説明

差動伝送線路および多層配線基板

【課題】 外部からのノイズの影響を低減し、高周波信号を効率よく伝送することができる差動伝送線路および該差動伝送線路を備えた多層配線基板を提供することにある。
【解決手段】 絶縁層を挟んで上下に対向する第1配線導体2および第2配線導体3を有する一対の配線導体からなる差動伝送線路において、一方の第1配線導体2aの端部と他方の第1配線導体2bの端部とが絶縁層を貫通して設けられた第1貫通導体4を介して電気的に接続され、一方の第2配線導体3aの端部と他方の第2配線導体3bの端部とが絶縁層を貫通して設けられた第2貫通導体5を介して電気的に接続されており、第1貫通導体4および第2貫通導体5は、逆向きに等しく傾いている。外部からのノイズの影響を低減し、高周波信号を効率よく伝送することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁層を挟んで対向する一対の配線導体により構成され、この一対の配線導体を通して電気信号を伝送する差動伝送線路に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高速で作動するIC、LSI等の半導体素子を実装封止したパッケージ実装部品や表面実装対応の電子部品の内部配線構造においては、高速の高周波信号を正確かつ効率よく伝播させることを目的として差動伝送線路構造が採用される。この差動伝送線路構造は、2本の信号線を用いて1つの信号を伝送する構造である。
【0003】
このような差動伝送線路構造には、複数の絶縁層を積層してなる絶縁基体の内部において、絶縁層を挟んで上下に対向するように一対の配線導体を配置した差動伝送線路構造があった。
【0004】
従来、このような差動伝送線路構造において、上層および下層の配線導体を分割し、貫通導体を介して上下で入れ替わる(交差する)ように電気的に接続するという構造が開示されていた(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−95134号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の差動伝送線路は、絶縁層の表面では、一対の信号用配線導体を伝送する信号は同じ向きであり差動伝送線路構造となっているものの、垂直に形成された一対の貫通導体では、それぞれの貫通導体を伝送する信号が逆向きとなり、第1貫通導体と第2貫通導体に外部からのノイズが入った場合には受信側で信号を合成した際にノイズがキャンセルされずに2倍に増幅されるため、ノイズの影響が大きくなり高周波信号を効率よく伝送することが難しいという問題があった。
【0007】
本発明は上記問題点に鑑み完成されたものであり、その目的は、一対の貫通導体において、外部からのノイズの影響を低減し、高周波信号を効率よく伝送することができる差動伝送線路および該差動伝送線路を備えた多層配線基板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の差動伝送線路は、絶縁層を挟んで上下に対向する第1配線導体および第2配線導体を有する一対の配線導体からなる差動伝送線路において、前記第1配線導体は一方の第1配線導体と他方の第1配線導体とを有し、前記第2配線導体は一方の第2配線導体と他方の第2配線導体とを有しており、前記一方の第1配線導体と前記一方の第2配線導体とが前記絶縁層を挟んで上下に対向するとともに、前記他方の第1配線導体と前記他方の第2配線導体とが前記絶縁層を挟んで上下に対向しており、前記一方の第1配線導体の端部と前記他方の第1配線導体の端部とが前記絶縁層を貫通して設けられた第1貫通導体を介して電気的に接続され、前記一方の第2配線導体の端部と前記他方の第2配線導体の端部とが前記絶縁層を貫通して設けられた第2貫通導体を介して電気的に接続されており、前記第1貫通導体および前記第2貫通導体は、逆向きに等しく傾いていることを特徴とするものである。
【0009】
