説明

岸壁クレーン

【課題】
地震発生時に逸走防止装置が解除され、クレーン1が走行方向yに摺動又は走行できるように構成した解除機能付逸走防止装置を有するクレーンを提供する。
【解決手段】
嵌入溝12に嵌入するアンカー11を含む逸走防止装置を有するクレーンにおいて、クレーン1が解除機能付逸走防止装置10を有しており、解除機能付逸走防止装置10が、アンカー11の一端に連結してアンカー11を懸吊するアンカー連結部材13と、アンカー11の水平方向の移動を拘束するアンカーホルダ8を有しており、地震発生時に、アンカー連結部材13によるアンカー11の懸吊が解除され、アンカー11が自重で嵌入溝12内に落下し、アンカー11の上端部がアンカーホルダ8の下端部よりも低い位置となる構成を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、港湾や内陸地のコンテナターミナルなどで、コンテナの荷役に使用される岸壁クレーンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
港湾や内陸地等のコンテナターミナルでは、岸壁クレーンや門型クレーンによって、船舶、鉄道及びトレーラ間のコンテナの荷役を行っている。この岸壁クレーンの地震対策として、クレーンの脚構造物と走行装置の間に免振装置(免震装置ともいう)を設置し、脚構造物に揺脚構造を採用した免振クレーンがある(例えば特許文献1参照)。
【0003】
図9に、免振装置を有するクレーンを示す。この岸壁クレーン(以下、クレーンという)1Xは、脚構造物32と、脚構造物32で支持するブーム33及びガーダ34を有している。また、脚構造物32と走行装置2Xの間に、積層ゴム等で構成した免振装置4と、脚構造物32の一部を揺脚構造とする枢支ピン38を有している。なお、30は岸壁、35は荷役装置(トロリ)、36はコンテナ船、37はコンテナを示す。また、x軸方向はクレーンの横行方向(海陸方向)、zは鉛直方向を示す。
【0004】
次に、このクレーン1Xによる荷役作業について説明する。クレーン1Xは、コンテナ船36に搭載したコンテナ37をトロリ35の吊り具で吊上げ、岸壁30で待機しているトレーラ(図示しない)に搭載する荷役作業を行っている。又はクレーン1Xは、コンテナ37をトレーラからコンテナ船36に積み込む荷役作業を行っている。また、この荷役作業において、クレーン1Xは、岸壁30に沿って(図9の紙面奥又は手前方向に)敷設したレール上を走行装置2Xで移動し、荷下ろしあるいは積み込みの位置を変更しながら荷役作業を行っている。
【0005】
次に、このクレーン1Xの地震発生時の動作について説明する。地震発生時には、免振装置4を固定していたせん断ピン等が破断し、免振装置4が作動する。免振装置4は、地表面の振動からクレーン1Xを絶縁する効果を有する。ここで、免振装置4及び枢支ピン38による揺脚構造は、クレーン1Xの横行方向xの振動を吸収することができる。また、クレーン1Xの走行方向y(図9の紙面奥又は手前方向)の振動は、走行装置2Xがレールに沿って移動して吸収する構成としていた。
【0006】
しかしながら、上記の岸壁クレーン1Xは、休業時に走行方向yの免振効果を得ることができないという問題を有している。これは、逸走防止装置が、休業時のクレーンの走行方向への移動を防止しているためである。
【0007】
次に、逸走防止装置について説明する。図10に、休業時の岸壁クレーン1Xの走行装置2X周辺の拡大図を示す。クレーン1Xは、脚構造物32と、免振装置4と、走行装置2Xと、逸走防止装置10Xを有している。逸走防止装置10Xは、アンカー11Xと、走行装置2Xに固定したアンカーホルダ8を有している。このアンカーホルダ8は、アンカー11Xの水平方向の移動を拘束するものである。なお、6は、岸壁30上に敷設したレール6を示している。走行装置2Xは、このレール6上を走行することができる。また、免振装置4は、通常時には水平方向のスライドを拘束するために、固定装置5を有している。
【0008】
次に、逸走防止装置10Xの動作について説明する。クレーン1Xによる荷役作業が終了した後、作業員は、走行装置2Xに設置したアンカー11Xを、岸壁30に穿孔して形
