説明

尿素ベースの還元剤を排気ガス流へ投与する投与モジュール

本発明は、燃焼エンジンの、後処理システム(30)、例えばSCR又はSCRTシステムに向かう排気ガス流に、尿素ベースの還元剤を投与するための投与モジュール(1)に関する。該モジュール(1)は、長軸(X)に沿って伸びる筐体(20)と、排気ガスを運ぶための注入開口部(19)とを備える。投与手段(55)が、還元剤を投与するために供される。本発明によれば、注入開口部は環状であって、筐体(20)の軸(X)に対して傾いているが、それは、排気ガス注入ジェット(AJ)を発生させるためである。更に、投与手段は、筐体(20)の内部に、筐体(20)の軸(X)と同心の尿素ベースの還元剤スプレー(UWS)を発生させるために設計される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、尿素ベースの還元剤(例えば、尿素の水溶液)を、燃焼エンジンから発生し、後処理システム(例えば、SCR又はSCRT装置)に向かう排気ガス流に投与する投与モジュールに関する。本発明による投与モジュールは、排気ガス流への還元剤の混合を改良し、その結果として後処理装置の触媒効率を高める。
【背景技術】
【0002】
周知のように、内燃エンジン、とりわけディーゼルエンジンの分野での問題は、ターボチャージャーが取り付けられていようがいまいが、燃焼の間、窒素酸化物が形成されることである。窒素酸化物は、エンジンの排気ガスと共に放出され、主な汚染物質の一つの典型である。窒素酸化物の放出を、約90%まで減らすために、選択触媒還元(SCR)装置が開発されてきた。微粒子排出物制限に応じて、これらのシステムは、微粒子トラップ(SCRTシステム)を備え得る。
【0003】
SCR及びSCRT装置の作用は、適切な触媒ユニットによって促進される、排気ガス内の窒素酸化物と特に還元剤として導入されるアンモニアとの間の反応に基づく。アンモニアは、通常は、アンモニアを解放することの出来る、好ましくは液体の反応剤の形態で導入されるが、それは適切な温度状況下で、又は、特定の触媒の作用によるものである。好ましい源は、通常は尿素水溶液であって、例えば、重量%が10%から60%の間であり、そこからアンモニアが加水分解によって得られる。
【0004】
尿素は一般に、SCR−SCRTシステムの上流に位置する投与モジュールのなかで霧状にされる。図1及び図2は、投与モジュールのための従来型の配置の例である。とりわけ、図1が示すのは、SCR触媒を備える排気ガスラインの部分、投与モジュール、及び投与モジュールとSCR触媒との間に割り込む混合装置である。該混合装置は、混合を促進し向上させる機能を有する。エンジンからの排気ガス流は、投与モジュールへと軸方向に導かれ、尿素溶液は、投与モジュールの筐体の中心線(軸)に位置する注入器によって、排気ガスの中に噴霧される。図2に示される周知の解決法では、尿素水溶液は、そうではなく、排気ガス流の方向に対して傾いた注入器によって投与モジュールの中に導かれている。言い変えれば、図2の解決法においては、還元剤が、投与モジュールの筐体の壁面の部分から横方向に注入されている。
【0005】
図1においては、尿素ベースの還元剤(例えば尿素水溶液)に関する化学反応も示されている。スプレーによって、前記溶液が噴霧された後、以下の反応に従って、水の蒸発が開始する:
(NHCO[含水]→(NHCO[固体]+6.9HO[気体]
水の蒸発の後、以下の反応に従って、尿素の分解が開始する:
(NHCO[固体]→NH[気体]+HNCO[気体]
HNCO[気体]+HO→NH[気体]+CO[気体]
図1及び図2の解決法で提案される注入方法には、多くの欠点が伴うことが分かった。とりわけ、前記方法は、尿素の完全な分解(図1のフェーズ3に関連する反応)及び、アンモニア(NH[気体])と排気ガス(CO[気体])との均一な混合を可能としない。不均一な混合は、不都合なことに、SCRシステムの効率を減少させる。
【0006】
図1に示す解決法において、尿素の不完全な分解は、噴霧される滴の大きさが、ノズルの特性によって固定されるという事実と、排気ガス流が投与モジュールの筐体の内部に軸方向に導入されるという事実によるものである。結果として、噴霧(フェーズ1)の後に、更なる空気力学的な滴の微細化は起こらない。その代わり、図2の解決法においては、非対称の注入器の設置によって、投与モジュールの筐体内において尿素水溶液の霧の不均一な分散が発生し、そのため、最大可能NO変換速度が減少する。
【0007】