また、本発明の多層配線基板は、複数の絶縁層が積層されてなる絶縁基体の内部に、上記構成の本発明の差動伝送線路を備えていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の差動伝送線路によれば、一方の第1配線導体の端部と他方の第1配線導体の端部とが絶縁層を貫通して設けられた第1貫通導体を介して電気的に接続され、一方の第2配線導体の端部と他方の第2配線導体の端部とが絶縁層を貫通して設けられた第2貫通導体を介して電気的に接続されており、第1貫通導体および第2貫通導体は、逆向きに等しく傾いていることから、第1貫通導体および第2貫通導体を伝送する信号が同じ方向の成分をもつようになるので、第1貫通導体および第2貫通導体に外部からノイズが入った場合にも受信側で信号を合成した際にノイズが部分的にキャンセルされるために、垂直な貫通導体を形成した場合に比べて外部からのノイズの影響を低減し、高周波信号を効率よく伝送することが可能となる。
【0011】
また、本発明の多層配線基板によれば、複数の絶縁層が積層されてなる絶縁基体の内部に、上記構成の本発明の差動伝送線路を備えていることから、傾斜した第1貫通導体および第2貫通導体によって、第1貫通導体および第2貫通導体に外部からノイズが入った場合にも受信側で信号を合成した際にノイズが部分的にキャンセルされるので、外部からのノイズの影響を低減することができ、高周波信号を効率よく伝送することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の差動伝送線路および多層配線基板の実施の形態の一例を示す斜視図である。
【図2】(a)は、本発明の差動伝送線路および多層配線基板の実施の形態の他の例を示す平面図であり、(b)は、(a)のX−X線における断面図である。
【図3】(a)は、図2(a)のA部の要部拡大平面透視図であり、(b)は、(a)のX−X線における断面図であり、(c)は、(a)のY−Y線における断面図である。
【図4】(a)は、本発明の差動伝送線路の実施の形態の他の例を示す要部拡大平面図であり、(b)は、(a)のX−X線における断面図である。
【図5】(a)は、本発明の差動伝送線路の実施の形態の他の例を示す要部拡大平面図であり、(b),(c)は、(a)のA方向からみた側面透視図である。
【図6】(a)は、本発明の差動伝送線路および多層配線基板の実施の形態の他の例を示す平面図であり、(b)は、(a)のX−X線における断面図である。
【図7】本発明の差動伝送線路および多層配線基板の実施の形態の他の例を示す分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の差動伝送線路および多層配線基板について以下に詳細に説明する。
【0014】
図1および図2(a),(b)においては、絶縁層が3層ある例を示しており、1aは第1絶縁層,1bは第2絶縁層,1cは第3絶縁層であり、これらを積層して絶縁基体1が形成される。2は第1配線導体,3は第2配線導体で、これら第1配線導体2および第2配線導体3は一対の配線導体で、差動伝送線路構造をなす。第1配線導体2のうち、2aは一方の第1配線導体,2bは他方の第1配線導体である。第2配線導体3のうち、3aは一方の第2配線導体,3bは他方の第2配線導体である。一方の第1配線導体2aと一方の第2配線導体3aとは絶縁層を挟んで上下に対向して配置され、他方の第1配線導体2bと他方の第2配線導体3bとは絶縁層を挟んで上下に対向して配置されている。これらの配線導体の電気的接続について以下に説明する。
【0015】
一方の第1配線導体2aの端部と他方の第1配線導体2bの端部とは、絶縁層を貫通して設けられた第1貫通導体4を介して電気的に接続されており、また一方の第2配線導体3aの端部と他方の第2配線導体3bの端部とは、絶縁層を貫通して設けられた第2貫通導体5を介して電気的に接続されている。このように、絶縁層を挟んで上下に形成された第1配線導体2および第2配線導体3が、第1貫通導体4および第2貫通導体5を介して上下で入れ替わり、交差するように接続されている。
【0016】
本発明の差動伝送線路は、図1および図2(a),(b)に示す例のように、絶縁層を挟んで上下に対向する第1配線導体2および第2配線導体3を有する一対の配線導体からなる差動伝送線路において、第1配線導体2は一方の第1配線導体2aと他方の第1配線導体2bとを有し、第2配線導体3は一方の第2配線導体3aと他方の第2配線導体3bとを有しており、一方の第1配線導体2aと一方の第2配線導体3aとが絶縁層を挟んで上下に対向するとともに、他方の第1配線導体2bと他方の第2配線導体3bとが絶縁層を挟んで上下に対向しており、一方の第1配線導体2aの端部と他方の第1配線導体2bの端部とが絶縁層を貫通して設けられた第1貫通導体4を介して電気的に接続され、一方の第2配線導体3aの端部と他方の第2配線導体3bの端部とが絶縁層を貫通して設けられた第2貫通導体5を介して電気的に接続されており、第1貫通導体4および第2貫通導体5が、逆向きに等しく傾いている。この傾いている方向は、一方の配線導体から他方の配線導体へ、または他方の配線導体から一方の配線導体へ向かう方向のことである。すなわち、第1配線導体2および第2配線導体3を含む面に沿った方向であり、より具体的には、図2(a)に示す例の上下ではなく左右方向である。
