型ドープされた層に直接隣接する。
【0027】
本発明の一発展形態では、上記n型の有機半導体材料から成る層は、上記発光領域の一部として形成されていることが好ましい。その後、この発光領域は、有機層配列の内部において、p型の有機半導体材料から成るp型ドープされた層に直接隣接する。
【0028】
本発明の実用的な一発展形態では、上記n型の有機半導体材料から成る層は多層に形成されている。
【0029】
本発明の有効な一形態では、p型の有機半導体材料から成る層は多層に形成されていてよい。
【0030】
本発明の好ましいさらなる一形態では、p型の有機半導体材料から成るp型ドープされた層のp型の有機半導体材料は、トリアリールアミンと、フタロシアニンと、コバルトセンといった有機金属錯化合物と、Cr(hpp)といった金属錯体と、ペンタフェニルシクロペンタジエニルといった遊離基と、テトラチアフルバレン誘導体またはアミノ置換ポリサイクルといった有機還元剤とから成る有機半導体材料群から選択された1つの有機半導体材料である。
【0031】
本発明の実用的な一形態では、電子素子は、有機発光素子、有機ダイオード、有機太陽電池、有機トランジスタ、および、有機発光ダイオードから成る素子の群から選択された1つの素子として実施されるように提供可能である。
【0032】
さらに、p型ドープされたp型の有機半導体材料から成る層とn型の有機半導体材料から成る層との間、または、n型ドープされたn型の有機半導体材料から成る層とp型の有機半導体材料から成る層との間に、薄い中間層が挿入されていてもよい。このような中間層は、例えば、金属から構成されていてもよいし、または、アクセプタおよび/またはドナーから構成されていてもよい。前記中間層によって、特に、pn接合の安定性が改善される。
【0033】
実用的には、n型の有機半導体材料から成るn型ドープされた層のn型の有機半導体材料は、フラーレンC60、ヘキサアザトリフェニレン、特にヘキサニトリルヘキサアザトリフェニレン、および、1,3,4,5,7,8−ヘキサフルオロナフト−2,6−キノンテトラシアノメタンから成る有機半導体材料群から選択された1つの有機半導体材料であってよい。
【0034】
〔発明の好ましい実施形態の説明〕
本発明を以下に、実施形態に基づいて、図面を参照しながらより詳細に説明する。
【0035】
図1は、電極とその対向電極との間に、前記電極と前記対向電極とに接触した有機層配列が配置されている有機電子素子を示す概略的な図である。
【0036】
図2は、有機電子素子の様々な実施形態の電圧に応じた電流密度を示すグラフである。
【0037】
図3は、有機電子素子の様々な実施形態の電圧に応じた輝度を示すグラフである。
【0038】
図4は、有機電子素子の様々な実施形態の輝度に応じた電流効率を示すグラフである。
【0039】
図5は、有機電子素子の実施例10の電圧に応じた電流密度および輝度を示すグラフである。
【0040】
図6は、実施例10の輝度に応じた外部量子効率を示すグラフである。
【0041】
図1は、電極1と基板3上に形成された対向電極2との間に有機層配列4が配置されている有機電子素子を示す概略的な図である。有機層配列4は、電極1および対向電極2に電気接触している。電圧が、アノードおよびカソードによって形成された電極1および対向電極2を介して、有機層配列4に印加され得る。光を放射する有機電子素子として実施する場合、この電圧の印加によって、自由電荷キャリア、すなわち電子および正孔が、有機層配列4の内部で発光領域に移動し、前記発光領域において、光を放出することによって互いに再結合される。
【0042】
以下の好ましい実施形態の説明では、次に示す短縮記号を用いる。ETLは電子輸送層、HTLは正孔輸送層、EBLは電子ブロック層、HBLは正孔ブロック層、ELは発光領域である。
【0043】
図1に示した有機電子素子の有機層配列4を、様々な形態の層構造として形成することが可能である。次に示す層配列が有効である。
−アノード/n型ドープされたETL/p型ドープされたHTL/EBL/EL/HBL/n型ドープされたETL/p型ドープされたHTL/カソード、
−アノード/n型ドープされたETL/p型ドープされたHTL/EBL/EL/HBL/n型ドープされたETL/カソード、
−アノード/p型ドープされたHTL/EBL/EL/HBL/n型ドープされたETL/p型ドープされたHTL/カソード、
−アノード/n型ドープされたETL/EBL/EL/HBL/p型ドープされたHTL/カソード、
−アノード/n型ドープされたETL/EBL/EL/HBL/n型ドープされたETL/カソード、
−アノード/p型ドープされたHTL/EBL/EL/HBL/p型ドープされたHTL/カソード、
