説明

平版印刷版用アルミニウム合金板および平版印刷版用支持体

【課題】種々の電解粗面化処理条件によっても均一な電解粗面化面を有する平版印刷版用支持体を得ることができ、かつ、耐刷性および耐汚れ性に優れた平版印刷版を得ることができる平版印刷版用アルミニウム合金板ならびにそれを用いた平版印刷版用支持体および平版印刷版原版の提供。
【解決手段】0.03〜0.20質量%のSiと0.11〜0.45質量%のFeとを含有し、Siの固溶量が120〜600ppmであり、Feの固溶量が100ppm以下である、平版印刷版用アルミニウム合金板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平版印刷版用アルミニウム合金板およびそれを用いた平版印刷版用支持体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アルミニウム合金板を支持体とする感光性平版印刷版原版はオフセット印刷に幅広く使用されている。
また、一般的に、このアルミニウム合金板には、板厚0.1〜0.5mmの圧延板が用いられており、JIS1000系材料やJIS3000系材料、JIS1000系材料にマグネシウム(Mg)やマンガン(Mn)を少量添加した材料が用いられる。
【0003】
一方、平版印刷版用支持体の製造方法としては、シート状またはコイル状のアルミニウム合金板の表面に粗面化処理および陽極酸化処理を施す方法が一般に知られている。
また、平版印刷版原版の製造方法としては、平版印刷版用支持体上に感光液を塗布し乾操させて画像記録層を形成させ、必要に応じて所望のサイズに切りそろえる方法が一般に知られている。そして、この平版印刷版原版は、画像焼付け後に現像処理が施されることにより平版印刷版とされる。
【0004】
この方法において、画像記録層と平版印刷版用支持体との密着性を向上させるためには、酸性溶液中で行う電気化学的粗面化処理(以下、「電解粗面化処理」ともいう。)を施すことや、陽極酸化処理後に表面処理や下塗液の塗布を施すことが有効であることが知られている。
【0005】
また、電解粗面化処理を含む粗面化処理を行う場合、粗面化処理により平版印刷版用支持体の表面に微小な凹凸(ピット)が生成することが知られている。
ここで、ピットの径を均一でかつ大きくし、また、ピットの深さを深くすることによって、印刷性能(特に、耐刷性および耐汚れ性)に優れる平版印刷版原版が得られると考えられていた。これは、画像部においては、画像記録層と平版印刷版用支持体との密着性が強固になるため数多くの枚数を印刷しても画像記録層がはく離しにくくなり、非画像部においては、多くの湿し水を表面に保持することが可能となるため汚れが発生しにくくなるという知見に基づくものである。
そして、そのような観点から電解粗面化処理により生成するピットの形状や、電解粗面化処理を施した後の平版印刷版用支持体表面(以下、「電解粗面化面」ともいう。)の均一性を改善する種々の方法が提案されている(例えば、特許文献1〜8等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−108534号公報
【特許文献2】特開2000−37965号公報
【特許文献3】特開2000−37964号公報
【特許文献4】特開平7−173563号公報
【特許文献5】特開2005−89846号公報
【特許文献6】特開2007−21519号公報
【特許文献7】特開2008−111142号公報
【特許文献8】特開平7−138687号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
これらの特許文献のうち、特に特許文献7では、平版印刷版用アルミニウム合金板のケイ素(Si)および鉄(Fe)の含有量および固溶量を特定の範囲にしているが、電解粗面化処理の条件によっては、電解粗面化処理を施した後の平版印刷版用支持体の表面(以下、「電解粗面化面」ともいう。)が均一とならない場合があり、このような平版印刷版用支持体を用いた平版印刷版は耐刷性および耐汚れ性に劣るものであった。
【0008】
そこで、本発明は、種々の電解粗面化処理条件によっても均一な電解粗面化面を有する平版印刷版用支持体を得ることができ、かつ、耐刷性および耐汚れ性に優れた平版印刷版を得ることができる平版印刷版用アルミニウム合金板ならびにそれを用いた平版印刷版用支持体および平版印刷版原版を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意研究した結果、SiおよびFeを特定の含有量および固溶量とする平版印刷版用アルミニウム合金板を用いることにより、種々の電解粗面化処理条件によっても均一な電解粗面化面を有する平版印刷版用支持体を得ることができ、かつ、耐刷性および耐汚れ性に優れた平版印刷版を得ることができることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下の(1)〜(8)を提供する。
【0010】
(1)0.03〜0.20質量%のSiと0.11〜0.45質量%のFeとを含有し、Siの固溶量が120〜600ppmであり、Feの固溶量が100ppm以下である、平版印刷版用アルミニウム合金板。
【0011】
(2)表面に、円相当直径が0.2μm以上である金属間化合物を20000個/mm2以上有する、上記(1)に記載の平版印刷版用アルミニウム合金板。
【0012】
(3)Cuの含有量が0.030質量%以下である上記(1)または(2)に記載の平版印刷版用アルミニウム合金板。
【0013】
(4)アルミニウム合金溶湯を溶湯供給ノズルを介して一対の冷却ローラの間に供給し、上記一対の冷却ローラによって上記アルミニウム合金溶湯を凝固させつつ圧延を行う連続鋳造により得られる、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の平版印刷版用アルミニウム合金板。
【0014】
(5)上記(1)〜(4)のいずれかに記載の平版印刷版用アルミニウム合金板の表面に、電気化学的粗面化処理を含む粗面化処理を施して得られる平版印刷版用支持体。
【0015】
(6)上記粗面化処理が、上記電気化学的粗面化処理の前に、更にアルカリエッチング処理を含む上記(5)に記載の平版印刷版用支持体。
【0016】
(7)上記粗面化処理が、上記電気化学的粗面化処理の後に、更にアルカリエッチング処理を含む上記(5)または(6)に記載の平版印刷版用支持体。
【0017】
(8)上記(5)〜(7)のいずれかに記載の平版印刷版用支持体上に画像記録層を設けてなる平版印刷版原版。
【発明の効果】
【0018】
以下に説明するように、本発明によれば、種々の電解粗面化処理条件によっても均一な電解粗面化面を有する平版印刷版用支持体を得ることができ、かつ、耐刷性および耐汚れ性に優れた平版印刷版を得ることができる平版印刷版用アルミニウム合金板ならびにそれを用いた平版印刷版用支持体および平版印刷版原版を提供することができる。
【0019】
また、本発明の平版印刷版用アルミニウム合金板は、従来法に比べて製造工程を簡素化することができ、製造コストおよび製造時間の低減も図れるため非常に有用である。
【0020】
更に、表面に円相当直径が0.2μm以上の金属間化合物を20000個/mm2以上有する平版印刷版用アルミニウム合金板を用いることにより、電解粗面化面の均一性がより良好な平版印刷版用支持体を得ることができる。
これは、本発明者は、金属間化合物が電気化学的粗面化を施す際の有効な反応起点になるという新たな知見に基づくものである。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の平版印刷版用支持体の製造方法における電気化学的粗面化処理に用いられる交番波形電流波形図の一例を示すグラフである。
【図2】本発明の平版印刷版用支持体の製造方法における交流を用いた電気化学的粗面化処理におけるラジアル型セルの一例を示す側面図である。
【図3】本発明の平版印刷版用支持体の製造方法における陽極酸化処理に用いられる陽極酸化処理装置の概略図である。
【図4】本発明の平版印刷版用支持体の製造方法における電気化学的粗面化処理に用いられるサイン波形図の一例を示すグラフである。
【図5】本発明の平版印刷版用支持体の作製における機械粗面化処理に用いられるブラシグレイニングの工程の概念を示す側面図である。
【図6】本発明の平版印刷版用支持体の作製における陽極酸化処理に用いられる陽極酸化処理装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明について詳細に説明する。
[平版印刷版用支持体]
<アルミニウム合金板(圧延アルミ)>
本発明の平版印刷版用支持体には、以下で説明する本発明の平版印刷版用アルミニウム合金板(以下、「本発明のアルミニウム合金板」という。)が用いられる。アルミニウム合金における必須の合金成分は、Al、FeおよびSiであり、任意成分として銅(Cu)を含有してもよい。
本発明者は、特に固溶量に注目し、連続鋳造で製造したアルミニウム合金板に電解粗面化処理を施す際にSiおよびFeの固溶量をある範囲に保つことが、電解粗面化処理の安定性に優れた効果を示すことを見出した。
【0023】
Siは、原材料であるAl地金に不可避不純物として0.03〜0.1質量%前後含有される元素であり、原材料差によるばらつきを防ぐため、意図的に微量添加されることが多い。Siは、アルミニウム中に固溶した状態で、または、金属間化合物もしくは単独の析出物として存在する。
【0024】
本発明においては、Siの含有量は0.03〜0.20質量%であり、0.04〜0.18質量%であるのが好ましく、0.05〜0.15質量%であるのがより好ましい。
Siの含有量がこの範囲であると、必要なSiの固溶量を確保し、また、電解粗面化処理後に陽極酸化処理を施したときであっても、陽極酸化皮膜に欠陥が生じ難くなり、平版印刷版としての耐汚れ性も良好となる。
【0025】
また、本発明においては、Siの固溶量は120〜600ppmであり、150〜600ppmであるのが好ましく、150〜500ppmであるのがより好ましい。
Siの固溶量がこの範囲であると、電解粗面化面が均一となり、また、0.01〜0.05μmおよび0.05〜1.5μmの平均開口径を有するピットが表面全体に均一に形成される。
【0026】
Feは、アルミニウム中に固溶する量は少なく、ほとんどが金属間化合物として残存する元素である。
【0027】
本発明においては、Feの含有量は0.11〜0.45質量%であり、0.15〜0.45質量%であるのが好ましく、0.20〜0.43質量%であるのがより好ましい。
Feの含有量がこの範囲であると、Feが細かい金属間化合物として分散し、それらが電解粗面化処理の起点として働く結果、電解粗面化面が均一となる。
【0028】
また、本発明においては、必要なFeの金属間化合物を確保する観点から、Feの固溶量は100ppm以下であり、50ppm以下であるのが好ましく、40ppm以下であるのがより好ましい。
また、アルミニウム合金板の耐熱性を確保する観点から、Feの固溶量は10ppm以上であるのが好ましい。
【0029】
Cuは、電解粗面化処理を制御するうえで重要な元素であるが、本発明においては任意元素である。
本発明においては、電解粗面化の均一性を保持する観点から、Cuを含有する場合の含有量は0.030質量%以下であるのが好ましい。
【0030】
結晶粒微細化元素は、電解粗面化の均一性に影響を与えないため、鋳造時の割れ発生防止のために適宜添加してよい。そのために、例えばTiは0.05質量%以下の範囲で、Bは0.02質量%以下の範囲で添加できる。
【0031】
アルミニウム合金板の残部は、Alと不可避不純物からなる。
この不可避不純物としては、例えば、Mg、Mn、Zn、Cr、Zr、V、Zn、Be等が挙げられ、これらはそれぞれ0.05質量%以下含まれていてもよい。
また、不可避不純物の大部分は、Al地金中に含有される。不可避不純物は、例えば、Al純度99.5%の地金に含有されるものであれば、本発明の効果を損なわない。
不可避不純物については、例えば、L.F.Mondolfo著「Aluminum Alloys:Structure and properties」(1976年)等に記載されている量の不純物が含有されていてもよい。
【0032】
本発明者は、上述したように、SiおよびFeを特定量含有するアルミニウム合金板を連続鋳造圧延材とし、SiおよびFeの固溶量を特定の値にすることにより、電解粗面化処理の安定性が向上し、電解粗面化面の均一性を高めることができることを見出した。
これにより、本発明においては、種々の電解粗面化処理条件によっても均一な電解粗面化面を有する平版印刷版用支持体を得ることができ、かつ、耐刷性および耐汚れ性に優れた平版印刷版を得ることができるのである。
【0033】
また、本発明者は、上述したように、金属間化合物が電気化学的粗面化を施す際の有効な反応起点になるという新たな知見し、表面に円相当直径が0.2μm以上の金属間化合物を20000個/mm2以上有する平版印刷版用アルミニウム合金板を用いることにより、電解粗面化面の均一性がより良好となることを見出した。
ここで、SiおよびFeを必須とする本発明のアルミニウム合金板においては、上記金属間化合物としては、具体的には、例えば、Al3Fe、Al6Fe、AlmFe、α−AlFeSi、β−AlFeSi等が挙げられる。
【0034】
