説明

平版印刷版の作製方法

【課題】保護層及び非露光部の感光層を同時に除去する工程を含み、かつ、水洗工程を含まない現像処理工程を含む平版印刷版の製版においても、ランニング時に、現像カスの発生が少なく、現像性が良好に維持されるという優れた処理安定性を満足するとともに、耐刷性に優れる平版印刷版を製版することができる平版印刷版の作製方法を提供する
【解決手段】(i)親水性支持体、(ii)(A)重合開始剤、(B)重合性化合物、(C)増感色素、及び、(D)バインダーポリマーを含有する感光層、並びに、(iii)(E)特定構造の繰り返し単位を有する重合体を含有する保護層をこの順に有する平版印刷版原版を、レーザー露光した後、界面活性剤を含有する現像液の存在下、保護層及び非露光部の感光層を同時に除去する工程を含み、かつ、水洗工程を含まない平版印刷版の作製方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は平版印刷版の作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、平版印刷版は、印刷過程でインキを受容する親油性の画像部と、湿し水を受容する親水性の非画像部とからなる。平版印刷は、水と印刷インキが互いに反発する性質を利用して、平版印刷版の親油性の画像部をインキ受容部、親水性の非画像部を湿し水受容部(インキ非受容部)として、平版印刷版の表面にインキの付着性の差異を生じさせ、画像部のみにインキを着肉させた後、紙などの被印刷体にインキを転写して印刷する方法である。
この平版印刷版を作製するため、従来、親水性の支持体上に親油性の感光性樹脂層(感光層、画像記録層)を設けてなる平版印刷版原版(PS版)が広く用いられている。通常は、平版印刷版原版を、リスフィルムなどの原画を通した露光を行った後、画像記録層の画像部となる部分を残存させ、それ以外の不要な画像記録層をアルカリ性現像液又は有機溶剤によって溶解除去し、親水性の支持体表面を露出させて非画像部を形成する方法により製版を行って、平版印刷版を得ている。
【0003】
一方、近年、画像情報をコンピュータで電子的に処理し、蓄積し、出力する、デジタル化技術が広く普及してきており、このようなデジタル化技術に対応した新しい画像出力方式が種々実用されるようになってきている。これに伴い、レーザー光のような高収斂性の輻射線にデジタル化された画像情報を担持させて、その光で平版印刷版原版を走査露光し、リスフィルムを介することなく、直接平版印刷版を製造するコンピュータ・トゥ・プレート(CTP)技術が注目されてきている。従って、このような技術に適応した平版印刷版原版を得ることが重要な技術課題の一つとなっている。
【0004】
従来の平版印刷版原版の製版工程においては、露光の後、不要な画像記録層を強アルカリ性の現像液などによって溶解除去する工程が必要であるが、環境及び安全上、より中性域に近い現像液での処理を可能にすることや廃液を少なくすることが課題として挙げられている。特に、近年、地球環境への配慮から湿式処理に伴って排出される廃液の処分が産業界全体の大きな関心事となっており、上記課題の解決の要請は一層強くなってきている。
【0005】
上述のように、現像液の低アルカリ化、処理工程の簡素化は、地球環境への配慮と省スペース、低ランニングコストへの適合化との両面から、従来にも増して強く望まれるようになってきている。しかし前述のように、従来の現像処理工程はpH11以上のアルカリ水溶液で現像した後、水洗浴にてアルカリ剤を流し、その後、親水性樹脂を主とするガム液で処理するという3つの工程からなっており、そのため自動現像機自体も大きくスペースを取ってしまい、更に現像廃液、水洗廃液、ガム廃液処理の問題等、環境及びランニングコスト面での課題を残している。
【0006】
これに対し、例えば、特許文献1には、アルカリ金属の炭酸塩及び炭酸水素塩を有するpH8.5〜11.5、導電率3〜30mS/cmの現像液で処理する現像方法を具備する平版印刷版の作製方法が提案されているが、水洗及びガム液処理工程を必要としており、環境及びランニングコスト面の課題解決には至っていない。
また、特許文献2にはpH11.9〜12.1の水溶性高分子化合物を含有する処理液による処理を含む平版印刷版の作製方法が記載されている。しかしながら、この処理により得られた印刷版は、pH12のアルカリが版面に付着したままの状態であり、作業者に対して安全面で問題がある上に、印刷版作成後に印刷までの時間が長くなると画像部が次第に溶解して耐刷性や着肉性の低下を招くという問題もある。
特許文献3にはpH3〜9の水溶性高分子化合物を含有する処理液による処理を行う平版印刷版の作製方法が記載されている。しかし、この処理液は塩基成分を含まないため、感光層のポリマーを親水性にして現像可能とする必要があり、耐刷性が著しく低下するという問題がある。
【0007】
一方、強アルカリ性以外の現像液を使用し、水洗工程を行わず、現像槽1つで(一浴で)保護層及び非露光部の感光層を除去して現像処理を行う平版印刷版の作製方法が知られている(例えば、特許文献4参照)。しかしながら、この方法では溶解しきれなくなった感光層成分や保護層成分が現像浴の底に堆積したり、現像液の粘度が上昇して、特に自動現像処理機を用いる場合、現像機の循環が十分に行えなくなる問題があった。
また、特許文献5には保護層中に水溶性ポリ(メタ)アクリル酸エステルを含む版材をpH11.0〜12.7の現像液で処理する平版印刷版の製版方法が記載されているが、保護層と合紙との接着抑止を目的としており、低アルカリ現像液での処理安定性については記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平11−65126号公報
【特許文献2】欧州特許出願公開第1868036号明細書
【特許文献3】特表2007−538279号公報
【特許文献4】国際公開第07/057336号
【特許文献5】特開2007−114738号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、保護層及び非露光部の感光層を同時に除去する工程を含み、かつ、水洗工程を含まない現像処理工程を含む平版印刷版の製版においても、ランニング時に、現像カスの発生が少なく、現像性が良好に維持されるという優れた処理安定性を満足するとともに、耐刷性に優れる平版印刷版を製版することができる平版印刷版の作製方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解消すべく鋭意検討した結果、印刷版原版の保護層中に特定の重合体を含有することで、一浴の現像において優れた現像性を達成しながら現像カスが低減されることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、上記課題は下記の手段により解決することができる。
【0011】
<1> (i)親水性支持体、(ii)(A)重合開始剤、(B)重合性化合物、(C)増感色素、及び、(D)バインダーポリマーを含有する感光層、並びに、(iii)(E)下記一般式(I)で表される繰り返し単位を有し、かつ、ヒドロキシル基を含有する繰り返し単位の全繰り返し単位に対する含有率が70モル%以下である重合体を含有する保護層をこの順に有する平版印刷版原版を、レーザー露光した後、界面活性剤を含有する現像液の存在下、保護層及び非露光部の感光層を同時に除去する工程を含み、かつ、水洗工程を含まない平版印刷版の作製方法。
【化1】

式中、Rは水素原子又は置換基を有してもよいアルキル基を表す。
Xは酸素原子、硫黄原子又は−NR−を表す。Rは水素原子又は置換基を有してもよいアルキル基を表す。
Lは単結合又は連結基を表す。
Yは−SOM,−PO又は−COOMを表す。Mはそれぞれ独立に水素原子、アルカリ金属原子又はオニウム基を表す。
nは0以上の整数を表す。
【0012】
<2> 前記現像液のpHが、2.0〜10.9であることを特徴とする上記<1>に記載の平版印刷版の作製方法。
<3> 前記現像液が、pH緩衝剤を含有することを特徴とする上記<1>又は<2>に記載の平版印刷版の作製方法。
<4> 前記pH緩衝剤が、炭酸塩及び炭酸水素塩を含むことを特徴とする上記<3>に記載の平版印刷版の作製方法。
<5> 前記pH緩衝剤が、水溶性有機アミン化合物及びそのアミン化合物のイオンを含むことを特徴とする上記<3>に記載の平版印刷版の作製方法。
<6> 前記現像液が、水溶性高分子化合物を含有することを特徴とする上記<1>〜<5>のいずれか一項に記載の平版印刷版の作製方法。
<7> 前記一般式(I)におけるYが−SOMで表されることを特徴とする上記<1>〜<6>のいずれか一項に記載の平版印刷版の作製方法。
<8> 前記保護層が、前記一般式(I)で表される繰り返し単位を有する重合体とは異なる水溶性高分子化合物を更に含有することを特徴とする上記<1>〜<7>のいずれか一項に記載の平版印刷版の作製方法。
<9> 前記水溶性高分子化合物が、ポリビニルアルコールであることを特徴とする上記<8>に記載の平版印刷版の作製方法。
<10> 前記ポリビニルアルコールが、ケン化度の異なる少なくとも2種のポリビニルアルコールであることを特徴とする上記<9>に記載の平版印刷版の作製方法。
<11> 前記保護層が、無機層状化合物を更に含有することを特徴とする上記<1>〜<10>のいずれか一項に記載の平版印刷版の作製方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の平版印刷版の作製方法によれば、保護層及び非露光部の感光層を同時に除去する工程を含み、かつ、水洗工程を含まない現像処理工程を含む平版印刷版の製版においても、ランニング時に、現像カスの発生が少なく、現像性が良好に維持されるという優れた処理安定性を満足するとともに、耐刷性に優れる平版印刷版を製版することができる。
具体的には、本発明の平版印刷版の作製方法では、保護層中に特定構造を有する重合体を含有することによって、保護層の現像液に対する溶解性及び分散性が向上し、平版印刷版原版の現像処理においても、現像カスが生じ難くなる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の平版印刷版の作製方法において用いられる自動現像処理機の内部構造を側面から透視して示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について詳細に説明する。
まず、本発明の平版印刷版の作製方法において用いる平版印刷版原版について説明する。
〔平版印刷版原版〕
本発明の平版印刷版の作製方法において使用する平版印刷版原版は、(i)親水性支持体と(ii)感光層と(iii)保護層とをこの順に有する。
感光層は、(A)重合開始剤、(B)重合性化合物、(C)増感色素、及び(D)バインダーポリマーを含有する。また、必要に応じて、その他の成分を含有することができる。
【0016】
<感光層>
(A)重合開始剤
本発明で用いられる重合開始剤としては、当業者間で公知のものを制限なく使用でき、例えば、ヘキサアリールビスイミダゾール化合物、トリハロメチル化合物、カルボニル化合物、有機過酸化物、アゾ系化合物、アジド化合物、メタロセン化合物、有機ホウ素化合物、ジスルホン化合物、オキシムエステル化合物、オニウム塩、鉄アレーン錯体が挙げられる。中でも、ヘキサアリールビイミダゾール化合物、オニウム塩、トリハロメチル化合物及びメタロセン化合物からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、特にヘキサアリールビスイミダゾール化合物が好ましい。
ヘキサアリールビスイミダゾール化合物としては、特公昭45−37377号、特公昭44−86516号の各公報記載のロフィンダイマー類、例えば2,2′−ビス(o−クロロフェニル)−4,4′,5,5′−テトラフェニルビスイミダゾール、2,2′−ビス(o−ブロモフェニル)−4,4′,5,5′−テトラフェニルビスイミダゾール、2,2′−ビス(o,p−ジクロロフェニル)−4,4′,5,5′−テトラフェニルビスイミダゾール、2,2′−ビス(o−クロロフェニル)−4,4′,5,5′−テトラ(m−メトキシフェニル)ビスイミダゾール、2,2′−ビス(o,o′−ジクロロフェニル)−4,4′,5,5′−テトラフェニルビスイミダゾール、2,2′−ビス(o−ニトロフェニル)−4,4′,5,5′−テトラフェニルビスイミダゾール、2,2′−ビス(o−メチルフェニル)−4,4′,5,5′−テトラフェニルビスイミダゾール、2,2′−ビス(o−トリフルオロメチルフェニル)−4,4′,5,5′−テトラフェニルビスイミダゾール等が挙げられる。
ヘキサアリールビイミダゾール系化合物は、後述する350〜450nmの波長域に極大吸収を有する増感色素と併用して用いられることが特に好ましい。
【0017】
本発明において好適に用いられるオニウム塩は、スルホニウム塩、ヨードニウム塩、ジアゾニウム塩が好ましく用いられる。特にジアリールヨードニウム塩、トリアリールスルホニウム塩が好ましく用いられる。オニウム塩は、750〜1400nmの波長域に極大吸収を有する赤外線吸収剤と併用して用いられることが特に好ましい。
【0018】
他の重合開始剤としては、当業者間で公知のものを制限なく使用でき、例えば、トリハロメチル化合物、カルボニル化合物、有機過酸化物、アゾ系化合物、アジド化合物、メタロセン化合物、有機ホウ素化合物、ジスルホン化合物、オキシムエステル化合物、オニウム塩化合物、鉄アレーン錯体が挙げられる。
また、その他にも特開2007−171406号、特開2007−206216号、特開2007−206217号、特開2007−225701号、特開2007−225702号、特開2007−316582号、特開2007−328243号の各公報に記載の重合開始剤を使用することができる。
本発明における重合開始剤は単独若しくは2種以上の併用によって好適に用いられる。
感光層中の重合開始剤の使用量は、感光層全固形分中、好ましくは0.01〜20質量%、より好ましくは0.1〜15質量%、更に好ましくは1.0質量%〜10質量%とするのが、感度及び保存安定性の点から好ましい。
【0019】
(B)重合性化合物
本発明における感光層に用いる重合性化合物は、少なくとも一個のエチレン性不飽和二重結合を有する付加重合性化合物であり、末端エチレン性不飽和結合を少なくとも1個、好ましくは2個以上有する化合物から選ばれる。重合性化合物は、例えばモノマー、プレポリマー、すなわち2量体、3量体及びオリゴマー、又はそれらの混合物などの化学的形態をもつ。モノマーの例としては、不飽和カルボン酸(例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、マレイン酸など)や、そのエステル類、アミド類が挙げられ、好ましくは、不飽和カルボン酸と多価アルコール化合物とのエステル、不飽和カルボン酸と多価アミン化合物とのアミド類が用いられる。また、ヒドロキシル基やアミノ基、メルカプト基等の求核性置換基を有する不飽和カルボン酸エステル或いはアミド類と単官能若しくは多官能イソシアネート類或いはエポキシ類との付加反応物、及び単官能若しくは、多官能のカルボン酸との脱水縮合反応物等も好適に使用される。また、イソシアネート基や、エポキシ基等の親電子性置換基を有する不飽和カルボン酸エステル或いはアミド類と単官能若しくは多官能のアルコール類、アミン類、チオール類との付加反応物、更にハロゲン基や、トシルオキシ基等の脱離性置換基を有する不飽和カルボン酸エステル或いはアミド類と単官能若しくは多官能のアルコール類、アミン類、チオール類との置換反応物も好適である。また、別の例として、上記の不飽和カルボン酸の代わりに、不飽和ホスホン酸、スチレン、ビニルエーテル等に置き換えた化合物群を使用することも可能である。
【0020】
多価アルコール化合物と不飽和カルボン酸とのエステルのモノマーの具体例としては、アクリル酸エステルとして、エチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、1,3−ブタンジオールジアクリレート、テトラメチレングリコールジアクリレート、プロピレングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリ(アクリロイルオキシプロピル)エーテル、トリメチロールエタントリアクリレート、ヘキサンジオールジアクリレート、1,4−シクロヘキサンジオールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、ペンタエリスリトールジアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールジアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ソルビトールトリアクリレート、ソルビトールテトラアクリレート、ソルビトールペンタアクリレート、ソルビトールヘキサアクリレート、トリ(アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート、イソシアヌール酸エチレンオキシド(EO)変性トリアクリレート、ポリエステルアクリレートオリゴマー等がある。
【0021】
メタクリル酸エステルとしては、テトラメチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールエタントリメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブタンジオールジメタクリレート、ヘキサンジオールジメタクリレート、ペンタエリスリトールジメタクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ジペンタエリスリトールジメタクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサメタクリレート、ソルビトールトリメタクリレート、ソルビトールテトラメタクリレート、ビス〔p−(3−メタクリルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)フェニル〕ジメチルメタン、ビス−〔p−(メタクリルオキシエトキシ)フェニル〕ジメチルメタン等がある。
【0022】
イタコン酸エステルとしては、エチレングリコールジイタコネート、プロピレングリコールジイタコネート、1,3−ブタンジオールジイタコネート、1,4−ブタンジオールジイタコネート、テトラメチレングリコールジイタコネート、ペンタエリスリトールジイタコネート、ソルビトールテトライタコネート等がある。クロトン酸エステルとしては、エチレングリコールジクロトネート、テトラメチレングリコールジクロトネート、ペンタエリスリトールジクロトネート、ソルビトールテトラクロトネート等がある。イソクロトン酸エステルとしては、エチレングリコールジイソクロトネート、ペンタエリスリトールジイソクロトネート、ソルビトールテトライソクロトネート等がある。マレイン酸エステルとしては、エチレングリコールジマレート、トリエチレングリコールジマレート、ペンタエリスリトールジマレート、ソルビトールテトラマレート等がある。
【0023】
その他のエステルの例として、例えば、特公昭51−47334号、特開昭57−196231号に記載の脂肪族アルコール系エステル類や、特開昭59−5240号、特開昭59−5241号、特開平2−226149号に記載の芳香族系骨格を有するもの、特開平1−165613号に記載のアミノ基を含有するもの等も好適に用いられる。
更に、前述のエステルモノマーは混合物としても使用することができる。
【0024】
また、多価アミン化合物と不飽和カルボン酸とのアミドのモノマーの具体例としては、メチレンビス−アクリルアミド、メチレンビス−メタクリルアミド、1,6−ヘキサメチレンビス−アクリルアミド、1,6−ヘキサメチレンビス−メタクリルアミド、ジエチレントリアミントリスアクリルアミド、キシリレンビスアクリルアミド、キシリレンビスメタクリルアミド等がある。その他の好ましいアミド系モノマーの例としては、特公昭54−21726号に記載のシクロへキシレン構造を有すものを挙げることができる。
【0025】
また、イソシアネートと水酸基の付加反応を用いて製造されるウレタン系付加重合性化合物も好適であり、そのような具体例としては、例えば、特公昭48−41708号に記載されている1分子に2個以上のイソシアネート基を有するポリイソシアネート化合物に、下記一般式(A)で示される水酸基を含有するビニルモノマーを付加させた1分子中に2個以上の重合性ビニル基を含有するビニルウレタン化合物等が挙げられる。
【0026】
CH=C(R)COOCHCH(R)OH (A)
(ただし、R及びRは、H又はCHを示す。)
【0027】
また、光−酸化可能な重合性化合物も好適であり、例えば、特表2007−506125号に記載の少なくとも1個のウレア基及び/又は第三級アミノ基を含有する重合可能な化合物が特に好ましい。具体例には、下記の化合物が挙げられる。
【0028】
【化2】

