屋根材固定用吊子及び屋根材の施工構造
【課題】長期間にわたって屋根材の取付強度を確保することができる屋根材固定用吊子を提供する。
【解決手段】屋根下地に載設された断熱材の上に屋根材を配設するための吊子に関する。屋根材を係止するための係止部5と、係止部5の下部に突設された固定部6とを備える。固定部6は直接屋根下地1に固定される。屋根材を固定するための屋根材固定用吊子Aを、断熱材を介さずに直接屋根下地に固定するので、経時変化による断熱材の収縮で屋根材固定用吊子Aの取付強度が低下することがない。
【解決手段】屋根下地に載設された断熱材の上に屋根材を配設するための吊子に関する。屋根材を係止するための係止部5と、係止部5の下部に突設された固定部6とを備える。固定部6は直接屋根下地1に固定される。屋根材を固定するための屋根材固定用吊子Aを、断熱材を介さずに直接屋根下地に固定するので、経時変化による断熱材の収縮で屋根材固定用吊子Aの取付強度が低下することがない。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、屋根を形成するために屋根下地に葺かれる屋根材固定用吊子及びこれを用いた屋根材の施工構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、図2に示すような屋根材4が提案されている。この屋根材4は縦葺き屋根材であって、横方向(屋根の傾斜方向と直交する方向)に接続されて施工されるものである。ここで、屋根材4は略平板状の屋根材本体20の一方の側端部(敷設した状態において屋根下地の傾斜方向と平行な端部で、例えば、軒棟方向と平行な端部)の略全長に亘って嵌合部26を上方(屋根材4の表面側)に向けて突出させると共に屋根材本体20の他方の側端部の略全長に亘って被嵌合部31を上方に向けて突出させることによって形成されている。
【0003】
このような屋根材4は吊子Aを用いて敷設されるが、この場合、屋根の断熱性を高めるために、屋根下地1に断熱材2が載設され、その上に屋根材4が敷設される。すなわち、図11(a)に示すように、屋根下地1は、鉄骨母屋などの屋根骨組み32と、屋根骨組み32の上に設けられる耐火性等の野地板33と、野地板33の上面に敷設されるシート状のルーフィング材34とで構成されている。また、ルーフィング材34に載置される板状の断熱材2としてはポリスチレンフォームやポリウレタンフォームなどの樹脂フォームなどが用いられる。そして、断熱材2に屋根材4を載置した後、この屋根材4の被嵌合部31に吊子Aを係止すると共にこの吊子Aを屋根下地1に固定する。ここで、吊子Aを固定するにあたっては、吊子Aの固定部6を断熱材2の上面に載せた状態で、固定部6の上から断熱材2とルーフィング材34と野地板33とを貫通して屋根骨組み32にまでビス等の固定具35を打入する。このようにして吊子Aで屋根材4を屋根下地1に固定することができる。この後、上記とは別の屋根材4の嵌合部26を、屋根下地1に固定した上記屋根材4の被嵌合部31に上から嵌合すると共にこの嵌合部26を吊子A及び被嵌合部31に係止する。このようにして隣接する屋根材4、4を横方向に接続しながら、複数枚の屋根材4を屋根下地1の上に敷設することによって屋根を形成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−61341号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、断熱材(特に、耐熱性が一般的(70℃程度)な市販の断熱材)2は長期間にわたる経時変化によって厚みが収縮することがあり、図11(b)に示すように、屋根材4と断熱材2との間及び吊子Aの固定部6と断熱材2との間に隙間sが生じる場合があった。そして、このような隙間sが生じると、固定具35による吊子Aの取付強度が不充分となり、これに伴って、屋根材4の取付強度も不充分となり、例えば、風によるガタツキ音が発生することがあった。
【0006】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、長期間にわたって屋根材の取付強度を確保することができる屋根材固定用吊子及び屋根材の施工構造を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の請求項1に係る屋根材固定用吊子Aは、屋根下地1に載設された断熱材2の上に屋根材4を配設するための吊子であって、屋根材4を係止するための係止部5と、係止部5の下部に突設された固定部6とを備え、固定部6は直接屋根下地1に固定されて成ることを特徴とするものである。
【0008】
本発明の請求項2に係る屋根材固定用吊子Aは、請求項1において、断熱材2に載置された屋根材4を下側から支持するための支持片3が係止部5に形成されて成ることを特徴とするものである。
【0009】
本発明の請求項3に係る屋根材固定用吊子Aは、請求項1又は2において、屋根下地1に載設された断熱材2に差し込んで断熱材2を保持するための飛散阻止片7が係止部5に形成されて成ることを特徴とするものである。
【0010】
本発明の請求項4に係る屋根材固定用吊子Aは、請求項1乃至3のいずれか一項において、係止部5に係止された屋根材4と係止部5とをかしめて接合するための接合部8が係止部5に形成されて成ることを特徴とするものである。
【0011】
本発明の請求項5に係る屋根材固定用吊子Aは、請求項1乃至4のいずれか一項において、固定部6の下側へ折り曲げ可能なスペーサ部9が固定部6に形成されて成ることを特徴とするものである。
【0012】
本発明の請求項6に係る屋根材の施工構造は、屋根下地1に載設された断熱材2の上に屋根材4を載置し、この屋根材4に屋根材固定用吊子Aの係止部5を係止すると共に屋根材固定用吊子Aの固定部6を直接屋根下地1に固定して成ることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
請求項1の発明では、屋根材を固定するための屋根材固定用吊子を、断熱材を介在せずに直接屋根下地に固定するので、経時変化による断熱材の収縮で屋根材固定用吊子の取付強度が低下することがなく、よって、屋根材固定用吊子による屋根材の取付強度も低下することがなくなって、長期間にわたって屋根材の取付強度を確保することができるものである。
【0014】
請求項2の発明では、経時変化により断熱材が収縮した場合であっても屋根材を支持片で支持することができ、長期間にわたって屋根材の取付強度を確保することができるものである。
【0015】
請求項3の発明では、飛散阻止片で断熱材を仮止めすることができ、施工途中における断熱材の風による飛散を阻止することができるものである。
【0016】
請求項4の発明では、係止部と屋根材とを係止するのに加えて、接合部によるかしめによっても係止部と屋根材とを結合することができ、屋根材の取付強度を向上させることができるものである。
【0017】
請求項5の発明では、固定部の下側にスペーサ部を折り曲げて配置することによって、スペーサ部で屋根下地の段差を吸収することができ、屋根下地に安定して取り付けることとができるものである。
