説明

平滑筋治療用薬剤および方法

【課題】平滑筋血管痙攣を治療または阻害し、平滑筋の弛緩を促進し、平滑筋が関与する他の治療を改良し、平滑筋細胞増殖および遊走を治療および阻害するための新しい方法および治療方法を提供する。
【解決手段】平滑筋細胞の増殖と遊走を治療および阻害するためのみならず、平滑筋血管痙攣を治療または阻害するための、熱ショックタンパク質20(HSP20)由来の新規ポリペプチド、更に該ポリペプチドをコードする単離核酸配列、組み換え発現ベクター、形質移入された宿主細胞を提供する。また、改良された生物医療機器の提供も行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(相互参照)
本願は2001年8月23日に提出した米国仮特許出願(シリアル番号:60/314、535)に優先権を主張し、この仮出願の開示の全体を参照により本願に組み込む。
【0002】
(政府の資金援助についての記載)
国立衛生研究所を通して米国政府は、本プロジェクトに対し、付与番号RO1 HL58027−06として資金援助を行っている。したがって、米国政府は本発明に対して一定の権利を有しうる。
【0003】
(技術分野)
本発明は、一般には細胞生物学、分子生物学、薬学および平滑筋生物学の分野に関する。
【背景技術】
【0004】
筋肉には、心筋、骨格筋および平滑筋の3つの種類がある。平滑筋は、血管壁、気道、胃腸管および尿生殖路に見られる。上記筋肉によって内側が覆われる管の口径は、上記臓器における筋肉の収縮状態と弛緩状態の間で動的平衡によって決まる。平滑筋の収縮と弛緩は、筋肉内の様々な信号伝達経路によって媒介される。弛緩を誘導する経路は、収縮の阻害も行う。平滑筋の継続的な収縮が、筋肉の「痙攣」である。この痙攣は、弛緩を誘導する経路または系を活性化する、言い換えれば、収縮を阻害することによって防止することができる。
【0005】
大半の場合、平滑筋は、心筋および骨格筋の規則正しい構造を持たない点、最小限の酸素使用量で緊張性収縮を維持できる点で特異である。病理学的緊張性収縮は、筋肉が痙攣している状態である。
【0006】
多くの病理学的状態には、血管平滑筋、すなわち血管の内側を覆う平滑筋の痙攣(「血管痙攣」)が関連している。血管の血管痙攣は血管の管腔を狭めて、血流を制限してしまう。どの血管で痙攣が起こっても、その血管によって血液が供給される臓器に虚血をもたらす。虚血は、組織への血流と酸素供給の可逆的欠如である。心臓内で血管の痙攣が起こると心虚血および/または梗塞につながり、脳内の血管で痙攣が起こると脳梗塞に繋がり、腸への供給を行う血管で痙攣が起こると腸間膜虚血に繋がり、勃起には陰茎海綿体血管の血管拡張が必要であることから、陰茎内の血管の弛緩が欠如するとインポテンスに繋がり、頭蓋内血管の痙攣は偏頭痛に繋がる。
【0007】
過剰な血管収縮(または不十分な血管拡張)は他の疾病状態においても起こる。高血圧は、血管壁、特に循環器系のより小さな血管壁の肥厚によってだけでなく、過剰な血管収縮によっても引き起こされる。このプロセスは、肺血管にも影響し、肺高血圧およびぜんそく(気管支痙攣)を引き起こす。過剰な収縮または平滑筋の不十分な拡張が関係していることが知られている他の疾患としては、妊娠中毒症、早期分娩、子癇前症/子癇、レイノー病または現象、肛門裂傷、アカラシア、溶血性尿毒症、および、狭心症を引き起こす型の冠状動脈痙攣であるPrinzmetal型狭心症が挙げられる。冠状動脈における痙攣は、血管形成術やステント配置の間などの間など、冠状動脈の機械的操作の間にも起こる。この痙攣は虚血や塞栓に繋がることもある。
【0008】
脈管に関わる外科処置もまた平滑筋の血管痙攣によって複雑化し、再狭窄や血管閉塞を含む短期および長期の合併症を引き起こすこともある。一般には、血管痙攣が持続的であると、構成的な再造形/内膜過形成、そして最終的には血管の閉塞に繋がる。血管の拡大、血管形成術、および透析アクセスフィステルやシャントなどの人工機器の移植などの補修的外科処置には、平滑筋への損傷が伴う。これが平滑筋細胞の増殖と遊走を引き起こす。そして最終的には構成的な再造形および内膜過形成に繋がる。このプロセスが再狭窄、人工グラフト不全、ステントおよびステントグラフト不全、微小血管グラフト不全、アテローム性動脈硬化症、および移植血管症に繋がる。
【0009】
まだ完全には理解されていないが、内膜過形成は、内皮細胞の損傷とそれに続く血管平滑筋の増幅および媒質から内膜への遊走とを含む一連の事象によって媒介される。このプロセスは収縮性から合成的表現型への、平滑筋細胞の表現型の調節に関連している。「合成的」平滑筋細胞は、細胞外基質タンパク質を分泌し、これにより、上述のような病理学的血管狭窄が起こる。さらに、平滑筋の増殖と遊走の増加によっても、平滑筋肉腫や平滑筋腫などの平滑筋細胞腫瘍が起こりうる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、平滑筋血管痙攣を治療または阻害し、平滑筋弛緩を促進し、平滑筋に関わる他の治療を改善するための、ならびに、平滑筋細胞の増殖と遊走を治療および阻害するための新しい方法と治療方法を特定することは非常に有益であろう。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(発明の概要)
本発明は、平滑筋血管痙攣を治療または阻害し、平滑筋の弛緩を促進し、平滑筋が関与する他の治療を改良し、平滑筋細胞増殖および遊走を治療および阻害するための新しい方法および治療方法を提供する。
【0012】
1つの態様において、本発明は、下記の一般式Iに記載のアミノ酸配列から成るポリペプチドを提供する:
X1−X2−[X3−A(X4)APLP−X5−]−X6
(式中、X1は存在しないか、1つまたはそれ以上の芳香環を含む1つまたはそれ以上の分子であり、
X2は存在しないか、形質導入ドメインを含み、
X3は、配列WLRR(配列番号:1)の0、1、2、3または4アミノ酸であり、
X4は、S、T、Y、D、E、ヒドロキシリジン、ヒドロキシプロリン、ホスホセリンアナログ、およびホスホチロシンアナログからなる群から選択され、
X5は、属の配列Z1−Z2−Z3の0、1、2または3アミノ酸であり(式中、Z1はGおよびDから成る群より選択され、Z2はLおよびKから成る群より選択され、Z3はSおよびTよりなる群より選択される)、
X6は、存在しないか、形質導入ドメインを含む(式中、uは1〜5))。
【0013】
好ましい実施形態において、X4はリン酸化されている。さらに好ましい実施形態において、X2〜X6の少なくとも1つが、形質導入ドメインを含む。
【0014】
別の態様において、本発明は下記の一般式IIに記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドを提供する:
X1−X2−[X3−A(X4)APLP−X5]−X6
(式中、X1は存在しないか、1つまたはそれ以上の芳香環を含む1つまたはそれ以上の分子であり、
X2は存在しないか、形質導入ドメインを含み、
X3は、配列番号:297の残基1〜14の間の熱ショックタンパク質20の配列の0〜14個のアミノ酸であり、
X4は、S、T、Y、D、E、ヒドロキシリジン、ヒドロキシプロリン、ホスホセリンアナログおよびホスホチロシンアナログからなる群から選択され、
X5は、配列番号:297の残基21〜160に間の熱ショックタンパク質20の0〜140個のアミノ酸であり、
X6は、存在しないか、形質導入ドメインを含む(式中、X2とX6のうちの少なくとも1つが形質導入ドメインを含む))。
【0015】
好ましい実施形態において、X4はリン酸化されている。
【0016】
他の態様において、本発明は、本発明の1つまたはそれ以上のポリペプチドと、医薬適合性の担体とを含む医薬組成物を提供する。
【0017】
他の態様において、本発明は本発明のポリペプチドをコードする単離核酸配列を提供する。さらなる態様において、本発明は、本発明の核酸配列を含む組み換え発現ベクターと、本発明の組み換え発現ベクターによって形質移入された宿主細胞を提供する。
【0018】
他の態様において、本発明は、改良された生物医療機器も提供し、該生物医療機器は、生物医療機器上または機器中に配設した本発明の1つまたはそれ以上のポリペプチドを含む。様々な実施形態において、上記生物医療機器には、ステント、グラフト、シャント、ステントグラフト、血管形成用機器、バルーンカテーテル、フィステル、および移植可能な薬物送達装置が含まれる。
【0019】
他の態様において、本発明は、平滑筋細胞の増殖および/または遊走を阻害するための方法を提供し、該方法は、平滑筋細胞を、平滑筋細胞の増殖および/または遊走を阻害するのに有効な量の本発明の1つまたはそれ以上のポリペプチドと接触させることを含む。本発明の本態様の様々な好ましい実施形態において、本方法は、内膜過形成、狭窄、再狭窄およびアテローム性動脈硬化症からなる群より選択される疾患を治療または予防するために用いられる。本発明の本態様の様々な他の好ましい実施形態において、本方法は、血管形成術、血管拡大術、動脈内膜切除、アテローム切除術、バイパス手術、血管移植、臓器移植、補綴移植、微小血管再構築、形成外科フラップ再構築、およびカテーテル配置から成る群より選択される処置を受けたか、受けている最中か、受ける予定のある被験者に対して実施される。本発明の本態様のさらなる実施形態において、本方法は、平滑筋細胞腫瘍を治療するために用いられる。
【0020】
さらなる実施形態において、本発明は、内膜過形成、狭窄、再狭窄および/またはアテローム性動脈硬化症からなる群より選択される疾患を治療または阻害するための方法を含み、該方法は、その治療または阻害を必要とする被験者に、内膜過形成、狭窄、再狭窄および/またはアテローム性動脈硬化症を治療または阻害するのに有効な量のHSP20またはその機能的均等物を接触させることを含む。
【0021】
さらなる態様において、本発明は、平滑筋細胞腫瘍を治療するための方法を含み、該方法は、その治療を必要とする被験者に、平滑筋細胞腫瘍の治療に有効な量のHSP20またはその機能的均等物を接触させることを含む。
【0022】
さらなる態様において、本発明は、平滑筋痙攣を治療または予防するための方法を提供し、該方法は、その治療または予防が必要な被験者に、平滑筋痙攣の阻止するのに有効な量の本発明の1つまたはそれ以上のポリペプチドを接触させることを含む。本発明の本態様の様々な好ましい実施形態において、筋肉細胞痙攣は、狭心症、Prinzmetal型狭心症(冠状動脈痙攣)、虚血、脳梗塞、徐脈、高血圧症、(肺)高血圧症、ぜんそく(気管支痙攣)、妊娠中毒症、早期分娩、子癇前症/子癇、レイノー病/現象、溶血性尿毒症、非閉塞性腸間膜虚血、肛門裂傷、アカラシア、インポテンス、偏頭痛、平滑筋痙攣に関連する虚血性筋傷害、および移植血管症などの血管症から成る群より選ばれる疾病または状態に関連している。
【0023】
さらなる態様において、本発明は、平滑筋弛緩を促進するための方法を提供し、該方法は、平滑筋弛緩を促進するのに有効な量の本発明の1つまたはそれ以上のポリペプチドと接触させることを含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本願において、特に注記しない限り、使用した技術はいくつかの周知の参照文献のいずれかに見いだすことができる。そのような例としては、分子クローニング:実験マニュアル(Molecular Cloning:A Laboratory Manual)(Sambrookら、1989年、Cold Spring Harbor Laboratory Press)、遺伝子発現技術(Gene Expression Technology)(Methods in Enzymology,185巻、D.Goeddel編、1991年、Academic Press,San Diego,カリフォルニア州)、酵素学の方法(Methods in Enzymology)内の「蛋白質精製のためのガイド」(Guide to Protein Purification)(M.P.Deutshcer編,(1990年)Academic Press Inc.);PCRプロトコル:方法と応用のためのガイド(PCR Protocols:A Guide to Methods and Application)(Innisら、1990年、Academic Press,San Diego,カリフォルニア州)、動物細胞の培養:基礎技術マニュアル(Culture of Animal Cells:A Manual of Basic Technique)、第2版(R.I. Freshney,1987年、Liss,Inc.New York,ニューヨーク州)および、遺伝子転写と発現のプロトコル(Gene Transfer and Expression Protocols)、109〜128、E.J.Murray編、The Humana Press Inc.,Clifton,ニュージャージー州)が挙げられる。
【0025】
1つの態様において、本発明は、下記の一般式Iに記載のアミノ酸配列から成るポリペプチドを提供する:
X1−X2−[X3−A(X4)APLP−X5−]−X6
(式中、X1は存在しないか、1つまたはそれ以上の芳香環を含む1つまたはそれ以上の分子であり、
X2は存在しないか、形質導入ドメインを含み、
X3は、配列WLRR(配列番号:1)の0、1、2、3または4アミノ酸であり、
X4は、S、T、Y、D、E、ヒドロキシリジン、ヒドロキシプロリン、ホスホセリンアナログ、およびホスホチロシンアナログからなる群から選択され、
X5は、属の配列Z1−Z2−Z3の0、1、2または3アミノ酸であり
(式中、Z1はGおよびDから成る群より選択され、
Z2はLおよびKから成る群より選択され、
Z3はSおよびTよりなる群より選択される)、
X6は、存在しないか、形質導入ドメインを含む(式中、uは1〜5))。
【0026】
本願においては、アミノ酸の3文字表記と1文字表記の両方を用いる。本明細書中、「norL」はノルロイシンを意味し、「Orn」はオルニチンを意味する。
【0027】
「ポリペプチド」は広義では、サブユニットアミノ酸、アミノ酸アナログ、ペプチド疑似体の配列を指すために用いられる。サブユニット同士は、注記しない限り(X2位置が1つの芳香環を含む一つの非アミノ酸分子である場合を含む)、ペプチド結合によって連結されている。本明細書中に記載するポリペプチドは、化学的に合成されたものであってもよしし、組み換えによって発現されるものであってもよい。
【0028】
好ましくは、本発明のポリペプチドは化学的に合成される。固相、液相またはペプチド縮合技術、またはそれらの任意の組み合わせなどの周知の技術を用いて調製された合成ポリペプチドは、天然のアミノ酸と非天然のアミノ酸を含みうる。ペプチド合成のために用いるアミノ酸は、Merrifieldのオリジナルの固相法(1963年、J.Am.Chem.Soc.85:2149〜2154)の標準的な脱保護、中和、カップリングおよび洗浄を用いた、標準的なBoc(Na−アミノ保護Na−t−ブチルオキシカルボニル)アミノ酸であってもよいし、あるいは、CarpinoおよびHan(1972年、J.Org.Chem.37:3403〜3409)に初めて記載された塩基に不安定なNa−アミノ保護9−フルオレニルメトキシカルボニル(Fmoc)アミノ酸であってもよい。FmocとBocNa−アミノ保護アミノ酸のいずれも、Sigma社、Cambridge Research Biochemical、または当業者に馴染みのある他の薬品会社から入手することができる。さらに、ポリペプチドは、当業者に馴染みのあるNa保護基を用いて合成することもできる。
