説明

工業用織物ベルトの継手用スライダー

【課題】
厚みが薄い断面扁平のモノフィラメントにより形成された高密度の継手ループを有する工業用織物ベルトの継手接合作業において、ループ隙間の無い嵌め合い噛み合わせを行う際に、スライドを操作するだけで、噛み合い不整合やループ潰れを発生させず、容易かつ適切にループの噛み合わせを行うことが出来る継手用スライダーを提供する。
【解決手段】
織物ベルトの端部を通すスライダー10内のループ用通路32a〜32cを、織物ベルトのそれぞれの端末部が垂直方向から合流重合出来るように構成する。ループ用通路32a、32bの合流部27の上壁面29を円弧形状とし、この円弧形状の直後からスライダー出口26までループ用通路32cの高さを、織物ベルトの厚さより僅かに大きい寸法にする。ループ用通路32cに対応する上部材12を弾力性のある自由端とすることによりループ用通路32cの高さを柔軟化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として抄紙用ドライヤーカンバスを無端状に接合する際、長尺方向の両端部を突き合わせてそれぞれの端部に配設した継手ループを噛み合わせる作業を容易にすることを目的にした継手用スライダーに関するものであるが、本発明のスライダーが対象とする継手の構成要件を備えていれば、他の製紙用布、コンベアベルト、走行タイプの濾過布などの工業用織物ベルトの継手接合作業にも適用可能なスライダーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
抄紙用ドライヤーカンバス(以下、単にカンバスという。)の継手には、本体経糸を折り返してループを形成したものや、スパイラル線を端部に取付けたものなどがある。これら両端部のループまたは輪状部(以下、単にループまたはループ部という。)を突き合わせて噛み合せ、その共通孔に接合芯線を挿通して抄紙用ドライヤーカンバスを無端状にする。
【0003】
近年、カンバスの幅広化やループの小型化と高密度化により、継手接合時のループの噛み合わせが手作業では困難になっているため、接合用補助具の一つとしてスライダーが採用されている。
【0004】
この種のスライダーの例としては、古くは特許文献1のように、基板、中間板、上覆板から構成されたものが知られている。基板と中間板の間に先細りの第一通路、中間板と上覆板の間に先細りの第二通路が設けられ、両通路が基板に対し垂直に見て重なり合い、先端に向かって細くなり、鋭角のオーバーラップ面を形成している。このオーバーラップ面の細い部分で、両通路が共通通路に一体化される位置になるように上昇または下降している。
【0005】
当該スライダーには前記オーバーラップ面の細い部分の延長部分に共通面を圧搾する部材が設けられる場合もあり、その全体構成は、スライダーの基本的構成として使用されていた。その後、工業用織物ベルトの仕様は、製紙機械を始めとする製造装置、搬送装置の効率化、ベルト搬送物の高品質化にともない多様化しており、ベルトの継手仕様も変化してきている。このため、スライダーも、新規な継手仕様に対応できる構造の改良が望まれている。
【0006】
特許文献2には、織物ベルト両端部の先端に取り付けられたコイル状フアスナーエレメント列同士を噛み合わせて無端状基布を形成するためのスライダーが開示されている。当該スライダーは織物ベルト端部の挿入形式が若干異なるものの、織物ベルト端部の誘導経路は特許文献1の構成と類似している。ただし、本文献の発明では、継手ループがコイル状フアスナーエレメント列であり、その錠止のため、加圧錠止体が具備されており、当該加圧錠止体は、エレメント列に当接する球状体とこれを加圧する弾性体から構成されている。
【0007】
なお、特許文献3は、特許文献2のスライダーの対象になると思われるコイルフアスナー継手の発明が開示されているので参考提示するが、この継手は一本の合成樹脂線材を予め錠止し合うべく成型したもので、噛合頭部成形部分に該当する部位を押圧して、モノフィラメントの横断方向に膨出する噛合頭部が形成されている。このコイルが成型時基準長さ寸法に対し、1〜25%の範囲内の伸張状態で織物に取り付けられており、それぞれの端部同士を噛み合わせると隙間のない、いわゆる嵌め合い状態に噛み合う継手となる。このコイルファスナーは噛合頭部形成を含む成型品であり、そのためには押圧成型のための一定の厚さと剛性が必要であることから、常識的には円形や楕円形の断面のモノフィラメントを用いることが伺える。
