説明

巻取テンション制御装置

【課題】紡績糸の巻取り中に、糸弛み取り装置と連関して巻取テンションを適宜調整し得る巻取テンション制御装置を提供する。
【解決手段】糸弛み取り装置7を備えた紡績機に組み込まれて巻取テンションを制御する、巻取テンション制御装置8であって、弛み取りローラ71の近傍かつ下流側に配置され、糸弛み取り装置7から巻取装置9に向かう糸の糸道を屈曲させつつ案内する糸道屈曲ガイド81と、巻取テンションを高くすべきとき、糸道屈曲ガイド81を弛み取りローラ71に接近させて上記屈曲の角度を大きい屈曲角度θとする一方、巻取テンションを低くすべきとき、糸道屈曲ガイド81を弛み取りローラ81から離隔させて上記屈曲の角度を小さい屈曲角度θとする、糸道屈曲ガイド変位装置82と、を含んでなる巻取テンション制御装置8とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維束から糸を紡出する紡績装置と、紡出された糸をパッケージに巻き取る巻取装置と、紡績装置と巻取装置との間の糸を弛み取りローラに巻き付かせて糸の弛みを吸収する糸弛み取り装置とを備えた紡績機に組み込まれて巻取テンションを制御する、巻取テンション制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、スライバ(繊維束)を原料として紡績装置で紡績糸を生成し、これを巻取装置で巻き取ってパッケージに形成する紡績機が存在する。この紡績機にあっては、例えば、糸欠陥を検出すると、その糸欠陥箇所をカッターなどの切断手段によって切断し除去した後、紡績装置から次々に送られてくる糸の先端と、パッケージ側の糸端とを、糸継装置により糸継ぎするように構成されている。この糸継ぎ作業は、紡績装置の運転を続行しつつ糸の巻き取りを停止した状態で行うため、紡績装置から巻取装置までの間で糸の弛みが発生し、その弛みを取り除く必要があった。
【0003】
また、上記紡績機において、例えばコーン巻きパッケージを形成する場合、特に巻取直前の巻取テンション制御を行わないと、トラバースに応じて糸の周期的なテンション変動が起きるという問題があった。これは、コーン巻きパッケージの小径側と大径側とで糸の巻取速度(パッケージの周速度)が異なり、巻取速度の小さい小径側では弛み量が増え、巻取速度が大きい大径側では弛み量が少なくなるからである。
【0004】
そこで、上記問題に対処すべく、特許文献1に記載の糸弛み取り装置が提案されている。特許文献1記載の糸弛み取り装置は、回転駆動される弛み取りローラ21と、回転式の糸掛け部材22とを備えている。糸掛け部材22は、弛み取りローラ21に対して相対的に同心回転可能に取り付けられている。糸掛け部材22の弛み取りローラ21に対する相対回転に対しては、バネなどの付勢手段からなる伝達力付与部材22fの押圧力(摩擦力)によって、所定の回転抵抗が付与されている。さらに、その回転抵抗は、螺合部を有する伝達力調整操作部22gの締付け操作により、無段階に調整可能になっている。
【0005】
また、特許文献2に記載の磁気式の糸弛み取り装置も提案されている。特許文献2記載の糸弛み取り装置12は、ヒステリシス材37と永久磁石36との組み合わせにより、弛み取りローラ21と回転自在の糸掛け部材22との間に、所定の回転抵抗を発生させるようになっている。さらに、その回転抵抗は、ヒステリシス材37と永久磁石36との重なり面積を、調整ボルト32の回転操作で変化させることにより、無段階に調整可能になっている。
【0006】
上記の糸弛み取り装置はいずれも、糸掛け部材22に作用する負荷つまり糸のテンションが上記回転抵抗よりも小さいとき、糸掛け部材22が弛み取りローラ21と一体回転して、紡績糸を弛み取りローラ21に巻き付かせる。反対に、糸のテンションが所定値を越えて回転抵抗に打ち勝つと、糸掛け部材22が弛み取りローラ21とは独立に回転し、紡績糸を弛み取りローラ21から解舒する。
【0007】
