説明

局所低露点室の露点温度の制御方法及びその制御システム

【課題】搬出入用扉の開放時においても、少ない低露点空気の供給量で局所低露点室を低露点に保持し、コスト低減を図る。
【解決手段】室内環境が所定の露点温度に保持された低露点室2内に設置されるとともに、室内環境が低露点室2より低い露点温度に保持され、低露点室2との間で物品を搬出入するための搬出入用扉4が設けられた局所低露点室3について、搬出入用扉4の開放時に、局所低露点室3の室内環境を低露点に保持するための制御を行う。具体的には、搬出入用扉4の開口の一辺に、開口面に沿って低露点空気を吹き出すエアカーテン5を備え、少なくとも搬出入用扉4の開放時に、エアカーテン5から低露点空気を吹き出すとともに、このエアカーテン5から吹き出される低露点空気の空気温度と低露点室2の室内空気の空気温度との差が最小となるように、エアカーテン5から吹き出す低露点空気の空気温度を調節する制御を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池などの二次電池製造ライン、有機EL製品製造ライン及び半導体製造ラインなど、室内環境を低露点に保持した低露点室内に設置されるとともに、室内環境を前記低露点室より低露点に保持した局所低露点室の露点温度の制御方法及びその制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、上記製造ラインなどにおいては、低露点室内に局所的な局所低露点室を形成し、この局所低露点室内において超低露点環境下で電池等の生産が行われている。前記低露点室では露点温度が例えば−20℃〜−40℃の露点温度に管理される一方、前記局所低露点室では露点温度がこれより低く、例えば−50℃〜−60℃の露点温度に管理されている。この低露点環境を作り出すために除湿装置によって例えば露点温度−50℃〜−70℃の低露点空気が製造され、前記低露点室及び局所低露点室に供給されている。
【0003】
このような局所的な低露点空間を形成する技術として、下記特許文献1では、原材料保管部を開放した原材料の搬入出などを行う際に、原材料の搬入出に対応した原材料保管部に、周囲環境より露点の低いドライエアを供給する有機ELパネルの製造設備における湿度管理方法が開示されている。
【0004】
また、下記特許文献2では、部屋の内部で作業員が作業する空間を作業空間としたときに、吹出口が作業空間の側方に位置するように設けられ、吸込口が作業空間よりも上方の位置に開口するように設けられ、前記吹出口から低露点空気を供給して所望の露点温度の空気で満たされる作業空間を形成し、前記吸込口から部屋の空気を排出する置換換気による低露点室の空調方法が開示されている。
【0005】
さらに、下記特許文献3では、低露点の空気が供給されるドライブースの側壁に設置され、天板、側板等で囲まれたボックス本体の上面に、ドライブースに供給される低露点空気とは独立して供給されるエア供給口を有する乾燥パスボックスが開示されている。
【特許文献1】特開2007−265880号公報
【特許文献2】特開2004−116854号公報
【特許文献3】特開2005−61719号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1記載の発明では、原材料保管部などへ室内空気を侵入させないようにするには、原材料の搬入出時にドライエアの供給量を通常時より増大させて搬入出口において一定の風速で原材料保管部の内部から外部への気流を確保しなければならず、これには大量の低露点空気を供給する必要があった。
【0007】
また、上記特許文献2に示されるように、低露点室内の人員から発生する水分を低露点室全体での気流分布により制御するには、実質的に人員が居る領域よりも広範囲の置換換気を行わなければならず、大量の低露点空気を供給する必要があった。さらに、人員の動き方によっては、置換換気によって作業空間のみを低露点雰囲気に維持することは困難であった。
【0008】
さらに、上記特許文献3では、パスボックスにおける物品の受け渡し時に、パスボックス内が完全に外部雰囲気に晒されるため、一旦パスボックス内の露点が大幅に上昇し、その後扉を閉めてパスボックス内部を低露点雰囲気にするまでに多くの低露点空気を供給する必要があり、且つ、ドライブース内部と同レベルの露点雰囲気になるまでに相当の時間が必要となる。
【0009】
