説明

平行二軸型の等速回転伝達装置

【課題】部品点数が少なく簡素な構造で、軽量化により伝達損失の少ない低慣性となり、回転伝達部材は略径方向の圧縮荷重を受けることになり、スラスト力が加わらず薄型でありながらも剛性が高い平行二軸型の等速回転伝達装置を提供する。
【解決手段】第1伝達軸2と第2伝達軸5とを並列させて第1フランジ盤3と第2フランジ盤6とを向き合わせ、薄型の回転伝達部材8を介して配置する構成のため、スラスト力が生じず部品点数の少ない簡素な構造で、軽量化により伝達損失の少ない低慣性ながらも薄型で高い剛性を有する。回転伝達部材8は、第1フランジ盤3と第2フランジ盤6とに対して完全な転がり接触により回転伝達を行うので、ベアリングやブッシュなどを用いなくても摩擦摺動を少なくすることができ、高い回転伝達効率を達成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、互いに一定の距離を隔てて並列された第1伝達軸と第2伝達軸とを備え、第1伝達軸の回転を第2伝達軸に伝える平行二軸型の等速回転伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
平行二軸型の等速回転伝達装置では、比較的近い距離だけ隔てて並列された平行二軸間で一方の軸の回転を他方の軸に等速で回転伝達するようになっている。これの代表例としてオルダム継手が挙げられる(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1のオルダム継手は、スクロール圧縮機の旋回スクロールに組み込まれており、クランク軸の上端部と旋回スクロールとの間に設けられている。これにより、旋回スクロールがクランク軸の上端部で自転することなく、偏心回転を行って固定スクロールに対して旋回するようにしている。
【特許文献1】特開平5−215084号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
オルダム継手は、両円盤の間に偏芯盤を設けて偏芯盤の凸条部を円盤の溝条部に摺動させ両円盤間で回転伝達を行う機構である。二軸間の距離の変更に対応することができるものの、摺動摩擦による回転伝動であり、摺動箇所で摩耗を受けて回転伝達の精度が低下し易くなるうえに、回転速度が高くなると円滑な回転を阻むので、高速回転伝達には適さない伝動機構となっている。
【0005】
他の回転伝達機構として軸継手やユニバーサルジョイントがある。軸継手では、二枚の円板を対向状態に配置し、片方にはピッチ円に沿って複数の穴部を形成し、他方には穴部を挿通するピンを取り付けている。入力軸と出力軸とが一定の距離だけ隔てて並列し、入力軸の回転が片方の円板の穴部と他方の円板のピンとの周回運動を介して出力軸に伝えられる。
【0006】
この軸継手において、二軸間の距離は変更できず固定されているものの、剛性には優れている。しかし、転がり接触により円滑な回転運動を実現させるためには、ベアリングなどを設ける必要があり、部品点数の増加をもたらす。
ユニバーサルジョイントでは、二軸間の距離の変更に対応することができるが、軸方向に一定の距離を確保して前後に対称なジョイント部を一対ずつ設ける必要がある。多数の部品点数を要して全体の構造が複雑となりコンパクト化が難しく、回転精度を高められない難点がある。
【0007】
本発明は上記の事情を考慮してなされたもので、その第1目的は、部品点数の少ない簡素な構造で、軽量化が図られて伝達損失の少ない低慣性となり、回転伝達部材は負荷として略径方向の圧縮荷重を受けることになり、薄型でありながらも剛性が高い平行二軸型の等速回転伝達装置を提供するにある。
【0008】