したがって、上記の糸弛み取り装置によれば、糸の弛みを解消することができるだけでなく、上記回転抵抗を適切に設定することにより、所定の巻取テンションを紡績糸に与えることができる。
【特許文献1】特開2004−277946号公報(図18、段落番号[0024]〜[0026])
【特許文献2】特開2006−306588号公報(図4、段落番号[0042]〜[0044])
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記の糸弛み取り装置はいずれも、糸掛け部材の弛み取りローラに対する回転抵抗を調整するには、糸の巻取りを停止させる必要があり、巻取りを続行しつつ巻取テンションを調整することは不可能であった。さらに、上記回転抵抗を調整するには、手作業にて行なう必要があり、複数錘の紡績ユニットが並設された紡績機において、各錘間で糸弛み取り装置の回転抵抗がばらついていた場合等は、錘ごとに適宜調整しなければならず、非常に煩雑な作業となっていた。
【0009】
一方、巻取装置においてパッケージを形成する際、巻径の小さいうちは巻取テンションを高くし、巻径が大きくなるにつれて巻取テンションを低くすることで、きれいなパッケージ形状とすることができる。そのためには、糸の巻取り中に、巻取テンションを変化させ得る装置が必要であった。
【0010】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、紡績糸の巻取り中に、糸弛み取り装置と連関して巻取テンションを適宜調整し得る巻取テンション制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために本発明は、(1)繊維束から糸を紡出する紡績装置と、紡出された糸をパッケージに巻き取る巻取装置と、紡績装置と巻取装置との間の糸を弛み取りローラに巻き付かせて糸の弛みを吸収する糸弛み取り装置とを備えた紡績機に組み込まれて巻取テンションを制御する、巻取テンション制御装置であって、前記弛み取りローラの近傍かつ下流側に配置され、前記糸弛み取り装置から前記巻取装置に向かう糸の糸道を屈曲させつつ案内する糸道屈曲ガイドと、前記巻取テンションを高くすべきとき、前記糸道屈曲ガイドを前記弛み取りローラに接近させて前記屈曲の角度を大きくする一方、前記巻取テンションを低くすべきとき、前記糸道屈曲ガイドを前記弛み取りローラから離隔させて前記屈曲の角度を小さくする、糸道屈曲ガイド変位装置と、を含んでなることを特徴とする巻取テンション制御装置を提供するものである。
【0012】
また本発明は、上記構成において、(2)前記糸道屈曲ガイドは、前記糸を通過させるガイド孔によって、前記糸を案内するようになっていることを特徴とする巻取テンション制御装置を提供するものである。
【0013】
また本発明は、上記構成(2)において、(3)前記糸道屈曲ガイド変位装置は、前記ガイド孔の中心が前記弛み取りローラの軸の延長線上で変位するように、前記糸道屈曲ガイドを変位させることを特徴とする巻取テンション制御装置を提供するものである。
【0014】
また本発明は、上記構成(1)〜(3)において、(4)前記糸道屈曲ガイド変位装置は、前記糸弛み取り装置から前記巻取装置に向かう糸のテンションを検出するテンション検出手段からの信号に基づき、前記糸道屈曲ガイドを変位させるようになっていることを特徴とする巻取テンション制御装置を提供するものである。
【0015】
また本発明は、上記構成(1)〜(4)において、(5)前記糸道屈曲ガイド変位装置はさらに、前記パッケージの巻径を検出する巻径検出手段からの信号に基づき、前記糸道屈曲ガイドを変位させるようになっていることを特徴とする巻取テンション制御装置を提供するものである。
【発明の効果】
【0016】
上記のように構成された本発明の巻取テンション制御装置によれば、紡績糸の巻取り中、糸道屈曲ガイドが、糸弛み取り装置の弛み取りローラに対して適宜接近または離隔せしめられる。その結果、糸掛け部材の先端から糸道屈曲ガイドを経て巻取装置へ向かう紡績糸の糸道の屈曲角度が調節され、巻取テンションが調整される。つまり、本発明の巻取テンション制御装置によれば、巻取り中に、巻取テンションを適切に調節することができる。
