説明

工作機械

【課題】コラムに作用する曲げモーメント(転倒モーメント)に起因するコラムの変形の補償(コラムの前倒れ補正)を、すべり面(案内面)の湾曲カーブ加工に依らずに行い、高度な加工精度を確保すること。
【解決手段】左右のコラム13、14の各々に、左側のコラム13に負荷された重量による転倒モーメントを打ち消す方向のモーメントを当該コラム13に付与する左側の逆モーメント付与手段40と、右側のコラム14に負荷された重量による転倒モーメントを打ち消す方向のモーメントを当該コラム14に付与する右側の逆モーメント付与手段50とを設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、工作機械に関し、特に、機械フレームの変形に起因するコラムの前倒れ補正を行う工作機械に関するものである。
【背景技術】
【0002】
クロスレール昇降式の門形工作機械では、主軸頭が左右方向(Y軸方向)に移動すると、クロスレールの昇降送り系に負荷される荷重が変化し、この荷重変化により水平度を損ねる方向にクロスレールが傾くため、各種の防止対策が採用されている。
【0003】
例えば、クロスレールに左右一対の油圧シリンダ装置を取り付け、主軸頭のY軸座標位置に応じて左右の油圧シリンダ装置に供給する油圧力を制御する油圧サーボバランスシリンダ方式のものや(例えば、特許文献1)、クロスレールを支える左右のコラムにリニアスケールを設け、左右のリニアスケールの値が一定になるように、クロスレールの昇降送りのサーボ系で制御するものがある(例えば、特許文献2)。
【0004】
また、横中繰ぐり盤では、ラム、中繰ぐり主軸の繰り出しによって主軸頭が傾くのを防ぐため、主軸頭のカウンタウエイトを移動させる方式や、前後二箇所の吊り具にかかる力を変更する方式等が採用されている(例えば、特許文献3)。
【特許文献1】特開平9−94735号公報
【特許文献2】特開昭55−96243号公報
【特許文献3】特開平2−36050号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、何れも、クロスレールや主軸頭等の移動体の重心位置がコラムに設けられているこれらの案内面とは異なった位置にあるため、コラムに曲げモーメントが作用し、移動軸と直交方向にコラムの変位(曲げ撓み)が生じる。
【0006】
門形機では、バランスシリンダやクロスレール昇降の送りねじがクロスレールや主軸頭の重心を支えているわけではないので、コラムにかかる転倒モーメントが主軸頭の位置によって変化し、これによってコラムの前倒れが発生し、クロスレール昇降(W軸)の真直度およびこれとテーブル送り(X軸)およびラム送りとテーブル送りとの直角度が維持されなくなる。
【0007】
このことに対し、従来は、コラムの仕上げ加工時に個々のサイズに合わせてすべり面(案内面)、例えば、クロスレール案内面に、コラム前倒れとは逆傾向の微妙な湾曲カーブを付けることにより対応している。
【0008】
このため、仕様の異なる場合には、組立後の検査結果によっては、修正加工が必要になることがあり、しかも、コラムに作用する曲げモーメントに起因するコラムの変形を完全に補償することは難しく、加工精度を高度に確保することが難しい。
【0009】
この発明が解決しようとする課題は、コラムに作用する曲げモーメント(転倒モーメント)に起因するコラムの変形の補償(コラムの前倒れ補正)を、すべり面(案内面)の湾曲カーブ加工に依らずに行い、高度な加工精度を確保することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明による工作機械は、垂直に立設された左右のコラムと、前記左右のコラムの上部を互いに結合するトップビームと、前記左右のコラムの前面に上下方向に移動可能に設けられたクロスレールと、前記クロスレールの前面に左右方向に移動可能に設けられた主軸頭と、前記主軸頭に上下方向に移動可能に設けられ主軸を内蔵したラムとを有するクロスレール昇降式の門形の工作機械において、前記左右のコラムの各々に、左側の前記コラムに負荷された重量による転倒モーメントを打ち消す方向のモーメントを当該左側のコラムに付与する左側の逆モーメント付与手段と、右側の前記コラムに負荷された重量による転倒モーメントを打ち消す方向のモーメントを当該右側のコラムに付与する右側の逆モーメント付与手段とを有する。
【0011】
この発明による工作機械は、上述の発明によるクロスレール昇降式の門形の工作機械において、前記主軸頭の左右方向の位置情報と、前記クロスレールの上下方向の位置情報を入力し、前記主軸頭の左右方向位置情報と前記クロスレールの上下方向位置情報に応じて前記左側の逆モーメント付与手段によるモーメント付与量と前記右側の逆モーメント付与手段によるモーメント付与量を制御する制御手段を有する。
【0012】
この発明による工作機械は、垂直に立設された左右のコラムと、前記左右のコラムの上部を互いに結合するクロスレールと、前記クロスレールの前面に左右方向に移動可能に設けられた主軸頭と、前記主軸頭に上下方向に移動可能に設けられ主軸を内蔵したラムとを有するクロスレール固定式の門形の工作機械において、前記左右のコラムの各々に、左側の前記コラムに負荷された重量による転倒モーメントを打ち消す方向のモーメントを当該左側のコラムに付与する左側の逆モーメント付与手段と、右側の前記コラムに負荷された重量による転倒モーメントを打ち消す方向のモーメントを当該右側のコラムに付与する右側の逆モーメント付与手段とを有する。
【0013】
この発明による工作機械は、上述の発明によるクロスレール固定式の門形の工作機械において、前記主軸頭の左右方向の位置情報を入力し、当該主軸頭の左右方向位置情報に応じて前記左側の逆モーメント付与手段によるモーメント付与量と前記右側の逆モーメント付与手段によるモーメント付与量を制御する制御手段を有する。
【0014】
この発明による工作機械は、垂直に立設された一つのコラムと、前記コラムの側面に上下方向に移動可能に設けられた主軸頭を有するシングルコラム型の工作機械において、
前記コラムに負荷された重量による転倒モーメントを打ち消す方向のモーメントを当該コラムに付与する逆モーメント付与手段を有する。
【0015】
この発明による工作機械は、上述の発明によるシングルコラム型の工作機械において、前記主軸頭の上下方向の位置情報を入力し、前記主軸頭の上下方向位置情報に応じて前記モーメント付与手段によるモーメント付与量を制御する制御手段を有する。
【0016】
この発明による工作機械は、上述の発明によるシングルコラム型の工作機械において、更に、前記主軸頭に、左右方向に移動可能に設けられ繰り出し可能な中ぐり主軸を内蔵したラムを有し、前記制御手段は、前記主軸頭の上下方向の位置情報に加えて、前記ラムおよび前記中ぐり主軸の左右方向の位置情報を入力し、前記主軸頭の上下方向位置情報と前記ラムおよび前記中ぐり主軸の左右方向位置情報に応じて前記モーメント付与手段によるモーメント付与量を制御する。
