説明

岸壁クレーン

【課題】脚構造物とスライド式ブームを有するロープロファイルクレーンにおいて、クレーンの重量増加量を抑制し、且つ、低コストで、制振構造を導入したクレーンを提供する。
【解決手段】上部構造物30と前記スライド式ブーム2の相対移動を減衰する振動減衰機構を設置し、上部構造物30にワイヤロープドラム4、海側緊張装置7a、陸側緊張装置7bを設置し、ワイヤロープドラム4から海側に第1ワイヤロープ6aを繰り出し、第1ワイヤロープ6aは、海側緊張装置7aを経由してブーム2に接続し、ワイヤロープドラム4から陸側に第2ワイヤロープ6bを繰り出し、第2ワイヤロープ6bは、陸側緊張装置7bを経由してブーム2に接続し、地震発生時には、海側緊張装置7a及び陸側緊張装置7bの作動により、緊張状態であった第1ワイヤロープ6a及び第2ワイヤロープ6bにたるみを発生させ、ブーム2を揺動自在とする制御を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、港湾や内陸地のコンテナターミナルなどでコンテナの荷役に使用するクレーン等に、地震対策を施した岸壁クレーンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
港湾や内陸地等のコンテナターミナルでは、岸壁クレーン、門型クレーン、コンテナトレーラによって、船舶及びトレーラ間のコンテナの荷役を行っている。図6に、脚構造物31とスライド式ブーム(以下、ブームという)2を有する岸壁クレーン(以下、ロープロファイルクレーン、又はクレーンという)1Xの荷役時の様子を示す。
【0003】
クレーン1Xは、コンテナ船40に搭載したコンテナ41をトロリ33で吊上げ、岸壁35で待機しているトレーラ36に搭載する荷役作業を行っている。又は、クレーン1Xは、トレーラ36からコンテナ船40にコンテナ41を積み込む荷役作業を行っている。また、この荷役作業において、クレーン1Xは、岸壁35に沿って(図6の紙面奥、又は手前方向に)走行装置34で移動しながら荷役作業を行っている。
【0004】
次に、ロープロファイルクレーン1Xの構造について説明する。クレーン1Xは、海側脚32a及び陸側脚32bを有する脚構造物31の上部に、枠状の上部構造物30を有している。この上部構造物30の内部に、スライド式ブーム(以下、ブームという)2を配置している。また、上部構造物30は、スライドローラ(以下、ローラという)3を有している。このローラ3上に、ブーム2を移動自在に配置している。ブーム2は、図6の左右方向に移動することができる。
【0005】
また、上部構造物30にワイヤロープドラム(以下、ドラムという)4を設置している。このドラム4から、第1ワイヤロープ6aと、第2ワイヤロープ6bを繰り出し、又は巻き取るように構成している。この第1ワイヤロープ6aは、ドラム4から出て、ブーム2の先端に固定している。同様に、第2ワイヤロープ6bは、ドラム4から出て、ブーム2の先端に固定している。
【0006】
なお、上部構造物30とブーム2の隙間が小さく、第1ワイヤロープ6a及び第2ワイヤロープ6bが上部構造物30と干渉する場合は、上部構造物30に海側固定シーブ5a及び陸側固定シーブ5b、又は回転体等を設けて干渉を防止するように構成している。また、ドラム4は、例えば、第1ワイヤロープ6aを巻き取った際は、同量の長さの第2ワイヤロープ6bを繰り出すように構成している。
【0007】
次に、ロープロファイルクレーン1Xの動作について説明する。クレーン1Xは、コンテナ41の荷役を行う際には、図6に示す様に、ブーム2を海側のコンテナ船40上方まで移動する。また、クレーン1Xは、休止時には、図7に示す様に、ブーム2を陸側に移動する。
【0008】
