説明

工業用炉の炉内燃焼制御法

【課題】 既存の工業用炉でもエネルギー効率と炉内加熱温度の均一性の向上だけでなく窒素酸化物や二酸化炭素の発生を低コストで抑制する。
【解決手段】 工業用炉(200)の天井にマトリクス配置された天井バーナー(203)を燃料と第1の酸化剤で駆動して炉内の加熱対象物(202)を加熱する。側壁(201)に配置したランス(206)を通して酸素含有率が85重量%以上の第2の酸化剤を音速以上のジェット流(207)の形態で炉内に供給し、加熱対象物よりも上方の水平面内で天井バーナーの列(205a,205b)と平行に通過させる。単位時間当たりで第2の酸化剤の供給量をそれによる供給酸素量が炉内へ供給される全酸素量の少なくとも50重量%となるように制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工業用炉において燃焼を実行する際に用いられる炉内燃焼制御法に関する。
【0002】
更に詳細には、本発明は、例えばいわゆる平面火焔型など、屡々回転する平板形状の火焔を生じるようにマトリクス配置で設置された多数の下向き天井バーナーによって燃焼室内の加熱を行う工業用炉における炉内燃焼制御法に関する。一般に、このようなバーナー配置は炉内に良好な温度の均質性を与えるので好ましいものとされている。
【背景技術】
【0003】
多数のバーナーを配列した工業用炉向けの燃焼システムは例えば米国特許第6350118号明細書又は特表平10−502445号公報により知られている。この先行文献に開示されている技術では、多数のバーナー及び多数の酸化剤ランスはそれぞれの軸心が或る一つの共通の水平面内に向くように炉の側壁に装着され、前記共通平面の下方にはガスの噴射なしに輻射熱が照射される。これに対して、炉内の天井に多数の下向きバーナーをマトリクス配置した炉の場合は、炉内における加熱対象物に対する過熱による表面損傷のリスクが高いため、各天井バーナーは酸化剤に空気を用いて駆動するのが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第6350118号明細書
【特許文献2】特表平10−502445号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
空気駆動型の天井バーナーによる加熱で問題となるのは、酸化剤として供給される空気が多量の窒素分を含み、これがエネルギー効率の低下、従って二酸化炭素放出量の増加をもたらすことである。
【0006】
エネルギー効率を向上させるには個々の天井バーナーを再熱バーナーとして構成すればよいが、この場合は多額な投資が再熱バーナーの設置に費やされることになる。
【0007】
また、マトリクス配置の多数の空気駆動型天井バーナーによる加熱の最中に比較的高濃度の窒素酸化物が形成されるという問題も回避する必要がある。
【0008】
更に、マトリクス配置の空気駆動型天井バーナーを備えた既存の工業用炉においても、結果として炉内空間に許容できないほどの温度勾配を生じることなく最大許容加熱容量を向上できるようにすることは望まれていることである。
【0009】
本発明の目的は、以上のような諸問題を解決し、既存の天井バーナー式の工業用炉でもエネルギー効率と炉内加熱温度の均一性の向上だけでなく窒素酸化物や二酸化炭素の発生を低コストで抑制することのできる炉内燃焼制御法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明による炉内燃焼制御法は、工業用炉の天井に複数の下向き天井バーナーを少なくとも2列をなす行列マトリクス配置で炉の天井に設置し、炉内の加熱対象物を加熱するために各天井バーナーを燃料と第1の酸化剤で駆動することにより炉内を各天井バーナーによる燃焼で加熱するに際して、少なくとも1本のランスを前記炉の側壁に配置し、該ランスを通して酸素含有率が少なくとも85重量%の第2の酸化剤を音速以上のジェット流の形態で炉内に供給し、この第2の酸化剤のジェット流を前記加熱対象物よりも上方の水平面内で前記天井バーナーの列と平行に通過させ、単位時間当たりの第2の酸化剤の供給量を、第2の酸化剤による供給酸素量が炉内へ単位時間当たりに供給される全酸素量の少なくとも50重量%となるように平衡させることにより前述の課題を解決するものである。
【0011】
本発明の特徴と利点を添付図面に示された実施形態に基づいて更に詳述すれば以下の通りである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】従来から知られている工業用炉の一部を上から見た模式断面図である。
