説明

希土類磁石の製造方法

【課題】従来の希土類磁石の製造方法に比して低温で保磁力(特に高温雰囲気下における保磁力)を高める改質合金を浸透させることができ、もって、保磁力が高く、磁化も比較的高い希土類磁石を製造することのできる製造方法を提供する。
【解決手段】ナノ結晶組織のRE-Fe-B系(RE:Nd、Prの少なくとも一種)の主相MPと、主相MPの周りにあるRE-X合金(X:金属元素)の粒界相BPからなる焼結体Sに対し、異方性を与える熱間塑性加工を施して成形体Cを製造する第1のステップ、成形体Cの保磁力を高めるRE-Y-Z合金(Y:遷移金属元素、Z:重希土類元素)と粒界相BPをともに溶融させ、RE-Y-Z合金の融液を成形体Cの表面から液相浸透させて希土類磁石RMを製造する第2のステップからなる希土類磁石の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、希土類磁石の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ランタノイド等の希土類元素を用いた希土類磁石は永久磁石とも称され、その用途は、ハードディスクやMRIを構成するモータのほか、ハイブリッド車や電気自動車等の駆動用モータなどに用いられている。
【0003】
この希土類磁石の磁石性能の指標として残留磁化(残留磁束密度)と保磁力を挙げることができるが、モータの小型化や高電流密度化による発熱量の増大に対し、使用される希土類磁石にも耐熱性に対する要求は一層高まっており、高温使用下で磁石の保磁力を如何に保持できるかが当該技術分野での重要な研究課題の一つとなっている。車両駆動用モータに多用される希土類磁石の一つであるNd-Fe-B系磁石を取り挙げると、結晶粒の微細化を図ることやNd量の多い組成合金を用いること、保磁力性能の高いDy、Tbといった重希土類元素を添加することなどによってその保磁力を増大させる試みがおこなわれている。
【0004】
希土類磁石としては、組織を構成する結晶粒(主相)のスケールが3〜5μm程度の一般的な焼結磁石のほか、結晶粒を50nm〜300nm程度のナノスケールに微細化したナノ結晶磁石があるが、中でも、上記する結晶粒の微細化を図りながら高価な重希土類元素の添加量を低減すること(フリー化)のできるナノ結晶磁石が現在注目されている。
【0005】
重希土類元素の中でもその使用量の多いDyを取り上げると、Dyの埋蔵地域は中国に偏在していることに加えて、中国によるDyをはじめとするレアメタルの生産量や輸出量が規制されていることから、Dyの資源価格は2011年度に入って急激に上昇している。そのため、Dy量を減らしながら保磁力性能を保証するDyレス磁石や、Dyを一切使用せずに保磁力性能を保証するDyフリー磁石の開発が我が国において国家を挙げた重要な開発課題の一つとなっており、このことがナノ結晶磁石の注目度を高くしている大きな要因の一つである。
【0006】
ナノ結晶磁石の製造方法を概説すると、たとえばNd-Fe-B系の金属溶湯を急冷凝固して得られたナノサイズの微粉末を加圧成形しながら焼結して焼結体を製造し、この焼結体に磁気的異方性を付与するべく熱間塑性加工を施して成形体を製造する。
【0007】
この成形体に対し、保磁力性能の高い重希土類元素を種々の方法で付与することでナノ結晶磁石からなる希土類磁石が製造されるものであり、その一例として特許文献1,2に開示の製造方法を挙げることができる。
【0008】
まず特許文献1には、熱間塑性加工された成形体に対し、Dy、Tbの少なくとも一方を含む蒸発材料を蒸発させ、成形体の表面から粒界拡散させる製造方法が開示されている。
【0009】
この製造方法では、蒸発材料を蒸発させる工程において850〜1050℃程度の高温処理を要件としており、この温度範囲は、残留磁束密度の向上と結晶粒成長が速すぎるのを抑制することから規定されたものとしている。
【0010】
しかしながら、850〜1050℃程度もの温度範囲で熱処理をおこなうと結晶粒が粗大化してしまい、その結果として保磁力が低下する可能性が高くなる。すなわち、Dy、Tbを粒界拡散させていながらも、結果として保磁力を十分に高めることができないことになってしまう。