これは、コンテナ船40の接岸又は離岸時に、コンテナ船40の船橋等とブーム2の干渉を避けるためである。岸壁クレーンの中には、コンテナ船40との干渉を避けるために、ブームを上方に跳ね上げて、船橋等をかわすように構成しているものもある。しかし、空港付近のコンテナターミナルなど、全高制限が設けられている地区では、ブームの跳ね上げができないため、ロープロファイルクレーン1Xを採用している。
【0009】
また、ブーム2の移動は、ドラム4でワイヤロープ6(6a及び6b)を巻き上げて行
う。例えば、ブーム2を海側に移動するとき(図7から図6の状態とするとき)、ドラム4の回転により、第1ワイヤロープ6aを繰り出し、同量の長さの第2ワイヤロープ6bを巻き取る。このドラム4の動作により、ブーム2には海側方向の力が働き、ブーム2が移動する。このブーム2の移動に伴い、ローラ3が受動的に回転するように構成している。
【0010】
ところで、近年、地震対策として免震構造を採用した岸壁クレーンが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この免震構造とは、地盤とクレーンの絶縁により、クレーンが地震力を受けないようにするものである。この免震構造は、走行輪上部の脚部にアイソレータやダンパーを設置し、その上にクレーン構造物を設置して、地盤の揺れにクレーンが追従しないように構成するものである。具体例としては、薄いゴムシートと鋼板を交互に積層し、接着した積層ゴム等のアイソレータを、クレーンの走行輪と脚部の間に設置する構造などがある。
【0011】
しかしながら、特許文献1に記載の発明のように、アイソレータを利用した免震構造では、地震対策が不十分であるという問題を有している。つまり、現行のアイソレータは、海陸方向に±300mm程度の水平方向変形を吸収することができるが、近年の要求は、海陸方向に±1000mm程度の水平方向変形を吸収することであり、不十分となっている。また、±1000mm程度の水平方向変形を吸収するアイソレータの利用を考えると、このアイソレータは高コストとなり、更に、走行装置と脚構造物の間に設置するスペースが取れない、あるいは走行装置と脚構造物の芯ずれにより走行装置に過大な転倒モーメントが発生するという問題を有している。
【0012】
他方で、地震対策として免震構造の他に制振構造(制震構造とも言う)もある。この制振構造とは、地震動をエネルギーとして捉え、構造物に組み込んだエネルギー吸収構造により、このエネルギーを減衰する構造である。この制振構造は、構造物の揺れを抑え、構造物の損傷を軽減することができるため、繰り返しの地震に有効である。更に、免震構造に比べて低コストで実現することができる。
【0013】
具体的には、例えばビル等の建築物であれば、屋上にマスダンパーと呼ばれるおもり(制振マス)を設置し、建築物の振動を減衰する。制振マスには水槽等を利用することができ、この重量が大きいほど制振の作用効果が高まる。また、建築物の柱と柱の間に、建築物内の地震エネルギーを吸収するダンパーを設置する方法もある。
【0014】
しかしながら、上記の制振構造を岸壁クレーンに適用することは困難であった。つまり、クレーンに制振構造を適用する場合、制振マスやダンパー等を新たに設置する必要があり、クレーンの重量が増加してしまうという問題を有している。クレーンの重量は、クレーンを設置する岸壁の強度により制限されている。そして、ほとんどの岸壁において、クレーンの重量増加が不可能な状況である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2005−75608号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、上記の問題を鑑みてなされたものであり、その目的は、脚構造物とスライド式ブームを有する岸壁クレーン(ロープロファイルクレーン)において、クレーンの重量増加量を抑制し、且つ、低コストで、制振構造を導入したクレーンを提供することを目的とする。更に、高い制振効果を発揮し、且つ応答性及び安定性が高い制振構造を有したク
レーンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記の目的を達成するための本発明に係る岸壁クレーンは、脚構造物と、前記脚構造物の上部に設置した上部構造物と、前記上部構造物にスライド可能に支持したスライド式ブームを有し、海上輸送用コンテナの荷役に使用する岸壁クレーンにおいて、前記岸壁クレーンに前記上部構造物と前記スライド式ブームの相対移動を減衰する振動減衰機構を設置し、前記上部構造物にワイヤロープドラムと、海側緊張装置と、陸側緊張装置を設置し、前記ワイヤロープドラムから海側に第1ワイヤロープを繰り出し、前記第1ワイヤロープは、前記海側緊張装置を経由して前記スライド式ブームに接続し、前記ワイヤロープドラムから陸側に第2ワイヤロープを繰り出し、前記第2ワイヤロープは、前記陸側緊張装置を経由して前記スライド式ブームに接続し、地震発生時には、前記海側緊張装置及び前記陸側緊張装置の作動により、緊張状態であった第1ワイヤロープ及び第2ワイヤロープにたるみを発生させ、前記スライド式ブームを揺動自在とする制御を行うことを特徴とする。
【0018】
この構成により、クレーンの自重をほとんど増加せずに、制振構造を適用することができるため、低コストでクレーンに地震対策を施すことが可能となる。ロープロファイルクレーンの超重量物(例えば300〜400t)であるスライド式ブームを、制振マスとして利用できるため、高い制振効果を得ることができる。
【0019】
ここで、振動減衰機構は、揺動自在となったスライド式ブームと上部構造物の相対移動を減衰する機構である。例えば、スライド式ブームが海側に移動した場合、振動減衰機構は、スライド式ブームの移動を引き戻す力を発生する。具体的には、上部構造物とスライド式ブームを、バネ機構とダンパー機構をそれぞれ連結して実現することができる。または、第1及び第2ワイヤーロープのたるみ量の制御を、バネ機構とダンパー機構により行う構成としてもよい。
【0020】
なお、ロープロファイルクレーンの全体重量は、例えば1500〜1600t程度であるため、クレーン全体重量の約25%程度を占めているスライド式ブームは、超大型制振マスであると言える。
【0021】
上記の岸壁クレーンにおいて、前記海側緊張装置及び前記陸側緊張装置が、筐体内部に引出しシーブと、移動シーブと、戻しシーブを有し、前記ワイヤロープドラムから繰り出した前記第1ワイヤロープ又は前記第2ワイヤロープを、前記引出しシーブから前記移動シーブに通し、前記戻しシーブを経由して前記スライド式ブームに接続するように構成し、前記海側緊張装置及び前記陸側緊張装置の作動により、前記移動シーブが移動し、前記引出しシーブから、前記移動シーブを経由して前記戻しシーブに至る距離を短くするように構成したことを特徴とする。
【0022】
この構成により、通常時は第1ワイヤロープ及び第2ワイヤロープで固定(固縛)しているスライド式ブームを、地震発生時に開放することができる。具体的には、緊張装置の移動シーブを移動するのみで、第1ワイヤロープ及び第2ワイヤロープにたるみを発生させ、スライド式ブームを揺動可能とすることができる。つまり、スライド式ブームに比べて、超軽量物である移動シーブを移動するのみで、制振効果を得ることができるため、応答性の高い制振構造とすることができる。
【0023】
上記の岸壁クレーンにおいて、前記海側緊張装置及び前記陸側緊張装置が、前記引出しシーブと、前記引出しシーブの上方に配置した前記移動シーブと、前記移動シーブの下方に配置した前記戻しシーブを有しており、前記海側緊張装置及び前記陸側緊張装置の作動
により、前記移動シーブが下方に移動し、前記引出しシーブから、前記移動シーブを経由して前記戻しシーブに至る距離を短くするように構成したことを特徴とする。
【0024】
この構成により、移動シーブを自重により落下する方向に移動制御すれば、制振効果を発揮することができるため、応答性及び安定性の高い制振構造とすることができる。すなわち、移動シーブの移動方向を下方、特に鉛直下向きとすると、移動のための動力が不要となり、地震に伴い停電等が発生した場合であっても、安定的に制振効果を得ることができる。
