説明

屈折率分布測定システム及び屈折率分布測定方法

【課題】被検物の屈折率分布を高精度に測定可能な屈折率分布測定システム及び屈折率分布測定方法を提供する。
【解決手段】2光束干渉計と、干渉計が取得した干渉縞像から被検物の屈折率分布を取得する信号処理装置90と、を有する屈折率分布測定システムを提供する。干渉計は、波長の異なる2種類の波長の可干渉光を生成する光源ユニット10と、各波長について前記干渉縞を観測するために前記2種類の波長の一つを選択するCPU1とを有する。信号処理装置90は、被検物Oの屈折率分布を取得するのに一方の波長を使用し、被検物Oの輪郭を検出するのに他方の波長を使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、屈折率分布測定システム及び屈折率分布測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光学素子(被検物)の屈折率分布を高精度に測定する需要がある。特許文献1及び2は、マッチング液に浸漬した被検物の屈折率分布を測定する方法を開示している。特許文献3は、マッチング液の屈折率には温度依存性があることからマッチング液の温度を制御することを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平01−316627号公報
【特許文献2】特開平11−044641号公報
【特許文献3】特開平03−218432号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
マッチング液と被検物の付近の屈折率が同程度になった場合や両者の積算位相差が波長の整数倍となった場合には、マッチング液における被検物の輪郭(エッジ)が把握しづらくなり、その結果、被検物の屈折率分布を高精度に認識できなくなる。
【0005】
本発明は、被検物の屈折率分布を高精度に測定可能な屈折率分布測定システム及び屈折率分布測定方法を提供することを例示的な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の屈折率分布測定システムは、可干渉光を参照光と被検光に分割し、マッチング液に浸漬された被検物を透過した被検光と参照光を再び重畳し、干渉縞を観測する干渉計と、前記干渉計が取得した干渉縞像から被検物の屈折率分布を取得する信号処理装置と、
を有し、前記干渉計は、2種類の波長の可干渉光を発する光源と、各波長について前記干渉縞を観測するために前記2種類の波長の一つを選択する選択手段と、を有し、前記信号処理装置は前記被検物の前記屈折率分布を取得するのに前記2種類の波長の一方を使用し、前記被検物の輪郭を検出するのに前記2種類の波長の他方が使用されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、被検物の屈折率分布を高精度に測定可能な屈折率分布測定システム及び屈折率分布測定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は屈折率分布測定システムのブロック図である。
【図2】図2は図1に示すマッチング槽の断面図である。
【図3】図3は被検物の輪郭を示した図と干渉縞画像の図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1は屈折率分布測定システムのブロック図である。屈折率分布測定システムは干渉計と信号処理装置90を有する。干渉計は、可干渉光を参照光と被検光に分割し、被検物を透過した被検光と参照光を再び重畳し、干渉縞を観測する2光束干渉計である。
【0010】
干渉計は、干渉計の各部を制御するCPU(プロセッサ)1と、これに接続された不図示の入力部を有する。CPU1は、信号処理装置90にも接続されている。不図示の入力部は信号処理装置90の入力部を使用してもよい。
【0011】
また、干渉計は、光路に沿って、光源ユニット10と、光束径を拡大するビームエキスパンダー20と、可干渉光を参照光と被検光に分離(分割)するビームスプリッタ30がこの順番で配置されている。
【0012】
図1に示す光源ユニット10は、2種類の異なる波長の可干渉光を生成する2つの光源(第1の光源11と第2の光源15)、各光源から光束を遮断及び通過を制御するシャッター12及び14、光を合成するダイクロックミラー13から構成される。
【0013】
2つの光源のうちの一方(例えば、第1の光源11)の波長に対するマッチング液Mの屈折率と被検物Oの屈折率がほぼ同一であり、この波長を使用した測定結果を被検物Oの屈折率分布の算出に使用する。他方の波長を有する光源(例えば、第2の光源15)からの測定結果を被検物の輪郭を検出するのに使用する。
【0014】