本発明においては、上記金属間化合物の種類によらず、円相当直径が0.2μm以上の金属間化合物を20000個/mm2以上有することにより、電解粗面化面の均一性がより良好となる。これは、電解粗面化処理の起点となる金属間化合物が多数存在することで、粗面化処理により形成されるピットの径および深さが揃うためであると考えられる。
また、電解粗面化面の均一性が更に良好になる理由から、円相当直径が0.2μm以上の金属間化合物を30000〜60000個/mm2有するのが好ましく、35000〜60000個/mm2有するのがより好ましい。
更に、同様の理由から、上記金属間化合物の平均径は、0.2〜1.0μmであるのが好ましく、0.3〜0.5μmであるのがより好ましい。
【0035】
ここで、金属間化合物の個数および平均径は、以下に示す方法で測定する。
まず、アルミニウム合金板について、その表面の油分をアセトンでふき取ったものを測定試料として用いる。
次に、走査型電子顕微鏡(PC−SEM7401F、日本電子社製)を用い、加速電圧を12.0kV、倍率2000倍の条件で、アルミニウム合金板表面の反射電子像を撮影する。
次いで、得られた反射電子像から任意に選んだ5箇所の画像をJPEG形式で保存し、MS−Paint(マイクロソフト社製)を用いてbmf(ビットマップファイル)形式に変換する。
このbmf形式ファイルを画像解析ソフトImageFactory Ver.3.2日本語版(旭ハイテック社製)に読み込んで画像解析を行った後、画像の静的二値化処理を行い、白く抜けた金属間化合物に対応する部分をカウントし、特徴量として円相当直径(等価円直径)を指定して粒度分布を得る。
この粒度分布の結果から、円相当直径が0.2μm以上の金属間化合物の個数を算出する。なお、この算出は、5箇所の画像データ(粒度分布)の各々から算出した個数の平均値を百の位で四捨五入して行う。
同様に、この粒度分布の結果から、金属間化合物の円相当直径の平均値を平均径として算出する。
なお、金属間化合物の個数は、粗面化処理を施して平版印刷版用支持体や平版印刷版原版を製造した後においては、粗面化処理を施していないアルミニウム合金板の裏面において同様に測定することができる。
【0036】
更に、本発明者は、熱処理温度および時間を適正値とすることにより、アルミニウム合金板のFeおよびSiの固溶量ならびに金属間化合物の大きさおよび数を適正値とすることができることを見出した。
本発明においては、電解粗面化した平版印刷版用支持体に適したアルミニウム合金板を得るために、連続鋳造圧延法を用いて、FeおよびSiの固溶量ならびに金属間化合物の大きさおよび数を特定値とするのが好ましい。
【0037】
本発明のアルミニウム合金板は、アルミニウム合金溶湯を溶湯供給ノズルを介して一対の冷却ローラの間に供給し、該一対の冷却ローラによって該アルミニウム合金溶湯を凝固させつつ圧延を行う連続鋳造により得るのが好ましい。
連続鋳造による圧延は、鋳造材表面の凝固速度が大きいので晶出物が微細均一であり、DC鋳造法で必要とする鋳塊の均質化熱処理が不要であり、長時間の処理を施されないことから品質が安定しているため、平版印刷版用支持体用の素板として適切である。
【0038】
具体的には、以下の方法が好適に例示される。
まず、所定の合金成分含有量に調整したアルミニウム合金溶湯に、常法に従い、必要に応じて清浄化処理を施すことができる。
清浄化処理としては、例えば、溶湯中の水素等の不要ガスを除去するための脱ガス処理(例えば、アルゴンガス、塩素ガス等を用いたフラックス処理等);セラミックチューブフィルタ、セラミックフォームフィルタなどのいわゆるリジッドメディアフィルタや、アルミナフレーク、アルミナボールなどをろ材とするフィルタや、グラスクロスフィルタなどを用いるフィルタリング処理;このような脱ガス処理とフィルタリング処理とを組み合わせた処理;等が挙げられる。
【0039】
これらの清浄化処理は、溶湯中の非金属介在物、酸化物等の異物による欠陥や、溶湯に溶け込んだガスによる欠陥を防ぐために実施されることが好ましい。溶湯のフィルタリングに関しては、特開平6−57432号、特開平3−162530号、特開平5−140659号、特開平4−231425号、特開平4−276031号、特開平5−311261号、特開平6−136466号の各公報等に記載されている。また、溶湯の脱ガスに関しては、特開平5−51659号公報、実開平5−49148号公報等に記載されている。本出願人も、特開平7−40017号公報において、溶湯の脱ガスに関する技術を提案している。
【0040】
次いで、必要に応じて清浄化処理を施した溶湯を用いて、連続鋳造を施す。
連続鋳造は、アルミニウム合金溶湯を溶湯供給ノズルを介して一対の冷却ローラの間に供給し、該一対の冷却ローラによって該アルミニウム合金溶湯を凝固させつつ圧延を行う工程であり、双ロール法(ハンター法)、3C法に代表される冷却ロールを用いる方法、双ベルト法(ハズレー法)、アルスイスキャスターII型に代表される冷却ベルトや冷却ブロックを用いる方法等により施すことができる。
連続鋳造法は、一般的には、DC鋳造法に比べて冷却速度が速いため、アルミマトリックスに対する合金成分固溶度を高くすることができるという特徴を有する。また、冷却速度が100〜1000℃/秒の範囲で凝固する。
連続鋳造法に関しては、本出願人によって提案された技術が、特開平3−79798号、特開平5−201166号、特開平5−156414号、特開平6−262203号、特開平6−122949号、特開平6−210406号、特開平6−26308号の各公報等に記載されている。
【0041】
連続鋳造においては、例えば、ハンター法等の冷却ロールを用いる方法を用いると、板厚1〜10mmの鋳造板を直接、連続鋳造することができ、熱間圧延の工程を省略することができるというメリットが得られる。
また、ハズレー法等の冷却ベルトを用いる方法を用いると、板厚10〜50mmの鋳造板を鋳造することができ、一般的に、鋳造直後に熱間圧延ロールを配置し連続的に圧延することで、板厚1〜10mmの連続鋳造圧延板が得られる。
本発明においては、多くの金属間化合物を生成する観点から、冷却ロールを用いる方法が好ましく、また、板厚を7mm以下にするのが好ましい。
【0042】
連続鋳造後、得られたアルミニウム合金板は、必要に応じて施す冷間圧延工程等を経て、所定の厚さ、例えば、0.1〜0.5mmの板厚に仕上げられる。
【0043】
本発明においては、冷間圧延の前もしくは後、またはその途中において、Siの固溶量を増やしたり、Feの固溶量を抑制したりする観点から中間焼鈍処理を施してもよい。また、適切な中間焼鈍処理は、結晶粒を微細にする効果もあり、面質を良好なものにできる。
上記中間焼鈍処理は、金属間化合物の大きさおよび個数を適正化する観点から、過剰な高温で施したり、過度に長時間施したりすることは避けるのが望ましい。特に550℃を越える温度や36時間を超える熱処理は避けるのが望ましい。これは、上記金属間化合物がアルミニウムに再固溶したり、Al6Fe、AlmFe、α−AlFeSi、β−AlFeSiのような準安定相の金属間化合物が安定相のAl3Feに変化する過程で数が減少したりする場合があるためである。
上記中間焼鈍処理の好適条件としては、バッチ式焼鈍炉を用いて280〜550℃で2〜20時間、好ましくは350〜550℃で2〜10時間、より好ましくは350〜550℃で2〜5時間加熱する条件;連続焼鈍炉を用いて400〜550℃で6分以下、好ましくは450〜550℃で2分以下加熱する条件;等が挙げられる。
【0044】
以上の工程によって、所定の厚さ、例えば、0.1〜0.5mmに仕上げられたアルミニウム合金板は、更にローラレベラ、テンションレベラ等の矯正装置によって平面性を改善してもよい。平面性の改善は、アルミニウム合金板をシート状にカットした後に行ってもよいが、生産性を向上させるためには、連続したコイルの状態で行うことが好ましい。
また、所定の板幅に加工するため、スリッタラインを通してもよい。
更に、アルミニウム合金板同士の摩擦による傷の発生を防止するために、アルミニウム合金板の表面に薄い油膜を設けてもよい。油膜には、必要に応じて、揮発性のものや、不揮発性のものが適宜用いられる。
【0045】
<粗面化処理>
本発明の平版印刷版用支持体は、上述した連続鋳造工程ならびに所望により行われる各種工程(例えば、中間焼鈍工程、冷間圧延工程等)を経て得られるアルミニウム合金板の表面に、粗面化処理を施して得られるものである。
粗面化処理としては、一般に、機械的粗面化処理、化学的粗面化処理および電気化学的粗面化処理のうちの1種または2種以上の組み合わせが用いられる。
本発明においては、粗面化処理として、少なくとも電解粗面化処理を施し、電解粗面化処理の前にアルカリエッチング処理(第1アルカリエッチング処理)を施すのが好ましく、電解粗面化処理の後にアルカリエッチング処理(第2アルカリエッチング処理)を施すのが好ましい。
【0046】
粗面化処理としては、電気化学的粗面化処理を2回行い、それらの間にアルカリ水溶液中でのエッチング処理を行うのが好ましく、具体的には、アルカリ水溶液中でのエッチング処理(第1アルカリエッチング処理)、酸性水溶液中でのデスマット処理(第1デスマット処理)、硝酸または塩酸を含有する水溶液中での電気化学的粗面化処理(第1電解粗面化処理)、アルカリ水溶液中でのエッチング処理(第2アルカリエッチング処理)、酸性水溶液中でのデスマット処理(第2デスマット処理)、塩酸を含有する水溶液中での電気化学的粗面化処理(第2電解粗面化処理)、アルカリ水溶液中でのエッチング処理(第3アルカリエッチング処理)および酸性水溶液中でのデスマット処理(第3デスマット処理)、陽極酸化処理をこの順に施す処理が好適に例示される。
また、上記アルカリエッチング処理(第1アルカリエッチング処理)の前に、機械的粗面化処理を施すのが好ましい。
更に、上記陽極酸化処理の後に、更に封孔処理および親水化処理を施すのも好ましい。
【0047】
本発明の平版印刷版用支持体の製造方法においては、上記以外の各種の工程を含んでいてもよい。
以下、表面処理の各工程について、詳細に説明する。
【0048】
<機械的粗面化処理>
本発明においては、アルミニウム合金板の表面の中心平均表面粗さを0.35〜1.0μmとする目的で行われる機械的粗面化処理を施すのが好ましい。
以下、機械的粗面化処理として好適に用いられるブラシグレイン法について説明する。
【0049】
ブラシグレイン法は、一般に、円柱状の胴の表面に、ナイロン(商標名)、プロピレン、塩化ビニル樹脂等の合成樹脂からなる合成樹脂毛等のブラシ毛を多数植設したローラ状ブラシを用い、回転するローラ状ブラシに研磨剤を含有するスラリー液を噴きかけながら、上記アルミニウム合金板の表面の一方または両方を擦ることにより行う。
上記ローラ状ブラシおよびスラリー液の代わりに、表面に研磨層を設けたローラである研磨ローラを用いることもできる。
【0050】
ローラ状ブラシを用いる場合、曲げ弾性率が好ましくは10,000〜40,000kg/cm2、より好ましくは15,000〜35,000kg/cm2であり、かつ、毛腰の強さが好ましくは500g以下、より好ましくは400g以下であるブラシ毛を用いる。ブラシ毛の直径は、一般的には、0.2〜0.9mmである。ブラシ毛の長さは、ローラ状ブラシの外径および胴の直径に応じて適宜決定することができるが、一般的には、10〜100mmである。
本発明では、ナイロンブラシは複数本用いるのが好ましく、具体的には、3本以上がより好ましく、4本以上が特に好ましい。ブラシの本数を調整することにより、アルミニウム合金板表面に形成される凹部の波長成分を調整できる。
【0051】
また、ブラシを回転させる駆動モータの負荷は、ブラシローラをアルミニウム合金板に押さえつける前の負荷に対して1kWプラス以上が好ましく、2kWプラス以上がより好ましく、8kWプラス以上が特に好ましい。該負荷を調整することにより、アルミニウム合金板表面に形成される凹部の深さを調整することができる。ブラシの回転数は、100回転以上が好ましく、200回転以上が特に好ましい。
【0052】
研磨剤は公知の物を用いることができる。例えば、パミストン(パミスストーン)、ケイ砂、水酸化アルミニウム、アルミナ粉、炭化ケイ素、窒化ケイ素、火山灰、カーボランダム、金剛砂等の研磨剤;これらの混合物を用いることができる。中でも、パミストン、ケイ砂が好ましい。ケイ砂は、パミストンに比べて硬く、壊れにくいので粗面化効率に優れる。また、水酸化アルミニウムは過度の荷重がかかると粒子が破損するため、局所的に深い凹部を生成させたくない場合に好適である。
研磨剤のメジアン径は、粗面化効率に優れ、かつ、砂目立てピッチを狭くすることができる点で、2〜100μmであるのが好ましく、20〜60μmであるのがより好ましい。研磨剤のメジアン径を調整することにより、アルミニウム合金板表面に形成される凹部の深さを調整することができる。
【0053】
研磨剤は、例えば、水中に懸濁させて、スラリー液として用いる。スラリー液には、研磨剤のほかに、増粘剤、分散剤(例えば、界面活性剤)、防腐剤等を含有させることができる。スラリー液の比重は0.5〜2であるのが好ましい。
機械的粗面化処理に適した装置としては、例えば、特公昭50−40047号公報に記載された装置を挙げることができる。
【0054】
ブラシと研磨剤とを用いて機械的粗面化処理を行う装置の詳細については、本出願人によって、特開2002−211159号公報に記載されているものを用いることができる。
【0055】
