説明

山留壁構造

【課題】 十分な地盤支持力を確保するための構成を備えた自立可能な山留壁を提供する。
【解決手段】 山留壁構造10は、上方が地盤に向かって進出するように傾けて構築された山留壁20と、山留壁20と一体に構築され、地盤1に向けて突出する長尺ボルト30と、を備える。H型鋼21の両フランジ21A、22Bにはボルト孔が形成され、これらボルト孔を結ぶようにさや管が取り付けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤を支持するための山留壁に関し、特に、傾斜して設けられる山留壁の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
地盤を掘削する際の山留壁を構築する場合、地盤を掘削した際に周囲の地盤から土圧を受けるため、土圧による山留壁の転倒を防止するべく、十分な支持力を確保する必要がある。
【0003】
山留壁の支持力を確保する方法として、例えば、特許文献1には、掘削部の水平投影面積が深度を増すごとに小さくなるような傾斜(以下、法面と称する)を設けて掘削し、その法面に沿って山留壁(以下、法面山留壁と称する)を構築するとともに、地盤内に定着体を設け、この定着体と山留壁の上端を引張材により連結する方法が記載されている。この方法によれば、山留壁の自重及び引張材を介して作用する引張力により地盤から作用する土圧に抵抗することができる
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000―303467号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1記載の方法では、地盤内に定着体を設けなければならず、敷地に制限がある場合などには採用することができない。このため、山留壁に転倒を防止するための構成を設けることが望まれる。
【0006】
本発明は、上記の問題に鑑みなされたものであり、その目的は、転倒を防止するための構成を備えた自立可能な山留壁を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の山留壁構造は、法面山留壁と、前記法面山留壁と一体に構築され、前記地盤に向けて突出する突出部材と、を備えることを特徴とする。
上記の山留壁構造において、前記法面山留壁は、上下方向に延びる複数の鋼材を備えてなり、前記突出部材は前記法面山留壁に取り付けられていてもよい。
【0008】
また、前記鋼材は両フランジにボルト孔が形成され、これらボルト孔を結ぶようにさや管が取り付けられたH型鋼であり、前記突出部材は長尺のボルトからなるものであってもよい。
【0009】
また、前記法面山留壁は、コンクリート造の地中連続壁であって、前記突出部材は、前記地中連続壁を構成するコンクリートを貫通するように設けられていてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、法面山留壁を設けることとしたため、法面山留壁の自重により土圧に抵抗できる。さらに、法面山留壁と一体に地盤に向けて突出するように突出部材を設けることとしたため、法面山留壁と地盤の間の摩擦力を向上し、主働土圧の法面山留壁の法線方向成分を最小にして、その結果、法面山留壁に作用する転倒モーメントを最小にすることができる。また、摩擦力が向上されることで法面山留壁が下方地盤面に食い込む力を最大にし、転倒防止に有利に働く。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】第1実施形態の山留壁構造の構成を示す鉛直断面図である。
【図2】図1のI部の拡大図である。
【図3】H型鋼に長尺ボルトを取り付ける様子を示す斜視図である。
【図4】山留壁を傾斜させた場合に、山留壁に作用する力を示す図であり、(A)は、山留壁と地山の間に十分な摩擦力が確保される場合、(B)は、山留壁と地山の間の摩擦力が小さい場合を示す。
【図5】山留壁として、ソイルセメント柱列壁を用いた場合の水平断面図である。
【図6】山留壁として、コンクリート造の地中連続壁を用いた場合の水平断面図である。
【図7】山留壁として、鋼矢板工法の地中連続壁を用いた場合の水平断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<第1実施形態>