【0018】
請求項6の発明では、屋根材を固定するための屋根材固定用吊子を、断熱材を介在せずに直接屋根下地に固定するので、経時変化による断熱材の収縮で屋根材固定用吊子の取付強度が低下することがなく、よって、屋根材固定用吊子による屋根材の取付強度も低下することがなくなって、長期間にわたって屋根材の取付強度を確保することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の屋根材固定用吊子の実施の形態の一例を示す斜視図である。
【図2】本発明で使用する屋根材の一例を示し、(a)は一部の斜視図、(b)は一部の断面図である。
【図3】本発明における施工工程の一例を示し、(a)乃至(e)は一部の断面図である。
【図4】本発明の屋根材の施工構造の一例を示し、(a)(b)は断面図である。
【図5】本発明の屋根材固定用吊子の他の実施の形態の一例を示す斜視図である。
【図6】本発明の屋根材固定用吊子と屋根材との結合状態の一例を示す断面図である。
【図7】本発明の屋根材固定用吊子のスペーサ部を示し、(a)(b)は概略の断面図である。
【図8】本発明の屋根材固定用吊子の他の実施の形態の一例を示し、(a)は側面図、(b)は斜視図である。
【図9】本発明における施工工程の他例を示し、(a)乃至(d)は一部の断面図である。
【図10】本発明の屋根材の施工構造の他例を示し、(a)(b)は断面図である。
【図11】従来の屋根材の施工構造の一例を示し、(a)(b)は断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための形態を説明する。
【0021】
図1に本発明の屋根材固定用吊子(以下、単に「吊子」という)Aの一例を示す。この吊子Aは鉄板や鋼板などの金属板を折り曲げ加工等することにより形成されるものであって、平板状の固定部6と、固定部6の端部から上方に略垂直に突出させて形成される係止部5とを備えて形成されている。係止部5の上部には固定部6と反対側に折り返し屈曲された断面略逆U字状の係合部11が形成されている。また、係止部5の一側部にはその一部を切り起こして一対の支持片3が形成されている。一方の支持片3は固定部6側に向かって斜め上方に突出して形成され、他方の支持片3は固定部6の反対側に向かって斜め上方に突出して形成されている。また、係止部5の他側部にはその一部を切り起こして断面略倒L字状の飛散阻止片7が形成されている。飛散阻止片7は固定部6側に向かって斜め上方に突出して形成され、その先端には下方に突出する差し込み片12が設けられている。また、吊子Aにはリブ部13が形成されている。リブ部13は係止部5の固定部6側の表面から固定部6の上面にわたって突設されている。また、リブ部13の表面には凹段部14が形成されている。尚、係止部5の高さ寸法は、後述の屋根材4の被嵌合部31の高さ寸法と断熱材2の厚み寸法との合計とほぼ等しく形成されている。
【0022】
本発明で用いる屋根材4は鉄板や鋼板などの金属板を折り曲げ加工等することにより形成されるものであって、縦葺き屋根材などを例示することができる。図2(a)(b)に示すように、屋根材4は略平板状の屋根材本体20の両側端部に接続部21、22を設けて形成されている。一方の接続部21は上方に凸の略円弧状で屋根材本体20の側端部に外方(屋根材本体20と反対方向)斜め上方に突出させて連設される円弧部23と、円弧部23の先端から上方に略垂直に突出させて形成される突出部24と、突出部24の先端から外方に略水平に突出させて断面略倒U字状に屈曲形成される突部25と、突部25の端部から上方に突出させて断面略逆U字状に折り曲げて形成される嵌合部26と、嵌合部26の先端(外側下端)から内方(屋根材本体20側)に向けて略水平に突出させて断面略倒U字状に形成される当接部27とから構成されており、突部25と当接部27は互いにほぼ対向させて形成されている。また、もう一方の接続部22は上方に凸の略円弧状で屋根材本体20の側端部に外方斜め上方に突出させて連設される円弧部28と、円弧部28の先端から上方に略垂直に突出させて形成される突出部29と、突出部29の先端から外方に略水平に突出させて形成される被受け部30と、被受け部30の先端を上方に向けて断面略逆V字状に突出させて設けられた被嵌合部31とから構成されている。
【0023】
そして、図1の吊子Aを用いて上記の屋根材4を敷設するにあたっては次のようにして行う。まず、断熱材2を屋根下地1に載設する。ここで、断熱材2としてはブロック状又は板状に形成されるものであって、例えば、ポリスチレンフォームやポリウレタンフォームなどの樹脂発泡材あるいはグラスウールやロックウールなどの無機繊維材で形成することができる。また、屋根下地1は鉄骨母屋などの屋根骨組み材32と、屋根骨組み材32に載設される野地板33と、野地板33に敷設されるルーフィング材34とを用いて形成される。野地板33は合板などで形成することができ、ルーフィング材34としてはアスファルトルーフィングなどを用いることができる。尚、ルーフィング材34は必要に応じて用いることができ、敷設しなくても良い。次に、屋根下地1に載設した断熱材2の上に屋根材4を敷設する。この場合、屋根材4は接続部21、22の長手方向を屋根下地1の傾斜方向(例えば、軒棟方向)と略平行にして配置される。また、断熱材2の側端面2aと一方の接続部22の被嵌合部31の外面31aとが上下に略一直線上に並ぶようにする。
【0024】
次に、図3(a)に示すように、屋根下地1に載置した上記屋根材4に本発明の屋根材固定用吊子Aを取り付けると共にこの吊子Aを屋根下地1に固定する。吊子Aはその係合部11を被嵌合部31に上側から差し込むことにより屋根材4に取り付ける。被嵌合部31にはその長手方向に沿って複数個の吊子Aを設けることができる。また、図3(b)に示すように、被嵌合部31に取り付けた吊子Aの一方(固定部6と反対側に突出した方)の支持片3が被受け部30の下側に位置し、この支持部3の先端が被受け部30の下面に近接した状態となる。さらに、被嵌合部31に取り付けた吊子Aの固定部6は上記断熱材2の側端面2aの側方において屋根下地1に直接固定される。このとき、固定部6は屋根下地1のルーフィング材34の上(ルーフィング材34が無い場合は野地板33の上)に配置され、固定部6の上からビス等の固定具35を野地板33及び屋根骨組み材32にまで打入するようにする。また、吊子Aの係止部5の固定部6と反対側の表面を断熱材2の側端面2aに沿わせるようにする。このようにして吊子Aで屋根材4を屋根下地1に固定することができる。尚、本発明において、「吊子Aの固定部6を屋根下地1に直接固定する」とは、屋根下地1と固定部6との間に経時変化で厚みが収縮する断熱材2を介在させずに固定部6を屋根下地1に固定することをいう。従って、屋根下地1と固定部6との間に不陸調整などの目的でスペーサ等を介在させる場合なども「固定部6を屋根下地1に直接固定する」ことに含まれる。
【0025】
