説明

幹細胞への標的組込み

系譜特異的あるいは細胞運命リポーターコンストラクト、または幹細胞へのタンパク質コード配列などの、目的の配列の標的組込みについての方法および組成物を本明細書に開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本明細書は、米国仮特許出願第61/212、265(出願日2009年4月9日)および米国仮特許出願第61/269、432(出願日2009年6月24日)を参照によりその全体を説明したものとしてここに含める。
【0002】
(連邦支援による研究または開発に関する陳述)
該当なし。
【0003】
本開示は、幹細胞のゲノム修飾の分野およびその用途に関係する。
【背景技術】
【0004】
幹細胞は、胚および哺乳類の成体の多くの組織に存在する未分化細胞である。成体および胚性幹細胞の両方は、種々の細胞型に分化でき、したがって、疾病、感染症、または先天性異常により損傷される細胞および組織の代替品としてのソースになり得る(例えば、Lovell−Badge(2001)Nature 414:88−91;Donovan et al.(2001)Nature 414:92−97を参照)。多様な型の推定上の幹細胞が存在し、分化して成熟細胞になると、心臓、肝臓、または脳などの特定の組織の特有の機能を実行する。多能性幹細胞は、殆ど全ての細胞型に分化することができる潜在力を有すると考えられているが、組織幹細胞は、多くの細胞型に分化することができ潜在力があると思われている(Robertson(1997)Meth.Cell Biol. 75:173; and Pedersen (1994) Reprod.Fertil.Dev. 6:543)。例えば、人為的な多能性幹細胞(hiPSCs)は再プログラム因子の異所性発現による体細胞由来の多能性細胞である(例えば、Nakagawa et al,(2008)Nat.Biotechnol 26:101−106を参照)。これらの細胞は、ヒト胚性幹細胞(hESC)の全ての重要な特徴を備えていて、特異疾患のヒト患者から単離した細胞から産生することができる(例えば、Dimos et al,(2008)Science 321:1218−1221を参照)。
【0005】
安定な遺伝子組換えおよび幹細胞への標的遺伝子挿入は、様々な応用がある。安定に形質移入した幹細胞は、タンパク質補充遺伝子治療のための細胞担体としておよび/または幹細胞を特定の系列に方向付けるために使用できる。例えば、Eliopoulos et al.(2008) Blood Cells, Molecules, and Diseases 40(2):263−264を参照されたい。さらに、系譜特異的レポーターコンストラクトの挿入によって系譜特異的細胞を単離でき、また創薬、標的バリデーション、および/またはこれらの結果に基づく遺伝子機能および同様な機能の幹細胞の視点による研究を可能にする。例えば、米国特許第5、639、618に、多能性胚性幹細胞を、DNAに作用可能なように結合した系譜特異的遺伝子の調節領域を持つコンストラクトで形質移入する事によって系譜特異的幹細胞をin vitroで単離することが記述されている。しかしながら、幹細胞形質移入の最近の戦略は、往々にして幹細胞に対象配列(レポーター)をランダムに挿入することである。例えば、Islan et al.(2008) Hum Gene Ther.Oct;19(10):1000−1008; DePalma et al.(2005) Blood 105(6):2307−2315を参照されたい。ゲノム挿入の位置を制御できないと、ゲノム内の位置効果により幹細胞集団内で極めて様々なレベルでの発現が起こる。
【0006】
そのうえ、導入遺伝子の安定的な遺伝子組換えおよび増幅の現法によって、導入遺伝子の物理的損失をすること、時間とともにまたは幹細胞分化が始まり次第導入遺伝子サイレンシングをすること、遺伝子の内部または隣接する導入遺伝子と自律プロモータを統合することによる挿入変異、ランダムに組み込まれた導入遺伝子に伴う異種性調節エレメントの原因による内在性遺伝子の異常な発現、再編成された遺伝子産物(内在性遺伝子、挿入された導入遺伝子、またはその両方からなる)の染色体異常および発現を生成すること、
および/または、安定的な導入遺伝子発現を提供するためのベクターの長期的持続性の必要性により永久に発現したベクター由来の遺伝子からのin vivoのベクターに関連した毒性または免疫原性の生成すること、を招く。その上に、系列マーカーである遺伝子などの正しい発現パターンが与えられた内在性遺伝子は、多数のcis−エレメントの複合作用から出現する。例えばLevasseur et al (2008)Genes Dev. 22: 575−580を参照されたい。
【0007】
ジンクフィンガーヌクレアーゼを使用すると、相同性駆動型の修復(HDR)経由で新規遺伝子配列を挿入するための相同的ドナー鋳型を使い極めて高効率で標的遺伝子挿入を操作できる。例えば、米国特許公報20030232410;20050208489;20050026157;20050064474;および20060188987、ならびに国際公開WO2007/014275を参照されたい、これらの開示文献は、全ての目的について参照によりその全体を説明したものとしてここに含める。ジンクフィンガーヌクレアーゼ−駆動型遺伝子挿入により非組み込みベクターの一時的送達を使うことができ、長期に持続する送達ベクターを必要としない、よって挿入による変異と毒性またはベクター駆動遺伝子に由来する免疫原性の問題を回避する。
【0008】
しかしながら、幹細胞集団への部位特異的組込みを制御する必要性が残る。
【発明の概要】
【0009】
対象とする1つまたは複数の配列を幹細胞のゲノムを標的として組み込むための組成および方法をここに開示する。
【0010】
幹細胞に挿入する配列は、タンパク質をコードする配列および/または系譜特異的レポーターコンストラクト、その他の対象とする内在性遺伝子のためのレポーター遺伝子の挿入、細胞運命決定に関わる内在性遺伝子のためのレポーター、およびマイクロRNA(miRNA)、低分子ヘアピン型RNA、RNA干渉、およびプロモータと制御配列などの非タンパク−コード配列を含むことがある。レポーターコンストラクトは、対象とする遺伝子の恒常的な、誘導性のある、または組織特異的発現をもたらすことがある。系譜特異的レポーターで標識された幹細胞は、多様な分化の研究のために使うことができ、さらに選択した系譜特異的(または成熟)細胞型の分化細胞の精製のためにも使うことができる。系譜特異的レポーターで標識された幹細胞を、核酸、小分子、抗体またはサイトカインなどの生物製剤などの化合物を選別するのに使うことができ、および/または幹細胞の集団を操縦して対象とする特定の系列経路にそって系譜特異的細胞型に向かわせることができる。in vitroの方法で使うことができる。系譜特異的レポーターを含む幹細胞はまた、生体内での位置、究極的には最終的位置、分化の運命、および対象への導入に引き続く幹細胞の作用機序(例えば、組織への組込み)を追跡するトラッキングシステムとして使うことができる。幹細胞は、特定のレポータータンパク質をコードする配列(例えば、HTK)が挿入された自殺カセットを含んでも良い。いくつかの実施形態では、自殺カセットは、より大きな細胞集団からの分化した亜集団の細胞の特定型を同定したり単離したりすることを促進するのに使われる。他の実施形態では、自殺カセットは、in vivoで望ましくない状態(例えば、細胞が分化し奇形腫を形成した場合)に分化した幹細胞を破壊するのに使われる。同様に、1つまたは複数のポリペプチドを発現する幹細胞をタンパク質補充遺伝子治療のための細胞担体として使用できる。コンストラクトが宿主細胞にランダムに組み込こまれる伝統的な組込み方法とは対照的に本明細書に記述してあるように特定の部位にコンストラクトを組込みことによって、例えば系譜特異的レポーターコンストラクトの場合、同族の成熟細胞型に分化する場合にのみ発現を訂正し、またタンパク質発現コンストラクトの場合には、細胞集団間での均一な発現をさせる。
【0011】
特異疾患の患者由来のhiPSCsをヒト疾患に対するin vitroおよびin vivoモデルを確立するために使用することもできる。遺伝子改変hESCsおよびhiPSCsを使って、分化パラダイムを改善させたり、疾病関連遺伝子を過剰発現させたりでき、さらに機能喪失実験による疾病経路を研究することもできる。重要なことに、研究は、患者集団に見いだされるような適切な遺伝的または変異体バックグラウンドの状況で遂行できる。
【0012】
従って、1つの態様では、幹細胞のゲノムの選択した領域に組み込まれた外来性配列(例えば、導入遺伝子)を含む幹細胞(または幹細胞の集団)を本明細書に提供する。特定の実施形態では、導入遺伝子は、系譜特異的プロモータおよび/または遺伝子産物(例えば、マイクロRNA(miRNA)、低分子ヘアピン型RNA、RNA干渉およびこれらの組み合わせを含む転写されたRNA産物などのタンパク質コード配列、非タンパクコード配列)を含み、幹細胞の選択した領域に組み込まれると、分化の開始または分化の経路中で、および/または幹細胞が分化して系譜特異的または成熟した細胞型に分化する時に、転写または翻訳される。遺伝子産物は、特定の細胞型への分化経路中に発現できる。さらに加えて、遺伝子産物は、幹細胞が分化しうるいくつかまたは全て細胞型で発現できる。特定の実施形態では、遺伝子産物は、系譜特異的または細胞運命遺伝子であり、例えば、その発現が、遺伝子が組み込まれた内在性遺伝子座に存在する調節制御領域(例えば、プロモータ)によって起動されように選択された遺伝子座に組み込まれるプロモータの無い遺伝子である。幹細胞は、哺乳類の幹細胞であっても良い。例えば、幹細胞は、造血幹細胞、間葉幹細胞、胚性幹細胞、神経細胞の幹細胞、筋幹細胞、肝臓幹細胞、皮膚幹細胞、胚性幹細胞、誘発多能性幹細胞およびこれらの組み合わせたものとされる。特定の実施形態では、幹細胞はヒト誘発多能性幹細胞(hiPSC)である。遺伝子産物は、誘発的に、または組織−特異的に恒常的に発現できる。
【0013】
ある特定の実施形態では、遺伝子産物は、レポーターの発現が系譜特異的または細胞運命の遺伝子の調節エレメントによって操作されるように、系譜特異的または細胞運命
遺伝子に組み込まれた非プロモータレポーター遺伝子である。
【0014】
この明細書に記述した幹細胞において、導入遺伝子は組換え部位に隣接するか、および/または自殺カセットであっても良い。
【0015】
特定の実施形態では、本明細書に記述した幹細胞は、内在性遺伝子プロモータ配列に連結した2つのレポーターを含む。特定の実施形態では、1つのレポーターを、系列または運命に至る細胞を単離または除外するために使うことができる。例えば、所望しない細胞系列または運命に傾倒している細胞かどうかをレポートするレポーターを、細胞のプールからの、さもなければ所望の系列または運命へと分化するこれらの細胞を除外するために、使用しても良い。第2のレポーター(マーカー)は、所望の
系譜特異的または成熟細胞型で発現すると知られている内在性遺伝子に連結することができる。
【0016】
二重にタグ付けされた幹細胞は、分化細胞集団由来の癌幹細胞の発生などの複雑なプロセスを研究する際に有用である。特定の実施形態では、二重にタグをつけされた分化細胞を、上記したように系譜特異的または細胞運命に連結するレポーター遺伝子を使って幹細胞集団から単離する。この幹細胞集団は、脱分化に関わる内在性遺伝子に連結する第2のレポーターを含み第2のレポーターは、どのような外部または内部条件が細胞を脱分化させ、潜在的に癌幹細胞に至るのかを決定するために使用される。
【0017】
上記したように系列または細胞運命のレポーターを使用して単離した二重にタグ付けされた分化細胞集団を、細胞が潜在的に厄介な幹細胞のような状態に逆戻りするならば、脱分化が自殺遺伝子の発現を誘発し、これらの脱分化する細胞のみを死滅させるように
脱分化に関わる内在性遺伝子に連結する第2の自殺マーカーと一緒に使用する。この実施形態は、薬物療法としてのin vivo幹細胞に関する安全性の懸念を強力に取り組む。
【0018】
さらに加えて、野生型遺伝子のコピーを、変異内在性遺伝子を持つドナー由来の幹細胞に挿入することによって様々な治療が可能になる。例えば、血友病Bにおいて、コンピテント第IX因子タンパク質の欠乏を患っている患者など。第IX因子は、凝固系に関わるセリンプロテアーゼの1つをコードし、野生型第IX因子タンパク質の正常な循環レベルの3%を修復するだけで、自発性の出血を防ぐことができることが分かった。
【0019】
従って、本開示は、配列(例えば、系譜特異的または細胞運命のレポーターコンストラクトまたはポリペプチドコードする配列)を幹細胞(例えばヒト、マウス、ウサギ、ブタまたはラットの細胞)に組み込む方法および組成を提供する。コンストラクトの標的組込みは、対象とする領域のゲノムを標的二重鎖切断することによって促進される。切断は、融合タンパク質の使用を通して特定の部位を標的とする。この融合タンパク質は対象とする領域、切断領域または切断半領域の選択したどのような配列にも結合するように設計できるジンクフィンガーDNA結合領域を含む。そのような切断によって、切断部位またはその近辺の外来性ポリヌクレオチド配列の標的組込みが刺激される。系譜特異的または細胞運命レポーターコンストラクトが幹細胞に組み込まれた実施形態において、レポーターコンストラクトは典型的に、レポーター配列をコードする非プロモータポリヌクレオチドに作用可能なように連結した分化する間に発現した遺伝子からのプロモータを必ずしも含む訳ではない。
【0020】
1つの態様において、系譜特異的レポーターコンストラクトを幹細胞に標的組込みするための方法を本明細書に提供し、この方法は、以下を含む:(a)細胞内に第1の融合タンパク質を発現させること、ここでこの第1の融合タンパク質は第1のジンクフィンガー結合領域と第1の切断半領域を含み、このジンクフィンガーDNA結合領域は、細胞のゲノム内の対象とする領域の第1の標的部位と結合するように設計されている;(b)細胞内に第2の融合タンパク質を発現させること、ここでこの第2の融合タンパク質は第2のジンクフィンガー結合領域と第2の切断半領域を含み、このジンクフィンガーDNA結合領域は、細胞のゲノム内の対象とする領域の第2の標的部位と結合し、第2の標的部位は第1の標的部位とは異なるように設計されている;および(c)細胞を本明細書に記述したような系譜特異的または細胞運命レポーターコンストラクトに接触させること、ここで第1の融合タンパク質を第1の標的部位に結合させて、また第2の融合タンパク質を第2の標的部位に結合させて、細胞のゲノムが対象とする領域内で切断されるように切断半分領域を設置させ、それによって系譜特異的または細胞運命レポーターコンストラクトを対象とする領域内の細胞のゲノムに標的組込みされる。
【0021】
別の態様では、コード配列を幹細胞に標的組込する方法を本明細書に提供し、この方法は以下を含む:(a)細胞内に第1の融合タンパク質を発現させること、ここで
この第1の融合タンパク質は第1のジンクフィンガーDNA結合領域と第1の切断半領域を含み、このジンクフィンガーDNA結合領域は、細胞のゲノム内の対象とする領域の第1の標的部位と結合するように設計されている;(b)細胞内に第2の融合タンパク質を発現させること、ここでこの第2の融合タンパク質は第2のジンクフィンガー結合領域と第2の切断半領域を含み、このジンクフィンガーDNA結合領域は、細胞のゲノム内の対象とする領域の第2の標的部位と結合し、第2の標的部位は第1の標的部位とは異なるように設計されている;および(c)細胞をコード配列に接触させること、ここで第1の融合タンパク質を第1の標的部位に結合させて、また第2の融合タンパク質を第2の標的部位に結合させて、細胞のゲノムが対象とする領域内で切断されるように切断半分領域を設置させ、それによってコード配列を対象とする領域内の細胞のゲノムに標的組込みこまれる。特定の実施形態では、コード配列は、治療上のタンパク質、レポーター遺伝子または陽性または陰性スクリーニングマーカー遺伝子をコードする配列含む。
【0022】
別の態様では、2個以上の遺伝子産物を幹細胞(例えば、マイクロRNA(miRNA)、低分子ヘアピン型RNA、RNA干渉およびこれらの組み合わせを含む転写されたRNA産物などのタンパク質コード配列、非タンパクコード配列)に標的組込みさせる方法を提供する。この方法は以下を含む:(a)細胞内に第1の融合タンパク質を発現させること、ここでこの第1の融合タンパク質は第1のジンクフィンガーDNA結合領域と第1の切断半領域を含み、このジンクフィンガーDNA結合領域は、細胞のゲノム内の対象とする領域の第1の標的部位と結合するように設計されている;(b)細胞内に第2の融合タンパク質を発現させること、ここでこの第2の融合タンパク質は第2のジンクフィンガー結合領域と第2の切断半領域を含み、このジンクフィンガーDNA結合領域は、細胞のゲノム内の対象とする領域の第2の標的部位と結合し、第2の標的部位は第1の標的部位とは異なるように設計されている;および(c)細胞内に第3の融合タンパク質を発現させること、ここでこの第3の融合タンパク質は第3のジンクフィンガー結合領域と第3の切断半領域を含み、この第3のジンクフィンガーDNA結合領域は、細胞のゲノム内の対象とする領域の第3の標的部位と結合し、第3の標的部位は第1と第2の標的部位とは異なるように設計されている;(d)細胞内に第4の融合タンパク質を発現させること、ここでこの第4の融合タンパク質は第4のジンクフィンガー結合領域と第4の切断半領域を含み、この第4のジンクフィンガーDNA結合領域は、細胞のゲノム内の対象とする領域の第4の標的部位と結合し、第4の標的部位は第1、第2、第3の標的部位とは異なるように設計されている;
ならびに(e)細胞を2つのコード配列または系譜特異的または細胞運命レポーター配列、またはこれらの任意の組み合わせに接触させること、ここで第1の融合タンパク質を第1の標的部位に結合させて、また第2の融合タンパク質を第2の標的部位に結合させて、
細胞のゲノムが対象とする領域内で切断されるように切断半分領域を設置させ、それによってコード配列または系譜特異的または細胞運命レポーター配列を対象とする領域内の細胞のゲノムに標的組込みこまれる、さらに、第3の融合タンパク質を第3の標的部位に結合させて、また第4の融合タンパク質を第4の標的部位に結合させて、細胞のゲノムが対象とする第2の領域内で切断されるように切断半分領域を設置させ、それによって2つのコード配列または系譜特異的または細胞運命レポーター配列を対象とする領域内の細胞のゲノムに標的組込みこまれる。特定の実施形態では、コード配列は、治療上のタンパク質、レポーター遺伝子または陽性または陰性スクリーニングマーカー遺伝子をコードする配列含む。
【0023】
別の態様では、選択した細胞型(分化経路の細胞、系譜特異的細胞または成熟細胞)の細胞を単離する方法を本明細書に記載する。この方法は、本明細書に記述したように幹細胞集団を培養し(例えば、標的組込みを通して挿入され、選択された系譜特異的または成熟細胞型に発現する系譜特異的または細胞運命プロモータおよび/または系譜特異的または細胞運命遺伝子を含む)そして遺伝子産物を発現する細胞を単離し、それによって選択された系譜特異的または成熟細胞型の細胞を単離する。
【0024】
