説明

常温溶融塩及びその製造方法

【課題】 高純度、特にハロゲンイオンが少ない常温溶融塩とその製造方法を提供する。
【解決手段】 重合性官能基を有するオニウムカチオンと重合性官能基を有する有機アニオンとからなる塩モノマーの重合性官能基の重合性を消失させてなる常温溶融塩。さらには、重合性官能基を有するオニウムカチオンと重合性官能基を有する有機アニオンとからなる塩モノマーの重合性官能基に、重合性官能基未含有化合物を付加反応させる工程を含むことを特徴とする常温溶融塩の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、常温溶融塩及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
常温溶融塩は、カチオンとアニオンとの組み合せにより構成され、常温において液体状態を保つものであり、イオン性液体とも呼ばれている。この常温溶融塩は、不揮発性、不燃性、熱安定性、化学的安定性、高イオン伝導性及び電気分解耐性などの特性に優れており、電池やコンデンサ、化学反応の溶媒などへの応用が広く研究されている。
常温溶融塩の合成方法としては、目的とする常温溶融塩を構成するカチオン部を有する化合物とアニオン部を有する化合物とを用いて、前記カチオン部を有する化合物をイオン交換する方法が最も一般的である(例えば、特許文献1参照。)。しかしながら、この方法により得られた常温溶融塩は、その製造過程で生じる副反応物由来の不純物を含み、この不純物の混入を防ぐことが難しい。また、前記不純物の除去においては、前記常温溶融塩は不揮発性であることから、蒸留などによる精製も困難で、不純物を取り除くことは容易ではない。このような常温溶融塩をリチウム二次電池などの電解質に用いた場合、含まれるイオン性の不純物が抵抗成分として作用し、二次電池性能の悪化の原因となってしまう。
また、このようなイオン性不純物を取り除くために、アルミナ粉末を用いることも提案されている(例えば、特許文献2参照。)。この方法により、イオン性不純物の低減が達成されるが、活性アルミナの処理を行うことが必要であり、精製のために余分な工程を必要とする。
この様な背景から、容易に製造できる高純度の常温溶融塩が求められていた。
【特許文献1】特開2004−262897(段落0013)
【特許文献2】特開2005−145850(段落0014)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明によれば、高純度、特に、ハロゲンイオンの少ない、常温溶融塩を提供することができる。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、上記の目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、重合性官能基を有するオニウムカチオンと重合性官能基を有する有機アニオンからなる塩モノマーの重合性を消失させることによって、高純度の常温溶融塩が得られることを見出し、さらに検討を進めて本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は、
(1)重合性官能基を有するオニウムカチオンと重合性官能基を有する有機アニオンとからなる塩モノマーの重合性官能基の重合性を消失させてなる常温溶融塩、
(2)前記常温溶融塩は、ハロゲンイオンの含有量が200ppm以下である第(1)項記載の常温溶融塩、
(3)重合性官能基を有するオニウムカチオンと重合性官能基を有する有機アニオンとからなる塩モノマーの重合性官能基に、重合性官能基未含有化合物を付加反応させる工程を含むことを特徴とする常温溶融塩の製造方法、
(4)前記重合性官能基未含有化合物は、ハロゲン酸、低級アルコール類、アミン化合物、硫黄化合物又はホウ素化合物である第(3)項記載の常温溶融塩の製造方法、
である。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、高純度で、特にハロゲンイオンの含有量が少ない常温溶融塩が得られ、その製造工程は余分な処理を必要としないものである。