成した嵌入溝12に嵌入する。この逸走防止装置10Xにより、クレーン1Xは、風等の影響により、レール6上を走行することを防止している。特に、台風時には、通常よりも太い台風用のアンカーを使用して、クレーン1Xの逸走を防止している。
【0009】
この逸走防止装置10Xが作動している際に、地震が発生し、クレーン1Xの走行方向yに荷重がかかった場合、クレーン1Xは、走行方向yに摺動又は走行できないため、転倒してしまうおそれがある。つまり、逸走防止装置10Xが作動している間は、クレーン1Xは、走行方向yの免振効果を得ることができないという問題を有している。ここで、地震発生時にクレーン1Xにかかる荷重は、風荷重よりも大きいものを想定している。
【0010】
以上より、従来の岸壁クレーン1Xは、休業時に地震が発生した場合、クレーンの走行方向yの地震動を十分に吸収することができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2000−44168号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記の問題を鑑みてなされたものであり、その目的は、逸走防止装置を有するクレーンにおいて、地震発生時に逸走防止装置が解除され、クレーンが走行方向に摺動又は走行できるように構成した解除機能付逸走防止装置を有するクレーンを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の目的を達成するための本発明に係るクレーンは、岸壁に形成した嵌入溝に嵌入するアンカーを含む逸走防止装置を有するクレーンにおいて、前記クレーンが解除機能付逸走防止装置を有しており、前記解除機能付逸走防止装置が、前記アンカーの一端に連結して前記アンカーを懸吊するアンカー連結部材と、前記アンカーの水平方向の移動を拘束するアンカーホルダを有しており、地震発生時に、前記アンカー連結部材による前記アンカーの懸吊が解除され、前記アンカーが自重で前記嵌入溝内に落下し、前記アンカーの上端部が前記アンカーホルダの下端部よりも低い位置となる構成を有したことを特徴とする。
【0014】
この構成により、地震発生時に逸走防止装置が解除され、クレーンが走行方向に摺動又は走行できるように構成した解除機能付逸走防止装置を有するクレーンを提供することができる。このクレーンは、休業時に地震が発生した場合であっても、逸走防止装置を自動的に解除できるため、免振効果を得ることができる。つまり、クレーンは、走行方向に摺動又は走行できるため、走行方向の地震動を吸収することができる。
【0015】
上記のクレーンにおいて、前記解除機能付逸走防止装置が、前記アンカーに連結した前記アンカー連結部材と、前記アンカー連結部材の他端に連結したアクチュエータを有しており、地震発生時に、前記アクチュエータが作動して、前記アンカー連結部材による前記アンカーの懸吊が解除され、前記アンカーが前記嵌入溝内に落下する構成を有することを特徴とする。この構成により、上記と同様の作用効果を得ることができる。なお、アクチュエータは、例えば、油圧シリンダ、エアシリンダ、スクリュージャッキ式シリンダ、ボールネジ機構、ラックアンドピニオン機構、及び電動モータ等で構成することができる。
【0016】
前述のクレーンにおいて、前記解除機能付逸走防止装置が、前記アンカーに連結した前記アンカー連結部材と、前記アンカー連結部材の他端に連結したせん断ピンを有しており、地震発生時に、前記せん断ピンが破断して、前記アンカー連結部材による前記アンカー
の懸吊が解除され、前記アンカーが前記嵌入溝内に落下する構成を有することを特徴とする。この構成により、低コスト且つ簡易な構造で、解除機能付逸走防止装置を構成することができる。
【0017】
上記の目的を達成するための本発明に係るクレーンは、岸壁に形成した嵌入溝に嵌入するアンカーを含む逸走防止装置を有するクレーンにおいて、前記クレーンが解除機能付逸走防止装置を有しており、前記解除機能付逸走防止装置が、前記アンカーの一端に連結したアンカー連結部材と、前記アンカー連結部材の他端に連結したウェイトと、前記ウェイトを支持するウェイト支持機構と、前記アンカー連結部材の中途部を支持する支点を有しており、地震発生時に、前記ウェイト支持機構の解除により前記ウェイトが自重で落下し、前記支点を介して移動又は回転した前記アンカー連結部材により、前記アンカーが前記嵌入溝から引き抜かれる構成を有したことを特徴とする。
