説明

希土類−鉄−窒素系磁石粉末の製造方法

【課題】湿式混合した原料粉を還元拡散反応し、逆軸の核の発生および、発熱による粒成長を抑制して、安価で高特性の磁石粉末を安定的に生産できる希土類−鉄−窒素系磁石粉末の製造方法を提供。
【解決手段】磁石原料となる酸化鉄粉末と希土類酸化物粉末を所定量の割合で有機溶媒中で湿式混合、または酸化鉄粉末を水溶媒でスラリー化し、スラリーのpH値が7.0より小さい場合は、アルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩を加えた後、希土類酸化物粉末を湿式混合、混合物をろ過後乾燥し混合粉末を得る。得られた混合粉末を希土類鉄複合酸化物の生成量が6重量%以下となるように水素熱処理する。さらにアルカリ土類金属を所定量添加し、不活性ガス雰囲気中で、熱処理、冷却し希土類−鉄系母合金を得て、引き続き、アンモニアと水素とを含有する混合ガス気流中で窒化処理し、次に得られた窒化処理物を湿式処理し、得られた粗粉末を解砕する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、希土類−鉄−窒素系磁石粉末の製造方法に関し、より詳しくは、湿式混合した原料粉を還元拡散反応し、逆軸の核の発生を抑制すると共に、発熱による粒成長を抑制して、安価で高特性の磁石粉末を安定的に生産できる希土類−鉄−窒素系磁石粉末の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Sm−Fe−N磁石で代表される希土類―鉄―窒素系磁石は、高性能かつ安価な磁石として知られており、このSm−Fe−N系磁石粉末は、SmFe17であればx=3の組成で構成されることによって最大の飽和磁化を示すとされている(非特許文献1参照)。
この希土類―鉄―窒素系磁石は、従来、FeとSm金属を用いて高周波炉、アーク炉などにより希土類―鉄合金を作製する溶解法や、FeあるいはFe、Sm等とCaを混合加熱処理により希土類―鉄合金を作製する還元拡散法によって得られた希土類―鉄母合金を窒化することで製造されている。このようにして得られた希土類―鉄―窒素系磁石粉末は、保磁力の発生機構がニュークリエーション型であることから、次の工程において平均粒子径が数μmから5μm程度になるまで微粉砕処理される。
【0003】
ここで、溶解法では原料粉末の1500℃以上での溶解、粉砕、組成均一化のための熱処理が必要である(特許文献3参照)。ところが、溶解法は、工程が極めて煩雑であるとともに、各工程間において一旦大気中に曝されるために酸化により不純物が生成し、湿式処理後に窒化を行うが、湿式処理時に表面が酸化しているため窒化が均一に進行できなくなり、磁気特性のうち飽和磁化、保磁力、角形性が低下し、結果として最大エネルギー積が低くなってしまうという問題がある。また、原料として必要とされる希土類金属が非常に高価であるという理由から、安価な希土類酸化物粉末を原料として利用できる還元拡散法に比べてコスト的に不利であると考えられている。
【0004】
一方、還元拡散法では、通常出発原料に数十μmの鉄粉末を用い、希土類金属もしくは希土類酸化物とアルカリ土類金属を混合した後、還元熱処理を行うことで母合金を作製するが、最終的な窒化処理の後で数μmに機械粉砕するため、逆軸の核となり得る破断面の突起や結晶歪みが発生し、磁気特性を低下させるという問題がある。
この問題の解決法として、出発原料となる粉末の粒子径を小さくすることにより、母合金を粉砕せずに磁石粉末を得る方法が提案されているが、例えば特許文献1のように原料粉の混合を乾式で行う場合、粒子径や比重による影響が大きく、混合が不均一になりやすいという問題点がある。
【0005】
また、特許文献2のように湿式による混合方法も提案されているが、均一な混合ができる代わりに希土類酸化物の一部が水中に溶解・再析出し、微細なサブミクロンの希土類水酸化物となり、その後の水素還元熱処理時に希土類鉄複合酸化物が生成して、アルカリ土類金属による還元熱処理を行う際に大きなテルミット発熱を生じて局部的な粒成長を引き起こすことがある。これは、工業用に利用される微細な酸化鉄は、一般に、塩酸によるFeの溶解および苛性ソーダ等での中和による析出・焙焼によって製造されるため、粉末が酸性を示し、水中に酸化鉄と希土類酸化物を分散させると、希土類酸化物は水にもわずかに溶けるがそれ以上に酸に溶けることに起因する。
【0006】
さらに、特許文献3のようにSmとFeの共沈水酸化物を製造する方法も提案されているが、使用する希土類塩が高価であるほか、析出物が水酸化物のため水素還元熱処理時に多くの希土類鉄複合酸化物が生成するため、上述と同じ現象が起こる。
【0007】
上記したように、磁気特性を低下させる逆軸の核の発生や粒成長を引き起こさずに、低コストで優れた磁気特性を有する希土類―鉄―窒素系磁石粉末が製造できる方法の確立が強く望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平11−310807号公報
【特許文献2】特開2003−297660号公報
【特許文献3】特許3698538号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】T.Iriyama IEEE TRANSAACTIONS ON MAGNETICS,VOL.28,No.5(1992)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、上記従来技術の問題点に鑑み、湿式混合した原料粉を還元拡散反応し、逆軸の核の発生を抑制すると共に、局部的な発熱による粒成長を抑制して、安価で高特性の磁石粉末を安定的に生産できる希土類−鉄−窒素系磁石粉末の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意研究を重ね、かかる従来の課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、希土類―鉄―窒素系磁石粉末を高性能化するためには、特定な条件で原料粉末を湿式混合し、この湿式混合時に希土類水酸化物の生成を抑制することにより、還元拡散処理時に希土類鉄複合酸化物の生成量を特定量以下に抑制することで、局部的な発熱が抑制され、粒成長による粗大粒子が非常に少ない希土類−鉄系母合金を得ることができ、これにより極めて優れた磁気特性が実現できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、磁石原料となる酸化鉄粉末と希土類酸化物粉末を所定量の割合で混合し、有機溶媒中で湿式処理し、ろ過後乾燥し混合粉末を得る第一の工程、得られた混合粉末を希土類鉄複合酸化物の生成量が6重量%以下となるように水素熱処理する第二の工程、水素熱処理された混合粉末に還元剤成分としてアルカリ土類金属を所定量添加し、混合して、不活性ガス雰囲気中で、900〜1180℃の温度で熱処理した後、同雰囲気中で冷却することにより希土類−鉄系母合金を得る第三の工程、引き続き、得られた希土類−鉄系母合金に少なくともアンモニアと水素とを含有する混合ガスを導入し、この気流中で所定の温度で熱処理することにより窒化処理する第四の工程、次に得られた窒化処理物を湿式処理し、還元剤成分の副生成物を分離除去し、その後得られた粗粉末を解砕する第五の工程からなる希土類―鉄―窒素系磁石粉末の製造方法が提供される。
【0013】
また、本発明の第2の発明によれば、磁石原料となる酸化鉄粉末を水溶媒でスラリー化し、スラリーのpH値が7.0より小さい場合は、アルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩を加えた後、磁石原料となる希土類酸化物粉末を湿式混合し、ろ過後乾燥し混合粉末を得る第一の工程、得られた混合粉末を希土類鉄複合酸化物の生成量が6重量%以下となるように水素熱処理する第二の工程、水素熱処理された混合粉末に還元剤成分としてアルカリ土類金属を所定量添加し、混合して、不活性ガス雰囲気中で、900〜1180℃の温度で熱処理した後、同雰囲気中で冷却することにより希土類−鉄系母合金を得る第三の工程、引き続き、得られた希土類−鉄系母合金に少なくともアンモニアと水素とを含有する混合ガスを導入し、この気流中で所定の温度で熱処理することにより窒化処理する第四の工程、次に得られた窒化処理物を湿式処理し、還元剤成分の副生成物を分離除去し、その後得られた粗粉末を解砕する第五の工程からなる希土類―鉄―窒素系磁石粉末の製造方法が提供される。