第1の光源11を使用する時はシャッター12によって第1の光源11からの光束を遮断せずに通過させ、かつ、シャッター14によって第2の光源15からの光束を遮断する。第2の光源15を使用する時は、シャッター12によって第1の光源11からの光束を遮断し、かつ、シャッター14によって第2の光源15からの光束を遮断せずに通過させる。
【0015】
予め、2つの光軸が一致するように調整しておけば、光源(波長)の切り替え時に光軸がずれることなく、光源を切り替えることができる。CPU1は、各光源について干渉縞を観測するために2種類の光源11及び15の一つを選択する選択手段として機能する。即ち、CPU1は、2種類の光源11及び15を切り替えて、いずれかの光源からの光束が光路に導入されるようにする。光源(波長)の切り替えは不図示の入力部からの入力による。
【0016】
なお、光源ユニット10は、波長可変レーザーを用いて2つ以上の異なる波長を選択してもよい。このため、光源ユニット10は、少なくとも2つの波長の可干渉光を発するように構成されていれば足り、複数の光源を有する必要はない。
【0017】
図1には表記していないが、円偏光にて測定を行う場合には、光源ユニット10の後に、偏光板とフレネルロムプリズムを設置し、フレネルロムプリズムに対して45度傾いた直線偏光が入射するように偏光板を調整すればよい。これにより、光源を切り替えた場合においても、偏光状態が波長に依存することなく、円偏光状態を維持することができる。
【0018】
ビームスプリッタ30によって反射された参照光の光路には、ビームスプリッタ30の後段に偏向ミラー(ピエゾミラー)40が配置されている。偏向ミラー40は、光束を偏向すると共に参照光の光路長をサブ波長オーダーで変化させて参照光の位相をシフトする位相シフト手段として機能する。偏向ミラー40は圧電素子によって駆動される。圧電素子は、偏向ミラー40を駆動することによって位相シフト量を変更する駆動手段として機能、その駆動量はCPU1の命令によって制御される。なお、偏向ミラー40を駆動する駆動手段は圧電素子に限定されない。
【0019】
ビームスプリッタ30を透過した被検光の光路には、ビームスプリッタ30の後段に被検物Oとマッチング液Mを収納するマッチング槽50と光束を偏向する偏向ミラー60がこの順番で配置されている。被検物Oはマッチング液Mに浸漬され、マッチング液Mの屈折率は被検物Oの屈折率はほぼ等しい(近い)。
【0020】
偏向ミラー40からの参照光と偏向ミラー60からの被検光はビームスプリッタ70で重畳される。
【0021】
撮像装置80は、重畳された光により形成される干渉縞像を撮影する。
【0022】
撮像装置80には、信号処理装置90が接続されている。信号処理装置90は本実施例では表示部と入力部を備えたパーソナルコンピュータから構成され、干渉縞画像データを受信し、撮影した複数の干渉縞画像から被検物Oの屈折率分布を算出する。
【0023】
動作において、光源ユニット10より出射した可干渉光は、ビームエキスパンダー20によって必要な大きさまで光束径を拡大され光束分割手段であるビームスプリッタ30に入射する。ビームスプリッタ30は、可干渉光を、被検物Oを透過しない参照光と、被検物Oを透過する被検光に分割する。
【0024】
ビームスプリッタ30により分割された参照光は、被検物Oを透過せずに偏向ミラー40で反射し、ビームスプリッタ70に入射する。また、ビームスプリッタ30を透過した被検光は、被検物Oを納めたマッチング槽50を透過し、偏向ミラー60を介してビームスプリッタ70に入射する。
【0025】
ビームスプリッタ70に入射した参照光と被検光は、ビームスプリッタ70により重畳されて撮像装置80に入射する。重畳された可干渉光は干渉縞を生じ、撮像装置80によって干渉縞像が撮影される。偏向ミラー40を回転駆動することにより、位相シフトされた複数枚の干渉縞画像を取得する。観測された干渉縞は干渉縞画像データとして信号処理装置90に送られる。信号処理装置90は、干渉縞画像から波面データ(屈折率分布)を算出することができる。
【0026】
マッチング槽50は、被検物Oと被検物Oと屈折率がほぼ等しいマッチング液Mを収納し、マッチング槽50における光の入出射部は透明な平板がほぼ平行に配置されているため、被検光は殆ど屈折をせずにマッチング槽50を透過する。
【0027】
マッチング槽50を透過した光束の透過波面は数式1で与えられる。ここで、nは被検物Oの屈折率分布、Zは被検物Oの光軸方向の厚み、Noilはマッチング液Mの屈折率、Zはマッチング槽50の光軸方向の距離である。また、マッチング槽50のマッチング液Mの屈折率はほぼ一定であると仮定している。
【0028】
本実施例では、数式1及びそれ以降の数式は信号処理装置90で算出されるが、CPU1又は他の演算部が算出(演算)してもよい。
【0029】
【数1】

