説明

平滑筋を弛緩させる活性成分を含むリポソーム組成物、その組成物の製造方法、及び治療剤としての用途

本発明は、局所に塗布される、リポソーム中に封入されている活性成分を含む医薬組成物に関する。前記リポソームは、その内部に水性媒質と1つ以上の活性成分とを有し、前記活性成分は、平滑筋を直接又は間接的に弛緩させ、好ましくはプロスタグランジン、アデニルサイクラーゼ、cAMP、AMP,ATP,NO合成酵素、硝酸酸化物(NO)、NO化合物、硝酸、グアニルサイクラーゼ、cGMP、GMP、GTP及びホスホジエステラーゼ、特にシルでナフィル、タダラフィル、及びバルデナフィルからなる群から選ばれる。更に、本発明は、前記組成物の製造方法、任意には無菌状態での製造方法、及び、オスまたはメスにおける性的障害の治療及び/または予防、及び/または性感の向上のための、性器部位へ外用に塗布される、様々なガレヌス製剤中の、活性成分を封入したリポソームの用途にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組織、特に性器部位で血流を改善させる、リポソーム中に局所塗布用活性成分を含む医薬組成物、その医薬組成物の製造方法、及びその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
リポソームは、薬剤学的活性成分の徐方性物質としてよく知られている。リポソーム中のSODに関しては、例えば文献[Ulrich, Biosci Rep. 2002; 22(2):129-50]、または、国際公開公報WO96/14083を参照。局所塗布用リポソーム中に封入された形態の局所麻酔剤は当業者に知られている。例えば、US4937078には、テトラカイン、リドカインのような通常のナトリウムチャネル遮断剤を含有するリポソームが開示されている。その他に知られている化合物としては、組織で血流を改善し、特に勃起不全及びインポテンスをなくすのに使用される化合物がある。例えば、WO94/28902、または、EP0967214A1を参照。
【発明の開示】
【0003】
ピラゾロピリミドン及びピラゾロピリミジノンを活性成分として含有する既知の製剤は、経口または鼻腔内に投与され得る製剤として存在しているが、本発明の目的は、そのような物質を性器部位に直接効率よく局所塗布するための組成物、特にその活性成分の濃度が全体的には低いが、オス又はメスの生殖器官に限り局所的に十分高く保たれる組成物を提供するものである。
【0004】
本発明によるそのような目的は、平滑筋、特に生殖器官で血液を供給する血管の平滑筋を弛緩させる活性成分を局所的に、特に経皮および/または経粘膜に投与するためのリポソーム系を提供することにより達成される。そのような効果は、カルシウムイオンの分泌を誘導することにより得られる。
【0005】
本発明の一実施態様において、活性成分、好ましくはプロスタグランジン、アデニルサイクラーゼ、cAMP、AMP、ATP、NO合成酵素、硝酸酸化物(NO)、NO化合物、硝酸、グアニルサイクラーゼ、cGMP、GMP、GTP及びホスホジエステラーゼ、特にシルデナフィル、タダラフィル、及びバルデナフィルからなる群から選ばれる活性成分は、リポソーム内に封入されていても良く、或いは、リポソームに結合されていても良い。
【0006】
本発明によるリポソーム製剤は、活性成分が継続的に放出される、それを取り囲んでいる組織で活性成分の臨時デポとして、全身的な使用に比べてより長い半減期及びより優れた生物学的利用能を示す。
【0007】
平滑筋細胞に対する弛緩効果は、結果的に処置される組織、例えば生殖器官の組織で血流を改善し、従って性的感受性及び感応性を高めるのに役立つ。
【0008】
本発明による活性物質又は活性成分は、特にcGMPまたはcAMP経路に介入し、Caイオンの分泌を増加させる。これらは、例えばcAMP経路を刺激するパパベリン及びフェントラミン;重要な伝達物質として機能し、グアニル酸シクラーゼを活性化させ、次にcGMPを形成させる硝酸酸化物(NO):NO供与体;ニトログリセリン;ミノキシジル;L−アルギニン;リンシドミン(アルギニンからシトルリンへの転換により、NO合成酵素により体内で生成される);モルシドミン;ホスホジエステラーゼ阻害剤(例えば、PDE5受容体が関与するcGMP経路に介入する、シルデナフィルまたはクエン酸シルデナフィル);cAMP経路に介入する、アルプロスタジル(PGE−1)、ジノプロストン(PGE−2)のようなプロスタグランジンなどの物質である。
【0009】