−カソード/p型ドープされたHTL/n型ドープされたETL/HBL/EL/EBL/p型ドープされたHTL/n型ドープされたETL/アノード、
−カソード/n型ドープされたETL/HBL/EL/EBL/p型ドープされたHTL/n型ドープされたETL/アノード、
−カソード/p型ドープされたHTL/n型ドープされたETL/HBL/EL/EBL/p型ドープされたHTL/アノード、
−カソード/p型ドープされたHTL/HBL/EL/EBL/n型ドープされたETL/アノード、
−カソード/n型ドープされたETL/HBL/EL/EBL/n型ドープされたETL/アノード、
−カソード/p型ドープされたHTL/HBL/EL/EBL/p型ドープされたHTL/アノード。
【0044】
いくつかの実施形態では、例えば、層ELが電子輸送型/正孔輸送型に形成されているならば、層HBLおよび/またはEBLは省いてもよい。
【0045】
この実施形態では、常に少なくとも1つのpn接合/np接合が形成され、前記pn接合/np接合では、両電極に電圧が印加されると、電荷キャリア、すなわち電子および正孔が生成される。上述の有機層配列4の構成を、任意により互いに組み合わせて、有機層配列4内に2つの接合を形成してもよい。少なくとも各1つのpn接合/np接合に加えて、1つまたは複数の電荷を生成する領域、または、電荷を生成する層が形成される。これは例えば、アノード/n型ドープされたETL/EBL/EL/HBL/p型ドープされたHTL/カソード、または、アノード/n型ドープされたETL/p型ドープされたHTL/EBL/EL/HBL/n型ドープされたETL/p型ドープされたHTL/カソードである。
【0046】
簡素化された一実施形態において、n型ドープされたETLとEBLとの間に、効率のよい電荷生成が行われることが分かった。同様に、p型ドープされたHTLとHBLとの間にも電荷の生成が観察された。
【0047】
簡素化された実施形態では、n型ドープされたETLの材料の最低非占有分子軌道(LUMO「Lowest Unoccupied Molecular Orbital」)と、EBLの材料の最高占有分子軌道(HOMO「Highest Occupied Molecular Orbital」)との間のエネルギー差は、1.5eVよりも小さく、好ましくは1.0eVよりも小さく、さらに好ましくは0.5eVよりも小さいことが有効である。
【0048】
追加的または選択的に、p型ドープされたHTLの材料のHOMOとHBLの材料のLUMOとの間のエネルギー差が、1.5eVよりも小さく、好ましくは1.0eVよりも小さく、さらに好ましくは0.5eVよりも小さくなるようにしてもよい。
【0049】
以下に、図1に概略的に示した、様々な構造の有機層配列4を有する構成に係る有機電子素子の例についてより詳細に説明する。通常の真空蒸着の技術を利用して、材料を層の積み重ねとして堆積させることによって、上記素子を製造する。
【0050】
以下に記載する実施例では、ITOはインジウムスズ酸化物、Alはアルミニウム、STTBは2,7−テトラ−(ジ−p−トリルアミン)−9,9’−スピロビフルオレン、Pdopは1,3,4,5,7,8−ヘキサフルオロナフト−2,6−キノンテトラシアノメタン、NPBはN,N’−ジ(ナフタリン−2−イル)−N,N’−ジフェニルベンジジン、Ndopはテトラキス(1,2,3,3a,4,5,6,6a,7,8−デカヒドロ−1,9,9b−トリアザフェナレニル)ジタングステン(II)、ETMは2,4,7,9−テトラフェニルフェナントロリン、OREはイリジウム(III)ビス(2−メチルジベンゾ−[f,h]キノキサリン)(アセチルアセトネート)、HTMはトリス(1−フェニルイソキノリン)イリジウム(III)、Bphenはバソフェナントロリン、HATはヘキサニトリルヘキサアザトリフェニレンを指す。
【0051】
Pdopは、対Fc/Fc基準で約+0.2Vの還元電位を有する。NPBは、対Fc/Fc基準で約0.3Vの酸化電位を有する。Ndopは、対Fc/Fc基準で約−2.2Vの酸化電位を有する。ETMは、対Fc/Fc基準で約−2.2Vの還元電位を有する。HTMは、対Fc/Fc基準で約0.2Vの酸化電位を有する。フラーレンC60は、対Fc/Fc基準で約−1Vの還元電位を有する。STTBは、対Fc/Fc基準で約0.1Vの酸化電位を有する。HATは、対Fc/Fc基準で約−0.6Vの還元電位を有する。
【0052】
様々な構造に関して、一般的に、「p」はp型ドープされた層を示し、「i」は非ドープの層(絶縁体)を示し、「n」はn型ドープされた層を示す。
【0053】
〔実施例1〕
