説明

帯電防止コーティング用組成物

【課題】 本発明は、実用上使用可能なポットライフを有しており、乾燥するだけで、透明性、耐摩耗性、耐水性、耐溶剤性および導電性に優れる塗膜を成膜し得る帯電防止コーティング用組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】 特定構造で示される繰り返し単位からなるポリカチオンのポリチオフェンと、ポリアニオンとからなる導電性高分子(A)と、カルボキシル基含有樹脂(B)と、アジリジン基含有化合物(C)と、三級アミン(D)と、分子内にアミド基または水酸基を有する化合物(E)を含む帯電防止コーティング組成物であることを特徴とする帯電防止コーティング組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチック基材への密着性、透明性、耐摩耗性、耐水性、耐溶剤性、導電性に優れた塗膜を形成する帯電防止コーティング用組成物、並びに、それを塗布してなる帯電防止フィルムに関するものである。具体的には電子材料包装用のキャリアテープ、カバーテープ、およびトレイ、ならびにワープロ、コンピュータ、テレビなどの各種ディスプレイ、または偏光板などの光学部品の表面保護フィルム、電子部品の包装用などとして有用な帯電防止フィルムが得られる帯電防止コーティング用組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
各種の半導体及び電子機器の微細化・高集積化に伴い、静電気の発生が製品に色々な影響を与えている。このような静電気を効果的に除去するために、伝導性物質を利用した帯電防止コーティング組成物を、部材へ直接塗布した帯電防止膜や、基材フィルムへ塗布した帯電防止フィルムとして使用することが提案されている。現在このような帯電防止コーティング組成物は、ディスプレイ素子の外面ガラスの帯電防止コーティング膜、半導体素子運搬用トレイ、偏光板及びバックライトユニットの保護フィルム、透明レンズのコーティング膜等の用途に使用されている。このような帯電防止機能を発現する材料として、界面活性剤、カーボンブラック、無機酸化物、金属粉、π共役系の導電性高分子等がある。
【0003】
その中でもπ共役系の導電性高分子は、ポリアセチレン、ポリ(パラフェニレン)、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェンなどが提案されている。しかし、これらのほとんどが塗膜形成に使用する溶媒に溶解しにくいため、容易には均一な塗膜を形成できないため塗工フィルムとして使用できなかった。そこで、これらのポリマーを化学修飾して溶解度を向上させる方法(特許文献1参照)、微粒子の分散液とする方法(特許文献2参照)など、均一な塗膜を形成する工夫が種々なされている。なかでも、ポリ(3,4−ジアルコキシチオフェン)とポリ陰イオンとからなる導電性高分子は、3,4−ジアルコキシチオフェンをポリ陰イオン存在下で、酸化重合することによって得られるものであり(特許文献2)、高い導電性、高い化学的安定性および成膜した際の塗膜が高い透明性を有していることから注目されている。
【0004】
しかしながら、このような導電性高分子を含むコーティング液をプラスチック基材に塗布する場合、透明性、耐摩耗性、耐水性、耐溶剤性および導電性などの性能を同時に満足する塗膜を得ることは容易ではない。
【0005】
そこで特定のバインダー樹脂を使用することで、耐水性あるいは耐溶剤性に優れた塗膜を得る方法が提案されていたが(特許文献3、4参照)、耐水性と耐溶剤性の相反する物性を両立した塗膜は得られていない。そこで、耐水性、耐溶剤性両立のために、バインダー樹脂を種々の架橋剤で架橋する方法が試みられてきた。このような帯電防止コーティング組成物は、工業的にコーティングする場合、ロールコーティング、スプレーコーティング、及びディッピングなどの手法を用い、比較的低温・短時間の乾燥条件で使用される。
一般的に、低温・短時間での硬化性を確保しようとすると、塗液のポットライフが短く実用上の問題が生じるので、通常のコーティング液ではpHを調整し硬化速度を制御するといった所作が取られる。
