説明

平版印刷版用版面洗浄剤

【課題】平版印刷版において優れた汚れ除去能力を有し、かつ印刷版上に紙粉が堆積しても容易に洗浄することができる平版印刷版用版面洗浄剤を提供する。
【解決手段】炭素原子数16〜24の直鎖状不飽和脂肪酸を10質量%以上含有し、さらにリン酸、重合リン酸、そのアルカリ金属塩及び有機ホスホン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物、及び水を含有することを特徴とする乳化型版面洗浄剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は平版印刷版の版面洗浄剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
平版印刷は、水と油が本質的に混り合わない性質を巧みに利用した印刷方式であり、印刷版面は水を受容し、油性インキを反撥する領域と水を反撥して油性インキを受容する領域から成り、前者が非画像域であり、後者が画像域である。従ってその均衡が崩れ、例えば非画像域の親水性が何らかの原因で劣化するとしばしばその領域にインキが付着し、所謂「地汚れ」と成る。このような地汚れが発生する場合は多種多様であるが、代表的なものは、平版印刷版を高耐刷力とするために施されるバーニングなどの処置を施した場合や、平版印刷版の版面を不感脂化ガムで保護することなく大気中に放置した場合がある。この様な現象は、印刷時に印刷機のトラブル又は休憩時間などで印刷機を停止した場合などに於いても同様に起きることがある。従って通常、印刷機を停止する場合、印刷関係者などは不感脂化ガム液を塗布する習慣がある。また、不感脂化ガムが塗布されていない平版印刷版の非画像域に親油性の物が付着し放置された場合、その部分が感脂化され、汚れとなる。例えば指紋などの跡が印刷物の背景に現れるのも、同様な原因によるものである。更にまた、非画像域に傷が付いた場合であり、この場合は傷の中にインキが詰まり、次第に感脂化されて汚れとなる。
【0003】
上述のような、汚れの発生した平版印刷版は、版面のインキを除去すると共に非画像域の親水性を回復せしめるための所謂版面洗浄剤(プレートクリーナーと呼ぶこともある。)で処理されるものが通例である。かかる版面洗浄剤の例として、従来珪酸ナトリウム水溶液から成るものが知られていた。しかしながら、この版面洗浄剤は不感脂化作用が極めて高いという効果を有するものの、アルカリ性のため、水性アルカリ現像液で現像される感光性平版印刷版、例えば特公昭43−28403号公報、及び米国特許第3,046,120号明細書などに記載されているo−キノンジアジド化合物からなる感光層を有するポジ作用感光性平版印刷版、又は特開昭54−98613号公報、及び英国特許1,350,521号明細書などに記載されているような酸性基を有するバインダとジアゾ樹脂からなる感光層を有するネガ作用感光性平版印刷版などから製版された平版印刷版に使用すると画像域の一部が侵されたり、インキの付着性が劣化するという問題があった。
他方、蓚酸を用いたプレートクリーナーが提案されている(例えば特許文献1参照)。このプレートクリーナーは不感脂化力が弱く、金属支持体を腐食する作用が強いため、アルミニウム板を支持体とする通常の感光性平版印刷版(PS版と称されている。)の支持体表面に施されている親水層(例えば米国特許第2,714,066号明細書に記載されているような親水化処理により形成された層)が破壊され、汚れを引起し易いので金属支持体には適性がない。
【0004】
一般に印刷中に汚れが発生した場合は先ず、版面のインキを洗浄剤(灯油又は炭化水素系溶剤)で除去し、次いで不感脂化処理剤で処理する。上記のような従来の版面洗浄剤も、版面をインキ洗浄剤で洗浄した後に施こす必要があるため、版面洗浄剤処理をするときには処理工程が2工程となり繁雑である。そのため近年、両機能を統合させた乳化型即ちインキ洗浄剤作用及び不感脂化作用を兼ね備えた版面洗浄剤が開発されている。そのような版面洗浄剤としてアルカリ性の乳化型版面洗浄剤が提案されており(例えば特許文献2参照)、あるいは酸性の乳化型版面洗浄剤が提案されている(例えば特許文献3参照)。しかしながら、このような乳化型版面洗浄剤は、バーニング処理した平版印刷版に対する汚れ除去力が劣り、又傷汚れなどに対しては不感脂化作用の持続性が不充分であって、印刷の途中でしばしば汚れが再発するという欠点が有った。
