希土類焼結磁石およびその製造方法
【課題】Dy等を内部まで効率的に拡散させ、保磁力を大幅に向上させた希土類焼結磁石が得られる製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の希土類焼結磁石の製造方法は、一種以上の希土類元素(R)とBとFeを含む磁石合金粉末を成形した成形体を焼結させてなる希土類焼結磁石の製造方法であって、R2Fe14B型金属間化合物の生成エネルギー(E1)が磁石合金粉末中に最も多く含まれる希土類元素である主元素(Rm)よりも小さく焼結体へ拡散させる希土類元素である拡散元素(Rd)よりも大きい希土類元素である中間元素(Rc)を、Rdの拡散前の焼結体の少なくとも表面部に存在させる拡散予備工程を備えることを特徴とする。Dy等のRdを拡散させる前の焼結体中に、Y等のRcを存在させておくことにより、Rdが焼結体の内部深くまで拡散して希土類焼結磁石の保磁力効率が大幅に改善される。
【解決手段】本発明の希土類焼結磁石の製造方法は、一種以上の希土類元素(R)とBとFeを含む磁石合金粉末を成形した成形体を焼結させてなる希土類焼結磁石の製造方法であって、R2Fe14B型金属間化合物の生成エネルギー(E1)が磁石合金粉末中に最も多く含まれる希土類元素である主元素(Rm)よりも小さく焼結体へ拡散させる希土類元素である拡散元素(Rd)よりも大きい希土類元素である中間元素(Rc)を、Rdの拡散前の焼結体の少なくとも表面部に存在させる拡散予備工程を備えることを特徴とする。Dy等のRdを拡散させる前の焼結体中に、Y等のRcを存在させておくことにより、Rdが焼結体の内部深くまで拡散して希土類焼結磁石の保磁力効率が大幅に改善される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気特性(特に保磁力)や耐減磁性等に優れる希土類焼結磁石およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
NdFeB系を代表とする希土類焼結磁石は、非常に高い磁気特性を示す。この希土類焼結磁石を用いると、電磁機器や電動機の小型化、高出力化、高密度化さらには環境負荷の低減化等を図ることが可能となり、幅広い分野で希土類焼結磁石の利用が進みつつある。もっともその利用拡大には、希土類焼結磁石の優れた磁気特性が厳しい環境下でも長期的に安定して発揮されることが必要となる。つまり、希土類焼結磁石の高磁束密度を維持または向上させつつ、保磁力または耐減性等を高めることが必要となる。
【0003】
そこで異方性磁界(Ha)の大きな希土類元素であるジスプロシウム(Dy)やテルビウム(Tb)などを、主相(Nd2Fe14B型結晶)の粒界またはその主相からなる磁石合金粒子の粒界へ拡散させることなどがよく行われる。そして、その拡散効率を向上させるための提案が種々なされており、例えば下記のような文献に関連した記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開公報WO2006/043348
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】日本応用磁気学会第147回研究会資料:中村元:13〜18頁(2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1および非特許文献1は、ジスプロシウムフッ化物(DyF3)を希土類焼結磁石の表面に塗布し、加熱することによって、Dyを効率的に拡散させることを提案している。しかし本発明者の調査によれば、そのような方法では、Dyが効率的に粒界拡散せず、希土類焼結磁石の保磁力はあまり向上しない。そのような拡散処理では、Dyが焼結磁石の最表面近傍に集中し、過剰なDyが主相内に体拡散(固溶等)してしまう結果、却って、効率的な粒界拡散の進行が阻害されるためと考えられる。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑みて為されたものであり、従来よりもDy等を効率的に粒界拡散させて、保磁力や耐減磁性等を一層向上させ得る希土類焼結磁石およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者はこの課題を解決すべく鋭意研究し試行錯誤を重ねた結果、例えばNdFeB系の焼結磁石の主相へDyを拡散させる場合、その拡散処理前の焼結体内へ、フッ化イットリウム(YF3)を予め分散または拡散させておくと、焼結磁石の表面部の近傍において、Dyの過剰な集中や体拡散を抑制できることを新たに見出した。このような成果を発展させることにより、以降に述べるような本発明を完成するに至った。
【0009】
《希土類焼結磁石の製造方法》
(1)すなわち、本発明の希土類焼結磁石の製造方法は、一種以上の希土類元素(以下「R」とも表す。)とホウ素(B)と鉄(Fe)を含む磁石合金粉末を用いて原料粉末を調製する調製工程と、該原料粉末を成形して成形体を得る成形工程と、該成形体を焼結させて焼結体を得る焼結工程とを備え、該焼結体からなる希土類焼結磁石の製造方法であって、
R2Fe14B型金属間化合物の生成エネルギーが前記磁石合金粉末中に最も多く含まれる希土類元素である主元素(以下「Rm」とも表す。)よりも小さく前記焼結体へ拡散させる希土類元素である拡散元素(以下「Rd」とも表す。)よりも大きい希土類元素である中間元素(以下「Rc」とも表す。)を、該Rdの拡散前の焼結体の少なくとも表面部に存在させる拡散予備工程を備えることを特徴とする。
【0010】
(2)また本発明は、RとBとFeを含む磁石合金粉末を用いて原料粉末を調製する調製工程と、該原料粉末を成形して成形体を得る成形工程と、該成形体を焼結させて焼結体を得る焼結工程とを備え、該焼結体からなる希土類焼結磁石の製造方法であって、
R2O3型酸化物の生成エネルギー(E2)がRmおよびRdよりも小さい希土類元素であるRcを、該Rdの拡散前の焼結体の少なくとも表面部に存在させる拡散予備工程を備えることを特徴とする希土類焼結磁石の製造方法でもよい。
【0011】
(3)本発明の製造方法によれば、保磁力の向上に有効なRd(例えば、Dy、Tb)を焼結磁石の内部深くにある粒界等にまで有効に拡散させることができ、貴重なRd(Dy等)の使用量を抑制しつつ、希土類焼結磁石の保磁力や耐減磁性等を効率的に向上させ得る。このように優れた希土類焼結磁石が得られる理由やメカニズムは必ずしも定かではないが、現状では次のように考えられる。
【0012】
例えばDyを希土類焼結磁石へ拡散させると、Dyの異方性磁界が大きいことに加えて、Dyが界面における逆磁区の生成や磁壁移動を抑制して、希土類焼結磁石の保磁力が向上すると考えられている。このため従来からDy等のRdを粒界拡散させることが行われてきた。しかし、従来の方法では、Rdが希土類焼結磁石の表面(Rdの導入面)近傍に過度に集中して、焼結磁石の内部深くまでは粒界拡散せずに、主相(R2Fe14B型結晶)の内部へ入り込む体拡散を生じることが本発明者の研究により明らかとなった。
【0013】
このような現象が生じる理由として、RdがRmよりも、主相を構成するR2Fe14B型金属間化合物や酸化物を生成し易いことが考えられる。いいかえるなら、Rdは、R2Fe14B型金属間化合物の生成エネルギー(以下単に「生成エネルギーE1」ともいう。)やR2O3型酸化物の生成エネルギー(以下単に「生成エネルギーE2」ともいう。)がRmよりも相当小さい。
【0014】
このため拡散処理により導入されたRdは、粒界や主相の界面近傍に多く存在するRmと急速に置換する。具体的には、Rm2Fe14B → Rd2Fe14BまたはRm2O3 → Rd2O3などを生じる。この結果、Rdは、拡散面近傍(焼結体の表面部内)に過度に集中し、その領域に捕捉される。こうしてRdは、その表面部よりも深くへ拡散し難くなる。
【0015】
またRdの集中領域では、その過剰なRdがさらに主相内にあるRmとも置換等を始め、いわゆる体拡散が進行する。主相内のRdによる保磁力の向上効果は小さいので、Rdの拡散量に対する保磁力の増加量の割合(保磁力効率)は低下する。
【0016】
(4)そこで先ず、本発明の拡散予備工程では、生成エネルギーE1がRmよりも低いRcを、Rdの拡散処理前の焼結体内へ予め導入させた。このRcが介在することにより、主相の界面近傍のRmはRcへ少なくとも部分的に一旦置換される。これにより、Rcが存在する近傍にある主相は、中核であるRm2Fe14B型結晶が、Rc2Fe14B型結晶または(Rc、Rm)Fe14B型結晶からなるシェル状の外郭部で被包された状態になる(図1A参照)。
【0017】
この外郭部へ生成エネルギーE1がRcよりもさらに小さいRdが拡散してくると、そのRcはRdへさらに置換される。その結果、前記の外郭部は、Rc2Fe14B型結晶または(Rc、Rm)Fe14B型結晶から、Rd2Fe14B型結晶または(Rd、Rm)Fe14B型結晶へ変化する。こうして、Rdが主相の界面または粒界に拡散した所望の状態が得られる(図1A参照)。
【0018】
このように主相または磁石合金粒子の界面または粒界へRdを拡散させる際に、Rcを介在させてRmをRdへ間接的または二段階的に置換させると、生成エネルギーE1の格差が大きいRmからRdへの直接的な置換が生じる場合に比べて、その反応が緩やかに進行する。その結果、Rdの主相内部への体拡散が抑制され、従来であれば体拡散に浪費されていたRdが粒界拡散へ有効活用されることになる。このようにRcは、まるで、Rdの体拡散を阻害するように作用し、さらにはRdの主相内部への侵入を防ぐ障壁または保護膜になる。
【0019】
(5)次にRdの粒界拡散を阻害するもう一つの要因として、焼結体の内部でRdの酸化物(例えばRd2O3)が生成され、焼結体の表面部でRdが捕捉される場合がある。
もし焼結体の内部で、Rdの酸化物よりも安定な別の酸化物(以下「安定酸化物」という。)が生成される状況にあると、Rdは焼結体の表面部等に捕捉されずに、より内部深くまで粒界拡散し得る。
【0020】
そこで、生成エネルギーE2がRdよりもさらに小さいRcを、Rd拡散前の焼結体内に存在させておけば好ましい。これにより、Rdの拡散経路等において、OはRc2O3等として安定的に捕捉され、OによるRdの捕捉(Rd2O3等の生成によるRdの浪費が酸化物となることによる)が抑制され、Rdの粒界拡散が促進されて、Rdによる保磁力効率や拡散効率が向上する。
【0021】
しかも、生成エネルギーE1がRmよりも小さくてRdよりも大きく、かつ、生成エネルギーE2がRmおよびRdよりも小さいRcを、拡散予備工程で焼結体内に存在させておくと、上述したRdの体拡散とRdのOによる捕捉が共に抑止され、Rdによる保磁力効率や拡散効率は相乗的に向上する。この場合、主相の外郭部におけるRcからRdへの置換反応と、それによって放出されたRcが安定酸化物になる酸化反応とは、連携して進み易い。
【0022】
(6)なお、安定酸化物は、生成エネルギーE2の小さなRcによる場合の他、安定酸化物の形成する別の補助元素によっても良い。このような補助元素として例えばフッ素(F)がある。焼結磁石の磁気特性や本発明の製造方法を考慮すると、希土類元素のフッ化物を用いるのが好ましく、より具体的にはRcフッ化物、Rmフッ化物またはRdフッ化物が好ましい。
【0023】
いずれにしろ本発明によれば、焼結磁石へRdを拡散させる際に、焼結磁石の表面部にRdが過剰に集積したり、Rdが主相内へ拡散(いわゆる体拡散)したりすることが抑制される。従って本発明の製造方法によれば、希土類焼結磁石の表面部から内部深くまでRdを効率的に粒界拡散させることができる。そして稀少なRdの使用量を抑制しつつ、保磁力に優れる希土類焼結磁石を得ることができる。
【0024】
《希土類焼結磁石》
(1)本発明は、上述した製造方法としてのみならず、その製造方法により得られた希土類焼結磁石としても把握される。また本発明は、その他、次のような希土類焼結磁石としても把握される。すなわち本発明は、一種以上のRとBとFeを含む磁石合金粒子が焼結した焼結体からなる希土類焼結磁石であって、前記焼結体の少なくとも表面部には、前記焼結した磁石合金粒子の外周囲に、R2Fe14B型金属間化合物の生成エネルギーが前記磁石合金粒子中に最も多く含まれる希土類元素である主元素(Rm)よりも小さく前記焼結体へ拡散させる希土類元素である拡散元素(Rd)よりも大きい希土類元素である中間元素(Rc)を含んだRc濃化部が存在することを特徴とする希土類焼結磁石であってもよい。