本発明の第2目的は、回転伝達部材は完全な転がり接触により回転伝達を行うので、ベアリングやブッシュなどを用いなくても摩擦摺動を少なくでき、高い回転伝達効率を確保することができるとともに、与圧によりバックラッシュを除去することができ、併せて円滑な高速回転伝達が可能となる平行二軸型の等速回転伝達装置を提供するにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(請求項1について)
平行二軸型の等速回転伝達装置において、第1フランジ盤は、第1伝達軸に固定されて、第1伝達軸とは反対側の第1平面部に第1伝達軸を中心とする一定径のピッチ円上に沿って複数形成された円形の第1穴部を有する。第2フランジ盤は、第2伝達軸に固定されて、第1平面部と対面側の第2平面部に第2伝達軸を中心とする一定径のピッチ円上に沿って複数形成され、第1穴部に対応する円形の第2穴部を有する。第1伝達軸と第2伝達軸とは、一定の間隔を隔てたオフセット量で並列させて第1フランジ盤と第2フランジ盤とを偏心状態に重ね合わせている。円形の回転伝達部材は、第1穴部および第2穴部に対して隙間を余して内接状態に配置されている。第1伝達軸の回転に伴い、回転伝達部材が第1穴部および第2穴部の各内周面に内接状態で転がることにより、第1伝達軸の回転が第1フランジ盤、第1穴部、回転伝達部材、第2穴部および第2フランジ盤を介して第2伝達軸に伝わるようにしている。
【0010】
第1伝達軸と第2伝達軸とを並列させて第1フランジ盤と第2フランジ盤とを向き合わせ、薄型の回転伝達部材を介して配置する構成のため、軸方向のスラスト力の発生がなく、部品点数の少ない簡素な構造で、軽量化が図られて伝達損失の少ない低慣性のものとなる。回転伝達部材は、負荷として略径方向の圧縮荷重を受けるようになるため、第1フランジ盤と第2フランジ盤とに対する回転伝達部材の一体性が保たれて、薄型でありながらも高い剛性を確保することができる。
回転伝達部材は、第1フランジ盤と第2フランジ盤とに対して完全な転がり接触により回転伝達を行うので、ベアリングやブッシュなどを用いなくても、摩擦摺動を少なくすることができ、高い回転伝達効率を確保することができる。また、第1穴部の内接面および第2穴部の内接面と回転伝達部材との間の僅かな隙間(バックラッシュ)は、与圧により除去することができるので、静粛運転に併せて円滑な高速回転伝達を実現させることができる。
【0011】
(請求項2について)
回転伝達部材の厚みは、直径に比べて小さくなるようにし、厚みと直径との偏平比を1対1.5から1対15の範囲内に設定している。回転伝達部材の厚みと直径との偏平比を小さくしているため、回転伝達部材は負荷として略径方向の圧縮荷重を受けることになる。このため、第1フランジ盤と第2フランジ盤とに対する回転伝達部材の一体性が良好に保持されるようになり、薄型でありながらも高い剛性を確保することができる。
【0012】
(請求項3について)
第1穴部および第2穴部の各内周面ならびに回転伝達部材の外周面は、環状平面をなしている。
第1穴部および第2穴部の各内周面と回転伝達部材の外周面とは面接触となるため、第1穴部および第2穴部に対する回転伝達部材の接触面積が増加し、第1穴部および第2穴部に対する回転伝達部材の面圧を低下させて剛性を高める。これにより、第1フランジ盤からの第2フランジ盤への回転伝達力(伝達容量)の増加をもたらし、耐久寿命の向上に寄与する。
【0013】
(請求項4について)
第1穴部および第2穴部の各内周面は、板厚方向に深くなるにつれて漸次拡径する円錐テーパ面である。回転伝達部材の外周面は、円錐テーパ面に対応する断面略V字状のテーパ面となっている。
このため、回転伝達部材に略径方向の圧縮荷重が加わる際、テーパ面と円錐テーパ面との接触により、第1フランジ盤と第2フランジ盤とを互いに寄せ合わせる方向の分力が働き、両フランジ盤の一体化に寄与する。
【0014】