しかしながら、導電性高分子を使用した帯電防止コーティング液の場合、pHを高くすると、導電性高分子のドープ状態が変化したり、導電性高分子の分散性が悪化したりし、本来の目的である帯電防止性が得られないといった問題があった。
【特許文献1】特開平7−292081号公報
【特許文献2】特開平1−313521号公報
【特許文献3】特開2002−60736号公報
【特許文献4】特開2006−282941号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、実用上使用可能なポットライフを有しており、乾燥するだけで、透明性、耐摩耗性、耐水性、耐溶剤性および導電性に優れる塗膜を成膜し得る帯電防止コーティング用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面は、下記一般式(1)で表される繰り返し単位からなるポリカチオンのポリチオフェンと、ポリアニオンとからなる導電性高分子(A)と、カルボキシル基含有樹脂(B)と、アジリジン基含有化合物(C)と、下記一般式(2)で表される三級アミン(D)と、分子内にアミド基または水酸基を有する化合物(E)を含む帯電防止コーティング組成物であることを特徴とする帯電防止コーティング組成物に関する。
【0008】
【化1】

(一般式(1)中、R1およびR2は相互に独立して水素または炭素数1〜4のアルキル基を表すか、あるいは一緒になって任意に置換されてもよい炭素数1〜12のアルキレン基を表す)
【0009】
【化2】

(一般式(2)中、R3、R4およびR5は、それぞれ独立に炭素数1〜4のアルキル基を表す)。
【0010】
本発明の他の側面は、基材の少なくとも一方の面へ、上記発明に記載の帯電防止コーティング組成物を用いた帯電防止層を形成してなる帯電防止層付基材に関し、
本発明のさらに他の側面は、基材フィルムの少なくとも一方の面へ、上記発明に記載の帯電防止コーティング組成物を用いた帯電防止層を形成してなる帯電防止フィルムに関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の帯電防止コーティング用組成物は、低温・短時間で塗膜形成が可能であり、形成される塗膜は、透明性、耐摩耗性、耐水性、耐溶剤性および導電性が優れている。従って、電子材料包装用のキャリアテープ、カバーテープ、およびトレイ、ならびにワープロ、コンピュータ、テレビなどの各種ディスプレイ、または偏光板などの光学部品の表面保護フィルム、電子部品の包装用などの帯電防止用途に好適に使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明で使用される導電性高分子(A)は、下記一般式(1)で表される繰返し単位からなるからなるポリカチオンのポリチオフェン(以下、“ ポリ(3,4−ジ置換チオフェン)”と称することがある)と、ポリアニオンとから構成される複合化合物である。
【0013】
【化3】

(一般式(1)中、R1およびR2は相互に独立して水素または炭素数1〜4のアルキル基を表すか、あるいは一緒になって任意に置換されてもよい炭素数1〜12のアルキレン基を表す)
【0014】
前記アルキレン基の代表例としては、1,2−アルキレン基(例えば、1,2−シクロヘキシレン、2,3−ブチレンなど)があげられる。この1,2−アルキレン基は、α−オレフィン類(例えば、エテン、プロペン、ヘキセン、オクテン、デセン、ドデセンおよびスチレン)を臭素化して得られる1,2−ジブロモアルカン類から誘導される。R1およびR2が一緒になって形成される炭素数が1〜12のアルキレン基の好適な置換基は、メチレン、1,2−エチレンおよび1,3−プロピレン基であり、1,2−エチレン基が特に好適である。
【0015】
導電性高分子(A)を構成するポリアニオン用のポリマーとしては、重合されたカルボン酸類(例えば、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリマレイン酸など)、重合されたスルホン酸類(例えば、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸など)などがあげられる。これらの重合されたカルボン酸およびスルホン酸類はまた、ビニルカルボン酸およびビニルスルホン酸類と他の重合可能なモノマー類、例えばアクリレート類およびスチレンなどとの共重合体であってもよい。これらのポリマーとしては、重合されたスルホン酸類が好ましく、特にポリスチレンスルホン酸およびその全てもしくは一部が金属塩であるものが高い導電性が得られる点でさらに好適である。なお、かかるポリマーの数平均分子量は、1,000〜2,000,000の範囲が適当であり、特に2,000〜500,000の範囲が好ましい。