【0025】
(2)Rc濃化部は、焼結した磁石合金粒子の外周囲において、Rcの濃度が大きい部分である。この濃化部は、磁石合金粒子や主相の外郭部の他、磁石合金粒子間に形成される間隙部(三重点等)でもよい。
【0026】
Rc濃化部の形態や組成等は、Rdの拡散処理の有無やRcの焼結体への導入方法によって異なり得る。Rcフッ化物粒子を介してRcを焼結体内へ導入した場合、Rc濃化部はRc酸フッ化物を含み得る。Rc酸フッ化物は、例えば、RcOFまた(Rc、R’)OFである。「R’」はRc以外の希土類元素である。RcがYの場合なら、Rc酸フッ化物は、例えば、イットリウム酸フッ化物(YOF)である。このような酸フッ化物の形成により、各工程で不可避に介在するOが捕捉されて安定的に固定される。またRmが一般的なNdである場合、Rc濃化部は、ネオジム酸フッ化物(NdOF、(Nd、Rc)OF)などを含む。いずれにしてもOが酸フッ化物によって確実に捕捉される結果、Rdが焼結磁石の内部深くまで粒界拡散し、高い保磁力効率を示す希土類焼結磁石が得られる。
【0027】
《具体的表現》
上述した本発明は、その一例として、RmをNdおよび/またはPr、RdをDyおよび/またはTb、RcをYとした場合、具体的には次のように表現される。先ず本発明は、Ndおよび/またはPrとBとFeを含む磁石合金粉末を用いて原料粉末を調製する調製工程と、該原料粉末を成形して成形体を得る成形工程と、該成形体を焼結させて焼結体を得る焼結工程とを備え、該焼結体からなる希土類焼結磁石の製造方法であって、Dyおよび/またはTbの拡散前の焼結体の少なくとも表面部にYを存在させる拡散予備工程を備えることを特徴とする希土類焼結磁石の製造方法と表現される。次に本発明は、Ndおよび/またはPrとBとFeを含む磁石合金粒子が焼結した焼結体からなる希土類焼結磁石であって、前記焼結体の少なくとも表面部には、前記焼結した磁石合金粒子の外周囲にYを含んだY濃化部が存在することを特徴とする希土類焼結磁石と表現される。
【0028】
《その他》
(1)本発明でいう各希土類元素の「R2Fe14B型金属間化合物の生成エネルギー(E1)」の大小は、希土類焼結磁石を構成するR2Fe14B型金属間化合物を電子線マイクロアナライザ(EPMA)で分析し、得られたEPMA像を各希土類元素について対比観察することにより判定できる。具体的にいえば、Raから主になるR2Fe14B型金属間化合物(主相)中に、少なくともRbが存在している様子がEPMA像から観察されるとき、E1の大小関係に基づき、主相中でRaとRbとの置換等が生じたと考えられるので、(RbのE1)<(RaのE1)と推定される。代表的な希土類元素の生成エネルギーE1の大小関係を挙げると、例えば、Y<Ho<Er<(Dy、Tb)<(Nd、Pr)となる。具体例を挙げると、E1の大小に関して、後述する図2A、図2Bおよび図5からY<Ndと推定でき、図3Aおよび図3BよりDy<Yと推定でき、図4Aおよび図4BよりDy<Ndと推定できる。これらを総合して、E1の大小は、Dy(Rd)<Y(Rc)<Nd(Rm)と推定される。
【0029】
本発明でいう各希土類元素の「R2O3型酸化物の生成エネルギー(E2)」は図9に示す酸化物生成標準ギブスエネルギー線図により求められる。この線図の出典は、日本鉄鋼協会著「鉄鋼便覧I(基礎)」丸善(1981)P.6−8である。本発明でいうR2O3型酸化物の生成エネルギーE2の大小は1000Kにおける値に基づく。代表的な希土類元素の生成エネルギーE2を異方性磁界(Ha)と共に表3に示した。
【0030】
(2)本明細書で単に「希土類元素(R)」という場合、希土類元素一般を意味する。具体的にいうと、Rは、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタノイドを含む。ランタノイドは、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)およびルテチウム(Lu)などのいずれかである。なかでも、R2Fe14B型結晶(主相)を構成するRとして、Nd、Pr、Smなどが好ましい。
【0031】
(3)本明細書でいう主元素(Rm)、拡散元素(Rd)または中間元素(Rc)は、上述した希土類元素(R)の中のいずれかであって、R2Fe14B型金属間化合物の生成エネルギーE1またはR2O3 型酸化物の生成エネルギーE2の大小によって相対的に定まる。RdまたはRcは一種でも複数種でもよい。Rdが複数種ある場合、いずれかのRdの生成エネルギーに基づいて、適切なRcが決定されればよい。もっとも、最多のRdに基づいてRcが決定されると、効率的に保磁力を向上させることができて好ましい。
【0032】
(4)本明細書でいう改質元素には、希土類焼結磁石の耐熱性を向上させるコバルト(Co)、ランタン(La)、保磁力などの磁気特性の向上に有効なガリウム(Ga)、ニオブ(Nb)、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、ゲルマニウム(Ge)、ジルコニウム(Zr)、モリブデン(Mo)、インジウム(In)、スズ(Sn)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)、タングステン(W)または鉛(Pb)の少なくとも1種以上がある。改質元素の組合せは任意である。また、その含有量は通常微量であり、例えば、0.01〜10質量%程度であると好ましい。
【0033】
また不可避不純物は、磁石合金粉末、各種粉末、拡散元素源や中間元素源にもともと含まれる不純物や各工程時に混入等する不純物などであって、コスト的または技術的な理由等により除去することが困難な元素である。このような不可避不純物として、例えば、酸素(O)、窒素(N)、炭素(C)、水素(H)、カルシウム(Ca)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、アルゴン(Ar)等がある。
【0034】
(5)本発明でいう「希土類焼結磁石」はその形態を問わず、例えば、ブロック状でも薄膜状でもよい。また希土類焼結磁石は、最終的な製品(永久磁石)やそれに近い状態のものに限らず、加工前のバルク材、Rdの拡散前の焼結体でもよい。
【0035】
(6)本明細書では特に断らない限り、「主相」はR2Fe14B型金属間化合物の一結晶粒を意味し、磁石合金粒子は複数の結晶粒が密接に結集した一つの集合体または単結晶粒を意味する。また「粒界」や「界面」は、磁石合金粉末を構成する粒子の「粒界」や「界面」と、その磁石合金粒子を構成する結晶粒(主相)の「粒界」や「界面」の両方を含む。両者を厳密に区別することは困難である。なお「外郭部」は、主相の界面近傍または粒界近傍をいう。
【0036】
(7)特に断らない限り、本明細書でいう「x〜y」は、下限値xおよび上限値yを含む。また、本明細書に記載した種々の下限値または上限値は、任意に組合わされて「a〜b」のような範囲を構成し得る。さらに、本明細書に記載した範囲内に含まれる任意の数値を、数値範囲を設定するための上限値または下限値とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1A】主相の外郭部でRmがRcで置換される様子を示す説明図である。
【図1B】主相の外郭部でRcがRdで置換される様子を示す説明図である。
【図2A】拡散処理前の焼結体(YF3粉末混合)内における各元素の分布を示すEPMA像の写真である。
【図2B】拡散処理前の焼結体(YF3粉末混合)内における各元素の分布を示すEPMA像の拡大写真である。
【図3A】拡散処理後の焼結体(YF3粉末混合)内におけるDyの分布を示すEPMA像の写真である。
【図3B】拡散処理後の焼結体(YF3粉末混合)内におけるDyの分布を示すEPMA像の拡大写真である。
【図4A】拡散処理後の焼結体(YF3なし)内におけるDyの分布を示すEPMA像の写真である。
【図4B】拡散処理後の焼結体(YF3なし)内におけるDyの分布を示すEPMA像の拡大写真である。
【図5】拡散処理前の焼結体(YF3粉末の成形体塗布)内における各元素の分布を示すEPMA像の写真である。
【図6】保磁力増加量とDy拡散量との相関を示す分散図である。
【図7】保磁力効率を示す棒グラフである。
【図8】保磁力効率を示す棒グラフである。
【図9】酸化物(R2O3)生成標準ギブスエネルギー線図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
発明の実施形態を挙げて本発明をより詳しく説明する。なお、以下の実施形態を含め、本明細書で説明する内容は、本発明に係る製造方法のみならず希土類焼結磁石にも適宜適用される。上述した本発明の構成に、本明細書中から任意に選択した一つまたは二つ以上の構成を付加することができる。製造方法に関する構成は、プロダクトバイプロセスとして理解すれば希土類焼結磁石に関する構成ともなり得る。いずれの実施形態が最良であるか否かは、対象、要求性能等によって異なる。
【0039】
《希土類焼結磁石の製造方法》
〈拡散予備工程〉
第一の拡散予備工程は、R2Fe14B型金属間化合物の生成エネルギーE1がRmとRdの中間であるRcを、焼結体の少なくとも表面部に存在させる工程である。第二の拡散予備工程は、R2O3 型酸化物の生成エネルギーE2がRmおよびRdよりも小さいRcを、焼結体の少なくとも表面部に存在させる工程である。両工程を併せて、適宜「拡散予備工程」という。Rcを焼結体の表面部へ存在させる方法は基本的に問わない。もっとも、希土類焼結磁石の製造から、拡散予備工程の具体的な方法として次のようなものが考えられる。
【0040】
(1)粉末混合法
粉末混合法は、Rcを含むRc含有粒子からなるRc含有粉末を原料粉末中に混在させる混在工程により、拡散予備工程を行う方法である。これによりRc含有粒子をほぼ均一に分散させた成形体が得られ、その成形体を焼結させると、Rcが少なくとも表面部に存在する焼結体が得られる。なおRc含有粒子については後でまとめて説明する。
【0041】
(2)成形体付着法(成形体塗布法)
成形体付着法は、Rcを含むRc含有粒子を成形体の表面に付着させる成形体付着工程により、拡散予備工程を行う方法である。この工程後の成形体を焼結させることにより、焼結体の少なくとも表面部へRcを効率的に存在させ得る。Rc含有粒子を付着させる成形体の表面は、Rdの拡散方法やRdの拡散面などを考慮して定めるとよい。
【0042】
なお、Rc含有粒子の成形体への付着は、Rc含有粉末を直接成形体へ付着させることも考えられるが、Rc含有粉末を分散させた分散液またはそれを溶解させた溶解液(以下「Rc含有液」という。)を成形体へ塗布すると効率的である。この塗布は、Rc含有液を成形体へ噴霧(スプレー)したり刷毛塗りしたり、さらにはRc含有液中へ成形体を浸漬したりして行える。この塗布後に乾燥を行えば、分散媒または溶媒が揮発して、成形体の表面にRc含有粒子が均一に分散塗布された状態となる。これらの点は後述の焼結体付着法についても同様である。
【0043】
このような成形体付着法を用いると、焼結体内へのRcの導入に必要な加熱を、後の焼結工程と兼用できて効率的である。また、成形体の表面に付着したRc含有粒子(例えば、YF3)には、いわゆる離型剤のような機能がある。このためRc含有粒子が表面に付着した成形体は、近接または密接された状態で焼結させても、実質的に結合することはない。従って、成形体付着法によれば焼結工程を効率的に行える。
【0044】
(3)焼結体付着法(焼結体塗布法)
焼結体付着法は、Rcを含むRc含有粒子を焼結体の表面に付着させる焼結体付着工程により拡散予備工程を行う方法である。この場合も成形体付着法の場合と同様、Rdの拡散方法やRdの拡散面などを考慮しつつ、Rdが集中し易い焼結体の少なくとも表面部へRcを効率的に存在させると好ましい。またRc含有粒子の焼結体への付着方法等は、前述したように成形体付着法の場合と同様に行える。
【0045】
焼結体付着法の場合、Rcを焼結体の少なくとも表面部へ導入させるために、焼結体付着工程後の焼結体をさらに加熱する加熱工程が通常は必要となる。もっとも、Rdの拡散方法に応じて、加熱工程を拡散工程と兼用できると好ましい。
加熱工程を単独で行う場合であれば、例えば、600〜1000℃さらには700〜900℃で加熱すればよい。加熱温度が過小ではRcが焼結体内へ十分に導入されず、過大では加熱効率や磁気特性の低下を招く。