【特許文献1】特開昭57−21594号公報
【特許文献2】特許第3080621号公報
【特許文献3】特開2001−104018号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
最近のカンバスでは、長手方向(経糸方向)の両端部に設ける継手部に、経糸を折り返してループを形成後、反転した経糸を本体組織に綴り込む、いわゆるワープループ継手であって、かつ当該経糸に扁平度が高いモノフィラメントを用いた継手形態が増加している。
【0009】
ところで、一般的なワープループ継手では、例えば、隣り合う4本の経糸を用いて1個の継手噛み合わせ用ループが作成される。すなわち、織物ベルト端末において、経糸aから経糸dまで並んだ4本の経糸のうち、経糸aによりループを形成し、この経糸aを捻って反転させた後に経糸bの組織内に綴り込む。経糸bは、経糸aの挿入を受け入れる分だけ端末手前で切除される。次に、織物ベルト最先端の緯糸を保持させるために経糸cによって当該緯糸を周回保持し、この経糸cを捻って反転させた後に経糸dの組織内に綴り込む。経糸dは、前記経糸bと同様に端末手前で切除される。このような経糸処理を1単位として幅方向に所要単位数順次繰り返してカンバス継手部を形成する。この場合、経糸a〜dの4本に対して経糸aにより1個の噛み合わせ用ループが形成されることになる。この方式の継手では、ループの戻り側経糸先端を捻って隣の経糸組織に挿入処理するため、ループに捻れが生じる。また、ループ間の隙間は経糸3ピッチ分となり、これを両端部を突き合わせて噛み合わせた場合には、噛み合ったループ間に経糸1ピッチ分の隙間が発生する。
【0010】
ここで、本発明のスライダーが対象としているカンバス及びその継手についての一例を図7(A)〜(C)の模式図を用いて詳述する。カンバスの経糸に扁平度が高いモノフィラメントを用い、経糸の密度を高くすると、カンバスの表面(湿紙と接する面)が極めて平滑になり表面性が向上する。さらに2本1対の経糸をカンバスの厚さ方向に垂直に重ねるようにして組織させた経糸二重織組織とすると、捻れのない幅広ループが並ぶことになり好ましい。すなわち、図7(A)のP−P部断面のように、継手部構成において表面側の経糸50で形成したループ38を捻ることなく垂直に重なった裏面側の経糸51の組織内に綴り込むことができる。また、前述の織物ベルト最先端の緯糸54の保持は、図7(B)のQ−Q部断面のように、同経糸ループを形成し綴り込んだ2本1対の経糸の隣の一対の経糸で行うことになる。したがってこの場合も経糸4本に対して1個の噛み合わせ用ループが形成されるが、ループ間の隙間は、経糸1ピッチ分のみとなり、経糸ループ数が増加できるので継手強度が高くなる利点がある。なお、図7(A)〜(C)では、継手構造を模式的に示しており、表面側の経糸を折り返して裏面側の経糸の組織内に綴り込む長さは短く描いているが、実際にはより長い区間の綴り込みを要する。さらに、この場合、図7(C)のように経糸の扁平モノフィラメントを隙間無しに配列するような高密度にすれば、本体部の組織に近似した表面性で高品位の継手が得られる。すなわち、両端部の継手部を突き合わせ、ループを噛み合わせると、一端部の経糸ループの隙間が他端部のループにより埋まって本体部の組織に近似した隙間が無い状態の噛み合わせとなる。
【0011】
しかし、上記のような、経糸に扁平断面モノフィラメントを高密度に配したカンバス及びその継手を以下の仕様とした場合、前記した公知のスライダーではループの噛み合わせが不可能でやむを得ず、手作業に甘んじていたという事情がある。すなわち、例えば経糸の断面寸法がカンバス幅方向で1.0mm、カンバス厚さ方向で0.25mmの超扁平モノフィラメントを使用し、カンバス厚さを1.7mm程度とし、両端部ループ長を2.5mm程度としたカンバスの継手を前記した公知のスライダーで接合しようとすると、ループ相互間に隙間が無い状態の噛み合わせとなるため噛み合わせの不整合が発生するのである。
【0012】
