説明

平版印刷用の版

【課題】明室で取り扱うことができ、現像や拭き取り操作が不要で、感度、解像度および種々の印刷特性に優れたCTP用の版に用いられる印刷用原版、およびそれを用いた印刷版、並びにその製造方法を提供する。
【解決手段】基板に、親水性ポリマー、架橋剤および光吸収剤、または、親水性ポリマー、架橋剤、光吸収剤および疎水性ポリマーを含有する架橋樹脂からなる感光層を設ける。光の照射により感光層の撥インク性が親インク性に変化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷用の版、特に近赤外領域の光に感光し、明室でも取り扱うことができ、版に直接レーザー光で描画でき、かつ現像や拭き取り操作が不要で、種々の印刷特性に優れた平版印刷用の版であって、湿し水を用いる平版印刷用の版に関する。
【背景技術】
【0002】
平版印刷、いわゆるオフセット印刷は、紙への印刷において主流であり、広く用いられている。従来、このオフセット印刷で用いられる刷版は、印刷原稿を一旦、紙などに出力した後、この原稿を写真撮影して版下フィルムを作成し、この版下フィルムを通して感光性の刷版を露光、現像することにより作られていた。
【0003】
しかし、近年情報のデジタル化とレーザーの高出力化により刷版の作成において、上記した版下フィルムを使用せずに、レーザーを走査して直接、刷版に描画して版を作成する方法、いわゆるCTP(Computer To Plate)法が実用に供されている。
【0004】
現在実用化されているCTP用の版としては、500nm前後の可視光による光反応を用いたフォトポリマー型の刷版があるが、この版は、現像を必要とするだけでなく、解像度が劣り、また明室での取り扱いができないという問題点がある。
【0005】
そして、このような問題点を改良するために、特開平7−20629号公報には、近赤外線領域の光による熱反応を用いた刷版が開示され、該版は既に市場に供されている。
しかしこの版は、確かに明室で取り扱うことができ、かつ解像度も優れるが、依然として現像処理を必要とする。
【0006】
また、特開平8−282142号公報には、非画線部が親水性膨潤層からなる版が、開示されている。この版は、親水性膨潤層を成膜してから感光性物質をこの親水性膨潤層に吸収させて感光性を持たせている。そして、画像部は、露光により親水性膨潤層中の感光性物質が反応して親水性を失うが、親インク化が十分でなく着インク性に劣る。一方、非画像部には、感光性物質が残っているために、露光後に非画像部の感光性物質を洗い流すリンス処理を必要とする。
【0007】
さらに、現像処理の不要な版として、特開平7−314934号公報には、チタンまたはチタン酸化物などの、無機系の光吸収層の上に、シリコーン樹脂からなる撥インク層を積層した構成の版が開示されている。そして、該版も市販されているが、この版はシリコーン樹脂層がインクをはじき非画線部となり、近赤外光の照射により画線部が形成されるが、印刷に際しては、光を照射した後にシリコーン樹脂層を除去し、親インク性の基体表面を露呈させる。このシリコーン樹脂層を完全に除去するために、拭き取り操作を必要とし、このシリコーン樹脂の拭き取りが不十分な場合は、照射部にインクが十分に付着せず画線部に欠陥が生じ、うまく印刷できない。
【0008】
また、例えば、特開平6−199064号公報には、基板上に、ニトロセルロースにカーボンブラックを分散した光吸収層と、その上に親水層または撥インク層を積層してなる版が開示されている。この版は、光照射時に光吸収層が熱分解し、光吸収層とその上の親水層または撥インク層が取り除かれ、親インク性の基体表面を露呈させる、いわゆるアブレーションによって版の露光が行われる。この版は、明室でも取り扱うことができ、現像や拭き取りなどの処理は不要であるが、光吸収層とその上の親水層または撥インク層の除去に多大なエネルギーが必要となり、露光に長い時間を必要とし、さらに除去された光吸
収層とその上の親水層または撥インク層やその分解物の一部が、版の露光部周辺の、未露光部の親水層または撥インク層の上に堆積し、インクが付着するといった性質の低下を招くという問題がある。
【0009】
また、アブレーションによらない版としては、米国特許第3,793,033号明細書に、ヒドロキシエチルセルロースと、フェノール樹脂および光ラジカル発生剤とからなる感光層に、光を照射することによる硬化により親油化する技術が開示されているが、親水性と光照射後の親油性のバランスが悪く、きれいな印刷ができない。
【0010】
また、特開昭60−52932号公報には、非吸水性の樹脂膜の表面をスルホン化することにより親水化して、該スルホン化された表層を、光の照射により除去して親油化する版が開示されている。この場合は、アブレーションによるが、極表層だけであるので分解物の発生は極微量であり、この点からは改良されてはいるものの、親水性が不十分で、地汚れし易く、さらに、スルホン化処理が煩雑で、かつ危険性を伴い好ましくない。
【0011】
特開平9−127683号公報および同9−171249号公報には、親水性支持体に、露光により溶融・融着して親インク性に変化する水分散性熱可塑性樹脂粒子を含有する感光層からなる版が開示されている。これらの版の、感光層の未露光部は水に溶解し、容易に除去可能であり、専用の現像機を必要とはせず、印刷機上で湿し水にて現像することができ、印刷機上現像方式として実用化されている。しかし、印刷機上で現像した場合、湿し水やインクを汚染するだけでなく、版の湿度管理に厳しさが要求されるという欠点を有する。
【0012】
湿式現像も印刷機上現像も必要としない版として、米国特許第3,476,937号明細書には、独立し、かつ接触関係にある疎水性熱可塑性樹脂微粒子を含有する親水性樹脂層を有し、熱により疎水性熱可塑性樹脂微粒子が融着し、親水性が変化する版が開示されている。しかし、この版は特に光照射で描画した際には、感度が低く、かつ親水性樹脂層は、強度が弱く印刷性に劣る。また、着インク性を改善するために疎水性熱可塑性樹脂の量を増やすと、簡単に地汚れしてしまうという欠点を有する。
【0013】
さらに、特開平7−1850号公報には、親水性樹脂中に、該親水性樹脂中の親水基と反応する親油性物質を含むマイクロカプセルを含有する感光層からなり、光の照射によりマイクロカプセルを破壊して親水性樹脂を親油化する技術が開示されている。しかしこの方法は、解像度を上げたり、地汚れを防止するには、マイクロカプセルの粒径を小さくしなければならず、製造が非常に困難であった。また、サーマルヘッドによる印字では熱と圧力により比較的きれいにマイクロカプセルが壊れるが、光照射による印字においてはマイクロカプセルが均一に壊れず、解像度に劣る。