【0018】
この構成により、前述したクレーンと同様の作用効果を得ることができる。また、支点やウェイトを利用する構成により、アンカー及びウェイト支持機構の設置位置の自由度を向上することができる。
【0019】
上記のクレーンにおいて、前記アンカー連結部材が、前記支点(支持軸)を介して回転可能に支持された柱状部材(アンカーバー)であり、一端に前記アンカーを、他端に前記ウェイトを連結したことを特徴とする。この構成により、上記と同様の作用効果を得ることができる。
【0020】
前述のクレーンにおいて、前記アンカー連結部材が、少なくとも1つの滑車からなる前記支点(滑車)で支持された紐状部材(アンカーワイヤ)であり、一端に前記アンカーを、他端に前記ウェイトを連結したことを特徴とする。この構成により、前述と同様の作用効果を得ることができる。
【0021】
上記のクレーンにおいて、前記ウェイト支持機構が、前記ウェイトを把持する把持装置を有しており、前記把持装置が、外部からの地震発生の信号により、前記ウェイトの把持を解除する構成を有することを特徴とする。この構成により、クレーンは、地震発生時にのみ正確に逸走防止装置を解除することができる。そのため、台風等で、クレーンを岸壁に固定しなくてはならないような場合に、誤って逸走防止装置が解除されるような事故を防止することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係るクレーンによれば、地震発生時に逸走防止装置が解除され、クレーンが走行方向に摺動又は走行できるように構成した解除機能付逸走防止装置を有するクレーンを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係る実施の形態のクレーンの解除機構付逸走防止装置を示した図である。
【図2】本発明に係る実施の形態のクレーンの解除機構付逸走防止装置を示した図である。
【図3】本発明に係る異なる実施の形態のクレーンの解除機構付逸走防止装置を示した図である。
【図4】本発明に係る異なる実施の形態のクレーンの解除機構付逸走防止装置を示した図である。
【図5】本発明に係る異なる実施の形態の解除機構付逸走防止装置を示した図である。
【図6】本発明に係る異なる実施の形態の解除機構付逸走防止装置を示した図である。
【図7】本発明に係る異なる実施の形態の解除機構付逸走防止装置の動作を示した図である。
【図8】本発明に係る異なる実施の形態の解除機構付逸走防止装置を示した図である。
【図9】従来の岸壁クレーンを示した図である。
【図10】従来の岸壁クレーンの逸走防止装置を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明に係る実施の形態のクレーンについて、図面を参照しながら説明する。図1に、本発明に係る実施の形態のクレーン1の走行装置2周辺の拡大図を示す。このクレーン1は、休業時の様子を示している。クレーン1は、脚構造物3と、免振装置4と、走行装置2と、解除機能付逸走防止装置(以下、逸走防止装置という)10を有している。この逸走防止装置10は、岸壁30に穿孔して形成した嵌入溝12に嵌入するアンカー11と、アンカー11を水平方向に拘束するアンカーホルダ8と、アンカー11に連結した紐状部材のアンカー連結部材13(例えば、アンカーワイヤ13a等)を有している。このアンカーワイヤ13aの他端は、固定装置5を連結するせん断ピン7に連結している。なお、6は、岸壁30に敷設したレール6を示している。
【0025】
図2に、地震発生時の走行装置2周辺の拡大図を示す。地震の発生に伴う横行方向x(図2紙面手前奥方向)の振動により、固定装置5に設置したせん断ピン7が破断する。このせん断ピン7の破断により、免振装置4が、水平方向(横行方向x)にスライドし、地震動を吸収する。このとき、せん断ピン7の破断と共に、アンカーワイヤ13aの緊張が解放され、アンカー11が自重で落下する。このアンカー11の上面(上端部)が、アンカーホルダ8の下面(下端部)よりも低い位置となり、逸走防止装置10によるクレーン1の固定が解除される。そのため、クレーン1は、走行方向yに摺動又は走行し、走行方向yの地震動を吸収することができる。
【0026】
