説明

工程内で小粒子の粒径分布を計算する方法及びシステム

【課題】サンプルコロイド中の小粒子の粒径分布を迅速に求める方法を提供する。
【解決手段】あらかじめ計算された参照行列ベクトルが提供される。各参照ベクトルは、サンプルコロイドの粒径もしくは粒径分布の範囲を表す。また、各参照ベクトルは、予め決まった波長範囲にわたるスペクトラムの強さの参照値を表す。測定ベクトルと参照ベクトルとから、粒径分布が計算される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工程内で小粒子の粒径分布を計算する方法およびシステムに関する。
【0002】
[関連出願の相互参照]
本出願は、2008年3月3日に出願された米国仮特許出願第61/068,101号及び2008年3月3日に出願された米国仮特許出願第61/068,098号の利益を主張し、そのいずれの仮特許出願とも、参照により全体が本明細書に援用され、また本発明人らは、米国特許法第119条の下で、それらの特許出願に対する優先権を主張する。
【背景技術】
【0003】
数多くの工業プロセスは粒子を製造することを伴い、製造品目(医薬品、塗料、食品、化学薬品等)の特性は、用いられる粒子の粒径に大きく依存する。しかしながら、現時点では、1μm未満の粒子をオンラインでモニタするためのいかなる方法も存在しない。
【0004】
そのような小粒子を測定するための最も一般的な方法、すなわち動的光散乱法では、サンプルが静止している必要があり、それゆえ、オフラインで実行されなければならず、流動している媒質内では実行することができない。この理由は、動的光散乱法が粒子のブラウン運動を測定して、その粒径測定値の推定値を導出しようと試みることによって機能するためである。したがって、サンプルが静止していない場合には、流れのような任意の動きによって、粒子の有意味なブラウン運動を測定することができなくなるであろう。さらに、これらの動的光散乱技法は、レーザ光が粒子に衝突するのに応じて生成されるスペックルパターンを測定する。これらのスペックルパターンは非常に弱い信号であり、信頼性のある信号を入手し、それに基づいて粒径推定値を計算するには、相当に長い時間にわたって積分されなければならない。したがって、この技法を用いて粒径推定値を計算するには、典型的には数分かかり、それゆえ、オンライン計算にはあまり適していない。
【0005】
さらに、粒子が単分散でない(すなわち、全ての粒子が実質的に1つの粒径でない)とき、より大きな粒子の動きから測定される信号が優勢になり、より小さな粒子が適切に測定されないか、又はさらには全く検出されない程度まで、より小さな粒子の動きから測定されるより弱い信号を不明瞭にする傾向があり得る。
現在、流動する媒質内の粒子を測定することができるレーザ回折技法はあるが、これらの技法は、500nm未満の粒径を測定することはできない。レーザ回折は、コリメートされたレーザビームからの粒子によって散乱した、角度が広がった光を測定する。波長よりも小さく、典型的には直径が数百ナノメートル未満である粒子は、光を広範な角度に散乱させる。光学波長よりもはるかに小さな粒子は、光を同じパターンに散乱させるので、粒径によって区別することができない。
【0006】
【非特許文献1】Golub著「Matrix Computations」(第3版)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
それゆえ、粒径分布及び粒子濃度のオンライン計算を実行することができる改善された方法及びシステムが必要とされている。さらに、コロイド内で流動する小粒子の粒径分布及び粒子濃度を実行することができる改善された方法及びシステムが必要とされている。1μm未満の粒径を有する粒子を含むように、粒径分布及び粒子濃度の計算を含むことが望ましいであろう。さらに、オンライン、インライン又はアットラインで、これらの計算及び測定を実行することが望ましいであろう。さらには、迅速に、すなわち約数秒で、又はそれ以下で、これらの計算を実行することが望ましいであろう。
【0008】
ユーザがより容易に読み取り、確認することができる粒径分布及び粒子濃度値を得るために、計算に関するアーチファクトを除去し、それゆえ、より正確で、厳密な値を与えるために、平滑化された推定値を与えるための改善された方法も必要とされている。
【0009】
小粒子が用いられる工程の実行中にリアルタイム、又は概ねリアルタイムに測定値を計算するために、特にオンラインの用途において用いるための、小粒子の粒径分布を測定する迅速且つ正確な方法が依然として必要とされている。オフラインの用途の場合であっても、粒径分布を測定する、より迅速で、より正確な方法を提供することが望ましいであろう。
【課題を解決するための手段】
【0010】
[態様1]
工程の流れにおいてサンプル粒子の小粒子の粒径分布を計算する方法であって、該サンプル粒子はサンプルコロイドにおいて提供され、該方法は、
予め計算されるか又は予め測定される参照ベクトルの参照行列を与えること(202)であって、各該参照ベクトルは、希薄コロイド内に含まれる粒子の粒径分布の個別の粒径を表し、各該参照ベクトルは、所定の波長範囲にわたる参照吸光スペクトルを表す、参照行列を与えること、
前記サンプルコロイド内の前記サンプル粒子の被測定吸光スペクトルを表す測定ベクトルを与えること(204)であって、該被測定吸光スペクトルは、分光測光法で測定されている、測定ベクトルを与えること、並びに
前記参照行列、前記測定ベクトル及び一次方程式を用いて、前記サンプルコロイド内の前記粒子の粒径、粒径分布、及び少なくとも1つの粒子濃度のうちの少なくとも1つを求めること(206)、
を含む、方法。
[態様2]
前記粒径分布及び前記粒子濃度を平滑化することをさらに含む、態様1に記載の方法。
[態様3]
前記求めることは、前記参照行列及び前記測定ベクトルに非負最小二乗アルゴリズムを適用することであって、前記サンプル粒子の前記粒径分布及び前記粒子濃度について解く、適用することを含む、態様1又は2に記載の方法。
[態様4]
前記サンプル粒子の前記粒径は約10nm〜約15μmの範囲内にある、態様1〜3のいずれか一項に記載の方法。
[態様5]
前記参照行列を与えること、前記測定ベクトルを与えること、並びに前記粒径分布及び前記粒子濃度を求めることは、前記工程の流れで1つの工程が実行されているときに、リアルタイムに実行される、態様1〜4のいずれか一項に記載の方法。
[態様6]
前記参照行列を与えること、前記測定ベクトルを与えること、並びに前記粒径分布及び前記粒子濃度を求めることは、約5秒以内に実行される、態様1〜4のいずれか一項に記載の方法。
[態様7]
前記参照行列を与えること、前記測定ベクトルを与えること、並びに前記粒径分布及び前記粒子濃度を求めることは、約1秒以内に実行される、態様6に記載の方法。
[態様8]
前記流体媒質は液体を含む、態様1〜7のいずれか一項に記載の方法。
[態様9]
前記方法は、前記サンプルコロイドをフロースルーセルの中に流すことをさらに含み、前記被測定吸光スペクトルは、前記フローセル(20)内の前記サンプルコロイド内の前記サンプル粒子を用いて測定される、態様1〜8のいずれか一項に記載の方法。
[態様10]
前記工程はバッチ工程を含み、前記サンプルは、該バッチ工程から取り込まれ、アットラインで測定される、態様1〜9のいずれか一項に記載の方法。
[態様11]
前記流体媒質は気体を含む、態様1〜7、並びに9及び10のいずれか一項に記載の方法。
[態様12]
前記方法は、前記サンプル粒子の流れを分光測光器のサンプル体積の中に流すことをさらに含み、前記被測定吸光度値は、前記サンプル体積内の前記粒子から測定される、態様1〜8のいずれか一項に記載の方法。
[態様13]
前記求めることは、
前記参照行列と前記測定ベクトルとの間の最小二乗誤差を計算すること、並びに
前記最小二乗誤差を最小にする濃度ベクトル(c)を見つけることであって、該濃度ベクトルは、前記サンプル希薄コロイド内で流動している前記サンプル粒子の前記粒径分布及び前記粒子濃度を表す、見つけること、
を含む、態様1〜12のいずれか一項に記載の方法。
[態様14]
前記測定ベクトルを与えることは、前記個別の波長において分光測光法によって前記測定ベクトルをリアルタイムに測定することを含み、
前記サンプル希薄コロイド内で流動している前記サンプル粒子の前記粒径分布及び前記粒子濃度を求めることは、オンラインで計算される、態様1〜13のいずれか一項に記載の方法。
[態様15]
ユーザが使用するために、前記サンプル希薄コロイド内で流動している前記サンプル粒子の前記粒径分布及び前記粒子濃度を出力することをさらに含む、態様1〜14のいずれか一項に記載の方法。
[態様16]
サンプルコロイドを構成する流体媒質内に分散する小粒子の粒径の変化を測定する方法であって、
予め計算されるか又は予め測定される参照ベクトルの参照行列を与えること(202)であって、各該参照ベクトルは、希薄コロイド内に含まれる粒子の粒径分布の個別の粒径を表し、各該参照ベクトルは、所定の波長範囲にわたる参照吸光スペクトルを表す、与えること、
前記波長範囲にわたって分光測光法によって、前記サンプルコロイドの前記小粒子の被測定吸光スペクトルを表す測定ベクトルをリアルタイムに測定すること、並びに
前記参照行列、前記測定ベクトル及び一次方程式を用いて、前記サンプルコロイド内の前記粒子の粒径、粒径分布、及び少なくとも1つの粒子濃度のうちの少なくとも1つを求めること(206)、
を含む、方法。
[態様17]
前記希薄サンプルコロイドは工程の流れにおいて与えられ、該工程の流れにおいて前記粒径分布及び前記粒子濃度は求められる、態様16に記載の方法。
[態様18]
前記工程中に少なくとも一度だけ前記リアルタイムに測定すること、及び前記求めることを繰り返すこと、並びに
前記求めることの現時点の結果を該求めることの結果のうちの少なくとも1つの先行する時点の結果と比較すること、
をさらに含む、態様16又は17に記載の方法。
[態様19]
前記求められた粒径分布及び前記求められた粒子濃度のうちの少なくとも1つを、所定の粒径分布及び所定の粒子濃度のうちの少なくとも1つを比較すること、及び
前記求められた粒径分布及び前記求められた粒子濃度のうちの前記少なくとも1つが、前記所定の粒径分布及び前記所定の粒子濃度のうちの前記少なくとも1つと、所定の差異値の絶対値以下だけ異なるときに警報を生成すること、
をさらに含む、態様16〜18のいずれか一項に記載の方法。
[態様20]
前記粒子は前記流体媒質内で流動している、態様16〜19のいずれか一項に記載の方法。
[態様21]
サンプル希薄コロイドを含む、工程の流れにおいてサンプル粒子の小粒子の粒径分布を測定するためのシステムであって、
プロセッサ(1402)と、
前記プロセッサによってアクセス可能であるメモリ内に格納される、予め計算されるか又は予め測定される参照ベクトルの参照行列(M)であって、各該参照ベクトルは、希薄コロイド内の粒子の粒径分布の個別の粒径を表し、各該参照ベクトルは、所定の波長範囲にわたる参照吸光スペクトルを表す、参照行列(M)と、
該システムが、前記サンプルコロイド内の前記サンプル粒子の被測定吸光スペクトルを表す測定ベクトルを与えられるときに、前記プロセッサによって実行されるように構成されるプログラムであって、該被測定吸光スペクトルは分光測光法によって測定されている、プログラムと、
を備え、前記プログラムによって、前記プロセッサは、
前記参照行列、前記測定ベクトル及び一次方程式を用いて、前記サンプルコロイド内の前記粒子の粒径、粒径分布、及び少なくとも1つの粒子濃度のうちの少なくとも1つを求めること(206)を含む動作を実行する、システム。
[態様22]
前記粒径分布及び前記粒子濃度を平滑化するために、前記プロセッサによって実行されるように構成されるプログラムをさらに備える、態様21に記載のシステム。
[態様23]
前記予め計算される参照ベクトルの参照行列を予め計算するために、前記プロセッサによって実行されるように構成されるプログラムをさらに備える、態様21又は22に記載のシステム。
[態様24]
前記システムは、前記サンプル希薄コロイド内で流動している前記サンプル粒子の前記吸光度値を測定するように構成される分光測光器をさらに備え、該分光測光器はさらに、前記吸光度値の前記測定ベクトルを計算し前記プロセッサに入力すること、又は前記サンプル希薄コロイド内で流動している前記サンプル粒子の前記吸光度値を前記プロセッサに入力することのうちの少なくとも1つを実行するように構成されている、態様21〜23のいずれか一項に記載のシステム。
[態様25]
工程の流れにおいてサンプル粒子の小粒子の粒径分布を計算するための命令から成る1つ又は複数のシーケンスを搬送するコンピュータ読取り可能媒体であって、前記サンプル粒子はサンプルコロイド内に与えられ、1つ又は複数のプロセッサによって前記命令の1つ又は複数のシーケンスを実行することによって、前記1つ又は複数のプロセッサは、
予め計算されるか又は予め測定される参照ベクトルの参照行列を受信すること(202)であって、各該参照ベクトルは、希薄コロイド内の粒子の粒径分布の個別の粒径又は粒径範囲を表し、各該参照ベクトルは、所定の波長範囲にわたる参照吸光スペクトルを表す、受信すること、
前記サンプルコロイド内の前記サンプル粒子の被測定吸光スペクトルを表す測定ベクトルを受信することであって、該被測定吸光スペクトルは分光測光法によって測定されている、受信すること、並びに
前記参照行列、前記測定ベクトル及び一次方程式を用いて、前記サンプルコロイド内の前記粒子の粒径、粒径分布、及び少なくとも1つの粒子濃度のうちの少なくとも1つを求めること(206)、
を含む過程を実行する、コンピュータ読取り可能媒体。
[態様26]
出力するための命令の1つ又は複数のシーケンスをさらに含み、該出力するための命令の1つ又は複数のシーケンスを前記1つ又は複数のプロセッサによって実行することによって、該1つ又は複数のプロセッサは、ユーザが使用するために、前記サンプル希薄コロイド内で流動している前記サンプル粒子の前記粒径分布及び前記粒子濃度を出力する、態様25に記載のコンピュータ読取り可能媒体。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】分光測光法によって粒子の散乱スペクトルを測定するために用いることができる分光測光器の概略図である。
【図2】本発明の一実施形態による、小粒子の粒径分布を計算する方法の流れ図である。
【図3】サンプル希薄コロイドの測定された吸光スペクトルと、そこから計算される粒径分布及び粒子濃度とを示す図である。
【図4A】空気中を流動している水粒子の流れの場合に測定された減衰スペクトルを示す図である。
【図4B】図4Aにおいて参照された水粒子の流れの場合に計算された粒径分布及び粒子濃度のプロットを示す図である。
【図5】約190nm〜約1100ナノメートルの波長範囲にわたって測定された、約0.1体積パーセントの濃度における約100nm及び5μmの粒径を有するポリスチレン粒子の希薄コロイドの減衰スペクトルを示す図である。
【図6】種々の濃度ベクトルcに対する最小二乗誤差値のプロットを示す図である。
【図7A】システム内に約1%の雑音が存在するときの、本発明による測定ベクトル及び参照行列から計算される粒径分布を示す図である。
【図7B】図7Aの粒径分布を計算するために用いられる同じ測定ベクトル及び参照行列から計算されるが、システム内に存在する雑音がはるかに小さかった(実質的に存在しない)場合の粒径分布を示す図である。
【図8】大粒子の雑音によるアーチファクトを示す粒径分布プロットである。
【図9】粒径上限に対する当てはめ誤差の変化を示す図である。