【0017】
本発明の差動伝送線路は、第1貫通導体4および第2貫通導体5が逆向きに傾いていることが重要である。このような構成により、第1貫通導体4および第2貫通導体5を伝送する信号が同じ方向の成分をもつようになるので、第1貫通導体4および第2貫通導体5に外部からノイズが入った場合にも受信側で信号を合成した際にノイズが部分的にキャンセルされるために、垂直な貫通導体を形成した場合に比べて外部からのノイズの影響を低減し、高周波信号を効率よく伝送することが可能となる。
【0018】
また、本発明の差動伝送線路は、第1貫通導体4および第2貫通導体5が等しく傾いていることが重要である。この等しく傾くとは、第1貫通導体4および第2貫通導体5が第3絶縁層1cの上面(第2絶縁層1bの下面)に対する角度が等しいということである。このような構成により、第2絶縁層1bにおける第1貫通導体4および第2貫通導体5の長さが同じ長さとなり、端子7間における第1配線導体2と第2配線導体3との線路長がほぼ同じものとなるので、信号が2本の配線導体でずれてしまうことが抑制され、高周波信号を効率よく伝送することが可能となる。
【0019】
図4(a),(b)に示す例は、第1貫通導体4および第2貫通導体5の第3絶縁層1cの上面(第2絶縁層1bの下面)に対するそれぞれの傾き角度θが同じ角度である他の例である。図4(a),(b)に示す例が、図3(a),(b),(c)と異なる点は、図3(a),(b),(c)が第1貫通導体4および第2貫通導体5の1/2の高さで交わっているのに対して、第1貫通導体4および第2貫通導体5が1/2の高さで交わっていない例である。
【0020】
本発明の差動伝送線路は、上記構成において、図3(a)、(b)、(c)に要部拡大図で示す例のように、第1貫通導体4および第2貫通導体5は、第1貫通導体4および第2貫通導体5の1/2の高さで交わっていることが好ましい。この場合、一方の第1配線導体2aの端部と一方の第2配線導体3aの端部とが、上下で重なりずれることがないので、上下で一対の配線導体をなす、より良い差動伝送線路構造となるので好ましい。すな
わち、一方の第1配線導体2aと他方の第2配線導体3bとの間の差動伝送線路構造とならない部分が小さくなることにより、外部からのノイズの影響をより低減し、高周波信号をより効率よく伝送することが可能となる。
【0021】
また、第1貫通導体4および第2貫通導体5の1/2の高さで交わるとは、第1貫通導体4および第2貫通導体5が、互いに接触して交差しているものではなく、第1配線導体2および第2配線導体3を含む側面から透視したときに第1貫通導体4と第2貫通導体5とが交差しているということである。
【0022】
図5(a),(b),(c)に示す例は、第1貫通導体4および第2貫通導体5の第3絶縁層1cの上面(第2絶縁層1bの下面)に対するそれぞれの傾き角度θが同じ角度で、第1配線導体2における一方の第1配線導体2aおよび他方の第1配線導体2bを上下で重なるように配置し、一方の第1配線導体2aの端部と他方の第1配線導体2bの端部とを第1貫通導体4で接続した例である。すなわち、図5(a),(b),(c)に示す例における第1貫通導体4および第2貫通導体5は、図3(b)や図4(b)に示す例における第1貫通導体4および第2貫通導体5とは逆向きに傾いている。図5(b)は、図5(a)のA方向からみた側面透視図で、一方の第1配線導体2aと他方の第1配線導体2bとの接続を示している。図5(c)は、同様に図5(a)のA方向からみた側面透視図で、一方の第2配線導体3aと他方の第2配線導体3bとの接続を示している。このような場合も、第1貫通導体4および第2貫通導体5を伝送する信号が同じ方向の成分をもつようになるので、外部からのノイズのキャンセルすることができ、端子7間における第1配線導体2と第2配線導体3との線路長をほぼ同じものとすることができる。
【0023】