本発明の常温溶融塩によれば、優れたイオン伝導性を有する電解質が得られ、これを用いた電池は優れた電池特性を示すため、リチウム二次電池への適用が可能である。また、優れたイオン伝導度を示すことから、キャパシタ、エレクトロクロミック素子等、電気化学素子全般への適用も可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明は、重合性官能基を有するオニウムカチオンと重合性官能基を有する有機アニオンからなる塩モノマーを用い、前記塩モノマーを構成する前記重合性官能基の重合性を消失させることにより得られた常温溶融塩に関するものである。これにより、高純度で、特にハロゲンイオンの含有量が少ない常温溶融塩が得られる。前記ハロゲンイオンとしては、Cl-、Br-、I-などが挙げられ、本発明の方法により、好ましくは200ppm以下の含有量に抑えることが可能となる。
【0007】
本発明に用いる塩モノマーを構成する重合性官能基を有するオニウムカチオンとしては、フルオニウム(F+)、オキソニウム(O+)、スルホニウム(S+)、アンモニウム(N+)、ホスホニウム(P+)などがカチオン種として挙げられる。汎用性、作業性の点から、ホスホニウムカチオン、スルホニウムカチオン、アンモニウムカチオンがより好ましく、中でも、アンモニウムカチオンが最も好ましい。
【0008】
前記スルホニウムカチオンとしては、具体的には、硫黄原子が3つの置換基Rで置換されたカチオンが挙げられる。3つの置換基Rの内、少なくとも一つは重合性官能基を含む基である。置換基Rは、置換または無置換の、アルキル基:Cn2n+1−、アリール基:(R’)n−C65-n−、アラルキル基:(R’)m−C65-m−Cn2n−、アルケニル基:R’−CH=CH−R’−、アラルケニル基:(R’)n−C65-n−CH=CH−R’−、アルコキシアルキル基:R’−O−Cn2n−、アシルオキシアルキル基:R’−COO−Cn2n−などを例示することができる。また、置換基Rはヘテロ原子やハロゲン原子を含んでも良い。また、3つのRは各々異なっても、同一であってもかまわない。前記スルホニウムカチオンで置換基Rにおける、R’は水素、または置換もしくは無置換の炭素数20以下のアルキル基などであり、複数ある場合は互いに異なっても良く、mは1以上5以下の整数であり、nは1以上20以下の整数である。R、R’において置換された場合の置換基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、ネオペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基およびn−デシル基などの直鎖または分岐のアルキル基、シクロヘキシル基および4−メチルシクロヘキシル基などの環状のアルキル基、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基およびn−ヘキシルオキシ基等の直鎖または分岐のアルコキシ基、シクロヘキシルオキシ基などの環状のアルコキシ基、メトキシメトキシ基、メトキシエトキシ基、エトキシエトキシ基、メトキシプロポキシ基、エトキシプロポキシ基、プロポキシプロポキシ基等のアルコキシアルコキシ基、フェニル基、p−トリル基、m−トリル基、o−トリル基、p−クロロフェニル基、m−クロロフェニル基およびo−クロロフェニル基等のアリール基、フェノキシ基、m−メチルフェノキシ基、o−メチルフェノキシ基、p−クロロフェノキシ基、m−クロロフェノキシ基、o−クロロフェノキシ基およびp−n−ブチルフェノキシ基等のアリールオキシ基、フェニルチオ基、p−メチルフェニルチオ基、m−メチルフェニルチオ基,o−メチルフェニルチオ基、o−エチルフェニルチオ基、p−プロピルフェニルチオ基および2,4,6−トリメチルフェニルチオ基等のアリールチオ基、メチルカルボニルアミノ基、エチルカルボニルアミノ基、n−プロピルカルボニルアミノ基、イソプロピルカルボニルアミノ基およびn−ブチルカルボニルアミノ基等のアルキルカルボニルアミノ基、メトキシカルボニルアミノ基、エトキシカルボニルアミノ基、n−プロポキシカルボニルアミノ基、イソプロポキシカルボニルアミノ基およびn−ブトキシカルボニルアミノ基等のアルコキシカルボニルアミノ基、メチルカルボニル基、エチルカルボニル基、n−プロピルカルボニル基、イソプロピルカルボニル基およびn−ブチルカルボニル基等のアルキルカルボニル基、メチルカルボキシ基、エチルカルボキシ基、n−プロピルカルボキシ基、イソプロピルカルボキシ基およびn−ブチルカルボキシ基等のアルキルカルボキシ基、メトキシカルボキシ基、エトキシカルボキシ基、n−プロポキシカルボキシ基、イソプロポキシカルボキシ基およびn−ブトキシカルボキシ基等のアルコキシカルボキシ基、メトキシカルボニルメトキシ基、エトキシカルボニルエトキシ基、エトキシカルボニルメトキシ基、n−プロポキシカルボニルメトキシ基、イソプロポキシカルボニルメトキシ基およびn−ブトキシカルボニルメトキシ基等のアルコキシカルボニルアルコキシ基等を挙げることができ、これらの置換基は、ハロゲン原子やヘテロ原子が含まれていても良い。さらに、前記置換基として、シアノ基や、フッ素、塩素および臭素などのハロゲン原子も挙げることができる。