【0029】
また、特開昭51−37193号公報、特公平2−32293号公報、特公平2−16765号公報に記載されているようなウレタンアクリレート類や、特公昭58−49860号公報、特公昭56−17654号公報、特公昭62−39417号公報、特公昭62−39418号公報に記載のエチレンオキサイド系骨格を有するウレタン化合物類も好適である。更に、特開昭63−277653号公報、特開昭63−260909号公報、特開平1−105238号公報に記載される分子内にアミノ構造やスルフィド構造を有する付加重合性化合物類を用いることによっては、非常に感光スピードに優れた感光層を得ることができる。
【0030】
その他の例としては、特開昭48−64183号公報、特公昭49−43191号公報、特公昭52−30490号公報に記載されているようなポリエステルアクリレート類、エポキシ樹脂と(メタ)アクリル酸を反応させたエポキシアクリレート類等の多官能のアクリレートやメタクリレートを挙げることができる。また、特公昭46−43946号公報、特公平1−40337号公報、特公平1−40336号公報に記載の特定の不飽和化合物や、特開平2−25493号公報に記載のビニルホスホン酸系化合物等も挙げることができる。また、ある場合には、特開昭61−22048号公報に記載のペルフルオロアルキル基を含有する構造が好適に使用される。更に日本接着協会誌Vol.20、No.7、300〜308ページ(1984年)に記載の光硬化性モノマー及びオリゴマーも使用することができる。
【0031】
重合性化合物について、その構造、単独使用か併用か、添加量等の使用方法の詳細は、最終的な平版印刷版原版の性能設計にあわせて任意に設定できる。例えば、次のような観点から選択される。
感度の点では1分子あたりの不飽和基含量が多い構造が好ましく、多くの場合、2官能以上が好ましい。また、画像部すなわち硬化膜の強度を高くするためには、3官能以上のものがよく、更に、異なる官能数・異なる重合性基(例えばアクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、スチレン系化合物、ビニルエーテル系化合物)のものを併用することで、感度と強度の両方を調節する方法も有効である。
また、感光層中の他の成分(例えばバインダーポリマー、重合開始剤、着色剤等)との相溶性、分散性に対しても、重合性化合物の選択・使用法は重要な要因であり、例えば、低純度化合物の使用や、2種以上の併用により相溶性を向上させうることがある。また、支持体や後述の保護層等との密着性を向上せしめる目的で特定の構造を選択することもあり得る。そのほか、重合性化合物の使用法は、酸素に対する重合阻害の大小、解像度、かぶり性、屈折率変化、表面粘着性等の観点から適切な構造、配合、添加量を任意に選択でき、更に場合によっては下塗り、上塗りといった層構成・塗布方法も考慮され得る。
【0032】
重合性化合物は、感光層の全固形分に対して、好ましくは5〜75質量%、更に好ましくは25〜70質量%、特に好ましくは30〜60質量%の範囲で使用される。
【0033】
(C)増感色素
本発明の感光層は増感色素を含有する。増感色素として、例えば350〜450nmの波長域に極大吸収を有する増感色素や、500〜600nmの波長域に極大吸収を有する増感色素、750〜1400nmの波長域に極大吸収を有する赤外線吸収剤を添加することで、各々、当業界で通常用いられている405nmのバイオレットレーザ、532nmのグリーンレーザ、830nmのIRレーザに対応した高感度な平版印刷版原版を提供することができる。
まず、350〜450nmの波長域に極大吸収を有する増感色素について説明する。
この様な増感色素としては、例えば、メロシアニン色素類、ベンゾピラン類、クマリン類、芳香族ケトン類、アントラセン類、等を挙げることができる。
【0034】
350nmから450nmの波長域に吸収極大を持つ増感色素のうち、高感度の観点からより好ましい色素は下記一般式(IX)で表される色素である。
【0035】
【化3】

【0036】
(一般式(IX)中、Aは置換基を有してもよい芳香族環基又はヘテロ環基を表し、Xは酸素原子、硫黄原子又はN−(R)をあらわす。R、R及びRは、それぞれ独立に、一価の非金属原子団を表し、AとR又はRとRはそれぞれ互いに結合して、脂肪族性又は芳香族性の環を形成してもよい。)
【0037】
一般式(IX)について更に詳しく説明する。R、R及びRは、それぞれ独立に、一価の非金属原子団であり、好ましくは、置換若しくは非置換のアルキル基、置換若しくは非置換のアルケニル基、置換若しくは非置換のアリール基、置換若しくは非置換の芳香族複素環残基、置換若しくは非置換のアルコキシ基、置換若しくは非置換のアルキルチオ基、ヒドロキシル基、ハロゲン原子を表す。
【0038】
次に、一般式(IX)におけるAについて説明する。Aは置換基を有してもよい芳香族環基又はヘテロ環基を表し、置換基を有してもよい芳香族環又はヘテロ環としては、一般式(IX)中のR、R及びRで記載した置換若しくは非置換のアリール基、置換若しくは非置換の芳香族複素環残基と同様のものが挙げられる。
【0039】
このような増感色素の具体例としては特開2007−58170号公報〔0047〕〜〔0053〕に記載の化合物が挙げられる。
【0040】
更に、下記一般式(V)又は(VI)で示される増感色素も用いることができる。
【0041】
【化4】

【0042】
【化5】

【0043】
式(V)中、R〜R14は各々独立に、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、シアノ基又はハロゲン原子を表す。但し、R〜R10の少なくとも一つは炭素数2以上のアルコキシ基を表す。
式(VI)中、R15〜R32は各々独立に、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、シアノ基又はハロゲン原子を表す。但し、R15〜R24の少なくとも一つは炭素数2以上のアルコキシ基を表す。
【0044】
このような増感色素の具体例としては、欧州特許出願公開第1349006号、及び、国際公開第2005/029187号に記載の化合物が挙げられる。
【0045】
また、特開2007−171406号、特開2007−206216号、特開2007−206217号、特開2007−225701号、特開2007−225702号、特開2007−316582号、特開2007−328243号に記載の増感色素も用いることができる。
【0046】
続いて、本発明にて好適に用いられる750〜1400nmの波長域に極大吸収を有する増感色素について詳述する。
このような増感色素は、赤外線吸収剤を包含し、赤外線レーザの照射(露光)に対し高感度で電子励起状態となり、かかる電子励起状態に係る電子移動、エネルギー移動、発熱(光熱変換機能)などが、感光層中に併存する重合開始剤に作用して、該重合開始剤に化学変化を生起させてラジカルを生成させるものと推定されている。
いずれせよ、750〜1400nmの波長域に極大吸収を有する増感色素を添加することは、750nm〜1400nmの波長を有する赤外線レーザ光での直接描画される製版に特に好適であり、従来の平版印刷版原版に比べ、高い画像形成性を発現することができる。
【0047】
赤外線吸収剤は、750nm〜1400nmの波長域に吸収極大を有する染料又は顔料であることが好ましい。
【0048】
染料としては、市販の染料及び例えば、「染料便覧」(有機合成化学協会編集、昭和45年刊)等の文献に記載されている公知のものが利用できる。具体的には、アゾ染料、金属錯塩アゾ染料、ピラゾロンアゾ染料、ナフトキノン染料、アントラキノン染料、フタロシアニン染料、カルボニウム染料、キノンイミン染料、メチン染料、シアニン染料、スクワリリウム色素、ピリリウム塩、金属チオレート錯体等の染料が挙げられる。
これらの染料のうち特に好ましいものとしては、シアニン色素、スクワリリウム色素、ピリリウム塩、ニッケルチオレート錯体、インドレニンシアニン色素が挙げられる。更に、シアニン色素やインドレニンシアニン色素が好ましく、特に好ましい例として下記一般式(a)で示されるシアニン色素が挙げられる。
【0049】
【化6】

