説明

平版印刷版用支持体の製造方法

【課題】アルミニウム新地金や使用済み平版印刷版等をアルミニウム板の原料に用いた場合であっても、耐刷性および耐汚れ性のいずれにも優れる平版印刷版を得ることができる平版印刷版用支持体の製造方法の提供。
【解決手段】マンガンおよびマグネシウムを合計で0.05〜1.5質量%含有するアルミニウム板に、少なくとも、ブラシと研磨剤を含有するスラリー液とを用いて平均表面粗さRaが0.30〜0.43μmとなるように粗面化を施す機械的粗面化処理を施し、
更に、前記機械的粗面化処理の後に、電気化学的粗面化処理および化学的エッチング処理をこの順に施して、
前記機械的粗面化処理の後の平均表面粗さRaに対して、平均表面粗さRaが0.10〜0.20μm大きくなり、かつ、平均表面粗さRaが0.42〜0.60μmとなる平版印刷版用支持体を得る、平版印刷版用支持体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平版印刷版用支持体の製造方法に関する。詳しくは、耐汚れ性および耐刷性のいずれにも優れる平版印刷版を得ることができる平版印刷版用支持体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
平版印刷法は、水と油が本質的に混じり合わないことを利用した印刷方式であり、これに使用される平版印刷版の印刷版面には、水を受容して油性インキを反撥する領域(以下、この領域を「非画像部」という。)と、水を反撥して油性インキを受容する領域(以下、この領域を「画像部」という。)とが形成される。
【0003】
平版印刷版に用いられる平版印刷版用アルミニウム支持体(以下、単に「平版印刷版用支持体」という。)は、アルミニウム板を用いて形成されるが、この表面には、非画像部を担うように使用されるために親水性および保水性が優れていることや、その上に形成される画像記録層との密着性が優れていることなど、相反する種々の性能が要求される。平版印刷版用支持体は、表面の親水性が低すぎると、印刷時に非画像部にインキが付着するようになり、ブランケット胴の汚れ、ひいてはいわゆる地汚れが発生する。すなわち、耐汚れ性が悪くなる。また、表面の保水性が低すぎると、印刷時に湿し水を多くしないとシャドー部のつまりが発生するなどの不都合が生じる。また、画像記録層との密着性が低すぎると、画像記録層がはがれやすくなり、印刷枚数が多い場合の耐久性(耐刷性)が悪化する。
【0004】
そこで、耐汚れ性や、耐刷性などの各種性能を向上させるために、平版印刷版用支持体の表面には、各種粗面化処理が施され、凹凸が形成される。
粗面化処理の方法としては、例えば、機械的粗面化処理、電気化学的粗面化処理(電解粗面化処理)、化学的粗面化処理(化学的エッチング)、これらを組み合わせた方法が知られている。
【0005】
例えば、特許文献1の請求項2には、アルミニウム板を機械的に研磨したのち、アルカリエッチングし、次いで塩酸25〜90g/Lと硝酸50〜240g/Lとアルミニウムイオン25〜60g/Lとを含み、且つアルミニウムイオン1重量部に対して塩酸1〜1.5重量部、硝酸2〜4重量部の割合で含まれている電解液にて、電解エッチングし、次いでデスマットの後、陽極酸化処理することを特徴とする平版印刷版用アルミニウム支持体の製造方法が記載されている。
【0006】
また、電気化学的粗面化処理としては、塩酸を含有する水溶液中でアルミニウム板に交流を流す方法が、均一な凹凸をアルミニウム板表面に生成させることができる観点から広く用いられている。
【0007】
ところで、平版印刷版用支持体の製造に用いられるアルミニウム板(圧延アルミ)は、電気化学的粗面化処理を均一に施す観点からその成分が厳密に調整されているため、製造コストが高価となり、エネルギーの使用量も多くなっている。
特に、電力料金の高い日本では、ボーキサイトから精錬した地金(以下、「アルミニウム新地金」という。)を使用したアルミニウム板を製造するには莫大なコストが必要となっている。
また、アルミニウム新地金の大部分は輸入に頼っているのが現状であるため、その有効利用のためにリサイクルの必要性も生じている。
【0008】
一方、軽い、熱伝導率が高い、臭いがない、印刷しやすい、耐食性が高い等の利点から飲料缶に代表される容器には、アルミニウムが用いられている。
このようなアルミニウム容器(特に、アルミニウム飲料缶)から再生したアルミニウム地金(以下、「再生アルミニウム地金」ともいう。)は、アルミニウム新地金に比べてエネルギーの使用量が極端に少ないため、既にリサイクルシステムが確立している再生アルミニウム地金を用いてアルミニウム板を製造することは、エネルギー消費量を抑えることにつながる。
【0009】
また、アルミニウム板やアルミニウム容器の製造等の際に発生するアルミニウム屑や、使用済みの平版印刷版についても、例えば、再生アルミニウム地金を混ぜて再利用することが、原材料の安定供給の観点から更に好ましいことである。
【0010】
このようなアルミニウム容器、アルミニウム屑等の再生、再利用する方法としては、例えば、アルミニウム容器、アルミニウム屑等を裁断(シュレッド)した後、塗料を燃焼除去し、更に高温軟化して打ち撚り衝撃を加えて残留炭化物の剥離と造粒を行い、再生するための流通経路に廻す方法等が知られている。
【0011】
例えば、特許文献2には、「溶解炉でアルミニウムインゴットおよびアルミニウム母合金を溶解させて得られたアルミニウム溶湯に、使用済み平版印刷版を、全アルミニウム原材料の量に対する該使用済み平版印刷版の量が1〜90質量%となる割合で投入して溶解させる工程と、該使用済み平版印刷版を溶解させた後の該アルミニウム溶湯からアルミニウム合金板を得る工程と、該アルミニウム合金板に電気化学的粗面化処理を含む粗面化処理を行って平版印刷版用支持体を得る工程とを具備する平版印刷版用支持体の製造方法であって、該使用済み平版印刷版のうち、A1000系のアルミニウム合金を用いている使用済み平版印刷版の質量をaとし、A3000系のアルミニウム合金を用いている使用済み平版印刷版の質量をbとしたときに、b/a≦0.3を満足することを特徴とする平版印刷版用支持体の製造方法。」
【0012】
また、特許文献3には、「使用済みのアルミニウム容器、及び使用済みのアルミニウム製平版印刷版を原料として、アルミニウム含有率が95〜99.4wt%の低純度アルミニウム合金を鋳造、熱処理、圧延を行って圧延板とした後、粗面化処理、陽極酸化処理したことを特徴とする平版印刷版用支持体の製造方法。」が記載されている。
【0013】
更に、特許文献4には、「使用済み平版印刷版および/または未使用平版印刷版を原材料として用いて平版印刷版用支持体を得る、平版印刷版用支持体の製造方法であって、
使用済み平版印刷版および/または未使用平版印刷版の画像記録層および付着物を除去する工程と、
画像記録層および付着物を除去された使用済み平版印刷版および/または未使用平版印刷版を溶解炉で溶解させ、アルミニウム溶湯を得る工程と、
前記アルミニウム溶湯からアルミニウム合金板を得る工程と、
前記アルミニウム合金板に表面処理を施して平版印刷版用支持体を得る工程と
を具備する平版印刷版用支持体の製造方法。」が記載されている。
【0014】
【特許文献1】特開2001−1663号公報
【特許文献2】特開2002−225449号公報
【特許文献3】特開2002−331767号公報
【特許文献4】特開2005−186415号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、本発明者は、特許文献2〜4に記載の製造方法では、粗面化処理を施す前のアルミニウム合金板(圧延版)における不純物の多さや機械的な強度の高さから、均一な粗面化処理を施すのが困難となる場合があり、耐刷性および耐汚れ性のいずれにも優れた平版印刷版を得ることができる平版印刷版用支持体を安定的に製造することが困難であることを見出した。
【0016】
そこで、本発明は、アルミニウム新地金や使用済み平版印刷版等をアルミニウム板の原料に用いた場合であっても、耐刷性および耐汚れ性のいずれにも優れる平版印刷版を得ることができる平版印刷版用支持体の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意研究した結果、MnおよびMgを合計で所定割合含有するアルミニウム板に、所定の平均表面粗さRaとなるように機械的粗面化処理を施し、更に電気化学的粗面化処理および化学的エッチング処理をこの順に施して、得られる平版印刷版用支持体の平均表面粗さRaを所定の値にすことにより、耐刷性および耐汚れ性のいずれにも優れる平版印刷版を得ることができる平版印刷版用支持体を製造できることを見出し、本発明を完成させた。
【0018】
すなわち、本発明は、以下の(1)〜(4)を提供する。
(1)マンガンおよびマグネシウムを合計で0.05〜1.5質量%含有するアルミニウム板に、少なくとも、ブラシと研磨剤を含有するスラリー液とを用いて平均表面粗さRaが0.30〜0.43μmとなるように粗面化を施す機械的粗面化処理を施し、
更に、上記機械的粗面化処理の後に、電気化学的粗面化処理および化学的エッチング処理をこの順に施して、
上記機械的粗面化処理の後の平均表面粗さRaに対して、平均表面粗さRaが0.10〜0.20μm大きくなり、かつ、平均表面粗さRaが0.42〜0.60μmとなる平版印刷版用支持体を得る、平版印刷版用支持体の製造方法。
(2)上記アルミニウム板に、上記機械的粗面化処理と上記電気化学的粗面化処理との間に、アルカリ水溶液中でエッチングを施すアルカリエッチング処理を施し、
上記アルミニウム板に、上記電気化学的粗面化処理の後に行われる上記化学的エッチング処理の後に、塩酸を含有する水溶液中で交流電流を用いて粗面化を施す電気化学的粗面化処理と、陽極酸化処理とをこの順に施して、平版印刷版用支持体を得る、上記(1)に記載の平版印刷版用支持体の製造方法。
(3)上記アルミニウム板が、アルミニウム純度が95.0〜99.4質量%のアルミニウム地金(地金A)と、アルミニウム新地金(地金B)および/または使用済み平版印刷板(地金C)とを、1:99〜99:1となる割合〔地金A:(地金Bおよび/または地金C)〕で使用して製造したアルミニウム圧延板である上記(1)または(2)に記載の平版印刷版用支持体の製造方法。
(4)上記アルミニウム地金(地金A)が、使用済みアルミニウム容器を原料としたものである上記(3)に記載の平版印刷版用支持体の製造方法。
【発明の効果】
【0019】
以下に説明するように、本発明によれば、アルミニウム新地金や使用済み平版印刷版等をアルミニウム板の原料に用いた場合であっても、耐刷性および耐汚れ性のいずれにも優れる平版印刷版を得ることができる平版印刷版用支持体の製造方法を提供するこができる。
また、本発明によれば、使用済みの平版印刷版やアルミニウム容器等から得られるアルミニウム地金を十分に活用することができるため、コストおよび原材料が安価で環境に対する負荷も低減するができる。
更に、本発明によれば、MnおよびMgを合計で所定割合含有するアルミニウム板を用いているため、機械的な強度が強くなり、平版印刷版としたときの印刷時の版ずれを抑止することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明について詳細に説明する。
[平版印刷版用支持体の製造方法]
<アルミニウム板(圧延アルミ)>
本発明の平版印刷版用支持体の製造方法に用いられるアルミニウム板は、寸度的に安定なアルミニウムを主成分とする金属であり、MnおよびMgを合計で0.05〜1.5質量%含有するアルミニウム合金からなる。
また、アルミニウムを主成分とし、MnおよびMg以外の微量の異元素を含むアルミニウム合金からなる合金板も用いることもできる。
【0021】
本明細書においては、上述したアルミニウム合金からなる各種の基板をアルミニウム板と総称して用いる。
ここで、アルミニウム合金に含まれてもよいMnおよびMg以外の異元素には、ケイ素(Si)、鉄(Fe)、銅(Cu)、チタン(Ti)、ガリウム(Ga)、バナジウム(V)、亜鉛(Zn)、クロム(Cr)、ジルコニウム(Zr)、バリウム(Ba)、コバルト(Co)等があり、合金中の異元素の含有量は10質量%以下である。
また、アルミニウム合金に含有される不可避不純物としては、例えば、鉛(Pb)、ニッケル(Ni)、スズ(Sn)、インジウム(In)、ホウ素(B)等が挙げられる。
【0022】
このようなアルミニウム板中の異元素は、電気化学的粗面化処理において生成するピットの均一性に大きく依存し、異元素の種類、添加量等の調整により均一なピットが生成し、耐刷性、耐汚れ性および露光安定性を高い水準でバランスよく実現することができる。
【0023】
Feは、アルミニウム新地金においても0.1〜0.2質量%前後含有される元素であり、アルミニウム中に固溶する量は少なく、ほとんどが金属間化合物として残存する。
また、Feは、アルミニウム板の機械的強度を高める作用を有するが、その含有量が1質量%より多いと圧延途中に割れが発生しやすくなり、0.15質量%未満では、機械的強度が保てなくなり、これにより圧延途中で得率低下等の問題が生じる場合がある。
【0024】
Siは、アルミニウム新地金においても0.02〜0.1質量%前後含有される元素であり、アルミニウム中に固溶した状態で、または、金属間化合物もしくは単独の析出物として存在する。
また、平版印刷版用支持体の製造過程で加熱されると、固溶していたSiが単体Siとして析出することがある。本発明者らの知見によれば、単体Siが過剰の場合、固溶していたSiが単体Siとして析出しやすく耐苛酷インキ汚れ性が低下する場合がある。
また、Si含有量は、アルミニウム板の電気化学的粗面化に影響を及ぼし、0.03質量%未満では、電気化学的粗面化処理においてピットが溶解し均一な表面構造とならない場合がある。
【0025】
Cuは、JIS2000系、4000系材料のスクラップに多く含まれる元素であり、比較的Al中に固溶しやすいものである。
Cuの含有量は、電気化学的粗面化処理に大きく影響する。特に、硝酸を含有する電解液中での交流を用いた電気化学的粗面化処理(以下、単に「硝酸交流電解」という。)では、Cuの含有量が0.0001質量%より少ないと電解の温度変動や濃度変動に対して許容範囲が狭くなる場合がある。
【0026】
Tiは、通常結晶微細化材として0.005〜0.04質量%添加される元素である。JIS5000系、6000系、7000系のスクラップには不純物金属として比較的多めに含まれる。
Tiの含有量は、結晶微細化の程度(アルミニウム板の結晶粒の大きさの程度)および電気化学的粗面化に影響する。Tiの含有量が0.0010質量%より少ないと結晶微細化の効果がみられない場合がある。
【0027】
CrおよびZnは、それぞれ0.00005質量%以上の添加で、耐苛酷インキ汚れ性を向上させる効果を示し、電解粗面化処理後にアルミニウム溶解量が少ないアルカリエッチング処理を行う場合、そのアルカリエッチング処理後の表面構造に影響を与える。即ち、これらは、極小エッチングでの微細構造に影響する。
Crは、JIS A5000系、6000系、7000系のスクラップに少量含まれる異元素である。また、これらの含有量が多すぎると、効果が飽和し、かつ、コスト的に不利になるので好ましくない。
【0028】
本発明においては、MnおよびMgの合計の含有量は、上述したように、0.05〜1.5質量%である。MnおよびMgの合計の含有量がこの範囲であると、アルミニウム合金から得られるアルミニウム板の機械的な強度が強くなり、平版印刷版としたときの印刷時の版ずれを抑止することもできる。
また、本発明においては、均一な粗面化処理と機械的な強度を両立する観点から、MnおよびMgの合計の含有量が、0.05〜0.40質量%であるのが特に好ましい。
【0029】
また、本発明の平版印刷版用支持体の製造方法に用いられるアルミニウム板は、アルミニウム純度が95.0〜99.4質量%のアルミニウム地金(以下、「地金A」ともいう。)を使用して製造したアルミニウム圧延板であるのが好ましく、地金Aとともに、アルミニウム新地金(以下、「地金B」ともいう。)および/または使用済み平版印刷板(以下、「地金C」ともいう。)を併用して製造したアルミニウム圧延板であるのが原材料の安定供給の観点からより好ましい。
【0030】
本発明においては、地金Aと、地金Bおよび/または地金Cとを、1:99〜99:1となる割合〔地金A:(地金Bおよび/または地金C)〕で使用して製造したアルミニウム圧延板であるのが、原材料の安定供給の観点から更に好ましい。
また、この割合は、原材料の安定供給と電気化学的粗面化処理の安定性を両立する観点から、3:98〜60:40であるのが好ましく、5:95〜30:70であるのがより好ましい。
更に、この場合において、地金全体(地金A、地金Bおよび地金C)に占める地金Bの割合は、98質量%以下であるのが好ましく、5〜90質量%であるのがより好ましく、10〜85質量%であるのが更に好ましい。同様に、地金全体(地金A、地金Bおよび地金C)に占める地金Cの割合は、98質量%以下であるのが好ましく、3〜90質量%であるのがより好ましく、5〜80質量%であるのが更に好ましい。
【0031】
ここで、上記地金Aは、Fe、Si、Cu、Mg、Mn、Zn、CrおよびTiを、それぞれ以下の範囲(質量%)で含有するものである。ただし、MgおよびMnの合計含有量は、1.5質量%以下である。
・Fe:0.3〜1質量%
・Si:0.15〜1質量%
・Cu:0.1〜1質量%
・Mg:0.1〜1.5質量%
・Mn:0.1〜1.5質量%
・Zn:0.1〜1.5質量%
・Cr:0.01〜0.1質量%
・Ti:0.01〜0.5質量%
【0032】
このような地金Aとしては、使用済みアルミニウム容器、特に、使用済みアルミニウム飲料缶を溶解させたUBC(Used Beverage Can)を原料としたものであるのが、回収ルートが確率されており、アルミニウム圧延版を製造するまでの過程におけるエネルギーコストが削減できる観点から特に好ましい。
【0033】
上記地金Bは、ボーキサイトから精錬した地金(アルミニウム新地金)をいい、本発明においてはアルミニウムを99.7質量%以上含有するものである。
【0034】