そして、留意しなくてはならないのは、尿素水溶液の分解は、他の生産物、とりわけ、イソシアン酸の形成を起こすかもしれない、ということである。これは、排気システムの色々な部分(例えば、パイプ、デフレクタ、SCR−SCRTシステム)の上に、例えば液膜のような液体の被膜、又は、固体の被膜を形成しがちな反応性化合物である。これが生じるのは、反応剤溶液が、例えば、投与モジュール筐体の壁、又は、排気ガス管の壁のような冷たい表面に接触することによるものである。
【0008】
図1及び図2で提案される配置、及び、他の周知技術は、不都合なスプレーと壁との強い相互作用を示す。結果として、周知の解決法は、投与モジュール筐体の側壁における、液体の被膜の形成を避けることができない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、本発明の主な目的は、尿素ベースの還元剤を、車両の燃焼エンジンから発生する排気ガス流に投与するための投与モジュールを供することであり、それは、上記の課題/欠点を克服することを可能とする。
【0010】
この目的内において、本発明の第一の目的は、完全な尿素の分解と、アンモニアと排気ガスとの均一な混合を可能とする、尿素ベースの還元手段の投与モジュールを供することである。
【0011】
本発明のもう一つの目的は、投与位置の下流において、還元剤と排気ガスシステムの冷たい壁(例えば、投与モジュールの壁及び排気ガス管の壁)との間の相互作用を避ける、排気ガス流への尿素ベースの還元剤を投与する装置を供することである。
【0012】
信頼性が高く、優位性のあるコストで生産することが比較的簡単な投与モジュールをもたらすことは、本発明の最後の目的というわけではない。
【課題を解決するための手段】
【0013】
これらの、及び、更なる目的は、本記述に不可欠な部分を構成する付随する請求項に記載の投与モジュールによってなされる。とりわけ、前記投与モジュールは、軸に沿って伸び、燃焼エンジンからの排気ガスを運ぶための注入開口部を備える筐体を備える。前記投与モジュールは、更に、前記筐体内に、尿素ベースの還元剤を投与するための投与手段も備える。本発明によれば、注入開口部は、環状であって、前記筐体の軸に対して傾いているが、それは、傾いた環状の注入ジェットを発生させるためである。投与手段は、前記筐体内部に、好ましくは筐体の軸に対して同心の尿素ベースの還元剤スプレーを発生させるように設計されている。
【0014】
前記投与モジュールの前記投与手段は、好ましくは、筐体内部に、好ましくは軸方向に位置するノズルを備える。とりわけ、ノズルの位置は、前記尿素ベースの還元剤のスプレーの口の開いた円錐が、前記環状注入ジェットの注入方向に入射するものである。
【0015】
本発明は、以下の詳細な説明から十分明確になるが、それには、単なる実例であって非限定的な例に示される方法によるものであり、該詳細な説明は、以下に付随する図面を参照して読まれるべきものである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、投与モジュールの従来型の配置図であって、該投与モジュールは、尿素ベースの還元剤を排気ガス流の流れる投与モジュールの筐体に投与するために用いられる。
【図2】図2は、投与モジュールの従来型の配置図であって、該投与モジュールは、尿素ベースの還元剤を排気ガス流の流れる投与モジュールに投与するために用いられる。
【図3】図3は、本発明による第一の投与モジュールを概略的に示した図である。
【図4】図4は、本発明による第一の投与モジュールを概略的に示した図である。
【図5】図5は、本発明による更なる投与モジュールを概略的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、車両の燃焼エンジン、例えばディーゼルエンジンから発生する排気ガス流に尿素ベースの還元剤を投与する投与モジュールに関する。本発明のために、「尿素ベースの還元剤」という表現により、尿素ベースの溶液、例えば、尿素水溶液が意味され、該溶液は、例えばSCR又はSCRT装置のような後処理装置に向かう排気ガス流に投与又は注入されるアンモニアを発現させることが可能である。
【0018】
本発明による投与モジュール1が備えるのは、軸X(長軸Xでも指示される)に沿って伸長する投与筐体20である。この点で図3が示すのは、燃焼エンジンの排気ガスシステム2であって、該システムは、本発明による投与モジュール1を備える。とりわけ、該排気ガスシステム2は、混合装置25の上流に位置する排気管4と投与モジュール20とを備える。次に、混合装置25は、例えばSCR又はSCRT装置のような触媒装置30の上流に位置する。図示されるように、投与モジュール筐体20は、排気管4の一部であることが可能であり、好ましくは、円形の断面をもつことができる。本発明のために、「断面」という表現によって、筐体20の軸Xに垂直な部分が意味される。
