説明

帯板の平坦度を制御する方法と、そのための制御システム

【課題】平坦度制御を行って帯板を圧延機で圧延する方法を提供すること。
【解決手段】圧延機は、アクチュエータで制御可能な複数のロールを備える。この方法は、帯板の平坦度に関する平坦度測定データを受信するステップ(S1)と、帯板の基準平坦度と平坦度測定データとの差として平坦度誤差を求めるステップ(S2)と、調整平坦度誤差を、平坦度誤差と、アクチュエータの配置の組み合わせに関する重みであって、閾値を下回る平坦度影響係数を与える重みとに基づいて求めるステップ(S3)と、制御ユニットの調整平坦度誤差を利用してアクチュエータを制御することにより、帯板の平坦度を制御するステップ(S4)とを含む。上記方法を実行するコンピュータプログラム製品及び制御システムが、更に本明細書において提示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、圧延機における帯板の圧延の制御に関するものであり、特に帯板の圧延のために平坦度を制御する方法と、この方法を実行する制御システム及びコンピュータプログラム製品とに関するものである。
【背景技術】
【0002】
スチール鋼板のような帯板、又は他の金属により形成される帯板には、例えば圧延機で冷間圧延又は熱間圧延することにより、圧下プロセスを施すことができる。被加工材、すなわち帯板は、アンコイラーから巻き出され、圧延機で処理されて、コイラーに巻き取られる。
【0003】
圧延機はロールを備え、これらのうち一組のロールは、帯板が圧延機を通過するときに一つのロール集合体が帯板の上方に配置され、別の組のロールは帯板の下方に配置される。この圧延機は、ロールギャップを形成する2つのワークロールの間に帯板を受け入れるように構成される。残りのロールは、付加的な制御及び圧力をこれらのワークロールに加えることにより、帯板がロールギャップを通過する際のロールギャップ分布、即ち帯板の平坦度を制御する。
【0004】
多段圧延機は、ワークロールの上方及び下方の層として積層される複数のロールを備える。バックアップロール、すなわちロールギャップの上方に配置されるロールのうちの最上位のロールと、ロールギャップの下方に配置されるロールのうちの最下位のロールは、区分することができる。各ロール区分はクラウンアクチュエータによって圧延機に出し入れすることができる。区分されたロールの動きは、ロール群全体に、ワークロールの方に向かって伝わって、ロールギャップを通過して移動する帯板を成形する。多段圧延機の残りのロールは、これらのロールのそれぞれのアクチュエータによって作動させることもできる。曲げアクチュエータは、例えば、これらのアクチュエータに割り当てられたロールに曲げ効果を与えることにより、ロールギャップの分布を変化させることができる。サイドシフトロールは非円筒形を有することができ、この形状は、サイドシフトアクチュエータによってこれらのサイドシフトロールを軸方向に変位させることにより、ロールギャップ分布を変化させることができる。
【0005】
帯板の幅全体に亘る均一な平坦度は、不均一な平坦度によって、例えば略均一な平坦度分布を有する帯板よりも低い品質を有する帯板が製造される可能性があるので、通常望ましい。不均一な平坦度を有する帯板には、例えば座屈が生じるか、又は部分的に皺がよる可能性がある。不均一な平坦度によって、更に、張力が局部的に増大して帯板が破断する可能性がある。したがって、帯板の平坦度分布は、例えば帯板により測定ロールに加わる力を、帯板をコイラーに巻き取る前に測定することにより測定され、この場合、測定された平坦度のデータは制御システムに供給され、この制御システムが圧延機のアクチュエータを制御して、圧延機のロールギャップを制御することにより、帯板の均一な平坦度が得られる。
【0006】
これらのアクチュエータを制御するために、圧延機は、普通、平坦度応答関数によって、圧延機のアクチュエータの各々についてモデル化される。これらの関数は、例えば圧延行列(mill matrix)Gと表記されることがある行列の列として収集することができる。
【0007】
多段圧延機のように、複数のアクチュエータを有する圧延機では、平坦度応答性の中でも、特に線形従属性を利用することができる。これは、これらのアクチュエータによって提供される平坦度応答性を組み合わせると、個々のアクチュエータによって独立に生じる平坦度への影響を打ち消すことができるので、帯板の平坦度に影響しないアクチュエータの配置の組み合わせが存在することを意味する。