上記地金Cは、使用済み、即ち、印刷に用いられた後の平版印刷版をいうが、本発明においては、平版印刷版を製造する際に、工程トラブル、抜き取り検査等により発生した平版印刷版;表面保護材、包装材料、粘着テープ等を有する状態で不要となった平版印刷版;平版印刷版を所望の幅および長さに切断した際に発生する未使用の平版印刷版の切断屑;等の未使用状態の平版印刷版も含むものである。
【0035】
また、上記地金Cは、アルミニウムを95.0質量%以上含有するものであり、97.0質量%以上含有するのが好ましく、98.5質量%以上含有するのがより好ましい。
【0036】
本発明においては、本発明の平版印刷版用支持体の製造方法に用いられるアルミニウム板として、以下の組成のものが好ましい。
Feの含有量は、0.7質量%以下であるのが好ましく、0.15〜0.7質量%であるのがより好ましく、0.15〜0.4質量%であるのが更に好ましく、0.18〜0.30質量%であるのが特に好ましい。
Siの含有量は、0.5質量%以下であるのが好ましく、0.05〜0.50質量%であるのがより好ましく、0.05〜0.25質量%であるのが更に好ましく、0.07〜0.15質量%であるのが特に好ましい。
Cuの含有量は、0.30質量%以下であるのが好ましく、0.01〜0.30質量%であるのがより好ましく、0.02〜0.15質量%であるのが更に好ましく、0.025〜0.10質量%であるのが特に好ましい。
Mnの含有量は、1.5質量%以下であるのが好ましく、0.05〜1.5質量%であるのがより好ましく、0.05〜0.60質量%であるのが更に好ましく、0.05〜0.40質量%であるのが特に好ましい。
Mgの含有量は、1.5質量%以下であるのが好ましく、0.05〜1.5質量%であるのがより好ましく、0.05〜0.60質量%であるのが更に好ましく、0.05〜0.40質量%であるのが特に好ましい。
Tiの含有量は、0.10質量%以下であるのが好ましく、0.001〜0.10質量%であるのがより好ましく、0.001〜0.03質量%であるのが更に好まし、0.005〜0.018質量%であるのが特に好ましい。
Znの含有量は、0.25質量%以下であるのが好ましく、0.001〜0.25質量%であるのがより更に好ましく、0.001〜0.10質量%であるのが更に好ましく、0.001〜0.05質量%であるのが特に好ましい。
Crの含有量は、0.10質量%以下であるのが好ましく、0.001〜0.10質量%であるのがより好ましく、0.001〜0.02質量%であるのが更に好ましく、0.001〜0.01質量%であるのが特に好ましい。
【0037】
また、本発明においては、本発明の平版印刷版用支持体の製造方法に用いられるアルミニウム板におけるアルミニウムおよびその他不可避不純物含有率は、95.0〜99.50質量%であるのが好ましく、97.0〜99.50質量%であるのがより好ましく、98.5〜99.50質量%であるのが更に好ましい。
【0038】
アルミニウム合金を板材とするには、例えば、下記の方法を採用することができる。まず、所定の合金成分含有量に調整したアルミニウム合金溶湯に、常法に従い、清浄化処理を行い、鋳造する。清浄化処理には、溶湯中の水素等の不要ガスを除去するために、フラックス処理、アルゴンガス、塩素ガス等を用いる脱ガス処理、セラミックチューブフィルタ、セラミックフォームフィルタ等のいわゆるリジッドメディアフィルタや、アルミナフレーク、アルミナボール等をろ材とするフィルタや、グラスクロスフィルタ等を用いるフィルタリング処理、あるいは、脱ガス処理とフィルタリング処理を組み合わせた処理が行われる。
【0039】
これらの清浄化処理は、溶湯中の非金属介在物、酸化物等の異物による欠陥や、溶湯に溶け込んだガスによる欠陥を防ぐために実施されることが好ましい。溶湯のフィルタリングに関しては、特開平6−57432号、特開平3−162530号、特開平5−140659号、特開平4−231425号、特開平4−276031号、特開平5−311261号、特開平6−136466号の各公報等に記載されている。また、溶湯の脱ガスに関しては、特開平5−51659号公報、実開平5−49148号公報等に記載されている。本願出願人も、特開平7−40017号公報において、溶湯の脱ガスに関する技術を提案している。
【0040】
ついで、上述したように清浄化処理を施された溶湯を用いて鋳造を行う。鋳造方法に関しては、DC鋳造法に代表される固体鋳型を用いる方法と、連続鋳造法に代表される駆動鋳型を用いる方法がある。
DC鋳造においては、冷却速度が0.5〜30℃/秒の範囲で凝固する。1℃未満であると粗大な金属間化合物が多数形成されることがある。DC鋳造を行った場合、板厚300〜800mmの鋳塊を製造することができる。その鋳塊を、常法に従い、必要に応じて面削を行い、通常、表層の1〜30mm、好ましくは1〜10mmを切削する。その前後において、必要に応じて、均熱化処理を行う。均熱化処理を行う場合、金属間化合物が粗大化しないように、450〜620℃で1〜48時間の熱処理を行う。熱処理が1時間より短い場合には、均熱化処理の効果が不十分となることがある。なお、均熱処理を行わない場合には、コストを低減させることができるという利点がある。
【0041】
その後、熱間圧延、冷間圧延を行ってアルミニウム板の圧延板とする。熱間圧延の開始温度は350〜500℃が適当である。熱間圧延の前もしくは後、またはその途中において、中間焼鈍処理を行ってもよい。中間焼鈍処理の条件は、バッチ式焼鈍炉を用いて280〜600℃で2〜20時間、好ましくは350〜500℃で2〜10時間加熱するか、連続焼鈍炉を用いて400〜600℃で6分以下、好ましくは450〜550℃で2分以下加熱するかである。連続焼鈍炉を用いて10〜200℃/秒の昇温速度で加熱して、結晶組織を細かくすることもできる。エネルギー使用量を低減して環境負荷を低くする上では、中間焼鈍処理は省略することが好ましい。
【0042】
以上の工程によって、所定の厚さ、例えば、0.1〜0.5mmに仕上げられたアルミニウム板は、更にローラレベラ、テンションレベラ等の矯正装置によって平面性を改善してもよい。平面性の改善は、アルミニウム板をシート状にカットした後に行ってもよいが、生産性を向上させるためには、連続したコイルの状態で行うことが好ましい。また、所定の板幅に加工するため、スリッタラインを通してもよい。また、アルミニウム板同士の摩擦による傷の発生を防止するために、アルミニウム板の表面に薄い油膜を設けてもよい。油膜には、必要に応じて、揮発性のものや、不揮発性のものが適宜用いられる。
【0043】
一方、連続鋳造法としては、双ロール法(ハンター法)、3C法に代表される冷却ロールを用いる方法、双ベルト法(ハズレー法)、アルスイスキャスターII型に代表される冷却ベルトや冷却ブロックを用いる方法が、工業的に行われている。連続鋳造法を用いる場合には、冷却速度が100〜1000℃/秒の範囲で凝固する。連続鋳造法は、一般的には、DC鋳造法に比べて冷却速度が速いため、アルミマトリックスに対する合金成分固溶度を高くすることができるという特徴を有する。連続鋳造法に関しては、本願出願人によって提案された技術が、特開平3−79798号、特開平5−201166号、特開平5−156414号、特開平6−262203号、特開平6−122949号、特開平6−210406号、特開平6−26308号の各公報等に記載されている。
【0044】
連続鋳造を行った場合において、例えば、ハンター法等の冷却ロールを用いる方法を用いると、板厚1〜10mmの鋳造板を直接、連続鋳造することができ、熱間圧延の工程を省略することができるというメリットが得られる。また、ハズレー法等の冷却ベルトを用いる方法を用いると、板厚10〜50mmの鋳造板を鋳造することができ、一般的に、鋳造直後に熱間圧延ロールを配置し連続的に圧延することで、板厚1〜10mmの連続鋳造圧延板が得られる。
【0045】
これらの連続鋳造圧延板は、DC鋳造について説明したのと同様に、冷間圧延、中間焼鈍、平面性の改善、スリット等の工程を経て、所定の厚さ、例えば、0.1〜0.5mmの板厚に仕上げられる。連続鋳造法を用いた場合の中間焼鈍条件および冷間圧延条件については、本願出願人によって提案された技術が、特開平6−220593号、特開平6−210308号、特開平7−54111号、特開平8−92709号の各公報等に記載されている。
【0046】
本発明に用いられるアルミニウム板は、JISに規定されるH18の調質が行われているのが好ましい。
【0047】
このようにして製造されるアルミニウム板には、以下に述べる種々の特性が望まれる。
アルミニウム板の強度は、平版印刷版用支持体として必要な腰の強さを得るため、0.2%耐力が120MPa以上であるのが好ましい。また、バーニング処理を行った場合にもある程度の腰の強さを得るためには、270℃で3〜10分間加熱処理した後の0.2%耐力が80MPa以上であるのが好ましく、100MPa以上であるのがより好ましい。特に、アルミニウム板に腰の強さを求める場合は、MgやMnを添加したアルミニウム材料を採用することができるが、腰を強くすると印刷機の版胴へのフィットしやすさが劣ってくるため、用途に応じて、材質および微量成分の添加量が適宜選択される。これらに関して、本願出願人によって提案された技術が、特開平7−126820号公報、特開昭62−140894号公報等に記載されている。
また、アルミニウム板は、引張強度が160±15N/mm2 、0.2%耐力が140±15MPa、JIS Z2241およびZ2201に規定される伸びが1〜10%であるのがより好ましい。
【0048】
アルミニウム板の結晶組織は、化学的粗面化処理や電気化学的粗面化処理を行った場合、アルミニウム板の表面の結晶組織が面質不良の発生の原因となることがあるので、表面においてあまり粗大でないことが好ましい。アルミニウム板の表面の結晶組織は、幅が200μm以下であるのが好ましく、100μm以下であるのがより好ましく、50μm以下であるのが更に好ましく、また、結晶組織の長さが5000μm以下であるのが好ましく、1000μm以下であるのがより好ましく、500μm以下であるのが更に好ましい。これらに関して、本願出願人によって提案された技術が、特開平6−218495号、特開平7−39906号、特開平7−124609号の各公報等に記載されている。
【0049】
アルミニウム板の合金成分分布は、化学的粗面化処理や電気化学的粗面化処理を行った場合、アルミニウム板の表面の合金成分の不均一な分布に起因して面質不良が発生することがあるので、表面においてあまり不均一でないことが好ましい。これらに関して、本願出願人によって提案された技術が、特開平6−48058号、特開平5−301478号、特開平7−132689号の各公報等に記載されている。
【0050】
アルミニウム板の金属間化合物は、その金属間化合物のサイズや密度が、化学的粗面化処理や電気化学的粗面化処理に影響を与える場合がある。これらに関して、本願出願人によって提案された技術が、特開平7−138687号、特開平4−254545号の各公報等に記載されている。
【0051】
<表面処理>
本発明の平版印刷版用支持体の製造方法においては、上述したアルミニウム板に、少なくとも、ブラシと研磨剤を含有するスラリー液とを用いて平均表面粗さRaが0.30〜0.43μmとなるように粗面化を施す機械的粗面化処理を施し、
更に、上記機械的粗面化処理の後に、電気化学的粗面化処理(以下、「第1電解粗面化処理」ともいう。)および化学的エッチング処理(以下、「第2エッチング処理」ともいう。)をこの順に施して、
上記機械的粗面化処理の後の平均表面粗さRaに対して、平均表面粗さRaが0.10〜0.20μm大きくなり、かつ、平均表面粗さRaが0.42〜0.60μmとなる平版印刷版用支持体を得る。
【0052】
また、本発明の平版印刷版用支持体の製造方法においては、上述したアルミニウム板には、更に、機械的粗面化処理と第1電解粗面化処理との間にアルカリ水溶液中でエッチングを施すアルカリエッチング処理(以下、「第1エッチング処理」ともいう。)を施し、第2エッチング処理の後に、塩酸を含有する水溶液中で交流電流を用いて粗面化を施す電気化学的粗面化処理(以下、「第2電解粗面化処理」ともいう。)と、陽極酸化処理とを、この順に施して、平版印刷版用支持体を得ることが好ましい。
【0053】
更に、本発明の平版印刷版用支持体の製造方法においては、上記以外の各種の工程を含んでいてもよい。
具体的には、例えば、アルミニウム板に対して、機械的粗面化処理、第1エッチング処理、酸性水溶液中でのデスマット処理(以下、「第1デスマット処理」ともいう。)、第1電解粗面化処理、第2エッチング処理、酸性水溶液中でのデスマット処理(以下、「第2デスマット処理」ともいう。)、第2電解粗面化処理、アルカリ水溶液中でエッチングを施すアルカリエッチング処理(以下、「第3エッチング処理」ともいう。)、酸性水溶液中でのデスマット処理(以下、「第3デスマット処理」ともいう。)、および陽極酸化処理をこの順に施す方法が好適に挙げられる。
また、上記陽極酸化処理の後に、更に、封孔処理、親水化処理、または、封孔処理およびその後の親水化処理を施す方法も好ましい。
以下、表面処理の各工程について、詳細に説明する。
【0054】
<機械的粗面化処理>
本発明においては、ブラシと研磨剤を含有するスラリー液とを用いて、上述したアルミニウム板の平均表面粗さRaが0.30〜0.43μm、好ましくは0.35〜0.43μmとなるように機械的に粗面化する機械的粗面化処理を施す。
機械的粗面化処理により平均表面粗さRaを上述の範囲にし、その後、後述する第1電解粗面化処理を施すことにより、耐クリーナー性(酸性またはアルカリ性のプレートクリーナー液を洗浄を行った後の耐刷性)を優れたものにすることができる。また、局所的に発生する深い凹部の形成を防ぐことができることから、感度に優れた平版印刷版原版を得ることができる。
【0055】
上記機械的粗面化処理は、1種類または毛径が異なる2種以上のブラシを用いて、研磨剤を含有するスラリー液をアルミニウム板表面に供給しながらブラシ研磨する方法(ブラシグレイン法)であり、具体的には、アルミニウム表面を金属ワイヤーでひっかくワイヤーブラシグレイン法、ナイロンブラシを用いて表面を砂目立てするブラシグレイン法等が好適に例示される。
また、ブラシグレイン法は、一般に、円柱状の胴の表面に、ナイロン(登録商標)、ポリプロピレン、および塩化ビニル樹脂などの合成樹脂からなる合成樹脂毛や、動物毛、スチールワイヤ等のブラシ毛(材)を、ローラ状の台部に均一な毛長および植毛分布をもって植え込んだもの、台部に小穴を開けてブラシ毛束を植込んだもの、チャンネルローラ型のもの等のローラ状ブラシ(ブラシロール)を用い、回転するローラ状ブラシに研磨剤を含有するスラリー液を吹き付けながら、上述したアルミニウム板の表面の一方または両方を擦ることにより行う。
【0056】
ブラシ毛の曲げ弾性率は、10,000〜40,000kgf/cm2であるのが好ましく、15,000〜35,000kgf/cm2であるのがより好ましい。また、ブラシ毛の毛腰の強さは、500gf以下であるのが好ましく、400gf以下であるのがより好ましい。
このような特性を十分に満足するブラシ毛の材質としては、ナイロンが好ましく、具体的には、ナイロン6、ナイロン6・6、ナイロン6・10等を用いることができる。中でも、引っ張り強さ、耐摩耗性、吸水による寸法安定性、曲げ強さ、耐熱性、回復性などの観点からナイロン6・10を用いるのが特に好ましい。
【0057】
このようなナイロン製のブラシは、吸水率が低いものが好ましく、その具体例としては、東レ社製のナイロンブリッスル200T(6,10−ナイロン、軟化点:180℃、融点:212〜214℃、比重:1.08〜1.09、水分率:20℃・相対湿度65%において1.4〜1.8、20℃・相対湿度100%において2.2〜2.8、乾引っ張り強度:4.5〜6g/d、乾引っ張り伸度:20〜35%、沸騰水収縮率:1〜4%、乾引っ張り抵抗度:39〜45g/d、ヤング率(乾):380〜440kg/mm2)が好適に挙げられる。
【0058】
また、ブラシ毛の植毛後の毛長は、10〜200mmであるのが好ましい。なお、ローラ台部に植え込む際の植毛密度は、1cm2当り30〜1000本であるのが好ましく、50〜300本であるのがより好ましい。
また、ブラシと研磨剤を含有するスラリー液とを用いて平均表面粗さRaが0.25〜0.42μmの粗面を得るためには、ブラシ毛の毛径は、0.24〜0.83mmであるのが好ましく、0.26〜0.50mmが特に好ましい。毛径がこの範囲であれば、所望の平均表面粗さが得られ、ブランケット上の耐汚れ性も良好となる。
また、ブラシ毛の断面形状は円形が好ましい。
【0059】
ブラシの本数は、1〜10本であるのが好ましく、1〜6本であるのがより好ましい。
更に、毛径の異なる2種類のブラシを用いることがより好ましい。そのとき、最初に毛径の太いブラシを用いて平均ピッチの大きな凹凸を作り、その後、最初のブラシよりも毛径の細いブラシを用いて、表面の不均一な凹凸の急峻な部分を均すことが特に好ましい。
その場合、毛径の異なるそれぞれのブラシを数本(例えば、2〜3本)ずつ用いることもできる。なお、2種以上のブラシを用いる場合、通常、ブラシグレインにおいて初めに用いるブラシを第1ブラシと呼び、順次第2ブラシ、第3ブラシと呼ぶ。
【0060】
ブラシとしてローラ状ブラシを用いた場合のブラシの回転数は、100〜500rpmの範囲で任意に選ばれるのが好ましい。
ローラ状ブラシの回転方向は、図1にも示すようにアルミニウム板の搬送方向に順転に行うのが好ましいが、ローラ状ブラシが多数本の場合は一部のローラ状ブラシを逆転としてもよい。また、ローラ状ブラシの押し込み量は、ローラ状ブラシの回転駆動モータの負荷で管理するのが好ましく、具体的には、回転駆動モータの消費電力が1.0〜15kwであるのが好ましい。なお、支持ローラはゴムあるいは金属面を有し真直度のよく保たれたものが用いられる。また、アルミニウム板の1000mm幅あたりの張力は、機械的粗面化する工程(研磨材とスラリー液で粗面化処理する工程)の入り口側で200〜600kg、出口側で100〜600kgとすることが好ましい。
【0061】
研磨スラリー液は、特開平6−135175号公報および特公昭50−40047号公報に記載の公知の研磨剤、具体的には、パミストン、ケイ砂、水酸化アルミニウム、アルミナ粉、炭化ケイ素、窒化ケイ素、火山灰、軽石、カーボランダム、金剛砂等の平均粒子径1〜100μm(好ましくは15〜45μm)の研磨剤を、比重1.05〜1.3となるような範囲で水に分散させたものが好ましい。
