説明

居眠り検知運転ハンドル及びそれを用いた車両の制御方法

【課題】運転ハンドルの握り手部分の構造を工夫して、居眠り検知に適した居眠り検知運転ハンドル及びそれを用いた車両の制御方法を提供する。
【解決手段】居眠り検知運転ハンドルにおいて、運転ハンドル2の握り手部分3を地面に対して垂直になるように配置し、かつ、前記運転ハンドル2の握り手部分3の運転士の指が当たる位置に安全スイッチ4を配置し、運転士の居眠り状態での握力の脱力による前記運転士の手5の自重により前記運転士の手5が前記運転ハンドル2の安全スイッチ4から離れたことを検知する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両などの居眠り検知運転ハンドル及びそれを用いた車両の制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の鉄道車両の制御のための運転ハンドルは、握り手部分が地上に対して平行に設置され、その握り手部分に手を載せて鉄道車両を制御するものであった。
【特許文献1】なし
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記した運転ハンドルでは、握り手部分が地上に対して平行に設置されているため、運転士が居眠りをしても、手は握り手部分に載せられた状態にあり、居眠り検知には適さないものであった。
【0004】
運転士の居眠り事故防止のため、鉄道会社は様々な方法を採用しているが、運転士の負担が高く、確立された方策はない。その一つとして睡眠時の筋肉弛緩を利用した居眠り検知方法があるが、検出精度の点で問題がある。つまり、従来の居眠り検知装置は、一定間隔でなる警報をスイッチを押すことで解除するタイプ、あるいは、運転ハンドルの安全スイッチを押し続けるあるいは足のペダルを踏み続けることで警報が鳴るのを解除するタイプであった。しかし、いずれも居眠りあるいはそれに近い状態を確実に検出できるとは断言できず、また、居眠りをしていない正常な状態での運転士の負担となっていた。
【0005】
本発明は、上記状況に鑑みて、運転ハンドルの握り手部分の構造を工夫して、居眠り検知に適した居眠り検知運転ハンドル及びそれを用いた車両の制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記目的を達成するために、
〔1〕居眠り検知運転ハンドルにおいて、運転ハンドルの握り手部分を地面に対して垂直になるように配置し、かつ、前記運転ハンドルの握り手部分の運転士の指が当たる位置に安全スイッチを配置し、運転士の居眠り状態での握力の脱力による前記運転士の手の自重により前記運転士の手が前記運転ハンドルの安全スイッチから離れたことを検知することを特徴とする。
【0007】
〔2〕上記〔1〕記載の居眠り検知運転ハンドルにおいて、前記安全スイッチが押しボタンスイッチであることを特徴とする。
【0008】
〔3〕上記〔1〕記載の居眠り検知運転ハンドルにおいて、前記安全スイッチがタッチスイッチであることを特徴とする。
【0009】
〔4〕上記〔1〕記載の居眠り検知運転ハンドルにおいて、前記握り手部分から離隔した下方に受け台を配置し、この受け台に触感による覚醒装置を設けることを特徴とする。
【0010】
〔5〕上記〔1〕に記載の居眠り検知運転ハンドルを用いた車両の制御方法であって、前記運転ハンドルの安全スイッチがONになっているか否かをチェックし、前記運転ハンドルの安全スイッチがONになっていない場合には、一定時間T1 を経過したか否かをチェックし、前記一定時間T1 を経過した場合には警報装置を作動させて警告音を鳴動させ、この警告音の鳴動が一定時間T2 を経過したか否かをチェックし、前記一定時間T2 を経過した場合には、前記運転ハンドルの安全スイッチがONになったか否かをチェックし、前記運転ハンドルの安全スイッチがONになっていない場合には、ブレーキを作動させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、
(1)運転ハンドルの握り手部分を地面に対して垂直に配置したことにより、居眠りをすると、運転士の手は自重によって運転ハンドルから離れることになり、居眠り検知を行うことができる。
【0012】
(2)鉄道車両運転時の居眠りを確実に検知し、その復旧を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の居眠り検知運転ハンドルは、運転ハンドルの握り手部分を地面に対して垂直になるように配置し、かつ、前記運転ハンドルの握り手部分の運転士の指が当たる位置に安全スイッチを配置し、運転士の居眠り状態での握力の脱力による前記運転士の手の自重により前記運転士の手が前記運転ハンドルの安全スイッチから離れたことを検知する。
【実施例】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0015】
図1は本発明の第1実施例を示す居眠り検知運転ハンドルの斜視図、図2はその居眠り検知運転ハンドルの制御状態を示す上面図である。
【0016】