そこで本発明の主たる課題は、搬出入用扉の開放時においても、少ない低露点空気の供給量で局所低露点室を低露点に保持するとともに、コスト低減を図った局所低露点室の露点温度の制御方法及びその制御システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために請求項1に係る本発明として、室内環境が所定の露点温度に保持された低露点室内に設置されるとともに、室内環境が前記低露点室より低い露点温度に保持され、前記低露点室との間で物品を搬出入するための搬出入用扉が設けられた局所低露点室について、前記搬出入用扉の開放時に、前記局所低露点室の室内環境を低露点に保持するための前記局所低露点室の露点温度の制御方法であって、
前記搬出入用扉の開口の一辺に、開口面に沿って低露点空気を吹き出すエアカーテンを備え、少なくとも前記搬出入用扉の開放時に、前記エアカーテンから低露点空気を吹き出すとともに、このエアカーテンから吹き出される低露点空気の空気温度と前記低露点室の室内空気の空気温度との差が最小となるように、前記エアカーテンから吹き出す低露点空気の空気温度を調節する制御を行うことを特徴とする局所低露点室の露点温度の制御方法が提供される。
【0011】
上記請求項1記載の発明は、低露点室内に設置されるとともに室内環境がこれより低い露点温度に保持され、前記低露点室との間で物品を搬出入するための搬出入用扉が設けられた局所低露点室について、前記搬出入用扉の開放時に、前記局所低露点室の室内環境を低露点に保持するための露点温度の制御方法である。
【0012】
具体的には、前記搬出入用扉の開口の一辺に、開口面に沿って低露点空気を吹き出すエアカーテンを備え、少なくとも前記搬出入用扉の開放時に、前記エアカーテンから低露点空気を吹き出すとともに、このエアカーテンから吹き出される低露点空気の空気温度と前記低露点室の室内空気の空気温度との差が最小となるように、前記エアカーテンから吹き出す低露点空気の空気温度を調節する制御を行うものである。このため、搬出入用扉の開放時に、低露点室の室内空気と局所低露点室の室内空気との間に前記エアカーテンからの吹出空気による一様な空気層が形成され、且つこの空気層の空気温度と低露点室の空気温度とがほぼ同等に制御されているため、低露点室の室内空気と前記空気層との境界面において、これらの空気の温度差が要因で生じる対流による空気混合が防止できる。従って、低露点室の室内空気は局所低露点室の室内空気との間に所定温度に制御された空気層が介在することによって扉開口面を通じた局所低露点室側への侵入が抑制されるので、搬出入用扉の開放時においても、局所低露点室を低露点に保持することが可能となる。
【0013】
また、前記空気層は、前記エアカーテンから低露点空気を吹き出すことによって形成されるものであるため、従来のような扉開口面の全面に対して室内側から室外側に向かう気流を発生させるため低露点空気の供給量を増加させる方式や人員が居る作業空間を低露点空気によって置換する置換換気方式などと比べて各段に少ない空気供給量で局所低露点室内の低露点状態が保持でき、低露点空気を大量に製造するためのコスト低減を図ることができるようになる。
【0014】
請求項2に係る本発明として、前記エアカーテンまでの流路の途中に流通する低露点空気を加熱又は冷却する加熱冷却装置が備えられるとともに、前記搬出入用扉近傍の低露点室側及び局所低露点室側にそれぞれ空気温度を測定する温度センサが備えられ、
前記搬出入用扉の開操作に当たって、予め前記エアカーテンから低露点空気を吹き出すとともに、この状態で前記温度センサーにより測定された低露点室側及び局所低露点室側の空気温度の差が最小となるように、前記加熱冷却装置によって前記エアカーテンから吹き出す低露点空気の空気温度を調節し、エアカーテンから吹き出す低露点空気の空気温度と前記低露点室内の空気の空気温度との差が最小となった時点で、前記搬出入用扉の開操作を可能とする制御を行う請求項1記載の局所低露点室の露点温度の制御方法が提供される。
【0015】
上記請求項2記載の発明は、上記請求項1記載の発明のより具体的な制御方法について規定したものであり、搬出入用扉の開操作に当たって、予めエアカーテンから低露点空気を吹き出すとともに、この状態で温度センサーにより測定された低露点室側及び局所低露点室側の空気温度の差が最小となるように、加熱冷却装置によってエアカーテンから吹き出す低露点空気の空気温度を調節し、エアカーテンから吹き出す低露点空気の空気温度と低露点室内の空気の空気温度との差が最小となった時点で、搬出入用扉の開操作を可能とする制御を行うようにしたものである。
【0016】
請求項3に係る本発明として、前記搬出入用扉には扉の開閉を規制する扉開閉規制装置が設けられることにより通常時は扉が閉状態に規制され、