また、研磨スラリー液には、研磨剤のほかに、増粘剤、分散剤(例えば、界面活性剤)、防腐剤等を含有させることができる。
【0062】
パミストンを用いることは、安価で工業用の研磨剤として用いられているために供給が安定している点で好ましい。
パミストンとしては、以下に示す成分を含有するものを用いることが好ましい。
<パミストン成分>
シリカ(ケイ酸分:SiO2) 70〜80質量%
アルミナ(Al23) 10〜20質量%
酸化鉄(Fe23) 3質量%以下
その他 残り
【0063】
このような研磨スラリー液をアルミニウム板表面に供給する方法としては、例えば、スラリー液を吹き付ける方法が好適に挙げられる。また、特開昭55−74898号公報、同61−162351号公報、同63−104889号公報に記載されている方法を用いてもよい。更に、特表平9−509108号公報に記載されているように、アルミナおよび石英からなる粒子の混合物を95:5〜5:95の範囲の質量比で含んでなる水性スラリー中で、アルミニウム板表面をブラシ研磨する方法を用いることもできる。このときの上記混合物の平均粒子径は、1〜100μm、特に15〜45μmの範囲内であるのが好ましい。
【0064】
本発明においては、ブラシの回転数、ブラシの本数、ブラシの回転方向、ブラシの毛径、ブラシの毛長、ブラシを植え付けるローラ(ブラシローラ)の直径、研磨剤の種類、研磨剤の粒度、研磨剤の比重、研磨剤の流量、ブラシの押さえつける力(押し込み量)、アルミニウム板の移動速度等の条件を適宜調節することによって、機械的粗面化処理後のアルミニウム板の平均表面粗さRaを0.30〜0.43μmにすることができる。
【0065】
これらの条件としては、以下に示す範囲であるのが特に好ましい。
ブラシの回転数:150〜400rpm、
ブラシの本数:1〜3本、
ブラシの回転方向:アルミニウム板の移動方向と同じ、
ブラシの毛径:0.24〜0.5mm
ブラシの毛長:30〜100mm、
ブラシローラの直径:400〜600mm、
研磨剤の種類:水酸化アルミニウム、または、珪砂を分級したもの、または、軽石を粉砕し分級したもの、
研磨剤の粒度:平均粒径15〜45μm、
研磨剤の比重:1.05〜1.18g/cm3
アルミニウム板の移動速度:30〜300m/min
【0066】
このような機械的粗面化処理により生成する凹凸の凸部の数(以下、「凸個数」という。)は、400ミクロン角の面積に500〜1100個であるのが好ましく、600〜1000個であるのがより好ましく、700〜1000個であるのが特に好ましい。
凸個数がこの範囲であると、耐刷性、網点非画像部の耐汚れ性がより良好となり、また、平版印刷版用支持体としたときの面質の均一性、平版印刷版原版としたときの検版性も良好となる。
【0067】
ここで、本発明でいう凸個数は、上記機械的粗面化処理を施した後、以下の処理を施したアルミニウム板を用い、以下のようにして算出される数をいう。
上記機械的粗面化処理を施した後のアルミニウム板に対し、水洗処理、27質量%(アルミニウムイオン6.5質量%含む)70℃の水溶液中で3g/m2溶解させるエッチング処理、水洗処理および酸性水溶液中でのデスマット処理をこの順に施したアルミニウム板を用いる。なお、凸個数の測定に際しては、デスマット処理の後に更に水洗処理したアルミニウム板を用いるのが好ましい。また、このデスマット処理は、酸を用いることが好ましく、例えば、硝酸、硫酸、リン酸、クロム酸、フッ化水素酸、ホウフッ化水素酸等が用いられる。中でも、硫酸または硝酸を用いるのが特に好ましい。更に、このデスマット処理液中の酸の濃度は1−400g/Lであるのが好ましく、温度は20〜60℃であるのが好ましく、処理時間は1〜60秒であるのが好ましい。
このアルミニウム板の400ミクロン角の面積内に存在する表面の凹凸データを、非接触3次元表面粗さ計(マイクロマップ、菱化システム社製)を用いて測定し、更に傾き補正し、中心面から0.8μm高い面でスライスしたときに、その面よりも高い山の数を凸個数として算出した。
【0068】
本発明においては、ブラシの本数、ブラシの回転数、ブラシの回転方向、ブラシの押し込み量、アルミニウム板の張力、研磨剤の種類、研磨剤の粒径、研磨剤の粒度、研磨剤の比重、研磨剤を含むスラリー液の濃度(スラリー液の比重)、スラリー液の流量、スラリー液の温度、アルミニウム板を支持するパスロール間隔、ブラシの毛径、ブラシの毛長、ブラシの毛の密度、ブラシローラの直径、アルミニウム板の移動速度等の条件を適宜調節することによって、所望の凸個数を得ることができる。
【0069】
ここで、ブラシの押し込み量、機械的粗面化処理を施すアルミニウム板の板厚、幅で調整することができる。
ブラシの押し込み量は、ブラシを回転駆動するモーターの負荷で管理するのが好ましい。特に、ブラシを複数本数用いる場合、複数のブラシによる摩耗がほぼ一定となるようにすることが望ましく、例えば、アルミニウム板の移動方向と反対方向に回転するブラシを駆動するモーターの負荷は、アルミニウム板の移動方向と同じ方向に回転するブラシを駆動するモーターの負荷の35〜65%にするのが好ましい。モーターの負荷をこの範囲とすると、両者のブラシによる摩耗の程度が同程度となる。
【0070】
また、アルミニウム板の張力は、第1ブラシの上流側、および、最終ブラシの下流側で管理され、また、機械的粗面化処理を施すアルミニウム板の板厚および幅ならびにアルミニウム板の移動速度により、適宜調整されるのが好ましい。
【0071】
更に、研磨剤は機械的な粗面化処理を行うと摩耗して平均粒径が小さくなるため、サイクロン(分級装置)を用いて小さくなった研磨剤を排出し、排出量に見合った新しい研磨剤と水を補充して、一定範囲内の平均粒径の研磨剤を使用することが好ましい。
【0072】
以上で説明したブラシグレイン法による機械的粗面化処理に適した装置としては、例えば、特開平6−135175号公報、特公昭50−40047号公報に記載された装置を挙げることができる。
図1は、本発明の平版印刷版用支持体の製造方法におけるブラシグレイニングの工程の概念を示す側面図である。
図1に示すように、アルミニウム板1を挟むように、ローラ状ブラシ2および4と、それぞれを支持する2本の支持ローラ5、6および7、8を配置され、2本の支持ローラ5、6および7、8は、外面の最短距離がローラ状ブラシ2および4の外径より小さいものを配置される。アルミニウム板1がローラ状ブラシ2および4により加圧され、2本の支持ローラ5、6および7、8の間に押し入れられる様な状態でアルミニウム板を一定速度で搬送し、研磨スラリー液3をアルミニウム板上に供給してローラ状ブラシを回転させることによりアルミニウム板1の表面がブラシ研磨される。2本の支持ローラ5、6または7、8の間隔(ピッチ)は、350mm〜550mmであることが好ましく、400mm〜500mmであることが特に好ましい。
【0073】
本発明においては、アルミニウム板の平均表面粗さRaの測定方法は、触針式粗さ計(例えば、sufcom575、東京精密社製)で2次元粗さ測定を行い、ISO4287に規定されている平均表面粗さRaを5回測定し、その平均値を平均表面粗さとする。
2次元粗さ測定の条件を以下に示す。
<測定条件>
カットオフ値0.8mm、傾斜補正FLAT−ML、測定長3mm、縦倍率10000倍、走査速度0.3mm/sec、触針先端径2μm
【0074】
<第1エッチング処理>
第1エッチング処理は、上述した機械的粗面化処理が施されたアルミニウム板をアルカリ溶液に接着させることにより、アルミニウム板の表層を溶解する処理である。
本発明では、上記機械的粗面化を施したアルミニウム板に、第1エッチング処理を施すことが好ましい。機械的粗面化処理を行った後に第1エッチング処理を行うと、機械的粗面化処理によってアルミニウム板の表面に生じた研磨剤、アルミニウムの屑、圧延油、汚れ、および自然酸化皮膜等が取り除かれるために、第1電解粗面化処理によって表面により均一な凹凸が形成され、また、第1電解粗面化処理を効果的に達成することができる。
【0075】
第1エッチング処理においては、エッチング量は、0.1g/m2以上であるのが好ましく、0.5g/m2以上であるのがより好ましく、1g/m2以上であるのが更に好ましく、また、10g/m2以下であるのが好ましく、8g/m2以下であるのがより好ましく、6.0g/m2以下であるのが更に好ましい。エッチング量が少なすぎると、第1電解粗面化処理において均一なピット生成ができずムラが発生してしまう場合がある。一方、エッチング量が多すぎると、耐刷性能、耐クリーナー性能が低下する。また、エッチング量が多すぎると、アルカリ水溶液の使用量が多くなり、経済的に不利となる。
【0076】
アルカリ溶液に用いられるアルカリとしては、例えば、カセイアルカリ、アルカリ金属塩が挙げられる。具体的には、カセイアルカリとしては、例えば、カセイソーダ、カセイカリが挙げられる。また、アルカリ金属塩としては、例えば、メタケイ酸ソーダ、ケイ酸ソーダ、メタケイ酸カリ、ケイ酸カリ等のアルカリ金属ケイ酸塩;炭酸ソーダ、炭酸カリ等のアルカリ金属炭酸塩;アルミン酸ソーダ、アルミン酸カリ等のアルカリ金属アルミン酸塩;グルコン酸ソーダ、グルコン酸カリ等のアルカリ金属アルドン酸塩;第二リン酸ソーダ、第二リン酸カリ、第三リン酸ソーダ、第三リン酸カリ等のアルカリ金属リン酸水素塩が挙げられる。中でも、エッチング速度が速い点および安価である点から、カセイアルカリの溶液、および、カセイアルカリとアルカリ金属アルミン酸塩との両者を含有する溶液が好ましい。特に、カセイソーダの水溶液が好ましい。
【0077】
第1エッチング処理においては、アルカリ溶液の濃度は、30g/L以上であるのが好ましく、300g/L以上であるのがより好ましく、また、500g/L以下であるのが好ましく、450g/L以下であるのがより好ましい。
また、アルカリ溶液は、アルミニウムイオンを含有しているのが好ましい。アルミニウムイオン濃度は、1g/L以上であるのが好ましく、50g/L以上であるのがより好ましく、また、200g/L以下であるのが好ましく、150g/L以下であるのがより好ましい。このようなアルカリ溶液は、例えば、水と48質量%カセイソーダ水溶液とアルミン酸ソーダとを用いて調製することができる。
【0078】
第1エッチング処理においては、アルカリ溶液の温度は、30℃以上であるのが好ましく、50℃以上であるのがより好ましく、また、80℃以下であるのが好ましく、75℃以下であるのがより好ましい。
第1エッチング処理においては、処理時間は、1秒以上であるのが好ましく、2秒以上であるのがより好ましく、また、30秒以下であるのが好ましく、15秒以下であるのがより好ましい。
【0079】
アルミニウム板を連続的にエッチング処理していくと、アルカリ溶液中のアルミニウムイオン濃度が上昇していき、アルミニウム板のエッチング量が変動する。そこで、エッチング液の組成管理を、以下のようにして行うのが好ましい。
即ち、カセイソーダ濃度とアルミニウムイオン濃度とのマトリクスに対応する、電導度と比重と温度とのマトリクス、または、電導度と超音波伝搬速度と温度とのマトリクスをあらかじめ作製しておき、電導度と比重と温度、または、電導度と超音波伝搬速度と温度によって液組成を測定し、液組成の制御目標値になるようにカセイソーダと水とを添加する。そして、カセイソーダと水とを添加することによって増加したエッチング液を、循環タンクからオーバーフローさせることにより、その液量を一定に保つ。添加するカセイソーダとしては、工業用の40〜60質量%のものを用いることができる。
電導度計および比重計としては、それぞれ温度補償されているものを用いるのが好ましい。比重計としては、差圧式のものを用いるのが好ましい。
【0080】
アルミニウム板をアルカリ溶液に接触させる方法としては、例えば、アルミニウム板をアルカリ溶液を入れた槽の中を通過させる方法、アルミニウム板をアルカリ溶液を入れた槽の中に浸せきさせる方法、アルカリ溶液をアルミニウム板の表面に噴きかける方法が挙げられる。
【0081】
中でも、アルカリ溶液をアルミニウム板の表面に噴きかける方法が好ましい。具体的には、φ2〜5mmの孔を10〜50mmピッチで有するスプレー管から、スプレー管1本あたり、10〜100L/minの量でエッチング液を吹き付ける方法が好ましい。スプレー管は複数本設けるのが好ましい。
【0082】
アルカリエッチング処理が終了した後は、ニップローラで液切りし、更に、1〜10秒間水洗処理を行った後、ニップローラで液切りするのが好ましい。
水洗処理は、自由落下カーテン状の液膜により水洗処理する装置を用いて水洗し、更に、スプレー管を用いて水洗するのが好ましい。
【0083】
図2は、自由落下カーテン状の液膜により水洗処理する装置の模式的な断面図である。図2に示されているように、自由落下カーテン状の液膜により水洗処理する装置100は、水102を貯留する貯水タンク104と、貯水タンク104に水を供給する給水筒106と、貯水タンク104から自由落下カーテン状の液膜をアルミニウム板1に供給する整流部108とを有する。
装置100においては、給水タンク104に給水筒106から水102が供給され、水102が給水タンク104からオーバーフローする際に、整流部108により整流され、自由落下カーテン状の液膜がアルミニウム板1に供給される。装置100を用いる場合、液量は10〜100L/minであるのが好ましい。また、装置100とアルミニウム1との間の水102が自由落下カーテン状の液膜として存在する距離Lは、20〜50mmであるのが好ましい。また、アルミニウム板の角度αは、水平方向に対して30〜80°であるのが好ましい。
【0084】
図2に示されるような自由落下カーテン状の液膜により水洗処理する装置を用いると、アルミニウム板に均一に水洗処理を施すことができるので、水洗処理の前に行われた処理の均一性を向上させることができる。
自由落下カーテン状の液膜により水洗処理する具体的な装置としては、例えば、特開2003−96584号公報に記載されている装置が好適に挙げられる。
【0085】
また、水洗処理に用いられるスプレー管としては、例えば、扇状に噴射水が広がるスプレーチップをアルミニウム板の幅方向に複数個有するスプレー管を用いることができる。スプレーチップの間隔は20〜100mmであるのが好ましく、また、スプレーチップ1本あたりの液量は0.5〜20L/minであるのが好ましい。スプレー管は複数本用いるのが好ましい。
【0086】
<第1デスマット処理>
第1エッチング処理を行った後、表面に残留する汚れ(スマット)を除去するために酸洗い(第1デスマット処理)を行うのが好ましい。デスマット処理は、アルミニウム板を酸性溶液に接触させることにより行う。
【0087】
用いられる酸としては、例えば、硝酸、硫酸、リン酸、クロム酸、フッ化水素酸、ホウフッ化水素酸が挙げられる。
第1エッチング処理の後に行われる第1デスマット処理においては、引き続き行われる第1電解粗面化処理に用いられる電解液のオーバーフロー廃液を用いるのが好ましい。
【0088】
デスマット処理液の組成管理においては、酸性溶液濃度とアルミニウムイオン濃度とのマトリクスに対応する、電導度と温度で管理する方法、電導度と比重と温度とで管理する方法、および、電導度と超音波の伝搬速度と温度とで管理する方法のいずれかを選択して用いることができる。
【0089】
第1デスマット処理においては、1〜400g/Lの酸および0.1〜5g/Lのアルミニウムイオンを含有する酸性溶液を用いるのが好ましい。濃度10〜100g/L、液温20〜60℃の硝酸を用いることが更に好ましく、12〜20g/L、30〜50℃の硝酸を用いることが特に好ましい。工業的には、第1電気化学的粗面化のオーバーフロー廃液を用いることが特に好ましい。
【0090】
酸性溶液の温度は、20℃以上であるのが好ましく、30℃以上であるのがより好ましく、また、70℃以下であるのが好ましく、60℃以下であるのがより好ましい。
【0091】
第1デスマット処理においては、処理時間は、1秒以上であるのが好ましく、2秒以上であるのがより好ましく、また、60秒以下であるのが好ましく、10秒以下であるのがより好ましい。
【0092】
アルミニウム板を酸性溶液に接触させる方法としては、例えば、アルミニウム板を酸性溶液を入れた槽の中を通過させる方法、アルミニウム板を酸性溶液を入れた槽の中に浸せきさせる方法、酸性溶液をアルミニウム板の表面に噴きかける方法が挙げられる。
中でも、酸性溶液をアルミニウム板の表面に噴きかける方法が好ましい。具体的には、φ2〜5mmの孔を10〜50mmピッチで有するスプレー管から、スプレー管1本あたり、10〜100L/minの量でエッチング液を吹き付ける方法が好ましい。スプレー管は複数本設けるのが好ましい。
【0093】
デスマット処理が終了した後は、ニップローラで液切りし、更に、1〜10秒間水洗処理を行った後、ニップローラで液切りするのが好ましい。
水洗処理は、アルカリエッチング処理の後の水洗処理と同様である。ただし、スプレーチップ1本あたりの液量は1〜20L/minであるのが好ましい。
【0094】
なお、第1デスマット処理において、デスマット処理液として、引き続き行われる第1電解粗面化処理に用いられる電解液のオーバーフロー廃液を用いる場合には、デスマット処理後にニップローラによる液切りおよび水洗処理をおこなわず、アルミニウム板の表面が乾かないように、必要に応じて適宜デスマット処理液をスプレーしながら、第1電解粗面化処理工程までアルミニウム板をハンドリングするのが好ましい。
機械的粗面化処理、第1エッチング処理、第1デスマット処理を終えたアルミニウム板表面の凸部の個数は、400μm角の面積あたりに、500個〜1500個であることが好ましい。前記アルミニウム板の凸部の個数は、非接触型表面粗さ計で表面形状を測定し、中心面から0.7μm高い面を横切る凸部の個数をいう。
【0095】
<第1電解粗面化処理>
第1電解粗面化処理は、後述する第2エッチング処理(化学的エッチング処理)と併せて、上記機械的粗面化処理の後の平均表面粗さRaに対して、平均表面粗さRaを0.10〜0.20μm大きくし、かつ、平均表面粗さRaが0.42〜0.60μmとなる平版印刷版用支持体を得ることができるように、電気化学的に粗面化を施す処理であれば特に限定されない。