【図2】図1に示した工業用炉の一部を側方から見た模式断面図である。
【図3】本発明の第1の実施形態による燃焼制御法を適用した工業用炉の一部を上から見た模式断面図である。
【図4】図3に示した工業用炉の一部を側方から見た模式断面図である。
【図5】本発明の第2の実施形態による燃焼制御法を適用した工業用炉の一部を上から見た模式断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の実施形態を説明する前に、その前提となるマトリクス配置の多数の下向き天井バーナーを備えた工業用炉について説明すると、図1において、この工業用炉100の内部では、該炉100の両側壁101の間の空間を例えば金属ブランク材などの加熱対象物102が加熱されながら矢印Lで示す炉の長手方向に搬送されている。図2は炉100の同じ部分を側方から示している。尚、図1と図2では、同一部分には同じ符号が付されている。
【0014】
好適には、図1に示す炉の部分が工業用炉100における複数の炉内領域の一区間を構成するようにし、これは、図示の一区間において加熱対象物102の全面に亘って可能な限り均一な加熱をすることが狙いである。このような均一な加熱を達成するために、複数の下向き天井バーナー103の行列マトリクス配置は加熱対象物102の上方で全面に拡がっており、それぞれのバーナーからの火焔は下向きである。
【0015】
各天井バーナーは、いわゆる平面火焔型、即ち、バーナー噴射口に軸心周囲に大きな立体拡がり角度で前記軸心と直角に近い傾斜角の平面状の火焔を生じる形式のバーナーとすることが望ましく、それによって加熱対象物102の表面の過熱のリスクを少なくし、加熱対象物102の上面の上方空間における温度の均一性を向上させることができる。
【0016】
各天井バーナー103は、固体燃料、液体燃料、又は天然ガスのような気体燃料と、酸化剤とによって駆動される。酸化剤は、空気又は酸素含有率が多くても30容積%の他の酸化剤であればよい。
【0017】
各天井バーナー103は炉100の天井部に組み込み、該天井部と加熱対象物102との間の垂直間隔は1〜3m、好適には1〜2mの範囲内である。
【0018】
本発明を適用する対象の工業用炉では、複数の天井バーナー103が炉の長手方向Lに対して直角な直交方向Tに沿って延在する少なくとも2列をなす行列マトリクス配置で炉の天井に設置されている。図1及び図2には、係る2列を模式的に囲みを付けて符号105aと105bで示してある。これらの隣接する天井バーナーの列105aと105bとの間の間隔は好適には1〜3mの範囲内である。
【0019】
このようなマトリクス配置の天井バーナーによる加熱によれば、加熱対象物102の上面に全面均一な加熱を与えることができるが、それだけでは前述の課題に挙げた諸問題に依然として悩まされることになる。
【0020】
図3と図4は、本発明による方法を適用した工業用炉200の一部を図1及び図2と同様に上から及び側方からみた模式断面図であり、同一部分には同じ符号を付して示してある。この炉200は向かい合った一対の側壁201を備え、炉内では加熱対象物202がそれ自体は従来から知られている複数の天井バーナー203で加熱されながら矢印Lで示す炉の長手方向に沿って搬送される。図4では天井バーナー203から生じる平面状の火焔204を模式的に示してあるが、これらの天井バーナー203は既に図1及び図2について説明したタイプのものであり、炉の長手方向Lに対して好ましくは直角な方向Tに沿って延在する少なくとも2つの列205aと205bとをなす行列マトリクス配置で炉の天井に組み込まれている。また、天井バーナーの列105aと105bとの間の間隔及び炉の天井部と加熱対象物102との間の垂直間隔の好適な数値範囲も図3及び図4に示す炉に有効である。
【0021】
天井バーナー203は、好ましくは少なくとも3列、更に好ましくは少なくとも5列、最も好ましくは少なくとも7列を成し、各列が少なくとも4基、更に好ましくは少なくとも6基、最も好ましくは少なくとも8基の天井バーナーからなる行列マトリクス配置で設置されていることが好ましい。このような多数の天井バーナーによる行列マトリクス配置だけでは、加熱効率の向上と有害排気物質の減少を達成するために個々の天井バーナーを改造するための実質的なコストを要することになる。このような改造には、例えば個々のバーナーを復熱装置(レキュペレーター)を用いて再熱バーナーにするための改造が含まれる。本発明による方法は、これらの改造目的をより少ない実質的コストで達成することができ、バーナーがマトリクス配置の多数の天井バーナー203を含むような炉においては特に有利である。