(請求項5について)
回転伝達部材は、中央部から径方向に広がる鍔部を有し、鍔部を第1フランジ盤と第2フランジ盤との間に摺接状態に挟む。
この場合、鍔部は、第1平面部と第2平面部とに摺接状態に挟まれることになり、回転伝達部材が第1穴部および第2穴部内で転がる時、回転伝達部材が軸線に対して傾くことを防ぎ、第1フランジ盤から第2フランジ盤への円滑な回転伝達機能を保持することができる。
【0015】
(請求項6について)
第1穴部および第2穴部は貫通穴を構成し、回転伝達部材は、両側から径方向に広がる鍔部を有し、一方の鍔部は第1穴部の外部に位置して第1フランジ盤の外面部に摺接し、他方の鍔部は第2穴部の外部に位置して第2フランジ盤の外面部に摺接している。
この場合、回転伝達部材が第1穴部および第2穴部内で転がる時、請求項5と同様に、回転伝達部材が軸線に対して傾くことを防ぎ、第1フランジ盤から第2フランジ盤への円滑な回転伝達機能を保持することができる。
【0016】
(請求項7について)
第2フランジ盤を固定し、第1フランジ盤を軸受によりクランク軸に連結し、第1フランジ盤が軸受を介してクランク軸からの回転を受ける。これにより、回転伝達部材を第1穴部および第2穴部の各内周面に対して転動させ、第1フランジ盤から第2フランジ盤に対する旋回運動を出力させる。
この場合、第1フランジ盤あるいは回転伝達部材に出力部材を連結すれば、出力部材から旋回運動を出力させることができる。
【0017】
(請求項8について)
第1フランジ盤および第2フランジ盤は、固定スクロールと旋回スクロールとを噛み合わせて圧縮空気を発生させるスクロール型コンプレッサーに組み込まれ、第1フランジ盤の旋回運動を旋回スクロールに伝達する。
この場合、スクロール型コンプレッサーが軽量でコンパクトになり、ひいてはコンパクト化したスクロール型コンプレッサーを家庭用や車両用の空調装置に搭載すれば、空調装置自体を省スペース化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明における平行二軸型の等速回転伝達装置では、部品点数の少ない簡素な構造で、軽量化が図られて伝達損失の少ない低慣性となり、回転伝達部材への負荷は略径方向の圧縮荷重となり、回転伝達部材が薄型でありながらも高い剛性を確保することができる。
【実施例1】
【0019】
図1ないし図4に基づいて本発明の実施例1を説明する。
図1の平行二軸型の等速回転伝達装置1において、第1伝達軸2の中心部には、第1フランジ盤3が固定されている。第1フランジ盤3の第1伝達軸2とは反対側の第1平面部3aには、第1伝達軸2を中心とする一定のピッチ円P1上に沿って円形をなす複数の第1穴部4が等角度間隔に設けられている。第1穴部4は、例えば6個の底付き穴であり、一定の直径D1を有して60°の等角度間隔に円周方向に配列されている。
【0020】
第2伝達軸5の中心部には、第1フランジ盤3と同径の第2フランジ盤6が固定されている。第2フランジ盤6の第1平面部3aと対面側の第2平面部6aには、第2伝達軸5を中心とし、ピッチ円P1と同径のピッチ円P2上に沿って円形に形成され、第1穴部4に対応する第2穴部7を有する。第2穴部7は、第1穴部4と同数の底付き穴であり、一定の直径D2を有して60°の等角度間隔に円周方向に配列されている。
この場合、第1穴部4の直径D1と第2穴部7の直径D2とは同一に設定しているが、直径D1、D2同士は一定の範囲内で互いに異なっていてもよい。
【0021】
図3の(a)に示すように、第1伝達軸2と第2伝達軸5とを一定の距離を隔てたオフセット量Lで並列させて、第1フランジ盤3と第2フランジ盤6とをオフセット量Lに見合った偏心状態で重ね合わせている。第1穴部4および第2穴部7に対しては、円形のコイン状をなす薄型の回転伝達部材8をオフセット量Lに応じた隙間G(=L)を余して内接状態に配置している{図3の(b)、(c)参照}。このため、回転伝達部材8の直径D3は、第1穴部4の直径D1からオフセット量Lを減じた寸法(D1−L)となっている。
