説明

平版印刷版の作製方法

【課題】プレヒート処理を行わなくとも高感度で硬化し、耐刷性と網再現性が良好な画像部を形成しうるとともに、網再現の安定性に優れることにより、上記の時間の設定に関して制約が少なく、網点画像を容易に再現可能な平版印刷版の作製方法を提供する。
【解決手段】支持体、バインダーポリマーと25℃における粘度が9000mPa・s以下であるラジカル重合性化合物とを含有する感光層、及び、保護層をこの順で有する平版印刷版原版を、画像様に露光し、露光した平版印刷版原版を、加熱処理を経ることなく、現像液により現像する平版印刷版の作製方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平版印刷版の作製方法に関するものであり、特に、プレヒート工程を含まない平版印刷版の作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、平版印刷版は、印刷過程でインキを受容する親油性の画像部と、湿し水を受容する親水性の非画像部とからなる。平版印刷は、水と印刷インキが互いに反発する性質を利用して、平版印刷版の親油性の画像部をインキ受容部、親水性の非画像部を湿し水受容部(インキ非受容部)として、平版印刷版の表面にインキの付着性の差異を生じさせ、画像部のみにインキを着肉させた後、紙などの被印刷体にインキを転写して印刷する方法である。
この平版印刷版を作製するため、従来、親水性の支持体上に親油性の感光性樹脂層(感光層、画像記録層)を設けてなる平版印刷版原版(PS版)が広く用いられている。通常は、平版印刷版原版を、リスフィルムなどの原画を通した露光を行った後、画像記録層の画像部となる部分を残存させ、それ以外の不要な画像記録層をアルカリ性現像液又は有機溶剤によって溶解除去し、親水性の支持体表面を露出させて非画像部を形成する方法により製版を行って、平版印刷版を得ている。
【0003】
このように従来の平版印刷版原版の製版工程においては、露光の後、不要な画像記録層を現像液などによって溶解除去する工程が必要であるが、環境及び安全上、より中性域に近い現像液での処理を可能にすることや廃液を少なくすることが課題として挙げられている。特に、近年、地球環境への配慮から湿式処理に伴って排出される廃液の処分が産業界全体の大きな関心事となっており、上記課題の解決の要請は一層強くなってきている。
【0004】
一方、近年、画像情報をコンピュータで電子的に処理し、蓄積し、出力する、デジタル化技術が広く普及してきており、このようなデジタル化技術に対応した新しい画像出力方式が種々実用されるようになってきている。これに伴い、レーザー光のような高収斂性の輻射線にデジタル化された画像情報を担持させて、その光で平版印刷版原版を走査露光し、リスフィルムを介することなく、直接平版印刷版を製造するコンピュータ・トゥ・プレート(CTP)技術が注目されてきている。近年におけるレーザーの発展は目ざましく、特に波長760nmから1200nmの赤外線を放射する固体レーザー及び半導体レーザーや、波長350nmから450nmの青色又は紫色レーザーダイオードは、高出力かつ小型のものが容易に入手できるようになっており、コンピュータ等のデジタルデータから直接製版する際の記録光源として、これらのレーザーは非常に有用である。従って、このような技術に適応した平版印刷版原版を得ることが重要な技術課題の一つとなっている。
【0005】
直接平版印刷版原版をレーザー露光して平版印刷版を製造する方法として、例えば特許文献1に平版印刷版原版の感光層に、重合開始剤としてヘキサアリールビスイミダゾール化合物、光重合性モノマーとして光酸化性基を含有する重合性化合物を用いることが開示されているが、このようなラジカル重合型の画像記録材料は、画像形成のためにはレーザー露光後に加熱処理(以下、「プレヒート」とも言う)が必要であり、更に保護層の水洗、pH11.5以上のアルカリ水溶液での現像、ガム液処理、という処理工程が必要である。そのため自動現像機自体も大きくスペースを取ってしまい、更に加熱に必要な消費電力、現像廃液、ガム廃液処理の問題等、環境及びランニングコスト面での課題を残している。このため、露光後の加熱処理を必要としないネガ型の画像記録材料が所望されていた。
強アルカリ性以外の現像液を使用し、水洗工程を行わず、現像槽1つで(1浴で)保護層及び非露光部の感光層を除去して現像処理を行う平版印刷版の作製方法が知られている(例えば、特許文献2参照)。しかしながら、この方法はプレヒートを要し、更にプレヒートで加熱された平版印刷版が直接現像槽に入ることから、現像槽の温度が安定しない問題があった。
また、特許文献3には、平版印刷版原版をレーザー露光後、現像するまでの時間を長く規定することでプレヒートを行わずに平版印刷版を作成する方法が記載されているが、平版印刷版を作成する時間が長くなり生産性が落ちる問題や、露光後、現像するまでの時間の変動によって、優れた網再現性(画像が網点である場合における網点の再現性)が安定して得られないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2007−506125号公報
【特許文献2】国際公開第2007/057336号
【特許文献3】国際公開第2010/006948号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記従来における問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。
即ち、本発明の目的は、プレヒート処理を行わなくとも、耐刷性と網再現性が良好な画像部を形成しうるとともに、網再現の安定性に優れる(露光された印刷版原版が現像液に接触するまでの時間に対する網再現性の依存性が少ない)ことにより、上記時間の変動に対して許容度が大きく、網点画像を容易に再現可能な平版印刷版の作製方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、露光後にプレヒートを行わない態様において、感光層中の重合性化合物として、低粘度のラジカル重合性化合物を用いることで上記目的が達成されることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
〔1〕 支持体、バインダーポリマーと25℃における粘度が9000mPa・s以下であるラジカル重合性化合物とを含有する感光層、及び、保護層をこの順で有する平版印刷版原版を、画像様に露光し、露光した平版印刷版原版を、加熱処理を経ることなく、現像液により現像する平版印刷版の作製方法。
【0010】
〔2〕 前記ラジカル重合性化合物の重合性基がアクリロイル基である、上記〔1〕記載の平版印刷版の作製方法。
【0011】
〔3〕 前記ラジカル重合性化合物の25℃における粘度が150〜1000mPa・sである、上記〔1〕又は〔2〕に記載の平版印刷版の作製方法。
【0012】
〔4〕 前記平版印刷版原版を、350〜450nmの波長を有するレーザーで露光する、上記〔1〕〜〔3〕のいずれか1項に記載の平版印刷版の作製方法。
【0013】
〔5〕 前記平版印刷版原版を、100〜1000μJ/mの照射エネルギー量で露光する、上記〔4〕に記載の平版印刷版の作製方法。
【0014】
〔6〕 前記バインダーポリマーのガラス転移温度が80℃未満である、上記〔1〕〜〔5〕のいずれか1項に記載の平版印刷版の作製方法。
【0015】
〔7〕 前記ラジカル重合性化合物の1分子あたりの重合性基の数が2以上である、上記〔1〕〜〔6〕のいずれか1項に記載の平版印刷版の作製方法。
【0016】
〔8〕 前記ラジカル重合性化合物の前記感光層の全固形分に対する含有量が30質量%以上である、上記〔1〕〜〔7〕のいずれか1項に記載の平版印刷版の作製方法。
【0017】
〔9〕 前記バインダーポリマーが、架橋性基を有する、上記〔1〕〜〔8〕のいずれか1項に記載の平版印刷版の作製方法。
【0018】
〔10〕 前記バインダーポリマーに対する前記ラジカル重合性化合物の質量比が1以上である、上記〔1〕〜〔9〕のいずれか1項に記載の平版印刷版の作製方法。
【0019】
〔11〕 前記平版印刷版原版に対する画像様露光の終了から、前記平版印刷版原版が前記現像液に接触するまでの時間が1分以上である、上記〔1〕〜〔10〕のいずれか1項に記載の平版印刷版の作製方法。
【0020】
〔12〕 前記現像液のpHが2.0〜10.0である、上記〔1〕〜〔11〕のいずれか1項に記載の平版印刷版の作製方法。
【0021】
〔13〕 前記現像液が、炭酸イオン及び炭酸水素イオンを含有する、上記〔1〕〜〔12〕のいずれか1項に記載の平版印刷版の作製方法。
【0022】
〔14〕 前記現像液が、酸とアミンとの反応物からなる塩を含有する、上記〔1〕〜〔13〕のいずれか1項に記載の平版印刷版の作製方法。
【0023】
〔15〕 前記現像液が、リン酸及び亜リン酸の少なくともいずれかの酸と、ジ又はトリアルカノールアミンとの反応物からなる塩を含有する、上記〔14〕に記載の平版印刷版の作製方法。
【0024】
〔16〕 前記平版印刷版原版が、前記支持体と前記感光層との間に、前記支持体に吸着する支持体吸着基を有する化合物を含有する中間層を有する、上記〔1〕〜〔15〕のいずれか1項に記載の平版印刷版の作製方法。
【0025】
〔17〕 前記現像液が界面活性剤を含有し、該現像液の存在下、前記保護層と前記感光層の非露光部とを同時に除去し、かつ、前記平版印刷版の作製方法が、水洗工程を含まない、上記〔1〕〜〔16〕のいずれか1項に記載の平版印刷版の作製方法。
【0026】
〔18〕 前記露光工程及び前記現像工程を、露光装置と現像装置とがコンベアベルトで連結された装置、又は、露光装置と現像装置とが一体成型された装置を用いて行う、上記〔1〕〜〔17〕のいずれか1項に記載の平版印刷版の作製方法。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、プレヒート処理を含まなくとも、耐刷性と網再現性が良好な画像部を形成しうるとともに、網再現の安定性に優れる(露光された印刷版原版が現像液に接触するまでの時間に対する網再現性の依存性が少ない)ことにより、上記時間の変動に対して許容度が大きく、網点画像を容易に再現可能な平版印刷版の作製方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の作製方法において用いられる自動現像処理機の内部構造を側面から透視して示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明について詳細に説明する。
先ず、本発明に係る平版印刷版原版、及び平版印刷版の作製方法について詳細に説明する。
【0030】
〔平版印刷版原版〕
【0031】
本発明の平版印刷版の作製方法において使用する平版印刷版原版は、支持体、特定の感光層、及び保護層とをこの順に有する。
【0032】
〔感光層〕
平版印刷版原版の感光層は、バインダーポリマーと25℃における粘度が9000mPa・s以下であるラジカル重合性化合物とを含有し、更に、増感色素、重合開始剤を含むことが好ましく、必要に応じて、共開始剤などのその他の成分を含有することができる。
【0033】
以下、感光層の構成成分について詳細に説明する。
【0034】
(ラジカル重合性化合物)
本発明における感光層に用いるラジカル重合性化合物(以下、重合性化合物ともいう)は、重合性基を有する化合物であり、重合性基を少なくとも1個以上有する化合物から選ばれる。
ここで、重合性化合物の25℃における粘度は、9000mPa・s以下である。
重合性化合物の25℃における粘度は、好ましくは3500mPa・s以下であり、更に好ましくは1500mPa・s以下、更に好ましくは1000mPa・s以下であり、特に好ましくは500mPa・s以下であり、これにより、良好な耐刷性と網再現性とを得つつ、網再現の安定性をより確実に良好なものにできる。
一方、重合性化合物の25℃における粘度が9000mPa・s超過であると、プレヒートを行わない条件において、網再現の安定性が低下する。
また、重合性化合物の25℃における粘度は、150mPa・s以上であることが好ましく、これにより、感光層の流動性が高くなりすぎることを抑制でき、良好な製膜性を得ることができる。
即ち、重合性化合物の25℃における粘度は、150〜1000mPa・sが好ましい。
ここで、本明細書において、上記25℃における粘度は、B型粘度計(商品名:TVB−10型粘度計、東機産業社製)を用いて測定したものである。
【0035】
重合性化合物の重合性基としては、エチレン性不飽和結合基、アミノ基、エポキシ基等が挙げられる。また光照射によりラジカルになり得る官能基であってもよく、そのような重合性基としては、例えば、チオール基、ハロゲン基等が挙げられる。なかでも、エチレン性不飽和結合基が好ましい。エチレン性不飽和結合基としては、スチリル基、(メタ)アクリロイル基、アリル基が好ましく、アクリロイル基が特に好ましい。アクリロイル基を用いることで、プレヒートレス条件でも、網再現の安定性をより向上することができる。
重合性化合物1分子中の重合性基の数(官能基数)は2以上であることが好ましく、より好ましくは3以上、更に好ましくは6以上である。これにより、硬化部(露光部)に膜強度を確実に付与して、高い耐刷性を確実に得ることができる。
重合性化合物は、25℃における粘度が9000mPa・s以下である限り、例えばモノマー、プレポリマー、すなわち2量体、3量体及びオリゴマー、又はそれらの共重合体、又はそれらの混合物などの化学的形態をもつことができる。モノマーの例としては、不飽和カルボン酸(例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、マレイン酸など)や、そのエステル類、アミド類が挙げられ、好ましくは、不飽和カルボン酸と多価アルコール化合物とのエステル、不飽和カルボン酸と多価アミン化合物とのアミド類が用いられる。また、ヒドロキシル基やアミノ基、メルカプト基等の求核性置換基を有する不飽和カルボン酸エステル或いはアミド類と単官能若しくは多官能イソシアネート類或いはエポキシ類との付加反応物、及び単官能若しくは、多官能のカルボン酸との脱水縮合反応物等も好適に使用される。また、イソシアネート基や、エポキシ基等の親電子性置換基を有する不飽和カルボン酸エステル或いはアミド類と単官能若しくは多官能のアルコール類、アミン類、チオール類との付加反応物、更にハロゲン基や、トシルオキシ基等の脱離性置換基を有する不飽和カルボン酸エステル或いはアミド類と単官能若しくは多官能のアルコール類、アミン類、チオール類との置換反応物も好適である。また、別の例として、上記の不飽和カルボン酸の代わりに、不飽和ホスホン酸、スチレン、ビニルエーテル等に置き換えた化合物群を使用することも可能である。これらは、特表2006−508380号公報、特開2002−287344号公報、特開2008−256850号公報、特開2001−342222号公報、特開平9−179296号公報、特開平9−179297号公報、特開平9−179298号公報、特開2004−294935号公報、特開2006−243493号公報、特開2002−275129号公報、特開2003−64130号公報、特開2003−280187号公報、特開平10−333321号公報、を含む参照文献に記載されている。
このような重合性化合物の具体例としては、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート、プロポキシ化エトキシ化ビスフェノールAジアクリレート、プロポキシ化ビスフェノールAジアクリレート、エトキシ化ビスフェノールAジアクリレート、エトキシ化グリセリントリアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、エトキシ化トリメチロールプロパントリアクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレート、エトキシ化ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート等がある。
【0036】
これらの重合性化合物について、その構造、単独使用か併用か、添加量等の使用方法の詳細は、最終的な平版印刷版原版の性能設計にあわせて任意に設定できる。
また、感光層中の他の成分(例えばバインダーポリマー、重合開始剤、着色剤等)との相溶性、分散性に対しても、重合性化合物の選択・使用法は重要な要因であり、例えば、低純度化合物の使用や、2種以上の併用により相溶性を向上させうることがある。また、支持体や後述の保護層等との密着性を向上せしめる目的で特定の構造を選択することもあり得る。そのほか、重合性化合物の使用法は、酸素に対する重合阻害の大小、解像度、かぶり性、屈折率変化、表面粘着性等の観点から適切な構造、配合、添加量を任意に選択でき、更に場合によっては下塗り、上塗りといった層構成・塗布方法も考慮され得る。
【0037】
上記の重合性化合物の含有量は、感光層の全固形分に対して、好ましくは5質量%以上、より好ましくは25質量%以上、更に好ましくは30質量%以上である。また、重合性化合物の含有量は、感光層の全固形分に対して、好ましくは75質量%以下、より好ましくは70質量%以下、更に好ましくは60質量%以下である。
感光層中の下記に詳述するバインダーポリマーに対する重合性化合物の質量比(以下、「重合性化合物/バインダーポリマー」とも言う)は1以上であることが好ましく、より好ましくは1.5以上である。これにより、プレヒートを行わない条件において、優れた網再現性を得ることができる。
また、「重合性化合物/バインダーポリマー」は、より確実に感光層としての膜を形成でき、感光層の面状をより良好にできるという観点から、4以下であることが好ましく、3以下であることがより好ましく、2.2以下であることが更に好ましい。
重合性化合物を2種以上で使用している場合、上記質量比の算出は、2種以上の重合性化合物の合計量に基づく。同様に、バインダーポリマーを2種以上で使用している場合には、2種以上のバインダーポリマーの合計量に基づく。
【0038】
(バインダーポリマー)
本発明の感光層に用いられるバインダーポリマーとしては、感光層成分を支持体上に担持可能であり、現像液により除去可能であるものが用いられる。バインダーポリマーとしては、(メタ)アクリル系重合体、ポリウレタン、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリビニルホルマール、ポリアミド、ポリエステル、エポキシ樹脂などが用いられる。(メタ)アクリル系重合体、ポリウレタン、ポリビニルブチラールがより好ましく、ポリビニルブチラールが更に好ましい。バインダーポリマーとして親水基を有するポリビニルブチラールを使用することにより、より現像カスを低減することができる。
【0039】
本発明において、「(メタ)アクリル系重合体」とは、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル(アルキルエステル、アリールエステル、アリルエステル、など)、(メタ)アクリルアミド、及び(メタ)アクリルアミド誘導体などの(メタ)アクリル酸誘導体を重合成分として有する共重合体のことを言う。「ポリウレタン」とは、イソシアネート基を2つ以上有する化合物とヒドロキシル基を2つ以上有する化合物の縮合反応により生成されるポリマーのことをいう。
「ポリビニルブチラール」は、ポリ酢酸ビニルを一部又は全てを鹸化して得られるポリビニルアルコールとブチルアルデヒドを酸性条件下で反応(アセタール化反応)させて合成されるポリマーのことを言い、更に、残存したヒドロキシ基と酸基等有する化合物を反応させ方法等により、酸基等を導入したポリマーも含まれる。
【0040】
本発明におけるバインダーポリマーの好適な一例としては、酸基を有するポリマーが挙げられる。酸基としては、カルボン酸基、スルホン酸基、ホスホン酸基、リン酸基、スルホンアミド基等が挙げられるが、特にカルボン酸基が好ましい。酸基を有するポリマーは、通常、酸基を有する繰り返し単位を有しており、く、このような酸基を有する繰り返し単位としては、(メタ)アクリル酸由来の繰り返し単位や下記一般式(I−A)で表されるものが好ましく用いられる。
【0041】
【化1】