さらに別の態様では、幹細胞分化における化合物、核酸または生物学的生成物の効果を測定する方法を本明細書に記述する。この方法は、化合物、核酸または生物学的産物の存在下での前記したような系譜特異的または細胞運命レポーター配列を含む幹細胞の第1の集団を培養すること、化合物、核酸または生物学的産物の非存在下での幹細胞の第1の集団としての系譜特異的または細胞運命レポーター配列を含む同じ幹細胞の第2の集団を培養すること、を含む。化合物、核酸または生物学的産物の存在下での遺伝子産物の発現の差異は、幹細胞の分化における化合物、核酸または生物学的産物の効果を示す。
【0025】
別の態様では、幹細胞内に遺伝子産物を産生する方法を本明細書に記述する。この方法は、本明細書に記述したように遺伝子産物に転写または翻訳される配列を含む幹細胞の集団を提供することであり、ここで、この配列は、幹細胞の非必須部位に組み込まれ、幹細胞の集団を培養し、そこで、培養された幹細胞の集団は遺伝子産物を一様に発現する。
【0026】
別の態様では、処置を必要とする被験者の機能的遺伝子産物の発現を減少させることによって特徴づけられる疾病を処置する方法を本明細書に提供し、この方法は、本明細書に記述してあるように機能的遺伝子産物発現する幹細胞の集団に投与することを含む。特定の実施形態では、機能遺伝子産物は第IX因子であり、かつ、疾病は血友病である。
【0027】
本明細書に記述した方法および組成のいずれにおいても、挿入された配列(例えば、系譜特異的または細胞運命レポーターコンストラクト、コード配列など)および/またはジンクフィンガーヌクレアーゼはベクター、例えば、プラスミド、直鎖DNA、アデノウイルスベクターまたはレトロウイルスベクターのどれにも供給提供できる。特定の実施形態では、挿入される配列およびジンクフィンガーヌクレアーゼ−コード化配列は同じベクター上に供給される。特定の実施形態では、組み込まれる配列(例えばレポーターコンストラクト)が、組込み欠乏性レンチウイルスベクター(IDLV)上に供給され、第1と第2のジンクフィンガータンパク質を含む融合タンパク質の1つまたは両方が、アデノウイルス(Ad)ベクター(例えば、Ad5/F35ベクター)上に供給される。特定の実施形態では、配列をコードするジンクフィンガーヌクレアーゼがmRNAとして供給される。本明細書に記述した方法および組成のいずれにおいても、挿入された配列は、幹細胞の欠損および/または患者の欠陥を訂正する配列であっても良い。いくつかの実施形態では、挿入された配列は、野生型第IX因子タンパク質をコードするヌクレオチド配列であってもよい。
【0028】
いくつかの実施形態では、本明細書に記述した方法および組成は、2人の異なるドナーを持つ細胞の対立遺伝子を修飾するのに使って良い。例えば、1つの対立遺伝子上の調整可能な遺伝子発現コンストラクト(例えば、ドキシサイクリン(DOX)への応答を組み入れられた発現コンストラクト)を有するセーフハーバ遺伝子、例えば、AAVS1、PPP1R12Cとも知られている)の修飾は、相同的対立遺伝子上の制御されたプロモータのトランス活性化因子(例えばM2rtTA)でもって同時に修飾されたAAVS1遺伝子を有する細胞内で対を成すことができる。これによって、挿入された導入遺伝子の発現の位置的変動効果を取り除けるであろう。
【0029】
本明細書に記述する実施形態のいずれにおいても、コンストラクトのレポーター遺伝子は、例えば、クロラムフェニコールアセチル転移酵素(CAT)、赤色蛍光タンパク質(RFP)、GFP、ルシフェラーゼ、チミジンキナーゼおよび/またはβガラクトシダーゼを含む。さらに、レポーター遺伝子の発現を駆動する調節領域(例えば、プロモータ)は、幹細胞の分化中に発現される任意の遺伝子から単離できる。そのようなレポーターシステムの使用によって、細胞のin vitro再プログラムのプロセスへの機構的洞察が得られる。ある特定の実施形態では、調節領域は、アディオポーズ(adiopose)特異的マーカー遺伝子(例えばap2.)由来である。いくつかの実施形態では、レポーター遺伝子発現コンストラクトは、CreおよびFLPなどの特異的リコンビナーゼの一過性発現を通してその引き続く除去を可能にするloxまたはFRTなどの配列に隣接することがある。これらのリコンビナーゼ除去システムを、要望があればその他のドナー配列を除去するのに使われることがある。同様に、任意のコード配列は、幹細胞のゲノムの特定の領域を標的とすることができる。特定の実施形態では、コード配列は、エリスロポエチン(EPO)、FIX、VEGF、免疫グロブリン、可溶性細胞表面レセプター、可溶性細胞接着分子、P−セレクチンなどの血漿可溶性タンパク質を含む。いくつかの実施形態では、可溶性タンパク質は治療上の価値がある。
【0030】
本明細書に記述されるような方法および組成は、どのような成体または胎性(胚性)幹細胞にもその用途が見いだされる。この胎性幹細胞は、限定されるわけではないが、造血幹細胞、間葉幹細胞、神経、筋、肝臓または皮膚幹細胞、胚性幹細胞、誘発多能性幹細胞などを含む。ある特定の実施形態では、幹細胞は、哺乳類の幹細胞、例えば、マウス、ラット、ウサギ、ブタまたはヒトの幹細胞である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】その中でaP2プロモータ/エンハンサー配列がGFPの発現を駆動するレポーターカセットに隣接するCCR5に対して相同性アームを有する欠損組込みレンチウイルスベクター(IDLV)を表す模式図である。
【図2】パネルAおよびBは、非複製的組換え型Ad5/F35ベクター(以後Ad.ZFNと呼ぶ)によって運ばれるCCR5−特異的ジンクフィンガーヌクレアーゼの存在下で図1に示されるヒト間葉幹細胞(hMSCs)細胞に標的組込みされる脂肪細胞特異的IDLVを示す図である。最上部のパネルの各レーンの底面は、レポーターコンストラクトが組み込まれた細胞の割合を示す。図2Bは、DNA入力レベルへ規準化するためのGAPDH遺伝子座の制御増幅を示す。
【図3】パネルAからFは、IDLVsによって運ばれたCCR5遺伝子座へZFN−介在組込みのaP2−GFPカセットを含む分化したhMSCs内のGFP発現を示す図である。hMSCsは、in vitroで分化して骨原性(図3Aおよび3B)または脂肪生成の系列(図3Cから3F)となる脂肪生成の系列のみが発現する。
【図4】パネルAからHは、標準組み込みレンチウイルスベクターを使用してこれらの細胞に導入されたランダムに組み込まれたaP2−GFPレポーターコンストラクトを有する分化したhMSCs内のGFP発現を示す図である。分化できなかったhMSCs(図4Aおよび4B)または骨原性(図4Cおよび4D)または脂肪生成の系列(図4Eから4H)にin vitro分化したそれらを図示する。強いGFP発現が、脂肪生成の系列で観察されるが、弱いGFP発現は、非分化の間葉系幹細胞と骨原性系列内の両方で見られる。
【図5】パネルAからCは、描写するレンチウイルスのドナーコンストラクトおよびこれらのコンストラクトの標的挿入を模式的に示す図である。図5Aは、PGK−eGFP(左側)と命名されたコンストラクトを発現するeGFPおよびPGK−mEpo−2A−eGFP(右側)と命名されたコンストラクトを発現するmEpoとeGFPを図示する。図5Bは、内在性CCR遺伝子座内のZFN標的部位の位置を模式的に示す。図5Cは、PGK−eGFPまたはPGK−mEpo−2A−eGFPの発現カセットの相同組換え媒介標的遺伝子組込み発現の後の期待される結果を模式的に示す。
【図6】パネルAからBは、FACSによって測定されたAd.ZFN伝達の指示したMOIにおける指示したドナーベクターによる形質導入に続くGFPを発現する細胞の割合を図示するグラフである。黒色バーは、CCR5−標的ZFNs存在下でIDLV−eGFPコンストラクトで形質導入した細胞内のGFP発現を図示し、灰色バーは、CCR5−標的ZFNs存在下でIDLV−mEpo−2A−eGFPコンストラクトで形質導入した細胞内のGFP発現を図示する。図6Aは、ジャーカット細胞(左側)およびK562細胞(右側)内でのGFP発現を示す。図6Bは、ヒト間葉幹細胞(hMSCs)内でのGFP発現を示す。
【図7A】パネルAとBは、ジャーカット細胞(図7A、左側)、K562細胞(図7A、右側)およびhMSCs(図7B)内におけるCCR5−ZFNsをコードするAd5/F35ベクターの非存在下(レーン標識Ad.CCR5−ZFN−)および存在下(レーン標識Ad.CCR5−ZFN+)での、指示したドナーコンストラクトの標的組込のためのPCR法解析を示す。GAPDHPCR法は、DNA入力レベルをコントローための各パネルの底面で示される。
【図7B】パネルAとBは、ジャーカット細胞(図7A、左側)、K562細胞(図7A、右側)およびhMSCs(図7B)内におけるCCR5−ZFNsをコードするAd5/F35ベクターの非存在下(レーン標識Ad.CCR5−ZFN−)および存在下(レーン標識Ad.CCR5−ZFN+)での、指示したドナーコンストラクトの標的組込のためのPCR法解析を示す。GAPDHPCR法は、DNA入力レベルをコントローための各パネルの底面で示される。
【図8】CCR5−ZFNsをコードするAd5/F35ベクターの存在下の指示されたドナーコンストラクトでもって形質導入されたhMSCsの条件培地内で、ELISAによって測定された、Epoタンパク質発現を示す。
【図9A】パネルAおよびBは、Epoドナー組込みコンストラクトとhMSCsを一緒に腹腔内(IP)注射を受けたマウスのヘマトクリット(図9A)と血漿内で測定されたEpoタンパク質レベル(図9B)についてEpoタンパク質発現の効果を示す。黒色ダイアモンドは、Ad/ZFN−CCR5コンストラクトとIDLV−eGFPドナーコンストラクトでもって形質導入された107hMCSsの投与に引き続くin vivoでのEpoタンパク質レベルを図示する。黒色四角は、Ad/ZFN−CCR5コンストラクトとIDLV−mEpo−2A−eGFPドナーコンストラクトでもって形質導入された107hMCSsの投与に引き続くin vivoでのEpoタンパク質レベルを図示する。黒色ダイアモンドは、Ad/ZFN−CCR5コンストラクトとLV−mEpo−2A−eGFP組込みドナーコンストラクトでもって形質導入された106hMCSsの投与に引き続くin vivoでのEpoタンパク質を図示する。
【図9B】パネルAおよびBは、Epoドナー組込みコンストラクトとhMSCsを一緒に腹腔内(IP)注射を受けたマウスの血漿内で測定されたヘマトクリット(図9A)とEpoタンパク質レベル(図9B)についてEpoタンパク質発現の効果を示す。黒色ダイアモンドは、Ad/ZFN−CCR5コンストラクトとIDLV−eGFPドナーコンストラクトでもって形質導入された107hMCSsの投与に引き続くin vivoでのEpoタンパク質レベルを図示する。黒色四角は、Ad/ZFN−CCR5コンストラクトとIDLV−mEpo−2A−eGFPドナーコンストラクトでもって形質導入された107hMCSsの投与に引き続くin vivoでのEpoタンパク質レベルを図示する。黒色ダイアモンドは、Ad/ZFN−CCR5コンストラクトとLV−mEpo−2A−eGFP組込みドナーコンストラクトでもって形質導入された106hMCSsの投与に引き続くin vivoでのEpoタンパク質を図示する。
【図10A】パネルAからCは、OCT4遺伝子座の標的を示す。図10Aは、OCT4遺伝子座のための標的戦略の模式的概要を示す図である。サザンブロット解析に使われるプローブは赤色四角で示され、OCT4遺伝子座のエクソンは青色四角で示され、さらに矢印はZFN対のそれぞれによって切られたゲノムの部位を指し示す。OCT4遺伝子座を標的にするのに使われたドナープラスミドを、上に示す;SA−GFP:スプライス受容体eGFP配列、2A:自己−切断する2Aペプチド配列、PURO:ピューロマイシン抵抗性遺伝子、polyA:ポリアデニル化配列.上部の左の挿入図は、FokIヌクレアーゼ領域の二量体形成に導かれる特異的ゲノムの部位(黄色)での2つのZFNs結合の風刺画を示す。
【図10B】図10Bは、対応するドナープラスミドを使用し指示したZFN対でもって標的にされた、BGO1細胞のサザンブロット解析を示す。ゲノムDNAは、EcoRIで消化して外側の3’プローブとハイブリッド形成するか、またはSacIで消化して外側の5’プローブとハイブリッド形成した。
【図10C】図10Cは、対応するドナープラスミドを使用し指示したZFN対でもって標的にされたBGO1野生型細胞およびBGO1細胞内のOCT4とeGFPの発現のウエスタンブロット解析を図示する。細胞抽出液は、未分化細胞(ES)またはin vitroで分化した線維芽細胞様の細胞(Fib.)から取り出された。
【図11】パネルAおよびBは、PPP1R12C遺伝子に対する標的戦略を示す図である。図11Aは、AAVS1遺伝子座のPPP1R12C遺伝子に対する標的戦略の模式的概要を図示する。サザンブロット解析に使われたプローブを赤色四角で表し、PPP1R12C遺伝子の最初の3エクソンを青色四角で表し、矢印はZFNでカットされたゲノム部位を指し示す。遺伝子座を標的にするのに使われたドナープラスミドを上に示す;SA−Puro:スプライス受容体配列、次に2A:自己切断ペプチド配列とピューロマイシン抵抗性遺伝子、pA:ポリアデニル化配列、PGK:ヒトホスホグリセロールキナーゼプロモータ、Puro:ピューロマイシン抵抗性遺伝子。図11Bは、AAVS1 ZFNsを使用し指示されたドナープラスミドでもって標的されたBGO1細胞のサザンブロット解析を示す。ゲノムDNAは、SphIで消化して32P−標識された外側の3’プローブまたは内側の5’プローブとハイブリッド形成する。フラグメントの大きさは:PGK−Puro:5’プローブ:wt=6.5kb、標的=4.2kb;3’プローブ:wt=6.5kb、標的=3.7kb.SA−Puro:5’プローブ:wt=6.5kb、標的=3.8kb;3’プローブ:wt=6.5kb、標的=3.7kb。
【図12】hiPSCs内のAAVS1遺伝子座のZFN媒介遺伝子標的を示す図である。対応するドナープラスミドを使用し、指示したZFN対でもって標的されたhiPSC細胞株PD21lox17Puro−5のサザンブロット解析。ゲノムDNAは、SphIで消化され、32P−標識された外側の3’プローブまたは内側の5’プローブとハイブリッド形成した。フラグメントの大きさは:PGK−Puro:5’プローブ:wt=6.5kb、標的=4.2kb;3’プローブ:wt=6.5kb、標的=3.7kb.SA−Puro:5’プローブ:wt=6.5kb、標的=3.8kb;3’プローブ:wt=6.5kb、標的=3.7kb。
【図13】DOX誘導性TetO RFP含むドナーコンストラクトを有するAAVS1遺伝子座のPPP1R12C遺伝子のための標的戦略のためのドナーヌクレオチドを模式的に示す図である。2A−GFPは、GFPと融合した自己切断する2Aペプチドをコードするヌクレオチド間のヌクレオチド融合配列である。TetOは、テトラサイクリンリプレッサー標的(「オペレーター」)配列であり、それは、最小のCMVプロモータと連結している。RFPは、赤色蛍光性タンパク質をコードするヌクレオチド配列である。
【図14】PITX3−特異的ZFNsの2つの対でもって形質移入するのに引き続きK562細胞内のPITX3遺伝子座に生じるNHEJの量をアッセイすることへのPCR解析の結果を示す図である。このデータは、(Miller et al. (2007) Nature Biotechnology 25(7): 778−85)に記述してあるようにCEL−Iミスマッチ−感受性エンドヌクレアーゼアッセイを使って生成した。NHEJ%は、各レーンの底面に指し示す。’G’は、GFP発現プラスミドで形質移入した対照細胞を指し示す。
【図15】PITX3−eGFPノックイン細胞を産生するためのドナーヌクレオチド標的戦略の模式図である。5’アームと3’アームは、内在性PITX3遺伝子座に相同であり、2ARFP−pAは、polyA配列に連結している赤色蛍光性タンパク質(RFP)をコードする遺伝子と連結する自己切断2Aペプチドを備えたオープンリーディングフレームを指し示す。PGK−GFP−polyAは、オープンリーディングフレームを指し示し、ここでPGKプロモータは、PGKpolyA配列と連結している緑色蛍光性タンパク質(GFP)と連結する。loxは、GFPリーディングフレームに隣接するloxP部位を指し示す。
【図16】CEL−Iミスマッチアッセイの結果を表すアガロースゲルの図である。このゲルは、第IX因子特異的ZFNsによる形質移入に引き続くK562細胞に発生したNHEJの%を示す。NHEJ%は、各レーンの底面に指し示すZFNsの対を、レーンの上に指し示す。また各セットは、形質移入ZFN−コード化プラスミドの1、2、または4ugからの結果を示す。’G’は、GFPに特異的なZFNsによる形質移入に引き続く結果を指し示す。
【図17】CEL−Iミスマッチアッセイの結果を示すアガロースゲルの図である。このゲルは、第IX因子特異的ZFNsによる形質移入に引き続くHep3B細胞に発生したNHEJの%を示す。NHEJ%は、各レーンの底面に指し示す。各レーンで使われたZFNsの対を、使用した形質移入するプラスミドと共にレーンの上に指し示す。「GFP」は、GFP−特異的ZFNsの制御形質移入からの結果を指し示す。
【図18】パネルAとBは、制限酵素部位を含む30bpタグを内在性第IX因子遺伝子座に標的組込みすることを示す図である。この図は、組み込まれたタグを含む領域のPCR産物をNheIで消化した産物を分解したポリアクリルアミドゲルのオートラジオグラフを示す。図18Aにおいて、形質移入後3日で細胞からDNAを単離した。レーン1では、NheIで消化された第IX因子特異的ZFNsの非存在下ドナーDNAのみで形質移入されたK562細胞から単離したPCR産物を含む。レーン2から5では、野生型Fok1二量体形成領域を含む第IX因子特異的ZFNsを、ドナープラスミド量を増加しながら使用した。レーン6から9では、ELD/KKK Fok1二量体形成領域を含む第IX因子特異的ZFNsを、ドナープラスミド量を増加しながら使用した。NheI感受性DNAのNheIのパーセントは、各レーンの下に指し示す。図18Bは、形質移入後10日目の同様の結果を図示する。
【発明を実施するための形態】
【0032】
対象とする配列(例えば、系譜特異的レポーターコンストラクトおよび/またはコード配列)を幹細胞標的組込みするための組成および方法を、本明細書に記述する。
【0033】
概要