【図10】大粒子の粒径によるアーチファクトを除去するために事後処理した後の、図8の粒径分布を示す図である。
【図11A】減衰プロット内の前方散乱アーチファクトを示す図である。
【図11B】前方散乱補正係数を適用することによって前方散乱アーチファクトが補正されているプロットを示し、比較のために図11Aのプロットも示す図である。
【図12A】本発明による、サンプル希薄コロイドの粒径分布を計算した後に実行することができる事後処理方法を例示する流れ図である。
【図12B】図12Aの過程において実施することができるサブルーチンの一実施形態を示す図である。
【図12C】図12Bの代わりに実施することができるサブルーチンの代替的な実施形態を示す図である。
【図13A】水の体積で約0.1%の濃度でDow Chemical社によって調製された1μmポリスチレン粒子からの散乱スペクトル(減衰スペクトル)のプロットである。
【図13B】波長及び実粒子屈折率の関数としての目的関数(式(14))のプロットである。
【図13C】逐一(point by point)実屈折率ソルバーアプリケーションを用いて計算されるような、屈折率結果対波長のプロットである。
【図13D】1μmポリスチレン粒子及び300nmポリスチレン粒子の場合の、逐一実屈折率ソルバーアプリケーションを用いて計算されるような、屈折率結果対波長のプロットである。
【図14A】3μmポリスチレン粒子の場合に、セルマイヤ実屈折率ソルバーアプリケーションを用いて計算されるような、屈折率結果対波長のプロットである。
【図14B】図14Aに示される結果の場合の当てはめ良度プロットである。
【図15A】ポリスチレン粒子の場合の実屈折率プロットである。
【図15B】ポリスチレン粒子の場合の虚屈折率プロットである。
【図16】本発明の一実施形態による典型的なコンピュータシステムを示す図である。
【図17】時間と共に変化する水中のひまわり油粒子の粒径を示すために実行された実験の結果を示すプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の方法、システム及びコンピュータ読取り可能媒体を説明する前に、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によってのみ限定されることになるので、本明細書において用いられる用語は、特定の実施形態を説明することだけを目的としており、限定することを意図していないことは理解されたい。
【0013】
或る範囲の値が与えられる場合、文脈において他に明示されない限り、その範囲の上限と下限との間に存在する、下限の単位の10分の1までの各値も具体的に開示されるものと理解されたい。規定された範囲内の任意の規定値、又は間に存在する値と、その規定された範囲内の任意の他の規定値、又は間に存在する値との間にある、より狭い各範囲が本発明内に包含される。これらの、より狭い範囲の上限及び下限は、個別に、その範囲内に含まれるか、又はその範囲から除外されることがあり、規定された範囲内の任意の具体的に除外される限界値によって、より狭い範囲内に上限及び下限のうちの一方、若しくは両方が含まれるか、又はいずれも含まれない各範囲も、本発明内に包含される。規定された範囲が、限界値の一方又は両方を含む場合、それらの含まれる限界値の一方又は両方を除外する範囲も、本発明内に包含される。
【0014】
他に定義されない限り、本明細書において用いられる全ての技術用語及び科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書において記述されるものに類似であるか、又は同等である任意の方法及び材料も本発明の実施又は試験において用いることはできるが、好ましい方法及び材料がここで説明される。本明細書において述べられる全ての刊行物は、それらの刊行物に関連付けて列挙する方法及び/又は材料を開示及び記述するために、参照により本明細書に援用される。
【0015】
本明細書及び添付の特許請求の範囲において用いられる場合、単数形「1つの」、及び「その」は、文脈において他に明示されない限り、複数の指示物を含むことに留意しなければならない。したがって、たとえば、「1つのベクトル」への言及は、複数のそのようなベクトルへの言及も含み、「その粒径」への言及は、1つ又は複数の粒径、及び当業者に既知であるその均等物への言及も含み、他も同様である。
【0016】
本明細書において説明される刊行物は、単に、それらの開示が本出願の出願日に先行することから与えられる。本明細書内の何物によっても、先行する発明のゆえに、そのような刊行物に先立つ権利を与えられないことを本発明が容認するものと解釈されるべきではない。さらに、提供される刊行物の日付は、実際の刊行日付とは異なることがあり、個別に確認されることが必要とされることもある。
【0017】
定義
用語「単分散」は、含まれる粒子の全てが概ね同じ粒径から成る粒子を含むサンプルを指している。
【0018】
用語「多分散」は、種々の粒径の分布を含む粒子を含むサンプルを指している。
【0019】
「分散」は、液体中の固体粒子を指している。
【0020】
「エアロゾル」は、気体中の固体粒子及び/又は液体粒子を指している。
【0021】
「エマルジョン」は、別の液体中の液滴を指している。
【0022】
「コロイド」は、任意の流体中の任意の相の粒子を指している。
【0023】
「希薄」コロイドは、粒子の減衰スペクトルが測定されるときに、著しく多くの散乱を引き起こすのに有効な体積パーセントよりも小さい、粒子の体積パーセントを有するコロイドを指している。従って、多数の散乱による効果は、希薄コロイドの減衰スペクトルを測定するときに考慮に入れる必要はない。少なくとも1つの実施形態では、希薄コロイドは、体積比で約1%未満の量の粒子を有するコロイドと定義される。
【0024】
「流動している」は、ブラウン運動に起因する相対運動に加えて、粒子と、呼掛け光ビームとの間に相対運動があることを意味する。
【0025】
「粒径」測定値は、粒子の直径又は最も大きな断面寸法を指している。粒子は、断面形状が概ね球形であるものと仮定される。実際には、用語「粒径」は、小さな粒径範囲を指している。
【0026】
「粒径分布」(略して「PSD」と呼ばれることもある)は、コロイド内に存在する種々の粒径の特徴、及びそれぞれの相対濃度を指している。粒径分布は、ヒストグラムによって表すことができる。ヒストグラムの各ビンは、プロットのx軸として表示される小さな粒径範囲を指している。各粒径ビン内の粒子の数は、y軸に表示される。さらに、粒子の数は、ビン内の平均粒子の体積によって重み付けされる。プロットのy軸は、ビン内の粒子の体積分率を表す。コロイドの単位体積内の粒子の全体積は、各ビン内の体積分率の和である。理想的には、ヒストグラムは、ビンの幅を表す、棒グラフとしてプロットされるが、棒の高さだけが、2次元プロットとして、平均ビンサイズに対してプロットされる。
【0027】
粒子の「濃度」は、コロイドの単位体積内の粒子によって占有される体積を指している。
【0028】
「波長」は、振動の同じ位相によって特徴付けられる波の2つの連続した点間の、波の伝搬の方向において測定される距離を指している。
【0029】
用語「オンライン」は、サンプリング、及び自動解析器へのサンプル転送が自動化されている、工程の測定を指している。
【0030】
用語「インライン」は、サンプルインターフェースが工程の流れの中に配置される、工程の測定を指している。
【0031】
用語「アットライン」は、製造エリア内に配置される解析器への局所的な輸送を伴う、手動サンプリングを含む、工程の測定を指している。
【0032】
本明細書において用いられる場合、用語「小粒子」は、約5nm〜約50μmの範囲内、又はこのサイズ範囲のうちの任意の部分的な範囲の粒子を指している。
【0033】
本発明の実施形態は、測定ベクトルと、参照ベクトルから成る参照行列とを比較することによって、小粒子から成るサンプルのための粒径分布をオンラインで、インラインで、又はアットラインで求める。測定ベクトルは、流体内に分散したサンプル粒子から成る希薄コロイドの被測定吸光スペクトルを表す。参照ベクトルはそれぞれ、サンプルの粒子と同じ粒子材料の粒子から成り、それぞれ単一の粒径を有する参照希薄コロイドの吸光スペクトルを表す。参照ベクトルは典型的には予め計算されるが、代替的に、経験的に、又は実験によって得ることができる。
【0034】
希薄サンプルコロイド内の粒子は固相、液相又は気相(蒸気相)で存在することがあり、それらの粒子が分散する媒質は固相、液相又は気相(蒸気相)で存在することがある。粒子として、複素屈折率がわかっているか、又は紫外線(UV)から近赤外線(NIR)の波長範囲にわたって測定することができる任意の材料を用いることができる。測定することができる固体粒子の範囲は、セラミック、金属及びポリマーを含む。その中にある粒子を測定することができるコロイドの範囲は、分散、エアロゾル及びエマルジョンを含む。例示的な流体は、限定はしないが、水、空気、アルコール、溶媒、油又は任意の他の液体若しくは蒸気を含む、液体及び気体を含む。
【0035】
広い粒径分布が存在するとき、大きな粒径によって生成される雑音を除去するために、事後処理が実行される。いずれの場合でも、結果の平滑化を適用して、反転アルゴリズムのアーチファクトに起因して粒径分布内に存在することがあるスパイクを平滑化して除去することができる。
【0036】
ミー散乱
本発明の実施形態は、一次方程式、測定ベクトル及び参照行列を用いて、小粒子から成るサンプルの粒径分布を効率的且つ迅速に計算する方法を含む。測定ベクトル及び参照行列によって表される吸光スペクトルは基本的には、ミー散乱スペクトルである。参照により本明細書に援用される、Bohren及びHuffman著「Absorption and Scattering of Light by Small Particles」(Wiley-VCH, 1983, pp. 318-319)は、ミー散乱の基本理論、及び単分散サンプル内の粒子の粒径を測定するためにミー散乱をいかに用いることができるかを記載している。
【0037】
図1は、分光測光法によって、小粒子から成るサンプルを含む希薄コロイドの吸光スペクトルを測定するために用いることができる分光測光器10の概略図である。限定はしないが、そのような目的を果たすために用いることができる分光測光器の一例は、Agilent 8453 UV/Visible Spectrophotometer(Agilent Technologies社、カリフォルニア州、サンタクラテ)である。この例では、分光測光器10は、重水素アークランプのような紫外線光源12、及びタングステンランプのような近赤外線可視光源14の両方を組み込む光源を含む。異なる波長範囲内の光を生成する2つの異なる光源を用いることによって、粒径分布内の粒径が小さい粒子ほどより短い波長の光(UVスペクトル)をより多く散乱し、一方、粒径分布内の粒径が大きい粒子ほどより長い波長の光(近赤外線−可視光)をより多く散乱する。この差がある散乱は実効的には波長分割多重化であるので、生成される、より短い波長の吸光スペクトル及びより長い波長の吸光スペクトルによって、小さな粒径の粒子に起因するスペクトルが、大きな粒径の粒子に起因するスペクトルから区別される。光学素子16が光源12及び14から受光した光をビーム18にコリメートし、そのビームはサンプル上に合焦され、図に示される例では、サンプルはサンプルセル20内に含まれる。ビーム18がサンプル上に入射するか、又はサンプルに入射しないようにするかを制御するために作動することができるシャッタ機構22を設けることができる。一例では、サンプルセル20は、研磨された石英ガラスから形成される平坦で平行な面21及び23を有するキュベットである。
【0038】
サンプルの中を透過する光の出力ビーム26をスリット28に向けるために、サンプルセル20の出力側に、さらなる光学素子24が設けられる。スリット28を通過する光は回折格子30から反射され、回折格子は、ビーム26をその成分を成す波長成分に拡散し、それらの波長成分はフォトダイオードアレイ32によって検出される。Agilent 8453 UV/Visible Spectrophotometerでは、フォトダイオードアレイは1024個のフォトダイオードから構成される。代替的に、限定はしないが、電荷結合素子(CCD)又は相補形金属酸化膜半導体(CMOS)検出器のような、他のアレイ検出器が用いることもできる。代替的に、分光測光器10は、フォトダイオードアレイ32を利用するのではなく、回折格子30を回転させて、単一の検出器が、出力光26の波長範囲内の種々の波長を検出することができるようにすることによって、単一の検出器で出力光26を走査することができる。しかしながら、迅速であることから、フォトダイオードアレイ32を用いることが好ましい。
【0039】
サンプル希薄コロイドは、適切な流体(たとえば、水、空気、油、アルコール、溶媒等)内の小さな(たとえば、約5nm〜約50μmの範囲内の)粒子から成るサンプルから形成される。サンプル希薄コロイドは、解析されることになるサンプルセル20に入れられる。液体内の小粒子を解析する場合、サンプルセル20はフロースルーセルを含む。気体内の小粒子を解析する場合、サンプル希薄コロイド流がサンプルセル20の中に流し込まれる。代替的に、エアロゾルのような気体内の小粒子を解析する場合、光源10、12と検出器32との間にあるシステム12内の空間、たとえば、この場合にはセル20を除去することができるので、図1のセル20によって占められた空間内に、エアロゾルを流すことできる。流体内の粒子を測定する代替の方法として、バッチプロセスの測定を実行することができ、その場合、バッチプロセスからサンプルが取り込まれ、アットラインで測定される。その(又は、バッチ処理の場合には各)サンプルコロイドの吸光スペクトルが、分光測光器10によって測定される。コリメートされた光18はサンプルセル20を通過し、その中で、サンプルコロイドは、散乱及び吸収によって光を減衰させる。残りの光26は回折格子30によってフォトダイオードアレイ32上にスペクトル的に分散し、フォトダイオードアレイ32は、光強度を、サンプルコロイドの吸光スペクトルを表す電気信号に変換する。その電気信号が処理されて、サンプル粒子の粒径分布が計算される。被測定吸光スペクトルは、測定ベクトルによって表され、その後、測定ベクトルを用いて、後に説明されるように、サンプル粒子の粒径分布を求めることができる。
【0040】
球形の粒子を含む希薄コロイドの場合のミー散乱理論(Gustav Mie, 1908)は、コロイド内の粒子の体積濃度、粒子半径a、コロイドを含むセルの長さ、粒子屈折率、及び流体屈折率が全てわかっている希薄コロイドの吸光スペクトルの散乱成分及び吸収成分を計算する手段を提供する。ミー散乱理論は2つの量、すなわち吸収断面Cabs及び散乱断面Cscaを計算する。これらの断面を合算して、第3の量Cext、吸光断面を生成する。本明細書において参照される吸光スペクトルは、波長範囲内の多数の波長のそれぞれにおける吸光断面である。3つ全ての断面は単位面積を有し、散乱、吸収、又は散乱及び吸収球の有効断面積を表す。散乱によって失われる光は、種々の方向における放射によって失われ、これらの方向は、分光測光器が測定することができる光の角度の範囲外にある。吸収される光は、粒子によって捕捉され、最終的には熱に変えられる。シリカ粒子のような、特定の波長において透過性である粒子は、その波長において、0の吸収断面を有する。本発明では、測定中にどのような手段によって光が失われるかは問題とされないので、吸光断面Cextが用いられる。
【0041】
「相対断面」は、吸光断面を球形の粒子の物理的な面積で除算した値であり、数学的には以下のように定義される。
【0042】
【数1】