【0017】
この発明による工作機械は、更に、前記主軸頭に前記ラムがスイベルヘッドによって傾動可能に設けられており、前記制御装置は、前記スイベルヘッドの傾斜角を示す傾斜角情報を入力し、当該傾斜角情報を加味して前記モーメント付与手段によるモーメント付与量を制御する。
【0018】
この発明による工作機械は、好ましくは、前記ラムと前記主軸頭の少なくとも何れか一方に、これらの水平度を計測する水平レベル測定器が設けられられ、前記制御装置は、前記水平レベル測定器より水平度情報を入力し、前記モーメント付与手段によるモーメント付与が適正を行われているか否かを判別する。
【0019】
この発明による工作機械は、更に、前記ラムと前記主軸頭の少なくとも何れか一方に設けられ、これらの水平度を計測する水平レベル測定器と、前記水平レベル測定器より水平度情報を入力し、当該水平度情報に前記逆モーメント付与手段によるモーメント付与量を制御する制御手段を有する。
【0020】
この発明による工作機械は、好ましくは、前記逆モーメント付与手段は、連結ビーム部材と、自動制御可能に軸力を変化する軸力変化要素との直列連結体により構成され、当該直列連結体の一端を前記コラムの上部に接続され、他端を前記コラムの下部に接続されている。
【発明の効果】
【0021】
この発明による工作機械は、逆モーメント付与手段によって、コラムに負荷された主軸頭やクロスレール等の重量による転倒モーメントを打ち消す方向のモーメントをコラムに付与することにより、コラムに作用する転倒モーメントに起因するコラム変形の補償(コラムの前倒れ補正)が行われる。これにより、高度な加工精度を確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
この発明による工作機械の実施形態1を、図1〜図4を参照して説明する。
【0023】
実施形態1の工作機械は、クロスレール昇降式の門形工作機械であり、図1、図2に示されているように、固定配置のべッド11上にX軸方向(図1で見て紙面を直角に貫通する方向)に移動可能なテーブル12を有する。べッド11の左右両側には、左コラム13と右コラム14が各々垂直に立設されている。左コラム13と右コラム14は上部をトップビーム15によって互いに結合されている。
【0024】
左コラム13、右コラム14は、各々、前面に、上下方向に長いガイド面16、17を有する。左コラム13、右コラム14には、横けた部材をなすクロスレール18がガイド面16、17に案内されて上下方向(W軸方向)に移動可能に設けられている。
【0025】
左コラム13、右コラム14には、各々、左W軸ボールねじ19、右W軸ボールねじ20、左W軸ボールねじ19を回転駆動する左W軸サーボモータ21、右W軸ボールねじ20を回転駆動する右W軸サーボモータ22が設けられており、これらW軸送り駆動系(昇降送り系)によってクロスレール18がW軸駆動(昇降駆動)され、当該W軸駆動によりクロスレール18のW軸座標位置が決まる。
【0026】
左W軸サーボモータ21には左W軸サーボモータ21のモータ位置を検出する左W軸ロータリエンコーダ23が、右W軸サーボモータ22には右W軸サーボモータ22のモータ位置を検出する右W軸ロータリエンコーダ24が各々設けられており、これらによってクロスレール18のW軸座標位置が検出される。
【0027】
左コラム13、右コラム14には、クロスレール18の左右端近傍に接続された左右一対の左バランス用油圧シリンダ装置25と右バランス用油圧シリンダ装置26が取り付けられている。
【0028】
左バランス用油圧シリンダ装置25、右バランス用油圧シリンダ装置26は、油圧力制御により、クロスレール重量の大半と後述する主軸頭(サドル)28のY軸座標位置に応じて互いに相反するバランス力を生じるように動作する。これにより、主軸頭28の左右方向(Y軸方向)移動によってクロスレール18の昇降送り系に負荷される荷重が変化することに起因してクロスレール18が水平度を損ねる方向に傾くことを防止する補正が行われる。
【0029】
クロスレール18の前面には左右方向に長いガイド面27が形成されている。クロスレール18には主軸頭28がガイド面27に案内されて左右方向(Y軸方向)に移動可能に設けられている。
【0030】
クロスレール18には、Y軸ボールねじ29、Y軸ボールねじ29を回転駆動するY軸サーボモータ30が設けられており、これらY軸送り駆動系によって主軸頭28がY軸駆動され、当該Y軸駆動により主軸頭28のY軸座標位置が決まる。
【0031】
Y軸サーボモータ30にはY軸サーボモータ30のモータ位置を検出するY軸ロータリエンコーダ31が設けられており、Y軸ロータリエンコーダ31によって主軸頭28のY軸座標位置が検出される。
【0032】
主軸頭28にはラム32が上下方向(Z軸方向)に移動可能に設けられている。ラム32は主軸35を内蔵している。
【0033】
ラム32は、Z軸ボールねじ47を回転駆動するZ軸サーボモータ33によってZ軸駆動され、当該Z軸駆動によりラム32のZ軸座標位置が決まる。
【0034】
Z軸サーボモータ33にはZ軸サーボモータ33のモータ位置を検出するZ軸ロータリエンコーダ34が設けられており、Z軸ロータリエンコーダ34によってラム32のZ軸座標位置が検出される。
【0035】
左コラム13、右コラム14、主軸頭28の各々の上面には、これら上面のX軸方向の水平度を計測する水平レベル測定器37、38、39が設けられている。
【0036】
左コラム13の背面には左側逆モーメント付与手段40が、右コラム14の背面には右側逆モーメント付与手段50が各々取り付けられている。
【0037】
左側逆モーメント付与手段40は、比較的長い軸長を有する連結ビーム部材41と、軸力変化要素をなす小ストロークの油圧シリンダ装置42との直列連結体により構成され、当該直列連結体の上端を左コラム13の背面上端部に設けられているブラケット43にピン44によってヒンジ接続され、下端を左コラム13の背面下端部に設けられているブラケット45にピン46によってヒンジ接続されている。
【0038】
右側逆モーメント付与手段50は、比較的長い軸長を有する連結ビーム部材51と、軸力変化要素をなす小ストロークの油圧シリンダ装置52との直列連結体により構成され、当該直列連結体の上端を右コラム14の背面上端部に設けられているブラケット53にピン54によってヒンジ接続され、下端を右コラム14の背面下端部に設けられているブラケット55にピン56によってヒンジ接続されている。
【0039】
油圧シリンダ装置42、52は、同一構造のものであり、図3に示されているように、連結ビーム部材41、51の下端に固定連結されたシリンダケース部材61と、シリンダケース部材61に形成されたシリンダボア62に摺動可能に嵌合し、シリンダケース部材61の下端部に取り付けられたエンド部材63との間に圧力室64を画定するピストン部材65と、ピストン部材65と一体に設けられていてエンド部材63を貫通して外部に突出したピストンロッド66とを有し、ピストンロッド66の先端に結合板68を介してクレビス69を取り付けられている。