また、印刷を続けていくに従い、印刷版上に印刷用紙に由来するいわゆる紙粉と呼ばれるものが堆積することがある。紙粉が堆積すると、画像部でのインキ着肉性が阻害され印刷物の濃度が低下する。この紙粉の成分は、炭酸カルシウムやカオリンクレー、タルク等であり、これらはインキに比較してより親水的な性質を持ち従来のインキ溶解剤では洗浄しづらいという欠点があった。
【0005】
【特許文献1】米国特許第3,489,561号明細書
【特許文献2】特開昭52−15702号公報
【特許文献3】特開昭53−2102号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、平版印刷版において優れた汚れ除去能力を有し、かつ印刷版上に紙粉が堆積しても容易に洗浄することができる平版印刷版用版面洗浄剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は種々研究を重ねた結果、下記組成の版面洗浄剤により上記の諸目的が達成されることを見出した。
すなわち本発明は、
1) 炭素原子数16〜24の直鎖状不飽和脂肪酸を10質量%以上含有し、さらにリン酸、重合リン酸、そのアルカリ金属塩及び有機ホスホン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物、及び水を含有することを特徴とする乳化型版面洗浄剤である。
2) 好ましい実施態様として、上記1)の組成にさらに大豆から抽出された皮膜形成性を有する多糖類を含む乳化型版面洗浄剤がある。
3) 別の好ましい実施態様として、上記1)又は2)の組成にさらにノニオン界面活性剤及びアニオン界面活性剤から選ばれる少なくとも1種を含む乳化型版面洗浄剤がある。
4) また別の好ましい実施態様として、上記1)、2)又は3)の組成にさらに有機カルボン酸を含む、請求項1〜3のいずれか1項記載の乳化型版面洗浄剤がある。
【発明の効果】
【0008】
本発明の乳化型版面洗浄剤は、製版時又はその後の保存、印刷中その他、製版から印刷迄の全ての段階に於いて、平版印刷版に発生した原因に基づく地汚れを除去することができる。
本発明の乳化型版面洗浄剤によれば、従来のインキ溶解剤では除去しづらい印刷版に堆積した紙粉も、容易に洗浄し除去することができる。
本発明の乳化型版面洗浄剤は、既存の版面洗浄剤にある欠点、例えば、特定の版にのみ適性を有する;一部の版に対しては画像を傷つけたり着肉性を悪化させたり或いは非画像部の親水層を腐食し破壊する;非画像部の親水層の傷に起因する汚れの回復能力が劣る、などの欠点を克服したものであり、ネガ又はポジのいずれのPS版から作成された平版印刷版にも有用である。
本発明の乳化型版面洗浄剤は、平版印刷版の非画像部の親水層に発生した傷などのために生じる地汚れを防止する作用や、回復した親水性を維持、強化する働きが極めて強力である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の乳化型版面洗浄剤のより具体的な組成例として、(1)炭素原子数16〜24の直鎖状不飽和脂肪酸を含む油相と、(2)リン酸、重合リン酸、そのアルカリ金属塩及び有機ホスホン酸からなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物、(3)大豆から抽出された皮膜形成性を有する多糖類、(4)有機カルボン酸、更に(5)硝酸塩、硫酸塩及び重硫酸塩から選ばれる少なくとも一種、及び(6)水を含む水相とからなる乳化型版面洗浄剤がある。
上記組成物には更に、平版インキに対する溶解作用を具備する(7)炭化水素系溶剤及び/又はアルコール類、(8)界面活性剤、(9)水溶性コロイド物質、(10)湿潤剤、(11)チキソトロピィー剤、(12)pH調整剤などを必要に応じて含有させることができる。本発明の版面洗浄剤には、上記成分の他に防腐剤、殺菌剤、染料などを添加してもよい。