【0014】
また、樹脂などを含有する光吸収層を成膜した基板に、別の基板を密着させて光を照射し、その際発生する熱により光吸収層などを他方の基板に転写する方法も提案されてはいるが、この方法は、ゴミなどが付着したりして、基板同士を均一に密着させるのが困難であったり、転写に多大なエネルギーを必要としたり、かつ、転写した光吸収層の強度が弱く印刷時に剥がれてしまうという欠点がある。
【0015】
このように、従来のCTP用の印刷版は、上記した種々の問題点を抱えており、このような問題点を改良したCTP用の版の開発が強く望まれていた。
本発明は、上記のような従来技術に伴う問題点を解決するためのものであって、明室で取り扱うことができ、現像や拭き取り操作が不要で、かつ感度、解像度および種々の印刷特性に優れたCTP用の版に用いられる印刷用原版、およびそれを用いた印刷版、並びにその製造方法を提供することを課題とする。
【発明の開示】
【0016】
本発明者らは、このような課題を解決するために鋭意検討したところ、基板に撥インク性を有する架橋樹脂からなる感光層を設け、該感光層が光照射によりその撥インク性が親インク性に変化するような平版印刷用の原版、およびそれを用いた平版印刷用の版が、上記の課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0017】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、
基板に直接または他の層を介して、撥インク性を有する架橋樹脂からなる感光層を設けた平版印刷用の原版であって、光の照射により該感光層の撥インク性が親インク性に変化する性質を有する平版印刷用の原版が提供される。
【0018】
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、
前記感光層が、親水性ポリマー、架橋剤および光吸収剤を含有する感光性組成物を架橋してなる親水性樹脂感光層である平版印刷用の原版が提供される。
【0019】
また、本発明の第3の発明によれば、第1の発明において、
前記感光層が、親水性ポリマー、架橋剤、光吸収剤および疎水性ポリマーを含有する感光性組成物を架橋してなる親水性樹脂感光層である平版印刷用の原版が提供される。
【0020】
また、本発明の第4の発明によれば、第2の発明において、
前記親水性樹脂感光層が、親水性ポリマー相と疎水性ポリマー相とからなる相分離構造を有する平版印刷用の原版が提供される。
【0021】
また、本発明の第5の発明によれば、第3の発明において、
前記親水性ポリマーが、無置換または置換(メタ)アクリルアミド、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミドから選ばれた1種または2種以上のモノマーを主成分とするポリマーであり、前記疎水性ポリマーが平均粒子径0.005〜0.5μm、かつ、造膜温度が50℃以下の水性分散ポリマーであり、前記親水性樹脂感光層が、親水性ポリマー相と疎水性ポリマー相とからなる相分離構造を有する平版印刷用の原版が提供される。
【0022】
また、本発明の第6の発明によれば、第4または第5の発明において、
光の照射により、前記感光層が局所的に発泡し、該感光層の撥インク性が親インク性に変化する性質を有する平版印刷用の原版が提供される。
【0023】
さらに、本発明の第7の発明によれば、第5または第6の発明の、平版印刷用の原版に、
750〜1100nmの波長の光を照射する平版印刷用の版の製造方法が提供される。
【0024】
さらに、本発明の第8の発明によれば、
基板に直接または他の層を介して、撥インク性を有する架橋樹脂からなる感光層を設けた平版印刷用の原版に光を照射して、該感光層の撥インク性を親インク性に変化させた平版印刷用の版が提供される。
【0025】
また、本発明の第9の発明によれば、第8の発明において、
前記感光層が、親水性ポリマー、架橋剤および光吸収剤を含有する感光性組成物を架橋してなる親水性樹脂感光層である平版印刷用の版が提供される。
【0026】
また、本発明の第10の発明によれば、第8の発明において、
前記感光層が、親水性ポリマー、架橋剤、光吸収剤および疎水性ポリマーを含有する感光性組成物を架橋してなる親水性樹脂感光層である平版印刷用の版が提供される。
【0027】
また、本発明の第11の発明によれば、第9の発明において、
前記親水性樹脂感光層が、親水性ポリマー相と疎水性ポリマー相とからなる相分離構造を有する平版印刷用の版が提供される。
【0028】
また、本発明の第12の発明によれば、第10の発明において、
前記親水性ポリマーが、無置換または置換(メタ)アクリルアミド、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミドから選ばれた1種または2種以上のモノマーを主成分とするポリマーであり、前記疎水性ポリマーが平均粒子径0.005〜0.5μm、かつ、造膜温度が50℃以下の水性分散ポリマーであり、前記親水性樹脂感光層が、親水性ポリマー相と疎水性ポリマー相とからなる相分離構造を有する平版印刷用の版が提供される。
【0029】
また、本発明の第13の発明によれば、第11または第12の発明において、
光の照射により、前記感光層が局所的に発泡し、該感光層の撥インク性が親インク性に変化した平版印刷用の版が提供される。
【0030】
また、本発明の第14の発明によれば、第12または第13の発明において、
照射する光が、750〜1100nmの波長である平版印刷用の版が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、本発明に係る平版印刷用の原版、それを用いた平版印刷用の版およびその製造方法について具体的に説明する。
(1)平版印刷用の原版および版
(i)基板
本発明の平版印刷用の原版においては、基板に直接または他の層を介して、撥インク性を有する架橋樹脂からなる感光層を設けるが、この際用いられる基板の具体例として、アルミ板、鋼板、ステンレス板、銅板などの金属板や、ポリエステル、ナイロン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ABS樹脂などのプラスチックフィルムや、紙、アルミ箔ラミネート紙、金属蒸着紙、プラスチックフィルムラミネート紙などが挙げられる。これらの基材の厚さは、特に制限はないが、通常100〜400μm程度である。また、これらの基材は、密着性の改良などのために、酸化処理、クロメート処理、サンドブラスト処理、コロナ放電処理などの表面処理を施してもよい。