【0042】
(一般式(I−A)中、Rは水素原子又はメチル基を表し、Rは単結合又はn+1価の連結基を表す。Aは酸素原子又は−NR−を表し、Rは水素原子又は炭素数1〜10の1価の炭化水素基を表す。nは1〜5の整数を表す。)
【0043】
一般式(I−A)におけるRで表される連結基は、水素原子、炭素原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子及びハロゲン原子からなる1種以上の原子から構成されることが好ましく、Rで表される連結基を構成する原子の原子数は好ましくは1〜80である。具体的には、アルキレン基、置換アルキレン基、アリーレン基、置換アリーレン基などが挙げられ、これらの2価の基がアミド結合、エーテル結合、ウレタン結合、ウレア結合、エステル結合のいずれかで複数連結された構造を有していてもよい。Rとしては、単結合、アルキレン基、置換アルキレン基、又は、アルキレン基及び置換アルキレン基の少なくとも一方がアミド結合、エーテル結合、ウレタン結合、ウレア結合及びエステル結合の少なくともいずれかによって複数連結された構造であることが好ましく、単結合、炭素数1〜5のアルキレン基、炭素数1〜5の置換アルキレン基、又は、炭素数1〜5のアルキレン基及び炭素数1〜5の置換アルキレン基の少なくとも一方がアミド結合、エーテル結合、ウレタン結合、ウレア結合及びエステル結合の少なくともいずれかによって複数連結された構造であることが特に好ましく、単結合、炭素数1〜3のアルキレン基、炭素数1〜3の置換アルキレン基、又は、炭素数1〜3のアルキレン基及び炭素数1〜3の置換アルキレン基の少なくとも一方がアミド結合、エーテル結合、ウレタン結合、ウレア結合及びエステル結合の少なくともいずれかによって複数連結された構造であることが最も好ましい。
上記置換アルキレン基及び置換アリーレン基における置換基としては、水素原子を除く1価の非金属原子団を挙げることができ、ハロゲン原子(−F、−Br、−Cl、−I)、ヒドロキシル基、シアノ基、アルコキシ基、アリーロキシ基、メルカプト基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルキルカルボニル基、アリールカルボニル基、アシル基、カルボキシル基及びその共役塩基基、アルコキシカルボニル基、アリーロキシカルボニル基、カルバモイル基、アリール基、アルケニル基、アルキニル基等が挙げられる。
【0044】
は水素原子又は炭素数1〜5の炭化水素基が好ましく、水素原子又は炭素数1〜3の炭化水素基が特に好ましく、水素原子又はメチル基が最も好ましい。nは1〜3であることが好ましく、1又は2であることが特に好ましく、1であることが最も好ましい。
【0045】
バインダーポリマーの全共重合成分に占める酸基を有する繰り返し単位の割合(モル%)は、現像性の観点から、1〜70%が好ましい。現像性と耐刷性の両立を考慮すると、1〜50%がより好ましく、1〜30%が特に好ましい。
上記酸基を有する繰り返し単位の好ましい具体例としては、下記の例が挙げられる。
【0046】
【化2】

【0047】
このような酸基を有するバインダーポリマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸と(メタ)アクリル酸エステル(炭素数1〜5のアルキルエステル等)との共重合体を好適に挙げることができる。
【0048】
また、例えば、下記のような酸基を導入したポリビニルブチラールも好ましく用いられる。
【0049】
【化3】

【0050】
一般式(I−B)において、各繰り返し単位の好ましい比率は、p/q/r/s=50−78モル%/1−5モル%/5−28モル%/5−20モル%の範囲である。
Ra,Rbは一価の置換基であり、Rc,Rd,Re,Rfはそれぞれ独立に置換基を有してもよい一価の置換基又は単結合であり、mは0〜1の整数である。Ra,Rb,Rc,Rd,Re,Rfの好ましい置換基としては、水素原子、置換基を有してもよいアルキル基、ハロゲン原子、置換基を有してもよいアリール基が挙げられる。更に好ましくは、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基などの直鎖アルキル基、カルボン酸が置換したアルキル基、ハロゲン原子、フェニル基、カルボン酸が置換したフェニル基が挙げられる。Rc及びRd、Re及びRfはそれぞれ環構造を形成することができる。RcとReの結合する炭素原子及びRdとRfの結合する炭素原子間の結合は、単結合、二重結合又は芳香族性二重結合であり、二重結合又は芳香族性二重結合の場合、Rc及びRd、Re及びRf、Rc及びRf、又は、Re及びRdは、それぞれ結合して単結合を形成する。
【0051】
一般式(I−B)で表されるポリビニルブチラールは、例えば、ポリ酢酸ビニルを一部又は全てを鹸化して得られるポリビニルアルコールとブチルアルデヒドとを酸性条件下で反応(アセタール化反応)させて合成されるポリマーのヒドロキシ基に対して、下記一般式(I−B’)で表される化合物を公知の手法に従って反応させることによって得ることができる。なお、一般式(I−B’)の各基及びmの定義は、一般式(I−B)と同様である。
【0052】
【化4】