【0010】
本発明で使用する上記成分(1)の炭素原子数16〜24の直鎖状不飽和脂肪酸としては、具体的にはモノエン、ジエン、トリエン、テトラエン及びペンタエン直鎖状モノカルボン酸が挙げられる。
モノエン直鎖状脂肪酸として、パルミトオレイン酸(C1529CO2H)、オレイン酸(C1733CO2H)、エライジン酸(C1733CO2H)、ペトロセリン酸(C1733CO2H)、バクセン酸(C1733CO2H)、リシノール酸(C18343)、エルカ酸(C2141CO2H)、ネルボン酸(C2345CO2H)などがあり、ジエン直鎖状脂肪酸としてリノール酸(C1731CO2H)などがあり、トリエン直鎖状脂肪酸としてα-リノレン酸(C1729CO2H)、エレオステアリン酸(C1729CO2H)などがあり、テトラエン直鎖状脂肪酸としてアラキドン酸(C1931CO2H)などがあり、ペンタエン直鎖状脂肪酸としてエイコサペンタエン酸(C1929CO2H)などが挙げられる。
該直鎖状不飽和脂肪酸の炭素原子数は好ましくは16〜20、より好ましくは16〜18、最も好ましくは炭素原子数18である。
本発明の乳化型版面洗浄剤において、炭素原子数16〜24の直鎖状不飽和脂肪酸を1種単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。中でもオレイン酸、リノール酸及びリノレイン酸から選ばれる少なくとも1種を好ましく使用することができる。
直鎖状不飽和脂肪酸としては市販品を使用することができ、例えば日本油脂(株)製エキストラシリーズのオレイン酸、リノール酸、リノレイン酸などがある。
乳化型版面洗浄剤における上記直鎖状不飽和脂肪酸の使用量は、組成物の全質量に対して10〜70質量%の範囲が一般的であり、好ましくは10〜50質量%の範囲であり、より好ましくは15〜35質量%の範囲である。
【0011】
上記成分(2)としては例えばリン酸、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸リチウム、ピロ燐酸、ピロ燐酸ナトリウム、ピロ燐酸カリウム、ピロ燐酸リチウム、トリポリ燐酸、トリポリ燐酸ナトリウム、トリポリ燐酸カリウム、トリポリ燐酸リチウム、テトラ燐酸、テトラ燐酸ナトリウム、テトラ燐酸カリウム、テトラ燐酸リチウム、ヘキサメタ燐酸、ヘキサメタ燐酸ナトリウム、ヘキサメタ燐酸カリウム、ヘキサメタ燐酸リチウム、イノシトール六リン酸(別名:フィチン酸)、メチレンジホスホン酸、1−ヒドロキシエタン1,1−ジホスホン酸、ニトリロトリスホスホン酸、N−カルボキシメチルN,N−ジ(メチレンホスホン酸)、ヘキサメチレンジアミン−テトラ(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミン−テトラ(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミン−ペンタ(メチレンホスホン酸)、N,N−ジ(カルボキシメチル)−N−メチレンホスホン酸、N−(2−ヒドロキシエチル)−N,N−ジ(メチレンホスホン酸)、N−ヒドロキシメチル−N,N’N’−エチレンジアミントリス(メチレンホスホン酸)、N−ヒドロキシエチル−N’,N’−ジエチルエチレンジアミン−N,N,N’,N’−テトラ(メチレンホスホン酸)、ジ(2−ヒドロキシプロピレン)トリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)、トリ(2−ヒドロキシプロピレン)テトラアミンヘキサ(メチレンホスホン酸)などを挙げることができる。これらの化合物は市販品として入手でき、例えばモンサント・ケミカル・カンパニー (Monsanto Chemical Company)から「DEQUEST類」としてまたフィリップ・A・ハント・ケミカル・コーポレーション (Philip A Hant Chemical Corp)のウエイランドケミカル部門 (Wayland Chemical Division ) から「WAYPLEX」類として市販されている。上記のような化合物は、単独又は2種以上組み合わせて用いることができる。