【0032】
(ii)感光層
次に、本発明の撥インク性を有する架橋樹脂からなる感光層に関して詳しく説明する。
本発明の平版印刷用の版は、湿し水を用いるオフセット印刷用の版であり、非画像部は、湿し水によって覆われることによりインクをはじく。従って、本発明の感光層は、親水性で、かつ水に溶けないことが必要である。そして、本発明の版は、光を照射した部分の感光層がアブレーションにより取り除かれることなく、該感光層の親水性が親インク性に変化する。従って、本発明の印刷版は、光の照射後に現像や拭き取りなどが不要となるが、上記したような特性の変化を具現化するには本発明の感光層は、親水性ポリマー、架橋剤および光吸収剤を含有する感光性組成物を基板に塗布した後に架橋するか、または、親水性ポリマー、架橋剤、疎水性ポリマーおよび光吸収剤を含有する感光性組成物を基板に塗布した後に架橋することが好ましく、特に、親水性ポリマー相と疎水性ポリマー相からなる相分離構造を有していることが好ましい。親水性ポリマーは、架橋することにより水に不溶となる。
【0033】
また、本発明の感光層においては、親水性ポリマーが架橋して、親水性ポリマー相を形
成し、感光性組成物に疎水性ポリマーが含まれる場合には、該疎水性ポリマーが疎水性ポリマー相を形成し、相が分離構造となる。一方、感光性組成物に疎水性ポリマーが含まれていない場合でも、下記するように架橋剤が自己重合する場合には、該架橋剤の自己重合物が疎水性ポリマー相を形成し、相分離構造となる。そして、該疎水性ポリマー相は、光を照射した際に発泡したり、熱融着したりして、感光層の親水性が失われ、親インク性に変化する。
【0034】
(イ)親水性ポリマー
本発明の感光層に用いられる親水性ポリマーは、親水基および架橋剤と反応する官能基を有する。
【0035】
親水性ポリマーの親水基としては、例えば、水酸基、カルボキシル基およびそのアルカリ金属、アルカリ土類金属やアミン塩、スルホン酸基およびそのアルカリ金属、アルカリ土類金属やアミン塩、リン酸基およびそのアルカリ金属、アルカリ土類金属やアミン塩、アミド基、アミノ基、スルホンアミド基、オキシメチレン基、オキシエチレン基などが挙げられる。
【0036】
また、架橋剤と反応する官能基としては、水酸基、カルボキシル基およびそのアルカリ金属、アルカリ土類金属やアミン塩、スルホン酸基およびそのアルカリ金属、アルカリ土類金属やアミン塩、リン酸基およびそのアルカリ金属、アルカリ土類金属やアミン塩、アミド基、アミノ基、イソシアナート基、グリシジル基、オキサゾリン基、メチロール基、およびメチロール基とメタノールやブタノールなどのアルコールとが縮合したメトキシメチル基やブトキシメチル基などが挙げられる。
【0037】
親水性ポリマーのより具体的な例としては、水溶性の以下のポリマーが挙げられる。
すなわち、ポリ酢酸ビニルのけん化物類、セルロース類、ゼラチン、前記した親水性基や架橋性官能基を有する不飽和酸およびその誘導体類や、N―ビニルアセトアミド、N−ビニルホルムアミド、N―ビニルピロリドン、酢酸ビニル、ビニルエーテルなどを重合してなるポリマーや、このポリマーの加水分解ポリマーなどである。これらの中でも架橋のし易さ、親水性と耐水性のバランスの取り易さ、光の照射による親インク化の容易さなどから、前記した親水性基や架橋性官能基を有する不飽和酸およびその誘導体類や、N―ビニルアセトアミド、N−ビニルホルムアミドなどを重合してなるポリマーが好ましい。
【0038】
前記した親水性基や架橋性官能基を有する不飽和酸およびその誘導体の具体例としては、水酸基を有する不飽和酸誘導体として、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メチロール(メタ)アクリルアミドや、該メチロール(メタ)アクリルアミドとメチルアルコールやブチルアルコールとの縮合物であるメトキシメチル(メタ)アクリルアミド、ブトキシメチル(メタ)アクリルアミドなどが挙げられる。
【0039】
カルボキシル基を有する不飽和酸としては、(メタ)アクリル酸などの一塩基不飽和酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸およびその無水物などの二塩基不飽和酸や、これら二塩基不飽和酸のモノエステル、モノアミドなどが挙げられる。
【0040】
また、スルホン酸基を有する不飽和酸としては、スルホエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミドメチルプロパンスルホン酸、ビニルスルホン酸、ビニルメチルスルホン酸、イソプロぺニルメチルスルホン酸、(メタ)アクリル酸にエチレンオキシド、またはプロピレンオキシドを付加したアルコールの硫酸エステル(例えば、三洋化成工業(株)のエレミノールRS−30)、(メタ)アクリロイロキシエチルスルホン酸、モノア
ルキルスルホコハク酸エステルとアリル基を有する化合物とのエステル(例えば、三洋化成工業(株)のエレミノールJS−2、花王(株)のラテムルS−180、またはS−180A)、モノアルキルスルホコハク酸エステルとグリシジル(メタ)アクリレートとの反応生成物、および日本乳化剤(株)のAntox MS60などが、リン酸基を有する重合性不飽和モノマーとしては、ビニルリン酸、リン酸モノ(2−ヒドロキシエチル)(メタ)アクリレート、リン酸モノアルキルエステルのモノ(2−ヒドロキシエチル)(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0041】
これらのカルボキシル基、スルホン酸基やリン酸基は、アルカリ金属、アルカリ土類金属やアミン類で中和されていてもよい。中和に用いられるアルカリ金属としては、ナトリウム、カリウム、リチウムなどが、アルカリ土類金属としては、カルシウム、マグネシウムなどが、アミン類としては、アンモニア、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどが挙げられる。
【0042】