特に記述がない限り、シルデナフィルは、タダラフィル、バルデナフィル及びそれらの酸塩、例えばクエン酸シルデナフィル及びバルデナフィルHCl・3HO(塩酸バルデナフィル3水和物)を含む意味でこの明細書に使用される。
【0010】
WO02/36257に記載されている、活性成分のカプセル化方法は、極めて柔らかな条件と共にそれ自体の高い有効性に起因して、活性成分を含むリポソームの製造及びその封入において特に有利である。この方法は通常、液体の二重層膜を有し、そして、優れた皮膚への浸透性を示す単層リポソームの製造に用いられる。しかしながら、リポソームの製造及び封入に関する先行技術の方法もまた使用され得る。
【0011】
活性成分をリポソーム内へ能動的に封入することで最大の封入濃度(輸送濃度)が達成され得る。このプロセスは2つの主なカテゴリ、即ち、膜への封入(輸送)、及びリポソームの内部水相への封入(輸送)に分けられる。プロトン化可能な基、例えばアミノ基を有する活性成分は、プロトンの濃度勾配により調節される輸送によりリポソーム内に封入され得、その後、前記リポソーム中にプロトン化した状態で存在し得る。このタイプの能動輸送において、最も重要な特徴はリポソーム膜/リポソーム媒質の分配係数である。オクタノール/緩衝液の分配係数は、物質の膜間拡散を示し、従って活性成分の封入または放出プロフィールに関連する。
【0012】
このような理論的モデルに基づいて、異なる脂質組成を有するリポソーム、好ましくは長鎖ホスホリピド及び低濃度のコレステロールからなるリポソームは、適切な輸送緩衝液中で、好ましくは硫酸アンモニウム、または、クエン酸塩緩衝液中で製造される。硫酸アンモニウム、または、クエン酸塩緩衝液中でリポソームが製造されると、それを取り囲んでいる媒質が改質され、即ち、交換されるか、または、希釈され、任意に中性化されるか、又は、アルカリ化され、従って、リポソーム内部緩衝液とリポソーム外部緩衝液との間には、プロトンの濃度勾配が生じる。活性成分をリポソーム外部の媒質に加えると、かかる活性成分は、このようなプロトンの濃度勾配に起因して、リポソームの内部へ移動し、そこでプロトン化され、リポソーム内で安定した状態を保つ。
【0013】
このような技法を適用すると、封入量(輸送量)または封入能力(輸送能力)は、主にリポソームの内部及び外部にあるプロトンの濃度比により決められる。この実験において、活性成分/液体の比は、リポソーム内への能動封入に関する文献から知られているものと類似した数値、即ち、脂質1μmolあたり活性成分200−400nmolとして得られた。輸送媒質中の活性成分の濃度が増加しても、輸送能力は大きくならない。
【0014】
前述した能動輸送は、ベシクルの形成、活性成分の添加及びアルカリ化といった3段階からなるプロセスである。本発明の更なる目的は、WO02/36257に記載されているクロスフローモジュールを利用して実現できる1段階の製造方法を確立することにある。このような目的を達成するために、活性成分を、プロトンが高濃度で存在する水相、例えば硫酸アンモニウム溶液、又は、クエン酸溶液中に溶かし、クロスフロー注入技法によりリポソーム中へ封入させ、その直後、残留する外部(=リポソームの外部)水相を希釈用緩衝液(例えば、硫酸アンモニウム系で5%グルコース溶液またはクエン酸系でクエン酸/炭酸ナトリウム、pH 9.0−9.5)で希釈する。皮膚浸透性に関連して、活性成分を封入したリポソームの質は、単にベシクル膜中のコレステロール含量を変える(特に、減らす)ことにより改善され得る。
【0015】
必要に応じて、輸送容量は、リポソームの平均サイズを約150−200nm(本明細書に書かれている実験で一般的に使われた。)から300−500nmまで大きくすることで更に増加し得る。また、この方法の有効性、即ち、懸濁液1mlあたり、リポソームに封入された活性成分の量はまた、ベシクルの製造、または、それに続くろ過などで液体の濃度を高めることにより、更に増加し得る。
【0016】
シルデナフィルが活性成分として使用される場合、硫酸アンモニウム/グルコース溶液系は能動輸送に適しているが、その理由は、シルデナフィルがクエン酸緩衝液中に不溶、または、難溶であるからである。リポソーム内水性媒質中の硫酸アンモニウムと可逆的に平衡状態を維持するNHは、プロトンを残してリポソーム膜を通して移動しようとする。シルデナフィルは、それとは逆にリポソーム内へ移動し、プロトンと結合することによって、より高い親水性を維持し、従って膜に残存することになる。このように、シルデナフィルは効率よくリポソーム内へ輸送され得る。この技法は、シルデナフィルだけでなく、タダラフィルおよびバルデナフィルにも適用できる。