【0022】
即ち、本発明によれば、少なくとも酸素含有率が85重量%の第2の酸化剤が炉200の側壁201に配置された少なくとも1本のランス206から吹き込まれる。このランス206は、第2の酸化剤を高速ジェット流の形態で炉200の内部加熱空間へ供給するように配置されている。本発明によれば、第2の酸化剤は少なくとも音速以上の流速をもつジェット流207の形態で供給される。
【0023】
また、第2の酸化剤のジェット流207は、炉200内の天井面と加熱対象物102との間、従って炉内の加熱対象物202の上面よりも上方位置にある水平面内で天井バーナー203の列205a及び205bと平行に通過する。ここで、ジェット流207が水平面内を通過するということは、ジェット流207の噴射方向に多少の縦方向成分が含まれていても、ジェット流207が実質的に水平に噴射されることを意味するものと解釈すべきである。重要なのは、ジェット流207が加熱対象物202と炉内の天井面との間に存在する空間に吹き込まれるということである。
【0024】
ジェット流207を加熱対象物202の水平な上面と平行に通過させるように構成することも好ましいことである。加熱対象物のタイプによってはその上面は様々な形態をもつが、例えば金属ブランク材の加熱炉やガラス溶融炉の場合は加熱対象物の上面は実質的に平面で且つ水平である。
【0025】
第2の酸化剤の単位時間当たりの供給量は、第2の酸化剤による供給酸素量が炉200内へ単位時間当たりに供給される全酸素量の少なくとも50重量%となるように保たれ、従って燃料供給量に対する酸素供給量に関して燃焼が所要の化学量論的平衡状態に維持されるように調整される。
【0026】
このように比較的高い酸素濃度の第2の酸化剤を高速で天井バーナー203の列205aと205bとの間に供給することにより、以下に述べるような多くの利点を奏することができる。
【0027】
即ち、第1に、炉200内において第2の酸化剤を吹き込んでいる部分の加熱効率を向上することができ、その理由は、例えば空気のように酸素含有率の低い酸化剤が全供給酸化剤の大部分を占めるような場合に比べて、炉内雰囲気に供給される窒素の量が相対的に少なくなるからである。従って燃料消費量を安定に保ちながら加熱効率を向上することができ、それにより、就中、環境への悪影響の低減並びに経済面での利益を得ることが可能である。同時に、ランスから高い流速で吹き出される第2の酸化剤が炉内雰囲気に強攪拌をもたらすので加熱対象物202の表面を過剰に加熱するおそれがなく、同様に全火焔容量を増加できる一方で局部ピーク火焔温度を低下させることができる。
【0028】
ここで、局部ピーク火焔温度を低下させることができるということは、窒素酸化物の生成も相応に減少できると言うことであり、これも好ましいことである。第2の酸化剤に由来する酸素量が50重量%以下、或る場合は第2の酸化剤からの酸素が70重量%以下である場合は、全酸素量に比例して窒素酸化物だけでなく二酸化炭素の相対生成量も大幅に減少できることが確認されている。
【0029】
ランス206は、吹き出されるジェット流207が天井バーナー203の列205aと205bとの間をこれらの列と平行に通過するように向きを定められているので、ジェット流207による天井バーナー203の定常機能に対する阻害作用が最小限となるようにランスを配置することができ、それにより、これら天井バーナー203からの加熱効果の良好な拡がりを維持することができる。同時に、攪拌作用の増加による有用な効果も利用できる。これを果たすにためは、ランス206から噴射されるジェット流207の発散角度を10度以下とすることが特に好ましい。
【0030】
更にまた、天井バーナー203自体の構造を変えなくても、使用する天井バーナー203のタイプに応じて最大火力を付加的に高めることができる。即ち、多くの場合、天井バーナー203へ送り込む燃料の流量を増加することは可能であり、従って増加させた燃料供給流量を、単位時間当たりの第2の酸化剤の供給量を増加することによって、酸化剤の全供給量に対して平衡させることができる。このようにして火力が増強されても、ジェット流207によって強攪拌が果たされるから、加熱対象物202の表面に対する過熱のリスクは殆ど生じない。
【0031】