【0009】
前記ホスホニウムカチオンとしては、具体的には、燐原子が4つの置換基Rで置換されたカチオンが挙げられる。4つの置換基Rの内、少なくとも一つは重合性官能基を含む基である。置換基Rは、置換または無置換の、アルキル基:Cn2n+1−、アリール基:(R’)n−C65-n−、アラルキル基:(R’)m−C65-m−Cn2n−、アルケニル基:R’−CH=CH−R’−、アラルケニル基:(R’)n−C65-n−CH=CH−R’−、アルコキシアルキル基:R’−O−Cn2n−、アシルオキシアルキル基:R’−COO−Cn2n−などを例示することができる。また、置換基Rはヘテロ原子やハロゲン原子を含んでも良い。また、4つのRは各々異なっても、同一であってもかまわない。前記ホスホニウムカチオンで置換基Rにおける、R’は水素、または置換もしくは無置換の炭素数20以下のアルキル基などであり、複数ある場合は互いに異なっても良く、mは1以上5以下の整数であり、nは1以上20以下の整数である。R、R’において置換された場合の置換基としては、上記スルホニウムカチオンにおけるそれと同じものが挙げられる。
【0010】
前記アンモニウムカチオンとしては、アミン化合物から生じうるカチオンであって、前記アミン化合物が、脂肪族アミン化合物、芳香族アミン化合物、含窒素複素環式アミン化合物などのすべてのアミン化合物を含むことは言うまでもなく、アミンから生じる正電荷を有するのであれば、特に限定されない。具体的には、窒素原子が4つの置換基Rで置換されたカチオンが挙げられる。4つの置換基Rの内、少なくとも一つは重合性官能基を含む基である。置換基Rは、置換または無置換の、アルキル基:Cn2n+1、アリール基:(R’)n−C65-n−、アラルキル基:(R’)m−C65-m−Cn2n−、アルケニル基:R’−CH=CH−R’−、アラルケニル基:(R’)n−C65-n−CH=CH−R’−、アルコキシアルキル基:R’−O−Cn2n−、アシルオキシアルキル基:R’−COO−Cn2n−などを例示することができる。また、置換基Rはヘテロ原子やハロゲン原子を含んでも良い。また、4つのRは各々異なっても、同一であってもかまわない。前記アンモニウムカチオンで置換基Rにおける、R’は水素、または置換もしくは無置換の炭素数20以下のアルキル基などであり、複数ある場合は互いに異なっても良く、mは1以上5以下の整数であり、nは1以上20以下の整数である。R、R’において置換された場合の置換基としては、上記スルホニウムカチオンにおけるそれと同じものが挙げられる。
上記アンモニウムカチオン以外のアンモニウムカチオンとしては、ピリジニウムカチオン、ピラリジニウムカチオンおよびキノリニウムカチオンなどの芳香族アンモニウムカチオン、ピロリジウムカチオン、ピペリジニウムカチオンおよびピペラジニウムカチオンなどの脂肪族複素環式アンモニウムカチオン、モルホリンカチオンのような窒素以外のヘテロ原子を含む複素環式アンモニウムカチオン、イミダゾリウムカチオンなどの不飽和の含窒素複素環式カチオンなど、のアンモニウムカチオンも挙げることができる。さらに、上記環状のアンモニウムカチオンでは窒素の位置が異なるカチオンや、環上に置換基をもったカチオンでもよく、ヘテロ原子を含む置換基を有するカチオンでもよい。
【0011】
前記オニウムカチオンにおける重合性官能基としては、ラジカル重合、イオン重合、配位重合およびレドックス重合などにより重合が可能な官能基であれば、何ら限定されない。これらの官能基の例として、例えば、前記ラジカル重合により重合可能な官能基としては、活性エネルギー線照射もしくは加熱によりラジカル重合が可能なものが挙げられ、その具体例としては、(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリロイルオキシ基、(メタ)アクリルアミド基、アリル基、ビニル基、スチリル基などが挙げられる。
【0012】