アミド基を有する不飽和酸誘導体としては、無置換または置換(メタ)アクリルアミド、無置換または置換イタコン酸アミド、無置換または置換フマル酸アミド、無置換または置換フタル酸アミドなどが挙げられる。無置換または置換(メタ)アクリルアミドのより具体的な例としては、(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、ダイアセトン(メタ)アクリルアミド、メチロール(メタ)アクリルアミド、メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、スルホン酸プロピル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロイルモルホリンなどが挙げられる。前記イタコン酸アミドなどの二塩基酸アミドの場合は、一方のカルボキシル基がアミド化されたモノアミドであっても、両方のカルボキシル基がアミド化されたジアミドであってもよい。さらに、グリシジル基を有する不飽和酸誘導体としては、グリシジル(メタ)アクリレート、パラビニルフェニルグリシジルエーテルなどが挙げられる。
【0043】
重合するに際しては、前記したこれらの不飽和酸およびその誘導体や、N―ビニルアセトアミド、N−ビニルホルムアミドの1種または2種以上を用いてもよい。さらに、これらの不飽和酸およびその誘導体や、N―ビニルアセトアミド、N−ビニルホルムアミドと共重合可能なモノマーを併用してもよい。共重合可能なモノマーとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、アダマンチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、スチレン、α-メチルスチレ
ン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、酢酸ビニルなどが挙げられる。なお、前記の記述において、(メタ)アクリルアミドや、(メタ)アクリル酸などにおける(メタ)アクリル、(メタ)アクリロイル、さらに(メタ)アクリレートなどは、アクリルとメタクリル、アクリロイルとメタクリロイル、アクリレートとメタクリレートの両者を意味する。
【0044】
また、本発明の親水性ポリマーは、感光層が親水性ポリマー、架橋剤、光吸収剤および疎水性ポリマーを含有する感光性組成物からなり、主として疎水性ポリマーが感光層中で疎水性ポリマー相を形成し、かつ感光層に光を照射した際に、殆ど発泡せずに親インク化する場合においては、光を照射した際の、感光層の親インク化のし易さ、感光層の優れた親水性および耐水性の点から、無置換または置換(メタ)アクリルアミド、N−ビニルホ
ルムアミド、N−ビニルアセトアミドから選ばれた1種または2種以上のモノマーを主成分とするポリマーが好ましく、置換(メタ)アクリルアミドの中でも、モノメチル(メタ)アクリルアミド、ジメチル(メタ)アクリルアミド、モノエチル(メタ)アクリルアミド、ヒドロキシメチル(メタ)アクリルアミドであることが、さらに望ましい。
【0045】
しかし、このようなアミド基を多数有するポリマーは、凝集剤としての機能を有するようになる。特に、前記したようなアミド基を有するモノマーが65重量%以上からなり、かつ、カルボキシル基、スルホン酸基やリン酸基などの酸性基を有する場合には、凝集力が強力となり、感光性組成物を配合する際に、疎水性ポリマー粒子が凝集することがある。この点から、該ポリマーの酸価は、70以下であることが好ましく、さらに50以下であることが望ましく、25以下であることが最も望ましい。この際、親水性ポリマー中のカルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基などの酸性基がアルカリ金属やアミンなどで中和されている場合において、酸価は、未中和として計算した値をいう。
【0046】
(ロ)架橋剤
本発明の親水性ポリマーを架橋するのに用いられる架橋剤は、前記親水性ポリマーと架橋反応して親水性ポリマーを水に不溶性にすることにより、親水性樹脂感光層の耐水性を向上させるものであればよく、例えば、親水性ポリマー中の架橋性官能基であるカルボキシル基、スルホン酸基、水酸基、グリシジル基、場合によっては、アミド基と反応する公知の多価アルコール化合物類、多価カルボン酸化合物やその無水物類、多価グリシジル化合物類、多価アミン、多価イソシアネート化合物やブロック化イソシアネート化合物、エポキシ樹脂、オキサゾリン樹脂、アミノ樹脂などが挙げられる。
【0047】
本発明においては、前記した架橋剤の中でも、硬化速度と感光性組成物の安定性や、感光層の親水性と耐水性のバランスなどの観点から、公知の種々の水性エポキシ樹脂、公知のオキサゾリン樹脂、公知のアミノ樹脂、水性ブロックイソシアネート化合物などが好ましい。アミノ樹脂としては、公知のメラミン樹脂、尿素樹脂、ベンゾグアナミン樹脂やグリコールウリル樹脂などやこれら樹脂の変性樹脂、例えば、カルボキシ変性メラミン樹脂などが挙げられる。また、架橋反応を促進するために、前記したエポキシ樹脂を用いる際には、3級アミン類を、アミノ樹脂を用いる場合は、パラトルエンスルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸類、塩化アンモニウムなどの酸性化合物を併用してもよい。
【0048】
(ハ)光吸収剤
本発明の親水性樹脂感光層に用いられる光吸収剤は、光を吸収して熱を生じるものであればよく、吸収する光の波長に関しては、特に制限はなく、露光に際しては、光吸収剤が吸収する波長域の光を適宜用いればよい。光吸収剤の具体的な例としては、シアニン系色素、ポリメチン系色素、フタロシアニン系色素、ナフタロシアニン系色素、アントラシアニン系色素、ポルフィリン系色素、アゾ系色素、ベンゾキノン系色素、ナフトキノン系色素、ジチオール金属錯体類、ジアミンの金属錯体類、ニグロシン、カーボンブラックなどが挙げられる。
【0049】
これらの色素においては、明室での取り扱い性、露光機に用いる光源の出力や使い易さの点から、750〜1100nmの領域の光を吸収する色素が好ましい。色素の吸収波長域に関しては、置換基やπ電子の共役系の長さなどにより変えることができる。これらの光吸収剤は、感光性組成物に溶解していても、また分散していてもよい。
【0050】
(ニ)疎水性ポリマー
本発明の感光層に用いられる疎水性ポリマーは、特に限定はなく、感光層を形成した際に、親水性ポリマー相とは異なる相を形成するポリマーであって、通常のポリマーおよび感光層を形成する際に重合してポリマーとなるポリマーの前駆体が挙げられるが、親水性
ポリマーとの配合のし易さなどから、水性分散ポリマー、水性溶剤に可溶のポリマー、および水性溶剤に可溶なポリマー前駆体が好ましい。ここでいう水性とは、水単独および水を主としてなるメタノール、エタノール、アセトンなどの水と混和可能な溶剤との混合液を意味する。