以下、本発明の山留壁構造の第1実施形態を図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本実施形態の山留壁構造10の構成を示す鉛直断面図である。同図に示すように、山留壁構造10は、山留壁20と、山留壁20に地盤1に向けて突出するように取り付けられた長尺ボルト30とにより構成される。
【0013】
山留壁20は、親杭横矢板工法により構築されており、水平方向に間隔をあけて設けられた複数のH型鋼21と、これらH型鋼21の間に架け渡された横矢板とにより構成される。山留壁20は、上方が地盤1に向かって進出するように傾斜するように構築されており(すなわち、法面山留壁であり)、H型鋼21はその下端部が地盤1内に挿入されている。
【0014】
また、図1に示すように、長尺ボルト30は、H型鋼21にその長さ方向に間隔をあけて、両フランジ21A,21Bを貫通するように取り付けられている。図2は、図1のI部の拡大図であり、図3は、H型鋼21に長尺ボルト30を取り付ける様子を示す斜視図である。H型鋼21の両フランジ21A,21Bには、対応する位置にボルト孔22が形成されており、その内周面には螺条が形成されている。また、両フランジ21A,21Bのボルト孔22の間を結ぶようにさや管23が取り付けられている。長尺ボルト30は、先端が鋭利に形成されており、螺条が両フランジ21A,21Bのボルト孔22と螺合することによりH型鋼21に固定されている。
【0015】
図4は、山留壁220を斜めに構築した場合に、山留壁220に作用する力を示す図であり、(A)は、山留壁220と地盤との間の最大摩擦力が十分に大きい場合を、(B)は山留壁220と地盤との間の最大摩擦力が小さい場合を示す。
図4(A)に示すように、山留壁220と地盤1との間に十分な摩擦力が確保されるときには、最も合理的に力の釣合いが取れている状態であり、山留壁220に作用する主働土圧Pは水平方向に作用する。この主働土圧Pは山留壁220の軸方向(図中y方向)の力Sと、山留壁220の法線方向(図中x方向)の力Nと、に分解され、x方向の力Nは山留壁220の転倒モーメントに寄与する。
【0016】
これに対して、図4(B)に示すように、最大摩擦力が十分に大きくない場合には、主働土圧のy方向の成分である力S´は最大摩擦力と等しくなるためSより小さくなる。これに対して、山留壁の移動を防止するべく、新たに土圧Paが作用し、主働土圧P´はP+Paとなる。この力Paはy方向にS−S´の力を作用させるべく働く力であり、エントロピー増大の法則から土圧は地山の崩壊を助長する方向にしか作用しない。従って、Paのx方向成分は正となり、N´はNよりも大きくなるため、結果として土留壁に作用する転倒モーメントは大きくなる。
【0017】
そこで、本実施形態の山留壁構造10では、長尺ボルト30が地盤1内に挿入することとした。これにより、山留壁20と地盤1との間の摩擦力が向上され、図3(A)を参照して説明した最も合理的に力の釣合いが取れている状態となる。これにより、山留壁20に作用する転倒モーメントが抑えられ、山留壁構造10を自立させることができる。
【0018】
以下、かかる山留壁構造10の構築方法を説明する。
まず、地盤1の山留壁20を構築すべき位置に水平方向に間隔をあけて、複数のH型鋼21を下方が掘削空間2に相当する方向へ進出するように傾斜させて打設する。なお、これらH型鋼21の両フランジ21A、21Bの長尺ボルト30が取り付けられるべき位置には、ボルト孔22が形成されており、これらボルト孔22の間を結ぶようにさや管23が取り付けられている。
【0019】
次に、地盤1の掘削空間2に相当する部分を所定の深さまで掘削し、H型鋼21の掘削空間2側のフランジ面21Aを露出させる。そして、隣接するH型鋼21の間に矢板を掛け渡し、矢板と地盤1との間に裏込め材を配置する。
【0020】
また、矢板を掛け渡す作業と並行して、H型鋼21のフランジ21A、21Bに形成されたボルト孔22に長尺ボルト30を螺合させ、先端が地盤1内に挿入されるまで締め付ける。この際、両フランジ21A,21Bのボルト孔22の間にさや管23が取り付けられており、長尺ボルト30はこのさや管23により案内されるため、容易に両フランジ21A,21Bのボルト孔22に締め付けることができる。
上記の工程を繰り返し、地盤1を所定の深さまで掘削することで、山留壁構造10を構築することができる。
【0021】
以上説明したように、本実施形態によれば、山留壁20に地盤1に向けて突出するように長尺ボルト30を取り付けたため、山留壁20と地盤1との間の摩擦力が向上される。これにより、山留壁20に作用する転倒モーメントを抑えることができ、山留壁構造10を自立させることが可能となる。