【0025】
上記の岸壁クレーンにおいて、前記移動シーブを、油圧シリンダを介して前記筐体に設置し、地震発生時に前記油圧シリンダの圧力を開放するように構成したことを特徴とする。この構成により、クレーンの制振効果が、油圧シリンダの圧力開放をスイッチとして発生するため、極めて応答性の高い制振構造とすることができる。つまり、地震発生直後に、スライド式ブームが制振マスとして揺動することができる。
【0026】
上記の目的を達成するための本発明に係る岸壁クレーンの制御方法は、脚構造物と、前記脚構造物の上部に設置した上部構造物と、前記上部構造物にスライド可能に支持したスライド式ブームを有し、海上輸送用コンテナの荷役に使用する岸壁クレーンであり、前記上部構造物にワイヤロープドラムと、海側緊張装置と、陸側緊張装置を設置し、前記ワイヤロープドラムから海側に第1ワイヤロープを繰り出し、前記第1ワイヤロープは、前記海側緊張装置を経由して前記スライド式ブームに接続し、前記ワイヤロープドラムから陸側に第2ワイヤロープを繰り出し、前記第2ワイヤロープは、前記陸側緊張装置を経由して前記スライド式ブームに接続した岸壁クレーンの制御方法において、前記海上輸送用コンテナを荷役する際には、前記ワイヤロープドラムにブレーキをかけ、前記第1ワイヤロープ及び前記第2ワイヤロープの繰り出し、及び巻き取りをなくした状態で、前記海側緊張装置及び前記陸側緊張装置により、前記第1ワイヤロープ及び前記第2ワイヤロープに張力を与え、前記スライド式ブームを前記上部構造物に固定する制御を行い、前記スライド式ブームをスライドする際には、前記海側緊張装置及び前記陸側緊張装置により、前記第1ワイヤロープ及び前記第2ワイヤロープに張力を与え、前記ワイヤロープドラムを回転し、前記第1ワイヤロープを繰り出し又は巻き取り、前記第2ワイヤロープを巻き取り又は繰り出し、前記スライド式ブームをスライドする制御を行い、地震が発生した際には、前記海側緊張装置及び前記陸側緊張装置により、前記第1ワイヤロープ及び前記第2ワイヤロープの張力を開放してたるみを発生させ、前記スライド式ブームを揺動自在とする制御を行うことを特徴とする。この構成により、前述の岸壁クレーンと同様の作用効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明に係る岸壁クレーンによれば、クレーンの重量増加量を抑制し、且つ、低コストで、制振構造を導入したクレーンを提供することができる。また、高い制振効果を発揮し、且つ応答性及び安定性が高い制振構造を有したクレーンを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明に係る実施の形態の岸壁クレーンの概略を示した図である。
【図2】本発明に係る実施の形態の岸壁クレーンの緊張装置の概略を示した図である。
【図3】本発明に係る実施の形態の岸壁クレーンのブームの移動の状態を示した図である。
【図4】本発明に係る実施の形態の岸壁クレーンの緊張装置の回路を示した図である。
【図5】本発明に係る実施の形態の岸壁クレーンの振動減衰機構の1例を示した図である。
【図6】従来の岸壁クレーンを示した図である。
【図7】従来の岸壁クレーンを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明に係る実施の形態の岸壁クレーン(以下、ロープロファイルクレーン又はクレーンという)について、図面を参照しながら説明する。図1に、ロープロファイルクレーン1の概略を示す。
【0030】
図1に示すクレーン1は、ワイヤロープドラム4と海側固定シーブ5aの間に、海側緊張装置7aを設置する。同様に、ドラム4と陸側固定シーブ5bの間に、陸側緊張装置7bを設置する。これらの緊張装置7(7a、7b)に、第1ワイヤロープ6a及び第2ワイヤロープ6bを通すように構成する。なお、緊張装置7は、ドラム4と同様、クレーン1の上部構造物30等に設置する。
