説明

平形ガスケット、特にシリンダヘッドガスケット

【課題】シリンダヘッドガスケット等が比較的高い圧力で何度も締め付けられた場合に、ビードに割れが発生するのを防止する。
【解決手段】ばね鋼板から成りかつ弾性を有する少なくとも1つのシートメタル層を含むガスケットプレートを備えた平形ガスケットであって、前記シートメタル層が、その高さにおいて弾性変形可能でありかつ本平形ガスケットの使用状態において動的圧力負荷を受ける少なくとも1つのビードを備えたものにおいて、ビードの耐久性を減じることなくビードの作用域を広げるために、前記ばね鋼板が、欧州規格EN 10088-2-1.4372に係るオーステナイト鋼から成るようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1つのシートメタル層を含むガスケットプレートを備えた平形ガスケットに関する。前記シートメタル層は、弾性を有し、ばね鋼板から成り、かつ、その高さにおいて弾性変形可能であると共に本平形ガスケットの使用状態において動的圧力負荷を受ける少なくとも1つのビードを備える。
【背景技術】
【0002】
以下では、シリンダヘッドガスケットを基に本発明を説明する。但し、本発明は、他の少なくとも略金属製の平形ガスケットにも適している。例えば、シリンダヘッドとマルチシリンダ燃焼機関の排気マニホールドとの間に配される平形ガスケットや、構成部品の表面の間で締め付けられ、かつ変化する押圧力による負荷を使用中に受ける別の平形ガスケットである。
【0003】
問題となる上記ビードは、一般に、シーリングビードである。シーリングビードにより、シールが(気体媒体又は液体媒体の通過のための)流体孔の周囲に設けられる。但し、前記ビードは、シーリング構成部品のシーリング面(例えば、シリンダヘッドのシーリング面)を局所的に支持するための純粋な支持ビードの場合もある。支持ビードは、シーリングの目的だけでなく、上記ガスケットが構成部材のシーリング面(例えば、シリンダヘッドのシーリング面)の間で締め付けられる際、このシーリング面を局所的に支持することにも役立つ。このタイプの支持ビードは、例えば米国特許第5,427,389号の図1,3,5及び6に示されている。
【0004】
最後に、次の事実も述べておく。即ち、上記ビードは、いわゆるフルビードの場合もあれば、いわゆるセミビードの場合もある。フルビードの断面は略円弧状であり、セミビードの断面は角度のあるステップに対応する。
【0005】
ビードの高さは、弾性変形可能であり、変化する圧力負荷を使用中に受ける。ビードは、比較的高い圧力で余りに何度も平らにされると、使用時間が長くなるにつれ、割れが生じて壊れる危険がある。このため、次のようにすることが知られている。即ち、少なくとも略金属製の平形ガスケット(そのガスケットプレートは、1つのシートメタル層か、重ねられた幾つかのシートメタル層を有する)については、変形リミッタ(いわゆるストッパ)をビードと関連付け、このストッパにより、平形ガスケットを取り付けて使用している間、ビードが過度に平らにされないようにする、ということである。このような平形ガスケット(ビードにより例えば流体孔の周囲にシールが設けられ、その高さは弾性変形可能である)の場合、前記ストッパは、例えばシートメタルリングの形態を有する。シートメタルリングは、ビードを備えたシートメタル層の上にビードに隣接して配され、後者(即ち、ビード)のようにして上記流体孔を囲繞する。このとき、ビードがその作用域と同程度(つまり、その高さが変化する範囲と同程度)までストッパから突き出るよう、ストッパの厚さはビードの高さよりも小さくされる。もっとも、現代の往復動燃焼機関の場合にはとりわけ、いわゆるシーリングギャップの幅の変化が比較的大きいことから、ビードがいかなる使用状況でもその機能を果たし得るには、その作用域も又比較的大きなものでなければならない。なお、シーリングギャップはシリンダヘッドとエンジンブロックの構成部品シーリング面により画されており、これらシーリング面の間でシリンダヘッドガスケットが締め付けられる。
【0006】
シリンダヘッドガスケットについてはとりわけ、ガスケット製造業者は、ビードを備えたばね鋼板層のために、欧州規格EN 10088-2-1.4310に係るオーステナイト鋼から成るばね鋼板をほぼ例外なくこれまで使用してきた。このような鋼は、炭素、珪素、マンガン、クロムの他に、ニッケルを少なくとも6%含有する。
【特許文献1】米国特許第5,427,389号
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0007】
驚くべきことに、現在、エルリングクリンガー アーゲー(ElringKlinger AG)社にて、次のような事実が解明されている。即ち、上記ばね鋼板について、欧州規格EN 10088-2-1.4310に係る鋼よりも、ニッケルをやや少なく、マンガンをやや多く含有する類似の鋼、即ち、欧州規格EN 10088-2-1.4372に係るオーステナイト鋼を用いることで、ビードの耐久性を減じることなくビードの作用域を広げることができる(それ以外の特性は同じである)、という事実である。従って、本発明によれば、シーリングビードの作用域を、1〜2μmの大きさのオーダーで広げることができる(それ以外の特性は同じである)。この値は小さいように思われるが、シリンダヘッドガスケットの場合、上記シーリングギャップの幅の一時的な変化の大きさを考えると、かなりのものである。更に、本発明によれば、ビード(その高さは弾性変形可能である)の耐久性及び/又は作用域を増すことができるだけでなく、次のような理由から、冒頭で述べたタイプの平形ガスケットに必要な材料コストを下げることもできる。即ち、ニッケルは比較的高価な合金元素であり、その比率は欧州規格EN 10088-2-1.4310に係る鋼板よりも小さい。これに対し、マンガンはニッケルよりも相当安価であるため、本発明に従って、使用する鋼板に占めるマンガンの比率をより高くしても、平形ガスケットの製造コストを減らすことができる、という理由である。