【0016】
本発明で用いられるカルボキシル基含有樹脂(B)は、水分散体あるいは水溶性の樹脂が好ましく、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ビニル樹脂、アミド樹脂など骨格に特に制限はなく、目的に応じた骨格を使用することが出来る。このようなカルボキシル基含有樹脂(B)は、前記導電性高分子(A)の水分散状態を阻害することなく、凝集物がなく、透明性の高い塗膜を形成しやすい。
カルボキシル基含有樹脂(B)としては、例えば(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、2−(メタ)アクリロイロキシエチルコハク酸等のカルボキシル基含有(メタ)アクリレートを共重合したアクリル樹脂、スチレン、エチレン、メチルビニルエーテル等のビニル系単量体と無水マレイン酸の共重合体の酸無水物を開環、またはハーフエステル化、あるいはハーフアミド化した樹脂等のカルボキシル基含有樹脂などが挙げられる。
【0017】
カルボキシル基含有樹脂(B)に含まれる官能基量には、特に制限はないが、樹脂(B)1g中にカルボキシル基を2.0〜10.0mmol含有する事が好ましい。前記官能基量が2.0mmol未満であると、後述するアジリジン基含有化合物(C)との反応点が少なく、低温・短時間での硬化の場合、高い耐水性、耐溶剤性が得られにくい。また10.0mmolを超えると、溶解度の低下により、塗工性が悪化する恐れがある。
また、カルボキシル基含有樹脂(B)の分子量は、特に制限はないが、重量平均分子量10,000〜1,500,000の樹脂であることが好ましい。さらに好ましくは、重量平均分子量50,000〜800,000の樹脂が適している。重量平均分子量が10,000未満であると、低温・短時間での硬化の場合、反応せずに残ったカルボキシル基含有樹脂(B)によりタックが生じたり、耐水性、耐溶剤性が悪化する場合がある。重量平均分子量が1,500,000を超えると、塗液の粘度が高く、塗工性が低下すると共に、導電性が低下する場合がある。導電性が低下する原因は明確ではないが、導電性高分子(A)の溶解度が低下し、分子鎖が広がりにくくなるためと推測される。
【0018】
本発明で用いられるアジリジン基含有化合物(C)は、カルボキシル基含有樹脂(B)と反応し、帯電防止コーティング組成物から形成した塗膜へ耐摩耗性、耐水性、耐溶剤性を付与する。
アジリジン基含有化合物(C)としては、例えばN,N´−ヘキサメチレン−1,6−ビス(1−アジリジンカルボキシアミド)、N,N´−ジフェニルメタン−4,4´−ビス(1−アジリジンカルボキシアミド)、トリメチロールプロパン−トリ−β−アジリジニルプロピオネート)、N,N´−トルエン−2,4−ビス(1−アジリジンカルボキシアミド)、トリエチレンメラミン、トリメチロールプロパン−トリ−β(2−メチルアジリジン)プロピオネート、ビスイソフタロイル−1−2−メチルアジリジン、トリ−1−アジリジニルフォスフィンオキサイド、トリス−1−2−メチルアジリジンフォスフィンオキサイド等が挙げられる。市販品としては、日本触媒(株)製のケミタイトPZ−33、DZ−22Eなどが使用できる。
これらアジリジン基含有化合物(C)は単独で使用しても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0019】
アジリジン基含有化合物(C)に含まれるアジリジニル基量には、特に制限はないが、好ましくは化合物(C)1g中に前記官能基を1.5〜10mmol含有する事が好ましい。官能基が1.5mmol未満であると、前記カルボキシル基含有樹脂(B)との反応点が少なく、低温・短時間での硬化の場合、高い耐水性、耐溶剤性が得られにくい。また10mmolを超えると架橋密度が高くなりすぎ、塗膜が脆くなる恐れがある。