【0017】
膜の柔軟性、及びそれに関連する皮膚浸透性の観点から最も良いリポソーム組成物を決定するために、様々な脂質組成を有する各々のリポソーム懸濁液を用意し、テストを行った。ホスホリピド、任意にコレステロールと組み合わせたホスホリピドが主に使用された。しかしながら、ホスホリピドを他の脂質、例えばグリコリピド、セレブロシド、スルファチド、または、ガラックチドに置き換えたり、ホスホリピドに他の脂質を補充したりするようなことは本発明の範囲内である。使用され得る典型的な脂質の例としては、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルコリン、フォスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルグリセロール、カルジオライピン、スフィンゴミエリン、プラスマロゲン、グリセロ糖脂質、セラミド、グリコスフィンゴリピド、及び中性グリコスフィンゴリピドがある。
【0018】
経皮適用に重要な膜の流動性を改善するために考えられる第1の方法は、リポソームの二重層膜の相転移を減少させることである。前述した相転移は、主にホスホリピドのアシル鎖の長さ、コレステロールの量、及びホスホリピドの飽和度により決められる。こういうわけで、本発明による製造方法の一実施態様では、DPCC、即ち、16個の炭素原子で構成されているアシル鎖を有するホスホリピドがDMPC(14個の炭素原子で構成されている鎖)に置き換えられた。DMPCは、融点TMを約45℃から31℃まで下げる。
【0019】
膜の剛性を減少させ、そして、流動性を増加させるために考えられる第2の方法は、膜中のコレステロールの割合を減らすことである。リポソームの封入に関する文献などに書いてあるように、DPCC:コレステロールの比、55:45(mol%)から始まり、コレステロールの量を、総脂質量に対し38%または30%まで徐々に減少させた。コレステロールの含量がより高い場合に得られた結果に比べて、活性成分の輸送におけるわずかな減少が見られた。しかしながら、これらのリポソームは、より優れた皮膚浸透性を有し、数週に渡って行われた長期テストで活性成分の有意味な損失がなく、安定した状態を維持することができた。
【0020】
初期研究から得られた結果とは異なって、本発明によれば、コレステロールを含んでない、安定したリポソームを製造し、これに活性成分を封入することが可能であった。従って、コレステロールの含量は総脂質量に対し0乃至50mol%である。
【0021】
より軟質のリポソーム膜を製造するために考えられる第3の方法は、完全飽和DPCC、または、DMPC脂質を、卵のホスファチジルコリン(E−PC)、不飽和ホスホリピドと天然脂質との混合物に置き換えることである。これらの天然脂質の使用に伴う安定性という問題に対応するためには、リポソームを窒素雰囲気下で製造しなくてはならない。それにも拘らず、これらのベシクルは、ベシクルのサイズと均一性、そして、皮膚浸透性において良い結果が得られなかった。
【0022】
プロトンの濃度勾配を形成するために、当業者に良く知られている代案的で、機能的に均等なシステムを使用することもまた本発明の範囲に属する。本明細書に使用される場合の“機能的に均等な”という表現は、プロセスで膜の完全性を損なうことなく、リポソームの脂質二重層膜を渡ってプロトンの濃度勾配を形成し、リポソーム内に(特にプロトン化した状態で)封入されている活性成分が安定した状態(本明細書に記載の“安定性”の基準に従う。)で存在することができるようにする能力を意味する。
【0023】
局所用治療剤としてシルデナフィルのリポソーム組成物を使用するにあたっては、このリポソームをヒドロゲル中に混入させることが好ましいが、それは純粋な懸濁液に比べて皮膚に塗布しやすいからである。しかしながら、その他に、シルデナフィルを封入したリポソームのためのガレヌス製剤(特に、懸濁剤、ローション剤、乳剤、チンキ剤、スプレー剤、軟膏剤、又は、クリーム剤として)を製造し、それを局所に塗布することもまた本発明の範囲に属する。当業者であれば、様々なガレヌス剤の製造に必要とされる、医薬的に許容される物質及び添加剤について熟知していると思われる。
【0024】
初期の実験より、例えばカルボポル981NF(Noveon社から入手)のような極めて低濃度で用いられ得るヒドロゲルが有用であることが明らかになった。それは、医薬的な用途に適しており、比較的に安価で入手でき、また大量で使用され得る。
【0025】
本発明は、例示のために以下に示す実施例により詳しく説明される。
【実施例1】