【0011】
一方、特許文献2には、希土類磁石の表面に、Dy、Tb、Hoの少なくとも一種の元素、もしくは、これらとCu,Al,Ga,Ge,Sn,In,Si,P,Coの少なくとも一種の元素の合金を接触させ、結晶粒径が1μmを超えないように熱処理して粒界拡散させる製造方法が開示されている。
【0012】
ここで、特許文献2では、熱処理の際の温度が500〜800℃の範囲の場合にDy等の結晶粒界相への拡散効果と熱処理による結晶粒の粗大化抑制効果のバランスに優れ、高保磁力の希土類磁石が得やすくなるとしている。そして、その種々の実施例は、Dy-Cu合金を使用して500〜900℃で熱処理するものが開示されているが、種々の実施例の中でも代表的な85Dy-15Cu合金の融点は1100℃程度であることから、この金属溶湯を拡散浸透しようとすると1000℃程度以上の高温処理を要し、結果として結晶粒の粗大化を抑制できない。
【0013】
したがって、特許文献2における500〜800℃の範囲の熱処理における合金は固相であり、固相拡散によってDy-Cu合金等を希土類磁石内に拡散させるものであることから、拡散に時間を要することは理解に易い。
【0014】
このような種々の状況(高融点の重希土類元素を含む改質合金を粒界相へ拡散させる際の高温雰囲気下における結晶粒の粗大化、当該改質合金の固相拡散には時間を要することなど)に鑑み、本発明者等は、比較的低温な条件下において液相の粒界相に対して液相の改質合金を液相浸透させることにより、ナノ結晶磁石からなる希土類磁石の保磁力、特に高温雰囲気下における保磁力が高く、磁化も比較的高い希土類磁石の製造方法の発案に至っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2011−035001号公報
【特許文献2】特開2010−114200号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は上記する問題に鑑みてなされたものであり、従来の希土類磁石の製造方法に比して低温で保磁力(特に高温雰囲気下における保磁力)を高める改質合金を浸透させることができ、もって、保磁力が高く、磁化も比較的高い希土類磁石を製造することのできる製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
前記目的を達成すべく、本発明による希土類磁石の製造方法は、ナノ結晶組織のRE-Fe-B系の主相(RE:Nd、Prの少なくとも一種)と、該主相の周りにあるRE-X合金(X:金属元素)の粒界相からなる焼結体に対し、異方性を与える熱間塑性加工を施して成形体を製造する第1のステップ、前記成形体の保磁力を高めるRE-Y-Z合金(Y:遷移金属元素、Z:重希土類元素)と前記粒界相をともに溶融させ、RE-Y-Z合金の融液を成形体の表面から液相浸透させて希土類磁石を製造する第2のステップからなるものである。
【0018】
本発明の製造方法は、ナノ結晶組織を有する希土類磁石の製造方法に関し、従来の改質合金に比して格段に低融点の改質合金を使用して粒界相と改質合金をともに溶融させ、改質合金の融液を溶融状態の粒界相に液相浸透させることにより、その保磁力、特に高温雰囲気下(たとえば150〜200℃)における保磁力が高く、磁化も比較的高いナノ結晶磁石を製造するための方法である。
【0019】
まず、液体急冷にて微細な結晶粒である急冷薄帯(急冷リボン)を製作し、これをたとえばダイス内に充填してパンチで加圧しながら焼結してバルク化を図り、ナノ結晶組織のRE-Fe-B系の主相(RE:Nd、Prの少なくとも一種で、より具体的にはNd、Pr、Nd-Prのいずれか一種もしくは二種以上)と、該主相の周りにあるRE-X合金(X:金属元素)の粒界相からなる、等方性の焼結体を得る。
【0020】
次いで、この焼結体に対し、異方性を付与するための熱間塑性加工を施して成形体を得る。この熱間塑性加工では、加工温度や加工時間のほかに、塑性歪み速度の調整も重要な要素となる。
【0021】
