説明

工業用二層織物

【課題】 表面性、耐摩耗性、剛性に優れた工業用二層織物を提供する。
【解決手段】 下層面側層は、経糸が連続する6本の下層面側緯糸の上側を通り、次に1本の下層面側緯糸の下側を通り、次に2本の下層面側緯糸の上側を通った後、1本の下層面側緯糸の下側を通る組織を、下層面側緯糸3本分シフトさせて順次配置する繰り返しにより構成され、隣り合う2本の下層面側経糸が1本の下層面側緯糸を下層面側から同時に織り込むことで下層面側緯糸が2本の下層面側経糸の上側を通り、次に8本の下層面側経糸の下側を通り、下層面側表面に下層面側経糸8本分の緯糸ロングクリンプを形成し、且つ下層面側経糸が隣り合う左右の下層面側経糸と交互に下層面側緯糸の下側を通る部分を形成することで、下層面側経糸は左右の下層面側経糸と交互に隣接しジグザグ配置とした工業用二層織物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は製紙、ろ布、脱水、搬送等に使用される工業用二層織物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から工業用織物としては経糸、緯糸で製織した織物が広く使用されており、例えば抄紙用ワイヤーや搬送用ベルト、ろ布等その他にも多くの分野で使用されており、用途や使用環境に適した織物特性が要求されている。特に織物の網目を利用して原料の脱水等を行う製紙工程で使用される抄紙用ワイヤーでの要求は厳しく、紙に織物のワイヤーマークを転写することのない表面性に優れた織物、また過酷な環境下においても好適に使用できる程度の剛性を持ち合わせたもの、そして良好な紙を製造するために必要な条件を長期間持続することのできる織物等が要求されている。その他にも繊維支持性、製紙の歩留まりの向上、良好なろ水性、耐摩耗性、寸法安定性、走行安定性等が要求されている。さらに近年では抄紙マシンが高速化しているため、それに伴い抄紙用ワイヤーへの要求も一段と厳しいものとなっている。
このように工業用織物の中でも最も要求が厳しい抄紙用織物について説明すればほとんどの工業用織物の要求とその解決について理解できるので、以下抄紙用織物を代表して本発明を説明する。
製紙機械において、抄紙スピードが高速になると必然的に脱水スピードが高速になり、脱水力を強力にする必要がある。脱水性の良い織物としては、上層面側から下層面側にまで貫通する脱水孔が形成される二層織物等がある。特に製紙用織物に要求される表面性、繊維支持性、脱水性を満たすことを目的とした織物として、上層面側緯糸、下層面側緯糸と織り合わされて上層面側表面組織と下層面側表面組織を形成する経地糸接結糸を用いた二層織物等がある。特開2004−36052号公報には経地糸接結糸を用いた二層織物が示されている。該従来発明は経糸の一部を上層面側層と下層面側層を織り合わせる接結糸として機能する地糸とした二層織物であり、組になった経地糸接結糸が上層面側表面組織と下層面側表面組織を補完し合い、各々の表面組織を形成するため、表面性、接結強度に優れた織物となる。しかし、特開2004−36052号の実施例1〜3にある織物の下層面側組織は下層面側経糸が2本平行に同組織で配置された畝織り組織であり、下層面側緯糸が下層面側表面に経糸2本分の短いクリンプを形成する組織であるため耐摩耗性には劣っていた。
また該二層織物は上層面側層から下層面側層まで完全に貫通する脱水孔が全面に配置されているため脱水性は良好ではあるが、強力なバキューム等によりワイヤー上のシート原料が織物に刺さり込んだり、繊維や填料等の抜けが発生し、脱水マークの発生が顕著になることもある。
このように表面性、繊維支持性および耐摩耗性等の全てを満足させる工業用織物は未だ開発されていない。
【特許文献1】特開2004−36052号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、上記の問題を鑑みて、急激な脱水およびそれによる脱水マークの発生を抑制し、表面性、繊維支持性、耐摩耗性に優れた工業用織物を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、
「1. 10本の上層面側経糸と10本の下層面側経糸を上下に配置することによってできる10組の経糸と、複数本の上層面側緯糸と下層面側緯糸から構成され、上層面側層と下層面側層を経方向の糸で接結してなる工業用二層織物において、
下層面側層は、経糸が連続する6本の下層面側緯糸の上側を通り、次に1本の下層面側緯糸の下側を通り、次に2本の下層面側緯糸の上側を通った後、1本の下層面側緯糸の下側を通る組織を、下層面側緯糸3本分シフトさせて順次配置する繰り返しにより構成され、隣り合う2本の下層面側経糸が1本の下層面側緯糸を下層面側から同時に織り込むことで下層面側緯糸が2本の下層面側経糸の上側を通り、次に8本の下層面側経糸の下側を通り、下層面側表面に下層面側経糸8本分の緯糸ロングクリンプを形成し、且つ下層面側経糸が隣り合う左右の下層面側経糸と交互に下層面側緯糸の下側を通る部分を形成することで、下層面側経糸は左右の下層面側経糸と交互に隣接しジグザグ配置としたことを特徴とする工業用二層織物。
2. 10組の上下に配置された上層面側経糸と下層面側経糸のうち、1組以上の上層面側経糸と下層面側経糸の両方が、上層面側緯糸および下層面側緯糸と織り合わされて上層面側表面組織の一部と下層面側表面組織の一部を形成する経地糸接結糸であり、上層面側表面は組になった経地糸接結糸がそれぞれ別の上層面側緯糸と織り合わされ、それらが協働して上層面側完全組織を構成する1本の経糸として機能し、且つ下層面側表面では組になった経地糸接結糸が他の下層面側経糸と同じ下層面側表面組織を形成する、1項に記載された工業用二層織物。
3. 10組の上下に配置された上層面側経糸と下層面側経糸の組のうち、1本以上の上層面側経糸が、上層面側緯糸および下層面側緯糸と織り合わされて上層面側表面組織の一部と下層面側表面組織の一部を形成する経地糸接結糸であり、該経地糸接結糸と下層面側経糸の組では、上層面側表面は経地糸接結糸が上層面側緯糸と織り合わされて上層面側完全組織を構成する1本の経糸として機能し、且つ下層面側表面では経地糸接結糸と下層面側経糸が協働して他の下層面側経糸と同じ下層面側表面組織を形成する、1項に記載された工業用二層織物。