【0046】
(4)Rc含有粒子(Rc含有粉末)
上述したRc含有粒子は、酸化物粒子、フッ化物粒子など種々あり得る。もっとも、Rc含有粒子は、RcF3またはRcF2等からなるRcフッ化物粒子であると好ましい。Rdの拡散前に、その拡散経路中にあるOが安定な酸フッ化物(安定酸化物の一種)として除去され得るからである。安定酸フッ化物として、例えば、Rc酸フッ化物(YOF等)またはRm酸フッ化物(NdOF等)がある。これらを適宜「R酸フッ化物」という。
【0047】
ちなみにR酸フッ化物は、他の酸化物よりも遙かに安定である。このため、磁石合金粉末の粒子表面に付着するOや調製工程、成形工程、加熱工程(焼結工程を含む)等で混入するOをR酸フッ化物として確実に固定化できる。なお、R酸フッ化物によるOの固定化は、Rdの拡散性や保磁力効率の向上のみならず、希土類焼結磁石の耐食性、耐減磁性等の向上にもなり得る。また上述したことは、Rcフッ化物粒子(Rcフッ化物粉末)に限らず、それとは別に原料粉末へ加えるフッ化物粒子についても同様である。このようなフッ化物粒子も含めて適宜「フッ化物粒子」という。
【0048】
特に断らない限り、本明細書でいうフッ化物には様々のものを用いることができる。例えば、LiF、MgF2、CaF2、ScF3、VF2、VF3、CrF2、CrF3、MnF2、MnF3、FeF2、FeF3、CoF2、CoF3、NiF2、ZnF2、AlF3、GaF3、SrF2、YF3、ZrF3、NbF5、AgF、InF3、SnF2、SnF4、BaF2、LaF2、LaF3、CeF2、CeF3、PrF2、PrF3、NdF2、NdF3、SmF2、SmF3、EuF2、EuF3、GdF3、TbF3、TbF4、DyF2、DyF3、HoF2、HoF3、ErF2、ErF3、TmF2、TmF3、YbF3、YbF2、LuF2、LuF3、PbF2、BiF3、LaF2、LaF3、CeF2、CeF3、GdF3などの一種以上からなるフッ化物粒子であればよい。なお、Fと結合している元素は、希土類焼結磁石中に残存し得るので、その磁気特性をできるだけ劣化させない元素またはその磁気特性を向上させ得る元素であると好ましい。
【0049】
フッ化物粒子は微細であればある程分散性に優れて好ましい。そこで一次粒子としての平均粒径(累積質量が50%となるときの粒子径またはメジアン径)は0.01〜20μmさらには0.1〜10μm程度であると好ましい。なお本明細書では特に断らない限り、平均粒径としてメジアン径(D50)を用いる。一次粒子が凝集している二次粒子の場合なら、平均粒径は1〜100μmさらには1〜10μm程度であると好ましい。その平均粒径が過小ではコスト高となり、平均粒径が過大では、原料粉末中における分散性や焼結体への拡散性の低下を招き得る。
【0050】
さらにフッ化物粒子は、化学合成で作製・調製したナノ粒子でもよく、その場合の平均粒径は1〜200nmさらには1〜50nmであると好ましい。ナノ粒子からなるフッ化物粉末は、例えば、ペーストにして用いられる。
【0051】
使用するフッ化物粉末が過少では、Oの捕捉やRcによるRmの置換が不十分となり、それが過多では希土類焼結磁石の磁気特性の低下を招き得る。そこで捕捉すべきO量や拡散させるRd量に応じて、フッ化物粉末の配合量が調製されると好ましい。
【0052】
具体的にいうと、Rc含有粉末(フッ化物粉末を含む)は、原料粉末(または成形体、焼結体)全体を100原子%としたときに0.1〜10原子%さらには1〜5原子%であると好ましい。Rc含有粉末がYF3粉末である場合なら、前記全体を100質量%としたときに0.01〜10質量%さらには0.5〜5質量%であると好ましい。
【0053】
(5)Rc等の具体例
Rcは、RmおよびRdの生成エネルギーE1または生成エネルギーE2を考慮して定められる。もっとも、希土類焼結磁石のRmはNdが一般的であり、RdにはDyやTbなどが多用されている。そうすると、Rcは、例えば、Y、スカンジウム(Sc)、エルビウム(Er)またはTbの一種以上であると好ましい。Y、Sc、Erなどは、通常、RmであるNdに対して飽和磁化も異方性磁界も小さいため、これまで希土類焼結磁石に用いられたことはないが、Rcとしては有効である。特に、RmがNdで、RdがDyで、RcがYであると、希土類焼結磁石の磁気特性もあまり低下しないので好ましい。
【0054】
〈拡散工程〉
拡散工程は、焼結体内へ、DyやTb等のRdを拡散させる工程である。Rdの拡散には、磁石合金粒子または結晶粒の粒界へRdが拡散する粒界拡散と、主相内部にRdが拡散(固溶を含む)する内部拡散(体拡散)とがある。Rd量を抑制しつつ保磁力を向上させるには、体拡散を抑制しつつ粒界拡散を促進させることが必要となる。
【0055】
本発明の場合、拡散前に拡散予備工程がなされるので粒界拡散が促進され、{(拡散元素の拡散後の保磁力)−(拡散元素の拡散前の保磁力)}/(拡散元素の拡散量)により算出される拡散効率が非常に高い。具体的には、その拡散効率が20〜60(kOe/質量%)または1590〜4770(kAm−1/質量%)にもなる。
【0056】
拡散方法は問わない。例えば、金属Dyなどの拡散素材をターゲットにしてスパッタリング等を行う蒸着法、希土類焼結磁石とその近傍に配置した拡散素材とを加熱炉内で加熱して拡散元素の蒸気中に希土類焼結磁石を直接曝す蒸気法、希土類焼結磁石の表面に拡散素材(Rdフッ化物など)を塗布して加熱する塗布法など、公知の方法により拡散処理を行える。
【0057】
〈調製工程〉
(1)調製工程は原料粉末を調製する工程である。原料粉末は磁石合金粉末のみでも、Rc含有粉末(Rcフッ化物粉末を含む)やRcを含まないフッ化物粉末(第二フッ化物粉末)等を含んでいてもよい。複数種の粉末は、ボールミル、V型混合機、ヘンシェルミキサー、ライカイ機、スパルタンリューザ(高速攪拌装置)などにより、酸化防止雰囲気中で均一に混合するとよい。
【0058】
(2)磁石合金粒子(磁石合金粉末)
磁石合金粒子は、希土類元素の一種以上であるRとBと残部であるFeおよび不可避不純物を含む。磁石合金粒子は改質元素を含んでいてもよい。
【0059】
磁石合金粒子は、Rm2Fe14B型結晶(主相)の形成に必要な理論組成よりも、Rmが少し多いと、希土類焼結磁石の保磁力や焼結性の向上に有効なRmリッチ相が形成されて好ましい。具体的には、磁石合金粒子全体を100原子%とすると、R(またはRm):12〜16原子%、B:5〜12原子%であると好ましい。Bの代替として炭素(C)を用いることもでき、その場合はB+C:5〜12原子%となるように調製すると好ましい。RmがNdである場合、磁石合金粒子全体を100質量%としたときに、Nd:27〜35質量%、B:0.8〜1.5質量%であると好ましい。
【0060】
磁石合金粉末は、その製造方法や形態を問わない。磁石合金粉末は、所望組成の鋳造磁石合金を機械粉砕したものでも水素粉砕したものでもよい。また磁石合金粉末は、ストリップキャスト等により急冷凝固させた薄板状の鋳片でも、HDDR(水素化−分解・脱水素−再結合法)のような水素処理を経て製造されたものでも、超急冷されたリボン粒でも、スパッタ等により成膜したものでもよい。さらに磁石合金粒子はアモルファスを含んでもよい。
【0061】
磁石合金粒子は粒子径を問わないが、平均粒径(累積質量が50%となるときの粒子径またはメジアン径)が1〜20μmさらには3〜10μm程度であると好ましい。平均粒径が過小ではコスト高となり、平均粒径が過大ではRdの拡散性は優れるが、希土類焼結磁石の密度や磁気特性の低下を招く。なお、複数類の粉末を混合した磁石合金粉末を用いてもよい。
【0062】
(3)フッ化物粉末
原料粉末は、さらにRcフッ化物粒子とは別のフッ化物粒(第二フッ化物粒子)を含むと好適である。これにより、Rdの拡散経路上のOがRmOFなどとなって捕捉され、Rcの拡散性やRdの拡散性が一層向上する。
第二フッ化物粉末は種々あり得るが、Rmフッ化物粉末(RmF3またはRmF2)粉末が好適である。具体的には、磁石合金粉末が一般的なNdFeB系粉末である場合、ネオジムフッ化物(NdF3またはNdF2)粉末が好ましい。以下、その理由を具体的に説明する。
【0063】
NdFeB系粉末を用いて製造した焼結磁石の粒界には、Ndリッチ相や混入したOによりできた酸化物(Nd2O3、NdO4)などが存在する。この粒界近傍にNdF3粒子が存在すると、次のような反応によりNdOFが生成される。その際、粒界にあるNdリッチ相からNdが消費されることなく、NdOFが生成されるので、焼結性が確保される。
NdF3 +Nd2O3 → 3NdOF
【0064】
次にこの焼結体へRcやRdを拡散させる場合を考えると、NdOFはRc2O3やRd2O3よりも遙かに安定している。従って、NdOFが生成する環境下では、RcやRdは拡散途中でトラップされ難い。つまり、RcやRdは拡散経路中で浪費されることなく、スムーズに粒界拡散し得る。こうしてRmフッ化物粉末を原料粉末中に加えると、RcやRdは粒界相から主相界面を包むようにスムーズに粒界拡散し易くなる。
【0065】
なお、第二フッ化物粉末は、Rcフッ化物粉末以外であればよく、DyF3 やTbF3などのRdフッ化物粉末でもよい。この場合、NdOFが生成される際にRdが遊離し、そのRdは主相の外郭部の形成に寄与し得る。
【0066】
第二フッ化物粉末は、原料粉末(または成形体、焼結体)全体を100原子%としたときに0.1〜10原子%さらには1〜5原子%であると好ましい。第二フッ化物粉末がNdF3粉末である場合なら、前記全体を100質量%としたときに0.05〜5質量%さらには0.5〜3質量%であると好ましい。第二フッ化物粉末が過少ではその効果が乏しく、それが過多では希土類焼結磁石の磁気特性の低下を招く。
【0067】
〈他の工程〉
(1)成形工程
成形工程は、原料粉末を加圧成形して成形体を得る工程である。成形圧力は問わないが、高密度で磁気特性に優れた希土類焼結磁石を得るために成形圧力は5〜50MPaであると好ましい。
【0068】
原料粉末に異方性磁石合金粉末を用いる場合、高い磁束密度を得るために、磁場中で成形して配向させるとよい。このときに印加する磁界の強さも問わないが1〜3Tであると好ましい。
【0069】
(2)焼結工程
焼結工程は、成形体を加熱して焼結体を得る工程である。この工程は、真空雰囲気または不活性ガス雰囲気などの酸化防止雰囲気等でなされる。焼結温度は700〜1150℃さらには900〜1100℃であると好ましい。焼結温度が過小では焼結効率が低下し、焼結温度が過大では、溶融などの障害を生じ、磁気特性の低下等を招く。
【0070】
《希土類焼結磁石の用途》
本発明の希土類焼結磁石は、前述したように素材であっても最終製品またはそれに近い希土類焼結磁石であってもよい。この希土類焼結磁石の用途や形態は問わない。本発明の希土類焼結磁石は、例えば、電動機のロータまたはステータなどの各種電磁機器、磁気ディスクなどの磁気記録媒体、リニアアクチュエータ、リニアモータ、サーボモータ、スピーカー、発電機等に用いられる。
【実施例】
【0071】
実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
《試験1:EPMA観察》
異方性磁界(Ha)の高い拡散元素(Rd)を表面から拡散導入した種々のNdFeB系希土類焼結磁石(以下「焼結磁石」という。)を製造して試料とした。これら試料内における各元素の分布状況をEPMA観察した。それらの試料の製造方法とEPMA観察した結果について以下に詳しく説明する。
【0072】
〈粉末混合法:試料No.A1〉
(1)表1に示す組成(Fe−x%R−1%B:単位は質量%)の磁石合金を鋳造した。この磁石合金を水素粉砕した後、さらにジェットミルで粉砕した。こうして得られた磁石合金粉末の組成および平均粒径D50(メジアン径)を表1に示した。なおジェットミルによる粉砕は窒素雰囲気で行った。
【0073】
次に表1に示す組成のフッ化物粉末(Rc含有粉末)を用意した。用意したフッ化物粉末(株式会社高純度化学研究所製)の平均粒径はD50(メジアン径)=10μmであった。特に断らない限り、以下のRc含有粉末にも同じフッ化物粉末を用いた。ちなみに、後述する第二フッ化物粉末であるNdF3粉末(株式会社高純度化学研究所製)の平均粒径も同様であった。なお、適宜、Rcフッ化物粉末を第一フッ化物粉末ともいう。
【0074】
表1に示す磁石合金粉末と第一フッ化物粉末とをよく混合した(混在工程、拡散予備工程、調製工程)。混合粉末全体に対する各粉末の配合割合は表1に示した。