【0020】
カルボキシル基含有樹脂(B)とアジリジン基含有化合物(C)とを用いる比率は、カルボキシル基含有樹脂(B)中のカルボキシル基と、アジリジン基含有化合物(C)中のアジリジニル基とのモル比が1:0.7〜1.3になるように添加する。官能基のモル比が前記範囲内に無いと、塗膜の耐水性、耐溶剤性が低下する恐れがある。
カルボキシル基含有樹脂(B)とアジリジン基含有化合物(C)は、その合計量が、導電性高分子(A)の1重量部に対し、1〜100重量部となるように添加する事が好ましく、特に3〜50重量部が好ましい。1重量部未満であると樹脂中の導電性高分子(A)量が多く、塗膜が導電性高分子(A)由来の青色に着色したり、基材に対する密着性、耐摩耗性が低下するなど、所望とする物性が得られない場合がある。また、導電性高分子(A)は高価なため、コストが高くなるという側面もある。また、100重量部を超えると導電性高分子(A)量が少なく、帯電防止効果が不十分になる恐れがある。
【0021】
本発明で用いられる三級アミン(D)は、下記一般式(2)で表される。
【0022】
【化4】

上記一般式(2)中、R3、R4およびR5は、炭素数1〜4のアルキル基を表す。
【0023】
三級アミン(D)は、塗液のポットライフを長くするためのpH調整剤として用いられる。
一般に、アジリジン基は水との反応性が極めて高く、約7.5以下のpHでは、数時間で加水分解されるため、pH7.5〜11.5に調整して使用される。しかしながら、通常使用されるアンモニア、炭素数6以下の一級アミンでは、導電性高分子(A)自体が還元され、目的とする帯電防止効果が得られない。
本発明では、pH調整剤として、三級アミン(D)を使用する事により、導電性を確保しつつ、長いポットライフを保つ事に成功した。上記式中、R3、R4およびR5の炭素数が4を超えると三級アミン(D)の沸点が高く、低温・短時間の乾燥条件では三級アミン(D)が塗膜中に残存し、耐水性を悪化させたり、導電性高分子(A)のドープ状態を変化させ、導電性が低下したりする恐れがある。
三級アミン(D)としては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、N,N-ジメチルブチルアミン、トリアリルアミン、N,N−ジメチルアリルアミン、メチルジアリルアミン、N,N−ジイソプロピルエチルアミン等が上げられ、これらは単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。本発明では、三級アミン(D)を用いることにより、コーティング組成物のpHを7.5〜11.5とすることが好ましい。さらに好ましくは、pH8.0〜10.0が適している。
【0024】
本発明では、導電性を向上させるという目的で、分子内にアミド基または水酸基を有する化合物(E)が含有される。
分子内にアミド基を有する化合物としては、N−メチル−2−ピロリドン、2−ピロリドン、N−ビニル−2−ピロリドン等のピロリドン系化合物;ホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、アセトアミド、N−メチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルプロピオンアミド等のアミド系化合物が挙げられる。
また、分子内に水酸基を有する化合物としては、多価アルコールが好ましく、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、カテコール、シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール等のジオール類;グリセリン、トリメチロールプロパン等のトリオール類が挙げられる。これらは、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0025】
分子内にアミド基または水酸基を有する化合物(E)は、導電性高分子(A)の1重量部に対し、0.1〜500重量部添加することが好ましく、10〜200重量部がより好ましい。0.1重量部未満であると、導電性向上の効果が得られにくく、500重量部を超えると、乾燥時に揮発しきれずに残存した化合物(E)により、塗膜が白化したり、耐水性、耐溶剤性が低下するなど膜物性を低下させる恐れがある。