【0022】
回転伝達部材8の厚み寸法Tは、図3の(b)に示すように、第1穴部4の深さdpと第2穴部7の深さdtとの合計値よりも僅かに大きくして第1フランジ盤3と第2フランジ盤6との間に僅少な隙間Pcを設定しているが、その厚み寸法Tは深さdp、dtの合計値と等しく、あるいは僅かに小さく設定してもよい。
【0023】
この場合、第1穴部4および第2穴部7の各内周面ならびに回転伝達部材8の外周面は、ともに環状平面をなしている。すなわち、回転伝達部材8の外周面は、作動時の弾性変形もあって第1穴部4の内接面Q1で面接触状態となり、第2穴部7の内接面Q2で面接触状態となる。なお、回転伝達部材8と第1穴部4の内接面Q1(第2穴部7の内接面Q2)との間には、僅かな隙間Jを許容するが、与圧により隙間Jをなくすことにより、後述するバックラッシュを除去することができる。
なお、図3の(b)では、内接面Q1、Q2に隙間Jを作図制約上の便宜から括弧を添えて記しているが、内接面Q1、Q2と隙間Jとが同一という意味ではない。
【0024】
回転伝達部材8の厚み寸法Tは、図3の(c)に示すように、直径D3に比べて小さくし、一例として厚み寸法T対直径D3の偏平比Rを1対1.5から1対15の範囲内に設定している。回転伝達部材8の厚み寸法Tと直径D3との比を小さくしているため、回転伝達部材8への負荷は、内接面Q1と内接面Q2とを結ぶ作用直線Q3に沿って働く。作用直線Q3が第2穴部7の内接面Q2における垂線と成す角度αは小さいため、回転伝達部材8は、負荷として略径方向の圧縮荷重を受けるようになり、第1フランジ盤3と第2フランジ盤6とに対する回転伝達部材8の一体性が保たれ、薄型でありながらも高い剛性を確保することができる。
回転伝達部材8を偏平にしたのは、剛性上の観点からであり、回転伝達部材8は、後述の実施例6で示すように、通常の円柱体、円筒体あるいは管体であってもよい。
【0025】
第1伝達軸2は、図3の(a)の第1軸受9を介して回転可能に支持され、第2伝達軸5は第2軸受10を介して回転可能に支持されている。
第1伝達軸2が入力軸として回転を受けると、図4の(a)に示すように、回転伝達部材8が第1穴部4および第2穴部7の各内周面を転がることにより、第1フランジ盤3と第2フランジ盤6とがオフセット量Lに応じた偏心状態を保ちながら、第1伝達軸2の回転が第1フランジ盤3、第1穴部4、回転伝達部材8、第2穴部7および第2フランジ盤6を介して第2伝達軸5に等速で伝わる。
【0026】
すなわち、第1フランジ盤3が第1伝達軸2から入力を受けた時、図4の(b)に概略的に示すように、第1フランジ盤3は、中心をO1とするピッチ円P1に沿って回転する。回転伝達部材8は、第1フランジ盤3からのトルクを第2フランジ盤6に伝え、第1フランジ盤3を中心O2のピッチ円P2に沿って回転させる。
【0027】
中心をO3とする見かけ上のピッチ円P3をピッチ円P1とピッチ円P2との間に位置させれば、回転伝達部材8は、第1穴部4と第2穴部7との間に内接状態に挟まれながら、見かけ上のピッチ円P3に沿って径方向に揺動しながら旋回状態で転動する{図4の(b)の螺旋P6参照}。言い換えれば、回転伝達部材8は、見かけ上のピッチ円P3と同芯となる内円P4と外円P5とを包絡線としながら見かけ上のピッチ円P3に沿ってオフセット量Lに応じた変動幅で旋回転動することになる。但し、図4の(b)の螺旋は、回転伝達部材8自体ではなく、回転伝達部材8の重心(中心)が描く軌跡を示す。
【0028】