【0031】
図2に緊張装置7(7a、7b)の概略を示す。緊張装置7は、筐体15の内部に引出しシーブ8、移動シーブ9、戻しシーブ10、及び油圧シリンダ11を有している。そして、ドラム4から繰り出したワイヤロープ6(6a又は6b)を、引出しシーブ8から移動シーブ9に通し、戻しシーブ10を経由して固定シーブ5(5a又は5b)に送るように構成する。更に、ワイヤロープ6を、固定シーブ5を経由して、ブーム2に固定するように構成する。つまり、ドラム4から繰り出したワイヤロープ6を、緊張装置7で迂回して、ブーム2に固定するように構成する。
【0032】
なお、本発明に係る緊張装置7の構成は、上記に限定されるものではなく、実質的には、ワイヤロープ6に張力を発生することができ、且つたるみを発生することのできる構造であればよい。
【0033】
次に、緊張装置7の動作について説明する。緊張装置7は、油圧シリンダ11の作動により、引出しシーブ8及び戻しシーブ10に対する移動シーブ9の相対的位置を移動して、ワイヤロープ6に発生する張力を制御するように動作する。
【0034】
図2Aは、クレーン1が荷役を行う、又はブーム2の移動(スライド)を行う際(以下、通常時という)の緊張装置7の状態を示している。このとき、油圧シリンダ11は収縮しており、移動シーブ9は、引出しシーブ8(又は戻しシーブ10)に対して、離れた位置(0.2〜1.20m程度)にある。そして、ワイヤロープ6は一定の張力が働いた状態(たるみのない状態)にある。
【0035】
図2Bは、地震発生時の緊張装置7の状態を示している。このとき、油圧シリンダ11は伸長して、移動シーブ9は、引出しシーブ8(又は戻しシーブ10)に対して、接近した位置(0.02〜0.20m程度)となる。そして、ワイヤロープ6はたるんだ状態となる。
【0036】
つまり、地震が発生した際には、緊張装置7が作動する。そして、ブーム2を固定していた第1ワイヤロープ6a及び第2ワイヤロープ6bにたるみが生じ、ブーム2がスライドローラ3上を自由に揺動できるようになる。
【0037】
なお、図2Bに示すたるみ状態において、引出しシーブ8、戻りシーブ10及び移動シーブ9から、ワイヤロープ6が脱落しないように各シーブ8、9、10にはワイヤロープ脱落防止ガードを取り付けている。このワイヤロープ脱落防止ガードは、例えばシーブの外周に沿ったカバーであり、ワイヤロープがたるんでもカバーに当たり、シーブの溝から
はみ出さないように構成している。
【0038】
上記の構成により、以下のような作用効果を得ることができる。すなわち、地震により脚構造物31及び上部構造物30が振動した場合、この振動と異なる周期でブーム2が揺動して、クレーン1に発生する振動を減衰することができる。つまり、クレーン1は、超重量物(300〜400t)であるスライド式ブーム2を制振マスとして利用できるため、クレーン1の自重を増加することなく、高い制振効果を得ることができる。
【0039】
なお、第1ワイヤロープ6a及び第2ワイヤロープ6bのたるむ長さは、ブーム2の揺動する距離により決定する。つまり、クレーン1の大きさや、想定される地震の種類や規模により異なる。このワイヤロープ6のたるむ長さの具体例としては、例えば、それぞれ0.5〜2.0m程度とすることが望ましく、更に望ましくは1m程度とする。
【0040】
また、地震発生時には、ドラム4にはブレーキがかかり、ワイヤロープ6の繰り出し、巻取りが発生しないように構成している。これは、地震や停電等が発生して、電気等の動力の供給がない場合にドラム4にブレーキがかかり、動力の供給がある場合に、ブレーキを解除する力が働くように制御する構成により、事故を防止することが望ましいからである。
【0041】