本明細書に開示した方法、同様に組成の準備および使用の実施は、その他の指示がなければ、分子生物学、生化学、クロマチン構造および解析、計算化学、細胞培養、組換えDNAおよび関連する分野の通常の技術を、当業者の技術の範囲内として採用する。これらの技術は、文献に十分に説明されている。例えば、Sambrook et al. MOLECULAR CLONING: A LABORATORY MANUAL, Second edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1989 and Third edition, 2001; Ausubel et al., CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY, John Wiley & Sons, New York, 1987 and periodic updates; the series METHODS IN ENZYMOLOGY, Academic Press, San Diego; Wolffe, CHROMATIN STRUCTURE AND FUNCTION, Third edition, Academic Press, San Diego, 1998; METHODS IN ENZYMOLOGY, Vol. 304, “Chromatin” (P.M. Wassarman and A. P. Wolffe, eds.), Academic Press, San Diego, 1999; and METHODS IN MOLECULAR BIOLOGY, Vol. 119, “Chromatin Protocols” (P.B. Becker, ed.) Humana Press, Totowa,1999を参照されたい。
【0034】
定義
用語「核酸」、「ポリヌクレオチド」および「オリゴヌクレオチド」は、互換的に使用し、直線状または環状の高次構造、かつ単一または二重鎖の型のデオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチドポリマーを意味する。本開示の目的のために、これらの用語は、ポリマーの長さについて制限があると解釈されるべきではない。これらの用語は、自然のヌクレオチドの既知の類似体、同様に塩基、糖および/またはリン酸部分(例えば、ホスホロチオエートバックボーン)が修飾されたヌクレオチドを含む。一般に、特定のヌクレオチドの類似体は、塩基対形成特異性を有する;すなわち、Aの類似体はTと塩基対を成す。
【0035】
用語「ポリペプチド」、「ペプチド」および「タンパク質」は、アミノ酸残基のポリマーとして互換的に使われる。この用語は、1つまたは複数のアミノ酸が、対応する自然に存在するアミノ酸の化学的類似体または修飾された誘導体であるアミノ酸ポリマーにも適用される。
【0036】
「結合」とは、巨大分子間(例えば、タンパク質と核酸の間)の配列特異的、非共有結合性の相互作用を意味する。結合相互作用の全ての成分は、相互作用全体が配列特異的である限り、必ずしも配列特異的(例えば、DNAバックボーン内のリン酸残基との接触)である必要はない。そのような相互作用は、10-6-1またはより低い解離定数(Kd)によって一般に特徴づけられる。「親和性」とは、結合力を意味する:結合親和性の増加は、より低いKdに相関する。
【0037】
「結合タンパク質」は、別の分子に非共有結合的に結合できるタンパク質である。結合タンパク質は、例えば、DNA分子(DNA結合タンパク質)、RNA分子(RNA結合タンパク質)および/またはタンパク質分子(タンパク質結合タンパク質)と結合する。タンパク質結合タンパク質の場合、それ自体(ホモ二量体、ホモ三量体、を形成することなど)に結合でき、および/または異なるタンパク質またはタンパク質の1つまたは複数の分子と結合することができる。結合タンパク質は、結合活性の1以上の型を持つことができる。例えば、ジンクフィンガータンパク質は、DNA結合性、RNA結合性およびタンパク質結合活性を持つ。
【0038】
「ジンクフィンガーDNA結合タンパク質」(または結合領域)は、1つまたは複数のジンクフィンガーを通して配列特異的様式でDNAに結合するより大きなタンパク質内のタンパク質または領域である。これらは、その構造がZnイオンの配位を通して安定化している結合領域内のアミノ酸配列の領域である。用語ジンクフィンガーDNA結合タンパク質は、しばしばジンクフィンガータンパク質またはZFPと略される。
【0039】
ジンクフィンガー結合領域、例えばジンクフィンガーの認識らせん体は、予め決められたヌクレオチド配列と結合するように「設計」できる。ジンクフィンガータンパク質を設計するための方法の限定されない例は、デザインおよび選択である。デザインされたジンクフィンガータンパク質は、そのデザイン/組成が合理的判断基準から主に生じたものである自然界に起こりえないタンパク質である。デザインをする際の合理的判断基準は、現存するZFPデザインおよび結合データの情報を貯蔵するデータベース内の情報を処理する置換規則とコンピュータ処理アルゴリズムの応用を含む。例えば、米国特許6,140,081号;6,453,242号;および6,534,261号を参照;さらに国際公開WO98/53058号;WO98/53059号;WO98/53060号;WO02/016536号およびWO03/016496号を参照されたい。
【0040】
「選択された」ジンクフィンガータンパク質は、自然界に存在しないタンパク質であり、その産生物は主に実験的プロセス(ファージディスプレイ、相互作用トラップまたはハイブリッド選択)から生み出されたものである。例えば、米国特許5,789,538号;米国特許5,925,523号;米国特許6,007,988号;米国特許6,013,453号;米国特許6,200,759号;国際公開WO95/19431号; WO96/06166号; WO98/53057号; WO98/54311号; WO00/27878号; WO01/60970号;WO01/88197号およびWO02/099084号を参照されたい。
【0041】
用語「配列」とは、任意の長さのヌクレオチド配列を意味し、DNAまたはRNAでもあり;直線状、環状または分枝であっても良く、さらに一本鎖または二重鎖であっても良い。用語「ドナー配列」とは、ゲノムに挿入されたヌクレオチド配列である。ドナー配列は、任意の長さであって良く、例えば、長さが2から10,000ヌクレオチド(またはこれらの整数の間の任意の整数またはちょうどその値)であり、好ましくは長さが約100から1,000ヌクレオチド(またはこれらの整数間の任意の整数)でありより好ましくは長さが約200から500のヌクレオチドである。
【0042】
「相同的、非同一配列」は第2の配列と配列相同性度を共有する第1の配列を意味する。しかしその配列は、第2の配列と同一のものではない。例えば、変異体遺伝子の野生型配列を含むポリヌクレオチドは、相同的であり、また変異体遺伝子の配列とは同一でない。特定の実施形態では、2つの配列の相同性度は十分であり、2つの配列の間の相同組換え、正常な細胞の機序の利用を可能にする。2つの相同的で同一でない配列は、任意の長さであって良く、非相同性度は、単一のヌクレオチド(例えば、標的相同組換えによるゲノムの点変異の訂正)の小ささあっても良い、または10キロベース(例えば、染色体内の予め決められた異所性部位の遺伝子の挿入について)あるいはそれ以上であっても良い。相同的非同一配列からなる2つのポリヌクレオチドは同じ長さである必要は無い。例えば、20から10,000のヌクレオチドまたはヌクレオチド対の外来性ポリヌクレオチド(すなわち、ドナーポリヌクレオチド)を使って良い。
【0043】
核酸とアミノ酸配列同一性を決定する技術は当業者に知られている。典型的に、そのような技術は、遺伝子のmRNAのヌクレオチド配列を決定すること、および/またはそれによってコードされたアミノ酸配列を決定すること、これらの配列と第2のヌクレオチドまたはアミノ酸配列を比較することを含む。ゲノム配列も、この方法でまた決定でき、比較できる。一般に、同一性とは、2つのポリヌクレオチドまたはポリペプチド配列が、それぞれ正確にヌクレオチド対ヌクレオチドまたはアミノ酸対アミノ酸の対応をすることを意味する。2つ以上の配列(ポリヌクレオチドまたはアミノ酸)は、それぞれのアイデンティティ%を決定することによって比較することができる。2つの配列のアイデンティティ%は、核酸であろうとまたはアミノ酸配列であろうと、2つの整列させた配列の間の正確な一致の数を短い方の配列の長さで割って、それに100を掛けたものである。配列間のアイデンティティ%または類似度を計算する適切なプログラムは、一般に当業者に知られており、例えば、別の整列化プログラムとしてデフォルトパラメータを使用するブラストがある。本明細書に記述する配列に関して、望ましい配列相同性度数の範囲は、約80%から100%およびこれらの値の間の整数値である。典型的に、配列間のアイデンティティ%は、少なくとも70〜75%、好ましくは80〜82%、より好ましくは85〜90%、更に好ましくは92%、もっと好ましくは95%、さらに、最も好ましくは98%配列相同性である。
【0044】
代わりに、ポリヌクレオチド間の配列類似性度を、相同領域間で安定な二本鎖を形成ができ、次に一本鎖特異的ヌクレアーゼでもって消化させ、そして、消化した断片を測定するという条件のもとポリヌクレオチドのハイブリッド形成法によって測定することができる。2つの核酸または2つのポリペプチド配列は、上記の方法を使って測定されるように分子の限定された長さに渡って、少なくとも70〜75%、好ましくは80〜82%、より好ましくは85〜90%、更に好ましくは92%、もっと好ましくは95%、さらに、最も好ましくは98%配列相同性を示す時、実質的に互いに相同的である。本明細書に使われたように、実質的に相同的とは、特定のDNAまたはポリペプチド配列に対して完全な同一性を示す配列のことを意味する。実質的に相同的なDNA配列は、例えば、特定のシステムに対して定義したような厳密な条件の下で、サザンブロット法実験で同定できる。適切なハイブリッド形成条件を限定することは、当業者の技術の範囲内である。例えば、Sambrook et al., supra; Nucleic Acid Hybridization: A Practical Approach, editors B.D. Hames and S.J. Higgins, (1985) Oxford; Washington, DC; IRL Press)を参照されたい。
【0045】
2つの核酸断片の選択的ハイブリッド形成は、以下の通りに測定できる。2つの核酸分子間の配列相同性度は、そのような分子間のハイブリッド形成イベントの効率および強度に影響する。部分的に同一の塩基配列は、標的分子と完全に同一の配列のハイブリッド形成を少なくとも部分的に抑制する完全に同一の配列のハイブリッド形成の抑制は、当業者に良く知られたハイブリッド形成アッセイを使って評価できる(例えば、サザン(DNA)ブロット、ノーザン(RNA)ブロット、溶液ハイブリッド形成法、または同様な方法、Sambrook, et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Second Edition, (1989) Cold Spring Harbor, N.Y.を参照)。そのようなアッセイは、様々な選択度を使って(例えば、低から高厳密性に変わる条件を使って)実施できる。低厳密性の条件を採用するならば、非特異的結合の非存在は、配列相同性の部分的一致度さえない二次的なプローブ(例えば、標的分子と配列相同性が30%未満のプローブ)を使って評価できる。即ち、非特異的結合イベントの非存在下で、二次的なプローブは、標的とハイブリッド形成しない。
【0046】
ハイブリッド形成法ベースの検出システムを利用する時、参照塩基配列に相補的な核酸プローブが選択され、そして適切な条件を選択することによって、プローブと参照配列が選択的にハイブリッド形成し、互いに結合して二本鎖分子を形成する。中程度に厳密なハイブリッド形成条件の下で選択的に参照配列とハイブリッド形成できる核酸分子は、選択された核酸プローブの配列と少なくとも約70%の配列相同性を持つ少なくとも長さ約10〜14のヌクレオチドの標的塩基配列を検出できる条件の下で典型的にハイブリッド形成する。厳密なハイブリッド形成条件によって、選択された核酸プローブの配列と約90〜95%以上の配列相同性を持つ少なくとも長さ約10〜14のヌクレオチドの標的塩基配列を典型的に検出できる。プローブ/参照配列がハイブリッド形成するための有用なハイブリッド形成法条件は、プローブと参照配列はある特定の配列相同性度を有し、当業者に知られた方法で測定できる。(例えば、Nucleic Acid Hybridization: A Practical Approach, editors B.D. Hames and S.J. Higgins, (1985) Oxford; Washington, DC; IRL Pressを参照されたい)
【0047】
ハイブリッド形成の条件は当業者には良く知られている。ハイブリッド形成厳密性とは、ハイブリッド形成条件が不一致のヌクレオチドを含むハイブリッド形成を嫌う度合いを意味し、より高い厳密性は、不一致ハイブリッドに対するより低い許容性に相関する。ハイブリッド形成の厳密性に影響する因子は、当業者に知られており、限定される訳ではないが、温度、pH、イオン強度、および例えば、ホルムアミドやジメチルスルホキシドなどの有機溶剤の濃度を含む。当業者に知られているように、ハイブリッド形成厳密性は、より高い温度、より低いイオン強度およびより低い溶媒濃度によって増加する。
【0048】
ハイブリッド形成のための厳密な条件に関して、多数の等価の条件を採用できて、特定の厳密性を確立することが当業者に知られている。例えば、次の因子を変化させて特定の厳密性を確立する:配列の長さと性質、様々な配列の塩基組成、塩とハイブリッド形成溶液の濃度、ハイブリッド形成溶液中の遮断薬の存在または非存在(例えば、デキストラン硫酸およびポリエチレングリコール)、ハイブリッド形成反応温度とタイムパラメータ、同様に、異なる洗浄条件。ハイブリッド形成条件の特定のセットを選択は、当業者の標準方法に従って行う。(例えば、Sambrook, et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Second Edition, (1989) Cold Spring Harbor, N.Y.を参照).
【0049】
「組換え」とは、2つのポリヌクレオチド間の遺伝情報の交換プロセスを意味する。本開示の目的、「相同組換え(HR)」とは、例えば、細胞内の二重鎖切断の修復中に起こるそのような交換の特定の型を意味する。このプロセスは、ヌクレオチド配列相同性を必要とし、「ドナー」分子を使って「標的」分子を鋳型修復する(即ち、二重鎖切断を経験したもの)、また「非クロスオーバー遺伝子変換」または「短路遺伝子変換」としてさまざまに知られている、なぜならこのプロセスによってドナーから標的へ遺伝情報が伝達されるからである。特定の理論に拘束されずに、そのような伝達は壊れた標的とドナーの間で形成されるヘテロ二本鎖DNAの不一致の訂正、および/またはドナーを使って標的の一部となる遺伝情報を再合成する「合成依存鎖アニーリング」、および/または関連するプロセスに関わることがある。そのような特定化したHRは、ドナーポリヌクレオチドの一部または全てが標的ポリヌクレオチドに取り込まれるようにしばしば標的分子配列の変異を生み出す。
【0050】
「切断」とは、DNA分子の共有結合性バックボーンの損傷を意味する。切断は、これに限定されないが、リン酸ジエステル結合の酵素のまたは化学的加水分解を含む様々な方法によって開始する。一本鎖の切断と二重鎖の切断両方が起こりうる、また二重鎖の切断は、2本の別々の一本鎖の切断イベントの結果として発生することがある。DNA切断により、平滑断の端またはねじれ型の端の産生物を生み出すことがある。特定の実施形態では、融合ポリペプチドが、二本鎖DNA切断を標的するために使われる。
【0051】
「切断半領域」は、第2のポリペプチドと連結して(同一のまたは異なる)、切断活性(好ましくは、二重鎖切断活性)を有する複合体を形成するポリペプチド配列である。用語「第1と第2の切断半領域」および「右と左の切断半領域」は、互換的に使われて二量体化する切断半領域の対を意味する。
【0052】
「改変された切断半領域」とは、別の切断半領域と一緒に絶対ヘテロ二量体を形成するように(例えば、別の改変された切断半領域)修飾された切断半領域である。さらに、米国特許公報2005/0064474号;2007/0218528号および2008/0131962号をも参照されたい、参照によりその全体を本明細書に含める。
【0053】
「条件突然変異」とは、特定の環境条件(「許容的」として知られている)の下および特定の「制限的」条件の下で、野生型表現形を持つ突然変異株である。条件突然変異株は、冷気感受性であることもある、ここで変異は、冷気に改変された表現形を生み、しかし暖気に触れると、表現形は、ほとんど野生型に戻る。逆に、条件突然変異株は、熱感受性(しばしば、「温熱感受性」と名付けられる)であることもあり、ここで野生型表現形が冷たい温度で見られるが、より暖かい温度に触れると変化する。「クロマチン」は、細胞のゲノムを含むヌクレオプロテイン構造である。細胞のクロマチンは核酸を含み、ヒストンと
非ヒストン性染色体タンパク質を有し、主にDNAおよびタンパク質を含む。真核生物細胞のクロマチンの大部分は、ヌクレオソームの形で存在し、ここでヌクレオソームコアは、
ヒストンH2A、H2B、H3およびH4の内各2ずつからなる八量体に付随するDNA約150塩基対を備え、およびリンカーDNA(可変長は、生物体に依存する)は、クレオソームコアの間に伸びる。ヒストンH1の分子は、一般にリンカーDNAに付随する。本開示の目的のために、用語「クロマチン」とは、原核生物および真核生物ともに細胞のヌクレオプロテインの全ての型を含むことを意味する。細胞のクロマチンは、染色体性およびエピソーム性両方のクロマチンを含む。
【0054】
「染色体」とは、細胞ゲノムの全てまたは一部を含むクロマチン複合体である。細胞ゲノムは、しばしばその核型によって特徴づけられる。この核型は、細胞のゲノムを含む染色体全てのコレクションである。細胞のゲノムは、1つまたは複数の染色体を含んで良い。
【0055】
「エピソーム」は、細胞の染色体の核型の部分でない核酸を含む核酸、ヌクレオプロテイン複合体またはその他の構造を複製する。エピソームの例として、プラスミドおよび特定のウイルスゲノムがある。
【0056】
「到達可能領域」とは、その中で核酸内に存在する標的部位が標的部位を認識する外来性分子によって結合できる細胞のクロマチン内の部位である。特定の理論に束縛されることなく、到達可能領域とは、ヌクレオソーム構造にパッケージされない領域である。到達可能領域の明瞭な構造は、化学的かつ酵素のプローブ(例えば、ヌクレアーゼ)に対する感受性によってしばしば検出できる。
【0057】
「標的部位」または「標的配列」は、結合が存在する十分な条件が仮定されているとして、結合分子が結合する核酸の部分を限定する塩基配列である。例えば、配列5’GAATTC3’は、Eco RI制限酵素の標的部位である。
【0058】
「外来性」分子は、細胞内に通常存在しない分子であり、1つまたは複数の遺伝的、生化学的またはその他の方法によって細胞に導入できる。「細胞内の通常の存在」を、細胞の特定の発生段階と環境条件に関して測定する。従って、例えば筋肉の胚発生の段階の期間のみ存在する分子は、成体筋細胞に関して外来性分子である。同様に、熱ショックによって誘発する分子は、熱ショックされなかった細胞に関して外来性分子である。外来性分子は、例えば、機能不全内在性分子の機能バージョンまたは正常機能内在性分子機能不全バージョンを含むことができる。
【0059】