この際、第1伝達軸2からの入力は、第1フランジ盤3および第2フランジ盤6の回転変位と回転伝達部材8の旋回転動変位とを含む。このため、第2フランジ盤6を回転させないように固定して、第1フランジ盤3に旋回変位を入力すれば、回転伝達部材8から旋回運動を出力させることにより、後述するスクロール型コンプレッサーの旋回スクロールに適用することができる。
【0029】
上記構成では、第1伝達軸2と第2伝達軸5とを並列させて第1フランジ盤3と第2フランジ盤6とを向き合わせ、薄型の回転伝達部材8を介して配置するため、スラスト力の発生がなく部品点数の少ない簡素な構造で、軽量化が図られて伝達損失の少ない低慣性のものとなる。
【0030】
回転伝達部材8は、第1フランジ盤3と第2フランジ盤6とに対して完全な転がり接触により回転伝達を行うので、ベアリングやブッシュなどを用いなくても摩擦摺動を少なくすることができ、高い回転伝達効率を確保できる。また、図3の(b)において、第1穴部4の内接面Q1および第2穴部7の内接面Q2と回転伝達部材8との間の僅かな隙間Jは、与圧により除去してバックラッシュをなくすことができるので、静粛運転に併せて円滑な高速回転伝達が実現する。
【実施例2】
【0031】
図5の(a)、(b)は本発明の実施例2を示す。実施例2では、第1穴部4および第2穴部7の各内周面は、第1フランジ盤3および第2フランジ盤6の各板厚方向に深くなる方向に漸次拡径する円錐テーパ面4A、7Aとなっている。回転伝達部材8の外周面は、円錐テーパ面4A(7A)に対応する断面略V字状のテーパ面8A(8B)となっている。
【0032】
実施例2において、回転伝達部材8の転がりに伴い、回転伝達部材8に略径方向の圧縮荷重が加わる際、テーパ面8A(8B)と円錐テーパ面4A(7A)との摺接により、図5(a)に矢印S1、S2で示すように、第1フランジ盤3と第2フランジ盤6とを互いに寄せ合わせる方向の分力が働き、両フランジ盤3、6の一体化に寄与する。
【実施例3】
【0033】
図5の(c)、(d)は本発明の実施例3を示す。実施例3では、回転伝達部材8を径大円部8eと径小円部8fとにより段付状に形成している。
すなわち、径大円部8eの直径D4と径小円部8fの直径D5とは、互いに共通の中心を有して同芯円状をなしている。この場合、実施例1と同様な効果を奏する他、回転伝達部材8が径小円部8fにより軽量化されているため、材料の削減に寄与する。
【実施例4】
【0034】
図5の(e)、(f)は本発明の実施例4を示す。実施例4では、回転伝達部材8において、径大円部8eに円形穴8gを設け、円形穴8g内に径小円部8fを軸周り方向に回転可能に嵌合している。
このため、径大円部8eは第1穴部4の内周面に滑ることなく転がり、径小円部8fは第2穴部7の内周面に滑ることなく転がる。実施例4でも実施例1と同様な効果が得られる。
【実施例5】
【0035】
図5の(g)、(h)は本発明の実施例5を示す。実施例5の回転伝達部材8は、中央部から径方向に広がる薄肉で、径大な外径D6を有する鍔部8hを延出形成している。鍔部8hは、第1穴部4および第2穴部7の外部に位置し、第1フランジ盤3と第2フランジ盤6との間に挟まれて、第1平面部3aと第2平面部6aとに摺接する{図5の(g)参照}。
【0036】
鍔部8hは、第1平面部3aと第2平面部6aとに摺接状態に挟まれているので、回転伝達部材8が第1穴部4および第2穴部7内で転がる時、回転伝達部材8が軸線Iに対して傾くことを防ぎ、第1フランジ盤3から第2フランジ盤6への円滑な回転伝達機能を保持することができる{図5の(h)における矢印H参照}。
【実施例6】
【0037】