【0040】
油圧シリンダ装置42、52は、エンド部材63に形成されているポート67より圧力室64に圧油を導入されることにより、ピン44と46、ピン54と56との間隔を導入圧油の圧力値により決まる力(軸力)によって縮める作用が生じる。
【0041】
これにより、左側逆モーメント付与手段40は、左コラム13に負荷されたクロスレール18や主軸頭28の重量による転倒モーメントMLaを打ち消す方向のモーメント(キャンセルモーメント)MLbを油圧シリンダ装置42に供給される圧油の圧力値に応じて左コラム13に付与し、右側逆モーメント付与手段50は、右コラム14に負荷されたクロスレール18や主軸頭28の重量による転倒モーメントMRaを打ち消す方向のモーメント(キャンセルモーメント)MRbを油圧シリンダ装置52に供給される圧油の圧力値に応じて右コラム14に付与する。
【0042】
図4は、左側逆モーメント付与手段40、右側逆モーメント付与手段50の制御系を示している。左側逆モーメント付与手段40の油圧シリンダ装置42に供給する圧油の圧力値は、油圧サーボ回路70に設けられている電動式の圧力制御弁71によって定量的に制御され、右側逆モーメント付与手段50の油圧シリンダ装置52に供給する圧油の圧力値は、油圧回路70に設けられている電動式の圧力制御弁72によって定量的に制御される。圧力制御弁71、72は、制御装置80が出力する圧力指令信号に応じて油圧シリンダ装置42、52に供給する圧油の圧力値(補償油圧値)を設定する。
【0043】
制御装置80は、マイクロコンピュータ式のものであり、Y軸ロータリエンコーダ31によって検出される主軸頭28のY軸座標位置(左右方向位置)の位置情報と、左W軸ロータリエンコーダ23、右W軸ロータリエンコーダ24によって検出されるクロスレール18のW軸座標位置(上下方向位置)の位置情報とを入力し、これら位置情報に応じて、左コラム13の転倒モーメントMLaに起因する左コラム変形をキャンセルする最適量のモーメント付与を左コラム13に対して行うための圧力値を演算してその圧力指令信号を圧力制御弁71に出力すると共に、右コラム14の転倒モーメントMRaに起因する右コラム変形をキャンセルする最適量のモーメント付与を右コラム14に対して行うための圧力値を演算してその圧力指令信号を圧力制御弁72に出力する。
【0044】
図5は、主軸頭28のY軸座標位置に対する、左コラム13の転倒モーメントMLa、右コラム14の転倒モーメントMRa、左コラム13の転倒モーメント作用点における左コラム13の撓み角(撓み量)TL、右コラム14の転倒モーメント作用点における右コラム14の撓み角(撓み量)TR、クロスレール18あるいは主軸頭28の捩じれ角(主軸頭28の倒れ角)THの変化特性を示している。
【0045】
このように、左コラム13の転倒モーメントMLa、右コラム14の転倒モーメントMRa、左コラム13の転倒モーメント作用点における左コラム13の撓み角(撓み量)TL、右コラム14の転倒モーメント作用点における右コラム14の撓み角(撓み量)TRは、主軸頭28のY軸座標位置に応じて変化し、主軸頭28が接近した側のコラムの転倒モーメントが大きくなって前倒れも多くなる。クロスレール18あるいは主軸頭28の捩じれ角(主軸頭28の倒れ角)THは、左右コラム13、14の中間位置において最大になる。
【0046】
従って、主軸頭28のY軸座標位置に応じて左コラム13に付与すべきキャンセルモーメントMLbyと、右コラム14に付与すべきキャンセルモーメントMRbyは、図6に示されているようになる。これにより、補償油圧値は、主軸頭28のY軸座標位置とこれのストローク限までの距離に比例して主軸頭転倒モーメントを左右の油圧シリンダ装置42、52が負担するように決められる。
【0047】
なお、図6に示されているように、キャンセルモーメントMLby、MRbyは、クロスレール18の捩じれ角(主軸頭28の倒れ角)THの補正を加味したものであり、クロスレール18の捩じれ角の補正が、クロスレール18のガイド面16、17の湾曲カーブ補正により行われている場合には、クロスレール18の捩じれ角(主軸頭28の倒れ角)THの補正を加味する必要はなく、図5に示されている転倒モーメントMLa、MRaと同様の直線的なものになる。
【0048】
転倒モーメントMLa、転倒モーメントMRaが同一でも、つまり、主軸頭28のY軸座標位置が変化しなくても、転倒モーメントが作用する高さ位置が変化、つまり、クロスレール18のW軸座標位置によって主軸中心のコラム前倒れ値は変化し、高い位置ほど大きくなる。図7(a)、(b)は、このことを示している。図7(a)は、クロスレール18のW軸座標位置がW1であれば、転倒モーメントMa(左右の転倒モーメントMLaとMRaとが等値)が作用する高さ位置がP1となって主軸中心のコラム前倒れ値はΔχ1になり、クロスレール18のW軸座標位置がW1より高いW2になると、それに応じて転倒モーメントMaが作用する高さ位置がP2となり、軸中心のコラム前倒れ値はΔχ2になり、Z軸座標位置W1である場合のコラム前倒れ値Δχ1より大きくなる。なお、図7(a)、(b)において、BMDは、曲げモーメントダイヤグラムである。
【0049】
クロスレール18のW軸座標位置Wとコラム前倒れ値Δχとは、二次関数式Δχ=f(W2)で表されるから、クロスレール18のW軸座標位置に応じた補償油圧値は、この二次関数式に従って設定されればよい。
【0050】
これにより、圧力制御弁71の圧力指令信号は、キャンセルモーメントMLbyに対応する補償油圧値と二次関数式Δχ=f(W2)による補償油圧値との合計値によるものになり、圧力制御弁72の圧力指令信号は、キャンセルモーメントMRbyに対応する補償油圧値と二次関数式Δχ=f(W2)による補償油圧値との合計値によるものになる。
【0051】
このように、圧力制御弁71、72の圧力指令信号が、主軸頭28のY軸座標位置とクロスレール18のW軸座標位置に応じて設定されることにより、左コラム13の転倒モーメントMLaに起因する左コラム変形をキャンセルする最適量のモーメント付与と、右コラム14の転倒モーメントMRaに起因する右コラム変形をキャンセルする最適量のモーメント付与が、油圧シリンダ装置42、52、換言すると、左側逆モーメント付与手段40、右側逆モーメント付与手段50によって行われる。
【0052】
これにより、左コラム13の転倒モーメントMLaに起因する左コラム変形(前倒れ)、右コラム14の転倒モーメントMRaに起因する右コラム変形(前倒れ)がなくなり、クロスレール昇降(W軸)の真直度およびこれとテーブル送り(X軸)との直角度が維持され、X−Y平面に対する主軸35の垂直精度が高度に保たれ、高度な加工精度が確保されることになる。
【0053】