【0050】
一般式(a)中、Xは、水素原子、ハロゲン原子、−NPh、X−L又は以下に示す基を表す。ここで、Xは酸素原子、窒素原子、又は硫黄原子を示し、Lは、炭素原子数1〜12の炭化水素基、ヘテロ原子(N、S、O、ハロゲン原子、Se)を有する芳香族環、ヘテロ原子を含む炭素原子数1〜12の炭化水素基を示す。Xは後述するZと同様に定義され、Rは、水素原子、アルキル基、アリール基、置換又は無置換のアミノ基、ハロゲン原子より選択される置換基を表す。
【0051】
【化7】

【0052】
及びRは、それぞれ独立に、炭素原子数1〜12の炭化水素基を示す。感光層塗布液の保存安定性から、R及びRは、炭素原子数2個以上の炭化水素基であることが好ましい。また、RとRとが互いに結合し、5員環又は6員環を形成していることも好ましい。
【0053】
Ar、Arは、それぞれ同じでも異なっていてもよく、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を示す。好ましい芳香族炭化水素基としては、ベンゼン環及びナフタレン環が挙げられる。また、好ましい置換基としては、炭素原子数12個以下の炭化水素基、ハロゲン原子、炭素原子数12個以下のアルコキシ基が挙げられる。Y、Yは、それぞれ同じでも異なっていてもよく、硫黄原子又は炭素原子数12個以下のジアルキルメチレン基を示す。R、Rは、それぞれ同じでも異なっていてもよく、置換基を有していてもよい炭素原子数20個以下の炭化水素基を示す。好ましい置換基としては、炭素原子数12個以下のアルコキシ基、カルボキシル基、スルホ基が挙げられる。R、R、R及びRは、それぞれ同じでも異なっていてもよく、水素原子又は炭素原子数12個以下の炭化水素基を示す。原料の入手性から、好ましくは水素原子である。また、Zaは、対アニオンを示す。ただし、一般式(a)で示されるシアニン色素が、その構造内にアニオン性の置換基を有し、電荷の中和が必要ない場合にはZaは必要ない。好ましいZaは、感光層塗布液の保存安定性から、ハロゲンイオン、過塩素酸イオン、テトラフルオロボレートイオン、ヘキサフルオロフォスフェートイオン、及びスルホン酸イオンであり、特に好ましくは、過塩素酸イオン、ヘキサフルオロフォスフェートイオン、及びアリールスルホン酸イオンである。
【0054】
好適に用いることのできる一般式(a)で示されるシアニン色素の具体例としては、特開2001−133969号公報の段落番号[0017]〜[0019]に記載されたものを挙げることができる。
【0055】
また、特に好ましい他の例として、更に、特開2002−278057号に記載の特定インドレニンシアニン色素が挙げられる。
【0056】
顔料としては、市販の顔料及びカラーインデックス(C.I.)便覧、「最新顔料便覧」(日本顔料技術協会編、1977年刊)、「最新顔料応用技術」(CMC出版、1986年刊)、「印刷インキ技術」CMC出版、1984年刊)に記載されている顔料が利用できる。
【0057】
これら増感色素の好ましい添加量は、感光層の全固形分100質量部中、好ましくは0.05〜30質量部、更に好ましくは0.1〜20質量部、最も好ましくは0.2〜10質量部の範囲である。
【0058】
(D)バインダーポリマー
本発明の感光層に用いられるバインダーポリマーとしては、感光層成分を支持体上に担持可能であり、現像液により除去可能であるものが用いられる。バインダーポリマーとしては、(メタ)アクリル系重合体、ポリウレタン、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリビニルホルマール、ポリアミド、ポリエステル、エポキシ樹脂などが用いられる。(メタ)アクリル系重合体、ポリウレタン、ポリビニルブチラールがより好ましく、ポリビニルブチラールが更に好ましい。バインダーポリマーとして親水基を有するポリビニルブチラールを使用することにより、より現像カスを低減することができる。
【0059】
本発明において、「(メタ)アクリル系重合体」とは、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル(アルキルエステル、アリールエステル、アリルエステル、など)、(メタ)アクリルアミド、及び(メタ)アクリルアミド誘導体などの(メタ)アクリル酸誘導体を重合成分として有する共重合体のことを言う。「ポリウレタン」とは、イソシアネート基を2つ以上有する化合物とヒドロキシル基を2つ以上有する化合物の縮合反応により生成されるポリマーのことをいう。
「ポリビニルブチラール」は、ポリ酢酸ビニルを一部又は全てを鹸化して得られるポリビニルアルコールとブチルアルデヒドを酸性条件下で反応(アセタール化反応)させて合成されるポリマーのことを言い、更に、残存したヒドロキシ基と酸基等有する化合物を反応させ方法等により、酸基等を導入したポリマーも含まれる。
【0060】
本発明における(メタ)アクリル系重合体の好適な一例としては、酸基を含有する繰り返し単位を有する共重合体が挙げられる。酸基としては、カルボン酸基、スルホン酸基、ホスホン酸基、リン酸基、スルホンアミド基等が挙げられるが、特にカルボン酸基が好ましく、(メタ)アクリル酸由来の繰り返し単位や下記一般式(I−A)で表されるものが好ましく用いられる。
【0061】
【化8】

【0062】
(一般式(I−A)中、Rは水素原子又はメチル基を表し、Rは単結合又はn+1価の連結基を表す。Aは酸素原子又は−NR−を表し、Rは水素原子又は炭素数1〜10の1価の炭化水素基を表す。nは1〜5の整数を表す。)
【0063】
一般式(I−A)におけるRで表される連結基は、水素原子、炭素原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子及びハロゲン原子からなる群から選択される1種以上の原子から構成されることが好ましく、Rで表される連結基を構成する原子の原子数は好ましくは1〜80である。具体的には、アルキレン基、置換アルキレン基、アリーレン基、置換アリーレン基などが挙げられ、これらの2価の基がアミド結合、エーテル結合、ウレタン結合、ウレア結合、エステル結合のいずれかで複数連結された構造を有していてもよい。Rとしては、単結合、アルキレン基、置換アルキレン基、又は、アルキレン基及び置換アルキレン基の少なくとも一方がアミド結合、エーテル結合、ウレタン結合、ウレア結合及びエステル結合の少なくともいずれかによって複数連結された構造であることが好ましく、単結合、炭素数1〜5のアルキレン基、炭素数1〜5の置換アルキレン基、又は、炭素数1〜5のアルキレン基及び炭素数1〜5の置換アルキレン基の少なくとも一方がアミド結合、エーテル結合、ウレタン結合、ウレア結合及びエステル結合の少なくともいずれかによって複数連結された構造であることが特に好ましく、単結合、炭素数1〜3のアルキレン基、炭素数1〜3の置換アルキレン基、又は、炭素数1〜3のアルキレン基及び炭素数1〜3の置換アルキレン基の少なくとも一方がアミド結合、エーテル結合、ウレタン結合、ウレア結合及びエステル結合の少なくともいずれかによって複数連結された構造であることが最も好ましい。
上記置換アルキレン基及び置換アリーレン基における置換基としては、水素原子を除く1価の非金属原子団を挙げることができ、ハロゲン原子(−F、−Br、−Cl、−I)、ヒドロキシル基、シアノ基、アルコキシ基、アリーロキシ基、メルカプト基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルキルカルボニル基、アリールカルボニル基、カルボキシル基及びその共役塩基基、アルコキシカルボニル基、アリーロキシカルボニル基、カルバモイル基、アリール基、アルケニル基、アルキニル基等が挙げられる。
【0064】
は水素原子又は炭素数1〜5の炭化水素基が好ましく、水素原子又は炭素数1〜3の炭化水素基が特に好ましく、水素原子又はメチル基が最も好ましい。nは1〜3であることが好ましく、1又は2であることが特に好ましく、1であることが最も好ましい。
【0065】
(メタ)アクリル系重合体の全共重合成分に占めるカルボン酸基を有する共重合成分の割合(モル%)は、現像性の観点から、1〜70%が好ましい。現像性と耐刷性の両立を考慮すると、1〜50%がより好ましく、1〜30%が特に好ましい。
上記カルボン酸基含有単位の好ましい具体例としては、下記の例が挙げられる。
【0066】
【化9】

【0067】
本発明に用いられる(メタ)アクリル系重合体は更に架橋性基を有することが好ましい。ここで架橋性基とは、平版印刷版原版を露光した際に感光層中で起こるラジカル重合反応の過程でバインダーポリマーを架橋させる基のことである。このような機能の基であれば特に限定されないが、例えば、付加重合反応し得る官能基としてエチレン性不飽和結合基、アミノ基、エポキシ基等が挙げられる。また光照射によりラジカルになり得る官能基であってもよく、そのような架橋性基としては、例えば、チオール基、ハロゲン基等が挙げられる。なかでも、エチレン性不飽和結合基が好ましい。エチレン性不飽和結合基としては、スチリル基、(メタ)アクリロイル基、アリル基が好ましい。
【0068】
(メタ)アクリル系重合体は、例えば、その架橋性官能基にフリーラジカル(重合開始ラジカル又は重合性化合物の重合過程の生長ラジカル)が付加し、ポリマー間で直接に又は重合性化合物の重合連鎖を介して付加重合して、ポリマー分子間に架橋が形成されて硬化する。又は、ポリマー中の原子(例えば、官能性架橋基に隣接する炭素原子上の水素原子)がフリーラジカルにより引き抜かれてポリマーラジカルが生成し、それが互いに結合することによって、ポリマー分子間に架橋が形成されて硬化する。
【0069】
(メタ)アクリル系重合体中の架橋性基の含有量(ヨウ素滴定によるラジカル重合可能な不飽和二重結合の含有量)は、バインダーポリマー1g当たり、好ましくは0.01〜10.0mmol、より好ましくは0.05〜5.0mmol、最も好ましくは0.1〜2.0mmolである。
【0070】
本発明に用いられる(メタ)アクリル系重合体は、上記酸基を有する繰り返し単位、架橋性基を有する繰り返し単位の他に、(メタ)アクリル酸アルキル又はアラルキルエステルの繰り返し単位、メタ)アクリルアミド又はその誘導体の繰り返し単位、α-ヒドロキシメチルアクリレートの繰り返し単位、スチレン誘導体の繰り返し単位を有していてもよい。(メタ)アクリル酸アルキルエステルのアルキル基は、好ましくは炭素数1〜5のアルキル基、又は、炭素数2〜8の前述の置換基を有するアルキル基であり、メチル基がより好ましい。(メタ)アクリル酸アラルキルエステルとしては、(メタ)アクリル酸ベンジル等が挙げられる。(メタ)アクリルアミド誘導体としては、N−イソプロピルアクリルアミド、N−フェニルメタクリルアミド、N−(4−メトキシカルボニルフェニル)メタアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、モルホリノアクリルアミド等が挙げられる。α−ヒドロキシメチルアクリレートとしては、α−ヒドロキシメチルアクリル酸エチル、α−ヒドロキシメチルアクリル酸シクロヘキシル等が挙げられる。スチレン誘導体としては、スチレン、4−tertブチルスチレン等が挙げられる。
【0071】
本発明におけるポリウレタンの好適な一例としては、特開2007−187836号公報の段落番号〔0099〕〜〔0210〕、特開2008−276155号公報の段落番号〔0019〕〜〔0100〕、特開2005−250438号公報の段落番号〔0018〕〜〔0107〕、特開2005−250158号公報の段落番号〔0021〕〜〔0083〕に記載のポリウレタンを挙げることが出来る。
【0072】
本発明におけるポリビニルブチラールの好適な一例としては、特開2001−75279号公報の段落番号〔0006〕〜〔0013〕に記載のポリビニルブチラールを挙げることができる。
【0073】
また、例えば、下記のような酸基を導入したポリビニルブチラールも好ましく用いられる。
【0074】
【化10】

【0075】
一般式(I−B)において、各繰り返し単位の好ましい比率は、p/q/r/s=50〜78モル%/1〜5モル%/5〜28モル%/5〜20モル%の範囲である。
Ra,Rbは置換基を有してもよい一価の置換基であり、Rc,Rd,Re,Rfはそれぞれ独立に置換基を有してもよい一価の置換基又は単結合であり、mは0又は1の整数である。Ra,Rb,Rc,Rd,Re,Rfの好ましい例としては、水素原子、置換基を有してもよいアルキル基、ハロゲン原子、置換基を有してもよいアリール基が挙げられる。更に好ましくは、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基などの直鎖アルキル基、カルボン酸が置換したアルキル基、ハロゲン原子、フェニル基、カルボン酸が置換したフェニル基が挙げられる。Rc及びRd、Re及びRfはそれぞれ環構造を形成することができる。Rc,とReの結合する炭素原子及びRdとRfの結合する炭素原子間の結合は、単結合又は二重結合又は芳香族性二重結合であり、二重結合又は芳香族性二重結合の場合、Rc及びRd、Re及びRf、Rc及びRf、又は、Re及びRdは、それぞれ結合して単結合を形成する。
【0076】
一般式(I−B)で表されるポリビニルブチラールは、例えば、ポリ酢酸ビニルを一部又は全てを鹸化して得られるポリビニルアルコールとブチルアルデヒドとを酸性条件下で反応(アセタール化反応)させて合成されるポリマーのヒドロキシ基に対して、下記一般式(I−B’)で表される化合物を公知の手法に従って反応させることによって得ることができる。なお、一般式(I−B’)の各基及びmの定義は、一般式(I−B)と同様である。
【0077】
【化11】