【0029】
固相ペプチド合成は、例えば、StewartとYoung,1984年、固相合成(Solid Phase Synthesis)、第2版、Pierce Chemical Co.,Rockford,イリノイ州;FieldsとNoble、1990年、Int.J.Pept.Protein Res.35:161〜214の中に記載されている当業者に馴染みのある技術によって、あるいは自動合成装置を用いて達成することができる。本発明のポリペプチドは、特定の特性を与えるために、D−アミノ酸(インビボにおいてL−アミノ酸特異的プロテアーゼに耐性)、D−およびL−アミノ酸との組み合わせ、ならびに様々な「デザイナー」アミノ酸(例えば、β−メチルアミノ酸、Ca−メチルアミノ酸、およびNa−メチルアミノ酸など)を含んでいてもよい。合成アミノ酸は、リジンの代わりにオルニチン、ロイシンまたはイソロイシンの代わりにノルロイシンを含んでいる。
【0030】
さらに、ポリペプチドは、新奇な特性を有するペプチドを合成するために、ペプチド疑似結合、例えばエステル結合などを有していてもよい。例えば、還元型ペプチド結合を取り込んだペプチド、すなわちR−CH−NH−R(式中、RおよびRはアミノ酸残基または配列である)を生成することもできる。還元型ペプチド結合は、ジペプチドサブユニットとして導入してもよい。このようなポリペプチドは、プロテアーゼ活性に耐性であると考えられ、またインビボにおける長い半減期を有すると考えられる。
【0031】
一般式Iのポリペプチドの様々な実施形態に従えば、領域[X3−A(X4)APLP−X5−]は、1、2、3、4または5コピー数存在してもよい。好ましい実施形態において、上記領域は1コピー数存在する。他の実施形態において、平滑筋細胞増殖、平滑筋細胞遊走、および平滑筋細胞痙攣のうちの1つまたはそれ以上を阻害するために、および/または、平滑筋血管弛緩を促進するために、ポリペプチドの使用効力を高めるための複数のコピーが存在する。
【0032】
一般式Iのポリペプチドの様々な態様に従えば、X4はS、T、Y、D、E、ホスホセリン擬似体、またはホスホチロシン疑似体である。より好ましくは、X4はS、TまたはYであり、より好ましくはX4はSまたはTであり、最も好ましくはX4はSである。これらの実施形態において、X4はS、T、またはYであり、最も好ましくはX4はリン酸化されている。X4がDまたはEの場合には、これらの残基はリン酸化状態を模倣する負の変化を有する。本発明のポリペプチドは、X4がリン酸化されているか、ホスホセリンまたはホスホチロシン疑似体、または例えばDまたはE残基などのリン酸化アミノ酸残基の他の疑似体である場合に最も効果が高い。ホスホセリンの疑似体としては、特に限定はされないが、スルホセリン、リン酸酸素に対してメチレン置換基を含むアミノ酸疑似体、4−ホスホノ(ジフルオロメチル)フェニルアラニンおよびL−2−アミノ−4−(ホスホノ)−4,4−ジフルオロブタン酸が挙げられる。例えば、OtakaらのTetrahedron Letters 36:927〜930(1995年)のように、他のホスホセリン疑似体は当業者によって作成可能である。ホスホチロシン疑似体としては、限定はされないが、例えば、ホスホノメチルフェニルアラニン、ジフルオロホスホノメチルフェニルアラニン、フルオロ−O−マロニルチロシンおよびO−マロニルチロシンが挙げられる(例えば、Akamatsuら、Bioorg Med Chem 1997年、1月;5(1):157〜163)。
【0033】
別の実施形態において、X1は、1つの芳香環を含む1つまたはそれ以上の分子である。1つの好ましい実施形態において、1つの芳香環を含む前記1つまたはそれ以上の分子は、アミノ酸であり、X1は(F/Y/W)であり、式中、「z」は1〜5アミノ酸である。したがって、例えば、X1はF、YおよびWの任意の組み合わせの1または2個のアミノ酸残基、例えば、F、FF、Y、YY、W、WW、FY、FW、YF、YW、WYおよびWFなどが可能である。あるいは、X1は、F、YおよびWの3、4または5個のアミノ酸の組み合わせであってもよい。他の好ましい実施形態において、1つの芳香環を含む分子は、随意でハロゲン、低級アルキル、低級アルキルチオ、トリフルオロメチル、低級アシロキシ、アリールおよびヘテロアリールによって置換されていてもよい1つまたはそれ以上の芳香環を含む分子からなる群より選択される。最も好ましい実施形態において、1つまたはそれ以上の芳香環を含む1つまたはそれ以上の分子は、9−フルオレニルメチル(Fm)を含む。このような分子としては限定はされないが、例えば、9−フルオレニルメチルカルボニル、9−フルオレニルメチルカルバメート、9−フルオレニルメチルカーボネート、9−フルオレニルメチルエステル、9−フルオレニルメチルホスフェート、およびS−9−フルオレニルメチルチオエーテルが挙げられる。芳香族を含む分子がアミノ酸でない実施形態において、該分子は、限定はされないが、ペプチド合成において用いられる標準Fmoc保護化学を含む当業者周知の方法によってポリペプチドに結合させることもできる。
【0034】
一般式Iのポリペプチドの様々な実施形態において、X3は配列WLRR(配列番号:1)の0、1、2、3または4アミノ酸である。X3が配列の1アミノ酸だけからなる場合、「R」は存在する。これは「R」が、配列のカルボキシ末端アミノ酸であり、A(X4)APLP(配列番号:2)配列の残りの部分のアミノ末端に存在すると考えられるからである。X3が、WLRR(配列番号:1)のうちの2つのアミノ酸からなる場合、添加される2つのアミノ酸は「RR」となる。他の変形は、本明細書の教示に基づいて当業者に明らかであろう。
【0035】
同様に、X5を構成する残基の変形も、本明細書の教示に基づいて当業者に明らかであろう。
【0036】
このように、本発明の上記様々な態様に従えば、一般式Iに従うポリペプチドの代表的試料は、以下のものが含まれるが、これらに限定されることはない:(ASAPLP)(配列番号:3);(ATAPLP)(配列番号:4);(RASAPLP)(配列番号:5);(RATAPLP)(配列番号:6);(AYAPLP)(配列番号:7);(RAYAPLP)(配列番号:8);(RRASAPLP)(配列番号:9);(LRRASAPLP)(配列番号:10);(WLRRASAPLP);(配列番号:11)(RRATAPLP)(配列番号:12);(LRRATAPLP)(配列番号:13);(WLRRATAPLP)(配列番号:14);(RRAYAPLP)(配列番号:15);(LRRAYAPLP)(配列番号:16);(WLRRAYAPLP)(配列番号:17);(RRASAPLPG)(配列番号:18);(RRASAPLPD)(配列番号:19);(RRASAPLPGL)(配列番号:20);(RRASAPLPGK)(配列番号:21);(RRASAPLPDL)(配列番号:22);(RRASAPLPDK)(配列番号:23);(RRASAPLPGLS)(配列番号:24);(RRASAPLPGLT)(配列番号:25);(RRASAPLPGKS)(配列番号:26);(RRASAPLPGKT)(配列番号:27);(RRASAPLPDLS)(配列番号:28);RRASAPLPDLT)(配列番号:29);(RRASAPLPDKS)(配列番号:30);(RRASAPLPDKT)(配列番号:31);(LRRASAPLPG)(配列番号:32);(LRRASAPLPD)(配列番号:33);(LRRASAPLPGL)(配列番号:34);(LRRASAPLPGK)(配列番号:35);(LRRASAPLPDL)(配列番号:36);(LRRASAPLPDK)(配列番号:37);(LRRASAPLPGLS)(配列番号:38);(LRRASAPLPGLT)(配列番号:39);(LRRASAPLPGKS)(配列番号:40);(LRRASAPLPGKT)(配列番号:41);(LRRASAPLPDLS)(配列番号:42);(LRRASAPLPDLT)(配列番号:43);(LRRASAPLPDKS)(配列番号:44);(LRRASAPLPDKT)(配列番号:45);(WLRRASAPLPG)(配列番号:46);(WLRRASAPLPD)(配列番号:47);(WLRRASAPLPGL)(配列番号:48);(WLRRASAPLPGK)(配列番号:49);(WLRRASAPLPDL)(配列番号:50);(WLRRASAPLPDK)(配列番号:51);(WLRRASAPLPGLS)(配列番号:52);(WLRRASAPLPGLT)(配列番号:53);(WLRRASAPLPGKS)(配列番号:54);(WLRRASAPLPGKT)(配列番号:55);(WLRRASAPLPDLS)(配列番号:56);(WLRRASAPLPDLT)(配列番号:57);(WLRRASAPLPDKS)(配列番号:58);(WLRRASAPLPDKT)(配列番号:59);(RRATAPLPG)(配列番号:60);(RRATAPLPD)(配列番号:61);(RRATAPLPGL)(配列番号:62);(RRATAPLPGK)(配列番号:63);(RRATAPLPDL)(配列番号:64);(RRATAPLPDK)(配列番号:65);(RRATAPLPGLS)(配列番号:66);(RRATAPLPGLT)(配列番号:67);(RRATAPLPGKS)(配列番号:68);(RRATAPLPGKT)(配列番号:69);(RRATAPLPDLS)(配列番号:70);(RRATAPLPDLT)(配列番号:71);(RRATAPLPDKS)(配列番号:72);(RRATAPLPDKT)(配列番号:73);(LRRATAPLPG)(配列番号:74);(LRRATAPLPD)(配列番号:75);(LRRATAPLPGL)(配列番号:76);(LRRATAPLPGK)(配列番号:77);(LRRATAPLPDL)(配列番号:78);(LRRATAPLPDK)(配列番号:79);(LRRATAPLPGLS)(配列番号:80);(LRRATAPLPGLT)(配列番号:81);(LRRATAPLPGKS)(配列番号:82);(LRRATAPLPGKT)(配列番号:83);(LRRATAPLPDLS)(配列番号:84);(LRRATAPLPDLT)(配列番号:85);(LRRATAPLPDKS)(配列番号:86);(LRRATAPLPDKT)(配列番号:87);(WLRRATAPLPG)(配列番号:88);(WLRRATAPLPD)(配列番号:89);(WLRRATAPLPGL)(配列番号:90);(WLRRATAPLPGK)(配列番号:91);(WLRRATAPLPDL)(配列番号:92);(WLRRATAPLPDK)(配列番号:93);(WLRRATAPLPGLS)(配列番号:94);(WLRRATAPLPGLT)(配列番号:95);(WLRRATAPLPGKS)(配列番号:96);(WLRRATAPLPGKT)(配列番号:97);(WLRRATAPLPDLS)(配列番号:98);(WLRRATAPLPDLT)(配列番号:99);(WLRRATAPLPDKS)(配列番号:100);(WLRRATAPLPDKT)(配列番号:101);(RRAYAPLPG)(配列番号:102);(RRAYAPLPD)(配列番号:103);(RRAYAPLPGL)(配列番号:104);(RRAYAPLPGK)(配列番号:105);(RRAYAPLPDL)(配列番号:106);(RRAYAPLPDK)(配列番号:107);(RRAYAPLPGLS)(配列番号:108);(RRAYAPLPGLT)(配列番号:109);(RRAYAPLPGKS)(配列番号:110 ;(RRAYAPLPGKT)(配列番号:111);(RRAYAPLPDLS)(配列番号:112);(RRAYAPLPDLT)(配列番号:113);(RRAYAPLPDKS)(配列番号:114);(RRAYAPLPDKT)(配列番号:115);(LRRAYAPLPG)(配列番号:116);(LRRAYAPLPD)(配列番号:117);(LRRAYAPLPGL)(配列番号:118);(LRRAYAPLPGK)(配列番号:119);(LRRAYAPLPDL)(配列番号:120);(LRRAYAPLPDK)(配列番号:121);(LRRAYAPLPGLS)(配列番号:122);(LRRAYAPLPGLT)(配列番号:123);(LRRAYAPLPGKS)(配列番号:124);(LRRAYAPLPGKT)(配列番号:125);(LRRAYAPLPDLS)(配列番号:126);(LRRAYAPLPDLT)(配列番号:127);(LRRAYAPLPDKS)(配列番号:128);(LRRAYAPLPDKT)(配列番号:129);(WLRRAYAPLPG)(配列番号:130);(WLRRAYAPLPD)(配列番号:131);(WLRRAYAPLPGL)(配列番号:132);(WLRRAYAPLPGK)(配列番号:133);(WLRRAYAPLPDL)(配列番号:134);(WLRRAYAPLPDK)(配列番号:135);(WLRRAYAPLPGLS)(配列番号:136);(WLRRAYAPLPGLT)(配列番号:137);(WLRRAYAPLPGKS)(配列番号:138);(WLRRAYAPLPGKT)(配列番号:139);(WLRRAYAPLPDLS)(配列番号:140);(WLRRAYAPLPDLT)(配列番号:141);(WLRRAYAPLPDKS)(配列番号:142);および
(WLRRAYAPLPDKT)(配列番号:143);((F/Y/W)RRASAPLP)(配列番号:144);((F/Y/W)LRRASAPLP)(配列番号:145);((F/Y/W)WLRRASAPLP);(配列番号:146)((F/Y/W)RRATAPLP)(配列番号:147);((F/Y/W)LRRATAPLP)(配列番号:148);((F/Y/W)WLRRATAPLP)(配列番号:149);((F/Y/W)RRAYAPLP)(配列番号:150);((F/Y/W)LRRAYAPLP)(配列番号:151);((F/Y/W)WLRRAYAPLP)(配列番号:152);((F/Y/W))RRASAPLPG)(配列番号:153);((F/Y/W)RRASAPLPD)(配列番号:154);((F/Y/W)RRASAPLPGL)(配列番号:155);((F/Y/W)RRASAPLPGK)(配列番号:156);((F/Y/W)RRASAPLPDL)(配列番号:157);((F/Y/W)RRASAPLPDK)(配列番号:158);((F/Y/W)RRASAPLPGLS)(配列番号:159);((F/Y/W)RRASAPLPGLT)(配列番号:160);((F/Y/W)RRASAPLPGKS);(配列番号:161);((F/Y/W)RRASAPLPGKT)(配列番号:162);((F/Y/W)RRASAPLPDLS)(配列番号:163);((F/Y/W)RRASAPLPDLT)(配列番号:164);((F/Y/W)RRASAPLPDKS)(配列番号:165);((F/Y/W)RRASAPLPDKT)(配列番号:166);((F/Y/W)LRRASAPLPG)(配列番号:167);((F/Y/W)LRRASAPLPD)(配列番号:168);((F/Y/W))LRRASAPLPGL)(配列番号:169);((F/Y/W)LRRASAPLPGK)(配列番号:170);((F/Y/W)LRRASAPLPDL)(配列番号:171);((F/Y/W)LRRASAPLPDK)(配列番号:172);((F/Y/W)LRRASAPLPGLS)(配列番号:173);((F/Y/W)LRRASAPLPGLT)(配列番号:174);((F/