【0026】
シルデナフィルを封入したリポソームの製造
リポソームは、所定の活性成分に適した水相を用いる既知のクロスフロー技法(WO02/36257)により製造されるのが好ましい。任意に、活性成分の少なくとも一部は最初から水相中に閉じ込められ、リポソームを形成する全過程を通してリポソームの内部に閉じ込められている。次いで、前記リポソーム懸濁液を、中性またはアルカリ性の希釈用緩衝液(好ましくは、活性成分を含む。)で希釈する。それにより、リポソームの内外にはプロトンの濃度勾配が生じ、希釈用緩衝液からリポソーム内へ、プロトン化可能な更なる活性成分が迅速かつ効率よく輸送され、そして、既にリポソーム中に閉じ込められている活性成分は、リポソームを形成する全過程を通して保持する。
【0027】
代案として、先ず、活性成分を含んでない、緩衝液で充填されているリポソームを製造し、その後プロトンの濃度勾配により活性成分をリポソーム内へ輸送する技法を選ぶこともできる。このプロセスによれば、活性成分を輸送する前に、リポソーム懸濁液の質をチックすることができる。
【0028】
両方の技法共に再現可能であり、リポソーム内に任意の活性成分を封入することを可能にする。これらは、極めてマイルドな条件下で行われ得、ベシクルを形成する際に、有害な溶媒、または、せん断力を一切使用することなく行われ得る。
【0029】
更に、このクロスフロー技法によれば、全ての試薬を滅菌又は無菌形態で提供することができ、そして、無菌条件下でリポソームの製造及びその封入を行うため、活性成分を封入したリポソームの形態の、滅菌製剤又は無菌製剤が得られる。
【0030】
リポソームの製造(WO02/36257による)
96%エタノール中に脂質の混合物を、選ばれる脂質の種類、または、脂質の組成によっては、25℃乃至60℃の温度で(例えば、DPPCリポソームの場合には50℃乃至55℃の温度で)撹拌しながら溶かす。緩衝液もまた、前記温度、例えば55℃に維持されるのが好ましい。極性のある水相(緩衝液)が、ポンプ(例えば、ぜん動性ポンプ)によりクロスフローモジュールを通して吸水され、それと同時にエタノール/脂質の溶液は、所定の圧力下で極性相へ注入される。
【0031】
初期テストの結果より、使用された活性物質によっては、異なる緩衝液系は、能動輸送を可能にするプロトンの濃度勾配を形成するにあたって、異なる適性を示すということがわかった。従って、例えば、活性成分としてクエン酸シルデナフィルを用いる場合、クエン酸(リポソームの内部)と、等モルの中性又は弱塩基性緩衝液、例えば、pH7.5−8.0のクエン酸/炭酸ナトリウム(リポソームの外部)との緩衝液系は不利であることが判った。それは、クエン酸シルデナフィルがこのタイプの緩衝液系中に不溶、または、難溶であるからである。一方、クエン酸シルデナフィルは水に可溶であるため、硫酸アンモニウムの濃度勾配を用いる能動輸送はこのような活性成分に対して好ましい。
【0032】
この技法によれば、リポソームは硫酸アンモニウム緩衝液(好ましくは、125mmol)の存在下で形成されるのが好ましい。ベシクルが形成されてから硫酸アンモニウム溶液が用いられる場合、リポソームの外部に残存する水相は、例えば希釈緩衝液で希釈されるか、または、ダイアフィルトレーションにより5%グルコース溶液に置き換えられ、その結果、小さい両親媒性分子、例えばシルデナフィルが、リポソーム内へ封入され、そこでプロトン化される。その間、NHはリポソームから反対方向へ移る。
【0033】
a)2段階変法:
プロトンの濃度勾配による、シルデナフィルのリポソーム内への封入。下記の条件下で最も良い封入比が得られた。脂質(DPPC:コレステロールのモル比が55:45、水相1mlあたり総脂質13から15μmol)をエタノール中に溶かし、この溶液を125mMの硫酸アンモニウム中に注入させた。自発的にベシクルが形成され、その後、残存する外部の硫酸アンモニウム溶液を5%グルコース溶液に置き換え、クエン酸シルデナフィルを加えた。そうすると、脂質ベシクルの内外でプロトンの濃度勾配が生じた。pH2.5以下になると、加水分解問題が起こるため好ましくない。また、pH5.5以上になると、だんだんフラットなプロトンの濃度勾配を形成するため好ましくない。125mMの硫酸アンモニウム水溶液のpHは、通常約5乃至5.5である。
【0034】
ゲルろ過により封入されていないシルデナフィルを除去し、その後、活性成分の含量と脂質の含量とを、rp−HPLCにより測定した。リポソームのサイズ及び分布は光子相関技術(PCS)により測定した。
【0035】
