説明

差動機構とブレーキを備えたアクチュエータ

【課題】リニアアクチュエータを大型化することなく過渡的な力のスパイクに対応できるようにする。
【解決手段】アクチュエータ(100)は、第1レグ(106a)および第2レグ(106b)を有するギアトレインからなる差動機構(105)と、差動機構(105)の第1レグ(106a)を介してボールねじ(104)を回転駆動するように構成されたモータ(101)と、差動機構(105)の第2レグ(106b)に接続されたブレーキ(103)と、を備える。ブレーキ(103)は、ある保持力を有し、過渡的な力のスパイクによって、差動機構(105)内のトルクがこの保持力を越えたときに、滑りにより差動機構(105)内のトルクを消散する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、アクチュエータに関し、特に、差動機構およびブレーキを備えたアクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
リニアアクチュエータは、対象物に力を与えて直線的に変位させるように設計された機械である。リニアアクチュエータとしては、電気機械的アクチュエータ(electromechanical actuator:EMA)から構成でき、ここでは、アクチュエータが電気モータによって駆動される。EMAは、液圧式もしくは空気圧式のリニアアクチュエータよりも優れた効率を有し、液圧式アクチュエータシステムで使用される流体に付随した火災の危険や漏れの問題がない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
大きな力の能力を有するEMAを得るためには、EMAの電気モータを大きなトルクを生成するものとするか、あるいは、アクチュエータのギアトレインによってモータの必要な出力トルクを軽減するか、のいずれかが必要である。大きなトルク能力を有するモータは、一般に、そのロータの回転慣性が非常に大きなものとなる。モータの必要な出力トルクを低下させる減速ギアシステムによれば、モータの物理的な寸法および回転慣性が小さくなるが、モータをより高速な回転速度で作動させることが必要となる。モータの回転慣性は、アクチュエータの出力側においては、モータの回転慣性とギア減速比の2乗との積に比例する。
【0004】
ギアトレインやボールねじ等の全ての構成要素を含むEMAの寸法は、EMA用モータの回転慣性によって、さらには、EMAが動作中に経験し得る過渡的な過負荷状態つまり過渡的な力のスパイク(スパイク状に立ち上がる瞬間的な力の入力)によって、決定される。過渡的な力のスパイクは、例えば、ロケットエンジンの始動によって引き起こされる。この過渡的な力のスパイクによって、ボールねじがモータを逆転させようとする。しかし、モータの回転慣性がこの逆方向の駆動に抵抗する。過渡的な力のスパイクの間、EMAは、そのドリフト(ずれ)が許容され得るが、モータの回転慣性が高いと、過渡的な力のスパイクを逃がすのに必要な素早い加速が阻害される。EMAが過渡的な高い負荷を機械的に支持するためには、EMAは、比較的大きくかつ重い設計となり得る。代替として、動的に滑りを生じるクラッチをEMAの駆動系に組み込み、モータをEMAギアトレインから切り離せるようにすることもできる。しかしながら、このような動的なクラッチは、通常動作中における駆動系の回転慣性を付加することとなり、EMAの周波数応答の性能に影響を与えてしまう。要求される周波数応答にEMAを合致させるためには、この動的なクラッチにより付加される回転慣性に打ち勝つだけの付加的なトルクを生成させるべくモータが過度に大きなものとなってしまう。このような動的なクラッチおよびこれに対応する大型のモータでは、結局、EMAは、比較的に大きくかつ重く、複雑なものとなる。
【0005】
過渡的な力のスパイクは、ボールねじが内部ストッパつまりエンドストッパに衝突したときにも生じ得る。モータの回転慣性によって、ボールねじをストッパを越えて駆動し続けようとする。もしストッパが力のスパイクに対抗するだけの十分な強度を有していれば、これに続く最も弱い部材、例えばボールねじや該ボールねじを駆動するギアトレインのいずれかが損傷し得る。このような問題は、アクチュエータが強固なストッパに衝突してモータが急激に減速した際に生じるトルクスパイクに対処できるようにギアトレインならびにEMAのストッパを設計することによって、解決することも可能である。モータの回転速度減少に伴ってEMAの内部の軸系が撓むようにし、捩り方向の追従性を与えるのである。しかしながら、このような設計手法では、通常動作中の負荷を扱うのに必要なものよりも、EMAがより大きくかつ重くなってしまう。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一つの態様においては、アクチュエータは、差動機構と、モータと、ブレーキと、を含む。上記差動機構は、第1レグと第2レグとを有するギアトレインからなる。上記モータは、差動機構の第1レグを介してボールねじを回転駆動するように構成されている。上記ブレーキは、差動機構の第2レグに接続されているとともに、保持力を備え、差動機構内のトルクがこの保持力を越えたときに、この差動機構内のトルクを消散するように、上記ブレーキが構成されている。
【0007】
本発明の他の特徴や技術的な事項は、以下の説明ならびに添付の図面によってさらに明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明に係るアクチュエータの一実施例を示す構成説明図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
差動機構とブレーキとを備えた本発明のアクチュエータの一実施例を以下詳細に説明する。
【0010】