【0014】
また、本発明の第3の発明によれば、第1又は2の発明において、第一の工程における有機溶媒が、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、n‐ブチルアルコール、ジメチルエーテル、エチルメチルエーテル、ジエチルエーテル、エチルメチルケトン、またはジエチルケトンから選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする希土類―鉄―窒素系磁石粉末の製造方法が提供される。
また、本発明の第4の発明によれば、第1又は2の発明において、第一の工程において、混合粉末の乾燥温度が300℃以下であることを特徴とする希土類―鉄―窒素系磁石粉末の製造方法が提供される。
また、本発明の第5の発明によれば、第1又は2の発明において、第二の工程において、混合粉末が500〜800℃で、1〜8時間かけて水素熱処理されることを特徴とする希土類―鉄―窒素系磁石粉末の製造方法が提供される。
【0015】
一方、本発明の第6の発明によれば、第1又は2の発明において、第三の工程において、さらに、還元拡散反応後の反応生成物に対して、雰囲気ガスを不活性ガスとしたまま、引き続き300℃以下に冷却することを特徴とする希土類―鉄―窒素系磁石粉末の製造方法が提供される。
また、本発明の第7の発明によれば、第1又は2の発明において、第五の工程において、湿式処理及び解砕して得られる粉末は、長軸粒子径が4μmを越える1次粒子が累積個数百分率で5%未満であることを特徴とする希土類―鉄―窒素系磁石粉末の製造方法が提供される。
さらに、本発明の第8の発明によれば、第1又は2の発明において、希土類―鉄―窒素系磁石粉末は、希土類としてSmを含み、その含有量が磁石粉末全体に対して23.2〜23.6重量%であることを特徴とする希土類―鉄―窒素系磁石粉末の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0016】
本発明の希土類−鉄−窒素系磁石粉末の製造方法によれば、原料粉の混合工程において、有機溶媒または水を用いて特定の条件で混合することにより微細な希土類水酸化物の生成を抑制し、次の工程において、水素熱処理時に生成される希土類−鉄複合酸化物(例えば希土類がサマリウムの場合、SmFeO)生成率を大幅に抑制しているために、さらに次の還元拡散処理工程で、局部的な発熱が抑制され、希土類−鉄系母合金の粗大粒子の発生が抑制され、その結果、粉砕強度の低減に依る逆軸の核の発生および結晶歪み防止が可能となる。
また、次の工程で希土類−鉄母合金を窒化処理・湿式処理するに当たり、還元拡散処理を終了してから窒化処理に入るまでの雰囲気及び温度を制御すれば、粒子表面が酸化されるのを抑制し、窒化効率を低下させないで窒化処理することができるから、高性能な希土類−鉄−窒素系磁石粉末を製造できる。
また、希土類−鉄系母合金を湿式処理後に窒化するのではなく、窒化処理後に湿式処理するので、非磁性相が低減でき、湿式処理時にオキシ水酸化鉄が主相の周りに付着して窒化時に該オキシ水酸化鉄がα−Feとなって析出することはないので、飽和磁化、保磁力が高まり減磁曲線の角形性が良好な、α−Fe比率が小さい希土類−鉄−窒素系磁石粉末を得ることができる。これにより製造コストも安価になることから、その工業的価値は極めて大きい。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施例1及び比較例1でSm−鉄−窒素系磁石粉末を製造する際、還元拡散を行ったときの反応容器内部の温度変化を示すグラフである。
【図2】マルチミル粉砕による解砕をして得られた実施例1、及び比較例1、比較例3のSm−鉄−窒素系磁石粉末のSEM像(粒子表面観察および反射二次電子像による粒子断面観察像)を示す写真である。
【図3】実施例4及び比較例1でSm−鉄−窒素系磁石粉末を製造する際、還元拡散を行ったときの反応容器内部の温度変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の希土類―鉄―窒素系磁石粉末の製造方法について、図面を用いて詳しく説明する。本発明は、原料粉末の湿式混合において、有機溶媒を用いる希土類―鉄―窒素系磁石粉末の製造方法(以下、第1の製造方法ともいう)と、原料粉末の湿式混合において、水溶媒を用いる希土類―鉄―窒素系磁石粉末の製造方法(以下、第2の製造方法ともいう)からなるものである。
【0019】
I 第1の製造方法
本発明の第1の製造方法は、磁石原料となる酸化鉄粉末と希土類酸化物粉末を所定量の割合で混合し、有機溶媒中で湿式処理し、ろ過後乾燥し混合粉末を得る第一の工程、得られた混合粉末を希土類鉄複合酸化物の生成量が6重量%以下となるように水素熱処理する第二の工程、水素熱処理された混合粉末に還元剤成分としてアルカリ土類金属を所定量添加し、混合して、不活性ガス雰囲気中で、900〜1180℃の温度で熱処理した後、同雰囲気中で冷却することにより希土類−鉄系母合金を得る第三の工程、引き続き、得られた希土類−鉄系母合金に少なくともアンモニアと水素とを含有する混合ガスを導入し、この気流中、所定の温度で熱処理することにより窒化処理する第四の工程、次に得られた窒化処理物を湿式処理し、還元剤成分の副生成物を分離除去し、その後得られた粗粉末を解砕する第五の工程からなる。
以下に各工程順に、詳細に説明する。
【0020】
1.第一の工程:酸化鉄と希土類酸化物の湿式混合・乾燥
まず、磁石原料となる酸化鉄と希土類酸化物の粉末を有機溶媒と混合する。
【0021】
磁石原料となる酸化鉄粉末としては、Feのほか、FeOやFeも使用できる。粒子径は、後の工程で生成する希土類―鉄系母合金の粒子径を小さくするため、平均粒子径で3μm以下が好ましく、1μm以下がより好ましい。これは、平均粒子径が3μmを超えると、後に生成される希土類―鉄系母合金がその粒子径以上となり、粗大粒子ができやすく、その結果、保磁力が低下するほか、窒化処理工程での窒化不足となるためである。
希土類酸化物粉末としては、特に制限されないが、Sm、Gd、Tb、Ceから選ばれる少なくとも1種類の元素が好ましい。Smが含まれるものは、本発明の効果を顕著に発揮させることが可能になるので特に好ましい。Smが含まれる場合、高い保磁力を得るためにはSmを希土類元素全体の60重量%以上、好ましくは90重量%以上にすることが高い保磁力を得るために望ましい。希土類酸化物粉末の粒子径は、固相内拡散がしやすく、不均一な拡散が起こらないように、前記酸化鉄粉末の粒子径より小さいことが好ましい。
【0022】
混合は、公知の湿式混合方法で行うことが出来る。湿式混合する際に、希土類酸化物粉末の平均粒子径が酸化鉄粉末の平均粒子径より大きい場合などは、ボールミル混合やビーズミル混合といった媒体を利用して希土類酸化物粉末の平均粒子径を酸化鉄粉末の平均粒子径よりも小さくする混合方法を選択し、また希土類酸化物が酸化鉄の粒子径より小さい場合は攪拌羽根を利用した攪拌混合や、粉砕されにくい大きさボールや比重の軽いボールを使用したボールミル混合などの方法を選択するのが好ましい。
有機溶媒は、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブタノールなどのアルコール、もしくはジメチルエーテル、エチルメチルエーテル、ジエチルエーテル、エチルメチルケトン、ジエチルケトンなどが挙げられる。エタノールもしくはイソプロピルアルコールが好ましく、かつ有機溶媒中に水分が無いものがより好ましい。