【0026】
本発明の帯電防止コーティング組成物は塗膜の耐摩耗性を向上させる目的で、添加剤として界面活性剤やレベリング剤などを併用してもよい。添加剤の種類としては特に限定はされないが、中でも非イオン性シリコーン界面活性剤が好ましい。
【0027】
本発明の帯電防止層付基材は、基材へ帯電防止コーティング組成物をコーティングし帯電防止層(以下塗膜とも言う)が形成することができる。
【0028】
本発明の帯電防止コーティング組成物は、所望する膜厚に合わせて、任意の固形分濃度に調整することができる。通常固形分を0.5〜30重量%の範囲とするのが好ましい。希釈溶媒としては、水、炭素数1〜4の1価アルコール、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、アセトニトリルなどが挙げられる。これらは単独で使用しても良いし、2種以上併用しても良い。速乾性を向上させるという観点から、沸点あるいは水との共沸温度が100℃以下であるものが好ましい。
【0029】
本発明の帯電防止コーティング組成物は、導電性高分子(A)、カルボキシル基含有樹脂(B)、分子内にアミド基または水酸基を有する化合物(E)を混合後、任意の固形分濃度に調整し、三級アミン(D)でpH7.5〜11.5に調整後、アジリジン基含有化合物(C)を添加することにより得ることが好ましい。
【0030】
帯電防止コーティング用組成物をコーティングする基材としては、ガラスや、プラスチック製のシート・フィルム・板、プラスチック製の立体的な成型品、不織布等の絶縁性の基材に対して、用途に応じて任意のものを用いることが好ましい。
ここでプラスチックとしては、例えばポリエステル、ポリスチレン、ポリイミド、ポリアミド、ポリスルホン、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリル、トリアセチルセルロース、並びにこれらの混合物および共重合体、さらにはフェノール樹脂、エポキシ樹脂、ABS樹脂などをあげることができる。
これら基材の中でも、プラスチック製のシート・フィルム・板(以下、フィルムという)、即ち平たい状態のプラスチック製の基材に、帯電防止コーティング用組成物をコーティングすることが好ましい。
プラスチック製の基材フィルムとしては、二軸配向したポリエステルフィルムが、寸法安定性、機械的性質、耐熱性、電気的性質などに優れた性質を有することより好ましく、特にポリエチレンテレフタレートフィルムまたはポリエチレン−2,6−ナフタレートフィルムが、高ヤング率である等の機械的特性に優れ、耐熱寸法安定性がよい等の熱的特性にも優れているため好ましい。なお基材にフィルムを用いて帯電防止層を形成した場合は、帯電防止フィルムと呼ぶ。
【0031】
コーティング方法としては、例えばリップダイレクト法、コンマコーター法、スリットリバース法、ダイコーター法、グラビアロールコーター法、ブレードコーター法、スプレーコーター法、エアーナイフコート法、ディップコート法、スピンコート法、バーコーター法など、従来公知の方法を採用することができる。また、必要に応じて、基材表面にコロナ放電処理、プラズマ放電処理などの物理的表面処理や、ポリエステル樹脂やアクリル樹脂などの有機物による公知の易接着層を施しても構わない。
【0032】
塗膜の乾燥および硬化の条件は、それぞれのコーティング法に適した条件が選択される。例えばロールコーティング法を用いる場合は、一般的に60〜120℃、5〜60秒で行われることが好ましい。またガラスにコーティングする場合はスピンコート法を用いることも好ましい。
【0033】
なお、塗膜の厚みは5nm〜5μmの範囲、特に10〜300nmの範囲であることが好ましい。該塗膜の厚さが薄すぎると十分な耐摩耗性、帯電防止機能が得られないことがあり、逆に厚すぎると、光の透過率が不足したりブロッキングを起こしたりすることがある。
【0034】
本発明の帯電防止フィルムは、表面抵抗率がE+03〜E+11Ω/□と帯電防止性に優れ、基材との密着性、透明性、耐摩耗性、耐水性、耐溶剤性に優れる。