前記塩モノマーを構成する重合性官能基を有するオニウムカチオンの具体例として、(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムカチオン、(メタ)アクリロイルオキシエチルトリエチルアンモニウムカチオン、(メタ)アクリロイルオキシエチルトリ−n−プロピルアンモニウムカチオン、(メタ)アクリロイルオキシエチルトリ−iso−プロピルアンモニウムカチオン、(メタ)アクリロイルオキシエチルトリ−n−ブチルアンモニウムカチオン、(メタ)アクリロイルオキシエチルトリ−iso−ブチルアンモニウムカチオン、(メタ)アクリロイルオキシエチルトリ−tert−ブチルアンモニウムカチオン、(メタ)アクリロイルオキシエチルトリエチルアンモニウムカチオン、(メタ)アクリロイルオキシエチルジエチル−n−ヘキシルアンモニウムカチオン、(メタ)アクリロイルオキシエチルトリデシルアンモニウムカチオン、(メタ)アクリロイルオキシエチルトリオクチルアンモニウムカチオン、(メタ)アクリロイルオキシエチルドデシルジメチルアンモニウムカチオン、(メタ)アクリロイルオキシジメチルベンジルアンモニウムカチオン、(メタ)アクリロイルオキシエチルドデシルヘキシルメチルアンモニウムカチオン、ジアリルジメチルアンモニウムカチオン、ビススチリルメチルジメチルアンモニウムカチオン、ビススチリルエチルジメチルアンモニウムカチオン、(メタ)アクリルアミドエチルトリメチルアンモニウムカチオン、(メタ)アクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムカチオン、(メタ)アクリルアミドエチルトリエチルアンモニウムカチオン、(メタ)アクリルアミドエチルトリ−n−プロピルアンモニウムカチオン、(メタ)アクリルアミドエチルトリ−iso−プロピルアンモニウムカチオン、(メタ)アクリルアミドエチルトリ−n−ブチルアンモニウムカチオン、(メタ)アクリルアミドエチルトリ−iso−ブチルアンモニウムカチオン、(メタ)アクリルアミドエチルトリ−tert−ブチルアンモニウムカチオン、(メタ)アクリルアミドエチルトリエチルアンモニウムカチオン、(メタ)アクリルアミドエチルジエチル−n−ヘキシルアンモニウムカチオン、(メタ)アクリルアミドエチルトリデシルアンモニウムカチオン、(メタ)アクリルアミドエチルトリオクチルアンモニウムカチオン、(メタ)アクリルアミドエチルドデシルジメチルアンモニウムカチオン、(メタ)アクリルアミドエチルドデシルヘキシルメチルアンモニウムカチオン等の各種アンモニウムカチオン、スチリルメチルメチルピロリジニウムカチオン、ビススチリルメチルピペリジニウムカチオン、N,N’−((メタ)アクリロイルオキシエチルメチル)ピペラジニウムカチオン、(メタ)アクリルアミドエチルメチルモルホリニウムカチオン、(メタ)アクリロイルオキシエチルメチルイミダゾリウムカチオンなどが挙げられる。
【0013】
また、塩モノマーを構成する有機アニオンとしては、重合性官能基を有するアニオンであれば、特に限定されないが、例えば、アルコラートおよびフェノラートなどの水酸基含有有機化合物のプロトンが脱離したアニオン:RO-アニオン、チオレートおよびチオフェノラートなどのプロトンが脱離したアニオン:RS-アニオン、スルホン酸アニオン:RSO3-、カルボン酸アニオン:RCOO-、リン酸および亜リン酸の水酸基の一部が有機基で置換している含リン誘導体アニオン:Rx(OR)y(O)z-、(但し、x、y、zは0以上の整数で、かつ、x+y+2z=3またはx+y+2z=5)、置換ボレートアニオン:Rx(OR)y-、(但し、x、yは0以上の整数で、かつ、x+y=4)、置換アルミニウムアニオン:Rx(OR)yAl-、(但し、x、yは0以上の整数で、かつ、x+y=4)、カルボアニオン(EA)3-、窒素アニオン(EA)2-などが挙げられる。EAは水素原子または電子吸引基を示す。
【0014】
前記有機アニオンとしては、特に、スルホキシル基、カルボキシル基、ホスフォキシル基およびスルホンイミド基由来のアニオンである、RSO3-、RCOO-、RPO32-、および(RO2S)2-が好ましい。ここで、Rは、水素、置換または無置換の、アルキル基Cn2n+1、アリール基(R’)n−C65-n−、アラルキル基(R’)m−C65-m−Cn2n−、アルケニル基R’−CH=CH−R’−、アラルケニル基(R’)n−C65-n−CH=CH−R’−、アルコキシアルキル基R’−O−Cn2n−、アシルオキシアルキル基R’−COO−Cn2n−であり、これらは環構造を有していてもよく、また、ヘテロ原子を含んでもよい。