有機溶媒を用いることで、原料粉の均一な混合ができ、水分が無いことにより、水の存在による微細な希土類水酸化物の生成が防止される。これにより、以降の工程で水素熱処理時に希土類鉄複合酸化物を形成、さらにはアルカリ土類金属との還元拡散工程で大きな発熱を生じて最終的に保磁力が低下、もしくは粒子内が窒化不足に陥るほどの局部的な粒成長という問題の発生を防止することが出来る。
【0023】
その後、有機溶媒を溶媒として湿式混合したスラリーは、真空ろ過やフィルタープレス、遠心分離などのろ過方法でろ過し、乾燥して、第1の工程に係る処理物を得る。
また、乾燥も通常の乾燥方法でよく、例えば定置乾燥、流動乾燥、気流乾燥、攪拌乾燥、真空乾燥、振動乾燥などの方法を用いて乾燥することができる。乾燥温度は、複合酸化物の生成を防止するために、300℃以下が好ましく、有機溶媒使用時は、安全上の観点から100℃以下とするのが望ましい。
【0024】
2.第二の工程:得られた原料混合粉末の水素熱処理
本発明における第二の工程は、第一の工程で得られた原料混合粉末を水素気流中にて熱処理し、酸化鉄のみを還元する工程である。
【0025】
この熱処理は、酸化鉄のみを還元するものであるから、500〜800℃の温度範囲であり、500〜700℃が好ましい。500℃を下回ると、還元が不十分となり酸化鉄が残りやすくなるほか、還元後の結晶が不安定なため、大気に触れるとすぐに酸化して再び酸化鉄に戻ることがあり、また、800℃を超えると、還元はされるが高温のため出発原料の粒子径から粒成長によって大きくなってしまい、次工程の希土類―鉄系母合金を得る時点で、最終製品の保磁力を低下させるほどまで粒子径が粗大化することがある。熱処理は、1〜8時間、好ましくは2〜6時間行うようにする。
【0026】
また、第二の工程で得られる粉末中には鉄粉末、希土類酸化物のほかに希土類鉄複合酸化物が含まれる場合があるが、この希土類鉄複合酸化物の生成率は6重量%以下とすることが望ましい。希土類鉄複合酸化物の生成率が6重量%を超えると、前述したように、次の第三の工程(還元拡散工程)で局部的な発熱による粒成長が起きることがある。
【0027】
3.第三の工程:還元拡散処理
次に、第二の工程で得られた粉末にアルカリ土類金属を所定量添加し混合して、不活性ガス雰囲気中で、所定の温度で熱処理し、その雰囲気のまま冷却する。この還元拡散法で、ThZn17型結晶構造を有する希土類―鉄系母合金を製造する。
【0028】
本発明では、第二の工程で得られた鉄粉末と希土類酸化物、あるいはこれに希土類鉄複合酸化物が存在する混合粉末と、アルカリ土類金属の還元剤とを反応容器に投入し、熱処理する。これによって、希土類酸化物と他の酸化物原料とを還元するとともに、還元された希土類元素などの金属元素を鉄粉末中に拡散させて、ThZn17型結晶構造を有する希土類―鉄系母合金を生成させる。
ここで、反応容器に投入する粉末は、それぞれの粉体特性によって分離しないように均一に混合する必要がある。混合方法としては、例えばリボンブレンダー、タンブラー、S字ブレンダー、V字ブレンダー、ナウターミキサー、ヘンシェルミキサー、ハイスピードミキサー、ボールミル、振動ミル、アトライターなどが使用できる。
還元剤であるアルカリ土類金属としては、取り扱いの安全性とコストの点で、目開き4.00mm以下に分級した粒状金属カルシウムもしくは金属マグネシウムが好ましい。原料粉末や還元剤とともに、後に第五の工程の湿式処理工程において、反応生成物の崩壊を促進させる添加物を混合することも効果的である。崩壊促進剤としては、塩化カルシウムなどのアルカリ土類金属の塩や酸化物を用いることができ、原料粉末などと同時に均一に混合する。ここで不活性ガスとしては、アルゴン、ヘリウムから選ばれた1種類以上が用いられる。
【0029】
本発明においては、第三の工程の還元拡散では、熱処理温度を900〜1180℃の範囲とすることが重要である。900℃未満では、鉄粉末に対して希土類元素の拡散が不均一となり、最終的に得られる希土類―鉄―窒素系磁石粉末の保磁力や角形性が低下するほか、拡散に要する時間が非常に長くなり、生産性が低下する。また、1180℃を超えると、生成する希土類―鉄系母合金が粒成長を起こすため、均一に窒化することが困難になり、最終的に得られる磁石粉末の飽和磁化と角形性、保磁力が低下する場合がある。また、高価な希土類金属であるSmの蒸発量も非常に多くなり、過剰な量が必要となり高コストにもなる。900〜1180℃ではこのような現象が起きないほか、1次粒子が小さくブドウ状に焼結した状態で得られる2次粒子体の粒子同士の焼結が弱く、窒化処理後の解砕のときに結晶歪みを起こしにくい利点もある。
【0030】
ここで、還元拡散反応で得られる生成物は、例えば、還元剤として金属カルシウムを用いた場合には、ThZn17型結晶構造を有する希土類−鉄系母合金と酸化カルシウム、未反応の余剰の金属カルシウムなどからなる塊状の混合物である。さらに粒状金属カルシウムを原料粉末に混合して還元拡散反応させた場合には、次工程での処理が容易な多孔質の塊状混合物となる。
なお、本発明では、還元拡散反応後の反応生成物に対して、雰囲気ガスを不活性ガスとしたまま変えずに、引き続き、300℃以下、好ましくは50〜280℃、より好ましくは100〜250℃に冷却する。
冷却後の温度が300°Cを越えていると、窒化の際に反応生成物との窒化反応が急激に進んでしまい、α−Fe相を増加させてしまうことがあるので、300°Cよりも低い温度まで冷却するのが望ましい。すなわち、300°Cを越える温度では、反応生成物が活性であるために合金が急激に窒化されて、ThZn17型結晶構造を有する金属間化合物がFeリッチ相とSmNとに分解するものと推測される。
【0031】
冷却後に、多孔質の塊状混合物である反応生成物を湿式処理しないで、雰囲気ガスを不活性ガスから、少なくともアンモニアと水素とを含有する混合ガスに変えて、次の窒化工程に移る。
このとき反応生成物が大気中に曝されると、反応生成物中の活性な希土類−鉄系母合金粉末が酸化されて反応性が失われ、結果として窒化の度合いをばらつかせるので、大気(酸素)に曝されることのないように窒化工程に持ち込むことが重要である。
【0032】
4.第四の工程:窒化処理
窒化工程では、まず第三の工程の最終段階で冷却後、雰囲気ガスの不活性ガスを排出してから、少なくともアンモニアと水素とを含有する混合ガスを導入し、雰囲気ガスを完全に置換した後に昇温し、反応生成物を所定温度で熱処理する。
【0033】
窒化ガスとしては、少なくともアンモニアと水素とを含有していることが必要であり、反応をコントロールするためにアルゴン、窒素、ヘリウムなどを混合することができる。
全気流圧力に対するアンモニアの比(アンモニア分圧)は、0.2〜0.6、好ましくは0.3〜0.5となるようにする。この範囲であれば、長時間かけずに希土類−鉄系母合金の窒化が十分に進み、良好な磁石粉末の飽和磁化と保磁力を得るために必要な、希土類−鉄系母合金中の窒素量を3.3〜3.7重量%とすることができる。
【0034】
アンモニアと水素とを含有する混合気流を窒化温度である350〜500°C、好ましくは400〜480°Cで供給して、希土類−鉄系母合金を窒化熱処理することが重要である。熱処理温度が350°C未満であると、反応生成物中の希土類−鉄系母合金に3.3〜3.7重量%の窒素を導入するのに長時間を要するので工業的優位性がなくなる。一方、500°Cを超えると、例えば希土類がサマリウムの場合、主相であるSmFe17相が分解してα−Feが生成するので、最終的に得られる希土類−鉄−窒素系磁石粉末の減磁曲線の角形性が低下するので好ましくない。なお、冷却温度から窒化温度までは、毎分4〜10℃の速度で比較的急速に昇温することが生産効率を高める上で望ましい。
窒化処理の保持時間は、窒化温度にもよるが、100〜300分、好ましくは、140〜250分とする。100分未満では、窒化が不十分になり、一方、300分を超えると窒化が進みすぎるので好ましくない。
【0035】