【0008】
上述の状況が発生しうる圧延機の場合、対応する圧延行列は特異と言える。数学的用語では、圧延特異行列はフルランクを有さず、すなわち圧延行列の零空間は、ゼロより大きい次元を持つ。
【0009】
従来の制御手法では、一のアクチュエータ当たり一つの制御ループを設け、平坦度誤差ベクトルが、1制御ループ当たり一つの値に射影される。圧延特異行列を有する圧延機の場合、誤差射影によって、全ての可能なアクチュエータの配置の組み合わせが許可されるため、これは、場合によっては帯板の平坦度がアクチュエータの影響を受けることがないような、アクチュエータの動きにつながる。これは、圧延行列の零空間におけるアクチュエータの動きに対応する。外乱が繰り返されると、これらのアクチュエータが、平坦度に直接影響することがない方向に沿ってドリフトする。これらのアクチュエータの動きが極めて大きくなる危険もある。これらの2つの望ましくない挙動は、アクチュエータを飽和させうるだけでなく、アクチュエータの不要な負荷及び損傷を生じうる。
【0010】
この問題を解決するために、圧延行列Gは、この行列の特異値分解形G=UΣVの形式で表現することができる。特異値分解から得られるΣの対角集合を構成するGの特異値は、アクチュエータの配置の組み合わせの各々によって提供される平坦度応答性の大きさに関する情報を提供する。この情報は、正規直交行列Uの列によって定義される平坦度形状に関する正規直交行列Vの列ベクトルによって定義される。更に、特異値分解は、ロールギャップの平坦度分布に直接影響することがないアクチュエータの配置に関する情報、すなわち零空間に関する情報を提供する。
【0011】
平坦度に影響する方向における平坦度応答性を使用して平坦度誤差をパラメータ化することにより、且つ平坦度に影響するこれらの方向のみを利用してコントローラ出力をマッピングすることにより、平坦度に影響しない方向におけるアクチュエータの動きを阻止することができる。このようにして、ロールギャップの平坦度分布に影響しないアクチュエータの配置の組み合わせが回避される。
【0012】
圧延行列の特異値分解については、例えば非特許文献1に記載されている。
【0013】
上述のような特異値分解を利用して、帯板の平坦度に影響しないアクチュエータの配置の組み合わせを回避することにより、アクチュエータの配置の幾つかの組み合わせが許可されないという意味で、制御自由度の一部を制御に利用することができなくなる可能性が生じる。したがって、制御性が低下しうる。また、各制御ループが複数のアクチュエータを含んでおり、したがって更に複雑に運動するため、個別の制御ループを満足できるように調整することが困難になりうる。
【0014】
したがって、上記事項に鑑み、場合によって複数のアクチュエータの動きが帯板の平坦度に影響しないような構成を有する圧延機において、帯板の平坦度制御を改善する必要がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】IEEE Transactions on Control Systems Technology. Vol. 8, No. 1, January 2000に掲載されたJohn V. Ringwoodによる「Sendzimirスチール圧延機の形状制御システム」と題する論文
【発明の概要】
【0016】
本発明の主目的は、帯板を圧延機で圧延する際の平坦度制御を向上させることである。
【0017】
本発明の別の目的は、特異圧延行列を有する圧延機で帯板を圧延する際の平坦度制御を向上させることである。
【0018】
本発明の第1の態様では、これらの目的は、平坦度制御を行って、帯板を、アクチュエータを用いて制御可能な複数のロールを備えた圧延機で圧延する方法により達成される。この方法は、
a)帯板の平坦度に関する平坦度測定データを受信するステップと、
b)帯板の基準平坦度と平坦度測定データとの差として平坦度誤差を求めるステップと、
c)平坦度誤差と、アクチュエータの配置の複数の組み合わせに関する重みであって、閾値を下回る平坦度影響係数を与える重みとに基づいて、調整平坦度誤差を求めるステップと、
d)調整平坦度誤差を利用してアクチュエータを制御することにより、帯板の平坦度を制御するステップと