本発明においては、第1電解粗面化処理は、硝酸を7.0〜20.0g/L、アルミニウムイオンを4.0〜10.0g/L含有する、液温40〜60℃の水溶液(以下、「第1a電解液」という。)中で交流電流を用いて粗面化を施す電気化学的粗面化処理、または、塩酸を10.0〜20.0g/L、アルミニウムイオンを10.0〜20.0g/L、硫酸を1.0〜5.0g/L含有する、液温30〜40℃の水溶液(以下、「第1b電解液」という。)中で交流電流を用いて粗面化を施す電気化学的粗面化処理であるのが特に好ましい。
【0096】
第1電解粗面化処理は、例えば、特公昭48−28123号公報および英国特許第896,563号明細書に記載されている電気化学的グレイン法(電解グレイン法)に従うことができる。この電解グレイン法は、正弦波形の交流電流を用いるものであるが、特開昭52−58602号公報に記載されているような特殊な波形を用いて行ってもよい。また、特開平3−79799号公報に記載されている波形を用いることもできる。また、特開昭55−158298号、特開昭56−28898号、特開昭52−58602号、特開昭52−152302号、特開昭54−85802号、特開昭60−190392号、特開昭58−120531号、特開昭63−176187号、特開平1−5889号、特開平1−280590号、特開平1−118489号、特開平1−148592号、特開平1−178496号、特開平1−188315号、特開平1−154797号、特開平2−235794号、特開平3−260100号、特開平3−253600号、特開平4−72079号、特開平4−72098号、特開平3−267400号、特開平1−141094号の各公報に記載されている方法も適用できる。また、前述のほかに、電解コンデンサーの製造方法として提案されている特殊な周波数の交番電流を用いて電解することも可能である。例えば、米国特許第4,276,129号明細書および同第4,676,879号明細書に記載されている。
【0097】
電解槽および電源については、種々提案されているが、米国特許第4,203,637号明細書、特開昭56−123400号、特開昭57−59770号、特開昭53−12738号、特開昭53−32821号、特開昭53−32822号、特開昭53−32823号、特開昭55−122896号、特開昭55−132884号、特開昭62−127500号、特開平1−52100号、特開平1−52098号、特開昭60−67700号、特開平1−230800号、特開平3−257199号の各公報等に記載されているものを用いることができる。
また、特開昭52−58602号、特開昭52−152302号、特開昭53−12738号、特開昭53−12739号、特開昭53−32821号、特開昭53−32822号、特開昭53−32833号、特開昭53−32824号、特開昭53−32825号、特開昭54−85802号、特開昭55−122896号、特開昭55−132884号、特公昭48−28123号、特公昭51−7081号、特開昭52−133838号、特開昭52−133840号号、特開昭52−133844号、特開昭52−133845号、特開昭53−149135号、特開昭54−146234号の各公報等に記載されているもの等も用いることができる。
【0098】
(第1a電解液中での電気化学的粗面化処理)
第1a電解液中での電気化学的粗面化処理は、硝酸を7.0〜20.0g/L、アルミニウムイオンを4.0〜10.0g/L含有する、液温40〜60℃の水溶液中で交流電流を用いて粗面化を施す電気化学的粗面化処理である。
【0099】
第1a電解液の硝酸濃度は、7.0〜20.0g/Lであり、12.0〜18.0g/Lであるのが好ましく、13.0〜17.0g/Lであるのがより好ましい。硝酸濃度が、7.0g/L未満だと充分なRaと均一な粗面化形状が得られず、20.0g/Lを超えると処理ムラが発生しやすい。硝酸濃度を上記範囲としてその後に第2エッチング処理を行うと、電気量が比較的低い場合にも、第2エッチング処理後のアルミニウム板の平均表面粗さRaを、平版印刷版用支持体として好適な値とすることができる。
また、第1a電解液のアルミニウムイオン濃度は、4.0〜10.0g/Lであり、5.0〜9.5g/Lであるのが好ましく、6.0〜8.5g/Lであるのがより好ましい。アルミニウムイオン濃度が4.0g/L未満だと、アルミニウムイオンの量を一定に制御するための廃液量が増えて工業的に好ましくない。アルミニウムイオン濃度が10g/Lを超えると、アルミニウムイオン濃度を一定にするための廃液量が少なくなり、液の蒸発や、アルミニウムウェブによる電解液の持ち出しや、アルミニウムウェブによる前工程からの水の持ち込みによって液組成や液面レベルを一定に制御することが難しくなる。アルミニウムイオン濃度は、例えば、硝酸アルミニウム(9水塩)を添加して調整することができる。
【0100】
本発明で、好ましいアルミニウムイオン濃度と硝酸濃度の比率、アルミニウムイオン濃度/硝酸濃度は、0.10以上、0.80未満であることが好ましく、0.3以上、0.70未満であることが特に好ましい。硝酸濃度に対してアルミニウムイオン濃度の比率が高くなると、水酸化アルミニウムがアルミニウム板表面やパスロール表面に析出しやすくなり、その析出物がアルミニウム板表面に付着した結果、均一な電気化学的粗面化が行われにくくなり、外観故障が出やすくなる。また硝酸濃度に対して、アルミニウムイオンの比率が低いと、アルミニウムイオン濃度を一定にするための廃液に占める硝酸の割合が多くなり、硝酸の使用量が増えて好ましくない。
アルミニウム板と電解液の平均相対流速は、1.0〜5.0m/secが好ましい。
また、第1a電解液は、10〜150mg/Lのアンモニウムイオンを含有していることが好ましい。
また、第1a電解液は、硝酸アルミニウム、硝酸ナトリウム、硝酸アンモニウム等の硝酸イオンを有する硝酸化合物の少なくとも一つを1g/Lから飽和するまでの範囲で添加して使用することができる。また、第1a電解液には、鉄、銅、マンガン、ニッケル、チタン、マグネシウム、シリカ等のアルミニウム合金中に含まれる金属が溶解していてもよい。
【0101】
アルミニウム板を連続的に電解粗面化処理していくと、アルカリ溶液中のアルミニウムイオン濃度が上昇していき、第1電解粗面化処理により形成されるアルミニウム板の凹凸の形状が変動する。そこで、第1a電解液の組成管理を、以下のようにして行うのが好ましい。
即ち、硝酸濃度とアルミニウムイオン濃度とのマトリクスに対応する、電導度と比重と温度とのマトリクス、または、電導度と超音波伝搬速度と温度とのマトリクスをあらかじめ作製しておき、電導度と比重と温度、または、電導度と超音波伝搬速度と温度によって液組成を測定し、液組成の制御目標値になるように硝酸と水とを添加する。そして、硝酸と水とを添加することによって増加した第1a電解液を、循環タンクからオーバーフローさせることにより、その液量を一定に保つ。添加する硝酸としては、工業用の30〜70質量%のものを用いることができる。
電導度計および比重計としては、それぞれ温度補償されているものを用いるのが好ましい。比重計としては、差圧式のものを用いるのが好ましい。
液組成の測定に用いるために第1a電解液から採取されたサンプルは、第1a電解液とは別の熱交換機を用いて、一定温度(例えば、40±0.5℃)に制御した後に、測定に用いるのが、測定の精度が高くなる点で好ましい。
【0102】
更に、Cuと錯体を形成しうる化合物を添加して使用することによりCuを多く含有するアルミニウム板に対しても均一な砂目立てが可能になる。Cuと錯体を形成しうる化合物としては、例えば、アンモニア;メチルアミン、エチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、トリメチルアミン、シクロヘキシルアミン、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、EDTA(エチレンジアミン四酢酸)等のアンモニアの水素原子を炭化水素基(脂肪族、芳香族等)等で置換して得られるアミン類;炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム等の金属炭酸塩類が挙げられる。また、硝酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、炭酸アンモニウム等のアンモニウム塩も挙げられる。
【0103】
第1a電解液の液温は、40〜60℃が好ましく、45〜55℃がより好ましい。液温が40℃未満であると、充分な表面粗さRaが得られず、60℃を超えると設備の熱変形が大きく、設備の耐久性が劣る。
【0104】
第1a電解液中での電気化学的粗面化処理を上記機械的粗面化処理の後に施すことにより、平均開口径1〜10μmのピットをアルミニウム板の表面に形成させることができ、その結果、耐刷性、耐クリーナー性および耐汚れ性が優れたものになる。
また、アルミニウム板がCuを比較的多く含有している場合は、この電気化学的粗面化処理で、アルミニウム板の表面に、比較的大きく、かつ、均一な凹部(ピット)が形成される。その結果、得られる平版印刷版用支持体を用いた平版印刷版は、耐刷性が優れたものになる。
【0105】
(第1b電解液中での電気化学的粗面化処理)
第1b電解液中での電気化学的粗面化処理は、塩酸を10.0〜20.0g/L、アルミニウムイオンを10.0〜20.0g/L、硫酸を1.0〜5.0g/L含有する、液温30〜40℃の水溶液中で交流電流を用いて粗面化を施す電気化学的粗面化処理である。
【0106】
第1b電解液の塩酸濃度は、10.0〜20.0g/Lであり、13.0〜17.0g/Lであるのが好ましい。塩酸濃度が、10.0g/L未満だと充分なRaと均一な粗面化形状が得られず、20.0g/Lを超えると処理ムラが発生しやすい。塩酸濃度を上記範囲としてその後に第2エッチング処理を行うと、電気量が比較的低い場合にも、第2エッチング処理後のアルミニウム板の平均表面粗さRaを、平版印刷版用支持体として好適な値とすることができる。
また、第1b電解液のアルミニウムイオン濃度は、10.0〜20.0g/Lであり、10.0〜14.0g/Lであるのが好ましい。アルミニウムイオン濃度が10.0g/L未満だと、アルミニウムイオンの量を一定に制御するための廃液量が増えて工業的に好ましくない。アルミニウムイオン濃度が20.0g/Lを超えると、アルミニウムイオン濃度を一定にするための廃液量が少なくなり、液の蒸発や、アルミニウムウェブによる電解液の持ち出しや、アルミニウムウェブによる前工程からの水の持ち込みによって液組成や液面レベルを一定に制御することが難しくなる。アルミニウムイオン濃度は、例えば、塩化アルミニウムを添加して調整することができる。
【0107】
本発明で、好ましいアルミニウムイオン濃度と塩酸濃度の比率、アルミニウムイオン濃度/塩酸濃度は、0.10以上、1.50未満であることが好ましく、0.5以上、1.10未満であることが特に好ましい。塩酸濃度に対してアルミニウムイオン濃度の比率が高くなると、水酸化アルミニウムがアルミニウム板表面やパスロール表面に析出しやすくなり、その析出物がアルミニウム板表面に付着した結果、均一な電気化学的粗面化が行われにくくなり、外観故障が出やすくなる。また塩酸濃度に対して、アルミニウムイオンの比率が低いと、アルミニウムイオン濃度を一定にするための廃液に占める塩酸の割合が多くなり、塩酸の使用量が増えて好ましくない。
アルミニウム板と電解液の平均相対流速は、1.0〜5.0m/secが好ましい。
また、第1b電解液は、10〜150mg/Lのアンモニウムイオンを含有していることが好ましい。
また、第1b電解液は、塩化アルミニウム、塩化ナトリウム、塩化アンモニウム等の塩酸イオンを有する塩素化合物の少なくとも一つを1g/Lから飽和するまでの範囲で添加して使用することができる。また、第1b電解液には、鉄、銅、マンガン、ニッケル、チタン、マグネシウム、シリカ等のアルミニウム合金中に含まれる金属が溶解していてもよい。
【0108】
アルミニウム板を連続的に電解粗面化処理していくと、アルカリ溶液中のアルミニウムイオン濃度が上昇していき、第1電解粗面化処理により形成されるアルミニウム板の凹凸の形状が変動する。そこで、第1b電解液の組成管理を、以下のようにして行うのが好ましい。
即ち、塩酸濃度とアルミニウムイオン濃度とのマトリクスに対応する、電導度と比重と温度とのマトリクス、または、電導度と超音波伝搬速度と温度とのマトリクスをあらかじめ作製しておき、電導度と比重と温度、または、電導度と超音波伝搬速度と温度によって液組成を測定し、液組成の制御目標値になるように塩酸と水とを添加する。そして、塩酸と水とを添加することによって増加した第1b電解液を、循環タンクからオーバーフローさせることにより、その液量を一定に保つ。添加する塩酸としては、工業用の10〜40質量%のものを用いることができる。補給する水の中には、予め電解液中に含まれる所望の濃度の硫酸を添加しておくことが特に好ましい。
電導度計および比重計としては、それぞれ温度補償されているものを用いるのが好ましい。比重計としては、差圧式のものを用いるのが好ましい。
液組成の測定に用いるために第1b電解液から採取されたサンプルは、第1b電解液とは別の熱交換機を用いて、一定温度(例えば、40±0.5℃)に制御した後に、測定に用いるのが、測定の精度が高くなる点で好ましい。
【0109】
更に、Cuと錯体を形成しうる化合物を添加して使用することによりCuを多く含有するアルミニウム板に対しても均一な砂目立てが可能になる。Cuと錯体を形成しうる化合物としては、例えば、アンモニア;メチルアミン、エチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、トリメチルアミン、シクロヘキシルアミン、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、EDTA(エチレンジアミン四酢酸)等のアンモニアの水素原子を炭化水素基(脂肪族、芳香族等)等で置換して得られるアミン類;炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム等の金属炭酸塩類が挙げられる。また、硝酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、炭酸アンモニウム等のアンモニウム塩も挙げられる。
【0110】
第1b電解液の液温は、25〜40℃が好ましく、30〜38℃がより好ましい。液温が25℃未満であると、電解液の冷却コストが嵩んで不経済であり、40℃を超えると設備の熱変形が大きく、設備の耐久性が劣る。
【0111】
第1b電解液中での電気化学的粗面化処理を上記機械的粗面化処理の後に施すことにより、平均開口径0.051〜0.3μmのピットが重畳した、平均開口径3〜15μmのクレーター状のピットをアルミニウム板の表面に形成させることができ、その結果、耐刷性、耐クリーナー性および耐汚れ性が優れたものになる。
また、アルミニウム板がCuを比較的多く含有している場合は、この電気化学的粗面化処理で、アルミニウム板の表面に、比較的大きく、かつ、均一な凹部(ピット)が形成される。その結果、得られる平版印刷版用支持体を用いた平版印刷版は、耐刷性が優れたものになる。
【0112】
第1電解粗面化処理に用いられる交流電流の波形は、特に限定されず、正弦波、矩形波、台形波、三角波等が用いられるが、正弦波または台形波が好ましく、台形波が特に好ましい。台形波とは、図3に示したものをいう。この台形波において電流がゼロからピークに達するまでの時間(TP)は0.5〜3msecであるのが好ましい。TPが3msecを超えると、特に硝酸を含有する水溶液を用いると、電解処理で自然発生的に増加するアンモニウムイオン等に代表される電解液中の微量成分の影響を受けやすくなり、均一な砂目立てが行われにくくなる。その結果、平版印刷版としたときの耐汚れ性が低下する傾向にある。
【0113】
第1電解粗面化処理における電流密度は、主電解層での平均電流密度で10〜300A/dm2であるのが好ましく、15〜200A/dm2であるのがより好ましく、20〜125A/dm2であるのがさらに好ましい。上記範囲である場合には、生産性がより優れたものとなり、また、電圧が高くならず、電源容量が大きすぎないために、電源コストを低くすることができる。
本発明で言う平均電流密度とは、主極と対向するアルミニウム板と主極の間に流れる交流電流の平均値電流値を処理面積で割ったものをいう。
【0114】
また、用いることができる台形波のdutyは0.33〜0.67であることが好ましいが、特開平5−195300号公報に記載されているように、アルミニウムにコンダクタロールを用いない間接給電方式においては、dutyが0.5である台形波を用いることがより好ましい。なお、dutyとは、1周期のうちアルミニウム板がアノード反応している時間を、1周期の時間で割った値をいう。
また、用いることができる台形波の周波数は0.1〜120Hzであることが好ましいが、設備上50〜70Hzの台形波を用いることがより好ましい。50Hzよりも低いと、主極のカーボン電極が溶解しやすくなり、また、70Hzよりも高いと、電源回路上のインダクタンス成分の影響を受けやすくなり、電源コストが高くなる。
【0115】
電解槽には1個以上の交流電源を接続することができる。主極に対向するアルミニウム板に加わる交流の陽極と陰極との電流比をコントロールし、均一な砂目立てを行うことと、主極のカーボンを溶解することとを目的として、図4に示したように、補助陽極を設置し、交流電流の一部を分流させることが好ましい。図4において、11はアルミニウム板であり、12はラジアルドラムローラであり、13aおよび13bは主極であり、14は電解処理液であり、15は電解液供給口であり、16はスリットであり、17は電解液通路であり、18は補助陽極であり、19aおよび19bはサイリスタであり、20は交流電源であり、40は主電解槽であり、50は補助陽極槽である。整流素子またはスイッチング素子を介して電流値の一部を二つの主電極とは別の槽に設けた補助陽極に直流電流として分流させることにより、主極に対向するアルミニウム板上で作用するアノード反応にあずかる電流値と、カソード反応にあずかる電流値との比を制御することができる。