図3Aに通常時のブーム2及びワイヤロープ6(6a、6b)の状態を示し、図3Bに地震発生時のブーム2及びワイヤロープ6の状態を示す。図3Aに示す様に、通常時には、ワイヤロープ6にはたるみがなく、一定の張力が働いた状態にある。この張力により、ブーム2は見かけ上、固定した状態となる。そのため、荷役作業等を行う際に、ブーム2が不用意に揺動することがない。
【0042】
また、図3Bに示す様に、地震発生時には、緊張装置7(7a、7b)の作動により、第1ワイヤロープ6a及び第2ワイヤロープ6bにそれぞれたるみが発生する。このワイヤロープ6のたるみにより、ブーム2は一定の距離(揺動距離D)を自由に揺動することが可能となる。この揺動距離Dは、第1ワイヤロープ6a及び第2ワイヤロープ6bのそれぞれのたるむ長さにより決定される。この揺動距離Dは、例えば、それぞれ0.5〜2.0m程度とすることが望ましく、更に望ましくは1m程度とする。
【0043】
なお、ブーム2を利用した制振構造により減衰する振動は、主に海陸方向(図3の左右方向)の振動となる。岸壁に平行な方向(図3の紙面手前から奥の方向)の振動は、従来と同様にクレーン1の走行装置34(図1参照)がすべり移動することにより減衰するように構成するとよい。
【0044】
図4に、緊張装置7に設置する油圧シリンダ11の油圧回路を示す。図4に示す様に、移動シーブ9を設置した油圧シリンダ11に、流体(油)の流れる方向を制御する制御バルブ13を介して油圧ポンプ14で油圧をかけるように構成している。また、油圧シリンダ11に対して並列にリリーフバルブ12を設置している。なお、リリーフバルブ12及び制御バルブ13は、ソレノイドバルブで構成することが望ましい。
【0045】
次に、油圧回路の制御について説明する。通常時には、ソレノイドバルブで構成したリリーフバルブ12に電圧をかけ、油圧回路を閉止するように制御する。また、ソレノイドバルブで構成した制御バルブ13で、流体の流れる方向を制御することができる。この制御により、ワイヤロープ6のたるみを取り、ワイヤロープ6に発生する張力を調整することができる。つまり、この油圧回路では、油圧シリンダの移動シーブ9側の内圧を一定に保つように制御を行い、この内圧が低下した場合、制御バルブ13が自動的に図4の下方に動き、この内圧を上昇するように制御する。そして、内圧が予め定めた規定値に達する
と、制御バルブ13を閉止状態(図4に示す状態)となるように制御する。また、コストを下げる目的で、内圧が上がりすぎたときに、制御バルブ13が図4の上方に動き、内圧を下げる回路(クロス回路)を有さないように構成してもよい。
【0046】
地震発生時には、リリーフバルブ12を開放して、油圧シリンダ11にかかる油圧を開放するように制御する。このリリーフバルブ12の開放に伴い、油圧シリンダ11は外力(移動シーブ9の自重、又はブーム2の揺動によるワイヤロープ6への張力発生等)により自由に移動することが可能となる。つまり、地震発生時には、ワイヤロープ6でブーム2を固定した状態を解除し、ブーム2が制振マスとして揺動自在な状態となる。
【0047】
なお、リリーフバルブ12は、電圧がかからない状態では、バネ等の作用により、自動的に開放側に制御できるソレノイドバルブで構成することが望ましい。この構成により、地震と共に、停電が発生した場合であっても、リリーフバルブ12を開放することができる。また、クレーン1を地震発生後に復旧する際には、制御バルブ13を制御して、移動シーブ9を移動し、ワイヤロープ6に任意の張力をかけるように制御する。
【0048】
なお、地震の検知は、クレーン1に設置した加速度計や地震計等で行うことができる。この地震の検知信号に基づき、リリーフバルブ12に流れる電気を停止し、ブーム2の固定を開放する制御により、応答性の高い制振効果を得ることができる。また、せん断ピンによりリリーフバルブ12を機械的に固定し、地震発生時には、せん断ピンの折損によってリリーフバルブを開放するように構成してもよい。
【0049】