この後、図3(c)に示すように、上記断熱材2とは別の断熱材2を屋根下地1に載設する。この新たな断熱材2はその側端部を屋根下地1に固定した上記吊子Aの固定部6に載置する。従って、固定部6は断熱材2の下側に配置されることになる。また、新たな断熱材2の側端面2aを吊子Aの係止部5の固定部6側の表面に沿わせる。従って、吊子Aは隣接する断熱材2、2の間に配置された状態となる。次に、図3(d)に示すように、吊子Aの飛散阻止片7で新たに載置した断熱材2を留め付けて保持する。この場合、飛散阻止片7をその基部を支点として下方に回動させ、差し込み片12を断熱材2の上面に差し込んで係止する。これにより、断熱材2が施工途中で風で飛散しないように仮固定することができる。
【0026】
次に、新たに載設した断熱材2に上記とは別の新たな屋根材4を載設する。このとき、図3(e)に示すように、上記の既設の屋根材4の被嵌合部31を設けた接続部22と新たな屋根材4の被嵌合部31を設けた接続部21とを接続する。この場合、既設の屋根材4の被嵌合部31に上方から新たな屋根材4の嵌合部26を嵌め込み、嵌合部26を上側から手で押さえたり足で踏んだりして力を加える。このように上側の屋根材4の嵌合部26に上方から力を加えることによって、上側の屋根材4の嵌合部26が弾性的に広がった状態で下方へと移動し、上側の屋根材4の突部25が吊子Aのリブ部13の凹段部14に達すると共にこの屋根材4の当接部27が吊子Aの係合部11の先端の下側に達すると、嵌合部26が復元力(スプリングバック)によって広がった状態から元の形状に戻り、上側の屋根材4の突部25の先端が凹段部14に入り込んでその底面に当接すると共にこの屋根材4の当接部27が係合部11の先端と下側の屋根材4の被受け部30との間に差し込まれる。このようにして新たに配置される屋根材4の嵌合部26の下側に、屋根下地1の上に固定された既存の屋根材4の被嵌合部31とこれに嵌着された吊子Aの上部とを嵌合することによって、図4(a)に示すように、隣接する屋根材4、4同士を接続することができると共に新たに配設された屋根材4が吊子Aに係止されて固定されるものである。また、新たに配設された屋根材4の突部25の下面に吊子Aのもう一方(固定部6側に突出した方)の支持片3が位置し、この支持片3の先端が突部25の下面に近接した状態となる。そして、上記一連の作業を繰り返し行うことによって、複数枚の屋根材4を屋根下地1の上に敷設して屋根を形成することができる。
【0027】
本発明の屋根材4の施工構造では、吊子Aを断熱材2の上面ではなく、断熱材2の下側の屋根下地1の上面に直接固定するために、図4(b)に示すように、断熱材2が経時変化により厚み方向に収縮して屋根材4と断熱材2に隙間sが生じても、吊子Aの取付強度に影響を与えないようにすることができる。従って、断熱材の収縮で吊子Aの取付強度が低下することがなく、吊子Aによる屋根材4の取付強度の低下も防止することができる。また、経時変化により断熱材2が収縮した場合であっても屋根材4の接続部21、22を支持片3で支持することができ、嵌合部26と被嵌合部31との嵌合や接続部21、22と吊子Aとの連結が外れないようにすることができ、長期間にわたって屋根材4の取付強度を確保することができるものである。
【0028】
図5に本発明の屋根材固定用吊子Aの他の実施の形態を示す。この吊子Aは、図1のものにおいて、接合部8とスペーサ部9とを設けて形成されるものであり、その他の構成は図1のものと同様である。接合部8は、係止部5の幅方向の略中央部(支持片3と飛散防止片7との間)において、係合部11にスリット40を設けることによって、係合部11の一部が接合部8として形成されている。スリット40は係合部11の先端に達しており、これにより、接合部8はその基部を中心として折り曲げ可能に形成されている。
【0029】
一方、スペーサ部9は固定部6の両側端部に設けられており、断面逆V字状に形成されている。また、スペーサ部9は通常、固定部6の上面よりも上側に突出して設けられているが、必要に応じて、固定部6の下側に折り曲げて配置することができる。スペーサ部9はその基部で折り曲げられるが、手で折り曲げ可能なようにスペーサ部9の基部の一部に固定部6の幅方向と直交する方向に長いスリットを設けるのが好ましい。また、固定部6には下面に開口する断面略逆V字状の係止溝6aが形成されている。係止溝6aは固定部6の短辺と略平行で、固定部6の両側部に一本ずつ設けることができ、例えば、プレス加工により形成することができる。
【0030】
そして、図5に示す吊子Aも図1のものと同様の手順により、屋根材4を屋根下地1に固定することができるが、屋根材4と係止部5とは接合部8によりかしめて接合されるものである。すなわち、係合部11を被嵌合部31に上側から差し込むことにより屋根材4に取り付けた後、図6に示すように、接合部8を被嵌合部31の表面に密接させるように折り曲げることにより、接合部8で被嵌合部31を締め付けてかしめるようにする。これにより、屋根材4と吊子Aとを係止に加えてかしめて強固に結合することができる。また、従来では、屋根材4は屋根下地1に直接載置されており、屋根材4は屋根下地1との摩擦により施工時にずれ動くことは少ないが、本発明の施工構造では、屋根材4は断熱材2の上面に載置されるため、屋根材4と屋根下地1の摩擦が少なく、また、施工精度によっては屋根材4と屋根下地1との接触面積が少なくなる場合も考えられる。従って、単に、屋根材4と係合部11とを係止しただけでは、吊子Aを屋根下地1に固定する際に、断熱材2に載置した屋根材4が吊子Aに対して下り傾斜方向(水流れ方向)にずれ動いて、正確な位置に屋根材4を施工できない場合がある。そこで、上記のように接合部8により吊子Aと屋根材4とをかしめにより結合することで、吊子Aを屋根下地1に固定する際に、断熱材2に載置した屋根材4が吊子Aに対して下り傾斜方向にずれ動かないようにすることができ、屋根材4を正確な位置に施工しやすくなるものである。
【0031】
また、屋根下地1の上面に凹凸(不陸)がある場合、屋根下地1に固定した吊子Aにガタツキが生じて屋根材4の取付強度が低下するおそれがある。この場合は、図7(a)に示す状態から図7(b)に示す状態となるように、固定部6の下側にスペーサ部9を折り曲げることによって、固定部6の側端部の下側にスペーサ部9を突出させる。この場合、必要に応じて、一方又は両方のスペーサ部9を折り曲げることができる。また、スペーサ部9の先端は係止溝6aに差し込まれて係止されるものであり、これにより、断面略V字状となったスペーサ部9が荷重により潰れないようにすることができる。そして、固定部6を屋根下地1に載置した際に、凹の箇所にスペーサ部9を位置させることにより、凸の箇所との段差をスペーサ部9で吸収することができ、吊子Aをガタツキなく安定して略水平に固定することができる。固定部6の下面からのスペーサ部9の突出寸法は特に限定されないが、例えば、5mm程度にすることができる。また、上面に凹凸のある屋根下地1としては、既存の屋根を改修する場合などを例示することができる。この場合、既存の屋根材(例えば、化粧スレート板)を残したまま、その上を覆うように、新規の屋根材4を施工することがある。従って、既存の屋根材が屋根下地となって、これに吊子Aを固定しなければならないが、既存の屋根材はその一部が重なり合って配置されているため、隣接する既存の屋根材の間に段差が生じている。そこで、このような段差を上記のスペーサ部9で吸収して吊子Aを固定することができる。