【0051】
前記水性分散ポリマーとは、微細なポリマー粒子と必要に応じて該粒子を覆う保護剤からなる粒子を水性液に分散させた疎水性ポリマー分散水性液を意味し、不飽和モノマーの乳化重合や懸濁重合によって製造されたポリマー、疎水性ポリマーの微粒子を水中に分散して製造されたポリマー、疎水性ポリマーの有機溶剤溶液を水中に混合分散し、必要に応じて有機溶剤を留去したポリマーなどが挙げられ、自己乳化(分散)型と強制乳化(分散)型がある。また、これらの水性分散ポリマーは架橋していても、いなくてもよい。
【0052】
該水性分散ポリマーの具体的な例としては、水性分散ビニル系樹脂、水性分散共役ジエン系樹脂、水性分散アクリル系樹脂、水性分散ポリウレタン樹脂、水性分散ポリエステル樹脂、水性分散エポキシ樹脂などが挙げられる。
【0053】
水性分散ポリマーにおいては、版の解像度、地汚れ性、感光層の薄膜化の点から、平均粒子径が0.005〜0.5μmであることが好ましく、0.01〜0.4μmであることがさらに好ましく、また、光照射時の感度の点から、水性分散ポリマーの造膜温度は50℃以下が好ましく、30℃以下が望ましい。特に、平均粒子径が0.005〜0.5μmであって、造膜温度が50℃以下の、水性分散アクリル系樹脂、水性分散ポリウレタン樹脂、水性分散ポリエステル樹脂が好ましく、水性分散ポリウレタン樹脂、水性分散ポリエステル樹脂が最も望ましい。
【0054】
一方、感光層を成膜する際に、重合して疎水性ポリマーとなるポリマー前駆体としては、前記架橋剤として挙げたアミノ樹脂、エポキシ樹脂などの自己重合性樹脂が挙げられる。これらの樹脂は、自己重合するが、その際重合を促進するための触媒を添加してもよい。また、共重合成分を添加してもよい。また、特に、自己重合性を有するアミノ樹脂は、水性溶媒に溶解し、自己重合したポリマーは疎水性となり、かつ親水性ポリマーの架橋剤としても機能するので、このような場合は、疎水性ポリマーを使用しなくても疎水性ポリマー相を形成することができる。
【0055】
本発明の疎水性ポリマーを含有する感光層は、好ましくは親水性ポリマー相と疎水性ポリマー相とからなる相分離構造を有するが、非画像部の地汚れの観点から、疎水性ポリマー相が架橋した親水性ポリマー相中に分散していることがより好ましい。疎水性ポリマーとして用いられる水性分散ポリマーの平均粒子径は0.005〜0.5μmであることが好ましいが、疎水性ポリマー相を形成した際に、粒子が凝集してその粒径が大きくなる場合があるが、その場合、分散している疎水性ポリマー相の粒径は、解像度、地汚れなどの観点から、5μm以下であることが好ましく、3μm以下であることが望ましい。
【0056】
分散している疎水性ポリマー相は、光照射部の親インク化の点からは多い方が好ましいが、一方、多くなり過ぎると地汚れを起こすので好ましくない。また、疎水性ポリマーが単独で造膜性を有する場合、該ポリマーを多量に用いると、該ポリマー相中に親水性ポリマー相が分散した状態になるので好ましくない。
【0057】
(ホ)感光性組成物の組成割合
本発明の親水性樹脂感光層は、上記の感光性組成物を架橋してなるものであるが、その感光性組成物の組成割合は、以下のごとくである。
【0058】
すなわち、本発明の感光性組成物が、親水性ポリマー、架橋剤および光吸収剤の3成分
を含有する場合;
その組成割合は、親水性樹脂感光層の親水性と耐水性のバランスや種々の印刷特性の観点から、固形分で親水性ポリマーが90〜40重量%、好ましくは85〜50重量%、さらに好ましくは80〜60重量%、架橋剤が10〜60重量%、好ましくは15〜50重量%、さらに好ましくは20〜40重量%、光吸収剤は、前記親水性ポリマーと架橋剤、およびその他の添加剤の固形分の合計(感光性組成物の光吸収剤を除く全固形分)100重量部に対し2〜20重量部であることが好ましい。
【0059】
一方、本発明の感光性組成物が、親水性ポリマー、架橋剤、光吸収剤および疎水性ポリマーの4成分を含有する場合;
その組成割合は、固形分で親水性ポリマーが70〜20重量%、好ましくは65〜25
重量%、さらに好ましくは60〜30重量%である。また、架橋剤は、例えば、アミノ樹脂のように自己重合性がある場合には、架橋剤が自己重合し、一部は架橋剤となり、また一部は疎水性ポリマーとなって、架橋剤と疎水性ポリマーの両方の役割をする場合もあるので、架橋剤および疎水性ポリマーの割合は、架橋剤と疎水性ポリマーの合計で30〜80重量%、好ましくは35〜75重量%、さらに好ましくは40〜70重量%、光吸収剤は、前記親水性ポリマー、架橋剤と疎水性ポリマー、およびその他の添加剤の固形分の合計100重量部に対し1〜20重量部であることが好ましく、2〜15重量部であること
が望ましい。
【0060】
(2)親水性樹脂感光層の成膜および版の製造方法
(i)親水性樹脂感光層の成膜
本発明の水に不溶の親水性樹脂感光層を成膜するに際し、親水性ポリマー、架橋剤および光吸収剤、または、親水性ポリマー、架橋剤、光吸収剤および疎水性ポリマーを含有する溶液に、種々の特性を改良するためのフィラーを添加して用いることもできる。用いるフィラーは、有機系であっても、無機系であってもよい。さらに、発泡を助長するためや親インク化をより容易とするために、低融点化合物、分解性化合物などを添加してもよい。
【0061】
本発明の水に不溶の親水性樹脂感光層は、印刷に際して、未露光部に水が付着することによりインクをはじく。この未露光部への水の付着性を改良するために、種々の界面活性剤を添加してもよい。前記界面活性剤としては、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤および両性界面活性剤が挙げられる。
【0062】
本発明の水に不溶の親水性樹脂感光層は、親水性ポリマー、架橋剤および光吸収剤、または、親水性ポリマー、架橋剤、光吸収剤および疎水性ポリマーを含有する溶液を、基板に塗布し、乾燥、硬化すればよい。塗布する方法は、塗布する溶液の粘度や塗布速度などによって異なるが、通常、例えば、ロールコーター、ブレードコーター、グラビアコーター、カーテンフローコーター、ダイコーターやスプレー法などを用いればよい。この際、塗布溶液の消泡のためや、塗布膜の平滑化のために、塗布溶液に消泡剤、レベリング剤、ハジキ防止剤、カップリング剤などの各種添加剤や、酸化チタン、シリカ、アルミナなどのフィラーを用いてもよい。塗布溶液を塗布した後、加熱して乾燥するとともに、親水性ポリマーの架橋を行う。加熱温度は、通常50〜200℃程度である。該親水性樹脂感光層の膜厚は、特に制限はないが、通常0.5〜10μm程度が好ましい。