【0017】
また、本発明の巻取テンション制御装置によれば、機械的に糸道屈曲ガイドを変位させて巻取テンションを調節する。それゆえ、複数錘の紡績ユニットが並設された紡績機において、各錘間で糸弛み取り装置の回転抵抗がばらついていた場合等であっても、錘ごとに手作業でその回転抵抗を調整する煩雑さがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図面を参照しつつ、本発明の巻取テンション制御装置の好ましい一実施形態につき説明する。
図1は本発明の巻取テンション制御装置が適用された紡績機の一例を示す概略正面図、図2は図1の紡績機の概略側面図、図3は図1の紡績機における糸弛み取り装置および巻取テンション制御装置を示す要部側断面図、図4は図3の糸弛み取り装置の調整ボルトを回転させて移動させた状態を示す要部側断面図、図5は図1の紡績機における糸弛み取り装置および巻取テンション制御装置を示す斜視図である。
【0019】
本実施形態にかかる紡績機1は、図1に示すように、原動機ボックスMBとダストボックスDBとの間に、多数の紡績ユニットUを機台長手方向に並設して構成されている。紡績機1の下部には、紡績ユニットUの並設方向に沿ったレールRが設けられている。レールR上には、糸継台車3が、紡績ユニットUの並設方向に沿って往復走行可能に配置されている。糸継台車3は、糸継ぎを要求する紡績ユニットUに向けて走行移動し、対応する位置で停車して糸継ぎ作業を行う。
【0020】
図1または図2に示すように、紡績ユニットUは、上流から下流に向かって順に、ドラフト装置4と、紡績装置5と、糸送り装置6と、糸弛み取り装置7と、巻取テンション制御装置8と、下流側ガイド10と、巻取装置9とを主要な構成として装備している。
【0021】
ドラフト装置4は、バックローラ対41と、サードローラ対42と、エプロンベルト43を装架したミドルローラ対44と、フロントローラ対45とを組み合わせたものから構成されている。ドラフト装置4は、スライバSLを延伸して繊維束Yを形成する。
【0022】
紡績装置5の詳細な構成は図示しないが、本実施形態では、空気噴射ノズルからの旋回気流を利用して、ドラフトされた繊維束Yから紡績糸SYを生成する空気式のものを採用している。
【0023】
糸送り装置6は、デリベリローラ61と、デリベリローラ61に接触するように設けられたニップローラ62とからなっている。紡績装置5から送出された紡績糸SYは、デリベリローラ61とニップローラ62との間に挟まれて、デリベリローラ61の回転駆動によって下方へ送られるようになっている。
【0024】
糸送り装置6によって下流側に送られた紡績糸SYは、糸の欠点を除去するためのカッター装置16およびヤーンクリアラ17、糸弛み取り装置7、巻取テンション制御装置8、ならびに下流側ガイド10を経て、巻取装置9によって巻取パッケージWPに巻き取られる。
【0025】
ヤーンクリアラ17は、走行する紡績糸SYの太さを監視し、紡績糸SYの糸欠点を検出した場合に、糸欠点検出信号をユニットコントローラ(不図示)へ送信するようになっている。ユニットコントローラは、上記糸欠点検出信号を受けると、直ちにカッター装置16を作動して糸を切断し、さらにドラフト装置4や紡績装置5を停止し、糸継台車3を当該紡績ユニットUの前まで自走させる。その後、紡績装置5などを再び駆動し、糸継台車3に糸継ぎを行わせて、紡績および巻取りを再開させるようになっている。
【0026】
糸継台車3は、図1に示すように、紡績機1本体のケーシング2に設けられたレールRに沿って、走行するように配置されている。糸継台車3には、供給側となる紡績装置5から連続的に供給される紡績糸SYを吸引捕捉するサクションパイプ(供給側糸端捕捉手段)18と、巻取りパッケージWP側の紡績糸SYを吸引捕捉するサクションマウス(巻取り側糸端捕捉手段)19と、このサクションパイプ18とサクションマウス19とが捕捉した各紡績糸SYを繋ぐための糸継装置20とを備えている。