図5に、上部構造物30とスライド式ブーム2の相対運動を減衰する振動減衰機構16の1例(一部透視図)を示す。この振動減衰機構16は、スライドローラ3に組み込んでおり、スライドローラ3の回転軸21に、クラッチ機構17、バネ機構18、ダンパー機構19を設置している。
【0050】
このバネ機構18は、スライドローラ3の回転力を、回転軸21を介して蓄積するように構成している。また、ダンパー機構19は、油等を充填したケース内で、抵抗羽根20が回転するように構成している。
【0051】
次に、振動減衰機構16の動作について説明する。図3Bに示す様に、地震が発生した際、スライド式ブーム2はスライドローラ3上で揺動する。このとき、図5に示すスライドローラ3が、スライド式ブーム2から力を受けて回転する。この回転力を、回転軸21を介してねじりバネ(バネ機構18)に蓄積する。このねじりバネが戻ろうとする力により、スライドローラ3が逆回転し、スライド式ブーム2は、引き戻し力を受ける。また、回転ダンパー(ダンパー機構19)は、回転軸21を介して、スライドローラ3の回転エネルギーを減衰する。
【0052】
ここで、地震発生時には、クラッチ機構17はつながっている状態となっている。このクラッチ機構17は、スライド式ブーム2をワイヤロープドラム4により移動する場合のみ解除するように構成している。例えば、リリーフバルブ等を利用して、電圧をかけたときのみクラッチ機構17の連結を解除し、その他の場合には、クラッチ機構17が連結している状態となるように制御することができる。
【0053】
上記の構成により、揺動自在のスライド式ブーム2と、上部構造物30の相対運動を減衰することができる。つまり、スライド式ブーム2を制振マスとする制振効果を得ることができる。
【0054】
なお、振動減衰機構16の構成は、上記に限られるものではなく、スライド式ブーム2
と上部構造物30の間に、バネ機構とダンパー機構を設置する構成であれば、他の構造でも実現することができる。例えば、スライド式ブーム2の移動方向に沿って、スライド式ブーム2と上部構造物30の間に、バネ機構とダンパー機構を設置する構成でもよい。
【0055】
また、図2に示す緊張装置7において、油圧シリンダ11にバネ機構とダンパー機構を設置する構成でもよい。つまり、図2Aの状態から、スライド式ブーム2の移動に伴い、移動シーブ9が降下した場合、この移動シーブ9を上昇する方向にバネ機構の力を発生させ、スライド式ブーム2に引き戻し力を加える構成とすることができる。
【0056】
以上より、地震発生に伴い、たとえ停電が発生した場合であっても、ブーム2を制振マスとして利用し、クレーン1の振動を効率的に減衰する制振構造を有したロープロファイルクレーン1を提供することが可能となる。
【0057】
なお、クレーン1に従来の免震装置を適用することも可能であり、免震機構と制振機構の両方を有した極めて耐震性の高いクレーンとすることもできる。ここで、制振機構と同時に採用する免震機構は、従来よりも小型で低コストなアイソレータを採用することができる。
【符号の説明】
【0058】
1 岸壁クレーン(ロープロファイルクレーン)
2 スライド式ブーム(ブーム)
3 スライドローラ(ローラ)
4 ワイヤロープドラム(ドラム)
5 固定シーブ
5a 海側固定シーブ
5b 陸側固定シーブ
6 ワイヤロープ
6a 第1ワイヤロープ
6b 第2ワイヤロープ
7 緊張装置
7a 海側緊張装置
7b 陸側緊張装置
8 引出しシーブ
9 移動シーブ
10 戻しシーブ
11 油圧シリンダ
12 リリーフバルブ
13 制御バルブ
14 油圧ポンプ
15 筐体
16 振動減衰機構
30 上部構造物
31 脚構造物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脚構造物と、前記脚構造物の上部に設置した上部構造物と、前記上部構造物にスライド可能に支持したスライド式ブームを有し、海上輸送用コンテナの荷役に使用する岸壁クレーンにおいて、