このRが分子内に2個以上ある場合は互いに同じであっても異なっていてもかまわない。ただし、置換基Rを一つ有するアニオンの場合はそのRが、複数の置換基Rを有する場合は、少なくとも一つが、重合性官能基を含む基であり、同様に、置換基EAを一つ有するアニオンの場合はそのEAが、複数の置換基EAを有する場合は、少なくとも一つが、重合性官能基を含む基である。前記Rにおける、R’は水素、または置換もしくは無置換の炭素数20以下のアルキル基などであり、複数ある場合は互いに異なっても良く、mは1以上5以下の整数であり、nは1以上20以下の整数である。また、前述Rの炭素上の水素原子の一部または全部がハロゲン原子に置換されているものも含まれる。R、R’において置換された場合の置換基としては、上記スルホニウムカチオンにおけるそれと同じものが挙げられる。
【0015】
前記有機アニオンにおける重合性官能基としては、上記重合性官能基を有するオニウムカチオンのそれと同じものを挙げることができる。塩モノマーの場合、少なくとも2つの重合性官能基を有することになるが、それらの重合性官能基は、それぞれ同じでも異なっていてもよい。
【0016】
前記塩モノマーを構成する有機アニオンの具体例としては、2−アクリルアミド−2−メチル−1−プロパンスルホン酸、2−[(2−プロペニロキシ)メトキシ]エテンスルホン酸、3−(2−プロペニロキシ)−1−プロペン−1−スルホン酸、ビニルスルホン酸、2−ビニルベンゼンスルホン酸、3−ビニルベンゼンスルホン酸、4−ビニルベンゼンスルホン酸、4−ビニルベンジルスルホン酸、2−メチル−1−ペンテン−1−スルホン酸、1−オクテン−1−スルホン酸、4−ビニルベンゼンメタンスルホン酸、アクリル酸、メタクリル酸、2−アクリルアミド−2−メチル−1−プロパンリン酸、2−(メタ)アクリロイルオキシ−1−エタンリン酸等由来の各種アニオンが挙げられる。
【0017】
本発明に用いる重合性官能基を有するオニウムカチオンと重合性官能基を有する有機アニオンとから構成される塩モノマーとしては、例えば、前記重合性官能基を有する有機アニオンの銀塩などの金属塩と、前記重合性官能基を有するオニウムカチオンのハロゲン化物とを反応させて合成できるが、目的の塩モノマーが得られるのであればこの合成方法に限定されない。ただし、塩モノマーの重合性を消失させる反応を行う前に、塩モノマーの段階で精製を行うことが好ましい。精製の方法としては、公知の方法が適用でき、再結晶、蒸留などを使うことができる。
【0018】
本発明において、前記塩モノマーを構成する重合性官能基の重合性を消失させる方法としては、前記塩モノマーの重合性官能基に、重合性官能基未含有化合物を、付加反応させることによって重合性を消失できる。付加反応としては、重合性を消失できるのであれば特に限定はないが、反応が容易に進行するマイケル付加型の反応が好ましく、前記重合性官能基未含有化合物として、例えば、ハロゲン酸、アルコール類、アミン化合物、硫黄化合物およびホウ素化合物などの化合物を用いて、前記塩モノマーと混合し、必要に応じ、加熱することで、塩モノマーの重合性を消失させることができる。塩モノマーと重合性官能基未含有物を反応させる際に、有機溶媒を使用することも可能である。その場合には、アセトニトリル、アルコール類などの極性溶媒を単独、または、混合溶媒として使用することができるが、塩モノマーと付加反応しないものが好ましい。また、加熱の温度としては、30〜120℃が好ましい。このようなマイケル付加型の反応をする前記重合性官能基未含有化合物の具体例としては、塩化水素および臭化水素などのハロゲン酸、1級アルコール及び2級アルコールなどのアルコール類;、メチルアミンおよびエチルアミン等の1級脂肪族アミン化合物、ジメチルアミンおよびジエチルアミン等の2級脂肪族アミン化合物、置換若しくは無置換のベンジルアミンおよびナフチルアミン等の芳香族アミン化合物、シクロエチルアミンおよびシクロブチルアミン等の複素環式アミン化合物などのアミン化合物;、ドデシルメルカプタンなどのアルキルメルカプタン(炭素数2〜30)などの硫黄化合物、ジアルキルボランなどのホウ素化合物などが挙げられる。付加反応の際に必要に応じて、ナトリウムアルコキシドなどの触媒を添加しても良い。
【0019】
本発明で得られる常温溶融塩は、リチウム二次電池、キャパシタ、エレクトロクロミック材料などのイオン伝導性電解質として用いることができる。
前記リチウム二次電池用のイオン伝導性電解質は、本発明の常温溶融塩とリチウム塩を混合して得ることができ、これをリチウム二次電池に用いる場合の例について、以下に説明する。