【0027】
サクションパイプ18およびサクションマウス19の端部は、吸引流発生源(不図示)によって吸引空気流が発生しており、糸端を吸引して捕捉する。糸継装置20は、図示しないクランプ部、カッター部およびスプライサあるいはノッターによって構成されている。
【0028】
糸弛み取り装置7は、複数の紡績ユニットUのそれぞれに対して設けられ、紡績糸SYと係合可能に配置されている。糸弛み取り装置7は、図2または図3に示すように、弛み取りローラ71と、糸掛け部材72と、上流側ガイド73と、上流側ガイド73を前進および後退させる進退手段(例えば、エアシリンダ)74と、弛み取りローラ71を回転駆動する回転駆動源75と、を含んでいる。
【0029】
回転駆動源75は、電動モータ等からなり、ブラケット70を介して紡績ユニットUに取り付けられている。
【0030】
弛み取りローラ71は、図3に示すように、ローラ本体71aと、その内部に一体的に固着されるナット部材71bとを、主要な構成として備えている。
【0031】
ローラ本体71aは、固定ネジ71fによって、回転駆動源75の回転軸75aに固定されている。
【0032】
ナット部材71bには、調整ボルト71cが、ローラ本体71aの先端側から螺合される。調整ボルト71cは、本体と同軸の貫通孔を有している。この貫通孔は、軸受け71dを介して、糸掛け部材72の軸部72aを受容する。
【0033】
糸掛け部材72は、図3に示すように、軸部72aと、軸部72aの一端に取り付けられたフライヤー72bとからなっている。糸掛け部材72は、軸部72aが調整ボルト71cの貫通孔に挿入され、上述の軸受け71dに支持されることで、弛み取りローラ71に対して同心回転可能に取り付けられる。
【0034】
フライヤー72bは、その先端部が適宜湾曲する形状を呈しており、紡績糸SYと係合して(紡績糸SYを掛けて)、紡績糸SYを弛み取りローラ71の外周面に確実に巻き付かせるようになっている。
【0035】
糸掛け部材72の軸部72aは、その軸方向の中間部に拡径部72cを備えている。拡径部72cの外周面は、調整ボルト71cの内周面に対向し得るようになっている。拡径部72cの外周面には、永久磁石72dが配置されている。永久磁石72dは、周方向にN極、S極、N極、S極、・・・と交互に着磁せしめられている。一方、調整ボルト71cの内周面には、ヒステリシス材(半硬質磁性材料)71eが配置されている。拡径部72cの永久磁石72dは、調整ボルト71cのヒステリシス材71eに対し、適宜の隙間をおいて(即ち、非接触で)対向している。
【0036】
調整ボルト71cは、頭部を手で掴んで(あるいは適宜の工具を用いて)回転させることで、ナット部材71bに対して相対変位する。このとき、調整ボルト71cは、糸掛け部材72の拡径部72cに対して相対変位することになる。これによって、ヒステリシス材71eと永久磁石72dとの対向面積は変化する。
なお、図3の状態から、調整ボルト71cを弛み取りローラ71に対して相対変位させた状態が図4に示されている。
【0037】
上記のように永久磁石72dとヒステリシス材71eとの対向面積を変更することにより、フライヤー72bの弛み取りローラ71に対する回転抵抗の大きさを無段階に調節することができる。
【0038】
つまり、図3のように永久磁石72dとヒステリシス材71eとが大面積で対向している場合は、永久磁石72dとヒステリシス材71eとの磁気的結合の度合いが強いので、糸掛け部材72の弛み取りローラ71に対する相対回転に対抗する強い抵抗が発生する。一方、図4のように永久磁石72dとヒステリシス材71eとの対向面積がほぼゼロの場合は、糸掛け部材72は、弛み取りローラ71に対して略自由に回転することができる。
【0039】