本発明においては、窒化処理に引き続いて、さらに水素ガス、または窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガスなどの不活性ガス中で合金粉末を熱処理することができる。2段階以上で合金粉末を熱処理してもよい。特に好ましいのは、水素ガスで熱処理した後に、窒素ガスおよび/またはアルゴンガスで熱処理をすることである。
これにより、磁石粉末を構成する個々の結晶セル内の窒素分布をさらに均一化することができ、角形性を向上させることができる。熱処理の保持時間は、30〜200分、好ましくは60〜250分が良い。
【0036】
5.第五の工程:窒化処理生成物の湿式処理と希土類−鉄−窒素系磁石粗粉末の解砕
この工程では、窒化後の処理生成物を湿式処理して、そこに含まれている還元剤成分の副生成物(カルシウムを還元剤とする場合、酸化カルシウムや窒化カルシウムなど)を希土類−鉄−窒素系磁石粗粉末から分離除去し、その後解砕する。
【0037】
本発明で、窒化終了後の磁石粉末に対して湿式処理を行うのは、前述したとおり、窒化する前に、反応生成物を湿式処理すると、この湿式処理過程で希土類−鉄系母合金表面が酸化されて窒化の度合いをばらつかせるからである。
また、窒化後に処理生成物を長期間大気中に放置すると、カルシウムなどの還元剤成分の酸化物が生成し除去しにくくなるか、磁石粉末の表面の酸化によって、窒化が不均一になり主相の比率の低下とニュークリエーションの核の生成によって角形性が低下するため、できる限り早く処理を進めるのが好ましい。
【0038】
湿式処理は、まず第四の工程で得られた生成物を水中に投入し、デカンテーション−注水−デカンテーションを繰り返し行い、還元剤の副生成物から生成した水酸化物(Ca(OH)など)の多くを除去する。さらに必要に応じて、残留する水酸化物(Ca(OH)など)を除去するために、酢酸および/または塩酸を用いて酸洗浄する。このときの水溶液の水素イオン濃度は、pH4〜7の範囲で実施するとよい。還元拡散時に過剰に投入した希土類金属(Sm)の影響で、主相の周りに磁気特性の飽和磁化を低下させる非磁性相が存在している場合があるから、希土類−鉄−窒素系磁石粗粉末として良好な磁石特性を得るために、希土類がサマリウムの場合にはSm量が磁石粉末全量に対し23.2〜23.6重量%になるように酸洗を行うことが好ましい。
上記酸洗浄処理の終了後には、例えば水洗し、アルコールあるいはアセトン等の有機溶媒で脱水し、不活性ガス雰囲気中または真空中で乾燥することで希土類−鉄−窒素系磁石粗粉末を得ることができる。
【0039】
得られた希土類−鉄−窒素系磁石粗粉末は、粒子径が小さい多数の粒子が集って、ブドウ状に焼結した2次粒子と、単独の1次粒子の2種類から構成されている。このような磁石粗粉末を溶媒とともにビーズミル、媒体撹拌ミル等の粉砕機に入れ、2次粒子からなる希土類−鉄−窒素系磁石粗粉末の焼結部が外れる程度に解砕し、その後ろ過、乾燥する。
【0040】
本発明で希土類−鉄−窒素系磁石粗粉末を解砕するには、粉砕装置が使用される。粉砕装置としては、固体を取り扱う各種の化学工業において広く使用され、種々の材料を所望の程度に粉砕できる粉砕装置であれば、特に限定されない。その中でも、粉末の組成や粒子径を均一にしやすい点で優れた、媒体撹拌ミルまたはビーズミルが好ましい。これらを用いた湿式粉砕方式によることが好適であるが、一次粒子が壊れるほどの強い粉砕は避けることが重要である。
解砕に用いる溶媒としては、イソプロピルアルコール、エタノール、トルエン、メタノール、ヘキサン等が使用できるが、特にイソプロピルアルコールが好ましい。解砕後、最後に所定の目開きのフィルターを用いて、ろ過、乾燥して、本発明の希土類−鉄−窒素系磁石粉末を得ることができる。
【0041】
II 第2の製造方法
本発明の第2の製造方法は、磁石原料となる酸化鉄粉末を水溶媒でスラリー化し、スラリーのpH値が7.0より小さい場合は、アルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩を加えた後、磁石原料となる希土類酸化物粉末を湿式混合し、ろ過後乾燥し混合粉末を得る第一の工程、得られた混合粉末を希土類鉄複合酸化物の生成量が6重量%以下となるように水素熱処理する第二の工程、水素熱処理された混合粉末に還元剤成分としてアルカリ土類金属を所定量添加し、混合して、不活性ガス雰囲気中で、900〜1180℃の温度で熱処理した後、同雰囲気中で冷却することにより希土類−鉄系母合金を得る第三の工程、引き続き、得られた希土類−鉄系母合金に少なくともアンモニアと水素とを含有する混合ガスを導入し、この気流中で所定の温度で熱処理することにより窒化処理する第四の工程、次に得られた窒化処理物を湿式処理し、還元剤成分の副生成物を分離除去し、その後得られた希土類−鉄−窒素系磁石粗粉末を解砕する第五の工程からなる。
【0042】
この第2の製造方法は、水溶媒を用い原料粉末を湿式混合するものであり、この工程以外の工程は第1の製造方法と同じである。すなわち、本発明の第2の製造方法は、酸化鉄を水溶媒中で湿式混合し、少なくともpH値を7.0以上とした後に磁石原料となる希土類酸化物粉末を湿式混合し、ろ過後乾燥し混合粉末を得るようにしている。
【0043】
1. 第1の工程:水溶媒を用いた原料粉末の湿式混合
まず、磁石原料となる酸化鉄と希土類酸化物の粉末、および溶媒としての水を用意する。酸化鉄粉末、希土類酸化物の粉末は、前記したとおりである。また、溶媒である水は、不純物の少ない純水が望ましい。
【0044】
混合の条件は、以下に示す手順で各原料を混合することが必要である。即ち、まず水に酸化鉄粉末のみを分散する。その酸化鉄分散スラリーが、pH値7.0以上である場合は、引き続き希土類酸化物粉末を投入し混合することが出来る。一方、上記条件を満たさない酸化鉄粉末を分散させたスラリーの場合は、これにアルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩を投入し、上記pH条件となるよう調整した後に、前記のように希土類酸化物粉末を投入し、混合する。このとき用いるアルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩は、主に水中でアルカリ性を示すものであればよく、酸化物や水酸化物、窒化物、これらの複合化合物を使用することが出来る。
【0045】
溶媒の水に対し酸化鉄粉末を分散させた時にpH値7.0未満、すなわち酸性を示す場合は、水と酸化鉄粉末と希土類酸化物粉末をどの順序で混合しても必ず希土類酸化物の一部が水中に溶解・再析出し、微細な希土類水酸化物を生成する状態がおきる。このような状況のまま、次の第二の工程で水素熱処理すると、希土類鉄複合酸化物が6重量%以上と多量に形成されてしまい、さらに第三の工程のアルカリ土類金属との還元拡散処理工程で大きな発熱を生じて最終的に保磁力を低下させることがあり、粒子内が窒化不足に陥るほどの局部的な粒成長、粗大粒子の発生を引き起こすこともある。これを確実に防止するために、水を溶媒とする場合には、特に上記手順によりpHを調整することにより希土類酸化物の溶解を防止し、希土類水酸化物の生成を抑制することが重要である。
【0046】
また、湿式混合したスラリーは、ろ過・乾燥させる。ろ過は、真空ろ過やフィルタープレス、遠心分離など一般的なろ過方法で良い。また、乾燥も通常の乾燥方法で、例えば定置乾燥、流動乾燥、気流乾燥、攪拌乾燥、真空乾燥、振動乾燥などどの方法を用いて乾燥することができる。乾燥温度は、複合酸化物の生成を防止するために、300℃以下が好ましく、通常は200℃以下とする。
2.第二の工程〜第五の工程