また、制御装置80は、水平レベル測定器37、38、39より左コラム13、右コラム14、主軸頭28の上面の水平度を計測値(水平度情報)を入力し、こられ上面の水平度が許容範囲内であるか否かの判別を行い、左側逆モーメント付与手段40、右側逆モーメント付与手段50によるモーメント付与が適正を行われているか否かを判断する。
【0054】
この判断において、モーメント付与が適正に行われていないと判定された場合には、アラーム出力、モーメント付与のリトライ等が考えられる。
また、水平レベル測定器37、38、39の計測値をキャリブレーションにより正しいレベルに再設定することにより、熱変位によるクロスレール18の捩じれや、左右コラム13、14の倒れを検知することもでき、これを補償するように、左側逆モーメント付与手段40、右側逆モーメント付与手段50を制御してもよい。
【0055】
これにより、ラム32(Z軸)とテーブル(X軸)との直角度や、クロスレール18(W軸)とテーブル(X軸)との直角度を維持することが可能である。
【0056】
なお、上述の実施形態において、高精度な水平レベル測定器37、38、39を採用した場合、水平レベル測定器37、38、39により計測される左コラム13、右コラム14、主軸頭28の上面の水平度をフィードバック補償値としてフィードバック制御式に圧力制御弁71、72の圧力指令信号を設定し、左側逆モーメント付与手段40、右側逆モーメント付与手段50によるモーメント付与をフィードバック制御式に行うこともできる。
【0057】
この場合も、左コラム13の転倒モーメントMLaに起因する左コラム変形(前倒れ)、右コラム14の転倒モーメントMRaに起因する右コラム変形(前倒れ)がなくなり、クロスレール昇降(W軸)の真直度およびこれとテーブル送り(X軸)との直角度が維持され、X−Y平面に対する主軸35の垂直精度が高度に保たれ、高度な加工精度が確保されることになる。
【0058】
なお、左側逆モーメント付与手段40と右側逆モーメント付与手段50は、左右コラム13、14に捩じれ現象が生じないよう、左右コラム13、14のY軸方向中立軸にすることが望ましい。また、左側逆モーメント付与手段40、右側逆モーメント付与手段50のX軸方向位置は、中立軸から主軸頭重心位置までの距離と同一にしておくこと、補正値(補償油圧値)の計算や作用効果の確認が容易になる。また、左側逆モーメント付与手段40、右側逆モーメント付与手段50と左右コラム13、14との結合は、曲げによる応力の発生を防ぐために、本実施形態のように、ピンヒンジ方式であることが好ましい。
【0059】
この発明による工作機械の実施形態2を、図8、図9を参照して説明する。なお、図8、図9において、図1、図2に対応する部分は、図1、図2に付した符号と同一の符号を付けて、その説明を省略する。
【0060】
実施形態2の工作機械は、クロスレール固定式の門形工作機械であり、左コラム13と右コラム14は、上部をクロスレール18によって互いに結合されている。
【0061】
この実施形態でも、左コラム13の背面には、連結ビーム部材41と油圧シリンダ装置42との直列連結体による左側逆モーメント付与手段40が、右コラム14の背面には連結ビーム部材51と油圧シリンダ装置52との直列連結体による右側逆モーメント付与手段50が各々取り付けられている。
【0062】
この実施形態では、制御装置80は、図10に示されているように、Y軸ロータリエンコーダ31によって検出される主軸頭28のY軸座標位置(左右方向位置)の位置情報を入力し、Y軸座標位置に応じて、左コラム13の転倒モーメントMLaに起因する左コラム変形をキャンセルする最適量のモーメント付与を左コラム13に対して行うための圧力値を演算してその圧力指令信号を圧力制御弁71に出力すると共に、右コラム14の転倒モーメントMRaに起因する右コラム変形をキャンセルする最適量のモーメント付与を右コラム14に対して行うための圧力値を演算してその圧力指令信号を圧力制御弁72に出力する。
【0063】
この実施形態でも、主軸頭28のY軸座標位置に応じて左コラム13に付与すべきキャンセルモーメントMLbyと、右コラム14に付与すべきキャンセルモーメントMRbyは、実施形態1と同様に、図6に示されているようになり、圧力制御弁71の圧力指令信号は、キャンセルモーメントMLbyに対応する補償油圧値だけにものになり、圧力制御弁72の圧力指令信号は、キャンセルモーメントMRbyに対応する補償油圧値だけにものになる。
【0064】
このように、圧力制御弁71、72の圧力指令信号が、主軸頭28のY軸座標位置に応じて設定されることにより、左コラム13の転倒モーメントMLaに起因する左コラム変形をキャンセルする最適量のモーメント付与と、右コラム14の転倒モーメントMRaに起因する右コラム変形をキャンセルする最適量のモーメント付与が、油圧シリンダ装置42、52、換言すると、左側逆モーメント付与手段40、右側逆モーメント付与手段50によって行われる。
【0065】
これにより、この実施形態でも、左コラム13の転倒モーメントMLaに起因する左コラム変形(前倒れ)、右コラム14の転倒モーメントMRaに起因する右コラム変形(前倒れ)がなくなり、クロスレール昇降(W軸)の真直度およびこれとテーブル送り(X軸)との直角度が維持され、X−Y平面に対する主軸35の垂直精度が高度に保たれ、高度な加工精度が確保されることになる。
【0066】
また、この実施形態でも、制御装置80は、水平レベル測定器37、38、39より左コラム13、右コラム14、主軸頭28の上面の水平度を計測値(水平度情報)を入力し、こられ上面の水平度が許容範囲内であるか否かの判別を行い、左側逆モーメント付与手段40、右側逆モーメント付与手段50によるモーメント付与が適正を行われているか否かを判断する。そして、この判断において、モーメント付与が適正に行われていないと判定された場合には、アラーム出力、モーメント付与のリトライ等が考えられる。
【0067】
また、実施形態2においても、高精度な水平レベル測定器37、38、39を採用した場合、水平レベル測定器37、38、39により計測される左コラム13、右コラム14、主軸頭28の上面の水平度をフィードバック補償値としてフィードバック制御式に圧力制御弁71、72の圧力指令信号を設定し、左側逆モーメント付与手段40、右側逆モーメント付与手段50によるモーメント付与をフィードバック制御式に行うこともできる。
【0068】
この発明による門形工作機械の他の実施形態を、図11、図12を参照して説明する。なお、図11、図12において、図1、図2、図8、図9に対応する部分は、図1、図2、図8、図9に付した符号と同一の符号を付けて、その説明を省略する。
【0069】
この実施形態はクロスレール固定式の門形工作機械で、主軸頭28にA軸スイベルヘッド90がX軸と平行なA軸周りに傾動可能に設けられている。A軸スイベルヘッド90には、ラム32がZ軸方向(上下垂直方向)に移動可能に設けられている。これにより、主軸35がA軸スイベルヘッド90によってA軸周りに傾動可能になる。
【0070】
