左右歯面が非対称のドッグクラッチ歯
【課題】ドッグクラッチ歯の左右歯面の逆テーパ角度を変えることによって、嵌入したスリーブ歯と左右ドッグクラッチ歯との間の間隙を減少させ、クラッチ歯列からスリーブ歯がギヤ抜けするのを防ぐようにした変速機用歯車を提供することを目的とする。
【解決手段】ドッグクラッチ歯の左右歯面を非対称に形成し、一方の歯面のテーパ角度を他方のそれより大きくすることを特徴とする変速機用歯車である。
【解決手段】ドッグクラッチ歯の左右歯面を非対称に形成し、一方の歯面のテーパ角度を他方のそれより大きくすることを特徴とする変速機用歯車である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、主として自動車変速機用の歯車に関し、ドッグクラッチ歯の左右の歯面を非対称に形成した変速機用歯車に関する。詳しくは、ドッグクラッチ歯先端のチャンファ部から歯根元にかけて歯厚が順次減少するように左右の歯面に逆テーパを施し、かつ、左右の逆テーパ傾斜角度を変えることによって、嵌入する相手側のスリーブ歯がクラッチ歯列からギヤ抜けを起こすことのないようにした変速機用歯車に関するものである。
【背景技術】
【0002】
スリーブ歯がクラッチ歯列からギヤ抜けしないように、通常ドッグクラッチ歯の左右歯面に同じ傾斜角度の逆テーパを施す。この逆テーパ角度の設定について図8を参照しながら説明する。同図(a)、(b)の上段にスリーブ歯S、下段にクラッチ歯Cを示し、そして、クラッチ歯Cにおけるドッグクラッチ歯2、2の先端を結ぶ仮想線を二点鎖線Aで、歯元を結ぶ線を実線Bで示す。ここで、ドッグクラッチ歯2における左右歯面22、22の逆テーパの傾斜角度は、夫々傾斜角度X、Xであり、一方、スリーブ歯Sにおける左右歯面の逆テーパの傾斜角度も同様に夫々傾斜角度X、Xである。同図(a)では、下段のドッグクラッチ歯2及びスリーブ歯Sにおける左右歯面の逆テーパ角度Xは小さく、通常3〜4度に設定されている。同図(b)では、下段のドッグクラッチ歯2及びスリーブ歯Sにおける左右歯面の逆テーパ角度Yは大きく、6〜7度に設定されている。同図(a)、(b)ともに、スリーブ歯Sの先端はクラッチ歯Cの歯先端を結ぶ二点鎖線Aより上方へ引っ込んだ位置にある。次に、クラッチ歯Cにスリーブ歯Sが嵌入した状態を図9に示し、スリーブ歯Sはクラッチ歯Cの歯先端を結ぶ二点鎖線Aを越えて、ドッグクラッチ歯2、2の間に位置する。同図(a)では左右の逆テーパ角度Xが小さい場合の噛合い状態を示し、同図(b)では左右の逆テーパ角度Yが大きい場合の噛合い状態を示す。ここで、左右のドッグクラッチ歯2、2間の隙間を最小歯すきGと称し、スリーブ歯の出っ張った箇所の歯厚を最大歯厚Lとし、最小歯すきGの寸法は最大歯厚Lの寸法より大きく設定され、同図(a)、(b)においてこれらの寸法値は夫々一定であることを前提とする。同図(a)の左右の逆テーパ角度Xが小さい場合、スリーブ歯Sとクラッチ歯Cとの間隙G1も小さいが、上段のスリーブ歯Sと下段のクラッチ歯Cの加工精度、或いは車の走行状況によっては、スリーブ歯Sがクラッチ歯Cの歯列からギヤ抜けする。そこで、ギヤ抜けを防止するために、同図(b)に示すように左右歯面の逆テーパ角度Yを拡大した。この場合、スリーブ歯Sとクラッチ歯Cとの間隙G2も大きくなり、クラッチ歯Cにスリーブ歯Sが嵌入した位置で、隣同士のドッグクラッチ歯2、2間の左右に夫々間隙G2、間隙G2が形成される。ギヤ抜けの防止を目的としてドッグクラッチ歯の左右歯面とも逆テーパ角度を大きくしたが、それに伴って総間隙も間隙G2+間隙G2のように増大し、ギヤ抜けが生じる結果となった。
【0003】
他に、ギヤ抜けを防止する手段として、スリーブ歯Sとクラッチ歯Cとの噛合い面圧を高める減少歯設定の考え方がある。この考えは、クラッチ歯Cのリング状歯列において180度対向部位における夫々数枚の歯厚を正規歯とし、一方、その他の部位における減速側の歯厚を減少させる。しかしながら、この歯車では、リング状歯列の歯厚が均等ではないので各歯形間の肉厚バランスが崩れ、鍛造成形の際に鍛造肉流が偏って歯列における各歯の歯溝精度が悪くなるという問題が残る。
【0004】
ところで、ギヤ抜けを防止するために、逆テーパを設けたドッグギヤの製造方法について以下のような特許の提案がなされている。即ち、金型の寿命を延ばすことができ、また部品の共通化が図れてコストダウンにつながる変速装置用ギヤの製造方法であって、その要旨は、外周にギヤ部を有し内周に嵌合孔が形成された1種類の外部材と、ドッグギヤを有するドッグ付きと、ドッグギヤの無いドッグなしの2種類の内部材を、別々に加工形成し、前記外部材の嵌合孔内に、前記2種類の内部材のうちの何れかを組み付け、溶接により一体化することである(特許文献1参照)。他に、次のような提案があり、ドッグギヤ歯の歯元応力は歯先にかかる荷重と歯丈によって決まる。従って、従来の歯形形状は、歯の外径先端に荷重がかかる。そのため、歯元応力を下げたい場合、歯丈を下げることにより応力を低減することが可能であるが、これはドッグギヤ歯の外径を下げることになり、シンクロスリーブの噛合ガタを増加させることから変速機の操作性或いはギヤ抜け等の副作用を生じる問題がある。そこで、変速機の同期噛合機構におけるドッグギヤ歯において、その歯の高さ範囲内で歯先の左右両側に切欠凹部を形成し、作用する歯丈の高さを前記切欠凹部の高さ分だけ低くするものである(特許文献2)。同様に、ドッグギヤ歯のギヤ抜けを防止するために以下のような提案がなされている。即ち、変速歯車の一側面にドッグ歯を円周方向に間隔をあけて備えた変速機のドッグクラッチ付ギヤにおいて、前記ドッグクラッチ付ギヤを鍛造、鋳造もしくは焼結により一体成形し、前記各ドッグ歯を、それらの背面側にスリットを設けて前記変速歯車から分離したことを特徴とする変速機のドッグクラッチ付ギヤである(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004―60707号公報