【0075】
この混合粉末を20x15x10mmの直方体状に2Tの磁場中で成形した(成形工程)。成形圧力は10MPaとした。こうして得た成形体を10−3Paの真空雰囲気中で1030℃x3時間加熱して焼結体を得た(焼結工程)。
【0076】
こうして得られた焼結体(Rd拡散前)の断面の中で任意に選んだ60μmx60μmの視野をEPMAで観察した。そのEPMA像を図2Aおよび図2Bに示した。図2Bは図2Aの部分拡大像である。
【0077】
(2)上記の焼結体をさらに7x7x7mmの立方体に加工・研磨した。その研磨面へ表1に示すRdを拡散させた(拡散工程)。この拡散処理は、容器(加熱炉)内で約10mm離して配置した焼結体とRd単体(金属Rd)とを10−4Paの真空雰囲気中で加熱して行った。このときの加熱温度および加熱時間は表1に示した。ちなみに加熱条件を適当に変更することによってRdの拡散量が調整され得る。
【0078】
こうして得られたRdを拡散させ後の焼結体(希土類焼結磁石)を、最表面から内部に向かってEPMA観察した。そのときのEPMA像を図3Aおよび図3Bに示した。図3Bは図3Aの「表面」に示したEPMA像の一部拡大像である。
【0079】
(3)Rcフッ化物粉末を含まない原料粉末(磁石合金粉末のみ)を用いて、上述の方法と同様にして比較試料(試料No.C1)を製造した。こうして得られた希土類焼結磁石についても同様にEPMA観察をした。そのEPMA像を図4Aおよび図4Bに示した。図4Bは図4Aの「表面」に示したEPMA像の一部拡大像である。
【0080】
〈成形体塗布法:試料No.A2〉
(1)表1に示す磁石合金粉末を前述した方法により用意した。この磁石合金粉末のみを用いて、前述した方法と同様にして成形体を得た。この成形体の表面に、表1に示すRcフッ化物粉末をスプレー塗布した(成形体塗布工程、成形体付着工程)。この際の塗布液として、Rcフッ化物粉末をアセトンに分散させた懸濁液(スラリー)を用いた。Rcフッ化物粒子(Rc含有粒子)の塗布量は表1に粉末換算で示した。
【0081】
Rcフッ化物粒子が表面に付着した成形体を、前述した方法と同様に加熱して焼結体を得た。この焼結体へRdの拡散処理を施した。この処理方法は前述した通りであり、その際の加熱条件は表1に示した。
【0082】
(2)こうして得た希土類焼結磁石についても、前述の場合と同様にEPMA観察を行った。そのEPMA像を図5に示した。
【0083】
〈焼結体塗布法1:試料No.A3〉
(1)表1に示す磁石合金粉末を前述した方法により用意した。この磁石合金粉末のみを用いて、前述した方法と同様にして成形体を得た。この成形体を前述した方法と同様に加熱して焼結体を得た。この焼結体を7x7x7mmの立方体に加工・研磨した。この加工後の焼結体の表面に前述したRcフッ化物粉末をスプレー塗布した(焼結体塗布工程、焼結体付着工程)。この際の塗布液として、Rcフッ化物粉末をアルコール(C2H6O)に分散させた懸濁液(スラリー)を用いた。Rcフッ化物粒子(Rc含有粒子)の塗布量は表1に粉末換算で示した。
【0084】
この焼結体をさらに10−2Paの真空雰囲気中で850℃x32時間加熱して、焼結体内へフッ化物粒子を拡散させた(第一拡散工程、加熱工程、拡散予備工程)。この処理後の焼結体へ、さらに、Rdの拡散処理を施した(第二拡散工程)。この処理方法は前述した通りであり、その際の加熱条件は表1に示した。
【0085】
(2)こうして得た希土類焼結磁石についても、前述の場合と同様にEPMA観察を行ったところ、図2A〜図3Bに示すEPMA像と似た結果が得られた。
【0086】
〈焼結体塗布法2:試料No.A4〉
(1)表1に示す磁石合金粉末を前述した方法により用意した。この磁石合金粉末に前述したNdF3粉末(第二フッ化物粉末)を加えてよく混合した。NdF3粉末の配合量は表1に示した。
【0087】
この混合粉末を用いて、前述した方法と同様にして成形体を得た。さらにその成形体を前述した方法と同様にして焼結体を得た。この焼結体を7x7x7mmの立方体に加工・研磨した。この加工後の焼結体の表面に前述したRcフッ化物粉末をスプレー塗布した(焼結体塗布工程、焼結体付着工程)。この際の塗布液として、Rcフッ化物粉末をアルコール(C2H6O)に分散させた懸濁液(スラリー)を用いた。Rcフッ化物粒子(Rc含有粒子)の塗布量は粉末換算で表1に示した。
【0088】
この焼結体をさらに10−2Paの真空雰囲気中で表1に示す条件で加熱して、焼結体内へRcフッ化物粒子を拡散させた(第一拡散工程、加熱工程、拡散予備工程)。
この焼結体へ、さらに、Rdの拡散処理を施した(第二拡散工程)。この処理方法は前述した通りであり、加熱条件は表1に示した。
【0089】
(2)こうして得た希土類焼結磁石についても、前述の場合と同様にEPMA観察を行ったところ、図2A〜図3Bに示すEPMA像と似た結果が得られた。
【0090】
〈評価〉
(1)Rdの拡散前の焼結体(粉末混合法)の場合、図2Aおよび図2Bに示すように、RcであるYが、Nd2Fe14B型結晶(主相)からなる磁石合金粒子の界面を被包するように、粒界に濃く分布している。また隣接する磁石合金粒子により形成される間隙部(三重点)でもYが濃く分布している。これらが本発明でいうRc濃化部に相当する。
【0091】
ところでY以外のFやOは、その間隙部に濃く分布化しているが、主相の外郭部には殆ど存在していない。これらのことから、主相の外郭部に存在するYは、主相を構成するNdの一部と置換して(Y、Nd)2Fe14B型結晶を構成していると共に、間隙部に存在するYはFおよびOと共に安定な酸フッ化物(Y、Nd)OFになっていると考えられる。
【0092】
(2)Yを導入した焼結体へDyを拡散させた焼結体(希土類焼結磁石)の場合、図3Aおよび図3Bに示すように、Dyが表面部のみならずその内部深くまで拡散している。つまり、Dyが表面部に過度に集中して滞留することなく、内部にある磁石合金粒子(または主相)の粒界面も、Dyによって薄く被包された状態となっている。
【0093】
またDyは、主相の表面(界面)に分布しているだけで、焼結磁石の表面部でも主相内部には殆ど分布していない。つまりDyは体拡散をしていない。
一方、Yを導入しない焼結体へDyを拡散させた焼結磁石の場合、図4Aおよび図4Bに示すように、Dyがその表面部に過度に集中しており、内部には殆ど拡散していない。しかもその表面部では、Dyが主相内にまで侵入する体拡散が生じていた。つまり、Dyが保磁力の向上のために有効な粒界拡散をしていないことがわかった。
【0094】
(3)Rdの拡散前の焼結体(成形体塗布法)の場合、図5に示すように、Yが焼結体の表面部かそれに近い領域に集中している。それらの領域では、主相の外郭部に(Y、Nd)2Fe14B型結晶が形成され、磁石合金粒子間の間隙部に(Y、Nd)OFが形成されている。もっとも、Dyの拡散前は図5の元素分布であるとしても、Dyの拡散後は図3Aや図3Bに示す場合と同様に、Dyが焼結体の内部深くまで拡散して磁石合金粒子(または主相)の粒界を薄く被包していた。
【0095】
《試験2:磁気特性の測定》
〈試料の製造〉
上述した方法を用いて、試料となるRdを拡散させた種々の希土類焼結磁石を製造し、それらの磁気特性(保磁力)を測定した。各試料の製造条件および磁気特性は表2に併せて示した。表2に示していない条件は、Rcの導入方法に関して対応する試料No.A1〜A4またはC1のいずれかと同様である。なお、Rdの拡散後に10−4Paの真空雰囲気で480℃x1時間の時効処理を行った。
【0096】
なお各試料の保磁力はパルス励磁型磁気特性測定装置(東英工業株式会社製TPH−3−10s10)を用いて測定した。表2中に示した保磁力増加量は、{(Rd拡散後の保磁力)−(Rd拡散前の保磁力)}により、保磁力効率は、(保磁力増加量)/(Rd拡散量)により算出した。表2に示した各試料の磁気特性は、図6〜図8にも示した。
【0097】
〈評価〉
(1)表2および図6より、希土類焼結磁石の保磁力は、Rdの拡散量が同じでも原料粉末中にRcを含むフッ化物粒子(Rc含有粉末)が混在することにより大幅に向上する。この傾向は、拡散処理時間(加熱時間)に応じてRdの拡散量が変化しても同様である。もっとも、Rc含有粉末による保磁力の向上効果は、Rdの拡散量が少ない場合ほど顕著である。従って、少量のRc含有粉末を原料粉末に混在させれば、Rdの使用量を抑制しつつ、希土類焼結磁石の保磁力を大幅に増加させることが可能となった。
【0098】
(2)同様のことは、表2および図7から、Rc含有粉末を成形体に塗布した場合にも、Rc含有粉末を焼結体に塗布した場合にもいい得ることがわかる。さらに表2および図7から、Rdの単位量あたりにおける保磁力の向上割合である保磁力効率は、Rc含有粉末を成形体に塗布した場合よりも、焼結体に塗布した場合の方が大きいこともわかる。
【0099】
(3)さらに表2および図8から、NdF3粉末を含めた原料粉末からなる焼結体へRc含有粉末を塗布したとき、上記の保磁力効率がより大きくなることもわかった。
【0100】
【表1】
【0101】
【表2】
【0102】
【表3】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気特性(特に保磁力)や耐減磁性等に優れる希土類焼結磁石およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
NdFeB系を代表とする希土類焼結磁石は、非常に高い磁気特性を示す。この希土類焼結磁石を用いると、電磁機器や電動機の小型化、高出力化、高密度化さらには環境負荷の低減化等を図ることが可能となり、幅広い分野で希土類焼結磁石の利用が進みつつある。もっともその利用拡大には、希土類焼結磁石の優れた磁気特性が厳しい環境下でも長期的に安定して発揮されることが必要となる。つまり、希土類焼結磁石の高磁束密度を維持または向上させつつ、保磁力または耐減性等を高めることが必要となる。
【0003】
そこで異方性磁界(Ha)の大きな希土類元素であるジスプロシウム(Dy)やテルビウム(Tb)などを、主相(Nd2Fe14B型結晶)の粒界またはその主相からなる磁石合金粒子の粒界へ拡散させることなどがよく行われる。そして、その拡散効率を向上させるための提案が種々なされており、例えば下記のような文献に関連した記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開公報WO2006/043348
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】日本応用磁気学会第147回研究会資料:中村元:13〜18頁(2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1および非特許文献1は、ジスプロシウムフッ化物(DyF3)を希土類焼結磁石の表面に塗布し、加熱することによって、Dyを効率的に拡散させることを提案している。しかし本発明者の調査によれば、そのような方法では、Dyが効率的に粒界拡散せず、希土類焼結磁石の保磁力はあまり向上しない。そのような拡散処理では、Dyが焼結磁石の最表面近傍に集中し、過剰なDyが主相内に体拡散(固溶等)してしまう結果、却って、効率的な粒界拡散の進行が阻害されるためと考えられる。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑みて為されたものであり、従来よりもDy等を効率的に粒界拡散させて、保磁力や耐減磁性等を一層向上させ得る希土類焼結磁石およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者はこの課題を解決すべく鋭意研究し試行錯誤を重ねた結果、例えばNdFeB系の焼結磁石の主相へDyを拡散させる場合、その拡散処理前の焼結体内へ、フッ化イットリウム(YF3)を予め分散または拡散させておくと、焼結磁石の表面部の近傍において、Dyの過剰な集中や体拡散を抑制できることを新たに見出した。このような成果を発展させることにより、以降に述べるような本発明を完成するに至った。
【0009】
《希土類焼結磁石の製造方法》
(1)すなわち、本発明の希土類焼結磁石の製造方法は、一種以上の希土類元素(以下「R」とも表す。)とホウ素(B)と鉄(Fe)を含む磁石合金粉末を用いて原料粉末を調製する調製工程と、該原料粉末を成形して成形体を得る成形工程と、該成形体を焼結させて焼結体を得る焼結工程とを備え、該焼結体からなる希土類焼結磁石の製造方法であって、