実際に、上述のような第2の酸化剤の高速ジェット流を炉200の天井面と加熱対象物202の上面との間にランスから吹き込むことによって、天井バーナー203で加熱されている空間の温度の均一性は該空間内のジェット流による強攪拌の効果で向上したことが確認されている。
【0032】
以上の有用な利点は、複数の天井バーナー、例えば少なくとも5基の天井バーナー203に対して1本のランス206を割り当てただけの場合でも達成することができる。このように、天井バーナーの数よりも少ない本数のランスの設置で済むと言うことは、個々の天井バーナー、例えば5基の天井バーナーの全てを個別に改造するよりも低コストで果たせることを意味している。
【0033】
本発明において、「音速」即ち「マッハ1」とは、炉200の内部における支配的な温度及びガス組成における音速と解釈すべきである。これに対応する意味で、本発明の好適な実施形態によれば第2の酸化剤は少なくとも音速の1.5倍、即ちマッハ1.5以上の流速でランスから炉内に吹き込まれる。このような高速のランス吹きによって所謂無火焔燃焼が達成され、燃焼中の全火焔容量は極めて大きく、従ってピーク火焔温度は極めて低く、しかも温度の均一性は極めて高くなる。これに関連して、ランス206の吹き出しオリフィスにベンチュリーノズルを採用することは特に好ましいことである。
【0034】
本発明の特に好適な実施形態によれば、第2の酸化剤は酸素含有率が少なくとも95重量%のものであり、特に好ましくは工業用純酸素からなるものである。これにより窒素ガスバラスト量を最小限にすることができ、従って燃焼加熱のエネルギー効率を最大限にすることが可能である。更に、ジェット流207は細く絞ることができ、ガスの体積膨張を一層正確に制御可能であるので、天井バーナー203の作動に対する妨害を最小化することもできる。
【0035】
更にまた、第2の酸化剤の単位時間当たりの供給量は、第2の酸化剤から供給される酸素が炉200内へ単位時間当たりに供給される全酸素量の少なくとも60重量%となるように調整することが好ましい。
【0036】
好適な例では、少なくとも1基、又は複数基 或いは全ての天井バーナー203が従来から知られている例えば空気のように比較的酸素含有率の低い酸化剤で駆動されるバーナーであり、これらのバーナーは空冷式であることが好ましい。この場合、作動中に第2の酸化剤のランス吹き込みによって燃焼動作に影響を受ける天井バーナー203、最も好適には全ての天井バーナー203に送り込まれる空気の流量を、これら天井バーナー203の冷却に足りる最低レベルに抑制することが好ましく、また、第2の酸化剤の供給流量を所要の化学量論的平衡状態が炉200内の燃焼域の全域で達成されるように制御することが好ましい。天井バーナーの冷却に足りる最低レベルの空気供給流量は、当然のことながら対象となる空冷天井バーナーの設計諸元及びその他の作動条件に依存するが、このように空気の供給量を最低限に抑制することにより、本発明による利点を最大限に享受しつつ既存の空冷天井バーナー203に改造を施す必要もなくなるのである。
【0037】
加熱対象物202と炉200の天井面との間におけるランス206の開口高さ位置は、加熱対象物202の上面の最も高い位置からの垂直間隔Bが、加熱対象物202と炉200の天井面との間の最小垂直間隔Aの40〜70%、好適には50〜60%の範囲内となる位置とすることが好ましい。この開口高さ位置を炉内天井面側へ向かって高くしすぎると、天井バーナー203の火焔がランスからのジェット流で必要以上に妨害を受け、熱エネルギーを供給する第2の酸化剤が炉内雰囲気中で必要以上に増加し、更にはジェット流207が炉内天井面へ向かって押し上げられるので好ましくない。逆にランスの開口高さ位置を低くしすぎると、加熱対象物202の上面の有害な酸化が増加する危険が生じるので好ましくない。上記の好ましい開口高さ位置範囲は、既存の従来形式の工業用炉に本発明を適用した場合に上述の諸問題点を回避する理想的範囲であることが確認されている。
【0038】
図3及び図4に示すように、第2の酸化剤を吹き込むための各ランス206は炉の両側壁201に設置され、マトリクス配置の各天井バーナ203の列間の全ての隙間に第2の酸化剤のジェット流207をそれぞれ供給するように配列されている。この配列は好適な一例であり、必ずしも本発明に必須のものではない。即ち、本発明によって得られる利点は、たとえランス206が天井バーナー203の単に一対の列205a、205bの間の隙間だけ、或いは或る限られた数の列間の隙間だけに酸化剤ジェット流207を供給するように設置されている場合でも、ランスの設置数に応じた度合いで享受することが可能である。