前記搬出入用扉の開操作に当たって、前記エアカーテンから吹き出す低露点空気の露点温度と前記低露点室内の空気の露点温度との温度差が最小となった時点で、前記扉開閉規制装置を解除し、前記搬出入用扉の開操作を可能とする制御を行う請求項1、2いずれかに記載の局所低露点室の露点温度の制御方法が提供される。
【0017】
上記請求項3記載の発明では、搬出入用扉に扉の開閉を規制する扉開閉規制装置を設けることにより、通常時は扉を閉状態に規制しておき、この閉状態に規制された搬出入用扉の開操作に当たって、予め前記エアカーテンから低露点空気を吹き出すとともに、このエアカーテンから吹き出す低露点空気の露点温度と低露点室内の空気の露点温度との温度差が最小となった時点で、前記扉開閉規制装置を解除し、搬出入用扉の開操作を可能とする制御を行うようにしている。これにより、エアカーテンからの吹出空気が所定の温度になる前に誤って搬出入用扉を開くことがなくなり、局所低露点室内の低露点状態が保持できるとともに、扉開放時においても低露点室側からの空気の侵入が効果的に抑制できため低露点状態がより効果的に保持できるようになる。
【0018】
請求項4に係る本発明として、前記低露点室内には前記搬出入用扉近傍の人を感知する人感センサが備えられるとともに、前記人感センサが人を感知した時点で、前記エアカーテンからの低露点空気の吹き出しを開始する請求項1〜3いずれかに記載の局所低露点室の露点温度の制御方法が提供される。
【0019】
上記請求項4記載の発明では、低露点室内に搬出入用扉近傍の人を感知する人感センサを備えるとともに、前記人感センサが人を感知した時点で、前記エアカーテンからの低露点空気の吹出しを開始する制御を行うことにより、搬出入用扉の開操作に当たって、エアカーテンから低露点空気を吹き出すためのボタン操作などが不要となり、搬出入用扉の開操作が可能となるまでの一連の制御が自動で行われるようにすることができる。
【0020】
請求項5に係る本発明として、前記エアカーテンから吹き出す低露点空気の流速は、1m/s以下である請求項1〜4いずれかに記載の局所低露点室の露点温度の制御方法が提供される。
【0021】
上記請求項5記載の発明では、エアカーテンからの吹出空気による空気層を低露点室側の室内空気と局所低露点室側の室内空気との間に一様に形成するため、エアカーテンから吹き出す低露点空気の流速を1m/s以下としている。1m/sを超えると、吹出気流の厚さが吹出口から気流先端部にかけて拡大する扇状となる結果、気流先端部で渦流が発生しやすくなるため周囲の空気との混合が生じやすくなるとともに、空気層と両側の室内空気との境界付近の流速差が大きくなるため両側の室内空気が空気層内に誘引されやすくなり、両室内の空気混合が促進されやすくなる。
【0022】
請求項6に係る本発明として、室内環境が所定の露点温度に保持された低露点室内に設置されるとともに、室内環境が前記低露点室より低い露点温度に保持され、前記低露点室との間で物品を搬出入するための搬出入用扉が設けられた局所低露点室について、前記搬出入用扉の開放時に、前記局所低露点室の室内環境を低露点に保持するための前記局所低露点室の露点温度の制御システムであって、
前記搬出入用扉の開口の一辺に、開口面に沿って低露点空気を吹き出すエアカーテンが備えられ、このエアカーテンに低露点空気を供給するとともに、前記低露点室及び局所低露点室のそれぞれに設けられた吹出口に低露点空気を供給する低露点空気供給装置と、前記低露点空気供給装置からエアカーテンまでの流路の途中に流通する低露点空気を加熱又は冷却する加熱冷却装置と、前記搬出入用扉近傍の低露点室側及び局所低露点室側のそれぞれの空気温度を測定する温度センサとが備えられ、
少なくとも前記搬出入用扉の開放時に、前記温度センサにより測定された低露点室側及び局所低露点室側の空気温度の差が最小となるように、前記加熱冷却装置によって前記エアカーテンから吹き出す低露点空気の空気温度を調節し、エアカーテンから吹き出す低露点空気の空気温度と前記低露点室内の空気の空気温度との差が最小となった時点で、前記搬出入用扉の開操作を可能とする制御を行う制御器が備えられていることを特徴とする局所低露点室の露点温度の制御システムが提供される。
【発明の効果】
【0023】
以上詳説のとおり本発明によれば、搬出入用扉の開放時においても、少ない低露点空気の供給量で局所低露点室を低露点に保持するとともに、コスト低減を図った局所低露点室の露点温度の制御方法及びその制御システムが提供できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】第1形態例に係る制御システム1のシステム構成図である。