を含む。
【0019】
「アクチュエータ」とは普通、一つのロール、又はバックアップロールのような、区分されたロールの一ロール区分を制御する一組のアクチュエータを指す。
【0020】
調整平坦度誤差を、平坦度誤差、及びアクチュエータの配置の複数の組み合わせに関する重みであって、閾値を下回る平坦度影響係数を与える重みに基づいて求めることにより、制御プロセスは、普通、モデルの零空間、すなわち圧延行列の零空間におけるベクトル又は方向に対応するアクチュエータの配置の複数の組み合わせを利用しない。しかしながら、幾つかの状況においては、モデルの零空間におけるベクトルに対応するこれらのアクチュエータの配置の組み合わせが許容され、すなわち方程式(2)の判定条件は、場合によって、このようなアクチュエータの配置の複数の組み合わせを許容することにより最小化される。これにより、全ての可能なアクチュエータの配置の組み合わせの利用、すなわち本方法を実行する制御システムの全ての自由度の利用が可能になる。具体的には、本発明は、一アクチュエータ当たり一つの制御ループを使用する。したがって、一つのアクチュエータに影響する制約によって、他のアクチュエータの移動が制限されることはない。更に、仮想アクチュエータは、導入されていないので、個別に調整する必要がない。
【0021】
アクチュエータの配置の一の組み合わせは、本明細書では、圧延機の各アクチュエータを含む一組のアクチュエータの位置として定義される。アクチュエータの配置の一の組み合わせは、圧延行列の零空間における一つのベクトルに対応している場合、帯板に平坦度影響係数を与えることがない。全ての他のアクチュエータの配置の組み合わせが、帯板に平坦度影響係数を与える。
【0022】
ステップc)は、制約を制御ユニット出力に付与してアクチュエータを制御することを含むことができる。
【0023】
ステップc)は、調整平坦度誤差に重みを付与することを含むことができる。
【0024】
ステップc)は、制御ユニット出力に重みを付与することを含むことができる。
【0025】
ステップc)の求めるステップは、平坦度誤差を利用して、平坦度誤差と調整平坦度誤差のマッピング値との差を、圧延機を表わすモデルにより求めることを含むことができる。
【0026】
調整平坦度誤差を求めることは、最小化を含みうる。
【0027】
これらの重みによって、アクチュエータの配置の各組み合わせに個々の重みを付与することができる。
【0028】
これにより、低ゲイン方向に射影される平坦度誤差の大きさを選択的に小さくすることができる。この場合、低ゲイン方向は、低い平坦度影響係数を与えるか、又は平坦度影響係数を与えないアクチュエータの配置の組み合わせに対応する。
【0029】
ステップc)の求めるステップでは、アクチュエータの配置の差に対して付加的な重みを付与して、アクチュエータ間の位置決めを最適化することができる。
【0030】
ステップc)の求めるステップでは、アクチュエータの好適な位置からの偏差に対して付加的な重みを付与することができる。
【0031】
全ての自由度が存在するので、アクチュエータの位置決めの最適化が可能になる。付加的な基準項は、例えば、隣接するアクチュエータを大きく異ならせることが摩耗に関して好ましくない場合に、隣接するアクチュエータの間の差に関するペナルティ項とすることができる。一つのアクチュエータに関して、又は多数のアクチュエータに関して、一の好適な位置が存在する場合がある。このような場合においては、最適化を行うために、コストを取り入れる、すなわちこのような位置からの偏差に対する重みを取り入れることができる。
【0032】
調整平坦度誤差を求めるステップでは、全ての可能なアクチュエータの配置の組み合わせを考慮に入れることができる。
【0033】
これらの重みは、ユーザインターフェースを介してユーザにより調整可能である。これにより、ユーザ、例えば試運転技術者が、簡易に、制御ユニットに対する制御を理解し、複雑な多変数制御問題を理解する必要なく制御ユニットの調整を行なうことができる。
【0034】
本発明の第2の態様では、実行されると本発明の第1の態様による方法を実行するプログラムコードを格納したコンピュータ可読媒体を備えるコンピュータプログラム製品が提供される。
【0035】