参考に、実施例1として、従来のpin構造で有機電子素子を製造した。この素子は、次の層構造を有している。基板:ガラス/アノード:90nmのITO/p型ドープされた層:50nm、STTB中のPdop(1.5重量パーセント)/真性層:10nmのNPB/真性EL:20nm、NPB中のORE(10%)/真性中間層:10nmのETM/n型ドープされた層:55nm、ETM中のNdop(8重量パーセント)/カソード:100nmのAl。
【0054】
〔実施例2〕
実施例2として、npin構造で有機電子素子を製造した。ガラス/アノード:90nmのITO/45nm、ETM中のNdop(8重量パーセント)/5nm、HTM中のPdop(1.5重量パーセント)/10nmのNPB/NPB中の20nmのORE(10%)/10nmのETM/55nm、ETM中のNdop(8重量パーセント)/100nmのAl。ETM中のNdopから成る層の導電率は、約2×10−5S/cmである。
【0055】
〔実施例3〕
さらなる実施例3として、次のpinp層構造で有機電子素子を製造した。ガラス/アノード:90nmのITO/50nm、STTB中のPdop(1.5重量パーセント)/10nmのNPB/20nm、NPB中のORE(10%)/10nmのETM/55nm、ETM中のNdop(8重量パーセント)/5nm、HTM中のPdop(1.5重量パーセント)/100nmのAl。HTM中のPdopから成る層の導電率は、約4×10−5S/cmである。
【0056】
〔実施例4〕
さらに実施例4として、次の層構成(npinp)で有機電子素子を製造した。ガラス/アノード:90nmのITO/45nm、ETM中のNdop(8重量パーセント)/5nm、HTM中のPdop(1.5重量パーセント)/10nmのNPB/20nm、NPB中のORE(10%)/10nmのETM/55nm、ETM中のNdop(8重量パーセント)/5nm、HTM中のPdop(1.5重量パーセント)/100nmのAl。
【0057】
〔実施例5〕
さらに実施例5として、次の層構成(pnipn)で有機電子素子を製造した。ガラス/90nmのITO/5nm、HTM中のPdop(1.5重量パーセント)/45nm、ETM中のNdop(8重量パーセント)/10nmのETM/NPB中の20nmのORE(10%)/10nmのNPB/5nm、HTM中のPdop(1.5重量パーセント)/55nm、ETM中のNdop(8重量パーセント)/アノード:100nmのAl。
【0058】
〔実施例6〕
実施例6として、次のような簡素化した構造で有機電子素子を製造した。ガラス/アノード:ITO/Ndop(50nm)でドープされた1,3,4,5,7,8−ヘキサフルオロナフト−2,6−キノンテトラシアノメタン/NPD:ORE(20nm、10重量パーセント)/BPhen(10nm)/BPhen:Cs(8:1、60nm)/Al。2.8Vの動作電圧で、10mA/cmの電流密度を測定した。Ndopでドープされた1,3,4,5,7,8−ヘキサフルオロナフト−2,6−キノンテトラシアノメタンから成る層の導電率は、約g×10−5S/cmである。
【0059】
〔実施例7〕
比較のために、実施例7として1つの構造を製造した。ガラス/アノード:ITO/1,3,4,5,7,8−ヘキサフルオロナフト−2,6−キノンテトラシアノメタン(50nm)/NPD:ORE(20nm、10重量パーセント)/BPhen(10nm)/BPhen:Cs(60nm)/Al。3.3Vの動作電圧で、10mA/cmの電流密度を測定した。
【0060】
〔実施例8〕
実施例8として、次のような簡素化した構造で有機電子素子を製造した。ガラス/アノード:ITO/Ndop(50nm)でドープされたHAT/NPD:ORE(20nm、10重量パーセント)/BPhen(10nm)/BPhen:Cs(8:1、60nm)/Al。4.4Vの動作電圧で、10mA/cmの電流密度を測定した。Ndopでドープされた層HATの導電率は、約5×10−5S/cmである。
【0061】
〔実施例9〕
実施例9として、次の層構成でさらなる有機電子素子を製造した。
1.透明なガラス基板
2.金属片、間隔450μm(アノード)
3.ドナー状の有機分子でn型ドープされたフラーレン層
4.閉鎖されていない金層、中程度の厚さ1nm
5.正孔輸送層
6.電子ブロック層
7.発光層
8.正孔ブロック層
9.電子輸送層
10.アルミニウムカソード
層3、すなわちドナー状の有機分子でドープされたフラーレン層と、層5、すなわち正孔輸送層とが、pn接合を形成する。これら両方の層の間には、安定化金属層として、層4が配置される。
【0062】
〔実施例10〕
さらに、実施例10として、次の層構成で有機電子素子を製造した。