【0043】
ただし、aは粒子半径であり、Qextは吸光効率の指標である単位のない量である。本発明は、吸収によって失われる光と散乱によって失われる光とを区別するのではなく、吸光度を測定するだけである。Qextが1未満である場合には、粒子の見かけ上の粒径は、その物理的なサイズ未満である。
【0044】
サンプル粒子を含むサンプルコロイドが希薄である(結果として、多数の散乱の効果を計算において考慮に入れる必要がない)限り、単位体積当たりN個の粒子の粒子密度を有するサンプルコロイドを含むセル20の透過率(出力電力を入力電力で除算した値)は以下のとおりである。
【0045】
【数2】


【0046】
ただし、α=NCextであり、Lはセル長である。分光測光器10は減衰を測定し、それは、以下の式によって表されるような、透過率の負の対数である。
【0047】
【数3】



【0048】
ただし、AUは吸光度単位、分光測光器によって計算される数を表す。粒子密度Nは、体積分率Cυに関して表すことができる。ただし、単位体積当たりの粒子の数×単一粒子の体積が粒子によって占有される体積分率である。これは数学的には、以下のように表される。
【0049】
【数4】


【0050】
言い換えると、単位体積当たりの粒子の数N×単一粒子の体積(4/3πa)が、粒子によって占有される体積分率Cである。
【0051】
式(1)、(3)及び(4)を組み合わせることによって、単位長当たりの減衰を求めるための以下の式が与えられる。
【0052】
【数5】


【0053】
ただし、Qscaは、散乱効率の指標である単位のない量であり、Qabsは、吸収効率の指標である単位のない量である。
【0054】
式(5)を用いて、ミー計算から得られる吸光断面から光学的な減衰を計算することができる。本発明は、被測定吸光スペクトルから、粒径分布を計算する解法を提供する。すなわち、入力として、被測定吸光スペクトルを用いて、粒径分布を計算することができる。この問題は、「逆問題」として知られている種類の問題に属しており、解くのが難しいことが知られている。本発明は、いくつかの線形計画法のうちのいずれかを用いて、この問題を解く。
【0055】
逆問題を説明する前に、式(6)が最初に、参照ベクトルの行列M及び濃度ベクトルを用いて、希薄コロイド内の粒子の吸光スペクトルをいかに計算することができるかを数学的に記述する。以下の式(6)の形の行列式を用いて、所与の流体、及び所与の粒径分布を有する所与の粒子から成る希薄コロイドの吸光スペクトルを計算することができる。粒径分布は、個別の1組の粒径aから成り、粒径毎に粒子濃度(体積濃度)が異なる。
M・c=s (6)
ただし、Mは、粒径毎に、又は小さな粒径範囲毎に1つずつの複数の参照ベクトル(以下の式(8)の右辺を参照されたい)を含む行列であり、cは、その粒径範囲内の粒径毎のそれぞれの粒子濃度から成る列ベクトルであり、sは、計算された吸光スペクトルであり、同じく列ベクトルである。すなわち、計算された吸光スペクトルは、その計算が実行される波長範囲内の波長毎に計算された吸光度から成る。計算された各吸光度は、吸光スペクトルの異なる波長又は波長範囲を包含する。
【0056】
粒径分布及び粒子濃度は、線形法によって、被測定吸光スペクトルから求めることができ、たとえば、PSD、それゆえ濃度ベクトルcがわかっていないときに、吸光スペクトルは測定されると共に、測定ベクトルsによって表される。吸光断面は、粒子半径、並びに粒子及び流体屈折率(希薄コロイドを構成するサンプル粒子及び流体の屈折率)の関数であることに留意されたい。それゆえ、式(5)は以下の形で表すことができる。
【0057】
【数6】


【0058】
ただし、n及びnはそれぞれ、粒子及び流体の波長依存屈折率である。分光測光器10の測定波長のような、個別の1組の測定波長[λ,λ,λ,・・・λ]の場合、式(6)は、吸光スペクトルを表すベクトルと、スカラー量である粒子濃度との積として書くことができる。
【0059】
【数7】


【0060】
ただし、ここで関数fは、暗黙のうちに、特定の希薄コロイドのための材料特性、すなわち、コロイドを構成するサンプル粒子及び流体の材料特性を含む。
【0061】
参照行列
上記の行列Mは、本明細書において参照行列と呼ばれ、参照ベクトルの列を含む。各参照ベクトルは、個々の参照コロイドの場合の参照吸光スペクトルを表す。個々の参照コロイドは、サンプル粒子と同じ粒子材料であり、個々の単一の個別の粒径又は小さな粒径範囲を有する、参照粒子から構成される。参照粒子は、サンプル希薄コロイドの流体を構成するものと同じ流体内に分散する。一実施形態では、各参照ベクトルによって表される参照吸光スペクトルは、個々の単一粒径を有する参照希薄コロイドの場合に、波長値と、その波長値において分光測光器10によって測定される吸光度値から成る。別の実施形態では、各参照ベクトルによって表される参照吸光スペクトルは、個々の単一粒径を有する参照希薄コロイドの場合に、波長値と、その波長値において計算される吸光度値から成る。波長値が参照ベクトルとは個別に与えられる実施形態では、波長値は、参照ベクトルから省かれることがある。
【0062】
式(8)を用いて、粒径分布測定値問題は、以下のように表すことができる。
【0063】
【数8】