本発明の第3の態様によれば、アクチュエータにより制御可能な複数のロールを備えた圧延機において、平坦度制御を行って帯板を圧延する制御システムが提供される。この制御システムは、
帯板の平坦度に関する測定データを受信するように構成された入力ユニットと、
平坦度誤差を、帯板の基準平坦度と測定データとの差として求め、調整平坦度誤差を、平坦度誤差と、アクチュエータの配置の組み合わせに関する重みであって、閾値を下回る平坦度影響係数を与える重みとに基づいて求めるように構成される処理システムと、
制御ユニットと
を備えており、
処理システムは、調整平坦度誤差を制御ユニットに供給するように構成されており、制御ユニットは、調整平坦度誤差に基づいてアクチュエータを制御するように構成されている。
【0036】
制御ユニットは、個々の制御出力をアクチュエータの各アクチュエータに供給するように構成される。
【0037】
一実施形態は、一アクチュエータ当たり一つの制御ループを備えることができる。
【0038】
更に別の特徴及び利点は、以下に開示される。
【0039】
次に、本発明、及び本発明の利点について、非限定的な実施例を通して、添付の図面を参照しながら説明する。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】図1は、多段圧延機の斜視図である。
【図2】図2は、制御システムのブロック図である。
【図3】図3は、アクチュエータにより制御可能な複数のロールを備える圧延機において、平坦度制御を行って帯板を圧延する方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0041】
図1は、圧延機構1の斜視図を示している。この圧延機構は、多段圧延機2と、アンコイラー3と、コイラー5とを備える。多段圧延機2(以後圧延機2と表記する)を使用して硬質材料を圧延することができ、例えば金属帯板を冷間圧延することができる。
【0042】
帯板7は、アンコイラー3から巻き出され、コイラー5に巻き取られる。帯板7には、アンコイラー3からコイラー5に移動するときに、圧延機2によって圧下プロセスが適用される。
【0043】
圧延機2は、ワークロール19−1及び19−2をそれぞれ含む複数のロール9−1及び9−2を備える。ロール9−1は、帯板7の上方の多段上部ロールを構成する。ロール9−2は、帯板7の下方の多段下部ロールを構成する。例示的な圧延機2は、ロール9−1及びロール9−2が帯板7の上方及び下方のそれぞれに、1−2−3−4構成で配置される20段圧延機である。しかしながら、本発明は他の方式の圧延機にも同じように適用することができる。
【0044】
各ロールをアクチュエータ(図示されない)によって作動させて、ワークロール19−1及び19−2を撓ませることにより、ワークロール19−1と19−2との間に形成されるロールギャップ21を調整することができる。帯板7の圧下プロセスは、帯板がロールギャップ21を通過するときに行われる。したがって、ワークロール19−1及び19−2は、帯板7が圧延機2を通過するときに帯板7に接触している。
【0045】
複数のロール9−1及び9−2の各々は、圧延機2の外側のロール集合体を構成するバックアップロール11−1、11−2、11−3、及び11−4のようなバックアップロールを含む。各バックアップロールは複数の区分13に分割されている。区分13の各々はアクチュエータによって制御することができる。これらの区分13は、アクチュエータによって、ワークロール19−1、19−2の方に向かって、又はワークロール19−1、19−2から遠ざかるように移動させることができる。回動する区分13の移動は多段ロールを介してワークロール19−1及び/又はワークロール19−2へと伝達されて、帯板7をロールギャップ21に通過させる。
【0046】
帯板7の圧下プロセスに対する付加的な制御を行なうために、ロール9−1及び9−2は更に、ワークロール19−1、19−2とバックアップロール11−1、11−2、11−3、11−4との間に配置される中間ロール15及び17を含む。これらの中間ロール15及び17は、例えば曲げアクチュエータ及び/又はサイドシフトアクチュエータをそれぞれ有することができる。
【0047】
圧延機構1は、更に、本明細書において測定ロールとして例示される測定装置23を備える。測定装置23は、帯板7の幅よりも広いことにより帯板7の幅に沿って力を測定することができる軸方向延設部を有している。