上記の構成により、以下の作用効果を得ることができる。第1に、クレーン1は、休業時であっても走行方向yの地震動に対する免振効果を得ることができる。これは、地震発生により免振装置が作動した場合、この免振装置の作動開始をトリガーとして、アンカーワイヤ13a及びせん断ピン7によるアンカー11の懸吊(支持)を解除することができるためである。つまり、クレーン1は、アンカー11による岸壁30への固定を解除され、走行装置による摺動又は走行により、走行方向yの地震動を吸収することができる。
【0027】
第2に、地震と同時に停電が発生した場合であっても、逸走防止装置10によるクレーン1の固定を確実に解除することができる。これは、アンカー11の支持を解除する動作を、クレーン1の電源を利用した電気的な制御を利用せずに行っているためである。
【0028】
なお、アンカー連結部材13(アンカーワイヤ13a)は、ワイヤ等の代わりに、リンク機構又は柱状部材等で構成することもできる。また、アンカーワイヤ13aの端部は、せん断ピン7に連結する構成に限られない。アンカーワイヤ13aが、免振装置4の作動に伴い、アンカー11の支持を解除する構成を有していればよい。具体的には、アンカーワイヤ13aの端部を、地震発生時にアンカーワイヤ13aの懸吊を解除するアクチュエータに連結してもよい。このアクチュエータは、例えば、油圧シリンダ、エアシリンダ、スクリュージャッキ式シリンダ、ボールネジ機構、ラックアンドピニオン機構、及び電動モータ等で構成することができる。また、アンカーワイヤ13aが、免振装置4のスライドにより切断される構成としてもよい。
【0029】
図3に、本発明に係る異なる実施の形態のクレーン1Aの走行装置2周辺の拡大図を示す。このクレーン1Aは、休業時の様子を示している。クレーン1Aの逸走防止装置10Aは、岸壁30に穿孔して形成した嵌入溝12に嵌入するアンカー11と、アンカー11に連結した紐状部材のアンカー連結部材13(例えば、アンカーワイヤ13a等)と、アンカーワイヤ13aの他端に連結したウェイト14と、紐状のアンカーワイヤ13aを支持する1つ又は複数の支点18(例えば、滑車18a)と、ウェイト14をクレーン1から懸吊(支持)するウェイトワイヤ17を有している。このウェイトワイヤ17の他端は、固定装置5を連結するせん断ピン7に連結している。以下、このウェイトワイヤ17とせん断ピン7を総称して、ウェイト支持機構15と呼ぶ。なお、アンカーワイヤ13aを支持する滑車18a(支点18)は、クレーン1(走行装置2)に設置されている。また、6は、岸壁30に敷設したレール6を示している。
【0030】
図4に、地震発生時の走行装置2周辺の拡大図を示す。地震の発生に伴う横行方向x(図4紙面手前奥方向)の振動により、固定装置5に設置したせん断ピン7が破断する。このせん断ピン7の破断により、免振装置4が、水平方向(横行方向x)にスライドし、地震動を吸収する。このとき、せん断ピン7の破断と共に、ウェイトワイヤ17の緊張が開放され、ウェイト14が自重で落下する。このウェイト14の落下に伴い、アンカーワイヤ13a(アンカー連結部材13)を介して、アンカー11が鉛直上向きに牽引される。このアンカー11の下面(下端部)が、嵌入溝12の上面(上端部)よりも高い位置となり、逸走防止装置10Aによるクレーン1Aの固定が解除される。そのため、クレーン1は、走行方向yに摺動又は走行し、走行方向yの地震動を吸収することができる。
【0031】
上記の構成により、以下の作用効果を得ることができる。第1に、クレーン1Aは、休業時であっても走行方向yの地震動に対する免振効果を得ることができる。これは、地震発生により免振装置が作動した場合、この免振装置の作動開始をトリガーとして、ウェイト支持機構15(例えば、ウェイトワイヤ17及びせん断ピン7)によるウェイト14の支持を解除することができるためである。つまり、クレーン1Aは、アンカー11による岸壁30への固定を解除され、走行装置による摺動又は走行により、走行方向yの地震動を吸収することができる。
【0032】
第2に、地震と同時に停電が発生した場合であっても、逸走防止装置10Aによるクレーン1Aの固定を確実に解除することができる。これは、ウェイト支持機構15の作動を、クレーン1Aの電源を利用した電気的な制御を利用せずに行っているためである。