ベシクルのサイズによっては、能動輸送の方法により総脂質(=DPPC+コレステロール)1μmolあたりシルデナフィル160乃至230nmolといった封入比(シルデナフィル/脂質の比として表す)が得られた。これは、リポソーム懸濁液1mlあたり活性成分1000乃至1500μgという換算値になる。
【0036】
リポソーム中に封入されたシルデナフィルの量を増やすために、グルコース溶液中シルデナフィルの含量を増やした。しかしながら、過量の活性成分は、活性成分/脂質の比を改善させることができないということが判った。プロトンの濃度勾配による能動輸送の場合、有効な輸送量(封入量)は、主にその濃度勾配により左右され、部分的には最初に閉じ込められた活性成分の量にもよる。
【0037】
b)1段階変法:
脂質(DPPC:コレステロール=55:45モル%)をエタノール中に溶かし、その溶液をシルデナフィル/硫酸アンモニウム溶液(pH3.5−4.5)中に注入させた。自発的なベシクルの形成直後に、クエン酸シルデナフィルを更に含む、希釈用5%グルコース溶液(pH7)を加え、その反応混合物(即ち、得られたリポソーム懸濁液)をアルカリ化した。ベシクルが形成された直後に生じたこのプロトンの濃度勾配の結果として、シルデナフィルは1段階でリポソーム中に封入されるだけでなく、そのリポソーム中に安定した状態を保持した。こうしてリポソーム中に封入されるシルデナフィルの量は、pHまたはプロトンの濃度勾配によって、総脂質(DPPC+コレステロール)1μmolあたりシルデナフィル約160乃至230nmolであった。
【0038】
活性成分、タダラフィル及びバルデナフィルも、上記と同じく、リポソーム中に封入された。
【0039】
比較のために、リポソーム中に封入されたプロスタグランジンE1を、前述したものと類似した条件下で製造した。その効果については、実施例2で述べる。
【実施例2】
【0040】
リポソーム中に封入された活性成分の使用
A.リポソーム中のシルデナフィル、タダラフィル、バルデナフィル
ヒトを対象とした実験で使用するための医薬組成物として、ヒドロゲル、カルボポル981 NF1mlあたり、リポソーム中に封入されている各々の物質(無塩活性成分として計算したもの)0.5mgの製剤を選び、それらを被験者に0.5乃至1.5ml/1回(塗布)で使用した。シルデナフィル及びバルデナフィルは、各々のケースにおいて、酸塩の形態、即ち、クエン酸シルデナフィル及び塩酸バルデナフィル3水和物でそれぞれ用いられた。
【0041】
ゲルは、男性の被験者に対しては陰茎に外用に塗布し、女性の被験者に対しては腔または陰核に外用に塗布した。
【0042】
結果:
a)男性:
製剤を塗布してからまもなく(即ち、数分以内に)、被験者は気持ちの良い、暖かい感情、そして、より強い性的興奮を経験した。その後、薬剤を使用していない通常、又は、薬剤の使用前に比べて、より早くてより強い勃起が起こり、陰茎のスチフネスは実質的により長く続いた。3つの活性成分製剤共に類似した効果が得られた。
【0043】
b)女性:
活性成分リポソームのゲル製剤を腔/陰核に塗布してからまもなく、血流が増加し、その結果、気持ちの良い、暖かい感情が現れ、その後腔からの分泌が増えた。その他に、被験者は、腔筋肉の弱い収縮(オルガスムに類似したもの)、性交の際に性感の向上、及び、より強いオルガスムを経験したと報告した。
【0044】
活性成分のリポソーム製剤を使用することにより、性的刺激、性欲の向上だけでなく、迅速に刺激を与え、従ってすばやくオルガスムに到達することができる。
【0045】
1回の塗布後の作用持続時間:効果は、かかる製剤を塗布した直後に現れ、前述した感覚は3.5時間まで続いた。3つの製剤共に明確な効果を現した。被験者の報告によれば、前記3つの異なる活性成分製剤の間に実質的でかつ注目すべき差はなかった。
【0046】
ファイザーにより行われた女性を対象とした研究から得られた結果(New York Times,28 February 2004, “Pfizer Gives Up Testing Viagra on Women”参照)とは異なって、本発明による、活性成分のリポソーム製剤は、外用に塗布した場合に、女性にも明確な効果を現した。従って、この製剤は女性の性的興奮障害(FSAD)の治療のような女性の性機能不全(FSD)の治療にも使用され得る。
【0047】
B.リポソーム中のプロスタグランジンE1