4. 10組の上下に配置された上層面側経糸と下層面側経糸の組のうち、1本以上の下層面側経糸が、上層面側緯糸および下層面側緯糸と織り合わされて上層面側表面組織の一部と下層面側表面組織の一部を形成する経地糸接結糸であり、該経地糸接結糸と上層面側経糸の組では、上層面側表面は経地糸接結糸と上層面側経糸がそれぞれ別の上層面側緯糸と織り合わされ、それらが協働して上層面側完全組織を構成する1本の経糸として機能し、且つ下層面側表面では経地糸接結糸が他の下層面側経糸と同じ下層面側表面組織を形成する、1項に記載された工業用二層織物。
5. 2項に記載された組になった経地糸接結糸が、一方の経地糸接結糸が少なくとも1本の上層面側緯糸と織り合わされ上層面側表面組織を形成しているところの下側で、もう一方の経地糸接結糸が1本の下層面側緯糸と織り合わされ、且つ、一方の経地糸接結糸が1本の下層面側緯糸と織り合わされているところの上側で、もう一方の経地糸接結糸が少なくとも1本の上層面側緯糸と織り合わされ上層面側表面組織を形成し、1組の経地糸接結糸が上層面側表面組織と下層面側表面組織を互いに補完し合って各々の表面組織を形成している工業用二層織物。
6. 上層面側表面を構成する経糸組織が、2シャフトの平織、4シャフトの綾織り、4シャフトの崩し綾織り、5シャフトの綾織り、5シャフトの崩し綾織り、10シャフトの綾織り、10シャフトの崩し綾織りのいずれかである、1項ないし5項のいずれか1項に記載された工業用二層織物。
7. 上層面側緯糸間に1本または2本以上の補助緯糸を配置する、1項ないし6項のいずれか1項に記載された工業用二層織物。
8. 上層面側緯糸本数が下層面側緯糸本数の1から2倍の本数である、1項ないし7項のいずれか1項に記載された工業用二層織物。
9. 上層面側経糸の線径と下層面側経糸の線径が等しい、1項ないし8項のいずれか1項に記載された工業用二層織物。」
に関する。
【発明の効果】
【0005】
10本の上層面側経糸と10本の下層面側経糸を上下に配置することによってできる10組の経糸と、複数本の上層面側緯糸と下層面側緯糸から構成され、上層面側層と下層面側層を経方向の糸で接結してなる工業用二層織物の下層面側層を、経糸が連続する6本の下層面側緯糸の上を通り、次に1本の下層面側緯糸の下側を通り、次に2本の下層面側緯糸の上を通った後、1本の下層面側緯糸の下側を通る組織を下層面側緯糸3本分シフトさせて順次配置した完全組織とし、隣り合う2本の下層面側経糸が1本の下層面側緯糸を下層面側から同時に織り込むことで下層面側緯糸が下層面側表面に下層面側経糸8本分の緯糸ロングクリンプを形成すると同時に下層面側経糸が隣り合う左右の下層面側経糸と交互に隣接しながらジグザグ配置する織物としたことにより、織物の剛性、斜め剛性、耐摩耗性を向上し、上層面側層を構成する経方向の糸と下層面側層を構成する経方向の糸の重なる部分と重ならない部分が混在し、ろ水性を不均一にすることで脱水が段階的に起きるため、脱水マークの発生、ワイヤー上のシート原料の刺さり込み、繊維や填料等の抜けを抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明は、10本の上層面側経糸と10本の下層面側経糸を上下に配置することによってできる10組の経糸と、複数本の上層面側緯糸と下層面側緯糸から構成され、上層面側層と下層面側層を経方向の糸で接結してなる工業用二層織物において、下層面側層は、経糸が連続する6本の下層面側緯糸の上側を通り、次に1本の下層面側緯糸の下側を通り、次に連続する2本の下層面側緯糸の上側を通り、次に1本の下層面側緯糸の下側を通る組織であり、次の下層面側経糸を下層面側緯糸3本分シフトさせて順次配置する繰り返しにより、隣り合う2本の下層面側経糸が1本の下層面側緯糸を下層面側から同時に織り込むことで下層面側緯糸が2本の下層面側経糸の上側を通り、次に8本の下層面側経糸の下側を通ることで、下層面側表面に下層面側経糸8本分の緯糸ロングクリンプを形成し、且つ下層面側経糸が隣り合う左右の下層面側経糸と交互に下層面側緯糸の下側を通る部分を形成することで、下層面側経糸は左右の下層面側経糸と交互に隣接しジグザグ配置としたことを特徴とする。
隣接する2本の下層面側経糸が下層面側緯糸を強固に織り込むため剛性に優れ、また下層面側表面に下層面側経糸8本分の緯糸ロングクリンプが形成されるため耐摩耗性を向上させることができる。そして、下層面側緯糸は経糸との織り込み回数が少ないため、下層面側緯糸の打込本数を増やしたり、下層面側緯糸の線径を太くしたりすることができる。下層面側経糸を隣り合う左右の下層面側経糸と交互に隣接しながらジグザグに配置する組織としたことで、上層面側層を構成する経方向の糸と下層面側層を構成する経方向の糸が重なる部分と重ならない部分が混在する構造とした。これによりランダムな大きさや形状の網目ができるため、段階的に脱水が進行し、脱水マークの発生、ワイヤー上のシート原料の刺さり込み、繊維や填料等の抜けを抑制することができる。さらに、下層面側経糸がジグザグに配置する組織としたことで織物の斜め方向の剛性も向上できる。
【0007】
本発明の工業用二層織物は10本の上層面側経糸と10本の下層面側経糸を上下に配置することによってできる10組の経糸と、複数本の上層面側緯糸と下層面側緯糸から構成されており、上層面側層と下層面側層を織り合わせる接結糸には、上層面側緯糸および下層面側緯糸と織り合わされて上層面側表面組織の一部と下層面側表面組織の一部を形成する経地糸接結糸を用いた。