外来性分子は、その他の中で特に、例えばコンビナトリアルケミストリープロセスで産生されたような小分子、または、例えばタンパク質、核酸、炭水化物、脂質、糖タンパク質、リポタンパク質、多糖類、上記分子の任意の修飾された誘導体、または1つまたは複数の上記の分子を含む任意の複合体などの巨大分子であっても良い。核酸は、DNAおよびRNAを含み、単鎖または二重鎖であっても良く;直線状、分枝または環状であっても良く;さらに、任意の長さでも良い。核酸は、二本鎖を形成できるもの、同様に三重鎖を形成する核酸を含む。例えば、米国特許番号5,176,996号および5,422,251号を参照されたい。タンパク質は、以下に制限される訳ではないが、DNA結合タンパク質、転写制御因子、クロマチンリモデリング因子、メチル化DNA結合タンパク質、ポリメラーゼ、メチラーゼ、脱メチラーゼ、アセチラーゼ、脱アセチル化酵素、キナーゼ、脱リン酸酵素、インテグラーゼ、リコンビナーゼ、リガーゼ、トポイソメラーゼ、ジャイレースおよびヘリカーゼを含む。外来性分子もまた、内在性分子として同じ型の分子であっても良く、しかし、細胞が由来するところとは異なる種由来である。例えば、ヒト塩基配列は、マウスまたはハムスターに元来由来する細胞系列を導入できる。
【0060】
外来性分子は、内在性分子(例えば、外来性タンパク質または核酸)と同じ型である。例えば、外来性核酸は、感染ウイルスゲノム、細胞に導入されたプラスミドまたはエピソーム、または細胞内に通常は存在しない染色体を含む。外来性分子を細胞に導入する方法は、当業者に知られており、以下に制限される訳ではないが、脂質媒介伝達(即ち、中性および陽イオン性脂質を含むリポソーム類)、電気穿孔法、直接注射、細胞融合、微粒子銃、リン酸カルシウム共沈、DEAE−デキストラン媒介伝達、およびウイルスベクター媒介伝達を含む。外来性分子とは、異なる種、例えば、ヒト遺伝子導入ハムスターゲノムからの核酸をも意味する。
【0061】
対照的に、「内在性」分子とは、環境条件下で、特定の発生段階での特定の細胞内に通常存在するものである。例えば、内在性核酸は、染色体、ミトコンドリアゲノム、葉緑体またはその他の小器官、または自然に発生するエピソーム性核酸を含める。さらなる内在性分子は、例えば、転写制御因子および酵素などのタンパク質を含める。
【0062】
「融合」分子は、2つ以上のサブユニット分子が連結された、好しくは共有結合的に連結された分子である。このサブユニット分子は、同じ化学型の分子であるか、または異なる化学型の分子でありうる。融合分子の第1の型の例として、以下に制限される訳ではない、融合タンパク質(例えば、ZFP DNA結合ドメインと切断領域間の融合)および融合核酸(例えば、上記の融合タンパク質をコードする核酸)を含む。融合分子の第2の型の例は、以下に制限される訳ではないが、三重形成核酸とポリペプチド間の融合、および副溝結合剤と核酸間の融合を含む。
【0063】
細胞内の融合タンパク質の発現は、融合タンパク質を細胞から、または融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを細胞に運搬することによって生まれる、ここでポリヌクレオチドは転写され、そして転写物は翻訳されて融合タンパク質を生成する。トランススプライシング、ポリペプチド切断およびポリペプチド連結は、細胞内のタンパク質発現に関わることも出来る。ポリヌクレオチドとポリペプチドを細胞へ運搬する方法は、この開示の別のところで示す。
【0064】
本開示の目的のための「遺伝子」は、そのような制御配列がコード領域および/または転写された配列に隣接するかどうかに関わらず遺伝子産物(下を見よ)をコードするDNA領域、同様に遺伝子産物の産生を制御する全てのDNA領域を含む。したがって、遺伝子は、必ずしも以下に制限される訳ではないが、リボソーム結合部位と配列内リボソーム進入部位、エンハンサー、サイレンサー、絶縁体、境界エレメント、複製開始点、マトリックス付着部位および遺伝子座調節領域などのプロモータ配列、ターミネータ、翻訳制御配列を含む。
【0065】
「系譜特異的」遺伝子とは、それらの発現が、分化した細胞または系譜特異的細胞型または成熟細胞型に分化するプロセス中の細胞などの特定の細胞型の特徴を示す遺伝子である。
【0066】
「細胞運命」遺伝子は、細胞の指定先を特定の機能および/または系譜特異的または成熟細胞型に決定してそこへ導くことに関わる遺伝子である。
【0067】
「分化経路」は、幹細胞に続く経路であり、系譜特異的または成熟細胞型に向かう、即ち幹細胞で始まり系譜特異的または成熟分化細胞で終わる。そのような経路に引き続き幹細胞は、多くの段階を通るだろう。例えば、成熟B細胞またはT細胞に分化する幹細胞は、最初にリンパ様前駆細胞に分化しなければならない。次に、リンパ系前駆細胞は、成熟B細胞または成熟T細胞になることに向かう経路に入る。
【0068】
「自殺遺伝子」は、発現すると、それが発現する細胞の死を引き起こす。自殺遺伝子は、プロドラッグ小分子(シトシン脱アミノ酵素の場合5−フルオロサイトシン)に作用する酵素(例えば、シトシン脱アミノ酵素は)をコードし、そしてこれらを細胞内部の細胞傷害性化合物(5−フルオロウラシル)に転換する、または単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(HSV−TKまたはHTK)、または細胞が感作されてガンシクロビルなどの特異的化合物になるのを起こす水痘帯状疱疹チミジンキナーゼ(VSV−tk)などの酵素をコードする。自殺遺伝子は、発現すると、細胞を誘発してアポトーシス性、壊死性になるか、さもなければ生存率を失う遺伝子を含む。アポトーシス促進性受容体刺激薬(例えば、腫瘍壊死因子関連アポトーシス誘発リガンド(腫瘍壊死因子関連アポトーシス誘発リガンド))が例であり、刺激されると、アポトーシスの開始を引き起こす。
【0069】
「遺伝子発現」とは、遺伝子に含まれている情報を、遺伝子産物に転換することを意味する。遺伝子産物は、遺伝子(例えば、mRNA、tRNA、リボソームRNA、アンチセンスRNA、低分子ヘアピン型RNA、マイクロRNA(miRNA)リボザイム、構造RNAまたはその他の型RNA)直接の転写産物であっても良いし、mRNAを翻訳することによって産生したタンパク質であっても良い。遺伝子産物はまた、プロセスキャップ形成、ポリアデニル化、メチル化、および編集などによって修飾されたRNA、ならびに例えば、メチル化、アセチル化、リン酸化、ユビキチン結合、ADPリボシル化、ミリスチル化、および糖鎖付加などで修飾されたタンパク質を含む。
【0070】
遺伝子発現の「調節とは、遺伝子の活性の変化を意味する。発現の調節は、これに制限しないが遺伝子活性化と遺伝子抑制を含む。遺伝子不活性化は、本明細書に記述するZFPを含まない細胞と比較すると遺伝子発現の任意の減少を意味する。したがって、遺伝子不活性化は、完全(ノックアウト)でもまたは部分的(例えば、遺伝子が正常な発現レベルより少なく提示するハイポモルフ、または影響を及ぼす活性の部分的減少を示す変異遺伝子の産物)であっても良い。
【0071】
「対象領域」とは、例えば、外来性分子と結合することが望ましいとされる、例えば、遺伝子または遺伝子内部のもしくは隣接する非コード配列などの細胞のクロマチンの任意の領域である。結合は、標的DNA切断および/または標的組換えの目的のためである。対象領域は、例えば、染色体、エピソーム、細胞小器官のゲノム(例えば、ミトコンドリアの、葉緑体)、または感染ウイルスゲノムに存在しうる。対象領域は、遺伝子のコード領域、例えば、リーダー配列、トレーラ配列もしくはイントロンなどの転写非コード領域、またはコード領域の上流もしくは下流の非転写領域内にある。対象領域は、長さが最小は単一ヌクレオチド対または2,000ヌクレオチド対まで、またはヌクレオチド対の整数値である。
【0072】
「セーフハーバ」遺伝子座とは、遺伝子宿主細胞に有害な影響を及ぼすことなく挿入できるゲノム内の遺伝子座のことである。挿入された遺伝子配列の発現が、隣接する遺伝子のからのリードスルー発現によって攪乱させられることがないセーフハーバ遺伝子座が最も有利である。哺乳類細胞のセーフハーバ遺伝子座の例はAAVS1遺伝子(米国特許第20080299580号を参照)またはCCR5遺伝子(米国特許20080159996号を参照)である。
【0073】
用語「協調リンケージ」と「協調的に連結」(または操作可能に連結)とは、2つ以上の構成要素(配列エレメントなど)が並列することに関して互換的に使われる。これらの構成要素は、ように配列する両方の構成要素が正常に機能し、構成要素の内少なくとも1つが機能を媒介でき発揮する少なくとももう一方の構成要素の上で発揮される機能を媒介できる可能性を与える。図解のようにして、プロモータなどの転写制御配列は、1つまたは複数の転写性制御因子の存在または非存在に呼応して転写性制御配列がコード配列の転写のレベルをコントロールするならば、コード配列に協調的に連結する。転写性制御配列は、一般にコード配列を持つcisに協調的に連結するしかし、そこに直接的に隣接する必要はない。例えば、エンハンサーは、隣接している訳ではないが、コード配列に協調的に連結する転写性制御配列である。
【0074】
典型的な「調節領域」、以下に制限されないが、転写プロモータ、転写エンハンサーエレメント、cis作動性転写制御エレメント(転写制御装置、例えば、遺伝子の転写に影響を及ぼすcis作動性エレメント、例えば、転写制御因子が相互作用して遺伝子の発現を調節するプロモータ領域)、転写終結シグナル、同様にポリアデニル化配列(翻訳終止コドンの5’に位置する)、翻訳開始最適化のための配列(コード配列の5’に位置する)、翻訳増強する配列、および翻訳終結配列を含む。制御要素は、由来する要素に含まれる機能的断片、例えば、長さが約5と約50の間のヌクレオチドのポリヌクレオチド(またはこれら数値間の整数);好ましくは、長さが約5と約25の間のヌクレオチドのポリヌクレオチド(またはこれら数値間の整数)、さらに好ましくは長さが約5と約10の間のヌクレオチドのポリヌクレオチド(またはこれら数値間の整数)、および最も好ましくは9〜10のヌクレオチドから導出したものである。転写プロモータは、誘導性プロモータ(ここでプロモータに協調可能なように連結したポリヌクレオチド配列の発現は、分析物、補助因子、調節タンパク質などによって誘発される)、抑制可能なプロモータ(ここでプロモータに協調可能なように連結したポリヌクレオチド配列の発現は、分析物、補助因子、調節タンパク質などによって抑制される)、および恒常的なプロモータを含む。
【0075】
融合ポリペプチドに関して、用語「協調的に連結した」とは、各構成要素は、連結していないならば連結しているかのようにその他の構成要素に連結する同じ機能を遂行すると言う事実を意味する。例えば、ZFP DNA結合ドメインが切断領域と融合する融合ポリペプチド関して、融合ポリペプチド内で、ZFP DNA結合ドメインの部分が標的部位、および/またはその結合部位と結合し、一方切断領域はDNAを標的部位の近傍で切断することができるならば、ZFP DNA結合ドメインと切断領域が協調的に連結する。
【0076】
「レポーター遺伝子」または「レポーター配列」とは、容易に測定でき、ルーチンアッセイされるタンパク質産物を産生する任意の配列を意味する。適切なレポーター遺伝子は、以下に制限されないが、Mel1、クロラムフェニコールアセチル転移酵素(CAT)、GFP、ルシフェラーゼおよび/またはβ―ガラクトシダーゼなどの光産生タンパク質を含む。適切なレポーター遺伝子はまた、PET走査を使用してin vivoで測定できるチミジンキナーゼ、または全身発光イメージングを経由してin vivoで測定できるルシフェラーゼなど、in vivoで測定できるマーカーまたは酵素をコードしても良い。選択可能なマーカーは、レポーターの代わりに、またはさらに加えて使うことができる。ポジティブ選択マーカーは、遺伝子を保有し、発現する細胞のみを残存させおよび/またはある条件の下で成長させる産物をコードするこれらのポリヌクレオチドである。例えば、ネオマイシン抵抗性(Neor)遺伝子を発現する細胞は、化合物G418に耐性を示すが、一方Neorを発現しない細胞は、G418によって死滅させられる。ハイグロマイシン抵抗性などを含むポジティブ選択マーカーのその他の例は、当業者に良く知られている。ネガティブ選択マーカーとは、遺伝子を保有し、発現する細胞のみをある条件の下で死滅させる産物をコードするこれらのポリヌクレオチドである。例えば、チミジンキナーゼ(例えば、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ、HSV−TK)を発現する細胞は、ガンシクロビルを加えると死滅する。その他のネガティブ選択マーカーは、当業者に知られている。選択可能なマーカーは、導入遺伝子である必要はないし、そのうえ、レポーターと選択可能なマーカーは、様々な組み合わせで使用できる。
【0077】
タンパク質ポリペプチドまたは核酸の「機能的断片」は、その配列が全長のタンパク質、ポリペプチドまたは核酸と同一ではないが、全長のタンパク質、ポリペプチドまたは核酸としての同じ機能保持するタンパク質、ポリペプチドまたは核酸である。機能的断片は、より多くの、より少ない、または同数の残基を対応する未変性の分子として所有でき、および/または1つまたは複数のアミノ酸またはヌクレオチドの置換を持つことができる。核酸の機能を測定する方法(例えば、コーディング機能、別の核酸とハイブリッド形成する能力)は当業者に良く知られている。同様に、タンパク質機能決定する方法は良く知られている。例えば、ポリペプチドのDNA結合性機能は、例えば、フィルタ−結合、電気泳動的移動度シフト、または免疫沈降アッセイによって決定できる。DNA切断は、ゲル電気泳動でアッセイできる。上記のAusubel et al.,を参照されたい。別のタンパク質と相互作用するタンパク質の能力は、例えば、遺伝的および生化学的免疫共沈降、ツーハイブリッド法または相補性によって決定できる。例えば、Fields et al. (1989) Nature 340:245−246; 米国特許第 5,585,245号および国際出願PCT WO98/44350を参照されたい。
【0078】
挿入配列
対象とする任意の配列を、幹細胞に標的挿入する方法を本明細書に記述する。挿入される配列は、そのレポーター遺伝子発現カセットが幹細胞の特定の分化系列に付随することが知られている遺伝子または遺伝子グループから選択した調節領域から構成される系譜特異的または細胞運命を含む。細胞運命または幹細胞分化のその他のマーカーに関わる遺伝子を含む配列もまた挿入できる。例えば、そのような遺伝子を含む非プロモータコンストラクトを、その遺伝子座の内在性プロモータが遺伝子産物の発現に導くように特定する領域(遺伝子座)に挿入できる。
【0079】
内在性遺伝子の発生上のおよび系譜特異的発現を指示する遺伝子の有意な数とそれらの調節領域(プロモータとエンハンサー)は知られている。したがって、幹細胞に挿入された調節領域および/または遺伝子産物の選択は、発生のどの系列およびどのステージを対象とするのかに依存するさらに加えて、系譜特異的発現と幹細胞分化のより詳細の機序的区別についてより詳しく理解すると、それを実験的プロトコルに取り込むことができて、広い範囲の所望の幹細胞を効率的に単離のためにシステムを十分に最適化する。
【0080】
任意の系譜特異的または細胞運命調節エレメント(例えばプロモータ)または細胞マーカー遺伝子を、本明細書に記述した組成と方法で使うことができる。系譜特異的と細胞運命遺伝子またはマーカーは、当業者に良く知られており、対象とする特定の系列を評価するために直ちに選択できる。非制限例として、以下に制限されるわけではないが、Ang2、Flk1、VEGFR、MHC遺伝子、aP2、GFAP(グリア線維性酸性タンパク質)、Otx2などの遺伝子から得られた調節エレメントを含む。(例えば、米国特許第5,639,618号)、Dlx(Porteus et al. (1991) Neuron 7:221−229)、 Nlx (Price et al. (1991) Nature 351:748−751)、 Emx (Simeone et al. (1992) EMBO J. 11:2541−2550)、 Wnt (Roelink and Nuse (1991) Genes Dev. 5:381−388)、 En (McMahon et al.)、 Hox (Chisaka et al. (1991) Nature 350:473−479)、 acetylcholine receptor β chain (ACHRβ) (Otl et al. (1994) J. Cell. Biochem. Supplement 18A:177を参照されたい)。調節エレメントが得られる系譜特異的遺伝子のその他の例は、インターネット経由で容易にアクセスできて、得業者に良く知られているNCBI−GEOのウエブサイトで入手可能である。
【0081】
例えば、心筋細胞の系列を同定するために、αMHC遺伝子からの調節領域を使うことができる。平滑筋系列を同定するために、SM22αプロモータを使うことができる。例えば、米国特許第6,090,618号を参照されたい。脂肪細胞系列を同定するために、aP2調節領域を使うことができる。ニューロン系列を同定するために、シナプシスまたはニューロン特異的エノラーゼなどのニューロン特異的遺伝子調節領域を使うことができる。グリア細胞を同定するために、グリア線維性酸性タンパク質(GFAP)遺伝子からの調節領域を使うことができる。
【0082】
調節領域(例えば、プロモータ)として、標的細胞(例えば、ヒト細胞に導入するためのコンストラクト内で使われるヒトプロモータ)と同じ種由来、異なる種(例えば、ヒト細胞に導入するためのコンストラクト内で使われるマウスプロモータ)由来、または混合された調節領域(例えば、あるマウス遺伝子の調節領域をあるヒト遺伝子の調節領域と組み合わせたもの)由来のものがある。調節領域を、当業者に知られた方法(例えば、対象とするコントロール配列に隣接するプライマーを使うPCR法)で対象とする遺伝子から導くことができる。
【0083】
系譜特異的または細胞運命プロモータを、当業者に知られた方法で対象とする遺伝子から得ることができる。例えば、商業データベース(例えば、ENTREZ and GENBANK−−国立バイオテクノロジー情報センター;EMBL−ヨーロッパ生物情報学研究所,Hinxton, UK)および現代科学文献(MEDLINE B The National Library of Medicine, 8600 Rockville Pike, Bethesda, Md.)内をコードおよび制御配列の位置を含む選択された遺伝子の情報ついて検索できる。代わりに、特定の遺伝子に付随する制御配列を同定する方法は、当業者に知られている、例えば、選択された遺伝子の5’非コード領域由来の断片の欠失解析またはPCR増幅がある、ここでは、これらの断片は調節(またはコントロール)配列を同定するために
協調可能なようにレポーター遺伝子に連結している。制御配列に付随するそのようなレポーター遺伝子を例えば、培養細胞内でスクリーンできる。
【0084】
幹細胞に挿入できる細胞マーカー遺伝子産物および/または系譜特異的または細胞運命プロモータの別の非限定例として、下表1に示される細胞マーカー由来の細胞マーカーおよび/またはプロモータ配列をコードする配列を含む。
【0085】
【表1】