R2Fe14B型金属間化合物の生成エネルギーが前記磁石合金粉末中に最も多く含まれる希土類元素である主元素(以下「Rm」とも表す。)よりも小さく前記焼結体へ拡散させる希土類元素である拡散元素(以下「Rd」とも表す。)よりも大きい希土類元素である中間元素(以下「Rc」とも表す。)を、該Rdの拡散前の焼結体の少なくとも表面部に存在させる拡散予備工程を備えることを特徴とする。
【0010】
(2)また本発明は、RとBとFeを含む磁石合金粉末を用いて原料粉末を調製する調製工程と、該原料粉末を成形して成形体を得る成形工程と、該成形体を焼結させて焼結体を得る焼結工程とを備え、該焼結体からなる希土類焼結磁石の製造方法であって、
R2O3型酸化物の生成エネルギー(E2)がRmおよびRdよりも小さい希土類元素であるRcを、該Rdの拡散前の焼結体の少なくとも表面部に存在させる拡散予備工程を備えることを特徴とする希土類焼結磁石の製造方法でもよい。
【0011】
(3)本発明の製造方法によれば、保磁力の向上に有効なRd(例えば、Dy、Tb)を焼結磁石の内部深くにある粒界等にまで有効に拡散させることができ、貴重なRd(Dy等)の使用量を抑制しつつ、希土類焼結磁石の保磁力や耐減磁性等を効率的に向上させ得る。このように優れた希土類焼結磁石が得られる理由やメカニズムは必ずしも定かではないが、現状では次のように考えられる。
【0012】
例えばDyを希土類焼結磁石へ拡散させると、Dyの異方性磁界が大きいことに加えて、Dyが界面における逆磁区の生成や磁壁移動を抑制して、希土類焼結磁石の保磁力が向上すると考えられている。このため従来からDy等のRdを粒界拡散させることが行われてきた。しかし、従来の方法では、Rdが希土類焼結磁石の表面(Rdの導入面)近傍に過度に集中して、焼結磁石の内部深くまでは粒界拡散せずに、主相(R2Fe14B型結晶)の内部へ入り込む体拡散を生じることが本発明者の研究により明らかとなった。
【0013】
このような現象が生じる理由として、RdがRmよりも、主相を構成するR2Fe14B型金属間化合物や酸化物を生成し易いことが考えられる。いいかえるなら、Rdは、R2Fe14B型金属間化合物の生成エネルギー(以下単に「生成エネルギーE1」ともいう。)やR2O3型酸化物の生成エネルギー(以下単に「生成エネルギーE2」ともいう。)がRmよりも相当小さい。
【0014】
このため拡散処理により導入されたRdは、粒界や主相の界面近傍に多く存在するRmと急速に置換する。具体的には、Rm2Fe14B → Rd2Fe14BまたはRm2O3 → Rd2O3などを生じる。この結果、Rdは、拡散面近傍(焼結体の表面部内)に過度に集中し、その領域に捕捉される。こうしてRdは、その表面部よりも深くへ拡散し難くなる。
【0015】
またRdの集中領域では、その過剰なRdがさらに主相内にあるRmとも置換等を始め、いわゆる体拡散が進行する。主相内のRdによる保磁力の向上効果は小さいので、Rdの拡散量に対する保磁力の増加量の割合(保磁力効率)は低下する。
【0016】
(4)そこで先ず、本発明の拡散予備工程では、生成エネルギーE1がRmよりも低いRcを、Rdの拡散処理前の焼結体内へ予め導入させた。このRcが介在することにより、主相の界面近傍のRmはRcへ少なくとも部分的に一旦置換される。これにより、Rcが存在する近傍にある主相は、中核であるRm2Fe14B型結晶が、Rc2Fe14B型結晶または(Rc、Rm)Fe14B型結晶からなるシェル状の外郭部で被包された状態になる(図1A参照)。
【0017】
この外郭部へ生成エネルギーE1がRcよりもさらに小さいRdが拡散してくると、そのRcはRdへさらに置換される。その結果、前記の外郭部は、Rc2Fe14B型結晶または(Rc、Rm)Fe14B型結晶から、Rd2Fe14B型結晶または(Rd、Rm)Fe14B型結晶へ変化する。こうして、Rdが主相の界面または粒界に拡散した所望の状態が得られる(図1A参照)。
【0018】
このように主相または磁石合金粒子の界面または粒界へRdを拡散させる際に、Rcを介在させてRmをRdへ間接的または二段階的に置換させると、生成エネルギーE1の格差が大きいRmからRdへの直接的な置換が生じる場合に比べて、その反応が緩やかに進行する。その結果、Rdの主相内部への体拡散が抑制され、従来であれば体拡散に浪費されていたRdが粒界拡散へ有効活用されることになる。このようにRcは、まるで、Rdの体拡散を阻害するように作用し、さらにはRdの主相内部への侵入を防ぐ障壁または保護膜になる。
【0019】
(5)次にRdの粒界拡散を阻害するもう一つの要因として、焼結体の内部でRdの酸化物(例えばRd2O3)が生成され、焼結体の表面部でRdが捕捉される場合がある。
もし焼結体の内部で、Rdの酸化物よりも安定な別の酸化物(以下「安定酸化物」という。)が生成される状況にあると、Rdは焼結体の表面部等に捕捉されずに、より内部深くまで粒界拡散し得る。
【0020】
そこで、生成エネルギーE2がRdよりもさらに小さいRcを、Rd拡散前の焼結体内に存在させておけば好ましい。これにより、Rdの拡散経路等において、OはRc2O3等として安定的に捕捉され、OによるRdの捕捉(Rd2O3等の生成によるRdの浪費が酸化物となることによる)が抑制され、Rdの粒界拡散が促進されて、Rdによる保磁力効率や拡散効率が向上する。
【0021】
しかも、生成エネルギーE1がRmよりも小さくてRdよりも大きく、かつ、生成エネルギーE2がRmおよびRdよりも小さいRcを、拡散予備工程で焼結体内に存在させておくと、上述したRdの体拡散とRdのOによる捕捉が共に抑止され、Rdによる保磁力効率や拡散効率は相乗的に向上する。この場合、主相の外郭部におけるRcからRdへの置換反応と、それによって放出されたRcが安定酸化物になる酸化反応とは、連携して進み易い。
【0022】
(6)なお、安定酸化物は、生成エネルギーE2の小さなRcによる場合の他、安定酸化物の形成する別の補助元素によっても良い。このような補助元素として例えばフッ素(F)がある。焼結磁石の磁気特性や本発明の製造方法を考慮すると、希土類元素のフッ化物を用いるのが好ましく、より具体的にはRcフッ化物、Rmフッ化物またはRdフッ化物が好ましい。
【0023】
いずれにしろ本発明によれば、焼結磁石へRdを拡散させる際に、焼結磁石の表面部にRdが過剰に集積したり、Rdが主相内へ拡散(いわゆる体拡散)したりすることが抑制される。従って本発明の製造方法によれば、希土類焼結磁石の表面部から内部深くまでRdを効率的に粒界拡散させることができる。そして稀少なRdの使用量を抑制しつつ、保磁力に優れる希土類焼結磁石を得ることができる。
【0024】
《希土類焼結磁石》
(1)本発明は、上述した製造方法としてのみならず、その製造方法により得られた希土類焼結磁石としても把握される。また本発明は、その他、次のような希土類焼結磁石としても把握される。すなわち本発明は、一種以上のRとBとFeを含む磁石合金粒子が焼結した焼結体からなる希土類焼結磁石であって、前記焼結体の少なくとも表面部には、前記焼結した磁石合金粒子の外周囲に、R2Fe14B型金属間化合物の生成エネルギーが前記磁石合金粒子中に最も多く含まれる希土類元素である主元素(Rm)よりも小さく前記焼結体へ拡散させる希土類元素である拡散元素(Rd)よりも大きい希土類元素である中間元素(Rc)を含んだRc濃化部が存在することを特徴とする希土類焼結磁石であってもよい。
【0025】
(2)Rc濃化部は、焼結した磁石合金粒子の外周囲において、Rcの濃度が大きい部分である。この濃化部は、磁石合金粒子や主相の外郭部の他、磁石合金粒子間に形成される間隙部(三重点等)でもよい。
【0026】
Rc濃化部の形態や組成等は、Rdの拡散処理の有無やRcの焼結体への導入方法によって異なり得る。Rcフッ化物粒子を介してRcを焼結体内へ導入した場合、Rc濃化部はRc酸フッ化物を含み得る。Rc酸フッ化物は、例えば、RcOFまた(Rc、R’)OFである。「R’」はRc以外の希土類元素である。RcがYの場合なら、Rc酸フッ化物は、例えば、イットリウム酸フッ化物(YOF)である。このような酸フッ化物の形成により、各工程で不可避に介在するOが捕捉されて安定的に固定される。またRmが一般的なNdである場合、Rc濃化部は、ネオジム酸フッ化物(NdOF、(Nd、Rc)OF)などを含む。いずれにしてもOが酸フッ化物によって確実に捕捉される結果、Rdが焼結磁石の内部深くまで粒界拡散し、高い保磁力効率を示す希土類焼結磁石が得られる。
【0027】
《具体的表現》
上述した本発明は、その一例として、RmをNdおよび/またはPr、RdをDyおよび/またはTb、RcをYとした場合、具体的には次のように表現される。先ず本発明は、Ndおよび/またはPrとBとFeを含む磁石合金粉末を用いて原料粉末を調製する調製工程と、該原料粉末を成形して成形体を得る成形工程と、該成形体を焼結させて焼結体を得る焼結工程とを備え、該焼結体からなる希土類焼結磁石の製造方法であって、Dyおよび/またはTbの拡散前の焼結体の少なくとも表面部にYを存在させる拡散予備工程を備えることを特徴とする希土類焼結磁石の製造方法と表現される。次に本発明は、Ndおよび/またはPrとBとFeを含む磁石合金粒子が焼結した焼結体からなる希土類焼結磁石であって、前記焼結体の少なくとも表面部には、前記焼結した磁石合金粒子の外周囲にYを含んだY濃化部が存在することを特徴とする希土類焼結磁石と表現される。
【0028】
《その他》
(1)本発明でいう各希土類元素の「R2Fe14B型金属間化合物の生成エネルギー(E1)」の大小は、希土類焼結磁石を構成するR2Fe14B型金属間化合物を電子線マイクロアナライザ(EPMA)で分析し、得られたEPMA像を各希土類元素について対比観察することにより判定できる。具体的にいえば、Raから主になるR2Fe14B型金属間化合物(主相)中に、少なくともRbが存在している様子がEPMA像から観察されるとき、E1の大小関係に基づき、主相中でRaとRbとの置換等が生じたと考えられるので、(RbのE1)<(RaのE1)と推定される。代表的な希土類元素の生成エネルギーE1の大小関係を挙げると、例えば、Y<Ho<Er<(Dy、Tb)<(Nd、Pr)となる。具体例を挙げると、E1の大小に関して、後述する図2A、図2Bおよび図5からY<Ndと推定でき、図3Aおよび図3BよりDy<Yと推定でき、図4Aおよび図4BよりDy<Ndと推定できる。これらを総合して、E1の大小は、Dy(Rd)<Y(Rc)<Nd(Rm)と推定される。
【0029】
本発明でいう各希土類元素の「R2O3型酸化物の生成エネルギー(E2)」は図9に示す酸化物生成標準ギブスエネルギー線図により求められる。この線図の出典は、日本鉄鋼協会著「鉄鋼便覧I(基礎)」丸善(1981)P.6−8である。本発明でいうR2O3型酸化物の生成エネルギーE2の大小は1000Kにおける値に基づく。代表的な希土類元素の生成エネルギーE2を異方性磁界(Ha)と共に表3に示した。
【0030】
(2)本明細書で単に「希土類元素(R)」という場合、希土類元素一般を意味する。具体的にいうと、Rは、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタノイドを含む。ランタノイドは、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)およびルテチウム(Lu)などのいずれかである。なかでも、R2Fe14B型結晶(主相)を構成するRとして、Nd、Pr、Smなどが好ましい。
【0031】
(3)本明細書でいう主元素(Rm)、拡散元素(Rd)または中間元素(Rc)は、上述した希土類元素(R)の中のいずれかであって、R2Fe14B型金属間化合物の生成エネルギーE1またはR2O3 型酸化物の生成エネルギーE2の大小によって相対的に定まる。RdまたはRcは一種でも複数種でもよい。Rdが複数種ある場合、いずれかのRdの生成エネルギーに基づいて、適切なRcが決定されればよい。もっとも、最多のRdに基づいてRcが決定されると、効率的に保磁力を向上させることができて好ましい。
【0032】