【0078】
更に、本発明におけるバインダーポリマーの好適な一例である、酸基を含有するポリマーの酸基は、塩基性化合物で中和されていても良く、特に、アミノ基、アミジン基、グアニジン基等の塩基性窒素を含有する化合物で中和されていることが好ましい。更に、塩基性窒素を含有する化合物がエチレン性不飽和基を有することも好ましい。具体的な化合物としては、国際公開第2007/057442号記載の化合物が挙げられる。
【0079】
バインダーポリマーは、質量平均分子量が5000以上であるのが好ましく、1万〜30万であるのがより好ましく、また、数平均分子量が1000以上であるのが好ましく、2000〜25万であるのがより好ましい。多分散度(質量平均分子量/数平均分子量)は、1.1〜10であるのが好ましい。
バインダーポリマーは単独で用いても2種以上を混合して用いてもよい。バインダーポリマーの含有量は、良好な画像部の強度と画像形成性の観点から、感光層の全固形分に対して、5〜75質量%が好ましく、10〜70質量%がより好ましく、10〜60質量%であるのが更に好ましい。また、重合性化合物及びバインダーポリマーの合計含有量は、感光層の全固形分に対して、80質量%以下であることが好ましい。80質量%を超えると、感度の低下、現像性の低下を引き起こす場合がある。より好ましくは35〜75質量%である。
【0080】
本発明においては、平版印刷版原版の感光層中の重合性化合物とバインダーポリマーの割合を調節することにより、現像液の感光層への浸透性がより向上し、現像性が更に向上する。即ち、感光層中の重合性化合物/バインダーポリマーの質量比は、1.2以上が好ましく、より好ましくは1.25〜4.5、最も好ましくは、2〜4である。
【0081】
(その他の感光層成分)
感光層は、高い感度を得るために、欧州特許第107792号明細書に記載されているようなラジカル連鎖移動剤を更に含有してもよい。連鎖移動剤としては、例えば、分子内にSH、PH、SiH、GeHを有する化合物群が用いられる。これらは、低活性のラジカル種に水素供与して、ラジカルを生成するか、若しくは、酸化された後、脱プロトンすることによりラジカルを生成しうる。好ましい連鎖移動剤は、硫黄含有化合物、特に例えば2−メルカプトベンゾチアゾール、2−メルカプトベンゾキサゾール又は2−メルカプト−ベンズイミダゾールのようなチオール類である。連鎖移動剤の量は一般的に、感光層の全固形分中、好ましくは0.01〜10質量%、更に好ましくは0.1〜2質量%の範囲である。
前記感光層には、更に、必要に応じて種々の添加剤を含有させることができる。添加剤としては、現像性の促進及び塗布面状を向上させるための界面活性剤、現像性と耐刷性両立の為のマイクロカプセル、現像性の向上やマイクロカプセルの分散安定性向上などのための親水性ポリマー、画像部と非画像部を視認するための着色剤や焼き出し剤、感光層の製造中又は保存中のラジカル重合性化合物の不要な熱重合を防止するための重合禁止剤、酸素による重合阻害を防止するための高級脂肪酸誘導体、画像部の硬化皮膜強度向上のための無機微粒子、現像性向上のための親水性低分子化合物、感度向上の為の共増感剤、可塑性向上のための可塑剤等を添加することができる。これの化合物はいずれも公知のものを使用でき、例えば、特開2007−206217号公報の段落番号〔0161〕〜〔0215〕に記載の化合物を使用することができる。
【0082】
<感光層の形成>
前記感光層は、必要な上記各成分を溶剤に分散又は溶解して塗布液を調製し、塗布して形成される。ここで使用する溶剤としては、メチルエチルケトン、エチレングリコールモノメチルエーテル、1−メトキシ−2−プロパノール、2−メトキシエチルアセテート、1−メトキシ−2−プロピルアセテート、γ−ブチルラクトン等を挙げることができるが、これに限定されるものではない。これらの溶剤は、単独又は混合して使用される。塗布液の固形分濃度は、好ましくは1〜50質量%である。
【0083】
また塗布、乾燥後に得られる支持体上の感光層塗布量(固形分)は、0.3〜3.0g/mが好ましい。塗布する方法としては、種々の方法を用いることができる。例えば、バーコーター塗布、回転塗布、スプレー塗布、カーテン塗布、ディップ塗布、エアーナイフ塗布、ブレード塗布、ロール塗布等を挙げられる。
【0084】
<保護層>
本発明の平版印刷版の作製方法において用いられる平版印刷版原版には、露光時の重合反応を妨害する酸素の拡散侵入を遮断するため、感光層上に保護層(酸素遮断層)が設けられる。
本発明の保護層は、下記一般式(I)の繰り返し単位を有し、かつ、ヒドロキシル基を含有する繰り返し単位の全繰り返し単位に対する含有率が70モル%以下である重合体(E)を含有する。重合体(E)の全繰り返し単位に対するヒドロキシル基を含有する繰り返し単位の含有率が70モル%を超えると、水素結合の凝集により、保護層成分の現像液に対する溶解性が落ちるため、特に処理安定性が低くなる。このような観点から、重合体(E)の全繰り返し単位に対するヒドロキシル基を含有する繰り返し単位の含有率は、50モル%以下が好ましく、30モル%以下がより好ましく、10モル%以下が更に好ましい。重合体(E)は、ヒドロキシル基を含有する繰り返し単位を含有しないことが好ましいが、含有しても良く、含有する場合、ヒドロキシル基を含有する繰り返し単位の全繰り返し単位に対する含有率は、通常、0.01モル%以上である。
【0085】
【化12】

【0086】
式中、Rは水素原子又は置換基を有していてもよいアルキル基を表す。
Xは酸素原子、硫黄原子又は−NR−を表す。Rは水素原子又は置換基を有してもよいアルキル基を表す。
Lは単結合又は連結基を表す。
Yは−SOM,−PO又は−COOMを表す。Mはそれぞれ独立に水素原子、アルカリ金属原子、又はオニウム基を表す。
nは0以上の整数を表す。
【0087】
Rとしてのアルキル基は、炭素数1〜5のアルキル基が好ましく、炭素数1〜3のアルキル基がより好ましく、メチル基又はエチル基が更に好ましく、メチル基が最も好ましい。Rとしてのアルキル基は、置換基を更に有してもよく、そのような更なる置換基としては、ハロゲン原子、アルコキシ基(好ましくは炭素数1〜10)等を挙げることができる。
Lの連結基としては、直鎖状であっても、分岐状であってもよく、炭素数1〜15の2価の連結基が好ましく、なかでも炭素数1〜10のアルキレン基、炭素数6〜10のアリーレン基及び炭素数7〜15のアラルキレン基が好ましく、炭素数1〜5のアルキレン基がより好ましい。また、Lの連結基としては、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシドなどのポリアルキレンオキシド基も好ましく用いることができる。アルキレンオキシド単位の好ましい繰り返し数は、1〜50個であり、より好ましくは1〜10個、更に好ましくは1〜5個である。
Mのアルカリ金属原子としては、ナトリウム、カリウム等を挙げることができる。
Mのオニウム基としては、窒素原子、リン原子又は硫黄原子を含むオニウム塩であることが好ましく、窒素原子を含むオニウム塩であることがより好ましい。窒素原子を含むオニウム塩としては、アンモニウム塩などを好適に挙げることができる。
Xは、−NR−であることが好ましい。Rは水素原子又は置換基を有してもよいアルキル基を表す。Rとしての置換基を有してもよいアルキル基としては、Rで説明したものと同様のものを挙げることができる。
Yは、保護層の現像液への溶解性の観点から−SOMで表されることが好ましい。
また、Yの具体例としては、保護層の現像液への溶解性の観点から、−SOH、−SONa、−COONaが好ましく、−SONaがより好ましい。
nは0〜5の整数であることが好ましく、0〜3の整数であることがより好ましく、0又は1であることが更に好ましく、1であることが最も好ましい。
【0088】
重合体(E)を構成する全繰り返し単位に対する一般式(I)の繰り返し単位のモル比率は、一般的には5〜100モル%、好ましくは7〜50モル%、より好ましくは9〜25モル%である。
以下、一般式(I)で表される繰り返し単位の具体例を以下に挙げるが、本発明はこれらに限定されない。以下の具体例中、R’は、水素原子又はメチル基を表す。
【0089】
【化13】

【0090】
本発明に用いられる重合体(E)は、一般式(I)で表される繰り返し単位の他に、(メタ)アクリル酸アルキルエステルの繰り返し単位、(メタ)アクリル酸アラルキルエステルの繰り返し単位、(メタ)アクリルアミド又はその誘導体の繰り返し単位、α−ヒドロキシメチルアクリレートの繰り返し単位、スチレン誘導体の繰り返し単位などのその他の繰り返し単位を更に含有する共重合体であってもよい。
(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル等が挙げられる。(メタ)アクリル酸アラルキルエステルとしては、(メタ)アクリル酸ベンジル等が挙げられる。(メタ)アクリルアミド誘導体としては、N−イソプロピルアクリルアミド、N−フェニルメタクリルアミド、N−(4−メトキシカルボニルフェニル)メタアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、モルホリノアクリルアミド等が挙げられる。α−ヒドロキシメチルアクリレートとしては、α−ヒドロキシメチルアクリル酸エチル、α−ヒドロキシメチルアクリル酸シクロヘキシル等が挙げられる。スチレン誘導体としては、スチレン、4−tertブチルスチレン、p−スチレンスルホン酸の金属塩等が挙げられる。
その他の繰り返し単位は、(メタ)アクリル酸アルキルエステルであることが好ましい。
その他の繰り返し単位は、1種で使用しても、2種以上を併用してもよい。
重合体(E)を構成する全繰り返し単位に対するその他の繰り返し単位のモル比率は、一般的には10〜90モル%、好ましくは10〜70モル%、より好ましくは10〜50モル%である。
【0091】
本発明の重合体(E)の具体例として下記化合物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0092】
【化14】