【0039】
また、図3及び図4は、炉200が天井バーナー203の列205aと206bに平行な向きで少なくとも8mの内幅寸法を有する場合に好適な実施形態を示している。この場合、炉の両側の側壁にランス208a、208bをそれぞれ設置し、炉の両側壁に向かい合って配列された各ランスの吹き出しオリフィス開口から前述の態様で第2の酸化剤を供給して、第2の酸化剤の各ジェット流が天井バーナーの列と平行に、且つ同じ列間の隙間では互いに対向するように吹き込まれるようにすることが好ましい。即ち、この場合の第2の酸化剤は、対向する2方向から天井バーナー203の2つの列205a及び205bの間の同じ一つの隙間に供給されることになる。この場合、対向するランス208aと208bとの吹き出しオリフィス開口間の間隔が少なくとも8mもの距離で離れていても、列205aと205bとの間の隙間の全長に亘って高い酸素濃度の第2の酸化剤による良好な燃焼加熱効果が得られる。
【0040】
これに対して、図5は、工業用炉300がマトリクス配置の天井バーナー303の列305aと306bに平行な向きで最大でも10mの内幅寸法を有する場合に好適な実施形態を図3と同様に上から見た模式断面図で示している。この炉300は向かい合った一対の側壁301を備え、炉内では加熱対象物302が複数の天井バーナー303で加熱されながら矢印Lで示す炉の長手方向に沿って搬送される。天井バーナー303は、炉の長手方向Lに対して好ましくは直角な方向Tに沿って延在する少なくとも2つの列305aと305bとをなす行列マトリクス配置で炉の天井に組み込まれ、また第2の酸化剤が複数のランス306から高速ジェット流307の形態で供給されており、これらはいずれも既に図3及び図4で説明したものとほぼ同様である。
【0041】
この実施形態では、第2の酸化剤を吹き込むための各ランス306は炉300の両側壁で対を成すランス308aと308bを構成し、これらのランスの対は、炉300の両側壁に配置されたそれぞれの吹き出しオリフィス開口から第2の酸化剤を前述と同様の様式で天井バーナー303の列305a、305bに沿って互いに向かい合う方向に、但しこれら列間の別々の隙間へそれぞれ個別に第2の酸化剤のジェット流を供給するように配置されている。図5に示すように、ジェット流307は、列305aと305bの間の個々の隙間の位置が炉の長手方向Lへ移るにつれて交互に逆向き(即ち、+T方向と−T方向)に吹き込まれ、隣の隙間同士では吹き込みの向きが逆向きとなっているが、このような交互の逆向きのランス吹き込みは列間の隙間の1つ置きに限らず、2つ置き又はその他の複数の隙間置きに実行することも可能である。この場合、各ランス306は、各天井バーナーの列305a、305b間の或る隙間とその1つ隣の隙間または複数置きに隣り合う隙間でランス吹きの向きが逆になっていることによって炉300内においてこれらの一つ又は複数置きに隣り合う隙間に沿って第2の酸化剤の閉ループ状の循環が生じるように配置されていることが好ましい。ここで、閉ループ状の循環とは、炉内の両側壁から別々のランスによって吹き込まれる第2の酸化剤のジェット流307同士の運動エネルギーによって生じる少なくとも1つのガス循環閉ループとなる循環を意味する。このような循環ループの発生を果たすためには、天井バーナー303が少なくとも3列を成すマトリクス配置に配列されていることが好ましい。このような第2の酸化剤の循環流により、比較的小規模の工業用炉でも充分な温度の均一性が得られる。
【0042】
本発明の特に好適な実施形態によれば、既存の工業用炉に対して加熱効率と温度均一性の向上並びに操業中の窒素酸化物と二酸化炭素の発生量の低減のために本発明が適用される。従ってこの場合の工業用炉は、前述のようにマトリクス配置された従来形式の複数基の空気駆動型天井バーナー103を備えており、これらの天井バーナーには初期段階で前述のように高酸素濃度及び高速の第2の酸化剤を吹き込むための少なくとも1本のランス206又は306が追加設置される。その後の段階で、空気と第2の酸化剤の供給流量は操業中に亘り前述のように酸化剤と燃料との混合比が化学量論的に増加した燃焼平衡状態を維持するように制御される。この実施形態によれば、本発明による利点をコスト面で効率よく達成することができる。
【0043】