中でもリン酸、ヘキサメタ燐酸、ピロ燐酸、これらのアルカリ金属塩、及びフィチン酸などが好ましく用いられる。
上記成分(2)の版面洗浄剤における含有量は0.1〜15質量%が適当であり、より好ましくは0.5〜10質量%の範囲の量である。
【0012】
上記成分(3)の大豆から抽出された皮膜形成性を有する多糖類として、水溶性大豆多糖類が挙げられる。水溶性大豆多糖類はラムノース、フコース、アラビノース、キシロース、ガラクトース、グルコース及びウロン酸等を構成糖に含有し、その平均分子量は5〜100万である。本発明の版面洗浄剤において水溶性大豆多糖類の含有量は、0.5〜20質量%の範囲が適当であって、好ましくは1〜10質量%である。上記水溶性大豆多糖類は水あるいは50℃以下の温水に溶解し、均一な水溶液として使用する。このような水溶性大豆多糖類の製造方法は特開平5−32701号公報に記載されている。また、水溶性大豆多糖類の市販品としてはソヤファイブ−S−LN(不二製油(株)製)等が挙げられる。本発明で使用できる大豆多糖類は10質量%水溶液の粘度(25℃)が5〜100cpの範囲のものが好ましく使用される。
【0013】
本発明に使用される成分(4)の有機カルボン酸としては、クエン酸、酢酸、マロン酸、酒石酸、りんご酸、乳酸、レブリン酸、酪酸、マレイン酸、ピコリン酸などが使用される。成分(3)として1種又は2種以上の有機カルボン酸を使用することができる。中でもクエン酸、りんご酸、及びマレイン酸が好ましく用いられる。
有機カルボン酸の使用量は版面洗浄剤全質量の0.5〜10質量%が一般的であり、より好ましくは1〜5質量%である。
【0014】
本発明に使用される成分(5)の硝酸塩は水溶性の硝酸塩であって、例として硝酸亜鉛、硝酸コバルト、硝酸マグネシウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸ニッケル、硝酸ビスマス、硝酸錫、硝酸ストロンチウム、硝酸セシウム、硝酸セリウムなどの硝酸の金属塩、及び硝酸アンモニウムなどが挙げられる。これらの硝酸塩は1種単独で用いてもよいし2種以上を組み合わせて用いてもよい。本発明の版面洗
浄剤において、水溶性の硝酸金属塩の使用量は、版面洗浄剤全質量の0.5〜10質量%が一般的であり、より好ましくは1〜5質量%である。
本発明に使用される成分(5)の硫酸塩又は重硫酸塩として、例えば硫酸塩としては硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸アルミニウムなどを挙げることができる。重硫酸塩は一般式 M(HSO4)n (但し、Mは金属を示し、nはMの価数を示す。)で表わされ、例えば硫酸水素ストロンチウム、硫酸水素カリウム、硫酸水素カルシウム、硫酸水素タリウム、硫酸水素ナトリウム、硫酸水素鉛、硫酸水素ビスマス、硫酸水素マグネシウム、硫酸水素ロジウムなどが挙げられる。これらの硫酸塩及び重硫酸塩から、1種あるいは2種以上を組み合わせて用いてよい。本発明の版面洗浄剤において硫酸塩及び/又は重硫酸塩の使用量は、版面洗浄剤の総質量を基準として一般的に0.01〜5質量%、より好ましくは0.1〜3質量%の範囲である。
本発明の版面洗浄剤には硝酸塩、硫酸塩及び重硫酸塩から選ばれる少なくとも一種を含ませることができ、これら成分(5)の含有量は0.5〜10質量%が適当で、より好ましくは1〜8質量%である。
【0015】
本発明の版面洗浄剤の水相の残余の成分は水であり、その量は版面洗浄剤の総質量に対して30〜85質量%が一般的であり、より好ましくは35〜80質量%である。
【0016】
一方、本発明の版面洗浄剤の油相にさらに含ませてもよい成分(7)の炭化水素系溶剤及び/又はアルコール類は、平版印刷インキを溶解する作用を有するものである。炭化水素系溶剤としては、通常印刷インキの洗浄に使われている石油留分で沸点が120〜320℃のものが特に有用である。炭化水素系溶剤の例として芳香族系混合溶剤があり、例えばソルベント(日本石油化学(株)製)、スワゾール(丸善石油化学(株)製)及びエクスゾール(エクソン化学(株)製)などがある。また、アルコール類の例として3−メチル−3−メトキシブタノールなどがある。このような成分(7)は1種又は2種以上使用してもよく、その使用範囲は、一般的に版面洗浄剤の全質量の0〜40質量%の範囲であり、より好ましくは0〜30質量%である。