【表2】

【表3】

【表4】

【表5】

【表6】

【表7】

【表8】

【表9】

【0086】
従って、細胞運命遺伝子もまた本発明の方法で使用しても良い。これらの遺伝子の内在性を、細胞運命特異的遺伝子の発現によって細胞が分化経路に入り分化経路を進行して所望の系譜特異的または成熟分化細胞型に向うように、セーフハーバ遺伝子座に挿入できる。いくつかの実施形態では、これらの細胞運命遺伝子をセーフハーバ遺伝子座に挿入し、発現が内在性プロモータによって駆動されないようにプロモータを含めない。
【0087】
本発明の実施に有用なレポーター発現カセットを、適切なレポーター遺伝子コード配列に操作可能に連結された対象とする任意の調節領域を使って作製できる。容易にアッセイ可能なマーカーポリペプチドをコードするレポーター遺伝子は、当業者に良く知られている。一般に、レポーター遺伝子は、レシピエントの生物体または組織には無くまたそれによって発現しない遺伝子であり、ある容易に検出可能な性質、例えば表現型の変化または酵素活性によって明らかにされるポリペプチドをコードする遺伝子であり、したがって、対象とする遺伝子を持つレシピエントの細胞に同時形質移入すると、形質移入およびその他のイベントを検出する手段を提供する遺伝子である。適切なレポーターの非限定的例として、蛍光タンパク質(例えば、GFPまたはRFP)、ルシフェラーゼ、LacZ、ベータ−ガラクトシダーゼ、クロラムフェニコールアセチル転移酵素(CAT)などが含まれる。抗生物質耐性をコードする遺伝子などの選択マーカーもまた採用して良い。そのうえ、幹細胞を持つ内在性遺伝子を、内在性遺伝子の発現に識別でき測定可能な変化を引き起こす異種性制御配列を特異的に挿入することによって、レポーター遺伝子として利用できる。
【0088】
採用したレポーター遺伝子の型は、実験の所望のゴールに依存する。例えば、特異的系列の分化経路を辿るために、またはエンハンサーの発生上の特異性をテストするために、目視によってトラッキングを可能にするレポーターコンストラクトを、系譜特異的調節領域(すなわち、組織化学)と典型的に同時に使う。これを、細胞系列と分化枝分かれ部位をトラッキングし特徴づけのために使うことができる。一度系列が特徴づけられると、この同じシステムを、組織化学的マーカーから表面膜タンパク質にレポーター遺伝子の型を単純に置換することによって、系列およびステージ特異的幹細胞の単離ために使用できる。プロモータ特異性は、単離の所望のステージで表面タンパク質の発現を指示し、蛍光活性細胞ソーティング(FACS)によって所望の幹細胞を効率よく単離できる。パニングなどのその他の免疫学的分離技術もまた、幹細胞単離に適用可能である。
【0089】
挿入可能な別の遺伝子配列として、例えば、野生型遺伝子を置換する変異させる配列を含める。例えば、野生型第IX因子遺伝子配列を、遺伝子の内在性コピーが変異した幹細胞のゲノムに挿入できる。野生型コピーを、内在性遺伝子座に挿入するか、または代わりにセーフハーバ遺伝子座に標的させる
【0090】
本明細書の教授に引き続いて、そのような発現カセットの作製は、分子生物学の分野で良く知られた方法論を利用する(例えば、AusubelまたはManiatisを参照)。遺伝子導入動物を産生する発現カセットの使用前に、選択された調節領域を付随するストレス誘導物質に対する発現カセットの応答性を、発現カセットを適切な細胞系統に導入することによってテストことができる(例えば、一次細胞、形質転換した細胞、または不死化細胞系統)。
【0091】
非コード(制御配列および非タンパクコード配列を含む)塩基配列の標的挿入も達成することができる。アンチセンスRNA、RNA干渉、低分子ヘアピン型RNAおよびマイクロRNA(miRNA)をコードする配列も標的挿入に使用できる。そのうえ、非連鎖のプロモータなどのその他のそのような核酸要素の制御配列を今後の研究のための細胞系統を作るために特に導入することができる。さらに、対象とする遺伝子の調節領域を、レポーター遺伝子に操作可能に連結してキメラ遺伝子(例えば、レポーター発現カセット)を作ることができる。いくつかの実施形態では、遺伝子の調節領域は、小分子(例題のみとして、テトラサイクリンまたはドキシサイクリン)に応答性がある。
【0092】
その他の実施形態として、機能的ポリペプチドをコードする対象とする配列を、幹細胞のゲノム(例えば、治療上のポリペプチドをコードする配列)の標的点に挿入する。ポリペプチドコード化配列の非制限的例として以下コードする配列を含む:EPO、VEGF、CCR5、ERα、Her2/Neu、Tat、Rev、B型肝炎ウイルスC、S、X、およびP、LDL−R、PEPCK、CYP7、フィブリノーゲン、ApoB、ApoE、Apo(a)、レニン、NF−κB、I−κB、TNF−α、FASリガンド、アミロイド前駆タンパク質、心房性naturetic因子、ob−レプチン、ucp−1、IL−1、IL−2、IL−3、IL−4、IL−5、IL−6、IL−12、G−CSF、GM−CSF、PDGF、PAF、p53、Rb、胎児ヘモグロビン、ジストロフィン、eutrophin、GDNF、NGF、IGF−1、VEGF受容体fltおよびflk、トポイソメラーゼ、テロメラーゼ、bcl−2、サイクリン、アンジオスタチン、IGF、ICAM−1、STATS、c−myc、c−myb、TH、PTI−1、ポリガラクツロナーゼ、EPSP合成酵素、FAD2−1、δ−12不飽和化酵素、δ−9不飽和化酵素、δ−15不飽和化酵素、アセチルCoAカルボキシラーゼ、アシル−ACP−チオエステラーゼ、ADP−グルコースピロホスホリラーゼ、第VIII因子、第IX因子、デンプン合成酵素、セルロース合成酵素、ショ糖合成酵素、老化−付随する遺伝子、重金属キレート剤、脂肪酸ヒドロペルオキシド脱離酵素、ウイルス遺伝子、原生動物の遺伝子、真菌遺伝子、および細菌遺伝子。適切な治療上のタンパク質はまた、抗体、抗体断片、単鎖抗体、細胞内抗体などそれぞれの全体をコードする発現カセットを含む。タンパク質アプタマー、ゼータキネシス、修飾または設計したT細胞受容体および機能障害のまたはデコイタンパク質もまた熟慮される。別の治療上のタンパク質として、イミグルセラーゼ、β−グルコセレブロシダーゼ、α−ガラクトシダーゼA、α−L−イズロニダーゼ、N−アセチルガラクトサミン、4−スルファターゼおよびαグルコシダーゼ酸など、酵素補充療法に使われるものがある。一般に、制御する適切な遺伝子は、サイトカイン、リンホカイン、増殖因子、分裂促進因子、走化性因子、腫瘍活性因子、受容体、カリウムチャネル、Gタンパク質、シグナル伝達分子、およびその他の疾病関連遺伝子を含む。特定の実施形態では、組み込み配列は、Epo、VEGFなどの血漿可溶性ポリペプチドをコードする。
【0093】
本発明の異なる実施形態の様々な形態は、併用することができる。
【0094】
どのような種の幹細胞も、本明細書に記述する組成と方法に使うことができる。適切な幹細胞の非制限的例として、造血幹細胞、間葉幹細胞、胚性幹細胞、神経幹細胞、筋幹細胞、肝臓幹細胞、皮膚幹細胞、誘発性多能性幹細胞、腸幹細胞などを含む。別の幹細胞は、当業者に良く知られている。
【0095】
ジンクフィンガーヌクレアーゼ
本明細書に記述のレポーターコンストラクトは、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFNs)を用いて細胞のゲノムにうまく組込まれる。ZFNsはジンクフィンガータンパク質(ZFP)およびヌクレアーゼ(切断)ドメインを含む。
【0096】
A.ジンクフィンガータンパク質
ジンクフィンガーDNA結合ドメインは選択した配列に結合するように操作することができる。例えば、Beerli et al. (2002) Nature Biotechnol. 20:135−141; Pabo et al. (2001) Ann. Rev. Biochem. 70:313−340; Isalan et al. (2001) Nature Biotechnol. 19:656−660; Segal et al. (2001) Curr. Opin. Biotechnol. 12:632−637; Choo et al. (2000) Curr. Opin. Struct. Biol. 10:411−416を参照。天然に存在するジンクフィンガータンパク質と比較して、操作された(天然には存在しない)ジンクフィンガーDNA結合ドメインは新規の結合特異性を有することができる。一般に、天然には存在しない操作された認識ヘリックス領域は新規の結合特異性がある。操作方法は、限定されるものではないが、合理的設計と種々のタイプの選択を含む。例えば、合理的設計は3塩基連鎖(または4塩基連鎖)ヌクレオチド配列および個別のジンクフィンガーアミノ酸配列を含有したデータベースを使用しており、配列内では3塩基連鎖または4塩基連鎖配列がジンクフィンガーの1つ以上のアミノ酸配列と関連し、これらは特定の3塩基連鎖または4塩基連鎖配列に結合している。例えば、共同出願の米国特許出願第6,453,242および6,534,261号(その全体が、参照により本明細書に援用される)を参照。
【0097】
ファージ提示法およびツーハイブリッド系を含む、例示的選択方法は米国特許出願第5,789,538号、5,925,523号、6,007,988号、6,013,453号、6,410,248号、6,140,466号、6,200,759号、6,242,568号、ならびに、WO98/37186号、WO98/53057号、WO00/27878号、WO01/88197号およびGB2,338,237号に開示されている。加えて、ジンクフィンガーDNA結合ドメインの結合特異性の増強については例えば、共同出願のWO02/077227号に記述されている。
【0098】
標的部位の選択のなかで、ZFPおよび融合タンパク質の設計と構築方法(およびこれをコードするポリヌクレオチド)は当業者には周知であり、米国特許出願第20050064474号と20060188987号に詳細に記載され、これらの文献はその全文を引用することを以て本明細書の一部となす。
【0099】
加えて、これらと他の文献に開示されていように、例えば5以上のアミノ酸長のリンカーを含むリンカー配列を用いて、ジンクフィンガードメインおよび/またはマルチフィンガードジンクフィンガータンパク質は結合してもよい。さらに、リンカー配列6以上のアミノ酸長の例示には米国特許出願第6,479,626号、6,903,185号と7,153,949号を参照。本明細書に記載されるタンパク質はタンパク質の個別のジンクフィンガー間の適切なリンカーの組み合せを含んでもよい。追加的なリンカー構造の例は、2008年5月28日出願の米国仮出願第61/130,099号に見られ、タイトルはCompositions For Linking DNA−Binding Domains And Cleavage Domainsである。
【0100】
特定の実施形態では、4フィンガー、5フィンガー、または6フィンガーのジンクフィンガー結合ドメインは例えば、FokIのようなタイプIIs制限エンドヌクレアーゼの切断ドメインである切断半ドメインに融合していく。そのようなジンクフィンガー/ヌクレアーゼ半ドメイン融合の1つ以上のペアは標的切断に使用され、例えば、米国特許公報第20050064474号および20070218528号に開示されている。
【0101】
標的切断につては、結合部位のエッジ近傍が5つ以上のヌクレオチド対で分離されており、各融合タンパク質はDNA標的の反対鎖に結合することができる。本開示に則り、例えば、CCR5、PPP1R12C(AAV S1として知れている)またはその他を含めて選択された幹細胞のいかなる遺伝子の配列にもZFNsを標的とすることができる。CCR5とAAV S1を標的としたZFNsを記載した国際特許公開WO/2008/133938号および米国特許公報第2008015996号を参照(参照により本明細書に援用される)。特定の実施形態では、ZFNsは、ある部位への標的組込みが増殖および/または分化する細胞の能力を干渉しない範囲で「非必須」遺伝子を標的とする。
【0102】
切断ドメイン
さらに、ZFNsはヌクレアーゼ(切断ドメイン、切断半ドメイン)を含む。本明細書で開示する融合タンパク質の切断ドメイン部分をエンドヌクレアーゼまたはエキソヌクレアーゼから取得することができる。切断ドメインが由来する例示的なエンドヌクレアーゼは、限定されるものではないが、制限エンドヌクレアーゼおよびホーミングエンドヌクレアーゼを含む。例えば、2002−2003 Catalogue, New England Biolabs, Beverly, MA; および Belfort et al. (1997) Nucleic Acids Res. 25:3379−3388を参照。DNAを切断するさらなる酵素が知られている(例えば、S1 Nuclease; mung bean nuclease; pancreatic DNase I; micrococcal nuclease; yeast HO endonucleaseを参照。さらにLinn et al. (eds.) Nucleases, Cold Spring Harbor Laboratory Press,1993を参照。)。これらの酵素の内の1つ以上(またはその機能的断片)を切断ドメインおよび断片半ドメインの源として使用できる。
【0103】
同様に、上述したように切断半ドメインは切断活性に関する二量体化を必要とするヌクレアーゼまたはその部分から導くことができる。一般的に、融合タンパク質が切断半ドメインを含む場合は2つの融合タンパク質が切断に必要である。または、2つの切断半ドメインを含有する単一のタンパク質を使用できる。2つの切断半ドメインを同じエンドヌクレアーゼ(またはその機能的断片)から導くことができ、または切断半ドメインのそれぞれは異なるエンドヌクレアーゼ(またはその機能的断片)から導くことができる。加えて、好ましくは2つの融合タンパク質の標的部位を相互に配置し、2つの融合タンパク質のそれぞれの標的部位との結合により他方へ向かった空間方向において切断半ドメインが配置され、そこで例えば二量体化により切断半ドメインが機能的切断ドメインを形成する。従って、特定の実施形態では、標的部位の端近傍は5−8ヌクレオチドまたは15−18ヌクレオチドにより分離される。しかしながら、整数個のヌクレオチドまたはヌクレオチド対は2つの標的部位を介在することができる(例えば、2から50ヌクレオチド対)。一般に、切断の部位は標的部位の間に位置する。
【0104】
制限エンドヌクレアーゼ(制限酵素)は多くの種に存在し、かつ、結合の部位あるいはその近傍でDNA(認識部位において)および切断DNAへの配列特異性結合が可能である。特定の制限酵素(例えば、IIS型)は認識部位から除去された部位でDNAを切断し、かつ別々の結合と切断ドメインをもつ。例えば、一方の鎖にある認識部位からの9のヌクレオチドおよび他方の認識部位からの13のヌクレオチドにおいて、IIS型酵素FokIはDNAの二本鎖切断を触媒する。例えば、米国特許5,356,802; 5,436,150 および 5,487,994;並びに Li et al. (1992) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89:4275−4279; Li et al. (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:2764−2768; Kim et al. (1994a) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91:883−887; Kim et al. (1994b) J. Biol. Chem. 269:31,978−31,982を参照。従って、一実施形態では、操作あるいは未操作の場合もあるが、少なくとも1つのIIS型制限酵素および1つ以上のジンクフィンガー結合ドメインからの融合タンパク質は切断ドメイン(または切断半ドメイン)を含む。
【0105】
切断ドメインが結合ドメインから分離可能である例示的IIS型制限酵素はFokIである。この特定の酵素はダイマーとして活性である。Bitinaite et al. (1998) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95: 10,570−10,575を参照。従って、本開示の目的上、開示された融合タンパク質に使用されたFokI酵素の部分は切断半ドメインと考えられる。従って、ジンクフィンガーとFokIとの融合を用いた標的二本鎖切断および/または細胞配列の標的置換については、それぞれがFokI切断半ドメインを含有する2つの融合タンパク質が触媒的に活性な切断ドメインの再構成に使用できる。別法として、さらにジンクフィンガー結合ドメインと2つのFokI切断半ドメインを含有する単一のポリペプチド分子を使用できる。ジンクフィンガーFokI融合を用いた標的切断および標的配列変化のパラメータについては本開示の別の個所で述べる。
【0106】
切断ドメインまたは切断半ドメインは切断活性を保持するか、または機能的切断ドメインを形成するために多量体化する(例えば二量体化)活性を保持するタンパク質のいかなる部分でもあってよい。
【0107】
例示的なIIS型制限酵素は国際特許公開WO07/014275号(参照により本明細書に援用される)に記載されている。さらに、追加的な制限酵素は別々の結合と切断ドメインを含み、かつ、これらは本開示が意図することである。例えば、Roberts et al. (2003) Nucleic Acids Res. 31:418−420を参照。
【0108】
特定の実施形態では、切断ドメインはホモ二量体化を最小化するか防止する1つ以上の操作された切断半ドメイン(二量化ドメイン変異体ともいう)を含有し、例えば、米国特許公報第20050064474号、20060188987号および20080131962号に記載されており、これら出願の全てを参考文献としてここに援用する。FokIの位置446、447、479、483、484、486、487、490、491、496、498、499、500、531、534、537、および538でのアミノ酸残基はFokI切断半ドメインの二量化に影響を与える全ての標的である。
【0109】
偏性ヘテロ二量体を形成するFokIの例示的な操作した切断半ドメインは第1の切断半ドメインがFokIの位置490と538にあるアミノ酸残基における変異を含有し、かつ第2の切断半ドメインはアミノ酸残基486および499における変異を含有する対を含む。
【0110】
従って、一実施形態では、490における変異はGlu(E)をLys(K)で置換し、538における変異はIso(I)をLys(K)で置換し、486における変異はGln(Q)をGlu(E)で置換し、位置499における変異はIso(I)をLys(K)で置換する。具体的には、本明細書に記載の操作された切断半ドメインは「E490K:I538K」と命名される操作された切断半ドメインを産生するために1つの切断半ドメインにおける変異位置490(E→K)および538(I→K)により、さらに「Q486:I499L」と命名される操作された切断半ドメインを産生するために別の切断半ドメインにおける変異位置486(Q→E)および499(I→L)により調製した。実施例に記載のように、一方のZFNが「E490K:I538K」切断ドメインを含有し、他方のZFNが「Q486:I499L」切断ドメインを含有するZFNの対は「EL/KK」ZFN対とも呼ばれる。本明細書記載の操作された切断半ドメインは、切断ドメインを含有するヌクレアーゼの1つ以上の対が切断に使用される場合に異常な切断が最小化されるか、または除かれた偏性ヘテロ二量体変異である。例えば、米国特許公報第20080131962号を参照し、全ての目的のためにこれらの出願の内容全体を本明細書中に引用によって援用する。
【0111】
特定の実施形態では、操作された切断半ドメインは例えば位置486における野生型Gln(Q)残基をGlu(E)残基で、かつ、位置499における野生型Iso(I)残基をLeu(L)残基で、位置496における野生型Asn(N)残基をAsp(D)またはGlu(E)残基(それぞれ「ELD]および「ELE」ドメインともいう)で置き換える変異である位置486、499、および496(野生型FokIに番号が振られている)の変異を含む。別の実施形態では、操作された切断半ドメインは例えば位置490における野生型Glu(E)残基をLys(K)残基で、位置538における野生型Iso(I)残基をLys(K)残基で、および位置537における野生型His(H)残基をLys(K)残基、またはArg(R)残基(それぞれ「KKK」および「KKR」ドメインともいう)で置換える変異である位置490、538および537の変異を含む。
【0112】
別の態様では、条件による活性化を示す操作された切断半ドメインを提示した。いくつかの実施形態では、条件付きで操作された切断半ドメインは温度低下の条件下では活性の減少を示した。いくつかの実施形態では、条件付きで操作された切断半ドメインは温度上昇の条件下では活性の減少を示した。
【0113】
更に別の態様では、操作された切断半ドメインは非正準亜鉛配位残基(例えば、正準C2H2配置よりもCCHCである)を含有するジンクフィンガーヌクレアーゼに組入れられてよい。
【0114】
本明細書に記載される操作された切断半ドメインは例えば、米国特許公報第20050064474号(実施例5)および20070134796号(実施例38)に記載した野生型切断半ドメイン(FokI)の部位特異的突然変異誘発による適切な方法を用いて調製することができる。
【0115】
さらに他の実施形態では、1本鎖ニックを標的部位に導入するように半ドメインの1つが酵素的に非活性である、2つの切断半ドメインを使用する(例えば、共同出願の米国特許出願第61/189、800号を参照)。
【0116】
幹細胞への標的組込みに関する追加的方法