【0048】
測定装置23は複数のセンサを備える。これらのセンサを、例えば測定装置の外周面の開口部内に分散させて、帯板から測定装置に加わる力を検出することができる。帯板7が測定装置23の上を移動するにつれて、帯板の張力分布を、これらのセンサによって取得することができる。均一な力分布を有する帯板張力分布は、帯板が、帯板の幅に沿って均一な厚さを有することを示唆している。不均一な帯板張力分布は、帯板が、帯板の幅に沿って不均一な平坦度を帯板の関連測定位置に有していることを示唆している。
【0049】
推定平坦度分布に変換される測定帯板張力分布は、測定装置23から図2の制御システム25の処理システム29に、測定データYとして供給される。
【0050】
制御システム25が測定データを処理し、圧延機2のアクチュエータによってロール9−1及び9−2を制御することにより、帯板7の幅に沿って均一な平坦度が実現する。次に、本発明のコンセプトに従って平坦度制御を行なう方法について、図2及び3を参照しながら以下に更に詳細に説明する。
【0051】
図2は、制御システム25の模式ブロック図を示している。制御システム25は、入力ユニット27と、処理システム29と、制御ユニット33とを備える。処理システム29は、一実施形態では、制御ユニット33を含むことができる。別の構成として、処理システム及び制御ユニットは別々のユニットとすることができる。
【0052】
処理システム29は、本制御方法を実行するためのソフトウェアを備えることができる。
【0053】
制御ユニット33は、複数の制御出力uをアクチュエータAに供給することにより、ロールギャップを制御するように構成される。一実施形態では、制御ユニット33は、一のアクチュエータA当たり一つの個別の制御出力uを供給するように構成される。好適には、一のアクチュエータA当たり一つの制御ループが存在する。
【0054】
制御ユニット33は、例えばソフトウェアにおいて実現できるPI(比例積分)制御装置を含むことができる。
【0055】
ステップS1では、入力ユニット27を、測定装置23から測定データYを受信するように構成する。測定データYは、測定装置23の複数のセンサからの測定値を含む。測定データYは、各要素が一つのセンサの一つの測定値を表わすベクトルと考えることができる。
【0056】
入力ユニット27は、帯板7の所望の基準平坦度に関する基準平坦度データrを受信するように構成される。基準平坦度データrは、通常、測定データYの測定値の数と同数の基準値を含むベクトルである。
【0057】
平坦度誤差eは、処理システム29により、ステップS2において、帯板の基準平坦度と測定データYとの差として求めることができる。
【0058】
平坦度誤差eを調整することにより、調整平坦度誤差eが得られる。調整平坦度誤差eは、パラメータ化された平坦度誤差として捉える必要がある、すなわち調整平坦度誤差eは、平坦度誤差eをパラメータ化したものである。
【0059】
調整平坦度誤差eを求めるために、アクチュエータを制御するために使用され、かつ圧延機の定常的な平坦度応答性を表わす圧延行列Gを分解して、行列の特異値分解形として方程式(1)に示す。
【数1】

【0060】
圧延行列の特異値分解を利用して、方程式(2)の判定条件は、コスト、すなわち重みを調整平坦度誤差eに付与する項と、圧延行列の個別特異値に対応する方向に制御出力uをアクチュエータに付与する項とを含む。これにより、圧延行列が特異行列であるにも拘わらず、制御を更にロバストに行なうことができる。
【0061】
行列Σは、行列Gの特異値が行列Gの対角線に並ぶ構成の対角集合である。行列U1は、特定のアクチュエータの配置の組み合わせ、すなわちアクチュエータ構成によって得られる平坦度影響係数に関連付けられ、アクチュエータ構成によって平坦度影響係数がロールギャップに付与され、アクチュエータ構成は行列Vの行ベクトルによって定義される。したがって、行列Vの各方向、すなわち各行ベクトルは、特定のアクチュエータの配置の一の組み合わせを表わす。行列Σの対角集合を構成する特異値は、行列Vのアクチュエータの配置の組み合わせに対応する平坦度影響係数の大きさを表わす。
【0062】