前記リチウム二次電池用のイオン伝導性電解質は、ポリマーとの併用により固形化して利用することも可能である。前記ポリマーとしては、アルキレンオキシド骨格を有するポリマー、(メタ)アクリレートなどのラジカル重合性を有するモノマーを重合して得られるポリマーなどが使用可能である。さらに、このような電解質に、可塑剤、難燃性電解質溶解剤、本発明の常温溶融塩以外の一般的な常温溶融塩を添加しても良い。
前記リチウム塩としては、例えば、LiPF6、LiClO4、LiCF3SO3、LiBF4、LiAsF6、LiN(CF3SO22、LiN(C25SO22およびLiC(CF3SO23やLiイオンを含有するイオン性液体などが挙げられ、これらを単独あるいは2種以上を混合して用いても良い。リチウムイオン伝導性電解質に使用する場合に使用するリチウム塩の添加量は、0.1〜99wt%が好ましく、1〜90wt%がより好ましい。
前記可塑剤としては、例えば、エチレンカーボネートおよびプロピレンカーボネートなどの環状炭酸エステル、エチルメチルカーボネートおよびジエチルカーボネートなどの鎖状炭酸エステルなどが挙げられ、これらは、それらの混合物を添加することができる。
前記難燃性電解質塩溶解剤としては、自己消火性を示し、かつ、電解質塩が共存した状態で電解質塩を溶解するのに寄与する化合物が挙げられ、一般に非水電解質電池用電解液に添加される難燃性溶媒が利用でき、リン酸エステル、ハロゲン化合物およびフォスファゼンなどが挙げられる。
前記本発明以外の前記常温溶融塩としては、分子中にイオン結合を少なくとも一つ有しており、常温で液体の化合物が挙げられ、公知の化合物が使用できる。
【0020】
上記で得られたリチウム二次電池用のイオン伝導性電解質は、正極及び負極などを組み合わせることによって、二次電池を製造することができる。正極に使用される活物質としては、エネルギー密度が高く、リチウムイオンの可逆的な脱挿入に優れたリチウムを含有する遷移金属酸化物が好ましく、例えば、LiCoO2などのリチウムコバルト酸化物、LiMn24などのリチウムマンガン酸化物、LiNiO2などのリチウムニッケル酸化物、これら酸化物の混合物およびLiNiO2のニッケルの一部をコバルトやマンガンに置換したものなどが挙げられる。負極活物質としては、リチウムイオンを挿入、脱離させることのできる材料であれば限定されないが、金属リチウムや炭素系材料などが挙げられ、炭素材料としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、メソカーボンマイクロビーズおよびグラファイトなどが挙げられる。
【0021】
二次電池を製造する方法の例としては、まず、上記LiCoO2などの正極活物質、黒鉛などの導電剤、ポリ(ビニリデンフルオライド)などの結着剤を混合して正極合剤を調製し、この正極合剤をN−メチル−2−ピロリドン中に分散させて、スラリー状の正極合剤とする。この正極合剤を、厚み20μmのアルミニウム箔などからなる正極集電体の両面に均一に塗布し、乾燥後、ロールプレス機で圧縮成形することで正極が得られる。
次に、黒鉛粉末などの負極活物質と、ポリ(ビニリデンフルオライド)などの結着剤を混合して、負極合剤を調製し、この負極合剤をN−メチル−2−ピロリドン中に分散させてスラリー状の負極合剤とする。この負極合剤を、厚み15μmの銅箔などからなる負極集電体の両面に均一に塗布し、乾燥後、ロールプレス機で圧縮成形することで負極が得られる。このようにして得られた負極と正極とを、厚みが25μmのポリエチレン製微多孔性フィルムからなるセパレーターを介して密着させ、巻回して電極巻回体とし、この電極巻回体を、絶縁材料からなる外装フィルムに封入するとともに、上記で得られた電解質を外装フィルム中に注入する。次に、外装フィルムの外周縁部を封口し、正極端子と負極端子とを、外装フィルムの開口部に挟み込むとともに、電極巻回体を外装フィルム中に減圧下にて密閉することにより、二次電池が得られる。
【0022】
(実施例)
以下、実施例により本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれによって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0023】
<常温溶融塩(1)の合成>