これらの図において、1は車両(図示なし)に固定される運転制御装置、2はその運転制御装置1を制御するための運転ハンドル、3はその運転ハンドル2の握り手部分であり、この握り手部分3は地面に対して垂直に配置される。4はその運転ハンドル2の握り手部分3の親指が当たる位置に配置される安全スイッチ、5は運転士の手である。なお、運転ハンドル2は、放すとすぐにN(蛇行)に入るよう、軽いテンションがかかっている。また、警報解除スイッチ(図示なし)を運転台に設置するようにする。なお、この実施例では、安全スイッチ4を親指が当たる位置に配置するようにしたが、親指に代えて人指し指や中指が当たる位置とすることも可能である。
【0017】
運転士が居眠り状態となり運転士の手5が運転ハンドル2から離れ、安全スイッチ4が押されていない状態になると、警告音が鳴り車両は蛇行状態となる。一定時間以内にハンドル操作が行われるか警報解除スイッチが押されれば、警告音が解除される。しかし、一定時間内にハンドル操作が行われなければ、安全スイッチ4がONになったかどうかを確認し、安全スイッチ4がONになっていなければ、車両にブレーキがかかるようになっている。
【0018】
なお、運転ハンドル2は、運転台内蔵でも、座席一体型でもよい。座席一体型の場合は、運転ハンドル2の制御情報(いまどのノッチに入っているかなど)を運転台に表示することができる。また、座面一体型の場合は、運転士の手5が脱力した場合に運転ハンドル2から手が必ず離れるよう、肘掛等の設計に配慮する。
【0019】
上記したように、運転ハンドル2の握り手部分3は地面に対して垂直になるように配置されている。したがって、通常の運転時は、運転ハンドル2の握り手部分3は運転士が意識して握り占めているので、適切な運転が行われる。しかし、運転士が居眠りすると、運転ハンドル2の握り手部分3を保持していた力はなくなり、運転士の手が地面に対して垂直になっている握り手部分3から離れるとともに、親指が当たる位置に配置されている安全スイッチ4からも離れる。すると、安全スイッチ4の動作により、運転士の居眠りを検知することができる。
【0020】
ここで、安全スイッチ4として押しボタンスイッチを用いることができるが、押しボタンスイッチの場合は、運転中に、意識的に押しボタンスイッチを押す動作が必要になる。これを和らげるために、安全スイッチ4をタッチスイッチとすると、運転中に、意識的に安全スイッチを押す動作が不要になる。
【0021】
しかし、安全スイッチとして押しボタンスイッチとタッチスイッチのどちらを用いても、居眠りにより運転士の手5が運転ハンドル2の握り手部分3から離れ、同時に安全スイッチから離れると、運転ハンドル2の握り手部分3から運転士の手5が離れたことを確実に検知することができ、運転士が居眠り状態であることを検知することができる。
【0022】
図3は本発明の第2実施例を示す居眠り検知運転ハンドルの斜視図、図4はその居眠り検知運転ハンドルの側面図である。
【0023】
これらの図において、11は車両(図示なし)に固定される運転制御装置、12はその運転制御装置11を制御するための運転ハンドル、13はその運転ハンドル12の握り手部分であり、この握り手部分13は地面に対して垂直に配置される。14はその運転ハンドル12の握り手部分13の親指が当たる位置に配置される安全スイッチであり、上記第1実施例と同様に、親指に代えて人指指や中指の当たる位置に配置することもできる。15は運転ハンドル12の握り手部分13の下方に設けられる受け台、16は触感による覚醒装置である。
【0024】
ここで、覚醒装置16としては、例えば、金属部材などを配置して、運転士の手が触れた時その触感により覚醒レベルが上がるものを用いる。
【0025】
上記したように、運転ハンドル12の握り手部分13は地面に対して垂直になるように配置されている。したがって、通常の運転時は、運転ハンドル12の握り手部分13は運転士が意識して握り占めているので、適切な運転が行われる。しかし、運転士が居眠りすると、運転ハンドル12の握り手部分13を保持していた力はなくなり、運転士の手は地面に対して垂直になっている握り手部分13から離れるとともに、親指が当たる位置に配置されている安全スイッチ14からも離れる。すると、安全スイッチ14の動作により、運転士の居眠りを検知することができる。
【0026】
さらに、この実施例では、居眠りにより脱力した運転士の手が運転ハンドル12の下方の受け台15に配置された覚醒装置16に触れることにより、運転士の覚醒レベルが向上し、正常運転に復帰することができる。
【0027】
図5は本発明の居眠り検知運転ハンドルを用いた車両の制御方法を示すフローチャートである。
【0028】
以下、この居眠り検知運転ハンドルを用いた車両の制御方法について説明する。
【0029】
(1)運転ハンドルの安全スイッチがONになっているか否かをチェックする(ステップS1)。
【0030】
(2)運転ハンドルの安全スイッチがONになっていない場合には、その状態が一定時間T1 を経過したか否かをチェックする(ステップS2)。
【0031】
(3)一定時間T1 を経過した場合には警報装置が作動し警告音が鳴る(ステップS3)。
【0032】
(4)警告音の鳴動が、一定時間T2 を経過したか否かをチェックする(ステップS4)。
【0033】
(5)警告音の鳴動が一定時間T2 を経過した場合には、運転ハンドルの安全スイッチがONになったか否かをチェックする(ステップS5)。
【0034】
(6)運転ハンドルの安全スイッチがONになっていない場合には、ブレーキを作動させる(ステップS6)。
【0035】
これが、本発明の居眠り検知運転ハンドルを用いた車両の制御方法であるが、より詳細に説明すると、