また、特許文献1のスライダーも基本的に噛み合わせがループ先端部から始まる方式であり、かつ、ループの隙間が生じない嵌め合い型の継手ループは想定されていないため、同様の噛み合わせの不整合が発生する。すなわち、ループ部の重ね合わせを行う部分で、ループ先端同士が突き合う現象や噛み合わせ不整合が発生し、超扁平糸で形成された薄厚のループ部がお互い変形して潰れてしまう。この種のスライダーは、本来、所定ピッチで正確に配列された金属製フックや、織物ベルトのワープループ継手であって比較的ループ間の隙間が広くループに剛性をもたらす断面円形のモノフィラメント経糸の継手に適用されるものである。このような金属製フックやワープループ継手であれば、当該噛み合わせ時にループ先端同士が接触しても、ループの剛性と滑りにより問題なく噛み進むことが出来るものと思われる。
【0013】
特許文献2のようなスライダーを用いると、カンバス端部のそれぞれが上下方向から合流しループ側面からの噛み合わせが始まるため、ループ先端の潰れ等は生じなかった。しかし、ループ断面がコイル状フアスナーエレメント列のように予め噛み合わせやすく成形されていないため、噛み合わせの際に、互いのループの位置ずれや噛み合わせ不十分の状態が発生した。さらに、球状体の加圧圧搾により、薄厚のループに加圧凹みが生じてループが変形した。
【0014】
このように、従来の継手用スライダーでは、継手ループが厚みの薄い断面扁平のモノフィラメントで、幅広で変形しやすく、かつ織物のワープループの場合は、適切に噛み合わせることが出来なかった。高精度で均一なループピッチで、しかも両端末のループ間の隙間がほとんど埋まるような嵌め合い型の継手に好適なスライダーが強く要望されてきたにもかかわらず、そのような継手を容易、適切に噛み合わせることが出来るスライダーが実現されなかったことから手作業の接合作業とならざるを得なかった。この結果、接合作業に手間と時間が掛けるだけでなく、厚さの薄いループ側面のエッジで手指を負傷することもあった。
【0015】
本発明は、上記する継手仕様であっても、機械的かつ容易、適切にループの噛み合わせを可能とするスライダーを提供するものである。なお、上記説明に使用したカンバスの仕様や具体寸法は、イメージを示す一例であって、織物ベルトの用途や当該具体寸法を限定することを意図するものではない。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明のスライダーは、工業用織物ベルトの長手方向両端部に形成された扁平断面モノフィラメントによる多数の継手用ループを互いに突き合わせて前記ループ間を実質的に隙間無しに噛み合わせるためのスライダーであって、前記スライダーは上部材と下部材が中仕切り部を挟む一体構造を成し、スライダーの進行方向前端には織物ベルトの両端部を挿入するための上側入口と下側入口の2つの入口が前記中仕切り部を境として垂直方向に高さを異ならせて形成され、これら2つの入口はループの噛み合わせ寸法に対応して上下方向で部分的に重ね合わされ、2つの入口とスライダーの後端に形成された1つの出口とを連通するループ用通路の途中にループが噛み合う合流部が形成されたスライダーにおいて、
前記下側入口から前記出口までは前記下部材の上面がループ用通路の下壁面を形成するよう水平ストレート状に連通させ、前記合流部から出口に至るまでのループ用通路の高さを前記織物ベルト両端部の厚さより僅かに大きい寸法とし、前記上側入口から出口までは、前記上部材の下面がループ用通路内の上壁面を形成するように連通させ、当該上壁面の織物ベルト進行方向の断面線を、上側入口から前記合流部までの所定長さで直線とし、その後に前記合流部直前まで下り勾配で傾斜させ、前記合流部直後から出口に至るまでを水平線とし、前記下り勾配の傾斜線と前記合流部直後から出口に至るまでの水平線を、前記合流部の上方に中心を持つ、半径15〜25mmで円弧角10〜30度の円弧で滑らかに接続し、前記上部材を前記合流部から出口にかけて自由端として張り出させたことを特徴とする。
【0017】
ループ間を「実質的に隙間無し」としたのは、スライダーを利用する工業用織物ベルトは精密部品のような高い寸法精度で仕上げることが本来的に不可能であり、ループ間を「隙間無し」に設計したとしても実際は僅かな寸法のバラツキによりループ間に微小隙間が生じるためである。ループ間の隙間は0.1mm以下、上下位置の重なり寸法は噛み合わせ寸法の80〜100%とし、合流部から出口に至るまでのループ用通路の高さは織物ベルトの両端部厚さの110〜130%とするのがよい。