【0053】
更に、本発明におけるバインダーポリマーの好適な一例である、酸基を含有するポリマーの酸基は、塩基性化合物で中和されていても良く、特に、アミノ基、アミジン基、グアニジン基等の塩基性窒素を含有する化合物で中和されていることが好ましい。更に、塩基性窒素を含有する化合物がエチレン性不飽和基を有することも好ましい。具体的な化合物としては、国際公開第2007/057442号記載の化合物が挙げられる。
【0054】
バインダーポリマーの酸価(ポリマー1gあたりの酸含率を化学等量数で表したもの)は、0.3〜3.0meq/gであることが好ましく、0.5〜2.5meq/gであることが好ましく、1.0〜2.1meq/gであることが最も好ましい。酸価が0.3meq/g以上であることによって、現像性がより良化し、3.0meq/g以下であることによって耐刷性がより低下する傾向となる。更に、本発明におけるバインダーポリマーの好適な一例である、酸基を含有するポリマーの酸基は、塩基性化合物で中和されていても良く、特に、アミノ基、アミジン基、グアニジン基等の塩基性窒素を含有する化合物で中和されていることが好ましい。更に、塩基性窒素を含有する化合物がエチレン性不飽和基を有することも好ましい。具体的な化合物としては、国際公開第2007/057442号記載の化合物が挙げられる。
【0055】
本発明に用いられるバインダーポリマーは、架橋性基を有することが好ましい。ここで架橋性基とは、平版印刷版原版を露光した際に感光層中で起こるラジカル重合反応の過程でバインダーポリマーを架橋させる基のことである。このような機能の基であれば特に限定されないが、例えば、付加重合反応し得る官能基としてエチレン性不飽和結合基、アミノ基、エポキシ基等が挙げられる。また光照射によりラジカルになり得る官能基であってもよく、そのような架橋性基としては、例えば、チオール基、ハロゲン基等が挙げられる。なかでも、エチレン性不飽和結合基が好ましい。エチレン性不飽和結合基としては、スチリル基、(メタ)アクリロイル基、アリル基が好ましい。
バインダーポリマーが架橋性基を有する場合、バインダーポリマーは、通常、架橋性基を有する繰り返し単位を含有する。
【0056】
バインダーポリマーは、例えば、その架橋性官能基にフリーラジカル(重合開始ラジカル又は重合性化合物の重合過程の生長ラジカル)が付加し、ポリマー間で直接に又は重合性化合物の重合連鎖を介して付加重合して、ポリマー分子間に架橋が形成されて硬化する。又は、ポリマー中の原子(例えば、官能性架橋基に隣接する炭素原子上の水素原子)がフリーラジカルにより引き抜かれてポリマーラジカルが生成し、それが互いに結合することによって、ポリマー分子間に架橋が形成されて硬化する。
【0057】
バインダーポリマー中の架橋性基の含有量(ヨウ素滴定によるラジカル重合可能な不飽和二重結合の含有量)は、バインダーポリマー1g当たり、好ましくは0.01〜10.0mmol、より好ましくは0.05〜5.0mmol、最も好ましくは0.1〜2.0mmolである。
【0058】
本発明に用いられるバインダーポリマーは、更に、(メタ)アクリル酸アルキルエステル又は(メタ)アクリル酸アラルキルエステルに対応する繰り返し単位を有していてもよい。(メタ)アクリル酸アルキルエステルのアルキル基は、好ましくは炭素数1〜5のアルキル基であり、メチル基がより好ましい。(メタ)アクリル酸アラルキルエステルとしては、(メタ)アクリル酸ベンジル等が挙げられる。
【0059】
本発明におけるバインダーポリマーは、ガラス転移温度(Tg)が80℃未満であることが好ましい。Tgが80℃未満であることでプレヒートレス条件でも高感度となる。バインダーポリマーのTgは、より好ましくは60℃以下である。一方、バインダーポリマーのTgは30℃以上であることが経時安定性の観点から好ましい。
【0060】
バインダーポリマーは、質量平均分子量が5000以上であるのが好ましく、1万〜30万であるのがより好ましく、また、数平均分子量が1000以上であるのが好ましく、2000〜25万であるのがより好ましい。多分散度(質量平均分子量/数平均分子量)は、1.1〜10であるのが好ましい。
バインダーポリマーは単独で用いても2種以上を混合して用いてもよい。バインダーポリマーの含有量は、良好な画像部の強度と画像形成性の観点から、感光層の全固形分中、5〜75質量%が好ましく、10〜70質量%がより好ましく、10〜60質量%であるのが更に好ましい。また、重合性化合物及びバインダーポリマーの合計含有量は、感光層の全固形分に対して、80質量%以下であることが好ましい。80質量%を超えると、感度の低下、現像性の低下を引き起こす場合がある。より好ましくは35〜75質量%である。
【0061】
(増感色素)
本発明の感光層は、増感色素を含有することが好ましい。増感色素は、画像露光時の光を吸収して励起状態となり、後述する重合開始剤に電子移動、エネルギー移動又は発熱などでエネルギーを供与し、重合開始機能を向上させるものであれば特に限定せず用いることができる。特に、350〜450nm又は750〜1400nmに極大吸収を有する増感色素が好ましく用いられる。
【0062】
350〜450nmの波長域に極大吸収を有する増感色素としては、メロシアニン色素類、ベンゾピラン類、クマリン類、芳香族ケトン類、アントラセン類、スチリル類、オキサゾール類、等を挙げることができる。
【0063】
350nmから450nmの波長域に吸収極大を持つ増感色素のうち、高感度の観点からより好ましい色素は下記一般式(IX)で表される色素である。
【0064】
【化5】

【0065】
(一般式(IX)中、Aは置換基を有してもよい芳香族環基又はヘテロ環基を表し、Xは酸素原子、硫黄原子又はN−(R3)をあらわす。R1、R2及びR3は、それぞれ独立に、一価の非金属原子団を表し、AとR1及びR2とR3はそれぞれ互いに結合して、脂肪族性又は芳香族性の環を形成してもよい。)
【0066】
一般式(IX)について更に詳しく説明する。R1、R2及びR3は、それぞれ独立に、一価の非金属原子団であり、好ましくは、置換若しくは非置換のアルキル基、置換若しくは非置換のアルケニル基、置換若しくは非置換のアリール基、置換若しくは非置換の芳香族複素環残基、置換若しくは非置換のアルコキシ基、置換若しくは非置換のアルキルチオ基、ヒドロキシル基、ハロゲン原子を表す。
【0067】
次に、一般式(IX)におけるAについて説明する。Aは置換基を有してもよい芳香族環基又はヘテロ環基を表し、置換基を有してもよい芳香族環又はヘテロ環の具体例としては、一般式(IX)中のR1、R2及びR3で記載した置換若しくは非置換のアリール基、置換若しくは非置換の芳香族複素環残基と同様のものが挙げられる。
【0068】
このような増感色素の具体例としては特開2007−58170〔0047〕〜〔0053〕、特開2007−93866〔0036〕〜〔0037〕、特開2007−72816〔0042〕〜〔0047〕に記載の化合物が好ましく用いられる。
【0069】
更に、下記一般式(V)〜(VI)で示される増感色素も用いることができる。
【0070】
【化6】

【0071】
【化7】

【0072】
式(V)中、R〜R14は各々独立に、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、シアノ基又はハロゲン原子を表す。但し、R〜R10の少なくとも一つは炭素数2以上のアルコキシ基を表す。
式(VI)中、R15〜R32は各々独立に、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、シアノ基又はハロゲン原子を表す。但し、R15〜R24の少なくとも一つは炭素数2以上のアルコキシ基を表す。
【0073】
このような増感色素の具体例としては、欧州特許出願公開第1349006号、及び、国際公開第2005/029187号に記載の化合物が挙げられる。
【0074】
また、特開2006−189604、特開2007−171406、特開2007−206216、特開2007−206217、特開2007−225701、特開2007−225702、特開2007−316582、特開2007−328243に記載の増感色素も好ましく用いることができる。
【0075】
続いて、本発明にて好適に用いられる750〜1400nmに極大吸収を有する増感色素(以降、「赤外線吸収剤」と称する場合がある)について詳述する。赤外線吸収剤は染料又は顔料が好ましく用いられる。
【0076】
染料としては、市販の染料及び例えば、「染料便覧」(有機合成化学協会編集、昭和45年刊)等の文献に記載されている公知のものが利用できる。具体的には、アゾ染料、金属錯塩アゾ染料、ピラゾロンアゾ染料、ナフトキノン染料、アントラキノン染料、フタロシアニン染料、カルボニウム染料、キノンイミン染料、メチン染料、シアニン染料、スクアリリウム色素、ピリリウム塩、金属チオレート錯体等の染料が挙げられる。
これらの染料のうち特に好ましいものとしては、シアニン色素、スクアリリウム色素、ピリリウム塩、ニッケルチオレート錯体、インドレニンシアニン色素が挙げられる。更に、シアニン色素やインドレニンシアニン色素が好ましく、特に好ましい例として下記一般式(a)で示されるシアニン色素が挙げられる。
【0077】
【化8】

【0078】
一般式(a)中、Xは、水素原子、ハロゲン原子、−NPh、−X−L又は以下に示す基を表す。ここで、Xは酸素原子、窒素原子、又は硫黄原子を示し、Lは、炭素原子数1〜12の炭化水素基、ヘテロ原子(N、S、O、ハロゲン原子、Se)を有するアリール基、ヘテロ原子を含む炭素原子数1〜12の炭化水素基を示す。Xは後述するZa-と同様に定義され、Rは、水素原子、アルキル基、アリール基、置換又は無置換のアミノ基、ハロゲン原子より選択される置換基を表す。
【0079】
【化9】