主極に対向するアルミニウム板上では、陽極反応と陰極反応とにあずかる電気量の比r(陰極時電気量/陽極時電気量。以下、電流比ともいう。)が、0.3〜1.0であるのが好ましく、0.92〜0.98であるのがより好ましい。
【0116】
電解槽は、縦型、フラット型、ラジアル型等の公知の表面処理に用いる電解槽が使用可能であるが、特開平5−195300号公報に記載されているようなラジアル型電解槽が特に好ましい。電解槽内を通過する電解液は、アルミニウムウェブの進行方向に対してパラレルであってもカウンターであってもよい。
【0117】
第1電解粗面化処理により、平均開口径1〜15μmのピットを形成することができる。ただし、電気量を比較的多くしたときは、電解反応が集中し、10μmを超えるハニカムピットも生成する。
このような砂目を得るためには、電解反応が終了した時点でのアルミニウム板の陽極時の電気量の総和が、50〜800C/dm2であるのが好ましく、第1a電解液中での電気化学的粗面化処理では100〜250C/dm2、第1b電解液中での電気化学的粗面化処理では300〜600C/dm2であるのがより好ましい。
第1b電解液中での電気化学的粗面化処理は、比較的大きな平均表面粗さRaを得やすいが、その前に機械的な粗面化処理を施すことでピッティング反応の起点ができて、本発明のような不純物が比較的多く含まれるアルミニウム圧延板でも、耐刷性能と耐汚れ性能に優れたより均一な粗面を得ることが可能になる。機械的な粗面化処理としては、上述した機械的粗面化処理が挙げられる。
【0118】
第1電解粗面化処理が終了した後は、ニップローラで液切りし、更に、1〜10秒間水洗処理を行った後、ニップローラで液切りするのが好ましい。
水洗処理は、スプレー管を用いて水洗するのが好ましい。水洗処理に用いられるスプレー管としては、例えば、扇状に噴射水が広がるスプレーチップをアルミニウム板の幅方向に複数個有するスプレー管を用いることができる。スプレーチップの間隔は20〜100mmであるのが好ましく、また、スプレーチップ1本あたりの液量は1〜20L/minであるのが好ましい。スプレー管は複数本用いるのが好ましい。
【0119】
また、電源装置としては、例えば、商用交流を用いたもの、インバータ制御電源等を用いることができる。中でも、IGBT(Insulted Gate Bipolar Transistor)素子を用いたインバータ制御電源が、PWM(Pulse Width Moduration)制御により任意の波形を発生でき、アルミニウム板の幅および厚さ、電解液中の各成分の濃度の変動等に対して電圧を変動させて、電流値(アルミニウム板の電流密度)を一定に制御する際に、追従性に優れる点で好ましい。
【0120】
<第2エッチング処理>
第2エッチング処理は、第1電解粗面化処理が施されたアルミニウム板をアルカリ溶液または酸溶液に接着させることにより、アルミニウム板の表層を溶解する化学的エッチング処理であるが、第1エッチング処理と同様であって溶解効率にも優れる、アルカリ溶液を用いたアルカリエッチング処理であるのが好ましい。
【0121】
第2エッチング処理においては、アルミニウム板の溶解量(エッチング量)が0.1〜7.0g/m2であることが好ましく、2.5〜6.0g/m2であることがより好ましい。0.05g/m2未満だと、第1電解粗面化処理で生成したピットのエッジ部分が滑らかとならず、インキがひっかかりやすくなるため、充分な耐汚れ性能が得られず、7.0g/m2を超えると、第1電解粗面化処理で生成した凹凸が小さくなるため、充分な耐刷力が得られない。
第2エッチング処理は、第1電解粗面化処理が施されたアルミニウム板をアルカリ溶液に接触させることにより、第1電解粗面化処理で生成したスマットを溶解させること、および、第1電解粗面化処理により形成されたピットのエッジ部分を溶解させることを目的として行われる。第2エッチング処理は、基本的に第1エッチング処理と同様であるので、異なる点のみ以下に説明する。
【0122】
第2エッチング処理においては、アルカリ溶液の濃度は、30g/L以上であるのが好ましく、300g/L以上であるのがより好ましく、また、500g/L以下であるのが好ましく、450g/L以下であるのがより好ましい。
また、アルカリ溶液は、アルミニウムイオンを含有しているのが好ましい。アルミニウムイオン濃度は、1g/L以上であるのが好ましく、50g/L以上であるのがより好ましく、また、200g/L以下であるのが好ましく、150g/L以下であるのがより好ましい。このようなアルカリ溶液は、例えば、水と48質量%カセイソーダ水溶液とアルミン酸ソーダとを用いて調製することができる。
【0123】
第2エッチング処理においては、アルカリ溶液の温度は、30℃以上であるのが好ましく、35℃以上であるのがより好ましく、また、60℃以下であるのが好ましく、50℃以下であるのがより好ましい。
【0124】
第2エッチング処理においては、処理時間は、1秒以上であるのが好ましく、2秒以上であるのがより好ましく、また、30秒以下であるのが好ましく、10秒以下であるのがより好ましい。
【0125】
上記機械的粗面化処理の後に、第1電解粗面化処理および第2エッチング処理を施すことにより、上記機械的粗面化処理の後の平均表面粗さRaに対して、平均表面粗さRaが0.10〜0.20μm大きくなり、かつ、平均表面粗さRaが0.42〜0.60μmとなる平版印刷版用支持体を得ることができ、その結果、耐刷性、耐クリーナー性および耐汚れ性が優れたものになる。
これは、第1電解粗面化処理および第2エッチング処理で平均表面粗さRaを補完するため、機械的粗面化処理でRaが稼げないようなアルミニウム板でもRaを高くすることが可能となるためである。
【0126】
<第2デスマット処理>
第2エッチング処理を行った後、表面に残留する汚れ(スマット)を除去するために酸洗い(第2デスマット処理)を行うのが好ましい。第2デスマット処理は、基本的に第1デスマット処理と同様であるので、異なる点のみ以下に説明する。
第2デスマット処理においては、硝酸または硫酸を用いるのが好ましい。
第2デスマット処理においては、1〜400g/Lの酸および0.5〜8g/Lのアルミニウムイオンを含有する酸性溶液を用いるのが好ましい。
第2デスマット処理においては、処理時間は、1秒以上であるのが好ましく、4秒以上であるのがより好ましく、また、60秒以下であるのが好ましく、20秒以下であるのがより好ましい。
【0127】
<第2電解粗面化処理>
上記第2エッチング処理が行われた後には、第2電解粗面化処理を行うことが好ましい。
第2電解粗面化処理は、塩酸を含有する水溶液(以下、「第2電解液」という。)中での交流電流を用いた電気化学的粗面化処理である。第2電解粗面化処理を施すことで、平均開口径0.05〜0.5μmのピットを有する凹凸構造をアルミニウム板の表面に形成させることができる。その結果、耐クリーナー性がより優れたものになる。
【0128】
第2電解粗面化処理は、電解液が異なるほかは、上述した第1電解粗面化処理とほぼ同様の方法で行うことができる。以下、異なる点のみ説明する。
【0129】
第2電解液は、濃度1〜100g/Lの塩酸の水溶液に、塩化アルミニウム、塩化ナトリウム、塩化アンモニウム等の塩酸イオンを有する塩酸化合物の少なくとも一つを1g/Lから飽和するまでの範囲で添加して使用することができる。また、第2電解液には、鉄、銅、マンガン、ニッケル、チタン、マグネシウム、シリカ等のアルミニウム合金中に含まれる金属が溶解していてもよい。
具体的には、塩酸濃度2〜10g/Lの硝酸水溶液に、塩化アルミニウムを溶解させてアルミニウムイオン濃度を3〜7g/Lとなるように調整した液が好ましい。
【0130】
第2電解液の温度は、25℃以上であるのが好ましく、30℃以上であるのがより好ましく、また、55℃以下であるのが好ましく、40℃以下であるのがより好ましい。
【0131】
塩酸はそれ自身のアルミニウム溶解力が強いため、わずかな電解を加えるだけで表面に微細な凹凸を形成させることが可能である。この微細な凹凸は、平均開口径が0.01〜0.2μmであり、アルミニウム板の表面の全面に均一に生成する。このような砂目を得るためには、電解反応が終了した時点でのアルミニウム板のアノード反応にあずかる電気量の総和が、10C/dm2以上であるのが好ましく、50C/dm2以上であるのがより好ましく、また、100C/dm2以下であるのが好ましく、80C/dm2以下であるのがより好ましい。
【0132】
第2電解粗面化処理における電流密度は、主電解層での主極と対向するアルミニウム板表面における平均電流密度で、10〜300A/dm2であるのが好ましく、15〜200A/dm2であるのがより好ましく、20〜125A/dm2であるのがさらに好ましい。上記範囲である場合には、生産性がより優れたものとなり、また、電圧が高くならず、電源容量が大きすぎないために、電源コストを低くすることができる。
電気量が上記範囲であるために、第2電気化学的粗面化で溶出するアルミニウム量は少なく、第2電気化学的粗面化後のアルミニウム板表面の平均表面粗さRaは、第2エッチング処理後とほぼ同じである。また、後述する陽極酸化処理を行っても、アルミニウム板表面の平均表面粗さRaは第2エッチング処理後とほぼ同じである。
【0133】
また、第2電解粗面化処理に用いられる交流電流の波形は、特に限定されず、正弦波、矩形波、台形波、三角波等が用いられるが、矩形波または台形波が好ましく、台形波がよりに好ましい。用いられる台形波のTPは、0.5〜3msecであるのが好ましく、0.6〜1.5msecであるのがより好ましい。
【0134】
アルミニウム板を連続的に電解粗面化処理していくと、アルカリ溶液中のアルミニウムイオン濃度が上昇していき、第2電解粗面化処理により形成されるアルミニウム板の凹凸の形状が変動する。そこで、塩酸電解液の組成管理を、以下のようにして行うのが好ましい。
即ち、塩酸濃度とアルミニウムイオン濃度とのマトリクスに対応する、電導度と比重と温度とのマトリクス、または、電導度と超音波伝搬速度と温度とのマトリクスをあらかじめ作製しておき、電導度と比重と温度、または、電導度と超音波伝搬速度と温度によって液組成を測定し、液組成の制御目標値になるように塩酸と水とを添加する。そして、塩酸と水とを添加することによって増加した電解液を、循環タンクからオーバーフローさせることにより、その液量を一定に保つ。添加する塩酸としては、工業用の10〜40質量%のものを用いることができる。
電導度計および比重計としては、それぞれ温度補償されているものを用いるのが好ましい。比重計としては、差圧式のものを用いるのが好ましい。
液組成の測定に用いるために電解液から採取されたサンプルは、電解液とは別の熱交換機を用いて、一定温度(例えば、35±0.5℃)に制御した後に、測定に用いるのが、測定の精度が高くなる点で好ましい。
【0135】
<第3アルカリエッチング処理>
第2電解粗面化処理の後には第3アルカリエッチング処理が行われることが好ましい。
第3アルカリエッチング処理は、第2電解粗面化処理が施されたアルミニウム板をアルカリ溶液に接触させることにより、第2電解粗面化処理で生成したスマットを溶解させること、および、第2電解粗面化処理により形成されたピットのエッジ部分を溶解させることを目的として行われる。第3アルカリエッチング処理は、基本的に第1エッチング処理と同様であるので、異なる点のみ以下に説明する。
【0136】
第3アルカリエッチング処理においては、エッチング量は、0.01g/m2以上であるのが好ましく、0.05g/m2以上であるのがより好ましく、また、0.3g/m2以下であるのが好ましく、0.25g/m2以下であるのがより好ましい。エッチング量が少なすぎると、平版印刷版の非画像部において、第2電解粗面化処理で生成したピットのエッジ部分が滑らかとならず、インキがひっかかりやすくなるため、耐汚れ性が悪くなる場合がある。一方、エッチング量が多すぎると、第1電解粗面化処理および第2電解粗面化処理で生成した凹凸が小さくなるため、耐刷性が悪くなる場合がある。
【0137】
第3アルカリエッチング処理においては、アルカリ溶液の濃度は、30g/L以上であるのが好ましく、また、前段の第2電解粗面化処理によって生じた凹凸を小さくしすぎないようにするため、100g/L以下であるのが好ましく、70g/L以下であるのがより好ましい。
また、アルカリ溶液は、アルミニウムイオンを含有しているのが好ましい。アルミニウムイオン濃度は、1g/L以上であるのが好ましく、3g/L以上であるのがより好ましく、また、50g/L以下であるのが好ましく、8g/L以下であるのがより好ましい。このようなアルカリ溶液は、例えば、水と48質量%カセイソーダ水溶液とアルミン酸ソーダとを用いて調製することができる。
【0138】
第3アルカリエッチング処理においては、アルカリ溶液の温度は、25℃以上であるのが好ましく、30℃以上であるのがより好ましく、また、60℃以下であるのが好ましく、50℃以下であるのがより好ましい。
【0139】
第3アルカリエッチング処理においては、処理時間は、1秒以上であるのが好ましく、2秒以上であるのがより好ましく、また、30秒以下であるのが好ましく、10秒以下であるのがより好ましい。
【0140】
<第3デスマット処理>
第3アルカリエッチング処理を行った後、表面に残留する汚れ(スマット)を除去するために酸洗い(第3デスマット処理)を行うのが好ましい。第3デスマット処理は、基本的に第1デスマット処理と同様であるので、異なる点のみ以下に説明する。
第3デスマット処理においては、引き続き行われる陽極酸化処理に用いられる電解液(例えば、硫酸)と同じ種類の液を用いるのが、第3デスマット処理と陽極酸化処理との間の水洗工程を省略することができる点で好ましい。
第3デスマット処理においては、5〜400g/Lの酸および0.5〜8g/Lのアルミニウムイオンを含有する酸性溶液を用いるのが好ましい。
第3デスマット処理においては、処理時間は、1秒以上であるのが好ましく、2秒以上であるのがより好ましく、また、60秒以下であるのが好ましく、15秒以下であるのがより好ましい。
第3デスマット処理において、デスマット処理液として、引き続き行われる陽極酸化処理に用いられる電解液と同じ種類の液を用いる場合には、デスマット処理後にニップローラによる液切りおよび水洗処理を省略することができる。
【0141】
<陽極酸化処理>
以上のように処理されたアルミニウム板には、更に、陽極酸化処理が施されることが好ましい。陽極酸化処理はこの分野で従来行われている方法で行うことができる。この場合、例えば、硫酸濃度50〜300g/Lで、アルミニウム濃度5質量%以下の溶液中で、アルミニウム板を陽極として通電して陽極酸化皮膜を形成させることができる。陽極酸化処理に用いられる溶液としては、硫酸、リン酸、クロム酸、シュウ酸、スルファミン酸、ベンゼンスルホン酸、アミドスルホン酸等を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0142】
この際、少なくともアルミニウム板、電極、水道水、地下水等に通常含まれる成分が電解液中に含まれていても構わない。更には、第2、第3の成分が添加されていても構わない。ここでいう第2、第3の成分としては、例えば、Na、K、Mg、Li、Ca、Ti、Al、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn等の金属のイオン;アンモニウムイオン等の陽イオン;硝酸イオン、炭酸イオン、塩化物イオン、リン酸イオン、フッ化物イオン、亜硫酸イオン、チタン酸イオン、ケイ酸イオン、ホウ酸イオン等の陰イオンが挙げられ、0〜10000ppm程度の濃度で含まれていてもよい。
【0143】
陽極酸化処理の条件は、使用される電解液によって種々変化するので一概に決定され得ないが、一般的には電解液濃度1〜80質量%、液温5〜70℃、電流密度0.5〜60A/dm2、電圧1〜100V、電解時間15秒〜50分であるのが適当であり、所望の陽極酸化皮膜量となるように調整される。
【0144】
また、特開昭54−81133号、特開昭57−47894号、特開昭57−51289号、特開昭57−51290号、特開昭57−54300号、特開昭57−136596号、特開昭58−107498号、特開昭60−200256号、特開昭62−136596号、特開昭63−176494号、特開平4−176897号、特開平4−280997号、特開平6−207299号、特開平5−24377号、特開平5−32083号、特開平5−125597号、特開平5−195291号の各公報等に記載されている方法を使用することもできる。
【0145】
中でも、特開昭54−12853号公報および特開昭48−45303号公報に記載されているように、電解液として硫酸溶液を用いるのが好ましい。電解液中の硫酸濃度は、10〜300g/L(1〜30質量%)であるのが好ましく、50〜200g/L(5〜20質量%)であるのがより好ましく、また、アルミニウムイオン濃度は、1〜25g/L(0.1〜2.5質量%)であるのが好ましく、2〜10g/L(0.2〜1質量%)であるのがより好ましい。このような電解液は、例えば、硫酸濃度が50〜200g/Lである希硫酸に硫酸アルミニウム等を添加することにより調製することができる。
【0146】
電解液の組成管理は、上述した第1電解粗面化処理等の場合と同様の方法を用いて、硫酸濃度とアルミニウムイオン濃度とのマトリクスに対応する、電導度と比重と温度、または、電導度と超音波伝搬速度と温度により管理するのが好ましい。
【0147】
電解液の液温は、25〜55℃であるのが好ましく、30〜50℃であるのがより好ましい。
【0148】
硫酸を含有する電解液中で陽極酸化処理を行う場合には、アルミニウム板と対極との間に直流を印加してもよく、交流を印加してもよい。
アルミニウム板に直流を印加する場合においては、電流密度は、1〜60A/dm2であるのが好ましく、5〜40A/dm2であるのがより好ましい。
連続的に陽極酸化処理を行う場合には、アルミニウム板の一部に電流が集中していわゆる「焼け」(皮膜が周囲より厚くなる部分)が生じないように、陽極酸化処理の開始当初は、5〜10A/m2の低電流密度で電流を流し、陽極酸化処理が進行するにつれ、30〜50A/dm2またはそれ以上に電流密度を増加させるのが好ましい。
具体的には、直流電源の電流配分を、下流側の直流電源の電流が上流側の直流電源の電流以上にするのが好ましい。このような電流配分とすることにより、いわゆる焼けが生じにくくなり、その結果、高速での陽極酸化処理が可能となる。