第二の工程以降は、上記第1の方法と同じである。すなわち、第二の工程では、得られた混合粉末を希土類鉄複合酸化物の生成量が6重量%以下となるように水素熱処理し、第三の工程では、水素熱処理された混合粉末に還元剤成分としてアルカリ土類金属を所定量添加し、混合して、不活性ガス雰囲気中で、900〜1180℃の温度で熱処理した後、同雰囲気中で冷却することにより希土類−鉄系母合金を得る。引き続き、第四の工程で、この希土類−鉄系母合金に少なくともアンモニアと水素とを含有する混合ガスを導入し、この気流中で所定の温度で熱処理することにより窒化処理し、次に、第五の工程で、この窒化処理物を湿式処理し、還元剤成分の副生成物を分離除去し、その後得られた粗粉末を解砕する。
【0047】
III 得られる磁石粉末
上記の本発明の製造方法により得られる希土類−鉄−窒素系磁石粉末は、特有な粒子形状と粒度分布を有しており、優れた磁気特性を発揮するものである。
本発明の希土類−鉄−窒素系磁石粉末は、粒子表面形状、断面を走査型電子顕微鏡(SEM:カールツァイス社、ULTRA55)で観察し、平均粒子径をSympatec社製レーザー回折型粒径分布測定装置で測定すると、長軸粒子径が4μmを越える一次粒子の存在割合は累積個数百分率で5%以下になっている。長軸粒子径が4μmを越える一次粒子の存在割合は、累積個数百分率で3%以下であるとより好ましい。長軸粒子径が4μmを超えるような一次粒子が増えると、断面を確認した際に窒化不足を起こしている粒子が存在している様子が観察される。本発明では、飽和磁化、角形性、保磁力を低下させる要因にもなる大きい粒子が少ないという特徴がある。
磁石粉末の磁気特性は、日本ボンド磁石工業協会、ボンド磁石試験方法ガイドブック、BM−2002、BM−2005に準じて測定される。具体的には、1600A/mの配向磁界をかけてステアリン酸中で希土類−鉄−窒素系磁石粉末を配向させ試料を作製し、4000kA/mの磁界で着磁して測定する。磁石合金粉末の比重を7.67g/cmとし、反磁場補正をせずに最大磁界1200kA/mの振動試料型磁力計を用いて測定すると、飽和磁化:4πIm(T)は、1.40以上、保磁力:iHc(kA/m)は、860以上、角形性:Hk(kA/m)は、410以上となる。そして、上記製造条件を最適化することで、飽和磁化:4πIm(T)は、1.45以上、保磁力:iHc(kA/m)は、890以上、角形性:Hk(kA/m)は、420以上とすることもできる。なお、Hkは、減磁曲線の角形性を表し、第二象限において、磁化4πIが残留磁化4πIrの90%の値を取るときの減磁界の大きさである。
なお、希土類−鉄−窒素系磁石粉末として良好な磁石特性を得るために、第五の工程における湿式処理後の希土類の含有量が、解砕後もそのまま維持されることが好ましく、希土類がサマリウムの場合にはSm量が磁石粉末全量に対し23.2〜23.6重量%であることが好ましい。
【実施例】
【0048】
次に実施例、比較例を用いて本発明をさらに説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。本発明により得られる水素熱処理物中の成分割合、還元拡散の際の発熱挙動、および得られた希土類−鉄−窒素系磁石粉末の粒子形状と粒度分布、磁気特性は次の方法で測定し評価した。
【0049】
(1)水素熱処理物の成分比率
XRDによる粉末X線回折装置を用いて、測定したデータをもとに化合物の同定を行い、それら化合物の存在比率についてリートベルト解析を使用し、半定量値を算出することで、各化合物成分の存在比率を求めた。
(2)発熱挙動
Ca金属による還元拡散の際、R熱電対を反応容器内にセットし、発熱反応の大きさ(発熱量)や最大発熱温度を計測し求めた。
(3)粒子形状
湿式処理及び解砕処理して得られたの希土類−鉄−窒素系磁石粉末の粒子表面形状、断面を走査型電子顕微鏡(SEM:カールツァイス社、ULTRA55)で観察した。
(4)粒度分布
平均粒子径は、Sympatec社製レーザー回折型粒径分布測定装置:ヘロス・ロードスにて測定した。一次粒子の長軸径は、SEM像から1次粒子の粒径を1000倍で撮影した写真を2倍に拡大して、最小メモリ1mmの定規で長さを測定し、粒子の累積個数百分率を求めた。
【0050】
(5)磁気特性
磁石粉末の磁気特性は、日本ボンド磁石工業協会、ボンド磁石試験方法ガイドブック、BM−2002、BM−2005に準じて、1600A/mの配向磁界をかけてステアリン酸中で希土類−鉄−窒素系磁石粉末を配向させ試料を作製し、4000kA/mの磁界で着磁して測定した。
磁石粉末の比重を7.67g/cmとし、反磁場補正をせずに最大磁界1200kA/mの振動試料型磁力計を用いて、飽和磁化:4πIm(T)、保磁力:iHc(kA/m)、角形性:Hk(kA/m)を測定した。Hkは、減磁曲線の角形性を表し、第二象限において、磁化4πIが残留磁化4πIrの90%の値を取るときの減磁界の大きさである。
(6)粉末組成
磁石粉末の粉末組成について、Sm,N,Oについて下記の分析法により、分析した。
Sm: ICP発光分光分析法
N : 不活性ガス−インパルス加熱融解−熱伝導度法(LECO法)
O : 不活性ガス−インパルス加熱融解−赤外吸収法(LECO法)
【0051】
[第1の製造方法]
(実施例1)
磁石原料粉末として、平均粒子径が0.7μmの酸化鉄Fe粉末(Fe純度99%:和光純薬社製)100.0gと、粒径が0.1〜10μmの粉末が全体の96%を占める酸化サマリウムSm粉末(Sm純度99.5%:トーメン社製)31.8gを秤量し、次に500ccのポリ容器中にて秤量した酸化鉄をイソプロピルアルコール130gに分散させスラリー化した。このスラリーに、さらに酸化サマリウムを投入し、これにSUJ2製の直径5/32inchの金属ボールを追加して、ボールミル混合を24時間行った。その後、ポリ容器からスラリーを排出し、金属ボールと分離した後、定置式真空乾燥器にて40℃設定で20時間乾燥した。
乾燥した混合粉末100.0gを箱型雰囲気炉に装入して、水素を25ml/(min・g)流し、昇温速度5℃/minで600℃まで加熱して4時間保持した。その後、室温まで冷却し、内部を空気に置換して水素熱処理物を回収した。
このときの水素熱処理物の一部をXRDにて同定を行い、リートベルト解析で各成分の存在比率を半定量値として算出した。このときの各成分の存在比率は、α―Fe:Sm:SmFeO=65.2:34.0:0.8(重量%)であった。
この水素熱処理物16gに粒度4メッシュ(タイラーメッシュ)以下の金属カルシウム粒(Ca純度99%:ミンテックジャパン製)3.6gを、コンデショニングミキサー(MX−201:シンキー製)で30秒間混合した。
これをステンレススチール反応容器に装入し、容器内をロータリーポンプで真空引きしてArガス置換した後、Arガスを流しながら950℃まで昇温し、8時間保持後、250℃まで炉内でArガスを流通しながら冷却した。このときの発熱挙動について図1に比較例1とあわせて示す。実施例1は、最大発熱温度が956℃で、比較例1の1320℃より低く抑えられている。発熱量も、実施例1は比較例1の約1/4と少ない。
次に、Arガスをアンモニア分圧が0.33のアンモニア−水素混合ガスに切り替えて昇温し、450℃で200分保持し、その後、同温度で水素ガスに切り替えて30分保持し、さらに窒素ガスに切り替えて30分保持し冷却した。
取り出した多孔質塊状の反応生成物を直ちに純水中に投入したところ、崩壊してスラリーが得られた。このスラリーから、Ca(OH)懸濁物をデカンテーションによって分離し、純水を注水後に1分間攪拌し、次いでデカンテーションを行う操作を5回繰り返し、Sm−Fe−N磁石粗粉末スラリーを得た。
得られた磁石粗粉末スラリーを攪拌しながら希酢酸を滴下し、pH5.0に7分間保持した。磁石粗粉末をろ過後、エタノールで数回の掛水洗浄を行い、35℃で真空乾燥することによって、1次粒子および1次粒子同士が焼結したブドウ状の2次粒子からなるSm−Fe−N磁石粗粉末を得た。
このSm−Fe−N磁石粗粉末をエタノール中で振動式ミル(マルチミル:ナルミ技研製)を用い、SUJ2ボール5/32インチ、振動数 30Hz、エタノール中で30分間解砕し、常温真空乾燥した。