上流側ガイド73は、弛み取りローラ71のやや上流側に配置される。上流側ガイド73は、進退手段74によって前進および後退せしめられる。上流側ガイド73が前進位置にあるとき(図3の破線で示す状態)、紡績糸SYは、糸弛み取り装置7における糸掛け部材72と係合することがないように案内される。一方、上流側ガイド73が後退位置にあるとき(図3の実線で示す状態)、紡績糸SYは、糸弛み取り装置7における糸掛け部材72と係合し、弛み取りローラ71に巻き付けられる。
【0040】
巻取テンション制御装置8は、図3または図5に示すように、糸道屈曲ガイド81と、糸道屈曲ガイド81を変位させる糸道屈曲ガイド変位装置82とを備えている。
【0041】
糸道屈曲ガイド変位装置82は、ステッピングモータや直動シリンダからなり、糸弛み取り装置7の近傍、本実施形態ではブラケット70に固定されている。糸道屈曲ガイド変位装置82は、糸弛み取り装置7の弛み取りローラ71の軸に沿って前進および後退し得るロッド82aを有している。
【0042】
糸道屈曲ガイド81は、その一端が、糸道屈曲ガイド変位装置82のロッド82aの先端に取り付けられている。糸道屈曲ガイド81の他端側には、糸弛み取り装置7の上流側ガイド73または弛み取りローラ71から下流側ガイド10に向かう紡績糸SYを通過させるガイド孔81a(本実施形態では丸孔)が設けられている。ガイド孔81aは、その中心が、弛み取りローラ71の下流側であって、弛み取りローラ71の軸の延長線上に存在するように配置されている。
なお、ガイド孔81aは、丸孔でなくてもよく、例えば切欠きであってもよい。ただし、案内される糸は円周方向に動くため、切欠きとした場合は糸が外れないようにするためのフック等を備えたものがよい。
【0043】
なお、ガイド孔81aの中心は、必ずしも弛み取りローラ71の軸の延長線上にある必要はない。しかし、ガイド孔81aの中心が弛み取りローラ71の軸の延長線上から外れていれば、紡績糸SYが糸弛み取り装置7に係合している場合(図3の実線で示す状態)、糸掛け部材72の回転位置によって糸の屈曲角度が変わり、巻取テンションが若干ではあるが、その位置に応じて変動してしまうことになる。したがって、ガイド孔81aの中心は、弛み取りローラ71の軸の延長線上にあるのが好ましい。
【0044】
糸道屈曲ガイド81は、巻取テンションを高くする必要があるとき、糸道屈曲ガイド変位装置82のロッド82aが後退することによって、弛み取りローラ71に接近せしめられる(図3の2点鎖線で示す状態)。一方、巻取テンションを低くする必要があるとき、糸道屈曲ガイド81は、糸道屈曲ガイド変位装置82のロッド82aが前進することによって、弛み取りローラ71aから離隔せしめられる(図3の実線で示す状態)。
【0045】
ここで、巻取テンションを高くする必要があるときとは、例えば、紡績糸SYが糸弛み取り装置7に係合している場合であって、糸掛け部材72の回転抵抗が小さいために適切な巻取テンションよりも低い巻取テンションとなっているとき等があげられる。反対に、巻取テンションを低くする必要があるときとは、例えば、弛み取りローラ71に対する糸掛け部材72の回転抵抗が大きいために、適切な巻取テンションよりも高い巻取テンションとなっているとき等があげられる。
【0046】
巻取テンションは、図2に示す如く、下流側ガイド10の下流側に配置されたテンションセンサ11によって検出される。テンションセンサ11の検出信号は、制御器83に入力される。制御器83は、テンションセンサ11によって検出された巻取テンションが適切な値よりも低いとき、糸道屈曲ガイド変位装置82のロッド82aを後退させる。反対に、テンションセンサ11によって検出された巻取テンションが適切な値よりも高いとき、糸道屈曲ガイド変位装置82のロッド82aを前進させる。
【0047】
糸道屈曲ガイド81が弛み取りローラ71aに接近せしめられた場合(図3の2点鎖線で示す状態)、糸掛け部材72におけるフライヤー72bの先端(紡績糸SYがフライヤー72bに係合していないときは上流ガイド73)から糸道屈曲ガイド81のガイド孔81aを経て下流側ガイド10へ向かう紡績糸SYの糸道は、大きな屈曲角度(図3のθ)を有することになる。この場合、大きな屈曲角度を有することで、紡績糸SYの走行に対する抵抗が高くなり、その結果巻取テンションが高くなる。