(4)本明細書でいう改質元素には、希土類焼結磁石の耐熱性を向上させるコバルト(Co)、ランタン(La)、保磁力などの磁気特性の向上に有効なガリウム(Ga)、ニオブ(Nb)、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、ゲルマニウム(Ge)、ジルコニウム(Zr)、モリブデン(Mo)、インジウム(In)、スズ(Sn)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)、タングステン(W)または鉛(Pb)の少なくとも1種以上がある。改質元素の組合せは任意である。また、その含有量は通常微量であり、例えば、0.01〜10質量%程度であると好ましい。
【0033】
また不可避不純物は、磁石合金粉末、各種粉末、拡散元素源や中間元素源にもともと含まれる不純物や各工程時に混入等する不純物などであって、コスト的または技術的な理由等により除去することが困難な元素である。このような不可避不純物として、例えば、酸素(O)、窒素(N)、炭素(C)、水素(H)、カルシウム(Ca)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、アルゴン(Ar)等がある。
【0034】
(5)本発明でいう「希土類焼結磁石」はその形態を問わず、例えば、ブロック状でも薄膜状でもよい。また希土類焼結磁石は、最終的な製品(永久磁石)やそれに近い状態のものに限らず、加工前のバルク材、Rdの拡散前の焼結体でもよい。
【0035】
(6)本明細書では特に断らない限り、「主相」はR2Fe14B型金属間化合物の一結晶粒を意味し、磁石合金粒子は複数の結晶粒が密接に結集した一つの集合体または単結晶粒を意味する。また「粒界」や「界面」は、磁石合金粉末を構成する粒子の「粒界」や「界面」と、その磁石合金粒子を構成する結晶粒(主相)の「粒界」や「界面」の両方を含む。両者を厳密に区別することは困難である。なお「外郭部」は、主相の界面近傍または粒界近傍をいう。
【0036】
(7)特に断らない限り、本明細書でいう「x〜y」は、下限値xおよび上限値yを含む。また、本明細書に記載した種々の下限値または上限値は、任意に組合わされて「a〜b」のような範囲を構成し得る。さらに、本明細書に記載した範囲内に含まれる任意の数値を、数値範囲を設定するための上限値または下限値とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1A】主相の外郭部でRmがRcで置換される様子を示す説明図である。
【図1B】主相の外郭部でRcがRdで置換される様子を示す説明図である。
【図2A】拡散処理前の焼結体(YF3粉末混合)内における各元素の分布を示すEPMA像の写真である。
【図2B】拡散処理前の焼結体(YF3粉末混合)内における各元素の分布を示すEPMA像の拡大写真である。
【図3A】拡散処理後の焼結体(YF3粉末混合)内におけるDyの分布を示すEPMA像の写真である。
【図3B】拡散処理後の焼結体(YF3粉末混合)内におけるDyの分布を示すEPMA像の拡大写真である。
【図4A】拡散処理後の焼結体(YF3なし)内におけるDyの分布を示すEPMA像の写真である。
【図4B】拡散処理後の焼結体(YF3なし)内におけるDyの分布を示すEPMA像の拡大写真である。
【図5】拡散処理前の焼結体(YF3粉末の成形体塗布)内における各元素の分布を示すEPMA像の写真である。
【図6】保磁力増加量とDy拡散量との相関を示す分散図である。
【図7】保磁力効率を示す棒グラフである。
【図8】保磁力効率を示す棒グラフである。
【図9】酸化物(R2O3)生成標準ギブスエネルギー線図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
発明の実施形態を挙げて本発明をより詳しく説明する。なお、以下の実施形態を含め、本明細書で説明する内容は、本発明に係る製造方法のみならず希土類焼結磁石にも適宜適用される。上述した本発明の構成に、本明細書中から任意に選択した一つまたは二つ以上の構成を付加することができる。製造方法に関する構成は、プロダクトバイプロセスとして理解すれば希土類焼結磁石に関する構成ともなり得る。いずれの実施形態が最良であるか否かは、対象、要求性能等によって異なる。
【0039】
《希土類焼結磁石の製造方法》
〈拡散予備工程〉
第一の拡散予備工程は、R2Fe14B型金属間化合物の生成エネルギーE1がRmとRdの中間であるRcを、焼結体の少なくとも表面部に存在させる工程である。第二の拡散予備工程は、R2O3 型酸化物の生成エネルギーE2がRmおよびRdよりも小さいRcを、焼結体の少なくとも表面部に存在させる工程である。両工程を併せて、適宜「拡散予備工程」という。Rcを焼結体の表面部へ存在させる方法は基本的に問わない。もっとも、希土類焼結磁石の製造から、拡散予備工程の具体的な方法として次のようなものが考えられる。
【0040】
(1)粉末混合法
粉末混合法は、Rcを含むRc含有粒子からなるRc含有粉末を原料粉末中に混在させる混在工程により、拡散予備工程を行う方法である。これによりRc含有粒子をほぼ均一に分散させた成形体が得られ、その成形体を焼結させると、Rcが少なくとも表面部に存在する焼結体が得られる。なおRc含有粒子については後でまとめて説明する。
【0041】
(2)成形体付着法(成形体塗布法)
成形体付着法は、Rcを含むRc含有粒子を成形体の表面に付着させる成形体付着工程により、拡散予備工程を行う方法である。この工程後の成形体を焼結させることにより、焼結体の少なくとも表面部へRcを効率的に存在させ得る。Rc含有粒子を付着させる成形体の表面は、Rdの拡散方法やRdの拡散面などを考慮して定めるとよい。
【0042】
なお、Rc含有粒子の成形体への付着は、Rc含有粉末を直接成形体へ付着させることも考えられるが、Rc含有粉末を分散させた分散液またはそれを溶解させた溶解液(以下「Rc含有液」という。)を成形体へ塗布すると効率的である。この塗布は、Rc含有液を成形体へ噴霧(スプレー)したり刷毛塗りしたり、さらにはRc含有液中へ成形体を浸漬したりして行える。この塗布後に乾燥を行えば、分散媒または溶媒が揮発して、成形体の表面にRc含有粒子が均一に分散塗布された状態となる。これらの点は後述の焼結体付着法についても同様である。
【0043】
このような成形体付着法を用いると、焼結体内へのRcの導入に必要な加熱を、後の焼結工程と兼用できて効率的である。また、成形体の表面に付着したRc含有粒子(例えば、YF3)には、いわゆる離型剤のような機能がある。このためRc含有粒子が表面に付着した成形体は、近接または密接された状態で焼結させても、実質的に結合することはない。従って、成形体付着法によれば焼結工程を効率的に行える。
【0044】
(3)焼結体付着法(焼結体塗布法)
焼結体付着法は、Rcを含むRc含有粒子を焼結体の表面に付着させる焼結体付着工程により拡散予備工程を行う方法である。この場合も成形体付着法の場合と同様、Rdの拡散方法やRdの拡散面などを考慮しつつ、Rdが集中し易い焼結体の少なくとも表面部へRcを効率的に存在させると好ましい。またRc含有粒子の焼結体への付着方法等は、前述したように成形体付着法の場合と同様に行える。
【0045】
焼結体付着法の場合、Rcを焼結体の少なくとも表面部へ導入させるために、焼結体付着工程後の焼結体をさらに加熱する加熱工程が通常は必要となる。もっとも、Rdの拡散方法に応じて、加熱工程を拡散工程と兼用できると好ましい。
加熱工程を単独で行う場合であれば、例えば、600〜1000℃さらには700〜900℃で加熱すればよい。加熱温度が過小ではRcが焼結体内へ十分に導入されず、過大では加熱効率や磁気特性の低下を招く。
【0046】
(4)Rc含有粒子(Rc含有粉末)
上述したRc含有粒子は、酸化物粒子、フッ化物粒子など種々あり得る。もっとも、Rc含有粒子は、RcF3またはRcF2等からなるRcフッ化物粒子であると好ましい。Rdの拡散前に、その拡散経路中にあるOが安定な酸フッ化物(安定酸化物の一種)として除去され得るからである。安定酸フッ化物として、例えば、Rc酸フッ化物(YOF等)またはRm酸フッ化物(NdOF等)がある。これらを適宜「R酸フッ化物」という。
【0047】
ちなみにR酸フッ化物は、他の酸化物よりも遙かに安定である。このため、磁石合金粉末の粒子表面に付着するOや調製工程、成形工程、加熱工程(焼結工程を含む)等で混入するOをR酸フッ化物として確実に固定化できる。なお、R酸フッ化物によるOの固定化は、Rdの拡散性や保磁力効率の向上のみならず、希土類焼結磁石の耐食性、耐減磁性等の向上にもなり得る。また上述したことは、Rcフッ化物粒子(Rcフッ化物粉末)に限らず、それとは別に原料粉末へ加えるフッ化物粒子についても同様である。このようなフッ化物粒子も含めて適宜「フッ化物粒子」という。
【0048】
特に断らない限り、本明細書でいうフッ化物には様々のものを用いることができる。例えば、LiF、MgF2、CaF2、ScF3、VF2、VF3、CrF2、CrF3、MnF2、MnF3、FeF2、FeF3、CoF2、CoF3、NiF2、ZnF2、AlF3、GaF3、SrF2、YF3、ZrF3、NbF5、AgF、InF3、SnF2、SnF4、BaF2、LaF2、LaF3、CeF2、CeF3、PrF2、PrF3、NdF2、NdF3、SmF2、SmF3、EuF2、EuF3、GdF3、TbF3、TbF4、DyF2、DyF3、HoF2、HoF3、ErF2、ErF3、TmF2、TmF3、YbF3、YbF2、LuF2、LuF3、PbF2、BiF3、LaF2、LaF3、CeF2、CeF3、GdF3などの一種以上からなるフッ化物粒子であればよい。なお、Fと結合している元素は、希土類焼結磁石中に残存し得るので、その磁気特性をできるだけ劣化させない元素またはその磁気特性を向上させ得る元素であると好ましい。
【0049】
フッ化物粒子は微細であればある程分散性に優れて好ましい。そこで一次粒子としての平均粒径(累積質量が50%となるときの粒子径またはメジアン径)は0.01〜20μmさらには0.1〜10μm程度であると好ましい。なお本明細書では特に断らない限り、平均粒径としてメジアン径(D50)を用いる。一次粒子が凝集している二次粒子の場合なら、平均粒径は1〜100μmさらには1〜10μm程度であると好ましい。その平均粒径が過小ではコスト高となり、平均粒径が過大では、原料粉末中における分散性や焼結体への拡散性の低下を招き得る。
【0050】
さらにフッ化物粒子は、化学合成で作製・調製したナノ粒子でもよく、その場合の平均粒径は1〜200nmさらには1〜50nmであると好ましい。ナノ粒子からなるフッ化物粉末は、例えば、ペーストにして用いられる。
【0051】
使用するフッ化物粉末が過少では、Oの捕捉やRcによるRmの置換が不十分となり、それが過多では希土類焼結磁石の磁気特性の低下を招き得る。そこで捕捉すべきO量や拡散させるRd量に応じて、フッ化物粉末の配合量が調製されると好ましい。
【0052】
具体的にいうと、Rc含有粉末(フッ化物粉末を含む)は、原料粉末(または成形体、焼結体)全体を100原子%としたときに0.1〜10原子%さらには1〜5原子%であると好ましい。Rc含有粉末がYF3粉末である場合なら、前記全体を100質量%としたときに0.01〜10質量%さらには0.5〜5質量%であると好ましい。
【0053】
(5)Rc等の具体例
Rcは、RmおよびRdの生成エネルギーE1または生成エネルギーE2を考慮して定められる。もっとも、希土類焼結磁石のRmはNdが一般的であり、RdにはDyやTbなどが多用されている。そうすると、Rcは、例えば、Y、スカンジウム(Sc)、エルビウム(Er)またはTbの一種以上であると好ましい。Y、Sc、Erなどは、通常、RmであるNdに対して飽和磁化も異方性磁界も小さいため、これまで希土類焼結磁石に用いられたことはないが、Rcとしては有効である。特に、RmがNdで、RdがDyで、RcがYであると、希土類焼結磁石の磁気特性もあまり低下しないので好ましい。
【0054】
〈拡散工程〉
拡散工程は、焼結体内へ、DyやTb等のRdを拡散させる工程である。Rdの拡散には、磁石合金粒子または結晶粒の粒界へRdが拡散する粒界拡散と、主相内部にRdが拡散(固溶を含む)する内部拡散(体拡散)とがある。Rd量を抑制しつつ保磁力を向上させるには、体拡散を抑制しつつ粒界拡散を促進させることが必要となる。
【0055】
本発明の場合、拡散前に拡散予備工程がなされるので粒界拡散が促進され、{(拡散元素の拡散後の保磁力)−(拡散元素の拡散前の保磁力)}/(拡散元素の拡散量)により算出される拡散効率が非常に高い。具体的には、その拡散効率が20〜60(kOe/質量%)または1590〜4770(kAm−1/質量%)にもなる。