得られたSm−Fe−N磁石粉末の磁気特性を前記評価方法により、測定した。分析組成とThZn17型結晶構造の格子定数から算出された粉末のX線密度は7.67g/cmで、この値で飽和磁束密度4πImを換算した。飽和磁束密度(4πIm):1.41T、保磁力(iHc):886kA/m、角形性(Hk)410kA/mであり、高特性の磁気特性が得られた。その結果を表1に示す。
また、粒子表面性状をSEMにて確認したところ、図2のように滑らかな表面状態であり、凝集塊や粗大粒子はほとんど見られなかった。断面による窒化状態も確認したところ、粒子内部まで均一に窒化されていた。このとき、窒化不足であると反射二次電子像において窒化十分な箇所に比べ色が黒く映るため明確に判断できる。さらに、解砕した磁石粉末のSEM像から長軸粒子径が4μmを超える一次粒子の存在割合を累積個数百分率によって算出した結果、1.6%と少なかった。また,この粉末組成は、Sm:23.2重量%、N:3.32重量%、O:0.15重量%、残部Feだった。
【0052】
(実施例2)
実施例1の条件の初期粉末混合時に用いたイソプロピルアルコールをジエチルエーテルに変えた以外は同様にして行った。水素熱処理物中の各成分の存在比率は、α―Fe:Sm:SmFeO=65.1:33.6:2.3(重量%)であった。その後、還元拡散、窒化処理、湿式処理を行い、Sm−Fe−N磁石粗粉末を得た。得られた磁石粗粉末は、1次粒子および1次粒子同士が焼結した、ブドウ状の2次粒子が観察された。
実施例1と同様に解砕後、サンプリングして磁気特性を求めた。また粗大粒子を前記の評価方法でSEM像から評価した。その結果、表1に示すように高特性の磁気特性が得られた。さらに、解砕したSm−Fe−N磁石粉末から長軸径が4μmを超える一次粒子の存在割合を累積個数百分率によって算出した結果、2.0%と少なかった。またこの粉末組成は、Sm:23.5重量%、N:3.35重量%、O:0.16重量%、残部Feだった。
【0053】
(実施例3)
実施例1の条件の初期粉末混合時に用いる溶媒を、工業用として一般に存在する、無水処理されていないエチルアルコールに変えた以外は同様にして行った。この水素熱処理物中の各成分存在比率は、α―Fe:Sm:SmFeO=64.8:33.1:5.8(重量%)であった。その後、還元拡散、窒化処理、湿式処理を行い、Sm−Fe−N粗粉末を得た。得られた磁石粗粉末は、1次粒子および1次粒子同士が焼結した、ブドウ状の2次粒子からなることが観察された。
実施例1と同様に解砕後、サンプリングして磁気特性を求めた。また粗大粒子を前記評価方法でSEM像から評価した。その結果、表1に示すよう高特性の磁気特性が得られた。さらに、解砕したSm−Fe−N磁石粉末から長軸径が4μmを超える一次粒子の存在割合を累積個数百分率によって算出した結果、4.4%と少なかった。また、この粉末組成は、Sm:23.3重量%、N:3.33重量%、O:0.16重量%、残部Feだった。
【0054】
(比較例1)
実施例1で初期粉末混合時に用いた溶媒をイソプロピルアルコールから純水に変えた以外は同様にして行った。水素熱処理物中の各成分存在比率は、α―Fe:Sm:SmFeO=64.8:19.6:15.6(重量%)であった(このとき、湿式混合時の純水に対し酸化鉄を分散させただけでのpHは2.6と酸性を示した)。
その後、還元拡散、窒化処理、湿式処理を行い、Sm−Fe−N粗粉末を得た。還元拡散時の発熱挙動について図1、図3に示す。実施例1や実施例4に比べ、発熱量および最大発熱温度は、はるかに大きいことが分かる。得られた磁石粗粉末は、1次粒子および1次粒子同士が焼結した、ブドウ状の2次粒子、さらに大きい一次粒子体が観察された。実施例1と同様に解砕後、サンプリングして磁気特性を求めた。飽和磁化(4πIm): 1.37T、保磁力(iHc): 704kA/m、角形性(Hk):367kA/mであった。その結果を表1に示すが、実施例に比べいずれの磁気特性も低下していた。
また、粒子表面性状をSEMにて確認したところ、図2のように弱粉砕のため滑らかな表面状態であるが、凝集塊や粗大粒子が見られる。断面による窒化状態も確認したところ粒子内部まで均一に窒化されていない粗大粒子も認められる。このとき、窒化不足であると反射二次電子像において窒化十分な箇所に比べ色が黒く映るため明確に判断できる。さらに、解砕したSm−Fe−N磁石粉末のSEM像から長軸粒子径が4μmを超える一次粒子の存在割合を累積個数百分率によって算出した結果、9.3%と多かった。また、この粉末組成は、Sm:23.3重量%、N:3.31重量%、O:0.16重量%、残部Feだった。
【0055】
(比較例2)
実施例3の条件の初期粉末混合時に用いた工業用エチルアルコールに、さらに純水溶媒を10g加えるように変えた以外は同様にして行った。水素熱処理物中の各成分存在比率は、α―Fe:Sm:SmFeO=65.4:27.4:7.2(重量%)であった。その後、還元拡散、窒化処理、湿式処理を行い、Sm−Fe−N粗粉末を得た。得られた磁石粗粉末は、1次粒子および1次粒子同士が焼結した、ブドウ状の2次粒子、さらに大きい一次粒子が観察された。実施例1と同様に解砕後、サンプリングして磁気特性を求めた。その結果を表1に示すが、実施例に比べいずれの磁気特性も低下していた。さらに、解砕したSm−Fe−N磁石粉末のSEM像から長軸粒子径が4μmを超える一次粒子の存在割合を累積個数百分率によって算出した結果、5.7%と多かった。また、この粉末組成は、Sm:23.5重量%、N:3.34重量%、O:0.17重量%、残部Feだった。
【0056】
(比較例3)
実施例1の条件の初期粉末混合時に湿式混合をせず、徳寿工作所製ジュリアミキサーによる乾式混合に変えた以外は同様にして行った。水素熱処理物中の各成分存在比率は、α―Fe:Sm:SmFeO=64.5:33.0:4.5(重量%)であった。その後、還元拡散、窒化処理、湿式処理を行い、Sm−Fe−N粗粉末を得た。得られた磁石粗粉末は、1次粒子および1次粒子同士が焼結した、ブドウ状の2次粒子であることが観察された。
実施例1と同様に解砕後、サンプリングして磁気特性を求めた。その結果を表1に示すが、実施例に比べいずれの磁気特性も低下していた。また、粒子表面性状をSEMにて確認したところ、図2のように滑らかな表面状態であり、凝集塊や粗大粒子は、ほとんど見られなかったが、細かい微粉が粒子表面に若干見受けられた。断面による窒化状態も確認したところ粒子内部まで窒化されてはいるが、Smの濃度に分布が生じておりSm濃度の濃いことを示す白い部分が粒子内部に見つかった。さらに、解砕した磁石粉末のSEM像から長軸粒子径4μmを超える一次粒子の存在割合を累積個数百分率によって算出した結果、3.4%と実施例と同等のレベルであった。また、この粉末組成は、Sm:23.4重量%、N:3.36重量%、O:0.14重量%、残部Feだった。
【0057】
(比較例4)
実施例1の条件の初期粉末混合時に湿式混合をせず、以下の晶析法に変えた以外は同様にして行った。
「晶析法」
無水塩化サマリウムSmClと無水塩化鉄FeClを所望の組成比となるように秤量し、10Lの純粋中に合計3kg攪拌溶解させ原液とした。邪魔板付きの反応用容器中に、この原液を全量投入後、攪拌を続けながら10wt%の濃度に調整したNaOH水溶液をゆっくり滴下してpHが10以上になったことを確認し、これを終点とみなして回収し、ろ過洗浄ののち乾燥させ平均粒子径1.9μmのFe−Sm共沈水酸化物の粉末を得た。
水素熱処理後の成分存在比率は、α―Fe:Sm:SmFeO=61.2:12.9:25.9(重量%)で、SmFeOの生成量が特に多かった。その後、還元拡散、窒化処理、湿式処理を行い、Sm−Fe−N粗粉末を得た。得られた磁石粗粉末は、1次粒子および1次粒子同士が焼結した、ブドウ状の2次粒子、さらに大きい粗大粒子が観察された。
実施例1と同様に解砕後、サンプリングして磁気特性を求めた。その結果を表1に示すが、実施例に比べいずれの磁気特性も低下していた。さらに、解砕した磁石粉末のSEM像から、長軸粒子径が4μmを超える一次粒子の存在割合を累積個数百分率によって算出した結果、14.6%と特に多かった。また、この粉末組成は、Sm:23.5重量%、N:3.32重量%、O:0.17重量%、残部Feだった。