【0008】
本発明に係る平形ガスケットの好適な実施形態の場合、少なくとも1つのビードを備えた鋼板層のために、引張強さが強度クラスC1300に概ね対応するような冷延鋼板が使用される。特に、引張強さが1350〜1500N/mmであり、引張降伏強さが少なくとも1050N/mmとなり、上記規格により規定される伸びA80が5〜22%となるようにすべきである。
【0009】
本発明に係る平形ガスケットの特性に関し、この平形ガスケットにおいて、上記鋼が次のような化学組成を有すると特に好ましい。即ち、
C:0.15%以下、
Si:1.0%以下、
Mn:5.5〜7.5%、
P:0.045%以下、
S:0.015%以下、
N:0.05〜0.25%、
Cr:16.0〜18.0%、
Ni:3.5〜4.5%、
残部がFe。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下では、添付の図面に基づいて、本発明の更なる特徴を説明する。この図面は、本発明に係る平形ガスケットのシートメタル層の一部の断面を示す。
【0011】
上記図面はシートメタル層10の一部を示す。シートメタル層10から、孔12(一部のみ図示しており、特には円形である)がスタンピングされる。孔12は、例えば、シリンダヘッドガスケットの燃焼室孔である。フルビードとして設計されるシーリングビード14が、孔12の縁12aから距離を置いて、シートメタル層10に型押しされる。シートメタルリングが、シートメタル層10の上における上記孔の縁12aとビード14との間に置かれ、例えば点溶接によりシートメタル層10に固定される。このリングは、孔12を同じく円形を成すように囲繞し、ストッパ16を形成する。ストッパ16は、ビード14から長さAだけ突き出ている。この長さAは、ビード14の作用域に対応する。
【0012】
好適な実施形態では、シートメタル層10の鋼が次のような化学組成を有する。ここでは、Feを除く必須の合金要素だけを特定しておく。
C:0.10%、
Si:0.46%、
Mn:6.30%、
P:0.028%、
S:0.0005%、
N:0.10%、
Cr:16.40%、
Ni:3.90%
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る平形ガスケットのシートメタル層の部分断面図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ばね鋼板から成りかつ弾性を有する少なくとも1つのシートメタル層を含むガスケットプレートを備えた平形ガスケットであって、
前記シートメタル層が、その高さにおいて弾性変形可能でありかつ本平形ガスケットの使用状態において動的圧力負荷を受ける少なくとも1つのビードを備えたものにおいて、
前記ばね鋼板が、欧州規格EN 10088-2-1.4372に係るオーステナイト鋼から成ることを特徴とする平形ガスケット。
【請求項2】
請求項1に記載の平形ガスケットにおいて、上記シートメタル層のために使用される上記鋼板が、引張強さが強度クラスC1300に対応するような冷延鋼板であることを特徴とするもの。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の平形ガスケットにおいて、上記鋼が以下の化学組成を有することを特徴とするもの。
C:0.15%以下、
Si:1.0%以下、
Mn:5.5〜7.5%、
P:0.045%以下、
S:0.015%以下、
N:0.05〜0.25%、
Cr:16.0〜18.0%、
Ni:3.5〜4.5%、
残部がFe。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の平形ガスケットにおいて、上記ビードがフルビードであることを特徴とするもの。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の平形ガスケットにおいて、上記ビードが平らにされることを規制するストッパが該ビードと関連付けられることを特徴とするもの。

【図1】
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【公開番号】特開2007−205566(P2007−205566A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2006−335298(P2006−335298)
【出願日】平成18年12月13日(2006.12.13)
【出願人】(504207307)エルリングクリンガー アーゲー (6)
【氏名又は名称原語表記】ElringKlinger AG
【住所又は居所原語表記】Max−Eyth−Strasse 2, 72581 Dettingen, Federal Republic of Germany
【Fターム(参考)】