【0033】
第3に、アンカー11、アンカーホルダ8及びウェイト支持機構15の設置位置の自由度を向上することができる。
【0034】
なお、ウェイトワイヤ17は、ワイヤ等の代わりに、リンク機構又は柱状部材等で構成することもできる。また、ウェイトワイヤ17の端部は、せん断ピン7に連結する構成に限られない。ウェイト支持機構15は、免振装置4の作動に伴い、ウェイト14の支持を解除する構成を有していればよい。具体的には、例えば、ウェイトワイヤ17が、免振装置4のスライドにより切断される構成としてもよい。
【0035】
図5に、本発明の異なる実施の形態のクレーン1Bの解除機構付逸走防止装置10Bの概略を示す。逸走防止装置10Bは、アンカー11と、アンカーホルダ8(図示しない)と、アンカーワイヤ13a(アンカー連結部材13)と、ウェイト14と、ウェイト支持機構15Bを有している。ウェイト支持機構15Bは、ウェイトワイヤ17と、ウェイトワイヤ17を把持する把持装置20と、把持装置20を制御する制御装置21を有している。この把持装置20と制御装置21は、信号線22で接続している。この制御装置21は、外部から無線又は有線で信号を受信する構成を有している。なお、図5には、ウェイ
ト支持機構15Bを走行装置2に設置した構成を示しているが、ウェイト支持機構15Bを、クレーン1Bの脚構造物3又は免振装置4等に設置してもよい。また、把持装置20と制御装置21を一体に構成してもよい。
【0036】
次に、逸走防止装置10Bの動作について説明する。まず、地震発生時に、緊急地震速報又はコンテナターミナルに設置した地震計等から、制御装置21に信号を送信する。制御装置21は、地震発生の信号を受けると、把持装置20にウェイト14の支持を解除する信号を送る。把持装置20の解除により、ウェイト14は自重で落下する。ウェイト14の落下に伴い、アンカー11が、アンカーワイヤ13aにより上方に引かれる。アンカー11は、嵌入溝12から引き抜かれ、クレーン1の走行方向yの固定を解除する。つまり、逸走防止装置10Bが解除される。
【0037】
上記の構成により、逸走防止装置10Bの解除を、地震発生時にのみ正確に行うことができる。これは、大型台風等の風荷重により、免振装置4が誤って作動した場合であっても、緊急地震速報等の信号を受信しない限り、逸走防止装置10Bが解除されないためである。
【0038】
なお、把持装置20は、ウェイトワイヤ17を介さず、直接ウェイト14を把持するように構成してもよい。例えば、機械的な構造で把持してもよく、電磁石等でウェイト14を吸着するように把持してもよい。また、ウェイト支持機構15Bに、バッテリー等の電源を接続してもよい。この構成により、地震と共に停電が発生した場合であっても、逸走防止装置10Bを解除することができる。更に、ウェイト支持装置15Bの把持装置20に、電磁的なスイッチを設置し、通電時にのみウェイト14の支持を維持するように構成してもよい。この構成により、地震発生と共に停電が発生した場合であっても、ウェイト14を落下させ、逸走防止装置10Bを解除することができる。
【0039】
図6に、本発明の異なる実施の形態のクレーンの解除機構付逸走防止装置10Cを示す。この逸走防止装置10Cは、クレーンの休業時の様子を示している。逸走防止装置10Cは、アンカー連結部材13を、柱状部材のアンカーバー13bで構成している。このアンカーバー13bは、クレーン1C(走行装置2)に固定した支持軸18b(支点18)で回転可能に支持されている。ここで、アンカーバー13bは、ウェイト14の落下方向の力を、アンカー11の引き抜き方向の力として伝達する構成であれば、上記に限定されない。なお、ウェイト支持機構15Cは、図5に示したものと同様である。
【0040】
この逸走防止装置10Cは、前述と同様、地震発生時に把持装置20が解除され、ウェイト14が落下し、アンカー11が嵌入溝12から引き抜かれる(図7参照)。つまり、クレーンの逸走防止装置10Cが解除される。この構成により、クレーンは、前述と同様の作用効果を得ることができる。なお、支持軸18bは、アンカーバー13bの中間点よりもウェイト14側に設置することが望ましい。この構成により、アンカー11の移動距離が大きくなり、アンカー11を嵌入溝12から確実に引き抜くことができるためである。