ブラシグレイン法以外の機械的粗面化処理としては、上述した冷間圧延の最後に転写によって表面に凹凸を形成する処理等が挙げられ、本発明においては、ブラシグレイン法に代えて、またはブラシグレイン法とともに施すことができる。
【0056】
<第1アルカリエッチング処理>
第1アルカリエッチング処理は、アルミニウム合金板をアルカリ溶液に接触させることにより、表層を溶解する処理である。
【0057】
電解粗面化処理(第1電解粗面化処理)の前に行われる第1アルカリエッチング処理は、機械的粗面化を行った場合は、その凹凸形状をなめらかにすること、電解粗面化処理(第1電解粗面化処理)で均一な凹部を形成させること、および、機械的粗面化を行わない場合には、アルミニウム合金板の表面の圧延油、汚れ、自然酸化皮膜等を除去することを目的として行われる。
第1アルカリエッチング処理においては、エッチング量は、0.1g/m2以上であるのが好ましく、0.5g/m2以上であるのがより好ましく、1g/m2以上であるのが更に好ましく、また、12g/m2以下であるのが好ましく、10g/m2以下であるのがより好ましく、8g/m2以下であるのが更に好ましい。エッチング量の下限が上記範囲にあると、電解粗面化処理(第1電解粗面化処理)において均一なピットを生成でき、更に処理ムラの発生を防止できる。エッチング量の上限が上記範囲にあると、アルカリ水溶液の使用量が少なくなり、経済的に有利となる。
【0058】
アルカリ溶液に用いられるアルカリとしては、例えば、カセイアルカリ、アルカリ金属塩が挙げられる。具体的には、カセイアルカリとしては、例えば、カセイソーダ、カセイカリが挙げられる。また、アルカリ金属塩としては、例えば、メタケイ酸ソーダ、ケイ酸ソーダ、メタケイ酸カリ、ケイ酸カリ等のアルカリ金属ケイ酸塩;炭酸ソーダ、炭酸カリ等のアルカリ金属炭酸塩;アルミン酸ソーダ、アルミン酸カリ等のアルカリ金属アルミン酸塩;グルコン酸ソーダ、グルコン酸カリ等のアルカリ金属アルドン酸塩;第二リン酸ソーダ、第二リン酸カリ、第一リン酸ソーダ、第一リン酸カリ等のアルカリ金属リン酸水素塩が挙げられる。中でも、エッチング速度が速い点および安価である点から、カセイアルカリの溶液、および、カセイアルカリとアルカリ金属アルミン酸塩との両者を含有する溶液が好ましい。特に、カセイソーダの水溶液が好ましい。
【0059】
第1アルカリエッチング処理においては、アルカリ溶液の濃度は、30g/L以上であるのが好ましく、300g/L以上であるのがより好ましく、また、500g/L以下であるのが好ましく、450g/L以下であるのがより好ましい。
また、アルカリ溶液は、アルミニウムイオンを含有しているのが好ましい。アルミニウムイオン濃度は、1g/L以上であるのが好ましく、50g/L以上であるのがより好ましく、また、200g/L以下であるのが好ましく、150g/L以下であるのがより好ましい。このようなアルカリ溶液は、例えば、水と48質量%カセイソーダ水溶液とアルミン酸ソーダとを用いて調製することができる。
【0060】
第1アルカリエッチング処理においては、アルカリ溶液の温度は、30℃以上であるのが好ましく、50℃以上であるのがより好ましく、また、80℃以下であるのが好ましく、75℃以下であるのがより好ましい。
第1アルカリエッチング処理においては、処理時間は、1秒以上であるのが好ましく、2秒以上であるのがより好ましく、また、30秒以下であるのが好ましく、15秒以下であるのがより好ましい。
【0061】
アルミニウム合金板を連続的にエッチング処理していくと、アルカリ溶液中のアルミニウムイオン濃度が上昇していき、アルミニウム合金板のエッチング量が変動する。そこで、エッチング液の組成管理を、以下のようにして行うのが好ましい。
即ち、カセイソーダ濃度とアルミニウムイオン濃度とのマトリクスに対応する、電導度と比重と温度とのマトリクス、または、電導度と超音波伝搬速度と温度とのマトリクスをあらかじめ作成しておき、電導度と比重と温度、または、電導度と超音波伝搬速度と温度によって液組成を測定し、液組成の制御目標値になるようにカセイソーダと水とを添加する。そして、カセイソーダと水とを添加することによって増加したエッチング液を、循環タンクからオーバーフローさせることにより、その液量を一定に保つ。添加するカセイソーダとしては、工業用の40〜60質量%のものを用いることができる。
電導度計および比重計としては、それぞれ温度補償されているものを用いるのが好ましい。比重計としては、差圧式のものを用いるのが好ましい。
【0062】
アルミニウム合金板をアルカリ溶液に接触させる方法としては、例えば、アルミニウム合金板をアルカリ溶液を入れた槽の中を通過させる方法、アルミニウム合金板をアルカリ溶液を入れた槽の中に浸せきさせる方法、アルカリ溶液をアルミニウム合金板の表面に噴きかける方法が挙げられる。
【0063】
中でも、アルカリ溶液をアルミニウム合金板の表面に噴きかける方法が好ましい。具体的には、φ2〜5mmの孔を10〜50mmピッチで有するスプレー管から、スプレー管1本あたり、10〜100L/minの量でエッチング液を吹き付ける方法が好ましい。スプレー管は複数本設けるのが好ましい。
【0064】
アルカリエッチング処理が終了した後は、ニップローラで液切りし、更に、1〜10秒間水洗処理を行った後、ニップローラで液切りするのが好ましい。
水洗処理は、自由落下カーテン状の液膜により水洗処理する装置を用いて水洗し、更に、スプレー管を用いて水洗するのが好ましい。
【0065】
自由落下カーテン状の液膜により水洗処理する装置は、水を貯留する貯水タンクと、貯水タンクに水を供給する給水筒と、貯水タンクから自由落下カーテン状の液膜をアルミニウム合金板に供給する整流部とを有する。
この装置においては、給水タンクに給水筒から水が供給され、水が給水タンクからオーバーフローする際に、整流部により整流され、自由落下カーテン状の液膜がアルミニウム合金板に供給される。この装置を用いる場合、液量は10〜100L/minであるのが好ましい。また、整流部とアルミニウムとの間で水が自由落下カーテン状の液膜として存在する距離Lは、20〜50mmであるのが好ましい。また、アルミニウム合金板の角度αは、水平方向に対して30〜80°であるのが好ましい。
【0066】
自由落下カーテン状の液膜により水洗処理する装置を用いると、アルミニウム合金板に均一に水洗処理を施すことができるので、水洗処理の前に行われた処理の均一性を向上させることができる。自由落下カーテン状の液膜により水洗処理する具体的な装置としては、例えば、特開2003−96584号公報に記載されている装置が好適に挙げられる。
【0067】
また、水洗処理に用いられるスプレー管としては、例えば、扇状に噴射水が広がるスプレーチップをアルミニウム合金板の幅方向に複数個有するスプレー管を用いることができる。スプレーチップの間隔は20〜100mmであるのが好ましく、また、スプレーチップ1本あたりの液量は0.5〜20L/minであるのが好ましい。スプレー管は複数本用いるのが好ましい。
【0068】
<第1デスマット処理>
第1アルカリエッチング処理を行った後、表面に残留する汚れ(スマット)を除去するために酸洗い(第1デスマット処理)を行うのが好ましい。デスマット処理は、アルミニウム合金板を酸性溶液に接触させることにより行う。
【0069】
用いられる酸としては、例えば、硝酸、硫酸、リン酸、クロム酸、フッ化水素酸、ホウフッ化水素酸が挙げられる。
なお、第1アルカリエッチング処理の後に行われる第1デスマット処理においては、電解粗面化処理(第1電解粗面化処理)として引き続き硝酸電解が行われる場合には、硝酸電解に用いられる電解液のオーバーフロー廃液を用いるのが好ましい。
【0070】
デスマット処理液の組成管理においては、酸性溶液濃度とアルミニウムイオン濃度とのマトリクスに対応する、電導度と温度で管理する方法、電導度と比重と温度とで管理する方法、および、電導度と超音波の伝搬速度と温度とで管理する方法のいずれかを選択して用いることができる。
第1デスマット処理においては、1〜400g/Lの酸および0.1〜5g/Lのアルミニウムイオンを含有する酸性溶液を用いるのが好ましい。
【0071】
酸性溶液の温度は、20℃以上であるのが好ましく、30℃以上であるのがより好ましく、また、70℃以下であるのが好ましく、60℃以下であるのがより好ましい。
【0072】
第1デスマット処理においては、処理時間は、1秒以上であるのが好ましく、4秒以上であるのがより好ましく、また、60秒以下であるのが好ましく、40秒以下であるのがより好ましい。
【0073】
アルミニウム合金板を酸性溶液に接触させる方法としては、例えば、アルミニウム合金板を酸性溶液を入れた槽の中を通過させる方法、アルミニウム合金板を酸性溶液を入れた槽の中に浸せきさせる方法、酸性溶液をアルミニウム合金板の表面に噴きかける方法が挙げられる。
中でも、酸性溶液をアルミニウム合金板の表面に噴きかける方法が好ましい。具体的には、φ2〜5mmの孔を10〜50mmピッチで有するスプレー管から、スプレー管1本あたり、10〜100L/minの量でエッチング液を吹き付ける方法が好ましい。スプレー管は複数本設けるのが好ましい。
【0074】
デスマット処理が終了した後は、ニップローラで液切りし、更に、1〜10秒間水洗処理を行った後、ニップローラで液切りするのが好ましい。
水洗処理は、アルカリエッチング処理の後の水洗処理と同様である。ただし、スプレーチップ1本あたりの液量は1〜20L/minであるのが好ましい。
なお、第1デスマット処理において、デスマット処理液として、引き続き行われる硝酸電解に用いられる電解液のオーバーフロー廃液を用いる場合には、デスマット処理後にニップローラによる液切りおよび水洗処理を行わず、アルミニウム合金板の表面が乾かないように、必要に応じて適宜デスマット処理液をスプレーしながら、硝酸電解工程までアルミニウム合金板をハンドリングするのが好ましい。
【0075】
<第1電解粗面化処理>
第1電解粗面化処理は、硝酸または塩酸を含有する水溶液中での電解粗面化処理である。
本発明においては、第1電解粗面化処理は、硝酸を含有する電解液中で、台形波形の交流電流を用いる処理であるのが電解粗面化面のラチチュードが拡大する理由から好ましく、塩酸を含有する電解液中で、正弦波形の交流電流を用いる処理であるのが電解粗面化面の表面形状の制御しやすい理由から好ましい。
なお、第1電解粗面化処理のアルミニウム合金板表面の平均粗さRaは、0.2〜1.0μmであるのが好ましい。
【0076】
(硝酸を含有する水溶液中での電解粗面化処理(硝酸電解))
硝酸電解により、好適な凹凸構造をアルミニウム合金板の表面に形成させることができる。本発明において、アルミニウム合金板がCuを比較的多量に含有している場合には、硝酸電解において、比較的大きく、かつ、均一な凹部が形成される。その結果、本発明の平版印刷版用支持体を用いた平版印刷版は、耐刷性が優れたものになる。
【0077】
硝酸を含有する水溶液は、通常の直流または交流を用いた電気化学的な粗面化処理に用いるものを使用でき、濃度1〜100g/Lの硝酸の水溶液に、硝酸アルミニウム、硝酸ナトリウム、硝酸アンモニウム等の硝酸イオンを有する硝酸化合物の少なくとも一つを1g/Lから飽和するまでの範囲で添加して使用することができる。
また、硝酸を含有する水溶液には、鉄、銅、マンガン、ニッケル、チタン、マグネシウム、シリカ等のアルミニウム合金中に含まれる金属が溶解していてもよい。次亜塩素酸や過酸化水素を1〜100g/L添加してもよい。
具体的には、硝酸濃度5〜15g/Lの硝酸水溶液に、硝酸アルミニウムを溶解させてアルミニウムイオン濃度を3〜7g/Lとなるように調整した液が好ましい。
【0078】
硝酸を含有する水溶液の温度は、20℃以上であるのが好ましく、また、55℃以下であるのが好ましい。
【0079】
硝酸電解により、平均開口径1〜10μmのピットを形成することができる。ただし、電気量を比較的多くしたときは、電解反応が集中し、10μmを超えるハニカムピットも生成する。
【0080】
このような砂目を得るためには、電解反応が終了した時点でのアルミニウム合金板のアノード反応にあずかる電気量の総和が、150C/dm2以上であるのが好ましく、170C/dm2以上であるのがより好ましく、また、600C/dm2以下であるのが好ましく、500C/dm2以下であるのがより好ましい。
この際の電流密度は、電流のピーク値で5A/dm2以上であるのが好ましく、20〜100A/dm2であるのがより好ましい。
【0081】
(塩酸を含有する水溶液中での電解粗面化処理(塩酸電解))
塩酸を含有する水溶液は、通常の直流または交流を用いた電気化学的な粗面化処理に用いるものを使用でき、1〜30g/L、好ましくは2〜10g/Lの塩酸水溶液に、硝酸アルミニウム、硝酸ナトリウム、硝酸アンモニウム等の硝酸イオン、塩化アルミニウム、塩化ナトリウム、塩化アンモニウム等の塩酸イオンを有する塩酸または硝酸化合物の1つ以上を1g/L〜飽和まで添加して使用することができる。
また、塩酸を含有する水溶液には、鉄、銅、マンガン、ニッケル、チタン、マグネシウム、シリカ等のアルミニウム合金中に含まれる金属が溶解していてもよい。次亜塩素酸や過酸化水素を1〜100g/L添加してもよい。さらに、上記した銅と錯体を形成する化合物を1〜200g/Lの割合で添加することもできる。また、1〜100g/Lの割合で硫酸を添加することもできる。
【0082】
更に、塩酸を含有する水溶液は、塩酸を2〜10g/L含有する水溶液に、アルミニウム塩(塩化アルミニウム、AlCl3・6H2O)を添加してアルミニウムイオン濃度を3〜7g/L、好ましくは4〜6g/Lにした水溶液であることが特に好ましい。