【特許文献2】特開平10−205550号公報
【特許文献3】特開平08―312675号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上の通りであって、特許文献に代表されるように、従来のドッグギヤには次のような問題点がある。
【0007】
スリーブ歯がクラッチ歯列からギヤ抜けするのを防止するため、通常クラッチ歯の左右歯面に逆テーパが施されているが、その傾斜角度Xが3〜4度と小さい場合スリーブ歯Sとクラッチ歯Cと間に間隙が形成されるのでギヤ抜けが起こる。クラッチ歯の逆テーパの傾斜角度Yを6〜7度と大きくすると、さらに間隙が拡大されてギヤ抜けが起こり易い。或いは、傾斜角度が小さくても大きくても、アクセルを緩めた瞬間にクラッチ歯Sの減速側の噛合い面圧が減少するためにギヤ抜けが生じる。
【0008】
そこで、本出願発明は以上のような課題に着目してなされたもので、ドッグクラッチ歯の左右の歯面を非対称に形成する。詳しくは、ドッグクラッチ歯の左右歯面の逆テーパ角度を変えることによって、嵌入したスリーブ歯と左右ドッグクラッチ歯との間の間隙を減少させ、クラッチ歯列からスリーブ歯がギヤ抜けするのを防ぐようにした変速機用歯車を提供することを目的とする。このようなドッグクラッチ歯の左右歯面の逆テーパ角度を変える他に、左右歯面の形状を非対称にすることによってギヤ抜けを防止する変速機用歯車を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
近年では、鍛造技術の進歩によって様々な形状の歯車を鍛造によって成形することが可能となってきた。そこで、本出願発明者等は、ドッグクラッチ歯の左右の歯面を、特に鍛造によって非対称に形成することに着目し、歯車を試作したところギヤ抜けの防止に優れるという知見を得た。本出願発明の変速機用歯車はかかる知見を基に具現化したもので、ドッグクラッチ歯の左右歯面を非対称に形成し、一方の歯面のテーパ角度を他方のそれより大きくすることを特徴とする変速機用歯車である。
【発明の効果】
【0010】
ドッグクラッチ歯の左右歯面の逆テーパ角度を変えることによって、嵌入したスリーブ歯と左右ドッグクラッチ歯との間の間隙を減少させ、クラッチ歯列からスリーブ歯がギヤ抜けするのを防ぐことができる。或いは、ドッグクラッチ歯の減速側歯面の逆テーパ角度を大きくすることによってドッグクラッチ歯の減速側歯面とスリーブ歯との噛合い接触面圧を増大させ、クラッチ歯列からスリーブ歯がギヤ抜けすることを防止する。この他、ドッグクラッチ歯における左右歯面の形状を非対称にすることによってもギヤ抜けを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本出願発明の実施例1を示すもので、変速機用歯車の製造過程を示す工程図である。
【図2】同上、ドッグクラッチ歯の製造に係る好ましい実施形態を示す説明図である。
【図3】同上、外周にヘリカル歯と内側にドッグクラッチ歯を有する変速機用歯車の一例を示す斜視図である。
【図4】同上、逆テーパ付きドッグクラッチ歯の詳細図である。
【図5】同上、逆テーパ付きドッグクラッチ歯の作用説明図である。
【図6】実施例2の逆テーパ付きドッグクラッチ歯の作用説明図である。
【図7】実施例3のドッグクラッチ歯の断面図である。
【図8】従来例による逆テーパ付きドッグクラッチ歯の作用説明図である。
【図9】同上、逆テーパ付きドッグクラッチ歯の作用説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本出願発明の実施の形態を、添付図面に例示した本出願発明の実施例に基づいて以下に具体的に説明する。
【実施例1】
【0013】
本実施例について、図1〜図5を参照しながら説明する。図1は、本実施例における変速機用歯車の製造過程を示す工程図である。図2は、ドッグクラッチ歯の製造に係る好ましい実施形態を示す説明図である。図3は、外周にヘリカル歯と内側にドッグクラッチ歯を有する変速機用歯車の一例を示す斜視図である。図4は、逆テーパ付きドッグクラッチ歯の詳細図である。図5は、逆テーパ付きドッグクラッチ歯の作用説明図である。
【0014】
本出願人は、内側のドッグクラッチ歯の歯根元が軸方向に対して外周のヘリカル歯の歯端面より沈んだ複合の歯車ブロック(以下沈みヘリカルモノブロック)を既に開発している。本実施例の変速機用歯車の製造プロセスを、この沈みヘリカルモノブロックを例にして図1の工程図に基づき説明する。先ず、工程(1)に示すように、変速機用歯車に適した円柱素材を所定の軸長に例えばビレットシャーによって切断した素材W1を得る。この場合、素材の材質として変速機用歯車に適した鋼材、例えば、SC鋼、SCR鋼、SCM鋼、SNC鋼、SNCM鋼等を使用することができる。次に、工程(2)に示すように、素材W1を例えば1150℃に加熱して熱間鍛造を施すことによって下側に出っ張った凸部W21を有する円盤状の素材W2を得る。次に、工程(3)に示すように、素材W2上段の大径部D1の部位に熱間鍛造を施して軸方向に対して捩じれた荒ヘリカル歯10が荒形成され、同時に下段の小径部D2の部位にコーン50を形成するとともに外周の荒ヘリカル歯10と内周のコーン50との間に同心円上に荒沈み溝40が形成される。その他、コーン50の内周に断面円形に凹んだ内径部W31が形成され、外歯の荒ヘリカル歯10の形成によって上面外周に円板状にはみ出し鍔状のバリW32を有する素材W3が得られる。ここで、外歯はヘリカル歯の他にスパー歯でもよく、以降の説明でも同様である。次に、工程(4)に示すように、同じく熱間鍛造によってコーン50の外周に凹んだ沈み溝4を仕上げ形成し、同時にこの底面に歯根元が立設する荒ドッグクラッチ歯20がストレート状に形成された素材W4を得る。次に、工程(5)に示すように、素材W4の上面のバリW32を旋削し除去するとともに、内径部W31の中バリを打ち抜いて荒軸孔30が貫通した素材W5を得る。