【0063】
本発明の印刷原版においては、親水性樹脂感光層を成膜した後、カレンダー加工したり、該感光層を保護するために感光層の上にフィルムを積層してもよい。
(ii)版の製造方法
本発明の印刷原版は、光吸収剤の吸収波長域の光、例えば、750〜1100nmの領域の光に露光すると、光吸収剤が該光を吸収して発熱する。この発熱により、親水性樹脂
感光層の露光部は、親水性が失われ親インク性に変化する。その変化は、親水性樹脂感光層の組成、架橋度、強度、ガラス転移温度や疎水性ポリマー相の種類、光吸収剤の種類などや、光の照射条件によって異なり、二つのケースが観察される。すなわち、〔1〕:主に疎水性ポリマー相が発泡する場合、〔2〕:発泡を殆どしない場合である。
【0064】
以下に、これらのケースについて詳しく説明する。
〔1〕:主に疎水性ポリマー相が発泡する場合
本発明の、感光層の疎水性ポリマー相が本発明の架橋剤を含有してなる場合、例えば、感光層が、親水性ポリマー、架橋剤および光吸収剤からなる場合、親水性ポリマー、架橋剤、疎水性ポリマーおよび光吸収剤からなる場合であって、架橋剤の使用割合が比較的多い場合には、前記のように該架橋剤も疎水性ポリマー相を形成する。この場合、架橋剤が単独で疎水性ポリマー相を形成したと考えられるケースと、疎水性ポリマーを含有した状態で疎水性ポリマー相を形成したと考えられるケースがある。いずれにしても、前記したように架橋剤が疎水性ポリマー相に関与した場合には、疎水性ポリマー相に光吸収剤が含有され、かつ疎水性ポリマー相が架橋されることにより、主に疎水性ポリマー相が発泡するものと推定される。なお、ここで発泡とは、感光層の疎水性ポリマー相からガスが発生し、該ガスが破裂することにより恰も生じたと思われるような、感光層表面に生じる微少な凹凸をいう。照射部にこのような小さな泡が多数生じた方が、より親インク性となる。
【0065】
発泡することにより親インク化するメカニズムは、不明ではあるが、感光層の表面近辺の疎水性ポリマー相は、表面が親水性ポリマー相で覆われていると推定されるが、疎水性ポリマー相が発泡して、感光層表面に疎水性ポリマーが露出し、かつ、発泡によりフラクタル構造になり、このフラクタル構造が親インク化を増幅しているものと考えられる。それ故に、疎水性ポリマーを使用した方が親インク化の程度が大きくなり好ましい。発泡を引き起こすガスは、感光層においては疎水性ポリマー相中の架橋剤の重合性官能基が残存し、該残存官能基が反応、または分解して発生したものと推定される。
【0066】
〔2〕:発泡を殆どしない場合
本発明の感光層の疎水性ポリマー相が実質的に疎水性ポリマーからなる場合、疎水性ポリマー相は熱可塑性を有していると推定され、熱により該疎水性ポリマー粒子が融着して親インク性に変化したものと考えられる。
【0067】
本発明の印刷用原版は、前記したように光の照射により感光層の表面が、親水性から親インク性に変化するが、露光部の表面形状も変化する。例えば、発泡した場合に、露光部が未露光部よりも隆起する場合がある。隆起している場合でも、印刷を開始すると印圧により該隆起が減少したり、無くなることもある。また、発泡を伴わない場合でも感光層表面には、熱によるポリマー溶融の跡が観察される。
【0068】
このように本発明の印刷用原版は、光を照射した部分の親水性樹脂感光層の親水性が親インク性に特性が変化し、現像や拭き取り操作をしなくても光の照射部にはインクが付着し、印刷が可能となる。
【0069】
本発明の印刷原版の露光に用いられる光の波長は、特に限定はなく、光吸収剤の吸収波長域に合致しする光を用いればよい。露光に際しては、露光速度の観点から、収束光を高速で走査することが好ましく、使用し易く、かつ、高出力の光源が適している。この点から露光する光としては、レーザー光、特に750〜1100nmの波長域の発振波長を有するレーザー光が好ましく、例えば、830nmの高出力半導体レーザーや1064nmのYAGレーザーが好ましく用いられる。これらのレーザーを搭載した露光機は、いわゆるサーマル用プレートセッター(露光機)として、既に市場に供されている。
【0070】
露光に際して、光の照射量を大きくし過ぎたり、また、光吸収剤を多量に添加し過ぎたりすると感光層のかなりの部分が分解、燃焼などによって除去、融除されてしまい、照射部の周辺に分解物が飛散するので、本発明においてこのようなことは、避けねばならない。
【実施例】
【0071】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら制限されるものではない。
[実施例1〜3]
(親水性ポリマーの合成)
1000ccのフラスコに水400gを入れ、窒素をバブリングして溶存酸素を除去した後、80℃に昇温した。窒素ガスを上記フラスコに流しながら、アクリルアミド120g、アクリル酸30g、水77gからなるモノマー溶液と、過硫酸カリ0.5gを水50gに溶解した開始剤の水溶液とを、内温を80℃に維持しながら、別々に3時間に亘り連続滴下した。滴下終了後、80℃で2時間重合を続け、さらに、90℃で2時間重合を行った。最後に水150gを加えた後、水酸化ナトリウム水溶液にて、PHを5.0に調整して親水性ポリマーの水溶液を合成した。
【0072】
(感光性組成物)
次いで、上記親水性ポリマーと、架橋剤としてのサイメル−701(三井サイテック(株)製のメチル化メラミン樹脂)とを、固形分にて表1に示す重量部と、さらに硬化促進剤としてのパラトルエンスルホン酸1重量部と、光吸収剤としてのIR−125(アクロ社製のシアニン色素)5重量部とを混合して、感光性組成物を調製した。
【0073】
【表1】

【0074】
(印刷原版の作成)
厚さ0.2mmのポリエステルフィルムに、上記感光性組成物をドクターブレードを用いて塗布した後、120℃にて3時間乾燥し、2μmの膜厚の感光層を成膜して印刷原版を作成した。この原版の感光層の断面を、走査型電子顕微鏡で観察したところ、架橋剤が自己重合したと思われる1〜2μmの粒子が観察された。
【0075】
(評価)
この原版に、波長830nmの半導体レーザー光を300mJ/cm2の照射エネルギ
ー密度となるように集光しながら走査照射して、200線/インチの画像情報の記録を行った。この版の表面および断面を顕微鏡にて観察を行ったところ、いずれの実施例においても照射部の親水性樹脂感光層は発泡し、隆起していた。
【0076】