【0032】
図8(a)(b)に本発明の屋根材固定用吊子Aの他の実施の形態を示す。この吊子Aは、図1のものと同様に、鉄板や鋼板などの金属板を折り曲げ加工等することにより形成されるものであって、平板状の固定部6と、固定部6の端部から上方に略垂直に突出させて形成される係止部5とを備えて形成されている。係止部5の上部には固定部6と反対側に折り返し屈曲された断面略逆U字状の係合部11が形成されている。また、係止部5に固定部6と反対側に突出する支持片3が設けられている。支持片3は係止部5の一部を係止部5の表面に対して略垂直に切り起こして形成することができる。また、支持片3は係止部5の幅方向の略中央部で、係止部5の上下方向の中央部よりも上で、係合部11の先端よりも下に位置している。また、係止部5の両側端部には固定部6側に突出する一対のリブ部13が形成されている。リブ部13は上下方向に長く、係止部5の上部から固定部6の上面に至るまで上下方向に長く形成されている。また、接合部8は、係止部5の一方の側端部において、係合部11にスリット40を設けることによって、係合部11の一部が接合部8として形成されている。スリット40は係合部11の先端に達しており、これにより、接合部8はその基部を中心として折り曲げ可能に形成されている。また、固定部6の上面には飛散阻止片7が形成されている。飛散阻止片7は例えばL字状の金具を固定部6の上面に取り付けることによって、固定部6の上面に対して略垂直に突出して形成することができる。尚、飛散防止片7は係止部5の側端部に固定部6側に突出するようにして設けても良い。その他の構成は図1のものと同様である。
【0033】
そして、図8の吊子Aを用いて上記の屋根材4を敷設するにあたっては次のようにして行う。まず、上記と同様にして、断熱材2を屋根下地1に載設すると共に、屋根下地1に載設した断熱材2の上に屋根材4を敷設する。次に、図9(a)に示すように、屋根下地1に載置した上記屋根材4に本発明の屋根材固定用吊子Aを取り付けると共にこの吊子Aを屋根下地1に固定する。吊子Aはその係合部11を被嵌合部31に上側から差し込むことにより屋根材4に取り付ける。被嵌合部31にはその長手方向に沿って複数個の吊子Aを設けることができる。また、図9(b)に示すように、被嵌合部31に取り付けた吊子Aの支持片3が被受け部30の下側に位置し、この支持部3の先端が被受け部30の下面に近接した状態となる。また、図6に示すように、上記と同様にして屋根材4と係止部5とは接合部8によりかしめて接合されるものである。さらに、被嵌合部31に取り付けた吊子Aの固定部6は上記断熱材2の側端面2aの側方において屋根下地1に直接固定される。このとき、固定部6は屋根下地1のルーフィング材34の上(ルーフィング材34が無い場合は野地板33の上)に配置され、固定部6の上からビス等の固定具35を野地板33及び屋根骨組み材32にまで打入するようにする。また、吊子Aの係止部5の固定部6と反対側の表面を断熱材2の側端面2aに沿わせるようにする。このようにして吊子Aで屋根材4を屋根下地1に固定することができる。
【0034】
この後、図9(c)に示すように、上記断熱材2とは別の断熱材2を屋根下地1に載設する。この新たな断熱材2はその側端部を屋根下地1に固定した上記吊子Aの固定部6に載置する。従って、固定部6は断熱材2の下側に配置されることになり、また、飛散阻止片7が断熱材2の下面に突き刺さり、断熱材2が施工途中で風で飛散しないように仮固定することができる。また、新たな断熱材2の側端面2aを吊子Aの係止部5の固定部6側の表面に沿わせる。従って、吊子Aは隣接する断熱材2、2の間に配置された状態となる。次に、新たに載設した断熱材2に上記とは別の新たな屋根材4を載設する。このとき、図9(d)に示すように、上記と同様にして、既設の屋根材4の被嵌合部31を設けた接続部22と新たな屋根材4の被嵌合部31を設けた接続部21とを接続する。このようにして新たに配置される屋根材4の嵌合部26の下側に、屋根下地1の上に固定された既存の屋根材4の被嵌合部31とこれに嵌着された吊子Aの上部とを嵌合することによって、図10(a)に示すように、隣接する屋根材4、4同士を接続することができると共に新たに配設された屋根材4が吊子Aに係止されて固定されるものである。そして、上記一連の作業を繰り返し行うことによって、複数枚の屋根材4を屋根下地1の上に敷設して屋根を形成することができる。
【0035】
そして、図8の吊子Aを用いた場合でも、吊子Aを断熱材2の上面ではなく、断熱材2の下側の屋根下地1の上面に直接固定するために、図10(b)に示すように、断熱材2が経時変化により厚み方向に収縮して屋根材4と断熱材2に隙間sが生じても、吊子Aの取付強度に影響を与えないようにすることができる。従って、断熱材の収縮で吊子Aの取付強度が低下することがなく、吊子Aによる屋根材4の取付強度の低下も防止することができる。また、経時変化により断熱材2が収縮した場合であっても屋根材4の接続部21、22を支持片3で支持することができ、嵌合部26と被嵌合部31との嵌合や接続部21、22と吊子Aとの連結が外れないようにすることができ、長期間にわたって屋根材4の取付強度を確保することができるものである。
【0036】
尚、図8の吊子Aにおいても、図5に示す吊子と同様のスペーサ部9を設けることができる。
【符号の説明】
【0037】
A 屋根材固定用吊子
1 屋根下地
2 断熱材
3 支持片
4 屋根材
5 係止部
6 固定部
7 飛散阻止片
8 接合部
9 スペーサ部
【技術分野】
【0001】
本発明は、屋根を形成するために屋根下地に葺かれる屋根材固定用吊子及びこれを用いた屋根材の施工構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、図2に示すような屋根材4が提案されている。この屋根材4は縦葺き屋根材であって、横方向(屋根の傾斜方向と直交する方向)に接続されて施工されるものである。ここで、屋根材4は略平板状の屋根材本体20の一方の側端部(敷設した状態において屋根下地の傾斜方向と平行な端部で、例えば、軒棟方向と平行な端部)の略全長に亘って嵌合部26を上方(屋根材4の表面側)に向けて突出させると共に屋根材本体20の他方の側端部の略全長に亘って被嵌合部31を上方に向けて突出させることによって形成されている。
【0003】