【0064】
ただし、サンプル希薄コロイドの被測定吸光スペクトルを表す測定ベクトルは、式(6)の計算された吸光スペクトルsに代入される。サンプル粒子の粒径分布を与えるために、濃度ベクトルcが求められる。粒径分布は、種々の粒径毎に1つの粒子濃度から構成される。
【0065】
種々の異なる手法/アルゴリズムを用いて、濃度ベクトルcについて解くことができるが、中には他のものよりも多くの欠点を有するものもある。1つの手法は、Mの逆行列を計算し、その後、Mの逆行列とsとを乗算することによって、cについて解く。この手法は、行列Mが正方正則行列であるという条件において機能する。実際には、この条件は典型的には満たされない。
【0066】
他の手法は、後に説明されるように、測定ベクトルと、参照行列及び濃度ベクトルを用いて計算された吸光スペクトルとの間の当てはめ誤差の最小二乗誤差を最小にする濃度ベクトルcを見つけようと試みる。一例として、行列Mの擬似逆行列が計算され、その後、Mの擬似逆行列とsとを乗算することによって、cが解かれる。この方法は、行列Mの特異値分解に基づく。この手法の利点は、正方正則行列を必要としないことである。これは理論的には十分に機能するが、いくつかの粒径ビン/粒径内の濃度の場合に負の値を計算することがあるので、実際には、測定誤差、雑音、及び屈折率が不確定であることが、この手法をあまり望ましくないものにする。
【0067】
別の方法は、MATHEMATICA(登録商標)コンピュータアプリケーション(Wolfrman Research)の「NMinimize」ルーチンを使用する。NMinimizeは、ネルダー・ミード(Nelder-Meade)アルゴリズムを用いて、計算されたスペクトル内の最小二乗当てはめ誤差を最小にする濃度ベクトルを見つける数値最適化ルーチンである。濃度ベクトル要素に非負制約が適用される。これによって、濃度ベクトルcに制約を加えて、式(6)を解くことができるようになる。必要とされる唯一の制約は、濃度ベクトルcの要素が負でないという要件である。
【0068】
二次計画法は、用いることができる別の手法である。二次計画技法は、NMinimizeアルゴリズムと同じようにして使用されるが、行列Mが正定値であることを必要とするということが異なる。この条件は、行列Mの場合に一般的には当てはまらないが、行列Mをわずかに変更することによって、行列Mを強制的に正定値にすることができる。この方法は機能するが、行列Mを変更することによって、計算結果も変更されるので、これは理想的な手法ではない。
【0069】
QR分解は、本発明と共に用いるための好ましい手法である。線形代数では、行列のQR分解(QR因数分解とも呼ばれる)は、行列を直交行列及び三角行列に分解することである。QR分解は多くの場合に、線形最小二乗問題を解くために用いられる。QR分解は、特定の固有値アルゴリズム、すなわちQRアルゴリズムのための基礎でもある。QR分解は、本明細書において記述される方法によって解かれる非負最小二乗問題を解く際の中間のステップである。QR分解は、濃度ベクトルcに正の濃度という制約を加えて、実施することができる。測定されたスペクトルベクトル及び参照行列が入力され、濃度が負でないという制約を加えて、QR分解アルゴリズムは最適な濃度ベクトルを見つける。QR分解、NMinimize及び二次計画は全て同じように用いられるが、それらの方法の細部は異なる。NMinimizeはあまりにも時間がかかり、所有権のあるコードである。二次計画は、上記で言及されたように、結果を歪める。QR分解は、これらの3つの方法の中で好ましいオプションである。QR分解を用いるときに見いだされる唯一の潜在的な問題は、場合によっては、物理的に適切な分布よりも狭い粒径分布を生成する傾向があり得ることである。
【0070】
用いることができる他の制約付きの最小二乗解法は、限定はしないが、Golub著「Matrix Computations」(第3版)(参照により、全体が本明細書に援用される)において特定される解法:リッジ回帰、等式制約最小二乗、重み付け法、又は球体にわたるLS最小化を含む。
【0071】
図2は、本発明の一実施形態による、小粒子から成るサンプルの粒径分布を計算する方法の一例を示す流れ図200である。202では、予め計算されるか又は予め測定される参照ベクトルの参照行列Mが与えられ、各参照ベクトルは、参照コロイド内に含まれる粒子の粒径分布の個別の粒径を表し、各参照ベクトルは、所定の波長範囲にわたる参照吸光スペクトルを表す。
【0072】
参照行列Mの各参照ベクトル(列)は、単一の既知の粒径の粒子を含む個々の参照コロイドの場合に計算又は測定される参照吸光スペクトルを含む。参照コロイドは、指定された濃度の希薄コロイドである。参照粒子は、測定吸光スペクトルが測定された波長範囲内の種々の波長において既知の屈折率値を有する粒子材料の粒子である。必ずしもそうではないが、典型的には、各参照ベクトルにおいて、各要素は、波長及び吸光度値から構成される。吸光度値は、参照コロイド毎にその波長において計算されるか、又は個々の参照コロイドの分光光度測定によって、その波長において測定される。
【0073】
204では、サンプル粒子を含むサンプルコロイドの被測定吸光度値を表す測定ベクトルが与えられる。上記で言及されたように、サンプルコロイドは希薄コロイドである。サンプルコロイド内の粒子は、参照行列を生成するために用いられる参照コロイド(複数可)の粒子のうちのいくつか又は全てと同じ材料である。被測定吸光度値は、個別の波長において分光光度測定によって測定される値である。サンプル希薄コロイドの測定は、粒径分布を計算するためにシステムに測定ベクトルを入力して、分光測光器によって、オンラインで、リアルタイムに実行することができる。これらの方法が速いことから、流動しているサンプルコロイドの一部を構成するサンプル粒子の場合に、粒径分布及び粒子濃度計算を実行することができる。サンプルコロイドは、たとえば、工程の流れから得ることができる。Agilent8453のような分光測光器を用いるとき、測定ベクトルを与えるために用いられるスペクトル測定は速く、概ね1秒である。本明細書において説明される線形最小二乗逆畳み込みの場合にその速い行列法を用いるとき、測定ベクトルからの粒径分布及び粒子濃度の計算は、さらに数秒しかかからない。好都合なことに、これによって、粒径分布及び粒子濃度をリアルタイムに計算することができるようになる。そのようなリアルタイムの計算は、静止しているサンプルコロイドの一部を構成するサンプル粒子の場合、及び流動しているサンプルコロイドの一部を構成するサンプル粒子の場合に、実行することができる。たとえば、本方法を繰返し実行して粒径分布及び粒子濃度を与えることができ、その粒径分布及び粒子濃度を解析して、工程の流れにおいて、又は静止しているサンプルにおいて、粒子の結晶成長、又は粒径の縮小を測定することができる。これらの繰返しの計算は、所定の時間間隔が経過する度に、たとえば、5秒毎に、2.5秒毎に、又はさらには1秒毎に実行することができる。当然、ここでは述べられない他の所定の時間間隔、及び1秒よりも長い時間間隔を設定することもできる。分光測光器の測定時間を短縮することができる場合には、これによって、本方法は、1秒未満の時間間隔にわたって繰返し実行することができるようになるであろう。多数の繰返しからの計算の結果は、互いに、及び/又は或る過程に対して意義のある所定のしきい値と比較することができる。たとえば、所定の粒径を有する粒子を生成するために、1つの化学的な過程を設計することができる。それに応じて、その所定の粒径において粒子の所定の濃度を得るためのしきい値を設定することができる。計算された粒径分布及び粒子濃度結果を比較すると、又は対象となる特定の粒径の濃度だけを、その粒径のための所定の濃度しきい値と比較すると(それは簡単にすることができ、それゆえ、計算処理をさらに高めることができる)、その比較によって、対象となる粒径(所定のサイズ)の粒子濃度が所定の濃度以上であることが確認されるとき、その過程は、その過程が目標を達成したことを指示するための警報を生成するように構成することができる。類似のモニタリングを実行して、或る過程が、粒子の粒径を所定の粒径まで縮小した時点を、又は所定の粒径分布を達成したことを特定することができる。
【0074】
一例では、或る工程の流れの吸光スペクトルが、たとえば、分光測光器10を用いて測定される。最初に、UV−NIR波長範囲内のコロイドの流体成分(すなわち、測定されることになる粒子を除く成分)の吸光スペクトルに関する初期測定が行なわれる。粒子を含まない流体を含むサンプルセルを用いる「ブランク」スペクトルのこの測定は、媒質成分だけの参照減衰を与える。また、この測定は、分光測光器を較正して、ランプスペクトルの変化、及び全システム内の種々の損失及び利得を補償する。次に、サンプル粒子を含むサンプル希薄コロイドの中を透過する光の吸光スペクトルが、初期測定が行なわれたのと同じようにして測定される。粒子を用いる第2の測定は、以下のようにして、粒子に起因する過剰な減衰の正確な指標を与える。サンプルコロイドの測定された吸光スペクトルを初期吸光スペクトルで除算することによって得られる、結果として生成されるスペクトルは、サンプルコロイドを通るコリメートされたビーム18(図1)の経路内にある全てのサンプル粒子の全光減衰効果の波長依存性を表す。被測定スペクトルは、測定ベクトルによって表される。その後、この測定ベクトルは、上記のようにして、測定ベクトルと、濃度ベクトル及び参照行列Mから得られる計算された吸光スペクトルとの間の差を最小にするために、非負最小二乗(NNLS)当てはめのような、最小二乗当てはめを用いて、たとえば、QR分解によって逆畳み込み演算される。最良の最小二乗当てはめを与える濃度ベクトルによって、粒径分布ベクトルが与えられる。濃度ベクトルの要素を用いて、サンプル内に存在する各粒径の粒子濃度を与えることができる。
【0075】
すなわち、サンプルコロイド内のサンプル粒子の粒径分布及び粒子濃度が、206において、上記のように、一次方程式、参照行列M及び測定ベクトルを用いて求められる。本方法を用いて、粒径だけを求めることができるか、対象となる粒径の濃度だけを求めることができるか、又は粒子濃度と共に全粒径分布によって与えられる情報の任意のサブセットを求めることができるので、当然、本発明は粒径分布を与えることには限定されない。オプションでは、208において、サンプルコロイド内の粒子の粒径分布及び濃度を出力することができる。付加的に、又は代替的に、限定はしないが、1つ若しくは複数の粒径分布及び/又は濃度のうちの1つ若しくは複数を、しきい値と、及び/又は互いに比較することを含む、さらなる処理を実行することができる。
【0076】
たとえば、サンプルコロイド内のサンプル粒子が粒子材料「A」の粒子だけであることがわかっている場合には、粒子材料「A」の粒子をそれぞれ含む参照コロイドのための参照吸光スペクトルが、対象となる粒径範囲(たとえば、サンプル粒子の粒径が存在するものと予測される粒径範囲)にわたって計算されるか、又は測定され、参照吸光スペクトルが参照行列Mに含まれる。各参照コロイドは、既知の単一の粒径を有する粒子を含む希薄コロイドである。参照行列及び濃度ベクトルを用いて計算される吸光スペクトルに対する、測定ベクトルの最小二乗当てはめによって与えられる測定ベクトルは、サンプル内に存在するサンプル粒子の各粒径の粒子濃度を与える。
【0077】
図3は、水中に既知の濃度の100nm粒径及び400nm粒径のポリスチレン球体を含むサンプルコロイドの場合に測定された吸光スペクトル240を示す。被測定吸光スペクトル240は、ユーザインターフェース260上に表示され、サンプルコロイドの場合に計算された理論的な吸光スペクトル245上に重ねられる。被測定吸光スペクトル240は、上記のようにして、分光測光器10によって測定された。最小二乗当てはめを実行して、被測定吸光スペクトル240を表す測定ベクトルを、種々の既知のサイズのポリスチレン球体の参照吸光スペクトルを含む参照行列Mに当てはめた。行列分解の固有値によって生成される計算された粒径分布、及び濃度が、サンプル粒子のPSDのグラフィック表現内に250においてプロットされる。
【0078】
ブラウン運動に基づいて粒子を測定し、それゆえ、流動している粒子を測定することができない、動的光散乱のような他の技法とは対照的に、本方法は、流動しているサンプルコロイド内の粒子の粒径分布及び粒子濃度を計算することができる。液相解法の場合のインライン用途又は自動化された用途の場合、用いられるセル20はフロースルーセルにすることができるのに対して、エアロゾル用途の場合、サンプル希薄コロイドの懸濁媒質は気体又は蒸気であり、セル20は必ずしも物理的なセルではなく、粒子の流れが分光測光器10のサンプル体積に流れ込む空間によって表すことができる。
【0079】
図4Aは、空気の流れ内の水粒子から成る、流動しているサンプルコロイドの場合に測定された、被測定吸光スペクトル270を示す。被測定(measurement)吸光スペクトル270は、ユーザインターフェース260上に表示され、サンプルコロイドの場合に計算された参照吸光スペクトル275上に重ねられる。被測定吸光スペクトル270は、上記のようにして、分光測光器10によって測定された。最小二乗当てはめを実行して、被測定吸光スペクトル270を表す測定ベクトルを、空気中の種々の単一粒径の水粒子から構成される個々の参照コロイドの参照吸光スペクトルを含む参照行列Mに当てはめた。行列分解の固有値によって生成される計算された粒径分布が、図4B内に280においてプロットされる。計算された粒径分布は、種々の粒径毎に1つの粒子濃度から構成される。
【0080】
それぞれの場合のサンプルがただ1つの粒子材料の粒子を含むことがわかっているので、上記の例は、ただ1つの粒子材料から成り、且つ個々の単一粒径から成る粒子をそれぞれ含む参照コロイドの吸光スペクトルから構成される参照行列Mを用いる。他の実施形態では、サンプル粒子は、2つ以上の粒子材料から成る粒子を含み、粒径が異なることも、異ならないこともある。これらの事例では、被測定吸光スペクトルは、参照行列M内の参照ベクトルによって表される参照吸光スペクトルへの非負最小二乗(NNLS)当てはめのような、最小二乗当てはめを用いて、逆畳み込み演算される。各参照ベクトルは、その中に存在することがある粒子材料及び粒径の範囲内の1つの既知の材料及び粒径の粒子から成る参照コロイドの場合に、それぞれ予め計算されるか又は予め測定される吸光スペクトルを表す。たとえば、各ベクトルが1つの参照吸光スペクトルを表す、400個のベクトルから構成される行列は、材料「A」の場合の参照スペクトルから構成されるベクトル1〜200を有することがあり、ベクトル1〜200の範囲内の各ベクトルは異なる粒径に対応している。ベクトル201〜400は、異なる材料「B」の場合の参照スペクトルから構成されることがあり、ベクトル201〜400の範囲内の各ベクトルは、材料「B」の異なる粒径に対応している。材料「A」及び材料「B」の場合の粒径範囲は、重なり合うことも、重なり合わないこともある。被測定スペクトルの波長範囲にわたる粒子材料の屈折率がわかっている場合には、これらの参照吸光スペクトルを計算することもできる。代替的に、屈折率情報が十分にわかっていないが、単分散サンプル、又は既知の多分散性を有するサンプルのいずれかとして、粒子を入手することができる場合には、参照吸光スペクトルは測定される。
【0081】
たとえば、サンプル希薄コロイドが、材料「A」の粒子及び材料「B」の粒子の両方を含むことがわかっている場合には、個々の既知のサイズの材料「A」及び材料「B」の粒子をそれぞれ含む、個々の参照コロイドの場合の参照吸光スペクトルが、対象となる粒径の粒径範囲(たとえば、サンプル粒子の粒径が存在するものと予測される粒径の範囲)にわたって計算又は測定される。参照スペクトルを表す参照ベクトルは、参照行列Mに含まれる。参照行列データへの測定ベクトルの最小二乗当てはめによって与えられる固有値が、サンプル内に存在する粒子の各粒径の濃度を与える。
