説明

常温収縮型複数相一括ケーブル用多枝分岐管

【課題】複数相一括ケーブルの各心線と他のケーブルとの接続に好適に使用することができる多枝分岐管を提供する
【解決手段】下記構成(A)〜(D)を具備する多枝分岐管10とする。
(A)幹管12のチューブ16は入口側に肉厚の厚い厚肉部24、奥側に肉厚の薄い薄肉部26を有し、厚肉部と薄肉部は一体成形されている。
(B)幹管および枝管14の拡径部材20、22は、帯状の線材をスパイラル状に巻くことまたはスパイラル状に一体成形することにより形成され、線材を奥側から引き抜いて取り外すものである。
(C)複数相一括ケーブル32の複数相一括部34を幹管に挿入し、各心線36を各枝管に挿入したときに、幹管の拡径部材の先端部38は、複数相一括ケーブルの段剥き部40より幹管の入口側方向に位置する。
(D)幹管および枝管の拡径部材を取り外して複数相一括ケーブルに装着したときに、幹管の厚肉部の内周面は複数相一括部の外周面に密接し、薄肉部の内周面は複数相一括部および心線に接触しない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の心線を有する複数相一括ケーブルの各心線と他のケーブルとを接続する際に用いられる常温収縮型の多枝分岐管に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数の心線を有する複数相一括ケーブルの各心線と他のケーブルとを接続する際に用いられる部材として、特許文献1の常温収縮多分岐管が提案されている。特許文献1の常温収縮多分岐管は、幹管(本管)と複数個の岐管(分岐管)とを一体に成形してなるゴム弾性体を備えた多分岐管において、幹管および枝管は、常温で縮径するチューブと、このチューブの内周側に配置され、チューブを拡径状態に保持する筒状の拡径部材(スペーサ)とで形成されているものである(請求項1)。
【0003】
【特許文献1】特開平11−187562号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の常温収縮多分岐管における拡径部材は、帯状の線材をスパイラル状に巻くことにより形成され、線材を奥側から引き抜いて取り外すものである。
【0005】
しかし、特許文献1の常温収縮多分岐管は、幹管に装着されている拡径部材の線材を奥側から引き抜こうとすると、複数相一括ケーブルの段剥き部やアース線に線材が引っ掛かり、線材を引き抜いて拡径部材を取り外すことができなくなるため、実際には複数相一括ケーブルに装着することができず、複数相一括ケーブルの各心線と他のケーブルとの接続に使用することができないものであった。
【0006】
本発明は、前述した事情に鑑みてなされたもので、幹管に装着されている拡径部材を取り外すことができるとともに、他にも優れた利点を有し、そのため複数相一括ケーブルの各心線と他のケーブルとの接続に好適に使用することができる常温収縮型複数相一括ケーブル用多枝分岐管を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、前記目的を達成するため、幹管と、前記幹管の先端部に接続された複数の枝管とを有し、複数相一括ケーブルの複数相一括部が幹管に挿入され、各心線が各枝管に挿入される多枝分岐管であって、前記幹管および枝管は、常温で縮径するチューブと、前記チューブの内周側に配置され、前記チューブを拡径状態に保持する筒状の拡径部材とで形成されている多枝分岐管において、下記構成(A)〜(D)を具備することを特徴とする常温収縮型複数相一括ケーブル用多枝分岐管を提供する。
(A)幹管のチューブは入口側に肉厚の厚い厚肉部、奥側に肉厚の薄い薄肉部を有し、前記厚肉部と薄肉部は一体成形されている。
(B)幹管および枝管の拡径部材は、帯状の線材をスパイラル状に巻くことまたはスパイラル状に一体成形することにより形成され、線材を奥側から引き抜いて取り外すものである。
(C)複数相一括ケーブルの複数相一括部を幹管に挿入し、各心線を各枝管に挿入したときに、幹管の拡径部材の先端部は、複数相一括ケーブルの段剥き部より幹管の入口側方向に位置する。
(D)幹管および枝管の拡径部材を取り外して複数相一括ケーブルに装着したときに、幹管の厚肉部の内周面は複数相一括部の外周面に密接し、薄肉部の内周面は複数相一括部および心線に接触しない。
【発明の効果】
【0008】
本発明の多枝分岐管は、下記(ア)〜(オ)の作用効果を奏し、そのため複数相一括ケーブルの各心線と他のケーブルとの接続に好適に使用することができる。