【0017】
本発明で使用する上記成分(1)や上記成分(7)は、成分(6)の水と混ざり合わないため、使用する時に充分混合分散した状態で用いる。このとき分散の安定性を高める目的で成分(8)の界面活性剤を添加することが有用である。本発明に使用できる界面活性剤としてはアニオン型界面活性剤及びノニオン型界面活性剤がある。
アニオン型界面活性剤としては、脂肪酸塩類、アビエチン酸塩類、ヒドロキシアルカンスルホン酸塩類、アルカンスルホン酸塩類、ジアルキルスルホコハク酸塩類、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩類、分岐鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩類、アルキルナフタレンスルホン酸塩類、アルキルフェノキシポリオキシエチレンプロピルスルホン酸塩類、ポリオキシエチレンアルキルスルホフェニルエーテル塩類、N−メチル−N−オレイルタウリンナトリウム塩類、N−アルキルスルホコハク酸モノアミド二ナトリウム塩類、石油スルホン酸塩類、硫酸化ヒマシ油、硫酸化牛脂油、脂肪酸アルキルエステルの硫酸エステル塩類、アルキル硫酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩類、脂肪酸モノグリセリド硫酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩類、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテル硫酸エステル塩類、アルキル燐酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルエーテル燐酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル燐酸エステル塩類、スチレン−無水マレイン酸共重合物の部分ケン化物類、オレフィン−無水マレイン酸共重合物の部分ケン化物類、ナフタレンスルホン酸塩ホルマリン縮合物類などが挙げられる。これらの中でもジアルキルスルホコハク酸塩類、アルキル硫酸エステル塩類及びアルキルベンゼンスルホン酸塩類が特に好ましく用いられる。
【0018】
また、ノニオン型界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレンポリスチリルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル類、グリセリン脂肪酸部分エステル類、ソルビタン脂肪酸部分エステル類、ペンタエリスリトール脂肪酸部分エステル類、プロピレングリコールモノ脂肪酸エステル類、ショ糖脂肪酸部分エステル類、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸部分エステル類、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸部分エステル類、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル類、ポリグリセリン脂肪酸部分エステル類、ポリオキシエチレン化ヒマシ油類、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸部分エステル類、脂肪酸ジエタノールアミド類、N,N−ビス−2−ヒドロキシアルキルアミン類、ポリオキシエチレンアルキルアミン類、トリエタノールアミン脂肪酸エステル類、トリアルキルアミンオキシド類などが挙げられる。その中でもポリオキシエチレン化ヒマシ油類、ソルビタン脂肪酸部分エステル類などが好ましく用いられる。これらの界面活性剤は二種以上併用してもよい。版面洗浄剤における界面活性剤の使用量は特に限定されるものではないが、好ましい範囲は版面洗浄剤の全質量の0.5〜10質量%である。
【0019】