また、第1貫通導体4および第2貫通導体5の、第3絶縁層1cの上面(第2絶縁層1bの下面)に対する傾き角度θは、30度以上45度未満が好ましい。この場合は、第1貫通導体4および第2貫通導体5を伝送する信号の同じ方向の成分が大きくなり、外部からノイズが入った場合に受信側で信号を合成した際にノイズをより多くキャンセルすることができるので、外部からのノイズの影響を低減し、高周波信号を効率よく伝送することが可能となる。また、一方の第1配線導体2aと他方の第2配線導体3bとの間の差動伝送線路構造とならない部分が小さくなり、外部からのノイズの影響を低減し、高周波信号を効率よく伝送することが可能となる。
【0024】
本発明の多層配線基板は、図1,図2,図6に示す例のように、複数の絶縁層が積層されてなる絶縁基体1(図1,図2,図6においては3層の絶縁層を積層している)の内部に、上記構成の本発明の差動伝送線路を備えている。このような構成により、傾斜した第1貫通導体4および第2貫通導体5によって、第1貫通導体4および第2貫通導体5に外部からノイズが入った場合にも受信側で信号を合成した際にノイズが部分的にキャンセルされるので、外部からのノイズの影響を低減することができ、高周波信号を効率よく伝送することが可能となる。
【0025】
さらに、多層配線基板は、図1,図2,図6,図7に示す例では、第1絶縁層1aの上面および第3絶縁層1cの下面に、差動伝送線路を上下に挟み込むように接地導体層6が形成されている。この場合、接地導体層6によって外部からのノイズの影響を低減することができるので、高周波信号をより効率よく伝送することが可能となる。接地導体層6は、差動伝送線路の間に複数の絶縁層を介して設けてもよいし、差動伝送線路の上方だけ、または下方だけに設けてもよい。
【0026】
図1〜図6に示す例は、3層の絶縁層を積層した例であり、これら3層の絶縁層は、図7に示す例のように、第3絶縁層1c,第2絶縁層1b,第1絶縁層1aが下から順次積層されている。図7に示す例は、本願発明の多層配線基板を上層から下層にかけて順次層
毎に示した分解斜視図であり、第1絶縁層1a,第2絶縁層1b,第3絶縁層1cにおける貫通導体の接続は破線で示している。絶縁層の中央部には上述した第1貫通導体4と第2貫通導体5が設けられている。そして絶縁層の外周部には、第1配線導体2および第2配線導体4に電気的に接続する貫通導体が設けられ、この貫通導体を介して、第1配線導体2および第2配線導体3が端子7に導出されて電気信号が伝送される。
【0027】
絶縁基体1は複数の絶縁層からなり、該絶縁層は、例えば酸化アルミニウム(アルミナ:Al)質焼結体,窒化アルミニウム(AlN)質焼結体,炭化珪素(SiC)質焼結体,ムライト質焼結体,ガラスセラミックス等のセラミックスからなり、50μm〜100μmの厚みに形成される。図1〜図3に示す例では、絶縁基体1が3層の絶縁層からな
る例を示している。この例では、第3絶縁層1c,第2絶縁層1b,第1絶縁層1aが下から順次積層され、最上層が第1絶縁層1aであり、中間層が第2絶縁層1bであり、最下層が第3絶縁層1cである。
【0028】
一対の配線導体を構成する第1配線導体2および第2配線導体3ならびに第1貫通導体4,第2貫通導体5は、絶縁層と同時焼成により形成される、タングステン(W),モリブデン(Mo),モリブデン−マンガン(Mo−Mn)合金,銀(Ag),銅(Cu),金(Au),銀−パラジウム(Ag−Pd)合金等の金属を主成分とするメタライズからなるものである。
【0029】
第1配線導体2は、一方の第1配線導体2aおよび他方の第1配線導体2bを有し、第2配線導体3もまた、一方の第2配線導体3aおよび他方の第2配線導体3bを有している。そして、一方の第1配線導体2aおよび他方の第2配線導体3bが、第2絶縁層1bの上面に形成され、他方の第1配線導体2bおよび一方の第2配線導体3aが、第3絶縁層1cの上面に形成されている。
【0030】
第1貫通導体4は、一方の第1配線導体2aと他方の第1配線導体2bとを電気的に接続する機能を有し、直径が0.05〜0.2mmの寸法が使用されるが、配線基板の要求される
特性インピーダンスと配線密度に応じて必要な寸法とすれば良い。
【0031】
第2貫通導体5は、一方の第2配線導体3aと他方の第2配線導体3bとを電気的に接続する機能を有し、直径が0.05〜0.2mmで第1貫通導体4と同じ寸法とすることで、第
1貫通導体4と同じインピーダンスの値にできるので好ましい。
【0032】
第1貫通導体4および第2貫通導体5は、第2絶縁層1bを貫通して設けられており、一方の第1配線導体2aと他方の第1配線導体2bとが第1貫通導体4を介して電気的に接続され、一方の第2配線導体3aと他方の第2配線導体3bとが第2貫通導体5を介して電気的に接続されている。