【0093】
【化15】

【0094】
重合体(E)の質量平均分子量(GPC法、ポリスチレン換算)は5000〜100000が好ましく、更には10000〜50000が好ましい。
重合体(E)は、市販のものを使用してもよいし、ラジカル重合法など公知の方法で合成したものを使用してもよい。
保護層への重合体(E)の添加量としては、保護層の全固形分に対して、0質量%超過50質量%未満が好ましく、より好ましくは1.0〜10.0質量%、更に好ましくは1.0〜5.0質量%、特に好ましくは1.5〜2.9質量%である。
【0095】
保護層は、前記一般式(I)で表される繰り返し単位を有する重合体とは異なる水溶性高分子化合物を更に含有することが好ましい。水溶性高分子化合物としては、例えば、ポリビニルアルコール、ビニルアルコール/フタル酸ビニル共重合体、酢酸ビニル/ビニルアルコール/フタル酸ビニル共重合体、ポリビニルピロリドン、酸性セルロース類、ゼラチン、アラビアゴム、ポリウレタンなどのような水溶性ポリマーが挙げられ、これらは単独又は混合して使用できる。これらの内、比較的結晶性に優れた水溶性高分子化合物を用いることが好ましく、具体的には、ポリビニルアルコールを主成分として用いることが、酸素遮断性、現像除去性といった基本特性的にもっとも良好な結果を与える。
【0096】
保護層に使用するポリビニルアルコールは、必要な酸素遮断性と水溶性を有するための、未置換ビニルアルコール単位を含有する限り、一部がエステル、エーテル、及びアセタールで置換されていても良い。また、同様に一部が他の共重合成分を有していても良い。ポリビニルアルコールはポリ酢酸ビニルを加水分解することにより得られるが、ポリビニルアルコールの具体例としては加水分解度が71〜100モル%、繰り返し単位が300から2400の範囲のものをあげることができる。
具体的には、株式会社クラレ製のPVA−105、PVA−110、PVA−117、PVA−117H、PVA−120、PVA−124、PVA−124H、PVA−CS、PVA−CST、PVA−HC、PVA−203、PVA−204、PVA−205、PVA−210、PVA−217、PVA−220、PVA−224、PVA−217EE、PVA−217E、PVA−220E、PVA−224E、PVA−405、PVA−420、PVA−613、L−8等が挙げられ、これらは単独又は混合して使用できる。
ケン化度の異なる少なくとも2種のポリビニルアルコールを併用してもよい。ケン化度90〜100モル%のポリビニルアルコールと、ケン化度71〜90モル%のポリビニルアルコールとの併用が好ましい。
また、ポリビニルアルコールとしては、公知の変性ポリビニルアルコールも好ましく用いることができる。特に、カルボン酸基又はスルホン酸基を有する酸変性ポリビニルアルコールが好ましく用いられる。具体例としては、カルボン酸変性ポリビニルアルコールとして、例えば、株式会社クラレ製KL−118(ケン化度97モル%、平均重合度1,800)、KM−618(ケン化度94モル%、平均重合度1,800)、KM−118(ケン化度97モル%、平均重合度1,800)、KM−106(ケン化度98.5モル%、平均重合度600)、日本合成化学工業株式会社製の、ゴーセナールT−330H(ケン化度99モル%、平均重合度1700)、ゴーセナールT−330(ケン化度96.5モル%、平均重合度1700)、ゴーセナールT−350(ケン化度94モル%、平均重合度1,700)、ゴーセナールT−230(ケン化度96.5モル%、平均重合度1,500)、ゴーセナールT−215(ケン化度96.5モル%、平均重合度1,300)、ゴーセナールT−HS−1(ケン化度99モル%、平均重合度1,300)、日本酢ビ・ポバール株式会社製の、AF−17(ケン化度96.5モル%、平均重合度1,700)、AT−17(ケン化度93.5モル%、平均重合度1,700)が挙げられる。
また、スルホン酸変性ポリビニルアルコールとして、例えば、株式会社クラレ製の、SK−5102(ケン化度98モル%、平均重合度200)、日本合成化学工業株式会社製の、ゴーセランCKS−50(ケン化度99モル%、平均重合度300)、L−3266(ケン化度88モル%、平均重合度300)が挙げられる。
前記一般式(I)で表される繰り返し単位を有する重合体とは異なる水溶性高分子化合物の保護層中の含有率は好ましくは20〜98質量%、より好ましくは30〜95質量%である。
【0097】
保護層の他の組成物として、グリセリン、ジプロピレングリコール等を保護層の全固形分に対して数質量%相当量添加して可撓性を付与することができ、また、アルキル硫酸ナトリウム、アルキルスルホン酸ナトリウム等のアニオン界面活性剤;アルキルアミノカルボン酸塩、アルキルアミノジカルボン酸塩等の両性界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル等の非イオン界面活性剤を保護層の全固形分に対して数質量%添加することができる。
【0098】
更に、保護層には、酸素遮断性や感光層表面保護性を向上させる目的で、特開2006−106700号公報〔0018〕〜〔0024〕に記載のような無機質の層状化合物を含有させることも好ましい。無機質の層状化合物の中でも、合成の無機質の層状化合物であるフッ素系の膨潤性合成雲母が特に有用である。
無機質の層状化合物の粒子径は、その平均長径が0.3〜20μm、好ましくは0.5〜5μmである。また、該粒子の平均の厚さは、0.1μm以下、好ましくは、0.05μm以下、特に好ましくは、0.01μm以下である。
保護層中の無機質層状化合物の含有量は、保護層に含有される全ての高分子化合物(一般式(I)で表される繰り返し単位を有する重合体も含む)の量に対し、質量比で5/1〜1/100であることが好ましい。複数種の無機質の層状化合物を併用した場合でも、これら無機質の層状化合物の合計量が上記の質量比であることが好ましい。
【0099】
保護層の塗布量としては、乾燥後の塗布量で、0.05〜10g/mの範囲であることが好ましく、無機質の層状化合物を含有する場合には、0.1〜5g/mの範囲であることが更に好ましく、無機質の層状化合物を含有しない場合には、0.5〜5g/mの範囲であることが更に好ましい。
【0100】
<親水性支持体>
本発明において用いられる親水性支持体は、特に限定されず、寸度的に安定な板状な親水性支持体であればよい。特に、アルミニウム板が好ましい。アルミニウム板を使用するに先立ち、粗面化処理、陽極酸化処理等の表面処理を施すのが好ましい。アルミニウム板表面の粗面化処理は、種々の方法により行われるが、例えば、機械的粗面化処理、電気化学的粗面化処理(電気化学的に表面を溶解させる粗面化処理)、化学的粗面化処理(化学的に表面を選択溶解させる粗面化処理)が挙げられる。これらの処理については、特開2007−206217の段落番号〔0241〕〜〔0245〕に記載された方法を好ましく用いることができる。
親水性支持体は、中心線平均粗さが0.10〜1.2μmであるのが好ましい。この範囲内で、感光層との良好な密着性、良好な耐刷性と良好な汚れ難さが得られる。
また、親水性支持体の色濃度としては、反射濃度値として0.15〜0.65であるのが好ましい。この範囲内で、画像露光時のハレーション防止による良好な画像形成性と現像後の良好な検版性が得られる。
親水性支持体の厚さは0.1〜0.6mmであるのが好ましく、0.15〜0.4mmであるのがより好ましく、0.2〜0.3mmであるのが更に好ましい。
【0101】
<支持体親水化処理、下塗り層>
本発明においては、非画像部領域の親水性を向上させ印刷汚れを防止するために、親水性支持体表面の親水化処理を行ったり、親水性支持体と感光層との間に下塗り層を設けることができる。
【0102】
親水性支持体表面の親水化処理としては、親水性支持体をケイ酸ナトリウム等の水溶液に浸漬処理又は電解処理するアルカリ金属シリケート処理、フッ化ジルコン酸カリウムで処理する方法、ポリビニルホスホン酸で処理する方法等が挙げられるが、ポリビニルホスホン酸水溶液に浸漬処理する方法が好ましく用いられる。
【0103】
下塗り層としては、ホスホン酸、リン酸、スルホン酸などの酸基を有する化合物を有する下塗り層が好ましく用いられる。これらの化合物は、感光層との密着性を向上させる為に、更に重合性基を含有することが好ましい。更にエチレンオキシド基などの親水性付与基を有する化合物も好適な化合物として挙げることができる。これらの化合物は低分子でも高分子ポリマーであってもよい。特開平10−282679号公報に記載されている付加重合可能なエチレン性二重結合反応基を有しているシランカップリング剤、特開平2−304441号公報記載のエチレン性二重結合反応基を有しているリン化合物などが好適に挙げられる。
最も好ましい下塗り層としては、特開2005−238816号公報、特開2005−125749号公報、特開2006−239867号公報、特開2006−215263号公報記載の架橋性基(好ましくは、エチレン性不飽和結合基)、支持体表面に相互作用する官能基及び親水性基を有する低分子又は高分子化合物を含有するものが挙げられる。
【0104】
下塗り層の塗布量(固形分)は、0.1〜100mg/mであるのが好ましく、1〜30mg/mであるのがより好ましい。
【0105】
<バックコート層>
また、必要に応じて、親水性支持体の裏面にバックコートを設けることができ、例えば、支持体に表面処理を施した後又は下塗り層を形成させた後、親水性支持体の裏面にバックコートを形成することができる。
バックコートとしては、例えば、特開平5−45885号公報に記載されている有機高分子化合物、特開平6−35174号公報に記載されている有機金属化合物又は無機金属化合物を加水分解及び重縮合させて得られる金属酸化物からなる被覆層が好適に挙げられる。中でも、Si(OCH、Si(OC、Si(OC、Si(OC等のケイ素のアルコキシ化合物を用いるのが、原料が安価で入手しやすい点で好ましい。
【0106】
〔本発明の平版印刷版の作製方法〕
本発明の平版印刷版の作製方法は、前記平版印刷版原版を、レーザー露光した後、界面活性剤を含有する現像液の存在下、保護層及び非露光部の感光層を同時に除去する現像工程を含み、かつ、水洗工程を含まない(すなわち、上記レーザー露光する露光工程後から現像工程の間及び現像工程後に水洗工程を行わない)。即ち、本発明の平版印刷版の作製方法において、現像工程は、現像液を含む一浴で(現像槽1つで)で行うことができる。
各工程について詳しく説明する。
【0107】
<露光工程>
露光工程は現像処理に先立って、平版印刷版原版を、線画像、網点画像等を有する透明原画を通してレーザー露光するかデジタルデータによるレーザー光走査等で画像様に露光することにより行われる。
望ましい光源の波長は300nmから450nm又は750nmから1400nmの波長が好ましく用いられる。300nmから450nmの場合は、この領域に吸収極大を有する増感色素を感光層に有する平版印刷版原版が用いられ、750nmから1400nmの場合は、この領域に吸収を有する増感色素である赤外線吸収剤を含有する平版印刷版原版が用いられる。300nmから450nmの光源としては、半導体レーザーが好適である。750nmから1400nmの光源としては、赤外線を放射する固体レーザー及び半導体レーザーが好適である。露光機構は、内面ドラム方式、外面ドラム方式、フラットベッド方式等の何れでもよい。
【0108】
<現像工程>
本発明における平版印刷版原版を画像露光して現像処理を行うことで平版印刷版を作製する。現像処理としては、pHが2.0〜10.9の現像液を含む一浴にて現像する方法が好ましい。このような一浴現像によれば、現像後得られた印刷版について、水洗による現像液の除去を行わずとも、印刷機に装着して、印刷を行うことができる。また、保護層は、重合体(E)を含有しているので、この範囲のpHの現像液への溶解性に優れ、現像性が良好であり、現像カスの発生を抑制することができる。
現像の温度は、通常0〜60℃程度、好ましくは10〜50℃、より好ましくは15〜40℃である。
本発明における現像処理は、露光処理した平版印刷版原版を現像液に浸漬してブラシで擦る方法、スプレーにより現像液を吹き付けてブラシで擦る方法等により行うことができる。たとえば、現像液の供給手段及び擦り部材を備えた自動現像処理機により好適に実施することができる。擦り部材として、回転ブラシロールを用いる自動現像処理機が特に好ましい。
更に自動処理機は現像処理手段の後に、スクイズローラー等の余剰の現像液を除去する手段や、温風装置等の乾燥手段を備えていることが好ましい。
自動現像処理機の具体例は後述する。
【0109】
(現像液)
本発明の平版印刷版の作製方法において使用される界面活性剤を含有する現像液は、水を主成分(水を60質量%以上含有)とする水溶液であるのが好ましい。現像液のpHは、好ましくは2.0〜10.9であり、より好ましくは5.0〜10.7、更に好ましくは6.0〜10.5、最も好ましくは6.9〜10.3である。
なお、現像液は、アルカリ剤を含有しても良い。アルカリ剤を含有する場合は、pHが9.0〜10.9の範囲にあることが好ましい態様であり、より好ましいpHは、9.3〜10.5、更に好ましくは、9.4〜10.2である。アルカリ剤を含有しない場合は、pHが2.0〜9.0の範囲にあることが好ましい態様であり、より好ましいpHは、4.0〜8.0、更に好ましくは、4.5〜7.5である。
【0110】
また、本発明に用いられる現像液は界面活性剤を含有する。この際、用いられる界面活性剤としては、アニオン系、ノニオン系、カチオン系、両性イオン系等を挙げることができる。
【0111】
前記アニオン系界面活性剤としては、特に限定されないが、脂肪酸塩類、アビエチン酸塩類、ヒドロキシアルカンスルホン酸塩類、アルカンスルホン酸塩類、ジアルキルスルホコハク酸塩類、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩類、分岐鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩類、アルキルナフタレンスルホン酸塩類、アルキルジフェニルエーテル(ジ)スルホン酸塩類、アルキルフェノキシポリオキシエチレンプロピルスルホン酸塩類、ポリオキシエチレンアルキルスルホフェニルエーテル塩類、N−メチル−N−オレイルタウリンナトリウム類、N−アルキルスルホコハク酸モノアミド二ナトリウム塩類、石油スルホン酸塩類、硫酸化ヒマシ油、硫酸化牛脂油、脂肪酸アルキルエステルの硫酸エステル塩類、アルキル硫酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩類、脂肪酸モノグリセリド硫酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩類、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテル硫酸エステル塩類、アルキル燐酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルエーテル燐酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル燐酸エステル塩類、スチレン−無水マレイン酸共重合物の部分けん化物類、オレフィン−無水マレイン酸共重合物の部分けん化物類、ナフタレンスルホン酸塩ホルマリン縮合物類等が挙げられる。これらの中でも、アルキルベンゼンスルホン酸塩類、アルキルナフタレンスルホン酸塩類、アルキルジフェニルエーテル(ジ)スルホン酸塩類が特に好ましく用いられる。
【0112】
前記カチオン系界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、アルキルアミン塩類、第四級アンモニウム塩類、ポリオキシエチレンアルキルアミン塩類、ポリエチレンポリアミン誘導体が挙げられる。
【0113】
前記ノニオン系界面活性剤としては、特に限定されないが、ポリエチレングリコール型の高級アルコールエチレンオキサイド付加物、アルキルフェノールエチレンオキサイド付加物、アルキルナフトールエチレンオキサイド付加物、フェノールエチレンオキサイド付加物、ナフトールエチレンオキサイド付加物、脂肪酸エチレンオキサイド付加物、多価アルコール脂肪酸エステルエチレンオキサイド付加物、高級アルキルアミンエチレンオキサイド付加物、脂肪酸アミドエチレンオキサイド付加物、油脂のエチレンオキサイド付加物、ポリプロピレングリコールエチレンオキサイド付加物、ジメチルシロキサン−エチレンオキサイドブロックコポリマー、ジメチルシロキサン−(プロピレンオキサイド−エチレンオキサイド)ブロックコポリマー等や、多価アルコール型のグリセロールの脂肪酸エステル、ペンタエリスリトールの脂肪酸エステル、ソルビトール及びソルビタンの脂肪酸エステル、ショ糖の脂肪酸エステル、多価アルコールのアルキルエーテル、アルカノールアミン類の脂肪酸アミド等が挙げられる。この中でも、芳香環とエチレンオキサイド鎖を有するものが好ましく、アルキル置換又は無置換のフェノールエチレンオキサイド付加物又は、アルキル置換又は無置換のナフトールエチレンオキサイド付加物がより好ましい。
【0114】
前記両性イオン系界面活性剤としては、特に限定されないが、アルキルジメチルアミンオキシドなどのアミンオキシド系、アルキルベタインなどのベタイン系、アルキルアミノ脂肪酸ナトリウムなどのアミノ酸系が挙げられる。
特に、置換基を有してもよいアルキルジメチルアミンオキシド、置換基を有してもよいアルキルカルボキシベタイン、置換基を有してもよいアルキルスルホベタインが好ましく用いられる。これらの具体例は、特開2008−203359号公報〔0255〕〜〔0278〕、特開2008−276166号公報〔0028〕〜〔0052〕等に記載されているものを挙げることができる。
【0115】
界面活性剤は2種以上用いてもよく、現像液中の界面活性剤の含有量は、0.01〜20質量%が好ましく、0.1〜10質量%がより好ましい。
【0116】
また、本発明の現像液は、水溶性高分子化合物を含有してもよい。水溶性高分子化合物としては、大豆多糖類、変性澱粉、アラビアガム、デキストリン、繊維素誘導体(例えばカルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、メチルセルロース等)及びその変性体、プルラン、ポリビニルアルコール及びその誘導体、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド及びアクリルアミド共重合体、ビニルメチルエーテル/無水マレイン酸共重合体、酢酸ビニル/無水マレイン酸共重合体、スチレン/無水マレイン酸共重合体、ポリスチレンスルホン酸などが挙げられる。
【0117】
上記大豆多糖類は、公知のものが使用でき、例えば市販品として商品名ソヤファイブ(不二製油(株)製)があり、各種グレードのものを使用することができる。好ましく使用できるものは、10質量%水溶液の粘度が10〜100mPa/secの範囲にあるものである。
【0118】
上記変性澱粉も、公知のものが使用でき、トウモロコシ、じゃがいも、タピオカ、米、小麦等の澱粉を酸又は酵素等で1分子当たりグルコース残基数5〜30の範囲で分解し、更にアルカリ中でオキシプロピレンを付加する方法等で作ることができる。