Y/W)LRRASAPLPGKS)(配列番号:175);((F/Y/W)LRRASAPLPGKT)(配列番号:176);((F/Y/W)LRRASAPLPDLS)(配列番号:177);((F/Y/W)LRRASAPLPDLT)(配列番号:178);((F/Y/W)LRRASAPLPDKS)(配列番号:179);((F/Y/W)LRRASAPLPDKT)(配列番号:180);((F/Y/W)WLRRASAPLPG)(配列番号:181);((F/Y/W)WLRRASAPLPD)(配列番号:182);((F/Y/W)WLRRASAPLPGL)(配列番号:183);((F/Y/W)WLRRASAPLPGK)(配列番号:184);((F/Y/W)WLRRASAPLPDL)(配列番号:185);((F/Y/W)WLRRASAPLPDK)(配列番号:186);((F/Y/W)WLRRASAPLPGLS)(配列番号:187);((F/Y/W)WLRRASAPLPGLT)(配列番号:188);((F/Y/W)WLRRASAPLPGKS)(配列番号:189);((F/Y/W)WLRRASAPLPGKT)(配列番号:190);((F/Y/W)WLRRASAPLPDLS)(配列番号:191);((F/Y/W)WLRRASAPLPDLT)(配列番号:192);((F/Y/W)WLRRASAPLPDKS)(配列番号:193);((F/Y/W)WLRRASAPLPDKT)(配列番号:194);(RRATAPLPG)(配列番号:195);((F/Y/W)RRATAPLPD)(配列番号:196);((F/Y/W)RRATAPLPGL)(配列番号:197);((F/Y/W)RRATAPLPGK)(配列番号:198);((F/Y/W)RRATAPLPDL)(配列番号:199);((F/Y/W)RRATAPLPDK)(配列番号:200);((F/Y/W)RRATAPLPGLS)(配列番号:201);((F/Y/W)RRATAPLPGLT)(配列番号:202);((F/Y/W)RRATAPLPGKS)(配列番号:203);((F/Y/W)RRATAPLPGKT)(配列番号:204);(RRATAPLPDLS)(配列番号:205);((F/Y/W)
RRATAPLPDLT)(配列番号:206);((F/Y/W)RRATAPLPDKS)(配列番号:207);((F/Y/W)RRATAPLPDKT)(配列番号:208);((F/Y/W)LRRATAPLPD)(配列番号:209);((F/Y/W)LRRATAPLPD)(配列番号:210);((F/Y/W)LRRATAPLPGL)(配列番号:211);((F/Y/W)LRRATAPLPGK)(配列番号:212);((F/Y/W)LRRATAPLPDL)(配列番号:213);((F/Y/W)LRRATAPLPDK)(配列番号:214);((F/Y/W)LRRATAPLPGLS)(配列番号:215);((F/Y/W)LRRATAPLPGLT)(配列番号:216);((F/Y/W)LRRATAPLPGKS)(配列番号:217);((F/Y/W)LRRATAPLPGKT)(配列番号:218);((F/Y/W)LRRATAPLPDLS)(配列番号:219);((F/Y/W)LRRATAPLPDLT)(配列番号:220);((F/Y/W)LRRATAPLPDKS)(配列番号:221);((F/Y/W)LRRATAPLPDKT)(配列番号:222);((F/Y/W)WLRRATAPLPG)(配列番号:223);((F/Y/W)WLRRATAPLPD)(配列番号:224);((F/Y/W)WLRRATAPLPGL)(配列番号:225);((F/Y/W)WLRRATAPLPGK)(配列番号:226);((F/Y/W)WLRRATAPLPDL)(配列番号:227);((F/Y/W)WLRRATAPLPDK)(配列番号:228);((F/Y/W)WLRRATAPLPGLS)(配列番号:229);((F/Y/W)WLRRATAPLPGLT)(配列番号:230);((F/Y/W)WLRRATAPLPGKS)(配列番号:231);((F/Y/W)WLRRATAPLPGKT)(配列番号:232);((F/Y/W)WLRRATAPLPDLS)(配列番号:233);((F/Y/W)WLRRATAPLPDLT)(配列番号:234);((F/Y/W)WLRRATAPLPDKS)(配列番号:235);((F/Y/W)WLRRATAPLPDKT)
配列番号:236);((F/Y/W)RRAYAPLPG)(配列番号:237);((F/Y/W)RRAYAPLPD)(配列番号:238);((F/Y/W)RRAYAPLPGL)(配列番号:239);((F/Y/W)RRAYAPLPGK)(配列番号:240);((F/Y/W)RRAYAPLPDL)(配列番号:241);((F/Y/W)RRAYAPLPDK)(配列番号:242);((F/Y/W)RRAYAPLPGLS)(配列番号:243);((F/Y/W)RRAYAPLPGLT)(配列番号:244);((F/Y/W)RRAYAPLPGKS)(配列番号:245);((F/Y/W)RRAYAPLPGKT)(配列番号:246);((F/Y/W)RRAYAPLPDLS)(配列番号:247);((F/Y/W)RRAYAPLPDLT)(配列番号:248);((F/Y/W)RRAYAPLPDKS)(配列番号:249);((F/Y/W)RRAYAPLPDKT)(配列番号:250);((F/Y/W)LRRAYAPLPG)(配列番号:251);((F/Y/W)LRRAYAPLPD)(配列番号:252);((F/Y/W)LRRAYAPLPGL)(配列番号:253);((F/Y/W)LRRAYAPLPGK)(配列番号:254);((F/Y/W)LRRAYAPLPDL)(配列番号:255);((F/Y/W)LRRAYAPLPDK)(配列番号:256);((F/Y/W)LRRAYAPLPGLS)(配列番号:257);((F/Y/W)LRRAYAPLPGLT)(配列番号:258);((F/Y/W)LRRAYAPLPGKS)(配列番号:259);((F/Y/W)LRRAYAPLPGKT)(配列番号:260);((F/Y/W)LRRAYAPLPDLS)(配列番号:261);((F/Y/W)LRRAYAPLPDLT)(配列番号:262);((F/Y/W)LRRAYAPLPDKS)(配列番号:263);((F/Y/W)LRRAYAPLPDKT)(配列番号:264);((F/Y/W)WLRRAYAPLPG)(配列番号:265);((F/Y/W)WLRRAYAPLPD)(配列番号:266);((F/Y/W)WLRRAYAPLPGL)(配列番号:267)
;((F/Y/W)WLRRAYAPLPGK)(配列番号:268);((F/Y/W)WLRRAYAPLPDL)(配列番号:269);((F/Y/W)WLRRAYAPLPDK)(配列番号:270);((F/Y/W)WLRRAYAPLPGLS)(配列番号:271);((F/Y/W)WLRRAYAPLPGLT)(配列番号:272);((F/Y/W)WLRRAYAPLPGKS)(配列番号:273);((F/Y/W)WLRRAYAPLPGKT)(配列番号:274);((F/Y/W)WLRRAYAPLPDLS)(配列番号:275);((F/Y/W)WLRRAYAPLPDLT)(配列番号:276);((F/Y/W)WLRRAYAPLPDKS)(配列番号:277);および((F/Y/W)WLRRAYAPLPDKT)(配列番号:278
)(式中「u」は上記定義の通りであり、(F/Y/W)は、当該残基がF、YおよびWから選ばれることを意味する。一般式Iの範囲にある他の特異的ポリペプチドは、本明細書中の教示に基づいて当業者によって容易に理解されるであろう。
【0037】
さらなる実施形態において、本発明のポリペプチドは、領域[X3−A(X4)APLP−X5−]からの様々な配列の組み合わせからなる。この態様において、例えば、ポリペプチドは、1コピーの配列番号:9と1コピーの配列番号:143とで構成することができる。別の例として、前記ポリペプチドは2コピーの配列番号:200と3コピーの配列番号:62からなるものであってもよい。本発明の教示に基づいてそのような多くの組み合わせが可能であることは、当業者にとって明らかであろう。
【0038】
好ましい実施形態にといて、X2とX6のうちの少なくとも一方が、形質導入ドメインを含んでいる。本明細書中で用いる「形質導入ドメイン」とは。細胞膜を貫通する活性ドメインを保持しうる1つまたはそれ以上のアミノ酸配列または任意の他の分子のことをいう。これらのドメインを他のポリペプチドに連結して、該連結されたポリペプチドが細胞膜を通過できるようにすることもできる。いくつかの事例において、形質導入分子は、活性ポリペプチドに共有結合されている必要はない(例えば、配列番号:291)。好ましい実施形態において、形質導入ドメインは、ペプチド結合によって残りのポリペプチドに連結されている(例えば、Cell 55:1179〜1188、1988年、Cell 55:1189〜1193、1988年;Proc Natl Acad Sci USA 91:664〜668、1994年;Science 285:1569〜1572、1999年、J.Biol Chem 276:3254〜3261、2001年;およびCancer Res 61:474〜477、2001年を参照のこと)。本実施形態において、上述のどのポリペプチドも少なくとも1つの形質導入ドメインを含んでいると考えられる。さらなる実施態様において、X2とX6の両方が形質導入ドメインを含んでいる。さらに好ましい実施形態において、形質導入ドメインは、(R)4−9(配列番号:279);GRKKRRQRRRPPQ(配列番号:280);AYARAAARQARA(配列番号:281);DAATATRGRSAASRPTERPRAPARSASRPRRPVE(配列番号:282);GWTLNSAGYLLGLINLKALAALAKKIL(配列番号:283);PLSSIFSRIGDP(配列番号:284);AAVALLPAVLLALLAP(配列番号:285);AAVLLPVLLAAP(配列番号:286);VTVLALGALAGVGVG(配列番号:287);GALFLGWLGAAGSTMGAWSQP(配列番号:288);GWTLNSAGYLLGLINLKALAALAKKIL(配列番号:289);KLALKLALKALKAALKLA(配列番号:290);KETWWETWWTEWSQPKKKRKV(配列番号:291);KAFAKLAARLYRKAGC(配列番号:292);KAFA
KLAARLYRAAGC(配列番号:293);AAFAKLAARLYRKAGC(配列番号:294);KAFAALAARLYRKAGC(配列番号:295);KAFAKLAAQLYRKAGC(配列番号:296)、および、AGGGGYGRKKRRQRRR(配列番号:306)からなる群より選択される。
【0039】
別の実施形態において、本発明は、下記の一般式IIに記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドを提供する:
X1−X2−[X3−A(X4)APLP−X5]−X6
(式中、X1は存在しないか、1つまたはそれ以上の芳香環を含む1つまたはそれ以上の分子であり、
X2は存在しないか、形質導入ドメインを含み、
X3は、配列番号:297の残基1〜14の間の熱ショックタンパク質20の配列の0〜14個のアミノ酸であり、
X4は、S、T、Y、D、E、ヒドロキシリジン、ヒドロキシプロリン、ホスホセリンアナログおよびホスホチロシンアナログからなる群から選択され、
X5は、配列番号:297の残基21〜160に間の熱ショックタンパク質20の0〜140個のアミノ酸であり、
X6は、存在しないか、形質導入ドメインを含む(式中、X2とX6のうちの少なくとも1つが形質導入ドメインを含む))。
【0040】
このように、一般式IIのポリペプチドの様々な好ましい実施形態において、X4は、S、T、Y、D、E、ホスホセリンアナログ、またはホスホチロシンアナログである。好ましい実施形態において、X4はS、TまたはYである。さらに好ましい実施形態において、X4はSまたはTである。最も好ましい実施形態において、X4はSである。
【0041】
X4がS、TまたはYであるこれらの好ましい実施形態において、X4はリン酸化されていることが最も好ましい。X4がDまたはEである場合には、これらの残基は、リン酸化状態を模倣する負に荷電を有している。本発明のポリペプチドは、X4がリン酸化されているか、ホスホセリンまたはホスホチロシン疑似体、またはリン酸化されたDまたはE残基などのアミノ酸残基の他の疑似体である場合に本発明の方法において最適な効力を有する。
【0042】
さらなる実施形態において、X1は、上述の実施形態に関して開示したような、1つまたはそれ以上の芳香環を含む1つまたはそれ以上の分子である。
【0043】
これらの実施形態において、ポリペプチドは、少なくとも1つの形質導入ドメインを有する。さらなる実施形態において、X2とX6の両方が形質導入ドメインを含む。このような形質導入ドメインの好ましい実施形態は上述の通りである。
【0044】
一般式IIのポリペプチドの1つの好ましい実施形態は、完全長のHSP20を含む(X1−X2−配列番号:297−X6)。
【0045】
Met Glu Ile Pro Val Pro Val Gln Pro Ser Trp Leu Arg Arg Ala Ser Ala Pro Leu Pro Gly Leu Ser Ala Pro Gly Arg Leu Phe Asp Gln Arg Phe Gly Glu Gly Leu Leu Glu Ala Glu Leu Ala Ala Leu Cys Pro Thr Thr Leu Ala Pro Tyr Tyr Leu Arg Ala Pro Ser Val Ala Leu Pro Val Ala Gln Val Pro Thr Asp Pro Gly His Phe Ser Val Leu Leu Asp Val Lys His Phe Ser Pro Glu Glu Ile Ala Val Lys Val Val Gly Glu His Val Glu Val His Ala Arg His Glu Glu Arg Pro Asp Glu His Gly Phe Val Ala Arg Glu Phe His Arg Arg Tyr Arg Leu Pro Pro Gly Val Asp Pro Ala Ala Val Thr Ser Ala Leu Ser Pro Glu Gly Val Leu Ser Ile Gln Ala Ala Pro Ala Ser Ala Gln Ala Pro Pro Pro Ala Ala Ala Lys(配列番号:297)。
【0046】
一般式IIのポリペプチドの他の好ましい実施形態は、16位のセリンがアスパラギン酸で置換されている完全長のHSP20を含む(X1−X2−配列番号:298−X6):