【0080】
及びRは、それぞれ独立に、炭素原子数1〜12の炭化水素基を示す。感光層塗布液の保存安定性から、R及びRは、炭素原子数2個以上の炭化水素基であることが好ましい。またRとRは互いに連結し環を形成してもよく、環を形成する際は5員環又は6員環を形成していることが特に好ましい。
【0081】
Ar、Arは、それぞれ同じでも異なっていてもよく、置換基を有していてもよいアリール基を示す。好ましいアリール基としては、ベンゼン環及びナフタレン環が挙げられる。また、好ましい置換基としては、炭素原子数12個以下の炭化水素基、ハロゲン原子、炭素原子数12個以下のアルコキシ基が挙げられる。Y、Yは、それぞれ同じでも異なっていてもよく、硫黄原子又は炭素原子数12個以下のジアルキルメチレン基を示す。R、Rは、それぞれ同じでも異なっていてもよく、置換基を有していてもよい炭素原子数20個以下の炭化水素基を示す。好ましい置換基としては、炭素原子数12個以下のアルコキシ基、カルボキシル基、スルホ基が挙げられる。R、R、R及びRは、それぞれ同じでも異なっていてもよく、水素原子又は炭素原子数12個以下の炭化水素基を示す。原料の入手性から、好ましくは水素原子である。また、Zaは、対アニオンを示す。ただし、一般式(a)で示されるシアニン色素が、その構造内にアニオン性の置換基を有し、電荷の中和が必要ない場合にはZaは必要ない。好ましいZaは、感光層塗布液の保存安定性から、ハロゲンイオン、過塩素酸イオン、テトラフルオロボレートイオン、ヘキサフルオロホスフェートイオン、及びスルホン酸イオンであり、特に好ましくは、過塩素酸イオン、ヘキサフルオロフォスフェートイオン、及びアリールスルホン酸イオンである。
【0082】
好適に用いることのできる一般式(a)で示されるシアニン色素の具体例としては、特開2001−133969号の段落番号〔0017〕〜〔0019〕に記載の化合物、特開2002−023360〔0016〕〜〔0021〕、特開2002−040638号公報の段落番号[0012]〜[0037]に記載の化合物、好ましくは特開2002−278057号〔0034〕〜〔0041〕、特開2008−195018〔0080〕〜〔0086〕に記載の化合物、最も好ましくは特開2007−90850〔0035〕〜〔0043〕に記載の化合物が挙げられる。
【0083】
また特開平5−5005〔0008〕〜〔0009〕、特開2001−222101〔0022〕〜〔0025〕に記載の化合物も好ましく使用することが出来る。
【0084】
また、これらの赤外線吸収染料は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよく、顔料等の赤外線吸収染料以外の赤外線吸収剤を併用してもよい。顔料としては、特開2008−195018号公報[0072]〜[0076]に記載の化合物が好ましい。
【0085】
これら増感色素の好ましい添加量は、感光層の全固形分100質量部に対し、好ましくは0.05〜30質量部、更に好ましくは0.1〜20質量部、最も好ましくは0.2〜10質量部の範囲である
【0086】
(重合開始剤)
感光層は、通常、重合開始剤(以下、開始剤化合物とも称する)を含有する。本発明においては、ラジカル重合開始剤が好ましく用いられる。
【0087】
本発明における開始剤化合物としては、当業者間で公知のものを制限なく使用でき、具体的には、例えば、トリハロメチル化合物、カルボニル化合物、有機過酸化物、アゾ系化合物、アジド化合物、メタロセン化合物、ヘキサアリールビイミダゾール化合物、有機ホウ素化合物、ジスルホン化合物、オキシムエステル化合物、オニウム塩化合物、鉄アレーン錯体が挙げられる。なかでも、ヘキサアリールビイミダゾール系化合物、オニウム塩、トリハロメチル化合物及びメタロセン化合物からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、特にヘキサアリールビイミダゾール系化合物が好ましい。上記の重合開始剤は、2種以上を適宜併用することもできる。
【0088】
ヘキサアリールビイミダゾール系化合物としては、EP24629、EP107792、US4410621の各公報記載のロフィンダイマー類、例えば2,2′−ビス(o−クロロフェニル)−4,4′,5,5′−テトラフェニルビイミダゾール、2,2′−ビス(o−ブロモフェニル)−4,4′,5,5′−テトラフェニルビイミダゾール、2,2′−ビス(o,p−ジクロロフェニル)−4,4′,5,5′−テトラフェニルビイミダゾール、2,2′−ビス(o−クロロフェニル)−4,4′,5,5′−テトラ(m−メトキシフェニル)ビイミダゾール、2,2′−ビス(o,o′−ジクロロフェニル)−4,4′,5,5′−テトラフェニルビイミダゾール、2,2′−ビス(o−ニトロフェニル)−4,4′,5,5′−テトラフェニルビイミダゾール、2,2′−ビス(o−メチルフェニル)−4,4′,5,5′−テトラフェニルビイミダゾール、2,2′−ビス(o−トリフルオロメチルフェニル)−4,4′,5,5′−テトラフェニルビイミダゾール等が挙げられる。
ヘキサアリールビイミダゾール系化合物は、前述の350〜450nmの波長域に極大吸収を有する増感色素と併用して用いられることが特に好ましい。
【0089】
本発明において好適に用いられるオニウム塩は、スルホニウム塩、ヨードニウム塩、ジアゾニウム塩が好ましく用いられる。特にジアリールヨードニウム塩、トリアリールスルホニウム塩が好ましく用いられる。オニウム塩は、750〜1400nmの波長域に極大吸収を有する赤外線吸収剤と併用して用いられることが特に好ましい。
【0090】
その他の重合開始剤としては、特開2007−206217の段落番号〔0071〕〜〔0129〕に記載の重合開始剤を好ましく用いることができる。
【0091】
本発明における重合開始剤は単独若しくは2種以上の併用によって好適に用いられる。
本発明における感光層中の重合開始剤の使用量は感光層全固形分の質量に対し、好ましくは0.01〜20質量%、より好ましくは0.1〜15質量%である。更に好ましくは1.0質量%〜10質量%である。
【0092】
(その他の感光層成分)
前記感光層には、更に、必要に応じて種々の添加剤を含有させることができる。添加剤としては、現像性の促進及び塗布面状を向上させるための界面活性剤、現像性と耐刷性両立の為のマイクロカプセル、現像性の向上やマイクロカプセルの分散安定性向上などのための親水性ポリマー、画像部と非画像部を視認するための着色剤や焼き出し剤、感光層の製造中又は保存中のラジカル重合性化合物の不要な熱重合を防止するための重合禁止剤、酸素による重合阻害を防止するための高級脂肪誘導体などの疎水性低分子化合物、画像部の硬化皮膜強度向上のための無機微粒子、有機微粒子、現像性向上のための親水性低分子化合物、感度向上の為の共増感剤や連鎖移動剤、可塑性向上のための可塑剤等を添加することができる。これの化合物はいずれも公知のものを使用でき、例えば、特開2007−206217号公報の段落番号〔0161〕〜〔0215〕に記載の化合物、特表2005−509192号公報の段落番号〔0067〕、特開2004−310000号公報の段落番号〔0023〕〜〔0026〕及び〔0059〕〜〔0066〕に記載の化合物を使用することができる。界面活性剤については、後述の現像液に添加してもよい界面活性剤を使用することもできる。
感光層は、連鎖移動剤を含有することが好ましい。連鎖移動剤とは、例えば高分子辞典第三版(高分子学会編、2005年)683−684頁に定義される。連鎖移動剤としては、例えば、分子内にSH、PH、SiH、GeHを有する化合物群が用いられる。これらは、低活性のラジカル種に水素供与して、ラジカルを生成するか、若しくは、酸化された後、脱プロトンすることによりラジカルを生成しうる。
本発明の感光層には、特に、チオール化合物(例えば、2−メルカプトベンズイミダゾール類、2−メルカプトベンズチアゾール類、2−メルカプトベンズオキサゾール類、3−メルカプトトリアゾール類、5−メルカプトテトラゾール類、等)を好ましく用いることができる。
【0093】
連鎖移動剤の好ましい添加量は、感光層の全固形分100質量部に対し、好ましくは0.01〜20質量部、更に好ましくは1〜10質量部、最も好ましくは1〜5質量部の範囲である。
【0094】
<感光層の形成>
本発明の感光層は、必要な上記各成分を溶剤に分散又は溶解して塗布液を調製し、塗布して形成される。ここで使用する溶剤としては、メチルエチルケトン、エチレングリコールモノメチルエーテル、1−メトキシ−2−プロパノール、2−メトキシエチルアセテート、1−メトキシ−2−プロピルアセテート、γ−ブチルラクトン等を挙げることができるが、これに限定されるものではない。これらの溶剤は、単独又は混合して使用される。
塗布液の固形分濃度は、好ましくは1〜50質量%である。
【0095】
また塗布、乾燥後に得られる支持体上の感光層塗布量(固形分)は、0.3〜3.0g/mが好ましい。塗布する方法としては、種々の方法を用いることができる。例えば、バーコーター塗布、回転塗布、スプレー塗布、カーテン塗布、ディップ塗布、エアーナイフ塗布、ブレード塗布、ロール塗布等を挙げられる。
【0096】
<保護層>
本発明の平版印刷版原版には、露光時の重合反応を妨害する酸素の拡散侵入を遮断するため、感光層上に保護層(酸素遮断層)が設けられることが好ましい。保護層に使用できる材料としては、水溶性ポリマー、水不溶性ポリマーのいずれをも適宜選択して使用することができ、必要に応じて2種類以上を混合して使用することもできる。具体的には、例えば、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、水溶性セルロース誘導体、ポリ(メタ)アクリロニトリル等が挙げられる。これらの中で、比較的結晶性に優れた水溶性高分子化合物を用いることが好ましく、具体的には、ポリビニルアルコールを主成分として用いる事が、酸素遮断性、現像除去性といった基本特性的に最も良好な結果を与える。
【0097】
保護層に使用するポリビニルアルコールは、必要な酸素遮断性と水溶性を有するための、未置換ビニルアルコール単位を含有する限り、一部がエステル、エーテル、及びアセタールで置換されていても良い。また、同様に一部が他の共重合成分を有していても良い。
ポリビニルアルコールはポリ酢酸ビニルを加水分解することにより得られるが、ポリビニルアルコールの具体例としては69.0〜100モル%加水分解され、重合繰り返し単位が300から2400の範囲のものをあげる事ができる。具体的には、株式会社クラレ製のPVA−102、PVA−103、PVA−105、PVA−110、PVA−117、PVA−117H、PVA−120、PVA−124、PVA−124H、PVA−CS、PVA−CST、PVA−HC、PVA−203、PVA−204、PVA−205、PVA−210、PVA−217、PVA−220、PVA−224、PVA−235、PVA−217EE、PVA−217E、PVA−220E、PVA−224E、PVA−403、PVA−405、PVA−420、PVA−424H、PVA−505、PVA−617、PVA−613、PVA−706、L−8等が挙げられ、これらは単独又は混合して使用できる。好ましい態様としてはポリビニルアルコールの保護層中の含有率が20〜95質量%、より好ましくは、30〜90質量%である。
【0098】
また、公知の変性ポリビニルアルコールも好ましく用いることができる。特に、カルボン酸基又はスルホン酸基を有する酸変性ポリビニルアルコールが好ましく用いられる。具体的には、特開2005−250216、特開2006−259137記載のポリビニルアルコールが好適に挙げられる。
【0099】
ポリビニルアルコールと別の材料を混合して使用する場合、混合する成分としては、変性ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン又はその変性物が酸素遮断性、現像除去性といった観点から好ましく、保護層中の含有率が、通常3.5〜80質量%、好ましくは10〜60質量%、更に好ましくは15〜30質量%である。
【0100】
保護層の他の組成物として、グリセリン、ジプロピレングリコール等を水溶性高分子化合物に対して数質量%相当量添加して可撓性を付与することができ、また、アルキル硫酸ナトリウム、アルキルスルホン酸ナトリウム等のアニオン界面活性剤;アルキルアミノカルボン酸塩、アルキルアミノジカルボン酸塩等の両性界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル等の非イオン界面活性剤を水溶性高分子化合物に対して数質量%添加することができる。
【0101】
更に、本発明の平版印刷版原版における保護層には、酸素遮断性や感光層表面保護性を向上させる目的で、無機質の層状化合物を含有させることも好ましい。無機質の層状化合物の中でも、合成の無機質の層状化合物であるフッ素系の膨潤性合成雲母が特に有用である。具体的には、特開2005−119273記載の無機質の層状化合物が好適に挙げられる。
【0102】
保護層の塗布量としては、乾燥後の塗布量で、0.05〜10g/m2の範囲であることが好ましく、無機質の層状化合物を含有する場合には、0.1〜5g/m2の範囲であることが更に好ましく、無機質の層状化合物を含有しない場合には、0.5〜5g/m2の範囲であることが更に好ましい。
【0103】
〔支持体〕
本発明の平版印刷版原版に用いられる支持体は、特に限定されず、寸度的に安定な板状な親水性支持体であることが好ましい。特に、アルミニウム板が好ましい。アルミニウム板を使用するに先立ち、粗面化処理、陽極酸化処理等の表面処理を施すのが好ましい。アルミニウム板表面の粗面化処理は、種々の方法により行われるが、例えば、機械的粗面化処理、電気化学的粗面化処理( 電気化学的に表面を溶解させる粗面化処理)、化学的粗面化処理(化学的に表面を選択溶解させる粗面化処理)が挙げられる。これらの処理については、特開2007−206217の段落番号〔0241〕〜〔0245〕に記載された方法を好ましく用いることができる。
支持体は、中心線平均粗さが0.10〜1.2μmであるのが好ましい。この範囲内で、感光層との良好な密着性、良好な耐刷性と良好な汚れ難さが得られる。
また、支持体の色濃度としては、反射濃度値として0.15〜0.65であるのが好ましい。この範囲内で、画像露光時のハレーション防止による良好な画像形成性と現像後の良好な検版性が得られる。
支持体の厚さは0.1〜0.6mmであるのが好ましく、0.15〜0.4mmであるのがより好ましく、0.2〜0.3mmであるのが更に好ましい。
【0104】
〔支持体親水化処理、下塗り層〕
本発明の平版印刷版原版においては、非画像部領域の親水性を向上させ印刷汚れを防止するために、支持体表面の親水化処理を行う、又は支持体と感光層との間に下塗り層(中間層)を設けることも好適である。
【0105】
支持体表面の親水化処理としては、支持体をケイ酸ナトリウム等の水溶液に浸漬処理又は電解処理するアルカリ金属シリケート処理、フッ化ジルコン酸カリウムで処理する方法、ポリビニルホスホン酸で処理する方法等が挙げられるが、ポリビニルホスホン酸水溶液に浸漬処理する方法が好ましく用いられる。
【0106】
下塗り層としては、支持体に吸着する支持体吸着基を有する化合物を含有する下塗り層が好ましく用いられる。支持体吸着基としては、例えば、ホスホン酸、リン酸、スルホン酸などの酸基を挙げることができる。
これらの化合物は、感光層との密着性を向上させる為に、更に重合性基を含有することが好ましい。重合性基としてはエチレン性不飽和結合基が好ましい。更にエチレンオキシ基などの親水性付与基を有する化合物も好適な化合物として挙げることができる。
これらの化合物は低分子でも高分子ポリマーであってもよい。又、これらの化合物は必要に応じて2種以上を混合して使用してもよい。特開平10−282679号公報に記載されている付加重合可能なエチレン性不飽和結合基を有しているシランカップリング剤、特開平2−304441号公報記載のエチレン性不飽和結合基を有しているリン化合物などが好適に挙げられる。特開2005-238816号公報、特開2005−125749号公報、特開2006−239867号公報、特開2006−215263号公報記載の架橋性基(好ましくは、エチレン性不飽和結合基)、支持体表面に相互作用する官能基、及び親水性基を有する低分子又は高分子化合物を含有するものも好ましく用いられる。
【0107】
下塗り層は、公知の方法で塗布される。下塗り層の塗布量(固形分)は、0.1〜100mg/mであるのが好ましく、1〜30mg/mであるのがより好ましい。
【0108】
〔バックコート層〕
支持体に表面処理を施した後又は下塗り層を形成させた後、必要に応じて、支持体の裏面にバックコートを設けることができる。
バックコートとしては、例えば、特開平5−45885号公報に記載されている有機高分子化合物、特開平6−35174号公報に記載されている有機金属化合物又は無機金属化合物を加水分解及び重縮合させて得られる金属酸化物からなる被覆層が好適に挙げられる。中でも、Si(OCH、Si(OC、Si(OC、Si(OC等のケイ素のアルコキシ化合物を用いるのが、原料が安価で入手しやすい点で好ましい。
【0109】
〔製版方法〕
本発明の平版印刷版の作製方法は、前記平版印刷版原版を、画像様に露光し、露光した平版印刷版原版を、加熱処理を経ることなく、現像液により現像する。
各工程について詳しく説明する。
【0110】
<露光工程>
露光工程は現像処理に先立って、平版印刷版原版を、線画像、網点画像等を有する透明原画を通してレーザー露光するかデジタルデータによるレーザー光走査等で画像様に露光することにより、好適に行われる。
望ましい光源の波長は350nmから450nm又は750nmから1400nmの波長が好ましく用いられる。350nmから450nmの場合は、この領域に吸収極大を有する増感色素を感光層に有する平版印刷版原版が用いられ、750nmから1400nmの場合は、この領域に吸収を有する増感色素である赤外線吸収剤を含有する平版印刷版原版が用いられる。350nmから450nmの光源としては、半導体レーザーが好適であり、750nmから1400nmの光源としては、赤外線を放射する固体レーザー及び半導体レーザーが好適である。コストを低減できる、及び、描画速度が速く生産性が高いという理由から350nm〜450nmの波長を有するレーザーで露光することが好ましい。露光機構は、内面ドラム方式、外面ドラム方式、フラットベッド方式等の何れでもよい。
350nmから450nmの光源において、露光エネルギー(照射エネルギー)は、30μJ/cm以上であることが好ましく、100μJ/cm以上であることがより好ましく、150μJ/cm以上であることが更に好ましく、250μJ/cm以上であることが最も好ましい。これにより、画像部の強度がより高まり、より優れた耐刷性を得ることができる。
また、350nmから450nmの光源において、露光エネルギーは、1000μJ/cm以下であることが好ましく、500μJ/cm以下であることがより好ましい。
これにより、露光量が高すぎることに起因する網点の太りをより確実に抑制でき、より優れた網再現性を達成することができる。
即ち、露光工程において、100〜1000μJ/cmの照射エネルギーで、平版印刷版原版を露光することが好ましい。
【0111】
<現像工程>
現像工程は、露光した平版印刷版原版を、加熱処理を経ることなく、現像液で現像する工程である。
ここで、平版印刷版原版に対する画像様露光の終了から、平版印刷版原版が現像液に接触するまでの時間(以下、「焼き溜め時間」とも言う)は、10秒以上であることが好ましく、30秒以上がより好ましく、1分以上が更に好ましい。1分以上とすることで画像強度、耐刷性の更なる向上が可能である。平版印刷版をレーザー露光する場合、通常は端から走査するため露光開始から露光終了まで時間を要し版内で露光から現像までの時間に差が生じるが、本発明における露光の終了とは、走査露光終了時を意味する。
【0112】
現像処理としては、pHが2.0〜10.0の現像液を含む一液にて現像する方法が好ましい。このような一液現像によれば、現像後得られた印刷版について、水洗による現像液の除去を行わずとも、印刷機に装着して、印刷を行うことができる。現像の温度は、通常0〜60℃程度、好ましくは10〜50℃、より好ましくは15〜40℃である。
本発明における現像処理は、露光処理した平版印刷版原版を現像液に浸漬してブラシで擦る方法、スプレーにより現像液を吹き付けてブラシで擦る方法等により行うことができる。たとえば、現像液の供給手段及び擦り部材を備えた自動現像処理機により好適に実施することができる。擦り部材として、回転ブラシロールを用いる自動現像処理機が特に好ましい。
更に自動処理機は現像処理手段の後に、スクイズローラー等の余剰の現像液を除去する手段や、温風装置等の乾燥手段を備えていることが好ましい。
自動現像処理機の具体例は後述する。
【0113】
(現像液)
本発明において使用される現像液は、水を主成分とする(水を60質量%以上含有する)水溶液であるのが好ましい。現像液のpHは、好ましくは2.0〜10.0であり、より好ましくは5.0〜10.0、更に好ましくは6.0〜10.0、最も好ましくは6.9〜9.9である。
なお、現像液は、アルカリ剤を含有しても良い。アルカリ剤を含有する場合は、pHが8.0〜10.0の範囲にあることが好ましい態様であり、より好ましいpHは、9.0〜10.0、更に好ましくは、9.2〜9.9である。アルカリ剤を含有しない場合は、pHが2.0〜9.0の範囲にあることが好ましい態様であり、より好ましいpHは、4.0〜8.0、更に好ましくは、4.5〜7.5である。
【0114】
また、本発明に用いられる現像液は界面活性剤を含有することが好ましい。この際、用いられる界面活性剤としては、アニオン系、ノニオン系、カチオン系、両性イオン系等を挙げることができる。
【0115】
前記アニオン系界面活性剤としては、特に限定されないが、脂肪酸塩類、アビエチン酸塩類、ヒドロキシアルカンスルホン酸塩類、アルカンスルホン酸塩類、ジアルキルスルホコハク酸塩類、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩類、分岐鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩類、アルキルナフタレンスルホン酸塩類、アルキルジフェニルエーテル(ジ)スルホン酸塩類、アルキルフェノキシポリオキシエチレンプロピルスルホン酸塩類、ポリオキシエチレンアルキルスルホフェニルエーテル塩類、N−メチル−N−オレイルタウリンナトリウム類、N−アルキルスルホコハク酸モノアミド二ナトリウム塩類、石油スルホン酸塩類、硫酸化ヒマシ油、硫酸化牛脂油、脂肪酸アルキルエステルの硫酸エステル塩類、アルキル硫酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩類、脂肪酸モノグリセリド硫酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩類、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテル硫酸エステル塩類、アルキル燐酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルエーテル燐酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル燐酸エステル塩類、スチレン−無水マレイン酸共重合物の部分けん化物類、オレフィン−無水マレイン酸共重合物の部分けん化物類、ナフタレンスルホン酸塩ホルマリン縮合物類等が挙げられる。これらの中でも、アルキルベンゼンスルホン酸塩類、アルキルナフタレンスルホン酸塩類、アルキルジフェニルエーテル(ジ)スルホン酸塩類が特に好ましく用いられる。
【0116】
前記カチオン系界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、アルキルアミン塩類、第四級アンモニウム塩類、ポリオキシエチレンアルキルアミン塩類、ポリエチレンポリアミン誘導体が挙げられる。
【0117】