成分(9)水溶性コロイド物質は粘度調整剤であり、版面洗浄剤全体の25℃における粘度が10cps〜1000cpsの範囲となるように使用するのが適当である。好ましい具体例としてはデキストリン、サイクロデキストリン、アルギン酸塩、繊維素誘導体(例えば、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロースなど)などの天然物とその変性体及びポリビニルアルコール及びその誘導体、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド及びその共重合体、アクリル酸共重合体、ビニルメチルエーテル/無水マレイン酸共重合体、酢酸ビニル/無水マレイン酸共重合体、スチレン/無水マレイン酸共重合体などの合成物があり、これらの物質は単独又は混合して使うことができる。上述のような粘度範囲とするための水溶性コロイド物質の使用範囲は版面洗浄剤の全質量の1〜24質量%、より好ましくは3〜20質量%から選ぶことができる。
【0020】
上記成分の他、版面洗浄剤に良好な広がり特性を与え、乾燥を抑えて使用適性を良好にする観点から、一種又はそれ以上の湿潤剤(成分(10))も有用である。適当な湿潤剤として一般式:HO-(R-O)n -H(式中Rは CmH2m(m=2〜6)であり、nは1〜500である。)で表される化合物が挙げられる。好ましい化合物の例をあげると、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ペンタンジオール、ヘキシレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコールなどである。その他の湿潤剤としてグリセリン、ソルビトール、ペンタエリスリトールが有用である。湿潤剤の使用量は版面洗浄剤の全質量の1〜30質量%の範囲で効果が認められ、より好ましくは2〜20質量%の範囲である。
【0021】
成分(11)のチキソトロピー剤は動的圧力によって液の粘度が低下し、静置のときは粘度が上昇してスポンジなどで版面を処理するときの作業特性を良好にする。適当なチキソトロピー剤としては、珪酸の微粉末、パミス、炭酸カルシウム、ゼオライトなどが挙げられる。その使用量は版面洗浄剤の全質量の1〜10質量%の範囲が適当であり、好ましくは2〜7質量%の範囲である。
【0022】
本発明の版面洗浄剤は、通常酸性で使用されるものであり、一般的にpH1〜4の範囲に調整される。このようなpH範囲に調整するために使用するpH調整剤(成分(12))としては硫酸、亜リン酸、クエン酸、酢酸、蓚酸、マロン酸、酒石酸、りんご酸、乳酸、レブリン酸、酪酸、マレイン酸、ピコリン酸などの酸が使用され、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムなどのアルカリを併用してもよい。
【0023】
本発明の乳化型版面洗浄剤の製造方法の一例として、水相と油相とをそれぞれ調製し、水相に油相を滴下して分散液を作り、これをホモジナイザーにかけてさらに乳化することができる。
本発明の乳化型版面洗浄剤の使用方法としては、例えばウェスなどに含ませて版面を拭き、適宜の時間放置して、その後水で拭き取ればよい。
【実施例】
【0024】
次に本発明の版面洗浄剤を実施例をもって説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお「部」および「%」は他に指定のない限り、それぞれ質量部および質量%を示す。
【0025】
[実施例1〜6及び比較例1〜5]
水相として純水450質量部に水溶性大豆多糖類(不二製油(株)社製:商品名ソヤファイブ−S−LN:分析値ガラクトース43.6%、アラビノース22.5%、ガラクツロン酸2.2%、残存蛋白4.7%)を50重量部溶解し、さらに表1及び2記載(単位:質量部)の酸成分を表記載の添加量で加え、攪拌しながら溶解し、順次硝酸マグネシウム20質量部、硫酸水素ナトリウム5質量部を添加し、防腐剤として4−イソチアゾリン−3−オン誘導体 2質量部、湿潤剤としてグリセリン40質量部を混合した。これに水酸化ナトリウムもしくはクエン酸によりpHを3.0に調整し、水を加え合計650質量部となるよう水相を調製した。一方、油相として表記載のインキ溶解剤に乳化剤としてペレックスOT−P(花王(株)製ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム)20質量部、パイオニンD−212(竹本油脂(株)製ヒマシ油エーテル)10質量部、ノニオンOP−80(日本油脂(株)製ソルビタンモノオレート)5質量部を溶解し、合計350質量部となるよう油相を調製した。