【0022】
また、山留壁20と地盤1との間の摩擦力が向上されることで山留壁20が下方地盤面に食い込む力を最大にし、転倒防止に有利に働く。
また、本実施形態では、長尺ボルト30を山留壁20に取り付けるのみでよいので、敷地に制限がある場合などであっても、採用することができる。
【0023】
<第2実施形態>
第1実施形態では、山留壁20を親杭横矢板工法により構築した場合について説明したが、山留壁20として、その他の工法により構築した山留壁を用いることとしてもよい。
図5は、山留壁120をソイルセメント柱列壁により構築した場合の山留壁構造110の構成を示す水平断面図である。同図に示すように、山留壁120としてソイルセメント柱列壁を用いた場合にも、上記の実施形態と同様に、ソイルセメント柱列壁を構成するH型鋼21の両フランジにボルト孔を形成しておき、このボルト孔の間を結ぶようにさや管23を取り付けておく。
【0024】
次に、ソイルセメント柱列壁を構築した後、地盤1の掘削空間2に相当する部分を掘削し、H型鋼21の掘削空間2側のソイルセメント111を切削してH型鋼21を露出させる。そして、ボルト孔に先端を鋭利に形成した長尺ボルト30をボルト孔に締め付け、先端を地盤1内に挿入する。
【0025】
かかる構成であっても、山留壁120と地盤1との摩擦力を向上させることができるため、第1実施形態と同様の効果が得られる。
【0026】
なお、本実施形態では、掘削空間2側のソイルセメント111を切削してH型鋼21を露出させるものとしたが、これに限らず、掘削空間2側のソイルセメント111を残置させておき、このソイルセメント111を貫通させて長尺ボルト30を取り付けることとしてもよい。
【0027】
また、上記の各実施形態では、親杭横矢板工法及びソイルセメント柱列壁により山留壁を構成した場合について説明したが、これに限らず、山留壁121としてコンクリート造の地中連続壁を用いることもできる。かかる場合には、図6に示すように、長尺ボルト30をH型鋼21に取り付けずに、コンクリート部材内122を貫通するように長尺ボルト30を設けてもよい。この際、長尺ボルト30と山留壁121とを一体化させるべく、長尺ボルト30の設置本数を増やしたり、H型鋼21をまたいで隣接する長尺ボルト30と共通のワッシャを使うなど面積の大きなワッシャ123を用いたりするとよい。この際、ワッシャ123とH型鋼21とを溶接するとさらに大きな効果が得られる
【0028】
また、鋼矢板工法により、山留壁を構成する場合には、図7に示すように、鋼矢板130にボルト孔を設けておき、このボルト孔に長尺ボルト30を取り付ければよい。また、このボルト孔に内ネジ132を切り、面積の大きなワッシャ131を介してねじ込むと効果はさらに大きい。
【符号の説明】
【0029】
1 地盤 2 掘削空間
10、110 山留壁構造 20、120 土留壁
21 H型鋼 21A,21B フランジ
22 ボルト孔 23 さや管
30 長尺ボルト 130 鋼矢板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
法面山留壁と、
前記法面山留壁と一体に構築され、前記地盤に向けて突出する突出部材と、を備えることを特徴とする山留壁構造。
【請求項2】
請求項1記載の山留壁構造であって、
前記法面山留壁は、上下方向に延びる複数の鋼材を備えてなり、
前記突出部材は前記法面山留壁に取り付けられていることを特徴とする山留壁構造。
【請求項3】
請求項2記載の山留壁構造であって、
前記鋼材は両フランジにボルト孔が形成され、これらボルト孔を結ぶようにさや管が取り付けられたH型鋼であり、
前記突出部材は長尺のボルトからなることを特徴とする山留壁構造。
【請求項4】
請求項1記載の山留壁構造であって、
前記法面山留壁は、コンクリート造の地中連続壁であって、前記突出部材は、前記地中連続壁を構成するコンクリートを貫通するように設けられていることを特徴とする山留壁構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−127313(P2011−127313A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−285528(P2009−285528)
【出願日】平成21年12月16日(2009.12.16)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【Fターム(参考)】