次に工程(6)において、素材W5に焼きならしの熱処理、ショットブラスト処理及び潤滑剤を塗布するボンデライト処理を施して素材W6を得る。次いで工程(7)において、外周の荒ヘリカル歯10は冷間しごき成形によって歯面の傾斜がストレートに仕上げ形成される。一方、内周の荒ドッグクラッチ歯20はコイニング或いはサイジング処理を施すことによって歯面がストレートに形成され、かつ、歯先にチャンファが形成された素材W7を得る。次の工程(8)において、外側の荒ヘリカル歯に冷間しごき成形によって歯面にクラウニングが施され、かつ、歯端面の稜線部にR面取りが施されてヘリカル歯1が完成する。最後に工程(9)において、工程(7)でストレートに成形された荒ドッグクラッチ歯に、チャンファから歯根元に向かって細くなるように冷間しごき成形が施されて逆テーパ状のドッグクラッチ歯2が完成する。この時、ドッグクラッチ歯は左右歯面の傾斜角度が異なるように逆テーパ状に形成される。これらの逆テーパは、左右同時に形成され、その際、元のストレートの荒ドッグクラッチ歯からの逆テーパ角度が大きくなるにつれ、その分加工変形量が増えるので、金型の寿命が短かくなり、或いは歯形の精度が悪くなるので金型材質の改良などに注意を要する。以上の工程をまとめると、工程(2)、(3)、(4)及び(5)は熱間鍛造であり、工程(7)、(8)及び(9)は冷間しごき及び冷間コイニング成形による冷間鍛造である。なお、前述した工程(4)の歯形成の詳細については以下に説明する。
【0015】
図2では、素材W3から素材W4へ熱間鍛造により荒ドッグクラッチ歯20を成形する工程(4)を示す。右半分の図(a)、(b)、(c)に示すように、ダイQ2に荒ドッグクラッチ歯20を形成する歯型T2を備え、上パンチP1を下降させて素材W3が圧潰され、小径部D2に荒ドッグクラッチ歯20が成形され、左図(c)の素材W4を得る。荒ヘリカル歯10がストレ−トの場合はダイQ1の外へ抜き出すことができるが、捩じれたヘリカル10の歯の部分はダイQ1に対して相対的な回転を必要とするため真上へ抜き出すことができない。ここで、ダイQ1と内側のダイQ2の下方にエジェクタP5を出没可能に備え、この外周に上記のヘリカルの歯型T1とリードを同じくするヘリカルガイドT3を有する。本実施例では、ダイQ1の下方からエジェクタP5を回転させ、かつ、スクリュー運動をさせながら昇降するようにし、成形された荒ヘリカル歯10を強制的に回転させると効率良く取り出すことができる。この工程(4)において、荒コーン50の外周に対応する部分に、ドッグクラッチ歯形成用歯型T2を有したダイに対して相対的に押し込むといった熱間鍛造手段によって荒ドッグクラッチ歯20を形成することができるとともに、沈み溝4が同心円上に凹んで形成される。かつ、軸方向に平行な荒ドッグクラッチ歯20の歯根元24は沈み溝4の底面に形成され、荒ドッグクラッチ歯20の歯根元24は沈み溝4の底面に対して直立する。この荒ドッグクラッチ歯20を荒成形する過程で、沈み溝4の深さ及びこの溝の開き角度42の最適な組合せによって粗ヘリカル10における歯端面の欠肉を無くすことができる。この場合、沈み溝4の深さを前述した工程(3)における粗沈み溝40の深さより大きくし、かつ、沈み溝4の溝開き角度42を工程(3)における角度より小さくすることによって、熱間鍛造の際にファイバフローが荒ヘリカル歯10の歯端面まで流れ、歯端面の欠肉を無くすことができる。以上の通り、工程(3)における荒ヘリカル歯10の形成、及び工程(4)における荒ドッグクラッチ歯20を形成する過程で、金型において沈み溝の深さと溝の開き角度との最適なバランスを設定することによって、熱間鍛造の際のファイバフローの発生を改善し欠肉のない沈みヘリカルモノブロックの複合歯車を得ることができた。以上のようにして本工程(4)では、荒ドッグクラッチ歯20の左右歯面がストレートに成形される。あと、工程(9)において、荒ドッグクラッチ歯に冷間しごき成形が施されることよってチャンファから歯根元に向かって細くなる逆テーパ状のドッグクラッチ歯2が完成する。この時、ドッグクラッチ歯は左右歯面の傾斜角度が異なり、例えば、左側の傾斜角度は3〜4度であり、右側のそれは6〜7度或いはそれ以上に形成される。これらの歯面の逆テーパ角度に対応する左右の歯面の角度が異なる金型を使用し、冷間しごき成形を施すことによって、左右歯面の傾斜角度が異なるドッグクラッチ歯を形成する。
【0016】
工程(8)及び(9)において、最終仕上げ加工を施された変速機用歯車Wの詳細形状を図3に示す。図では変速機用歯車Wを斜視図として示し、外周のヘリカル歯1が軸方向に対して捩じれて形成され、この内周に軸方向に対して逆テーパの歯を有するドッグクラッチ歯2が形成される。これらの歯の間には窪んだ沈み溝4が同心円上に形成され、ドッグクラッチ歯2の歯根元24は沈み溝4の底面まで形成される。ドッグクラッチ歯2の内周側には円錐台状のコーン5が同軸上に突設され、この内周は上下に軸孔3が貫通する。ヘリカル歯1と同心円上に配設された内側のドッグクラッチ歯2は軸方向に対してヘリカル歯1の歯端面14より沈んで形成される。以上のように、外周のヘリカル歯1と沈み溝4と内側のドッグクラッチ歯2及びこの内周側のコーン5が夫々同軸上に熱間鍛造及び冷間鍛造によって一体成形されるとともに、コーン5はドッグクラッチ歯2のチャンファ23より上方に突設され、かつ、沈み溝4はヘリカル歯1とドッグクラッチ歯2との間にヘリカル歯1の歯端面より沈むように同心円上に設けられる。ドッグクラッチ歯2における歯車の各部位の名称を以下の通り定義する。ドッグクラッチ歯2は、歯筋方向に歯先面21、その左右に歯面22、22、先端が尖ったチャンファ23、沈み溝4の面上の歯根元24、フランジ8の外周面に位置する歯元底25及び歯底面26、歯厚27から構成される。
【0017】