前記ノニオン系界面活性剤としては、特に限定されないが、ポリエチレングリコール型の高級アルコールエチレンオキサイド付加物、アルキルフェノールエチレンオキサイド付加物、アルキルナフトールエチレンオキサイド付加物、フェノールエチレンオキサイド付加物、ナフトールエチレンオキサイド付加物、脂肪酸エチレンオキサイド付加物、多価アルコール脂肪酸エステルエチレンオキサイド付加物、高級アルキルアミンエチレンオキサイド付加物、脂肪酸アミドエチレンオキサイド付加物、油脂のエチレンオキサイド付加物、ポリプロピレングリコールエチレンオキサイド付加物、ジメチルシロキサン−エチレンオキサイドブロックコポリマー、ジメチルシロキサン−(プロピレンオキサイド−エチレンオキサイド)ブロックコポリマー等や、多価アルコール型のグリセロールの脂肪酸エステル、ペンタエリスリトールの脂肪酸エステル、ソルビトール及びソルビタンの脂肪酸エステル、ショ糖の脂肪酸エステル、多価アルコールのアルキルエーテル、アルカノールアミン類の脂肪酸アミド等が挙げられる。この中でも、芳香環とエチレンオキサイド鎖を有するものが好ましく、アルキル置換又は無置換のフェノールエチレンオキサイド付加物又は、アルキル置換又は無置換のナフトールエチレンオキサイド付加物がより好ましい。
【0118】
前記両性イオン系界面活性剤としては、特に限定されないが、アルキルジメチルアミンオキシドなどのアミンオキシド系、アルキルベタインなどのベタイン系、アルキルアミノ脂肪酸ナトリウムなどのアミノ酸系が挙げられる。
特に、置換基を有してもよいアルキルジメチルアミンオキシド、置換基を有してもよいアルキルカルボキシベタイン、置換基を有してもよいアルキルスルホベタインが好ましく用いられる。これらの具体例は、特開2008−203359号公報〔0255〕〜〔0278〕、特開2008−276166号公報〔0028〕〜〔0052〕等に記載されているものを挙げることができる。
【0119】
界面活性剤は2種以上用いてもよく、現像液中の界面活性剤の含有量は、0.01〜20質量%が好ましく、0.1〜10質量%がより好ましい。
【0120】
また、本発明の現像液は、水溶性高分子化合物を含有してもよい。水溶性高分子化合物としては、大豆多糖類、変性澱粉、アラビアガム、デキストリン、繊維素誘導体(例えばカルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、メチルセルロース等)及びその変性体、プルラン、ポリビニルアルコール及びその誘導体、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド及びアクリルアミド共重合体、ビニルメチルエーテル/無水マレイン酸共重合体、酢酸ビニル/無水マレイン酸共重合体、スチレン/無水マレイン酸共重合体、ポリスチレンスルホン酸などが挙げられる。
【0121】
上記大豆多糖類は、公知のものが使用でき、例えば市販品として商品名ソヤファイブ(不二製油(株)製)があり、各種グレードのものを使用することができる。好ましく使用できるものは、10質量%水溶液の粘度が10〜100mPa/secの範囲にあるものである。
【0122】
上記変性澱粉も、公知のものが使用でき、トウモロコシ、じゃがいも、タピオカ、米、小麦等の澱粉を酸又は酵素等で1分子当たりグルコース残基数5〜30の範囲で分解し、更にアルカリ中でオキシプロピレンを付加する方法等で作ることができる。
【0123】
水溶性高分子化合物は2種以上を併用することもできる。水溶性高分子化合物の現像液中における含有量は、0.1〜20質量%が好ましく、より好ましくは0.5〜10質量%である。
【0124】
本発明で使用する現像液は、更にpH緩衝剤を含有することが好ましい。
本発明のpH緩衝剤としては、pH2.0〜10.0に緩衝作用を発揮する緩衝剤が好ましく、弱アルカリ性のpH緩衝剤がより好ましく用いられる。具体的には、(a)炭酸イオン及び炭酸水素イオン、(b)ホウ酸イオン、(c)有機アミン化合物及びその有機アミン化合物のイオン、及びそれらの併用などが挙げられる。すなわち、例えば(a)炭酸イオン及び炭酸水素イオンの組み合わせ、(b)ホウ酸イオン、又は(c)有機アミン化合物及びその有機アミン化合物のイオンの組み合わせなどが、現像液においてpH緩衝作用を発揮し、現像液を長期間使用してもpHの変動を抑制でき、pHの変動による現像性低下、現像カス発生等を抑制できる。特に好ましくは、(a)炭酸イオン及び炭酸水素イオンの組み合わせ及び(c)有機アミン化合物及びその有機アミン化合物のイオンである。
【0125】
炭酸イオン、炭酸水素イオンを現像液中に存在させるには、炭酸塩と炭酸水素塩を現像液に加えてもよいし、炭酸塩又は炭酸水素塩を加えた後にpHを調整することで、炭酸イオンと炭酸水素イオンを発生させてもよい。炭酸塩及び炭酸水素塩は、特に限定されないが、アルカリ金属塩であることが好ましい。アルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウムが挙げられ、ナトリウムが特に好ましい。これらは単独でも、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0126】
pH緩衝剤として(a)炭酸イオンと炭酸水素イオンの組み合わせを採用するとき、炭酸イオン及び炭酸水素イオンの総量は、現像液に対して0.05〜5mol/Lが好ましく、0.1〜2mol/Lがより好ましく、0.2〜1mol/Lが特に好ましい。総量が0.05mol/L以上であると現像性、処理能力が低下しにくく、5mol/L以下であると沈殿や結晶を生成し難くなり、更に現像液の廃液処理時、中和の際にゲル化し難くなり、廃液処理に支障をきたしにくい。
【0127】
pH緩衝剤として(b)ホウ酸イオンを採用するとき、ホウ酸イオンの総量は、現像液に対して0.05〜5mol/Lが好ましく、0.1〜2mol/Lがより好ましく、0.2〜1mol/Lが特に好ましい。ホウ酸塩の総量が0.05mol/L以上であると現像性、処理能力が低下しにくく、一方5mol/L以下であると沈殿や結晶を生成し難くなり、更に現像液の廃液処理時の中和の際にゲル化し難くなり、廃液処理に支障をきたしにくい。
【0128】
有機アミン化合物及びその有機アミン化合物のイオンは、特に限定されないが、少なくとも1つのヒドロキシル基を有するアルキル基によって置換された、ジ又はトリアルカノールアミン化合物及びそのイオン化合物あることが好ましい。少なくとも1つのヒドロキシル基を有するアルキル基は、更にもうひとつのヒドロキシル基、ハロゲン、ニトロ基、ニトリル基、(ヘテロ)芳香族基、飽和又は不飽和炭化水素基から選ばれる置換基を有しても良い。アルキル基として炭素数15以下が好ましく、炭素数12以下がより好ましく、炭素数8以下が更に好ましい。
具体的なアルカノール基としては、HO-CH-*、HO-CH-CH-*、HO-CH-CH-CH-*、CH-CH(OH)-CH-*、CH-C(OH)(CH)-*、HO-CH-CH-CH-CH-*、CH-CH(CH)-CH(OH)-*、CH-CH(C)-CH(OH)-*、CH-C(CH)(OH)-CH-*、HO-CH-CH-CH-CH-CH-CH-*、HO-CH-CH-CH-CH(OH)-CH-CH-*、CH-CH-CH(OH)-CH-CH-CH-*、CH-CH(CH)-CH-CH(OH)-CH-*、CH-CH(C)-CH-CH(OH)-CH-*、HO-CH-CH-CH-CH-CH-CH-CH-CH-*、HO-CH-CH-CH-CH(OH)-CH-CH-CH-CH-*、CH-CH-CH(OH)-CH-CH-CH-CH-CH-*、CH-CH(CH)-CH-C(C)(OH)-CH-CH-CH-*、が挙げられる。ここで*は、アミン基のNへの連結部を示す。
ジ又はトリアルカノールアミンの具体例として、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、2−アミノ−2−メチル−1,3−プロパンジオール、2−アミノ−2−エチル−1,3−プロパンジオール、トリスヒドロキシメチルアミノメタン、トリイソプロパノールアミン、が挙げられる。
現像液は、酸とアミンとの反応物からなる塩を含有することが好ましく、これにより、有機アミン化合物のイオンが生成される。
また、現像液は、リン酸及び亜リン酸の少なくともいずれかの酸と、ジ又はトリアルカノールアミンとの反応物からなる塩を含有することがより好ましい。
【0129】
上記pH緩衝剤として、c)有機アミン化合物及びその有機アミン化合物のイオンを用いる場合には、その使用量は、現像液中のモル濃度で0.005〜5mol/Lが好ましく、0.01〜2mol/Lがより好ましく、0.01〜1mol/Lが特に好ましい。
水溶性のアミン化合物のイオンの総量がこの範囲にあると現像性、処理能力が低下せず、一方廃液処理が容易である。
pH緩衝剤が、リン酸及び亜リン酸の少なくともいずれかの酸と、ジ又はトリアルカノールアミンとの反応物からなる塩である場合、その使用量は、現像液中のモル濃度で少なくとも0.02mol/Lが好ましく、少なくとも0.1mol/Lがより好ましく、少なくとも0.15mol/Lが特に好ましい。また、5mol/L以下が好ましく、2.5mol/L以下がより好ましく、1mol/L以下が特に好ましい。アミンの酸に対する物質量比は、0.1以上が好ましく、0.4以上がより好ましく、0.75以上が最も好ましい。また、20以下が好ましく、12以下がより好ましく、5以下が更に好ましい。
【0130】
現像液は、酵素(好ましくは加水分解酵素)を含有してもよい。酵素が導入された現像液にて処理することにより、現像液中にてエチレン性不飽和化合物が加水分解等され、親水性が向上するため、汚れ防止性の向上および現像カスの発生を抑制することができる。さらに、エステル基を加水分解する場合には、極性変換(疎水性から親水性への極性変換)を利用しているため、画像部への現像液浸透が起こりにくくなっており、感度、耐刷性を維持したまま、汚れ防止性の向上および現像カスの発生を抑制することができる。
【0131】
本発明に用いられる酵素は、光重合性感光層を有する平版印刷版原版の現像処理における現像カスの発生を抑制する作用を示すものであれば、その種類については特に限定されず、八木達彦ら編「酵素ハンドブック(第3版)」(朝倉書店)に記載されているような群の酵素であれば任意に用いることができる。特に、重合性化合物(エチレン性不飽和化合物)を分解・可溶化させるという目的からは、国際生化学分子生物学連合(IUBMB)酵素委員会の酵素番号(EC番号)のEC3.群に属する加水分解酵素を用いることが好ましい。エチレン性不飽和化合物は多くの場合、炭素原子、水素原子、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、リン原子、ハロゲン原子などから構成されることから、カルボン酸エステル結合を加水分解する酵素、リン酸エステルを加水分解する酵素、硫酸エステルを加水分解する酵素、エーテル結合を加水分解する酵素、チオエーテル構造を加水分解する酵素、ペプチド結合を加水分解する酵素、炭素−窒素結合を加水分解する酵素、炭素−炭素結合を加水分解する酵素、炭素−ハロゲン結合を加水分解する酵素等が好ましい酵素として挙げられ、より好ましくは、エステル結合、アミド結合、3級アミノ基、ウレタン結合、ウレア結合、チオウレタン結合、及び、チオウレア結合よりなる群から選択される少なくとも1つを加水分解する酵素である。
【0132】
これらの中でも、特にEC3.1群(エステル加水分解酵素)、EC3.4群(ペプチド結合加水分解酵素)に属するものが好ましく、EC3.1.1.3(トリアシルグリセロールリパーゼ)、EC3.4.11.1(ロイシンアミノペプチダーゼ(leucyl aminopeptidase))、EC3.4.21.62(サブチリシン(subtilisin))、EC3.4.21.63(オルリジン(oryzin))、EC3.4.22.2(パパイン(papain))、EC3.4.22.32(stem bromelain)、EC3.4.23.18(aspergillo pepsin I)、EC3.4.24.25(ビブリオリシン)、EC3.4.24.27(テルモリシン(thermolysin))、及び、EC3.4.24.28(バシロリシン(bacillolysin))が好ましい。さらに、EC3.1.1.3、EC3.4.21.14、EC3.4.21.62、EC3.4.21.63が最も好ましい。
【0133】
さらに、前述した通り、本発明において、現像液のpHは、現像性と環境の面から、2〜11が好ましく、5〜10.7がより好ましく、6〜10.5がさらに好ましく、6.9〜10.3が特に好ましい。
この観点から、酵素としては、アルカリ酵素が好ましく用いられる。ここでアルカリ酵素とは至適pH領域がアルカリ性にある酵素であり、至適pH領域を7.0〜11.0に有する酵素が好ましく、至適温度領域を20℃〜60℃に有する酵素が好ましく、30℃〜55℃に有する酵素がより好ましい。
【0134】
具体的には、アルカリプロテアーゼ、アルカリリパーゼ等、アルカリ条件下において主にモノマーのエステル基の加水分解が可能な酵素が好ましい。アルカリプロテアーゼとしては、Bacillus subtilis、Aspergillus oryzae、Bacillus stearothermophilus、パパイヤラテックス、パパイヤ、Ananas comosus M、Pig pancreas、Bacillus licheniformis、Aspergillus melleus、Aspergillus sp.、Bacillus lentus、Bacillus sp.、Bacillus clausii、アルカリリパーゼとしては、Candida cylindracea、Humicola lanuginosa、Psudomonas、Mucor sp.,Chromobacterium viscosum、Rhizopus japonics、Aspergillus niger、Mucor javanicus、Penicillium camemberti、Rhizopus oryzae、Candida rugosa、Penicillium roqueforti、Rhizopus delemar、Psendomonas sp.、Aspergillus sp.、Rhizomucor miehei、Bacillus sp.、Alcaligenes sp.等の微生物起源のものがある。
【0135】
より具体的な態様として、リパーゼPL、リパーゼQLM、リパーゼSL、リパーゼMY、リパーゼOF(以上、明糖産業(株)製)、ニューラーゼF3G、リパーゼA「アマノ」6、リパーゼAY「アマノ」30G、リパーゼG「アマノ」50、リパーゼR「アマノ」、リパーゼAS「アマノ」、ウマミザイムG、パパインW−40、プロテアーゼA「アマノ」G、プロテアーゼN「アマノ」G、プロテアーゼNL「アマノ」、プロテアーゼP「アマノ」3G、プロテアーゼS「アマノ」G、プロメラインF、プロレザーFG−F、ペプチターゼR、サモアーゼPC10F、プロチンSD−AC10F、プロチンSD−AY10、プロチンSD−PC10F、プロチンSD−NY10、膵臓性消化酵素TA、プロザイム、プロザイム6、セミアルカリプロティナーゼ、リパーゼAYS「アマノ」、リパーゼPS「アマノ」SD、リパーゼAK「アマノ」、リパーゼPS「アマノ」IM、プロテアーゼN「アマノ」、プロテアーゼS「アマノ」、アシラーゼ「アマノ」、D−アミノアシラーゼ「アマノ」等(以上、天野エンザイム(株)製)や、アルカラーゼ、エスペラーゼ、サビナーゼ、エバラーゼ、カンナーゼ、リポラーゼ、ライペックス、NS44020、NS44120、NS44060、NS44114、NS44126、NS44160等(以上ノボザイム
ズジャパン社製)、アルカリ性プロテアーゼ(タケダ化学工業(株)製)、アロアーゼXA−10(ヤクルト薬品工業(株))、アルカリプロテアーゼGL、プロテックス 6L、ピュラフェクト、ピュラフェクト OX、プロペラーゼ、プロテックス OXG、プロテックス 40L(以上ジェネンコア協和(株))、スミチームMP(新日本化学工業(株))、ビオブラーゼ OP、ビオブラーゼ AL−15KG、ビオブラーゼ 30G、ビオブラーゼ APL−30、ビオブラーゼ XL−416F、ビオブラーゼ SP−20FG、ビオブラーゼ SP−4FG、プロテアーゼ CL−15(以上ナガセケムテックス(株))、オリエンターゼ(エイチビィアイ(株))、エンチロンSA(洛東化成工業(株))等が挙げられる。
【0136】
これら酵素の導入方法としては、現像液中に直接投入しても、平版印刷版原版処理時に投入しても構わない。また、現像液に酵素を供給しながら現像処理を行ってもよい。
用いられる酵素の添加量としては、酵素固形分として現像液全量に対して0.0001質量%〜5質量%が好ましく、0.001質量%〜1質量%がさらに好ましく、0.001質量%〜0.3質量%が特に好ましい。
【0137】
本発明の現像液には上記の他に、防腐剤、キレート化合物、消泡剤、有機酸、無機酸、無機塩などを含有することができる。具体的には、特開2007−206217号公報〔0266〕〜〔0270〕に記載の化合物を好ましく用いることができる。
上記の現像液は、現像補充液としても用いることができる。自動現像処理機を用いて現像する場合、処理量に応じて現像液が疲労してくるので、補充液又は新鮮な現像液を用いて処理能力を回復させてもよい。
【0138】
<乾燥工程>
前記現像工程の後、乾燥工程を行うことが好ましい。
乾燥手段は、加熱手段は特に制限されず、通常この種の印刷版の乾燥に用いられているものを特に制限なく用いることができる。具体的には、熱風、赤外線、遠赤外線等によって行うことができる。
乾燥工程における平版印刷版原版の版面温度は通常30℃〜80℃であり、40℃〜80℃が好ましく、50℃〜80℃が更に好ましく、60℃〜80℃が特に好ましい。版面温度が低いと十分に乾燥せずにベトツキ等の問題が生じ、高すぎると揮発成分が揮発し臭気が発生しやすくなる。
ここで、乾燥工程における版面温度は、乾燥工程直後のアルミニウム版の処理される側の面の温度をいい、アルミニウム版の中央部に相当する位置の面の温度をいう。版面温度は放射温度計により非接触で測定された温度をいう。乾燥工程における加熱時間は、1〜20秒とするのが好ましく、5〜10秒とするのが更に好ましい。
【0139】
本発明に係る平版印刷版の作製方法の好ましい態様の1つは、現像液が界面活性剤を含有し、現像液の存在下、前記保護層と前記感光層の非露光部とを同時に除去し、かつ、平版印刷版の作製方法が水洗工程を含まないことである。この態様によれば、従来の保護層の除去、現像処理、及びガム液処理を一浴で行うことが可能となり、これにより処理工程を大幅に簡素化することができる。
ここで、「水洗工程を含まないこと」とは、平版印刷版原版の露光工程以降、現像処理工程を経て平版印刷版が作製されるまでの間に、一切の水洗工程を含まないことを意味する。即ち、この態様によれば、露光工程と現像工程の間のみならず、現像処理工程後も水洗工程を行うことなく平版印刷版が作製される。作製された印刷版は、そのまま、印刷に供することができる。
【0140】
その他、本発明の平版印刷版原版からの平版印刷版の製版プロセスとして、画像強度、耐刷性の向上を目的に、現像後の画像に対し、全面後加熱若しくは全面露光を行ってもよい。現像後の加熱には非常に強い条件を利用することが好ましい。通常は100〜500℃の範囲である。100℃以上であることにより、画像強化作用を充分に得ることができ、また、500℃以下であることにより、支持体の劣化、画像部の熱分解といった問題が生じにくくなる。
【0141】
(現像装置)
図1を参照して本発明の平版印刷版の作製方法に用いられる自動現像処理機の一例について簡単に説明する。
図1に示す自動現像処理機100は、平版印刷版原版の搬送路11の搬送方向(矢印A)に沿って連続して形成された現像部300及び乾燥部400を有している。
【0142】
現像部300は、外板パネル310にはスリット状挿入口312が設けられている。
現像部300の内部には、現像液で満たされている現像槽308を有する処理タンク306と、平版印刷版原版を処理タンク306内部へ案内する挿入ローラー対304が設けられている。現像槽308の上部は遮蔽蓋324で覆われている。
現像槽308の内部には、搬送方向上流側から順に、ガイドローラー344及びガイド部材342、液中ローラー対316、ブラシローラー対322、ブラシローラー対326、搬出ローラー対318が並設されている。現像槽308内部に搬送された平版印刷版原版は、現像液中に浸漬され、回転するブラシローラー対322,326の間を通過することにより非画像部が除去される。
ブラシローラー対322,326の下部には、スプレーパイプ330が設けられている。スプレーパイプ330はポンプ(不図示)が接続されており、ポンプによって吸引された現像槽308内の現像液がスプレーパイプ330から現像槽308内へ噴出するようになっている。
【0143】
現像槽308側壁には、第1の循環用配管C1の上端部に形成されたオーバーフロー口51が設けられており、超過分の現像液がオーバーフロー口51に流入し、第1の循環用配管C1を通って現像部300の外部に設けられた外部タンク50に排出される。
外部タンク50は第2の循環用配管C2が接続され、第2の循環用配管C2中には、フィルター部54及び現像液供給ポンプ55が設けられている。現像液供給ポンプ55によって、現像液が外部タンク50から現像槽308へ供給される。また、外部タンク50内にはレベル計52,53が設けられている。
現像槽308は、第3の循環用配管C3を介して補充用水タンク71に接続されている。第3の循環用配管C3中には水補充ポンプ72が設けられており、この水補充ポンプ72によって補充用水タンク71中に貯留される水が現像槽308へ供給される。
液中ローラー対316の上流側には液温センサ336が設置されており、搬出ローラー対318の上流側には液面レベル計338が設置されている。
【0144】
現像部300と乾燥部400との間に配置された仕切り板332にはスリット状挿通口334が設けられている。また、現像部300と乾燥部400との間の通路にはシャッター(不図示)が設けられ、平版印刷版原版が通路を通過していないとき、通路はシャッターにより閉じられている。
乾燥部400は、支持ローラー402、ダクト410,412、搬送ローラー対406、ダクト410,412、搬送ローラー対408がこの順に設けられている。ダクト410,412の先端にはスリット孔414が設けられている。また、乾燥部400には図示しない温風供給手段、発熱手段等の乾燥手段が設けられている。乾燥部400には排出口404が設けられ、乾燥手段により乾燥された平版印刷版は排出口404から排出される。
【実施例】
【0145】
以下、実施例により、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。実施例において使用の高分子化合物についての繰り返し単位の比は、モル比である。
【0146】
<支持体(1)の作製>
厚さ0.24mmのアルミニウム板(材質1050,調質H16)を65℃に保たれた5質量%水酸化ナトリウム水溶液に浸漬し、1分間の脱脂処理を行った後、水洗した。この脱脂アルミニウム板を、25℃に保たれた10質量%塩酸水溶液中に1分間浸漬して中和した後、水洗した。次いで、このアルミニウム板を、0.3質量%の塩酸水溶液中で、25℃、電流密度100A/dmの条件下に交流電流により60秒間、電解粗面化を行った後、60℃に保たれた5質量%水酸化ナトリウム水溶液中で10秒間のデスマット処理を行った。
デスマット処理を行った粗面化アルミニウム板を、15質量%硫酸水溶液溶液中で、25℃、電流密度10A/dm、電圧15Vの条件下に1分間陽極酸化処理を行い、更に1質量%ポリビニルホスホン酸水溶液を用いて75℃で親水化処理を行って支持体(1)を作製した。その表面粗さを測定したところ、0.44μm(JIS B0601によるRa表示)であった。
【0147】
<支持体(2)の作製>
厚さ0.3mmのアルミニウム板を10質量%水酸化ナトリウム水溶液に60℃で25秒間浸漬してエッチングし、流水で水洗後、20質量%硝酸水溶液で中和洗浄し、次いで水洗した。これを正弦波の交番波形電流を用いて1質量%硝酸水溶液中で300クーロン/dmの陽極時電気量で電解粗面化処理を行った。引き続いて1質量%水酸化ナトリウム水溶液中に40℃で5秒間浸漬後30質量%の硫酸水溶液中に浸漬し、60℃で40秒間デスマット処理した後、20質量%硫酸水溶液中、電流密度2A/dmの条件で陽極酸化皮膜の厚さが2.7g/mになるように、2分間陽極酸化処理した。その表面粗さを測定したところ、0.28μm(JIS B0601によるRa表示)であった。
【0148】
このように処理されたアルミニウム板に、バーコーターを用いて次の下塗り液(1)を塗布したあと100℃で30秒間乾燥した。乾燥後の下塗り層の塗布質量は18mg/mであった。
【0149】
<下塗り液(1)>
・下塗り化合物(1) 0.012g
・下塗り化合物(2) 0.015g
・メタノール 5.00g
・水 5.00g
【0150】
【化10】