(ア)複数相一括ケーブルの複数相一括部を幹管に挿入し、各心線を各枝管に挿入したときに、幹管の拡径部材の先端部は、複数相一括ケーブルの段剥き部より幹管の入口側方向に位置するので、幹管の拡径部材の線材を奥側から引き抜くときに、複数相一括ケーブルの段剥き部やアース線に線材が引っ掛かることがなく、したがって線材を引き抜いて拡径部材を取り外すことができる。
(イ)複数相一括ケーブルの複数相一括部を幹管に挿入し、各心線を各枝管に挿入したときに、幹管の拡径部材の先端部は、複数相一括ケーブルの段剥き部より幹管の入口側方向に位置するとともに、幹管のチューブは奥側に肉厚の薄い薄肉部を有するため、薄肉部を手でつまんで薄肉部内の複数相一括ケーブルに間接的に触れることにより、薄肉部内における複数相一括部や心線の状態を確認することができる。
(ウ)幹管のチューブは入口側に肉厚の厚い厚肉部を有するため、幹管の拡径部材を取り外したときに、強度が高く収縮力が強い幹管の厚肉部の内周面が複数相一括部の外周面に強固に密接し、したがって複数相一括部の外周面と厚肉部の内周面との間の気密性、液密性が確実に保持される。
(エ)幹管および枝管の拡径部材を取り外して複数相一括ケーブルに装着したときに、幹管の薄肉部の内周面が複数相一括部および心線に接触しないので、上記薄肉部が複数相一括ケーブルの段剥き部やアース線に接触して損傷することがない。すなわち、幹管のチューブはシリコーンゴム等で形成されており、このチューブに複数相一括ケーブルの段剥き部やアース線のような出っ張った部分が接触してチューブが損傷すると、その部分から損傷が拡大するが、本発明ではそのようなことがない。
(オ)幹管の厚肉部を設けるために、肉厚が均一なチューブの内面に別の肉厚が均一なチューブを接着した場合には、上記別のチューブが抜けたり、接着剤に含まれる成分がチューブの材料中に移行してチューブの電気特性が変化したりすることがある。これに対し、本発明では、幹管のチューブは一体成形されているため、上記のような問題は生じない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明するが、本発明は下記例に限定されるものではない。図1は本発明に係る常温収縮型複数相一括ケーブル用多枝分岐管の一実施形態を示す模式的断面図である。
【0010】
本例の常温収縮型複数相一括ケーブル用多枝分岐管(以下、単に「多枝分岐管」と言う)10は、幹管12と、幹管12の先端部に接続された複数の枝管14とを有する。幹管12および枝管14は、常温で縮径するチューブ16、18と、チューブ16、18の内周側に配置され、チューブ16、18を拡径状態に保持する筒状の拡径部材20、22とで形成されている。チューブ16、18は、エチレンプロピレンゴム、シリコーンゴム等の常温で弾性を有する絶縁性ゴム材により一体成形され、いったん拡径されても常温で縮径可能なものである。なお、本例では枝管14を3本設け、3相一括ケーブル用多枝分岐管としているが、図1では枝管14を1本のみ図示している。
【0011】
本例の多枝分岐管10は、下記構成(A)〜(D)を具備する。
(A)幹管12のチューブ16は、入口側に肉厚の厚い厚肉部24、奥側に肉厚の薄い薄肉部26を有する。枝管14のチューブ18も、入口側に肉厚の厚い厚肉部28、奥側に肉厚の薄い薄肉部30を有する。拡径部材20、22を装着する前の状態のチューブ16、18の一体成形物を図2に示す。
(B)幹管12および枝管14の拡径部材20、22は、図3に示すように、帯状のプラスチック製線材32をスパイラル状に巻くことまたはスパイラル状に一体成形することにより形成され、線材32を奥側から引き抜いて取り外すものである。
(C)図4に示すように、3相一括ケーブル32の3相一括部34を幹管12に挿入し、各心線36を各枝管14に挿入したときに、幹管12の拡径部材20の先端部38は、3相一括ケーブル32の段剥き部40より幹管12の入口側方向に位置する。なお、段剥き部とは、ケーブルの編組、シースなどを剥いだ部分を言う。
(D)本例の多枝分岐管10は、3相一括ケーブル32の3相一括部34を幹管12に挿入し、各心線36を各枝管14に挿入した後(図4参照)、幹管12および枝管14の拡径部材20、22を取り外すことにより、3相一括ケーブル32に装着するものである。このように多枝分岐管10を3相一括ケーブル32に装着したときに、図5に示すように、幹管12の厚肉部24の内周面は3相一括部34の外周面に密接し、薄肉部26の内周面は3相一括部34および心線36に接触しない。また、枝管14の厚肉部28の内周面は心線36の外周面に密接し、薄肉部30の内周面は心線36に接触しない。