【0119】
水溶性高分子化合物は2種以上を併用することもできる。水溶性高分子化合物の現像液中における含有量は、0.1〜20質量%が好ましく、より好ましくは0.5〜10質量%である。
【0120】
本発明で使用する現像液は、更にpH緩衝剤を含有することが好ましい。
本発明のpH緩衝剤としては、pH2〜10.9に緩衝作用を発揮する緩衝剤が好ましく、弱アルカリ性のpH緩衝剤がより好ましく用いられる。具体的には、(a)炭酸イオン及び炭酸水素イオン、(b)ホウ酸イオン、(c)水溶性有機アミン化合物及びその水溶性有機アミン化合物のイオン、及びそれらの併用などが挙げられる。すなわち、例えば(a)炭酸イオン−炭酸水素イオンの組み合わせ、(b)ホウ酸イオン、又は(c)水溶性有機アミン化合物−その水溶性有機アミン化合物のイオンの組み合わせなどが、現像液においてpH緩衝作用を発揮し、現像液を長期間使用してもpHの変動を抑制でき、pHの変動による現像性低下、現像カス発生等を抑制できる。特に好ましくは、(a)炭酸イオン及び炭酸水素イオンの組み合わせ及び(c)水溶性有機アミン化合物及びその水溶性有機アミン化合物のイオンの組み合わせである。
【0121】
炭酸イオン、炭酸水素イオンを現像液中に存在させるには、炭酸塩と炭酸水素塩を現像液に加えてもよいし、炭酸塩又は炭酸水素塩を加えた後にpHを調整することで、炭酸イオンと炭酸水素イオンを発生させてもよい。炭酸塩及び炭酸水素塩は、特に限定されないが、アルカリ金属塩であることが好ましい。アルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウムが挙げられ、ナトリウムが特に好ましい。これらは単独でも、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0122】
pH緩衝剤として(a)炭酸イオンと炭酸水素イオンの組み合わせを採用するとき、炭酸イオン及び炭酸水素イオンの総量は、現像液に対して0.05〜5mol/Lが好ましく、0.1〜2mol/Lがより好ましく、0.2〜1mol/Lが特に好ましい。
【0123】
水溶性有機アミン化合物及びその水溶性有機アミン化合物のイオンは、特に限定されないが、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N−ヒドロキシエチルモルホリン、及び4−ジメチルアミノピリジンから選択されることが好ましい。これらは単独でも、二種以上を組み合わせて用いてもよい。これらを用いることにより、中性に近いpH領域においても、良好な現像性、処理安定性が得られる。
【0124】
上記pH緩衝剤として、(c)水溶性有機アミン化合物及びその水溶性有機アミン化合物のイオンを用いる場合には、その使用量は、現像液中のモル濃度で0.005〜5mol/Lが好ましく、0.01〜2mol/Lがより好ましく、0.01〜1mol/Lが特に好ましい。
【0125】
現像液は、酵素(好ましくは加水分解酵素)を含有してもよい。酵素が導入された現像液にて処理することにより、現像液中にてエチレン性不飽和化合物が加水分解等され、親水性が向上するため、汚れ防止性の向上および現像カスの発生を抑制することができる。さらに、エステル基を加水分解する場合には、極性変換(疎水性から親水性への極性変換)を利用しているため、画像部への現像液浸透が起こりにくくなっており、感度、耐刷性を維持したまま、汚れ防止性の向上および現像カスの発生を抑制することができる。
【0126】
本発明に用いられる酵素は、光重合性感光層を有する平版印刷版原版の現像処理における現像カスの発生を抑制する作用を示すものであれば、その種類については特に限定されず、八木達彦ら編「酵素ハンドブック(第3版)」(朝倉書店)に記載されているような群の酵素であれば任意に用いることができる。特に、重合性化合物(エチレン性不飽和化合物)を分解・可溶化させるという目的からは、国際生化学分子生物学連合(IUBMB)酵素委員会の酵素番号(EC番号)のEC3.群に属する加水分解酵素を用いることが好ましい。エチレン性不飽和化合物は多くの場合、炭素原子、水素原子、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、リン原子、ハロゲン原子などから構成されることから、カルボン酸エステル結合を加水分解する酵素、リン酸エステルを加水分解する酵素、硫酸エステルを加水分解する酵素、エーテル結合を加水分解する酵素、チオエーテル構造を加水分解する酵素、ペプチド結合を加水分解する酵素、炭素−窒素結合を加水分解する酵素、炭素−炭素結合を加水分解する酵素、炭素−ハロゲン結合を加水分解する酵素等が好ましい酵素として挙げられ、より好ましくは、エステル結合、アミド結合、3級アミノ基、ウレタン結合、ウレア結合、チオウレタン結合、及び、チオウレア結合よりなる群から選択される少なくとも1つを加水分解する酵素である。
【0127】
これらの中でも、特にEC3.1群(エステル加水分解酵素)、EC3.4群(ペプチド結合加水分解酵素)に属するものが好ましく、EC3.1.1.3(トリアシルグリセロールリパーゼ)、EC3.4.11.1(ロイシンアミノペプチダーゼ(leucyl aminopeptidase))、EC3.4.21.62(サブチリシン(subtilisin))、EC3.4.21.63(オルリジン(oryzin))、EC3.4.22.2(パパイン(papain))、EC3.4.22.32(stem bromelain)、EC3.4.23.18(aspergillo pepsin I)、EC3.4.24.25(ビブリオリシン)、EC3.4.24.27(テルモリシン(thermolysin))、及び、EC3.4.24.28(バシロリシン(bacillolysin))が好ましい。さらに、EC3.1.1.3、EC3.4.21.14、EC3.4.21.62、EC3.4.21.63が最も好ましい。
【0128】
さらに、前述した通り、本発明において、現像液のpHは、現像性と環境の面から、2.0〜10.9が好ましく、5.0〜10.7がより好ましく、6.0〜10.5がさらに好ましく、6.9〜10.3が特に好ましい。
この観点から、酵素としては、アルカリ酵素が好ましく用いられる。ここでアルカリ酵素とは至適pH領域がアルカリ性にある酵素であり、至適pH領域を7.0〜11.0に有する酵素が好ましく、至適温度領域を20℃〜60℃に有する酵素が好ましく、30℃〜55℃に有する酵素がより好ましい。
【0129】
具体的には、アルカリプロテアーゼ、アルカリリパーゼ等、アルカリ条件下において主にモノマーのエステル基の加水分解が可能な酵素が好ましい。アルカリプロテアーゼとしては、Bacillus subtilis、Aspergillus oryzae、Bacillus stearothermophilus、パパイヤラテックス、パパイヤ、Ananas comosus M、Pig pancreas、Bacillus licheniformis、Aspergillus melleus、Aspergillus sp.、Bacillus lentus、Bacillus sp.、Bacillus clausii、アルカリリパーゼとしては、Candida cylindracea、Humicola lanuginosa、Psudomonas、Mucor sp.,Chromobacterium viscosum、Rhizopus japonics、Aspergillus niger、Mucor javanicus、Penicillium camemberti、Rhizopus oryzae、Candida rugosa、Penicillium roqueforti、Rhizopus delemar、Psendomonas sp.、Aspergillus sp.、Rhizomucor miehei、Bacillus sp.、Alcaligenes sp.等の微生物起源のものがある。
【0130】
より具体的な態様として、リパーゼPL、リパーゼQLM、リパーゼSL、リパーゼMY、リパーゼOF(以上、明糖産業(株)製)、ニューラーゼF3G、リパーゼA「アマノ」6、リパーゼAY「アマノ」30G、リパーゼG「アマノ」50、リパーゼR「アマノ」、リパーゼAS「アマノ」、ウマミザイムG、パパインW−40、プロテアーゼA「アマノ」G、プロテアーゼN「アマノ」G、プロテアーゼNL「アマノ」、プロテアーゼP「アマノ」3G、プロテアーゼS「アマノ」G、プロメラインF、プロレザーFG−F、ペプチターゼR、サモアーゼPC10F、プロチンSD−AC10F、プロチンSD−AY10、プロチンSD−PC10F、プロチンSD−NY10、膵臓性消化酵素TA、プロザイム、プロザイム6、セミアルカリプロティナーゼ、リパーゼAYS「アマノ」、リパーゼPS「アマノ」SD、リパーゼAK「アマノ」、リパーゼPS「アマノ」IM、プロテアーゼN「アマノ」、プロテアーゼS「アマノ」、アシラーゼ「アマノ」、D−アミノアシラーゼ「アマノ」等(以上、天野エンザイム(株)製)や、アルカラーゼ、エスペラーゼ、サビナーゼ、エバラーゼ、カンナーゼ、リポラーゼ、ライペックス、NS44020、NS44120、NS44060、NS44114、NS44126、NS44160等(以上ノボザイムズジャパン社製)、アルカリ性プロテアーゼ(タケダ化学工業(株)製)、アロアーゼXA−10(ヤクルト薬品工業(株))、アルカリプロテアーゼGL、プロテックス 6L、ピュラフェクト、ピュラフェクト OX、プロペラーゼ、プロテックス OXG、プロテックス 40L(以上ジェネンコア協和(株))、スミチームMP(新日本化学工業(株))、ビオブラーゼ OP、ビオブラーゼ AL−15KG、ビオブラーゼ 30G、ビオブラーゼ APL−30、ビオブラーゼ XL−416F、ビオブラーゼ SP−20FG、ビオブラーゼ SP−4FG、プロテアーゼ CL−15(以上ナガセケムテックス(株))、オリエンターゼ(エイチビィアイ(株))、エンチロンSA(洛東化成工業(株))等が挙げられる。
【0131】
これら酵素の導入方法としては、現像液中に直接投入しても、平版印刷版原版処理時に投入しても構わない。また、現像液に酵素を供給しながら現像処理を行ってもよい。
用いられる酵素の添加量としては、酵素固形分として現像液全量に対して0.0001質量%〜5質量%が好ましく、0.001質量%〜1質量%がさらに好ましく、0.001質量%〜0.3質量%が特に好ましい。
【0132】
本発明の現像液には上記の他に、防腐剤、キレート化合物、消泡剤、有機酸、無機酸、無機塩などを含有することができる。具体的には、特開2007−206217号公報〔0266〕〜〔0270〕に記載の化合物を好ましく用いることができる。
上記の現像液は、現像補充液としても用いることができる。自動現像処理機を用いて現像する場合、処理量に応じて現像液が疲労してくるので、補充液又は新鮮な現像液を用いて処理能力を回復させてもよい。
【0133】
<乾燥工程>
前記現像工程の後、乾燥工程を行う。
乾燥手段は、加熱手段は特に制限されず、通常この種の印刷版の乾燥に用いられているものを特に制限なく用いることができる。具体的には、熱風、赤外線、遠赤外線等によって行うことができる。
乾燥工程における平版印刷版原版の版面温度は30℃〜80℃であり、40℃〜80℃が好ましく、50℃〜80℃が更に好ましく、60℃〜80℃が特に好ましい。版面温度が低いと十分に乾燥せずにベトツキ等の問題が生じ、高すぎると揮発成分が揮発し臭気が発生しやすくなる。
ここで、乾燥工程における版面温度は、乾燥工程直後の平版印刷版原版の処理される側の面の温度をいい、平版印刷版原版の中央部に相当する位置の面の温度をいう。版面温度は放射温度計により非接触で測定された温度をいう。乾燥工程における加熱時間は、1〜20秒とするのが好ましく、5〜10秒とするのが更に好ましい。
【0134】
なお、本発明においては、前記現像工程から前記乾燥工程の間に水洗工程を含まないことを特徴とする。また、本発明によれば、従来の現像処理及びガム液処理を一浴で行うことが可能となり、これにより処理工程を大幅に簡素化することができる。
また、前水洗工程も特に必要とせず、保護層の除去も現像、ガム液処理と同時に行うことが可能となる。
【0135】
その他、本発明の平版印刷版の作製方法においては、必要に応じ、露光前、露光中、露光から現像までの間に、全面を加熱してもよい。この様な加熱により、該感光層中の画像形成反応が促進され、感度や耐刷性の向上や感度の安定化といった利点が生じ得る。更に、画像強度・耐刷性の向上を目的として、現像後の画像に対し、全面後加熱若しくは全面露光を行う事も有効である。通常現像前の加熱は150℃以下の穏和な条件で行う事が好ましい。温度が高すぎると、未露光部が硬化してしまう等の問題を生じる。現像後の加熱には非常に強い条件を利用する。通常は100〜500℃の範囲である。温度が低いと十分な画像強化作用が得られず、高すぎる場合には支持体の劣化、画像部の熱分解といった問題を生じる。
【0136】
図1を参照して本発明の平版印刷版の作製方法に用いられる自動現像処理機の一例について簡単に説明する。
図1に示す自動現像処理機100は、機枠202により外形が形成されたチャンバーからなり、平版印刷版原版の搬送路11の搬送方向(矢印A)に沿って連続して形成された前加熱(プレヒート)部200、現像部300及び乾燥部400を有している。
前加熱部200は、搬入口212及び搬出口218を有する加熱室208を有し、その内部には串型ローラー210とヒーター214と循環ファン216とが配置されている。
【0137】
現像部300は、外板パネル310により前加熱部200と仕切られており、外板パネル310にはスリット状挿入口312が設けられている。
現像部300の内部には、現像液で満たされている現像槽308を有する処理タンク306と、平版印刷版原版を処理タンク306内部へ案内する挿入ローラー対304が設けられている。現像槽308の上部は遮蔽蓋324で覆われている。
現像槽308の内部には、搬送方向上流側から順に、ガイドローラー344及びガイド部材342、液中ローラー対316、ブラシローラー対322、ブラシローラー対326、搬出ローラー対318が並設されている。現像槽308内部に搬送された平版印刷版原版は、現像液中に浸漬され、回転するブラシローラー対322,326の間を通過することにより非画像部が除去される。
ブラシローラー対322,326の下部には、スプレーパイプ330が設けられている。スプレーパイプ330はポンプ(不図示)が接続されており、ポンプによって吸引された現像槽308内の現像液がスプレーパイプ330から現像槽308内へ噴出するようになっている。
【0138】
現像槽308側壁には、第1の循環用配管C1の上端部に形成されたオーバーフロー口51が設けられており、超過分の現像液がオーバーフロー口51に流入し、第1の循環用配管C1を通って現像部300の外部に設けられた外部タンク50に排出される。
外部タンク50は第2の循環用配管C2が接続され、第2の循環用配管C2中には、フィルター部54及び現像液供給ポンプ55が設けられている。現像液供給ポンプ55によって、現像液が外部タンク50から現像槽308へ供給される。また、外部タンク50内にはレベル計52,53が設けられている。
現像槽308は、第3の循環用配管C3を介して補充用水タンク71に接続されている。第3の循環用配管C3中には水補充ポンプ72が設けられており、この水補充ポンプ72によって補充用水タンク71中に貯留される水が現像槽308へ供給される。
液中ローラー対316の上流側には液温センサ336が設置されており、搬出ローラー対318の上流側には液面レベル計338が設置されている。
【0139】
現像300と乾燥部400との間に配置された仕切り板332にはスリット状挿通口334が設けられている。また、現像部300と乾燥部400との間の通路にはシャッター(不図示)が設けられ、平版印刷版原版11が通路を通過していないとき、通路はシャッターにより閉じられている。
乾燥部400は、支持ローラー402、ダクト410,412、搬送ローラー対406、ダクト410,412、搬送ローラー対408がこの順に設けられている。ダクト410,412の先端にはスリット孔414が設けられている。また、乾燥部400には図示しない温風供給手段、発熱手段等の乾燥手段が設けられている。乾燥部400には排出口404が設けられ、乾燥手段により乾燥された平版印刷版は排出口404から排出される。
【実施例】
【0140】
以下、実施例及び比較例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに制限されるものではない。以下、高分子化合物についての重合単位の比は、モル比であり、分子量は質量平均分子量である。
【0141】
[実施例1〜9及び比較例1〜3]
〔平版印刷版原版の作製〕
<支持体(1)の作製>
厚さ0.24mmのアルミニウム板(材質1050,調質H16)を65℃に保たれた5質量%水酸化ナトリウム水溶液に浸漬し、1分間の脱脂処理を行った後、水洗した。この脱脂アルミニウム板を、25℃に保たれた10質量%塩酸水溶液中に1分間浸漬して中和した後、水洗した。次いで、このアルミニウム板を、0.3質量%の塩酸水溶液中で、25℃、電流密度100A/dmの条件下に交流電流により60秒間、電解粗面化を行った後、60℃に保たれた5質量%水酸化ナトリウム水溶液中で10秒間のデスマット処理を行った。デスマット処理を行った粗面化アルミニウム板を、15質量%硫酸水溶液溶液中で、25℃、電流密度10A/dm、電圧15Vの条件下に1分間陽極酸化処理を行い、更に1質量%ポリビニルホスホン酸水溶液を用いて75℃で親水化処理を行って支持体(1)を作製した。その表面粗さを測定したところ、0.44μm(JIS B0601によるRa表示)であった。
【0142】
<感光層(1)の形成>
前記支持体(1)上に、下記組成の感光層塗布液(1)をバー塗布した後、90℃、60秒でオーブン乾燥し、乾燥塗布量1.3g/mの感光層(1)を形成した。
【0143】
<感光層塗布液(1)>
・下記バインダーポリマー(1)(質量平均分子量:5万) 0.04g
・下記バインダーポリマー(2)(質量平均分子量:8万) 0.30g
・下記重合性化合物(1) 0.17g
(商品名「PLEX6661−O」、デグサジャパン製)
・下記重合性化合物(2) 0.51g
・下記増感色素(1) 0.03g
・下記増感色素(2) 0.015g
・下記増感色素(3) 0.015g
・下記重合開始剤(1) 0.13g
・連鎖移動剤:メルカプトベンゾチアゾール 0.01g
・ε―フタロシアニン顔料の分散物 0.40g
(顔料:15質量部、分散剤(アリルメタクリレート/メタクリル酸共重合体(質量平均分子量:6万、共重合モル比:83/17)):10質量部、シクロヘキサノン:15質量部)
・熱重合禁止剤 0.01g
N−ニトロソフェニルヒドロキシルアミンアルミニウム塩
・下記フッ素系界面活性剤(1)(質量平均分子量:1万) 0.001g
・1−メトキシ−2−プロパノール 3.5g
・メチルエチルケトン 8.0g
【0144】
【化16】