図5の(i)、(j)は本発明の実施例6を示す。実施例6の回転伝達部材8は、両側に径方向に広がる薄肉で、径大な外径D6を有する鍔部8i、8jを延出形成している。 この場合、第1穴部4および第2穴部7は貫通穴を構成し、回転伝達部材8は、中心部がローラ状の円柱体8kにして、鍔部8i、8jを第1穴部4および第2穴部7から外部に位置させている。鍔部8iは第1フランジ盤3の外面部3bに摺接し、鍔部8jは第2フランジ盤6の外面部6bに摺接する。
このため、第1穴部4および第2穴部7内で転がる時、実施例5と同様に、回転伝達部材8が軸線Iに対して傾くことを防ぎ、第1フランジ盤3から第2フランジ盤6への円滑な回転伝達機能を保持することができる{図5の(j)における矢印H参照}。
なお、鍔部8i、8jの円柱体8kに対する取付けは、円柱体8kを第1穴部4および第2穴部7に配置した後、鍔部8i、8jを円柱体8kの両端に溶接などにより固着する。
【実施例7】
【0038】
図6および図7は本発明の実施例7を示す。実施例7では、平行二軸型の等速回転伝達装置1をスクロール型コンプレッサー(図示せず)に組み込んでいる。
この場合、第2フランジ盤6は、図6の(a)に示すように、支持板11、12により回転しないように固定された状態で、第1伝達軸2および第2伝達軸5が省かれている。第1フランジ盤3は、第1伝達軸2に代わって軸受17aを取り付けている。
回転伝達部材8は、図6の(b)に示すように、中央部に透孔8cを形成したリング状をなし、第2穴部7には透孔8cに連通する開口部7dを設けている。開口部7dは、回転伝達部材8よりも径小に設定し、回転伝達部材8が第2穴部7から抜け出ないようにしている。
【0039】
回転伝達部材8の透孔8cには、開口部7dを介してピン13の一端部が嵌着され、他端部は出力部材14の取付孔部14aに嵌め込みにより固定されている。出力部材14には、螺旋帯状の旋回スクロールラップ15aが設けられて旋回スクロール15を構成している。旋回スクロール15には、旋回スクロールラップ15aに固定スクロールラップ16aを噛み合わせる固定スクロール16を組み込んでいる(図7参照)。
【0040】
軸受17aは、クランク軸17の上端部17bを回転可能に嵌合し、スクロール型コンプレッサーの稼働時、電動機(図示せず)からの回転力を受けるクランク軸17を支持する。
第2フランジ盤6は固定されているため、第1フランジ盤3は回転伝達部材8により回転が規制される。これにより、クランク軸17が回転駆動されると、クランク軸17の上端部17bが軸受17a内で自転しながら第1フランジ盤3に回転力を与える。
【0041】
第2フランジ盤6の回転が規制されていることから、第1フランジ盤3は、図6の(c)に示すように、第2穴部7に沿った円運動をする回転伝達部材8と一緒に旋回変位を行う。この旋回変位はピン13および出力部材14を介して固定スクロール16に伝えられる。これに伴い、旋回スクロールラップ15aは、固定スクロールラップ16aに対して図7の(a)→(b)→(c)→(d)の圧縮循環動作で時計回りに旋回する。
【0042】
固定スクロールラップ16aと旋回スクロールラップ15aとで囲まれた密閉空間Psは、圧縮動作が進むにつれて徐々にその容積を縮めながら中心部に移動して吐出口18に到る。このため、圧縮工程で密閉空間Psに取り込まれた冷媒ガスは圧搾気体となって吐出口18から外部に供給される。
【0043】
実施例7では、固定スクロール16に対向する旋回スクロール15を出力部材14に設けることにより、第1フランジ盤3および第2フランジ盤6をスクロール型コンプレッサーに組み込んでいる。これにより、スクロール型コンプレッサーが軽量でコンパクトになり、ひいてはコンパクト化した同型コンプレッサーを家庭用や車両用の空調装置に搭載することにより、空調装置自体を省スペース化することができる。
【0044】
(a)上記実施例1〜7における第1穴部4の直径D1および第2穴部7の直径D2は、第1フランジ盤3や第2フランジ盤6の大きさなどに応じて所望に設定することができる。第1穴部4および第2穴部7の各個数についても同様である。