【0056】
拡散方法は問わない。例えば、金属Dyなどの拡散素材をターゲットにしてスパッタリング等を行う蒸着法、希土類焼結磁石とその近傍に配置した拡散素材とを加熱炉内で加熱して拡散元素の蒸気中に希土類焼結磁石を直接曝す蒸気法、希土類焼結磁石の表面に拡散素材(Rdフッ化物など)を塗布して加熱する塗布法など、公知の方法により拡散処理を行える。
【0057】
〈調製工程〉
(1)調製工程は原料粉末を調製する工程である。原料粉末は磁石合金粉末のみでも、Rc含有粉末(Rcフッ化物粉末を含む)やRcを含まないフッ化物粉末(第二フッ化物粉末)等を含んでいてもよい。複数種の粉末は、ボールミル、V型混合機、ヘンシェルミキサー、ライカイ機、スパルタンリューザ(高速攪拌装置)などにより、酸化防止雰囲気中で均一に混合するとよい。
【0058】
(2)磁石合金粒子(磁石合金粉末)
磁石合金粒子は、希土類元素の一種以上であるRとBと残部であるFeおよび不可避不純物を含む。磁石合金粒子は改質元素を含んでいてもよい。
【0059】
磁石合金粒子は、Rm2Fe14B型結晶(主相)の形成に必要な理論組成よりも、Rmが少し多いと、希土類焼結磁石の保磁力や焼結性の向上に有効なRmリッチ相が形成されて好ましい。具体的には、磁石合金粒子全体を100原子%とすると、R(またはRm):12〜16原子%、B:5〜12原子%であると好ましい。Bの代替として炭素(C)を用いることもでき、その場合はB+C:5〜12原子%となるように調製すると好ましい。RmがNdである場合、磁石合金粒子全体を100質量%としたときに、Nd:27〜35質量%、B:0.8〜1.5質量%であると好ましい。
【0060】
磁石合金粉末は、その製造方法や形態を問わない。磁石合金粉末は、所望組成の鋳造磁石合金を機械粉砕したものでも水素粉砕したものでもよい。また磁石合金粉末は、ストリップキャスト等により急冷凝固させた薄板状の鋳片でも、HDDR(水素化−分解・脱水素−再結合法)のような水素処理を経て製造されたものでも、超急冷されたリボン粒でも、スパッタ等により成膜したものでもよい。さらに磁石合金粒子はアモルファスを含んでもよい。
【0061】
磁石合金粒子は粒子径を問わないが、平均粒径(累積質量が50%となるときの粒子径またはメジアン径)が1〜20μmさらには3〜10μm程度であると好ましい。平均粒径が過小ではコスト高となり、平均粒径が過大ではRdの拡散性は優れるが、希土類焼結磁石の密度や磁気特性の低下を招く。なお、複数類の粉末を混合した磁石合金粉末を用いてもよい。
【0062】
(3)フッ化物粉末
原料粉末は、さらにRcフッ化物粒子とは別のフッ化物粒(第二フッ化物粒子)を含むと好適である。これにより、Rdの拡散経路上のOがRmOFなどとなって捕捉され、Rcの拡散性やRdの拡散性が一層向上する。
第二フッ化物粉末は種々あり得るが、Rmフッ化物粉末(RmF3またはRmF2)粉末が好適である。具体的には、磁石合金粉末が一般的なNdFeB系粉末である場合、ネオジムフッ化物(NdF3またはNdF2)粉末が好ましい。以下、その理由を具体的に説明する。
【0063】
NdFeB系粉末を用いて製造した焼結磁石の粒界には、Ndリッチ相や混入したOによりできた酸化物(Nd2O3、NdO4)などが存在する。この粒界近傍にNdF3粒子が存在すると、次のような反応によりNdOFが生成される。その際、粒界にあるNdリッチ相からNdが消費されることなく、NdOFが生成されるので、焼結性が確保される。
NdF3 +Nd2O3 → 3NdOF
【0064】
次にこの焼結体へRcやRdを拡散させる場合を考えると、NdOFはRc2O3やRd2O3よりも遙かに安定している。従って、NdOFが生成する環境下では、RcやRdは拡散途中でトラップされ難い。つまり、RcやRdは拡散経路中で浪費されることなく、スムーズに粒界拡散し得る。こうしてRmフッ化物粉末を原料粉末中に加えると、RcやRdは粒界相から主相界面を包むようにスムーズに粒界拡散し易くなる。
【0065】
なお、第二フッ化物粉末は、Rcフッ化物粉末以外であればよく、DyF3 やTbF3などのRdフッ化物粉末でもよい。この場合、NdOFが生成される際にRdが遊離し、そのRdは主相の外郭部の形成に寄与し得る。
【0066】
第二フッ化物粉末は、原料粉末(または成形体、焼結体)全体を100原子%としたときに0.1〜10原子%さらには1〜5原子%であると好ましい。第二フッ化物粉末がNdF3粉末である場合なら、前記全体を100質量%としたときに0.05〜5質量%さらには0.5〜3質量%であると好ましい。第二フッ化物粉末が過少ではその効果が乏しく、それが過多では希土類焼結磁石の磁気特性の低下を招く。
【0067】
〈他の工程〉
(1)成形工程
成形工程は、原料粉末を加圧成形して成形体を得る工程である。成形圧力は問わないが、高密度で磁気特性に優れた希土類焼結磁石を得るために成形圧力は5〜50MPaであると好ましい。
【0068】
原料粉末に異方性磁石合金粉末を用いる場合、高い磁束密度を得るために、磁場中で成形して配向させるとよい。このときに印加する磁界の強さも問わないが1〜3Tであると好ましい。
【0069】
(2)焼結工程
焼結工程は、成形体を加熱して焼結体を得る工程である。この工程は、真空雰囲気または不活性ガス雰囲気などの酸化防止雰囲気等でなされる。焼結温度は700〜1150℃さらには900〜1100℃であると好ましい。焼結温度が過小では焼結効率が低下し、焼結温度が過大では、溶融などの障害を生じ、磁気特性の低下等を招く。
【0070】
《希土類焼結磁石の用途》
本発明の希土類焼結磁石は、前述したように素材であっても最終製品またはそれに近い希土類焼結磁石であってもよい。この希土類焼結磁石の用途や形態は問わない。本発明の希土類焼結磁石は、例えば、電動機のロータまたはステータなどの各種電磁機器、磁気ディスクなどの磁気記録媒体、リニアアクチュエータ、リニアモータ、サーボモータ、スピーカー、発電機等に用いられる。
【実施例】
【0071】
実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
《試験1:EPMA観察》
異方性磁界(Ha)の高い拡散元素(Rd)を表面から拡散導入した種々のNdFeB系希土類焼結磁石(以下「焼結磁石」という。)を製造して試料とした。これら試料内における各元素の分布状況をEPMA観察した。それらの試料の製造方法とEPMA観察した結果について以下に詳しく説明する。
【0072】
〈粉末混合法:試料No.A1〉
(1)表1に示す組成(Fe−x%R−1%B:単位は質量%)の磁石合金を鋳造した。この磁石合金を水素粉砕した後、さらにジェットミルで粉砕した。こうして得られた磁石合金粉末の組成および平均粒径D50(メジアン径)を表1に示した。なおジェットミルによる粉砕は窒素雰囲気で行った。
【0073】
次に表1に示す組成のフッ化物粉末(Rc含有粉末)を用意した。用意したフッ化物粉末(株式会社高純度化学研究所製)の平均粒径はD50(メジアン径)=10μmであった。特に断らない限り、以下のRc含有粉末にも同じフッ化物粉末を用いた。ちなみに、後述する第二フッ化物粉末であるNdF3粉末(株式会社高純度化学研究所製)の平均粒径も同様であった。なお、適宜、Rcフッ化物粉末を第一フッ化物粉末ともいう。
【0074】
表1に示す磁石合金粉末と第一フッ化物粉末とをよく混合した(混在工程、拡散予備工程、調製工程)。混合粉末全体に対する各粉末の配合割合は表1に示した。
【0075】
この混合粉末を20x15x10mmの直方体状に2Tの磁場中で成形した(成形工程)。成形圧力は10MPaとした。こうして得た成形体を10−3Paの真空雰囲気中で1030℃x3時間加熱して焼結体を得た(焼結工程)。
【0076】
こうして得られた焼結体(Rd拡散前)の断面の中で任意に選んだ60μmx60μmの視野をEPMAで観察した。そのEPMA像を図2Aおよび図2Bに示した。図2Bは図2Aの部分拡大像である。
【0077】
(2)上記の焼結体をさらに7x7x7mmの立方体に加工・研磨した。その研磨面へ表1に示すRdを拡散させた(拡散工程)。この拡散処理は、容器(加熱炉)内で約10mm離して配置した焼結体とRd単体(金属Rd)とを10−4Paの真空雰囲気中で加熱して行った。このときの加熱温度および加熱時間は表1に示した。ちなみに加熱条件を適当に変更することによってRdの拡散量が調整され得る。
【0078】
こうして得られたRdを拡散させ後の焼結体(希土類焼結磁石)を、最表面から内部に向かってEPMA観察した。そのときのEPMA像を図3Aおよび図3Bに示した。図3Bは図3Aの「表面」に示したEPMA像の一部拡大像である。
【0079】
(3)Rcフッ化物粉末を含まない原料粉末(磁石合金粉末のみ)を用いて、上述の方法と同様にして比較試料(試料No.C1)を製造した。こうして得られた希土類焼結磁石についても同様にEPMA観察をした。そのEPMA像を図4Aおよび図4Bに示した。図4Bは図4Aの「表面」に示したEPMA像の一部拡大像である。
【0080】
〈成形体塗布法:試料No.A2〉
(1)表1に示す磁石合金粉末を前述した方法により用意した。この磁石合金粉末のみを用いて、前述した方法と同様にして成形体を得た。この成形体の表面に、表1に示すRcフッ化物粉末をスプレー塗布した(成形体塗布工程、成形体付着工程)。この際の塗布液として、Rcフッ化物粉末をアセトンに分散させた懸濁液(スラリー)を用いた。Rcフッ化物粒子(Rc含有粒子)の塗布量は表1に粉末換算で示した。
【0081】
Rcフッ化物粒子が表面に付着した成形体を、前述した方法と同様に加熱して焼結体を得た。この焼結体へRdの拡散処理を施した。この処理方法は前述した通りであり、その際の加熱条件は表1に示した。
【0082】
(2)こうして得た希土類焼結磁石についても、前述の場合と同様にEPMA観察を行った。そのEPMA像を図5に示した。
【0083】
〈焼結体塗布法1:試料No.A3〉
(1)表1に示す磁石合金粉末を前述した方法により用意した。この磁石合金粉末のみを用いて、前述した方法と同様にして成形体を得た。この成形体を前述した方法と同様に加熱して焼結体を得た。この焼結体を7x7x7mmの立方体に加工・研磨した。この加工後の焼結体の表面に前述したRcフッ化物粉末をスプレー塗布した(焼結体塗布工程、焼結体付着工程)。この際の塗布液として、Rcフッ化物粉末をアルコール(C2H6O)に分散させた懸濁液(スラリー)を用いた。Rcフッ化物粒子(Rc含有粒子)の塗布量は表1に粉末換算で示した。
【0084】
この焼結体をさらに10−2Paの真空雰囲気中で850℃x32時間加熱して、焼結体内へフッ化物粒子を拡散させた(第一拡散工程、加熱工程、拡散予備工程)。この処理後の焼結体へ、さらに、Rdの拡散処理を施した(第二拡散工程)。この処理方法は前述した通りであり、その際の加熱条件は表1に示した。
【0085】
(2)こうして得た希土類焼結磁石についても、前述の場合と同様にEPMA観察を行ったところ、図2A〜図3Bに示すEPMA像と似た結果が得られた。
【0086】
〈焼結体塗布法2:試料No.A4〉
(1)表1に示す磁石合金粉末を前述した方法により用意した。この磁石合金粉末に前述したNdF3粉末(第二フッ化物粉末)を加えてよく混合した。NdF3粉末の配合量は表1に示した。
【0087】
この混合粉末を用いて、前述した方法と同様にして成形体を得た。さらにその成形体を前述した方法と同様にして焼結体を得た。この焼結体を7x7x7mmの立方体に加工・研磨した。この加工後の焼結体の表面に前述したRcフッ化物粉末をスプレー塗布した(焼結体塗布工程、焼結体付着工程)。この際の塗布液として、Rcフッ化物粉末をアルコール(C2H6O)に分散させた懸濁液(スラリー)を用いた。Rcフッ化物粒子(Rc含有粒子)の塗布量は粉末換算で表1に示した。
【0088】
この焼結体をさらに10−2Paの真空雰囲気中で表1に示す条件で加熱して、焼結体内へRcフッ化物粒子を拡散させた(第一拡散工程、加熱工程、拡散予備工程)。
この焼結体へ、さらに、Rdの拡散処理を施した(第二拡散工程)。この処理方法は前述した通りであり、加熱条件は表1に示した。
【0089】
(2)こうして得た希土類焼結磁石についても、前述の場合と同様にEPMA観察を行ったところ、図2A〜図3Bに示すEPMA像と似た結果が得られた。
【0090】
〈評価〉