【0018】
また、本発明のスライダーは、前記扁平断面モノフィラメントの断面において、前記工業用織物ベルトの幅方向に一致する長辺の寸法と、厚さ方向に一致する短辺の寸法の比が、3:1〜5:1であり、かつ前記ループが織物ベルトの両端部の経糸を折り返して形成したものであることることを特徴とする。なお、ここで便宜上、「長辺」と「短辺」としたが、当該モノフィラメントの扁平断面の形状は長方形を意味したり、長方形に限るものではない。また、長辺と短辺はそれぞれの寸法の最大部分の値を示すものとする。
【0019】
さらに、本発明のスライダーは、前記上部材の少なくとも前記合流部付近を透明部材としたことを特徴とする。
【0020】
さらに、本発明のスライダーは、前記スライダー本体の材質が合成樹脂であることを特徴とする。
【0021】
さらに、本発明のスライダーは、前記上壁面の織物ベルト進行方向の断面線を傾斜させた部位において、少なくとも上壁面の傾斜角の成分が、出口方向に向かう下り傾斜成分に加えて、織物ベルト進行方向と直交する方向で織物ベルト端部のループ側への下り傾斜成分を併せ持つことを特徴とする。
【0022】
さらに、本発明のスライダーは、請求項1〜5のいずれかのスライダーにおいて、前記上部材、下部材及び中仕切り部の構成を、前記下側入口から前記出口までのループ用通路の織物ベルト進行方向断面の中心軸に対して上下対称に配置したことを特徴とするスライダーである。
【0023】
さらに、本発明のスライダーは、上部材の上面に取っ手またはつまみを取り付けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明のスライダーにより、断面扁平モノフィラメントを用いた厚さが薄い継手ループで、かつループが高密度に配され、ループ間の隙間がほとんど無い嵌め合い型ループ継手であっても、容易かつ適切に、しかも短時間でループ噛み合わせ作業を完了することが出来る。
【0025】
また、本スライダーを透明な樹脂製とし、取っ手などを取り付けることにより、労力を必要とせず、噛み合わせ状態を確認しながら引き進むだけでループが順次機械的に噛み合っていくので、ループの損傷や変形がなく、手指を負傷することもない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明者らは、前述した継手仕様の場合でも、容易で確実にしかも機械的にループの噛み合わせが可能となるスライダーについて検討を重ねた。
【0027】
特に、ループの噛み合わせを手作業としていた時のループの噛み合いに至るまでのループ挙動について吟味した。両端部のループの噛み合いは嵌め合い型ではあるが、ループピッチが高精度均一にならないことに加え、計算上ではループ密度が噛み合わせた場合に100%を超えるような織物設定もあり、いわば一方端のループを他方端のループ間に無理に押し込むような操作も必要とされる。この場合、カンバスの両端部を同一水平面に置いて、ループ同士を近接させて噛み合わせることは不可能である。そこで、カンバス両端部のそれぞれのループ長程度が重なる状態で上下垂直方向に位置させて噛み合わせることとした。しかし実際に指でループを垂直に押しつけても、ループ幅が相手のループ間の隙間に僅かに合わず、潰れたり変形することが多かった。
【0028】
しかし、手作業の熟練を重ねていくと、指先により垂直力だけでなく、水平方向かつループ幅方向の分力により、ループをカンバスの幅方向に傾けて挿入する方法が好ましいことが解った。その理由として、ループが扁平糸であるため、ループ先端が幅方向に直線状であることに加え、ループ側面も外形的にはカンバスの表側から裏側まで扁平糸幅と同一寸法で構成された形状であるため、噛み合わせを滑らかにするための丸みを有しないことが挙げられる。
【0029】
そこで、この場合の噛み合わせには、ループを斜めに挿入させながら垂直に押し込むことが最良であることも解った。さらに、挿入されるループが相手側のループに最初に接触する時の傾き角α(図5参照)は、ループ幅、厚さ、ループ間の隙間のそれぞれの寸法、及びループ材質などにより多少変化するが、α=10〜35度、より好ましくはα=15〜30度が適切であることを見出した。そして、ループが噛み合い始めてから噛み合いがほぼ完了するまでの間は、急激な角度変化をさせず、むしろ変化率を弱めながら、極めて滑らかにαを0度まで変化させる必要があることも解った。