【図2】搬出入用扉4開放時の扉開口部の断面図である。
【図3】第2形態例に係る制御システム1Aのシステム構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳述する。
【0026】
〔第1形態例〕
(制御システム1の構成)
本発明に係る制御システム1は、図1に示されるように、室内環境が所定の露点温度(例えば−20℃〜−40℃)に保持された低露点室2内に設置されるとともに、室内環境が前記低露点室2より低い露点温度(例えば−60℃以下)に保持され、前記低露点室2との間で製品や材料等の搬出入を行うための搬出入用扉4が設けられた局所低露点室3に対して、前記搬出入用扉4の開放時に、前記局所低露点室3の室内環境を低露点に保持することを目的として備えられるものである。前記局所低露点室3とは、気密性が確保された閉空間、ブース、ゾーン、エリアなどのことであり、例えば、内部で物品の製造等を行う製造装置や生産装置又は内部で物品の搬送を行う搬送装置などのことを言う。
【0027】
具体的には、前記制御システム1では、搬出入用扉4の開口の一辺に、開口面に沿って低露点空気を吹き出すエアカーテン5を備え、少なくとも搬出入用扉4の開放時に、前記エアカーテン5から低露点空気を吹き出すとともに、このエアカーテン5から吹き出される低露点空気の空気温度と前記低露点室2の室内空気の空気温度との差が最小となるように、エアカーテン5から吹き出す低露点空気の空気温度を制御している。
【0028】
搬出入用扉4の開放時には、図2に示されるように、局所低露点室3の内圧が低露点室2の内圧より若干高圧とされることにより、局所低露点室3の室内空気Bとエアカーテン5からの吹出空気Cとが搬出入用扉4を通じて低露点室2側に流出することになる。ところが、同図に示されるように、低露点室2の室内空気Aと局所低露点室3の室内空気Bとの間に、エアカーテン5からの吹出空気による一様な空気層Cが形成され、且つこの空気層Cの空気温度と低露点室2の室内空気Aの空気温度とがほぼ同等に制御されているため、低露点室2の室内空気Aと空気層Cとの境界面において、これらの空気の温度差が要因で生じる対流による空気混合が防止できる。従って、低露点室2の室内空気Aは局所低露点室3の室内空気Bとの間に所定温度に制御された空気層Cが介在することによって扉開口面を通じた局所低露点室3側への侵入が抑制されるので、搬出入用扉4の開放時においても、局所低露点室3を低露点に保持することが可能となる。
【0029】
また、前記空気層Cはエアカーテン5から低露点空気を吹き出すことによって形成されるものであるため、従来のような扉開口面の全面に対して室内側から室外側に向かう気流を発生させるため低露点空気の供給量を増加させる方式や人員が居る作業空間を低露点空気によって置換する置換換気方式などと比べて各段に少ない空気供給量で局所低露点室3内の低露点状態を保持でき、低露点空気を大量に製造するためのコスト低減を図ることができるようになる。
【0030】
一方、低露点室2の室内空気Aと局所低露点室3の室内空気Bとの境界面に前記空気層Cが介在しない場合、これら室内空気A、Bの間に空気温度差がなくても、露点温度差(湿度差)があれば水分の拡散現象により低露点室2側の水分が局所低露点室3側に侵入する。このため、本発明に係る制御システム1では、前記空気層Cを設けることにより、このような拡散による水分の侵入も防止でき、局所低露点室3内の低露点状態をより高度に保持できるようになる。
【0031】
前記エアカーテン5からの吹出空気と低露点室2の室内空気との温度差が最小となる時点とは、両者の空気温度が漸近してほぼ同等となった時点のことであり、温度差が±1.0℃以下、好ましくは±0.5℃以下の範囲内となったときのことである。この範囲内の温度差であれば、搬出入用扉4を開放したときに低露点室2の室内空気Aと空気層Cとの境界面において、温度差による空気の対流がほとんど生じなくなる。
【0032】
本制御システム1のより詳細なシステム構成について説明すると、図1に示されるように、前記エアカーテン5に低露点空気を供給するとともに、低露点室2に備えられる吹出口6及び局所低露点室3に備えられる吹出口7にそれぞれ低露点空気を供給する低露点空気供給装置8と、前記低露点空気供給装置8からエアカーテン5までの低露点空気の流路の途中に流通する低露点空気を加熱する加熱装置9及び低露点空気を冷却する冷却装置10と、前記搬出入用扉4近傍の低露点室2側及び局所低露点室3側のそれぞれの空気温度を測定する温度センサ11、12と、前記エアカーテン5に供給する低露点空気の供給量を調整するモーターダンパ13と、搬出入用扉4の近傍に取り付けられ、エアカーテン5からの空気吹出しの開始及び停止を操作する操作盤14と、前記搬出入用扉4に設けられ、該搬出入用扉4の開閉を規制する扉開閉規制装置15と、前記搬出入用扉4の開放時にエアカーテン5から吹き出す低露点空気を所定の空気温度に制御する制御器16とを備えている。