(1)Rdの拡散前の焼結体(粉末混合法)の場合、図2Aおよび図2Bに示すように、RcであるYが、Nd2Fe14B型結晶(主相)からなる磁石合金粒子の界面を被包するように、粒界に濃く分布している。また隣接する磁石合金粒子により形成される間隙部(三重点)でもYが濃く分布している。これらが本発明でいうRc濃化部に相当する。
【0091】
ところでY以外のFやOは、その間隙部に濃く分布化しているが、主相の外郭部には殆ど存在していない。これらのことから、主相の外郭部に存在するYは、主相を構成するNdの一部と置換して(Y、Nd)2Fe14B型結晶を構成していると共に、間隙部に存在するYはFおよびOと共に安定な酸フッ化物(Y、Nd)OFになっていると考えられる。
【0092】
(2)Yを導入した焼結体へDyを拡散させた焼結体(希土類焼結磁石)の場合、図3Aおよび図3Bに示すように、Dyが表面部のみならずその内部深くまで拡散している。つまり、Dyが表面部に過度に集中して滞留することなく、内部にある磁石合金粒子(または主相)の粒界面も、Dyによって薄く被包された状態となっている。
【0093】
またDyは、主相の表面(界面)に分布しているだけで、焼結磁石の表面部でも主相内部には殆ど分布していない。つまりDyは体拡散をしていない。
一方、Yを導入しない焼結体へDyを拡散させた焼結磁石の場合、図4Aおよび図4Bに示すように、Dyがその表面部に過度に集中しており、内部には殆ど拡散していない。しかもその表面部では、Dyが主相内にまで侵入する体拡散が生じていた。つまり、Dyが保磁力の向上のために有効な粒界拡散をしていないことがわかった。
【0094】
(3)Rdの拡散前の焼結体(成形体塗布法)の場合、図5に示すように、Yが焼結体の表面部かそれに近い領域に集中している。それらの領域では、主相の外郭部に(Y、Nd)2Fe14B型結晶が形成され、磁石合金粒子間の間隙部に(Y、Nd)OFが形成されている。もっとも、Dyの拡散前は図5の元素分布であるとしても、Dyの拡散後は図3Aや図3Bに示す場合と同様に、Dyが焼結体の内部深くまで拡散して磁石合金粒子(または主相)の粒界を薄く被包していた。
【0095】
《試験2:磁気特性の測定》
〈試料の製造〉
上述した方法を用いて、試料となるRdを拡散させた種々の希土類焼結磁石を製造し、それらの磁気特性(保磁力)を測定した。各試料の製造条件および磁気特性は表2に併せて示した。表2に示していない条件は、Rcの導入方法に関して対応する試料No.A1〜A4またはC1のいずれかと同様である。なお、Rdの拡散後に10−4Paの真空雰囲気で480℃x1時間の時効処理を行った。
【0096】
なお各試料の保磁力はパルス励磁型磁気特性測定装置(東英工業株式会社製TPH−3−10s10)を用いて測定した。表2中に示した保磁力増加量は、{(Rd拡散後の保磁力)−(Rd拡散前の保磁力)}により、保磁力効率は、(保磁力増加量)/(Rd拡散量)により算出した。表2に示した各試料の磁気特性は、図6〜図8にも示した。
【0097】
〈評価〉
(1)表2および図6より、希土類焼結磁石の保磁力は、Rdの拡散量が同じでも原料粉末中にRcを含むフッ化物粒子(Rc含有粉末)が混在することにより大幅に向上する。この傾向は、拡散処理時間(加熱時間)に応じてRdの拡散量が変化しても同様である。もっとも、Rc含有粉末による保磁力の向上効果は、Rdの拡散量が少ない場合ほど顕著である。従って、少量のRc含有粉末を原料粉末に混在させれば、Rdの使用量を抑制しつつ、希土類焼結磁石の保磁力を大幅に増加させることが可能となった。
【0098】
(2)同様のことは、表2および図7から、Rc含有粉末を成形体に塗布した場合にも、Rc含有粉末を焼結体に塗布した場合にもいい得ることがわかる。さらに表2および図7から、Rdの単位量あたりにおける保磁力の向上割合である保磁力効率は、Rc含有粉末を成形体に塗布した場合よりも、焼結体に塗布した場合の方が大きいこともわかる。
【0099】
(3)さらに表2および図8から、NdF3粉末を含めた原料粉末からなる焼結体へRc含有粉末を塗布したとき、上記の保磁力効率がより大きくなることもわかった。
【0100】
【表1】
【0101】
【表2】
【0102】
【表3】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一種以上の希土類元素(以下「R」とも表す。)とホウ素(B)と鉄(Fe)を含む磁石合金粉末を用いて原料粉末を調製する調製工程と、
該原料粉末を成形して成形体を得る成形工程と、
該成形体を焼結させて焼結体を得る焼結工程とを備え、
該焼結体からなる希土類焼結磁石の製造方法であって、
R2Fe14B型金属間化合物の生成エネルギー(E1)が前記磁石合金粉末中に最も多く含まれる希土類元素である主元素(以下「Rm」とも表す。)よりも小さく前記焼結体へ拡散させる希土類元素である拡散元素(以下「Rd」とも表す。)よりも大きい希土類元素である中間元素(以下「Rc」とも表す。)を、該Rdの拡散前の焼結体の少なくとも表面部に存在させる拡散予備工程を備えることを特徴とする希土類焼結磁石の製造方法。
【請求項2】
前記拡散予備工程は、前記Rcを含むRc含有粒子を前記原料粉末中に混在させる混在工程である請求項1に記載の希土類焼結磁石の製造方法。
【請求項3】
前記拡散予備工程は、前記Rcを含むRc含有粒子を前記成形体の表面に付着させる成形体付着工程である請求項1に記載の希土類焼結磁石の製造方法。
【請求項4】
前記拡散予備工程は、前記Rcを含むRc含有粒子を前記焼結体の表面に付着させる焼結体付着工程を含む請求項1に記載の希土類焼結磁石の製造方法。
【請求項5】
前記Rc含有粒子は、前記Rcのフッ化物(RcF3またはRcF2)からなるRcフッ化物粒子である請求項2〜4のいずれかに記載の希土類焼結磁石の製造方法。
【請求項6】
前記Rcは、R2O3型酸化物の生成エネルギー(E2)が前記Rmおよび前記Rdよりも小さい希土類元素である請求項1〜5のいずれかに記載の希土類焼結磁石の製造方法。
【請求項7】
前記Rmはネオジム(Nd)であり、
前記Rdはジスプロシウム(Dy)またはTbであり、
前記Rcはイットリウム(Y)である請求項1または6に記載の希土類焼結磁石の製造方法。
【請求項8】
前記原料粉末は、前記Rcと異なる希土類元素のフッ化物からなる第二フッ化物粒子をさらに含む請求項1または7に記載の希土類焼結磁石の製造方法。
【請求項9】
さらに、前記焼結体へ前記Rdを拡散させる拡散工程を備える請求項1または8に記載の希土類焼結磁石の製造方法。
【請求項10】
RとBとFeを含む磁石合金粉末を用いて原料粉末を調製する調製工程と、
該原料粉末を成形して成形体を得る成形工程と、
該成形体を焼結させて焼結体を得る焼結工程とを備え、
該焼結体からなる希土類焼結磁石の製造方法であって、
R2O3型酸化物の生成エネルギー(E2)がRmおよびRdよりも小さい希土類元素であるRcを、該Rdの拡散前の焼結体の少なくとも表面部に存在させる拡散予備工程を備えることを特徴とする希土類焼結磁石の製造方法。
【請求項11】
一種以上のRとBとFeを含む磁石合金粒子が焼結した焼結体からなる希土類焼結磁石であって、
前記焼結体の少なくとも表面部には、前記焼結した磁石合金粒子の外周囲に、R2Fe14B型金属間化合物の生成エネルギーが前記磁石合金粒子中に最も多く含まれる希土類元素である主元素(Rm)よりも小さく前記焼結体へ拡散させる希土類元素である拡散元素(Rd)よりも大きい希土類元素である中間元素(Rc)を含んだRc濃化部が存在することを特徴とする希土類焼結磁石。
【請求項12】
前記Rc濃化部は、Rc酸フッ化物を含む請求項11に記載の希土類焼結磁石。
【請求項13】
Rc酸フッ化物は、イットリウム酸フッ化物(YOF)である請求項12に記載の希土類焼結磁石。
【請求項14】
さらに、Rc濃化部は、ネオジム酸フッ化物(NdOF)を含む請求項11または13に記載の希土類焼結磁石。
【請求項15】
請求項1〜9のいずれかに記載の製造方法により得られたことを特徴とする希土類焼結磁石。
【請求項1】
一種以上の希土類元素(以下「R」とも表す。)とホウ素(B)と鉄(Fe)を含む磁石合金粉末を用いて原料粉末を調製する調製工程と、
該原料粉末を成形して成形体を得る成形工程と、
該成形体を焼結させて焼結体を得る焼結工程とを備え、
該焼結体からなる希土類焼結磁石の製造方法であって、
R2Fe14B型金属間化合物の生成エネルギー(E1)が前記磁石合金粉末中に最も多く含まれる希土類元素である主元素(以下「Rm」とも表す。)よりも小さく前記焼結体へ拡散させる希土類元素である拡散元素(以下「Rd」とも表す。)よりも大きい希土類元素である中間元素(以下「Rc」とも表す。)を、該Rdの拡散前の焼結体の少なくとも表面部に存在させる拡散予備工程を備えることを特徴とする希土類焼結磁石の製造方法。
【請求項2】
前記拡散予備工程は、前記Rcを含むRc含有粒子を前記原料粉末中に混在させる混在工程である請求項1に記載の希土類焼結磁石の製造方法。
【請求項3】
前記拡散予備工程は、前記Rcを含むRc含有粒子を前記成形体の表面に付着させる成形体付着工程である請求項1に記載の希土類焼結磁石の製造方法。
【請求項4】
前記拡散予備工程は、前記Rcを含むRc含有粒子を前記焼結体の表面に付着させる焼結体付着工程を含む請求項1に記載の希土類焼結磁石の製造方法。
【請求項5】
前記Rc含有粒子は、前記Rcのフッ化物(RcF3またはRcF2)からなるRcフッ化物粒子である請求項2〜4のいずれかに記載の希土類焼結磁石の製造方法。
【請求項6】
前記Rcは、R2O3型酸化物の生成エネルギー(E2)が前記Rmおよび前記Rdよりも小さい希土類元素である請求項1〜5のいずれかに記載の希土類焼結磁石の製造方法。
【請求項7】
前記Rmはネオジム(Nd)であり、
前記Rdはジスプロシウム(Dy)またはTbであり、
前記Rcはイットリウム(Y)である請求項1または6に記載の希土類焼結磁石の製造方法。
【請求項8】
前記原料粉末は、前記Rcと異なる希土類元素のフッ化物からなる第二フッ化物粒子をさらに含む請求項1または7に記載の希土類焼結磁石の製造方法。
【請求項9】
さらに、前記焼結体へ前記Rdを拡散させる拡散工程を備える請求項1または8に記載の希土類焼結磁石の製造方法。
【請求項10】
RとBとFeを含む磁石合金粉末を用いて原料粉末を調製する調製工程と、
該原料粉末を成形して成形体を得る成形工程と、
該成形体を焼結させて焼結体を得る焼結工程とを備え、
該焼結体からなる希土類焼結磁石の製造方法であって、
R2O3型酸化物の生成エネルギー(E2)がRmおよびRdよりも小さい希土類元素であるRcを、該Rdの拡散前の焼結体の少なくとも表面部に存在させる拡散予備工程を備えることを特徴とする希土類焼結磁石の製造方法。
【請求項11】
一種以上のRとBとFeを含む磁石合金粒子が焼結した焼結体からなる希土類焼結磁石であって、
前記焼結体の少なくとも表面部には、前記焼結した磁石合金粒子の外周囲に、R2Fe14B型金属間化合物の生成エネルギーが前記磁石合金粒子中に最も多く含まれる希土類元素である主元素(Rm)よりも小さく前記焼結体へ拡散させる希土類元素である拡散元素(Rd)よりも大きい希土類元素である中間元素(Rc)を含んだRc濃化部が存在することを特徴とする希土類焼結磁石。
【請求項12】
前記Rc濃化部は、Rc酸フッ化物を含む請求項11に記載の希土類焼結磁石。
【請求項13】
Rc酸フッ化物は、イットリウム酸フッ化物(YOF)である請求項12に記載の希土類焼結磁石。
【請求項14】
さらに、Rc濃化部は、ネオジム酸フッ化物(NdOF)を含む請求項11または13に記載の希土類焼結磁石。
【請求項15】
請求項1〜9のいずれかに記載の製造方法により得られたことを特徴とする希土類焼結磁石。
【図1A】
【図1B】
【図6】
【図7】
【図8】
【図2A】
【図2B】
【図3A】
【図3B】
【図4A】
【図4B】
【図5】
【図9】
【図1B】
【図6】
【図7】
【図8】
【図2A】
【図2B】
【図3A】
【図3B】
【図4A】
【図4B】
【図5】
【図9】
【公開番号】特開2012−43968(P2012−43968A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−183659(P2010−183659)
【出願日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】
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