【0030】
この結果から、合流部27のループ通路上壁面において進行方向の断面線を円弧形状とし、この円弧から連続的にα=0度の接線に移行させることを想起したのである。なお、この円弧曲線部は、上記ループの傾き角とスライド進行による漸減変化を満たせば、例えば楕円弧でもよいが、スライダーの製作成形を考慮すると円弧が好ましい。
【0031】
このようにしてループを押し込込んだ後は、ループ厚の薄さに起因する幅方向の弾性により、ループ幅より僅かに狭いループ間の隙間でさえうまく納まり、逆に噛み合いが外れにくいことも解った。
【0032】
上記検討の結果、垂直方向から積極的にループを嵌め込み押圧する圧搾装置は使用せず、
1)両端部が合流する付近のループ用通路において、適切な曲率と通路高さを選択し、一端側のループの側端部を他端側のループ間の隙間に最適角度で斜めに挿入させ、かつ、
2)それぞれのループの半噛み合い状態から、完全噛み合いに至らしめるためには、前記通路の高さをほぼ織物ベルト厚さ寸法まで漸減させ、
3)スライダーの水平移動にともない、半噛み合わせ状態のループにかかる垂直方向の分力を利用して、平面で緩やかに押しつけて噛み合わせを完全化させる、
ことを想起した。
【0033】
そして、スライダー試作を重ね、特に合流部27のループ用通路の前記上壁面の形状を最適化し、本願発明のスライダーを得るに至ったのである。
【0034】
本発明のスライダーの構成の一例として、図1〜4を用いて説明する。図1(A)はスライダーの平面図、図1(B)は同側面図、図2は図1におけるA方向から見た正面図、図3(A)〜(C)と図4(A)(B)は、それぞれ、図1におけるa−a’、b−b’、c−c’と、x−x’、y−y’の断面図である。
【0035】
スライダー10は、上部材12と下部材13が中仕切り部14を挟む構成の一体構造となっている。スライダー10の進行方向側先端に、織物ベルト両端部のそれぞれを別々に挿入する2つの溝状の入口23,24を設けている。それぞれの入口23,24はスライダー10の前側端面22において垂直方向に高さがずらされると共に、水平方向に互いに接近方向に寄せられて前記両端部のループのほぼ噛み合わせ寸法だけ上下位置で重なるように配設されている。
【0036】
前記2つの入口23,24は、開口形状を水平細長型にするとともに前記織物ベルト本体を通過させるために側端を開放させている。前記2つの入口23,24は、これ以降、便宜上、上側入口23及び下側入口24と称することがある。上側入口23は上部材12と中仕切り部14によって形成され、下側入口24は下部材13と中仕切り部14によって形成される。前記2つの入口23,24の反対側、すなわちスライダー10の後端に水平細長型の1つの出口26を設けている。前記2つの入口23,24から前記織物ベルトの両端部を別々に挿入し、途中に設けた合流部27で織物ベルトの両端部を滑らかに合流させ、両端部の互いのループを噛み合わせた状態で出口26を通過できるように、2つのループ用通路32a、32bを出口26に連通させている。
【0037】
前記下側入口24から前記出口26までは、ループ用通路32aを水平ストレート状に連通させている。前記合流部27から出口26に至るまでのループ用通路32aの高さは、織物ベルト両端部の厚さより僅かに大きい寸法とした。前述したように、スライダー10を水平にスライドさせる力を両端部のループの完全噛み合わせに充てるため、他の要因によるスライド抵抗は最小限にしておく方が好ましい。この考え方から、織物ベルト両端部が挿入、誘導される2つのループ用通路32a、32bの一方のループ用通路32a(図では下側入口24から出口26に向かう側)をストレート形状にしてスライド抵抗を減少させた。
【0038】