別の好適な実施形態によれば、初期段階でマトリクス配置の複数の空気駆動型天井バーナー103を備えた既存の工業用炉に上述の通りに1本又は複数本のランス206又は306が追加設置され、その後、天井バーナー103を通して供給される単位時間当たりの燃料の流量が操業中の必要な時点で単位時間当たりの全酸素供給量の増加と組み合わせて調整され、それにより燃焼を化学量論的平衡状態に到達させる。これは、天井バーナー103が燃料の供給量を調整可能なタイプであることを前提とする実施形態であるが、従来法と比べると、加熱対象物202又は303の表面を過熱するリスク無しに炉200、300内における加熱効率を最大限に向上することができる利点がある。
【0044】
以上に本発明の好適な幾つかの実施形態を述べたが、これらの実施形態に対して本発明の理念の範疇で変形を加えることは当業者に可能であることは述べるまでもない。
【0045】
例えば、マトリクス配置の天井バーナーの列の向きは、必ずしも炉内における加熱対象物の搬送方向と直交させる必要はない。マトリクス配置の天井バーナーの列の向きは、例えば上記搬送方向と実質的に平行であってもよく、或いは非直角の斜行配列であってもよい。列の向きが加熱対象物の搬送方向と実質的に平行な場合、第2の酸化剤のための各ランスは炉内の端面に配置すればよく、或いはその他の適切な配置形態で前述の諸目的を果たせばよい。
【0046】
従って本発明は前述の各実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に特定されている技術的範疇で種々の変形が可能であることは述べるまでもない。
【符号の説明】
【0047】
100:工業用炉
101:炉の側壁
102:加熱対象物
103:天井バーナー
104:平面火焔
105a、105b:天井バーナーの列
200:工業用炉
201:炉の側壁
202:加熱対象物
203:天井バーナー
204:平面火焔
205a、205b:天井バーナーの列
206:ランス:
207:第2の酸化剤のジェット流
208a、208b:ランスの対
300:工業用炉
301:炉の側壁
302:加熱対象物
303:天井バーナー
305a、305b:天井バーナーの列
306:ランス:
307:第2の酸化剤のジェット流
308a、308b:ランスの対

【特許請求の範囲】
【請求項1】
工業用炉(200; 300)の天井に複数の下向き天井バーナー(203; 303)を少なくとも2列(205a,205b; 305a,306b)をなす行列マトリクス配置で設置し、炉(200; 300)内の加熱対象物(202; 302)を加熱するために各天井バーナー(203; 303)を燃料と第1の酸化剤で駆動することにより炉内を各天井バーナーによる燃焼で加熱するに際し、少なくとも1本のランス(206; 306)を前記炉(200; 300)の側壁(201; 301)に配置し、該ランス(206; 306)を通して酸素含有率が少なくとも85重量%の第2の酸化剤を音速以上のジェット流(207; 307)の形態で炉(200; 300)の内部に供給し、この第2の酸化剤のジェット流(207; 307)を前記加熱対象物(202; 302)よりも上方の水平面内で天井バーナー(203; 303)の列(205a,205b; 305a,305b)と平行に通過させ、単位時間当たりの第2の酸化剤の供給量を、第2の酸化剤による供給酸素量が炉(200; 300)の内部へ単位時間当たりに供給される全酸素量の少なくとも50重量%となるように平衡させることを特徴とする工業用炉の炉内燃焼制御法。
【請求項2】
第2の酸化剤を少なくともマッハ1.5の流速で供給することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
第2の酸化剤として少なくとも95重量%の酸素含有率を有する酸化剤を用いることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
単位時間当たりの第2の酸化剤の供給量を、第2の酸化剤による供給酸素量が炉(200; 300)の内部へ単位時間当たりに供給される全酸素量の少なくとも70重量%となるように平衡させることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
第1の酸化剤として空気を用いることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