経地糸接結糸の配置としては、10組の上下に配置された上層面側経糸と下層面側経糸のうち、1組以上の上層面側経糸と下層面側経糸の両方を経地糸接結糸とした2本の経地糸接結糸が組になっているもの、または10組の上下に配置された上層面側経糸と下層面側経糸の組のうち、1本以上の上層面側経糸を経地糸接結糸とした経地糸接結糸と下層面側経糸が組になっているもの、または10組の上下に配置された上層面側経糸と下層面側経糸の組のうち、1本以上の下層面側経糸を経地糸接結糸とした経地糸接結糸と上層面側経糸が組になっているもの、がある。ここで組というのは、上下に配置されている、1本の上層面側経糸と、1本の下層面側経糸を表しており、本発明では、上層面側経糸と下層面側経糸がそれぞれ10本ずつあるので10組あることになる。また、上層面側経糸と下層面側経糸の両方を経地糸接結糸とした2本の経地糸接結糸、下層面側経糸を経地糸接結糸とした上層面側経糸と経地糸接結糸、上層面側経糸を経地糸接結糸とした下層面側経糸と経地糸接結糸も組という。
2本の経地糸接結糸が組になっているものでは、上層面側表面は組になった経地糸接結糸がそれぞれ別の上層面側緯糸と織り合わされ、それらが協働して上層面側完全組織を構成する1本の経糸として機能し、且つ下層面側表面では組になった経地糸接結糸が下層面側経糸と同じ下層面側表面組織を形成する。特にこの組織では、組になった経地糸接結糸が、一方の経地糸接結糸が少なくとも1本の上層面側緯糸と織り合わされ上層面側表面組織を形成しているところの下側で、もう一方の経地糸接結糸が1本の下層面側緯糸と織り合わされ、且つ、一方の経地糸接結糸が1本の下層面側緯糸と織り合わされているところの上側で、もう一方の経地糸接結糸が少なくとも1本の上層面側緯糸と織り合わされ上層面側表面組織を形成することで、1組の経地糸接結糸が上層面側表面組織と下層面側表面組織を互いに補完し合って各々の表面組織を形成できる。
経地糸接結糸と下層面側経糸が組になっているものでは、上層面側表面は経地糸接結糸が上層面側緯糸と織り合わされて上層面側完全組織を構成する1本の経糸として機能し、且つ下層面側では経地糸接結糸と下層面側経糸が協働して他の下層面側経糸と同じ下層面側表面組織を形成する。
経地糸接結糸と上層面側経糸が組になっているものでは、上層面側表面は経地糸接結糸と上層面側経糸がそれぞれ別の上層面側緯糸と織り合わされ、それらが協働して上層面側完全組織を構成する1本の経糸として機能し、且つ下層面側では経地糸接結糸が他の下層面側経糸と同じ下層面側表面組織を形成する。
【0008】
本発明の織物は、経方向に伸びる経地糸接結糸で接結する構造であり、接結糸として機能する糸が使用中は常にテンションがかかる経方向の糸であるため、従来の細い緯糸接結糸を使用するのと比較し、上層面側層と下層面側層とを結合する接結力が非常に強く、密着性が良好である。従って、接結糸が両層間で揉まれて内部摩耗が発生して接結力が弱くなったり、両層間に隙間が発生したり、分離する等の問題が生じにくい。また、緯糸接結糸のような付加的接結糸が無いため、緯糸の打ち込み本数を増やしたり、緯糸線径を太くしたりすることができ、それにより織物全体として剛性も向上する。
経地糸接結糸と下層面側経糸と下層面側緯糸により形成される下層面側完全組織は、経糸が連続する6本の下層面側緯糸の上側を通り、次に1本の下層面側緯糸の下側を通り、次に2本の下層面側緯糸の上側を通った後、1本の下層面側緯糸の下側を通る組織を、下層面側緯糸3本分シフトさせて順次配置する繰り返しにより構成されるものであり、全て同じ経糸組織からなる。つまり、経地糸接結糸の組でも下層面側経糸と同じ下層面側表面組織を形成するということであり、経地糸接結糸と下層面側経糸の組、経地糸接結糸と上層面側経糸の組も同様に他の下層面側経糸と同じ下層面側表面組織を形成する。
経地糸接結糸と上層面側経糸と上層面側緯糸により形成される上層面側完全組織は、特に限定されていなく、組になった経地糸接結糸がそれぞれ別の上層面側緯糸と織り合わされ、それらが協働して上層面側完全組織を構成する1本の経糸として機能するもの、経地糸接結糸と上層面側経糸の組も同様でそれらが協働して上層面側完全組織を構成する1本の経糸として機能するものであればよい。経地糸接結糸と下層面側経糸の組では、下層面側経糸が上層面側緯糸を織り合わさないため、経地糸接結糸のみが上層面側緯糸と織り合わされて1本の経糸として機能するものであればよい。上層面側完全組織を形成する経糸完全組織が1種類であってもよく2種類以上であってもよい。例えば上層面側経糸が1本の上層面側緯糸の上側を通り、次いで連続する3本の上層面側緯糸の下側を通る1/3組織、その他上層面側経糸が2本の上層面側緯糸の上側を通り、次いで連続する2本の上層面側緯糸の下側を通る2/2組織により形成されているものや、1/3組織と2/2組織が1つの上層面側表面に混在する組織であってもよい。その他の例として、上層面側表面完全組織を2シャフトの平織、4シャフトの綾織り、4シャフトの崩し綾織り、5シャフトの綾織り、5シャフトの崩し綾織り、10シャフトの綾織り、10シャフトの崩し綾織り等がある。その他適宜選択できる。
【0009】
上層面側緯糸間に1本または2本以上の補助緯糸を配置しても構わない。補助緯糸は上層面側緯糸とともに上層面側表面組織を形成し、上層面側緯糸間の空間を埋めることで繊維支持性を向上させ、緯糸ナックルによる凹凸を解消して表面性を向上させるものである。補助緯糸が形成する組織は特に限定されていなく、用途や目的に応じて選択できる。繊維支持性を向上させたい場合には、上層面側緯糸間に補助緯糸がロングクリンプを形成する組織にすればよい。また、補助緯糸の線径は特に限定されていないが、上層面側緯糸よりも小径とするのが好ましい。また、補助緯糸の比率についても特に限定されていなく、上層面側緯糸と補助緯糸の比率は1:1、2:1その他3:2等であってもよい。
経地糸接結糸の配置割合については特に限定されないが、接結糸として機能するものであるため少なくとも1本以上の経地糸接結糸を配置する必要がある。本発明の織物は、10本の上層面側経糸と10本の下層面側経糸が上下に配置され10組の経糸から構成されているため、例えば10組中5組の上層面側経糸と下層面側経糸を経地糸接結糸とし、経地糸接結糸の組と上層面側経糸と下層面側経糸の組を交互に配置したり、経地糸接結糸と下層面側経糸の組と上層面側経糸と下層面側経糸の組を2:3の割合で配置してもよい。接結強度を向上させるためには経地糸接結糸を多く配置すればよい。その他、製織条件や使用目的等により適宜選択できる。