2−アクリルアミド−2−メチル−1−プロパンスルホン酸10.36g(50mmol)を、メタノール500ml/蒸留水4mlに溶解し、これに炭酸銀8.28g(30mmol)を添加して、室温下で穏やかに4時間連続攪拌し、濾過後、無色透明の溶液を得た。この濾液に、51mmolのアクリロイルオキシエチルジメチルベンジルアンモニウムクロリドをメタノール100mlに溶解した溶液を滴下反応させた。反応は定量的に進行した。反応生成物である塩化銀を濾別し、無色透明のメタノール溶液を回収した。この濾液をエバポレーターで減圧濃縮し、冷暗所で終日静置することにより目的物を再結晶させ、無色透明の板状結晶を回収した。得られた塩モノマーは、プロトン核磁気共鳴スペクトル(1H−NMR)により生成物の確認を行い、所望の化合物であることを確認した。
さらに、この塩モノマー10g(22mmol)を100mlのメタノールに溶解させ、それに4.44g(22mmol)のn−ドデシルメルカプタンを添加し、40℃で6時間反応させた。反応溶液をエバポレーターで減圧濃縮し、溶媒を完全に除去し、常温溶融塩(1)を得た。この常温溶融塩(1)は、プロトン核磁気共鳴スペクトル(1H−NMR)により、重合性官能基が完全に消失していることを確認した。得られた常温溶融塩(1)中に含まれるCl-イオンの含有率をイオンクロマト法により定量すると33ppmであった。
【0024】
<イオン伝導性電解質(1)の合成>
上記で得られた0.7gの常温溶融塩(1)に、LiClO40.3gを完全に溶解させ、得られた溶液を110℃で2時間減圧乾燥することにより、イオン伝導性電解質(1)を得た。このイオン伝導性電解質(1)を交流インピーダンス法により、イオン伝導度を測定した。測定の際の周波数範囲は50Hz〜30MHz、電圧は0.1Vとした。測定の結果、20℃に於けるイオン伝導度は3.8×10-3S/cmであった。
【0025】
<二次電池のサイクル特性評価>
正極活物質として、LiCoO2を85重量%、導電剤としての黒鉛を5重量%と、結着剤としてのポリ(ビニリデンフルオライド)を10重量%とを混合して、正極合剤を調製し、この正極合剤を、N−メチル−2−ピロリドン中に分散させて、スラリー状の正極合剤とした。この正極合剤を、正極集電体として用いる厚み20μmのアルミニウム箔の両面に、均一に塗布し、乾燥後、ロールプレス機で圧縮成形することで正極を得た。
負極活物質として粉砕した黒鉛粉末を90重量%と、結着剤としてポリ(ビニリデンフルオライド)を10重量%とを混合して、負極合剤を調製し、この負極合剤を、N−メチル−2−ピロリドン中に分散させて、スラリー状の負極合剤とした。この負極合剤を、負極集電体として用いる厚み15μmの銅箔の両面に、均一に塗布し、乾燥後、ロールプレス機で圧縮成形することで負極を得た。
【0026】
次に、上記のようにして得られた負極と正極とを、厚みが25μmのポリエチレン製微多孔性フィルムからなるセパレーターを介して密着させ、巻回して電極巻回体とした。この電極巻回体を、絶縁材料からなる外装フィルムに封入するとともに、上記で得られたイオン伝導性電解質(1)を、外装フィルム中に注入した。そして外装フィルムの外周縁部を封口し、正極端子と負極端子とを、外装フィルムの開口部に挟み込むとともに、電極巻回体を外装フィルム中に、減圧下にて密閉し、二次電池を得た。
電池の組み立て後、25℃、500mAの定電流電圧充電を上限4.2Vまで2時間行い、次に500mAでの放電(1時間率放電)を終止電圧2.5Vまで行った。これを1サイクルとして充放電を100サイクル行い、1サイクル目の放電容量を100%としたときの100サイクル目の容量維持率を求めた。100サイクル後の容量維持率は、98%であった。
【実施例2】
【0027】
<常温溶融塩(2)の合成>
2−アクリルアミド−2−メチル−1−プロパンスルホン酸10.36g(50mmol)を、メタノール500ml/蒸留水4mlに溶解し、これに炭酸銀8.28g(30mmol)を添加して、室温下で穏やかに4時間連続攪拌し、濾過後、無色透明の溶液を得た。この濾液に、51mmolのメタクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロリドをメタノール100mlに溶解した溶液を滴下反応させた。反応は定量的に進行した。反応生成物である塩化銀を濾別し、無色透明のメタノール溶液を回収した。この濾液をエバポレーターで減圧濃縮し、溶媒を完全に除去した。このようにして得られた塩モノマーは、プロトン核磁気共鳴スペクトル(1H−NMR)により生成物の確認を行い、所望の化合物であることを確認した。