本実施例によるドッグクラッチ歯は以上のようにして形成され、歯形状の詳細について図4を参照しながら説明する。ドッグクラッチ歯2は、正面歯筋方向に歯先面、その左右に歯面22、22、先端が尖ったチャンファ23、歯根元24から構成される。歯先面は三つの部位から構成され、中央の歯先面21‘及びその左右の歯先面21、21からなる。左右の歯面22、22は、チャンファ23から歯根元24にかけて歯厚27が順次減少するように逆テーパ状に傾斜して形成される。ここで、加速側である左歯面22の傾斜角度Xは、減速側である右歯面22の傾斜角度Yより小さい。例えば、加速側の傾斜角度Xを3〜4度とし、減速側の傾斜角度Yを6〜7度とする。場合によっては、左右の歯面が非対称に形成されるなら、加速側の左歯面の傾斜角度が0度であってもよい 。
【0018】
ドッグクラッチ歯の構成を以上の通りとし、以下に左右の逆テーパの傾斜角度を変えたドッグクラッチ歯の作用について述べる。下方のクラッチ歯Cに上方のスリーブ歯Sが噛合った状態を図5に示し、スリーブ歯Sはクラッチ歯Cの歯先端を結ぶ二点鎖線Aを越えて左右のドッグクラッチ歯2、2の間に嵌入した状態にある。ここで、相手側のスリーブ歯Sの左右の歯面も同様に、加速側の傾斜角度Xは3〜4度であり、減速側の傾斜角度Yは6〜7度である。そして、左右のドッグクラッチ歯2、2間の隙間を最小歯すきGと称し、スリーブ歯の出っ張った箇所の歯厚を最大歯厚Lとし、最小歯すきGの寸法は最大歯厚Lの寸法より大きく設定する。この場合、隣同士のドッグクラッチ歯2、2間とスリーブ歯Sとの左右間隙は夫々間隙G1、間隙G3であり、ただし間隙G1は間隙G3より小さく、左右の総間隙は間隙G1+間隙G3となる。ところで、従来の左右の逆テーパ角度Yが大きい場合は、左右歯溝の総間隙は間隙G2+間隙G2である。従って、本実施例の左右非対称のドッグクラッチ歯の総間隙は、従来の総間隙より減少化されギヤ抜けが生じ難くなる。即ち、クラッチ歯側又はスリーブ歯側の夫々左右両側歯面の逆テーパ角度を大きくするよりも、クラッチ歯側又はスリーブ歯側の夫々片側のみの逆テーパ角度を大きくすることによって総間隙を小さくすることができ、このことがギヤ抜け防止するのに効果があった。
【実施例2】
【0019】
本実施例2の実施例1との差異は、スリーブ歯の左右歯面の逆テーパ角度を同じにしたところにある。ドッグクラッチ歯の形状は実施例1で説明した図4と同じである。
【0020】
本実施例のドッグクラッチ歯における逆テーパ歯面の作用について、図6を参照しながら説明する。ドッグクラッチ歯における左歯面の傾斜角度Xは右歯面の傾斜角度Yより小さく、一方、スリーブ歯の左右の歯面の傾斜角度はドッグクラッチ歯における左歯面の傾斜角度と同じであり、夫々傾斜角度X、Xである。本図では左右のドッグクラッチ歯2、2の間にスリーブ歯Sが嵌入した後、アクセルを離して減速する瞬間を示し、スリーブ歯Sの左歯面が矢印Dの左方向にシフトして左ドッグクラッチ歯2の右歯面22に接触している。ドッグクラッチ歯2における、加速側である左歯面の傾斜角度Xは、例えば、傾斜角度Xは3〜4度であり、減速側である右歯面の傾斜角度Yは6〜7度である。本来、アクセルを緩めて駆動が抜ける減速時、或いはエンジンブレーキが掛かった時は、スリーブ歯Sとドッグクラッチ歯2との噛合い接触圧力は減少するのでギヤ抜けが起こり易くなる。そこで、ドッグクラッチ歯2とスリーブ歯Sとは位置Pにおいて線接触状態にして、位置Pにおける面圧力を高める。その結果、クラッチ歯とスリーブ歯との間の総間隙は減少していないが、スリーブ歯Sとドッグクラッチ歯2との間の接触抵抗が増大するので、スリーブ歯Sはドッグクラッチ歯2、2の間からギヤ抜けが生じ難くなる。一方、アクセルを踏んだ加速の状態では、スリーブ歯Sの右歯面が矢印Dの右方向にシフトして右ドッグクラッチ歯2の加速側の右左歯面22に接触する。この状態ではドッグクラッチ歯2の加速側は右歯面22の傾斜角度が例えば3度なので歯元寄りの歯厚が大きく、かつ、スリーブ歯Sの歯面の傾斜角度も同じく例えば3度であり、双方が面同士で接触するので面接触圧力が小さくなってドッグクラッチ歯2の強度に余裕を持たせることができる。
【実施例3】
【0021】
本実施例3の実施例1又は2との差異は、減速側の歯面に凹みを設けたところにある。なお、スリーブ歯の左右歯面の逆テーパ角度は夫々傾斜角度X、Xである。
【0022】
本実施例3のドッグクラッチ歯の断面形状を図7に示し、本図7を参照しながら説明する。ドッグクラッチ歯2は、左右に歯面22、22、先端が尖ったチャンファ23、歯根元24から構成される。左歯面22は傾斜角度が0に形成され、一方、右歯面22歯面も傾斜角度が0に形成され、この面に窪んだ凹み221を設け、この歯面が減速側である。本実施例においても実施例1と同様に、ドッグクラッチ歯2、2の間にスリーブ歯Sが嵌入した時、総間隙は減少するのでギヤ抜けが生じ難い。一方、接触圧の点からは、ドッグクラッチ歯の減速側では、凹み221の分だけ接触面が減るので面接触圧力が高くなる。即ち、スリーブ歯Sとドッグクラッチ歯2との間の接触抵抗が大きくなるので、スリーブ歯Sは左右のドッグクラッチ歯2、2の間からギヤ抜けし難くなる。
【符号の説明】
【0023】
A 二点鎖線
B 実線
G 最小歯すき
G1、G2、G3 間隙
C クラッチ歯
P 位置
S スリーブ歯
L 最大歯厚
X、Y 傾斜角度
W 変速機用歯車
W1、W2、W3、W4、W5、W6、W7、W8 素材
W21 凸部、W31 内径部、W32 端面バリ、W33 中バリ
1 ヘリカル歯、10 荒ヘリカル歯
2 ドッグクラッチ歯、20 荒ドッグクラッチ歯
21、21‘ 歯先面
22 歯面、221 凹み
23 チャンファ、24 歯根元、25 歯元底
26 歯底面
3、3‘ 軸孔、30 荒軸孔
4 沈み溝、40 荒沈み溝
5、5‘ コーン、50 荒コーン
62 欠け溝、63 窓溝
8 フランジ
【技術分野】
【0001】
この発明は、主として自動車変速機用の歯車に関し、ドッグクラッチ歯の左右の歯面を非対称に形成した変速機用歯車に関する。詳しくは、ドッグクラッチ歯先端のチャンファ部から歯根元にかけて歯厚が順次減少するように左右の歯面に逆テーパを施し、かつ、左右の逆テーパ傾斜角度を変えることによって、嵌入する相手側のスリーブ歯がクラッチ歯列からギヤ抜けを起こすことのないようにした変速機用歯車に関するものである。