Met Glu Ile Pro Val Pro Val Gln Pro Ser Trp Leu Arg Arg Ala Asp Ala Pro Leu Pro Gly Leu Ser Ala Pro Gly Arg Leu Phe Asp Gln Arg Phe Gly Glu Gly Leu Leu Glu Ala Glu Leu Ala Ala Leu Cys Pro Thr Thr Leu Ala Pro Tyr Tyr Leu Arg Ala Pro Ser Val Ala Leu Pro Val Ala Gln Val Pro Thr Asp Pro Gly His Phe Ser Val Leu Leu Asp Val Lys His Phe Ser Pro Glu Glu Ile Ala Val Lys Val Val Gly Glu His Val Glu Val His Ala Arg His Glu Glu Arg Pro Asp Glu His Gly Phe Val Ala Arg Glu Phe His Arg Arg Tyr Arg Leu Pro Pro Gly Val Asp Pro Ala Ala Val Thr Ser Ala Leu Ser Pro Glu Gly Val Leu Ser Ile Gln Ala Ala Pro Ala Ser Ala Gln Ala Pro Pro Pro Ala Ala Ala Lys(配列番号:298)。
【0047】
一般式IIのポリペプチドの他の好ましい実施形態は、16位のセリンがグルタミン酸で置換されている完全長のHSP20を含む(X1−X2−配列番号:299−X6):
Met Glu Ile Pro Val Pro Val Gln Pro Ser Trp Leu Arg Arg Ala Glu Ala Pro Leu Pro Gly Leu Ser Ala Pro Gly Arg Leu Phe Asp Gln Arg Phe Gly Glu Gly Leu Leu Glu Ala Glu Leu Ala Ala Leu Cys Pro Thr Thr Leu Ala Pro Tyr Tyr Leu Arg Ala Pro Ser Val Ala Leu Pro Val Ala Gln Val Pro Thr Asp Pro Gly His Phe Ser Val Leu Leu Asp Val Lys His Phe Ser Pro Glu Glu Ile Ala Val Lys Val Val Gly Glu His Val Glu Val His Ala Arg His Glu Glu Arg Pro Asp Glu His Gly Phe Val Ala Arg Glu Phe His Arg Arg Tyr Arg Leu Pro Pro Gly Val Asp Pro Ala Ala Val Thr Ser Ala Leu Ser Pro Glu Gly Val Leu Ser Ile Gln Ala Ala Pro Ala Ser Ala Gln Ala Pro Pro Pro Ala Ala Ala Lys(配列番号:299)。
【0048】
一般式IIに従う他の好ましい実施形態は、必要な形質導入ドメインをX2またはX6のいずれか一方もしくは両方に有した、一般式Iの実施形態として上で開示したペプチドである。一般式IIに従うさらに好ましい実施形態は、以下の通りである:
(配列番号:300)がTrp Leu Arg Arg Ala Ser Ala Pro Leu Pro Gly Leu Lysであるような、X1−X2−配列番号:300−X6、
(配列番号:301)がTrp Leu Arg Arg Ala Asp Ala Pro Leu Pro Gly Leu Lysであるような、X1−X2−配列番号:301−X6、および
(配列番号:302)がTrp Leu Arg Arg Ala Glu Ala Pro Leu Pro Gly Leu Lysであるような、X1−X2−配列番号:302−X6。
【0049】
一般式IIに従うポリペプチドの上記実施形態において、ポリペプチドはリン酸化されていることが好ましく、16位の残基でリン酸化されているか、16位のアミノ酸残基にリン酸化疑似体を含んでいることが最も好ましい。
【0050】
さらなる態様において、本発明は、本発明の1つまたはそれ以上のポリペプチドと、HSP27の阻害剤とを含む組成物を提供する。HSP27はHSP20と近い関係にあり、これらの2つのタンパク質は巨大分子凝集において共存することが多く、いずれもアクチン結合性タンパク質である。HSP27のリン酸化の増加は平滑筋収縮と関連しており、細胞をHSP27の優勢活性リン酸化変異体で形質移入すると、ストレスファイバが形成される(Mol Cell Biol 15:505〜516、1995年)。さらに、HSP27のリン酸化の増加は、平滑筋細胞の遊走にも関連している。これに対し、HSP20は血管弛緩を促進し、本願の結果からは、HSP20のリン酸化アナログがストレスファイバ形成の欠如を導き、平滑筋細胞の増殖と遊走を阻害することが実証された(下記実施例参照)。上記データはHSP20とHSP27は対照的な機能を有することを示す。したがって、本発明の1つまたはそれ以上のポリペプチドと、HSP27の阻害剤を組み合わせて用いることにより、平滑筋細胞の増殖および/または遊走を阻害するために、また平滑筋弛緩を促進するために、また平滑筋痙攣を阻害するために、本発明の方法を実施する際の効率が向上することになる(下記参照)。
【0051】
本明細書中で用いるHSP27の「阻害剤」には、HSP27抗体、抗センスHSP27核酸、またはHSP27のリン酸化の小分子阻害剤、例えばSB203580(SmithKline Beechamより入手可能)などが含まれる。
【0052】
前記ポリペプチドは、滅菌などの従来の薬剤的操作に供してもよいし、および/または、保存剤、安定剤、湿潤剤、乳化剤、緩衝剤などの従来の補助剤を含んでいてもよい。
【0053】
他の態様において、本発明は、本明細書中で開示する1つまたはそれ以上のポリペプチドと、医薬適合性の担体とを含む医薬組成物を提供する。このような医薬組成物は、以下のように本発明の方法を実施するために特に有用である。
【0054】
投与にあたっては、ポリペプチドは、通常は示した投与経路に適した1つまたはそれ以上の補助剤と組み合わせられる。化合物は、ラクトース、スクロース、スター澱粉散剤、アルカン酸のセルロースエステル、ステアリン酸、タルク、ステアリン酸マグネシウム、酸化マグネシウム、リン酸および硫酸のナトリウムおよびカルシウム塩、アカシアゴム、ゼラチン、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルピロリジン、硫酸デキストラン、ヘパリン含有ゲル、および/またはポリビニルアルコールと混合してもよいし、または従来的投与のために錠剤化またはカプセル化してもよい。あるいは、本発明の化合物は、生理食塩水、水、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、カルボキシメチルセルロースコロイド溶液、エタノール、コーン油、落花生油、綿実油、ごま油、トラガカントゴム、および/または様々な緩衝液に溶解してもよい。その他の補助剤および投与方法については薬学分野の当業者によって周知である。担体または希釈剤は、モノステアリン酸グリセリルやジステアリン酸グリセリルなどの時間遅延物質を、単独またはワックスあるいは他の当該技術分野において周知の物質と組み合わせて含んでいてもよい。
【0055】
前記ポリペプチドまたはその医薬組成物は、経口、非経口、吸入噴霧、経腸、または局所投与などの任意の適切な経路によって、従来の薬剤的に許容可能な担体、補助剤および賦形剤を含む用量単位製剤にて投与することができる。本明細書中で用いる非経口という用語には、皮下、静脈内、動脈内、筋肉内、胸骨内、腱内、脊椎内、頭蓋内、胸腔内、輸液技術または腹腔内が含まれる。投与の好ましい実施形態は治療中の状態に関して異なるが、詳細については後述する。
【0056】
ポリペプチドは、固体形態(顆粒、粉末または坐剤を含む)、液体形態(例えば、溶液、懸濁液または乳濁液)のいずれからなるものであってもよい。本発明のポリペプチドは、様々な溶液に適用することができる。本発明に従って用いるのに適した溶液は、無菌であり、十分な量のポリペプチドを溶解し、予定の用途に対して無害であるものである。
【0057】
他の実施態様において、本発明は、本発明のポリペプチドをコードする単離核酸配列を提供する。本発明の本態様に従う適切な核酸配列は、本明細書中の開示に基づいて当業者によって明らかであろうし、当該技術分野における一般的な知識である。そのような核酸配列の一例が、配列番号:320として提供されている。
【0058】
別の態様において、本発明は、上述のように、本発明の単離核酸分子に機能的に連結されたDNA制御配列を含む発現ベクターを提供する。本発明の核酸配列に機能的に連結された「制御配列」とは、当該核酸分子の発現を行わせることのできる核酸配列である。制御配列は、核酸分子の発現を指示するように機能しさえすれば、当該核酸配列と隣接している必要はない。したがって、例えば、転写後のまだ翻訳されていない介在配列を、プロモーター配列と核酸配列の間に存在させることができ、この場合も、プロモーター配列は、コード配列に「機能的に連結されている」と考えることができる。他のこのような制御配列としては、限定はされないが、ポリアデニル化シグナル、終結シグナル、およびリボゾーム結合部位が挙げられる。
【0059】
このような発現ベクターとしては、限定はされないがプラスミドおよびウィルス由来の発現ベクターを含む当該技術分野において知られる任意の種類のものが挙げられる。
【0060】
さらなる態様において、本発明は、本発明の発現ベクターを含む遺伝子操作による宿主細胞を提供する。そのような宿主細胞は、原核細胞または真核細胞のいずれであってもよく、一時的または安定的に形質移入を受けることが可能であり、ウィルスベクターによる形質導入を受けることも可能である。
【0061】
別の態様において、本発明は改良型生物医療機器を提供し、該生物医療機器は、該生物医療機器上または機器中に配置された本発明の1つまたはそれ以上のポリペプチドを含んでいる。好ましい実施形態において、前記1つまたはそれ以上のポリペプチドは上述のようにリン酸化されている。
【0062】
本明細書中で用いる「生物医療機器」とは、所望の結果をもたらすために、例えばヒトなどの被験体に移植される機器のことをいう。本発明の本態様に従う特に好ましい生物医療機器としては、限定はされないが、ステント、グラフト、シャント、ステントグラフト、フィステル、血管形成用機器、バルーンカテーテル、および任意の移植可能な薬剤送達機器が挙げられる。
【0063】
本明細書中で用いる「グラフト」という用語は、天然および人工両方のグラフトまたは移植片のことをいう。最も好ましい実施形態において、グラフトは血管グラフトである。
【0064】
本明細書中で用いる「ステント」という用語には、ステントそのもの、ならびにステント配置を容易にするために用いられる任意のスリーブまたは他の部品が含まれる。
【0065】
本明細書中で用いる「〜上または〜中に配置される」という表現は、前記1つまたはそれ以上のポリペプチドを、生物医療機器の外面、内面に直接または間接的に接触可能であるか、あるいは該生物医療機器内に埋め込み可能であることをいう。「直接」接触は、ポリペプチドを機器上または機器中に直接配置することを意味し、これには限定はされないが、前記1つまたはそれ以上のポリペプチドを含む溶液中に生物医療機器を浸漬すること、前記1つまたはそれ以上のポリペプチドを含む溶液を機器上にスピンコートするか噴霧すること、該ポリペプチドを送達するような任意の機器を移植すること、および該ポリペプチドをカテーテルを介して任意の臓器の表面またはその内部に直接投与することが含まれる。
【0066】
「間接」接触は、1つまたはそれ以上のポリペプチドが生物医療機器に直接接触しないことを意味する。例えば、1つまたはそれ以上のポリペプチドを、ゲルマトリックスなどのマトリックス中あるいは粘性流体中に存在させて、これらのマトリックスまたは粘性流体を生物機器上に配置するようにしてもよい。このようなマトリックスは、例えば、必要に応じて1つまたはそれ以上のポリペプチドの結合および解離特性を変更するように調製することができる。
【0067】
さらなる実施形態において、前記生物医療機器は、該生物医療機器上または機器中に配置される小型熱ショックタンパク質HSP27の阻害剤をさらに含む。好ましい実施形態において、このような阻害剤は、HSP27抗体、抗センスHSP27核酸、またはSB203580などのHSP27のリン酸化の小分子阻害剤から選択される。
【0068】
別の態様において、本発明は、平滑筋細胞の増殖および/または遊走を阻害するための方法を提供し、該方法は、平滑筋細胞を、平滑筋細胞増殖および/または遊走を阻害するのに有効な量のHSP20、またはその機能的均等物、例えば、一般式IまたはIIに従う1つまたはそれ以上のポリヌクレオチドと接触させることを含む。最も好ましい実施形態において、前記1つまたはそれ以上のポリヌクレオチドは上記開示のように、リン酸化されている。さらなる実施形態において、前記方法は、平滑筋細胞を、平滑筋細胞増殖および/または遊走を阻害するのに有効な量の小型熱ショックタンパク質HSP27の阻害剤と接触させることをさらに含む。さらなる実施形態において、前記方法は、細胞を、HSP20のリン酸化を刺激するのに十分な量のPKGと接触させることをさらに含み、該方法において、該接触工程は、細胞をPKGの発現を指示することのできる発現ベクターで形質移入するか、細胞にPKG−形質導入ドメインキメラに形質導入を行うかの工程を含む。
【0069】
内膜過形成は、グラフト不全の原因となる複合プロセスであり、動脈バイパスグラフトの不全の最も一般的な原因である。完全には理解されていないものの、内膜過形成は、内皮細胞の損傷とそれに続く血管平滑筋の増幅および媒質から内膜への遊走とを含む一連の事象によって媒介される。このプロセスは収縮性から合成的表現型への、平滑筋細胞の表現型の調節に関連している。「合成的」平滑筋細胞は、細胞外基質タンパク質を分泌し、これにより、血管管腔の病理学的狭窄が起こり、グラフトの狭窄および最終的にグラフト不全に繋がる。このような内皮細胞の損傷とそれに続く平滑筋細胞の増殖および内膜への遊走は、最も一般的には閉塞した血管を開通するための血管形成術後の再狭窄に特徴的である。以下で検討するように、HSP20と、その機能的均等物、たとえば一般式IおよびIIのポリペプチドなどは、平滑筋細胞の増殖と遊走を阻害する。
【0070】
この態様において、本発明は、インビトロまたはインビボのいずれかで用いることができる。1つの実施形態において、本発明はインビトロであり、該方法においては、平滑筋細胞の増殖および/または遊走を阻害して、グラフト不全に繋がるその後の内膜過形成とグラフト配置後の狭窄を阻害するために、静脈または動脈グラフトをHSP20またはその機能的均等物と接触させてから、患者への移植を行う。このことは、例えば、本発明の組み換え発現ベクター(最も好ましくはアデノウィルスベクターなどのウィルスベクター)を当該部位に送達し、平滑筋細胞を形質移入することによって達成できる。より好ましくは、平滑筋細胞への送達は、平滑筋細胞への進入を容易にする少なくとも1つの形質導入ドメインを含む一般式IまたはIIのポリペプチドを用いることによって達成することができる。以下の実施例では、平滑筋細胞に送達される少なくとも1つの形質導入ドメインを含む本発明のポリペプチドの能力について実証する。
【0071】
より好ましいインビトロ実施形態において、本方法は、グラフトを少なくとも1つの形質導入ドメインを含む1つまたはそれ以上の本発明のポリペプチドと接触させることを含む。グラフトを配置した後、被験者に対してヘパリンによる全身治療を施すことが好ましい。これは、ヘパリンがタンパク質形質導入ドメインに結合し、それらが細胞内へ形質導入されるのを防止することがわかってきているからである。この手法により、タンパク質形質導入がグラフトのみで局所化され、周辺組織には及ばなくなる。