このような屋根材4は吊子Aを用いて敷設されるが、この場合、屋根の断熱性を高めるために、屋根下地1に断熱材2が載設され、その上に屋根材4が敷設される。すなわち、図11(a)に示すように、屋根下地1は、鉄骨母屋などの屋根骨組み32と、屋根骨組み32の上に設けられる耐火性等の野地板33と、野地板33の上面に敷設されるシート状のルーフィング材34とで構成されている。また、ルーフィング材34に載置される板状の断熱材2としてはポリスチレンフォームやポリウレタンフォームなどの樹脂フォームなどが用いられる。そして、断熱材2に屋根材4を載置した後、この屋根材4の被嵌合部31に吊子Aを係止すると共にこの吊子Aを屋根下地1に固定する。ここで、吊子Aを固定するにあたっては、吊子Aの固定部6を断熱材2の上面に載せた状態で、固定部6の上から断熱材2とルーフィング材34と野地板33とを貫通して屋根骨組み32にまでビス等の固定具35を打入する。このようにして吊子Aで屋根材4を屋根下地1に固定することができる。この後、上記とは別の屋根材4の嵌合部26を、屋根下地1に固定した上記屋根材4の被嵌合部31に上から嵌合すると共にこの嵌合部26を吊子A及び被嵌合部31に係止する。このようにして隣接する屋根材4、4を横方向に接続しながら、複数枚の屋根材4を屋根下地1の上に敷設することによって屋根を形成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−61341号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、断熱材(特に、耐熱性が一般的(70℃程度)な市販の断熱材)2は長期間にわたる経時変化によって厚みが収縮することがあり、図11(b)に示すように、屋根材4と断熱材2との間及び吊子Aの固定部6と断熱材2との間に隙間sが生じる場合があった。そして、このような隙間sが生じると、固定具35による吊子Aの取付強度が不充分となり、これに伴って、屋根材4の取付強度も不充分となり、例えば、風によるガタツキ音が発生することがあった。
【0006】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、長期間にわたって屋根材の取付強度を確保することができる屋根材固定用吊子及び屋根材の施工構造を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の請求項1に係る屋根材固定用吊子Aは、屋根下地1に載設された断熱材2の上に屋根材4を配設するための吊子であって、屋根材4を係止するための係止部5と、係止部5の下部に突設された固定部6とを備え、固定部6は直接屋根下地1に固定されて成ることを特徴とするものである。
【0008】
本発明の請求項2に係る屋根材固定用吊子Aは、請求項1において、断熱材2に載置された屋根材4を下側から支持するための支持片3が係止部5に形成されて成ることを特徴とするものである。
【0009】
本発明の請求項3に係る屋根材固定用吊子Aは、請求項1又は2において、屋根下地1に載設された断熱材2に差し込んで断熱材2を保持するための飛散阻止片7が係止部5に形成されて成ることを特徴とするものである。
【0010】
本発明の請求項4に係る屋根材固定用吊子Aは、請求項1乃至3のいずれか一項において、係止部5に係止された屋根材4と係止部5とをかしめて接合するための接合部8が係止部5に形成されて成ることを特徴とするものである。
【0011】
本発明の請求項5に係る屋根材固定用吊子Aは、請求項1乃至4のいずれか一項において、固定部6の下側へ折り曲げ可能なスペーサ部9が固定部6に形成されて成ることを特徴とするものである。
【0012】
本発明の請求項6に係る屋根材の施工構造は、屋根下地1に載設された断熱材2の上に屋根材4を載置し、この屋根材4に屋根材固定用吊子Aの係止部5を係止すると共に屋根材固定用吊子Aの固定部6を直接屋根下地1に固定して成ることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
請求項1の発明では、屋根材を固定するための屋根材固定用吊子を、断熱材を介在せずに直接屋根下地に固定するので、経時変化による断熱材の収縮で屋根材固定用吊子の取付強度が低下することがなく、よって、屋根材固定用吊子による屋根材の取付強度も低下することがなくなって、長期間にわたって屋根材の取付強度を確保することができるものである。
【0014】
請求項2の発明では、経時変化により断熱材が収縮した場合であっても屋根材を支持片で支持することができ、長期間にわたって屋根材の取付強度を確保することができるものである。
【0015】
請求項3の発明では、飛散阻止片で断熱材を仮止めすることができ、施工途中における断熱材の風による飛散を阻止することができるものである。
【0016】
請求項4の発明では、係止部と屋根材とを係止するのに加えて、接合部によるかしめによっても係止部と屋根材とを結合することができ、屋根材の取付強度を向上させることができるものである。
【0017】
請求項5の発明では、固定部の下側にスペーサ部を折り曲げて配置することによって、スペーサ部で屋根下地の段差を吸収することができ、屋根下地に安定して取り付けることとができるものである。
【0018】
請求項6の発明では、屋根材を固定するための屋根材固定用吊子を、断熱材を介在せずに直接屋根下地に固定するので、経時変化による断熱材の収縮で屋根材固定用吊子の取付強度が低下することがなく、よって、屋根材固定用吊子による屋根材の取付強度も低下することがなくなって、長期間にわたって屋根材の取付強度を確保することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の屋根材固定用吊子の実施の形態の一例を示す斜視図である。
【図2】本発明で使用する屋根材の一例を示し、(a)は一部の斜視図、(b)は一部の断面図である。
【図3】本発明における施工工程の一例を示し、(a)乃至(e)は一部の断面図である。
【図4】本発明の屋根材の施工構造の一例を示し、(a)(b)は断面図である。
【図5】本発明の屋根材固定用吊子の他の実施の形態の一例を示す斜視図である。
【図6】本発明の屋根材固定用吊子と屋根材との結合状態の一例を示す断面図である。
【図7】本発明の屋根材固定用吊子のスペーサ部を示し、(a)(b)は概略の断面図である。
【図8】本発明の屋根材固定用吊子の他の実施の形態の一例を示し、(a)は側面図、(b)は斜視図である。
【図9】本発明における施工工程の他例を示し、(a)乃至(d)は一部の断面図である。
【図10】本発明の屋根材の施工構造の他例を示し、(a)(b)は断面図である。
【図11】従来の屋根材の施工構造の一例を示し、(a)(b)は断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための形態を説明する。
【0021】
図1に本発明の屋根材固定用吊子(以下、単に「吊子」という)Aの一例を示す。この吊子Aは鉄板や鋼板などの金属板を折り曲げ加工等することにより形成されるものであって、平板状の固定部6と、固定部6の端部から上方に略垂直に突出させて形成される係止部5とを備えて形成されている。係止部5の上部には固定部6と反対側に折り返し屈曲された断面略逆U字状の係合部11が形成されている。また、係止部5の一側部にはその一部を切り起こして一対の支持片3が形成されている。一方の支持片3は固定部6側に向かって斜め上方に突出して形成され、他方の支持片3は固定部6の反対側に向かって斜め上方に突出して形成されている。また、係止部5の他側部にはその一部を切り起こして断面略倒L字状の飛散阻止片7が形成されている。飛散阻止片7は固定部6側に向かって斜め上方に突出して形成され、その先端には下方に突出する差し込み片12が設けられている。また、吊子Aにはリブ部13が形成されている。リブ部13は係止部5の固定部6側の表面から固定部6の上面にわたって突設されている。また、リブ部13の表面には凹段部14が形成されている。尚、係止部5の高さ寸法は、後述の屋根材4の被嵌合部31の高さ寸法と断熱材2の厚み寸法との合計とほぼ等しく形成されている。