いずれのヌクレアーゼも本明細書で開示する方法で使用できる。例えば、天然に存在するホーミングエンドヌクレアーゼおよびメガヌクレアーゼは認識配列が非常に長いが、ホトサイズのゲノムになれば統計上、一部は存在することが多い。例示的なホーミングエンドヌクレアーゼはI−SceI、I−CeuI、PI−PspI、PI−Sce、I−SceIV、I−CsmI、I−PanI、I−SceII、I−PpoI、I−SceIII、I−CreI、I−TevI、I−TevIIおよびI−TevIIIを含む。これらの認識配列は周知である。さらに、米国特許第5,420,032; 米国特許第6,833,252; Belfort et al. (1997) Nucleic Acids Res. 25:3379-3388; Dujon et al. (1989) Gene 82:115-118; Perler et al. (1994) Nucleic Acids Res. 22, 1125-1127; Jasin (1996) Trends Genet. 12:224-228; Gimble et al. (1996) J. Mol. Biol. 263:163-180; Argast et al. (1998) J. Mol. Biol. 280:345-353 および the New England Biolabs catalogueを参照。
【0117】
非天然標的部位を結合するためにホーミングエンドヌクレアーゼおよびメガヌクレアーゼの特異性を操作することも報告されている。例えば、Chevalier et al. (2002) Molec. Cell 10:895−905; Epinat et al. (2003) Nucleic Acids Res. 31:2952−2962; Ashworth et al. (2006) Nature 441:656−659; Paques et al. (2007) Current Gene Therapy 7:49−66を参照。
【0118】
いくつかの実施形態では、DNA結合ドメインは植物病原体キサントモナス由来のTALエフェクターからの操作されたドメインである(Boch et al, (2009) Science 29 Oct 2009 (10.1126/science.117881) および Moscou and Bogdanove, (2009) Science 29 Oct 2009 (10.1126/science.1178817を参照)。
【0119】
従って、幹細胞への系譜特異的レポーターなどの配列の標的組込みについては、独特の標的部位をもつ任煮の天然に存在する、または操作されたヌクレアーゼをジンクフィンガーヌクレアーゼの代わり、またはそれに加えて使用することができる。加えて、この天然に存在する、または操作されたヌクレアーゼからのドメインを単離することができ、種々の組み合せで使用できる。例えば、天然に存在する、または操作されたホーミングエンドヌクレアーゼまたはメガヌクレアーゼからのDNA結合ドメインを、非相同の切断ドメインまたは半ドメイン(例えば、他のホーミングエンドヌクレアーゼ、メガヌクレアーゼ、またはIIS型エンドヌクレアーゼからの)と融合することができる。上述のように、この融合タンパク質をジンクフィンガーヌクレアーゼとの組み合わせで使用することもできる。
【0120】
送達
いずれかの適切な手段によって本明細書に掲載のレポーターコンストラクトおよびヌクレアーゼ(例えば、ZFNs)を標的幹細胞に送達してもよい。
【0121】
例えば、ジンクフィンガーを含有するタンパク質の送達方法は米国特許第6,453,242; 6,503,717; 6,534,261; 6,599,692; 6,607,882; 6,689,558; 6,824,978; 6,933,113; 6,979,539; 7,013,219;および7,163,824に記載されており、これら出願の全てを参考文献としてここに援用する。
【0122】
本明細書に記載のヌクレアーゼ(例えば、ZFNs)をコードするポリヌクレオチドおよび組込まれる配列(例えば、系譜特異的レポーターコンストラクト)をZFNsおよび/または組込まれる配列の1つ以上をコードする配列を含有するベクターを用いて送達してもよい。任意のベクター系は、限定されるものではないが、プラスミドベクター、レトロウィルス・ベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、ポックスウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター、およびアデノ随伴ウイルスベクターなどを含む。米国特許第6,534,261; 6,607,882; 6,824,978; 6,933,113; 6,979,539; 7,013,219;および7,163,824をも参照し、これら出願の全てを参考文献としてここに援用する。さらに、これらのベクターが1つ以上のZFNコード配列および/または1つ以上の目的の配列を含んでよいことは明白であろう。例えば、1つ以上のZFNの対を細胞に導入する場合、ZFNを同じベクターまたは異なるベクター上で行ってもよい。複数のベクターを使用する場合、各ベクターは1つまたは複数のZFNおよび/または1つまたは複数のリポーターコンストラクトをコードする配列を含んでもよい。
【0123】
従来のウイルスおよび非ウイルスをベースとする遺伝子導入補法を細胞(例えば、哺乳動物細胞)および標的細胞においてZFNをコードし、および/または配列(例えばリポータコンストラクト)を組込む核酸の導入に使用することができる。また、そのような方法はin vitroで幹細胞に核酸を投与するのに使用することができる。特定の実施形態では、ZFPをコードする核酸をin vivoまたはex vivoでの遺伝子治療用に投与できる。非ウイルスベクター送達系はDNAプラスミド、ネイキッド核酸、リポソームまたはポロキサマなどの送達媒体と複合した核酸を含む。ウイルスベクター送達系は細胞に送達した後にエピゾーム状ゲノムまたは組込まれたゲノムのいずれかを有するDNAおよびRNAウイルスを含む。遺伝子治療のレビューにはAnderson, Science 256:808−813 (1992); Nabel & Felgner, TIBTECH 11:211−217 (1993); Mitani & Caskey, TIBTECH 11:162−166 (1993); Dillon, TIBTECH 11:167−175 (1993); Miller, Nature 357:455−460 (1992); Van Brunt, Biotechnology 6(10):1149−1154 (1988); Vigne, Restorative Neurology and Neuroscience 8:35−36 (1995); Kremer & Perricaudet, British Medical Bulletin 51(1):31−44 (1995); Haddada et al., in Current Topics in Microbiology and Immunology Doerfler and Bohm (eds.)(1995); および Yu et al., Gene Therapy 1:13−26 (1994)を参照し、参照によりここに取り込まれる。
【0124】
操作されたZFPをコードする核酸の非ウイルス送達方法はエレクトロポレーション、リポフェクション、マイクロインジェクション、バイオリスティック、ビロゾーム、リポソーム、免疫リポソーム、ポリカチオン、または脂質‐核酸複合体、ネイキッドDNA、人工ビリオン、およびDNAの作用物質増強型取り込みを含む。また、例えばSonitron 2000 system (Rich−Mar)を使用したソノポレーションを核酸の送達に使用することができる。加えて、本分野において知られる任意の手段で操作されたZFPをコードするmRNAを細胞に送達してもよい。
【0125】
追加的な例示的核酸送達系はAmaxa Biosystems (Cologne, Germany), Maxcyte, Inc. (Rockville, Maryland)、およびBTX Molecular Delivery Systems (Holliston, MA)、Copernicus Therapeutics Inc., (例えば、米国特許第6、008、336号を参照)が提供する系を含める。
【0126】
例えば、リポフェクションは米国第5,049,386号、4,946,787号、および4,897,355号に記載され、さらにリポフェクション試薬は市販されている(例えば、Transfectam(商標)とLipofectin(商標))。ポリヌクレオチドの効率的な受容体認識リポフェクションに適切なカチオン性および中性脂質はフェルグナーのものを含む、(WO 91/17424号、WO 91/16024号)。細胞(ex vivo投与)または標的組織(in vivo投与)へ送達ができる。
【0127】
脂質の調製:免疫脂質複合体などの標的リポソームを含有する核酸複合体は当業者に周知である(例えば、Crystal, Science 270:404−410 (1995); Blaese et al., Cancer Gene Ther. 2:291−297 (1995); Behr et al., Bioconjugate Chem. 5:382−389 (1994); Remy et al., Bioconjugate Chem. 5:647−654 (1994); Gao et al., Gene Therapy 2:710−722 (1995); Ahmad et al., Cancer Res. 52:4817−4820 (1992); 米国特許第 4,186,183、 4,217,344、 4,235,871、 4,261,975、 4,485,054、 4,501,728、 4,774,085、 4,837,028および4,946,787を参照)。
【0128】
操作されたZFPをコードする核酸の送達するためのRNAまたはDNAウイルスベース系の使用は、体の中の特定の細胞にウイルスを標的化し、かつ、核へのウイルス負荷の輸送という高度に進化したプロセスを利用している。ウイルスベクターは患者(in vivo)に直接投与するか、または、in vitroで細胞の処理に利用してから改変細胞が患者(ex vivo)に投与される。ZFPを送達する従来のウイルスに基づく系は、限定されるものではないが、遺伝子導入するためのレトロウイルス、レンチウイルス、アデノ随伴、ワクシニアウイルスおよび単純ヘルペスウイルスベクターを含む。ホストゲノムでの組込みはレトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス遺伝子導入方法で可能であり、しばしば挿入されたトランス遺伝子の長期発現という結果になる。さらに、多くの異なる細胞型と標的細胞において高導入効率が認められる。
【0129】
レトロウイルスの向性は外来エンベロープタンパク質を組み込んで変えることができ、標的細胞の有望な標的集団を拡大する。非分裂細胞を形質導入または感染させ、かつ、典型的には高ウイルス価を産生するレンチウイルスベクターはレトロウィルス・ベクターである。レトロウイルス遺伝子導入の系の選択は標的細胞に依存する。レトロウイルスは外来性配列の6−10kbまでのパッケージ容量を有するシス作用性長末端反復で構成している。最小シス作用性LTRが恒久トランス遺伝子発現させるためには、治療遺伝子を標的細胞に組込むのに使用するベクターの複製および詰め込みで十分である。広く使用されているレトロウイルスベクターはマウス白血病ウイルス(MuLV)、テナガザル白血病ウイルス(GaLV)、シミアン免疫不全ウイルス(SIV)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、およびこれらの組み合せに基づくベクターを含む(例えば、Buchscher et al., J. Virol. 66:2731−2739 (1992); Johann et al., J. Virol. 66:1635−1640 (1992); Sommerfelt et al., Virol. 176:58−59 (1990); Wilson et al., J. Virol. 63:2374−2378 (1989); Miller et al., J. Virol. 65:2220−2224 (1991); PCT/US94/05700を参照)。
【0130】
特定の実施形態では、核酸(例えば、ZFNおよび/または組込む配列をコードする)はレンチウイルスベクターなどのウイルスベクターを用いて送達される。一般的に、レンチウイルス導入ベクターは当該分野で周知の方法で産生できる。例えば、米国特許第5,994,136; 6,165,782;および6,428,953を参照。好ましくは、レンチウイルスドーナーコンストラクトはインテグラーゼ欠損レンチウイルスベクター(IDLV)である。例えば、記述したように天然のインテグラーゼ遺伝子において1つ以上の変異を含有するレンチウイルスベクターを用いてIDLVを産生してもよく、例えば、Leavitt et al. (1996) J. Virol. 70(2):721−728; Philippe et al. (2006) Proc. Nat’l Acad. Sci. USA 103(47):17684-17689; およびWO 06/010834に開示されている。特定の実施形態では、Leavitt et al. (1996) J. Virol. 70(2):721−728に記載したように、IDLVはインテグラーゼタンパク質(D64V)の位置64において変異を含むHIVレンチウイルスベクターである。本明細書においての使用に適した追加のIDLVベクターは米国特許出願第12/288,847号に記載されており、参照により本明細書に援用される。
【0131】
ZFP融合タンパク質の一過性の発現が好まれるような用途では、アデノウイルスに基づく系が使用される。アデノウイルスに基づくベクターでは多くの細胞型の高導入効率が可能で、かつ、細胞分裂を必要としない。そのようなベクターでは高力価と高い発現レベルが得られている。このベクターは比較的簡単な系で大量に産生することができる。さらに、アデノ随伴ウイルス(「AAV」)ベクターは例えば、核酸およびペプチドのin vitro産生において、さらにin vivoとex vivoの遺伝子診療手順について標的核酸を用いて細胞に形質導入することに使用する(例えば、West et al., Virology 160:38−47 (1987);米国特許第 4,797,368; WO 93/24641; Kotin, Human Gene Therapy 5:793−801 (1994); Muzyczka, J. Clin. Invest. 94:1351 (1994)を参照)。組換えAAVベクターの構築は、米国特許第5,173,414; Tratschin et al., Mol. Cell. Biol. 5:3251−3260 (1985); Tratschin, et al., Mol. Cell. Biol. 4:2072−2081 (1984); Hermonat & Muzyczka, PNAS 81:6466−6470 (1984); およびSamulski et al., J. Virol. 63:03822−3828 (1989)を含めて多くの文献に記載されている。
【0132】
現在、導入物質を生成するためにヘルパー細胞株に挿入された遺伝子による欠損ベクターの相補性を含有するアプローチを用いている少なくとも6つのウイルスベクターが臨床試験において遺伝子を導入するアプローチとして使用可能である。
【0133】
pLASNおよびMFG−Sが臨床試験で使用されているレトロウイルスベクターの例である(Dunbar et al., Blood 85:3048−305 (1995); Kohn et al., Nat. Med. 1:1017−102 (1995); Malech et al., PNAS 94:22 12133−12138 (1997))。PA317/pLASNは遺伝子治療試験で使用された最初の治療ベクターであった((Blaese et al., Science 270:475−480 (1995))。50%以上の伝達効率がMFG−Sパッケージベクターについて認められてきた。(Ellem et al., Immunol Immunother. 44(1):10−20 (1997); Dranoff et al., Hum. Gene Ther. 1:111−2 (1997))
【0134】
組換え型アデノ随伴ウイルスベクター(rAAV)は欠損性かつ非病原性パルボウイルスアデノ随伴2型ウイルスに基づく有望な代替遺伝子送達系である。全てのベクターはトランス遺伝子発現カセットに隣接するAAV145bp逆方向末端反復のみを維持するプラスミドから導かれる。形質導入した細胞のゲノムの組込みにより、有効な遺伝子導入と安定したトランス遺伝子送達がこのベクター系の主要な特徴である。(Wagner et al., Lancet 351:9117 1702−3 (1998), Kearns et al., Gene Ther. 9:748−55 (1996))。
【0135】
複製欠損性組換え型アデノウイルスベクター(Ad)は高力価で産生することができ、かつ、多くの異なる細胞型を容易に感染する。アデノウイルスベクターの多くはトランス遺伝子がAd E1a,E1b,および/またはE3遺伝子を置換するように操作され、さらに、複製欠損ベクターは別の場所で欠失した遺伝子機能を供給するヒト293細胞において増殖する。Adベクターは肝臓、腎臓および筋肉にある非分裂、分化細胞を含有してin vivoで複数の型の組織を形質導入することができる。従来のAdベクターは大きな運搬能を有する。臨床試験でのAdベクターの使用例は筋肉注射で抗腫瘍免疫化をするポリヌクレオチド治療を含む(Sterman et al., Hum. Gene Ther. 7:1083−9 (1998))。臨床試験で遺伝子導入のためにアデノウイルスベクターを使用する追加的な例はRosenecker et al., Infection 24:1 5−10 (1996); Sterman et al., Hum. Gene Ther. 9:7 1083−1089 (1998); Welsh et al., Hum. Gene Ther. 2:205−18 (1995); Alvarez et al., Hum. Gene Ther. 5:597−613 (1997); Topf et al., Gene Ther. 5:507−513 (1998); Sterman et al., Hum. Gene Ther. 7:1083−1089 (1998)を含む。さらに、ZFNの送達のためのAd5/35ベクターの使用を記載した米国特許公報第20080159996号を参照し、参照により本明細書に援用される。
【0136】
宿主細胞を感染することができるウイルス粒子の形成にパッケージング細胞を使用する。そのような細胞はアデノウイルスを詰め込む293細胞、レトロウイルス細胞を詰め込むψ2細胞またはPA317細胞含む。通常、遺伝子治療に使うウイルスベクターは核酸ベクターをウイルス粒子に詰め込む産生細胞株で生成する。典型的には、ベクターは詰め込みおよびその後の宿主(該当する場合には)への組込みで要求される最小値のウイルス配列、発現しているタンパク質をコードする発現カセットにより置換された他のウイルス配列を含む。欠けているウイルス機能をパッケージング細胞株により別の場所で供給する。例えば、典型的には遺伝子治療で使用するAAVベクターは詰め込みと宿主ゲノムへの組込みに要求されるAAVゲノムからの逆方向末端反復(ITR)配列のみを有する。ウイルスDNAは他のAAV遺伝子、すなわち、repおよびcapをコードするがITR配列に欠けているヘルパープラスミドを含有する細胞株で詰め込まれる。また、この細胞株はヘルパーであるアデノウイルスに感染している。ヘルパーウイルスはAAVベクターの複製およびヘルパープラスミドからのAAV遺伝子の発現を促進する。ヘルパープラスミドはITR配列を欠いており大きな量では詰め込まれない。アデノウイルスによる汚染をAAVよりもアデノウイルスがより高い感受性を示す例えば熱処理で低めることができる。
【0137】
多くの用途において、高度な特異性でベクターが特定の組織型に送達されることが望ましい。従って、ウイルスの外面上にウイルスコートタンパク質がある融合タンパク質としてリガンドを発現させることにより、ウイルスベクターを所与の細胞型に対して特異性を有するように改変できる。目的の細胞型に存在することが知られている受容体について親和性を有するリガンドを選択する。例えば、Han et al., Proc Natl. Acad. Sci. U.S.A. 92:9747−9751(1995)は、モロニーマウス白血病ウイルスを改変して、gp70に融合されたヒトヘレグリンを発現させることができ、かつ、その組換えウイルスがヒト上皮増殖因子受容体を発現する特定のヒト乳癌細胞に感染することを報告した。この原理は標的細胞が受容体を発現し、ウイルスが細胞‐表面受容体についてリガンドを含む融合タンパク質を発現するような他のウイルス‐標的細胞の対に拡張することができる。例えば、事実上任意に選択された細胞受容体について特異的結合親和性を有する抗体断片(例えばFabまたはFv)を提示するように繊維状ファージを操作できる。前述の説明は、ウイルスベクターに主として適用されるが、同じ原理を非ウイルスベクターに適用することもできる。そのようなベクターを特定の標的細胞による取込みを促進すると考えられている特定の取込み配列を含有するように操作できる。
【0138】
ベクターは後述するように個々の患者への投与によって、典型的には、全身投与(例えば、静脈内、腹腔内、筋肉内、真皮下、もしくは頭蓋内への注入)または局所適用によってin vivoに送達することができる。あるいは、ベクターは個々の患者(例えば、リンパ球、骨髄穿刺、組織生検)またはユニバーサルドナー造血幹細胞から外植された細胞のようにex vivoで細胞に送達することもでき、続いて、通常はベクターを組み入れた細胞を選択して患者に細胞を再移植する。
【0139】