【0072】
本態様の様々な他の好ましい実施形態において、本方法は、インビボで実施され、内膜過形成、狭窄、再狭窄およびアテローム性動脈硬化症からなる群より選ばれる疾患を治療または予防するために用いられる。これらの実施形態において、接触工程は、治療中の被験者内の血管をHSP20またはその機能的均等物、例えば、一般式IまたはIIに従うポリペプチドなどと接触させることにより直接的に行うことができる。例えば、HSP20またはその機能的均等物、例えば、一般式IまたはIIに従うポリペプチドなどを、多孔性カテーテルに通すか、あるいは、カテーテルを介して損傷部位に注射するか、もしくは1つまたはそれ以上のポリペプチドを含むゲルまたは粘性液体を損傷部位上に広げることができる。直接送達のこれらの実施形態において、HSP20またはその機能的均等物、例えば、一般式IまたはIIに従うポリペプチドなどは、損傷または損傷の部位において平滑筋細胞に送達することが最も好ましい。このことは、例えば、本発明の組み換え発現ベクター(最も好ましくはアデノウィルスベクターなどのウィルスベクター)を当該部位に送達することによって達成できる。より好ましくは、平滑筋細胞への送達は、平滑筋細胞への進入を容易にする少なくとも1つの形質導入ドメインを含む一般式IまたはIIのポリペプチドを用いることによって達成することができる。以下の実施例では、平滑筋細胞に送達される少なくとも1つの形質導入ドメインを含む本発明のポリペプチドの能力について実証する。
【0073】
本発明の本態様の様々な他の実施形態において、本発明は、血管形成術、血管ステント配置、動脈内膜切除、アテローム切除術、バイパス手術(冠状動脈バイパス手術、末梢血管バイパス手術など)、血管移植、臓器移植、補綴移植、微小血管再構築、形成外科フラップ再構築、およびカテーテル配置から成る群より選択される処置を受けたか、受けている最中か、受ける予定のある被験者に対して実施される。
【0074】
本発明の本態様のさらなる実施形態において、本方法は、平滑筋細胞腫瘍を治療するために用いられる。好ましい実施形態において、腫瘍は、筋肉から発生する悪性新生物として定義される平滑筋肉腫である。平滑筋肉腫は、小さな血管と大きな血管の両方の壁から発生するので、体内の至る所で発生しうるが、腹膜、子宮および胃腸管(特に食道)平滑筋肉腫がより一般的である。あるいは、平滑筋腫瘍は、悪性でない平滑筋新生物である平滑筋腫であってもよい。最も好ましい実施形態において、前記1つまたはそれ以上のポリペプチドは、上述のようにリン酸化されている。さらなる実施形態において、本発明は、平滑筋を、平滑筋細胞の増殖および/または遊走を阻害するのに有効な量の、小型熱ショックタンパク質HSP27の阻害剤と接触させることをさらに含む。
【0075】
実施例においてさらに検討するように、HSP20およびその機能的均等物、例えば一般式IおよびIIのポリペプチドなどは、いずれも内膜過形成に関係するアクチンストレスファイバ形成および付着プラークにも障害を与える。実験結果から、さらに、本発明のポリペプチドは、内膜過形成に対しても直接的な阻害効果を有することが示された。したがって、別の態様において、本発明は、内膜過形成、狭窄、再狭窄およびアテローム性動脈硬化症からなる群より選ばれる1つまたはそれ以上の疾患を治療または阻害する方法をさらに提供し、該方法は、その必要のある被験者に、内膜過形成、狭窄、再狭窄、および/またはアテローム性動脈硬化症を治療または阻害するのに有効な量のHSP20または、その機能的均等物、例えば一般式IまたはIIに従う1つまたはそれ以上のポリペプチドを接触させることを含む。本態様における、HSP20、またはその機能的均等物、例えば一般式IまたはIIに従う1つまたはそれ以上のポリペプチドの送達は上記の開示と同様である。最も好ましい実施形態において、前記1つまたはそれ以上のポリペプチドは、上記開示したようにリン酸化されている。さらなる実施形態において、本方法は、平滑筋を、平滑筋細胞の増殖および/または遊走を阻害するのに有効な量の、小型熱ショックタンパク質HSP27の阻害剤と接触させることをさらに含む。
【0076】
本発明の本態様の様々な他の実施形態において、本発明は、血管形成術、血管ステント配置、動脈内膜切除、アテローム切除術、バイパス手術、血管移植、臓器移植、補綴移植、微小血管再構築、形成外科フラップ再構築、およびカテーテル配置から成る群より選択される処置を受けたか、受けている最中か、受ける予定のある被験者に対して実施される。
【0077】
さらなる態様おいて、本方法は、平滑筋細胞腫瘍を治療するための方法を提供し、該方法は、その必要のある被験者に、平滑筋腫瘍の成長および/転移を阻害するのに有効な量の、HSP20または、その機能的均等物、例えば一般式IまたはIIに従う1つまたはそれ以上のポリペプチドを投与することを含む。好ましい実施形態において、前記腫瘍は平滑筋肉腫である。あるいは、平滑筋腫瘍は、平滑筋腫であってもよい。さらなる実施形態において、本発明は、平滑筋を、平滑筋細胞の増殖および/または遊走を阻害するのに有効な量の、小型熱ショックタンパク質HSP27の阻害剤と接触させることをさらに含む。
【0078】
さらなる態様において、本発明は、平滑筋痙攣を治療または防止するための方法を提供し、該方法は、その必要のある被験者またはグラフトに、平滑筋痙攣を阻害するのに有効な量の、HSP20または、その機能的均等物、例えば一般式IまたはIIに従う1つまたはそれ以上のポリペプチドを接触させることを含む。最も好ましい実施形態において、前記1つまたはそれ以上のポリヌクレオチドは上記開示のように、リン酸化されている。さらなる実施形態において、前記方法は、平滑筋細胞を、平滑筋細胞増殖および/または遊走を阻害するのに有効な量の小型熱ショックタンパク質HSP27の阻害剤と接触させることをさらに含む。さらなる実施形態において、前記方法は、細胞を、HSP20のリン酸化を刺激するのに十分な量の細胞と接触させることをさらに含む。
【0079】
以下の実施例は、HSP20または、その機能的均等物、例えば一般式IまたはIIに従う1つまたはそれ以上のポリペプチドが、血管痙攣などの平滑筋痙攣を阻害するのに有効であることを実証している。特別な作用機構に限定されることなく、HSP20または、その機能的均等物、例えば一般式IまたはIIに従う1つまたはそれ以上のポリペプチドは、平滑筋の血管弛緩を促進し、収縮を阻害することによって、それらの抗平滑筋痙攣作用を遂行していると考えられている。
【0080】
平滑筋は、血管、気道、胃腸管、および尿生殖路に見られる。平滑筋の継続的な収縮が、筋肉の「痙攣」である。多くの病理学的状態には、血管平滑筋、すなわち血管の内側を覆う平滑筋の痙攣(「血管痙攣」)が関係する。これにより、狭心症や虚血などの症状(心臓動脈が関与する場合)、または、脳血管が関与する場合にはくも膜下出血を誘導血管痙攣の場合には脳梗塞が引き起こされる。高血圧は、血管壁、特に循環器系のより小さな血管壁の肥厚によってだけでなく、過剰な血管収縮によっても引き起こされる。
【0081】
したがって、本発明の本態様の1つの実施形態において、筋肉細胞痙攣は血管痙攣を含み、本方法は、血管痙攣を治療または阻害するために用いられる。本方法の好ましい実施形態には、限定はされないが、狭心症、冠状動脈血管痙攣、Prinzmetal型狭心症(心外膜冠状動脈の突発性局所性痙攣)、虚血、脳梗塞、徐脈、および高血圧が含まれる。
【0082】
本発明の本態様の別の実施形態において、平滑筋痙攣は、静脈または動脈グラフトなどのグラフトを、上述のようにHSP20またはその機能的均等物、例えば一般式IまたはIIに従う1つまたはそれ以上のポリペプチドで処理することによって阻害される。末梢血管および冠状動脈の再構築に対する理想的な管路の1つとして、より大きな伏在静脈がある。しかしながら、管路の回収中の外科操作が血管痙攣を引き起こすことも多い。血管痙攣の正確な病因は複雑であり、多因性である可能性が最も高い。殆どの研究は、血管痙攣は、静脈の媒質における収縮の増加または弛緩の低下によるものであると示唆している。エンドセリン−1やトロンボキサンなどの多くの血管収縮物質が手術中に増加し、血管の平滑筋の収縮を起こす。ノルエピネフリン、5−ヒドロキシトリプタミン、アセチルコリン、ヒスタミン、アンジオテンシンII、およびフェニルエピネフリンなどの他の血管収縮物質が、静脈移植痙攣に関与していた。パパベリンは、これまでに用いられてきた平滑筋血管拡張剤である。痙攣がパパベリンの存在下でも起こるような状況では、外科医は、痙攣を遮断するために管内機械的膨張を用いている。これが静脈グラフトの壁の損傷とそれに続く内膜過形成に繋がる。内膜過形成は、グラフト不全の主たる原因である。
【0083】
このように、本実施形態において、グラフトを、グラフト提供者から回収する間、回収後(移植前)、および/またはグラフト受容者への移植の間、HSP20またはその機能的均等物と接触させておくこともできる。このことは、例えば、組み換え発現ベクター(最も好ましくは、アデノウィルスベクターなどのウィルスベクター)を当該部位に送達し、平滑筋細胞を形質移入することによって達成できる。より好ましくは、平滑筋細胞への送達は、平滑筋細胞への進入を容易にする少なくとも1つの形質導入ドメインを含む一般式IまたはIIのポリペプチドを用いることによって達成することができる。以下の実施例では、平滑筋細胞に送達される少なくとも1つの形質導入ドメインを含む本発明のポリペプチドの能力について実証する。グラフト移植の間、受容側の被験者はヘパリンによる全身処置を受けることが好ましい。これは、ヘパリンがタンパク質形質導入ドメインに結合し、それらが細胞内へ形質導入されるのを防止することがわかってきているからである。この手法により、タンパク質形質導入がグラフトのみに局在化され、周辺組織には及ばなくなる。本発明の本実施形態の方法は、グラフトの回収および/または移植の間の静脈グラフト痙攣を阻害し、したがって短期および長期のグラフト成功率を高める。
【0084】
様々な他の実施形態において、筋肉細胞痙攣は、限定はされないが、肺高血圧症、ぜんそく(気管支痙攣)、妊娠中毒症、早期分娩、子癇前症/子癇、レイノー病/現象、溶血性尿毒症、非閉塞性腸間膜虚血(腸間膜への血流が十分でないために起こる腸間膜の虚血)、肛門裂傷(内肛門括約筋の持続的な痙攣によって引き起こされる)、アカラシア(下部食道括約筋の持続的な痙攣によって引き起こされる)、インポテンス(陰茎内の血管の弛緩の欠如によって引き起こされる。勃起には陰茎海綿体血管の血管拡張が必要)、偏頭痛(頭蓋内血管の痙攣によって引き起こされる)、平滑筋痙攣に関連する虚血性筋傷害、および移植血管症などの血管症(アテローム性動脈硬化症と類似の移植された血管における反応であり、収縮性再造形と移植された血管の最終的な閉塞を伴い、これが心臓移植不全の主な原因となっている。)を含む疾患と関連している。
【0085】
本発明の様々な態様の上記様々な開示に対して、好ましい送達経路は異なっている。局所投与は、静脈グラフト痙攣、内膜過形成、再狭窄、内膜過形成、ステントによる人工グラフト不全、内膜過形成/収縮性再造形によるステントグラフト不全、血管痙攣による微小血管グラフト不全、移植血管症、および男性および女性の性機能障害の治療または阻害を含む方法に対して好ましい。本明細書中で用いる「局所投与」とは、ポリペプチドをその臓器の表面に送達することをいう。
【0086】
脳脊髄液中へのポリペプチドの送達として定義される鞘内投与は、脳梗塞およびくも膜下出血誘導性血管痙攣を治療または阻害するための好ましい送達経路である。腹腔へのポリペプチドの送達として定義される腹腔内投与は、非閉塞性腸管内虚血を治療または阻害するための好ましい送達経路である。経口投与は、アカラシアを治療または阻害するための好ましい送達経路である。静脈内投与は、高血圧よび徐脈を治療するための好ましい送達経路である。坐剤による投与は、肛門裂傷を治療または阻害するのために好ましい。エアロゾル送達は、ぜんそく(すなわち気管支痙攣)を治療または阻害するために好ましい。子宮内投与は、早期分娩および子癇前症/子癇を治療または阻害するために好ましい。
【0087】
本発明の上記様々な態様を実施するにあたり、使用するポリペプチドまたは医薬組成物の量または用量範囲は、平滑筋細胞増殖、平滑筋細胞遊走、平滑筋痙攣の1つまたはそれ以上を効果的に治療または阻害するものであり、および/または、平滑筋の弛緩を促進するものである。このような使用可能なポリペプチドの阻害(または平滑筋弛緩の場合には促進)量は、一般に、体重1kgあたり約0.01μg〜約10mgの範囲にあり、好ましくは体重1kgあたり約0.05μg〜5mgの範囲にある。
【0088】
本発明は以下の実施例を参照してより理解されるであろうが、実施例は、単に説明を目的としたものであって、添付の請求項によって定義される本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0089】
(実施例1)
本実施例では、メサンギウム細胞におけるHSP20の環状ヌクレオチド依存性リン酸化の研究について説明する。PKGの収縮性表現型とPKGの発現は、平滑筋細胞が培養中に継代されたため失われている。メサンギウム細胞は、培養中に収縮性表現型を維持することが示されている。培養中のメサンギウム細胞が、PKGとHSP20とを発現し続けているかどうかを調べるため、多継代メサンギウム細胞を、多継代血管平滑筋細胞およびPKGで安定に形質移入された平滑筋細胞と比較した。細胞をホモジナイズし、PKGおよびHSP20に対するウサギポリクローナル抗体を用いてイムノブロッティングを行った。多継代血管平滑筋細胞は、PKGまたはHSP20を発現していなかった。しかしながら、PKGで安定に形質移入された平滑筋細胞はPKGおよびHSP20を発現する。培養したメサンギウム細胞は、PKGとHSP20の両方について、PKGで形質移入した血管平滑筋細胞と同様の量発現していた。上記のデータから、PKGおよびPKG基質タンパク質であるHSP20の発現は、調和的に調節されていること、およびこれらのタンパク質の発現は細胞を収縮性表現型に維持するために重要である可能性が示唆される。収縮性から合成性表現型への表現型の変調は、アテローム発生の損傷モデルに対する応答、および内膜過形成の発症に関与していたため、タンパク質の形質導入を介して、あるいは遺伝子形質導入によってHSP20を導入することにより、細胞を収縮性表現型に維持し、内膜過形成を阻害する新しい治療的手法を提供できると提案する。
【0090】
(実施例2)
本実施例では、リン酸化部位(セリン16)がアラニンに変異されているHSP20S16A変異体の生産について説明する。HSP20に対するcDNAをpEGFP−C2発現ベクター(Clontech,Inc.より市販)にクローニングした。HSP20S16A変異体を生産するために、Pfuポリメラーゼ(Stratagene,La Jolla,カリフォルニア州 より市販)による2つの相補的オリゴヌクレオチド戦略を用いて、単一のヌクレオチド変異をHSP20cDNA配列中に導入した。すべての配列について、方向と、適切な変異を有すること、および他の変異を有しないことを、377Perkin−Elmer ABIプリズムDNAシーケンサー(Forster City,カリフォルニア州)を用いて確認した。同様の技術を用いて、セリン16をアスパラギン酸またはグルタミン酸に変異させることができる。