【0019】
投与モジュール1が備えるのは、エンジンから前記投与筐体20に向かう排気ガス流を運ぶための注入開口部9である。投与モジュール1は、更に、尿素ベースの還元剤を、筐体20内の排気ガス流に投与するための投与手段も備える。
【0020】
本発明によれば、注入開口部9は、環状であって、筐体20の長軸Xに対して傾いており、それは、環状の傾いた注入ジェット(AJで示される)を発生させるためである。言い換えれば、環状注入開口部9によって、排気ガスは環状に筐体20に導入されるが、それは、前記軸Xに対して傾いた注入方向Yに従うものである。このようにして、注入排気ガス流は、長軸Xに対して垂直な環状要素と、長軸それ自身に平行な軸方向要素とを示す。
【0021】
本発明によれば、投与手段は、筐体20の内部に、投与筐体20に入射する尿素ベースの還元剤スプレー(UWSで示される)を発生させるように設計されている。好ましくは、その口の開いた円錐が筐体20の軸Xに対して同心となる還元剤スプレーを発生させるように、投与手段は設計されている。
【0022】
このために、投与手段は、好ましくは、筐体20の内部に位置するノズル55を備え、該ノズルの位置は、尿素ベースの還元剤スプレーの円錐が、傾いた環状注入ジェットAJの注入方向Yに入射する位置である。好ましくは、ノズル55の位置は軸方向の位置である。すなわち、ノズル55は好ましくは筐体20の軸Xの位置上にある。
【0023】
ノズル55の位置は、注入開口部9の位置関数の中で定まるが、それは、スプレーの半円錐の開口角βが、注入方向Yと筐体の軸Xとの間に規定される角度αに面するような位置である。図3及び4で示される解決法において、例えば、注入開口部9は、端部の横断壁18の近くで投与筐体20に通じ、ノズル55は、当該壁それ自身の中央部に設置される。注入開口部9は傾いているので、注入方向Yと軸Xとの間に規定される角度αは、90度よりも小さい。
【0024】
図4が詳細に示すのは、噴霧された還元剤が環状注入ジェットAJに混合される、筐体20の環状の範囲である。この範囲において、強い乱流が発生している。この乱流は、尿素ベースの還元剤の液滴蒸発を増加させ、その結果、それに続く尿素の粒子分解を促進する。このようにして、反応速度は、有利に増加する。
【0025】
再び図4を参照すると、環状注入ジェットAJによって、スプレーの滴が、投与モジュール筐体20の側壁20Bに当たることが防がれる。実際、側壁20Bに向かうスプレーの滴は、環状注入ジェットAJの注入方向Yによって、投与筐体20の内側に向けてそらされる。このようにして、スプレーの滴は、投与筐体20の(参照記号CSで示される)中央空間に飛ぶことが可能となり、側壁20Bに接触することはない。図4において、前記中央空間CSは、点線L1で図示されている。この中央空間CSの(D1で示される)直径の拡大は、環状ジェットAJの注入速度次第である。
【0026】
本発明によれば、注入ジェットAJは、投与筐体モジュール20の長軸Xに対して傾いており、その角度αは、30°と150°の間を包含する。とりわけ、非常に意義深い結果が観察されたのは、前記角度αが30°と90°の間に包含され、還元剤スプレーが、始点の半分の角度βが5°から40°の間に包含された際である。
【0027】
図5が示すのは、投与モジュール1の異なる態様であって、該態様において、環状注入ジェットAJが、投与モジュール筐体20の長軸Xに対し、90°より大きな角度αだけ傾くように、注入開口部9は設計されている。とりわけ、この配置はノズル55の近傍に被膜ができることを有利に避けることが観察された。
【0028】
本発明が、上記の目的を達成することが示された。より詳しくは、尿素ベースの還元剤の当該投与方法が、アンモニアの完全な分解とその排気ガスとの均一な混合を可能とすることが示された。更に、当該方法は、投与筐体及び排気ガス管の内側表面に液膜を形成することも避ける。
【0029】
ここで主題となっている発明の、多くの変更、修正、変形、他の使用及び利用は、その好適実施例を開示する当該明細書と付随する図面を考慮すれば、当業者にとって明白となるであろう。本発明の精神及び範囲から逸脱しない、そのような変更、修正、変形、他の使用及び利用の全ては、本発明の対象となるものと判断される。
【0030】
更なる実施の詳細は記載されないが、それは、当業者であれば、上記記載の教示から始まる発明を実行することが可能であるためである。