プロスタグランジンE1のリポソーム製剤を塗布した女性の被験者でも類似した効果が見られた。塗布量は、ゲル1mlあたり0.1乃至0.5mgであり、従ってシルデナフィル、タダラフィル及びバルデナフィルの容量より少し少なかった。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】図1は、ベシクルのサイズに対する関数として、DPPC/コレステロールからなるリポソーム中に封入されているシルデナフィルの量を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リポソーム中に封入された活性成分を含む、好ましくは外用に塗布される医薬組成物であって、前記リポソームが、その内部に水性媒質、特に水性緩衝液系と、平滑筋を直接又は間接的に弛緩させる1つ以上の活性成分、好ましくはプロスタグランジン、アデニルサイクラーゼ、cAMP、AMP、ATP、NO合成酵素、硝酸酸化物(NO)、NO化合物、硝酸、グアニルサイクラーゼ、cGMP、GMP、GTP及びホスホジエステラーゼ、特にシルデナフィル、タダラフィル、及びバルデナフィルからなる群から選ばれる活性成分とを含むことを特徴とする医薬組成物。
【請求項2】
前記リポソーム内部の水性媒質のpHが、5.0乃至5.5、特にpH5.0乃至5.5であり、そして、前記リポソーム外部の水性媒質が、中性またはアルカリ性、好ましくはpH7乃至8を有することを特徴とする請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記リポソーム内部の水性媒質が、無機緩衝液、特に硫酸アンモニウムを含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記リポソーム内部の水性媒質が、プロトン化した状態で存在することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記リポソーム外部の水性媒質が、5%グルコース溶液であることを特徴とする請求項4に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記リポソームが、単層であり、そして、脂質二重層膜を有していることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記リポソームが、少なくとも14個の炭素原子で構成されているアシル鎖を有するホスホリピドからなることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記リポソーム中のコレステロール含量が、総脂質量に対し0乃至50mol%、好ましくは30乃至45mol%であることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記リポソームの平均サイズが、150乃至500nmであることを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記リポソーム中の活性成分の濃度が、脂質1μmolあたり100nmol以上、特に150乃至400nmolであることを特徴とする請求項1から9のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項11】
懸濁剤、液剤、ローション剤、乳剤、チンキ剤、スプレー剤、ゲル剤、クリーム剤、または軟膏剤の剤形で、好ましくは無菌状態で存在する医薬組成物であることを特徴とする請求項1から10のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか1項に記載の医薬組成物の製造方法であって、エタノール性脂質相の水相への注入によって、内部に水性媒質を有するリポソームが自発的に生成され、前記水相が改質され、即ち、希釈、交換、中性化又はアルカリ化され、そのために、前記リポソームの内外にプロトンの濃度勾配が生じる前記医薬組成物の製造方法において、
a)前記活性成分を、最初から前記水相中に閉じ込めて、前記活性成分が、前記自発的にリポソームを形成する全過程を通して前記リポソーム中に封入された状態を保持するか、
b)前記活性成分を、ベシクルが完全に形成されてから前記改質された水相に加えて、前記活性成分を、前記リポソームの内外に生じたプロトンの濃度勾配により、前記リポソーム内へ移動させるか、或いは、
c)前記活性成分を、最初から前記水相中に閉じ込めて、前記活性成分が、前記自発的にリポソームを形成する全過程を通して前記リポソーム中に封入された状態を保持し、そして、前記活性成分を、ベシクルが完全に形成してから前記改質された水相に加えて、前記活性成分を、前記リポソームの内外に生じたプロトンの濃度勾配により、前記リポソーム内へ移動させる