【背景技術】
【0002】
スリーブ歯がクラッチ歯列からギヤ抜けしないように、通常ドッグクラッチ歯の左右歯面に同じ傾斜角度の逆テーパを施す。この逆テーパ角度の設定について図8を参照しながら説明する。同図(a)、(b)の上段にスリーブ歯S、下段にクラッチ歯Cを示し、そして、クラッチ歯Cにおけるドッグクラッチ歯2、2の先端を結ぶ仮想線を二点鎖線Aで、歯元を結ぶ線を実線Bで示す。ここで、ドッグクラッチ歯2における左右歯面22、22の逆テーパの傾斜角度は、夫々傾斜角度X、Xであり、一方、スリーブ歯Sにおける左右歯面の逆テーパの傾斜角度も同様に夫々傾斜角度X、Xである。同図(a)では、下段のドッグクラッチ歯2及びスリーブ歯Sにおける左右歯面の逆テーパ角度Xは小さく、通常3〜4度に設定されている。同図(b)では、下段のドッグクラッチ歯2及びスリーブ歯Sにおける左右歯面の逆テーパ角度Yは大きく、6〜7度に設定されている。同図(a)、(b)ともに、スリーブ歯Sの先端はクラッチ歯Cの歯先端を結ぶ二点鎖線Aより上方へ引っ込んだ位置にある。次に、クラッチ歯Cにスリーブ歯Sが嵌入した状態を図9に示し、スリーブ歯Sはクラッチ歯Cの歯先端を結ぶ二点鎖線Aを越えて、ドッグクラッチ歯2、2の間に位置する。同図(a)では左右の逆テーパ角度Xが小さい場合の噛合い状態を示し、同図(b)では左右の逆テーパ角度Yが大きい場合の噛合い状態を示す。ここで、左右のドッグクラッチ歯2、2間の隙間を最小歯すきGと称し、スリーブ歯の出っ張った箇所の歯厚を最大歯厚Lとし、最小歯すきGの寸法は最大歯厚Lの寸法より大きく設定され、同図(a)、(b)においてこれらの寸法値は夫々一定であることを前提とする。同図(a)の左右の逆テーパ角度Xが小さい場合、スリーブ歯Sとクラッチ歯Cとの間隙G1も小さいが、上段のスリーブ歯Sと下段のクラッチ歯Cの加工精度、或いは車の走行状況によっては、スリーブ歯Sがクラッチ歯Cの歯列からギヤ抜けする。そこで、ギヤ抜けを防止するために、同図(b)に示すように左右歯面の逆テーパ角度Yを拡大した。この場合、スリーブ歯Sとクラッチ歯Cとの間隙G2も大きくなり、クラッチ歯Cにスリーブ歯Sが嵌入した位置で、隣同士のドッグクラッチ歯2、2間の左右に夫々間隙G2、間隙G2が形成される。ギヤ抜けの防止を目的としてドッグクラッチ歯の左右歯面とも逆テーパ角度を大きくしたが、それに伴って総間隙も間隙G2+間隙G2のように増大し、ギヤ抜けが生じる結果となった。
【0003】
他に、ギヤ抜けを防止する手段として、スリーブ歯Sとクラッチ歯Cとの噛合い面圧を高める減少歯設定の考え方がある。この考えは、クラッチ歯Cのリング状歯列において180度対向部位における夫々数枚の歯厚を正規歯とし、一方、その他の部位における減速側の歯厚を減少させる。しかしながら、この歯車では、リング状歯列の歯厚が均等ではないので各歯形間の肉厚バランスが崩れ、鍛造成形の際に鍛造肉流が偏って歯列における各歯の歯溝精度が悪くなるという問題が残る。
【0004】
ところで、ギヤ抜けを防止するために、逆テーパを設けたドッグギヤの製造方法について以下のような特許の提案がなされている。即ち、金型の寿命を延ばすことができ、また部品の共通化が図れてコストダウンにつながる変速装置用ギヤの製造方法であって、その要旨は、外周にギヤ部を有し内周に嵌合孔が形成された1種類の外部材と、ドッグギヤを有するドッグ付きと、ドッグギヤの無いドッグなしの2種類の内部材を、別々に加工形成し、前記外部材の嵌合孔内に、前記2種類の内部材のうちの何れかを組み付け、溶接により一体化することである(特許文献1参照)。他に、次のような提案があり、ドッグギヤ歯の歯元応力は歯先にかかる荷重と歯丈によって決まる。従って、従来の歯形形状は、歯の外径先端に荷重がかかる。そのため、歯元応力を下げたい場合、歯丈を下げることにより応力を低減することが可能であるが、これはドッグギヤ歯の外径を下げることになり、シンクロスリーブの噛合ガタを増加させることから変速機の操作性或いはギヤ抜け等の副作用を生じる問題がある。そこで、変速機の同期噛合機構におけるドッグギヤ歯において、その歯の高さ範囲内で歯先の左右両側に切欠凹部を形成し、作用する歯丈の高さを前記切欠凹部の高さ分だけ低くするものである(特許文献2)。同様に、ドッグギヤ歯のギヤ抜けを防止するために以下のような提案がなされている。即ち、変速歯車の一側面にドッグ歯を円周方向に間隔をあけて備えた変速機のドッグクラッチ付ギヤにおいて、前記ドッグクラッチ付ギヤを鍛造、鋳造もしくは焼結により一体成形し、前記各ドッグ歯を、それらの背面側にスリットを設けて前記変速歯車から分離したことを特徴とする変速機のドッグクラッチ付ギヤである(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004―60707号公報
【特許文献2】特開平10−205550号公報
【特許文献3】特開平08―312675号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上の通りであって、特許文献に代表されるように、従来のドッグギヤには次のような問題点がある。
【0007】
スリーブ歯がクラッチ歯列からギヤ抜けするのを防止するため、通常クラッチ歯の左右歯面に逆テーパが施されているが、その傾斜角度Xが3〜4度と小さい場合スリーブ歯Sとクラッチ歯Cと間に間隙が形成されるのでギヤ抜けが起こる。クラッチ歯の逆テーパの傾斜角度Yを6〜7度と大きくすると、さらに間隙が拡大されてギヤ抜けが起こり易い。或いは、傾斜角度が小さくても大きくても、アクセルを緩めた瞬間にクラッチ歯Sの減速側の噛合い面圧が減少するためにギヤ抜けが生じる。
【0008】