【0082】
吸光スペクトルは、測定される粒子の粒径に応じて大きく異なる可能性がある。図5は、310及び320において、約0.1体積パーセントの粒子濃度で、それぞれ約100nm及び5μmの粒径を有するポリスチレン粒子を含む2つの例示的なサンプルコロイドの計算された吸光スペクトルを示す。その吸光スペクトルは、約190nm〜約1100ナノメートルの波長範囲にわたって計算される。吸光スペクトル310及び320は、比較するために図5において重ねられているが、それぞれ別個に計算された。
【0083】
単一粒径の粒子をそれぞれ含む、単分散参照コロイドの参照吸光スペクトルを計算することは簡単であり、各計算は特有の結果を生成する。しかしながら、上記で言及されたような逆演算は簡単ではなく、すなわち、被測定吸光スペクトルからの粒径分布の計算は、必ずしも特有の解を生成しない。たとえば、多数の異なる粒径を有する粒子が存在するときに、スペクトル特徴は「不鮮明になる(wash out)」傾向があるので、異なる粒径の異なる組み合わせを有するコロイドは、測定時に、同じ測定された吸光スペクトルを生成する可能性がある。また、吸光スペクトルを測定するために用いられる波長よりもはるかに小さい粒子、たとえば、レイリー散乱限界に近づく粒径を有する粒子の粒径分布を測定することは難しい。粒径分布を計算する上記の方法は、約10nm〜約15μmの範囲内の粒径を測定するのに十分に適している。上記の方法は、その吸光スペクトルが最小二乗当てはめによって被測定吸光スペクトルに最も良く当てはまる粒径分布を見つけることによって、粒径分布及び粒子濃度の計算に対する最も可能性が高い解を与える。
【0084】
参照行列Mを求めるとき、粒子がサンプル内に存在するものと予測される粒径範囲は、多数の個別の粒径に分割される。各粒径は、粒径分布が測定されることになる粒径の全範囲のそれぞれの部分を包含する。典型的には、この分割の結果として、数百の粒径が生成される。典型的には、粒径の全範囲は、対数スケール上で複数の粒径に分割される。
【0085】
粒径毎に、個々の参照吸光スペクトルは、被測定吸光スペクトルが測定された波長範囲にわたって、多数の個別の波長のそれぞれにおいて参照吸光度値を計算又は測定することによって生成される。一例では、個々の吸光度値は、1nmステップだけ異なる波長において、又はそれぞれナノメートルの整数倍である増分だけ異なる波長において測定又は計算される。少なくとも1つの実施形態では、参照吸光スペクトルは、4nmの増分だけ異なる波長において計算又は測定され、これは、分解能と演算速度との間で歩み寄ることができる数値であった。したがって、典型的には、参照行列M内には数百の行も存在し、それぞれ1つの波長に対応する。上記の式(9)では、参照行列Mを参照すると、nは粒径の指数であり、mは吸光度値が測定される波長の指数であり、行列Mの各列は、個々の粒径の粒子を含む参照コロイドの参照吸光スペクトルを表す参照ベクトルを表す。
【0086】
図2の204に関して上記で説明されたように、測定ベクトルが与えられた後に、参照吸光スペクトル(濃度ベクトルcの値に行列Mを乗算することによって得られる)と、被測定吸光スペクトル(測定ベクトルによって表される)との間の最小二乗誤差が計算され、計算されたスペクトルを変更し(たとえば、濃度ベクトルcの値を変更し)、それによって、結果として最小二乗誤差の大域的最小値が得られる最良の当てはめ解を見つけることによって、その最小二乗誤差が最小にされる。吸光スペクトルが、行列Mと濃度ベクトルとを乗算することによって計算される。その後、この過程は、被測定吸光スペクトル(行列M)と計算された吸光スペクトルとの間の誤差を最小にする濃度ベクトルを見つける。濃度ベクトルの個々の濃度要素を試行錯誤法によって変更して、最小の最小二乗誤差を見つけることができるが、修正QR分解に基づく非負最小二乗アルゴリズムは、その解が極小解に陥ることがないようにするのを確実にする。これは、大域的最小解を求める決定的な手法である。その行列は、1%のような任意の粒子濃度(体積濃度)を仮定して計算される。実際の濃度は、1%×(非負最小二乗大域的最小解によって見つけられる濃度)である。
【0087】
図6は、濃度ベクトルcに対する最小二乗誤差値のプロット400を示す。図に示されるように、このプロット内には、いくつかの極小値402、404、406がある。本発明は、種々の濃度ベクトルcを計算するために参照行列Mと共に用いられてきた測定ベクトルによって表される被測定吸光スペクトル内の粒径分布及び粒子濃度の測定にとって最も可能性が高い解として、大域的最小値404を特定する。したがって、図6に示される例では、粒径分布計算に対する最も可能性が高い解は、408においてプロットされる濃度ベクトルcの値によって与えられる解である。濃度のこの値を参照行列Mと乗算することによって得られる計算された吸光スペクトルは、被測定吸光スペクトルと最も厳密に一致する。
【0088】
上記で言及されたように、粒径の種々の組み合わせが多くの場合に、非常に類似している測定された吸光スペクトルを生成する性質があることに起因して、いくつかの従来技術のシステムでは、他の極小値402及び406が解として特定されることもある。たとえば、大域的最小値404が、測定された粒子が100nm粒子及び300nm粒子であったことを指示するにもかかわらず、100nm粒子及び300nm粒子を有するサンプル希薄コロイドは、測定ベクトルによって表される被測定吸光スペクトルが参照行列Mを種々の濃度ベクトルcとを乗算することによって得られる計算されたスペクトルと比較されるときに、測定された粒子が全て200nm粒子であることを指示する極小値402の解のような、代替的な解を与えることがある。大域的最小値404を常に見つけることによって、本システムは、最も可能性が高い粒径分布結果が達成されるのを確実にする。
【0089】
アーチファクト
上記の方法によって計算される粒径分布の結果は典型的には、システム内に著しい量の雑音が存在するときには特に、非常に多くのスパイクを含む。たとえば、図7Aは、システム内に約1%の雑音が存在したときに、上記の技法に従って測定ベクトル及び参照行列から計算される粒径分布510を示す。本明細書において、用語「雑音」は、ここで参照される1%雑音の逆数である、信号対雑音比を計算する際に一般的に用いられるような、信号のパーセンテージとして計算される、信号に付加される雑音波形の二乗平均平方根偏差を指している。すなわち、1%誤差は、100:1の信号対雑音比を意味する。多くの用途では、1%雑音はそれほど重要とは見なされず、実際問題として、それよりも低い雑音レベルを達成するのは難しい可能性がある。1%雑音レベルは、計算された粒径に著しい影響を及ぼすので、これらの計算された粒径を事後処理することが好都合である。
【0090】
図7Bは、粒径分布510を計算するために用いられるものと同じ測定ベクトル及び参照行列から計算されるが、システム内に存在する雑音がはるかに小さかった(実質的に存在しなかった)場合の粒径分布520を示す。実際には、典型的には常に或る量の雑音が存在するので、結果のスパイクを平滑化して除去するために、計算された粒径分布に1つ又は複数の平滑化技法が適用される。結果にスパイクが含まれると、ユーザは、他の軸に沿った値と単に相互参照することによって、そのプロットの1つの軸に沿った値を簡単に特定することができなくなるので、スパイクを含む結果はユーザにとって解釈するのが難しい。そのような場所では、プロットの中に不連続部が存在することがあるか、又は、そのような場所にある値は、スパイクが除去されたなら存在していたはずの値よりも著しく高いか、又は低いことがある。同じような考えは、後続のシステムによる粒径分布又は粒子濃度の解釈にも当てはまる。粒径分布結果のスパイクを低減するために適用することができる、平滑化技法のさらなる説明は、図12Aを参照しながら以下で与えられる。
【0091】
粒子の粒径分布が広いときに、別の雑音アーチファクトが生じる可能性がある。広い粒径分布は、粒子濃度が0よりも大きい、0でない粒径の数が、参照行列M内、それゆえ粒径分布内にある全粒径数の所定のパーセンテージよりも大きな粒径分布と定義される。
【0092】
非負最小二乗(NNLS)アルゴリズムを用いる広い粒径分布(PSD)スペクトルから生じる参照行列の逆演算は、雑音アーチファクトを引き起こすことがあり、それによって、結果として生成される粒径分布は、大粒子が過剰であることを指示する。すなわち、計算された粒径分布は、サンプル内には実際には存在しない大粒子の存在を指示する。測定波長よりも大きな粒子は、吸光スペクトルにそれほど詳細には寄与しないので、このアーチファクトが生じる可能性がある。大粒子の広い分布は単に、波長範囲にわたって吸収単位に概ね一定のオフセットがあるように見える。粒子が波長よりもはるかに大きいとき、それらの粒子は単に、検出器に影を落とす。スペクトルには依存しない。このスペクトルは平坦である。それゆえ、1つの実際に大きな粒子と、実際に大きな粒子の半分の断面積をそれぞれ有する2つの粒子とを区別することはできない。大粒子の分布を加えることによって、平坦である任意のスペクトルを当てはめることができる。問題は、この「不良設定」問題に2つ以上の解が存在するということである。したがって、本技法は、最小数の満たされたビンを有する解を見つけ、大粒子の広い分布を除去する。したがって、粒子の広い分布が存在するとき、本発明は、この大粒子による雑音を除去する方法(大粒子アーチファクト除去アプリケーション)を提供する。大粒子アーチファクト除去アプリケーションは、図8に示される例を説明した後に以下で詳細に説明される。
【0093】
窒化シリコン粒子を含むサンプルコロイドが調製され、上記の方法に従って、その粒径分布が測定された。その窒化シリコンは、NIST(National Institute of Standards and Technology)(国立標準技術研究所)標準物質659であり、セディグラフ、すなわち沈殿によって粒径を測定する機器を較正するために用いられる。NISTによれば、粒子は、以下の表1に示されるように、以下の累積的な重量分布を有するべきである。
【0094】
[表1]
累積重量
パーセンタイル 標準値(μm) 不確定値(μm)
10 0.48 0.10
25 0.81 0.10
50 1.43 0.10
75 2.08 0.11
90 2.80 0.13
【0095】
窒化シリコンサンプルが調製され、その後、水中において重量比で約0.02165%又は体積比で0.00679%まで希釈され、サンプル希薄コロイドが与えられた。1cm経路長のセル20の中に十分な光が透過することができるようにして、8453分光測光器で吸光スペクトル測定を行なうために、希釈が実行された。粒径、窒化シリコンの屈折率及び水の屈折率に関する既知のデータを用いて、参照行列Mが計算された。結果として生成された行列Mは、911行×911列の行列であった。911列は、10nm〜15μmの粒径範囲を包含した。サンプルコロイドの被測定吸光スペクトルを表す測定ベクトルが、参照行列Mと共に、上記のようにして非負最小二乗法によって濃度ベクトルcについて解く過程に入力された。最も良く一致するスペクトルを生成したPSD600が図8に示される。
【0096】
表1内のNISTデータは、サンプルが直径3μmよりも大きな粒子をほとんど有しないことを指示するが、生の粒径分布600は、サンプルを構成する粒子の大部分602が3μmよりも大きいことを指示する。さらに、結果600内の粒子の全濃度が、調製された0.00679%よりも、体積比で0.0322%において高すぎることを観測することができる。しかしながら、測定されたスペクトルへの当てはめは、0.11%のRMS当てはめ誤差で非常に良好である。
【0097】
大粒子アーチファクト除去アプリケーションは、逆演算において用いられる粒径範囲に制約を加える方法を提供する。図8に示される例では、15μmから約3μmまで粒径範囲上限を下げることは、粒径分布が著しく変化する場合であっても、当てはめ誤差にほとんど影響を及ぼさなかった。この結果が図9に示される。RMS当てはめ誤差700は、粒径上限が15μm702に設定されるときの約0.11%から、粒径上限が1.5μm704に設定されるときの約0.15%まで、ゆっくりと増加するだけである。粒径上限が1μm未満706まで下げられると、当てはめ誤差は急激に増加する。
【0098】
最大粒径を1.5μmに制約した後に、結果として生成された粒径分布は、スパイクを含む粒径分布結果を低減するために、3%だけ平滑化され、図10に示される粒径分布800が生成され、全粒子濃度結果が体積比で0.0040%になるように計算された。「3%だけ平滑化する」とは、粒径分布内のビンの数(濃度ベクトル内の要素の数)を指している。平滑化は、全ビン数の3%に等しい幅を有するガウスカーネルで粒径分布を畳み込むことによって実行される。したがって、100ビンが存在する場合には、畳み込みカーネルは3の幅を有する。この平滑化関数は、Adobe PHOTOSHOPにおいて提供されるガウスぼけ関数(blur function)に類似のガウスぼけ関数(blurring function)であるが、それは、PHOTOSHOPにおいて提供される2次元ぼけ関数でなく、1次元ぼけ関数である点が異なる。粒径上限が3μmに高められるとき、既知の全粒子濃度へのさらに良好に一致が計算された。
【0099】
図に示されるように、上記の計算方法の結果として、広い粒径分布が生成されるとき、生の粒径分布結果を事後処理して、大粒子による雑音を除去すべきである。大粒子アーチファクト除去アプリケーションは、大粒子による雑音を低減又は除去することへの1つの解決策を提供する。代替的に、他の事後処理技法が適用されることもできる。たとえば、大粒子による雑音を低減又は除去するために、粒径分布結果を対数正規分布に当てはめることができる。
【0100】
対処すべき別のアーチファクトは、分光測光器によって測定される吸光スペクトルにおいて生じる可能性があるアーチファクトであり、前方散乱アーチファクトと呼ばれる。上記の散乱減衰モデルは、散乱する全ての光が失われるものと仮定する。この大部分は正しい。しかしながら、前方に散乱する光のうちのわずかな部分は、受光光学系24によって捕捉される。前方散乱の量は、照明波長に対する粒径の比、及び受光光学系の捕捉角によって決まる。
【0101】
大粒子の吸光スペクトルが測定されるとき、前方散乱アーチファクトは、粒径対波長比が大きくなる場合に、特に短い波長において、観測される全減衰を減少させる。この減少の一例が、図11Aの吸光スペクトルプロット900において示されており、ここで、5μmポリスチレン粒子の被測定吸光スペクトルのプロット900の部分902内の減衰が、前方散乱に起因して減少している。図11Bは、プロット900に前方散乱補正係数を適用することによって、前方散乱アーチファクトが補正されたプロット910を示す。比較するために、プロット900も示される。
【0102】
単位長当たりの吸光度単位の減衰(AU/L)を相対吸光断面Qextの関数として計算する方法が上記で説明された。ΔAU/Lによって表される、前方散乱補正係数を計算する方法がここで説明される。前方散乱補正係数は、前方散乱のないAU/Lを与えるために単位長当たりの生の吸光度から減算され、より正確な散乱モデルが得られる。分光測光器が、半頂角βを有する散乱光の円錐を許容するものと仮定すると、単位長L当たりのAUの補正係数は、以下のようになることがわかる。
【0103】
【数9】