(b)第1穴部4および第2穴部7は底付き穴に限らず、実施例7でも説明したように、回転伝達部材8を抜止めできる程度の底穴が開いていてもよい。
【0045】
(c)上記実施例3において、段付き状の回転伝達部材8を作製するにあたっては、径大円部8eの中央に形成した孔部に径小円部8fを圧入固定してもよい。
(d)上記実施例7における旋回運動は、ピン13を介して出力部材14に伝達させたが、第1フランジ盤3から出力部材14に直接伝達させるようにしてもよい。
(e)第1フランジ盤3と第2フランジ盤6とは、ピッチ円P1、P2が同一であれば、使用状況や組付け対象に応じて互いに異なる外径寸法に設定してもよい。
【0046】
(f)適用対象としては、スクロール型コンプレッサーに限らず、各種のトルク伝達装置や差動減速装置に適用してもよく、稼働時には第1フランジ盤3と第2フランジ盤6との間に給油し、回転伝達部材8を第1穴部4および第2穴部7に対して潤滑させてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0047】
平行二軸型の等速回転伝達装置では、部品点数の少ない簡素な構造で、軽量化が図られて伝達損失の少ない低慣性となり、回転伝達部材への負荷は略径方向の圧縮荷重となり、回転伝達部材が薄型でありながらも高い剛性を確保することができる。小型で高性能な回転伝達装置が入手できる有益性から生産の効率化を求める需要者の増加に伴い、関連部品の流通を介して機械産業界へ広く活用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】第1フランジ盤および第2フランジ盤の分解斜視図である(実施例1)。
【図2】第1フランジ盤、第2フランジ盤および回転伝達部材の分解斜視図である(実施例1)。
【図3】(a)は平行二軸型の等速回転伝達装置の斜視図、(b)は(a)のK−K線に沿う縦断面図、(c)は回転伝達部材の斜視図である(実施例1)。
【図4】(a)、(b)は第1穴部および第2穴部に対して回転伝達部材が作動する態様を示す説明図である(実施例1)。
【図5】(a)は回転伝達部材が第1穴部および第2穴部に配置された態様を示す縦断面図(実施例2)、(b)は回転伝達部材の斜視図(実施例2)、(c)は回転伝達部材が第1穴部および第2穴部に配置された態様を示す縦断面図(実施例3)、(d)は回転伝達部材の斜視図である(実施例3)、(e)は回転伝達部材が第1穴部および第2穴部に配置された態様を示す縦断面図(実施例4)、(f)は回転伝達部材の分解斜視図(実施例4)、(g)は回転伝達部材が第1穴部および第2穴部に配置された態様を示す縦断面図(実施例5)、(h)は回転伝達部材の分解斜視図(実施例5)、(i)は回転伝達部材が第1穴部および第2穴部に配置された態様を示す縦断面図(実施例6)、(j)は回転伝達部材の分解斜視図である(実施例6)。
【図6】(a)は平行二軸型の等速回転伝達装置、固定スクロール、旋回スクロールおよびクランク軸の分解斜視図(実施例7)、(b)は(a)のM−M線に沿う縦断面図(実施例7)、(c)は(b)のU−U線に沿う縦断面図である(実施例7)。
【図7】(a)〜(d)はスクロール型コンプレッサーの圧縮作用を示す説明図である(実施例7)。
【符号の説明】
【0049】
1 平行二軸型の等速回転伝達装置
2 第1伝達軸
3 第1フランジ盤
3a 第1平面部
3b 外面部
4 第1穴部
5 第2伝達軸
6 第2フランジ盤
6a 第2平面部
6b 外面部
7 第2穴部
8 回転伝達部材
8h、8i、8j 鍔部
14 出力部材
15 旋回スクロール
15a 旋回スクロールラップ
16 固定スクロール
16a 固定スクロールラップ