そこで、本出願発明は以上のような課題に着目してなされたもので、ドッグクラッチ歯の左右の歯面を非対称に形成する。詳しくは、ドッグクラッチ歯の左右歯面の逆テーパ角度を変えることによって、嵌入したスリーブ歯と左右ドッグクラッチ歯との間の間隙を減少させ、クラッチ歯列からスリーブ歯がギヤ抜けするのを防ぐようにした変速機用歯車を提供することを目的とする。このようなドッグクラッチ歯の左右歯面の逆テーパ角度を変える他に、左右歯面の形状を非対称にすることによってギヤ抜けを防止する変速機用歯車を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
近年では、鍛造技術の進歩によって様々な形状の歯車を鍛造によって成形することが可能となってきた。そこで、本出願発明者等は、ドッグクラッチ歯の左右の歯面を、特に鍛造によって非対称に形成することに着目し、歯車を試作したところギヤ抜けの防止に優れるという知見を得た。本出願発明の変速機用歯車はかかる知見を基に具現化したもので、ドッグクラッチ歯の左右歯面を非対称に形成し、一方の歯面のテーパ角度を他方のそれより大きくすることを特徴とする変速機用歯車である。
【発明の効果】
【0010】
ドッグクラッチ歯の左右歯面の逆テーパ角度を変えることによって、嵌入したスリーブ歯と左右ドッグクラッチ歯との間の間隙を減少させ、クラッチ歯列からスリーブ歯がギヤ抜けするのを防ぐことができる。或いは、ドッグクラッチ歯の減速側歯面の逆テーパ角度を大きくすることによってドッグクラッチ歯の減速側歯面とスリーブ歯との噛合い接触面圧を増大させ、クラッチ歯列からスリーブ歯がギヤ抜けすることを防止する。この他、ドッグクラッチ歯における左右歯面の形状を非対称にすることによってもギヤ抜けを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本出願発明の実施例1を示すもので、変速機用歯車の製造過程を示す工程図である。
【図2】同上、ドッグクラッチ歯の製造に係る好ましい実施形態を示す説明図である。
【図3】同上、外周にヘリカル歯と内側にドッグクラッチ歯を有する変速機用歯車の一例を示す斜視図である。
【図4】同上、逆テーパ付きドッグクラッチ歯の詳細図である。
【図5】同上、逆テーパ付きドッグクラッチ歯の作用説明図である。
【図6】実施例2の逆テーパ付きドッグクラッチ歯の作用説明図である。
【図7】実施例3のドッグクラッチ歯の断面図である。
【図8】従来例による逆テーパ付きドッグクラッチ歯の作用説明図である。
【図9】同上、逆テーパ付きドッグクラッチ歯の作用説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本出願発明の実施の形態を、添付図面に例示した本出願発明の実施例に基づいて以下に具体的に説明する。
【実施例1】
【0013】
本実施例について、図1〜図5を参照しながら説明する。図1は、本実施例における変速機用歯車の製造過程を示す工程図である。図2は、ドッグクラッチ歯の製造に係る好ましい実施形態を示す説明図である。図3は、外周にヘリカル歯と内側にドッグクラッチ歯を有する変速機用歯車の一例を示す斜視図である。図4は、逆テーパ付きドッグクラッチ歯の詳細図である。図5は、逆テーパ付きドッグクラッチ歯の作用説明図である。
【0014】
本出願人は、内側のドッグクラッチ歯の歯根元が軸方向に対して外周のヘリカル歯の歯端面より沈んだ複合の歯車ブロック(以下沈みヘリカルモノブロック)を既に開発している。本実施例の変速機用歯車の製造プロセスを、この沈みヘリカルモノブロックを例にして図1の工程図に基づき説明する。先ず、工程(1)に示すように、変速機用歯車に適した円柱素材を所定の軸長に例えばビレットシャーによって切断した素材W1を得る。この場合、素材の材質として変速機用歯車に適した鋼材、例えば、SC鋼、SCR鋼、SCM鋼、SNC鋼、SNCM鋼等を使用することができる。次に、工程(2)に示すように、素材W1を例えば1150℃に加熱して熱間鍛造を施すことによって下側に出っ張った凸部W21を有する円盤状の素材W2を得る。次に、工程(3)に示すように、素材W2上段の大径部D1の部位に熱間鍛造を施して軸方向に対して捩じれた荒ヘリカル歯10が荒形成され、同時に下段の小径部D2の部位にコーン50を形成するとともに外周の荒ヘリカル歯10と内周のコーン50との間に同心円上に荒沈み溝40が形成される。その他、コーン50の内周に断面円形に凹んだ内径部W31が形成され、外歯の荒ヘリカル歯10の形成によって上面外周に円板状にはみ出し鍔状のバリW32を有する素材W3が得られる。ここで、外歯はヘリカル歯の他にスパー歯でもよく、以降の説明でも同様である。次に、工程(4)に示すように、同じく熱間鍛造によってコーン50の外周に凹んだ沈み溝4を仕上げ形成し、同時にこの底面に歯根元が立設する荒ドッグクラッチ歯20がストレート状に形成された素材W4を得る。次に、工程(5)に示すように、素材W4の上面のバリW32を旋削し除去するとともに、内径部W31の中バリを打ち抜いて荒軸孔30が貫通した素材W5を得る。次に工程(6)において、素材W5に焼きならしの熱処理、ショットブラスト処理及び潤滑剤を塗布するボンデライト処理を施して素材W6を得る。次いで工程(7)において、外周の荒ヘリカル歯10は冷間しごき成形によって歯面の傾斜がストレートに仕上げ形成される。一方、内周の荒ドッグクラッチ歯20はコイニング或いはサイジング処理を施すことによって歯面がストレートに形成され、かつ、歯先にチャンファが形成された素材W7を得る。次の工程(8)において、外側の荒ヘリカル歯に冷間しごき成形によって歯面にクラウニングが施され、かつ、歯端面の稜線部にR面取りが施されてヘリカル歯1が完成する。最後に工程(9)において、工程(7)でストレートに成形された荒ドッグクラッチ歯に、チャンファから歯根元に向かって細くなるように冷間しごき成形が施されて逆テーパ状のドッグクラッチ歯2が完成する。この時、ドッグクラッチ歯は左右歯面の傾斜角度が異なるように逆テーパ状に形成される。これらの逆テーパは、左右同時に形成され、その際、元のストレートの荒ドッグクラッチ歯からの逆テーパ角度が大きくなるにつれ、その分加工変形量が増えるので、金型の寿命が短かくなり、或いは歯形の精度が悪くなるので金型材質の改良などに注意を要する。以上の工程をまとめると、工程(2)、(3)、(4)及び(5)は熱間鍛造であり、工程(7)、(8)及び(9)は冷間しごき及び冷間コイニング成形による冷間鍛造である。なお、前述した工程(4)の歯形成の詳細については以下に説明する。