【0012】
本例の多枝分岐管10は、下記(ア)〜(オ)の作用効果を奏する。
(ア)幹管12の拡径部材20の線材32を奥側から引き抜くときに、3相一括ケーブル32の段剥き部40やアース線に線材32が引っ掛かることがなく、したがって線材32を引き抜いて拡径部材20を取り外すことができる。
(イ)拡径部材20を取り外す前に、幹管12のチューブ16の薄肉部26を手でつまんで薄肉部26内の3相一括ケーブル32に間接的に触れることにより、薄肉部26内における3相一括部34や心線36の状態を確認することができる。
(ウ)多枝分岐管10を3相一括ケーブル32に装着したときに、強度が高く収縮力が強い幹管12の厚肉部24の内周面が3相一括部34の外周面に強固に密接するため、3相一括部34の外周面と厚肉部24の内周面との間の気密性、液密性が確実に保持され、また、強度が高く収縮力が強い枝管14の厚肉部28の内周面が心線36の外周面に強固に密接するため、心線36の外周面と厚肉部28の内周面との間の気密性、液密性が確実に保持される。
(エ)多枝分岐管10を3相一括ケーブル32に装着したときに、幹管12のチューブ16の薄肉部26に段剥き部40やアース線のような出っ張った部分が接触してチューブ16が損傷することが防止される。
(オ)幹管12の厚肉部24や枝管14の厚肉部28を設けるために、肉厚が均一なチューブの内面に別の肉厚が均一なチューブを接着した場合には、上記別のチューブが抜けたり、接着剤に含まれる成分がチューブの材料中に移行してチューブの電気特性が変化したりすることがあるが、本例の多枝分岐管10ではそのような問題は生じない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る常温収縮型複数相一括ケーブル用多枝分岐管の一実施形態を示す模式的断面図である。
【図2】図1の多枝分岐管のチューブを示すもので、(a)は正面図、(b)は左側面図、(c)は右側面図である。
【図3】図1の多枝分岐管の拡径部材を示すもので、(a)は正面図、(b)は右側面図である。
【図4】図1の多枝分岐管内に3相一括ケーブルを挿入した状態を示す模式的断面図である。
【図5】図1の多枝分岐管を3相一括ケーブルに装着した状態を示す模式的断面図である。
【符号の説明】
【0014】
10 常温収縮型複数相一括ケーブル用多枝分岐管
12 幹管
14 枝管
16、18 チューブ
20、22 拡径部材
24、28 厚肉部
26、30 薄肉部
32 3相一括ケーブル
34 3相一括部
36 心線
38 拡径部材の先端部
40 段剥き部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
幹管と、前記幹管の先端部に接続された複数の枝管とを有し、複数相一括ケーブルの複数相一括部が幹管に挿入され、各心線が各枝管に挿入される多枝分岐管であって、前記幹管および枝管は、常温で縮径するチューブと、前記チューブの内周側に配置され、前記チューブを拡径状態に保持する筒状の拡径部材とで形成されている多枝分岐管において、下記構成(A)〜(D)を具備することを特徴とする常温収縮型複数相一括ケーブル用多枝分岐管。
(A)幹管のチューブは入口側に肉厚の厚い厚肉部、奥側に肉厚の薄い薄肉部を有し、前記厚肉部と薄肉部は一体成形されている。
(B)幹管および枝管の拡径部材は、帯状の線材をスパイラル状に巻くことまたはスパイラル状に一体成形することにより形成され、線材を奥側から引き抜いて取り外すものである。
(C)複数相一括ケーブルの複数相一括部を幹管に挿入し、各心線を各枝管に挿入したときに、幹管の拡径部材の先端部は、複数相一括ケーブルの段剥き部より幹管の入口側方向に位置する。
(D)幹管および枝管の拡径部材を取り外して複数相一括ケーブルに装着したときに、幹管の厚肉部の内周面は複数相一括部の外周面に密接し、薄肉部の内周面は複数相一括部および心線に接触しない。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2010−74907(P2010−74907A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−237814(P2008−237814)
【出願日】平成20年9月17日(2008.9.17)
【出願人】(591086843)古河電工産業電線株式会社 (40)
【Fターム(参考)】