【0033】
以下、各構成要素の詳細について説明すると、
前記低露点室2及び局所低露点室3はそれぞれ、外部より低露点に保たれ、外部からの空気侵入が生じないよう気密性が確保されるとともに、室内圧力が外部より高圧となるように管理されている。前記局所低露点室3は、前述の通り気密性が確保されているため、室内にて有意な水分発生が無いとすれば、室内雰囲気は低露点空気供給装置8から供給される低露点空気の露点温度に漸近する。従って、搬出入用扉4の閉鎖時には、室内を低露点に維持するのに要する低露点空気の供給量は少なくて済む。局所低露点室3には、排気用の逆流防止ダンパー3aが備えられ、人員が搬出入用扉4を開けたときに、この逆流防止ダンパー3aが閉状態となって、局所低露点室3内の空気が扉開口部を通じて外部(低露点室2)に流出するようになる。
【0034】
前記搬出入用扉4は、電動又は手動により開閉可能な扉であり、局所低露点室3の外側(低露点室2内)での作業員の開操作により開放可能とされ、この扉を開放した状態で製品や部品等の搬出入が可能となっている。また、搬出入用扉4を閉鎖した状態での気密性が確保されるように、扉の周面には気密シールが施されている。
【0035】
前記エアカーテン5は、搬出入用扉4の開口の一辺に沿って局所低露点室3の内部に備えられ、前記開口の一辺に沿う細長状の吹出口を有し、扉開口面に沿って低露点空気を吹き出すためのものである。前記エアカーテン5は、扉開口面の一辺にのみ備えられるようにし、対向する2辺や4辺など複数の開口辺には設けないことが望ましい。これにより、扉開口面には開口の一辺から一様な空気層Cが形成されるようになり、この空気層Cが低露点室2の室内空気Aと局所低露点室3の室内空気Bとの間にきっちりと形成されるようになる。これに対して、複数の開口辺にエアカーテンを設けた場合には、開口面内で対向する空気層同士が衝突して空気層の気流が乱れ、低露点室2の室内空気と局所低露点室3の室内空気との混合が生じ、局所低露点室3内を低露点に保持できなくなる。前記エアカーテン5は、扉開口の上部に設けることが好ましく、これによって開口面に沿って上方から下方に向けた一様なダウンフローの空気層が形成されるようになる。なお、図2に示されるように、実際に搬出入用扉4を開けた状態では、局所低露点室3の内圧が低露点室2の内圧より高く設定されるとともに、局所低露点室3内の吹出口7からも低露点空気が供給され続けているため、エアカーテン5からの吹出空気による空気層Cは開口の一辺から扉開口面を斜め外側に向けたダウンフロー形状で流出するようになる。
【0036】
前記エアカーテン5の空気吹出口の幅は、扉開口面の一辺と同等又はそれよりも幅広に形成することが望ましい。前記エアカーテン5としては、公知のエアカーテンに加え、ブリーズライン等の汎用の制気口類を用いることもできる。ブリーズライン等の汎用制気口を用いる場合には、吹出空気の風速を0.5m/s以下とすることが望ましい。さらに、前記エアカーテン5の吹出口からの気流は、渦流の発生を抑制し層流或いは一様流であることが望ましく、そのために、吹出口先端にパンチング孔などをもつ整流板や、厚みの薄い不織布フィルタ等を取り付けることにより整流及び一様流化を図ることが望ましい。
【0037】
前記エアカーテン5から吹き出す低露点空気の流速は、1m/s以下であることが好ましい。流速が1m/sを超えると、吹出気流の厚さ(空気層Cの室内外方向厚さ)が吹出口から気流先端部にかけて拡大する扇状となる結果、気流先端部で渦流が発生しやすくなり周囲の空気との混合が生じやすくなるとともに、空気層Cと両側の室内空気A、Bとの境界付近の流速差が大きくなるため両側の室内空気A、Bが空気層C内に誘引されやすくなり、両室内の空気混合が促進されやすくなる。このため、局所低露点室3内の露点温度を上昇させてしまうおそれがある。
【0038】