【0149】
連続的に陽極酸化処理を行う場合には、アルミニウム板に、電解液を介して給電する液給電方式により行うのが好ましい。
このような条件で陽極酸化処理を行うことによりポア(マイクロポア)と呼ばれる孔を多数有する多孔質皮膜が得られるが、通常、その平均ポア径は5〜50nm程度であり、平均ポア密度は300〜800個/μm2程度である。
【0150】
陽極酸化皮膜の量は1〜5g/m2あるのが好ましい。1g/m2未満であると版に傷が入りやすくなり、一方、5g/m2を超えると製造に多大な電力が必要となり、経済的に不利となる。陽極酸化皮膜の量は、1.5〜4g/m2であるのがより好ましい。また、アルミニウム板の中央部と縁部近傍との間の陽極酸化皮膜量の差が1g/m2以下になるように行うのが好ましい。
【0151】
陽極酸化処理に用いられる電解装置としては、特開昭48−26638号、特開昭47−18739号、特公昭58−24517号、特開2001−11698号の各公報等に記載されているものを用いることができる。
中でも、図5に示す装置が好適に用いられる。図5は、アルミニウム板の表面を陽極酸化処理する装置の一例を示す概略図である。
【0152】
図5に示される陽極酸化処理装置410では、アルミニウム板416に電解液を経由して通電するために、アルミニウム板416の進行方向の上流側に給電槽412、下流側に陽極酸化処理槽414を設置してある。アルミニウム板416は、パスローラ422および428により、図5中矢印で示すように搬送される。アルミニウム板416が最初に導入される給電槽412においては、直流電源434の正極に接続された陽極420が設置されており、アルミニウム板416は陰極となる。したがって、アルミニウム板416においてはカソード反応が起こる。
【0153】
アルミニウム板416が引き続き導入される陽極酸化処理槽414においては、直流電源434の負極に接続された陰極430が設置されており、アルミニウム板416は陽極となる。したがって、アルミニウム板416においてはアノード反応が起こり、アルミニウム板416の表面に陽極酸化皮膜が形成される。
アルミニウム板416と陰極430の間隔は50〜200mmであるのが好ましい。陰極430としてはアルミニウムが用いられる。陰極430としては、アノード反応により発生する水素ガスが系から抜けやすくなるようにするために、広い面積を有する電極でなく、アルミニウム板416の進行方向に複数個に分割した電極であるのが好ましい。
【0154】
給電槽412と陽極酸化処理槽414との間には、図5に示されるように、中間槽413と呼ばれる電解液が溜まらない槽を設けるのが好ましい。中間槽413を設けることにより、電流がアルミニウム板416を経由せず陽極420から陰極430にバイパスすることを抑止することができる。中間槽413にはニップローラ424を設置して液切りを行うことにより、バイパス電流を極力少なくするようにするのが好ましい。液切りにより出た電解液は、排液口442から陽極酸化処理装置410の外に排出される。
【0155】
給電槽412に貯留される電解液418は、電圧ロスを少なくするために、陽極酸化処理槽414に貯留される電解液426よりも高温および/または高濃度とする。また、電解液418および426は、陽極酸化皮膜の形成効率、陽極酸化皮膜のマイクロポアの形状、陽極酸化皮膜の硬さ、電圧、電解液のコスト等から、組成、温度等が決定される。
【0156】
給電槽412および陽極酸化処理槽414には、給液ノズル436および438から電解液を噴出させて給液する。電解液の分布を一定にし、陽極酸化処理槽414でのアルミニウム板416の局所的な電流集中を防ぐ目的で、給液ノズル436および438にはスリットが設けられ、噴出する液流を幅方向で一定にする構造となっている。
【0157】
陽極酸化処理槽414においては、陽極430からみてアルミニウム板416を挟んだ反対側にはしゃへい板440が設けられ、電流がアルミニウム板416の陽極酸化皮膜を形成させたい面の反対側に流れるのを抑止する。アルミニウム板416としゃへい板440の間隔は5〜30mmであるのが好ましい。直流電源434は複数個用いて、正極側を共通に接続して用いるのが好ましい。これによって、陽極酸化処理槽414中の電流分布を制御することができる。
【0158】
また、図6に示される陽極酸化処理装置は、上述した図5に示される陽極酸化処理装置を2槽直列に連結させたものである。
【0159】
<封孔処理>
本発明においては、必要に応じて陽極酸化皮膜に存在するマイクロポアを封じる封孔処理を行ってもよい。封孔処理は、沸騰水処理、熱水処理、蒸気処理、ケイ酸ソーダ処理、亜硝酸塩処理、酢酸アンモニウム処理等の公知の方法に従って行うことができる。例えば、特公昭56−12518号公報、特開平4−4194号公報、特開平5−202496号公報、特開平5−179482号公報等に記載されている装置および方法で封孔処理を行ってもよい。
【0160】
<親水化処理>
陽極酸化処理後または封孔処理後に、親水化処理を行うことが好ましい。
親水化処理としては、例えば、米国特許第2,946,638号明細書に記載されているフッ化ジルコニウム酸カリウム処理、米国特許第3,201,247号明細書に記載されているホスホモリブデート処理、英国特許第1,108,559号に記載されているアルキルチタネート処理、独国特許第1,091,433号明細書に記載されているポリアクリル酸処理、独国特許第1,134,093号明細書および英国特許第1,230,447号明細書に記載されているポリビニルホスホン酸処理、特公昭44−6409号公報に記載されているホスホン酸処理、米国特許第3,307,951号明細書に記載されているフィチン酸処理、特開昭58−16893号公報および特開昭58−18291号公報に記載されている親油性有機高分子化合物と2価の金属との塩による処理、米国特許第3,860,426号明細書に記載されているように、水溶性金属塩(例えば、酢酸亜鉛)を含む親水性セルロース(例えば、カルボキシメチルセルロース)の下塗層を設ける処理、特開昭59−101651号公報に記載されているスルホ基を有する水溶性重合体を下塗りする処理が挙げられる。
【0161】
また、特開昭62−019494号公報に記載されているリン酸塩、特開昭62−033692号公報に記載されている水溶性エポキシ化合物、特開昭62−097892号公報に記載されているリン酸変性デンプン、特開昭63−056498号公報に記載されているジアミン化合物、特開昭63−130391号公報に記載されているアミノ酸の無機または有機酸、特開昭63−145092号公報に記載されているカルボキシ基またはヒドロキシ基を含む有機ホスホン酸、特開昭63−165183号公報に記載されているアミノ基とホスホン酸基を有する化合物、特開平2−316290号公報に記載されている特定のカルボン酸誘導体、特開平3−215095号公報に記載されているリン酸エステル、特開平3−261592号公報に記載されている1個のアミノ基とリンの酸素酸基1個を持つ化合物、特開平3−215095号公報に記載されているリン酸エステル、特開平5−246171号公報に記載されているフェニルホスホン酸等の脂肪族または芳香族ホスホン酸、特開平1−307745号公報に記載されているチオサリチル酸のようなS原子を含む化合物、特開平4−282637号公報に記載されているリンの酸素酸のグループを持つ化合物等を用いた下塗りによる処理も挙げられる。
更に、特開昭60−64352号公報に記載されている酸性染料による着色を行うこともできる。
【0162】
また、ケイ酸ソーダ、ケイ酸カリ等のアルカリ金属ケイ酸塩の水溶液に浸せきさせる方法、親水性ビニルポリマーまたは親水性化合物を塗布して親水性の下塗層を形成させる方法等により、親水化処理を行うのが好ましい。
【0163】
ケイ酸ソーダ、ケイ酸カリ等のアルカリ金属ケイ酸塩の水溶液による親水化処理は、米国特許第2,714,066号明細書および米国特許第3,181,461号明細書に記載されている方法および手順に従って行うことができる。
アルカリ金属ケイ酸塩としては、例えば、ケイ酸ソーダ、ケイ酸カリウム、ケイ酸リチウムが挙げられ、1号ケイ酸ソーダまたは3号ケイ酸ソーダを用いることが好ましく、1号ケイ酸ソーダを用いることがより好ましい。
親水化処理に用いる水溶液に1号ケイ酸ソーダを用いる場合には、1号ケイ酸ソーダの濃度は1〜10質量%であることが好ましく、液温は10〜30℃であるのが好ましい。また、処理時間は1〜15秒であるのが好ましい。
【0164】
また、アルカリ金属ケイ酸塩の水溶液は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等を適当量含有してもよい。
また、アルカリ金属ケイ酸塩の水溶液は、アルカリ土類金属塩または4族(第IVA族)金属塩を含有してもよい。アルカリ土類金属塩としては、例えば、硝酸カルシウム、硝酸ストロンチウム、硝酸マグネシウム、硝酸バリウム等の硝酸塩;硫酸塩;塩酸塩;リン酸塩;酢酸塩;シュウ酸塩;ホウ酸塩が挙げられる。4族(第IVA族)金属塩としては、例えば、四塩化チタン、三塩化チタン、フッ化チタンカリウム、シュウ酸チタンカリウム、硫酸チタン、四ヨウ化チタン、塩化酸化ジルコニウム、二酸化ジルコニウム、オキシ塩化ジルコニウム、四塩化ジルコニウムが挙げられる。これらのアルカリ土類金属塩および4族(第IVA族)金属塩は、単独でまたは2種以上組み合わせて用いられる。
【0165】
アルカリ金属ケイ酸塩処理によって吸着するSi量は蛍光X線分析装置により測定することができ、その吸着量は約1.0〜10.0mg/m2であるのが好ましく、3〜10mg/m2であるのがより好ましい。吸着するSi量が3〜10mg/m2である場合には、網点部の耐汚れ性が良好になる。
具体的に説明すると、印刷物のシャドー部(網点部)においては、網点の面積率が高く(70〜90%)、平版印刷版のそれに相当する領域では、画像部(画像記録層)の面積が大きく、非画像部(支持体の露出部分)の面積が相対的に小さくなっている。このような場合、印刷時に、隣接する画像部に載せられたインキ同士が接触して(即ち、絡んで)、その間の非画像部にインキが付着し、印刷物の非画像部がつぶれてしまう(即ち、汚れてしまう)という現象が、発生しやすい。
しかし、親水化処理を行い、平版印刷版用支持体の表面に付着するSi量を3〜10mg/m2とすることにより、非画像部の親水性が向上するために、得られた平版印刷版用支持体を用いて平版印刷版を作製し、印刷を行った場合に、網点部の耐汚れ性を良好にすることができる。
【0166】
以上説明したアルカリ金属ケイ酸塩処理により、平版印刷版用支持体の表面のアルカリ現像液に対する耐溶解性向上の効果が得られ、アルミニウム成分の現像液中への溶出が抑制されて、現像液の疲労に起因する現像カスの発生を低減することができる。
【0167】
また、親水性の下塗層の形成による親水化処理は、特開昭59−101651号公報および特開昭60−149491号公報に記載されている条件および手順に従って行うこともできる。
この方法に用いられる親水性ビニルポリマーとしては、例えば、ポリビニルスルホン酸、スルホ基を有するp−スチレンスルホン酸等のスルホ基含有ビニル重合性化合物と(メタ)アクリル酸アルキルエステル等の通常のビニル重合性化合物との共重合体が挙げられる。また、この方法に用いられる親水性化合物としては、例えば、−NH2基、−COOH基およびスルホ基からなる群から選ばれる少なくとも一つを有する化合物が挙げられる。
【0168】
<乾燥>
上述したようにして平版印刷版用支持体を得た後、画像記録層を設ける前に、平版印刷版用支持体の表面を乾燥させるのが好ましい。乾燥は、表面処理の最後の処理の後、水洗処理およびニップローラで液切りしてから行うのが好ましい。
乾燥温度は、70℃以上であるのが好ましく、80℃以上であるのがより好ましく、また、110℃以下であるのが好ましく、100℃以下であるのがより好ましい。
乾燥時間は、2〜15秒であるのが好ましい。
【0169】
<液組成の管理>
本発明においては、上述した表面処理に用いられる各種の処理液の組成を、特開2001−121837号公報に記載されている方法で管理するのが好ましい。
なお、電解粗面化処理および陽極酸化処理に用いられる各電解液は、Cu濃度が100ppm以下であるのが好ましい。Cu濃度が高すぎると、ラインを停止するとアルミニウム板上にCuが析出し、ラインを再度稼動した際に析出したCuがパスロールに転写されて、処理ムラの原因となる場合がある。
【0170】
[本発明の平版印刷版用支持体]
本発明で得られたアルミニウム支持体の平均表面粗さRaは、上述した機械的粗面化処理の後の平均表面粗さRaに対して0.10〜0.20μm大きくなるものであって、0.42〜0.60μmである。また、0.48〜0.58μmであるのが好ましい。
また、本発明で得られたアルミニウム支持体の凹凸の平均間隔Smは、30〜50μmであるこのとが好ましく、平均傾斜角Δaは、9.0〜11.0であることが好ましい。
【0171】
ここで、平均表面粗さRa、平均傾斜角Δa、平均間隔Smの値は触針式粗さ計で測定することができる。具体的には、触針式粗さ計(sufcom575、東京精密社製)を用いて下記条件で2次元粗さ測定を行い、ISO4287に規定されているRa、Sm、Δaを5回測定し、その平均値を求める。
平均傾斜Δaは、測定曲線を一定間隔ΔXで横方向に区切り、各区間内における測定曲線の終始点を結ぶ線分の傾き(角度)の絶対値を求め、その値を平均したもの(図7参照)である。
2次元粗さ測定の条件を以下に示す。
<測定条件>
カットオフ値0.8mm、傾斜補正FLAT−ML、測定長3mm、縦倍率10000倍、走査速度0.3mm/sec、触針先端径2μm
【0172】
[平版印刷版原版]
本発明により得られる平版印刷版用支持体には、画像記録層を設けて本発明の平版印刷版原版とすることができる。画像記録層には、感光性組成物が用いられる。
本発明に好適に用いられる感光性組成物としては、例えば、アルカリ可溶性高分子化合物と光熱変換物質とを含有するサーマルポジ型感光性組成物(以下、この組成物およびこれを用いた画像記録層について、「サーマルポジタイプ」という。)、硬化性化合物と光熱変換物質とを含有するサーマルネガ型感光性組成物(以下、同様に「サーマルネガタイプ」という。)、光重合型感光性組成物(以下、同様に「フォトポリマータイプ」という。)、ジアゾ樹脂または光架橋樹脂を含有するネガ型感光性組成物(以下、同様に「コンベンショナルネガタイプ」という。)、キノンジアジド化合物を含有するポジ型感光性組成物(以下、同様に「コンベンショナルポジタイプ」という。)、特別な現像工程を必要としない感光性組成物(以下、同様に「無処理タイプ」という。)が挙げられる。以下、これらの好適な感光性組成物について説明する。
【0173】
<サーマルポジタイプ>
<感光層>
サーマルポジタイプの感光性組成物は、アルカリ可溶性高分子化合物と光熱変換物質とを含有する。サーマルポジタイプの画像記録層においては、光熱変換物質が赤外線レーザ等の光のエネルギーを熱に変換し、その熱がアルカリ可溶性高分子化合物のアルカリ溶解性を低下させている相互作用を効率よく解除する。
【0174】
アルカリ可溶性高分子化合物としては、例えば、分子中に酸性基を含有する樹脂およびその2種以上の混合物が挙げられる。特に、フェノール性ヒドロキシ基、スルホンアミド基(−SO2NH−R(式中、Rは炭化水素基を表す。))、活性イミノ基(−SO2NHCOR、−SO2NHSO2R、−CONHSO2R(各式中、Rは上記と同様の意味である。))等の酸性基を有する樹脂がアルカリ現像液に対する溶解性の点で好ましい。
とりわけ、赤外線レーザ等の光による露光での画像形成性に優れる点で、フェノール性ヒドロキシ基を有する樹脂が好ましく、例えば、フェノール−ホルムアルデヒド樹脂、m−クレゾール−ホルムアルデヒド樹脂、p−クレゾール−ホルムアルデヒド樹脂、m−/p−混合クレゾール−ホルムアルデヒド樹脂、フェノール/クレゾール(m−、p−およびm−/p−混合のいずれでもよい)混合−ホルムアルデヒド樹脂(フェノール−クレゾール−ホルムアルデヒド共縮合樹脂)等のノボラック樹脂が好適に挙げられる。
更に、特開2001−305722号公報(特に[0023]〜[0042])に記載されている高分子化合物、特開2001−215693号公報に記載されている一般式(1)で表される繰り返し単位を含む高分子化合物、特開2002−311570号公報(特に[0107])に記載されている高分子化合物も好適に挙げられる。
【0175】
光熱変換物質としては、記録感度の点で、波長700〜1200nmの赤外域に光吸収域がある顔料または染料が好適に挙げられる。染料としては、例えば、アゾ染料、金属錯塩アゾ染料、ピラゾロンアゾ染料、ナフトキノン染料、アントラキノン染料、フタロシアニン染料、カルボニウム染料、キノンイミン染料、メチン染料、シアニン染料、スクワリリウム色素、ピリリウム塩、金属チオレート錯体(例えば、ニッケルチオレート錯体)が挙げられる。中でも、シアニン染料が好ましく、とりわけ特開2001−305722号公報に記載されている一般式(I)で表されるシアニン染料が好ましい。
【0176】
サーマルポジタイプの感光性組成物中には、溶解阻止剤を含有させることができる。溶解阻止剤としては、例えば、特開2001−305722号公報の[0053]〜[0055]に記載されているような溶解阻止剤が好適に挙げられる。
また、サーマルポジタイプの感光性組成物中には、添加剤として、感度調節剤、露光による加熱後直ちに可視像を得るための焼出し剤、画像着色剤としての染料等の化合物、塗布性および処理安定性を向上させるための界面活性剤を含有させるのが好ましい。これらについては、特開2001−305722号公報の[0056]〜[0060]に記載されているような化合物が好ましい。
上記以外の点でも、特開2001−305722号公報に詳細に記載されている感光性組成物が好ましく用いられる。
【0177】
また、サーマルポジタイプの画像記録層は、単層に限らず、2層構造であってもよい。
2層構造の画像記録層(重層系の画像記録層)としては、支持体に近い側に耐刷性および耐溶剤性に優れる下層(以下「A層」という。)を設け、その上にポジ画像形成性に優れる層(以下「B層」という。)を設けたタイプが好適に挙げられる。このタイプは感度が高く、広い現像ラチチュードを実現することができる。B層は、一般に、光熱変換物質を含有する。光熱変換物質としては、上述した染料が好適に挙げられる。