【0104】
ただし、|X(θ)|はBohren及びHuffmanによって定義されるような、ベクトル散乱振幅の大きさの二乗である。粒子が小さく、制限角βが小さい場合、式(7)は、以下の近似式になる。
【0105】
【数10】


【0106】
ただし、全てのθ≦β機器受光角の場合に、以下の式が成り立つものと仮定する。
【0107】
【数11】


【0108】
さらに、半頂角βの円錐ビームの立体角ΔΩが、以下の式によって与えられる。
ΔΩ=2π(1−cos(β)) (9)
βが0.8°である場合には、ΔΩ=0.000612ステラジアンである。立体角ΔΩは、分光測光器の固定の特性である。
【0109】
事後処理
図12Aは、小粒子のサンプルの生の粒径分布を計算した後に実行することができる事後処理方法を示す流れ図である。これらの方法は、その吸光スペクトルが分光測光器によって測定されているサンプル希薄コロイドの一部を構成するサンプルのための最も可能性が高い粒径分布及び粒子濃度結果を生成するために、システムによって、たとえば、システムに組み込まれる1つ又は複数のコンピュータプロセッサによって、自動処理で実施することができる。1002では、生の粒径分布(PSD)が上記の方法に従って計算される。たとえば、NNLSアルゴリズムを測定ベクトル及び参照行列Mに適用して、粒子の粒径分布及び粒子濃度を計算することができる。1004では、生のPSDが広い粒径分布であるか否かが判定される。広い粒径分布は、粒子濃度がしきい値粒子濃度よりも高い粒径数が、参照行列M内の全粒径数の所定のパーセンテージよりも大きい生の粒径分布と定義される。一例では、広い粒径分布は、0のしきい値粒子濃度よりも高い粒子濃度が全粒径数の3%よりも大きい、生のPSDと定義される。
【0110】
1004において、PSDが広いPSDであると判定されるとき、大粒子による雑音を除去するための事後処理が実行される。たとえば、1005において、大粒子アーチファクト除去アプリケーションを適用して、縮小サイズの参照行列を用いて得られる当てはめ誤差が、元の参照行列Mを用いる当てはめ誤差よりも所定の値だけ大きくなるまで、粒子範囲の大きい方の粒径端に向かって、参照粒子のスペクトルを表す参照ベクトルを参照行列から除去する。
【0111】
参照行列から参照ベクトルを除去する過程は、種々の異なる方式に従って実行することができる。図12Bは、最も大きな粒径ベクトルを繰返し除去するために、図12Aの1005において記述される過程を実行する一例として、サブルーチン1006〜1009を示す。1006では、最も大きな粒径を表す列が参照行列Mから除去されて、新たな、より小さな参照行列が生成される。1007では、参照行列Mから最も大きな粒径を表す列ベクトルを除去することから生じる新たな、より小さな参照行列を用いて、生のPSDが計算し直される。測定されたスペクトルと、現在の繰返し時の縮小サイズの参照行列及び再計算された生のPSDを用いて計算されたスペクトルとの間の当てはめにおけるRMS誤差が、1008において計算される。現在のRMS当てはめ誤差が、被測定吸光スペクトルと、元のフルサイズの参照行列M及び1002において計算された生のPSDを用いて計算された吸光スペクトルとの間で上記のようにして計算された元のRMS当てはめ誤差と比較される。現在のRMS当てはめ誤差と、フルサイズの参照行列を用いて計算された元のRMS当てはめ誤差との間の差を、元のRMS当てはめ誤差によって除算した値によって計算される誤差増加率が、所定のパーセンテージ未満である場合には、その処理は1006に戻り、1006において最も大きな残りの粒径ベクトルを除去することから開始して、1006、1007、1008及び1009の別の繰返しを実行し、参照行列Mを再び縮小する。現在のRMS誤差と、元のRMS誤差との間のRMS誤差の差が所定のパーセンテージ(限定はしないが、一例では20パーセント)以上になると、繰返し過程は終了し(1009において「No」)、粒径の上限、及びPSDを計算する際に使用すべき最も小さな実際の参照行列Mが決定される。
【0112】
上記で言及されたように、この過程は、1ビンずつ除去することには限定されず、その過程をより迅速に行なうために、一度に2つ以上のビンを除去することもできる。図12Cは、大粒子によるアーチファクトを除去するための代替的な好ましい過程を示しており、広いPSDを事後処理するために、図12Aの1005及び1018の代わりに、1056、1007〜1009、1058、1007、1008、1060、1062、1064及び1018が用いられる。したがって、1004において、広いPSDが存在するものと判定されるとき、全ビン数のうちの所定の数又はパーセンテージが1056において除去される。ただし、除去されるビンは最も大きな粒径のビンである。1007では、1056において除去された最も大きな粒径のビンを表す列を除去することから生じる新たな縮小サイズの参照行列を用いて、生のPSDが再計算される。測定されたスペクトルと、現在の繰返し時の縮小サイズの参照行列及び計算された生のPSDを用いて計算されたスペクトルとの間の当てはめのRMS誤差が、1008において計算される。現在のRMS当てはめ誤差が、測定されたスペクトル、元のフルサイズの参照行列を用いて計算されたスペクトル、及び1002において計算された生のPSDを用いて、上記で説明されたように計算されたRMS当てはめ誤差と比較される。現在のRMS当てはめ誤差と、フルサイズの参照行列を用いて計算された元のRMS当てはめ誤差との間の差を、元のRMS当てはめ誤差によって除算した値によって計算される誤差増加率が、所定のパーセンテージ未満である場合には、その処理は1056に戻り、1056において最も大きな残りの粒径ビンを構成する残りのビンの全数のうちの所定の数又はパーセンテージを再び除去することから開始して、1056、1007、1008及び1009の別の繰返しを実行し、参照行列Mを再び縮小する。
【0113】
1009において誤差増加率が所定のパーセンテージ以上である場合には、1058において、先行する除去手順において除去されたビンの数の所定のパーセンテージ(最も近い整数に丸められる)が戻されて、行列Mのサイズを大きくする。戻されるビンは、先行する除去過程におけるビンの全数からの最も小さなビンである。生のPSDが再び再計算され(1007)、最後に修正された行列Mを用いて、RMS当てはめ誤差が再計算される(1008)。1060において、上記のようにして、現在のRMS当てはめ誤差を、RMS当てはめ誤差及び元のRMS当てはめ誤差と比較するときに、誤差増加が所定のパーセンテージ未満である場合には、1058において戻されたビンの数の所定のパーセンテージ(最も近い整数に丸められる)が、1062において除去される。除去されるビンは、以前に戻されたビンのグループからの最も大きなビンである。1007、1008及び1060が再び実行され、1060において「No」の応答が達成されるまで、このループが繰り返される。1060において、誤差増加が所定のパーセンテージ以上であるとき、現在の繰返しの直前の1060の繰返しが、所定のパーセンテージ未満の誤差増加を見いだしたか否かが判定される。Yesである場合には、1058、1007、1008及び1060の別の繰返しが実行される。Noである場合には、図12B及び図12Aにおいて示されるように、処理は1018に進む。
【0114】
一実施形態では、所定のパーセンテージは50%である。したがって、たとえば、当初に、400ビンが存在する場合には、1056において200ビンが除去され、1058において100ビンが戻され、1062において50ビンが除去される、等である。
【0115】
1004において、PSDが広いPSDでないものと判定される場合には、大きな粒径の雑音の事後処理は不要であり、4つの方法1018、1020、1022及び1023のうちの少なくとも1つを用いて、粒径分布データが平滑化される。方法1018は、「曲線当てはめ最適化」と呼ばれ、PSDに多数のガウス曲線を当てはめて、PSDを平滑化する。1020における「ガウスぼけ」法は、PSDを平滑化するために用いることができる別の技法である。ベストシングルマッチ技法は、参照行列Mの逆行列を生成するために上記で説明された、非負最小二乗計算又は任意の他の最小二乗アルゴリズム若しくは他のアルゴリズムによってPSDを計算する代わりとして、最良の当てはめを与える参照行列Mの単一の粒径ビンを見つけるための解を強制的に求める。ベストシングルマッチ手法は、1つを除く全てのビンを強制的に0にする。ただ1つのビンによる解は、生じる可能性があまり高くないので、この解は2つの方法のうちの1つによって平滑化される。第1の平滑化技法は、3つの当てはめパラメータ:平均、標準偏差及び濃度を用いてガウス曲線を当てはめる。平均としてベストシングルマッチ解で開始することによって、最良のRMS当てはめが達成されるが、平均及び標準偏差はいずれも動くことを許される。簡単な平滑化アルゴリズムは、一定の標準偏差だけ、ただ1つのビンを実効的に広げる(上記の3%因子が幅を決定する)。代替的に、ガウス分布の代わりに、対数正規分布を用いることができる。方法1022は、ベストシングルマッチ技法を使用し、その後、「曲線当てはめ最適化」法1018によって平滑化する。方法1023は、ベストシングルマッチ技法を使用し、その後、ガウスぼけ1020によって平滑化する。
【0116】
1024では、上記の平滑化過程1018、1020、1022及び1023のうちの2つ以上が実行されるとき、実行される平滑化過程によって与えられる結果のうちの最良の当てはめ結果が特定される。平滑化過程のうちの1つだけが実行される場合には、その過程によって生成される解が用いられる。平滑化過程のうちの2つ以上が実行されるものと仮定すると、方法毎のRMS当てはめ誤差を比較し、最も小さなものを選択することによって、1024において最良の当てはめが決定される。その後、いずれの方法が最良の当てはめを与えるものと判定されるかに応じて、最良当てはめ法の結果が選択され、1026、1028、1030又は1032において適用され、それによって、平滑な粒径分布及び粒子濃度結果が与えられる。オプションでは、その後、最良当てはめ解を、たとえば、ユーザインターフェース上に、又はユーザが用いるための他の出力上に表示することができる。さらに、オプションでは、表示することに加えて、又は表示する代わりに、最良当てはめ解を、たとえば、解析にかけられる粒子を生成する過程を制御する際に用いるために、後続の処理に渡すことができる。
【0117】
上記のように、大粒子による雑音の抑圧を実行した後に、1006、1007、1008及び1009の最後の繰返しにおいて結果として生成される縮小サイズの参照行列を用いて計算されたPSDにおいて、1018において曲線当てはめ最適化を実行することができ、且つ/又は1020においてガウスぼけを実行することができる。1012では、これらの過程のうちの2つ以上が実行されるときに、それらの過程1018及び1020からの当てはめ結果のうちの良い方が特定される。1つだけが実行される場合には、それが用いられる解である。2つ以上が実行されるものと仮定すると、方法毎のRMS当てはめ誤差を比較し、結果として、より小さなRMS当てはめ誤差を生じる方法を選択することによって、より良好な当てはめが決定される。その後、いずれの方法がより良好な当てはめを与えるものと判定されるかに応じて、より良好な当てはめ法の結果が選択され、1014又は1016において適用され、それによって平滑な粒径分布及び粒子濃度結果が与えられる。オプションでは、その後、より良好な当てはめ解を、たとえば、ユーザインターフェース上に、又は人であるユーザが用いるための他の出力上に表示することができる。さらに、オプションでは、表示することに加えて、又は表示する代わりに、より良好な当てはめ解を、たとえば、解析にかけられる粒子を生成する過程を制御する際に用いるために、後続の処理に渡すことができる。
【0118】
粒子屈折率を計算する
上記の粒径分布測定過程によって用いられるスペクトルが測定又は計算される波長範囲のための屈折率データは多くの場合に、入手するのが非常に難しい。そのような場合に、上記の過程を用いて、粒径分布がわかっており、且つ粒子濃度がわかっているサンプルコロイドの場合に測定される被測定吸光スペクトルから、屈折率データを求めることができる。入手されると、その後、この屈折率データを用いて、同じ粒子材料の粒子から成り、その粒径分布はわからないが、粒径が本明細書において説明される過程の粒径範囲内にある粒子のサンプルの場合の粒径分布及び粒子濃度を計算することができる。
【0119】
上記のように、サンプルコロイドの粒子材料及び流体の測定波長範囲内の個々の波長における屈折率がわかっており、そのサンプルコロイドの被測定吸光スペクトルが与えられるとき、小粒子から成るサンプルのための粒径分布及び粒子濃度を計算することができる。逆に、サンプルコロイド内の被測定吸光スペクトル及び粒径分布がわかっている場合には、粒子材料(複数可)の測定波長範囲にわたる1つ又は複数の屈折率を計算して、屈折率ベクトルを与えることができる。しかしながら、主に、屈折率(RI)ベクトルのための多数の解が存在し、そのうちの1つを除いて全てが間違っているので、これは解くのが難しい問題でもある。以下に説明されるのは、本発明による屈折率を計算する方法の3つの実施形態である。
【0120】
一般的に、小粒子から成るサンプルの粒子材料の屈折率ベクトル(波長、実屈折率及び虚屈折率を表す)を計算するとき、サンプルコロイド内の小粒子の粒径分布がわかっているサンプルコロイドが与えられる。サンプルコロイドは希薄コロイドである。実屈折率値は、どの程度の光が散乱するかを指示する指標であり、虚屈折率値は、どの程度の光が吸収され、熱に変えられるかを指示する指標である。個別の波長におけるサンプルコロイド内の小粒子の分光光度測定に基づいて、サンプルコロイドの被測定吸光スペクトルが得られる。屈折率値の目的関数が、波長の関数として最小にされる。これは、濃度ベクトルについて解くのと概ね同じようにして行なわれるが、被測定吸光スペクトルと、既知の粒径分布から計算されるスペクトルとの間の誤差を最小にする屈折率が見つけられる場合、同じネルダー・ミードアルゴリズムを用いて、小粒子の粒子材料の屈折率ベクトルを求める。
【0121】
多くの場合に、屈折率測定のための小粒子の単分散サンプルを得ることは難しいので、本方法及びシステムは、被測定吸光スペクトルと共に、被測定粒径分布を入力する能力を含む。粒子材料の屈折率が測定されることになるとき、粒子材料の屈折率がわかっている必要がない方法を用いて、粒径分布が測定される。典型的には、粒径分布測定値は、スプレッドシート又は他のフラットファイル上で、ヒストグラムの形で与えられる。しかしながら、コンピュータは粒径と、取り得る粒径毎の濃度数値との表があればよいので、他の形式においてPSDを与えることもできる。したがって、1組の(粒径、濃度値)ベクトルとして粒径分布を表すデータを含むテキスト又は.csvファイルを読み出すように、アルゴリズムがプログラムされる。データが読み出された後に、粒子濃度が、数密度(コロイドの単位体積当たりの粒子数)から粒子体積分率に変換される。粒子体積分率は、以下の式によって、粒子数密度に関連付けられる。
【0122】
【数12】