【0022】
本発明で用いる屋根材4は鉄板や鋼板などの金属板を折り曲げ加工等することにより形成されるものであって、縦葺き屋根材などを例示することができる。図2(a)(b)に示すように、屋根材4は略平板状の屋根材本体20の両側端部に接続部21、22を設けて形成されている。一方の接続部21は上方に凸の略円弧状で屋根材本体20の側端部に外方(屋根材本体20と反対方向)斜め上方に突出させて連設される円弧部23と、円弧部23の先端から上方に略垂直に突出させて形成される突出部24と、突出部24の先端から外方に略水平に突出させて断面略倒U字状に屈曲形成される突部25と、突部25の端部から上方に突出させて断面略逆U字状に折り曲げて形成される嵌合部26と、嵌合部26の先端(外側下端)から内方(屋根材本体20側)に向けて略水平に突出させて断面略倒U字状に形成される当接部27とから構成されており、突部25と当接部27は互いにほぼ対向させて形成されている。また、もう一方の接続部22は上方に凸の略円弧状で屋根材本体20の側端部に外方斜め上方に突出させて連設される円弧部28と、円弧部28の先端から上方に略垂直に突出させて形成される突出部29と、突出部29の先端から外方に略水平に突出させて形成される被受け部30と、被受け部30の先端を上方に向けて断面略逆V字状に突出させて設けられた被嵌合部31とから構成されている。
【0023】
そして、図1の吊子Aを用いて上記の屋根材4を敷設するにあたっては次のようにして行う。まず、断熱材2を屋根下地1に載設する。ここで、断熱材2としてはブロック状又は板状に形成されるものであって、例えば、ポリスチレンフォームやポリウレタンフォームなどの樹脂発泡材あるいはグラスウールやロックウールなどの無機繊維材で形成することができる。また、屋根下地1は鉄骨母屋などの屋根骨組み材32と、屋根骨組み材32に載設される野地板33と、野地板33に敷設されるルーフィング材34とを用いて形成される。野地板33は合板などで形成することができ、ルーフィング材34としてはアスファルトルーフィングなどを用いることができる。尚、ルーフィング材34は必要に応じて用いることができ、敷設しなくても良い。次に、屋根下地1に載設した断熱材2の上に屋根材4を敷設する。この場合、屋根材4は接続部21、22の長手方向を屋根下地1の傾斜方向(例えば、軒棟方向)と略平行にして配置される。また、断熱材2の側端面2aと一方の接続部22の被嵌合部31の外面31aとが上下に略一直線上に並ぶようにする。
【0024】
次に、図3(a)に示すように、屋根下地1に載置した上記屋根材4に本発明の屋根材固定用吊子Aを取り付けると共にこの吊子Aを屋根下地1に固定する。吊子Aはその係合部11を被嵌合部31に上側から差し込むことにより屋根材4に取り付ける。被嵌合部31にはその長手方向に沿って複数個の吊子Aを設けることができる。また、図3(b)に示すように、被嵌合部31に取り付けた吊子Aの一方(固定部6と反対側に突出した方)の支持片3が被受け部30の下側に位置し、この支持部3の先端が被受け部30の下面に近接した状態となる。さらに、被嵌合部31に取り付けた吊子Aの固定部6は上記断熱材2の側端面2aの側方において屋根下地1に直接固定される。このとき、固定部6は屋根下地1のルーフィング材34の上(ルーフィング材34が無い場合は野地板33の上)に配置され、固定部6の上からビス等の固定具35を野地板33及び屋根骨組み材32にまで打入するようにする。また、吊子Aの係止部5の固定部6と反対側の表面を断熱材2の側端面2aに沿わせるようにする。このようにして吊子Aで屋根材4を屋根下地1に固定することができる。尚、本発明において、「吊子Aの固定部6を屋根下地1に直接固定する」とは、屋根下地1と固定部6との間に経時変化で厚みが収縮する断熱材2を介在させずに固定部6を屋根下地1に固定することをいう。従って、屋根下地1と固定部6との間に不陸調整などの目的でスペーサ等を介在させる場合なども「固定部6を屋根下地1に直接固定する」ことに含まれる。
【0025】
この後、図3(c)に示すように、上記断熱材2とは別の断熱材2を屋根下地1に載設する。この新たな断熱材2はその側端部を屋根下地1に固定した上記吊子Aの固定部6に載置する。従って、固定部6は断熱材2の下側に配置されることになる。また、新たな断熱材2の側端面2aを吊子Aの係止部5の固定部6側の表面に沿わせる。従って、吊子Aは隣接する断熱材2、2の間に配置された状態となる。次に、図3(d)に示すように、吊子Aの飛散阻止片7で新たに載置した断熱材2を留め付けて保持する。この場合、飛散阻止片7をその基部を支点として下方に回動させ、差し込み片12を断熱材2の上面に差し込んで係止する。これにより、断熱材2が施工途中で風で飛散しないように仮固定することができる。
【0026】
次に、新たに載設した断熱材2に上記とは別の新たな屋根材4を載設する。このとき、図3(e)に示すように、上記の既設の屋根材4の被嵌合部31を設けた接続部22と新たな屋根材4の被嵌合部31を設けた接続部21とを接続する。この場合、既設の屋根材4の被嵌合部31に上方から新たな屋根材4の嵌合部26を嵌め込み、嵌合部26を上側から手で押さえたり足で踏んだりして力を加える。このように上側の屋根材4の嵌合部26に上方から力を加えることによって、上側の屋根材4の嵌合部26が弾性的に広がった状態で下方へと移動し、上側の屋根材4の突部25が吊子Aのリブ部13の凹段部14に達すると共にこの屋根材4の当接部27が吊子Aの係合部11の先端の下側に達すると、嵌合部26が復元力(スプリングバック)によって広がった状態から元の形状に戻り、上側の屋根材4の突部25の先端が凹段部14に入り込んでその底面に当接すると共にこの屋根材4の当接部27が係合部11の先端と下側の屋根材4の被受け部30との間に差し込まれる。このようにして新たに配置される屋根材4の嵌合部26の下側に、屋根下地1の上に固定された既存の屋根材4の被嵌合部31とこれに嵌着された吊子Aの上部とを嵌合することによって、図4(a)に示すように、隣接する屋根材4、4同士を接続することができると共に新たに配設された屋根材4が吊子Aに係止されて固定されるものである。また、新たに配設された屋根材4の突部25の下面に吊子Aのもう一方(固定部6側に突出した方)の支持片3が位置し、この支持片3の先端が突部25の下面に近接した状態となる。そして、上記一連の作業を繰り返し行うことによって、複数枚の屋根材4を屋根下地1の上に敷設して屋根を形成することができる。
【0027】