【0041】
図8に、異なる実施の形態のウェイト支持機構15Dを示す。ウェイト支持機構15Dは、油圧シリンダトリガ40とガイド46を有している。油圧シリンダトリガ40は、筐体41と、連通孔42と、この連通孔42を閉止する閉止膜43と、軸44と、この軸44に固定した固定片45を有している。この油圧シリンダトリガ40は、軸44で、ウェイトワイヤ17を懸吊している。また、ガイド44は、ウェイトワイヤ17を軸44上に保持するように構成している。更に、筐体41内は、例えば油等の流体を充填している。なお、ウェイト支持機構15Dは、地震発生時に筐体41及びガイド46に対して、軸44
が相対位置を変位するように設置する。具体的には、例えば筐体41及びガイド46を走
行装置側に設置し、固定片45を脚構造物3側に設置する。また、筐体41及びガイド46と、固定片45を、免震装置4の天板側及び底板側にそれぞれ設置するように構成してもよい。更に、ウェイト支持機構15Dを、軸44の摺動方向が走行方向yと交わる方向、望ましくは横行方向xと平行となるように設置する。
【0042】
次に、ウェイト支持機構15Dの動作について説明する。地震が発生した際、筐体41
に対して軸44の相対位置を変位させる力が働く。つまり、軸44が、筐体41に対して押し込まれる、又は引き抜かれる方向の力を受ける。この力により、閉止膜43が破壊され、筐体41内の流体が連通孔42を介して移動可能となる。このため、油圧シリンダトリガ40の軸44は、筐体41に対して摺動自在となる。この軸44の摺動により、ウェイトワイヤ17は軸44からはずれ、ウェイト14(図示しない)が落下する。つまり、ウェイト支持機構15Dが解除される。
【0043】
なお、ウェイト支持機構15Dは、少なくとも地震発生時に解除される機構を有していればよい。そのため、閉止膜43を設置しない構成としてもよい。閉止膜43を設置した場合は、ウェイト支持機構15Dの誤作動の発生等を抑制することができる。
【0044】
また、連通孔42内に、バルブを設置する構成としてもよい。このバルブは、予め定めた圧力を超える外力が働いた場合に、開となる構成とする。このバルブは、筐体41の外部から、例えば作動圧ライン又は制御信号線等を介して、開閉を制御できる構成とすることが望ましい。この構成により、地震発生後の復旧作業が容易となる。つまり、復旧作業は、軸44にウェイトワイヤ17をかけ、軸44の位置を戻し、バルブを閉とする作業で完了するため、容易となる。
【0045】
その他に、軸44に円環状のストッパー等を設置して、筐体41と軸44の相対位置を固定する構成としてもよい。地震発生時には、ストッパーが破壊され、軸44が摺動するように構成する。この構成により、上記と同様に復旧作業が容易となる。
【0046】
更に、ウェイト支持機構15Dは、油圧シリンダトリガ40の摺動に伴い、ウェイト14が落下する構成を有していればよく、上記の構成に限定されない。例えば、油圧シリンダトリガ40の伸縮に伴い、軸44が、台上に載置してあるウェイト14を押し出して、ウェイト14を落下させる構成としてもよい。
【0047】
加えて、油圧シリンダトリガ40を利用したウェイト支持機構15Dは、図1及び2に
示した実施例で使用することもできる。つまり、図1及び2のアンカーワイヤ13aを、せん断ピン7の代わりに、油圧シリンダトリガ40の軸44に連結することができる。この構成より、図1及び2に示したクレーン1は、地震発生時に、アンカー11による固定を解除することができる。また、油圧シリンダトリガの他に、エアシリンダ、スクリュージャッキ式シリンダ、ボールネジ機構、ラックアンドピニオン機構、電磁弁及び電動モータ等の他のアクチュエータを使用してもよい。
【0048】
以上の構成により、クレーンは、走行方向yの地震動を効果的に吸収することが可能となる。なお、図1乃至8に示したアンカー連結部材13(13a、13b)及びウェイト支持機構15は、それぞれ任意の構成を選択し、組み合わせて使用することができる。つまり、例えば、ウェイト14を利用しない構成(図1及び2参照)のアンカーワイヤ13aを、せん断ピン7の代わりに把持装置20に連結する構成とすることができる。なお、把持装置20は、多種のアクチュエータの内から任意のものを選択して、構成することができる。また、柱状部材で構成したアンカーバー13bと、せん断ピン7を利用したウェイト支持機構15を組み合わせることができる。更に、本発明は、逸走防止装置を有するクレーンであれば、岸壁クレーン、門型クレーン又はその他のクレーンのいずれにも適用