上記の露光した版を、湿し水を用いるオフセット印刷機にセットして、1万部の印刷を行った。実施例1〜3の印刷版は、光の未照射部にはインクが全く付かず、一方、照射部にはインクが十分に付着し、記録した画像が、印刷用紙上に再現された。印刷の最後においても未照射部には、インクが全く付かず、照射部へのインク付着も損なわれなかった。
【0077】
[実施例4〜6]
実施例1の親水性ポリマーの合成において、アクリルアミドに代えて、表2に示す不飽和モノマーを用いたこと以外は、実施例1と同じ方法にて親水性ポリマーを合成した。次いで、表2に示す種類の架橋剤および光吸収剤を用い、実施例2と同じ配合割合にて感光性組成物を調製した。次に、接着性向上のために、予めプライマーとして2μm厚さのブチラール樹脂を塗布した厚さ0.2mmのアルミニウム板に、上記の感光性組成物を塗布し、150℃にて1時間加熱し、2μmの厚さの感光層を有する印刷原版を作成した。この原版を用いて、実施例1と同じ方法で画像情報の記録を行った。この版の感光層の表面および断面を顕微鏡にて観察を行ったところ、いずれの実施例においても、未照射部は、架橋剤が自己重合したと思われる1〜2μmの粒子が観察され、照射部は発泡し、隆起していた。この版を用いて、実施例1と同じ方法で印刷評価を行ったところ、いずれの実施例でも記録した画像が印刷用紙上に、最後まできれいに再現された。
【0078】
【表2】

【0079】
[実施例7〜9]
(親水性ポリマーの合成)
1000ccのフラスコに水400gを入れ、窒素をバブリングして溶存酸素を除去した後、80℃に昇温した。窒素ガスを上記フラスコに流しながら、アクリルアミド90g、アクリル酸30g、ヒドロキシエチルメタクリレート10g、アクリロニトリル20g、水77gからなるモノマー溶液と、過硫酸カリ0.5gを水50gに溶解した開始剤の水溶液とを、内温を80℃に維持しながら、別々に3時間に亘り連続滴下した。滴下終了後、80℃で2時間重合を続け、さらに、90℃で2時間重合を行った。最後に水150gを加えた後、水酸化ナトリウム水溶液にて、PHを6.0に調整して親水性ポリマーの20%水溶液を合成した。
【0080】
(感光性組成物)
次いで、上記親水性ポリマーと、架橋剤兼疎水性ポリマーの前駆体としてのサイメル−701と、疎水性ポリマーとしてのオレスターUD350(三井化学(株)製の水性分散ウレタン樹脂、平均粒子径約30nm)とを固形分で表3に示す重量部と、さらに硬化促進剤としてのパラトルエンスルホン酸1重量部と、光吸収剤としてのIR−125、5重量部とを混合して、感光性組成物を調製した。
【0081】
【表3】

【0082】
(印刷原版の作成)
厚さ0.2mmのポリエステルフィルムに、上記感光性組成物をドクターブレードを用いて塗布した後、120℃にて3時間乾燥し、2μmの膜厚の感光層を成膜して印刷原版を作成した。
【0083】
(評価)
この原版に、波長830nmの半導体レーザー光を300mJ/cm2の照射エネルギ
ー密度となるように集光しながら走査照射して、200線/インチの画像情報の描画を行った。この版の感光層の表面および断面を顕微鏡にて観察を行ったところ、光の未照射部には、約2〜0.5μmの粒径を有するメラミン樹脂、またはウレタン樹脂を含有したメラミン樹脂を主成分とすると思われる島相が観察され、かつ、光の照射部においては該メラミン樹脂、またはウレタン樹脂を含有したメラミン樹脂の島相に発泡が観察された。上記実施例においては、一部のメラミン樹脂が架橋剤になり、残りは疎水性ポリマー相になっていた。
【0084】
上記の露光した版を、湿し水を用いるオフセット印刷機にセットして、1万部の印刷を行った。実施例7〜9の印刷版は、光の未照射部にはインクが全く付かず、一方、照射部にはインクが十分に付着し、描画した画像が印刷用紙上に再現された。5万枚の印刷後でも、未照射部にはインクが全く付かず、照射部へのインク付着も損なわれなかった。
【0085】
[実施例10〜12]
実施例8の親水性ポリマーの合成において、アクリルアミドの半分を、表4に示す不飽和モノマーに置き換えたこと以外は、実施例8と同じ方法で親水性ポリマーを合成した。次いで、表4に示す種類の架橋剤兼疎水性ポリマー前駆体(架橋剤)、および疎水性ポリマーを用いて、実施例8と同じ配合割合にて感光性組成物を調製した。次に、接着性向上のために、予めプライマーとして2μm厚さのブチラール樹脂を塗布した厚さ0.2mmのアルミニウム板に、上記の感光性組成物を塗布し、150℃にて1時間加熱し、2μm厚さの感光層を有する印刷版を作成した。この版を用いて、実施例7と同じ方法にて画像情報の描画、印刷評価を行った。いずれの実施例においても、光の未照射部には約2〜0.5μmの粒径の島相が観察され、かつ、光照射部においては該島相に発泡が観察された。また、印刷の結果は、光の未照射部にはインクが全く付かず、一方、光照射部にはインクが十分に付着し、描画した画像が印刷用紙上に再現された。さらに5万枚印刷した後でも、未照射部にはインクが全く付かず、照射部へのインク付着も損なわれなかった。
【0086】
【表4】

【0087】
[実施例13〜16]
(親水性ポリマーの合成)
1000ccのフラスコに水400gを入れ、窒素をバブリングして溶存酸素を除去した後、80℃に昇温した。窒素ガスを上記フラスコに流しながら、そこにアクリルアミド86.2g、ラテムルS−180(花王(株)製:モノアルキルスルホコハク酸エステルとアリル基を有する化合物とのエステル)15.8g、ヒドロキシエチルメタクリレート18.0g、水122gからなるモノマー溶液と、過硫酸カリ1.0gを水100gに溶解した開始剤の水溶液とを、内温を80℃に維持しながら、別々に2時間に亘り連続滴下した。滴下終了後、80℃で3時間重合を行った。最後に水50gを加え、親水性ポリマーの15%水溶液を合成した。この親水性ポリマーの酸価は、17であった。
【0088】
(感光性組成物)
次いで、上記親水性ポリマーと、架橋剤としてのサイメル−385と、疎水性ポリマーとしてのスーパーフレックス410(第一工業製薬(株)製の水性分散ウレタン樹脂、造膜温度は5℃以下、平均粒子径約0.20μm)と、光吸収剤としてのIR−125を固形分で表5に示す重量部と、さらに硬化促進剤としてのパラトルエンスルホン酸1重量部と、ネオコールYSK(第一工業製薬(株)製のアニオン性界面活性剤)0.3重量部とを混合して、感光性組成物を調製した。
【0089】
【表5】

【0090】
(印刷原版の作成)