【0048】
反対に、糸道屈曲ガイド81が弛み取りローラ71から離隔せしめられた場合(図3の実線で示す状態)、フライヤー72bの先端(紡績糸SYがフライヤー72bに係合していないときは上流ガイド73)からガイド孔81aを経て下流側ガイド10へ向かう紡績糸SYの糸道は、小さな屈曲角度(図3のθ)を有することになる。この場合、小さな屈曲角度を有することで、紡績糸SYの走行に対する抵抗が低くなり、その結果巻取テンションが低くなる。
【0049】
下流側ガイド10は、巻取テンション制御装置8の下流側に配置される。下流側ガイド10は、巻取テンション制御装置8の糸道屈曲ガイド81を経た紡績糸SYを、巻取装置9側へ案内する。
【0050】
次に、上記構成の紡績機1の動作について説明する。
紡績機1の各紡績ユニットUは、繊維束Yをドラフト装置4で延伸して紡績装置5へ送り込む。そして、紡績装置5から紡出された紡績糸SYは、糸送り装置6で下流側へ送出され、カッター16、ヤーンクリアラ17を通過し、糸弛み取り装置7および巻取テンション制御装置8を経由して、最終的には巻取装置9に送られてパッケージWPとして巻き取られる。
【0051】
そして、いずれかの紡績ユニットUのヤーンクリアラ17が紡績糸SYの欠陥を検出すると、当該紡績ユニットUの図示しないユニットコントローラは、カッター16で紡績糸SYを切断し、それと略同時に、ドラフト装置4のバックローラ対41とサードローラ対42の回転を停止させる。繊維束Yは、停止したサードローラ対42と回転を継続中のミドルローラ対44との間で引きちぎられるように切断され、切断箇所より下流の部分の紡績糸SYは図示しないサクション手段によって吸引除去される。
【0052】
そして、紡績ユニットUのユニットコントローラ(不図示)は、糸継要求信号を糸継台車3に送信する。糸継台車3は、当該紡績ユニットUに対面する位置まで移動して停止する。するとユニットコントローラは、適宜のタイミングで糸弛み取り装置7の弛み取りローラ71の回転を開始する。また、これと同時に、糸弛み取り装置7の上流側ガイド73を進退手段74によって前進させ、次に紡績される紡績糸SYが必要時以外に糸弛み取り装置7の糸掛け部材72と係合することのないように糸道を保持する。
【0053】
そして、糸継台車3のサクションパイプ18が上方へ回動されると、それとほぼ同期してドラフト装置4および紡績装置5の駆動を開始し、紡績装置5から紡出される紡績糸SYがサクションパイプ18で吸引捕捉されるようにする。また同時に巻取装置9側では、糸継台車3のサクションマウス19が下方へ回動し、パッケージWPに巻き付いている糸端を吸引して捕捉する。そして、サクションパイプ18とサクションマウス19は、吸引されたそれぞれの糸端を糸継装置20へ案内して糸継ぎを行う。
【0054】
そして、この糸継装置20での糸継作業が開始される直前に、糸弛み取り装置7において進退手段74が後退し、上流側ガイド73を後退位置に移動させる。すると、紡績糸SYの糸道が、図3の鎖線に示すように、フライヤー72bの回転軌跡に重なるように変更される。この結果、紡績糸SYはフライヤー72bによって弛み取りローラ71の外周面に巻き付けられる。
【0055】
すなわち、糸継装置20での糸継作業の間も、紡績装置5からの紡績糸SYの紡出は継続しているのであり、このままでは糸継装置20の上流側で紡績糸SYが大量に滞留してしまう。糸弛み取り装置7は、糸継装置20での糸継作業の間に弛み取りローラ71に紡績糸SYを巻き付かせることで、紡績糸SYの弛みや滞留を防止し、円滑な糸継作業および紡績再開作業を実現する。
【0056】
前述したように、糸掛け部材72は、弛み取りローラ71とは独立に回転可能であるが、前述の永久磁石72d及びヒステリシス材71eからなる機構により、一定の大きさ以上の負荷(永久磁石72dとヒステリシス材71eとの磁気的結合に打ち勝つ負荷)が作用しない限り、糸掛け部材72は弛み取りローラ71と一体的に回転する。前述の糸継作業時において、紡績糸SYは下流側が走行を停止しており、フライヤー72bに加わる負荷は小さいので、糸掛け部材72は弛み取りローラ71と一体回転して、弛み取りローラ71の外周に紡績糸SYを巻き付けることになる。