1.ワンハンドル型の運転ハンドルの握り手部分を、地面に対し垂直にする。運転ハンドルは放すとすぐにN(蛇行)に入るように、軽いテンションがかかっている。
【0036】
2.運転ハンドルの握り手部分の右手親指が当たる位置に安全スイッチを設け、安全スイッチを押すと完全にハンドル内に入るように設計する。
【0037】
3.警報解除スイッチを運転台に設置する。
【0038】
4.運転士の発声を検知するマイクを設置もしくは運転士自身が装着し、指差喚呼がされていることを検知できるようにする。
【0039】
5.安全スイッチが押されていない状態で一定時間T1 を経過すると警告音が鳴り、車両は蛇行状態となる。一定時間T1 以内にハンドル操作もしくは指差喚呼もしくは解除スイッチが押されれば、警告音が解除される。ハンドル操作がなければ、安全スイッチがONになったかをチェックし、ONになっていなければ、ブレーキが作動する。
【0040】
6.運転ハンドルの下に受け台が設定可能な場合は、鉄板等熱伝導率の高い材料とし、運転士の手が運転ハンドルから離れてその上に落ちたときに、触感から覚醒レベルが上がるものを用いる。
【0041】
7.運転ハンドルは、運転台内蔵でも、座席一体型でもよい。
【0042】
8.座席一体型の場合は、ハンドルの制御情報(いまどのノッチに入っているか、など)を運転台に表示する。
【0043】
9.座席一体型の場合は、脱力した場合にハンドルから手が必ず離れるように肘掛等を配置する。
【0044】
なお、警告装置による警告音の解除方法の一つに指差喚呼を加えることにより、運転士が正常な運転状態である場合の、警告装置による警告音の解除の負担を軽減することができる。
【0045】
また、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づき種々の変形が可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の居眠り検知運転ハンドル及びそれを用いた車両の制御方法は、鉄道車両運転時の居眠りを確実に検知し、その復旧を図ることができる運転ハンドルとその応用として利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の第1実施例を示す居眠り検知運転ハンドルの斜視図である。
【図2】本発明の第1実施例を示す居眠り検知運転ハンドルの制御状態を示す上面図である。
【図3】本発明の第2実施例を示す居眠り検知運転ハンドルの斜視図である。
【図4】本発明の第2実施例を示す居眠り検知運転ハンドルの側面図である。
【図5】本発明の居眠り検知運転ハンドルを用いた車両の制御方法を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0048】
1,11 運転制御装置
2,12 運転ハンドル
3,13 運転ハンドルの握り手部分
4,14 安全スイッチ
5 運転士の手
15 受け台
16 覚醒装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転ハンドルの握り手部分を地面に対して垂直になるように配置し、かつ、前記運転ハンドルの握り手部分の運転士の指が当たる位置に安全スイッチを配置し、運転士の居眠り状態での握力の脱力による前記運転士の手の自重により前記運転士の手が前記運転ハンドルの安全スイッチから離れたことを検知することを特徴とする居眠り検知運転ハンドル。
【請求項2】
請求項1記載の居眠り検知運転ハンドルにおいて、前記安全スイッチが押しボタンスイッチであることを特徴とする居眠り検知運転ハンドル。
【請求項3】
請求項1記載の居眠り検知運転ハンドルにおいて、前記安全スイッチがタッチスイッチであることを特徴とする居眠り検知運転ハンドル。
【請求項4】
請求項1記載の居眠り検知運転ハンドルにおいて、前記握り手部分から離隔した下方に受け台を配置し、該受け台に触感による覚醒装置を設けることを特徴とする居眠り検知運転ハンドル。
【請求項5】
請求項1に記載の居眠り検知運転ハンドルを用いた車両の制御方法であって、
(a)前記運転ハンドルの安全スイッチがONになっているか否かをチェックし、
(b)前記運転ハンドルの安全スイッチがONになっていない場合には、一定時間T1 を経過したか否かをチェックし、
(c)前記一定時間T1 を経過した場合には警報装置を作動させて警告音を鳴動させ、
(d)該警告音の鳴動が一定時間T2 を経過したか否かをチェックし、
(e)前記一定時間T2 を経過した場合には、前記運転ハンドルの安全スイッチがONになったか否かをチェックし、
(f)前記運転ハンドルの安全スイッチがONになっていない場合には、ブレーキを作動させることを特徴とする居眠り検知運転ハンドルを用いた車両の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−81933(P2009−81933A)
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−248802(P2007−248802)
【出願日】平成19年9月26日(2007.9.26)
【出願人】(000173784)財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【Fターム(参考)】