この成形体において、その粒界相を構成するRE-X合金は、主相成分によっても相違するものの、REがNdの場合には、Ndと、Co、Fe、Ga等のうちの少なくとも1種以上の合金からなり、たとえば、Nd-Co、Nd-Fe、Nd-Ga、Nd-Co-Fe、Nd-Co-Fe-Gaのうちのいずれか一種、もしくはこれらの二種以上が混在したものであって、Ndリッチな状態となっている。なお、REがPrの場合には、Nd同様にPrリッチな状態となっている。
【0022】
本発明者等によれば、Nd-Co、Nd-Fe、Nd-Ga、Nd-Co-Fe、Nd-Co-Fe-Gaやこれらが混在した粒界相の融点は概ね600℃近傍(成分やその比率によってばらつきがあるため、550℃程度〜650℃程度の範囲)にあることが特定されている。なお、上記主相の結晶粒径は50nm〜300nmの範囲にあるのが好ましい。ナノ結晶磁石にこのような粒径範囲の主相を適用した場合に、粒径の増大がないという本発明者等の知見に基づくものである。
【0023】
次に、この成形体を構成する粒界相を溶融させ、改質合金であるRE-Y-Z合金(Y:遷移金属元素、Z:重希土類元素)の融液を成形体の表面から液相浸透させることにより、溶融状態の粒界相内にRE-Y-Z合金の融液が吸込まれ、成形体内部が組織変化を起こしながら保磁力が高められた希土類磁石が製造される。
【0024】
成形体の表面から溶融状態の粒界相に液相浸透される溶融状態のRE-Y-Z合金は、この粒界相と同程度の融点を有するNd合金が選定されるのが望ましく、したがって、600℃程度〜650℃程度の範囲のNd合金の融液が溶融状態の粒界相に浸透される。このことにより、Dy-Cu合金等を粒界相内に固相拡散させる場合に比して拡散効率や拡散速度は格段に向上し、短時間に改質合金の拡散を図ることができる。
【0025】
本発明者等によれば、RE-Y-Z合金(Y:遷移金属元素、Z:重希土類元素)を使用することによって、従来の製造方法のようにDy等の重希土類元素を単独で拡散浸透させる場合や、Dy-Cu合金のように遷移金属元素と重希土類元素の合金を拡散浸透させる場合に比して、その融点が格段に低下することが見出されている。
【0026】
なお、「遷移金属元素」としては、Cu、Fe、Mn、Co、Ni、Zn、Tiなどのうちのいずれか一種を適用することができる。また、「重希土類元素」としては、Dy、Tb、Hoなどのうちのいずれか一種を適用することができる。
【0027】
RE-Y-Z合金(Y:遷移金属元素、Z:重希土類元素)を使用することにより、これまでのDy合金等を1000℃以上の高温雰囲気下で拡散浸透させる場合に比して、格段に低温の600℃程度の温度条件下で改質合金の浸透をおこなうことができるため、主相(結晶粒)の粗大化を抑制することができ、このことも保磁力の向上に寄与することになる。特に、ナノ結晶磁石は焼結磁石と異なり、800℃程度の高温雰囲気下に10分程度載置されると結晶粒の粗大化が著しいことからも、600℃程度の温度条件下における改質合金の浸透は望ましいと言える。なお、70Dy-30Cu合金を適用した場合でもその融点は790℃となり、800℃程度の高温処理を要することから、結晶粒の粗大化を抑制できない。
【0028】
たとえば、Nd-Cu-Dy合金を使用する場合、その成分比率によって合金の融点は相違するものの(60Nd-30Cu-10Dy合金の融点は533℃、50Nd-30Cu-20Dy合金の融点は576℃等)、この改質合金の融点は概ね600℃未満となり、粒界相と同程度の低融点となる。
【0029】
上記する成形体内部の組織変化に関し、熱間塑性加工された成形体の状態では、結晶粒の形状が配向方向に垂直で扁平な組織となり易く、異方軸とほぼ平行な粒界は湾曲したり屈曲しており、特定の面で構成されていない傾向にある。これに対し、溶融状態の粒界相内に改質合金の融液が液相浸透して時間が経過するにつれ、結晶粒の界面が明りょうになってきて結晶粒間の磁気分断が進行し、保磁力が向上していく。ただし、この組織変化の途中過程においては、異方軸に平行な面が未だ特定面で構成されていない結晶粒となっている。
【0030】
成形体内部の組織変化が完了した段階では、結晶粒の形状が、異方軸に対して垂直な方向から見た際の平面形状が長方形かこれに近似した形状となり、結晶粒の表面が低指数(ミラー指数)の面で囲まれる多面体(六面体(直方体)や八面体、さらにはこれらに近似した立体)となる。たとえば六面体の場合に、(001)面に配向軸が形成され(容易磁化方向(c軸)が六面体の上下面)、側面は(110)、(100)もしくはこれらに近い面指数で構成されることが本発明者等によって特定されている。