【実施例】
【0035】
以下に、実施例により、本発明を更に具体的に説明するが、以下の実施例は本発明の権利範囲を何ら制限するものではない。なお、実施例における「部」は「重量部」、「%」は「重量%」を表す。
なお、実施例中における各評価は下記の方法に従った。
【0036】
(膜厚)
帯電防止フィルムをミクロトームULTRACUT−Sでフィルム表面に対し垂直に超薄切片を切り出し、この超薄切片を透過型電子顕微鏡LEM−2000を用いて加速電圧100kvで観察・撮影し測定した。
【0037】
(表面抵抗率)
帯電防止フィルムの帯電防止層に対して測定を行い、表面抵抗率が、E+07Ω/□以上のものについては、東亜ディーケーケー(株)製の 超絶縁計SM−8220を用いて測定した。表面抵抗率がE+07Ω / □より低いものについては、三菱化学(株)製のLorester MCP−T610を用いて測定した。
【0038】
(ヘイズ・全光線透過率)
帯電防止フィルムに対して、日本電色工業(株)製ヘイズメーターNDH2000で測定した。
【0039】
(耐摩耗性)
帯電防止フィルムの帯電防止層に対して、テスター産業(株)製染色物磨耗堅牢度試験機AB−301を用い、ベンコットで、500g荷重、10往復後の塗膜の外観を目視で以下のとおり評価した。
◎:はがれ、傷が全く観察されない。
○:傷がわずかに観察される。
△:多数の傷が観察される。
×:はがれてしまい、基材表面が剥き出しになった。
【0040】
(耐水性・耐溶剤性)
帯電防止フィルムの帯電防止層に対して、テスター産業(株)製染色物磨耗堅牢度試験機AB−301を用い、水、エタノール、酢酸エチル、アセトンをそれぞれ染込ませたベンコットで、500g荷重、3往復後の塗膜の外観を目視で以下のとおり評価した。
◎:全く変化が観察されなかった。
○:塗膜がわずかに変色した。
△:塗膜の白化、あるいは一部溶解が観察された。
×:塗膜が溶解し、基材表面が剥き出しになった。
【0041】
(実施例1)
導電性高分子(A)としてポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)0.5重量%とポリスチレンスルホン酸(分子量Mn=150,000)0.8重量%を含んでなるポリマーの水分散体(BaytronP;バイエルAG製)を不揮発分として1.00重量部、カルボキシル基含有樹脂(B)としてメタクリル酸/メタクリル酸メチル共重合体(Mw=160,000)8.1重量部、分子内にアミド基または水酸基を有する化合物(E)としてエチレングリコール45重量部を混合し、不揮発分が0.6重量%になるようにイソプロピルアルコール/水=5/5の混合溶剤で希釈調整した樹脂溶液に、三級アミン(D)としてトリエチルアミンを加え、pH9.6に調整後、アジリジン基含有化合物(C)としてPZ−33(日本触媒(株)製)10.7重量部を添加し、帯電防止コーティング組成物を得た。
得られた帯電防止コーティング組成物を、PETフィルム(東洋紡エステルフィルムA4100;東洋紡績(株)製)にバーコーター(#7)を用いて塗布し、120℃、30秒乾燥後、得られた帯電防止フィルムを評価した。得られた帯電防止フィルムの評価結果を表1に示す。
【0042】
(実施例2〜6、及び比較例1〜5)
表1に示す組成に従い、実施例1同様に、帯電防止コーティング組成物を調製後、塗工、乾燥工程を経て、帯電防止フィルムを得た。得られた帯電防止フィルムの評価結果を表1に示す。
【0043】
【表1】

【0044】
表1中に示す略語は以下の通り。
カルボキシル基含有樹脂(B)
・p−MAA/MMA:メタクリル酸/メタクリル酸メチル共重合体
・ES−225、ES−425:ISP Technologies,Inc.製 GANTREZ ES−225、ES−425(無水マレイン酸/メチルビニルエーテルのハーフエステル)
アジリジン基含有化合物(C)
・PZ−33、DZ−22E:日本触媒(株)製 ケミタイトPZ−33、DZ−22E(アジリジン)
三級アミン(D)
・TMA : 30%トリメチルアミン溶液(和光純薬製)
・TEA : トリエチルアミン(和光純薬製)
・DIPEA : N,N−ジイソプロピルエチルアミン(和光純薬製)