行列Vは、平坦度影響係数を全く与えることがないこれらのアクチュエータの配置の組み合わせに関連付けられ、行列Σの対角集合を構成する特異値は、ほぼゼロであるか、又はゼロである。具体的には、行列Vの列ベクトルは、圧延行列Gの零空間に亘っている。実際、制御を行なうためにゼロと見なされるべき特異値は、所定の平坦度影響係数の閾値を下回る特異値とすることができる。一実施例として、最大特異値よりも小さい係数10−3である特異値は、ゼロに設定することができる。したがって、これらの特異値に対応する行列Vの列ベクトルは、圧延行列Gの零空間に亘って存在するように定義される。
【0063】
ステップS3において、以下に示す方程式(2)の最小化に基づいて調整平坦度誤差eを求める。調整平坦度誤差eを求めるこのステップは、コスト、すなわち重みを調整平坦度誤差e、及び制御ユニット出力uに付与し、制御ユニット出力に対する制約を考慮しながら、圧延行列Gを利用した調整平坦度誤差eのマッピング値と平坦度誤差eとの差に基づいて行なわれる。このような制約は、例えば終端制約、すなわちアクチュエータの最小許容位置及び最大許容位置、又は最小可能位置及び最大可能位置とすることができる。制約は、速度制約、すなわちアクチュエータがどの位速い速度で移動させることが許容されるか、又はアクチュエータがどの位速い速度で移動することができるかを表わす度合いに関連付けることもできる。更に、制約は、アクチュエータの配置の間の差に関連付けることができる。
【0064】
誤差のパラメータ化は、普通はもっと少ない数の、多数の独自の測定値を一のアクチュエータ当たり厳密に一つの測定値に射影する操作と見なすことができる。
【0065】
【数2】

【0066】
方程式(2)の変数tは、平坦度誤差e、調整平坦度誤差e、及び制御ユニット出力uの時間依存性を表わす。
【0067】
行列Q及びQは、重みを、調整平坦度誤差e、及び制御ユニットの出力uに対応する行列Vの全ての特異値方向に付与する。換言すれば、全ての特異値方向は、これらの重みに対応していると考えられ、具体的には、実効的にゼロである特異値に関連付けられた方向の重みに対応していると考えられる。したがって、更に、圧延行列Gの零空間の方向が、調整平坦度誤差eを求めるときに考慮される。これにより、全ての自由度、すなわち圧延機の全ての可能なアクチュエータの配置の組み合わせを必要に応じて利用することができる。しかしながら、普通、平坦度影響係数を全く与えないアクチュエータの配置の組み合わせは回避される。このような組み合わせによって、普通、方程式(1)が最小化されることはないが、例えばアクチュエータ飽和が生じる場合には最小化が行なわれうる。
【0068】
行列Q及びQは対角行列とすることができる。アクチュエータの配置の組み合わせの各々は、行列Q及びQで個々に重み付けすることができる。
【0069】
行列Q及びQの対角集合は、圧延機2のユーザ、例えば試運転技術者が、制御システム25を調整するときに、ユーザインターフェースを介して調整プロセスを利用することにより選択することができる。
【0070】
本方法は、特異圧延行列を有さない圧延機においても、調整プロセスにおいて行列Q及びQをゼロになるように定義することにより利用することができる。
【0071】
行列Qの対角要素は、これらの特異値に応じて別々の直交方向に、外乱のフィードバックに影響を与える。第1要素は最大特異値に関連し、これは、プロセスが、最小のフィードバックゲインしか必要としないという意味で、最大のゲインを有することによりプロセスを最も容易に制御することができる方向を示唆している。行列Qの次の対角要素は、徐々に小さくなる特異値に対応し、したがって同じ矯正度を達成するためには、より大きいフィードバックゲインを必要とする。ロバスト性が低いことは、過大なフィードバックゲインが適用される結果である可能性がある。したがって、行列Qの選択は、正の要素によってゲインが小さくなるので、閉ループのロバスト性に大きな影響を与える。したがって、行列Qの要素は、正、すなわちゼロ以上であることが好ましい。これにより、特異値方向、すなわち平坦度影響係数を全く与えないアクチュエータの配置の組み合わせ、又は方程式(2)又は(3)の判定基準に含まれる、平坦度影響係数閾値を下回る平坦度影響係数(最小される)に対応する特異値方向に、コストを付与することができる。
【0072】
行列Qは、反復法によって、ユーザが供給するパラメータに基づいて求めることができる。第1パラメータは、感度関数特異値のうちの最大許容ピーク値を表している。感度関数は、制御システムのロバスト性の指標、すなわちモデル化誤差に対する制御システムの感度を提供する。