本発明の屋根材4の施工構造では、吊子Aを断熱材2の上面ではなく、断熱材2の下側の屋根下地1の上面に直接固定するために、図4(b)に示すように、断熱材2が経時変化により厚み方向に収縮して屋根材4と断熱材2に隙間sが生じても、吊子Aの取付強度に影響を与えないようにすることができる。従って、断熱材の収縮で吊子Aの取付強度が低下することがなく、吊子Aによる屋根材4の取付強度の低下も防止することができる。また、経時変化により断熱材2が収縮した場合であっても屋根材4の接続部21、22を支持片3で支持することができ、嵌合部26と被嵌合部31との嵌合や接続部21、22と吊子Aとの連結が外れないようにすることができ、長期間にわたって屋根材4の取付強度を確保することができるものである。
【0028】
図5に本発明の屋根材固定用吊子Aの他の実施の形態を示す。この吊子Aは、図1のものにおいて、接合部8とスペーサ部9とを設けて形成されるものであり、その他の構成は図1のものと同様である。接合部8は、係止部5の幅方向の略中央部(支持片3と飛散防止片7との間)において、係合部11にスリット40を設けることによって、係合部11の一部が接合部8として形成されている。スリット40は係合部11の先端に達しており、これにより、接合部8はその基部を中心として折り曲げ可能に形成されている。
【0029】
一方、スペーサ部9は固定部6の両側端部に設けられており、断面逆V字状に形成されている。また、スペーサ部9は通常、固定部6の上面よりも上側に突出して設けられているが、必要に応じて、固定部6の下側に折り曲げて配置することができる。スペーサ部9はその基部で折り曲げられるが、手で折り曲げ可能なようにスペーサ部9の基部の一部に固定部6の幅方向と直交する方向に長いスリットを設けるのが好ましい。また、固定部6には下面に開口する断面略逆V字状の係止溝6aが形成されている。係止溝6aは固定部6の短辺と略平行で、固定部6の両側部に一本ずつ設けることができ、例えば、プレス加工により形成することができる。
【0030】
そして、図5に示す吊子Aも図1のものと同様の手順により、屋根材4を屋根下地1に固定することができるが、屋根材4と係止部5とは接合部8によりかしめて接合されるものである。すなわち、係合部11を被嵌合部31に上側から差し込むことにより屋根材4に取り付けた後、図6に示すように、接合部8を被嵌合部31の表面に密接させるように折り曲げることにより、接合部8で被嵌合部31を締め付けてかしめるようにする。これにより、屋根材4と吊子Aとを係止に加えてかしめて強固に結合することができる。また、従来では、屋根材4は屋根下地1に直接載置されており、屋根材4は屋根下地1との摩擦により施工時にずれ動くことは少ないが、本発明の施工構造では、屋根材4は断熱材2の上面に載置されるため、屋根材4と屋根下地1の摩擦が少なく、また、施工精度によっては屋根材4と屋根下地1との接触面積が少なくなる場合も考えられる。従って、単に、屋根材4と係合部11とを係止しただけでは、吊子Aを屋根下地1に固定する際に、断熱材2に載置した屋根材4が吊子Aに対して下り傾斜方向(水流れ方向)にずれ動いて、正確な位置に屋根材4を施工できない場合がある。そこで、上記のように接合部8により吊子Aと屋根材4とをかしめにより結合することで、吊子Aを屋根下地1に固定する際に、断熱材2に載置した屋根材4が吊子Aに対して下り傾斜方向にずれ動かないようにすることができ、屋根材4を正確な位置に施工しやすくなるものである。
【0031】
また、屋根下地1の上面に凹凸(不陸)がある場合、屋根下地1に固定した吊子Aにガタツキが生じて屋根材4の取付強度が低下するおそれがある。この場合は、図7(a)に示す状態から図7(b)に示す状態となるように、固定部6の下側にスペーサ部9を折り曲げることによって、固定部6の側端部の下側にスペーサ部9を突出させる。この場合、必要に応じて、一方又は両方のスペーサ部9を折り曲げることができる。また、スペーサ部9の先端は係止溝6aに差し込まれて係止されるものであり、これにより、断面略V字状となったスペーサ部9が荷重により潰れないようにすることができる。そして、固定部6を屋根下地1に載置した際に、凹の箇所にスペーサ部9を位置させることにより、凸の箇所との段差をスペーサ部9で吸収することができ、吊子Aをガタツキなく安定して略水平に固定することができる。固定部6の下面からのスペーサ部9の突出寸法は特に限定されないが、例えば、5mm程度にすることができる。また、上面に凹凸のある屋根下地1としては、既存の屋根を改修する場合などを例示することができる。この場合、既存の屋根材(例えば、化粧スレート板)を残したまま、その上を覆うように、新規の屋根材4を施工することがある。従って、既存の屋根材が屋根下地となって、これに吊子Aを固定しなければならないが、既存の屋根材はその一部が重なり合って配置されているため、隣接する既存の屋根材の間に段差が生じている。そこで、このような段差を上記のスペーサ部9で吸収して吊子Aを固定することができる。
【0032】
図8(a)(b)に本発明の屋根材固定用吊子Aの他の実施の形態を示す。この吊子Aは、図1のものと同様に、鉄板や鋼板などの金属板を折り曲げ加工等することにより形成されるものであって、平板状の固定部6と、固定部6の端部から上方に略垂直に突出させて形成される係止部5とを備えて形成されている。係止部5の上部には固定部6と反対側に折り返し屈曲された断面略逆U字状の係合部11が形成されている。また、係止部5に固定部6と反対側に突出する支持片3が設けられている。支持片3は係止部5の一部を係止部5の表面に対して略垂直に切り起こして形成することができる。また、支持片3は係止部5の幅方向の略中央部で、係止部5の上下方向の中央部よりも上で、係合部11の先端よりも下に位置している。また、係止部5の両側端部には固定部6側に突出する一対のリブ部13が形成されている。リブ部13は上下方向に長く、係止部5の上部から固定部6の上面に至るまで上下方向に長く形成されている。また、接合部8は、係止部5の一方の側端部において、係合部11にスリット40を設けることによって、係合部11の一部が接合部8として形成されている。スリット40は係合部11の先端に達しており、これにより、接合部8はその基部を中心として折り曲げ可能に形成されている。また、固定部6の上面には飛散阻止片7が形成されている。飛散阻止片7は例えばL字状の金具を固定部6の上面に取り付けることによって、固定部6の上面に対して略垂直に突出して形成することができる。尚、飛散防止片7は係止部5の側端部に固定部6側に突出するようにして設けても良い。その他の構成は図1のものと同様である。
【0033】