【0058】
【表1】

【0059】
[第2の製造方法]
(実施例4)
磁石原料粉末として、平均粒子径が1.2μmに調整した酸化鉄Fe粉末(高純度化学社製)100.0gと、粒径が0.1〜10μmの粉末が全体の96%を占める酸化サマリウムSm粉末(関東化学社製)31.8gを秤量し、次に500ccのポリ容器中にて秤量した酸化鉄を純水130gに分散させスラリー化した。このときpHは7.2を示したことから、さらに酸化サマリウムを投入し、これにSUJ2製の直径5/32inchの金属ボールを追加してボールミル混合を24時間行った。その後、ポリ容器からスラリーを排出し、金属ボールと分離し、ろ過した後、定置式真空乾燥器にて40℃設定で20時間乾燥した。
乾燥した混合粉末100.0gを箱型雰囲気炉に装入して、水素を25ml/(min・g)流し、昇温速度5℃/minで600℃まで加熱して4時間保持した後、室温まで冷却し、内部を空気に置換して水素還元物を回収した。
このときの水素熱処理物の一部をXRDにて同定を行い、リートベルト解析でその各成分の存在比率を半定量値として算出した。このときの成分存在比率は、α―Fe:Sm:SmFeO=67.3:27.5:5.2(重量%)であった。
この水素熱処理物16gに、粒度4メッシュ(タイラーメッシュ)以下の金属カルシウム粒(Ca純度99%:ミンテックジャパン製)3.6gを、コンデショニングミキサー(MX−201:シンキー製)で30秒間混合した。
これをステンレススチール反応容器に装入し、容器内をロータリーポンプで真空引きしてArガス置換した後、Arガスを流しながら950℃まで昇温し、8時間保持後、250℃まで炉内でArガスを流通しながら冷却した。このときの発熱挙動について図3に比較例1とあわせて示す。実施例4は、最大発熱温度は1102℃で、比較例1の1320℃より低く抑えられている。発熱量も、実施例4は比較例1の約1/2と少ない。
次に、Arガスをアンモニア分圧が0.33のアンモニア−水素混合ガスに切り替えて昇温し、450℃で200分保持し、その後、同温度で水素ガスに切り替えて30分保持し、さらに窒素ガスに切り替えて30分保持し冷却した。
取り出した多孔質塊状の反応生成物を直ちに純水中に投入したところ、崩壊してスラリーが得られた。このスラリーから、Ca(OH)懸濁物をデカンテーションによって分離し、純水を注水後に1分間攪拌し、次いでデカンテーションを行う操作を5回繰り返し、Sm−Fe−N磁石粗粉末スラリーを得た。
得られた磁石粗粉末スラリーを攪拌しながら希酢酸を滴下し、pH5.0に7分間保持した。磁石粗粉末をろ過後、エタノールで数回の掛水洗浄を行い、35℃で真空乾燥することによって、1次粒子および1次粒子同士が焼結したブドウ状の2次粒子からなるSm−Fe−N磁石粗粉末を得た。
得られた磁石粗粉末をエタノール中で振動式ミル(マルチミル:ナルミ技研製)を用い、SUJ2ボール5/32インチ、振動数 30Hz、エタノール中で30分間解砕し、常温真空乾燥した。
得られたSm−Fe−N磁石粉末の磁気特性を、実施例1と同様に評価した。その結果、表2に示すように高特性の磁気特性が得られた。さらに、解砕したSm−Fe−N磁石粉末のSEM像から、長軸粒子が径4μmを超える一次粒子の存在割合を累積個数百分率によって算出した結果、4.0%と少なかった。また、この粉末組成は、Sm:23.3重量%、N:3.32重量%、O:0.16重量%、残部Feだった。
【0060】
(実施例5)
実施例4の条件の磁石原料粉末を変え、平均粒子径を0.7μmに調整した酸化鉄Fe粉末(和光純薬社製)100.0gと、粒径0.1〜10μmの粉末が全体の96%を占める酸化サマリウムSm粉末(関東化学社製)31.8gを秤量し、次に500ccのポリ容器中にて秤量した酸化鉄を純水130gに分散させスラリー化した。このときpHは2.3を示したことから、ここに酸化カルシウム(関東化学社製)を粉末添加しpHを8.1とした後、さらに酸化サマリウムを投入し、これにSUJ2製の直径5/32inchの金属ボールを追加してボールミル混合を24時間行った。以降は実施例1と同様にして行い、水素熱処理を行ったところ、各成分の存在比率は、α―Fe:Sm:SmFeO=67.8:28.9:3.3(重量%)であった。その後、還元拡散、窒化処理、湿式処理を行い、Sm−Fe−N粗粉末を得た。得られた粉末は、1次粒子および1次粒子同士が焼結した、ブドウ状の2次粒子であることが観察された。
実施例4と同様に解砕後、サンプリングして磁気特性を求めた。その結果、表2に示すように、高特性の磁気特性が得られた。さらに、解砕したSm−Fe−N磁石粉末のSEM像から、長軸粒子径が4μmを超える一次粒子の存在割合を累積個数百分率によって算出した結果、3.1%と少なかった。また、この粉末組成は、Sm:23.4重量%、N:3.35重量%、O:0.16重量%、残部Feだった。
【0061】
(実施例6)
実施例5の条件において酸化カルシウムを窒化カルシウム粉末(和光純薬社製)とし、pHを2.3から9.3になるように添加するように変えた以外は実施例1と同様にして行った。水素熱処理物の各成分の存在比率は、α―Fe:Sm:SmFeO=68.2:33.0:1.8(重量%)であった。その後還元拡散、窒化処理、湿式処理を行い、Sm−Fe−N粗粉末を得た。得られた粉末は、1次粒子および1次粒子同士が焼結した、ブドウ状の2次粒子であることが観察された。
実施例4と同様に解砕後、サンプリングして磁気特性を求めた。その結果、表2に示すように、高特性の磁気特性が得られた。さらに、解砕したSm−Fe−N磁石粉末のSEM像から、長軸粒子径が4μmを超える一次粒子の存在割合を累積個数百分率によって算出した結果、1.2%と少なかった。また、この粉末組成は、Sm:23.5重量%、N:3.33重量%、O:0.14重量%、残部Feだった。
【0062】
(実施例7)
実施例5の条件において酸化カルシウムを水酸化ナトリウム(関東化学社製)とし、pHを2.3から8.6になるように添加するように変更し、さらにろ過後にメタノール置換を行い乾燥させた以外は実施例4と同様にして行った。水素熱処理物の各成分の存在比率は、α―Fe:Sm:SmFeO=68.0:29.6:2.4(重量%)であった。その後、還元拡散、窒化処理、湿式処理を行い、Sm−Fe−N粗粉末を得た。得られた粉末は、1次粒子および1次粒子同士が焼結した、ブドウ状の2次粒子であることが観察された。
実施例4と同様に解砕後、サンプリングして磁気特性を求めた。その結果、表2に示すように、高特性の磁気特性が得られた。さらに、解砕したSm−Fe−N磁石粉末のSEM像から、長軸粒子径が4μmを超える一次粒子の存在割合を累積個数百分率によって算出した結果、2.0%と少なかった。また、この粉末組成は、Sm:23.3重量%、N:3.33重量%、O:0.14重量%、残部Feだった。
【0063】
【表2】

【0064】
「評価」
表1に示した結果より、実施例1〜3では、原料粉の湿式混合時に市販の有機溶媒を使用することで、微細な希土類水酸化物の水酸化サマリウムの生成が防止され、更に次の第二の工程における水素熱処理時に希土類鉄複合酸化物であるSmFeO生成量を抑え、その結果、最終的に得られるSm―Fe―N磁石粉末中の粗大粒子である長軸粒子径が4μmを超える一次粒子の存在割合を抑え、磁気特性を良好にすることが可能となっている。
また、比較例1は、溶媒として純水を用いているが、SmFeOは急激に上昇し、粗大粒子量および磁気特性全般の低下が確認された。これは上述のように純水に対し酸化鉄を分散させたところpH=2.6を示す酸性のスラリーとなり、ここにSmを投入・分散させると、pHは中性を超えアルカリ性に達するが水酸化サマリウムが10重量%以上も多量に生成される。この水酸化サマリウムの生成が、次に行われる第二の工程の水素熱処理において、希土類鉄複合酸化物であるSmFeOが生成される駆動力となり、15.6重量%のSmFeO生成となっている。これにより還元拡散時の発熱の増大およびそれに伴う粒成長により、最終的に得られたSm―Fe―N磁石粉末中の粗大粒子である長軸粒子径が4μmを超える一次粒子の存在割合が増加(9.3%)し、保磁力低下、窒化処理時の窒素拡散不足による飽和磁化、角形性低下を引き起こしたといえる。