また、上層面側緯糸と下層面側緯糸の比率についても2:1、1:1その他3:2等であってもよい。上層面側緯糸を密、下層面側緯糸を粗とした2:1や3:2では、下層面側緯糸の線径を太くしやすく耐摩耗性を向上させることができる。
【0010】
本発明に使用される糸としては、工業用織物に望まれる特性によって自由に選択でき特に限定されない。例えばモノフイラメントの他、マルチフイラメント、スパンヤーン、捲縮加工や嵩高加工等を施した一般的にテクスチャードヤーン、バルキーヤーン、ストレッチヤーンと称される加工糸、モール糸、あるいはこれらをより合わせる等して組み合わせた糸等が使用できる。また、糸の断面形状も円形だけでなく四角形状や星型等の矩形状の糸や楕円形状、中空等の糸が使用できる。また、糸の材質としても自由に選択でき、ポリエステル、ナイロン、ポリフェニレンサルファイド、ポリふっかビニリデン、4ふっかエチレン、ポリプロピレン、アラミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエチレンナフタレート、綿、ウール、金属等が使用できる。勿論、共重合体やこれらの材質に目的に応じて色々な物質をブレンドしたり含有させたりした糸を使用しても良い。
一般的には、上層面側経糸、下層面側経糸、上層面側緯糸、経地糸接結糸には剛性があり、寸法安定性が優れているポリエステルモノフイラメントを用いるのが好ましい。また、耐摩耗性が要求される下層面側緯糸は、ポリエステルモノフイラメントとポリアミドモノフイラメントを交互に配置する等、交織して剛性を確保しつつ耐摩耗性を向上させることもできる。
また、組織上は本来1本の糸が配置される部分に、同組織で糸を複数本引き揃えて配置することもできる。細い線径の糸を複数本引き揃えて配置することによって、表面性の向上と織物の厚みを薄くすることができる。
【実施例】
【0011】
本発明の実施例を図面を参照して説明する。
図1,4,7,10,13,16,19,22,25,28は、本発明の実施例の完全組織を示す意匠図である。完全組織とは、織物組織の最小の繰り返し単位であって、この完全組織が上下左右につながって織物全体の組織が形成される。意匠図において、経糸はアラビア数字、例えば1,2,3で示し、緯糸はダッシュを付したアラビア数字、例えば1’,2’,3’で示す。
また、×印は上層面側経糸が上層面側緯糸の上側に位置していることを示し、□印は下層面側経糸が下層面側緯糸の下側に位置していることを示し、●印は経地糸接結糸が上層面側緯糸の上側に位置している部分を示し、○印は経地糸接結糸が下層面側緯糸の下側に位置していることを示し、◆印は経地糸接結糸が上層面側緯糸の上側に位置している部分を示し、◇印は経地糸接結糸が下層面側緯糸の下側に位置していることを示す。
上層面側の経糸、緯糸はそれぞれ下層面側の経糸、緯糸と上下に重なって配置されている。尚、意匠図では糸が上下に正確に重なって上層面側の経糸、緯糸のそれぞれの真下に下層面側の経糸、緯糸が配置されることになっているが、これは図面の都合上であって実際の織物ではずれて配置されても構わないものである。
【0012】
実施例1
図1は本発明の実施例1の完全組織を示す意匠図である。
図1の意匠図において10組の上下に配置された上層面側経糸と下層面側経糸のうち2,4,6,8,10は上層面側表面を形成する上層面側経糸と下層面側表面を形成する下層面側経糸が上下に配置された組であり、1,3,5,7,9は上層面側緯糸および下層面側緯糸と織り合わされて上層面側表面組織の一部と下層面側表面組織の一部を形成する2本の経地糸接結糸の組である。1’,2’,3’・・・20’は上層面側緯糸および下層面側緯糸を示し下層面側緯糸は上層面側緯糸の半分の密度で奇数番号の上層面側緯糸の1’,3’,5’・・・19’の下側に配置している。経地糸接結糸は上層面側層と下層面側層を織り合わせる糸であり、上層面側表面組織と下層面側表面組織を互いに補完し合って各々の表面組織を形成しているため表面組織を崩さない。2本の経地糸接結糸の組と上層面側経糸と下層面側経糸の組が1本交互に配置している。
下層面側を形成する経糸は連続する6本の下層面側緯糸の上側を通り、次に1本の下層面側緯糸の下側を通り、次に連続する2本の下層面側緯糸の上側を通り、次に1本の下層面側緯糸の下側を通る6/1−2/1組織であり、下層面側経糸2は連続する6本の下層面側緯糸15’,17’,19’,1’,3’,5’の上側を通り、次に1本の下層面側緯糸7’の下側を通り、次に連続する2本の下層面側緯糸9’,11’の上側を通り、次に1本の下層面側緯糸13’の下側を通る組織であることがわかる。
組になった経地糸接結糸は、一方の経地糸接結糸が少なくとも1本の上層面側緯糸と織り合わされ上層面側表面組織を形成しているところの下側で、もう一方の経地糸接結糸が1本の下層面側緯糸と織り合わされ、且つ、一方の経地糸接結糸が1本の下層面側緯糸と織り合わされているところの上側で、もう一方の経地糸接結糸が少なくとも1本の上層面側緯糸と織り合わされ上層面側表面組織を形成し、下層面側表面組織は下層面側経糸が形成する6/1-2/1組織と同じ組織となる。例えば、経地糸接結糸1の一方は、上層面側緯糸1’〜10’で平織り組織を形成し、次に上層面側緯糸11’と下層面側緯糸の間を通り、次に下層面側緯糸13’の下側を通り、次に上層面側緯糸15’と下層面側緯糸の間を通り、上層面側緯糸17’〜20’で平織組織を形成している。また、もう一方は、下層面側緯糸1’,3’,5’,7’,9’と上層面側緯糸の間を通り、次に上層面側緯糸11’〜16’で平織組織を形成し、次に上層面側緯糸17’と下層面側緯糸の間を通り、次に下層面側緯糸19’の下側を通る組織を形成している。組になった経地糸接結糸1が、一方の経地糸接結糸が上層面側緯糸11’〜16’と織り合わされているところの下側で、もう一方の経地糸接結糸が1本の下層面側緯糸13’と織り合わされ、且つ、一方の経地糸接結糸が1本の下層面側緯糸19’と織り合わされているところの上側で、もう一方の経地糸接結糸が上層面側緯糸17’〜20’,1’〜10’と織り合わされる組織とした。この組となった2本の経地糸接結糸は協働して、上層面側表面組織は平織り組織を形成し、下層面側表面組織は連続する6本の下層面側緯糸の上側を通り、次に1本の下層面側緯糸の下側を通り、次に連続する2本の下層面側緯糸の上側を通り、次に1本の下層面側緯糸の下側を通る6/1−2/1組織を形成する。上層面側表面組織は他の上層面側経糸と上層面側緯糸が形成する平織組織と同じであり、また下層面側表面組織は他の下層面側経糸と下層面側緯糸が形成する6/1−2/1組織と同じ組織である。