前記低露点空気供給装置8は、露点温度−50℃〜−70℃程度の低露点空気を製造する装置であり、例えば、給気路と排気路とに跨って吸着材(デシカント剤)を内蔵する乾式の回転式除湿ロータが設けられ、前記給気路において吸着材に水分が吸着され、前記排気路において吸着材の再生が行われることにより低露点空気を製造する装置である。効率のよい低露点空気の製造を行うため、例えば、前記給気路において圧縮した空気を前記除湿ロータに供給したり、前記排気路において加熱装置により加熱した空気や圧力スイングを与えた圧縮空気を除湿ロータに供給したりする手段などを適宜用いることができる。なお、図示例では、1台の低露点空気供給装置8によって低露点室2の吹出口6並びに局所低露点室3の吹出口7及びエアカーテン5に対して低露点空気を供給する構成とされているが、各吹出口6、7及びエアカーテン5毎に低露点空気供給装置を設けても良いし、低露点室2と局所低露点室3とで別の低露点空気供給装置を設けても良いし、エアカーテン5に対してだけ別の低露点空気供給装置を設けても良い。
【0039】
前記加熱装置9は、一般的な、電気ヒータなどの加熱器や温水コイル、蒸気コイル、冷媒コイル又は電熱コイルなどの空気加熱コイルなどを使用することができる。前記冷却装置10は、一般的な空調用熱源装置によって冷却された一般的な空気冷却コイルである。前記熱源装置として、圧縮式、吸収式などの冷凍機、ターボ冷凍機、吸収冷凍機又はスクリュー冷凍機や、あるいはヒートポンプ、熱交換器又は蓄熱槽などの冷熱源を利用した冷却装置を使用することができる。上記加熱装置9及び冷却装置10は、各装置の加熱コイル及び冷却コイルへ供給する温水量及び冷水量を調節する二方弁などの制御バルブの開度を調節する駆動部と制御器16とが接続され、前記温度センサ11、12の測定温度に基づいて前記制御器16による制御バルブの開度調節が行われ、低露点空気の温度調節が可能となっている。前記加熱装置9及び冷却装置10は、必ずしも両方設ける必要が無く、局所低露点室3内部の機器類等による発熱のみが発生し、局所低露点室3の室内空気が低露点室2の室内空気に比べ高くなることが予め判っている場合には、加熱装置9を省略し、冷却装置10のみを設けることができる。
【0040】
前記温度センサ11、12は、公知の温度計、例えば熱電対式温度センサ、電気抵抗式温度センサまたはバイメタル式などの機械式温度センサなど各種の温度計を使用することができる。この温度センサ11、12は、制御器16に対し測定結果が伝送可能に接続されている。
【0041】
前記操作盤14には、エアカーテン5からの空気吹出しを開始又は停止するためのエアカーテンスイッチ「ON」「OFF」ボタンと、搬出入用扉4の開操作が可能か否かを表示する「扉開OK」「扉開NG」表示部とが備えられている。前記「扉開OK」「扉開NG」表示部は、通常は「扉開NG」が点灯し、所定の操作により搬出入用扉4の開操作が可能な状態となったときに「扉開NG」が消灯し「扉開OK」が点灯するようになっている。この操作盤14は、制御器16に対し、各制御信号が送受信可能に接続されている。
【0042】
また、前記モーターダンパ13及び扉開閉規制装置15は、それぞれ制御器16と制御信号が送受信可能に接続されている。
上述の通り、本制御システム1では、従来の各方式に比べ、搬出入用扉の開放時に低露点空気の供給量を大幅に低減することができるため、低露点空気供給装置8の容量が小さいものを使用できる。さらに同様の理由から、エアカーテン5からの吹出空気の温度調節に使用される加熱装置9や冷却装置10の容量が小さいものを使用することができるとともに、これらの温水量又は冷水量を制御する制御バルブも小型化でき、更にエアカーテン5の流量を調節するモーターダンパ13も小型のものを使用できる。従って、本システム全体をコンパクトに構成することができるようになる。
【0043】
(操作手順)
低露点室2の人員が局所低露点室3に対し製品や材料を搬出入する手順は次のとおりである。
【0044】
初期状態において、搬出入用扉4は、低露点室2にいる人員が誤って開けることがないように扉開閉規制装置15によって開閉が規制されるとともに、モーターダンパ13が全閉状態とされエアカーテン5からの吹出しが停止している。
【0045】
人員が搬出入用扉4を開けるには、先ず、操作盤14に備えられるエアカーテンスイッチの「ON」ボタンを押す。すると、この操作盤14からの信号を受信した制御器16が前記モーターダンパ13を開状態とし、エアカーテン5からの低露点空気の吹出しが開始される。
【0046】
次に、制御器16では、温度センサ11によって測定された低露点室2側の空気温度と、温度センサ12によって測定された局所低露点室3側の空気温度とを受けて、これらの空気温度の差が最小となるように、加熱装置9又は冷却装置10を操作して、エアカーテン5から吹き出す低露点空気の空気温度の自動制御を行う。
【0047】