【0151】
以上のようにして、下塗り層を有する支持体(2)を作製した。
【0152】
<支持体(3)の作製>
支持体(2)の作製において、下塗り液(1)を下記下塗り液(2)に変更した以外は同様の処理を行い、支持体(3)を作製した。
〔下塗り液(2)〕
下記下塗り化合物(3) 2.7g
純水 1000.0g
【0153】
【化11】

【0154】
<感光層>
上記支持体(1)、支持体(2)又は支持体(3)にバーコーターを用いて下記組成の感光層塗布液1〜20をそれぞれ塗布した後、90℃で1分間乾燥し感光層1〜20を形成した。感光層の乾燥塗布量は1.35g/mであった。
【0155】
(感光層塗布液1〜17、20)
・表1に記載の重合性化合物 表2に記載の量
・表2に記載のバインダーポリマー 表2に記載の量
・下記重合開始剤(I−1) 0.08g
・下記増感色素(D−1) 0.04g
・下記連鎖移動剤(S−1) 0.05g
・ε―フタロシアニン顔料の分散物(P−1) 0.40g
(顔料:15質量部、分散剤としてアリルメタクリレート/メタクリル酸(80/20)共重合体(質量平均分子量:12万):10質量部、溶剤としてシクロヘキサノン/メトキシプロピルアセテート/1−メトキシ−2−プロパノール=15質量部/20質量部/40質量部)
・熱重合禁止剤 0.01g
N−ニトロソフェニルヒドロキシルアミンアルミニウム
・下記フッ素系界面活性剤(F−1)(質量平均分子量:1万) 0.001g
・1−メトキシ−2−プロパノール 7.0g
・メチルエチルケトン 6.5g
【0156】
なお、表1において、官能基数とは、重合性基の数を意味する。
【0157】
【表1】