A層に用いられる樹脂としては、スルホンアミド基、活性イミノ基、フェノール性ヒドロキシ基等を有するモノマーを共重合成分として有するポリマーが耐刷性および耐溶剤性に優れている点で好適に挙げられる。B層に用いられる樹脂としては、フェノール性ヒドロキシ基を有するアルカリ水溶液可溶性樹脂が好適に挙げられる。
A層およびB層に用いられる組成物には、上記樹脂のほかに、必要に応じて、種々の添加剤を含有させることができる。具体的には、特開2002−3233769号公報の[0062]〜[0085]に記載されているような種々の添加剤が好適に用いられる。また、上述した特開2001−305722号公報の[0053]〜[0060]に記載されている添加剤も好適に用いられる。
A層およびB層を構成する各成分およびその含有量については、特開平11−218914号公報に記載されているようにするのが好ましい。
【0178】
<中間層>
サーマルポジタイプの画像記録層と支持体との間には、中間層(以下、下塗層ともいう。中間層または下塗層を設けるために塗布する液を、下塗液という。)を設けるのが好ましい。中間層に含有される成分としては、特開2001−305722号公報の[0068]に記載されている種々の有機化合物が好適に挙げられる。
【0179】
<その他>
サーマルポジタイプの画像記録層の製造方法および製版方法については、特開2001−305722号公報に詳細に記載されている方法を用いることができる。
【0180】
<サーマルネガタイプ>
サーマルネガタイプの感光性組成物は、硬化性化合物と光熱変換物質とを含有する。サーマルネガタイプの画像記録層は、赤外線レーザ等の光で照射された部分が硬化して画像部を形成するネガ型の感光層である。
<重合層>
サーマルネガタイプの画像記録層の一つとして、重合型の画像記録層(重合層)が好適に挙げられる。重合層は、光熱変換物質と、ラジカル発生剤と、硬化性化合物であるラジカル重合性化合物と、バインダーポリマーとを含有する。重合層においては、光熱変換物質が吸収した赤外線を熱に変換し、この熱によりラジカル発生剤が分解してラジカルが発生し、発生したラジカルによりラジカル重合性化合物が連鎖的に重合し、硬化する。
【0181】
光熱変換物質としては、例えば、上述したサーマルポジタイプに用いられる光熱変換物質が挙げられる。特に好ましいシアニン色素の具体例としては、特開2001−133969号公報の[0017]〜[0019]に記載されているものが挙げられる。
ラジカル発生剤としては、オニウム塩が好適に挙げられる。特に、特開2001−133969号公報の[0030]〜[0033]に記載されているオニウム塩が好ましい。
ラジカル重合性化合物としては、末端エチレン性不飽和結合を少なくとも1個、好ましくは2個以上有する化合物が挙げられる。
バインダーポリマーとしては、線状有機ポリマーが好適に挙げられる。水または弱アルカリ水に対して可溶性または膨潤性である線状有機ポリマーが好適に挙げられる。中でも、アリル基、アクリロイル基等の不飽和基またはベンジル基と、カルボキシ基とを側鎖に有する(メタ)アクリル樹脂が、膜強度、感度および現像性のバランスに優れている点で好適である。
ラジカル重合性化合物およびバインダーポリマーについては、特開2001−133969号公報の[0036]〜[0060]に詳細に記載されているものを用いることができる。
【0182】
サーマルネガタイプの感光性組成物中には、特開2001−133969号公報の[0061]〜[0068]に記載されている添加剤(例えば、塗布性を向上させるための界面活性剤)を含有させるのが好ましい。
【0183】
重合層の製造方法および製版方法については、特開2001−133969号公報に詳細に記載されている方法を用いることができる。
【0184】
<酸架橋層>
また、サーマルネガタイプの画像記録層の一つとして、酸架橋型の画像記録層(酸架橋層)も好適に挙げられる。酸架橋層は、光熱変換物質と、熱酸発生剤と、硬化性化合物である酸により架橋する化合物(架橋剤)と、酸の存在下で架橋剤と反応しうるアルカリ可溶性高分子化合物とを含有する。酸架橋層においては、光熱変換物質が吸収した赤外線を熱に変換し、この熱により熱酸発生剤が分解して酸が発生し、発生した酸により架橋剤とアルカリ可溶性高分子化合物とが反応し、硬化する。
【0185】
光熱変換物質としては、重合層に用いられるのと同様のものが挙げられる。
熱酸発生剤としては、例えば、光重合の光開始剤、色素類の光変色剤、マイクロレジスト等に使用されている酸発生剤等の熱分解化合物が挙げられる。
架橋剤としては、例えば、ヒドロキシメチル基またはアルコキシメチル基で置換された芳香族化合物;N−ヒドロキシメチル基、N−アルコキシメチル基またはN−アシルオキシメチル基を有する化合物;エポキシ化合物が挙げられる。
アルカリ可溶性高分子化合物としては、例えば、ノボラック樹脂、側鎖にヒドロキシアリール基を有するポリマーが挙げられる。
【0186】
<フォトポリマータイプ>
光重合型感光性組成物は、付加重合性化合物と、光重合開始剤と、高分子結合剤とを含有する。
付加重合性化合物としては、付加重合可能なエチレン性不飽和結合含有化合物が好適に挙げられる。エチレン性不飽和結合含有化合物は、末端エチレン性不飽和結合を有する化合物である。具体的には、例えば、モノマー、プレポリマー、これらの混合物等の化学的形態を有する。モノマーの例としては、不飽和カルボン酸(例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸)と脂肪族多価アルコール化合物とのエステル、不飽和カルボン酸と脂肪族多価アミン化合物とのアミドが挙げられる。
また、付加重合性化合物としては、ウレタン系付加重合性化合物も好適に挙げられる。
【0187】
光重合開始剤としては、種々の光重合開始剤または2種以上の光重合開始剤の併用系(光開始系)を、使用する光源の波長により適宜選択して用いることができる。例えば、特開2001−22079号公報の[0021]〜[0023]に記載されている開始系が好適に挙げられる。
高分子結合剤は、光重合型感光性組成物の皮膜形成剤として機能するだけでなく、画像記録層をアルカリ現像液に溶解させる必要があるため、アルカリ水に対して可溶性または膨潤性である有機高分子重合体が用いられる。そのような有機高分子重合体としては、特開2001−22079号公報の[0036]〜[0063]に記載されているものが好適に挙げられる。
【0188】
フォトポリマータイプの光重合型感光性組成物中には、特開2001−22079号公報の[0079]〜[0088]に記載されている添加剤(例えば、塗布性を向上させるための界面活性剤、着色剤、可塑剤、熱重合禁止剤)を含有させるのが好ましい。
【0189】
また、フォトポリマータイプの画像記録層の上に、酸素の重合禁止作用を防止するために酸素遮断性保護層を設けることが好ましい。酸素遮断性保護層に含有される重合体としては、例えば、ポリビニルアルコール、その共重合体が挙げられる。
更に、特開2001−228608号公報の[0124]〜[0165]に記載されているような中間層または接着層を設けるのも好ましい。
【0190】
<コンベンショナルネガタイプ>
コンベンショナルネガタイプの感光性組成物は、ジアゾ樹脂または光架橋樹脂を含有する。中でも、ジアゾ樹脂とアルカリ可溶性または膨潤性の高分子化合物(結合剤)とを含有する感光性組成物が好適に挙げられる。
ジアゾ樹脂としては、例えば、芳香族ジアゾニウム塩とホルムアルデヒド等の活性カルボニル基含有化合物との縮合物;p−ジアゾフェニルアミン類とホルムアルデヒドとの縮合物とヘキサフルオロリン酸塩またはテトラフルオロホウ酸塩との反応生成物である有機溶媒可溶性ジアゾ樹脂無機塩が挙げられる。特に、特開昭59−78340号公報に記載されている6量体以上を20モル%以上含んでいる高分子量ジアゾ化合物が好ましい。
結合剤としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸またはマレイン酸を必須成分として含む共重合体が挙げられる。具体的には、特開昭50−118802号公報に記載されているような2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリル酸等のモノマーの多元共重合体、特開昭56−4144号公報に記載されているようなアルキルアクリレート、(メタ)アクリロニトリルおよび不飽和カルボン酸からなる多元共重合体が挙げられる。
【0191】
コンベンショナルネガタイプの感光性組成物には、添加剤として、特開平7−281425号公報の[0014]〜[0015]に記載されている焼出し剤、染料、塗膜の柔軟性および耐摩耗性を付与するための可塑剤、現像促進剤等の化合物、塗布性を向上させるための界面活性剤を含有させるのが好ましい。
【0192】
コンベンショナルネガタイプの感光層の下には、特開2000−105462号公報に記載されている、酸基を有する構成成分とオニウム基を有する構成成分とを有する高分子化合物を含有する中間層を設けるのが好ましい。
【0193】
<コンベンショナルポジタイプ>
コンベンショナルポジタイプの感光性組成物は、キノンジアジド化合物を含有する。中でも、o−キノンジアジド化合物とアルカリ可溶性高分子化合物とを含有する感光性組成物が好適に挙げられる。
o−キノンジアジド化合物としては、例えば、1,2−ナフトキノン−2−ジアジド−5−スルホニルクロライドとフェノール−ホルムアルデヒド樹脂またはクレゾール−ホルムアルデヒド樹脂とのエステル、米国特許第3,635,709号明細書に記載されている1,2−ナフトキノン−2−ジアジド−5−スルホニルクロライドとピロガロール−アセトン樹脂とのエステルが挙げられる。
アルカリ可溶性高分子化合物としては、例えば、フェノール−ホルムアルデヒド樹脂、クレゾール−ホルムアルデヒド樹脂、フェノール−クレゾール−ホルムアルデヒド共縮合樹脂、ポリヒドロキシスチレン、N−(4−ヒドロキシフェニル)メタクリルアミドの共重合体、特開平7−36184号公報に記載されているカルボキシ基含有ポリマー、特開昭51−34711号公報に記載されているようなフェノール性ヒドロキシ基を含有するアクリル系樹脂、特開平2−866号公報に記載されているスルホンアミド基を有するアクリル系樹脂、ウレタン系の樹脂が挙げられる。
【0194】
コンベンショナルポジタイプの感光性組成物には、添加剤として、特開平7−92660号公報の[0024]〜[0027]に記載されている感度調節剤、焼出剤、染料等の化合物や、特開平7−92660号公報の[0031]に記載されているような塗布性を向上させるための界面活性剤を含有させるのが好ましい。
【0195】
コンベンショナルポジタイプの感光層の下には、上述したコンベンショナルネガタイプに好適に用いられる中間層と同様の中間層を設けるのが好ましい。
【0196】
<無処理タイプ>
無処理タイプの感光性組成物には、熱可塑性微粒子ポリマー型、マイクロカプセル型、スルホン酸発生ポリマー含有型等が挙げられる。これらはいずれも光熱変換物質を含有する感熱型である。光熱変換物質は、上述したサーマルポジタイプに用いられるのと同様の染料が好ましい。
【0197】
熱可塑性微粒子ポリマー型の感光性組成物は、疎水性かつ熱溶融性の微粒子ポリマーが親水性高分子マトリックス中に分散されたものである。熱可塑性微粒子ポリマー型の画像記録層においては、露光により発生する熱により疎水性の微粒子ポリマーが溶融し、互いに融着して疎水性領域、即ち、画像部を形成する。
微粒子ポリマーとしては、微粒子同士が熱により溶融合体するものが好ましく、表面が親水性で、湿し水等の親水性成分に分散しうるものがより好ましい。具体的には、Reseach Disclosure No.33303(1992年1月)、特開平9−123387号、同9−131850号、同9−171249号および同9−171250号の各公報、欧州特許出願公開第931,647号明細書等に記載されている熱可塑性微粒子ポリマーが好適に挙げられる。中でも、ポリスチレンおよびポリメタクリル酸メチルが好ましい。親水性表面を有する微粒子ポリマーとしては、例えば、ポリマー自体が親水性であるもの;ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール等の親水性化合物を微粒子ポリマー表面に吸着させて表面を親水性化したものが挙げられる。
微粒子ポリマーは、反応性官能基を有するのが好ましい。
【0198】
マイクロカプセル型の感光性組成物としては、特開2000−118160号公報に記載されているもの、特開2001−277740号公報に記載されているような熱反応性官能基を有する化合物を内包するマイクロカプセル型が好適に挙げられる。
【0199】
スルホン酸発生ポリマー含有型の感光性組成物に用いられるスルホン酸発生ポリマーとしては、例えば、特開平10−282672号公報に記載されているスルホン酸エステル基、ジスルホン基またはsec−もしくはtert−スルホンアミド基を側鎖に有するポリマーが挙げられる。
【0200】
無処理タイプの感光性組成物に、親水性樹脂を含有させることにより、機上現像性が良好となるばかりか、感光層自体の皮膜強度も向上する。親水性樹脂としては、例えば、ヒドロキシ基、カルボキシ基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、アミノ基、アミノエチル基、アミノプロピル基、カルボキシメチル基等の親水基を有するもの、親水性のゾルゲル変換系結着樹脂が好ましい。
【0201】
無処理タイプの画像記録層は、特別な現像工程を必要とせず、印刷機上で現像することができる。無処理タイプの画像記録層の製造方法および製版印刷方法については、特開2002−178655号公報に詳細に記載されている方法を用いることができる。
【0202】
<バックコート>
このようにして、本発明により得られる平版印刷版用支持体上に各種の画像記録層を設けて得られる平版印刷版原版の裏面には、必要に応じて、重ねた場合における画像記録層の傷付きを防止するために、有機高分子化合物からなる被覆層を設けることができる。
【0203】
[製版方法(平版印刷版の製造方法)]
本発明により得られる平版印刷版用支持体を用いた平版印刷版原版は、画像記録層に応じた種々の処理方法により、平版印刷版とされる。
像露光に用いられる活性光線の光源としては、例えば、水銀灯、メタルハライドランプ、キセノンランプ、ケミカルランプが挙げられる。レーザビームとしては、例えば、ヘリウム−ネオンレーザ(He−Neレーザ)、アルゴンレーザ、クリプトンレーザ、ヘリウム−カドミウムレーザ、KrFエキシマーレーザ、半導体レーザ、YAGレーザ、YAG−SHGレーザが挙げられる。
【0204】
上記露光の後、画像記録層がサーマルポジタイプ、サーマルネガタイプ、コンベンショナルネガタイプ、コンベンショナルポジタイプおよびフォトポリマータイプのいずれかである場合は、露光した後、現像液を用いて現像して平版印刷版を得るのが好ましい。
現像液は、アルカリ現像液であるのが好ましく、有機溶剤を実質的に含有しないアルカリ性の水溶液であるのがより好ましい。
また、アルカリ金属ケイ酸塩を実質的に含有しない現像液も好ましい。アルカリ金属ケイ酸塩を実質的に含有しない現像液を用いて現像する方法としては、特開平11−109637号公報に詳細に記載されている方法を用いることができる。
また、アルカリ金属ケイ酸塩を含有する現像液を用いることもできる。
【実施例】
【0205】
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限られるものではない。
1.平版印刷版用支持体の作製
(実施例1〜19、比較例1および比較例2)
表1に示される組成(残部はアルミニウムおよび不可避不純物)のアルミニウム合金(アルミ1〜8)を用いて溶湯を調製し、溶湯処理およびろ過を行った上で、厚さ500mm、幅1200mmの鋳塊をDC鋳造法で作製した。表面を平均10mmの厚さで面削機により削り取った後、550℃で、約5時間均熱保持し、温度400℃に下がったところで、熱間圧延機を用いて厚さ2.7mmの圧延板とした。更に、連続焼鈍機を用いて熱処理を500℃で行った後、冷間圧延で、厚さ0.3mm、幅1060mmに仕上げ、アルミニウム板1〜8を得た。
なお、表1中、地金A〜Cは、それぞれ以下に示すものである。
・地金A:使用済みアルミニウム容器を原料としたアルミニウム純度が95.0〜99.4質量%のアルミニウム地金
・地金B:ボーキサイトから精錬した地金(アルミニウム新地金)
・地金C:使用済み平版印刷板
【0206】
【表1】

【0207】
次に、このアルミニウム板1〜8を用いて、以下の処理を行った。
【0208】
<表面処理>
次に、以下の(a)〜(k)の各種処理を連続的に行うことにより、表面処理を行った。
【0209】
(a)機械的粗面化処理
パミストンを粉砕し、その中に含まれる粒子が表2に示す平均粒径となるように分級した研磨材と水の懸濁液(比重1.12)を研磨スラリー液として、スプレー管にてアルミニウム板の表面に供給しながら、回転するローラー状ナイロンブラシにより機械的な粗面化を行った。
研磨材のモース硬度は5であり、研磨剤として、SiO2を73質量%、Al23を14質量%、Fe23を1.2質量%含むものを用いた。
ナイロンブラシとして、材質6・10ナイロン、毛長35mm(植毛前)で、表2に示す毛径のブラシをφ460mmのステンレス製の筒に穴をあけて密になるように植毛し、毛径の同じまたは異なる表2に示す第1、第2、第3ブラシをこの順に用いて行った。
ナイロンブラシ下部の2本の支持ローラ(φ200mm)の距離を440mmとし、ナイロンブラシの回転方向を、第1ブラシ、第3ブラシはアルミニウム板の移動方向と同じ方向、第2ブラシはアルミニウム板の移動方向と逆の方向とした。
ナイロンブラシの押し込み量は、ナイロンブラシを回転させる駆動モータの負荷を管理することで調節した。第1ブラシと第3ブラシの駆動モータの負荷は同じとし、第2ブラシの駆動モータの負荷は、第1ブラシまたは第3ブラシの50%とした。ブラシの回転数は、第1ブラシ、第2ブラシ、第3ブラシともに同じ回転数とした。