次に、上記のように調製した水相を攪拌加温し35℃に調整し、ゆっくりと油相を滴下し分散液を作成し、ホモジナイザーを通し乳白色の乳化型版面洗浄剤を作成した。
【0026】
一方平版印刷版としてHPS−II(富士写真フイルム(株)製PS版)を標準条件で製版した印刷版を3分割し(プレートA〜C)、下記に示す条件で各版を処理した。
[各プレートの処理条件]
プレートA:空気酸化汚れ(ガム塗布なしの状態で、150℃の乾燥機中に3時間保管した。)
プレートB:傷汚れ(引掻き試験器(新東科学(株)製)を用いてダイヤ針4Rに荷重100g、200g、300gで引掻き傷をつけ、大気中に3日間放置した。)
プレートC:正常プレート(通常製版でガム塗布しバフドライし保管した。)
【0027】
これらの版を、ハイデルベルグSOR−M型印刷機上で、VALUES−G紅(大日本インキ化学工業株式会社製)インキと、湿し水としてECOLITY-2(富士写真フイルム(株)製)を2%の濃度で用いて、印刷に供した。
その後、プレートA〜Cに、先に調製した各種乳化型版面洗浄剤を適用し約30秒間放置したのち、水で拭き取り、再び印刷に供した。得られた印刷物上での汚れを正常プレートCと比較して観察し、各種版面洗浄剤による汚れ除去能力を評価した。
汚れ除去の程度は、○:優れている、△:やや劣る、×:劣る、の3段階で評価した。
【0028】
紙粉除去性のテスト条件
前記の正常プレートで3万枚印刷を行い、印刷後の版を回収し、版面に付着した紙粉汚れを各種版面洗浄剤を染み込ませた布で軽く拭き、紙粉の取れ易さを評価した。取れ易さの程度は、○:優れている、△:やや劣る、×:劣る、の3段階で評価した。
結果を表1及び2に合わせて示す。
表1及び2の結果から、本発明の乳化型版面洗浄剤が各種の汚れに対して良好な除去性を発揮し、また正常プレートに対しても悪影響がないこと(表中○で示している)が判る。さらに本発明の乳化型版面洗浄剤は、紙粉除去性にも優れていることが判る。


















【0029】
【表1】

*1:4−イソチアゾリン−3−オン誘導体
*2丸善石油化学(株)製
*33−メチル−3−メトキシブタノール((株)クラレ製)











【0030】
【表2】

*1*3は表1と同じである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素原子数16〜24の直鎖状不飽和脂肪酸を10質量%以上含有し、さらにリン酸、重合リン酸、そのアルカリ金属塩及び有機ホスホン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物、及び水を含有することを特徴とする乳化型版面洗浄剤。
【請求項2】
さらに大豆から抽出された皮膜形成性を有する多糖類を含む、請求項1記載の乳化型版面洗浄剤。
【請求項3】
さらにノニオン界面活性剤及びアニオン界面活性剤から選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1又は2記載の乳化型版面洗浄剤。
【請求項4】
さらに有機カルボン酸を含む、請求項1〜3のいずれか1項記載の乳化型版面洗浄剤。

【公開番号】特開2008−80635(P2008−80635A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−262986(P2006−262986)
【出願日】平成18年9月27日(2006.9.27)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】