【0158】
表1における重合性化合物は、以下のとおりである。
〔新中村化学工業(株)製〕
A−DPH−12E:エトキシ化ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(EO:12モル)
ATM−35E:エトキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレート(EO:35モル)
A−GLY−9E:エトキシ化グリセリントリアクリレート(EO:9モル)
A−DCP:トリシクロデカンジメタノールジアクリレート
A−BPE−20:エトキシ化ビスフェノールAジアクリレート(EO:20モル)
ABE−300:エトキシ化ビスフェノールAジアクリレート(EO:3モル)
A−BPP−3:プロポキシ化ビスフェノールAジアクリレート(PO:3モル)
A−DPH:ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート
A−SA:2−アクリロイルオキシエチルサクシネート
A−DOD−N:1,10−デカンジオールジアクリレート
DCP:トリシクロデカンジメタノールジメタクリレート
BPE−500:エトキシ化ビスフェノールAジメタクリレート(EO:10モル)
EOは、エトキシ基由来のエチレンオキシ基、POは、プロポキシ基由来のプロピレン基を意味し、記載のモル数は、該化合物1モルあたりの存在量を意味する。
【0159】
〔デグサジャパン製〕
PLEX6661−0:
【0160】
【化12】

【0161】
【化13】

【0162】
【化14】

【0163】
【化15】

【0164】
【化16】

【0165】
【化17】

【0166】
(感光層塗布液18)
・表1に記載の重合性化合物(1) 表2に記載の量
・下記バインダーポリマー(B−4)(質量平均分子量:5万、Tg:150℃)
0.07g
・下記バインダーポリマー(B−5)(質量平均分子量:8万) 0.28g
・前記重合開始剤(I−1) 0.13g
・下記増感色素(D−3) 0.03g
・下記増感色素(D−4) 0.15g
・下記増感色素(D−5) 0.15g
・下記連鎖移動剤(S−2) 0.01g
・前記ε―フタロシアニン顔料の分散物(P−1) 0.40g
・熱重合禁止剤 0.01g
N−ニトロソフェニルヒドロキシルアミンアルミニウム
・前記フッ素系界面活性剤(F−1) 0.001g
・1−メトキシ−2−プロパノール 3.5g
・メチルエチルケトン 8.0g
【0167】
【化18】