ラム32は、Z軸ボールねじ91、Z軸ボールねじ91を回転駆動するZ軸サーボモータ92によってクロスレール18がZ軸駆動され、当該Z軸駆動によりラム32のZ軸座標位置が決まる。
【0071】
Z軸サーボモータ92にはZ軸サーボモータ92のモータ位置を検出するZ軸ロータリエンコーダ93が設けられており、これによってラム32のZ軸座標位置が検出される。
【0072】
A軸スイベルヘッド90は、主軸頭28に取り付けられたA軸サーボモータ94によってA軸角度を定量的に可変設定される。A軸サーボモータ94には、A軸サーボモータ94のモータ位置(A軸角度)検出を行うA軸ロータリエンコーダ95が取り付けられている。
【0073】
A軸スイベルが行われると、主軸頭28の重心位置がA軸角度とZ軸座標位置によって変化する。
【0074】
したがって、この実施形態では、制御装置80は、図13に示されているように、Y軸ロータリエンコーダ31によって検出される主軸頭28のY軸座標位置(左右方向位置)の位置情報と、A軸ロータリエンコーダ95によって検出されるA軸スイベルヘッド90のA軸角度の角度情報と、Z軸ロータリエンコーダ93によって検出されるラム32のZ軸座標位置の位置情報を入力し、Y軸座標位置とA軸角度とZ軸座標位置とに応じて、左コラム13の転倒モーメントMLaに起因する左コラム変形をキャンセルする最適量のモーメント付与を左コラム13に対して行うための圧力値を演算してその圧力指令信号を圧力制御弁71に出力すると共に、右コラム14の転倒モーメントMRaに起因する右コラム変形をキャンセルする最適量のモーメント付与を右コラム14に対して行うための圧力値を演算してその圧力指令信号を圧力制御弁72に出力する。
【0075】
これにより、この実施形態でも、左コラム13の転倒モーメントMLaに起因する左コラム変形(前倒れ)、右コラム14の転倒モーメントMRaに起因する右コラム変形(前倒れ)がなくなり、クロスレール昇降(W軸)の真直度およびこれとテーブル送り(X軸)との直角度が維持され、X−Y平面に対する主軸35の垂直精度が高度に保たれ、高度な加工精度が確保されることになる。
【0076】
この発明による門形工作機械の他の実施形態を、図14、15を参照して説明する。なお、図14、15において、図1、図2、図8、図9、図11、図12に対応する部分は、図1、図2、図8、図9、図11、図12に付した符号と同一の符号を付けて、その説明を省略する。
【0077】
この実施形態はクロスレール固定式の門形工作機械で、主軸頭28にB軸スイベルヘッド96がY軸と平行なB軸周りに傾動可能に設けられている。B軸スイベルヘッド96には、ラム32がZ軸方向(上下垂直方向)に移動可能に設けられている。これにより、主軸35がB軸スイベルヘッド96によってB軸周りに傾動可能になる。
【0078】
B軸スイベルヘッド96は、主軸頭28に取り付けられたB軸サーボモータ97によってB軸角度を定量的に可変設定される。B軸サーボモータ97には、B軸サーボモータ97のモータ位置(B軸角度)検出を行うB軸ロータリエンコーダ98が取り付けられている。
【0079】
B軸スイベルが行われると、主軸頭28の重心位置がB軸角度とZ軸座標位置によって変化する。
【0080】
したがって、この実施形態では、制御装置80は、図16に示されているように、Y軸ロータリエンコーダ31によって検出される主軸頭28のY軸座標位置(左右方向位置)の位置情報と、B軸ロータリエンコーダ98によって検出されるB軸スイベルヘッド96のB軸角度の角度情報と、Z軸ロータリエンコーダ93によって検出されるラム32のZ軸座標位置の位置情報を入力し、Y軸座標位置とB軸角度とZ軸座標位置とに応じて、左コラム13の転倒モーメントMLaに起因する左コラム変形をキャンセルする最適量のモーメント付与を左コラム13に対して行うための圧力値を演算してその圧力指令信号を圧力制御弁71に出力すると共に、右コラム14の転倒モーメントMRaに起因する右コラム変形をキャンセルする最適量のモーメント付与を右コラム14に対して行うための圧力値を演算してその圧力指令信号を圧力制御弁72に出力する。
【0081】
これにより、この実施形態でも、左コラム13の転倒モーメントMLaに起因する左コラム変形(前倒れ)、右コラム14の転倒モーメントMRaに起因する右コラム変形(前倒れ)がなくなり、クロスレール昇降(W軸)の真直度およびこれとテーブル送り(X軸)との直角度が維持され、X−Y平面に対する主軸35の垂直精度が高度に保たれ、高度な加工精度が確保されることになる。
【0082】
この発明による門形工作機械の他の実施形態を、図17を参照して説明する。なお、図17において、図1、図2、図8、図9、図11、図12、図14、図15に対応する部分は、図1、図2、図8、図9、図11、図12、図14、図15に付した符号と同一の符号を付けて、その説明を省略する。
【0083】
この実施形態はクロスレール固定式の門形工作機械で、主軸頭28にA軸スイベルヘッド90がX軸と平行なA軸周りに傾動可能に設けられており、A軸スイベルヘッド90にB軸スイベルヘッド96がY軸と平行なB軸周りに傾動可能に設けられている。B軸スイベルヘッド96には、ラム32がZ軸方向(上下垂直方向)に移動可能に設けられている。これにより、主軸35は、A軸スイベルヘッド90によってA軸周りに傾動可能、且つB軸スイベルヘッド96によってB軸周りに傾動可能になっている。
【0084】
A軸スイベルが行われると、主軸頭28の重心位置がA軸角度とZ軸座標位置によって変化し、B軸スイベルが行われると、主軸頭28の重心位置がB軸角度とZ軸座標位置によって変化する。
【0085】
したがって、この実施形態では、制御装置80は、図18に示されているように、Y軸ロータリエンコーダ31によって検出される主軸頭28のY軸座標位置(左右方向位置)の位置情報と、A軸ロータリエンコーダ95によって検出されるA軸スイベルヘッド90のA軸角度の角度情報と、B軸ロータリエンコーダ98によって検出されるB軸スイベルヘッド96のB軸角度の角度情報と、Z軸ロータリエンコーダ93によって検出されるラム32のZ軸座標位置の位置情報を入力し、Y軸座標位置とA軸角度とB軸角度とZ軸座標位置とに応じて、左コラム13の転倒モーメントMLaに起因する左コラム変形をキャンセルする最適量のモーメント付与を左コラム13に対して行うための圧力値を演算してその圧力指令信号を圧力制御弁71に出力すると共に、右コラム14の転倒モーメントMRaに起因する右コラム変形をキャンセルする最適量のモーメント付与を右コラム14に対して行うための圧力値を演算してその圧力指令信号を圧力制御弁72に出力する。
【0086】
これにより、この実施形態でも、左コラム13の転倒モーメントMLaに起因する左コラム変形(前倒れ)、右コラム14の転倒モーメントMRaに起因する右コラム変形(前倒れ)がなくなり、クロスレール昇降(W軸)の真直度およびこれとテーブル送り(X軸)との直角度が維持され、X−Y平面に対する主軸35の垂直精度が高度に保たれ、高度な加工精度が確保されることになる。