【0031】
このように、本発明による希土類磁石の製造方法は、溶融状態の粒界相に対して粒界相と同程度かそれ以下の低融点を有するNd-Y-Z合金(Y:遷移金属元素、Z:重希土類元素)の融液を液相浸透させるといった新規な技術思想に立脚した製造方法により、ナノ結晶粒の粗大化が抑制され、ナノ結晶粒間が改質された粒界相にて精度よく磁気的に分断されて、保磁力が高く、磁化も良好な希土類磁石を得ることができる。
【発明の効果】
【0032】
以上の説明から理解できるように、本発明の希土類磁石の製造方法によれば、ナノ結晶組織のRE-Fe-B系の主相(RE:Nd、Prの少なくとも一種)とその周りにあるRE-X合金の粒界相からなる焼結体が熱間塑性加工を施されてなる成形体に対し、RE-Y-Z合金(Y:遷移金属元素、Z:重希土類元素)といった低融点の改質合金を使用して、溶融状態の粒界相に改質合金の融液を液相浸透させることにより、主相であるナノ結晶粒の粗大化を抑制することができ、ナノ結晶粒間を改質された粒界相にて精度よく磁気的に分断することができ、保磁力が高く、磁化も良好な希土類磁石を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】(a)、(b)、(c)の順で本発明の希土類磁石の製造方法の第1のステップを説明した模式図である。
【図2】(a)は図1bで示す焼結体のミクロ構造を説明した図であり、(b)は図1cの成形体のミクロ構造を説明した図である。
【図3】(a)は本発明の希土類磁石の製造方法の第2のステップを説明した図であり、(b)は改質合金による組織の改質途中の希土類磁石のミクロ構造を説明した図であり、(c)は改質合金によって組織の改質が完了した希土類磁石のミクロ構造を説明した図である。
【図4】改質合金の拡散前後の磁化と保磁力に関する実験結果を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、図面を参照して本発明の希土類磁石の製造方法の実施の形態を説明する。
【0035】
(希土類磁石の製造方法)
図1a、b、cはその順で本発明の希土類磁石の製造方法の第1のステップを説明した模式図であり、図3aは本発明の希土類磁石の製造方法の第2のステップを説明した図である。また、図2aは図1bで示す焼結体のミクロ構造を説明した図であり、図2bは図1cの成形体のミクロ構造を説明した図である。さらに、図3bは改質合金による組織の改質途中の希土類磁石のミクロ構造を説明した図であり、図3cは改質合金によって組織の改質が完了した希土類磁石のミクロ構造を説明した図である。
【0036】
図1aで示すように、たとえば50kPa以下に減圧したArガス雰囲気の不図示の炉中で、単ロールによるメルトスピニング法により、合金インゴットを高周波溶解し、希土類磁石を与える組成の溶湯を銅ロールRに噴射して急冷薄帯B(急冷リボン)を製作し、これを粗粉砕する。
【0037】
粗粉砕された急冷薄帯Bを図1bで示すように超硬ダイスDとこの中空内を摺動する超硬パンチPで画成されたキャビティ内に充填し、超硬パンチPで加圧しながら(X方向)加圧方向に電流を流して通電加熱することにより、ナノ結晶組織のNd-Fe-B系の主相(50nm〜200nm程度の結晶粒径)と、主相の周りにあるNd-X合金(X:金属元素)の粒界相からなる焼結体Sを製作する。
【0038】
ここで、粒界相を構成するNd-X合金は、Ndと、Co、Fe、Ga等のうちの少なくとも1種以上の合金からなり、たとえば、Nd-Co、Nd-Fe、Nd-Ga、Nd-Co-Fe、Nd-Co-Fe-Gaのうちのいずれか一種、もしくはこれらの二種以上が混在したものであって、Ndリッチな状態となっている。
【0039】