本実施例では、下層面側経糸2は、経地糸接結糸1が形成する組織を下層面側緯糸3本分シフトさせて順次配置している。その隣の経地糸接結糸3は、下層面側経糸2が形成する組織を下層面側緯糸3本分シフトさせて順次配置している。これを順次繰り返して配置することにより、隣り合う下層面側経糸と経地糸接結糸が1本の下層面側緯糸を下層面側から同時に織り込む組織となる。それにより、織物剛性が向上し、また、下層面側緯糸により下層面側表面に下層面側経糸8本分の緯糸ロングクリンプが形成されるため、耐摩耗性が向上する。隣接する経地糸接結糸1、下層面側経糸2では、隣り合う経地糸接結糸1と下層面側経糸2が1本の下層面側緯糸19’を下層面側から同時に隣接して織り込むことで、下層面側緯糸19’は経地糸接結糸1,下層面側経糸2の上側を通り、次に連続する8本の下層面側経糸、経地糸接結糸3,4,5,6,7,8,9,10の下側を通る組織になることがわかる。
【0013】
また、下層面側緯糸によって隣り合う下層面側経糸と経地糸接結糸が下層面側から同時に織り込まれることでその2本の下層面側経糸と経地糸接結糸は寄り合う。下層面側経糸および経地糸接結糸は下層面側緯糸に2回織り込まれる組織であり、下層面側経糸はそのうち1回ずつ左右の隣り合う経地糸接結糸と同時に織り込まれるため、左右の経地糸接結糸に交互に隣接しながらジグザグに配置される。もう一方の経地糸接結糸も1回ずつ左右の隣り合う下層面側経糸と同時に織り込まれるため、左右の下層面側経糸に交互に隣接しながらジグザグに配置される。したがって、下層面側層を構成する経方向の糸はジグザグに配置される。
上記のジグザグ配置について経地糸接結糸3と下層面側経糸4を例に挙げて説明する。下層面側経糸2と経地糸接結糸3は下層面側緯糸5’により同時に下層面側から織り込まれることで、下層面側経糸2と経地糸接結糸3は互いに寄り合う。そして、経地糸接結糸3と下層面側経糸4は下層面側緯糸11’により同時に下層面側から織り込まれることで経地糸接結糸3と下層面側経糸4は互いに寄り合う。そのため経地糸接結糸3は下層面側緯糸5’との交点で下層面側経糸2と寄り合い,下層面側緯糸11’との交点で下層面側経糸4と寄り合い、これが繰り返されることによって経地糸接結糸3はジグザグに配置されることがわかる。
そして、下層面側緯糸4については、下層面側経糸4と経地糸接結糸5は下層面側緯糸5’により同時に下層面側から織り込まれることで、下層面側経糸4と経地糸接結糸5は互いに寄り合う。そして、経地糸接結糸3と下層面側経糸4は下層面側緯糸19’により同時に下層面側から織り込まれることで、経地糸接結糸3と下層面側経糸4は互いに寄り合う。そのため下層面側経糸4は下層面側緯糸5’との交点で経地糸接結糸5と寄り合い,下層面側緯糸19’との交点で経地糸接結糸3と寄り合い、これが繰り返されることによって下層面側経糸4はジグザグに配置されることがわかる。その他の下層面側経糸、経地糸接結糸も同様に交互に隣接しながらジグザグに配置され、下層面側層を構成する経方向の糸はジグザグに配置されることがわかる。このような配置をすることにより上層面側層を構成する経方向の糸と下層面側層を構成する経方向の糸の重なる部分と重ならない部分が混在し、ろ水性が不均一になり段階的に脱水させることで脱水マークの発生、ワイヤー上のシート原料の刺さり込み、繊維や填料等の抜けを抑制したり、斜め方向の剛性を向上させる。
上層面側層をみてみると、上層面側経糸は、1本の上層面側緯糸の上側を通り、次に1本の上層面側緯糸の下側を通る平織組織であり、隣りの経地糸接結糸も同様に上層面側緯糸1本分シフトさせて平織組織を形成している。上層面側経糸2では1本の上層面側緯糸2’の上側を通り、次に1本の上層面側緯糸3’の下側を通る平織組織であることがわかる。また、組になった経地糸接結糸1により形成される上層面側表面組織は、同様に平織組織とした。その他の上層面側経糸、経地糸接結糸も同様に平織組織を形成する。このような上層面側経糸が形成する上層面側表面組織と経地糸接結糸が形成する上層面側表面組織を同じ組織にすることで均一な表面を形成することができる。本実施例では、上層面側層を平織組織としたが、特に限定されず適宜選択できる。
上記に述べたような本発明の組織とすることで、織物の剛性、斜め剛性、耐摩耗性、表面性を向上し、脱水マークの発生、ワイヤー上のシート原料の刺さり込み、繊維や填料等の抜けを抑制できる織物となる。
【0014】
実施例2
図4は本発明の実施例2の完全組織を示す意匠図である。
図4の意匠図において10組の上下に配置された上層面側経糸と下層面側経糸のうち3,4,5,8,9,10を上層面側経糸および下層面側経糸の組とし、1,2,6,7を経地糸接結糸の組とした。2本の経地糸接結糸の組と上層面側経糸と下層面側経糸の組が2:3の割合で配置している。上層面側緯糸と下層面側緯糸は2:1の割合で配置している。実施例1と同様に経地糸接結糸は上層面側層と下層面側層を織り合わせる糸であり、1組の経地糸接結糸は上層面側表面組織と下層面側表面組織を互いに補完し合って各々の表面組織を形成しているため表面組織を崩さない。上層面側層を2/3組織としたことで、緯方向にロングクリンプができるため、繊維支持性が良好になる。
【0015】
実施例3
図7は本発明の実施例3の完全組織を示す意匠図である。