ことを特徴とする医薬組成物の製造方法。
【請求項13】
前記リポソームが完全に形成された直後に前記水相の改質が行われることを特徴とする請求項12に記載の医薬組成物の製造方法。
【請求項14】
前記水相が、前記改質が行われる前に、pH2.5乃至5.5、好ましくはpH3.5乃至4.5を有し、そして、前記改質が行われた後に、pH7乃至8を有することを特徴とする請求項13に記載の医薬組成物の製造方法。
【請求項15】
前記水相が、無機緩衝液、特に硫酸アンモニウムを含み、そして、前記改質が、水相を中性またはアルカリ性緩衝液、特に5%グルコース溶液による希釈により、行われることを特徴とする請求項12から14のいずれか1項に記載の医薬組成物の製造方法。
【請求項16】
前記脂質相が、少なくとも14個、好ましくは少なくとも16個の炭素原子で構成されているアシル鎖を有するホスホリピドからなることを特徴とする請求項12から15のいずれか1項に記載の医薬組成物の製造方法。
【請求項17】
前記脂質相中のコレステロール含量が、総脂質量に対し0乃至50mol%、好ましくは30乃至45mol%であることを特徴とする請求項12から16のいずれか1項に記載の医薬組成物の製造方法。
【請求項18】
平滑筋に対する弛緩効果を有する1つ以上の物質、好ましくはプロスタグランジン、アデニルサイクラーゼ、cAMP、AMP、ATP、NO合成酵素、硝酸酸化物(NO)、NO化合物、硝酸、グアニルサイクラーゼ、cGMP、GMP、GTP及びホスホジエステラーゼ、特にシルデナフィル、タダラフィル、及びバルデナフィルからなる群から選ばれる物質が、活性成分として最初から前記水相中に閉じ込められるか、リポソームが完全に形成されてから前記改質された水相に加えられるか、或いは、活性成分として最初から前記水相中に閉じ込められ、そして、リポソームが完全に形成されてから前記改質された水相に加えられること特徴とする請求項12から17のいずれか1項に記載の医薬組成物の製造方法。
【請求項19】
懸濁剤、ローション剤、乳剤、チンキ剤、スプレー剤、ゲル剤、クリーム剤、または軟膏剤の剤形で、好ましくは無菌状態で製造される医薬組成物であることを特徴とする請求項12から18のいずれか1項に記載の医薬組成物の製造方法。
【請求項20】
性器部位における局所塗布剤、特に経皮塗布剤及び/または経粘膜塗布剤として使用される医薬組成物であることを特徴とする請求項1から11のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項21】
オスの勃起不全の予防剤及び/または治療剤の製造に使用される医薬組成物であることを特徴とする請求項1から11のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項22】
メスの性機能不全、特に性的興奮障害(FSAD)の治療剤の製造に使用される医薬組成物であることを特徴とする請求項1から11のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項23】
性欲向上用薬剤の製造に使用される医薬組成物であることを特徴とする請求項1から11のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項24】
陰茎へ塗布される外用塗布剤の製造に使用される医薬組成物であることを特徴とする請求項21または23に記載の医薬組成物。
【請求項25】
腔及び/または陰核へ塗布される外用塗布剤の製造に使用される医薬組成物であることを特徴とする請求項22または23に記載の医薬組成物。

【図1】
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【公表番号】特表2008−516911(P2008−516911A)
【公表日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−536100(P2007−536100)
【出願日】平成17年10月14日(2005.10.14)
【国際出願番号】PCT/EP2005/011054
【国際公開番号】WO2006/042701
【国際公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【出願人】(503111573)ポリマン サイエンティフィック イミューンバイオロジッシュ フォーシュング ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ファフツング (4)
【Fターム(参考)】