このような塩酸水溶液を用いて電解粗面化処理を行うと、電解粗面化面がより均一になり、また、低純度のアルミニウム合金板を使用しても、高純度のアルミニウム合金板を使用しても、処理ムラが発生せず、平版印刷版としたときにより優れた耐刷性および耐汚れ性を両立できる。
【0083】
塩酸を含有する水溶液の温度は、20℃以上であるのが好ましく、30℃以上であるのがより好ましく、また、55℃以下であるのが好ましく、50℃以下であるのがより好ましい。
【0084】
塩酸を含有する水溶液への添加物、装置、電源、電流密度、流速、温度としては公知の電気化学的な粗面化に使用するものが用いることができる。電気化学的な粗面化に用いる電源は交流または直流が用いられるが、交流が特に好ましい。
【0085】
塩酸はそれ自身のアルミニウム溶解力が強いため、わずかな電流を加えるだけで表面に微細な凹凸を形成させることが可能である。この微細な凹凸は、平均開口径(ピットの径)が0.01〜1.5μmであり、アルミニウム合金板の表面の全面に均一に生成する。
また、電気量を増やしていく(電気量の総和(アノード反応)が150〜2000C/dm2)と、平均開口径0.01〜0.4μmのピットを表面に有する平均開口径1〜30μmのピットが生成する。このような砂目を得るためには電解反応が終了した時点でのアルミニウム合金板のアノード反応にあずかる電気量の総和が、10C/dm2以上であるのが好ましく、50C/dm2以上であるのがより好ましく、さらには100C/dm2以上であるのが好ましい。また、2000C/dm2以下であるのが好ましく、600C/dm2以下であるのがより好ましい。
【0086】
塩酸電解においては、電流密度は、電流のピーク値で5A/dm2以上であるのが好ましく、20〜100A/dm2であるのがより好ましい。
【0087】
上記大電気量でアルミニウム合金板を塩酸電解すると、大きなうねりと微細な凹凸を同時に形成させることができ、後述する第二アルカリエッチング処理により該大きなうねりをより均一にすることで、耐汚れ性を向上させることができる。
【0088】
第1電解粗面化処理は、例えば、特公昭48−28123号公報および英国特許第896,563号明細書に記載されている電気化学的グレイン法(電解グレイン法)に従うことができる。この電解グレイン法は、正弦波形の交流電流を用いるものであるが、特開昭52−58602号公報に記載されているような特殊な波形を用いて行ってもよい。また、特開平3−79799号公報に記載されている波形を用いることもできる。また、特開昭55−158298号、特開昭56−28898号、特開昭52−58602号、特開昭52−152302号、特開昭54−85802号、特開昭60−190392号、特開昭58−120531号、特開昭63−176187号、特開平1−5889号、特開平1−280590号、特開平1−118489号、特開平1−148592号、特開平1−178496号、特開平1−188315号、特開平1−154797号、特開平2−235794号、特開平3−260100号、特開平3−253600号、特開平4−72079号、特開平4−72098号、特開平3−267400号、特開平1−141094号の各公報に記載されている方法も適用できる。また、前述のほかに、電解コンデンサーの製造方法として提案されている特殊な周波数の交番電流を用いて電解することも可能である。例えば、米国特許第4,276,129号明細書および同第4,676,879号明細書に記載されている。
【0089】
電解槽および電源については、種々提案されているが、米国特許第4,203,637号明細書、特開昭56−123400号、特開昭57−59770号、特開昭53−12738号、特開昭53−32821号、特開昭53−32822号、特開昭53−32823号、特開昭55−122896号、特開昭55−132884号、特開昭62−127500号、特開平1−52100号、特開平1−52098号、特開昭60−67700号、特開平1−230800号、特開平3−257199号の各公報等に記載されているものを用いることができる。
また、特開昭52−58602号、特開昭52−152302号、特開昭53−12738号、特開昭53−12739号、特開昭53−32821号、特開昭53−32822号、特開昭53−32833号、特開昭53−32824号、特開昭53−32825号、特開昭54−85802号、特開昭55−122896号、特開昭55−132884号、特公昭48−28123号、特公昭51−7081号、特開昭52−133838号、特開昭52−133840号、特開昭52−133844号、特開昭52−133845号、特開昭53−149135号、特開昭54−146234号の各公報等に記載されているもの等も用いることができる。
【0090】
アルミニウム合金板を連続的に電解粗面化処理していくと、アルカリ溶液中のアルミニウムイオン濃度が上昇していき、第1電解粗面化処理により形成されるアルミニウム合金板の凹凸の形状が変動する。そこで、硝酸電解液または塩酸電解液の組成管理を、以下のようにして行うのが好ましい。
即ち、硝酸濃度または塩酸濃度とアルミニウムイオン濃度とのマトリクスに対応する、電導度と比重と温度とのマトリクス、または、電導度と超音波伝搬速度と温度とのマトリクスをあらかじめ作成しておき、電導度と比重と温度、または、電導度と超音波伝搬速度と温度によって液組成を測定し、液組成の制御目標値になるように硝酸または塩酸と水とを添加する。そして、硝酸または塩酸と水とを添加することによって増加した電解液を、循環タンクからオーバーフローさせることにより、その液量を一定に保つ。添加する硝酸としては、工業用の30〜70質量%のものを用いることができる。添加する塩酸としては、工業用の30〜40質量%のものを用いることができる。
【0091】
電導度計および比重計としては、それぞれ温度補償されているものを用いるのが好ましい。比重計としては、差圧式のものを用いるのが好ましい。
液組成の測定に用いるために電解液から採取されたサンプルは、電解液とは別の熱交換機を用いて、一定温度(例えば、40±0.5℃)に制御した後に、測定に用いるのが、測定の精度が高くなる点で好ましい。
【0092】
電気化学的粗面化処理に用いられる交流電源波は、特に限定されず、サイン波(sin波、正弦波)、矩形波、台形波、三角波等が用いられるが、サイン波、矩形波または台形波が好ましく、台形波が特に好ましい。第一塩酸電解の場合には、平均直径1μm以上のピットが均一に生成しやすくなる点でサイン波が特に好ましい。サイン波とは、図4に示したものをいう。
台形波とは、図1に示したものをいう。この台形波において電流がゼロからピークに達するまでの時間(TP)は0.5〜3msecであるのが好ましい。TPが3msecを超えると、特に硝酸を含有する水溶液を用いると、電解処理で自然発生的に増加するアンモニウムイオン等に代表される電解液中の微量成分の影響を受けやすくなり、均一な砂目立てが行われにくくなる。その結果、平版印刷版としたときの耐汚れ性が低下する傾向にある。
【0093】
交流のduty比は1:2〜2:1のものが使用可能であるが、特開平5−195300号公報に記載されているように、アルミニウムにコンダクタロールを用いない間接給電方式においてはduty比が1:1のものが好ましい。
交流の周波数は0.1〜120Hzのものを用いることが可能であるが、50〜70Hzが設備上好ましい。50Hzよりも低いと、主極のカーボン電極が溶解しやすくなり、また、70Hzよりも高いと、電源回路上のインダクタンス成分の影響を受けやすくなり、電源コストが高くなる。
【0094】
図2は、本発明の平版印刷版用支持体の製造方法における交流を用いた電気化学的粗面化処理に用いるラジアル型セルの一例を示す側面図である。
電解槽には1個以上の交流電源を接続することができる。主極に対向するアルミニウム合金板に加わる交流の陽極と陰極との電流比をコントロールし、均一な砂目立てを行うことと、主極のカーボンを溶解することとを目的として、図2に示したように、補助陽極を設置し、交流電流の一部を分流させることが好ましい。図2において、11はアルミニウム合金板であり、12はラジアルドラムローラであり、13aおよび13bは主極であり、14は電解処理液であり、15は電解液供給口であり、16はスリットであり、17は電解液通路であり、18は補助陽極であり、19aおよび19bはサイリスタであり、20は交流電源であり、40は主電解槽であり、50は補助陽極槽である。整流素子またはスイッチング素子を介して電流値の一部を二つの主電極とは別の槽に設けた補助陽極に直流電流として分流させることにより、主極に対向するアルミニウム合金板上で作用するアノード反応にあずかる電流値と、カソード反応にあずかる電流値との比を制御することができる。主極に対向するアルミニウム合金板上で、陽極反応と陰極反応とにあずかる電気量の比(陰極時電気量/陽極時電気量)は、0.3〜0.95であるのが好ましい。
【0095】
電解槽は、縦型、フラット型、ラジアル型等の公知の表面処理に用いる電解槽が使用可能であるが、特開平5−195300号公報に記載されているようなラジアル型電解槽が特に好ましい。電解槽内を通過する電解液は、アルミニウムウェブの進行方向に対してパラレルであってもカウンターであってもよい。
【0096】
また、直流を用いた電気化学的粗面化処理には、通常の直流を用いた電気化学的粗面化処理に用いられる電解液を用いることができる。具体的には、上記交流を用いた電気化学的粗面化処理に用いられる電解液と同様のものを用いることができる。
【0097】
電気化学的粗面化処理に用いられる直流電源波は、極性の変化しない電流であれば特に限定されず、くし形波、連続直流、商用交流をサイリスタで全波整流したもの等が用いられるが、平滑化された連続直流が好ましい。
直流を用いた電気化学的粗面化処理は、回分法、半連続法および連続法のいずれでも行うことができるが、連続法で行うのが好ましい。
【0098】
直流を用いた電気化学的粗面化処理に用いられる装置は、交互に配置された陽極と陰極との間に直流電圧を印加し、アルミニウム合金板を該陽極および該陰極と、間隔を保って通過させることができるものであれば、特に限定されない。
【0099】
電極は、特に限定されず、電気化学的粗面化処理に用いられる従来公知の電極を用いることができる。
陽極としては、例えば、チタン、タンタル、ニオブ等のバルブ金属に白金族系の金属をめっきし、またはクラッドしたもの;バルブ金属に白金族系の金属の酸化物を塗布し、または焼結させたもの;アルミニウム;ステンレスが挙げられる。中でも、バルブ金属に白金をクラッドしたものが好ましい。電極の内部に水を通して水冷化するなどの方法により、陽極の寿命を更に長くすることができる。
陰極としては、例えば、ブールベイダイヤグラムから、電極電位を負としたときに溶解しない金属等を選択して用いることができる。中でも、カーボンが好ましい。
【0100】
電極の配列は、波状構造に応じて、適宜選択することができる。また、陽極と陰極とのアルミニウム合金板の進行方向の長さを変えたり、アルミニウム合金板の通過速度を変えたり、電解液の流速、液温、液組成、電流密度等を変えることにより、波状構造を調整することができる。また、陽極の槽と陰極の槽とを別個の電解槽とした装置を用いる場合には、各処理槽の電解条件を変えることもできる。
【0101】
第1電解粗面化処理が終了した後は、ニップローラで液切りし、更に、1〜10秒間水洗処理を行った後、ニップローラで液切りするのが好ましい。
水洗処理は、スプレー管を用いて水洗するのが好ましい。水洗処理に用いられるスプレー管としては、例えば、扇状に噴射水が広がるスプレーチップをアルミニウム合金板の幅方向に複数個有するスプレー管を用いることができる。スプレーチップの間隔は20〜100mmであるのが好ましく、また、スプレーチップ1本あたりの液量は1〜20L/minであるのが好ましい。スプレー管は複数本用いるのが好ましい。
【0102】
<第2アルカリエッチング処理>
第1電解粗面化処理と第2電解粗面化処理との間に行われる第2アルカリエッチング処理は、第1電解粗面化処理で生成したスマットを溶解させること、および、第1電解粗面化処理により形成されたピットのエッジ部分を溶解させることを目的として行われる。
これにより、第1電解粗面化処理によって形成された大きなピットのエッジ部分が溶解して表面が滑らかになり、インキを該エッジ部分にひっかかりにくくするため、耐汚れ性に優れる平版印刷版を得ることができる。
第2アルカリエッチング処理は、基本的に第1アルカリエッチング処理と同様であるので、異なる点のみ以下に説明する。
【0103】
第2アルカリエッチング処理においては、エッチング量は、0.05g/m2以上であるのが好ましく、0.1g/m2以上であるのがより好ましく、また、4g/m2以下であるのが好ましく、3.5g/m2以下であるのがより好ましい。エッチング量が0.05g/m2以上であると、平版印刷版の非画像部において、第1電解粗面化処理で生成したピットのエッジ部分が滑らかとなり、インキがひっかかりにくくなるため、耐汚れ性が優れる。一方、エッチング量が4g/m2以下であると、第1電解粗面化処理で生成した凹凸が大きくなるため、耐刷性が優れる。
【0104】
第2アルカリエッチング処理においては、アルカリ溶液の濃度は、30g/L以上であるのが好ましく、300g/L以上であるのがより好ましく、また、500g/L以下であるのが好ましく、450g/L以下であるのがより好ましい。