前記上部材12の下面で上側のループ用通路32b内の上壁面29を形成している。当該上壁面29の織物ベルト進行方向に沿った断面線(輪郭線)を、上側入口23から前記合流部27手前まで水平線としている。その後に、前記合流部27直前まで下り勾配30で傾斜させる。水平線と下り勾配30傾斜との間は、角度が急激に変わる不連続的傾斜変化であってもよいし、角度が滑らかに変わる連続的傾斜変化であってもよい。前記合流部27の直後から出口26に至るまでは水平線とし、前記下り勾配30の傾斜線と前記合流部27直後から出口26に至るまでの水平線を、前記合流部27の上方に中心を持つ、半径15〜25mm(図では「R」で表示)で円弧角10〜30度の円弧31で滑らかに連続させた。すなわち、当該円弧31の終点33は合流部27の最終地点であり、合流後の出口26に通じるループ用通路32cの始点でもある。この地点の当該円弧形状とループ用通路32cの高さがループの噛み合わせにおいて極めて重要で、この地点の通過により噛み合わせはほぼ完了する。なお、上側のループ用通路32bの下壁面は下がり段部34を経由して下部材13の下壁面28に続いている。
【0039】
本発明の継手用スライダーは以上のように構成され、このスライダーを使用した継手ループの噛み合わせについて図5を参照しつつつ以下説明する。この図5はスライダー10の合流部27において一方の織物ベルト端部の38が他方の織物ベルト端部のループ38に差し入れられるように挿入されていく様子を模式的に示した図である。1個のループ38において2箇所に細く塗りつぶされている部分がループ38であるモノフィラメントの扁平断面である。
【0040】
円弧31は上側入口23から挿入した織物ベルト端部のループ38の側面部40を下側入口24から挿入した他方のループ38間の隙間に、斜め上方からループエッジ41を先頭にして差し入れるように挿入するために重要な形状である。織物ベルト端部は、スライダー10の進行操作時に、上側のループ用通路32b内において、前記下り勾配30の開始地点ではループ用通路32bの下壁面に接し、前記合流部27ではループ用通路32bの上壁面29に接してスライダー10内を通過する。
【0041】
したがって合流部27では、上側入口23から挿入した織物ベルト端部のループ側面部が円弧31に沿って放射状に配列した状態で、下側入口24から挿入した他方のループ38間の隙間に順次、適切な角度で差し込まれるように挿入される。このとき、接触を始める互いのループ38は、一時的に多少の弾性変形を生じるが、スライダー10の進行にともなって噛み合いが始まると、当初の形状に復帰する。
【0042】
噛み合わせが進んだループ38は、扁平なループ形状とその嵌め合い型の構造により外れにくく、また、扁平ループ形状に基づく弾性によって、ループピッチ45の僅かのずれが吸収されて順次噛み合わせが進行することになる。
【0043】
上記ループ用通路32a、32bの合流部27に円弧31ではなく角部が形成されているとループ38の側面エッジが引っ掛かる。また、当該円弧31が当該円弧半径設定範囲以上の曲率半径で緩やか過ぎると、上側入口23から挿入されたループ38が相手のループ38間の隙間に低い傾斜角で近接するため、ループ38が相手側ループ38と側面同士で突き合いする現象が多発する。
【0044】
また、当該円弧31が当該円弧半径設定範囲以下の小さい曲率半径で急激なカーブであると、噛み合わせ自体は可能であるものの、当該織物ベルトが工業用で剛性が大きい織物ベルトであることから、スライダー10のスライド抵抗が異常に大きくなり、使用に耐えないことが解った。勿論、当該円弧は、円弧角の設定も重要で、円弧角が設定範囲より小さいとループ38が円弧31に引っ掛かり易くなるし、円弧角がそれより大きいとスライド抵抗が増加し、スライダー10を進めることができなくなる。
【0045】
このように前述してきた仕様の継手ループ38の噛み合わせにおいては、嵌め込み押し圧装置によるのではなく、ループ側面部を相手側のループ間の隙間に当該側面部の縁部から斜めに挿入し、その挿入が済んだ時点で噛み合わせはほぼ完了し、その後はスライド力の垂直方向分力で当該噛み合ったループを面圧により整形調整できるようにしている。
【0046】
上側入口23から出口26まで連通するループ用通路32bの上部材12は、中仕切り部14でのみ固着支持され、前記出口26までは自由端として張り出している。ループ38同士の噛み合わせは、上部材12の張り出し部に対応したループ用通路32cの所定高さによって最終的に整形される。
【0047】