天井バーナー(203; 303)が空気駆動型天井バーナーであり、天井バーナー(203; 303)に送り込まれる空気の流量をこれら天井バーナー(203; 303)の冷却に足りる最低レベルに制御し、第2の酸化剤の供給流量を燃焼に必要な化学量論的平衡状態が炉(200; 300)内の燃焼域の全域で達成されるように制御することを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
天井バーナー(203; 303)を、1列について少なくとも4基の天井バーナーを含む少なくとも3列を成すマトリクス配置に配列することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
ランス(206; 306)の吹き出しオリフィス開口を炉(200; 300)内の側壁(201; 301)に沿って加熱対処物(202; 302)の上面と炉(200; 300)の天井面との間の高さ位置に開口させておき、加熱対象物(202; 302)の上面の最も高い位置からランス開口高さ位置までの垂直間隔が、加熱対象物(202; 203)と炉(200; 300)内の天井面との間の最小垂直間隔の50〜60%の範囲内にあることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
炉(200)が天井バーナー(203)の列(205a, 205b)と平行な向き(T)に少なくとも8mの内幅寸法を有する工業用炉であり、炉(200)の両側の側壁に互いに向かい合って配置されたランス(208a, 208b)の各吹き出しオリフィス開口から第2の酸化剤を音速以上のジェット流の形態で供給して、第2の酸化剤の各ジェット流(207)を互いに平行に且つ向かい合う方向に吹き込むことを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
天井バーナー(303)が少なくとも3列を成すマトリクス配置に配列され、炉(300)が天井バーナー(303)の列(305a, 305b)と平行な向きに最大でも10mの内幅寸法を有する工業用炉であり、第2の酸化剤のための複数本のランス(308a, 308b)を炉(300)の両側壁に配置すると共に、各ランスの吹き出しオリフィス開口から第2の酸化剤を高速ジェット流の形態で天井バーナーの列(305a, 305b)に沿って互いに向かい合う方向に、但しこれらバーナーの列の間の別々の隙間へそれぞれ個別に供給し、各ランス(308a; 308b)でジェット流の向きを各天井ヒーターの列間の或る隙間とその1つ隣の隙間または複数置きに隣り合う隙間で逆向きにすることによって炉(300)内にこれらの一つ又は複数置きに隣り合う隙間に沿って第2の酸化剤の流れに閉ループ状の循環を形成させることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
第2の酸化剤のジェット流の発散角度を10度以下とすることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
マトリクス配置された従来形式の複数基の空気駆動型天井バーナーを備えた既存の工業用炉に対して加熱効率と温度均一性の向上並びに操業中の窒素酸化物と二酸化炭素の発生量の低減を果たすための方法であって、工業用炉を請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法に従って操業し、その操業の初期段階では予め該工業用炉に前記第2の酸化剤を吹き込むためのランス(206; 306)を追加設置しておくことを特徴とする方法。
【請求項13】
既存の天井バーナーを通して供給される単位時間当たりの燃料の流量を操業中の必要な時点で単位時間当たりの全酸素供給量に対して化学量論的に平衡させることにより炉の最大加熱容量を上昇させることを特徴とする請求項12に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−78082(P2012−78082A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−204134(P2011−204134)
【出願日】平成23年9月20日(2011.9.20)
【出願人】(391009659)リンデ アクチエンゲゼルシャフト (106)
【氏名又は名称原語表記】Linde Aktiengesellschaft
【住所又は居所原語表記】Klosterhofstrasse 1, D−80331 Muenchen, Germany
【Fターム(参考)】