図2aで示すように、焼結体Sはナノ結晶粒MP(主相)間を粒界相BPが充満する等方性の結晶組織を呈している。そこで、この焼結体Sに異方性を与えるべく、図1cで示すように焼結体Sの長手方向(図1bでは水平方向が長手方向)の端面に超硬パンチPを当接させ、超硬パンチPで加圧しながら(X方向)熱間塑性加工を施すことにより、図2bで示すように異方性のナノ結晶粒MPを有する結晶組織の成形体Cが製作される(以上、第1のステップ)。
【0040】
なお、熱間塑性加工による加工度(圧縮率)が大きい場合、たとえば圧縮率が10%程度以上の場合を、熱間強加工もしくは単に強加工と称することができる。
【0041】
図2bで示す成形体Cの結晶組織において、ナノ結晶粒MPは扁平形状をなし、異方軸とほぼ平行な界面は湾曲したり屈曲しており、特定の面で構成されていない。
【0042】
次に、図3aで示すように、製作された成形体Cをヒータ内蔵の高温炉H内に収容し、Nd-Y-Z合金(Y:遷移金属元素、Z:重希土類元素)からなる改質合金Mを成形体Cに接触させ、炉内を高温雰囲気とする。
【0043】
ここで、遷移金属元素Yとしては、Cu、Fe、Mn、Co、Ni、Zn、Tiなどのうちのいずれか一種を適用することができ、重希土類元素Zとしては、Dy、Tb、Hoなどのうちのいずれか一種を適用することができる。たとえば、Nd-Cu-Dy合金、Nd-Cu-Tb合金などを挙げることができる。
【0044】
Nd-Co、Nd-Fe、Nd-Ga、Nd-Co-Fe、Nd-Co-Fe-Gaやこれらが混在した粒界相の融点は、成分やその比率によってばらつきがあるものの、概ね600℃近傍(このばらつきを考慮して550℃程度〜650℃程度の範囲)にある。
【0045】
改質合金としてNd-Cu-Dy合金やNd-Cu-Tb合金を使用する場合は、それらの融点が600℃以下(530〜580℃程度)であることから、粒界相BPの融点とほぼ同じかそれよりも低く、したがって、高温炉H内を600〜650℃の温度雰囲気下とすることで粒界相BPが溶融し、改質合金であるNd-Cu-Dy合金やNd-Cu-Tb合金も溶融する。
【0046】
溶融したNd-Cu-Dy合金やNd-Cu-Tb合金の融液は、溶融状態の粒界相BP内に液相浸透していく。
【0047】
このように溶融状態の粒界相BP内に改質合金の融液が液相浸透することから、たとえば従来の製造方法のようにDy-Cu合金等を粒界相内に固相拡散させる場合に比して拡散効率や拡散速度が格段に優れ、短時間で改質合金の拡散を図ることが可能となる。
【0048】
改質合金の融液を粒界相内に液相浸透させ、ある程度の時間が経過すると、図2bで示す成形体Cの結晶組織が組織変化して、図3bで示すように結晶粒MPの界面が明りょうになり、結晶粒MP,MP間の磁気分断が進行して保磁力が向上する。しかしながら、図3bで示す改質合金による組織改質の途中段階においては、異方軸とほぼ平行な界面は形成されない(特定の面で構成されない)。
【0049】
改質合金による改質が十分に進んだ段階では、図3cで示すように異方軸とほぼ平行な界面(特定の面)が形成され、異方軸に直交する方向から見た(図3cを見る方向)際の結晶粒MPの形状は長方形やそれに近似した形状を呈した希土類磁石RMが形成される。
【0050】
このように本発明の製造方法によって得られる希土類磁石RMは、焼結体に異方性を付与するための熱間塑性加工を施して得られる成形体を使用すること、および、Nd-Y-Z合金(Y:遷移金属元素、Z:重希土類元素)からなる改質合金の融液を溶融状態の粒界相内に液相浸透させることにより、熱間塑性加工によって生じた残留歪みが改質合金の融液と接触することで除去され、さらに結晶粒の微細化と、結晶粒間の磁気分断が促進することによってその保磁力が向上するものと考えられる。
【0051】
また、その融点が粒界相の融点と同程度かそれよりも低い改質合金を使用することから、600〜650℃程度と比較的低い温度で粒界相と改質合金の双方を溶融させることにより、ナノ結晶粒の粗大化が抑制され、このことも保磁力向上に寄与している。
【0052】
「改質合金の拡散前後の磁化と保磁力に関する実験とその結果」
本発明者等は、上記する本発明の製造方法を適用してナノ結晶磁石である希土類磁石を製作し、さらに、粒界相内に浸透させる改質合金として本発明のものとは異なる従来の改質合金を使用して同様に希土類磁石を製作し、各試験体の改質合金拡散前後の磁化と保磁力を測定し、それぞれを比較する実験をおこなった。