【0030】
被検物Oの光軸方向の平均屈折率分布をNとすると数式1は次式となる。
【0031】
【数2】

【0032】
また、被検物Oの屈折率分布を、基準屈折率Nと屈折率分布成分dNに分離すると、数式3が成立し、数式2は数式4となる。
【0033】
【数3】

【0034】
【数4】

【0035】
数式4より、透過波面は、被検物Oの屈折率分布dNと厚みZに依存した成分(第1項)と被検物Oの厚みZに依存した成分(第2項)と被検物Oに依存しない成分(第3項)に分けることができる。
【0036】
第3項は、xy平面において一定であるため、第1項と第2項により生成された波面が干渉縞として計測される。第2項は被検物Oの厚みZのみに依存しているため、計測結果を被検物Oの厚みZで割ることでxy平面において一定な値となり、第1項における屈折率分布の成分のみを算出することができる。
【0037】
しかしながら、マッチング液Mと被検物Oの屈折率差△N=N−Noilが屈折率分布dNよりも大きい場合、厚みに依存した干渉縞が密に発生する。この結果、屈折率分布dNにより発生する干渉縞が埋れてしまったり、干渉縞の輪郭で数波長の段差が生じてしまい位相量を正確に認識できなかったりして十分な計測精度が得られない可能性がある。
【0038】
このため、屈折率分布dNを高精度に計測するためには、マッチング液Mと被検物Oの屈折率差△Nは小さいほど望ましい。また、計測画像から被検物Oの厚みZで割るためには、計測画面上における被検物Oの位置を正確に検出する必要がある。
【0039】
一方、第1の光源における被検物Oの輪郭付近の点A(x1,y1)と、輪郭付近のマッチング液Mのみを透過する点B(x2,y2)の光路差は次式で与えられる。
【0040】
【数5】