【0123】
ただし、Nは数密度であり、aは粒子半径であり、Cは計算された体積分率である。この場合、aはわかっている。サンプル内で測定される全粒子数は数密度ではなく、数密度Nに比例するものと仮定される。しかしながら、粒径分布情報を用いて、体積によって正規化されたPSDを生成することができる。式(12)を用いて、粒径毎の体積分率が計算される。すなわち、式(12)において上記で示されたように、粒径毎に、その粒径の粒子の数密度と、その粒径の粒子の粒子半径の3乗と、定数とを乗算することによって、その粒径の場合の体積分率が計算される。計算された体積分率を粒径に対してプロットすることによって、粒子体積に比例する分布が与えられる。その後、その分布は、粒子体積分率の和が1になるように正規化される。
【0124】
その後、粒子の全体積分率と共に、正規化されたPSDを用いて、屈折率を計算することができる。前方散乱成分を含む波長の関数としてAU(λ)を計算することを含む、単分散粒径分布を有するサンプル希薄コロイドの吸光スペクトルの計算は、上記で既に説明されている。多分散粒径分布を有するサンプル希薄コロイドの場合、スペクトルを計算するために粒径分布にわたる合算が実行されるので、線形な解法も適用される。すなわち、波長の関数としての吸光度は、以下のように計算される。
【0125】
【数13】


【0126】
ただし、Cは全体積濃度であり、PSD(a)は、粒径分布内のn番目の粒径aにおける正規化された体積分率であり(先のセクションにおいて説明されている)、AU(λ,a,n,n)は、波長λ及び粒径aにおける単位体積濃度で計算された吸光度であり、nは、粒子材料の屈折率であり、nは、流体の屈折率である。式(13)は、以下に記述される屈折率当てはめアルゴリズムの全てにおいて広範に用いられる。
【0127】
そのアルゴリズムが最小にする目的又は費用関数は、以下のとおりである。
【0128】
【数14】


【0129】
ただし、Vは、被測定吸光スペクトルである。すなわち、波長の関数としてnを見つけるためのアルゴリズム関数は、式(14)を最小にする。以下に記述される第1及び第3の方法/アルゴリズムでは、この最小化は、被測定吸光スペクトル内の各波長において、典型的には、10nmだけ離隔する92個の波長において実行される。以下に記述される第2の方法/アルゴリズム(セルマイヤ当てはめ)では、測定される吸光スペクトルの波長範囲内の波長毎に目的関数(14)が計算され、全ての波長にわたって合算され、全当てはめ品質の指標が与えられる。
【0130】
屈折率を計算する1つの方法は、逐一実屈折率ソルバーと呼ばれる。この方法を用いるとき、サンプルコロイドの被測定吸光スペクトル、サンプルコロイドのPSD、サンプルコロイド内の各粒径の粒子の濃度、透過波長範囲(著しい吸収がない、すなわち虚屈折率が実質的に0であり、それゆえ、実屈折率だけが解かれるスペクトル領域)、及び初期屈折率が求められる。分光測光器によって測定される吸光係数は、屈折率及び粒子濃度の両方に依存するので、この方法は、屈折率を計算するために、濃度ベクトルの入力を必要とする。代替的に、或る波長における屈折率がわかっている場合には、これを用いて、濃度を計算することができる。それゆえ、この技法は、濃度がわかっていないときに、又は特定の波長における粒子材料のための屈折率がわかっているときに用いることができる。多くの場合に、ナトリウムD線(589nm)における屈折率は文献において見つけることができる。その際、そのプログラムは、透過範囲内の最も長い波長において始まり、最も短い波長によって指定される吸収端において終わる、連続したユーザ指定の波長間隔で実屈折率を計算する。屈折率最大勾配限界によって、アルゴリズムが正しくない解に不連続にジャンプするのを防ぐ。この方法は、粒子が小さいほど、たとえば、約0.6μm未満の粒径の場合にうまく機能する。より大きな粒子の場合、間違った解を避けるのに、勾配制約では不十分である。
【0131】
逐一実屈折率ソルバーを用いるために、ユーザが、サンプルコロイドの被測定吸光スペクトル、セル長、PSD(粒子濃度を含む)、透過波長範囲(ユーザが指定することができる)、RI計算間の波長間隔、及び透過波長範囲内の最も長い波長における開始RIを入力する(又は、代替的に、これらの自動入力を実行することができる)。また、ユーザは、1波長ステップ当たりの屈折率nの許容される増分変化の形をとる勾配制約も入力する(又は、入力としてこれらの値を受信すると、システムが自動的に入力することができる)。透過波長範囲は必ずしもわかっているとは限らないことがあるが、同じ粒子材料の種々のPSDへのRI当てはめが同じ結果を与えるか否かを確認することによって、間接的に見いだすことができる。波長の関数として屈折率について解いた後に、波長に対して目的関数(式14)をプロットして、実屈折率が失敗し始める場所を容易に特定することができる。吸光スペクトル内の特徴を観察することによって、多くの場合に吸収の開始を検出することができる。
【0132】
上記で言及されたように、逐一実屈折率ソルバーは、粒径が大きくなると、RIの計算のための正確な解を見つけることが難しいことがある。図13Aは、サンプルコロイドの被測定吸光スペクトルのプロット110であり、そのサンプルコロイドでは、Dow Chemical社によって調製された1μmポリスチレン粒子が、水中に、体積比で約0.1%の濃度において分散する。波長及び実粒子屈折率の関数として、目的関数(式14)がプロットされるとき、図13Bに示されるように、潜在的な屈折率解1150の2次元「ロードマップ」がプロットされる。陰付きの領域1153は、目的関数の大きさ<10−4に対応し、その場合に、当てはめは良好である。波長が粒径よりもはるかに短くなる領域内に多数の解が存在することに留意されたい。交差領域1152、1154は、図13Aのスペクトル曲線1100上の変曲点領域1102、1104に対応する。逐一法が抱える問題は、目的関数プロット内の矢印1156によって示されるように、逐一法が下側の経路をとる傾向があるのに対して、この場合、矢印1158によって示される上側の経路をとることによって、正しい解に達するということである。図13Cは、矢印1156の経路をとり、10nmの波長増分において許容される増分RI変化が±0.05である、この例の場合に逐一法によって見だされる結果1170を示す。
【0133】
許容される増分RI変化(勾配許容範囲)を10nm波長増分において+0.02/−0.0001RIまで厳しくすることによって、逐一法は右経路1158にとどまるが、図13Dに示されるように、結果として生成されるRI曲線1180は依然として、特に変曲点付近において過度に細かく波打った。1μmポリスチレン粒子の場合のRI曲線1180が細かく波打っていることを示すために、比較として、同じ条件下で逐一法によって計算された300nmポリスチレン粒子の場合のRI曲線1182が示される。270nmよりも長い波長の場合の結果だけがプロットされている。曲線1182の方がはるかに滑らかであることを容易に観察することができる。曲線1182は、ポリスチレンサンプルの場合にうまく機能することがわかっており、1μmポリスチレン粒子の場合の曲線1180によって与えられるRI推定値よりも良好なRI推定値であった。
【0134】
波長の関数として、制約されたRI範囲において目的関数(式14)を最小にする屈折率ベクトルを見つけるための代替法として、4つの異なる制約付きの最適化ルーチンが用いられた。これらのルーチンは、ネルダー・ミード、微分進化(Differential Evolution)、シミュレーテッドアニーリング(Simulated Annealing)及びランダムサーチ(Random Search)であり、全てMATHEMATICA(登録商標)において構築される。ネルダー・ミードルーチンは、シンプレックス法として知られており、他のルーチンよりもかなり高速であるので好ましい。次に好ましいルーチンは微分進化ルーチンであり、これはMATHEMATICA(登録商標)ユーザガイドによれば、計算に費用はかかるが、相対的にロバスト性があるように記述されており、極小値が多い問題ほど、うまく機能する傾向がある。
【0135】
屈折率を計算する第2の方法は、セルマイヤ実屈折率ソルバーと呼ばれる。この方法を用いるとき、実屈折率は、滑らかな曲線に当てはめられる。逐一法とは異なり、セルマイヤ方程式は、分散のための物理的なモデルに基づく。これは、解が連続的であり、常分散を有する(波長が長くなると、屈折率が減少する)のを確実にする。また、これは測定雑音を抑圧する。これによって、より大きな粒径を用いて屈折率を計算するときに生じる可能性がある鋸歯のような誤差を防ぎ、逐一法が回避される。実屈折率が当てはめられる滑らかな曲線はセルマイヤ方程式から導出され、セルマイヤ方程式は多くの場合に、光学材料の屈折率分散を記述するために用いられる。Schott Glassカタログ(Schott AG社、ドイツ、マインツ)が、広範な1組の光学ガラスのための6つのセルマイヤ係数を記載しており、屈折率が5ppmまで正確であることを記載している。セルマイヤ方程式を用いて求められたポリスチレンRIを用いて計算されたスペクトルを、被測定吸光スペクトルに当てはめることによって、優れた結果が達成された。
【0136】
セルマイヤ方程式は屈折率と波長との間の実験的な関係であり、それは光学ガラスの分散を記述するために一般的に用いられる。ガラスの場合の通常の形は以下のとおりである。
【0137】
【数15】


【0138】
セルマイヤ当てはめのための最適化方針は、スペクトル全体にわたって最良の当てはめを生成する6つのセルマイヤ係数を見つけることを伴う。したがって、セルマイヤ実屈折率ソルバーと共に用いるための目的関数は以下のように定義される。
【0139】
【数16】


【0140】
ただし、被測定吸光スペクトルV内の全ての波長にわたって総和が計算される。Schott Glassカタログを参照して、セルマイヤ係数のための最小化制約を選択した。これらの制約は、以下のとおりにすることができるが、この方法がさらに改良されるのに応じて変更されることがある:0.4<B1<1.5、0.1<B2<0.8、0.7<B3<2.0、0.001<C1<0.03、0.005<C2<0.035、80<C3<130。上記の逐一屈折率ソルバーのために用いられるのと同じネルダー・ミード最小化アルゴリズムを用いるとき、セルマイヤ実屈折率ソルバーを用いて、図14Aに示されるように、3μmポリスチレン粒子の場合の屈折率結果1200が生成された。
【0141】
この例の場合のセルマイヤ係数は:{0.00187037,{B1→0.829063,B2→0.599588,B3→1.38423,C1→0.0118092,C2→0.0292444,C3→115.424}}であった。ただし、最初の数は、当てはめ後の目的関数(式16)の値である。逐一目的関数(式14)を用いて粒子屈折率を計算して、屈折率がスペクトルにわたっていかに良好に当てはまるかを把握するために、セルマイヤ係数が用いられた。3μmポリスチレン粒子の場合のこの計算の結果1210が、図14Bに示される。各波長において計算された屈折率ηを用いて目的関数(式14)をプロットすることによって当てはめ良度が計算されて、各点における当てはめ品質の指標が与えられる。典型的な当てはめしきい値は10−4に設定され、約10−4以下の当てはめ良度値は良好な当てはめを示す。図14Bにおいて、スペクトルの短い端部におけるUV波長を除いて、当てはめがかなり良好であったことを観察することができる。
【0142】
屈折率を計算する第3の方法は、逐一複素屈折率ソルバーと呼ばれる。この方法は、不透明な材料と共に用いるために、実屈折率から複素屈折率への逐一屈折率ソルバーの論理的な拡張を提供する。この手法では、2つの変数の計算が必要とされるので、複素屈折率について解くために、2つのスペクトル測定値が必要とされる。したがって、屈折率を計算するために、異なる粒径を有する2つの希薄コロイドの吸光スペクトルが測定される。この手法を用いて最小にされる目的関数は、スペクトル毎に1つずつの、式(14)の形の2つの関数の和である。
【0143】
図15A及び図15Bはそれぞれ、ポリスチレン粒子の場合の実屈折率プロット1300及び虚屈折率プロット1350を示す。第1の測定されたスペクトルは、74nmポリスチレン粒子の単分散コロイドから測定され、第2の測定されたスペクトルは、155nmポリスチレン粒子の単分散コロイドから測定された。約270nmよりも長い波長において実部を計算するために、逐一屈折率ソルバー法が用いられた。それよりも短い波長の場合、逐一複素屈折率ソルバー法が用いられ、開始屈折率はk=0で推測され、n=280nm実屈折率が、逐一屈折率ソルバー法によって与えられる実屈折率解から生成される。用語「k」は屈折率の虚数成分と定義され、「n」は屈折率の実数成分であり、これらは以下のように式に表すことができる。
【0144】
【数17】