【0015】
図2では、素材W3から素材W4へ熱間鍛造により荒ドッグクラッチ歯20を成形する工程(4)を示す。右半分の図(a)、(b)、(c)に示すように、ダイQ2に荒ドッグクラッチ歯20を形成する歯型T2を備え、上パンチP1を下降させて素材W3が圧潰され、小径部D2に荒ドッグクラッチ歯20が成形され、左図(c)の素材W4を得る。荒ヘリカル歯10がストレ−トの場合はダイQ1の外へ抜き出すことができるが、捩じれたヘリカル10の歯の部分はダイQ1に対して相対的な回転を必要とするため真上へ抜き出すことができない。ここで、ダイQ1と内側のダイQ2の下方にエジェクタP5を出没可能に備え、この外周に上記のヘリカルの歯型T1とリードを同じくするヘリカルガイドT3を有する。本実施例では、ダイQ1の下方からエジェクタP5を回転させ、かつ、スクリュー運動をさせながら昇降するようにし、成形された荒ヘリカル歯10を強制的に回転させると効率良く取り出すことができる。この工程(4)において、荒コーン50の外周に対応する部分に、ドッグクラッチ歯形成用歯型T2を有したダイに対して相対的に押し込むといった熱間鍛造手段によって荒ドッグクラッチ歯20を形成することができるとともに、沈み溝4が同心円上に凹んで形成される。かつ、軸方向に平行な荒ドッグクラッチ歯20の歯根元24は沈み溝4の底面に形成され、荒ドッグクラッチ歯20の歯根元24は沈み溝4の底面に対して直立する。この荒ドッグクラッチ歯20を荒成形する過程で、沈み溝4の深さ及びこの溝の開き角度42の最適な組合せによって粗ヘリカル10における歯端面の欠肉を無くすことができる。この場合、沈み溝4の深さを前述した工程(3)における粗沈み溝40の深さより大きくし、かつ、沈み溝4の溝開き角度42を工程(3)における角度より小さくすることによって、熱間鍛造の際にファイバフローが荒ヘリカル歯10の歯端面まで流れ、歯端面の欠肉を無くすことができる。以上の通り、工程(3)における荒ヘリカル歯10の形成、及び工程(4)における荒ドッグクラッチ歯20を形成する過程で、金型において沈み溝の深さと溝の開き角度との最適なバランスを設定することによって、熱間鍛造の際のファイバフローの発生を改善し欠肉のない沈みヘリカルモノブロックの複合歯車を得ることができた。以上のようにして本工程(4)では、荒ドッグクラッチ歯20の左右歯面がストレートに成形される。あと、工程(9)において、荒ドッグクラッチ歯に冷間しごき成形が施されることよってチャンファから歯根元に向かって細くなる逆テーパ状のドッグクラッチ歯2が完成する。この時、ドッグクラッチ歯は左右歯面の傾斜角度が異なり、例えば、左側の傾斜角度は3〜4度であり、右側のそれは6〜7度或いはそれ以上に形成される。これらの歯面の逆テーパ角度に対応する左右の歯面の角度が異なる金型を使用し、冷間しごき成形を施すことによって、左右歯面の傾斜角度が異なるドッグクラッチ歯を形成する。
【0016】
工程(8)及び(9)において、最終仕上げ加工を施された変速機用歯車Wの詳細形状を図3に示す。図では変速機用歯車Wを斜視図として示し、外周のヘリカル歯1が軸方向に対して捩じれて形成され、この内周に軸方向に対して逆テーパの歯を有するドッグクラッチ歯2が形成される。これらの歯の間には窪んだ沈み溝4が同心円上に形成され、ドッグクラッチ歯2の歯根元24は沈み溝4の底面まで形成される。ドッグクラッチ歯2の内周側には円錐台状のコーン5が同軸上に突設され、この内周は上下に軸孔3が貫通する。ヘリカル歯1と同心円上に配設された内側のドッグクラッチ歯2は軸方向に対してヘリカル歯1の歯端面14より沈んで形成される。以上のように、外周のヘリカル歯1と沈み溝4と内側のドッグクラッチ歯2及びこの内周側のコーン5が夫々同軸上に熱間鍛造及び冷間鍛造によって一体成形されるとともに、コーン5はドッグクラッチ歯2のチャンファ23より上方に突設され、かつ、沈み溝4はヘリカル歯1とドッグクラッチ歯2との間にヘリカル歯1の歯端面より沈むように同心円上に設けられる。ドッグクラッチ歯2における歯車の各部位の名称を以下の通り定義する。ドッグクラッチ歯2は、歯筋方向に歯先面21、その左右に歯面22、22、先端が尖ったチャンファ23、沈み溝4の面上の歯根元24、フランジ8の外周面に位置する歯元底25及び歯底面26、歯厚27から構成される。
【0017】
本実施例によるドッグクラッチ歯は以上のようにして形成され、歯形状の詳細について図4を参照しながら説明する。ドッグクラッチ歯2は、正面歯筋方向に歯先面、その左右に歯面22、22、先端が尖ったチャンファ23、歯根元24から構成される。歯先面は三つの部位から構成され、中央の歯先面21‘及びその左右の歯先面21、21からなる。左右の歯面22、22は、チャンファ23から歯根元24にかけて歯厚27が順次減少するように逆テーパ状に傾斜して形成される。ここで、加速側である左歯面22の傾斜角度Xは、減速側である右歯面22の傾斜角度Yより小さい。例えば、加速側の傾斜角度Xを3〜4度とし、減速側の傾斜角度Yを6〜7度とする。場合によっては、左右の歯面が非対称に形成されるなら、加速側の左歯面の傾斜角度が0度であってもよい 。
【0018】