図1に示すように、アクチュエータ100は、差動機構105を有し、この差動機構105は、ギアトレインからなり、第1レグ106aと第2レグ106bとを備えている。差動機構105としては、速度加算型差動機構(speed-summing differential)が用いられ得る。モータ101は、電気モータとすることができ、アクチュエータ100はEMAとすることができる。通常の動作では、モータ101が差動機構105の第1レグ106aを介してボールねじ104を駆動し、ボールねじ104を回転させる。ボールねじ104は並進ナット107と螺合しており、ボールねじ104の回転により、並進ナット107が並進部材108を矢印109で示す方向に動作させる。ブレーキ103は、差動機構105を横切るモータ101の出力トルクを、第2レグ106bを介して保持しかつバランスさせる。いくつかの実施例では、差動機構105は、2:1の減速ギア段として作用する。ポジションセンサ102を設け、並進ナット107ないし並進部材108に関する位置データを図示せぬコントローラに送信するようにしてもよい。
【0011】
過渡的な力のスパイク(スパイク状に立ち上がる瞬間的な力の入力)がアクチュエータ100に作用することがある。この過渡的な力のスパイクは、例えば、ロケットエンジンの始動時、あるいは、ボールねじ104が比較的高速で内部ストッパつまりエンドストッパに衝突したとき、に生じ得るが、これらに限定されるものではない。ボールねじ104は差動機構のレグ106aを介して駆動モータ101を逆転させようとし、あるいは、モータ101が上記ストッパを越えてボールねじ104を駆動しようとする。これらの過渡的な力のスパイクの下で、モータ101の回転慣性によって、差動機構105内でトルクが立ち上がる。このように差動機構105内で立ち上がったトルクは、差動機構105の第2レグ106bを介してブレーキ103に伝達される。差動機構105におけるトルクがブレーキ103の保持力を上回ったときには、ブレーキ103は滑りを生じて回転し、過剰なトルクを消散させてアクチュエータ100を保護する。いくつかの実施例においては、ブレーキ103の保持力は、モータ101の最大出力トルクと等しい。ブレーキ103としては、過渡的な力のスパイクを消散させるために適宜なブレーキ構成であればよい。ブレーキ103は、いくつかの実施例では、摩擦材料を用いたものからなる。
【0012】
このような例示的な実施例の技術的な作用・効果は、アクチュエータにおける過渡的な力のスパイクを消散させることである。ブレーキを設けることによって、過渡的な負荷ではなく通常動作時の負荷を取り扱い得るようにアクチュエータを設計すればよく、アクチュエータとして必要な寸法や重量が減少する。
【0013】
以上の記載は、特定の実施例を説明するためのものであり、本発明を限定することを意図したものではない。当業者には、本発明の趣旨を逸脱することなく、種々の変更や修正あるいは均等物が明らかになるであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1レグ(106a)および第2レグ(106b)を有するギアトレインからなる差動機構(105)と、
上記差動機構(105)の上記第1レグ(106a)を介してボールねじ(104)を回転駆動するように構成されたモータ(101)と、
上記差動機構(105)の上記第2レグ(106b)に接続されるとともに、保持力を有し、上記差動機構(105)内のトルクがこの保持力を越えたときに、該差動機構(105)内のトルクを消散するように構成されたブレーキ(103)と、
を備えてなるアクチュエータ(100)。
【請求項2】
上記モータ(101)が電気モータであり、上記アクチュエータ(100)が電気機械的アクチュエータ(EMA)であることを特徴とする請求項1に記載のアクチュエータ。
【請求項3】
上記の回転するボールねじ(104)に螺合した並進ナット(107)を備え、この並進ナット(107)が直線運動するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載のアクチュエータ。
【請求項4】
ポジションセンサ(102)をさらに備え、このポジションセンサは、上記並進ナット(107)の位置に関するデータをコントローラへ送信するように構成されていることを特徴とする請求項3に記載のアクチュエータ。
【請求項5】
上記ブレーキ(103)の上記保持力は、上記モータ(101)の最大出力トルクに等しいことを特徴とする請求項1に記載のアクチュエータ。
【請求項6】
上記ブレーキ(103)は、上記差動機構(105)内のトルクが上記保持力を越えたときに回転するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載のアクチュエータ。
【請求項7】
上記差動機構(105)内の上記トルクは、過渡的な力のスパイクからなることを特徴とする請求項1に記載のアクチュエータ。
【請求項8】
上記差動機構(105)は、速度加算型差動機構からなることを特徴とする請求項1に記載のアクチュエータ。
【請求項9】
上記差動機構(105)は、2:1の減速ギア段からなることを特徴とする請求項1に記載のアクチュエータ。
【請求項10】
上記ブレーキ(103)は、摩擦材料からなることを特徴とする請求項1に記載のアクチュエータ。

【図1】
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【公開番号】特開2011−127761(P2011−127761A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−275592(P2010−275592)
【出願日】平成22年12月10日(2010.12.10)
【出願人】(500107762)ハミルトン・サンドストランド・コーポレイション (165)
【氏名又は名称原語表記】HAMILTON SUNDSTRAND CORPORATION
【住所又は居所原語表記】One Hamilton Road, Windsor Locks, CT 06096−1010, U.S.A.
【Fターム(参考)】