制御器16による温度制御の結果、エアカーテン5から吹き出す低露点空気の空気温度と、低露点室2内の搬出入用扉4近傍の空気温度とがほぼ同等となった時点で、制御器16は、扉開閉規制装置15のロックを解除する信号を送信する。
【0048】
扉開閉規制装置15のロックが解除されると、制御器16は、操作盤14に対して、「扉開OK」のランプを点灯させる信号を発し、人員が搬出入用扉4を開けることができる状態になったことが確認できる。このランプの点灯の他に、音声など聴覚的に知らせる手段を採用することもできる。
【0049】
搬出入用扉4を開放し、局所低露点室3に製品等の搬出入が完了したら、人員は搬出入用扉4を閉め、操作盤14に備えられたエアカーテンスイッチのOFFボタンを押す。これにより、モーターダンパ13が全閉状態となってエアカーテン5からの吹出しが停止するとともに、扉開閉規制装置15によって搬出入用扉4の閉状態がロックされる。
【0050】
本制御システム1では、搬出入用扉4の閉鎖後においては、搬出入用扉4の開放時に局所低露点室3内の露点温度が低い状態に保持されているので、扉を閉鎖した直後に局所低露点室3の内部を所定の低露点温度に復旧するため急速に低露点空気の供給運転をするなど過剰な低露点空気の供給を行う必要がなく、低露点空気の供給量を低減することができる。
【0051】
〔第2形態例〕
第2形態例に係る制御システム1Aは、図3に示されるように、低露点室2に搬出入用扉4近傍の人を感知する人感センサ20が備えられている点で上記第1形態例と相違する。前記人感センサ20は、低露点室2内の搬出入用扉4近傍の人員を検知できる位置に設置され、図2に示される例では、搬出入用扉4近傍の直上である低露点室2の天井面に設置されている。前記人感センサ20は、制御器16と感知信号が伝送可能に接続されている。前記人感センサ20は、例えば赤外線センサ、超音波センサ、光電スイッチ、光センサ、カメラなどで構成されている。
【0052】
また、本制御システム1Aでは、操作盤14に代えて、表示盤21が備えられている。前記表示盤21には、「扉開OK」「扉閉NG」などの表示部が備えられている。
【0053】
次に、本制御システム1Aにおいて局所低露点室3に製品や材料の搬出入をする手順について説明する。人員が製品や材料の搬出入のため局所低露点室3の搬出入用扉4に近づくと、前記人感センサ20が人員を感知し、その時点でエアカーテン5への低露点空気の供給が自動的に開始される。そして、制御器16では、温度センサ11、12の検知信号に応じて加熱装置9又は冷却装置10を作動させ、エアカーテン5から吹き出す低露点空気の空気温度と低露点室2内の空気温度との差が最小となった時点で、扉開閉規制装置15のロックを解除するとともに、表示盤21の点灯表示を「扉開NG」から「扉開OK」に切り替える制御が行われる。これにより、搬出入用扉4を開放して製品や材料の搬出入が可能となる。
【0054】
その後、搬出入用扉4を閉め、人感センサ20による人員の感知信号が停止すると、制御器16では、扉開閉規制装置15をロック状態にするとともに、表示盤21の点灯表示を「扉開NG」に切り替え、エアカーテン5からの吹出しを停止する。
【0055】
このように、本第2形態に係る制御システム1Aでは、搬出入用扉4の開操作が可能な状態になるまでの一連の流れが制御器16によって自動的に行われるため、扉開操作までに要する時間を短縮することができる。また、製品等の搬出入作業の終了後は、搬出入用扉4を閉めてその場を離れるだけなので、エアカーテンスイッチのOFFなどのスイッチ操作をし忘れることにより局所低露点室3内の露点温度が上昇するなどの問題の発生が回避できる。
【0056】
〔他の形態例〕
(1)上記制御システム1、1Aは、低露点室2内に複数の局所低露点室3を設置する場合や、局所低露点室3に複数の搬出入用扉4を設ける場合においても、各搬出入用扉4に対して個別的にエアカーテン5及びそれに付随する制御装置を設置することにより、同様にして適用することができる。この場合、各搬出入用扉4に対して独立した制御が行われるため、例えば一つの局所低露点室3に設けられる複数の搬出入用扉4を同時に開放した場合でも、扉開口部における低露点室2側の高露点の空気が内部に侵入するのを安定して抑制することができるようになる。また、複数のエアカーテン5に同時に低露点空気を供給する場合でも、従来の方式と比較して1つのエアカーテンに供給する低露点空気の量が大幅に低減できるため、低露点空気供給装置を小型化できるとともに、低露点空気供給装置の運転エネルギーを大幅に削減することができる。
【符号の説明】
【0057】