ドッグクラッチ歯の構成を以上の通りとし、以下に左右の逆テーパの傾斜角度を変えたドッグクラッチ歯の作用について述べる。下方のクラッチ歯Cに上方のスリーブ歯Sが噛合った状態を図5に示し、スリーブ歯Sはクラッチ歯Cの歯先端を結ぶ二点鎖線Aを越えて左右のドッグクラッチ歯2、2の間に嵌入した状態にある。ここで、相手側のスリーブ歯Sの左右の歯面も同様に、加速側の傾斜角度Xは3〜4度であり、減速側の傾斜角度Yは6〜7度である。そして、左右のドッグクラッチ歯2、2間の隙間を最小歯すきGと称し、スリーブ歯の出っ張った箇所の歯厚を最大歯厚Lとし、最小歯すきGの寸法は最大歯厚Lの寸法より大きく設定する。この場合、隣同士のドッグクラッチ歯2、2間とスリーブ歯Sとの左右間隙は夫々間隙G1、間隙G3であり、ただし間隙G1は間隙G3より小さく、左右の総間隙は間隙G1+間隙G3となる。ところで、従来の左右の逆テーパ角度Yが大きい場合は、左右歯溝の総間隙は間隙G2+間隙G2である。従って、本実施例の左右非対称のドッグクラッチ歯の総間隙は、従来の総間隙より減少化されギヤ抜けが生じ難くなる。即ち、クラッチ歯側又はスリーブ歯側の夫々左右両側歯面の逆テーパ角度を大きくするよりも、クラッチ歯側又はスリーブ歯側の夫々片側のみの逆テーパ角度を大きくすることによって総間隙を小さくすることができ、このことがギヤ抜け防止するのに効果があった。
【実施例2】
【0019】
本実施例2の実施例1との差異は、スリーブ歯の左右歯面の逆テーパ角度を同じにしたところにある。ドッグクラッチ歯の形状は実施例1で説明した図4と同じである。
【0020】
本実施例のドッグクラッチ歯における逆テーパ歯面の作用について、図6を参照しながら説明する。ドッグクラッチ歯における左歯面の傾斜角度Xは右歯面の傾斜角度Yより小さく、一方、スリーブ歯の左右の歯面の傾斜角度はドッグクラッチ歯における左歯面の傾斜角度と同じであり、夫々傾斜角度X、Xである。本図では左右のドッグクラッチ歯2、2の間にスリーブ歯Sが嵌入した後、アクセルを離して減速する瞬間を示し、スリーブ歯Sの左歯面が矢印Dの左方向にシフトして左ドッグクラッチ歯2の右歯面22に接触している。ドッグクラッチ歯2における、加速側である左歯面の傾斜角度Xは、例えば、傾斜角度Xは3〜4度であり、減速側である右歯面の傾斜角度Yは6〜7度である。本来、アクセルを緩めて駆動が抜ける減速時、或いはエンジンブレーキが掛かった時は、スリーブ歯Sとドッグクラッチ歯2との噛合い接触圧力は減少するのでギヤ抜けが起こり易くなる。そこで、ドッグクラッチ歯2とスリーブ歯Sとは位置Pにおいて線接触状態にして、位置Pにおける面圧力を高める。その結果、クラッチ歯とスリーブ歯との間の総間隙は減少していないが、スリーブ歯Sとドッグクラッチ歯2との間の接触抵抗が増大するので、スリーブ歯Sはドッグクラッチ歯2、2の間からギヤ抜けが生じ難くなる。一方、アクセルを踏んだ加速の状態では、スリーブ歯Sの右歯面が矢印Dの右方向にシフトして右ドッグクラッチ歯2の加速側の右左歯面22に接触する。この状態ではドッグクラッチ歯2の加速側は右歯面22の傾斜角度が例えば3度なので歯元寄りの歯厚が大きく、かつ、スリーブ歯Sの歯面の傾斜角度も同じく例えば3度であり、双方が面同士で接触するので面接触圧力が小さくなってドッグクラッチ歯2の強度に余裕を持たせることができる。
【実施例3】
【0021】
本実施例3の実施例1又は2との差異は、減速側の歯面に凹みを設けたところにある。なお、スリーブ歯の左右歯面の逆テーパ角度は夫々傾斜角度X、Xである。
【0022】
本実施例3のドッグクラッチ歯の断面形状を図7に示し、本図7を参照しながら説明する。ドッグクラッチ歯2は、左右に歯面22、22、先端が尖ったチャンファ23、歯根元24から構成される。左歯面22は傾斜角度が0に形成され、一方、右歯面22歯面も傾斜角度が0に形成され、この面に窪んだ凹み221を設け、この歯面が減速側である。本実施例においても実施例1と同様に、ドッグクラッチ歯2、2の間にスリーブ歯Sが嵌入した時、総間隙は減少するのでギヤ抜けが生じ難い。一方、接触圧の点からは、ドッグクラッチ歯の減速側では、凹み221の分だけ接触面が減るので面接触圧力が高くなる。即ち、スリーブ歯Sとドッグクラッチ歯2との間の接触抵抗が大きくなるので、スリーブ歯Sは左右のドッグクラッチ歯2、2の間からギヤ抜けし難くなる。
【符号の説明】
【0023】
A 二点鎖線
B 実線
G 最小歯すき
G1、G2、G3 間隙
C クラッチ歯
P 位置
S スリーブ歯
L 最大歯厚
X、Y 傾斜角度
W 変速機用歯車
W1、W2、W3、W4、W5、W6、W7、W8 素材
W21 凸部、W31 内径部、W32 端面バリ、W33 中バリ
1 ヘリカル歯、10 荒ヘリカル歯
2 ドッグクラッチ歯、20 荒ドッグクラッチ歯
21、21‘ 歯先面
22 歯面、221 凹み
23 チャンファ、24 歯根元、25 歯元底
26 歯底面
3、3‘ 軸孔、30 荒軸孔
4 沈み溝、40 荒沈み溝
5、5‘ コーン、50 荒コーン
62 欠け溝、63 窓溝
8 フランジ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドッグクラッチ歯の左右歯面を非対称に形成し、
一方の歯面のテーパ角度を他方のそれより大きくすることを特徴とする変速機用歯車。
【請求項1】
ドッグクラッチ歯の左右歯面を非対称に形成し、
一方の歯面のテーパ角度を他方のそれより大きくすることを特徴とする変速機用歯車。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【公開番号】特開2012−127434(P2012−127434A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−280218(P2010−280218)
【出願日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【出願人】(390035770)大岡技研株式会社 (17)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【出願人】(390035770)大岡技研株式会社 (17)
【Fターム(参考)】
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