【0087】
この発明による門形工作機械の他の実施形態を、図19を参照して説明する。なお、図17において、図1、図2、図8、図9、図11、図12、図14、図15に対応する部分は、図1、図2、図8、図9、図11、図12、図14、図15に付した符号と同一の符号を付けて、その説明を省略する。
【0088】
この実施形態はクロスレール固定式の門形工作機械で、主軸頭28にラム32がZ軸方向(上下垂直方向)に移動可能に設けられ、ラム32にA軸スイベルヘッド90がX軸と平行なA軸周りに傾動可能に設けられている。更に、A軸スイベルヘッド90にB軸スイベルヘッド96がY軸と平行なB軸周りに傾動可能に設けられ、B軸スイベルヘッド96に主軸35が取り付けられている。これにより、この実施形態でも、主軸35は、A軸スイベルヘッド90によってA軸周りに傾動可能、且つB軸スイベルヘッド96によってB軸周りに傾動可能になっている。
【0089】
機械構成では、A軸スイベル、B軸スイベルによる重心移動は、ラム36のZ軸位置に関しては不感で、Z軸位置が変化しても、重心位置がX軸方向、Y軸方向の変化することがない。
【0090】
したがって、この実施形態の場合、制御装置80は、図20に示されているように、Y軸ロータリエンコーダ31によって検出される主軸頭28のY軸座標位置(左右方向位置)の位置情報と、A軸ロータリエンコーダ95によって検出されるA軸スイベルヘッド90のA軸角度の角度情報と、B軸ロータリエンコーダ98によって検出されるB軸スイベルヘッド96のB軸角度の角度情報を入力し、Y軸座標位置とA軸角度とB軸角度とに応じて、左コラム13の転倒モーメントMLaに起因する左コラム変形をキャンセルする最適量のモーメント付与を左コラム13に対して行うための圧力値を演算してその圧力指令信号を圧力制御弁71に出力すると共に、右コラム14の転倒モーメントMRaに起因する右コラム変形をキャンセルする最適量のモーメント付与を右コラム14に対して行うための圧力値を演算してその圧力指令信号を圧力制御弁72に出力する。
【0091】
これにより、この実施形態でも、左コラム13の転倒モーメントMLaに起因する左コラム変形(前倒れ)、右コラム14の転倒モーメントMRaに起因する右コラム変形(前倒れ)がなくなり、クロスレール昇降(W軸)の真直度およびこれとテーブル送り(X軸)との直角度が維持され、X−Y平面に対する主軸35の垂直精度が高度に保たれ、高度な加工精度が確保されることになる。
【0092】
なお、上述したスイベルヘッド付きの門形工作機械はクロスレール昇降式の門形工作機械にも同様に適用可能であり、クロスレール昇降式の門形工作機械では、クロスレール18のW軸座標位置が加味されればよい。
【0093】
この発明による工作機械の実施形態3を、図21〜図23を参照して説明する。
【0094】
実施形態3の工作機械は、シングルコラム型の横中ぐり盤であり、固定配置のべッド101上にX軸方向(図21で見て紙面を直角に貫通する方向)に移動可能なコラムベース102を有する。コラムベース102には、一つのコラム103が垂直に立設されている。
【0095】
コラム103は、一方の側面に、上下方向に長いガイド面104を有する。コラム103には、主軸頭105がガイド面104に案内されて上下方向(Y軸方向)に移動可能に設けられている。
【0096】
コラム103には、Y軸ボールねじ106、Y軸ボールねじ106を回転駆動するY軸サーボモータ107が設けられており、Y軸サーボモータ107によって主軸頭105がY軸駆動(昇降駆動)され、当該Y軸駆動により主軸頭105のY軸座標位置が決まる。
【0097】
Y軸サーボモータ107にはY軸サーボモータ107のモータ位置を検出するY軸ロータリエンコーダ108が設けられており、Y軸ロータリエンコーダ108によって主軸頭105のY軸座標位置が検出される。
【0098】
主軸頭105には、一端を重心調整用油圧シリンダ装置109を介して主軸頭105に接続され、コラム103の上部に設けられたプーリ110、111に掛け渡されたワイヤ112と、一端を主軸頭105に接続され、コラム103の上部に設けられたプーリ113、114に掛け渡されたワイヤ115によってカウンタウエイト116が接続されている。
【0099】
主軸頭105の前部(図21、23で見て左側)には水平姿勢のラム117が前後水平方向(Z軸方向)に移動可能に設けられている。ラム117の前面部には中ぐり主軸118が前後水平方向(W軸方向)に繰り出し可能に設けられている。ラム117にはアタッチメント121が着脱可能に選択的に装着される。
【0100】
主軸頭105の後部には、ラム117のZ軸方向駆動と、中ぐり主軸118のW軸方向駆動を行う駆動装置119が取り付けられている。また、主軸頭105には中ぐり主軸118を回転駆動する主軸モータ120が搭載されている。なお、図示を省略しているが、駆動装置119は、ラム117のZ軸座標位置を検出するロータリエンコーダと、中ぐり主軸118のW軸座標位置を検出するロータリエンコーダが設けられている。
【0101】
コラム103、主軸頭105の各々の上面には、これら上面のX軸方向の水平度を計測する水平レベル測定器122、123と、これら上面のZ軸方向の水平度を計測する水平レベル測定器124、125が設けられている。
【0102】
コラム103の他方の側面には側部逆モーメント付与手段130が、コラム103の背面には背部逆モーメント付与手段140が、各々、2個ずつ並列に取り付けられている。
【0103】
側部逆モーメント付与手段130は、各々、比較的長い軸長を有する連結ビーム部材131と、軸力変化要素をなす小ストロークの油圧シリンダ装置132との直列連結体により構成され、当該直列連結体の上端をコラム103の側面上端部に設けられているブラケット133にピン134によってヒンジ接続され、下端をコラム103の側面下端部に設けられているブラケット135にピン136によってヒンジ接続されている。
【0104】
油圧シリンダ装置132は、実施形態1の油圧シリンダ装置42、52と同一構造のものであり、ピン134と136との間に、導入圧油の圧力値により決まる圧縮力を及ぼす。これにより、側部逆モーメント付与手段130は、コラム103に負荷された主軸頭105の重量による転倒モーメントMxaを打ち消す方向のモーメント(キャンセルモーメント)Mxbを油圧シリンダ装置132に供給される圧油の圧力値に応じてコラム103に付与する。
【0105】
背部逆モーメント付与手段140は、各々、比較的長い軸長を有する連結ビーム部材141と、軸力変化要素をなす小ストロークの油圧シリンダ装置142との直列連結体により構成され、当該直列連結体の上端をコラム103の背面上端部に設けられているブラケット143にピン144によってヒンジ接続され、下端をコラム103の背面下端部に設けられているブラケット145にピン146によってヒンジ接続されている。
【0106】