【0057】
この間、巻取テンション制御装置8の糸道屈曲ガイド81は、予め定められた初期位置に待機している。
【0058】
糸継装置20による糸継作業の終了後は、巻取装置9においてパッケージWPを回転させ、紡績糸SYの巻取りを再開する。
【0059】
巻取装置9による巻取作業が再開されると、紡績糸SYに適宜の巻取テンションを付与するように、糸送り装置6の送出速度と巻取装置9での巻取速度との比が設定されている。それゆえ、巻取り再開後は、弛み取りローラ71に巻き付く糸速度よりも、弛み取りローラ71から引き出される糸速度の方が大きい。したがって、糸掛け部材72のフライヤー72bは、巻取方向に回転を継続する弛み取りローラ71とは独立して回転するようになり、弛み取りローラ71に巻き取られて貯留されていた紡績糸SYは、次第に解舒されてゆく。
【0060】
この弛み取りローラ71の解舒の際、フライヤー72bは、紡績糸SYの輪抜けを防止して、弛み取りローラ71から紡績糸SYが平均的に巻き出されるように案内する。フライヤー72bはさらに、紡績糸SYと接触することにより適度の抵抗を付与して巻取テンションを適正化し、パッケージWPに糸が好適に巻き取られるようにする。
【0061】
巻取り運転中、テンションセンサ11によって検出された巻取テンションが適正であれば、制御器83は、糸道屈曲ガイド81を初期位置に待機したままとする。テンションセンサ11によって検出された巻取テンションが適正な値よりも低いとき、制御器83は、糸道屈曲ガイド変位装置82のロッド82aを後退させ、糸道の屈曲角度を大きくして、巻取テンションの適正化をはかる。反対に、テンションセンサ11によって検出された巻取テンションが適正な値よりも高いとき、糸道屈曲ガイド変位装置82のロッド82aを前進させ、糸道の屈曲角度を小さくして、巻取テンションの適正化をはかる。
【0062】
上記のように構成された紡績機1によれば、紡績糸SYの巻取り中、巻取テンション制御装置8の糸道屈曲ガイド81が、糸弛み取り装置7の弛み取りローラ71に対して適宜接近または離隔せしめられる。その結果、糸掛け部材72におけるフライヤー72bの先端から糸道屈曲ガイド81のガイド孔81aを経て下流側ガイド10へ向かう紡績糸SYの糸道の屈曲角度が調節され、巻取テンションが調整される。つまり、本発明の巻取テンション制御装置8を備えた紡績機1によれば、巻取り中に、巻取テンションを適切に調節することができる。
【0063】
また、上記の紡績機1によれば、テンションセンサ11が検出する巻取テンションに基づいて、制御機83が自動的に糸道屈曲ガイド81を変位させて、巻取テンションを調節する。それゆえ、複数錘の紡績ユニットが並設された紡績機において、各錘間で糸弛み取り装置の回転抵抗がばらついていた場合等であっても、錘ごとに手作業でその回転抵抗を調整する必要がない。
【0064】
また、上記の紡績機1によれば、ガイド孔81aの中心が弛み取りローラ71aの軸の延長線上に存在する。つまり、糸掛け部材72が回転してフライヤー72bの位置が変化しても、フライヤー72bとガイド孔81aとの距離は一定に保たれる。それゆえ、フライヤー72bの位置が変化することによっては、糸道の屈曲角度は変化せず、巻取テンションが変動することもない。
【0065】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0066】
例えば、図6に示す如く、パッケージWPの巻径を検出する巻径検出手段13をさらに設け、巻径検出手段13からの信号に基づき、糸道屈曲ガイド81を変位させるように構成してもよい。
つまり、巻取装置9においてパッケージWPを形成する際、巻径の小さいうちは巻取テンションを高くし、巻径が大きくなるにつれて巻取テンションを低くすることで、きれいなパッケージ形状とすることができる。