【0168】
【化19】

【0169】
【化20】

【0170】
(感光層塗布液19)
・表1記載の重合性化合物(1) 表2に記載の量
・前記バインダーポリマー(B−5) 表2に記載の量
・N,Nジメチルアミノプロピルメタクリルアミド 0.018g
・前記重合開始剤(I−1) 0.08g
・前記増感色素(D−3) 0.04g
・前記連鎖移動剤(S−2) 0.05g
・前記ε―フタロシアニン顔料の分散物(P−1) 0.40g
・熱重合禁止剤 0.01g
N−ニトロソフェニルヒドロキシルアミンアルミニウム
・前記フッ素系界面活性剤(F−1) 0.001g
・1−メトキシ−2−プロパノール 7.0g
・メチルエチルケトン 6.5g
【0171】
<保護層の形成>
前記感光層上に、下記組成よりなる保護層塗布液(1)を、乾燥塗布量が1.2g/mとなるようにバーを用いて塗布した後、125℃、70秒で乾燥して保護層を形成し、平版印刷版原版を得た。
保護層塗布液(1)
・PVA−205 0.658g
(部分加水分解ポリビニルアルコール、クラレ(株)製、鹸化度=86.5−89.5モル%、粘度=4.6−5.4mPa・s(20℃、4質量%水溶液中))
・PVA−105 0.142g
(完全加水分解ポリビニルアルコール、クラレ(株)製、鹸化度=98.0−99.0モル%、粘度=5.2−6.0mPa・s(20℃、4質量%水溶液中))
・ポリ(ビニルピロリドン/酢酸ビニル(モル比1/1))(質量平均分子量7万)
0.001g
・界面活性剤(商品名「エマレックス710」、日本エマルジョン(株)製)
0.002g
・水 13g
【0172】
〔露光、現像及び印刷〕
<実施例1〜31及び比較例1>
表2に示した上記の支持体、感光層、保護層を有する各々の平版印刷版原版を、FUJIFILM Electronic Imaging Ltd 製Violet半導体レーザープレートセッターVx9600(InGaN系半導体レーザー405nm±10nm発光/出力30mWを搭載)の半導体レーザーを出力100mWの半導体レーザー(InGaN系半導体レーザー405nm±10nm発光)に載せ変え、上記の支持体、感光層、保護層を表2に示すように有する各々の平版印刷版原版を、表2に記載の版面露光量(照射エネルギー)で画像露光した。次いで、加熱処理(プレヒート処理)を行うことなく、表2記載の現像液を用い、図1に示す構造の自動現像処理機にて、現像液中への浸漬時間(現像時間)が、20秒となる搬送速度にて現像処理を実施した。ここで、上記現像処理は、露光の終了から平版印刷版原版が現像液に接触するまでの時間(焼き溜め時間)が1分となる場合、及び、5分となる場合のそれぞれについて、実施した。
【0173】
(現像液1、pH:9.8)
・下記界面活性剤(W−1) 15g(川研ファインケミカル(株)製:ソフタゾリンLPB−R)
・下記界面活性剤(W−2) 4g(川研ファインケミカル(株)製:ソフタゾリンLAO)
・キレート剤 エチレンジアミンコハク酸 三ナトリウム(InnoSpec specialty chemicals社製:オクタクエストE30) 0.68g
・2−ブロモ−2−ニトロプロパン−1,3ジオール 0.025g
・2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン 0.025g
・シリコーン系消泡剤(GE東芝シリコーン(株)社製:TSA739)0.15g
・グルコン酸ナトリウム 1.5g
・炭酸ナトリウム 1.06g
・炭酸水素ナトリウム 0.52g
・水 77.04g*上記組成の現像液に、水酸化ナトリウム、及びリン酸を添加し、pHを調整した。
【0174】
【化21】

【0175】
(現像液2、pH:6.9)
・水 88.6g
・下記ノニオン系界面活性剤(W−3) 2.4g
・下記ノニオン系界面活性剤(W−4) 2.4g
・ノニオン系界面活性剤(エマレックス710、日本エマルジョン(株)製)
1.0g
・N−(2−ヒドロキシエチル)モルホリン 1.0g
・トリエタノールアミン 0.5g
・グルコン酸ナトリウム 1.0g
・クエン酸3ナトリウム 0.5g
・エチレンジアミンテトラアセテート4ナトリウム塩 0.05g
・ポリスチレンスルホン酸(商品名「Versa TL77(30質量%溶液)」、Alco chemical社製) 1.0g
*上記組成の現像液に、水酸化ナトリウム、及びリン酸を添加し、pHを調整した(これにより、現像液2は、リン酸とトリエタノールアミンとの反応物からなる塩を0.03モル/Lで含有している)。
【0176】
【化22】

【0177】
(現像液3、pH:9.8)
・水 937.2g
・下記アニオン系界面活性剤(W−5) 23.8g
・リン酸 3g
・1−フェノキシ−2−プロパノール 5g
・トリエタノールアミン 6g
・ポテトデキストリン 25g
*pHは、6.5であった(現像液3は、リン酸とトリエタノールアミンとの反応物からなる塩を0.03モル/Lで含有している)。
【0178】
【化23】

【0179】
(現像液4、pH:9.8)
・ニューコールB−13(日本乳化剤(株)製) 3g
・キレート剤 エチレンジアミンコハク酸 三ナトリウム
(InnoSpec specialty chemicals社製:オクタクエストE30) 0.68g
・2−ブロモ−2−ニトロプロパン−1,3ジオール 0.025g
・2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン 0.025g
・シリコーン系消泡剤(GE東芝シリコーン(株)社製:TSA739) 0.15g
・グルコン酸ナトリウム 1.5g
・炭酸ナトリウム 1.06g
・炭酸水素ナトリウム 0.52g
・水 77.04g
・酵素(ノボザイムズジャパン製:NS44126) 0.3g
【0180】
<実施例32>
露光終了から現像までの時間を30秒とした以外は実施例1と同様の処理を行った。
【0181】
得られた平版印刷版を、ハイデルベルグ社製印刷機SOR−Mに取り付け、湿し水(EU−3(富士フイルム(株)製エッチ液)/水/イソプロピルアルコール=1/89/10(容量比))とTRANS−G(N)墨インキ(DICグラフィックス(株)製)とを用い、毎時6000枚の印刷速度で印刷を行った。
【0182】
〔評価〕
<網再現性>
上記焼き溜め時間を1分として現像して得られた平版印刷版上の50%網点をiC plate II(グレタグマクベス社製)を用いての画像部の網再現性(以下、50%網再現性とも言う)を測定した。50〜58%の再現性を示したとき、感度が優れており、網再現性が優れていることを意味する。
<網再現の安定性>
プレートセッターでレーザー露光してから、焼き溜め時間を変化させた場合の網再現性の変動を評価した。下式で得られる網再現の安定の値が小さいほど、網再現の安定性が優れていることになり、5%以内が許容範囲とする。
【0183】
網再現の安定性=(焼き溜め時間5分のときの50%網再現性)−(焼き溜め時間1分のときの50%網再現性)
【0184】
<耐刷性>
印刷枚数を増やしていくと徐々に平版印刷版上に形成された感光層の画像が磨耗しインキ受容性が低下するため、これに伴い、印刷用紙における画像のインキ濃度が低下する。
そこで、インキ濃度(反射濃度)が印刷開始時よりも0.1低下したときの印刷枚数により、耐刷性を評価した。耐刷性の評価において、上記焼き溜め時間は1分とした。
【0185】
以上の結果を表2に示す。なお、実施例32においては、焼き溜め時間を30秒としたため、網再現性の安定性は、評価していない。
【0186】
【表2】

【0187】
表2の結果から、本発明の平版印刷版の作製方法によれば、プレヒート処理を行わなくとも、耐刷性と網再現性が良好な画像部を形成しうるとともに、網再現の安定性に優れることが分かった。
【0188】
以上のように、本発明の平版印刷版の作製方法は、プレヒート工程を含まなくとも、優れた耐刷性と網点再現性を示す印刷版を提供する。また、露光後、現像するまでの時間が変動した場合でも、安定した網点再現性を示す。更に、自動現像処理機のプレヒートユニットが省略可能になるため、処理工程の簡素化、地球環境への配慮、省スペース、低ランニングコストへの適合等のメリットがある。
【符号の説明】
【0189】
A:原版の搬送方向
11:搬送路
100:自動現像処理機
300:現像部
400:乾燥部
304:挿入ローラー対
306:処理タンク
308:現像槽
310:外板パネル
312:スリット状挿入口
316:液中ローラー対
318:搬出ローラー対
322:ブラシローラー対
324:遮蔽蓋
326:ブラシローラー対
330:スプレーパイプ
334:スリット状挿通口
336:液温センサー
338:液面レベル計
332:仕切り板
342:ガイド部材
344:ガイドローラー
402:支持ローラー
404:排出口
406:搬送ローラー対
408:搬送ローラー対
410、412:ダクト
414:スリット孔
50:外部タンク
51:オーバーフロー口
52:上限液レベル計
53:下限液レベル系
54:フィルター部
55:現像液供給ポンプ
C1:第1の循環用配管
C2:第2の循環用配管
71:補充用水タンク
72:水補充ポンプ
C3:第3の循環用配管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体、バインダーポリマーと25℃における粘度が9000mPa・s以下であるラジカル重合性化合物とを含有する感光層、及び、保護層をこの順で有する平版印刷版原版を、画像様に露光し、露光した平版印刷版原版を、加熱処理を経ることなく、現像液により現像する平版印刷版の作製方法。
【請求項2】
前記ラジカル重合性化合物の重合性基がアクリロイル基である、請求項1に記載の平版印刷版の作製方法。
【請求項3】
前記ラジカル重合性化合物の25℃における粘度が150〜1000mPa・sである、請求項1又は2に記載の平版印刷版の作製方法。
【請求項4】
前記平版印刷版原版を、350〜450nmの波長を有するレーザーで露光する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の平版印刷版の作製方法。
【請求項5】
前記平版印刷版原版を、100〜1000μJ/mの照射エネルギー量で露光する、請求項4に記載の平版印刷版の作製方法。
【請求項6】
前記バインダーポリマーのガラス転移温度が80℃未満である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の平版印刷版の作製方法。
【請求項7】
前記ラジカル重合性化合物の1分子あたりの重合性基の数が2以上である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の平版印刷版の作製方法。
【請求項8】
前記ラジカル重合性化合物の前記感光層の全固形分に対する含有量が30質量%以上である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の平版印刷版の作製方法。
【請求項9】
前記バインダーポリマーが、架橋性基を有する、請求項1〜8のいずれか1項に記載の平版印刷版の作製方法。
【請求項10】
前記バインダーポリマーに対する前記ラジカル重合性化合物の質量比が1以上である、請求項1〜9のいずれか1項に記載の平版印刷版の作製方法。
【請求項11】
前記平版印刷版原版に対する画像様露光の終了から、前記平版印刷版原版が前記現像液に接触するまでの時間が1分以上である、請求項1〜10のいずれか1項に記載の平版印刷版の作製方法。
【請求項12】
前記現像液のpHが2.0〜10.0である、請求項1〜11のいずれか1項に記載の平版印刷版の作製方法。
【請求項13】
前記現像液が、炭酸イオン及び炭酸水素イオンを含有する、請求項1〜12のいずれか1項に記載の平版印刷版の作製方法。
【請求項14】
前記現像液が、酸とアミンとの反応物からなる塩を含有する、請求項1〜13のいずれか1項に記載の平版印刷版の作製方法。
【請求項15】
前記現像液が、リン酸及び亜リン酸の少なくともいずれかの酸と、ジ又はトリアルカノールアミンとの反応物からなる塩を含有する、請求項14に記載の平版印刷版の作製方法。
【請求項16】
前記平版印刷版原版が、前記支持体と前記感光層との間に、前記支持体に吸着する支持体吸着基を有する化合物を含有する中間層を有する、請求項1〜15のいずれか1項に記載の平版印刷版の作製方法。
【請求項17】
前記現像液が界面活性剤を含有し、該現像液の存在下、前記保護層と前記感光層の非露光部とを同時に除去し、かつ、前記平版印刷版の作製方法が、水洗工程を含まない、請求項1〜16のいずれか1項に記載の平版印刷版の作製方法。
【請求項18】
前記露光工程及び前記現像工程を、露光装置と現像装置とがコンベアベルトで連結された装置、又は、露光装置と現像装置とが一体成型された装置を用いて行う、請求項1〜17のいずれか1項に記載の平版印刷版の作製方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−73595(P2012−73595A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−179776(P2011−179776)
【出願日】平成23年8月19日(2011.8.19)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】