【0091】
(実施例3)
本実施例では、筋肉様細胞の遺伝子操作によって、それらの収縮能力を変えることができることについて説明する。具体的には、HSP20を過剰発現するように細胞を操作することにより、これらが収縮する(痙攣状態に入る)ことを防止する。細胞がリン酸化不能のHSP20の変異形を過剰発現すると、該細胞は、弛緩をもたらす強力な薬品で処理した場合でも収縮したまま(痙攣状態)である。この実験から、HSP20のリン酸化は、筋肉が弛緩するために必要とする影響力の大きい事象であることが実証された。
【0092】
実験は以下のようにして実施した。メサンギウム細胞を緑色蛍光タンパク質(GFP)単独、HSP20に対する野生型cDNAの5’末端に融合させたGFP(WT)、またはPKAリン酸化部位がアラニンに変異されているHSP20構築物に融合させたGFP(S16A−HSP20)(MUT)を含むベクターで、形質移入した。細胞を血清の存在下、シリコンゴム基板上で48時間平板培養した。平板をDeltaVision画像収集および逆重畳ソフトウェアを備えたZeiss反転蛍光顕微鏡の台の上に置いた(Applied Precision,Issaquah,ワシントン州)。DeltaVisionソフトウェアは、各プレート上で8つの異なる細胞に対して(xおよびy軸)、2nm間隔で取得した7つのz軸画像を用いて較正した。蛍光および位相差画像は、細胞とシリコン膜とが近接して連続するように取得した。走査プロセスのあいだ、各細胞のz軸を監視して、細胞がシリコン膜上で弛緩している際に撮影スタックが適切なレベルに維持されているかを確認した。ベースライン画像は1時間毎に取得した。その後細胞をジブチリルcAMP(10μM)で、0分間、30分間、60分間、または90分間処理し、結果を図1に示した。
【0093】
HSP20が変化していない緑色蛍光タンパク質(GFP)を発現する対照細胞は、ジブチリルcAMPで処理した時間を通して弛緩していた(細胞下の皺が消えていた)。GFPで標識したHSP20を過剰発現している細胞(WT)は、皺を形成しておらず、該細胞は収縮できないか、痙攣状態になることができなかった。リン酸化不能のHSP20の変異形を発現している細胞(S16A−HSP20)(MUT)は、十分な皺を形成した(収縮した)が、ジブチリルcAMPに反応して弛緩することはなかった(痙攣状態のままであった)。この図は6つの別個の形質移入を代表するものであり、該形質移入において各構築物を用いて少なくとも12個の細胞を撮影し、総計データをグラフに示した(=最初の皺の数と比較してp<0.05)。同様の知見が、環状ヌクレオチド依存性信号伝達経路をニトロプルシドナトリウム(10μM)、ジブチリルcGMP(10μM)、またはフォルスコリン(10μM)(データ示さず)で活性化した場合にも観察された。90分間撮影した未処理細胞における基質には皺の変化は見られなかった(データ示さず)。これらのデータから、野生型HSP20の過剰発現は、細胞の収縮を阻害し、S16A−HSP20変異タンパク質の発現は、弛緩を阻害することがわかる。このように、上記のデータは、HSP20のリン酸化が平滑筋の弛緩に対して必要かつ十分であることを示し、HSP20のリン酸化が、環状ヌクレオチド信号伝達経路が収縮を阻害するか、弛緩を引き起こすかの収束点を示すことを示唆するものである。
【0094】
(実施例4)
本実験では、リン酸化HSP20が筋肉様細胞のペプチドアナログの形質導入を緩めるかどうかを実証する。TAT配列を含むHSP20のリン酸化ペプチドアナログを合成した(NH−βAGGGGYGRKKRRQRRRWLRRASAPLPGLK−COOH)(FITC−TAT−HSP20と呼ぶ)(配列番号:304)(は「S」残基がリン酸化されていることを示す)。メサンギウム細胞を血清の存在するシリコン基質上にプレーティングし、48時間後、細胞をFITC−TAT−HSP20ホスホノペプチド(50μM)で処理した。細胞下の皺の数は、示した時間において、位相差顕微鏡を用いて決定した(n=10、=ペプチド添加量0の場合と比較してp<0.05)。本実施例の結果が図2に示されている。細胞をHSP20のリン酸化ペプチドアナログで処理することにより、皺は時間依存的な損失を見せる(細胞の弛緩)。この実験から、HSP20のリン酸化ペプチドアナログの形質導入もまた細胞を弛緩させることが実証された。
【0095】
(実施例5)
本実験では、HSP20のリン酸化ペプチドアナログの形質導入によって、血管平滑筋の無傷の条片における痙攣が弛緩し、防止されることを実証する。内皮を剥いだウシ頸動脈平滑筋の横行条片を、95%O/5%COで平衡化した、重炭酸バッファを含む筋肉浴(120mM NaCl、4.7mM KCl、1.0mM MgSO、1.0mM NaHPO、10mMグルコース、1.5mM CaClおよび25mM NaHCO、pH7.4)中、37℃、1グラムの張力で2時間懸濁した。筋肉はセロトニンで予め収縮させておき(1μMで10分間)、漸増用量のFITC−ホスホ−HSP20−TAT、FITC−スクランブルドホスホHSP20−TAT(FITC−NH−βAGGGGYGRKKRRQRRRPRKSLWALGRPLA−COOH、開円)(配列番号:305)、またはFITC−TAT(FITC−NH−βAGGGGYGRKKRRQRRR、閉じた三角)(配列番号:306)を10分ごとに添加した。力は、セロトニン最大濃度の百分率として示した(n=5、=ペプチド添加量0の場合と比較してp<0.05)。代表的な条片を4%パラホルムアルデヒド中に固定し、蛍光顕微鏡を用いて観察した(40倍)。内弾性板(IEL)は自己蛍光発光し、媒質と外膜(ADV)もまた蛍光を示した(図示せず)。
【0096】
本実施例の結果が図3に示されている。無傷のウシ頸動脈平滑筋の予め収縮させた条片にFITC−TAT−HSP20リン酸化ペプチドを形質導入すると、セロトニンで予め収縮させておいた筋肉が用量依存的に減少した。スクランブルド配列またはFITC−TAT単独を含むペプチドは、収縮力に顕著な効果を有しなかった。このことは、リン酸化ペプチドアナログが無傷の血管平滑筋における痙攣を弛緩および防止することを示す。FITC−TAT−HSP20リン酸化ペプチドを形質導入した後には、筋肉条片に広範な蛍光染色パターンが見られ、このことからペプチドが筋肉内に進入したことがわかる。
【0097】
(実施例6)
本実験では、異なる形質導入ペプチドによって、HSP20リン酸化ペプチドアナログを導くことができることを証明する。さらに、本実験では、HSP20のリン酸化ペプチドアナログが、異なる種の異なる血管床に由来する平滑筋における痙攣を弛緩および防止することを実証する。最終的に、本実験では、HSP20アナログの形質導入によって、無傷の内皮が存在する筋肉内における痙攣を弛緩および防止することを実証する。
【0098】
内皮を剥いでいないブタ冠状動脈の環状切片を、95%O/5%COで平衡化した、重炭酸バッファを含む筋肉浴(120mM NaCl、4.7mM KCl、1.0mM MgSO、1.0mM NaHPO、10mMグルコース、1.5mM CaClおよび25mM NaHCO、pH7.4)中、37℃、1グラムの張力で2時間懸濁した。筋肉はセロトニンで予め収縮させておき(1μMで10分間)、漸増用量のPTD−pHSP20(NH−βAYARRAAARQARAWLRRASAPLPGLK−COOH、閉円)(配列番号:307)またはPTD−スクランブルド−pHSP20(NH−βAYARRAAARQARAPRKSLWALGRPLA−COOH、開円)(配列番号:308)を10分ごとに添加した(図4)。弛緩の百分率は、セロトニン最大濃度の百分率として示した(n=5、=ペプチド添加量0の場合と比較してp<0.05)。使用したペプチドの濃度をx軸に示した。代表的な環状切片をFITCに連結したペプチド(1mM最終濃度)で処理し(37℃で15分間)、4%パラホルムアルデヒド中に固定し、蛍光顕微鏡を用いて観察した(40倍拡大率)。
【0099】
本実験の結果は図4に示されている。HSP20のリン酸化ペプチドアナログは異なる種および異なる血管床に由来する筋肉における痙攣を弛緩および防止することがわかる。タンパク質形質導入アナログで処理した条片には顕著な蛍光が見られた。このことは、TATとは異なるタンパク質形質導入ペプチドがリン酸化ペプチドアナログを変換し、筋肉における痙攣を弛緩および防止することを実証している。
【0100】
(実施例7)
本実験では、HSP20のリン酸化ペプチドアナログのタンパク質形質導入によって、血管以外の平滑筋における痙攣を弛緩および防止できることを示す。
【0101】
内肛門括約筋は、癌のための腹部会陰切開後のヒトの病理標本より得た。平滑筋は実施例6に記載したように筋肉浴中で平衡化した。筋肉は、重炭酸バッファ中で温めると、緊張性の持続した収縮を見せた。上記の収縮は、グアニン酸シクラーゼ活性化剤である、ニトロプルシドナトリウム(SNP)を加えると弛緩した。ニトロプルシドナトリウムを浴から洗い流すと、筋肉は再び自発的に収縮した。筋肉を、HSP20のPTD−リン酸化ペプチドアナログ(NH−βAYARRAAARQARAWLRRASAPLPGLK−COOH、最終濃度1mM)(配列番号:307)で処理した。リン酸化ペプチドアナログに応答して筋肉は弛緩し、痙攣は防止され、弛緩が持続した。
【0102】
内膜平滑筋は、ブタの白癬菌より得た。これらの筋肉は、実施例6に記載したように筋肉浴中で平衡化した。筋肉は、高い細胞外塩化カリウム(KCl 110mM)とカルバコール(10−6M)に応答して、一時的な収縮を発生した。次に筋肉をHSP20のPTD−リン酸化ペプチドアナログ(NH−βAYARRAAARQARAWLRRASAPLPGLK−COOH、最終濃度1mM)(配列番号:307)を含むデキストランゲルで処理し、カルバコールで処理した。リン酸化ペプチドアナログで処理することにより、カルバコールに対する収縮性反応は顕著に減衰した。
【0103】
気管および海綿体の平滑筋は、屠殺後のニュージーランド白ウサギから得た。筋肉は実施例6に記載したように筋肉浴中で平衡化した。気管筋肉はカルバコールで予め収縮させておき、海綿体平滑筋はノルエピネフリンで予め収縮させておいた。次に筋肉をHSP20のPTD−リン酸化ペプチドアナログ(NH−βAYARRAAARQARAWLRRASAPLPGLK−COOH)(配列番号:307)で処理した。気管および海綿体のいずれの筋肉も弛緩し、痙攣はリン酸化ペプチドアナログに反応して妨害された。
【0104】
本実験の結果は、HSP20のリン酸化ペプチドアナログは、ヒト肛門括約筋平滑筋、ブタ腸平滑筋、ウサギ気管平滑筋およびウサギ海綿体平滑筋における痙攣を弛緩および防止することを示している。
【0105】
(実施例8)
本実験では、HSP20のリン酸化ペプチドアナログのタンパク質導入によって、ヒト伏在静脈平滑筋における痙攣を弛緩および防止できることを示す。
【0106】
ヒト伏在静脈は、血管バイパス術後に廃棄された残留物から得た。伏在静脈の環状切片を実施例4に記載したように筋肉浴中で平衡化した。環状切片は、7.5%デキストランゲルのみ、またはHSP20のリン酸化ペプチドアナログ(NH−βAYARRAAARQARAWLRRASAPLPGLK−COOH)(配列番号:307)を含有する7.5%デキストランゲルで処理した。次に環状切片をセロトニン(1μM)で処理した。7.5%デキストランゲルのみで処理した環状切片は、セロトニンに反応して収縮した。しかしながら、HSP20のリン酸化ペプチドアナログを含んだ7.5%デキストランゲルで処理した環状切片は、セロトニンに反応して収縮することはなかった。
【0107】
上記の結果は、HSP20のリン酸化ペプチドアナログが、ヒト伏在静脈平滑筋の痙攣(収縮)を防止することを示している。
【0108】
(実施例9)
本実験は、リン酸化HSP20のより小さいペプチドアナログが、大きいアナログよりも効率的に平滑筋の痙攣を弛緩および防止することを実証するために行った。
【0109】
内皮を剥いでいないウサギ大動脈の環状切片を、95%O/5%COで平衡化した、重炭酸バッファを含む筋肉浴(120mM NaCl、4.7mM KCl、1.0mM MgSO、1.0mM NaHPO、10mMグルコース、1.5mM CaClおよび25mM NaHCO、pH7.4)中、37℃、1グラムの張力で2時間懸濁した。環状切片をノルエピネフリン(10−7M)で予め収縮させておき、RRRRRRApSAPLP(配列番号:309)またはRRRRWLRRApSAPLP(配列番号:310)で処理した。いずれのペプチドも迅速かつ完全な弛緩をもたらし、筋肉の痙攣の阻害、および弛緩はより早く、筋肉は長いペプチドを用いた場合よりも長い間弛緩状態を維持した。使用したペプチドは、Fmocに基づくペプチド合成によって調製し、ペプチドは、該ペプチドのアミノ末端にFmoc部分を保持していた。
【0110】
上記のデータは、ポリアルギニン配列がHSP20アナログを変換して弛緩を誘導すること、および、より小さな配列ApSAPLP(配列番号:3)(式中、「p」はS残基がリン酸化されていることを示す)が、痙攣の迅速かつ完全な弛緩および阻害をもたらすことを示している。
【0111】
(実施例10)
本実験では、PKGで安定的に形質移入されたメサンギウム細胞中およびラット大動脈平滑筋においてHSP20が発現されることを示す。本実験では、メサンギウム細胞の弛緩がHSP20のリン酸化の増加に関連していることについても示す。
【0112】
メサンギウム細胞のホモジネート(図5、レーン1)、ラット大動脈平滑筋細胞(図5、レーン2)、およびPKG形質移入ラット大動脈平滑筋細胞(図5、レーン3)を、PKG(図5、パネルA)またはHSP20(図5、パネルB)に対してイムノブロットした。別の実験において、メサンギウム細胞を非処理にするか(図5、パネルC)、ジブチリルcAMP(10μM、15分間、図5、パネルD)で処理した。タンパク質は、2次元電気泳動によって分離し、イモビロンに転写し、抗HSP20抗体によって調べた。HSPのリン酸化が上昇すると、タンパク質の電気泳動移動度が、より酸性側のイソ型(矢印方向)の方へ移動する。
【0113】
上記のデータは、メサンギウム細胞における環状ヌクレオチド依存性信号伝達経路が(図2に示すように)、HSP20のリン酸化と関連していることを示す。
【0114】
(実施例11)
本実験では、HSP20を発現している細胞(安定的にPKGが形質移入された細胞)が収縮できることを示す。
【0115】
多継代されたか、もしくはPKGを安定的に発現するラット大動脈平滑筋細胞を、血清存在下においてシリコン基質上で培養した。細胞は位相差顕微鏡(10倍拡大率)で撮影した。多継代された細胞は基質上に皺を形成しなかったが、PKG形質移入細胞は皺を形成した。皺が可逆的であるかどうかを調べるために、PKG形質移入細胞をジブチリルcAMP(10μM)で30分間処理した。ジブチリルcAMPによって、皺の形成は減少した。
【0116】
実施例10と併せて、上記の結果は、HSP20の発現が収縮性表現型に関連していることを示す。血管平滑筋細胞は、広範に分岐した表現型で存在する。通常の血管壁において、平滑筋細胞はよく区別された収縮性表現型を示し、力を生み出すことができる。損傷あるいは培養条件に応答して、細胞は合成表現型または分泌表現型に変調する。これらの細胞は増殖し、内膜過形成に寄与するマトリックスタンパク質を分泌する。表現型の変調は、遺伝子発現、タンパク質発現、形態、および生理反応の変化と関連している。このことは、アテローム性動脈硬化症や内膜過形成において起こる血管管腔の病理的狭窄を導く。これは血管の狭窄障害および最終的には血管の閉塞に繋がる。したがって、HSP20の発現を維持することは、収縮表現型の維持のために重要である。