【0145】
ただし、iは−1の平方根である。この式の左辺のnの上にある波形記号は、nが複素数であることを意味し、非常に一般的な表記法である。270nmで開始するとき、5nmの波長増分のそれぞれにおいて、±0.05のn及び±0.1のkの増分変化が許された。この方法は、初期のn及びkの割当てが正の数であることを必要とする。
【0146】
これらの結果のための当てはめ良度を調べると、230nm付近を除く、いずれの場所においても、当てはめが良好であったことがわかった。230nm付近の当てはめ結果が不十分であるのは、サンプル(複数可)内の或る汚染物によって引き起こされている可能性があるものと仮定された。
【0147】
図16は、本発明の一実施形態による典型的なコンピュータシステム1400を示す。コンピュータシステム1400は、分光測光器システム内に組み込むことができるか、又は、たとえば、インターフェース1410を介して分光測光器から分光光度データを受信するように構成されることができ、たとえば、ユーザインターフェース260と共に、システム1400のインターフェース1410を介して、ユーザとの間で情報をやりとりする。コンピュータシステム1400は、一次記憶装置1406(典型的にはランダムアセクスメモリ、すなわちRAM)、一次記憶装置1404(典型的には、読取り専用メモリ、すなわちROM)を含む記憶デバイスに結合される任意の数のプロセッサ1402(中央処理装置、又はCPUとも呼ばれる)を備える。一次記憶装置1404は、CPUに向かって一方向にデータ及び命令を転送するための役割を果たし、一次記憶装置1406は典型的には、データ及び命令を双方向に転送するために用いられる。これらの一次記憶装置はいずれも、上記のような任意の適切なコンピュータ読取り可能媒体を含むことができる。大容量記憶装置1408もCPU1402に双方向に結合され、さらなるデータ記憶容量を提供し、上記のコンピュータ読取り可能媒体のいずれかを含むことができる。大容量記憶装置1408は、PSD計算プログラム、屈折率計算プログラム、事後処理プログラム等のプログラムを格納するために用いることができ、典型的には、一次記憶装置よりも低速であるハードディスクのような二次記憶媒体である。一次記憶装置1406からの情報は、適切な場合には、仮想メモリとしての大容量記憶装置1408上に格納されることがあり、一次記憶装置1406上の空間を解放し、それによって、一次記憶装置1406の有効記憶容量を増やすことができることは理解されよう。CD−ROM又はDVD−ROM1414のような特定の大容量記憶装置も、CPUに対して一方向にデータを送ることができる。
【0148】
CPU1402はインターフェース1410にも結合され、インターフェース1410は、ビデオモニタ、ユーザインターフェース、トラックボール、マウス、キーボード、マイクロフォン、タッチセンサ式ディスプレイ、トランスデューサカードリーダ、磁気若しくは紙テープリーダ、タブレット、スタイラス、音声若しくは手書き文字認識装置、又は、当然、他のコンピュータのような任意のよく知られている入力デバイス等の、1つ又は複数の入力/出力デバイスを含む。最後に、CPU1402はオプションで、1412において包括的に示されるようなネットワーク接続を用いて、コンピュータ又は通信ネットワークに接続されることがある。そのようなネットワーク接続を用いて、CPUは、上記の方法を実行する過程において、ネットワークから情報を受信することがあるか、又はネットワークに情報を出力することがあるものと考えられる。上記のデバイス及び材料は、コンピュータハードウエア及びソフトウエア技術分野において知られている。
【0149】
上記のハードウエア素子は、本発明の動作を実行するための多数のソフトウエアモジュールの命令に応答して動作することができる。たとえば、粒径分布及び濃度を計算するための命令、及び事後処理のための命令は、大容量記憶装置1408又は1414上に格納され、一次記憶装置1406と共に、CPU1402上で実行されることができる。
【0150】
図17は、サンプル希薄コロイドに超音波エネルギーを加えることに起因して乳化が生じるときに、時間と共に変化する水中のひまわり油粒子の粒径を示すために実行された実験の結果1500をプロットする。本明細書で説明された過程による高速測定(図示される測定曲線当たり約5秒)は、その過程を正確に、且つリアルタイムにモニタすることができるようにした。曲線1502は、その過程の開始時(0秒)におけるひまわり油粒径の累積分布(累積濃度パーセンテージ)を表し、一方、曲線1504、1506、1508、1510及び1512はそれぞれ、12秒、48秒、96秒、3分及び10分の時点における水中のひまわり油粒径の累積分布(累積濃度パーセンテージ)をプロットする。測定はアットラインで行なわれ、すなわち、サンプルはセンサの先まで流れなかったが、それはバッチ工程であったので、サンプルは上記で言及された時点で取り込まれ、測定された。
【0151】
本発明は、その特定の実施形態を参照しながら説明されてきたが、本発明の範囲から逸脱することなく、種々の変更を行うことができ、また代わりに均等物を用いることができることは理解されたい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
工程の流れにおいてサンプル粒子の小粒子の粒径分布を計算する方法であって、該サンプル粒子はサンプルコロイドにおいて提供され、該方法は、
予め計算されるか又は予め測定される参照ベクトルの参照行列を与えること(202)であって、各該参照ベクトルは、希薄コロイド内に含まれる粒子の粒径分布の個別の粒径を表し、各該参照ベクトルは、所定の波長範囲にわたる参照吸光スペクトルを表す、参照行列を与えること、
前記サンプルコロイド内の前記サンプル粒子の被測定吸光スペクトルを表す測定ベクトルを与えること(204)であって、該被測定吸光スペクトルは、分光測光法で測定されている、測定ベクトルを与えること、並びに
前記参照行列、前記測定ベクトル及び一次方程式を用いて、前記サンプルコロイド内の前記粒子の粒径、粒径分布、及び少なくとも1つの粒子濃度のうちの少なくとも1つを求めること(206)、
を含む、方法。
【請求項2】
前記粒径分布及び前記粒子濃度を平滑化することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記求めることは、前記参照行列及び前記測定ベクトルに非負最小二乗アルゴリズムを適用することであって、前記サンプル粒子の前記粒径分布及び前記粒子濃度について解く、適用することを含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記サンプル粒子の前記粒径は約10nm〜約15μmの範囲内にある、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記参照行列を与えること、前記測定ベクトルを与えること、並びに前記粒径分布及び前記粒子濃度を求めることは、前記工程の流れで1つの工程が実行されているときに、リアルタイムに実行される、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記参照行列を与えること、前記測定ベクトルを与えること、並びに前記粒径分布及び前記粒子濃度を求めることは、約5秒以内に実行される、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記参照行列を与えること、前記測定ベクトルを与えること、並びに前記粒径分布及び前記粒子濃度を求めることは、約1秒以内に実行される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記流体媒質は液体を含む、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記方法は、前記サンプルコロイドをフロースルーセルの中に流すことをさらに含み、前記被測定吸光スペクトルは、前記フローセル(20)内の前記サンプルコロイド内の前記サンプル粒子を用いて測定される、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記工程はバッチ工程を含み、前記サンプルは、該バッチ工程から取り込まれ、アットラインで測定される、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記流体媒質は気体を含む、請求項1〜7、並びに9及び10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記方法は、前記サンプル粒子の流れを分光測光器のサンプル体積の中に流すことをさらに含み、前記被測定吸光度値は、前記サンプル体積内の前記粒子から測定される、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記求めることは、
前記参照行列と前記測定ベクトルとの間の最小二乗誤差を計算すること、並びに
前記最小二乗誤差を最小にする濃度ベクトル(c)を見つけることであって、該濃度ベクトルは、前記サンプル希薄コロイド内で流動している前記サンプル粒子の前記粒径分布及び前記粒子濃度を表す、見つけること、
を含む、請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記測定ベクトルを与えることは、前記個別の波長において分光測光法によって前記測定ベクトルをリアルタイムに測定することを含み、
前記サンプル希薄コロイド内で流動している前記サンプル粒子の前記粒径分布及び前記粒子濃度を求めることは、オンラインで計算される、請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
ユーザが使用するために、前記サンプル希薄コロイド内で流動している前記サンプル粒子の前記粒径分布及び前記粒子濃度を出力することをさらに含む、請求項1〜14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
サンプルコロイドを構成する流体媒質内に分散する小粒子の粒径の変化を測定する方法であって、
予め計算されるか又は予め測定される参照ベクトルの参照行列を与えること(202)であって、各該参照ベクトルは、希薄コロイド内に含まれる粒子の粒径分布の個別の粒径を表し、各該参照ベクトルは、所定の波長範囲にわたる参照吸光スペクトルを表す、与えること、
前記波長範囲にわたって分光測光法によって、前記サンプルコロイドの前記小粒子の被測定吸光スペクトルを表す測定ベクトルをリアルタイムに測定すること、並びに
前記参照行列、前記測定ベクトル及び一次方程式を用いて、前記サンプルコロイド内の前記粒子の粒径、粒径分布、及び少なくとも1つの粒子濃度のうちの少なくとも1つを求めること(206)、
を含む、方法。
【請求項17】
前記希薄サンプルコロイドは工程の流れにおいて与えられ、該工程の流れにおいて前記粒径分布及び前記粒子濃度は求められる、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記工程中に少なくとも一度だけ前記リアルタイムに測定すること、及び前記求めることを繰り返すこと、並びに
前記求めることの現時点の結果を該求めることの結果のうちの少なくとも1つの先行する時点の結果と比較すること、
をさらに含む、請求項16又は17に記載の方法。
【請求項19】
前記求められた粒径分布及び前記求められた粒子濃度のうちの少なくとも1つを、所定の粒径分布及び所定の粒子濃度のうちの少なくとも1つを比較すること、及び
前記求められた粒径分布及び前記求められた粒子濃度のうちの前記少なくとも1つが、前記所定の粒径分布及び前記所定の粒子濃度のうちの前記少なくとも1つと、所定の差異値の絶対値以下だけ異なるときに警報を生成すること、
をさらに含む、請求項16〜18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記粒子は前記流体媒質内で流動している、請求項16〜19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
サンプル希薄コロイドを含む、工程の流れにおいてサンプル粒子の小粒子の粒径分布を測定するためのシステムであって、
プロセッサ(1402)と、
前記プロセッサによってアクセス可能であるメモリ内に格納される、予め計算されるか又は予め測定される参照ベクトルの参照行列(M)であって、各該参照ベクトルは、希薄コロイド内の粒子の粒径分布の個別の粒径を表し、各該参照ベクトルは、所定の波長範囲にわたる参照吸光スペクトルを表す、参照行列(M)と、
該システムが、前記サンプルコロイド内の前記サンプル粒子の被測定吸光スペクトルを表す測定ベクトルを与えられるときに、前記プロセッサによって実行されるように構成されるプログラムであって、該被測定吸光スペクトルは分光測光法によって測定されている、プログラムと、
を備え、前記プログラムによって、前記プロセッサは、
前記参照行列、前記測定ベクトル及び一次方程式を用いて、前記サンプルコロイド内の前記粒子の粒径、粒径分布、及び少なくとも1つの粒子濃度のうちの少なくとも1つを求めること(206)を含む動作を実行する、システム。
【請求項22】
前記粒径分布及び前記粒子濃度を平滑化するために、前記プロセッサによって実行されるように構成されるプログラムをさらに備える、請求項21に記載のシステム。
【請求項23】
前記予め計算される参照ベクトルの参照行列を予め計算するために、前記プロセッサによって実行されるように構成されるプログラムをさらに備える、請求項21又は22に記載のシステム。
【請求項24】
前記システムは、前記サンプル希薄コロイド内で流動している前記サンプル粒子の前記吸光度値を測定するように構成される分光測光器をさらに備え、該分光測光器はさらに、前記吸光度値の前記測定ベクトルを計算し前記プロセッサに入力すること、又は前記サンプル希薄コロイド内で流動している前記サンプル粒子の前記吸光度値を前記プロセッサに入力することのうちの少なくとも1つを実行するように構成されている、請求項21〜23のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項25】
工程の流れにおいてサンプル粒子の小粒子の粒径分布を計算するための命令から成る1つ又は複数のシーケンスを搬送するコンピュータ読取り可能媒体であって、前記サンプル粒子はサンプルコロイド内に与えられ、1つ又は複数のプロセッサによって前記命令の1つ又は複数のシーケンスを実行することによって、前記1つ又は複数のプロセッサは、
予め計算されるか又は予め測定される参照ベクトルの参照行列を受信すること(202)であって、各該参照ベクトルは、希薄コロイド内の粒子の粒径分布の個別の粒径又は粒径範囲を表し、各該参照ベクトルは、所定の波長範囲にわたる参照吸光スペクトルを表す、受信すること、
前記サンプルコロイド内の前記サンプル粒子の被測定吸光スペクトルを表す測定ベクトルを受信することであって、該被測定吸光スペクトルは分光測光法によって測定されている、受信すること、並びに
前記参照行列、前記測定ベクトル及び一次方程式を用いて、前記サンプルコロイド内の前記粒子の粒径、粒径分布、及び少なくとも1つの粒子濃度のうちの少なくとも1つを求めること(206)、
を含む過程を実行する、コンピュータ読取り可能媒体。
【請求項26】
出力するための命令の1つ又は複数のシーケンスをさらに含み、該出力するための命令の1つ又は複数のシーケンスを前記1つ又は複数のプロセッサによって実行することによって、該1つ又は複数のプロセッサは、ユーザが使用するために、前記サンプル希薄コロイド内で流動している前記サンプル粒子の前記粒径分布及び前記粒子濃度を出力する、請求項25に記載のコンピュータ読取り可能媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11A】
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【図11B】
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【図12A】
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【図12B】
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【図12C】
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【図13A】
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【図13B】
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【図13C】
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【図13D】
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【図14A】
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【図14B】
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【図15A】
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【図15B】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2009−210584(P2009−210584A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2009−49207(P2009−49207)
【出願日】平成21年3月3日(2009.3.3)
【出願人】(399117121)アジレント・テクノロジーズ・インク (710)
【氏名又は名称原語表記】AGILENT TECHNOLOGIES, INC.
【Fターム(参考)】