1・1A…制御システム、2…低露点室、3…局所低露点室、4…搬出入用扉、5…エアカーテン、6・7…吹出口、8…低露点空気供給装置、9…加熱装置、10…冷却装置、11・12…温度センサ、13…モーターダンパ、14…操作盤、15…扉開閉規制装置、16…制御器、20…人感センサ、21…表示盤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
室内環境が所定の露点温度に保持された低露点室内に設置されるとともに、室内環境が前記低露点室より低い露点温度に保持され、前記低露点室との間で物品を搬出入するための搬出入用扉が設けられた局所低露点室について、前記搬出入用扉の開放時に、前記局所低露点室の室内環境を低露点に保持するための前記局所低露点室の露点温度の制御方法であって、
前記搬出入用扉の開口の一辺に、開口面に沿って低露点空気を吹き出すエアカーテンを備え、少なくとも前記搬出入用扉の開放時に、前記エアカーテンから低露点空気を吹き出すとともに、このエアカーテンから吹き出される低露点空気の空気温度と前記低露点室の室内空気の空気温度との差が最小となるように、前記エアカーテンから吹き出す低露点空気の空気温度を調節する制御を行うことを特徴とする局所低露点室の露点温度の制御方法。
【請求項2】
前記エアカーテンまでの流路の途中に流通する低露点空気を加熱又は冷却する加熱冷却装置が備えられるとともに、前記搬出入用扉近傍の低露点室側及び局所低露点室側にそれぞれ空気温度を測定する温度センサが備えられ、
前記搬出入用扉の開操作に当たって、予め前記エアカーテンから低露点空気を吹き出すとともに、この状態で前記温度センサーにより測定された低露点室側及び局所低露点室側の空気温度の差が最小となるように、前記加熱冷却装置によって前記エアカーテンから吹き出す低露点空気の空気温度を調節し、エアカーテンから吹き出す低露点空気の空気温度と前記低露点室内の空気の空気温度との差が最小となった時点で、前記搬出入用扉の開操作を可能とする制御を行う請求項1記載の局所低露点室の露点温度の制御方法。
【請求項3】
前記搬出入用扉には扉の開閉を規制する扉開閉規制装置が設けられることにより通常時は扉が閉状態に規制され、
前記搬出入用扉の開操作に当たって、前記エアカーテンから吹き出す低露点空気の露点温度と前記低露点室内の空気の露点温度との温度差が最小となった時点で、前記扉開閉規制装置を解除し、前記搬出入用扉の開操作を可能とする制御を行う請求項1、2いずれかに記載の局所低露点室の露点温度の制御方法。
【請求項4】
前記低露点室内には前記搬出入用扉近傍の人を感知する人感センサが備えられるとともに、前記人感センサが人を感知した時点で、前記エアカーテンからの低露点空気の吹き出しを開始する請求項1〜3いずれかに記載の局所低露点室の露点温度の制御方法。
【請求項5】
前記エアカーテンから吹き出す低露点空気の流速は、1m/s以下である請求項1〜4いずれかに記載の局所低露点室の露点温度の制御方法。
【請求項6】
室内環境が所定の露点温度に保持された低露点室内に設置されるとともに、室内環境が前記低露点室より低い露点温度に保持され、前記低露点室との間で物品を搬出入するための搬出入用扉が設けられた局所低露点室について、前記搬出入用扉の開放時に、前記局所低露点室の室内環境を低露点に保持するための前記局所低露点室の露点温度の制御システムであって、
前記搬出入用扉の開口の一辺に、開口面に沿って低露点空気を吹き出すエアカーテンが備えられ、このエアカーテンに低露点空気を供給するとともに、前記低露点室及び局所低露点室のそれぞれに設けられた吹出口に低露点空気を供給する低露点空気供給装置と、前記低露点空気供給装置からエアカーテンまでの流路の途中に流通する低露点空気を加熱又は冷却する加熱冷却装置と、前記搬出入用扉近傍の低露点室側及び局所低露点室側のそれぞれの空気温度を測定する温度センサとが備えられ、
少なくとも前記搬出入用扉の開放時に、前記温度センサにより測定された低露点室側及び局所低露点室側の空気温度の差が最小となるように、前記加熱冷却装置によって前記エアカーテンから吹き出す低露点空気の空気温度を調節し、エアカーテンから吹き出す低露点空気の空気温度と前記低露点室内の空気の空気温度との差が最小となった時点で、前記搬出入用扉の開操作を可能とする制御を行う制御器が備えられていることを特徴とする局所低露点室の露点温度の制御システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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