【0033】
本願発明は、第1貫通導体4および第2貫通導体5が、逆向きに等しく傾いていることが重要である。このような構成により、第1貫通導体4および第2貫通導体5を伝送する信号が同じ方向の成分をもつようになるので、第1貫通導体4および第2貫通導体5に外部からノイズが入った場合にも受信側で信号を合成した際にノイズが部分的にキャンセルされるために、外部からのノイズの影響を低減し、高周波信号を効率よく伝送することが可能となる。また、端子7間における第1配線導体2と第2配線導体3との線路長がほぼ同じものとなり、信号が2本の配線導体でずれてしまうことが抑制され、高周波信号をより効率よく伝送することが可能となる。
【0034】
本発明の差動伝送線路および多層配線基板は、以下の方法により作製される。
【0035】
例えば、絶縁層が酸化アルミニウム質焼結体で形成される場合には、まず、酸化アルミニウム,酸化珪素,酸化マグネシウムおよび酸化カルシウムの原材料粉末に適当な有機バインダおよび溶媒を添加混合して泥漿状となすとともに、これをドクターブレード法等によってシート状に成形し、絶縁層となる複数のセラミックグリーンシートを作製する。
【0036】
次に、セラミックグリーンシートの第1貫通導体4および第2貫通導体5が形成される所定位置に適当な打ち抜き加工により貫通孔を形成するとともに、貫通孔に導体ペーストを充填する。ここで、第1貫通導体4および第2貫通導体5を斜めに形成する方法として、金型打ち抜き方法を用いる場合は、通常は金型ピンの動きに対して垂直に配置するセラミックグリーンシートの設置台を貫通導体の傾きだけ、逆に傾けて打ち抜くことで形成することができる。また、レーザー打ち抜き方法を用いる場合は、設置台が圧力を受けないため、自由な方向に傾けることができるようになるので、貫通孔の傾きを自由に設定できるようになるので好ましい。
【0037】
図3(a)、(b)、(c)に要部拡大図で示す例のように、第1貫通導体4および第2貫通導体5は、第1貫通導体4および第2貫通導体5の1/2の高さで交わるとともに逆向きに等しく傾いているので、第1貫通導体および第2貫通導体にノイズが乗り難くなるため、外部からのノイズの影響を低減し、高周波信号を効率よく伝送することが可能となるとともに、端子7間における第1配線導体2と第2配線導体3との線路長がほぼ同じものとなり、信号が2本の配線導体でずれてしまうことが抑制され、高周波信号をより効率よく伝送することが可能となる。
【0038】
例えば、貫通孔の絶縁層1bに対する傾斜角度θを30度以上45度未満とする場合は、上述した金型打ち抜き方法およびレーザー打ち抜き方法で加工が比較的容易にできるものの、傾斜角度θを30度未満とする場合は、斜めの貫通孔には導体ペーストが充填されにくくなるので、斜めの貫通孔を複数の薄い層に分けて各層毎に導体ペーストを充填しても良い。また複数の斜めの貫通孔の代わりに、薄い絶縁層に少しずつ穴の位置をずらした貫通孔を形成し導体ペーストを埋め込み、複数層を重ねることで貫通孔を斜めに形成すると導体ペーストが均一に充填されるので、より細い貫通導体を形成できるようになるので貫通導体の形成密度を高めることができるようになるとともに従来からの金型やレーザー打ち抜き装置を使用できるので好ましい。この場合に、重ねる絶縁層の各層は伝送する周波数の波長λの1/8未満であると、各々の貫通孔が垂直であることがほぼ無視できるようになるので好ましい。
【0039】
また、スクリーン印刷法等によってセラミックグリーンシートの所定位置に第1配線導体2および第2配線導体3となる導体ペースト層を10μm〜20μmの厚みに形成する。導体ペーストは、タングステン(W),モリブデン(Mo),モリブデン−マンガン(Mo−Mn)合金等の融点の高い金属粉末と適当な樹脂バインダおよび溶剤とを混練することにより作製される。
【0040】
最後に、これらセラミックグリーンシートを重ね合わせて加熱圧着して積層体を作製し、この積層体を1500℃〜1600℃程度の高温で焼成することによって絶縁層と配線導体と貫通導体とが焼結一体化された多層配線基板が作製される。
【0041】
接地導体層6は、例えば図1〜図7に示す例では、絶縁基体1の一方主面および他方主面に形成されている。接地導体層6の厚みは、特に規定は無いが、0.1μm〜20μm程度