この機械的粗面化処理は、処理後のアルミニウム板の平均表面粗さRaが0.30〜0.43μmとなるように、研磨剤の流量、ブラシの回転数、アルミニウム板の移動速度等を適宜調節して行った。表2に機械的粗面化処理後のアルミニウム板の平均表面粗さRaを示す。
【0210】
ここで、アルミニウム板の平均表面粗さRaは、触針式粗さ計(sufcom575、東京精密社製)で2次元粗さ測定を行い、ISO4287に規定されている平均表面粗さRaを5回測定し、その平均値を求めた。
2次元粗さ測定の条件を以下に示す。
<測定条件>
カットオフ値0.8mm、傾斜補正FLAT−ML、測定長3mm、縦倍率10000倍、走査速度0.3mm/sec、触針先端径2μm
【0211】
(b)アルカリ水溶液中でのエッチング処理(第1エッチング処理)
アルミニウム板に、水酸化ナトリウム濃度27質量%、アルミニウムイオン濃度6.5質量%、温度70℃の水溶液をスプレー管から吹き付けて、エッチング処理を行った。表2に、アルミニウム板の後に第1電解粗面化処理を施す面のエッチング量を示す。
その後、ニップローラで液切りし、更に、後述する水洗処理を行った後、ニップローラで液切りした。水洗処理は、自由落下カーテン状の液膜により水洗処理する装置を用いて水洗し、更に、扇状に噴射水が広がるスプレーチップを80mm間隔で有する構造を有するスプレー管を用いて5秒間水洗処理した。
【0212】
(c)酸性水溶液中でのデスマット処理(第1デスマット処理)
次に、デスマット処理を行った。デスマット処理に用いる酸性水溶液は、硝酸10g/Lの水溶液(液温35℃)をスプレー管から5秒間吹き付けて行った。
その後、ニップローラで液切りした。
【0213】
(d)第1電解粗面化処理
次に、表2に示す硝酸または塩酸の濃度、アルミニウムイオン濃度、および液温の電解液を用いて、第1電解粗面化処理を行った。アルミニウムイオン濃度は硝酸を主体とする水溶液(第1a電解液)では硝酸アルミニウムを添加して調整し、アルミニウムイオン濃度は塩酸を主体とする水溶液(第1b電解液)では塩化アルミニウムを添加して調整した。また、硝酸を主体とする水溶液中のアンモニウムイオン濃度は70mg/Lであった。
IGBT素子を用いたPWM制御によって電流制御する、任意波形の交流電流を発生する電源を用いて電気化学的な粗面化処理を行った。
また、対極としてカーボン電極を用い、補助アノードには酸化イリジウムを用いた。電解槽は図4に示すラジアル型ものを2槽使用した。
発生させた交流電流の波形は台形はであり、周波数は60Hz、電流比r(アルミニウム板のアノード反応時の電気量の総和QFとカソード反応時の電気量の総和QRとの比QR/QF)dutyは0.5、電流比r(主電解槽に於けるアルミニウム板のアノード反応時の電気量の総和QFとカソード反応時の電気量の総和QRとの比QR/QF)は、0.95とした。電流値がゼロからピークに達するまでの電流立ち上がり時間TP、電流密度(主電解槽における交流の平均電流密度)、電気量(主電解槽に於けるアルミニウム板のアノード反応時の電気量の総和)、は表2に示す通りとした。電流比は、補助アノードに分流する電流の量で調整した。
アルミニウム板は、主電解槽内の電解液に対する相対速度が1〜2m/sec、平均で1.5m/secとなるように、主電解槽内に供給された。
その後、ニップローラで液切りし、更に、上記(b)の水洗処理に用いたのと同様の構造のスプレー管を用いて水洗処理を行った後、ニップローラで液切りした。
【0214】
(e)アルカリ水溶液中でのエッチング処理(第2エッチング処理)
アルミニウム板を、カセイソーダ濃度27質量%、アルミニウムイオン濃度5.5質量%、温度65℃の水溶液をスプレー管から吹き付けて、エッチング処理を行った。表2に、アルミニウム板の後に第2電解粗面化処理を施す面のエッチング量を示す。
その後、ニップローラで液切りし、更に、上記(b)の水洗処理に用いたのと同様の構造のスプレー管を用いて水洗処理を行った後、ニップローラで液切りした。
【0215】
(f)酸性水溶液中でのデスマット処理(第2デスマット処理)
次に、デスマット処理を行った。酸性水溶液として、硫酸濃度300g/Lの水溶液にアルミニウムイオン1.5g/Lを溶解したものを用いた。デスマット処理は、かかる酸性水溶液(液温60℃)をスプレー管から10秒間吹き付けて行った。
その後、ニップローラで液切りし、更に、上記(b)の水洗処理に用いたのと同様の構造のスプレー管を用いて水洗処理を行った後、ニップローラで液切りした。
【0216】
(g)第2電解粗面化処理
表2に示す塩酸濃度およびアルミニウムイオン濃度であり、液温35℃の電解液を用いた。アルミニウムイオン濃度は、塩化アルミニウムを用いて調整した。
IGBT素子を用いたPWM制御を用いて電流制御する、任意波形の交流電流を発生する電源を用いて電気化学的な粗面化処理を行った。
また、対極としてカーボン電極を用い、補助アノードには酸化イリジウムを用いた。電解槽は図4に示すラジアル型ものを1槽使用した。
発生させた交流電流の波形は台形波であり、周波数は60Hz、dutyは0.5、電流比r(主電解槽に於けるアルミニウム板のアノード反応時の電気量の総和QFとカソード反応時の電気量の総和QRとの比QR/QF)は0.95とした。電流値がゼロからピークに達するまでの電流立ち上がり時間TPは0.8msecとした。電流密度(主電解槽における交流の平均電流密度)は60A/dm2とした。電気量(主電解槽に於けるアルミニウム板のアノード反応時の電気量の総和)は、表2に示す通りとした。電流比は、補助アノードに分流する電流の量で調整した。
アルミニウム板は、主電解槽内の電解液に対する相対速度が1〜2m/sec、平均で1.5m/secとなるように、主電解槽内に供給された。
その後、ニップローラで液切りし、更に、上記(b)の水洗処理に用いたのと同様の構造のスプレー管を用いて水洗処理を行った後、ニップローラで液切りした。
【0217】
(h)アルカリ水溶液中でのエッチング処理(第3エッチング処理)
アルミニウム板を、水酸化ナトリウム5質量%、アルミニウムイオン0.5質量%、温度35℃の水溶液をスプレー管から吹き付けて、エッチング処理を行った。表2に、アルミニウム板の第2電解粗面化処理が施された面のエッチング量を示す。
その後、ニップローラで液切りし、更に、上記(b)の水洗処理に用いたのと同様の構造のスプレー管を用いて水洗処理を行った後、ニップローラで液切りした。
【0218】
(i)酸性水溶液中でのデスマット処理(第3デスマット処理)
次に、デスマット処理を行った。デスマット処理に用いる酸性水溶液は、陽極酸化処理工程で発生した廃液(硫酸170g/L水溶液中にアルミニウムイオン5.0g/L溶解)を用いた。デスマット処理は、かかる酸性水溶液(液温60℃)をスプレー管から5秒間吹き付けて行った。その後、ニップローラで液切りした。
【0219】
(j)陽極酸化処理
次に、陽極酸化処理装置を用いて陽極酸化処理を行った。
電解液としては、170g/L硫酸水溶液に硫酸アルミニウムを溶解させてアルミニウムイオン濃度を5g/Lとした電解液(温度33℃)を用いた。陽極酸化処理は、アルミニウム板がアノード反応する間の平均電流密度が10A/dm2となるように行い、最終的な酸化皮膜量は2.4g/m2であった。
その後、ニップローラで液切りし、更に、上記(b)の水洗処理に用いたのと同様の構造のスプレー管を用いて水洗処理を行った後、ニップローラで液切りした。
【0220】
(k)親水化処理
アルミニウム板を1号ケイ酸ソーダ4.0質量%水溶液(液温22℃)に8秒間浸せきさせた。蛍光X線分析装置で測定したアルミニウム板表面のSi量は、5.3mg/m2であった。
その後、ニップローラで液切りし、更に、上記(b)の水洗処理に用いたのと同様の構造のスプレー管を用いて水洗処理を行った後、ニップローラで液切りした。その後、90℃の風を10秒間吹き付けて乾燥させて平版印刷版用支持体を得た。
表2に得られた平版印刷版用支持体の平均表面粗さRaを示す。なお、平均表面粗さRaは、上記(a)の機械的粗面化処理の後と同様の条件で測定した。
【0221】
2.機械的粗面化処理後のアルミニウム板の平均表面粗さRaと、得られた平版印刷版用支持体の平均表面粗さRaとの差を計算し、表2に示した。
【0222】
3.平版印刷版原版の作製
上記で得られた各平版印刷版用支持体に、以下のようにしてサーマルポジタイプの画像記録層を設けて平版印刷版原版を得た。
【0223】
上記で得られた各平版印刷版用支持体上に、最初に下記組成の下塗液を塗布し、80℃で15秒間乾燥し、下塗層の塗膜を形成させた。乾燥後の塗膜の被覆量は15mg/m2であった。
【0224】
<下塗液組成>
・下記高分子化合物 0.3g
・メタノール 100g
・水 1g
【0225】
【化1】

【0226】
次いで、下塗層の上に、下記組成の画像記録層用塗布液B1を、乾燥後に0.85g/m2となるようにワイヤーバーで塗布し、140℃で50秒間乾燥させた。
その後、下記組成の画像記録層用塗布液B2を、乾燥後に0.25g/m2となるようにワイヤーバーで塗布し、140℃で1分間乾燥させ、重層型のサーマルポジタイプの画像記録層を形成し、平版印刷版原版を得た。
【0227】
<画像記録層用塗布液B1>
・N−(4−アミノスルホニルフェニル)メタクリルアミド/アクリロニトリル/メタクリル酸メチル共重合体(モル比36/34/30、重量平均分子量50,000) 1.920g
・m,p−クレゾールノボラック(m−クレゾールノボラック/p−クレゾールノボラック比6/4、重量平均分子量4000) 0.213g
・下記式で表されるシアニン染料B 0.032g
・p−トルエンスルホン酸 0.008g
・テトラヒドロ無水フタル酸 0.19g
・ビス−p−ヒドロキシフェニルスルホン 0.126g
・2−メトキシ−4−(N−フェニルアミノ)ベンゼンジアゾニウム・ヘキサフルオロホスフェート 0.032g
・ビクトリアピュアブルーBOHの対アニオンを1−ナフタレンスルホン酸アニオンにした染料 0.078g
・フッ素系界面活性剤(メガファックF−780、大日本インキ化学工業株式会社製) 0.020g
・γ−ブチルラクトン 13.18g
・メチルエチルケトン 25.41g
・1−メトキシ−2−プロパノール 12.97g
【0228】
【化2】

【0229】
<画像記録層用塗布液B2>
・フェノール/m,p−クレゾールノボラック(フェノール/m−クレゾールノボラック/p−クレゾールノボラック比5/3/2、重量平均分子量4000) 0.274g
・上記式で示されるシアニン染料B 0.029g
・下記式で示される構造ポリマーC/メチルエチルケトン30%溶液(構造ポリマーB/メチルエチルケトン30%溶液) 0.14g
・下記式で示される4級アンモニウム塩D 0.004g
・下記式で示されるスルホニウム塩E 0.065g
・フッ素系界面活性剤(メガファックF−780、大日本インキ化学工業株式会社製) 0.004g
・フッ素系界面活性剤(メガファックF−782、大日本インキ化学工業株式会社製) 0.020g
・メチルエチルケトン 10.39g
・1−メトキシー2−プロパノール 20.98g
【0230】
【化3】

【0231】
4.平版印刷版原版の評価
得られた平版印刷版の耐刷性、耐汚れ性、シャイニー(印刷機にセットしたときの版面の光りやすさ(水上がりの見やすさ))、版ズレのし難さ下記の方法で評価した。
【0232】
(1)耐刷性
得られた平版印刷版原版をCreo社製TrendSetterを用いてドラム回転速度150rpm、ビーム強度10Wで画像状に描き込みを行った。
その後、下記組成のアルカリ現像液を仕込んだ富士写真フイルム(株)製PSプロセッサー940Hを用い、液温を30℃に保ち、現像時間20秒で現像し、平版印刷版を得た。なお、いずれの平版印刷版原版も感度は良好であった。
【0233】
<アルカリ現像液組成>
・D−ソルビット 2.5質量%
・水酸化ナトリウム 0.85質量%
・ポリエチレングリコールラウリルエーテル(重量平均分子量1,000)
0.5 質量%
・水 96.15質量%
【0234】
得られた平版印刷版を、小森コーポレーション社製のリスロン印刷機で、大日本インキ化学工業社製のDIC−GEOS(N)墨のインキを用いて印刷し、ベタ画像の濃度が薄くなり始めたと目視で認められた時点の印刷枚数により、耐刷性を評価した。
結果を表2に示す。表中の記号の意味は以下のとおりである。
A:30,000枚以上
A−B:20,000枚以上30,000枚未満
B:10,000枚以上20,000枚未満
【0235】
(2)耐汚れ性
上記(1)耐刷性の評価の場合と同様にして得られた平版印刷版を用い、三菱ダイヤ型F2印刷機(三菱重工業社製)で、DIC−GEOS(s)紅のインキを用いて印刷し、1万枚印刷した後におけるブランケットの汚れを目視で評価した。
結果を表2に示す。表中の記号の意味は以下のとおりである。
A:ブランケットがほとんど汚れていない
A−B:ブランケットがわずかに汚れている
B:ブランケットが汚れているが許容範囲
【0236】
(3)シャイニー
上記(1)耐刷性の評価と同様の方法で得られた平版印刷版を、小森コーポレーション社製のリスロン印刷機に取り付け、湿し水の供給量を増加させながら版面の非画像部の光り具合を目視で観察し、光り始めたときの湿し水の供給量でシャイニー(水上がりの見やすさ)を評価した。
結果を表2に示す。表中の記号の意味は以下のとおりである。
A:湿し水の量を絞っても光りにくい
【0237】
(4)版ずれのし難さ
上記(1)耐刷性の評価と同様の方法で得られた平版印刷版を、小森コーポレーション社製のリスロン印刷機で、大日本インキ化学工業社製のDIC−GEOS(N)墨のインキを用いて印刷し、版ずれのし難さを評価した。
結果を表2に示す。表中の記号の意味は以下のとおりである。
A:版ずれがおきない
B:長時間印刷していると版ずれがおきる
【0238】
表2から明らかなように、本発明の平版印刷版用支持体の製造方法により得られた平版印刷版用支持体を用いた平版印刷版は、耐刷性および耐汚れ性ならびにシャイニーのいずれにも優れ、版ずれもし難いことが分かった。
【0239】
【表2】

【0240】
【表3】

【0241】
【表4】

【0242】
【表5】

【図面の簡単な説明】
【0243】
【図1】本発明の平版印刷版用支持体の製造方法におけるブラシグレイニングの工程の概念を示す側面図である。
【図2】本発明の平版印刷版用支持体の製造方法における水洗処理に用いられる自由落下カーテン状の液膜により水洗処理する装置の模式的な断面図である。
【図3】本発明の平版印刷版用支持体の製造方法における電気化学的粗面化処理に用いられる交流電流の波形の一例を示す図である。
【図4】本発明の平版印刷版用支持体の製造方法における交流を用いた電気化学的粗面化処理におけるラジアル型セルの一例を示す側面図である。
【図5】本発明の平版印刷版用支持体の製造方法における陽極酸化処理に用いられる陽極酸化処理装置の概略図である。
【図6】本発明の平版印刷版用支持体の製造方法における陽極酸化処理に用いられる他の陽極酸化処理装置の概略図である。
【図7】算術平均傾斜Δaの求め方を示す本発明の平版印刷版用支持体の模式的な断面図である。
【図8】本発明の平版印刷版用支持体の模式的な断面図である。
【符号の説明】
【0244】
1 アルミニウム板
2、4 ローラ状ブラシ
3 研磨スラリー液
5、6、7、8 支持ローラ
11 アルミニウム板
12 ラジアルドラムローラ
13a、13b 主極
14 電解処理液
15 電解液供給口
16 スリット
17 電解液通路
18 補助陽極
19a、19b サイリスタ
20 交流電源
40 主電解槽
50 補助陽極槽
100 自由落下カーテン状の液膜により水洗処理する装置
102 水
104 貯水タンク
106 給水筒
108 整流部
410 陽極酸化処理装置
412 給電槽
413 中間槽
414 陽極酸化処理槽
416 アルミニウム板
418、426 電解液
420 陽極
422、428 パスローラ
424 ニップローラ
430 陰極
434 直流電源
436、438 給液ノズル
440 しゃへい板
442 排液口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マンガンおよびマグネシウムを合計で0.05〜1.5質量%含有するアルミニウム板に、少なくとも、ブラシと研磨剤を含有するスラリー液とを用いて平均表面粗さRaが0.30〜0.43μmとなるように粗面化を施す機械的粗面化処理を施し、
更に、前記機械的粗面化処理の後に、電気化学的粗面化処理および化学的エッチング処理をこの順に施して、
前記機械的粗面化処理の後の平均表面粗さRaに対して、平均表面粗さRaが0.10〜0.20μm大きくなり、かつ、平均表面粗さRaが0.42〜0.60μmとなる平版印刷版用支持体を得る、平版印刷版用支持体の製造方法。
【請求項2】
前記アルミニウム板に、前記機械的粗面化処理と前記電気化学的粗面化処理との間に、アルカリ水溶液中でエッチングを施すアルカリエッチング処理を施し、
前記アルミニウム板に、前記電気化学的粗面化処理の後に行われる前記化学的エッチング処理の後に、塩酸を含有する水溶液中で交流電流を用いて粗面化を施す電気化学的粗面化処理と、陽極酸化処理とをこの順に施して、平版印刷版用支持体を得る、請求項1に記載の平版印刷版用支持体の製造方法。
【請求項3】
前記アルミニウム板が、アルミニウム純度が95.0〜99.4質量%のアルミニウム地金と、アルミニウム新地金および/または使用済み平版印刷板とを、1:99〜99:1となる割合で使用して製造したアルミニウム圧延板である請求項1または2に記載の平版印刷版用支持体の製造方法。
【請求項4】
前記アルミニウム地金が、使用済みアルミニウム容器を原料としたものである請求項3に記載の平版印刷版用支持体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−114404(P2008−114404A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−297536(P2006−297536)
【出願日】平成18年11月1日(2006.11.1)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】