【0145】
【化17】

【0146】
【化18】

【0147】
【化19】

【0148】
<保護層の形成>
前記感光層(1)上に、表1に記載の組成物を、乾燥塗布量が1.2g/mとなるようにバーを用いて塗布した後、125℃、70秒で乾燥して保護層を形成し、平版印刷版原版を得た。
【0149】
【表1】

【0150】
・PVA−205:部分加水分解ポリビニルアルコール、クラレ(株)製、鹸化度=86.5〜89.5モル%、粘度=4.6〜5.4mPa・s(20℃、4質量%水溶液中))
・PVA−105:完全加水分解ポリビニルアルコール、クラレ(株)製、鹸化度=98.0〜99.0モル%、粘度=5.2〜6.0mPa・s(20℃、4質量%水溶液中))
・ポリ(ビニルピロリドン/酢酸ビニル): ビニルピロリドン/酢酸ビニル=1/1(モル比)、質量平均分子量:7万
・エマレックス710:界面活性剤(日本エマルジョン(株)製)
・共重合体A〜F:表2に示すモノマー成分の共重合体
・KL−506:カルボン酸変性ポリビニルアルコール、クラレ(株)製、鹸化度=74.0〜80.0モル%、粘度=5.2〜6.2mPa・s(20℃、4質量%水溶液中)
【0151】
【表2】

【0152】
〔露光、現像及び印刷〕
得られた平版印刷版原版を、FUJIFILM Electronic Imaging Ltd 製Violet半導体レーザープレートセッターVx9600(InGaN系半導体レーザー405nm±10nm発光/出力30mWを搭載)により画像露光を実施した。画像描画は、解像度2438dpiで、富士フイルム(株)製FMスクリーン(TAFFETA 20)を用い、50%の平網を、版面露光量0.05mJ/cmで実施した。
次いで、下記組成の現像液(1)を用い、図1に示す構造の自動現像処理機にて、プレヒート100℃で10秒、現像液中への浸漬時間(現像時間)が20秒となる搬送速度にて現像処理を実施した。
次いで、現像後の平版印刷版を、ハイデルベルグ社製印刷機SOR−Mに取り付け、湿し水(EU−3(富士フイルム(株)製エッチ液)/水/イソプロピルアルコール=1/89/10(容量比))とTRANS−G(N)墨インキ(大日本インキ化学工業(株)製)とを用い、毎時6000枚の印刷速度で印刷を行った。
【0153】
現像液(1)
・水 88.6g
・下記ノニオン系界面活性剤(W−1) 2.4g
・下記ノニオン系界面活性剤(W−2) 2.4g
・ノニオン系界面活性剤(エマレックス710、日本エマルジョン(株)製)
1.0g
・1−オクタノール 0.6g
・N−(2−ヒドロキシエチル)モルホリン 1.0g
・トリエタノールアミン 0.5g
・グルコン酸ナトリウム 1.0g
・クエン酸3ナトリウム 0.5g
・エチレンジアミンテトラアセテート4ナトリウム塩 0.05g
・ポリスチレンスルホン酸(商品名「Versa TL77(30質量%溶液)」、
Alco chemical社製) 1.0g
*上記組成の現像液にリン酸を添加し、pHを6.9に調整した。
【0154】
【化20】

【0155】
〔評価〕
<現像性>
平版印刷版原版を上記の通り露光、現像を行った。現像液1リットル当り平版印刷版原版を20m現像処理した後に、平版印刷版の非画像部を目視確認し、感光層の残存を評価した。評価は、以下の基準で実施した。
○:感光層の残存なく良好な現像性
△:わずかな感光層の残存あるが現像性に問題なし
×:感光層が残存し、現像不良
<処理安定性(現像カス)>
上記の通り、自動現像処理機で、現像液1リットル当り平版印刷版原版を20m現像処理した後に、自動現像処理機の槽壁に付着したカスの発生状況を観察した。評価基準は以下の通りとした。
○:カスの発生がない
△:カスの発生があるが許容レベル
×:カス発生が顕著
<耐刷性>
印刷枚数を増やしていくと徐々に平版印刷版上に形成された感光層の画像が磨耗しインキ受容性が低下するため、これに伴い、印刷用紙における画像のインキ濃度が低下する。そこで、インキ濃度(反射濃度)が印刷開始時よりも0.1低下したときの印刷枚数により、耐刷性を評価した。耐刷性については、版面露光量0.3mJ/cmで露光し、自動現像処理機にて、上記プレヒートを行わなかった場合の耐刷性についても評価した。
【0156】
【表3】

【0157】
[実施例10〜19及び比較例4〜7]
以下に記載の支持体、感光層、保護層を下記表5に記載のように組み合わせて、平版印刷版原版を作製した。
<支持体の作製>
厚さ0.3mmのアルミニウム板を10質量%水酸化ナトリウム水溶液に60℃で25秒間浸漬してエッチングし、流水で水洗後、20質量%硝酸水溶液で中和洗浄し、次いで水洗した。これを正弦波の交番波形電流を用いて1質量%硝酸水溶液中で300クーロン/dmの陽極時電気量で電解粗面化処理を行った。引き続いて1質量%水酸化ナトリウム水溶液中に40℃で5秒間浸漬後30質量%の硫酸水溶液中に浸漬し、60℃で40秒間デスマット処理した後、20質量%硫酸水溶液中、電流密度2A/dmの条件で陽極酸化皮膜の厚さが2.7g/mになるように、2分間陽極酸化処理した。その表面粗さを測定したところ、0.28μm(JIS B0601によるRa表示)であった。このようにして得られた支持体を、支持体Aとする。
<支持体(2)の作製>
支持体Aを、純水にポリビニルホスホン酸(PCAS社製)を0.4質量%溶解させた53℃の処理液に10秒浸漬し、ニップロールにて余剰の処理液を除去した。この後に、カルシウムイオン濃度を150ppm含む60℃の井水にて4秒間水洗し、更に25℃の純水で4秒間洗浄し、ニップロールにて余剰の純水を除去した。その後の乾燥工程にてアルミ板上の水分を完全に除去し、支持体(2)を作製した。
<支持体(3)の作製>
支持体Aに下記の下塗り液(1)を、バーコーターを用いて乾燥塗布量12mg/mとなるよう塗布し、100℃で20秒間乾燥して支持体(3)を作製した。
【0158】
〔下塗り液(1)〕
下記ポリマー(SP1) 0.87g
下記ポリマー(SP2) 0.73g
純水 1000.0g
【0159】
【化21】