また、アルカリ溶液は、アルミニウムイオンを含有しているのが好ましい。アルミニウムイオン濃度は、1g/L以上であるのが好ましく、50g/L以上であるのがより好ましく、また、200g/L以下であるのが好ましく、150g/L以下であるのがより好ましい。このようなアルカリ溶液は、例えば、水と48質量%カセイソーダ水溶液とアルミン酸ソーダとを用いて調製することができる。
【0105】
<第2デスマット処理>
第2アルカリエッチング処理を行った後、表面に残留する汚れ(スマット)を除去する
ために酸洗い(第2デスマット処理)を行うのが好ましい。第2デスマット処理は、第一デスマット処理と同様の方法で行うことができる。
【0106】
第2デスマット処理においては、硝酸または硫酸を用いるのが好ましい。
第2デスマット処理においては、1〜400g/Lの酸および0.1〜8g/Lのアルミニウムイオンを含有する酸性溶液を用いるのが好ましい。
硫酸を用いる場合は、具体的には、硫酸濃度100〜350g/Lの硫酸水溶液に、硫酸アルミニウムを溶解させてアルミニウムイオン濃度を0.1〜5g/Lとなるように調整した液を用いることができる。また、後述する陽極酸化処理に用いられる電解液のオーバーフロー廃液を用いこともできる。
【0107】
第2デスマット処理においては、処理時間は、1秒以上であるのが好ましく、4秒以上であるのがより好ましく、また、60秒以下であるのが好ましく、20秒以下であるのがより好ましい。
第2デスマット処理においては、酸水溶液の温度は、20℃以上であるのが好ましく、30℃以上であるのがより好ましく、また、70℃以下であるのが好ましく、60℃以下であるのがより好ましい。
【0108】
<第2電解粗面化処理(第2塩酸電解)>
第2電解粗面化処理は、塩酸を含有する水溶液中での交流または直流を用いた電気化学的粗面化処理である。
本発明においては、上述した第1電解粗面化処理だけでもよいが、この第2電解粗面化処理を組み合わせることにより、さらに複雑な凹凸構造をアルミニウム合金板の表面に形成させることができ、ひいては、耐刷性を優れたものにすることができる。
【0109】
第2電解粗面化処理は、上記第1電解粗面化処理において説明した塩酸電解と基本的に同様である。
第2電解粗面化処理における塩酸を含有する水溶液中での電気化学的な粗面化でアルミニウム合金板が陽極反応にあずかる電気量の総和は、電気化学的な粗面化処理が終了した時点で、10〜200C/dm2の範囲から選択でき、第1電解粗面化処理で形成した粗面を大きくくずさないためには、10〜100C/dm2が好ましく、50〜80C/dm2が特に好ましい。
【0110】
<第1アルカリエッチング処理−第1電解粗面化処理(硝酸電解)−第2アルカリエッチング処理−第2電解粗面化処理(第2塩酸電解)>
上記処理を組み合わせて行う場合は、硝酸を含有する電解液中でアノード反応における電気量の総和が65〜500C/dm2となる硝酸電解、溶解量が0.1g/m2以上となるアルカリエッチング処理、塩酸を含有する電解液中でアノード反応における電気量の総和が25〜100C/dm2となる第2塩酸電解、および、溶解量が0.03g/m2以上となるアルカリエッチング処理をこの順で施すのが好ましい。
この組み合わせで粗面化処理すれば、耐汚れ性および耐刷性がより優れた平版印刷版を得ることができる平版印刷版用支持体が得られる。
【0111】
<第3アルカリエッチング処理>
第2電解粗面化処理の後に行われる第3アルカリエッチング処理は、第2電解粗面化処理で生成したスマットを溶解させること、および、第2電解粗面化処理により形成されたピットのエッジ部分を溶解させることを目的として行われる。第3アルカリエッチング処理は、基本的に第1アルカリエッチング処理と同様であるので、異なる点のみ以下に説明する。
【0112】
第3アルカリエッチング処理においては、エッチング量は、0.05g/m2以上であるのが好ましく、0.1g/m2以上であるのがより好ましく、また、0.3g/m2以下であるのが好ましく、0.25g/m2以下であるのがより好ましい。エッチング量が0.05g/m2以上であると、平版印刷版の非画像部において、第二塩酸電解で生成したピットのエッジ部分が滑らかとなり、インキがひっかかりにくくなるため、耐汚れ性が優れる。一方、エッチング量が0.3g/m2以下であると、第1電解粗面化処理および第2電解粗面化処理で生成した凹凸が大きくなるため、耐刷性が優れる。
【0113】
第3アルカリエッチング処理においては、アルカリ溶液の濃度は、30g/L以上であるのが好ましく、また、前段の塩酸交流電解によって生じた凹凸を小さくしすぎないようにするため、100g/L以下であるのが好ましく、70g/L以下であるのがより好ましい。
また、アルカリ溶液は、アルミニウムイオンを含有しているのが好ましい。アルミニウムイオン濃度は、1g/L以上であるのが好ましく、3g/L以上であるのがより好ましく、また、50g/L以下であるのが好ましく、8g/L以下であるのがより好ましい。このようなアルカリ溶液は、例えば、水と48質量%カセイソーダ水溶液とアルミン酸ソーダとを用いて調製することができる。
【0114】
第3アルカリエッチング処理においては、アルカリ溶液の温度は、25℃以上であるのが好ましく、30℃以上であるのがより好ましく、また、60℃以下であるのが好ましく、50℃以下であるのがより好ましい。
第3アルカリエッチング処理においては、処理時間は、1秒以上であるのが好ましく、2秒以上であるのがより好ましく、また、30秒以下であるのが好ましく、10秒以下であるのがより好ましい。
【0115】
<第3デスマット処理>
第3アルカリエッチング処理を行った後、表面に残留する汚れ(スマット)を除去するために酸洗い(第3デスマット処理)を行うのが好ましい。第3デスマット処理は、基本的に第1デスマット処理と同様であるので、異なる点のみ以下に説明する。
第3デスマット処理においては、5〜400g/Lの酸および0.5〜8g/Lのアルミニウムイオンを含有する酸性溶液を用いるのが好ましい。硫酸を用いる場合は、具体的には、硫酸濃度100〜350g/Lの硫酸水溶液に、硫酸アルミニウムを溶解させてアルミニウムイオン濃度を1〜5g/Lとなるように調整した液が好ましい。
【0116】
第3デスマット処理においては、処理時間は、1秒以上であるのが好ましく、4秒以上であるのがより好ましく、また、60秒以下であるのが好ましく、15秒以下であるのがより好ましい。
第3デスマット処理において、デスマット処理液として、引き続き行われる陽極酸化処理に用いられる電解液と同じ種類の液を用いる場合には、デスマット処理後にニップローラによる液切りおよび水洗処理を省略することができる。
【0117】
<陽極酸化処理>
以上のように処理されたアルミニウム合金板には、陽極酸化処理を施すのが好ましい。
陽極酸化処理はこの分野で従来行われている方法で行うことができる。この場合、例えば、硫酸濃度50〜300g/Lで、アルミニウム濃度5質量%以下の溶液中で、アルミニウム合金板を陽極として通電して陽極酸化皮膜を形成させることができる。陽極酸化処理に用いられる溶液としては、硫酸、リン酸、クロム酸、シュウ酸、スルファミン酸、ベンゼンスルホン酸、アミドスルホン酸等を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0118】
この際、少なくともアルミニウム合金板、電極、水道水、地下水等に通常含まれる成分が電解液中に含まれていても構わない。更には、第二、第三の成分が添加されていても構わない。ここでいう第二、第三の成分としては、例えば、Na、K、Mg、Li、Ca、Ti、Al、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn等の金属のイオン;アンモニウムイオン等の陽イオン;硝酸イオン、炭酸イオン、塩化物イオン、リン酸イオン、フッ化物イオン、亜硫酸イオン、チタン酸イオン、ケイ酸イオン、ホウ酸イオン等の陰イオンが挙げられ、0〜10000ppm程度の濃度で含まれていてもよい。
【0119】
陽極酸化処理の条件は、使用される電解液によって種々変化するので一概に決定され得ないが、一般的には電解液濃度1〜80質量%、液温5〜70℃、電流密度0.5〜60A/dm2、電圧1〜100V、電解時間15秒〜50分であるのが適当であり、所望の陽極酸化皮膜量となるように調整される。
【0120】
また、特開昭54−81133号、特開昭57−47894号、特開昭57−51289号、特開昭57−51290号、特開昭57−54300号、特開昭57−136596号、特開昭58−107498号、特開昭60−200256号、特開昭62−136596号、特開昭63−176494号、特開平4−176897号、特開平4−280997号、特開平6−207299号、特開平5−24377号、特開平5−32083号、特開平5−125597号、特開平5−195291号の各公報等に記載されている方法を使用することもできる。
【0121】
中でも、特開昭54−12853号公報および特開昭48−45303号公報に記載されているように、電解液として硫酸溶液を用いるのが好ましい。電解液中の硫酸濃度は、10〜300g/L(1〜30質量%)であるのが好ましく、50〜200g/L(5〜20質量%)であるのがより好ましく、また、アルミニウムイオン濃度は、1〜25g/L(0.1〜2.5質量%)であるのが好ましく、2〜10g/L(0.2〜1質量%)であるのがより好ましい。このような電解液は、例えば、硫酸濃度が50〜200g/Lである希硫酸に硫酸アルミニウム等を添加することにより調製することができる。
【0122】
電解液の組成管理は、上述した硝酸電解等の場合と同様の方法を用いて、硫酸濃度とアルミニウムイオン濃度とのマトリクスに対応する、電導度と比重と温度、または、電導度と超音波伝搬速度と温度により管理するのが好ましい。
【0123】
電解液の液温は、25〜55℃であるのが好ましく、30〜50であるのがより好ましい。
【0124】
硫酸を含有する電解液中で陽極酸化処理を行う場合には、アルミニウム合金板と対極との間に直流を印加してもよく、交流を印加してもよい。
アルミニウム合金板に直流を印加する場合においては、電流密度は、1〜60A/dm2であるのが好ましく、5〜40A/dm2であるのがより好ましい。
連続的に陽極酸化処理を行う場合には、アルミニウム合金板の一部に電流が集中していわゆる「焼け」(皮膜が周囲より厚くなる部分)が生じないように、陽極酸化処理の開始当初は、5〜10A/m2の低電流密度で電流を流し、陽極酸化処理が進行するにつれ、30〜50A/dm2またはそれ以上に電流密度を増加させるのが好ましい。
具体的には、直流電源の電流配分を、下流側の直流電源の電流が上流側の直流電源の電流以上にするのが好ましい。このような電流配分とすることにより、いわゆる焼けが生じにくくなり、その結果、高速での陽極酸化処理が可能となる。
連続的に陽極酸化処理を行う場合には、アルミニウム合金板に、電解液を介して給電する液給電方式により行うのが好ましい。
このような条件で陽極酸化処理を行うことによりポア(マイクロポア)と呼ばれる孔を多数有する多孔質皮膜が得られるが、通常、その平均ポア径は5〜50nm程度であり、平均ポア密度は300〜800個/μm2程度である。
【0125】
陽極酸化皮膜の量は1〜5g/m2であるのが好ましい。1g/m2未満であると版に傷が入りやすくなり、一方、5g/m2を超えると製造に多大な電力が必要となり、経済的に不利となる。陽極酸化皮膜の量は、1.5〜4g/m2であるのがより好ましい。また、アルミニウム合金板の中央部と縁部近傍との間の陽極酸化皮膜量の差が1g/m2以下になるように行うのが好ましい。
【0126】
陽極酸化処理に用いられる電解装置としては、特開昭48−26638号、特開昭47−18739号、特公昭58−24517号、特開2001−11698号の各公報等に記載されているものを用いることができる。
中でも、図3に示す装置が好適に用いられる。図3は、アルミニウム合金板の表面を陽極酸化処理する装置の一例を示す概略図である。
【0127】
図3に示される陽極酸化処理装置410では、アルミニウム合金板416に電解液を経由して通電するために、アルミニウム合金板416の進行方向の上流側に給電槽412、下流側に陽極酸化処理槽414を設置してある。アルミニウム合金板416は、パスローラ422および428により、図3中矢印で示すように搬送される。アルミニウム合金板416が最初に導入される給電槽412においては、直流電源434の正極に接続された陽極420が設置されており、アルミニウム合金板416は陰極となる。したがって、アルミニウム合金板416においてはカソード反応が起こる。
【0128】
アルミニウム合金板416が引き続き導入される陽極酸化処理槽414においては、直流電源434の負極に接続された陰極430が設置されており、アルミニウム合金板416は陽極となる。したがって、アルミニウム合金板416においてはアノード反応が起こり、アルミニウム合金板416の表面に陽極酸化皮膜が形成される。
アルミニウム合金板416と陰極430の間隔は50〜200mmであるのが好ましい。陰極430としてはアルミニウムが用いられる。陰極430としては、アノード反応により発生する水素ガスが系から抜けやすくなるようにするために、広い面積を有する電極でなく、アルミニウム合金板416の進行方向に複数個に分割した電極であるのが好ましい。
【0129】