である。25〜40GHz程度の高い周波数の信号を伝送する場合には、接地導体層6の電気抵抗率が高くなると伝送特性が劣化するおそれがあるので、接地導体層6の電気抵抗率は4mΩ・cm以下であることが好ましい。
【0042】
また、接地導体層6は、絶縁基体1の一方主面および他方主面に形成されるものに限られるものではなく、絶縁層の表面に本発明の差動伝送線路を上下に挟み込むように、多層配線基板の内部に接地導体層6が形成されていてもよい。この場合も、接地導体層6によって外部からのノイズの影響を低減することができ、高周波信号をより効率よく伝送することが可能となる。
【0043】
接地導体層6の形成方法は、第1絶縁層1aの上面に接地導体層6となる導体ペーストを印刷塗布し、同様に第3絶縁層1cの下面の全面に接地導体層6となる導体ペーストを印刷塗布することで形成される。この接地導体層6となる導体ペーストは、上述した第1配線導体2および第2配線導体3となる導体ペーストと同様の材料および作製方法で製作される。
【0044】
なお、本発明は、上述した最良の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更を行なうことは何ら差し支えない。例えば、本実施形態では、差動伝送線路は絶縁基体1の上面の端子7から絶縁基体1の内部の配線に接続されて形成され、再度上面の端子7に接続されているが、例えば、上面の端子7から内部の配線に接続されて形成され、下面の端子7に接続されても良く、その逆でも良く、側面に端子7を形成しても良い。また、例えば本実施形態の一例では、絶縁基体1をセラミックスからなるものとしたが、絶縁基体1をポリイミド層等の絶縁樹脂層で形成し、配線導体および貫通導体を銅で形成しても良い。このような場合、本発明の多層配線基板が、プローブピンを接触させて半導体素子の電気特性を確認するプローブカード用の多層配線基板に用いられる場合には、この多層配線基板の上面に複数の絶縁樹脂層を積層するので、多層配線基板と絶縁樹脂層とがともに有機樹脂であり、絶縁樹脂層からなる多層配線基板と絶縁樹脂層との界面の接合を良好にすることができる。
【符号の説明】
【0045】
1・・・・・・・絶縁基体
1a・・・・・・第1絶縁層
1b・・・・・・第2絶縁層
1c・・・・・・第3絶縁層
2・・・・・・・第1配線導体
2a・・・・・・一方の第1配線導体
2b・・・・・・他方の第1配線導体
3・・・・・・・第2配線導体
3a・・・・・・一方の第2配線導体
3b・・・・・・他方の第2配線導体
4・・・・・・・第1貫通導体
5・・・・・・・第2貫通導体
6・・・・・・・接地導体層
7・・・・・・・端子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁層を挟んで上下に対向する第1配線導体および第2配線導体を有する一対の配線導体からなる差動伝送線路において、
前記第1配線導体は一方の第1配線導体と他方の第1配線導体とを有し、
前記第2配線導体は一方の第2配線導体と他方の第2配線導体とを有しており、
前記一方の第1配線導体と前記一方の第2配線導体とが前記絶縁層を挟んで上下に対向するとともに、前記他方の第1配線導体と前記他方の第2配線導体とが前記絶縁層を挟んで上下に対向しており、
前記一方の第1配線導体の端部と前記他方の第1配線導体の端部とが前記絶縁層を貫通して設けられた第1貫通導体を介して電気的に接続され、
前記一方の第2配線導体の端部と前記他方の第2配線導体の端部とが前記絶縁層を貫通して設けられた第2貫通導体を介して電気的に接続されており、
前記第1貫通導体および前記第2貫通導体は、逆向きに等しく傾いていることを特徴とする差動伝送線路。
【請求項2】
前記第1貫通導体および前記第2貫通導体は、前記第1貫通導体および前記第2貫通導体の1/2の高さで交わっていることを特徴とする請求項1記載の差動伝送線路。
【請求項3】
複数の絶縁層が積層されてなる絶縁基体の内部に、請求項1または請求項2記載の差動伝送線路を備えていることを特徴とする多層配線基板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−115347(P2013−115347A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−262238(P2011−262238)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】