【0073】
第1パラメータには、1.2〜2.0の範囲の値を付与することができる。この範囲内で値が小さくなることは、ロバスト性をより高める必要があることを意味するのに対し、この範囲内で値が大きくなると、外乱抑圧帯域を上げるために或る程度の犠牲が許容される。
【0074】
第2パラメータは、他の特異値方向の瞬時平坦度誤差に対する、一つの特異値方向の外乱による最大許容相互干渉をパーセントで表している。
【0075】
行列Qの各対角要素は、一つの特異値方向に沿った平坦度外乱による定常閉ループゲインを決定することにより、アクチュエータを、これらのアクチュエータに対応する特異値方向に沿って移動させることができる。
【0076】
行列Qは、反復法を用いることによって、ユーザが供給するパラメータに基づいて求めることができる。
【0077】
第1パラメータは、いずれかの方向を向いたアクチュエータに対する平坦度外乱による最大許容閉ループ定常ゲインを表している。第2パラメータは、必要な定常外乱抑圧度をパーセントで表し、この場合、ゲインは、いずれかの方向を向いたアクチュエータに対する平坦度外乱による最大許容閉ループ定常ゲインに制限され、その後、この方向における制御が放棄される。
【0078】
一般的に、上記パラメータのうちの第2パラメータにデフォルト値を付与して、両方の行列Q及びQを求めることができる。上記のいずれの場合も、第1パラメータによって、ユーザは、許容されるアクチュエータの動きと要求性能とのトレードオフに適切な影響を与えることができる。
【0079】
一実施形態では、調整平坦度誤差を、以下の表現式を最小にすることにより求める。
【数3】

【0080】
方程式(2)の表現式の他に、行列Zが付加されているだけでなく、新しいコスト項が制御ユニット出力uに付加されている。
【0081】
行列Zは、一つの重みを、行列の対角集合にある測定装置23の異なるセンサに対応して付与する。この重みは、例えばセンサの幅によって異ならせることができる。具体的には、測定装置23の側方配置センサ、すなわち帯板の縁部に位置するセンサは、帯板で完全に覆われていなくてもよい。したがって、測定されるのは被覆幅である。これらの係数は、行列Zにより求めることができる。
【0082】
一実施形態では、行列Zは、方程式(2)を最小化するために利用することができる。具体的には、上記表現式を利用して、項uuを含まない調整平坦度誤差を求めることができる。
【0083】
行列Qは非対角行列とすることができる。行列Qは普通スパース行列である。行列Qは、アクチュエータの配置の最適化を可能にする。複数のアクチュエータ間の関係は、例えば他のアクチュエータの関係よりも好ましいことがある。項Qを利用して、例えば、隣接するクラウンアクチュエータの間に差を生じさせるために要するコストを、区分されたバックアップロールに付与することができる。
【0084】
ステップS4では、求めた調整平坦度誤差eを制御ユニット33が利用してアクチュエータAを制御することにより、圧延機2で圧延されている帯板7に所望の平坦度を達成することができる。
【0085】
本明細書において提示される方法の他の応用形態を、特異行列又は近似特異な行列を用いた多変数制御プロセスに適用することを考慮できる。
【0086】
当業者であれば、本発明は、上述の実施例に限定されないことが理解できるであろう。反対に、特許請求の範囲において多くの変形及び変更が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクチュエータ(A)により制御可能な複数のロール(9−1、9−2)を備えた圧延機(2)において、平坦度制御を行って帯板(7)を圧延する方法であって、
a)帯板(7)の平坦度に関する平坦度測定データ(Y)を受信するステップ(S1)と、
b)平坦度誤差(e)を、帯板(7)の基準平坦度(r)と平坦度測定データ(Y)との差として求めるステップ(S2)と、
c)調整平坦度誤差(e)を、平坦度誤差(e)と、アクチュエータの配置の組み合わせに関する重みであって、閾値を下回る平坦度影響係数を与える重みに基づいて求めるステップ(S3)と、
d)調整平坦度誤差(e)を利用してアクチュエータ(A)を制御することにより、帯板(7)の平坦度を制御するステップ(S4)と