【0160】
<感光層(2)の形成>
前記支持体上に、下記組成の感光層塗布液(2)をバー塗布した後、90℃、60秒でオーブン乾燥し、乾燥塗布量1.3g/mの感光層(2)を形成した。
【0161】
<感光層塗布液(2)>
上記重合性化合物(1) 3.6g
下記バインダーポリマー(2)(質量平均分子量:47000) 2.4g
下記増感色素(4) 0.32g
上記重合開始剤(1) 0.61g
下記連鎖移動剤(2) 0.57g
N−ニトロソフェニルヒドロキシルアミンアルミニウム塩 0.020g
ε―フタロシアニン分散物 0.71g
(顔料:15質量部、分散剤(アリルメタクリレート/メタクリル酸共重合体(
質量平均分子量:6万、共重合モル比:83/17)):10質量部、シクロヘキサノン:15質量部)
上記フッ素系界面活性剤(1)(質量平均分子量:10000) 0.016g
メチルエチルケトン 47g
プロピレングリコールモノメチルエーテル 45g
【0162】
上記感光層塗布液(2)に用いた、バインダーポリマー(2)、連鎖移動剤(2)及び増感色素(4)の構造を以下に示す。
【0163】
【化22】

【0164】
<感光層(3)の形成>
支持体上に、下記組成の感光層用塗布液(3)をバー塗布し、温風式乾燥装置にて125℃で34秒間乾燥させ、乾燥塗布量が1.4g/mの感光層(3)を形成した。
【0165】
<感光層用塗布液(3)>
・下記赤外線吸収剤(IR−1) 0.038g
・下記重合開始剤A(S−1) 0.061g
・下記重合開始剤B(I−2) 0.094g
・下記メルカプト化合物(E−1) 0.015g
・下記重合性化合物(M−2) 0.629g
(商品名:A−BPE−4 新中村化学工業(株))
・下記バインダーポリマー(B−1) 0.419g
・下記添加剤(T−1) 0.079g
・下記重合禁止剤(Q−1) 0.0012g
・下記エチルバイオレット(EV−1) 0.021g
・上記フッ素系界面活性剤(1) 0.0081g
・メチルエチルケトン 5.886g
・メタノール 2.733g
・1−メトキシ−2−プロパノール 5.886g
【0166】
上記感光層用塗布液(3)に用いた、赤外線吸収剤(IR−1)、重合開始剤A(S−1)、重合開始剤B(I−2)、メルカプト化合物(E−1)、重合性化合物(M−2)、添加剤(T−1)、重合禁止剤(Q−1)及びエチルバイオレット(EV−1)の構造を以下に示す。
【0167】
【化23】

【0168】
【化24】

【0169】
【化25】

【0170】
<保護層の形成>
前記感光層(2)又は(3)上に、表4に記載の組成物を、乾燥塗布量が1.2g/mとなるようにバーを用いて塗布した後、125℃、70秒で乾燥して保護層を形成し、平版印刷版原版を得た。
【0171】
【表4】

【0172】
・スルホン酸変性ポリビニルアルコール
ゴーセランCKS−50、日本合成化学(株)製(ケン化度:99モル%、平均重合
度:300、変性度:約0.4モル%)
・雲母分散液
水368gに合成雲母(ソマシフME−100、コープケミカル社製、アスペクト比:1000以上)32gを添加し、ホモジナイザーを用いて平均粒径(レーザー散乱法)0.5μmになるまで分散し得た雲母分散液。
・エマレックス710(界面活性剤、日本エマルジョン(株)製)
・共重合体A〜F:表2に示した組成の共重合体
・KL−506:カルボン酸変性ポリビニルアルコール、クラレ(株)製、鹸化度=74.0〜80.0モル%、粘度=5.2〜6.2mPa・s(20℃、4質量%水溶液中)
【0173】
現像液(2)
・下記界面活性剤−1(川研ファインケミカル(株)製:ソフタゾリンLPB−R)
15g
・下記界面活性剤−2(川研ファインケミカル(株)製:ソフタゾリンLAO)
4g
・キレート剤 エチレンジアミンコハク酸 三ナトリウム
(InnoSpec specialty chemicals社製:オクタク
エストE30) 0.68g
・2−ブロモ−2−ニトロプロパン−1,3ジオール 0.025g
・2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン 0.025g
・シリコーン系消泡剤(GE東芝シリコーン(株)社製:TSA739)0.15g
・グルコン酸ナトリウム 1.5g
・炭酸ナトリウム 1.06g
・炭酸水素ナトリウム 0.52g
・水 77.04g
*上記組成の現像液に、水酸化ナトリウム、及びリン酸を添加し、pHを9.8に調整した。
【0174】
【化26】

【0175】
〔評価〕
(感光層(2)を有する平版印刷版原版)
現像液(1)の代わりに現像液(2)を用いた他は、実施例1〜9と同様にして、平版印刷版原版の露光、現像処理等を行った。そして、更に実施例1〜9と同様の方法で印刷を行い、同様の評価を行った。
(感光層(3)を有する平版印刷版原版)
露光は、水冷式40W赤外線半導体レーザー搭載のCreo社製Trendsetter3244VXにて、出力9W、外面ドラム回転数210rpm、解像度2400dpiの条件で画像露光を行った。露光パターンは50%のスクエアドットを使用した。
現像処理、印刷については、現像液(1)の代わりに現像液(2)を用いた他は、実施例1〜9と同様にして、平版印刷版原版の現像処理等を行い、更に実施例1〜9と同様の方法で印刷を行い、同様の評価を行った。プレヒート無しの評価についても、プレヒート有りと同様の露光を行った。
【0176】
【表5】

【0177】
[実施例20〜23]
<感光層(4)の形成>
支持体(2)上に、下記組成の感光層塗布液(4)を乾燥塗布質量が1.4g/mとなるように塗布し、100℃で1分間乾燥させて感光層(4)を形成した。
【0178】
<感光層塗布液(4)>
上記重合性化合物(1) 4.0質量部
バインダーポリマー(下記バインダーB)(質量平均分子量:3.5万)2.0質量部
上記増感色素(4) 0.32質量部
上記重合開始剤(1) 0.61質量部
グルコン酸ナトリウム 0.10質量部
上記連鎖移動剤(2) 0.57質量部
N−ニトロソフェニルヒドロキシルアミンアルミニウム塩 0.020質量部
ε―フタロシアニン顔料分散物 0.71質量部
(顔料:15質量%、分散剤 アリルメタクリレート/メタクリル酸(80/20)共重合体(質量平均分子量:6万):10質量%、溶剤:シクロヘキサノン/メトキシプロピルアセテート/1−メトキシ−2−プロパノール=15質量%/20質量%/40質量%)
フッ素系ノニオン界面活性剤メガファックF780 0.016質量部
(大日本インキ化学工業(株)製)
メチルエチルケトン 47質量部
プロピレングリコールモノメチルエーテル 45質量部
【0179】
【化27】

【0180】
<現像液の組成>
現像液(3)
ニューコールB−13(日本乳化剤(株)製) 3g
キレート剤 エチレンジアミンコハク酸 三ナトリウム
(InnoSpec specialty chemicals社製:
オクタクエストE30) 0.68g
2−ブロモ−2−ニトロプロパン−1,3ジオール 0.025g
2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン 0.025g
シリコーン系消泡剤(GE東芝シリコーン(株)社製:TSA739)0.15g
グルコン酸ナトリウム 1.5g
炭酸ナトリウム 1.06g
炭酸水素ナトリウム 0.52g
水 77.04g
(pH:9.8)
【0181】
現像液(4)
現像液(3)に下記素材を添加し、現像液4を得た。
酵素 NS44126(ノボザイムズジャパン製、7.5%水溶液) 0.3g
(pH:9.8)
【0182】
現像液(5)
プロピレンオキサイド−エチレンオキサイドブロックコポリマー
(PE9400、BASF社製) 20.0g
界面活性剤(Emulsogen TS160、CLARIANT社製)0.30g
グルコン酸ナトリウム 0.75g
リン酸85%水溶液 5.88g
トリエタノールアミン 14.5g
水 73.07g
(pH:7.0)
【0183】
現像液(6)
現像液(5)に下記素材を添加し、現像液(6)を得た。
酵素 NS44126(ノボザイムズジャパン製、7.5%水溶液) 0.3g
(pH:7.0)
【0184】
支持体、感光層、保護層を下記表6のように組合せ平版印刷版原版を作成し、表6に示す現像液を用いた他は、実施例1〜9と同様にして、平版印刷版原版の露光、現像処理等を行い、更に実施例1〜9と同様の方法で印刷を行い、同様の評価を行った。プレヒート無しの評価についても、プレヒート有りと同様の露光を行った。
【0185】
【表6】

【0186】
表3、5及び6から明らかなように、本発明の平版印刷版の作製方法は、いずれも良好な現像性が維持され、現像カスの発生が抑制されており満足する結果が得られた。
【符号の説明】
【0187】
11:平版印刷版原版の搬送路
100:自動現像処理機
200:前加熱(プレヒート)部
300:現像部
400:乾燥部
202:機枠
208:加熱室
210:串型ローラー
212:搬入口
214:ヒーター
216:循環ファン
218:搬出口
304:挿入ローラー対
306:処理タンク
308:現像槽(現像液で満たされている)
310:外板パネル
312:スリット状挿入口
316:液中ローラー対
318:搬出ローラー対
322:ブラシローラー対
324:遮蔽蓋
326:ブラシローラー対
330:スプレーパイプ
332:仕切り板
334:スリット状挿通口
336:液温センサー
338:液面レベル計
342:ガイド部材
344:ガイドローラー
402:支持ローラー
404:排出口
406:搬送ローラー対
408:搬送ローラー対
410、412:ダクト
414:スリット孔
50:外部タンク(現像液収納)
51:オーバーフロー口
52:上限液レベル計
53:下限液レベル計
54:フィルター部
55:現像液供給ポンプ
C1:第1の循環用配管
C2:第2の循環用配管
71:補充用水タンク(水貯留)
72:水補充ポンプ
C3:第3の循環用配管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)親水性支持体、(ii)(A)重合開始剤、(B)重合性化合物、(C)増感色素、及び、(D)バインダーポリマーを含有する感光層、並びに、(iii)(E)下記一般式(I)で表される繰り返し単位を有し、かつ、ヒドロキシル基を含有する繰り返し単位の全繰り返し単位に対する含有率が70モル%以下である重合体を含有する保護層をこの順に有する平版印刷版原版を、レーザー露光した後、界面活性剤を含有する現像液の存在下、保護層及び非露光部の感光層を同時に除去する工程を含み、かつ、水洗工程を含まない平版印刷版の作製方法。
【化1】

式中、Rは水素原子又は置換基を有してもよいアルキル基を表す。
Xは酸素原子、硫黄原子又は−NR−を表す。Rは水素原子又は置換基を有してもよいアルキル基を表す。
Lは単結合又は連結基を表す。
Yは−SOM,−PO又は−COOMを表す。Mはそれぞれ独立に水素原子、アルカリ金属原子又はオニウム基を表す。
nは0以上の整数を表す。
【請求項2】
前記現像液のpHが、2.0〜10.9であることを特徴とする請求項1に記載の平版印刷版の作製方法。
【請求項3】
前記現像液が、pH緩衝剤を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の平版印刷版の作製方法。
【請求項4】
前記pH緩衝剤が、炭酸塩及び炭酸水素塩を含むことを特徴とする請求項3に記載の平版印刷版の作製方法。
【請求項5】
前記pH緩衝剤が、水溶性有機アミン化合物及びそのアミン化合物のイオンを含むことを特徴とする請求項3に記載の平版印刷版の作製方法。
【請求項6】
前記現像液が、水溶性高分子化合物を含有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の平版印刷版の作製方法。
【請求項7】
前記一般式(I)におけるYが−SOMで表されることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の平版印刷版の作製方法。
【請求項8】
前記保護層が、前記一般式(I)で表される繰り返し単位を有する重合体とは異なる水溶性高分子化合物を更に含有することを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の平版印刷版の作製方法。
【請求項9】
前記水溶性高分子化合物が、ポリビニルアルコールであることを特徴とする請求項8に記載の平版印刷版の作製方法。
【請求項10】
前記ポリビニルアルコールが、ケン化度が互いに異なる少なくとも2種のポリビニルアルコールであることを特徴とする請求項9に記載の平版印刷版の作製方法。
【請求項11】
前記保護層が、無機層状化合物を更に含有することを特徴とする請求項1〜10のいずれか一項に記載の平版印刷版の作製方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−221522(P2011−221522A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−66807(P2011−66807)
【出願日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】