20. 透明なガラス基板
21. クロム片、間隔450μm、幅50μm、厚さ10n(アノード)
22. 2モル%の[Ru(t−ブチル−trpy)でドープされた30nmのC60
23. 呼び寸法1nmの金(閉鎖されていない層)
24. 4モル%のF4−TCNQでドープされた95nmのMeO−TPD
25. 10nmのスピロ−TAD
26. 20重量%のIr(piq)でドープされた20nmのBAlq
27. 10nmのBPhen
28. Csでドープされた65nmのBPhen
29. 100nmのAl(カソード)
本実施形態では、層22と層24とがpn接合を形成する。これらの層の間には、それ自体は閉鎖されていない安定化金属層として、金から成る層23を設ける。層22の導電率は0,5S/cmよりも少なかった。図5および図6は、実施例10のデータを示すものである。
【0063】
実施例9および10では、それぞれ、フラーレンから成るドープされた層が用いられる。フラーレン、特にバックミンスターフラーレンC60は、これが発見された1985年以降集中的に研究され、例えば有機太陽電池では、アクセプタ材料として用いられている(US第6,580,027 B2を参照されたい)。文献WO92/04279には、大量のC60およびC70を製造する方法が開示されている。現在フラーレンは、低コストの原料として利用されている。WO第2005/086251A2号に記載されているように、フラーレンC60は、ドーパントと置き換えられ、2S/cmよりも高い導電率を有している。フラーレンから形成される層は、有利には、高真空においてフラーレンおよび有機ドーパントを同時に蒸着させることによって、つまり、有機薄膜に一般的に用いられる方法によって堆積させる。従ってこのようなフラーレン層の堆積工程は、余計な手間をかけることなく、有機発光素子の製造プロセスに導入される。
【0064】
上述の実施例9または実施例10において用いた、または、用いられ得る有機材料を、以下の表に列挙する。
【0065】
【表1】

【0066】
〔実施例11〕
さらに比較のために、実施例11として、次の層構成(nip)で有機電子素子を製造した。カソードITO/Ndopでドープされた75nmのETM(9重量パーセント)/10nmのETM/Ir(pic)3でドープされた20nmのBAlq(10重量パーセント)/10nmのNPB/Pdopでドープされた45nmのSTTB(6重量パーセント)/アノード100nmのAl。ここではITOから成るカソードが、透明なガラス基板上に配置される。
【0067】
〔実施例12〕
さらに実施例12として、次の層構成(nipn)で有機電子素子を製造した。カソードITO/Ndopでドープされた75nmのETM(9重量パーセント)/10nmのETM/Ir(pic)3でドープされた20nmのBAlq(10重量パーセント)/10nmのNPB/Pdopでドープされた20nmのSTTB(6重量パーセント)/Ndopでドープされた25nmのETM(9重量パーセント)/アノード100nmのAl。実施例11と比較すると、アノードとのpn接合を用いた場合に、より低い動作電圧、および、より高い電流効率が測定された。
【0068】
〔実施例13〕
次の層構成を用いて、有機電子素子を製造した。アノード:90nmのITO/STTB中の50nmのPdop(1.5重量パーセント)/10nmのNPB/NPB中の20nmのORE(10%)/10nmのETM/ETM中の10nmのNdop(8重量パーセント)/HTM中の5nmのPdop(1.5重量パーセント)/STTB中の40nmのPdop(1.5重量パーセント)/100nmのAl。ここで、p型ドープされたp型の層を多層に構成して、上記素子の安定性を向上させる。
【0069】
図2は、有機素子の様々な実施形態の電圧に応じた電流密度を示すグラフである。
【0070】
図3は、有機電子素子の様々な実施形態の電圧に応じた輝度を示すグラフである。
【0071】
図4は、有機電子素子の様々な実施形態の輝度に応じた電流効率を示すグラフである。
【0072】
上述の明細書、特許請求の範囲、および、図面に開示した本発明の特徴を、本発明を実現するために、その様々な実施形態において単独で用いるだけでなく、任意により組み合わせることが重要であろう。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】電極と電極対向電極との間に、前記電極と前記対向電極とに接触した有機層配列が配置されている有機電子素子を示す概略的な図である。
【図2】有機電子素子の様々な実施形態の電圧に応じた電流密度を示すグラフである。
【図3】有機電子素子の様々な実施形態の電圧に応じた輝度を示すグラフである。