診断、研究用または形質移入された細胞(例えば、幹細胞)の再注入用にする宿主生物へのex vivo細胞形質移入は当業者には周知である。好ましい実施形態では、細胞は被験対象生物から単離され、ZFP核酸(遺伝子またはcDNA)で形質移入され、かつ、被験対象生物(例えば、患者)に再注入される。ex vivoでの形質移入に適した様々な細胞型は、当業者に周知である(患者から細胞を単離し、培養する方法の考察については、例えば、Freshney et al., Culture of Animal Cells, A Manual of Basic Technique(3rd ed. 1994)およびその中で引用される参考文献を参照)。GM−CSF、IFN−γおよびTNF−αなどのサイトカインを用いて臨床的に重要な免疫細胞型にin vitroでCD34+細胞を分化する方法は周知である(Inaba et al., J. Exp. Med. 176:1693−1702 (1992)を参照)。
【0140】
周知の方法で形質導入と分化のために幹細胞を単離する。例えば、CD4+およびCD8+(T細胞)、CD45+(パンB細胞)、GR−1(顆粒球)、およびIad(分化抗原提示細胞)などの不要な細胞を結合する抗体がある骨髄細胞を選り分けて骨髄細胞から幹細胞を単離する(Inaba et al., J. Exp. Med. 176:1693−1702 (1992)) or by selection for CD34+ human stem cells (D J Richel et al., (2000). Bone Marrow Transplantation, 25: 243−249を参照)。
【0141】
in vivoで細胞の形質導入についての治療ZFP核酸を含有するベクター(例えば、レトロウイルス、アデノウイルス、リポソームなど)を生物に直接投与することができる。または、ネイキッドDNAを投与することができる。投与は分子を導入して、最終的に血液または組織細胞と接触させるために通常使用される経路のうちいずれか、限定されるものではないが、注射、注入、局所適用およびエレクトロポレーション法を含める。このような核酸を投与する適切な方法は当業者にとって利用可能かつ周知であり、特定の組成物を投与するために複数の経路を使用できるが、特定の経路が別の経路と比べてより速やかで、かつより効果的な反応をしばしば提供することが可能である。
【0142】
例えば、造血性幹細胞にDNAを導入する方法は米国特許第5、928、638号に開示されている。トランス遺伝子を造血性幹細胞、例えばCD34+細胞に導入することに有用なベクターはアデノウイルス35型を含む。
【0143】
免疫細胞(例えば、T細胞)にリポーターコンストラクトを導入することに適したベクターは非組込み型レンチウイルスベクターを含む。例えば、Ory et al. (1996) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93:11382−11388; Dull et al. (1998) J. Virol. 72:8463−8471; Zuffery et al. (1998) J. Virol. 72:9873−9880; Follenzi et al. (2000) Nature Genetics 25:217−222を参照。
【0144】
薬学的に許容される担体は投与される個々の組成物によって、ならびに、その組成物を投与することに使用される個々の方法によって、ある程度決定される。したがって、後述するように、本発明の薬学的組成物の多種多様の適切な製剤がある(例えばRemington’s Pharmaceutical Sciences, 17th ed., 1989を参照)。
【0145】
用途
本明細書に開示した方法と組成物は幅広い用途が可能である。コード配列(リポーター)に作動可能に連結された内在性遺伝子からのプロモータ(例えば、系譜特異的または細胞運命プロモータ)を含有する1つ以上の配列の幹細胞への標的組込みを内在性遺伝子の発現パターンを同定することに使用することができる。内在性プロモータは幹細胞の細胞運命について特異的分化状態または決定を伴うプロモータであってもよい。特定の実施形態では、挿入された配列は「セーフハーバ」(非必須遺伝子)遺伝子座に組込まれ、それによりゲノムを害することがなく、かつ、周囲の内因性調整配列からの偽性の調整をすることがなく目的の発現をさせることができる。
【0146】
発現は低分子などの外因性因子の導入で調整され、構成的な規則的系、組織特異性調整配列により挿入された配列を調整することができ、または誘導性系とともに用いてもよい。幹細胞に挿入された配列はタンパク質コード配列および/または系譜特異的レポーターコンストラクト、目的とする他の遺伝子に対する一般的リポーター遺伝子の挿入、細胞運命決定に含まれる遺伝子に対するリポーター、およびミクロRNAs(miRNAs)、shRNAs、RNAisなどの非タンパク質コード配列プロモータおよび調整配列を含んでもよい。
【0147】
ゲノムの指定領域に組込まれたトランス遺伝子を含有する幹細胞(系譜特異的または細胞運命リポーター、タンパク質コード配列など)を種々の分化の研究、分化細胞の精製およびタンパク質産生などに使用することができる。例えば、系譜特異的または細胞運命リポーターをあらゆる型の幹細胞に標的挿入することで、分化研究用と細胞画分精製用に使用することができる。従来の組込み法でリポーターカセットを宿主細胞ゲノムに無作為に組込む。隣接配列からの位置効果はリポーター遺伝子発現に影響を与え、大きくかつ変動する背景またはトランス遺伝子サイレンシングを起こす。従って、本明細書に記載の幹細胞では標的組込みリポーターカセットは同様のクロマチン環境を有し、従って異なる細胞においても均一に発現する。加えて、標的組込みは幹細胞から選択された細胞系譜成熟のみにおいてトランス遺伝子の発現(例えば、系譜特異的または細胞運命リポーターコンストラクト)を可能にさせる。
【0148】
また、本明細書に記載の幹細胞は選択された座において内因性調整配列により駆動される遺伝子産物(例えば、系譜特異的または細胞運命遺伝子)が発現するように、プロモータ欠損コンストラクトが内因性遺伝子座に組み込まれる細胞を含有し、これにより当該座を細胞運命または発生系譜に変換する。
【0149】
系譜特異的または細胞運命リポーターを標識する幹細胞は、幹細胞の集団を目的の特定の細胞系譜経路から系譜特異的または成熟細胞型への駆動をおこなうことができ、幹細胞または低分子などの化合物のスクリーニングおよび/またはin vitro法に使用することができる。また、系譜特異的または細胞運命リポーターを標識する幹細胞は、in vivo位置、さらに最終的には最終位置、全般的な生体内分布、分化運命、および被験対象に導入した後の幹細胞の組織組込みの機序を追跡するトラッキングシステムに使用することができる。配列は宿主細胞の1つ以上の対立遺伝子に挿入してもよく、あるいは、異なる対立遺伝子は異なる挿入配列を含んでもよい。
【0150】
幹細胞はリポータータンパク質(例えば、HTK)を標識することも、または挿入配列を自殺カセットの導入用にも使用できる。加えて、非分化細胞内または望まない細胞系譜へ分化した細胞内のいずれかで制御をする調整要素の制御下で自殺遺伝子を挿入して分化細胞集団の精製を実現することもできる。次に、分化に影響する可能性がある低分子または他の因子についてスクリーニングと特性研究にこの精製された亜集団を使用できる。いくつかの実施形態では、自殺カセットは大きな細胞集団からの細胞の特異的な型の分化亜集団同定および単離を促進することに使用される。別の実施形態では、自殺カセットはin vivoで望ましくない状態に例えば、細胞が分化し奇形腫が形成された場合、分化した幹細胞を破壊することに使用する。
【0151】
また、特定の疾患の患者からの患者由来hiPSCsをヒト疾患のin vitroおよびin vivoでのモデルを作るのに使用することができる。遺伝子操作されたhESCsおよびhiPSCsは分化パラダイムの向上、疾患関連遺伝子の過剰発現、さらには機能喪失経験による疾患経路の研究に使用することができる。
【0152】
野生型か患者由来かのいずれかにおいて、リポータータグ化幹細胞は細胞の選択された同質セット中で疾患過程研究をすることに使用することができる。例えば、特定の組織中の特定の疾患の病態に関係があると知られている遺伝子からのプロモータは、本明細書に記載したようにリポーター遺伝子に結合し、かつ、幹細胞に導入されている可能性がある。選択された細胞型に幹細胞が分化した後、リポーター系はこの同質の細胞集団における疾患を研究することに使用することができる。この細胞はタグ化遺伝子の発現を調節する化合物のスクリーニングに使用することができる。または、組織特異的毒性(例えば、肝細胞のp450)に関係があると知られている遺伝子に結合したリポーターは、標識された幹細胞から分化した標的細胞の整合する同質の集団に対する薬物の安全性をスクリーニングするツールとして使用することができる。
【0153】
同様に、1つ以上のポリペプチドを発現する幹細胞はタンパク質補充遺伝子療法向けの細胞ビヒクルとして使用することができる。コンストラクトが無作為に宿主細胞ゲノムに組込まれる従来の組込み方法に比較して、本明細書に記載の特定の部位へのコンストラクトの組込みは、例えば、系譜特異的または細胞運命リポーターコンストラクトの場合、コグネート系譜特異的細胞型または成熟細胞型に分化した場合のみ正しい発現を可能にし、タンパク質発現コンストラクトの場合は、集団の細胞間の均一な発現を可能にする。幹細胞へのコード配列の標的挿入はタンパク質補充遺伝子療法向けの細胞ビヒクルを提示する一方で、非特異的組込みにより起こる挿入変異のリスクを最低化または除去する。治療タンパク質の特異的組込みを含有する幹細胞は、例えば、パーキンソン病、アルツハイマー病、血友病、筋萎縮性側索硬化症、脊髄損傷、やけど、肺疾患、鎌状赤血球貧血、臓器不全、心疾患、糖尿病、関節炎、Gaucher病、Fabry病、常染色体劣性遺伝病ムコ多糖症およびポンペ病などの各種の疾患または病態の治療に使用してもよい。例示のみであるが、利用可能性がある治療タンパク質をコードする遺伝子は第IX 因子、エリスロポイエチンなどを含んでもよい。加えて、突然変異内因性遺伝子をもつドナー由来の幹細胞への遺伝子の野生型複製物の挿入で種々の治療が行われる。
【0154】
他の実施形態では、2つの内因性遺伝子に結合した2つのリポーターをもつ幹細胞が構想されている。1つのリポーターは特定の細胞運命に向かう細胞を単離することに使用できる。第2の標識は所望の系譜特異的または成熟分化細胞において発現が知られている遺伝子に結合している。このように、特定の代謝経路に関係していると知られているタグ化内因性遺伝子を含有する分化細胞を産生することができる(例えば、膵β細胞におけるインシュリンの産生)。
【0155】
二重タグ化幹細胞は、分化細胞集団から癌幹細胞への進展などの複雑な経路を研究することに使用できる。上述したように、分化細胞は細胞運命リポーターに結合したリポーター遺伝子を用いて幹細胞集団から単離することができ、さらに、どのような外的または内的条件が細胞を癌幹細胞株に脱分化させる可能性があるのかを決定する作業において第2リポーターを脱分化標識に結合することができる。
【0156】
上述した細胞系譜または細胞運命のリポーターを用いて単離された分化細胞集団は、細胞が潜在的に混乱する幹細胞様状態に戻り始める場合には、脱分化が自殺遺伝子を誘発し細胞を殺すように脱分化標識に結合した自殺標的を含有する第2の標識遺伝子を持つことができる。潜在的に、このことは治療としてのin vivoでの幹細胞の使用に関して安全性の懸念を提示することになる。
【0157】
従って、本開示は配列(例えば、系譜特異的または細胞運命リポーターコンストラクトまたはポリペプチドコード配列)を幹細胞、例えば、ヒト、マウス、ウサギ、ブタまたはラットの細胞に組込む方法および組成物を提供する。コンストラクトの標識組込みは目的の領域内におけるゲノムの標識2本鎖切断により促進される。目的の領域内さらには切断ドメインまたは切断半ドメイン内の選択した配列に結合するように操作することができるジンクフィンガーDNA結合ドメインを含有する融合タンパク質の使用により特定の部位を標的として切断がなされる。そのような切断は切断部位またはその近傍で外因性ポリヌクレオチド配列の標的組込みを刺激する。系譜特異的または細胞運命リポーターコンストラクトが幹細胞に組込まれている実施形態において、典型的にはリポーターコンストラクトはリポーター配列をコードするポリヌクレオチドに作動可能に連結された分化の間に発現した遺伝子からのプロモータを含む。
【0158】
以下の実施例は本発明の特異的な実施形態を定める。系譜特異的分化の標識である他の遺伝子からの他の細胞特異的調整性領域はaP2を置換することができ、かつ、本発明の範囲から離れることなく種々のリポータータンパク質、培養条件および単離方法を置換することができることに留意しなければならない。同様に、Epo以外またはEpoに加えたポリペプチドコード配列は幹細胞ゲノムの特定の領域に組込まれることができることを認識しなければならない。
【実施例】
【0159】
実施例1 脂肪細胞特異的リポーターの標的組込み
脂肪細胞特異的リポーターコンストラクトは脂肪細胞脂肪酸結合タンパク質のaP2またはALBPをGFPリポーター配列に作動可能に連結したプロモータ配列により 生成された。例えば、ヒト、マウスおよびニワトリ aP2プロモータ配列を記載し、参照により本明細書において援用するCreaser et al. (1996) Nucleic Acids Res. 24(13):2597−2606を参照。
【0160】
簡単に述べれば、マウスaP2遺伝子の600bpエンハンサーおよび200bp基本プロモータをクローニングして連結した。続いて、連結したaP2制御要素を米国特許出願第12/288,847に記載されているようにCCR−LVGFPと名づけられたIDVLレンチウイルスベクターにおいてhPGKプロモータの代わりにクローニングした。CCR5−aP2−eGFPと名付けられ、得られたリポーターコンストラクトはGFPの発現を駆動し、かつCCR5遺伝子に相同性を示す配列に隣接したaP2制御要素(プロモータ/エンヘンサー)を含む。図1を参照。加えて、aP2‐GFPリポーターカセットに隣接するCCR5相同アームを含有する組込み型レンチウイルスベクターを制御として構築した。
【0161】
組込み型および組込み欠損レンチウイルスドナーコンストラクトを異なるMOIでのCCR5を標的としたAd5/F35組換えベクターにより送達されたCCR−5特異的ZFNsの存在下でヒト間葉幹細胞(hMSCs)に分離して形質導入した。参照により本明細書において援用するAd5/F35ベクターによる送達されるCCR−5特異的ZFNsについては米国特許公報第20080159996号を参照。4継代の後、ゲノムDNAを形質導入細胞から単離し、さらにCCR5遺伝子座でaP2−eGFP発現カセット標的組込みを検知するためにPCRを実施した。図2は、組込みの結果を示す。「100%」、「30%」、「10%」等から「1%」まで標識されたレーンは混合物が「100%」、「30%」、「1%」までの標的組込みのいずれかの結果を刺激するように作製されスパイクされた制御を示す。レーンの下部にはPCRにより検出された結果を示す。「Dのみ」はレンチウイルスドナーのみ(ZFNsを用いない)で形質導入した細胞を示す。上方のパネルはプライマーがドナーアームの外側の領域(「外側PCR」)に特異的であるPCR実験の結果を示す一方で、中間のパネルは1つのプライマーが相同アームの外側の領域に特異的であるが、他の1つはドナー配列内の領域(「インーアウトPCR」)に特異的であるPCR実験の結果を示す。
【0162】
図2に示したように、明瞭なPCRバンドがレンチウイルスドナーとAdZFNの両方で形質導入された細胞からのすべての試料において認められた。制御として等量のDNAがPCR反応に装填したのかを検証するGAPDH‐特異的PCRを実施された。
【0163】
さらに、組込み型リポーターコンストラクトを有する細胞については、hMSCsのin vitro脂肪細胞または骨細胞の分化後にGFP発現を測定した。組込み欠損性リポーターを含有する細胞において、未分化細胞または分化した骨細胞にもGFPシグナルは認められないが一部の分化した脂肪細胞で明瞭なGFPシグナルが認められた。図3を参照。無作為な組込みCCR5 aPC2−eGFPドナーレンチウイルスベクターを含有する細胞において、分化が無い場合でもゲノムに無作為に組込みされた場合にはベクターからの位置依存性漏出性発現を示し確認できる弱いバックグランドGFP発現が認められる。図4を参照。明瞭なGFPシグナル上昇は脂肪細胞が分化する時に認められる。この結果は脂肪細胞においてマウスaP2プロモータ特異性を示すだけでなく、リポーターaP2−eGFP発現はゲノムの位置効果に影響を受けることを示している。
【0164】
上述の結果を評価するために、未分化細胞および脂肪細胞と骨細胞分化させた細胞についてGFP発現の測定をした。組込み型レンチウイルスベクター形質導入細胞についてGFP発現レベル上昇のみが認められたが、脂肪細胞分化の間、GFP陽性細胞の割合が増加することはなかった。対照的に、CCR5でaP2−eGFP標的組込み型を有するhMSCsはGFP陽性細胞の割合の上昇とGFP発現レベルの上昇の両方を示した。
【0165】
この結果は核酸系譜特異的リポーター標識においては無作為組込みより標識遺伝子の挿入を標的化とすることの明瞭な利点を示す。
【0166】
実施例2 EPOコード配列の標的組込み
CCR5遺伝子に相同である配列に隣接するeGFP(PGK−eGFP)のPGKプロモータ駆動発現 またはEPOおよびeGFP(PGK‐mEpo−2A‐eGFP)のいずれかを含有して、レンチウイルスドナーベクター(組込み型または非組込み型)を生成した。図5Aおよび米国特許出願第12/288,847号を参照。
【0167】
ジャーカットおよび骨髄由来のK562ヒト細胞株およびヒト間葉系幹細胞(BM‐MSc)をIDLV CCR5標的化ドナー(PGK‐eGFPまたはPGK‐mEpo‐2A‐eGFPカセット)のみで、または指示されたMOIにおいてZFN発現Ad5/F35との組み合わせで形質導入し、さらに、形質導入から1カ月後にFACSでGFP発現を解析した。CCR5 Ad5/35 ZFNsの完全な記述については参照により本明細書において援用する米国特許公報第20080159996号を参照。p24 ELISAアッセイ(例えば、Cell BioLabs Inc, Lentivirus p24 ELISA kitを参照)によって定量化される75ng/mLのIDLVを使用した。図6に示したように、ジャーカットおよびK562ヒト細胞株(図6A)およびヒト間葉系幹細胞(図6B)のFACS解析はドナーコンストラクトの標的組込み後、(MOIに依存するが)35%超のジャーカット細胞、約15%のK562細胞および約15%から50%のヒト間葉系幹細胞がGFPを発現したことを示した。
【0168】
加えて、1カ月の導入後ゲノムDNAを形質導入した細胞から単離し、CCR5遺伝子座においてドナー標的組込みの検出のためにPCRを実施した。図7で示したように、ジャーカットおよびK562細胞(図7A)およびヒト間葉系幹細胞(図7B)におけるジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFNs)の存在下で標的組込みを示す明瞭なPCRバンドが認められた。
【0169】
さらに、形質導入されたhMSCsの培地でのEpoタンパク質濃度を計測した。簡単に述べれば、eGFPおよびmEpo−2A−eGFP発現カセットについてレンチウイルス(LV)か、またはAD.ZFNとIDLVドナーの両方かで、形質導入後1カ月での100%eGFP陽性IDLVドナー処理hMSCsから得た24時間、馴化培地でELISAを実施した。図8で示したように、組込み型または非組込み型レンチウイルスドナーコンストラクトで形質導入したhMSCsから得た培地でEpoタンパク質を検出した。
【0170】
実施例3 ZFN修飾幹細胞のin vitro活性
さらに、ヒトMSCs発現mEpをマウスに投与し、かつ、ヘマトクリットに対する効果ならびにEpoの血漿中濃度を測定した。簡単に述べれば、LV‐eGFPまたはLV−mEpo‐2A‐eGFPで修飾した106hMSCsか、Ad.ZFNとIDLVドナー(eGFPまたはmEpo.2AeGFP発現カセット)の両方のいずれかで修飾した107hMSCsのいずれかを用いてNOD/SCIDγCマウスにIP注射した。LV形質導入した細胞がIDLV形質導入した細胞よりも10倍大きな可溶性Epo発現を示すEpo−ELISAに従って注射されたMSCsの数を決定したが、これはIDLVドナーと比べた場合の組込まれたドナーDNAの数の増加が原因とおもわれる。60日の間に末梢血を下顎静脈から採取した。ヘマトクリット値を測定し、血漿Epo値をELISAで測定した。
【0171】
図9Aと図9Bに示したように、ヘマトクリットの上昇(図9A)と可溶性血漿タンパク質の上昇(図9B)の両方で証明しているようにEpoタンパク質発現のレベルにおいてIDLVドナーコンストラクトで形質導入したhMSCsが検出可能な上昇を示した。
【0172】
この結果は、目的のポリペプチドコード配列を幹細胞導入することができ、かつ形質導入した幹細胞の投与でポリペプチドがin vivoで発現することを示した。
【0173】
実施例4 リポーターコンストラクトのヒトOCT4(POU5F1)遺伝子座への標的組込み
マウスOCT4遺伝子(POU5F1でも知られる、以下ヒトOCT4という)のヒトオーソログを標的するため、ヒトOCT4遺伝子(表3)の第1イントロンにおける固有な配列を認識する4つのZFN対(下の表2を参照)を設計した。ヒトOCT4を標的としたZFNsを設計し、本質的に、Urnov et al. (2005) Nature 435(7042):646−651, Perez et al (2008) Nature Biotechnology 26(7): 808−816, および米国特許公報 2008/0131962に記述されているプラスミドに組込んだ。
【0174】
【表10】