前記岸壁クレーンに前記上部構造物と前記スライド式ブームの相対移動を減衰する振動減衰機構を設置し、前記上部構造物にワイヤロープドラムと、海側緊張装置と、陸側緊張装置を設置し、
前記ワイヤロープドラムから海側に第1ワイヤロープを繰り出し、前記第1ワイヤロープは、前記海側緊張装置を経由して前記スライド式ブームに接続し、前記ワイヤロープドラムから陸側に第2ワイヤロープを繰り出し、前記第2ワイヤロープは、前記陸側緊張装置を経由して前記スライド式ブームに接続し、
地震発生時には、前記海側緊張装置及び前記陸側緊張装置の作動により、緊張状態であった第1ワイヤロープ及び第2ワイヤロープにたるみを発生させ、前記スライド式ブームを揺動自在とする制御を行うことを特徴とする岸壁クレーン。
【請求項2】
前記海側緊張装置及び前記陸側緊張装置が、筐体内部に引出しシーブと、移動シーブと、戻しシーブを有し、前記ワイヤロープドラムから繰り出した前記第1ワイヤロープ又は前記第2ワイヤロープを、前記引出しシーブから前記移動シーブに通し、前記戻しシーブを経由して前記スライド式ブームに接続するように構成し、
前記海側緊張装置及び前記陸側緊張装置の作動により、前記移動シーブが移動し、前記引出しシーブから、前記移動シーブを経由して前記戻しシーブに至る距離を短くするように構成したことを特徴とする請求項1に記載の岸壁クレーン。
【請求項3】
前記海側緊張装置及び前記陸側緊張装置が、前記引出しシーブと、前記引出しシーブの上方に配置した前記移動シーブと、前記移動シーブの下方に配置した前記戻しシーブを有しており、
前記海側緊張装置及び前記陸側緊張装置の作動により、前記移動シーブが下方に移動し、前記引出しシーブから、前記移動シーブを経由して前記戻しシーブに至る距離を短くするように構成したことを特徴とする請求項2に記載の岸壁クレーン。
【請求項4】
前記移動シーブを、油圧シリンダを介して前記筐体に設置し、地震発生時に前記油圧シリンダの圧力を開放するように構成したことを特徴とする請求項3に記載の岸壁クレーン。
【請求項5】
脚構造物と、前記脚構造物の上部に設置した上部構造物と、前記上部構造物にスライド可能に支持したスライド式ブームを有し、海上輸送用コンテナの荷役に使用する岸壁クレーンであり、前記上部構造物にワイヤロープドラムと、海側緊張装置と、陸側緊張装置を設置し、前記ワイヤロープドラムから海側に第1ワイヤロープを繰り出し、前記第1ワイヤロープは、前記海側緊張装置を経由して前記スライド式ブームに接続し、前記ワイヤロープドラムから陸側に第2ワイヤロープを繰り出し、前記第2ワイヤロープは、前記陸側緊張装置を経由して前記スライド式ブームに接続した岸壁クレーンの制御方法において、
前記海上輸送用コンテナを荷役する際には、前記ワイヤロープドラムにブレーキをかけ、前記第1ワイヤロープ及び前記第2ワイヤロープの繰り出し、及び巻き取りをなくした状態で、前記海側緊張装置及び前記陸側緊張装置により、前記第1ワイヤロープ及び前記第2ワイヤロープに張力を与え、前記スライド式ブームを前記上部構造物に固定する制御を行い、
前記スライド式ブームをスライドする際には、前記海側緊張装置及び前記陸側緊張装置により、前記第1ワイヤロープ及び前記第2ワイヤロープに張力を与え、前記ワイヤロープドラムを回転し、前記第1ワイヤロープを繰り出し又は巻き取り、前記第2ワイヤロー
プを巻き取り又は繰り出し、前記スライド式ブームをスライドする制御を行い、
地震が発生した際には、前記海側緊張装置及び前記陸側緊張装置により、前記第1ワイヤロープ及び前記第2ワイヤロープの張力を開放してたるみを発生させ、前記スライド式ブームを揺動自在とする制御を行うことを特徴とする岸壁クレーンの制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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