【0053】
まず、実施例の試験体の製作方法は、マグネクエンチ・インターナショナル製の超急冷Nd-Fe-B系磁性粉MQU-F(結晶粒径200nm以下)を使用し、成形用の金型内で、保持温度600℃、保持圧力50MPa、保持時間5分で加圧焼結して焼結体を成形した。
【0054】
成形した焼結体を加工温度750℃、加工度70%、歪み速度1/sで塑性加工して改質合金拡散前の成形体を製作した。
【0055】
成形体の上下面に改質合金を塗工したものをチタン製容器に収容し、容器内を真空もしくはアルゴン雰囲気下とし、以下の表1の条件にて改質合金の拡散浸透を2時間おこない、希土類磁石を製作した。
【0056】
製作された各試験体をパルス励磁型磁気特性測定装置を用いて磁気測定をおこない、拡散前後の磁化の比率と拡散前後の保磁力の向上代を測定した。測定結果を以下の表2および図4に示す。
【0057】
【表1】

【0058】
【表2】

【0059】
表2および図4より、実施例1〜5はいずれも、結晶粒の粗大化がなく(いずれの平均粒径も200nm以下となっている)、磁化の低下が抑制されながら、保磁力が向上していることが確認できる。
【0060】
比較例に関し、比較例1、2はNd-Cu合金の拡散により、保磁力を向上させることはできたものの(比較例2は実施例1程度)、特に比較例2は磁化の低下が顕著となっている。
【0061】
また、比較例3、4に関し、Dy-Cu合金の拡散に際して処理温度が低い比較例3の場合は改質合金が溶融せず、粒界相内に十分に改質合金の拡散がなされず、保磁力の向上はほとんどないことが特定されている。一方、高温処理された実施例4の場合は結晶粒径が1μm以上に粗大化してしまい、組織がくずれ、保磁力の向上が少ないことが特定されている。
【0062】
本実験結果より、その融点が粒界相と同程度かそれ以下であるNd-Cu-Dy合金やNd-Cu-Tb合金を使用することにより、溶融状態の粒界相内に改質合金の融液を液相浸透させることにより、結晶粒の粗大化が抑制されるとともに、結晶粒間がたとえばNd-Cuで分断され、これらの合金種が濃化しているところへDyやTbも濃化することにより、結晶粒間の分断性が向上し、磁化の低下が抑えられながら保磁力が向上することが実証されている。
【0063】
以上、本発明の実施の形態を図面を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本発明に含まれるものである。
【符号の説明】
【0064】
R…銅ロール、B…急冷薄帯(急冷リボン)、D…超硬ダイス、P…超硬パンチ、S…焼結体、C…成形体、H…高温炉、M…改質合金、MP…主相(ナノ結晶粒、結晶粒)、BP…粒界相、RM…希土類磁石

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノ結晶組織のRE-Fe-B系の主相(RE:Nd、Prの少なくとも一種)と、該主相の周りにあるRE-X合金(X:金属元素)の粒界相からなる焼結体に対し、異方性を与える熱間塑性加工を施して成形体を製造する第1のステップ、
前記成形体の保磁力を高めるRE-Y-Z合金(Y:遷移金属元素、Z:重希土類元素)と前記粒界相をともに溶融させ、RE-Y-Z合金の融液を成形体の表面から液相浸透させて希土類磁石を製造する第2のステップからなる希土類磁石の製造方法。
【請求項2】
RE-Y-Z合金としてNd-Cu-Dy合金もしくはNd-Cu-Tb合金を使用する請求項1に記載の希土類磁石の製造方法。
【請求項3】
前記主相の結晶粒径が50nm〜300nmの範囲にある請求項1または2に記載の希土類磁石の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−105903(P2013−105903A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−248923(P2011−248923)
【出願日】平成23年11月14日(2011.11.14)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】