17a 軸受
R 偏平比

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1伝達軸に固定され、前記第1伝達軸とは反対側の第1平面部に前記第1伝達軸を中心とする一定径のピッチ円上に沿って複数形成された円形の第1穴部を有する第1フランジ盤と、
第2伝達軸に固定され、前記第1平面部と対面側の第2平面部に前記第2伝達軸を中心とする一定径のピッチ円上に沿って複数形成され、前記第1穴部に対応する円形の第2穴部を有する第2フランジ盤と、
前記第1伝達軸と前記第2伝達軸とを一定の間隔を隔てたオフセット量で並列させ、前記第1フランジ盤と前記第2フランジ盤とを偏心状態に重ね合わせて、前記第1穴部および前記第2穴部に対して隙間を余して内接状態に配置した円形の回転伝達部材とを備え、 前記第1伝達軸の回転に伴い、前記回転伝達部材が前記第1穴部および前記第2穴部の各内周面に内接状態で転がることにより、前記第1伝達軸の回転が前記第1フランジ盤、前記第1穴部、前記回転伝達部材、前記第2穴部および前記第2フランジ盤を介して前記第2伝達軸に伝わるようにしたことを特徴とする平行二軸型の等速回転伝達装置。
【請求項2】
前記回転伝達部材の厚みは、直径に比べて小さくなるようにし、前記厚みと前記直径との偏平比を1対1.5から1対15の範囲内に設定していることを特徴とする請求項1に記載の平行二軸型の等速回転伝達装置。
【請求項3】
前記第1穴部および前記第2穴部の各内周面ならびに前記回転伝達部材の外周面は、環状平面をなすことを特徴とする請求項1に記載の平行二軸型の等速回転伝達装置。
【請求項4】
前記第1穴部および前記第2穴部の各内周面は、板厚方向に深くなるにつれて漸次拡径する円錐テーパ面であり、前記回転伝達部材の外周面は、前記円錐テーパ面に対応する断面略V字状のテーパ面となっていることを特徴とする請求項1に記載の平行二軸型の等速回転伝達装置。
【請求項5】
前記回転伝達部材は、中央部から径方向に広がる鍔部を有し、前記鍔部を前記第1フランジ盤と前記第2フランジ盤との間に摺接状態に挟むことを特徴とする請求項1に記載の平行二軸型の等速回転伝達装置。
【請求項6】
前記第1穴部および前記第2穴部は貫通穴を構成し、前記回転伝達部材は、両側から径方向に広がる鍔部を有し、一方の鍔部は前記第1穴部の外部に位置して前記第1フランジ盤の外面部に摺接し、他方の鍔部は前記第2穴部の外部に位置して前記第2フランジ盤の外面部に摺接することを特徴とする請求項1に記載の平行二軸型の等速回転伝達装置。
【請求項7】
前記第2フランジ盤を固定し、前記第1フランジ盤を軸受によりクランク軸に連結し、前記第1フランジ盤が前記軸受を介して前記クランク軸からの回転を受けることにより、前記回転伝達部材を前記第1穴部および前記第2穴部の各内周面に対して転動させ、前記第1フランジ盤から前記第2フランジ盤に対する旋回運動を出力させることを特徴とする請求項1に記載の平行二軸型の等速回転伝達装置。
【請求項8】
前記第1フランジ盤および前記第2フランジ盤は、固定スクロールと旋回スクロールとを噛み合わせて圧縮空気を発生させるスクロール型コンプレッサーに組み込まれ、前記第1フランジ盤の前記旋回運動を前記旋回スクロールに伝達することを特徴とする請求項7に記載の平行二軸型の等速回転伝達装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−58092(P2009−58092A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−227653(P2007−227653)
【出願日】平成19年9月3日(2007.9.3)
【出願人】(000124188)加茂精工株式会社 (14)
【Fターム(参考)】