厚さ0.2mmのポリエステルフィルムに、上記感光性組成物をドクターブレードを用いて塗布した後、120℃にて15分間乾燥し、2μmの膜厚の感光層を成膜して印刷原版を作成した。
【0091】
(評価)
この原版の断面を、走査型電子顕微鏡で観察したところ、約0.2μmの粒径のウレタン樹脂を主成分とすると思われる島相が観察され、相分離構造を有していることが確認された。
【0092】
この原版に、波長830nmの半導体レーザー光を200mJ/cm2の照射エネルギ
ー密度となるように集光しながら走査照射して、200線/インチの画像情報の描画を行った。
【0093】
上記の露光した版を、湿し水を用いるオフセット印刷機にセットして、1万部の印刷を行った。実施例13〜16の印刷版は、光の未照射部にはインクが全く付かず、一方、照射部にはインクが十分に付着し、描画した画像が印刷用紙上に再現された。2万枚の印刷後でも、未照射部にはインクが全く付かず、照射部へのインク付着も損なわれなかった。
【0094】
[実施例17〜19]
実施例13の親水性ポリマーを、表6に示すポリマーに代えたこと以外は、実施例13と同様にして印刷原版を作成し、描画および印刷の評価を行った。
【0095】
【表6】

【0096】
実施例17〜19の感光層は、いずれも疎水性ポリマーが島相を形成した相分離構造が観察され、印刷版は2万部以上の印刷を行っても、いずれも光の未照射部にはインクが全く付かず、一方、照射部にはインクが十分に付着し、描画した画像が印刷用紙上に再現された。
【0097】
[実施例20〜21]
実施例18の疎水性ポリマーを、表7に示すポリマーに代えたこと以外は、実施例18と同様にして印刷原版を作成し、描画および印刷の評価を行った。
【0098】
【表7】

【0099】
上記いずれの版においても感光層は、疎水性ポリマーが島相を形成した相分離構造が観察された。
実施例20および実施例21の印刷版は、1万部以上の印刷を行っても、光の未照射部にはインクが全く付かず、一方、照射部にはインクが十分に付着し、描画した画像が印刷用紙上に再現された。
【産業上の利用可能性】
【0100】
湿し水を用いる平版印刷用の原版において、水に不溶の親水性樹脂感光層を設け、光の照射により該感光層の親水性を親インク性に変化させることにより、現像や拭き取りなど
の工程が不要で、かつ、親水性と耐水性に優れ、地汚れせず、良好な感度、解像度と耐刷性を有するなど優れた印刷版を提供する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板に直接または他の層を介して、撥インク性を有する架橋樹脂からなる感光層を設けた平版印刷用の原版であって、光の照射により該感光層の撥インク性が親インク性に変化する性質を有することを特徴とする平版印刷用の原版。
【請求項2】
前記感光層が、親水性ポリマー、架橋剤および光吸収剤を含有する感光性組成物を架橋してなる親水性樹脂感光層であることを特徴とする請求項1に記載の平版印刷用の原版。
【請求項3】
前記感光層が、親水性ポリマー、架橋剤、光吸収剤および疎水性ポリマーを含有する感光性組成物を架橋してなる親水性樹脂感光層であることを特徴とする請求項1に記載の平版印刷用の原版。
【請求項4】
前記親水性樹脂感光層が、親水性ポリマー相と疎水性ポリマー相とからなる相分離構造を有することを特徴とする請求項2に記載の平版印刷用の原版。
【請求項5】
前記親水性ポリマーが、無置換または置換(メタ)アクリルアミド、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミドから選ばれた1種または2種以上のモノマーを主成分とするポリマーであり、前記疎水性ポリマーが平均粒子径0.005〜0.5μm、かつ、造膜温度が50℃以下の水性分散ポリマーであり、前記親水性樹脂感光層が、親水性ポリマー相と疎水性ポリマー相とからなる相分離構造を有することを特徴とする請求項3に記載の平版印刷用の原版。
【請求項6】
光の照射により、前記感光層が局所的に発泡し、該感光層の撥インク性が親インク性に変化する性質を有することを特徴とする請求項4または5に記載の平版印刷用の原版。
【請求項7】
請求項5または6に記載の平版印刷用の原版に、750〜1100nmの波長の光を照射することを特徴とする平版印刷用の版の製造方法。
【請求項8】
基板に直接または他の層を介して、撥インク性を有する架橋樹脂からなる感光層を設けた平版印刷用の原版に光を照射して、該感光層の撥インク性を親インク性に変化させたことを特徴とする平版印刷用の版。
【請求項9】
前記感光層が、親水性ポリマー、架橋剤および光吸収剤を含有する感光性組成物を架橋してなる親水性樹脂感光層であることを特徴とする請求項8に記載の平版印刷用の版。
【請求項10】
前記感光層が、親水性ポリマー、架橋剤、光吸収剤および疎水性ポリマーを含有する感光性組成物を架橋してなる親水性樹脂感光層であることを特徴とする請求項8に記載の平版印刷用の版。
【請求項11】
前記親水性樹脂感光層が、親水性ポリマー相と疎水性ポリマー相とからなる相分離構造を有することを特徴とする請求項9に記載の平版印刷用の版。
【請求項12】
前記親水性ポリマーが、無置換または置換(メタ)アクリルアミド、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミドから選ばれた1種または2種以上のモノマーを主成分とするポリマーであり、前記疎水性ポリマーが平均粒子径0.005〜0.5μm、かつ、造膜温度が50℃以下の水性分散ポリマーであり、前記親水性樹脂感光層が、親水性ポリマー相と疎水性ポリマー相とからなる相分離構造を有することを特徴とする請求項10に記載の平版印刷用の版。
【請求項13】
光の照射により、前記感光層が局所的に発泡し、該感光層の撥インク性が親インク性に変化したことを特徴とする請求項11または12に記載の平版印刷用の版。
【請求項14】
照射する光が、750〜1100nmの波長であることを特徴とする請求項12または13に記載の平版印刷用の版。

【公開番号】特開2008−149721(P2008−149721A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−323338(P2007−323338)
【出願日】平成19年12月14日(2007.12.14)
【分割の表示】特願2001−580086(P2001−580086)の分割
【原出願日】平成13年4月26日(2001.4.26)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】