図7の意匠図において10組の上下に配置された上層面側経糸と下層面側経糸のうち3,4,5,8,9,10を上層面側経糸および下層面側経糸の組とし、1,2,6,7を経地糸接結糸の組とした。2本の経地糸接結糸の組と上層面側経糸と下層面側経糸の組が2:3の割合で配置している。上層面側緯糸と下層面側緯糸は2:1の割合で配置している。上層面側層は3/2組織としたことで、縦方向にロングクリンプができるため、目的や用途に合わせてこのような組織を上層面側表面組織にすることもできる。
【0016】
実施例4
図10は本発明の実施例4の完全組織を示す意匠図である。
図10の意匠図において10組の上下に配置された上層面側経糸と下層面側経糸のうち2,4,6,8,10を上層面側経糸および下層面側経糸の組とし、1,3,5,7,9を経地糸接結糸の組とした。2本の経地糸接結糸の組と上層面側経糸と下層面側経糸の組が1本交互に配置している。上層面側緯糸と下層面側緯糸は2:1の割合で配置している。上層面側層の上層面側経糸は、1本の上層面側緯糸の上側を通り、次に2本の上層面側緯糸の下側を通り、次に1本の上層面側緯糸の上側を通り、次に1本の上層面側緯糸の下側を通る組織を繰り返して形成している。目的や用途に合わせて、このような組織を上層面側表面組織にすることもできる。
【0017】
実施例5
図13は本発明の実施例5の完全組織を示す意匠図である。
図13の意匠図において10組の上下に配置された上層面側経糸と下層面側経糸のうち2,3,4,5,7,8,9,10を上層面側経糸および下層面側経糸の組とし、1,6を経地糸接結糸の組とした。2本の経地糸接結糸の組と上層面側経糸と下層面側経糸の組が1:4の割合で配置している。上層面側緯糸と下層面側緯糸は1:1の割合で配置している。上層面側層は3/2組織を形成している。経地糸接結糸の比率は1:4であるが接結力は十分にある。
【0018】
実施例6
図16は本発明の実施例6の完全組織を示す意匠図である。
図16の意匠図において10組の上下に配置された上層面側経糸と下層面側経糸のうち2,3,4,5,7,8,9,10を上層面側経糸および下層面側経糸の組とし、1,6を経地糸接結糸の組とした。2本の経地糸接結糸の組と上層面側経糸と下層面側経糸の組が1:4の割合で配置している。上層面側緯糸と下層面側緯糸は1:1の割合で配置している。上層面側層を平織組織としたことで、上層面側表面は実施例5に比べてより緻密になり、織物の剛性、斜め剛性、表面性が向上し、脱水マークの発生、ワイヤー上のシート原料の刺さり込み、繊維や填料等の抜けを抑制することができる。
【0019】
実施例7
図19は本発明の実施例7の完全組織を示す意匠図である。
図19の意匠図において10組の上下に配置された上層面側経糸と下層面側経糸のうち2,3,4,5,7,8,9,10を上層面側経糸および下層面側経糸の組とし、1,6を経地糸接結糸の組とした。2本の経地糸接結糸の組と上層面側経糸と下層面側経糸の組が1:4の割合で配置している。上層面側緯糸と下層面側緯糸は1:1の割合で配置している。上層面側層の上層面側経糸は、1本の上層面側緯糸の上側を通り、次に2本の上層面側緯糸の下側を通り、次に1本の上層面側緯糸の上側を通り、次に1本の上層面側緯糸の下側を通る組織を繰り返して形成している。目的や用途に合わせて、このような組織を上層面側表面組織にすることもできる。
【0020】
実施例8
図22は本発明の実施例8の完全組織を示す意匠図である。
図22の意匠図において10組の上下に配置された上層面側経糸と下層面側経糸のうち2,3,4,5,7,8,9,10を上層面側経糸および下層面側経糸の組とし、1,6を経地糸接結糸の組とした。2本の経地糸接結糸の組と上層面側経糸と下層面側経糸の組が2:3の割合で配置している。上層面側緯糸と下層面側緯糸は1:1の割合で配置している。上層面側層を2/3組織にし、崩綾織りにしたことで、上層面側表面組織の斜め方向の規則性を崩し、斜め方向のワイヤーマークの発生を抑制することができる。
【0021】
実施例9
図25は本発明の実施例9の完全組織を示す意匠図である。
図25の意匠図において10組の上下に配置された上層面側経糸と下層面側経糸のうち、2,3,4,5,7,8,9,10を上層面側経糸および下層面側経糸の組とし、1,6を上層面側経糸を経地糸接結糸とした経地糸接結糸と下層面側経糸の組とした。1,6の上層面側経糸を上層面側緯糸および下層面側緯糸と織り合わされて上層面側表面組織の一部と下層面側表面組織の一部を形成する経地糸接結糸とし、該経地糸接結糸と下層面側経糸の組では、上層面側表面は経地糸接結糸が上層面側緯糸と織り合わされて上層面側完全組織を構成する1本の経糸として機能し、且つ下層面側では経地糸接結糸と下層面側経糸が協働して他の下層面側経糸と同じ下層面側表面組織を形成する。
経地糸接結糸と下層面側経糸の組1では、一方の経地糸接結糸は上層面側緯糸4’の上側を通り、次に上層面側緯糸5’,6’,7’,8’の下側を通り、次に上層面側緯糸9’の上側を通り、次に上層面側緯糸と下層面側緯糸10’,1’の間を通り、次に下層面側緯糸2’の下側を通り、上層面側表面は他の上層面側経糸と同じ上層面側表面組織を形成し、もう一方の下層面側経糸は下層面側緯糸10’,1’〜8’の上側を通り、次に下層面側緯糸9’の下側を通る組織を形成し、下層面側経糸と経地糸接結糸が協働することで、下層面側表面は他の下層面側経糸と同じ下層面側表面組織を形成する。下層面側経糸2は経地糸接結糸と下層面側経糸の組1が形成した組織を下層面側緯糸3本分シフトさせて順次配置している。その隣の下層面側経糸3は、下層面側経糸2が形成する組織を下層面側緯糸3本分シフトさせて順次配置している。これを順次繰り返して配置することにより、隣り合う下層面側経糸と経地糸接結糸が1本の下層面側緯糸を下層面側から同時に織り込む組織となる。それにより、織物剛性が向上し、また、下層面側緯糸により下層面側表面に下層面側経糸8本分の緯糸ロングクリンプが形成されるため、耐摩耗性が向上する。