給電槽412と陽極酸化処理槽414との間には、図3に示されるように、中間槽413と呼ばれる電解液が溜まらない槽を設けるのが好ましい。中間槽413を設けることにより、電流がアルミニウム合金板416を経由せず陽極420から陰極430にバイパスすることを抑止することができる。中間槽413にはニップローラ424を設置して液切りを行うことにより、バイパス電流を極力少なくするようにするのが好ましい。液切りにより出た電解液は、排液口442から陽極酸化処理装置410の外に排出される。
【0130】
給電槽412に貯留される電解液418は、電圧ロスを少なくするために、陽極酸化処理槽414に貯留される電解液426よりも高温および/または高濃度とする。また、電解液418および426は、陽極酸化皮膜の形成効率、陽極酸化皮膜のマイクロポアの形状、陽極酸化皮膜の硬さ、電圧、電解液のコスト等から、組成、温度等が決定される。
【0131】
給電槽412および陽極酸化処理槽414には、給液ノズル436および438から電解液を噴出させて給液する。電解液の分布を一定にし、陽極酸化処理槽414でのアルミニウム合金板416の局所的な電流集中を防ぐ目的で、給液ノズル436および438にはスリットが設けられ、噴出する液流を幅方向で一定にする構造となっている。
【0132】
陽極酸化処理槽414においては、陽極430からみてアルミニウム合金板416を挟んだ反対側にはしゃへい板440が設けられ、電流がアルミニウム合金板416の陽極酸化皮膜を形成させたい面の反対側に流れるのを抑止する。アルミニウム合金板416としゃへい板440の間隔は5〜30mmであるのが好ましい。直流電源434は複数個用いて、正極側を共通に接続して用いるのが好ましい。これによって、陽極酸化処理槽414中の電流分布を制御することができる。
【0133】
<封孔処理>
本発明においては、必要に応じて陽極酸化皮膜に存在するマイクロポアを封じる封孔処理を行ってもよい。封孔処理は、沸騰水処理、熱水処理、蒸気処理、ケイ酸ソーダ処理、亜硝酸塩処理、酢酸アンモニウム処理等の公知の方法に従って行うことができる。例えば、特公昭56−12518号公報、特開平4−4194号公報、特開平5−202496号公報、特開平5−179482号公報等に記載されている装置および方法で封孔処理を行ってもよい。
【0134】
<親水化処理>
陽極酸化処理後または封孔処理後、親水化処理を行ってもよい。親水化処理としては、例えば、米国特許第2,946,638号明細書に記載されているフッ化ジルコニウム酸カリウム処理、米国特許第3,201,247号明細書に記載されているホスホモリブデート処理、英国特許第1,108,559号に記載されているアルキルチタネート処理、独国特許第1,091,433号明細書に記載されているポリアクリル酸処理、独国特許第1,134,093号明細書および英国特許第1,230,447号明細書に記載されているポリビニルホスホン酸処理、特公昭44−6409号公報に記載されているホスホン酸処理、米国特許第3,307,951号明細書に記載されているフィチン酸処理、特開昭58−16893号公報および特開昭58−18291号公報に記載されている親油性有機高分子化合物と2価の金属との塩による処理、米国特許第3,860,426号明細書に記載されているように、水溶性金属塩(例えば、酢酸亜鉛)を含む親水性セルロース(例えば、カルボキシメチルセルロース)の下塗層を設ける処理、特開昭59−101651号公報に記載されているスルホ基を有する水溶性重合体を下塗りする処理が挙げられる。
【0135】
また、特開昭62−019494号公報に記載されているリン酸塩、特開昭62−033692号公報に記載されている水溶性エポキシ化合物、特開昭62−097892号公報に記載されているリン酸変性デンプン、特開昭63−056498号公報に記載されているジアミン化合物、特開昭63−130391号公報に記載されているアミノ酸の無機または有機酸、特開昭63−145092号公報に記載されているカルボキシ基またはヒドロキシ基を含む有機ホスホン酸、特開昭63−165183号公報に記載されているアミノ基とホスホン酸基を有する化合物、特開平2−316290号公報に記載されている特定のカルボン酸誘導体、特開平3−215095号公報に記載されているリン酸エステル、特開平3−261592号公報に記載されている1個のアミノ基とリンの酸素酸基1個を持つ化合物、特開平3−215095号公報に記載されているリン酸エステル、特開平5−246171号公報に記載されているフェニルホスホン酸等の脂肪族または芳香族ホスホン酸、特開平1−307745号公報に記載されているチオサリチル酸のようなS原子を含む化合物、特開平4−282637号公報に記載されているリンの酸素酸のグループを持つ化合物等を用いた下塗りによる処理も挙げられる。
更に、特開昭60−64352号公報に記載されている酸性染料による着色を行うこともできる。
【0136】
また、ケイ酸ソーダ、ケイ酸カリ等のアルカリ金属ケイ酸塩の水溶液に浸せきさせる方法、親水性ビニルポリマーまたは親水性化合物を塗布して親水性の下塗層を形成させる方法等により、親水化処理を行うのが好ましい。
【0137】
ケイ酸ソーダ、ケイ酸カリ等のアルカリ金属ケイ酸塩の水溶液による親水化処理は、米国特許第2,714,066号明細書および米国特許第3,181,461号明細書に記
載されている方法および手順に従って行うことができる。
アルカリ金属ケイ酸塩としては、例えば、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、ケイ酸リチウムが挙げられる。アルカリ金属ケイ酸塩の水溶液は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等を適当量含有してもよい。
また、アルカリ金属ケイ酸塩の水溶液は、アルカリ土類金属塩または4族(第IVA族)金属塩を含有してもよい。アルカリ土類金属塩としては、例えば、硝酸カルシウム、硝酸ストロンチウム、硝酸マグネシウム、硝酸バリウム等の硝酸塩;硫酸塩;塩酸塩;リン酸塩;酢酸塩;シュウ酸塩;ホウ酸塩が挙げられる。4族(第IVA族)金属塩としては、例えば、四塩化チタン、三塩化チタン、フッ化チタンカリウム、シュウ酸チタンカリウム、硫酸チタン、四ヨウ化チタン、塩化酸化ジルコニウム、二酸化ジルコニウム、オキシ塩化ジルコニウム、四塩化ジルコニウムが挙げられる。これらのアルカリ土類金属塩および4族(第IVA族)金属塩は、単独でまたは2種以上組み合わせて用いられる。
【0138】
アルカリ金属ケイ酸塩処理によって吸着するSi量は蛍光X線分析装置により測定することができ、その吸着量は約1.0〜15.0mg/m2 であるのが好ましい。
このアルカリ金属ケイ酸塩処理により、平版印刷版用支持体の表面のアルカリ現像液に対する耐溶解性向上の効果が得られ、アルミニウム成分の現像液中への溶出が抑制されて、現像液の疲労に起因する現像カスの発生を低減することができる。
【0139】
また、親水性の下塗層の形成による親水化処理は、特開昭59−101651号公報および特開昭60−149491号公報に記載されている条件および手順に従って行うこともできる。
この方法に用いられる親水性ビニルポリマーとしては、例えば、ポリビニルスルホン酸、スルホ基を有するp−スチレンスルホン酸等のスルホ基含有ビニル重合性化合物と(メタ)アクリル酸アルキルエステル等の通常のビニル重合性化合物との共重合体が挙げられる。また、この方法に用いられる親水性化合物としては、例えば、−NH2基、−COOH基およびスルホ基からなる群から選ばれる少なくとも一つを有する化合物が挙げられる。
【0140】
<乾燥>
上述したようにして平版印刷版用支持体を得た後、画像記録層を設ける前に、平版印刷版用支持体の表面を乾燥させるのが好ましい。乾燥は、表面処理の最後の処理の後、水洗処理およびニップローラで液切りしてから行うのが好ましい。
乾燥温度は、70℃以上であるのが好ましく、80℃以上であるのがより好ましく、また、110℃以下であるのが好ましく、100℃以下であるのがより好ましい。
乾燥時間は、1秒以上であるのが好ましく、2秒以上であるのがより好ましく、また20秒以下であるのが好ましく、15秒であるのがより好ましい。
【0141】
<液組成の管理>
本発明においては、上述した表面処理に用いられる各種の処理液の組成を、特開2001−121837号公報に記載されている方法で管理するのが好ましい。あらかじめ、種々の濃度の多数の処理液サンプルを調製し、それぞれ二つの液温における超音波の伝搬速度を測定し、マトリクス状のデータテーブルを作成しておき、処理中に、液温および超音波の伝搬速度をリアルタイム測定し、それに基づいて濃度の制御を行うのが好ましい。特に、デスマット処理において、硫酸濃度250g/L以上の電解液を用いる場合においては、上述する方法により、濃度の制御を行うのが好ましい。
なお、電解粗面化処理および陽極酸化処理に用いられる各電解液は、Cu濃度が100ppm以下であるのが好ましい。Cu濃度が高すぎると、ラインを停止するとアルミニウム合金板上にCuが析出し、ラインを再度稼動した際に析出したCuがパスロールに転写されて、処理ムラの原因となる場合がある。
【0142】
[平版印刷版原版]
本発明の平版印刷版用支持体には、画像記録層を設けて本発明の平版印刷版原版とすることができる。画像記録層には、感光性組成物が用いられる。
本発明に好適に用いられる感光性組成物としては、例えば、アルカリ可溶性高分子化合物と光熱変換物質とを含有するサーマルポジ型感光性組成物(以下、この組成物およびこれを用いた画像記録層について、「サーマルポジタイプ」という。)、硬化性化合物と光熱変換物質とを含有するサーマルネガ型感光性組成物(以下、同様に「サーマルネガタイプ」という。)、光重合型感光性組成物(以下、同様に「フォトポリマータイプ」という。)、ジアゾ樹脂または光架橋樹脂を含有するネガ型感光性組成物(以下、同様に「コンベンショナルネガタイプ」という。)、キノンジアジド化合物を含有するポジ型感光性組成物(以下、同様に「コンベンショナルポジタイプ」という。)、特別な現像工程を必要としない感光性組成物(以下、同様に「無処理タイプ」という。)が挙げられる。
サーマルポジタイプ、サーマルネガタイプ、コンベンショナルネガタイプおよび無処理タイプの各感光性組成物としては、例えば、特開2008−111142号公報に記載された各種材料を含有する組成物を用いることができる。
【0143】
<バックコート>
このようにして、本発明により得られる平版印刷版用支持体上に各種の画像記録層を設けて得られる本発明の平版印刷版原版の裏面には、必要に応じて、重ねた場合における画像記録層の傷付きを防止するために、有機高分子化合物からなる被覆層を設けることができる。
【0144】
[製版方法(平版印刷版の製造方法)]
本発明により得られる平版印刷版用支持体を用いた平版印刷版原版は、画像記録層に応じた種々の処理方法により、平版印刷版とされる。
像露光に用いられる活性光線の光源としては、例えば、水銀灯、メタルハライドランプ、キセノンランプ、ケミカルランプが挙げられる。レーザビームとしては、例えば、ヘリウム−ネオンレーザ(He−Neレーザ)、アルゴンレーザ、クリプトンレーザ、ヘリウム−カドミウムレーザ、KrFエキシマーレーザ、半導体レーザ、YAGレーザ、YAG−SHGレーザが挙げられる。
【0145】
上記露光の後、画像記録層がサーマルポジタイプ、サーマルネガタイプ、コンベンショナルネガタイプ、コンベンショナルポジタイプおよびフォトポリマータイプのいずれかである場合は、露光した後、現像液を用いて現像して平版印刷版を得るのが好ましい。
現像液は、アルカリ現像液であるのが好ましく、有機溶剤を実質的に含有しないアルカリ性の水溶液であるのがより好ましい。
また、アルカリ金属ケイ酸塩を実質的に含有しない現像液も好ましい。アルカリ金属ケイ酸塩を実質的に含有しない現像液を用いて現像する方法としては、特開平11−109637号公報に詳細に記載されている方法を用いることができる。
また、アルカリ金属ケイ酸塩を含有する現像液を用いることもできる。
【実施例】
【0146】
以下に、実施例により本発明を更に詳細に説明する。
[アルミニウム合金板および平版印刷版用支持体の製造]
(実施例1〜12、比較例1〜11)
下記第1表に示した組成のアルミニウム合金溶湯(Al−1〜Al−18)を用いて、下記第2表に示す条件の熱処理(中間焼鈍)を施す連続鋳造により、アルミニウム合金板を製造した。
具体的には、まず、各組成のアルミニウム合金溶湯を用い、双ロール式連続鋳造で鋳造板厚が5.5mmになるように連続鋳造を行った。
次いで、得られた連続鋳造板に冷間圧延を施して板厚を0.9mmとした後に下記第2表に示す条件で中間焼鈍の熱処理を施し、更に再度冷間圧延を施して0.3mmの厚みに仕上げた。
次いで、テンションレベラを用いて平面性矯正を行い、アルミニウム合金板を製造した。なお、製造したアルミニウム合金板の組成は、各々に用いたアルミニウム合金溶湯(Al−1〜Al−18)の組成と同一である。
【0147】
(実施例13)
アルミニウム合金溶湯(Al−5)を用いて、熱処理を伴わないDC鋳造により、実施例13のアルミニウム合金板を製造した。
具体的には、Al−5のアルミニウム合金溶湯を使って、DC鋳造(Direct Chill)で厚さ500mmのスラブを鋳造した。
次いで、得られたスラブの両面を20mm面削し、500〜600℃で均熱処理を施した。