【0028】
さらに、この塩モノマー10g(26mmol)を100mlのメタノールに溶解させ、それに1.88g(26mmol)のジエチルアミンを添加し、60℃で6時間反応させた。反応溶液をエバポレーターで減圧濃縮し、溶媒を完全に除去し、常温溶融塩(2)を得た。この常温溶融塩(2)は、プロトン核磁気共鳴スペクトル(1H−NMR)により、重合性官能基が完全に消失していることを確認した。得られた常温溶融塩(2)中に含まれるCl-イオンの含有率をイオンクロマト法により定量すると53ppmであった。
【0029】
<イオン伝導性電解質(2)の合成>
実施例1において、常温溶融塩(1)の代わりに、上記で得られた常温溶融塩(2)を使用する以外は、実施例1と同様にして、イオン伝導性電解質(2)を作製し、イオン伝導度を測定した。20℃に於けるイオン伝導度は5.1×10-3S/cmであった。
【0030】
<二次電池のサイクル特性評価>
実施例1において、常温溶融塩(1)の代わりに、上記で得られた常温溶融塩(2)を使用する以外は、実施例1と同様にして二次電池を作製し、100サイクル後の容量維持率を測定したところ、97%であった。
【0031】
(比較例1)
トリメチルヘキシルアンモニウムブロマイド10g(44.6mmol)とリチウムビス(トリフルオロメタンスルホン)イミド12.8g(44.6mmol)を蒸留水中で混合攪拌した。直ちにイオン交換反応が起こり、水に不溶な常温溶融塩(3)が水と分離した。常温溶融塩(3)を分取し、蒸留水で3回洗浄を行い、エバポレーターで減圧し、水分を除去した。この常温溶融塩(3)は、プロトン核磁気共鳴スペクトル(1H−NMR)により生成物の確認を行い、所望の化合物であることを確認した。また、得られた常温溶融塩(3)中に含まれるBr-イオンの含有率をイオンクロマト法により定量すると870ppmと高くなった。
この常温溶融塩(3)を用いて、実施例1と同様の方法で、電解質と二次電池を作製し、イオン伝導度と二次電池の容量維持率を測定した。20℃に於けるイオン伝導度は1.9×10-3S/cmと比較的高い結果となったが、二次電池の容量維持率は68%と低くなった。
【0032】
(比較例2)
比較例1のトリメチルヘキシルアンモニウムブロマイドの代わりに1−エチル−3−メチルイミダゾリウムブロマイドを使用する以外は、比較例1と同様にして常温溶融塩(4)を得た。得られた常温溶融塩(4)中に含まれるBr-イオンの含有率をイオンクロマト法により定量すると450ppmと高くなった。
この常温溶融塩(4)を用いて、実施例1と同様の方法で、電解質と二次電池を作製し、イオン伝導度と二次電池の容量維持率を測定した。20℃に於けるイオン伝導度は2.8×10-3S/cmと比較的高い結果となったが、二次電池の容量維持率は73%と低くなった。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の常温溶融塩は、イオン伝導性電解質に利用することが可能であり、優れたイオン伝導性を有する電解質が得られることから、これを用いた電池は優れた電池特性を示すため、二次電池への適用が可能であると共に、キャパシタやエレクトロクロミック素子等、電気化学素子全般へも適用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合性官能基を有するオニウムカチオンと重合性官能基を有する有機アニオンとからなる塩モノマーの重合性官能基の重合性を消失させてなる常温溶融塩。
【請求項2】
前記常温溶融塩は、ハロゲンイオンの含有量が200ppm以下である請求項1記載の常温溶融塩。
【請求項3】
重合性官能基を有するオニウムカチオンと重合性官能基を有する有機アニオンとからなる塩モノマーの重合性官能基に、重合性官能基未含有化合物を付加反応させる工程を含むことを特徴とする常温溶融塩の製造方法。
【請求項4】
前記重合性官能基未含有化合物は、ハロゲン酸、低級アルコール類、アミン化合物、硫黄化合物又はホウ素化合物である請求項3記載の常温溶融塩の製造方法。

【公開番号】特開2007−153856(P2007−153856A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−355444(P2005−355444)
【出願日】平成17年12月8日(2005.12.8)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】