また、経地糸接結糸と下層面側経糸の組1、下層面側経糸2では、隣り合う経地糸接結糸1と下層面側経糸2が下層面側緯糸2’により同時に下層面側から織り込まれることで、経地糸接結糸1と下層面側経糸2は互いに寄り合う。そして、下層面側経糸2と下層面側経糸3は下層面側緯糸5’により同時に下層面側から織り込まれることで、下層面側経糸2と下層面側経糸3は互いに寄り合う。そのため下層面側経糸2は下層面側緯糸2’との交点で経地糸接結糸1と寄り合い、下層面側緯糸5’との交点で下層面側経糸3と寄り合い、これが繰り返されることによって下層面側経糸2はジグザグに配置される。このような配置をすることにより上層面側層を構成する経方向の糸と下層面側層を構成する経方向の糸の重なる部分と重ならない部分が混在し、ろ水性が不均一になり段階的に脱水させることで脱水マークの発生、ワイヤー上のシート原料の刺さり込み、繊維や填料等の抜けを抑制したり、斜め方向の剛性を向上させる。
本実施例では、経地糸接結糸と下層面側経糸の組と上層面側経糸と下層面側経糸の組は1:4の割合で配置している。また、上層面側緯糸と下層面側緯糸は1:1の割合で配置している。実施例1から8まででは、完全組織の中に2本1組にした経地糸接結糸を少なくとも1組配置した織物としたが、本実施例では2本1組にした経地糸接結糸ではなく経地糸接結糸と下層面側経糸の組を2組配置した織物とした。本実施例のような経地糸接結糸と下層面側経糸の配置としても接結力は十分にある。
【0022】
実施例10
図28は本発明の実施例10の完全組織を示す意匠図である。
図28の意匠図において10組の上下に配置された上層面側経糸と下層面側経糸のうち、2,3,4,5,7,8,9,10を上層面側経糸および下層面側経糸の組とし、1,6を下層面側経糸を経地糸接結糸とした経地糸接結糸と上層面側経糸の組とした。1,6の下層面側経糸を上層面側緯糸および下層面側緯糸と織り合わされて上層面側表面組織の一部と下層面側表面組織の一部を形成する経地糸接結糸とし、該経地糸接結糸と上層面側経糸の組では、上層面側表面は経地糸接結糸と上層面側緯糸がそれぞれ別の上層面側緯糸と織り合わされ、それらが協働して上層面側完全組織を構成する1本の経糸として機能し、且つ下層面側では経地糸接結糸が下層面側経糸と同じ下層面側表面組織を形成する。
経地糸接結糸と上層面側経糸の組1では、一方の経地糸接結糸は上層面側緯糸4’の上側を通り、次に上層面側緯糸と下層面側緯糸5’,6’,7’,8’の間を通り、次に下層面側緯糸9’の下側を通り、次に上層面側緯糸と下層面側緯糸10’,1’の間を通り、次に下層面側緯糸2’の下側を通り、次に上層面側緯糸と下層面側緯糸3’の間を通ることで、上層面側表面は他の上層面側経糸と同じ上層面側表面組織を形成し、もう一方の上層面側経糸は下層面側緯糸10’,1’〜8’の下側を通り、次に下層面側緯糸9’の上側を通る組織を形成し、上層面側経糸と経地糸接結糸が協働することで、下層面側表面は他の下層面側経糸と同じ下層面側表面組織を形成する。下層面側経糸2は経地糸接結糸1が形成した組織を下層面側緯糸3本分シフトさせて順次配置している。その隣の下層面側経糸3は、下層面側経糸2が形成する組織を下層面側緯糸3本分シフトさせて順次配置している。これを順次繰り返して配置することにより、隣り合う下層面側経糸と経地糸接結糸が1本の下層面側緯糸を下層面側から同時に織り込む組織となる。それにより、織物剛性が向上し、また、下層面側緯糸により下層面側表面に下層面側経糸8本分の緯糸ロングクリンプが形成されるため、耐摩耗性が向上する。
また、経地糸接結糸と上層面側経糸の組1、下層面側経糸2では、隣り合う経地糸接結糸1と下層面側経糸2が下層面側緯糸2’により同時に下層面側から織り込まれることで、経地糸接結糸1と下層面側経糸2は互いに寄り合う。そして、下層面側経糸2と下層面側経糸3は下層面側緯糸5’により同時に下層面側から織り込まれることで、下層面側経糸2と下層面側経糸3は互いに寄り合う。そのため下層面側経糸2は下層面側緯糸2’との交点で経地糸接結糸1と寄り合い、下層面側緯糸5’との交点で下層面側経糸3と寄り合い、これが繰り返されることによって下層面側経糸2はジグザグに配置される。このような配置をすることにより上層面側層を構成する経方向の糸と下層面側層を構成する経方向の糸の重なる部分と重ならない部分が混在し、ろ水性が不均一になり段階的に脱水させることで脱水マークの発生、ワイヤー上のシート原料の刺さり込み、繊維や填料等の抜けを抑制したり、斜め方向の剛性を向上させる。
本実施例では、経地糸接結糸と上層面側経糸の組と上層面側経糸と下層面側経糸の組は1:4の割合で配置している。また、上層面側緯糸と下層面側緯糸は1:1の割合で配置している。実施例9と同様に、本実施例では2本1組にした経地糸接結糸ではなく経地糸接結糸と上層面側経糸の組を2組配置した織物とした。本実施例のような経地糸接結糸と上層面側経糸の配置としても接結力は十分にある。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明の工業用二層織物は、剛性、斜め剛性、耐摩耗性に優れているので製紙、ろ布等の多くの分野で好適に使用される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施例1の完全組織を示す意匠図である。
【図2】図1の経糸1,2に沿った断面図である。
【図3】図1の緯糸1’に沿った断面図である。
【図4】本発明の実施例2の完全組織を示す意匠図である。
【図5】図4の経糸2,3に沿った断面図である。
【図6】図4の緯糸1’に沿った断面図である。
【図7】本発明の実施例3の完全組織を示す意匠図である。
【図8】図7の経糸2,3に沿った断面図である。
【図9】図7の緯糸1’に沿った断面図である。
【図10】本発明の実施例4の完全組織を示す意匠図である。
【図11】図11の経糸1,2に沿った断面図である。
【図12】図11の緯糸1’に沿った断面図である。
【図13】本発明の実施例5の完全組織を示す意匠図である。
【図14】図13の経糸1,2に沿った断面図である。