油圧シリンダ装置142も、実施形態1の油圧シリンダ装置42、52と同一構造のものであり、ピン144と146との間に、導入圧油の圧力値により決まる圧縮力を及ぼす。これにより、背部逆モーメント付与手段140は、コラム103に負荷されたラム117、中ぐり主軸117の繰り出しによる転倒モーメントMzaを打ち消す方向のモーメント(キャンセルモーメント)Mzbを油圧シリンダ装置142に供給される圧油の圧力値に応じてコラム103に付与する。
【0107】
図24は、側部逆モーメント付与手段130、背部逆モーメント付与手段140の制御系を示している。側部逆モーメント付与手段130の油圧シリンダ装置132に供給する圧油の圧力値は、油圧サーボ回路170に設けられている電動式の圧力制御弁171によって定量的に制御され、背部逆モーメント付与手段140の油圧シリンダ装置142に供給する圧油の圧力値は、油圧回路170に設けられている電動式の圧力制御弁172によって定量的に制御される。圧力制御弁171、172は、制御装置180が出力する圧力指令信号に応じて油圧シリンダ装置132、142に供給する圧油の圧力値(補償油圧値)を設定する。
【0108】
制御装置180は、マイクロコンピュータ式のものであり、Y軸ロータリエンコーダ1081によって検出される主軸頭108のY軸座標位置の位置情報と、Z軸ロータリエンコーダ(図示省略)によって検出されるラム117のZ軸座標位置の位置情報と、W軸ロータリエンコーダ(図示省略)によって検出される中ぐり主軸118のW軸座標位置の位置情報を入力し、これら位置情報に応じて、コラム103の転倒モーメントMxaに起因するコラム変形をキャンセルする最適量のモーメント付与をコラム103に対して行うための圧力値を演算してその圧力指令信号を圧力制御弁171に出力すると共に、コラム103の転倒モーメントMzaに起因するコラム変形をキャンセルする最適量のモーメント付与をコラム103に対して行うための圧力値を演算してその圧力指令信号を圧力制御弁172に出力する。なお、圧力制御弁172に対する圧力指令は、アタッチメント121の有無も考慮して決定される。
【0109】
これにより、この実施形態では、コラム103の転倒モーメントMxaに起因するコラム変形(横倒れ)、コラム103の転倒モーメントMzaに起因するコラム変形(前倒れ)がなくなり、主軸頭昇降(Y軸)の真直度およびこれとコラム送り(X軸)との直角度が維持され、X−Y平面に対する主軸118の垂直精度が高度に保たれ、高度な加工精度が確保されることになる。
【0110】
また、制御装置180は、水平レベル測定器122、123、124、125よりコラム103、主軸頭105の上面の水平度を計測値(水平度情報)を入力し、こられ上面の水平度が許容範囲内であるか否かの判別を行い、側部逆モーメント付与手段130、背部逆モーメント付与手段140によるモーメント付与が適正を行われているか否かを判断する。
【0111】
この判断において、モーメント付与が適正に行われていないと判定された場合には、アラーム出力、モーメント付与のリトライ等が考えられる。
【0112】
なお、上述の実施形態において、高精度な水平レベル測定器122、123、124、125を採用した場合、水平レベル測定器122、123、124、125により計測されるコラム103、主軸頭105の上面の水平度をフィードバック補償値としてフィードバック制御式に圧力制御弁171、172の圧力指令信号を設定し、側部逆モーメント付与手段130、背部逆モーメント付与手段140によるモーメント付与をフィードバック制御式に行うこともできる。
【0113】
実施形態3のシングルコラム型の横中ぐり盤は、図25に示されているように、主軸頭105にA軸スイベルヘッド190を有するものにも同様に適用できる。この場合には、A軸スイベルヘッド190の傾斜角(A軸角度)を考慮して側部逆モーメント付与手段130、背部逆モーメント付与手段140を制御すればよい。
【0114】
なお、上述した何れの実施形態でも、自動制御可能に軸力を変化する軸力変化要素として、油圧シリンダ装置を用いたが、この軸力変化要素は、電動式ジャッキや電歪素子等によるものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0115】
【図1】この発明による工作機械の実施形態1を示す正面図である。
【図2】この発明による工作機械の実施形態1を示す側面図である。
【図3】実施形態1による工作機械の要部の拡大縦断面図である。
【図4】実施形態1による工作機械の逆モーメント付与の制御系を示すブロック線図である。
【図5】主軸頭のY軸座標位置に対するコラムの転倒モーメント特性等を示すグラブである。
【図6】Y軸座標位置に応じてコラムに付与すべきキャンセルモーメントを示すグラブである。
【図7】(a)、(b)はクロスレールのW軸座標位置による主軸中心のコラム前倒れ特性を示すグラブである。
【図8】この発明による工作機械の実施形態2を示す正面図である。
【図9】この発明による工作機械の実施形態2を示す側面図である。
【図10】実施形態2による工作機械の逆モーメント付与の制御系を示すブロック線図である。
【図11】この発明による工作機械の他の実施形態の要部を示す正面図である。
【図12】この発明による工作機械の他の実施形態を示す側面図である。
【図13】他の実施形態による工作機械の逆モーメント付与の制御系を示すブロック線である。
【図14】この発明による工作機械の他の実施形態の要部を示す正面図である。
【図15】この発明による工作機械の他の実施形態を示す側面図である。
【図16】他の実施形態による工作機械の逆モーメント付与の制御系を示すブロック線である。
【図17】この発明による工作機械の他の実施形態の要部を示す正面図である。
【図18】他の実施形態による工作機械の逆モーメント付与の制御系を示すブロック線である。
【図19】この発明による工作機械の他の実施形態の要部を示す正面図である。
【図20】他の実施形態による工作機械の逆モーメント付与の制御系を示すブロック線である。
【図21】この発明による工作機械の実施形態3を示す側面図である。
【図22】この発明による工作機械の実施形態3を示す背面図である。
【図23】この発明による工作機械の実施形態3を示す平面図である。
【図24】実施形態3による工作機械の逆モーメント付与の制御系を示すブロック線図である。
【図25】この発明による工作機械の他の実施形態の要部を示す正面図である。
【符号の説明】
【0116】
11 べッド
12 テーブル
13 左コラム
14 右コラム
15 トップビーム
16、17 ガイド面
18 クロスレール
19 左W軸ボールねじ
20 右W軸ボールねじ
21 左W軸サーボモータ
22 右W軸サーボモータ
23 左W軸ロータリエンコーダ
24 右W軸ロータリエンコーダ
25 左バランス用油圧シリンダ装置
26 右バランス用油圧シリンダ装置
27 ガイド面
28 主軸頭
29 Y軸ボールねじ
30 Y軸サーボモータ
31 Y軸ロータリエンコーダ