・アンモニア : 25%アンモニア水溶液(和光純薬製)

分子内にアミド基または水酸基を有する化合物(E)
・EG:エチレングリコール
・DEG:ジエチレングリコール
・NMP:N−メチル−2−ピロリドン
添加剤
・BYK−331:ビックケミー社製 BYK−331(シリコーン界面活性剤)
【0045】
表1の結果より、比較例1は、カルボキシル基含有樹脂(B)が無いため、塗膜の耐摩耗性、耐水性、耐溶剤性が悪く、比較例2は、アジリジン基含有化合物(C)が無いため、塗膜の耐摩耗性、耐水性、耐エタノール性が悪い。比較例3、4は、三級アミン(D)が無いため、コーティング液のポットライフが短く、実用上問題がある。比較例5は、分子内にアミド基または水酸基を有する化合物(E)が無いため表面抵抗率が高く、比較例6は、三級アミン(D)の代わりにアンモニアを使用したため、表面抵抗率が高い結果となった。
実施例1〜6は、表面抵抗率、耐溶剤性などの諸物性をすべてバランスよく満たし、ポットライフも長い。中でも実施例4〜6では添加剤としてシリコーン系界面活性剤が添加されているため耐摩耗性がよい結果が得られた。
以上より本発明の帯電防止コーティング組成物は、電子材料包装用のキャリアテープ、カバーテープ、およびトレイ、ならびにワープロ、コンピュータ、テレビなどの各種ディスプレイ、または偏光板などの光学部品の表面保護フィルム、電子部品の包装用などの帯電防止用途に好適に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される繰り返し単位からなるポリカチオンのポリチオフェンと、ポリアニオンとからなる導電性高分子(A)と、カルボキシル基含有樹脂(B)と、アジリジン基含有化合物(C)と、下記一般式(2)で表される三級アミン(D)と、分子内にアミド基または水酸基を有する化合物(E)を含む帯電防止コーティング組成物であることを特徴とする帯電防止コーティング組成物。
【化1】

(一般式(1)中、R1およびR2は相互に独立して水素または炭素数1〜4のアルキル基を表すか、あるいは一緒になって任意に置換されてもよい炭素数1〜12のアルキレン基を表す)
【化2】

(一般式(2)中、R3、R4およびR5は、それぞれ独立に炭素数1〜4のアルキル基を表す)。
【請求項2】
導電性高分子(A)を構成するポリアニオンが、重合されたスルホン酸類であることを特徴とする請求項1記載の帯電防止コーティング組成物。
【請求項3】
導電性高分子(A)1重量部に対して、カルボキシル基含有樹脂(B)とアジリジン基含有化合物(C)との合計を1〜100重量部、分子内にアミド基または水酸基を有する化合物(E)を0.1〜500重量部用い、
かつ、カルボキシル基含有樹脂(B)の官能基と、アジリジン基含有化合物(C)の官能基とのモル比が1:0.7〜1.3であることを特徴とする請求項1又は2記載の帯電防止コーティング組成物。
【請求項4】
pHが7.5〜11.5であることを特徴とする請求項1〜3いずれか記載の帯電防止コーティング組成物。
【請求項5】
カルボキシル基含有樹脂(B)の1g中にカルボキシル基を2.0〜10.0mmol含み、かつカルボキシル基含有樹脂(B)の重量平均分子量が10,000〜1,500,000であることを特徴とする請求項1〜4いずれか記載の帯電防止コーティング用組成物。
【請求項6】
アジリジン基含有化合物(C)の1g中に官能基を1.5〜10.0mmol含むことを特徴とする請求項1〜5いずれか記載の帯電防止コーティング用組成物。
【請求項7】
基材の少なくとも一方の面へ、請求項1〜6いずれか記載の帯電防止コーティング組成物を用いた帯電防止層を形成してなる帯電防止層付基材。
【請求項8】
基材フィルムの少なくとも一方の面へ、請求項1〜6いずれか記載の帯電防止コーティング組成物を用いた帯電防止層を形成してなる帯電防止フィルム。

【公開番号】特開2010−90318(P2010−90318A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−263354(P2008−263354)
【出願日】平成20年10月10日(2008.10.10)
【出願人】(000222118)東洋インキ製造株式会社 (2,229)
【Fターム(参考)】