【図15】図13の緯糸1’に沿った断面図である。
【図16】本発明の実施例6の完全組織を示す意匠図である。
【図17】図16の経糸1,2に沿った断面図である。
【図18】図16の緯糸1’に沿った断面図である。
【図19】本発明の実施例7の完全組織を示す意匠図である。
【図20】図19の経糸1,2に沿った断面図である。
【図21】図19の緯糸1’に沿った断面図である。
【図22】本発明の実施例8の完全組織を示す意匠図である。
【図23】図22の経糸1,2に沿った断面図である。
【図24】図22の緯糸1’に沿った断面図である。
【図25】本発明の実施例9の完全組織を示す意匠図である。
【図26】図25の経糸1,2に沿った断面図である。
【図27】図25の緯糸1’に沿った断面図である。
【図28】本発明の実施例10の完全組織を示す意匠図である。
【図29】図28の経糸1,2に沿った断面図である。
【図30】図28の緯糸1’に沿った断面図である。
【符号の説明】
【0025】
1,2,3・・・10 上層面側経糸と下層面側経糸の組または経地糸接結糸の組または上層面側経糸と経地糸接結糸の組または下層面側経糸と経地糸接結糸の組
1’,2’・・20’ 上層面側緯糸、下層面側緯糸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
10本の上層面側経糸と10本の下層面側経糸を上下に配置することによってできる10組の経糸と、複数本の上層面側緯糸と下層面側緯糸から構成され、上層面側層と下層面側層を経方向の糸で接結してなる工業用二層織物において、
下層面側層は、経糸が連続する6本の下層面側緯糸の上側を通り、次に1本の下層面側緯糸の下側を通り、次に2本の下層面側緯糸の上側を通った後、1本の下層面側緯糸の下側を通る組織を、下層面側緯糸3本分シフトさせて順次配置する繰り返しにより構成され、隣り合う2本の下層面側経糸が1本の下層面側緯糸を下層面側から同時に織り込むことで下層面側緯糸が2本の下層面側経糸の上側を通り、次に8本の下層面側経糸の下側を通り、下層面側表面に下層面側経糸8本分の緯糸ロングクリンプを形成し、且つ下層面側経糸が隣り合う左右の下層面側経糸と交互に下層面側緯糸の下側を通る部分を形成することで、下層面側経糸は左右の下層面側経糸と交互に隣接しジグザグ配置としたことを特徴とする工業用二層織物。
【請求項2】
10組の上下に配置された上層面側経糸と下層面側経糸のうち、1組以上の上層面側経糸と下層面側経糸の両方が、上層面側緯糸および下層面側緯糸と織り合わされて上層面側表面組織の一部と下層面側表面組織の一部を形成する経地糸接結糸であり、上層面側表面は組になった経地糸接結糸がそれぞれ別の上層面側緯糸と織り合わされ、それらが協働して上層面側完全組織を構成する1本の経糸として機能し、且つ下層面側表面では組になった経地糸接結糸が他の下層面側経糸と同じ下層面側表面組織を形成する、請求項1に記載された工業用二層織物。
【請求項3】
10組の上下に配置された上層面側経糸と下層面側経糸の組のうち、1本以上の上層面側経糸が、上層面側緯糸および下層面側緯糸と織り合わされて上層面側表面組織の一部と下層面側表面組織の一部を形成する経地糸接結糸であり、該経地糸接結糸と下層面側経糸の組では、上層面側表面は経地糸接結糸が上層面側緯糸と織り合わされて上層面側完全組織を構成する1本の経糸として機能し、且つ下層面側表面では経地糸接結糸と下層面側経糸が協働して他の下層面側経糸と同じ下層面側表面組織を形成する、請求項1に記載された工業用二層織物。
【請求項4】
10組の上下に配置された上層面側経糸と下層面側経糸の組のうち、1本以上の下層面側経糸が、上層面側緯糸および下層面側緯糸と織り合わされて上層面側表面組織の一部と下層面側表面組織の一部を形成する経地糸接結糸であり、該経地糸接結糸と上層面側経糸の組では、上層面側表面は経地糸接結糸と上層面側経糸がそれぞれ別の上層面側緯糸と織り合わされ、それらが協働して上層面側完全組織を構成する1本の経糸として機能し、且つ下層面側表面では経地糸接結糸が他の下層面側経糸と同じ下層面側表面組織を形成する、請求項1に記載された工業用二層織物。
【請求項5】
請求項2に記載された組になった経地糸接結糸が、一方の経地糸接結糸が少なくとも1本の上層面側緯糸と織り合わされ上層面側表面組織を形成しているところの下側で、もう一方の経地糸接結糸が1本の下層面側緯糸と織り合わされ、且つ、一方の経地糸接結糸が1本の下層面側緯糸と織り合わされているところの上側で、もう一方の経地糸接結糸が少なくとも1本の上層面側緯糸と織り合わされ上層面側表面組織を形成し、1組の経地糸接結糸が上層面側表面組織と下層面側表面組織を互いに補完し合って各々の表面組織を形成している工業用二層織物。
【請求項6】
上層面側表面を構成する経糸組織が、2シャフトの平織、4シャフトの綾織り、4シャフトの崩し綾織り、5シャフトの綾織り、5シャフトの崩し綾織り、10シャフトの綾織り、10シャフトの崩し綾織りのいずれかである、請求項1ないし5のいずれか1項に記載された工業用二層織物。
【請求項7】
上層面側緯糸間に1本または2本以上の補助緯糸を配置する、請求項1ないし6のいずれか1項に記載された工業用二層織物。
【請求項8】
上層面側緯糸本数が下層面側緯糸本数の1から2倍の本数である、請求項1ないし7のいずれか1項に記載された工業用二層織物。
【請求項9】
上層面側経糸の線径と下層面側経糸の線径が等しい、請求項1ないし8のいずれか1項に記載された工業用二層織物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【公開番号】特開2006−152498(P2006−152498A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−346310(P2004−346310)
【出願日】平成16年11月30日(2004.11.30)
【出願人】(000229818)日本フイルコン株式会社 (58)
【Fターム(参考)】