【符号の説明】
【0031】
1 投与モジュール
2 排気ガスシステム
4 排気管
9 注入開口部
18 横断壁
20 筐体
20B 側壁
25 混合装置
30 後処理装置
55 ノズル
AJ 環状ジェット
CS 中央空間
UWS 尿素ベースの還元剤スプレー
X 軸
Y 注入方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼エンジンによって発生した排気ガスであって、後処理システム(30)に向かう排気ガス流に対して、尿素ベースの還元剤を投与するための投与モジュール(1)であって、当該投与モジュール(1)は:
−軸(X)に沿って伸びる筐体(20)と;
−前記排気ガス流を前記投与筐体(20)に運ぶための注入開口部(9)と;
−前記尿素ベースの還元剤を投与するための投与手段(55)とを備え、
前記注入開口部(9)は、傾いた環状の注入ジェット(AJ)を発生させるために、環状であり且つ前記投与筐体(20)の前記軸(X)に対して傾いており、前記投与手段は、前記筐体(20)の内部に、尿素ベースの還元剤スプレー(UWS)を発生させるために設計されていることを特徴とする、投与モジュール(1)。
【請求項2】
前記投与手段が、前記筐体(20)の前記軸(X)に対して同心の尿素ベースの還元剤スプレー(UWS)を発生させるように設計されていることを特徴とする、請求項1に記載の投与モジュール(1)。
【請求項3】
前記投与手段がノズル(55)を備え、該ノズル(55)は、前記投与筐体(20)内に設置され、また、前記尿素ベースの還元剤のスプレー(UWS)の口の開いた円錐が、前記環状注入ジェット(AJ)の注入方向(Y)に入射するように設置されていることを特徴とする、請求項2に記載の投与モジュール。
【請求項4】
前記ノズル(55)の、前記注入開口部(9)に対する位置が、スプレーの円錐の開口角が、前記傾いた環状ジェット(AJ)の注入方向(Y)と前記筐体(20)の軸(X)とがなす角度(α)に面するようにする位置であることを特徴とする、請求項3に記載の投与モジュール(1)。
【請求項5】
前記ノズル(55)の前記位置が、軸の位置にあることを特徴とする、請求項3又は4に記載の投与モジュール(1)。
【請求項6】
前記傾いた環状ジェット(AJ)の前記注入方向(Y)が、前記モジュールの前記軸(X)に対して傾いており、その傾きの角度(α)が、30°から150°の間にあることを特徴とする、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の投与モジュール(1)。
【請求項7】
前記傾いた環状ジェット(AJ)の前記注入方向(Y)が、前記モジュールの前記軸(X)に対して傾いており、その傾きの角度(α)が、30°から90°の間にあることを特徴とする、請求項6に記載の投与モジュール(1)。
【請求項8】
前記投与手段の前記ノズル(55)が、尿素ベースの還元剤スプレーを発生させるように設計されており、該スプレーの有する、半円錐の開口角(β)が5°から40°の間にあることを特徴とする、請求項3乃至7のいずれか1項に記載の投与モジュール(1)。
【請求項9】
前記筐体が円形の断面を有することを特徴とする、請求項1乃至8のいずれか1項に記載の投与モジュール(1)。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれか1項に記載の投与モジュール(1)を備える、車両の燃焼エンジンの排気ガスシステム(2)。
【請求項11】
前記排気ガスシステム(2)が、前記投与モジュール(1)の下流に位置する混合装置(25)を備えることを特徴とする、請求項10に記載の排気ガスシステム(2)。
【請求項12】
請求項10又は11に記載の排気ガスシステム(2)を備える車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2013−514486(P2013−514486A)
【公表日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−543709(P2012−543709)
【出願日】平成22年12月15日(2010.12.15)
【国際出願番号】PCT/EP2010/069722
【国際公開番号】WO2011/073239
【国際公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【出願人】(507304915)エフピーティ モトーレンフォアシュンク アクチェンゲゼルシャフト (10)
【Fターム(参考)】