次いで、熱間圧延を施して厚さ3mmまで圧延し、圧延加工熱で再結晶をさせ、冷間圧延を施して厚さ0.3mmに仕上げた。
次いで、テンションレベラを用いて平面性矯正を行い、アルミニウム合金板を製造した。なお、製造したアルミニウム合金板の組成は、アルミニウム合金溶湯(Al−5)の組成と同一である。
【0148】
製造した各アルミニウム合金板のSiおよびFeの固溶量ならびに金属間化合物の単位面積あたりの個数を以下に示す方法で測定した。これらの結果を下記第2表に示す。
【0149】
(SiおよびFeの固溶量)
SiおよびFeの固溶量は、フェノール溶解抽出法により測定した。
具体的には、製造した各アルミニウム合金板からなる試験片を熱フェノールで溶解させた後、ベンジルアルコールを添加した。
次いで、ポリテトラフルオロエチレン製フィルターを用いて濾過し、金属間化合物残渣を除去した。
次いで、ベンジルアルコールで希釈した後、溶液中に含まれるSiおよびFeを抽出し、標準添加ICP発光分析法で定量した。
【0150】
(金属間化合物の単位面積あたりの個数および平均径)
まず、製造したアルミニウム合金板について、その表面の油分をアセトンでふき取ったものを測定試料として用いた。
次に、走査型電子顕微鏡(PC−SEM7401F、日本電子社製)を用い、加速電圧を12.0kV、倍率2000倍の条件で、アルミニウム合金板表面の反射電子像を撮影した。
次いで、得られた反射電子像から任意に選んだ5箇所の画像をJPEG形式で保存し、MS−Paint(マイクロソフト社製)を用いてbmf(ビットマップファイル)形式に変換した。
このbmf形式ファイルを画像解析ソフトImageFactory Ver.3.2日本語版(旭ハイテック社製)に読み込んで画像解析を行った後、画像の静的二値化処理を行い、白く抜けた金属間化合物に対応する部分をカウントし、特徴量として円相当直径(等価円直径)を指定して粒度分布を得た。
この粒度分布の結果から、円相当直径が0.2μm以上の金属間化合物の個数を算出した。なお、この算出は、5箇所の画像データ(粒度分布)の各々から算出した個数の平均値を百の位で四捨五入して行った。
同様に、この粒度分布の結果から、金属間化合物の円相当直径の平均値を平均径として算出した。
【0151】
【表1】

【0152】
【表2】

【0153】
製造した各アルミニウム合金板に、以下の粗面化処理を施し、平版印刷版用支持体を製造した。
【0154】
<粗面化処理I>
粗面化処理Iとして、下記(a)〜(e)の処理を施した。なお、全ての処理工程の間には水洗処理を施した。
【0155】
(a)アルカリエッチング処理
製造した各アルミニウム合金板に、カセイソーダ濃度25質量%、アルミニウムイオン濃度100g/L、温度60℃の水溶液をスプレー管から吹き付けて、エッチング処理を行った。アルミニウム合金板の後に電気化学的粗面化処理を施す面のエッチング量は、5g/m2であった。
(b)デスマット処理
次いで、温度35℃の1質量%の硝酸水溶液をスプレー管から5秒間吹き付けて、デスマット処理を行った。
(c)電解粗面化処理
その後、1質量%硝酸水溶液に硝酸アルミニウムを溶解させてアルミニウムイオン濃度を4.5g/Lとした電解液(液温50℃)を用い、60Hzの交流電圧を用いて連続的に電気化学的粗面化処理を行った。交流電源波形は図1に示した波形であり、電流値がゼロからピークに達するまでの時間TPが0.8msec、duty比(ta/T、1サイクルに占めるアノード反応時間の割合)0.5であった。カーボン電極を対極として用いた。補助アノードにはフェライトを用いた。電解槽は図2に示すものを2槽使用した。
電気化学的粗面化処理において、交流のピーク時におけるアルミニウム合金板のアノード反応時の電流密度は、60A/dm2であった。アルミニウム合金板のアノード反応時の電気量の総和とカソード反応時の電気量の総和との比は0.95であった。電気量はアルミニウム合金板のアノード時の電気量の総和で190C/dm2であった。補助陽極には電源から流れる電流の5%を分流させた。アルミニウム合金板と電解液の相対速度は、電解槽内の平均で1.5m/secであった。
(d)アルカリエッチング処理
アルミニウム合金板に、カセイソーダ濃度5質量%、アルミニウムイオン濃度5g/L、温度35℃の水溶液をスプレー管から吹き付けて、エッチング処理を行った。アルミニウム合金板の電気化学的粗面化処理を施した面のエッチング量は、0.1g/m2であった。
(e)デスマット処理
水溶液としては、硫酸濃度300g/L、アルミニウムイオン濃度5g/L、液温35℃を用いて、スプレー管から5秒間吹き付けて、デスマット処理を行った。
【0156】
粗面化処理Iを施して得られた各平版印刷版用支持体について、以下に示す方法により電解粗面化面の均一性およびピットの径を測定した。その結果を下記第3表に示す。
【0157】
(電解粗面化面の均一性の評価)
電解粗面化処理後の各平版印刷版用支持体表面を、走査型電子顕微鏡(SEM:日本電子製5500)で観察(倍率2000倍)し、以下に示す基準で砂目立ての均一性を評価した。○以上の評価であれば実用上問題なく使用することができる。
◎:丸いピットが全体の90%以上である。
○:丸いピットが全体の50%以上90%未満である。
△:丸いピットが全体の10%以上50%未満である。
×:丸いピットが全体の10%未満である。
【0158】
(ピットの径)
電解粗面化処理後の各平版印刷版用支持体表面を、電子顕微鏡により倍率500倍および2000倍(いずれも角度0°)で観測し、以下に示す基準で評価した。B以上の評価であれば実用上問題なく使用することができる。
A:0.01〜0.05μmおよび0.05〜1.5μmの平均開口径を有するピットが表面全体に均一に形成。
B:0.01〜0.05μmまたは0.05〜1.5μmの平均開口径を有するピットが表面全体に均一に形成。
C:0.01〜0.05μmの平均開口径を有するピットが表面全体の20%以下の割合(面積比)で形成。
D:1.5μmより大きい平均開口径を有するピットが表面全体の20%以上の割合(面積比)で形成。
【0159】
<粗面化処理II>
粗面化処理IIとして、下記(a)〜(e)の処理を施した。なお、全ての処理工程の間には水洗処理を施した。
【0160】
(a)アルカリエッチング処理
製造した各アルミニウム合金板に、カセイソーダ濃度25質量%、アルミニウムイオン濃度100g/L、温度60℃の水溶液をスプレー管から吹き付けて、エッチング処理を行った。アルミニウム合金板の後に電気化学的粗面化処理を施す面のエッチング量は、3g/m2であった。
(b)デスマット処理
次いで、温度35℃の硫酸水溶液(濃度300g/L)をスプレー管から5秒間吹き付けて、デスマット処理を行った。
(c)電解粗面化処理
その後、1質量%塩酸水溶液に塩化アルミニウムを溶解させてアルミニウムイオン濃度を4.5g/Lとした電解液(液温35℃)を用い、60Hzの交流電源を用いて、フラットセル型の電解槽を用いて連続的に電気化学的粗面化処理を行った。交流電源の波形は、正弦波を用いた。電気化学的粗面化処理において、交流のピーク時におけるアルミニウム合金板のアノード反応時の電流密度は、30A/dm2であった。アルミニウム合金板のアノード反応時の電気量総和とカソード反応時の電気量総和との比は0.95であった。電気量はアルミニウム合金板のアノード時の電気量総和で480C/dm2とした。電解液はポンプを用いて液を循環させることで、電解槽内の攪拌を行った。
(d)アルカリエッチング処理
アルミニウム合金板に、カセイソーダ濃度5質量%、アルミニウムイオン濃度5g/L、温度35℃の水溶液をスプレー管から吹き付けて、エッチング処理を行った。アルミニウム合金板の電解粗面化処理を施した面のエッチング量は、0.05g/m2であった。
(e)デスマット処理
硫酸濃度300g/L、アルミニウムイオン濃度5g/L、液温35℃の水溶液をスプレー管から5秒間吹き付けて、デスマット処理を行った。
【0161】
粗面化処理IIを施して得られた各平版印刷版用支持体について、以下に示す方法により電解粗面化面の均一性を測定した。その結果を下記第3表に示す。
なお、粗面化処理IIで施す塩酸液中での電解粗面化では、円相当直径が5μm以上の大波ピットと、大波ピットが形成されないプラトー部の2つができ、大波ピットおよびプラトー部のいずれの表面にも0.5μm以下の小さな浅いピットが形成される部分があるが、プラトー部が少なく、全面に円相当直径が5μm以上の大波ピットが均一に形成されることが望ましいため、以下の基準で評価を行った。
【0162】
(電解粗面化面の均一性の評価)
電解粗面化処理後の各平版印刷版用支持体表面を、走査型電子顕微鏡(SEM:日本電子製5500)で観察(倍率2000倍)し、以下に示す基準で砂目立ての均一性を評価した。○以上の評価であれば実用上問題なく使用することができる。
◎:大波ピットが形成されていないプラトー部が全体の5%未満である。
○:大波ピットが形成されていないプラトー部が全体の5%以上10%未満である。
△:大波ピットが形成されていないプラトー部が全体の10%以上40%未満である。
×:大波ピットが形成されていないプラトー部が全体の50%以上である。
【0163】
<粗面化処理III>
粗面化処理IIIとして、下記(a)〜(k)の処理を施した。なお、全ての処理工程の間には水洗処理を施した。
【0164】
(a)機械的粗面化処理(ブラシグレイン法)
図5に模式的に示したような装置を使って、研磨剤(パミス)の水懸濁液(比重1.12g/cm3)を研磨スラリー液としてアルミニウム合金板の表面に供給しながら、回転するローラ状ナイロンブラシにより機械的粗面化処理を行った。図5において、1はアルミニウム合金板、2および4はローラ状ブラシ、3は研磨スラリー液、5、6、7および8は支持ローラである。
ここで、研磨剤の平均粒径は40μm、最大粒径は100μmであった。ナイロンブラシの材質は6・10ナイロン、毛長は50mm、毛の直径は0.3mmであった。ナイロンブラシはφ300mmのステンレス製の筒に穴をあけて密になるように植毛した。回転ブラシは3本使用した。ブラシ下部の2本の支持ローラ(φ200mm)の距離は300mmであった。ブラシローラはブラシを回転させる駆動モータの負荷が、ブラシローラをアルミニウム合金板に押さえつける前の負荷に対して7kWプラスになるまで押さえつけた。ブラシの回転方向はアルミニウム合金板の移動方向と同じであった。ブラシの回転数は200rpmであった。
【0165】
(b)アルカリエッチング処理
カセイソーダ濃度26質量%、アルミニウムイオン濃度6.5質量%、温度70℃の水溶液を用いてスプレーによるエッチング処理を行い、アルミニウム合金板を10g/m2溶解した。その後、スプレーによる水洗を行った。
【0166】
(c)デスマット処理
温度30℃の硝酸濃度1質量%水溶液(アルミニウムイオンを0.5質量%含む。)で、スプレーによるデスマット処理を行い、その後、スプレーで水洗した。デスマット処理に用いた硝酸水溶液は、硝酸水溶液中で交流を用いて電解粗面化処理を行う工程の廃液を用いた。
【0167】
(d)電解粗面化処理
60Hzの交流電圧を用いて連続的に電気化学的な粗面化処理を行った。このときの電解液は、硝酸10.5g/L水溶液(アルミニウムイオンを5g/L、アンモニウムイオンを0.007質量%含む。)、液温50℃であった。交流電源波形は図1に示した波形であり、電流値がゼロからピークに達するまでの時間TPが0.8msec、duty比1:1、台形の矩形波交流を用いて、カーボン電極を対極として電気化学的な粗面化処理を行った。補助アノードにはフェライトを用いた。電解槽は図2に示すものを使用した。
電流密度は電流のピーク値で30A/dm2、電気量はアルミニウム合金板が陽極時の電気量の総和で220C/dm2であった。補助陽極には電源から流れる電流の5%を分流させた。
その後、スプレーによる水洗を行った。
【0168】
(e)アルカリエッチング処理
カセイソーダ濃度26質量%、アルミニウムイオン濃度6.5質量%の水溶液を用いてスプレーによるエッチング処理を60℃で行い、アルミニウム合金板を1.0g/m2溶解し、前段の交流を用いて電解粗面化処理を行ったときに生成した水酸化アルミニウムを主体とするスマット成分を除去し、また、生成したピットのエッジ部分を溶解してエッジ部分を滑らかにした。その後、スプレーによる水洗を行った。
【0169】
(f)デスマット処理
温度30℃の硫酸濃度15質量%水溶液(アルミニウムイオンを4.5質量%含む。)で、スプレーによるデスマット処理を行い、その後、スプレーで水洗した。デスマット処理に用いた硝酸水溶液は、硝酸水溶液中で交流を用いて電解粗面化処理を行う工程の廃液を用いた。
【0170】
(g)電解粗面化処理
60Hzの交流電圧を用いて連続的に電気化学的な粗面化処理を行った。このときの電解液は、塩酸7.5g/L水溶液(アルミニウムイオンを5g/L含む。)、温度35℃であった。交流電源波形は図1に示した波形であり、電流値がゼロからピークに達するまでの時間TPが0.8msec、duty比1:1、台形の矩形波交流を用いて、カーボン電極を対極として電気化学的粗面化処理を行った。補助アノードにはフェライトを用いた。電解槽は図2に示すものを使用した。
電流密度は電流のピーク値で25A/dm2、電気量はアルミニウム合金板が陽極時の電気量の総和で50C/dm2であった。補助陽極には電源から流れる電流の5%を分流させた。
その後、スプレーによる水洗を行った。
【0171】
(h)アルカリエッチング処理