を含む方法。
【請求項2】
ステップc)が、アクチュエータ(A)を制御する制御ユニット出力(u)に制約を付与することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ステップc)が、調整平坦度誤差(e)に重みを付与することを含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
ステップc)が、制御ユニット出力に重みを付与することを含む、請求項1ないし3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
ステップc)の求めるステップが、平坦度誤差(e)を利用して、平坦度誤差(e)と調整平坦度誤差のマッピング値との差を、圧延機を表わすモデルにより求めることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
ステップc)では、調整平坦度誤差を求めることが最小化を行なうことを含む、請求項1ないし5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
重みによって、アクチュエータの配置の各組み合わせに個々の重みを付与する、請求項1ないし6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
ステップc)では、求めることが、付加的な重みをアクチュエータの配置の差に付与して、アクチュエータ(A)間の位置決めを最適化することを含む、請求項1ないし7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
ステップc)では、求めることが、アクチュエータの好適な位置からの偏差に付加的な重みを付与することを含む、請求項1ないし7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
ステップc)では、調整平坦度誤差を求めることが、全ての可能なアクチュエータの配置の組み合わせを考慮に入れることを含む、請求項1ないし9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
重みが、ユーザインターフェースを介してユーザによって調整可能である、請求項1ないし10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
プログラムコードを格納したコンピュータ可読媒体を備えるコンピュータプログラム製品であって、プログラムコードは、実行されると、請求項1ないし11のいずれか一項に記載の方法を実行する、コンピュータプログラム製品。
【請求項13】
アクチュエータ(A)により制御可能な複数のロール(9−1、9−2)を備えた圧延機(2)において、平坦度制御を行って帯板(7)を圧延する制御システム(25)であって、
帯板(7)の平坦度に関する測定データ(Y)を受信する入力ユニット(27)と、
平坦度誤差(e)を、帯板(7)の基準平坦度(r)と測定データ(Y)との差として求めることにより、平坦度誤差(e)と、アクチュエータの配置の組み合わせに関する重みであって、閾値を下回る平坦度影響係数を与える重みとに基づいて調整平坦度誤差(e)を求める処理システム(29)と、
制御ユニット(33)と
を備えており、
処理システム(29)が調整平坦度誤差を制御ユニット(33)に供給し、制御ユニット(33)が調整平坦度誤差(e)に基づいてアクチュエータ(A)を制御する、制御システム(25)。
【請求項14】
制御ユニット(33)が、アクチュエータ(A)の各々に個々の制御出力を供給する、請求項13に記載の制御システム(25)。
【請求項15】
一のアクチュエータ当たり一つの制御ループを備えている、請求項13又は14に記載の制御システム(25)。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2012−206170(P2012−206170A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−68930(P2012−68930)
【出願日】平成24年3月26日(2012.3.26)
【出願人】(303005562)エー ビー ビー リサーチ リミテッド (15)
【Fターム(参考)】