32 ラム
33 Z軸サーボモータ
34 Z軸ロータリエンコーダ
35 主軸
37、38、39 水平レベルゲージ
40 左側逆モーメント付与手段
41 連結ビーム部材
42 油圧シリンダ装置
43 ブラケット
44 ピン
45 ブラケット
46 ピン
47 Z軸ボールねじ
50 左側逆モーメント付与手段
51 連結ビーム部材
52 油圧シリンダ装置
53 ブラケット
54 ピン
55 ブラケット
56 ピン
61 シリンダケース部材
62 シリンダボア
63 エンド部材
64 圧力室
65 ピストン部材
66 ピストンロッド
67 ポート
68 結合板
69 クレビス
70 油圧サーボ回路
71、72 圧力制御弁
80 制御装置
90 A軸スイベルヘッド
91 Z軸ボールねじ
92 Z軸サーボモータ
93 Z軸ロータリエンコーダ
94 A軸サーボモータ
95 A軸ロータリエンコーダ
96 B軸スイベルヘッド
97 B軸サーボモータ
98 B軸ロータリエンコーダ
101 べッド
102 コラムベース
103 コラム
104 ガイド面
105 主軸頭
106 Y軸ボールねじ
107 Y軸サーボモータ
108 Y軸ロータリエンコーダ
109 重心調整用油圧シリンダ装置
110、111 プーリ
112 ワイヤ
113、114 プーリ
115 ワイヤ
116 カウンタウエイト
117 ラム
118 中ぐり主軸
119 駆動装置
120 主軸モータ
121 アタッチメント
122、123、124、125 水平レベル測定器
130 側部逆モーメント付与手段
131 連結ビーム部材
132 油圧シリンダ装置
133 ブラケット
134 ピン
135 ブラケット
136 ピン
140 背部逆モーメント付与手段
141 連結ビーム部材
142 油圧シリンダ装置
143 ブラケット
144 ピン
145 ブラケット
146 ピン
170 油圧サーボ回路
171、172 圧力制御弁
180 制御装置
190 A軸スイベルヘッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
垂直に立設された左右のコラムと、前記左右のコラムの上部を互いに結合するトップビームと、前記左右のコラムの前面に上下方向に移動可能に設けられたクロスレールと、前記クロスレールの前面に左右方向に移動可能に設けられた主軸頭と、前記主軸頭に上下方向に移動可能に設けられ主軸を内蔵したラムとを有するクロスレール昇降式の門形の工作機械において、
前記左右のコラムの各々に、左側の前記コラムに負荷された重量による転倒モーメントを打ち消す方向のモーメントを当該左側のコラムに付与する左側の逆モーメント付与手段と、右側の前記コラムに負荷された重量による転倒モーメントを打ち消す方向のモーメントを当該右側のコラムに付与する右側の逆モーメント付与手段とを有する工作機械。
【請求項2】
前記主軸頭の左右方向の位置情報と、前記クロスレールの上下方向の位置情報を入力し、前記主軸頭の左右方向位置情報と前記クロスレールの上下方向位置情報に応じて前記左側の逆モーメント付与手段によるモーメント付与量と前記右側の逆モーメント付与手段によるモーメント付与量を制御する制御手段を有する請求項1記載の工作機械。
【請求項3】
垂直に立設された左右のコラムと、前記左右のコラムの上部を互いに結合するクロスレールと、前記クロスレールの前面に左右方向に移動可能に設けられた主軸頭と、前記主軸頭に上下方向に移動可能に設けられ主軸を内蔵したラムとを有するクロスレール固定式の門形の工作機械において、
前記左右のコラムの各々に、左側の前記コラムに負荷された重量による転倒モーメントを打ち消す方向のモーメントを当該左側のコラムに付与する左側の逆モーメント付与手段と、右側の前記コラムに負荷された重量による転倒モーメントを打ち消す方向のモーメントを当該右側のコラムに付与する右側の逆モーメント付与手段とを有する工作機械。
【請求項4】
前記主軸頭の左右方向の位置情報を入力し、当該主軸頭の左右方向位置情報に応じて前記左側の逆モーメント付与手段によるモーメント付与量と前記右側の逆モーメント付与手段によるモーメント付与量を制御する制御手段を有する請求項1または3に記載の工作機械。
【請求項5】
垂直に立設された一つのコラムと、前記コラムの側面に上下方向に移動可能に設けられた主軸頭を有するシングルコラム型の工作機械において、
前記コラムに負荷された重量による転倒モーメントを打ち消す方向のモーメントを当該コラムに付与する逆モーメント付与手段を有する工作機械。
【請求項6】
前記主軸頭の上下方向の位置情報を入力し、前記主軸頭の上下方向位置情報に応じて前記モーメント付与手段によるモーメント付与量を制御する制御手段を有する請求項5記載の工作機械。
【請求項7】
前記主軸頭に、左右方向に移動可能に設けられ繰り出し可能な中ぐり主軸を内蔵したラムを有し、前記制御手段は、前記主軸頭の上下方向の位置情報に加えて、前記ラムおよび前記中ぐり主軸の左右方向の位置情報を入力し、前記主軸頭の上下方向位置情報と前記ラムおよび前記中ぐり主軸の左右方向位置情報に応じて前記モーメント付与手段によるモーメント付与量を制御する請求項5記載の工作機械。
【請求項8】
前記主軸頭に前記ラムがスイベルヘッドによって傾動可能に設けられており、前記制御装置は、前記スイベルヘッドの傾斜角を示す傾斜角情報を入力し、当該傾斜角情報を加味して前記モーメント付与手段によるモーメント付与量を制御する請求項1〜4、7の何れか一項に記載の工作機械。
【請求項9】
前記ラムと前記主軸頭の少なくとも何れか一方に、これらの水平度を計測する水平レベル測定器が設けられられ、前記制御装置は、前記水平レベル測定器より水平度情報を入力し、前記モーメント付与手段によるモーメント付与が適正を行われているか否かを判別する請求項1〜8の何れか一項に記載の工作機械。
【請求項10】
前記ラムと前記主軸頭の少なくとも何れか一方に設けられ、これらの水平度を計測する水平レベル測定器と、前記水平レベル測定器より水平度情報を入力し、当該水平度情報に前記逆モーメント付与手段によるモーメント付与量を制御する制御手段を有する請求項1、3、5の何れか一項に記載の工作機械。
【請求項11】
前記逆モーメント付与手段は、連結ビーム部材と、自動制御可能に軸力を変化する軸力変化要素との直列連結体により構成され、当該直列連結体の一端を前記コラムの上部に接続され、他端を前記コラムの下部に接続されている請求項1〜10の何れか一項に記載の工作機械。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【公開番号】特開2007−216319(P2007−216319A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−37612(P2006−37612)
【出願日】平成18年2月15日(2006.2.15)
【出願人】(000003458)東芝機械株式会社 (843)
【Fターム(参考)】