することができる。
【符号の説明】
【0049】
1、1A、1B、1C クレーン
7 せん断ピン
8 アンカーホルダ
10、10A、10B、10C 解除機能付逸走防止装置(逸走防止装置)11 アンカー
12 嵌入溝
13 アンカー連結部材
13a アンカーワイヤ
13b アンカーバー
14 ウェイト
15、15A、15B、15C、15D ウェイト支持機構
17 ウェイトワイヤ
18 支点
18a 滑車
18b 支持軸
20 把持装置
30 岸壁
40 油圧シリンダトリガ
41 筐体
42 連通孔
43 閉止膜
44 軸
45 固定片
46 ガイド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
岸壁に形成した嵌入溝に嵌入するアンカーを含む逸走防止装置を有するクレーンにおいて、
前記クレーンが解除機能付逸走防止装置を有しており、
前記解除機能付逸走防止装置が、前記アンカーの一端に連結して前記アンカーを懸吊するアンカー連結部材と、前記アンカーの水平方向の移動を拘束するアンカーホルダを有しており、
地震発生時に、前記アンカー連結部材による前記アンカーの懸吊が解除され、前記アンカーが自重で前記嵌入溝内に落下し、前記アンカーの上端部が前記アンカーホルダの下端部よりも低い位置となる構成を有したことを特徴とするクレーン。
【請求項2】
前記解除機能付逸走防止装置が、前記アンカーに連結した前記アンカー連結部材と、前記アンカー連結部材の他端に連結したアクチュエータを有しており、
地震発生時に、前記アクチュエータが作動して、前記アンカー連結部材による前記アンカーの懸吊が解除され、前記アンカーが前記嵌入溝内に落下する構成を有することを特徴とする請求項1に記載のクレーン。
【請求項3】
前記解除機能付逸走防止装置が、前記アンカーに連結した前記アンカー連結部材と、前記アンカー連結部材の他端に連結したせん断ピンを有しており、
地震発生時に、前記せん断ピンが破断して、前記アンカー連結部材による前記アンカーの懸吊が解除され、前記アンカーが前記嵌入溝内に落下する構成を有することを特徴とする請求項1に記載のクレーン。
【請求項4】
岸壁に形成した嵌入溝に嵌入するアンカーを含む逸走防止装置を有するクレーンにおいて、
前記クレーンが解除機能付逸走防止装置を有しており、
前記解除機能付逸走防止装置が、前記アンカーの一端に連結したアンカー連結部材と、前記アンカー連結部材の他端に連結したウェイトと、前記ウェイトを支持するウェイト支持機構と、前記アンカー連結部材の中途部を支持する支点を有しており、
地震発生時に、前記ウェイト支持機構の解除により前記ウェイトが自重で落下し、前記支点を介して移動又は回転した前記アンカー連結部材により、前記アンカーが前記嵌入溝から引き抜かれる構成を有したことを特徴とするクレーン。
【請求項5】
前記アンカー連結部材が、前記支点を介して回転可能に支持された柱状部材であり、一端に前記アンカーを、他端に前記ウェイトを連結したことを特徴とする請求項4に記載のクレーン。
【請求項6】
前記アンカー連結部材が、少なくとも1つの滑車からなる前記支点で支持された紐状部材であり、一端に前記アンカーを、他端に前記ウェイトを連結したことを特徴とする請求項4に記載のクレーン。
【請求項7】
前記ウェイト支持機構が、前記ウェイトを把持する把持装置を有しており、前記把持装置が、外部からの地震発生の信号により、前記ウェイトの把持を解除する構成を有することを特徴とする請求項4乃至6のいずれか1項に記載のクレーン。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2012−180210(P2012−180210A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−45526(P2011−45526)
【出願日】平成23年3月2日(2011.3.2)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【Fターム(参考)】