カセイソーダ濃度26質量%、アルミニウムイオン濃度6.5質量%の水溶液を用いてスプレーによるエッチング処理を32℃で行い、アルミニウム合金板を0.5g/m2溶解し、前段の交流を用いて電解粗面化処理を行ったときに生成した水酸化アルミニウムを主体とするスマット成分を除去し、また、生成したピットのエッジ部分を溶解してエッジ部分を滑らかにした。その後、スプレーによる水洗を行った。
【0172】
(i)デスマット処理
温度60℃の硫酸濃度25質量%水溶液(アルミニウムイオンを0.5質量%含む。)で、スプレーによるデスマット処理を行い、その後、スプレーによる水洗を行った。
【0173】
(j)陽極酸化処理
図6に示す構造の陽極酸化装置を用いて陽極酸化処理を行った。第一および第二電解部に供給した電解液としては、硫酸を用いた。電解液は、いずれも、硫酸濃度170g/L(アルミニウムイオンを0.5質量%含む。)、温度38℃であった。その後、スプレーによる水洗を行った。最終的な酸化皮膜量は2.7g/m2であった。
【0174】
(k)親水化処理
液温20℃の3号ケイ酸ソーダの1質量%水溶液の処理槽の中に10秒間浸せきさせることで、親水化処理(アルカリ金属ケイ酸塩処理)を行った。その後、井水を用いたスプレーによる水洗を行った。
【0175】
粗面化処理IIIを施して得られた各平版印刷版用支持体について、以下に示す方法により電解粗面化面の均一性を測定した。その結果を下記第3表に示す。
なお、粗面化処理IIIを施す場合、表面には5〜15μm程度の大波ピット、1〜3μm程度の中波ピット、0.5μm以下の小波ピットが形成される。
ここでは、小波および中波ピットが全面に均一に形成されているかについて、以下の2つの基準で評価を行った。
【0176】
(電解粗面化面の均一性の評価)
(1)電解粗面化処理後の各平版印刷版用支持体表面を、走査型電子顕微鏡(SEM:日本電子製5500)で観察(倍率10000倍)し、以下に示す基準で砂目立ての均一性を評価した。○以上の評価であれば実用上問題なく使用することができる。
◎:小波ピットが形成されていない部分が全体の3%未満である。
○:小波ピットが形成されていない部分が全体の3%以上10%未満である。
△:小波ピットが形成されていない部分が全体の10%以上30%未満である。
×:小波ピットが形成されていない部分が全体の30%以上である。
(2)電解粗面化処理後の各平版印刷版用支持体表面を、走査型電子顕微鏡(SEM:日本電子製5500)で観察(倍率2000倍)し、以下に示す基準で砂目立ての均一性を評価した。○以上の評価であれば実用上問題なく使用することができる。
◎:中波ピットが全体の90%以上に形成されている。
○:中波ピットが60%以上90%未満である。
△:中波ピットが全体の30%以上60%未満である。
×:中波ピットが全体の30%未満である。
【0177】
【表3】

【0178】
第1表〜第3表に示す結果から、以下に示すことが分かった。
Feの固溶量が多いアルミニウム合金板を用いた比較例1は、粗面化処理IIおよびIIIを施した場合に粗面化処理面の均一性に劣ることが分かった。
一方、Siの固溶量が少ないアルミニウム合金板を用いた比較例2および7は、いずれの粗面化処理条件においても粗面化処理面の均一性に劣ることが分かった。
また、Feの固溶量が多く、金属間化合物の少ないアルミニウム合金板を用いた比較例3は、いずれの粗面化処理条件においても粗面化処理面の均一性に劣ることが分かった。
また、Siの含有量ならびにSiおよびFeの固溶量が多く、金属間化合物の少ないアルミニウム合金板を用いた比較例4は、いずれの粗面化処理条件においても粗面化処理面の均一性が非常に劣ることが分かった。
また、Feの含有量が多いアルミニウム合金板を用いた比較例5は、粗面化処理IIを施した場合に粗面化処理面の均一性に劣ることが分かった。
また、Feの含有量、Siの固溶量および金属間化合物の少ないアルミニウム合金板を用いた比較例6は、いずれの粗面化処理条件においても粗面化処理面の均一性が非常に劣ることが分かった。
また、Siの含有量が多いアルミニウム合金板を用いた比較例8は、いずれの粗面化処理条件においても粗面化処理面の均一性に劣ることが分かった。
また、Siの含有量、Siの固溶量および金属間化合物の少ないアルミニウム合金板を用いた比較例9は、いずれの粗面化処理条件においても粗面化処理面の均一性が劣ることが分かった。
また、Feの含有量が少ないアルミニウム合金板を用いた比較例10は、いずれの粗面化処理条件においても粗面化処理面の均一性に劣ることが分かった。
また、Feの固溶量が多いアルミニウム合金板を用いた比較例11は、特許文献7に記載された実施例4と同様の実験例であり、粗面化処理IIを施した場合に粗面化処理面の均一性に劣ることが分かった。
【0179】
これに対し、SiおよびFeの含有量ならびにSiおよびFeの固溶量が所定の範囲にあり、円相当直径が0.2μm以上の金属間化合物が20000個/mm2以上のアルミニウム合金板を用いた実施例1〜12は、いずれの粗面化処理条件においても粗面化処理面の均一性に優れることが分かった。
特に、実施例12の結果から、比較例11と同じアルミニウム合金溶湯(Al−18)を用いているが、比較例11の熱処理条件を変えてFeの固溶量を100ppm以下に低減させることにより、粗面化処理IIを施した場合の粗面化処理面の均一性を改善できることが分かった。
一方、DC鋳造により製造したアルミニウム合金板を用いた実施例13は、SiおよびFeの含有量ならびにSiおよびFeの固溶量が所定の範囲にあるが、円相当直径が0.2μm以上の金属間化合物が20000個/mm2以下となるため、同様のアルミニウム合金溶湯(Al−5)を用いた実施例5と比較して、電解粗面化面の均一性がやや劣ることが分かった。
【0180】
[平版印刷版原版の製造]
各粗面化処理を施して得られた各平版印刷版用支持体に、以下のサーマルポジタイプの画像記録層を設けて平版印刷版原版を得た。なお、画像記録層を設ける前には、以下の下塗層を設けた。
【0181】
平版印刷版用支持体上に、下記組成の下塗液を塗布し、80℃で15秒間乾燥し、下塗層の塗膜を形成させた。乾燥後の塗膜の被覆量は15mg/m2であった。
【0182】
<下塗液組成>
・下記高分子化合物 0.3g
・メタノール 100g
・水 1g
【0183】
【化1】

【0184】
更に、下記組成の感熱層塗布液を調製し、下塗層を設けた平版印刷版用支持体に、この感熱層塗布液を乾燥後の塗布量(感熱層塗布量)が1.8g/m2になるよう塗布し、乾燥させて感熱層(サーマルポジタイプの画像記録層)を形成させ、平版印刷版原版を得た。
【0185】
<感熱層塗布液組成>
・ノボラック樹脂(m−クレゾール/p−クレゾール=60/40、重量平均分子量7,000、未反応クレゾール0.5質量%含有) 0.90g
・メタクリル酸エチル/メタクリル酸イソブチル/メタクリル酸共重合体(モル比35/35/30) 0.10g
・下記構造式で表されるシアニン染料A 0.1g
・テトラヒドロ無水フタル酸 0.05g
・p−トルエンスルホン酸 0.002g
・エチルバイオレットの対イオンを6−ヒドロキシ−β−ナフタレンスルホン酸にしたもの 0.02g
・フッ素系界面活性剤(ディフェンサF−780F、大日本インキ化学工業社製、固形分30質量%) 0.0045g(固形分換算)
・フッ素系界面活性剤(ディフェンサF−781F、大日本インキ化学工業社製、固形分100質量%) 0.035g
・メチルエチルケトン 12g
【0186】
【化2】

【0187】
得られた各平版印刷版原版をCreo社製TrendSetterを用いてドラム回転速度150rpm、ビーム強度10Wで画像状に描き込みを行った。
その後、下記組成のアルカリ現像液を仕込んだ富士写真フイルム(株)製PSプロセッサー940Hを用い、液温を30℃に保ち、現像時間20秒で現像し、平版印刷版を得た。
【0188】
<アルカリ現像液組成>
・D−ソルビット 2.5質量%
・水酸化ナトリウム 0.85質量%
・ポリエチレングリコールラウリルエーテル(重量平均分子量1,000) 0.5質量%
・水 96.15質量%
【0189】
得られた平版印刷版原版に露光および現像処理を施し、平版印刷版としての耐刷性および耐汚れ性を評価し結果を第4表に示した。
【0190】
(耐汚れ性の評価)
上記で得られた平版印刷版を用い、三菱ダイヤ型F2印刷機(三菱重工業社製)で、DIC−GEOS(s)紅のインキを用いて印刷し、1万枚印刷した後におけるブランケットの汚れを目視で確認し、以下に示す基準で評価した。
A:ブランケットが汚れていないもの
B:ブランケットがほとんど汚れていないもの
C:ブランケットが少し汚れていたもの
D:ブランケットが汚れているものの許容できる範囲にあるもの
E:ブランケットが汚れており印刷物が明らかに汚れているもの
F:ブランケットの汚れがかなりとなるもの
G:ブランケットの汚れが激しいもの
【0191】
(耐刷性の評価)
小森コーポレーション社製のリスロン印刷機で、大日本インキ化学工業社製のDIC−GEOS(N)墨のインキを用いて印刷し、ベタ画像の濃度が薄くなり始めたと目視で認められた時点の印刷枚数により、耐刷性を評価した。
【0192】
【表4】

【0193】
第4表に示す結果から、各粗面化処理条件の中で実施例と比較例を比べると、実施例1〜13の平版印刷版原版は、いずれも比較例1〜11で得られた平版印刷版原版に比べて、平版印刷版としての耐汚れ性および耐刷性のいずれか一方または両方が良好であることが分かった。
例えば、同一組成のアルミニウム合金板で比較すると、実施例1と比較例1との比較、実施例5と比較例2および比較例7との比較、実施例6と比較例3との比較、実施例12と比較例11との比較から、いずれの実施例も対応する比較例と比較して耐汚れ性および耐刷性のいずれか一方または両方が良好であることが分かる。
一方、DC鋳造により製造したアルミニウム合金板を用いた実施例13は、上述したように、実施例5と比較して電解粗面化面の均一性がやや劣るため、粗面化処理IおよびIIを施した場合については、実施例5と比較した耐汚れ性がやや劣ることが分かった。
なお、耐刷性および耐汚れ性の評価に用いた実施例および比較例の平版印刷版原版について、画像記録層を除去した後に[0149]段落に記載した方法でSiおよびFeの固溶量を測定すると、アルミニウム合金板で測定した値と大差がないことが分かった。
【符号の説明】
【0194】
1 アルミニウム合金板
2、4 ローラ状ブラシ
3 研磨スラリー液
5、6、7、8 支持ローラ
11 アルミニウム合金板
12 ラジアルドラムローラ
13a、13b 主極
14 電解処理液
15 電解液供給口
16 スリット
17 電解液通路
18 補助陽極
19a、19b サイリスタ
20 交流電源
40 主電解槽
50 補助陽極槽
410 陽極酸化処理装置
412 給電槽
413 中間槽
414 陽極酸化処理槽
416 アルミニウム合金板
418、426 電解液
420 陽極
422、428 パスローラ
424 ニップローラ
430 陰極
434 直流電源
436、438 給液ノズル
440 しゃへい板
442 排液口
610 陽極酸化処理装置
612 給電槽
614 電解処理槽
616 アルミニウム合金板
618、626 電解液
620 給電電極
622、628 ローラ
624 ニップローラ
630 電解電極
632 槽壁
634 直流電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.03〜0.20質量%のSiと0.11〜0.45質量%のFeとを含有し、Siの固溶量が120〜600ppmであり、Feの固溶量が100ppm以下である、平版印刷版用アルミニウム合金板。
【請求項2】
表面に、円相当直径が0.2μm以上である金属間化合物を20000個/mm2以上有する、請求項1に記載の平版印刷版用アルミニウム合金板。
【請求項3】
Cuの含有量が0.030質量%以下である請求項1または2に記載の平版印刷版用アルミニウム合金板。
【請求項4】
アルミニウム合金溶湯を溶湯供給ノズルを介して一対の冷却ローラの間に供給し、前記一対の冷却ローラによって前記アルミニウム合金溶湯を凝固させつつ圧延を行う連続鋳造により得られる、請求項1〜3のいずれかに記載の平版印刷版用アルミニウム合金板。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の平版印刷版用アルミニウム合金板の表面に、電気化学的粗面化処理を含む粗面化処理を施して得られる平版印刷版用支持体。
【請求項6】
前記粗面化処理が、前記電気化学的粗面化処理の前に、更にアルカリエッチング処理を含む請求項5に記載の平版印刷版用支持体。
【請求項7】
前記粗面化処理が、前記電気化学的粗面化処理の後に、更にアルカリエッチング処理を含む請求項5または6に記載の平版印刷版用支持体。
【請求項8】
請求項5〜7のいずれかに記載の平版印刷版用支持体上に画像記録層を設けてなる平版印刷版原版。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−47019(P2011−47019A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−198034(P2009−198034)
【出願日】平成21年8月28日(2009.8.28)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】