この際、万一、ループ38同士で完全な噛み合わせとならない部分が発生しても、上部材12の張り出し部は織物ベルトの厚さに応じて弾力的に浮き沈み動作が可能でループ用通路32cの高さ寸法に柔軟性があるので、ループ38を損傷させずに、出口26に送り出す効果を保持できる。さらに、前記自由端部に取っ手またはつまみ35を付けてこれを握ってスライダー自由端部のループ用通路32cの高さを調整しながらスライドを進めると面圧調整も可能になり、前記したループ噛み合い状態が浅い部分などの整形補正が出来て好ましい。面圧調整であれば、ループ38を凹み変形させる恐れはない。
【0048】
また、合流部27を透明にすることで、噛み合い状態を目視確認出来るので、噛み合い状態に合わせてスライダー10のスライドスピードの加減が可能になる。
【0049】
さらに、スライダー10の本体材質を、例えばアクリル樹脂等の透明軽量部材にすると、上記した合流部27の目視確認が可能になるだけでなく、スライダー本体が軽くなって、取扱い性が高まる。
【0050】
なお、前記上壁面の織物ベルト進行方向の断面線を傾斜させた部位において、少なくとも上壁面29の傾斜角の成分が、出口26方向に向かう下り傾斜成分に加えて、図4(C)のように、織物ベルト進行方向と直交する方向で前記織物ベルト端部のループ38側への角度θの下り傾斜成分を併せ持つような傾斜にすれば、換言するとループ38の基端側よりも先端側が低くなるように上壁面29を角度θで傾斜させると、上側入口23から挿入された織物ベルト端部のループ38が相手側ループ38間の隙間に、ループ38先端近傍のエッジから捻りを加えられながら差し入れられることになり、ループ38の寸法やその弾性度によっては、より好ましく噛み合わが可能になる。
【0051】
ここまで、上側入口23から挿入した端部のループ38を斜めに差し入れるように挿入する場合について説明したが、前記上部材12と前記下部材13、及び中仕切り部14の構成を、前記下側入口24から前記出口26までのループ用通路32a、32cの織物ベルト進行方向断面の中心軸C−C(図3(C)参照)に対して、前記上部材12、下部材13、及び中仕切り部14の構成を上下対称に配置して、ループ38を下側から斜めに挿入することも出来る。ただし、取っ手の取付はスライダー10の上部とすることは言うまでもない。
【0052】
また、上述した本発明のスライダー10の構成は、両端部に経糸である扁平断面モノフィラメントの継手用ループ38を設けた工業用織物ベルトであって、前記ループ38間を実質的に隙間無しに噛み合わせる場合に有効であるが、特に、前記扁平断面モノフィラメントの断面寸法において、織物ベルト幅方向寸法が0.8〜1.3mm、織物ベルト厚さ方向寸法が0.2〜0.35mmの超扁平モノフィラメントのループ38が嵌め合い型の噛み合わせの場合に特に適している。
【実施例1】
【0053】
図6のようなスライダー10をポリカーボネート樹脂を材料として作成し、表1に仕様を示すカンバスにワープループを形成し、ループの噛み合わせ試験を実施したところ、極めてスムーズかつ適正に作業できることが解った。なお、図6(A)〜(C)には各部の寸法の数字を入れているが、寸法単位はミリ(mm)である。

【表1】

【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、製紙用布、コンベアベルト、走行タイプの濾過布などの工業用織物ベルトの継手接合に使用するスライダーにも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】(A)はスライダーの平面図、(B)は同側面図。
【図2】図1におけるA方向から見たスライダーの正面図。
【図3】(A)〜(C)は、それぞれ、図1のa−a’、b−b’、c−c’線矢視断面図。
【図4】(A)は図1(A)のx−x’線矢視断面図、(B)は図1(A)のy−y’線矢視断面図、(C)は変形例における図1(A)のy−y’線矢視断面図。
【図5】スライダーの合流部におけるループ同士の噛み合いを模式的に示した平面図。
【図6】本発明のスライダーの実施例を示すもので、(A)は平面図、(B)は側面図、(C)は正面図。
【図7】カンバスとその継手を模式的に示すもので、(A)は(C)のP−P部の断面図、(B)は(C)のQ−Q部の断面図、(C)は平面図。