【0117】
(実施例12)
細胞付着、細胞質分裂、細胞運動、遊走および収縮などの細胞プロセスは、すべてアクチン細胞骨格の動的再編成を必要とする。本実験では、HSP20のリン酸化が、これらのアクチンフィラメントの変化を変調することを示す。
【0118】
形質移入されたメサンギウム細胞を固定し、アクチンフィラメントを蛍光標識したファロイジンで染色した。メサンギウム細胞にEGFP単独(EGFP)、S16A−HSP20(MUT−EGFP)または野生型HSP20(WT−EGFP)で形質移入した。細胞をスライドグラス上にプレーティングし、ジブチリルcAMP(10μM、30分間、db−cAMP)で処理するか、処理しないでおいた(対照)。細胞を固定し、ローダミンファロイジンで染色した。ジブチリルcAMPは、中央アクチンストレスファイバの欠損をEGFPにおいてはもたらしたが、S16A−HSP20においてはもたらさなかった。HSP20を過剰発現している細胞において、アクチン繊維は周縁に局在していた。本実験の結果は図6に示されている。
【0119】
上記の実験は、HSP20のリン酸化の増加をもたらす環状ヌクレオチド依存性信号伝達経路の活性化が、中心アクチンストレスファイバの損失と関連していることを示している。HSP20の過剰発現も、アクチンストレスファイバの損失と関連している。セリンがアラニンに置換されており(S16A−HSP20)、リン酸化され得ないHSP20の変異型を過剰発現している細胞において、環状ヌクレオチド依存性信号伝達経路の活性化に伴う上記中央アクチン繊維の損失は見られなかった。これらの研究から、HSP20のリン酸化は、アクチン繊維形成の変化と関連していることが実証された。
【0120】
(実施例13)
本実験では、平滑筋細胞に、HSP20のリン酸化ペプチドアナログでタンパク質形質導入することによっても、アクチン繊維形成に変化がもたらされることを示す。
【0121】
ラット大動脈平滑筋細胞を、FITC−TAT−pHSP20(FITC−NH−βAGGGGYGRKKRRQRRRWLRRASAPLPGLK−COOH、50μM)(配列番号:307)の存在下および非存在下において、リゾホスファチジン酸(LPA)で処理した。リゾホスファチジン酸(LPA)は、アクチン繊維形成を促進する物質である。LPAによるアクチンの阻害は、内膜過形成を阻害することが分かっている。
【0122】
細胞を固定し、ファロイジンで染色し、共焦点顕微鏡により画像を得た。LPAは、強固なアクチンストレスファイバ形成をもたらしたが、FITC−TAT−pHSP20ペプチドの存在下においてLPAで処理した細胞においては、中央アクチンストレスファイバの損失は見られなかった。上記の研究は、HSP20のリン酸化ペプチドアナログによるタンパク質形質導入が、LPAによって誘導されるアクチンファイバ形成を阻害することを示している。上記の研究から、HSP20はアクチンファイバ形成を変換する直接的な役割を有していることが確認された。
【0123】
(実施例14)
細胞の付着形成には、インテグリンと細胞外基質基材との間の相互作用が関与する。これにより、インテグリン凝集が誘導される。次に細胞はアクチンミクロフィラメントを形成し、細胞は広がった。マトリックスによって適当な信号が与えられれば、局所付着の形成とアクチン含有ストレスファイバによって特徴付けられるように、細胞はそれらの細胞骨格を編成し始める。細胞付着は、細胞遊走と一体化した動的可逆的プロセスである。cGMPの活性化により、局所的な付着の分解が起こる。これらの研究は、HSP20のリン酸化ペプチドアナログが、局所的付着の分解を媒介していることを示す。
【0124】
ウシ大動脈内皮細胞(80K〜100K細胞)を、DMEM+10%FBS中、ガラスカバースリップ上で一晩平板培養した(24ウェルプレート)。細胞を1時間血清飢餓状態(血清無し)におき、HSP[NH−βAYARRAAARQARAWLRRASAPLPGLK−COOH−pHSP20(10μM)(配列番号:307)またはHSP20スクランブルドアナログ[NH−βAYARRAAARQARAPRKSLWALGRPLA−COOH−scHSP20(10μM)](配列番号:308)の存在下で30分間インキュベートした。細胞を3%グルタルアルデヒドで固定し、局所性付着の数を干渉反射顕微鏡を用いて検出した。HepIペプチドを正の対照として用いた。このペプチドは、トロンボスポンジンのヘパリン結合部位に結合し、局所的付着分解を誘導する。HepIとpHSP20のいずれも局所的付着分解を引き起こした。結果は図7に示されている。
【0125】
トロンボスポンジン1(Hep1)のアミノ末端ヘパリン結合ドメインからのペプチドによって誘導される分解と同等の、局所的付着の分解がPTD−pHSP20による処理によって引き起こされた。スクランブルドペプチドは、局所的付着分解には顕著な効果を有しなかった。これらの研究は、リン酸化されたHSP20が局所的付着分解を媒介することを示している。これにより細胞結合を弱め、細胞遊走に必要な結合の形成を防止している。
【0126】
(実施例15)
本実験では、HSP20のリン酸化ペプチドアナログが細胞遊走を直接阻害することを示す。
【0127】
集密的A10細胞を血清飢餓状態に(0.5%ウシ胎仔血清、FBS)48時間おいた。ゴムスクレーパーを用いて細胞単層中に線状の傷を作り、金属ピンを用いて引っ掻いた縁部に印を付けた。細胞を、PTD−pHSP20(NH−βAYARRAAARQARAWLRRASAPLPGLK−COOH)(配列番号:307)またはPTD−スクランブルド−pHSP20(NH−βAYARRAAARQARAPRKSLWALGRPLA−COOH)(配列番号:308)(50μM)を含む10%培地に交換して、24時間インキュベートした。細胞を固定し、ヘマトキシリンで染色した。1cmの掻爬面積に遊走した細胞の数を遊走の指標として係数した。さらなる実験において、A10細胞の遊走はボイデンチャンバアッセイにおいて決定した。いずれの場合においても、HSP20のリン酸化ペプチドアナログは、遊走の阻害をもたらした。図8は上記実験の結果を示したものである。
【0128】
上記の結果は、HSP20のリン酸化ペプチドアナログの形質導入が、平滑筋細胞の血清に誘導される遊走を阻害することを示している。
【0129】
(実施例16)
本実験では、HSP20のリン酸化ペプチドアナログの形質導入が、平滑筋細胞の血清によって誘導される増殖を阻害することを示す。
【0130】
A10細胞を3日間血清飢餓状態においた。その後細胞を、10%ウシ胎仔血清と、PTD−pHSP20(NH−βAYARRAAARQARAWLRRASAPLPGLK−COOH)(配列番号:307)またはPTD−スクランブルド−pHSP20(NH−βAYARRAAARQARAPRKSLWALGRPLA−COOH)(配列番号:308)(50μM)を含む培地で処理した。24時間後、細胞計数を行った。血清飢餓平板における1ウェルあたりの細胞数は、10%ウシ胎仔血清(FBS)を含有するウェルにおける276±6.1と比較して、平均して109(±7.4)細胞/ウェルであった。FBSの存在下において、形質導入ドメインを含むHSP20のリン酸化ペプチドアナログは、HSP20のスクランブルドリン酸化ペプチドアナログの形質導入と比較して(242.3±15.3)、平滑筋の増殖を149±14.6阻害した。上記の実験の結果が図9に示されている。
【0131】
上記実施例により得られた結果は、HSP20が収縮性表現型と関連していること、およびHSP20のリン酸化ペプチドアナログの形質導入によりアクチン繊維形成、局所付着形成、平滑筋細胞遊走および平滑筋増殖が阻害されることを実証するものである。これらは本願を通して検討する内膜過形成や他の疾患に繋がるプロセスである。
【0132】
(実施例17)
本実験では、HSP20がヒト伏在静脈グラフトにおける内膜過形成を阻害することを示す。
【0133】
ヒト伏在静脈の切片を30%ウシ胎仔血清を含む培地中で培養した。切片を、血清のみを含む培地、血清とHSP20のリン酸化ペプチドアナログ(PTD−pHSP20(NH−βAYARRAAARQARAWLRRASAPLPGLK−COOH、10μM)(配列番号:307)またはPTD−スクランブルド−pHSP20(NH−βAYARRAAARQARAPRKSLWALGRPLA−COOH、10μM)(配列番号:308)とを含む培地で14日間処理した。環状切片をホルマリン中に固定し、ヘマトキシリンおよびエオシンで染色し、内膜の面積を形態計測的に測定した。血清のみまたは血清とスクランブルドアナログの形質導入で処理した環状切片に比べて、HSP20のリン酸化ペプチドアナログで処理した環状切片において内膜面積は顕著に減少していた。
【0134】
これらの結果は、HSP20のリン酸化ペプチドアナログの形質導入により、ヒト伏在静脈において内膜過形成を阻害できることを示している。
【0135】
(実施例18)
本実験では、植物細胞を組み換えHSP20を産生するように操作できることを示す。
【0136】
タバコBY−2細胞をベクターのみで形質転換するか(ベクター形質転換)、His標識したHSP20構築物で形質転換した(6Xhis−HSP20形質転換)。抗−6Xhisモノクローナル抗体を用いて細胞溶解物に対してウェスタンブロットを実施した。HSP20溶解物には20kDaポリペプチドの免疫活性が見られたが、ベクター形質転換溶解物には見られなかった。
【0137】
一時的に発現している操作タバコ細胞の共焦点免疫蛍光画像の光学断面を、それぞれ、myc−エピトープで標識したHSP20に対しては抗myc抗体で、HSP20に対しては抗HSP20抗体、TAT−HSP20に対しては抗HSP20抗体、またはHISTAT−HSP20に対しては抗his抗体でプローブした。発現は、4つの構築物のすべてにおいて見られた(1線分は100μm)。
【0138】
上記の結果は、タンパク質形質導入配列を含むタンパク質とHSP20分子とを生産できるように植物を操作することができることを示している。これはHSP20生産の代替供給源を表す。
【図面の簡単な説明】
【0139】
【図1】緑色蛍光タンパク質(GFP)単独、HSP20に対する野生型cDNAの5’末端に融合させたGFP(WT)、またはPKAリン酸化部位がアラニンに変異されているHSP20構築物に融合させたGFP(S16A−HSP20)(MUT)を含むベクターで、メサンギウム細胞を形質移入し、ジブチリルcAMP(10μM)で0分間、30分間、60分間または90分間処理後の細胞の下の皺の数を決定した。
【図2】メサンギウム細胞にFITC−TAT−HSP20を形質導入し、位相差顕微鏡を用いて表示した時間に細胞下の皺の数を決定した(n=10、=時間0との比較で、p<0.05)。
【図3】内皮を剥いだウシ頸動脈平滑筋の横行条片を、セロトニン(1μMで10分間)と予め接触させ、漸増用量のFITC−ホスホ−HSP20−TAT、FITC−スクランブルドホスホHSP20−TAT(FITC−NH−βAGGGGYGRKKRRQRRRPRKSLWALGRPLA−COOH、開円)(配列番号:305)、またはFITC−TAT(FITC−NH−βAGGGGYGRKKRRQRRR、閉じた三角)(配列番号:306)を10分ごとに添加し、濃度の百分率を計算した。力は、セロトニン最大濃度の百分率で示した(n=5、=ペプチド添加量0の場合と比較してp<0.05)。
【図4】内皮を剥いでいないブタの冠状動脈の環状切片をセロトニン(1μMで10分間)と予め接触させ、漸増用量のPTD−pHSP20(NH−βAYARRAAARQARAWLRRASAPLPGLK−COOH、閉円)(配列番号:307)またはPTD−スクランブルド−pHSP20(NH−βAYARRAAARQARAPRKSLWALGRPLA−COOH、開円)(配列番号:308)を10分ごとに添加し、弛緩の百分率をセロトニン最大濃度の百分率として計算した(n=5、=ペプチド添加量0の場合と比較してp<0.05)。使用したペプチドの濃度は、x軸に示されている。
【図5】メサンギウム細胞のホモジネート(レーン1)、ラット大動脈平滑筋細胞(レーン2)、およびPKG形質移入ラット大動脈平滑筋細胞(レーン3)を、PKG(パネルA)またはHSP20(パネルB)に対してイムノブロットした。別の実験において、メサンギウム細胞を非処理にするか(パネルC)、ジブチリルcAMP(10μM、15分間、パネルD)で処理した。タンパク質は、2次元電気泳動によって分離し、イモビロンに転写し、抗HSP20抗体によって調べた。HSPのリン酸化が上昇すると、タンパク質の電気泳動移動度が、より酸性側のイソ型(矢印方向)の方へ移動する。
【図6】形質移入メサンギウム細胞を固定し、アクチンフィラメントをリン酸標識したファロイジンで染色した。メサンギウム細胞をEGFP単独(EGFP)、S16A−HSP20(MUT−EGFP)または野生型HSP20(WT−EGFP)で形質移入した。細胞をスライドグラス上にプレーティングし、ジブチリルcAMP(10μM、30分間、db−cAMP)で処理するか、処理しないでおいた(対照)。細胞を固定し、ローダミンファロイジンで染色した。ジブチリルcAMPは、中央アクチンストレスファイバの欠損をEGFPにおいてはもたらしたが、S16A−HSP20においてはもたらさなかった。HSP20を過剰発現している細胞において、アクチン繊維は周縁に局在していた。
【図7】ウシ大動脈内皮細胞(80K〜100K細胞)を、DMEM+10%FBS中、ガラスカバースリップ上で一晩平板培養した(24ウェルプレート)。細胞を1時間血清飢餓状態(血清無し)におき、HSP20[NH−βAYARRAAARQARAWLRRASAPLPGLK−COOH−pHSP20(10μM)(配列番号:307)またはHSP20スクランブルドアナログ[NH−βAYARRAAARQARAPRKSLWALGRPLA−COOH−scHSP20(10μM)](配列番号:308)の存在下で30分間インキュベートした。細胞を3%グルタルアルデヒドで固定し、局所性付着の数を干渉反射顕微鏡を用いて検出した。HepIペプチドを正の対照として用いた。
【図8】集密的A10細胞を血清飢餓状態に(0.5%ウシ胎仔血清、FBS)48時間おいた。ゴムスクレーパーを用いて細胞単層中に線状の傷を作り、金属ピンを用いて引っ掻いた縁部に印を付けた。細胞を、PTD−pHSP20(NH−βAYARRAAARQARAWLRRASAPLPGLK−COOH)(配列番号:307)またはPTD−スクランブルド−pHSP20(NH−βAYARRAAARQARAPRKSLWALGRPLA−COOH)(配列番号:308)(50μM)を含む10%培地に交換して、24時間インキュベートした。細胞を固定し、ヘマトキシリンで染色した。1cm2の掻爬面積に遊走した細胞の数を遊走の指標として係数した。さらなる実験において、A10細胞の遊走はボイデンチャンバアッセイにおいて決定した。
【図9】A10細胞を3日間血清飢餓状態においた。その後細胞を、10%ウシ胎仔血清と、PTD−pHSP20(NH−βAYARRAAARQARAWLRRASAPLPGLK−COOH)(配列番号:307)またはPTD−スクランブルド−pHSP20(NH−βAYARRAAARQARAPRKSLWALGRPLA−COOH)(配列番号:308)(50μM)を含む培地で処理した。24時間後、細胞計数を行った。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の一般式Iに記載のアミノ酸配列から成るポリペプチド:
X1−X2−[X3−A(X4)APLP−X5−]−X6
(式中、X1は存在しないか、1つまたはそれ以上の芳香環を含む1つまたはそれ以上の分子であり、
X2は存在しないか、形質導入ドメインを含み、
X3は、配列WLRR(配列番号:1)の0、1、2、3または4アミノ酸であり、
X4は、S、T、Y、D、E、ホスホセリンアナログ、およびホスホチロシンアナログからなる群から選択され、
X5は、属の配列Z1−Z2−Z3の1、2または3アミノ酸であり
(式中、Z1はGおよびDから成る群より選択され、Z2はLおよびKから成る群より選択され、Z3はSおよびTよりなる群より選択される)、
X6は、存在しないか、形質導入ドメインを含む(式中、uは1〜5))。
【請求項2】
X4がSである、請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項3】
X4がTである、請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項4】
X4がYである、請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項5】
X3がRである、請求項1〜4のいずれかに記載のポリペプチド。
【請求項6】
X3がRRである、請求項1〜4のいずれかに記載のポリペプチド。
【請求項7】
X3がLRR(配列番号:311)である、請求項1〜4のいずれかに記載のポリペプチド。
【請求項8】
X3がWLRR(配列番号:1)である、請求項1〜4のいずれかに記載のポリペプチド。
【請求項9】
X5がGである、請求項1〜8のいずれかに記載のポリペプチド。
【請求項10】
X5がDである、請求項1〜8のいずれかに記載のポリペプチド。
【請求項11】
X5がGLである、請求項1〜8のいずれかに記載のポリペプチド。
【請求項12】
X5がGKである、請求項1〜8のいずれかに記載のポリペプチド。
【請求項13】
X5がDLである、請求項1〜8のいずれかに記載のポリペプチド。
【請求項14】
X5がDKである、請求項1〜8のいずれかに記載のポリペプチド。
【請求項15】
X5がGLS(配列番号:312)である、請求項1〜8のいずれかに記載のポリペプチド。
【請求項16】
X5がGLT(配列番号:313)である、請求項1〜8のいずれかに記載のポリペプチド。
【請求項17】
X5がGKS(配列番号:314)である、請求項1〜8のいずれかに記載のポリペプチド。
【請求項18】
X5がGKT(配列番号:315)である、請求項1〜8のいずれかに記載のポリペプチド。
【請求項19】
X5がDLS(配列番号:316)である、請求項1〜8のいずれかに記載のポリペプチド。
【請求項20】
X5がDLT(配列番号:317)である、請求項1〜8のいずれかに記載のポリペプチド。
【請求項21】
X5がDKS(配列番号:318)である、請求項1〜8のいずれかに記載のポリペプチド。
【請求項22】
X5がDKT(配列番号:319)である、請求項1〜8のいずれかに記載のポリペプチド。
【請求項23】
X1が1つの芳香環を含む分子である、請求項1〜22のいずれかに記載のポリペプチド。
【請求項24】
X1が、F、Y、W、および9−フルオロエニルメチルを含む化合物からなる群より選択される、請求項23に記載のポリペプチド。
【請求項25】
X2が形質導入ドメインを含む、請求項1〜24のいずれかに記載にポリペプチド。
【請求項26】
X6が形質導入ドメインを含む、請求項1〜24のいずれかに記載にポリペプチド。
【請求項27】
X2とX6の両方が形質導入ドメインを含む、請求項1〜24のいずれかに記載にポリペプチド。
【請求項28】
X4がリン酸化されている、請求項1〜27のいずれかに記載のポリペプチド。
【請求項29】
形質導入ドメインが、(R)4−9(配列番号:279);GRKKRRQRRRPPQ(配列番号:280);AYARAAARQARA(配列番号:281);DAATATRGRSAASRPTERPRAPARSASRPRRPVE(配列番号:282);GWTLNSAGYLLGLINLKALAALAKKIL(配列番号:283);PLSSIFSRIGDP(配列番号:284);AAVALLPAVLLALLAP(配列番号:285);AAVLLPVLLAAP(配列番号:286);VTVLALGALAGVGVG(配列番号:287);GALFLGWLGAAGSTMGAWSQP(配列番号:288);GWTLNSAGYLLGLINLKALAALAKKIL(配列番号:289);KLALKLALKALKAALKLA(配列番号:290);KETWWETWWTEWSQPKKKRKV(配列番号:291);KAFAKLAARLYRKAGC(配列番号:292);KAFAKLAARLYRAAGC(配列番号:293);AAFAKLAARLYRKAGC(配列番号:294);KAFAALAARLYRKAGC(配列番号:295);KAFAKLAAQLYRKAGC(配列番号:296)、および、AGGGGYGRKKRRQRRR(配列番号:306)からなる群より選択される、請求項1〜28のいずれかに記載のポリペプチド。
【請求項30】
下記の一般式IIに記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド:
X1−X2−[X3−A(X4)APLP−X5]−X6
(式中、X1は存在しないか、1つまたはそれ以上の芳香環を含む1つまたはそれ以上の分子であり、
X2は存在しないか、形質導入ドメインを含み、
X3は、配列番号:297の残基1〜14の間の熱ショックタンパク質20の配列の0〜14個のアミノ酸であり、
X4は、S、T、Y、D、E、ホスホセリンアナログおよびホスホチロシンアナログからなる群から選択され、
X5は、配列番号:297の残基21〜160に間の熱ショックタンパク質20の0〜140個のアミノ酸であり、
X6は、存在しないか、形質導入ドメインを含む(式中、X2とX6のうちの少なくとも1つが形質導入ドメインを含む))。
【請求項31】
X4がSである、請求項30に記載のポリペプチド。
【請求項32】
X4がTである、請求項30に記載のポリペプチド。
【請求項33】
X4がYである、請求項30に記載のポリペプチド。
【請求項34】
ポリペプチドは、X1−X2−配列番号:297−X6;X1−X2−配列番号:298−X6;X1−X2−配列番号:299−X6;X1−X2−配列番号:300−X6;X1−X2−配列番号:301−X6;およびX1−X2−配列番号:302−X6からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するポリペプチドを含む、請求項30に記載のポリペプチド。
【請求項35】
X2とX6の両方が形質導入ドメインを含む、請求項30〜34のいずれかに記載のポリペプチド。
【請求項36】
X4がリン酸化されている、請求項30〜33および35のいずれかに記載のポリペプチド。
【請求項37】
ポリペプチドはリン酸化されている、請求項34に記載のポリペプチド。
【請求項38】
X1が1つの芳香環を含む分子である、請求項30〜37のいずれかに記載のポリペプチド。
【請求項39】
X1は、F、Y、W、および9−フルオロエニルメチルを含む化合物からなる群より選択される、請求項38に記載のポリペプチド。
【請求項40】
形質導入ドメインが、(R)4−9(配列番号:279);GRKKRRQRRRPPQ(配列番号:280);AYARAAARQARA(配列番号:281);DAATATRGRSAASRPTERPRAPARSASRPRRPVE(配列番号:282);GWTLNSAGYLLGLINLKALAALAKKIL(配列番号:283);PLSSIFSRIGDP(配列番号:284);AAVALLPAVLLALLAP(配列番号:285);AAVLLPVLLAAP(配列番号:286);VTVLALGALAGVGVG(配列番号:287);GALFLGWLGAAGSTMGAWSQP(配列番号:288);GWTLNSAGYLLGLINLKALAALAKKIL(配列番号:289);KLALKLALKALKAALKLA(配列番号:290);KETWWETWWTEWSQPKKKRKV(配列番号:291);KAFAKLAARLYRKAGC(配列番号:292);KAFAKLAARLYRAAGC(配列番号:293);AAFAKLAARLYRKAGC(配列番号:294);KAFAALAARLYRKAGC(配列番号:295);KAFAKLAAQLYRKAGC(配列番号:296)、および、AGGGGYGRKKRRQRRR(配列番号:306)からなるより選択される、請求項30〜39のいずれかに記載のポリペプチド。
【請求項41】
請求項1〜40のいずれかに記載の1つまたはそれ以上のポリペプチドと、薬剤的に許容可能な担体とを含む医薬組成物。
【請求項42】
請求項1〜40のいずれかに記載のポリペプチドをコードする単離核酸配列。
【請求項43】
請求項42の核酸を含む発現ベクター。
【請求項44】
請求項43の発現ベクターを含む宿主細胞。
【請求項45】
改良型生物医療機器であって、該生物医療機器上または機器中に請求項1〜40のいずれかに記載の1つまたはそれ以上のポリペプチドを含むことを特徴とする生物医療機器。
【請求項46】
生物医療機器は、ステント、グラフト、シャントおよびフィステルからなる群より選択される、請求項45に記載の改良型生物医療機器。
【請求項47】
生物医療機器上または機器中に配置されたHSP27阻害剤をさらに含む、請求項44または45に記載の改良型生物医療機器。
【請求項48】
平滑筋細胞を、平滑筋細胞の増殖および/または遊走を阻害するのに有効な量の請求項1〜40のいずれかに記載の1つまたはそれ以上のポリペプチドと接触させることを含む、平滑筋細胞の増殖および/または遊走の阻害方法。
【請求項49】
平滑筋細胞を、平滑筋細胞の増殖および/または遊走を阻害するのに有効な量のHSP20、またはその機能的均等物と接触させることを含む、平滑筋細胞の増殖および/または遊走の阻害方法。
【請求項50】
接触はインビボで行う請求項48または49に記載の方法。
【請求項51】
前記方法は、内膜過形成、狭窄、再狭窄、移植血管症、およびアテローム性動脈硬化症を治療または予防するために用いられる、請求項50に記載の方法。
【請求項52】
前記方法は、血管形成術、血管ステント配置、動脈内膜切除、アテローム切除術、バイパス手術、血管移植、臓器移植、補綴移植、微小血管再構築、形成外科フラップ再構築、およびカテーテル配置から成る群より選択される処置を受けたか、受けている最中か、受ける予定のある被験者に対して実施される、請求項51に記載の方法。
【請求項53】
前記方法は、平滑筋細胞腫瘍を治療するために用いられる、請求項50に記載の方法。
【請求項54】
平滑筋細胞腫瘍は、平滑筋肉腫である、請求項53に記載の方法。
【請求項55】
前記方法は、平滑筋細胞をHSP27の阻害剤と接触させることをさらに含む、請求項48〜54のいずれかに記載の方法。
【請求項56】
前記接触が血管との接触を含む、請求項48〜55のいずれかに記載の方法。
【請求項57】
内膜過形成、狭窄、再狭窄、および/またはアテローム性動脈硬化症からなる群より選択される疾患の治療または阻害方法であって、その必要のある被験者を、内膜過形成、狭窄、再狭窄、および/またはアテローム性動脈硬化症を治療または阻害するのに有効な量の、請求項1〜40にいずれかに記載の1つまたはそれ以上のポリペプチドと接触させることを含む方法。
【請求項58】
内膜過形成、狭窄、再狭窄、および/またはアテローム性動脈硬化症からなる群より選択される疾患の治療または阻害方法であって、その必要のある患者を、内膜過形成、狭窄、再狭窄、および/またはアテローム性動脈硬化症を治療または阻害するのに有効な量のHSP20またはその機能的均等物と接触させることを含む方法。
【請求項59】
前記被験者が、血管形成術、血管ステント配置、動脈内膜切除、アテローム切除術、バイパス手術、血管移植、臓器移植、およびカテーテル配置から成る群より選択される処置を受けたか、受けている最中か、受ける予定がある、請求項57または58に記載の方法。
【請求項60】
前記方法が、平滑筋細胞をHSP27の阻害剤と接触させることをさらに含む、請求項57〜59のいずれかに記載の方法。
【請求項61】
前記接触が、血管を接触させる、請求項57〜60のいずれかに記載の方法。
【請求項62】
平滑筋痙攣の治療または阻害方法であって、その必要のある被験者を、血管収縮を阻害するのに有効な量の、請求項1〜40のいずれかに記載の1つまたはそれ以上のポリペプチドと接触させることを含む方法。
【請求項63】
平滑筋痙攣の治療または阻害方法であって、その必要のある被験者を、血管痙攣を阻害するのに有効な量のHSP20またはその機能的均等物と接触させることを含む方法。
【請求項64】
前記方法が、血管痙攣を治療または阻害するために用いられる、請求項62または63に記載の方法。
【請求項65】
血管痙攣が、狭心症、冠状動脈痙攣、Prinzmetal型狭心症、冠状動脈虚血、脳梗塞、徐脈高血圧症、肺性(肺)高血圧症、ぜんそく(気管支痙攣)、妊娠中毒症、早期分娩、子癇前症/子癇、レイノー病、レイノー現象、溶血性尿毒症、非閉塞性腸間膜虚血、肛門裂傷、アカラシア、インポテンス、偏頭痛、平滑筋痙攣に関連する虚血性筋傷害、および血管症から成る群より選ばれる疾病または状態に関連している、請求項64に記載の方法。
【請求項66】
前記方法が、平滑筋細胞をHSP27の阻害剤に接触させることをさらに含む、請求項62〜65のいずれかに記載の方法。
【請求項67】
前記接触が、血管を接触させることを含む、請求項62〜66のいずれかに記載の方法。
【請求項68】
(a)請求項1〜40のいずれかに記載のポリペプチド;および
(b)HSP27の阻害剤
を含む組成物。
【請求項69】
グラフトを、血管収縮を阻害するのに有効な量の、請求項1〜40のいずれかに記載の1つまたはそれ以上のポリペプチドと接触させることを含む、平滑筋痙攣の阻害方法。
【請求項70】
グラフトを、血管収縮を阻害するのに有効な量のHSP20またはその機能的均等物と接触させることを含む、平滑筋痙攣の阻害方法。
【請求項71】
前記方法が、血管痙攣を阻害するために用いられる、請求項69または70に記載の方法。
【請求項72】
前記方法が、内膜過形成を阻害するために用いられる、請求項69または70に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−142270(P2009−142270A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2008−297247(P2008−297247)
【出願日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【分割の表示】特願2003−523609(P2003−523609)の分割
【原出願日】平成14年8月23日(2002.8.23)
【出願人】(500054721)アリゾナ・ボード・オブ・リージェンツ (4)
【出願人】(504066416)
【出願人】(504066449)
【出願人】(504066405)
【出願人】(504066391)
【出願人】(504066438)
【Fターム(参考)】