【0041】
図2は、マッチング槽内における前記2点ABの位置を示す。2点ABにおいて、マッチング液Mと被検物Oの光路差が数波長以上ある場合、測定画像には被検物Oの輪郭に段差が生じる。そのため、測定画像にフィルタをかけて、被検物Oの輪郭を検出することが可能である。また、光路差によっては、目視による判断も十分可能である。
【0042】
高精度な計測を行うためには、マッチング液Mと被検物Oの屈折率差△Nを小さくすることが望ましい。2点ABの屈折率が一致もしくは極めて近い場合、該2点を透過した光線の光路差は殆どなくなるため、被検物Oの輪郭が不明瞭になり、厚みの位置を正確に認識することが困難になる。また、2点ABの光路差dLがほぼ1波長の倍数である場合にも、干渉縞画像から輪郭を検出することは困難になる。図3(a)は被検物Oの輪郭Cを示し、図3(b)はこの時に取得される干渉縞像を示している。
【0043】
そこで、光源ユニット10において第1の光源11から第2の光源15に切り替え、同様に干渉縞を測定する。各光源に対するマッチング液Mと被検物Oの屈折率特性は異なるため、第2の光源15を使用した時には、マッチング液Mと被検物Oの屈折率差は大きくなり、その結果、輪郭が強調された干渉縞画像を取得することができる。図3(c)は、この時に取得される干渉縞像を示している。
【0044】
このように、本実施例は、少なくとも2つの光源11及び15とこれら2つの光源を切り替える光源切り替え手段(選択手段)を備え、各光源に対する干渉縞が取得可能である。
【0045】
また、第2の光源15に対するマッチング液Mと被検物Oの屈折率差が大きい場合、干渉縞が密になり解像不可能な干渉縞が計測されたり、被検物面で光線が反射され被検物の影が計測されたりすることがある。この場合も被検物Oの輪郭は強調されるため、輪郭を検出することが可能である。図3(d)及び図3(e)は、この時の取得画像を示している。
【0046】
第2の光源15では、マッチング液Mの屈折率の波長依存性を利用してマッチング液Mと被検物Oの屈折率差を大きくすることによって被検物Oの輪郭の段差を強調する。波長を変化させる以外にも、マッチング液自体を違う屈折率の物に交換したり、マッチング液Mの温度を変化させたりして、マッチング液と被検物の屈折率差を大きくした状態において再度干渉縞の測定を行えば、同様に輪郭を強調させることが可能である。しかし、マッチング液Mは温度に非常に敏感であり、測定可能なレベルまでマッチング液Mの温度を安定させるには長時間を要するため、測定効率は低くなる。
【0047】
本実施例の波長切り替え方式では、2つの光源をシャッターにより切り替えて短時間に2枚の干渉縞像を取得する。この際、第1の光源11で計測された干渉縞画像より被検物Oの透過波面データを取得し、第2の光源15における輪郭が強調された干渉縞画像より被検物Oの輪郭検出を行う。この結果、高精度かつ短時間に被検物Oの輪郭と屈折率分布を検出することができる。
【0048】
また、本実施例は干渉縞像から輪郭を検出しているが、信号処理装置90は干渉縞像から透過波面を求めて透過波面データから被検物Oの輪郭を検出してもよい。
【0049】
なお、図1において、参照光の光路上に(例えば、偏向ミラー40とビームスプリッタ70との間に)参照光のオンオフを制御するシャッターを設けてもよい。
【0050】
この場合、動作において、第1の光源11を使用して干渉縞を取得するときにはこのシャッターをオフにして参照光を遮断せず、前述したように撮像装置80は干渉縞を観測する。CPU1が第2の光源15を選択するとCPU1はこのシャッターにより参照光を遮断して被検物Oを透過した光のみを撮像装置80に入射させて被検物像を測定する。第2の光源15を使用する時は、マッチング液Mと被検物Oの屈折率差は大きくなるため、被検物の輪郭が強調された画像が取得でき、輪郭の認識が容易となる。
【0051】
また、第2の光源15に対するマッチング液Mと被検物Oの屈折率差が大きい場合、被検物面で光線が反射され被検物の影が計測されたりすることがあるが、この場合も被検物Oの輪郭は強調されるため、輪郭の検出が可能である。
【0052】
このように、第1の光源11で計測された干渉縞像より被検物Oの透過波面データを取得し、第2の光源15によって被検物Oの輪郭を強調して輪郭検出を行い、高精度かつ短時間に被検物Oの輪郭と屈折率分布を検出することが可能である。
【0053】
また、輪郭をより明確に検出するためには、撮像装置内の撮像レンズを瞳結像の関係にするとよい。瞳結像レンズを用いることで被検物像をシャープに取得することができ、輪郭を高精度に算出することができる。
【0054】
また、高精度なマスクを生成することは、被検物を回転させてCTの原理を利用し、3次元的な屈折率分布を算出する際にも、回転軸の算出や3次元化の計算が高精度に行えるため、極めて有効である。
【0055】
干渉計は、マッチング槽50のマッチング液Mの屈折率を制御するための温度制御ユニットを更に有してもよい。マッチング液Mの温度を制御することによってマッチング液Mと被検物Oの屈折率を近づけることが可能であり、高精度に屈折率分布を求めることができる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
屈折率分布測定システムは、被検物の屈折率分布を測定するのに適用することができる。
【符号の説明】
【0057】
1 CPU(選択手段)
11 第1の光源
15 第2の光源
40 偏向ミラー(位相シフト手段)
O 被検物
M マッチング液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可干渉光を参照光と被検光に分割し、マッチング液に浸漬された被検物を透過した被検光と参照光を再び重畳し、干渉縞を観測する干渉計と、
前記干渉計が取得した干渉縞像から被検物の屈折率分布を取得する信号処理装置と、
を有し、
前記干渉計は、
2種類の波長の可干渉光を発する光源と、
各波長について前記干渉縞を観測するために前記2種類の波長の一つを選択する選択手段と、
を有し、
前記信号処理装置は前記被検物の前記屈折率分布を取得するのに前記2種類の波長の一方を使用し、前記被検物の輪郭を検出するのに前記2種類の波長の他方が使用されることを特徴とする屈折率分布測定システム。
【請求項2】
前記干渉計が、前記選択手段が前記2種類の波長の他方を選択した場合に前記参照光を遮断するシャッターを更に有することを特徴とする請求項1に記載の屈折率分布測定システム。
【請求項3】
可干渉光を参照光と被検光に分割し、マッチング液に浸漬された被検物を透過した被検光と参照光を再び重畳し、干渉縞を観測する干渉計であって、2種類の波長の可干渉光を発する光源と、各波長について前記干渉縞を観測するために前記2種類の波長の一つを選択する選択手段と、を有する干渉計を用い、
前記2種類の波長の一方を使用して前記被検物の屈折率分布を取得し、前記被検物の輪郭を検出するのに前記2種類の波長の他方を使用することを特徴とする屈折率分布測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−107052(P2011−107052A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−264477(P2009−264477)
【出願日】平成21年11月20日(2009.11.20)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】