【符号の説明】
【0056】
10 スライダー
12 上部材
13 下部材
14 中仕切り部
22 前側端面
23 上側入口
24 下側入口
25 反対側端面
26 出口
27 合流部
28 下壁面
29 上壁面
30 下り勾配
31 円弧
32a〜32c ループ用通路
33 円弧の終点
34 下がり段部
35 つまみ
38 ループ
40 側面部
41 ループエッジ
45 ループピッチ
50 表面側の経糸
51 裏面側の経糸
54 緯糸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
工業用織物ベルトの長手方向両端部に形成された扁平断面モノフィラメントによる多数の継手用ループを互いに突き合わせて前記ループ間を実質的に隙間無しに噛み合わせるためのスライダーであって、前記スライダーは上部材と下部材が中仕切り部を挟む一体構造を成し、スライダーの進行方向前端には織物ベルトの両端部を挿入するための上側入口と下側入口の2つの入口が前記中仕切り部を境として垂直方向に高さを異ならせて形成され、これら2つの入口はループの噛み合わせ寸法に対応して上下方向で部分的に重ね合わされ、2つの入口とスライダーの後端に形成された1つの出口とを連通するループ用通路の途中にループが噛み合う合流部が形成されたスライダーにおいて、
前記下側入口から前記出口までは前記下部材の上面がループ用通路の下壁面を形成するよう水平ストレート状に連通させ、前記合流部から出口に至るまでのループ用通路の高さを前記織物ベルト両端部の厚さより僅かに大きい寸法とし、前記上側入口から出口までは、前記上部材の下面がループ用通路内の上壁面を形成するように連通させ、当該上壁面の織物ベルト進行方向の断面線を、上側入口から前記合流部までの所定長さで直線とし、その後に前記合流部直前まで下り勾配で傾斜させ、前記合流部直後から出口に至るまでを水平線とし、前記下り勾配の傾斜線と前記合流部直後から出口に至るまでの水平線を、前記合流部の上方に中心を持つ、半径15〜25mmで円弧角10〜30度の円弧で滑らかに接続し、前記上部材を前記合流部から出口にかけて自由端として張り出させたことを特徴とするスライダー。
【請求項2】
前記扁平断面モノフィラメントの断面において、前記工業用織物ベルトの幅方向に一致する長辺の寸法と、厚さ方向に一致する短辺の寸法の比が、3:1〜5:1であり、前記ループが織物ベルトの両端部の経糸を折り返して形成したものであることを特徴とする請求項1に記載のスライダー。
【請求項3】
前記スライダーの少なくとも前記合流部付近を透明部材としたことを特徴とする請求項1または2に記載のスライダー。
【請求項4】
前記スライダー本体の材質が合成樹脂であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のスライダー。
【請求項5】
前記上壁面の織物ベルト進行方向の断面線を傾斜させた部位において、少なくとも上壁面の傾斜角の成分が、出口方向に向かう下り傾斜成分に加えて、織物ベルト進行方向と直交する方向で織物ベルト端部のループ側への下り傾斜成分を併せ持つことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のスライダー。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかのスライダーにおいて、前記上部材、下部材及び中仕切り部の構成を、前記下側入口から前記出口までのループ用通路の織物ベルト進行方向断面の中心軸に対して上下対称に配置したことを特徴とするスライダー。
【請求項7】
前記上部材の上面に取っ手またはつまみを取り付けたことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のスライダー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−43607(P2008−43607A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−223591(P2006−223591)
【出願日】平成18年8月18日(2006.8.18)
【出願人】(000238234)シキボウ株式会社 (33)
【Fターム(参考)】