比較例2は、有機溶媒として実施例3と同様に工業用エタノールを使用し、さらに純水を10g追加している。このように有機溶媒に水分が多く含まれると希土類鉄複合酸化物のSmFeOは7.2重量%と多くなり、粗大粒子の長軸粒子径が4μmを超える一次粒子の存在割合が増加(5.7%)し、保磁力や角形性を低下させたといえる。
比較例3では、乾式混合による混合処理をしており、混合時に、大気中の水分との反応でわずかに水酸化サマリウムが生成するのみで、次の第二の工程である水素熱処理工程で希土類鉄複合酸化物のSmFeOが生成し存在しているが、その存在比率は4.5重量%で、本発明の実施例と同等程度に少なかった。また、最終的に得られた磁石粉末の粗大粒子の長軸粒子径4μmを超える一次粒子の存在割合も実施例と同等の3.4%と少なかった。これは、乾式混合であるために、実施例と同様に水酸化サマリウムの生成が少ないため、還元拡散工程でのテルミット発熱が非常に小さく、局部的な粒成長が起こらなかったことによると考えられる。しかし、乾式混合の混合効果が湿式混合に比較し乏しいことから、SmとFeとが均一に分散した状態とならず、その後の還元拡散時に、未反応のSmが残ったり、均一な拡散が行われずミクロな視野では生成物の組成がばらついてしまうことから、粗大粒子が少ないにも関わらず、磁気特性全般に悪影響を与えたと考えられる。
比較例4では、反応晶析によってFe−Sm共沈の水酸化物を製造してこれを使用するが、通常はこれを一度1100℃大気中で高温熱処理をしてSmFeOに変換してから還元工程に入る。しかし、この方法でも電気消費量に無駄が生じるほか、希土類塩化物は高価であり、さらに仕込みの化学組成上、Smも多量に残ることとなる。本比較例においても、高温熱処理をせず水酸化物を直接水素熱処理に持ち込んでいるが、結果的に共沈とはいえ、ミクロな面では水酸化鉄と水酸化サマリウムの混在した二次粒子体であるため、希土類水酸化物による駆動力でやはりSmFeOは水素熱処理時に多量に生成する。この場合、希土類元素が全量水酸化物となっているためSmFeOの生成量は最も大きく25.9重量%となり、その後の還元拡散でのテルミット発熱も非常に大きくなる。したがって、粗大粒子の長軸粒子径が4μmを超える一次粒子の存在比率は14.6%と非常に大きくなり、結果として磁気特性全般で悪影響を及ぼしてしまうことが分かる。
【0065】
一方、表2に示した結果より、水溶媒を用いた実施例4〜7では、原料粉の湿式混合時に、酸化鉄を分散させたスラリー水のpH値が酸性を示したが、その後、アルカリ性を示すようにアルカリ金属塩あるいはアルカリ土類金属塩を添加したので、いずれも微細な希土類水酸化物の水酸化サマリウムの生成が防止され、更に次の第二の工程における水素熱処理工程で、希土類鉄複合酸化物(SmFeO)生成量を抑えることができ、その結果、最終的に粗大粒子長軸粒子径4μmを超える一次粒子の存在割合を抑えた希土類―鉄―窒素系磁石粉末が得られ、磁気特性を良好にしていることが分かる。
これに対して、同様に溶媒として純水を用いている比較例1は、前記のとおり、SmFeOが急激に上昇し、粗大粒子量および磁気特性が全般に低下した。これは純水に対し酸化鉄を分散させた時点でpH=2.6を示す酸性のスラリーとなり、ここにSmを投入・分散させたので、pHは中性を超えアルカリ性に達するが水酸化サマリウムが10重量%以上も多量に生成されたためである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁石原料となる酸化鉄粉末と希土類酸化物粉末を所定量の割合で混合し、有機溶媒中で湿式処理し、ろ過後乾燥し混合粉末を得る第一の工程、得られた混合粉末を希土類鉄複合酸化物の生成量が6重量%以下となるように水素熱処理する第二の工程、水素熱処理された混合粉末に還元剤成分としてアルカリ土類金属を所定量添加し、混合して、不活性ガス雰囲気中で、900〜1180℃の温度で熱処理した後、同雰囲気中で冷却することにより希土類−鉄系母合金を得る第三の工程、引き続き、得られた希土類−鉄系母合金に少なくともアンモニアと水素とを含有する混合ガスを導入し、この気流中で所定の温度で熱処理することにより窒化処理する第四の工程、次に得られた窒化処理物を湿式処理し、還元剤成分の副生成物を分離除去し、その後得られた粗粉末を解砕する第五の工程からなる希土類―鉄―窒素系磁石粉末の製造方法。
【請求項2】
磁石原料となる酸化鉄粉末を水溶媒でスラリー化し、スラリーのpH値が7.0より小さい場合は、アルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩を加えた後、磁石原料となる希土類酸化物粉末を湿式混合し、ろ過後乾燥し混合粉末を得る第一の工程、得られた混合粉末を希土類鉄複合酸化物の生成量が6重量%以下となるように水素熱処理する第二の工程、水素熱処理された混合粉末に還元剤成分としてアルカリ土類金属を所定量添加し、混合して、不活性ガス雰囲気中で、900〜1180℃の温度で熱処理した後、同雰囲気中で冷却することにより希土類−鉄系母合金を得る第三の工程、引き続き、得られた希土類−鉄系母合金に少なくともアンモニアと水素とを含有する混合ガスを導入し、この気流中で所定の温度で熱処理することにより窒化処理する第四の工程、次に得られた窒化処理物を湿式処理し、還元剤成分の副生成物を分離除去し、その後得られた粗粉末を解砕する第五の工程からなる希土類―鉄―窒素系磁石粉末の製造方法。
【請求項3】
第一の工程における有機溶媒が、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、n‐ブチルアルコール、ジメチルエーテル、エチルメチルエーテル、ジエチルエーテル、エチルメチルケトン、またはジエチルケトンから選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする請求項1又は2に記載の希土類―鉄―窒素系磁石粉末の製造方法。
【請求項4】
第一の工程において、混合粉末の乾燥温度が300℃以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の希土類―鉄―窒素系磁石粉末の製造方法。
【請求項5】
第二の工程において、混合粉末が500〜800℃で、1〜8時間かけて水素熱処理されることを特徴とする請求項1又は2に記載の希土類―鉄―窒素系磁石粉末の製造方法。
【請求項6】
第三の工程において、さらに、還元拡散反応後の反応生成物に対して、雰囲気ガスを不活性ガスとしたまま、引き続き300℃以下に冷却することを特徴とする請求項1又は2に記載の希土類―鉄―窒素系磁石粉末の製造方法。
【請求項7】
第五の工程において、湿式処理及び解砕して得られる粉末は、4μmを越える1次粒子径が累積個数百分率で5%未満であることを特徴とする請求項1又は2に記載の希土類―鉄―窒素系磁石粉末の製造方法。
【請求項8】
希土類―鉄―窒素系磁石粉末は、希土類としてSmを含み、その含有量が磁石粉末全体に対して23.2〜23.6重量%であることを特徴とする請求項1又は2に記載の希土類―鉄―窒素系磁石粉末の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−270379(P2010−270379A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−125262(P2009−125262)
【出願日】平成21年5月25日(2009.5.25)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】