【図4】有機電子素子の様々な実施形態の輝度に応じた電流効率を示すグラフである。
【図5】有機電子素子の実施例10の電圧に応じた電流密度および輝度を示すグラフである。
【図6】実施例10の輝度に応じた外部量子効率を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノードと、カソードと、少なくとも1つの有機層配列とを有する電子素子、特に発光電子素子であって、
上記少なくとも1つの有機層配列は、上記アノードと上記カソードとの間に配置されると共に上記アノードおよび上記カソードに電気接触しており、
−上記アノードと上記カソードとに電位が印加されると電荷を生成する領域であって、p型の有機半導体材料から成る層と、上記アノードの導電層と接触しているn型の有機半導体材料から成るn型ドープされた層とによって形成されるnp接合を有する領域、および
−上記アノードと上記カソードとに電位が印加されると、さらなる電荷を生成する領域であって、n型の有機半導体材料から成る層と、上記カソードの導電層と接触しているp型の有機半導体材料から成るp型ドープされた層とによって形成されるpn接合を有する領域のうちの少なくとも1つの領域を有する電子素子。
【請求項2】
上記n型の有機半導体材料から成る層は、別のn型ドープされた層であることを特徴とする、請求項1に記載の電子素子。
【請求項3】
上記p型の有機半導体材料から成る層は、別のp型ドープされた層であることを特徴とする、請求項1または2に記載の電子素子。
【請求項4】
上記n型の有機半導体材料から成る層は、電子輸送層および正孔ブロック層から成る層の種類の群から選択された少なくとも1つの層の種類として形成されていることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の電子素子。
【請求項5】
上記p型の有機半導体材料から成る層は、正孔輸送層および電子ブロック層から成る層の種類の群から選択された少なくとも1つの層の種類として形成されていることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の電子素子。
【請求項6】
上記少なくとも1つの有機層配列は、選択的に単層または多層に形成された発光領域を含むことを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の電子素子。
【請求項7】
上記p型の有機半導体材料から成る層は、上記発光領域の一部として形成されていることを特徴とする、請求項6に記載の電子素子。
【請求項8】
上記n型の有機半導体材料から成る層は、上記発光領域の一部として形成されていることを特徴とする、請求項6または7に記載の電子素子。
【請求項9】
上記n型の有機半導体材料から成る層は多層に形成されていることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1項に記載の電子素子。
【請求項10】
上記p型の有機半導体材料から成る層は多層に形成されていることを特徴とする、請求項1〜9のいずれか1項に記載の電子素子。
【請求項11】
上記p型ドープされた層のp型の有機半導体材料は、トリアリールアミンと、フタロシアニンと、コバルトセンといった有機金属錯化合物と、Cr(hpp)といった金属錯体と、ペンタフェニルシクロペンタジエニルといった遊離基と、テトラチアフルバレン誘導体またはアミノ置換ポリサイクルといった有機還元剤とから成る有機半導体材料群から選択された1つの有機半導体材料であることを特徴とする、請求項1〜10のいずれか1項に記載の電子素子。
【請求項12】
有機発光素子、有機ダイオード、有機太陽電池、有機トランジスタ、および、有機発光ダイオードから成る素子群から選択された1つの素子として実施される、請求項1〜11のいずれか1項に記載の電子素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2010−514174(P2010−514174A)
【公表日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−541910(P2009−541910)
【出願日】平成19年12月21日(2007.12.21)
【国際出願番号】PCT/EP2007/011353
【国際公開番号】WO2008/077615
【国際公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【出願人】(503180100)ノヴァレッド・アクチエンゲゼルシャフト (47)
【Fターム(参考)】