なお、巻径検出手段13としては、パッケージWPの回転速度を計測し、この回転速度からパッケージWPの巻径を算出するものでよく、巻取時間から演算して算出する手段等、公知ものものでよい。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の巻取テンション制御装置が適用された紡績機の一例を示す概略正面図である。
【図2】図1の紡績機の概略側面図である。
【図3】図1の紡績機における糸弛み取り装置および巻取テンション制御装置を示す要部側断面図である。
【図4】図3の状態から調整ボルトを回転させて移動させた状態を示す要部側断面図である。
【図5】図1の紡績機における糸弛み取り装置および巻取テンション制御装置を示す斜視図である。
【図6】変形例にかかる紡績機の概略側面図である。
【符号の説明】
【0068】
SY 紡績糸
7 糸弛み取り装置
8 巻取テンション制御装置
70 ブラケット
71 弛み取りローラ
71a 弛み取りローラ本体
71b ナット部材
71c 調整ボルト
71d 軸受け
71e ヒステリシス材
71f 固定ネジ
72 糸掛け部材
72a 軸部
72b フライヤー
72c 拡径部
72d 永久磁石
73 上流側ガイド
75 回転駆動源
75a 回転軸
81 糸道屈曲ガイド
81a ガイド孔
82 糸道屈曲ガイド変位装置
82a ロッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維束から糸を紡出する紡績装置と、紡出された糸をパッケージに巻き取る巻取装置と、紡績装置と巻取装置との間の糸を弛み取りローラに巻き付かせて糸の弛みを吸収する糸弛み取り装置とを備えた紡績機に組み込まれて巻取テンションを制御する、巻取テンション制御装置であって、
前記弛み取りローラの近傍かつ下流側に配置され、前記糸弛み取り装置から前記巻取装置に向かう糸の糸道を屈曲させつつ案内する糸道屈曲ガイドと、
前記巻取テンションを高くすべきとき、前記糸道屈曲ガイドを前記弛み取りローラに接近させて前記屈曲の角度を大きくする一方、前記巻取テンションを低くすべきとき、前記糸道屈曲ガイドを前記弛み取りローラから離隔させて前記屈曲の角度を小さくする、糸道屈曲ガイド変位装置と、
を含んでなることを特徴とする巻取テンション制御装置。
【請求項2】
前記糸道屈曲ガイドは、前記糸を通過させるガイド孔によって、前記糸を案内するようになっていることを特徴とする請求項1に記載の巻取テンション制御装置。
【請求項3】
前記糸道屈曲ガイド変位装置は、前記ガイド孔の中心が前記弛み取りローラの軸の延長線上で変位するように、前記糸道屈曲ガイドを変位させることを特徴とする請求項2に記載の巻取テンション制御装置。
【請求項4】
前記糸道屈曲ガイド変位装置は、前記糸弛み取り装置から前記巻取装置に向かう糸のテンションを検出するテンション検出手段からの信号に基づき、前記糸道屈曲ガイドを変位させるようになっていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の巻取テンション制御装置。
【請求項5】
前記糸道屈曲ガイド変位装置はさらに、前記パッケージの巻径を検出する巻径検出手段からの信号に基づき、前記糸道屈曲ガイドを変位させるようになっていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の巻取テンション制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−46778(P2009−46778A)
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−214568(P2007−214568)
【出願日】平成19年8月21日(2007.8.21)
【出願人】(000006297)村田機械株式会社 (4,916)
【Fターム(参考)】