そして、図8の吊子Aを用いて上記の屋根材4を敷設するにあたっては次のようにして行う。まず、上記と同様にして、断熱材2を屋根下地1に載設すると共に、屋根下地1に載設した断熱材2の上に屋根材4を敷設する。次に、図9(a)に示すように、屋根下地1に載置した上記屋根材4に本発明の屋根材固定用吊子Aを取り付けると共にこの吊子Aを屋根下地1に固定する。吊子Aはその係合部11を被嵌合部31に上側から差し込むことにより屋根材4に取り付ける。被嵌合部31にはその長手方向に沿って複数個の吊子Aを設けることができる。また、図9(b)に示すように、被嵌合部31に取り付けた吊子Aの支持片3が被受け部30の下側に位置し、この支持部3の先端が被受け部30の下面に近接した状態となる。また、図6に示すように、上記と同様にして屋根材4と係止部5とは接合部8によりかしめて接合されるものである。さらに、被嵌合部31に取り付けた吊子Aの固定部6は上記断熱材2の側端面2aの側方において屋根下地1に直接固定される。このとき、固定部6は屋根下地1のルーフィング材34の上(ルーフィング材34が無い場合は野地板33の上)に配置され、固定部6の上からビス等の固定具35を野地板33及び屋根骨組み材32にまで打入するようにする。また、吊子Aの係止部5の固定部6と反対側の表面を断熱材2の側端面2aに沿わせるようにする。このようにして吊子Aで屋根材4を屋根下地1に固定することができる。
【0034】
この後、図9(c)に示すように、上記断熱材2とは別の断熱材2を屋根下地1に載設する。この新たな断熱材2はその側端部を屋根下地1に固定した上記吊子Aの固定部6に載置する。従って、固定部6は断熱材2の下側に配置されることになり、また、飛散阻止片7が断熱材2の下面に突き刺さり、断熱材2が施工途中で風で飛散しないように仮固定することができる。また、新たな断熱材2の側端面2aを吊子Aの係止部5の固定部6側の表面に沿わせる。従って、吊子Aは隣接する断熱材2、2の間に配置された状態となる。次に、新たに載設した断熱材2に上記とは別の新たな屋根材4を載設する。このとき、図9(d)に示すように、上記と同様にして、既設の屋根材4の被嵌合部31を設けた接続部22と新たな屋根材4の被嵌合部31を設けた接続部21とを接続する。このようにして新たに配置される屋根材4の嵌合部26の下側に、屋根下地1の上に固定された既存の屋根材4の被嵌合部31とこれに嵌着された吊子Aの上部とを嵌合することによって、図10(a)に示すように、隣接する屋根材4、4同士を接続することができると共に新たに配設された屋根材4が吊子Aに係止されて固定されるものである。そして、上記一連の作業を繰り返し行うことによって、複数枚の屋根材4を屋根下地1の上に敷設して屋根を形成することができる。
【0035】
そして、図8の吊子Aを用いた場合でも、吊子Aを断熱材2の上面ではなく、断熱材2の下側の屋根下地1の上面に直接固定するために、図10(b)に示すように、断熱材2が経時変化により厚み方向に収縮して屋根材4と断熱材2に隙間sが生じても、吊子Aの取付強度に影響を与えないようにすることができる。従って、断熱材の収縮で吊子Aの取付強度が低下することがなく、吊子Aによる屋根材4の取付強度の低下も防止することができる。また、経時変化により断熱材2が収縮した場合であっても屋根材4の接続部21、22を支持片3で支持することができ、嵌合部26と被嵌合部31との嵌合や接続部21、22と吊子Aとの連結が外れないようにすることができ、長期間にわたって屋根材4の取付強度を確保することができるものである。
【0036】
尚、図8の吊子Aにおいても、図5に示す吊子と同様のスペーサ部9を設けることができる。
【符号の説明】
【0037】
A 屋根材固定用吊子
1 屋根下地
2 断熱材
3 支持片
4 屋根材
5 係止部
6 固定部
7 飛散阻止片
8 接合部
9 スペーサ部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
屋根下地に載設された断熱材の上に屋根材を配設するための吊子であって、屋根材を係止するための係止部と、係止部の下部に突設された固定部とを備え、固定部は直接屋根下地に固定されて成ることを特徴とする屋根材固定用吊子。
【請求項2】
断熱材に載置された屋根材を下側から支持するための支持片が係止部に形成されて成ることを特徴とする請求項1に記載の屋根材固定用吊子。
【請求項3】
屋根下地に載設された断熱材に差し込んで断熱材を保持するための飛散阻止片が係止部に形成されて成ることを特徴とする請求項1又は2に記載の屋根材固定用吊子。
【請求項4】
係止部に係止された屋根材と係止部とをかしめて接合するための接合部が係止部に形成されて成ることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の屋根材固定用吊子。
【請求項5】
固定部の下側へ折り曲げ可能なスペーサ部が固定部に形成されて成ることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の屋根材固定用吊子。
【請求項6】
屋根下地に載設された断熱材の上に屋根材を載置し、この屋根材に請求項1乃至5のいずれか一項に記載の屋根材固定用吊子の係止部を係止すると共にこの屋根材固定用吊子の固定部を直接屋根下地に固定して成ることを特徴とする屋根材の施工構造。
【請求項1】
屋根下地に載設された断熱材の上に屋根材を配設するための吊子であって、屋根材を係止するための係止部と、係止部の下部に突設された固定部とを備え、固定部は直接屋根下地に固定されて成ることを特徴とする屋根材固定用吊子。
【請求項2】
断熱材に載置された屋根材を下側から支持するための支持片が係止部に形成されて成ることを特徴とする請求項1に記載の屋根材固定用吊子。
【請求項3】
屋根下地に載設された断熱材に差し込んで断熱材を保持するための飛散阻止片が係止部に形成されて成ることを特徴とする請求項1又は2に記載の屋根材固定用吊子。
【請求項4】
係止部に係止された屋根材と係止部とをかしめて接合するための接合部が係止部に形成されて成ることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の屋根材固定用吊子。
【請求項5】
固定部の下側へ折り曲げ可能なスペーサ部が固定部に形成されて成ることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の屋根材固定用吊子。
【請求項6】
屋根下地に載設された断熱材の上に屋根材を載置し、この屋根材に請求項1乃至5のいずれか一項に記載の屋根材固定用吊子の係止部を係止すると共にこの屋根材固定用吊子の固定部を直接屋根下地に固定して成ることを特徴とする屋根材の施工構造。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−219986(P2011−219986A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−90120(P2010−90120)
【出願日】平成22年4月9日(2010.4.9)
【出願人】(000207436)日鉄住金鋼板株式会社 (178)
【出願人】(000224835)銅金株式会社 (2)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年4月9日(2010.4.9)
【出願人】(000207436)日鉄住金鋼板株式会社 (178)
【出願人】(000224835)銅金株式会社 (2)
【Fターム(参考)】
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