【0175】
【表11】

【0176】
二本鎖切断(DSBs)を予想したゲノム標的位置に導入する個別のZFN対の効率を測るために、それぞれのZFN対を一過的にhESCsに発現させた。細胞培養技術はすでに記載されている(Soldner et al (2009) Cell 36: 964−977)。hESCs培地[15 % FBS (Hyclone)を添加したDMEM/F12 (Invitrogen) 、5% KnockOutTM Serum Replacement (Invitrogen)、1 mM グルタミン (Invitrogen)、1% 非必須アミノ酸 (Invitrogen)、0.1 mM -メルカプトエタノール (Sigma)および4 ng/ml FGF2 (R&D systems)]でマイトマイシンC不活性マウス胚線維芽(MEF)フィーダー層上にhESCs株BG01(NIH Code: BG01; BresaGen, Inc., Athens, GA)を維持する。手動または酵素的にIV型コラゲナーゼ(Invitrogen; 1.5 mg/ml)で5日から7日ごとに培養を継代培養した。記載されているように(Hockemeyer et al. (2008) Cell Stem Cell 3:346−353)GFP発現カセットをFUW−M2rtTAレンチウイルスにクローン化した。簡単に述べれば、先に記載されているように(Brambrink et al. (2008) Cell Stem Cell 2:151−159)293細胞にVSVG外層を持つレンチウイルスを生成した。培地を形質移入後12時間でかえて、ウイルスを含有する上清を形質移入後60時間から72時間後に回収した。ウイルス上清を0.45μmフィルターで濾過した。ウイルスを含有する上清をコラーゲナーゼ処理および連続洗浄でフィーダ細胞から分離したhESCs集合体を感染させるのに使用した。2μg/mlポリブレンの存在下で2回連続の感染を懸濁液に12時間実施した。フィーダに感染後、hESCs細胞集合体を再度プレーティングした。2日間ドキシサイクリン(Sigma−Aldrich; 2 μg/ml)の存在下で培養した細胞のeGFPおよびSSEA4についてFACS解析を用いて感染効率を計測した。形質導入した細胞を濃縮するために、ROCK抑制剤(FACS−Aria; BD−Biosciences)の存在下で標的され感染されたhESCsを、ドキシサイクリン誘発後eGFP発現細胞を単一細胞溶液として2日間FACS選別し、ESC培地を含有するROCK抑制剤中で再プレーティングした。
【0177】
標的部位のZFN仲介破壊の頻度をCEL‐Iミスマッチアッセイで解析し、製造者の指示書(Trangenomic SURVEYOR(商標))に本質的に従って実施した。4つのテストしたZFN対のうち3つは効率的にDSBをヒトOCT4遺伝子座の予想した位置に導入することができた。
【0178】
この3つのZFN対に対応してDSB標的部位に隣接する約700bpのヒトOCT4配列をカバーする5’と3’の相同領域を有するドナープラスミドを設計した。このドナープラスミドは、2A自己切断ペプチド配列をピューロマイシン耐性遺伝子(ピューロマイシンN‐アセチルトランスフェラーゼ)、そして続けてポリアデニル化配列に接続させているスプライス受容体eGFPカセットを含めた(図10A)。このドナーコンストラクトをヒトOCT4遺伝子座の第1イントロンへ正確に標的化するこで、2つのタンパク質の発現になると予想されるが、それらはeGFP(OCT4EX1−eGFP)に融合するヒトOCT4の第1132aaからなる融合タンパク質、およびピューロマイシンN‐アセチルトランスフェラーゼであり、両方とも内因性ヒトOCT4プロモータの転写制御下においてである。独立した細胞株を作るために拡張したピューロマイシン選択の14日後に、10x106hESCs(BGO1)に対するそれぞれのZFN対を有するドナープラスミドのコエレクトロポレーションがコロニーをもたらした。適切な酵素で制限消化後に0.7%アガロースゲル上で分離されたゲノムDNAを用いてサザンブロット分析を行い、ナイロン膜(Amersham)に移し、さらに32Pランダムプライマー(Stratagene)標識プローブとハイブリタイズした。eGFP(図10Bを参照)に対する内部プローブと同様に、ドナー相同性に対する外部プローブ3’および5’を使用した。
【0179】
表4に示したように、単離され、かつ拡張されたピューロマイシン耐性ZFN処理クローンを典型的に、正確に、かつ効率的に標的した。
【0180】
【表12】

【0181】
多能性状態を維持したOCT4EX1-eGFP標的細胞を確認する場合、hESCsの特徴として知られる多能性マーカーであるNANOG,SOX2、Tra-1-60およびSSEA4を検討するためにそれらを免疫染色した。簡単に述べれば、以下の第1抗体を使い標準の規約に従って細胞をPBS中の4%パラホルムアルデヒドで固定し免疫染色した:SSEA4 (マウスモノクローナル, Developmental Studies Hybridoma Bank); Tra−1−60, (マウスモノクローナル, Chemicon International); hSOX2 (ヤギポリクローナル, R&D Systems); Oct−3/4 (マウスモノクローナル, Santa Cruz Biotechnology); hNANOG (ヤギポリクローナル R&D Systems) 、さらに適切なMolecular Probes Alexa Fluor(登録商標)色素複合体第2抗体(Invitrogen)を使用した。
【0182】
さらに、SCIDマウスに注射した場合、この細胞は多能性状態を確認しながら3つの発生過程の胚葉すべてから起因する細胞型に分化できる奇形腫を誘導した。hESCsをコラーゲナーゼ処理(1.5mg/ml)で回収し、培地をその後での洗浄および重力による沈降によりフィーダ細胞から分離した。遠心分離によりhESCs集合体を回収し、250μlのリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中で再懸濁した。SCIDマウス(Taconic)の背中にhESCsを皮下注射した。一般的に、腫瘍が4週から8週の間に発生し、腫瘍のサイズが直径1.5cmを超える前に動物を犠牲にした。犠牲にした後で奇形腫を単離し、ホルマリンに固定した。切断後、ヘマトキシリン−エオシン染色に基づき奇形腫を検査した。
hESCs中でヒトOCT遺伝子座の正確な標的化、内因性プロモータの制御下でのOCT4EX1‐GFPの発現、およびヒトOCT4の発現を機能的にバリデートするために、予想されたOCT4EX1‐eGFP融合タンパク質をOCT4およびeGFPについての抗体を用いてウエスタンブロット解析で確認した(図10C)。簡単に述べれば、hESCsをコラーゲナーゼ処理で(1.5mg/ml)回収し、培地をその後での洗浄および重力による沈降によりフィーダ細胞から分離した。トリプシン処理でhESC由来線維芽細胞を回収した。細胞を遠心分離によりベレット化し、1xPBSで洗浄し、さらに遠心分離により回収した。氷冷噴霧緩衝液(プロテアーゼインヒビターカクテル(Complete Mini, Roche)を添加した50 mM Tris−HCl (pH 7.4), 20% グリセロール, 1 mM EDTA, 150 mM NaCl, 0.5% Triton X−100, 0.02% SDS, 1 mM ジチオスレイトール [DTT], 2 mM phenylmethylsulfonyl fluoride [PMSF])中で細胞を溶解した。氷冷5分後、最終的な[NaCl]を400mMにするために5M NaClを添加した。さらなる氷冷5分後、等容の氷冷水を添加し、遠心分離をすぐに始める前に微量遠心管(14krpm、10min)中で完全に混合した。上清のタンパク質濃度をブラッドフォード法で測定し、4%から12%ビス−トリス勾配ゲル(Invitrogen)を用いて15μgのタンパク質を分離した。PVDF膜に移し、OCT4(マウスモノクローナル抗体、Santa Cruz Biotechnology)およびGFP(Rbt pAB to GFP Abcam ab290−50)抗体で探索後、ZFN処理細胞がOCT4EX1−eGFPタンパク質を様々なレベルで発現した。
【0183】
最終的に、トランス遺伝子発現が適切に調整されているかをテストするために、標的hESCsを線維芽細胞に分化させ、分化細胞にはOTC4およびOCT4EX1−eGFPタンパク質が存在しないことを発見した(図10C)。EB誘導分化では、1.5mg/mlのIV型コラゲナーゼ(Invitrogen)を用いてhESCsコロニーを採取し、MEFフィーダ細胞から重力で分離し、15%で添加したDMEMに非接着懸濁液培養ディッシュ(Corning)で緩やかに7日間圧潰し培養した。接着組織培養ディッシュにEBsをプレーティングし、実験開始前に少なくとも4つの継代培養にトリプシン処理をしてプライマリ線維芽細胞プロトコルに従い継代培養した。さらに、0.5μg/mlまで低いピューロマイシン濃度では生存できなことが証明されており、in vitro誘導線維芽細胞がピューロマイシンN‐アセチルトランスフェラーゼを発現することはなかった。
【0184】
この結果はZFN介在遺伝子標的化がヒトES細胞の多能性状態に関するレポーター系を生成するのに効率的に使用できることを示す。
【0185】
実施例5 ヒトES細胞におけるセイフ―ハーバー遺伝子座の高効率組入れ
部位特異的クローン多様化および後成的サイレンシング効果がなくトランス遺伝子の画定された過剰発現をする信頼性が有り使いやすい発現系の欠如がhESCsにおける過剰発現の研究を阻んでいる。染色体19のAAVS1遺伝子座は先に記述したが、トランス遺伝子サイレンシングが無く多数形質転換され、かつ初代細胞株においてトランス遺伝子を安定的に発現させるのに使用し続けてきた最も良く特徴付けされている遺伝子座を表す(Smith et al. (2008) Stem Cells 26:496−504)。この遺伝子座はアデノ随伴ウイルス(AAVs)に関するウイルス組込み部位として同定されており、プロテインホスファターゼ1(PPP1R12C)の調節サブユニット12Cをコードする遺伝子を妨げる。さらに、アデノ随伴ウイルス遺伝子送達技術を用いてAAVS1遺伝子座で標的されているhESCsが長期間のトランス遺伝子発現を示し、かつ多能性状態を維持した((Smith et al., ibid)。
【0186】
hESCs培養に好適で堅牢な過剰発現系を構築するために、形質転換された多数の細胞株において効率的にトランス遺伝子をAAVS1に標的する、先に設計され使用してきたZFN対を使ってPPP1R12Cの第1イントロンを標的する(米国公報US 20080299580を参照)。
【0187】
2つの異なる標的化戦略を用いてヒトES細胞のAAVS1遺伝子座を標的した。AAVS1遺伝子座のPPP1R12C遺伝子をhESCs中で発現させているので、OCT4を標的として使ったものと類似するスプライス受容体−ピューロマイシン選択カセットを用いてプロモータなしのドナーコンストラクトを設計した(図11A)。ZFN仲介標的化の高い効率は遺伝子トラップアプローチの使用に制限されるのか、またはプロモータ駆動選択カセットにより達成できるのかをテストするために、ヒトホスホグリセロキナーゼ(PGK)プロモータによりピューロマイシン選択カセットを含有する第2のAAVS1ドナープラスミドを構築した(図11A)。並行実験において、AAVS1遺伝子座に対する2つのドナープラスミドおよびZFNsを使用してBGO1hES細胞をエレクトロポレーションし(米国特許出願第20080299580号に詳しく説明)、ピューロマイシン耐性コロニーのために選択した。
【0188】
予想通り、プロモータなしの標的化ドナープラスミドではPGK−ピューロマイシンカセットをはこぶドナープラスミドよりもピューロマイシン耐性クローンがより少なく(約50%)回収した。サザンブロット分析により、両方のアプローチではAAVS1遺伝子座において正しいヘテロ接合体標的化事象になったことが確認された(図11B)。加えて、両方のアプローチはホモ接合体標的クローンを回収し、ここでサザンブロット分析が両方のAAVS1対立遺伝子が正しい組込みパターンであることを示した。 標的化効率の定量化は、一方または両方の対立遺伝子において約50%のピューロマイシン耐性クローンが正しく標的していることを示した(表5)。表5の最初の6行に示された結果はBGO1細胞における結果、最後の3行に示した結果は iPS PD2lox‐17Puro−5細胞で実施された実験のものである。標的化の高い効率を両方のドナープラスミドで達成し、外因性プロモータ駆動選択カセットを使用する場合にZFN標的化を効率的に達成することができることを示した。
【0189】
【表13】

【0190】
実施例4で述べたOCT4標的化のように、標的とされてもクローンの一部は追加的組込みを伴う(表5)。大半のクローンは一方または両方のZFN‐標的対立遺伝子に正しく標的されており、かつ、無作為に組込まれたDNAを欠いているので、さらなる分析がされていない。重要なことには、テストされたすべてのAAVS1−標的hESCsは、多能性マーカーおよび奇形腫の形成アッセイについての免疫蛍光染色に基づき正常な核型および多能性状態を維持した。
【0191】
次に、hiPSCs中でZFNアプローチが遺伝子を標的にすることに使えるかどうか確認することをした。この点について、hESCsについて上述したものと同じ戦略を用いてパーキンソン病の患者から先に生成されたhiPSC株中のAAVS1遺伝子座を標的として行った(Soldner, F. et al. (2009) Cell 136:964−977)。表5に示した通り、スプライス受容体とPGKプロモータ駆動ピューロマイシンカセットの両方を用いるZFN-介在標的化は、hESCsの場合と同様の効率でヘテロ接合体およびホモ接合体の正しい標的クーロン(図12)になった。
【0192】
実施例6 AAVS1遺伝子座へ組込まれた遺伝子の発現
AAVS1遺伝子座がヒトES細胞においての誘導性トランス遺伝子過剰発現系を発生することに使用できるかを調べる。最小CMVプロモータおよび赤色蛍光タンパク質(RFP)cDNA(TetO‐RFP)を駆動するテトラサイクリン応答エレメントで構成する追加的発現カセットを含有するために、先に使用したプロモータなしのAAVS1ドナープラスミドを再設計する。このドナー分子に含有されるものは、3’末端でポリアデニル化シグナルに結合したGFP遺伝子をコードするヌクレオチド配列および5’末端で自己切断2Aペプチドをコードする配列である(図13を参照)。このようにして、GFPの発現は内因性プロモータによって駆動され、かつ、ドナー陽性クローンをスクリーニングすることに使用することができる。ドナーコンストラクトをhES細胞の代行システムとして働くK562細胞に形質移入する。DOXに細胞を反応させるために、M2rtTA逆トランスアクチベーターを伴うレンチウイルスで正しく標的したK562sを形質導入する。RFP発現はDOXの追加およびM2rtTAの存在に依存する。
【0193】
実施例7 ヒトESCsおよびiPSCsにおけるPITX3遺伝子座の標的
外因性選択カセットをhESCsおよびhiPSCs中でAAVS1遺伝子座を効果的に標的することに使用することができるという観察により、hESCsおよびhiPSCs中で発現しない遺伝子を修飾することにZFNsを使用することができるかどうかを検討することとした。この点を検討するために、hESCsではなくドーパミン作動性ニューロンなどの分化細胞に発現する転写因子をコードする遺伝子であるPITX3の第1コードエキソンに対して2つのZFN対を生成した。PITX3 ZFNsおよびその標的部位を下記の表6と表7に示す。
【0194】
【表14】

【0195】
【表15】

【0196】
PITX3‐eGFPノックイン細胞を生成するために、予測されたZFN標的部位に隣接する約800bpの5’と3’の相同配列を含有し、かつ、PITX3の第1コードドエキソンに相同性を含有するドナープラスミドを構築する。PITX3リポーターを生成するために、PITX3オープンリーディングフレームをポリアデニルシグナルに続いてRFPのリーディングフレームに結合させる。従って、RFPの発現はPITX3プロモータおよび、それらが活性の場合は随伴cis 調節因子により駆動する。3’相同アームの上流ではPGK‐GFPスクリーニングカセットをloxP部位に隣接するように位置を定める(図15)。上述したように、このコンストラクトはhESまたはhiPSCsに形質移入する。
【0197】
PGK‐GFPスクリーニングカセットに起因する転写干渉のリスクを無くすために、その後カセットをCre‐リコンビナーゼの一過性の発現により除去する。PGK−GFPスクリーニングカセットを除去するために、0.25%トリプシン/EDTA溶液(Invitrogen)を用いて細胞を採取し、さらに1x107細胞をPBS中で再懸濁する。次いで、製造業者(Gene Pulser Xcell System, Bio−Rad: 250 V, 500μF, 0.4 cm cuvettes)の指示書に従ってpTurbo‐Cre(40μg; Genbank Accession Number AF334827)およびpEGFP−N1(10μg; Clontech)でエレクトロポレーションした。エレクトロポレーション後、EGFP発現細胞に関して単細胞懸濁液をFACS選別(FACS−Aria; BD−Biosciences)することでCre‐リコンビナーゼ発現細胞を60時間濃縮する。エレクトロポレーション後の10日から14日の間で個々のコロニーを拾う。このアプローチを用いることで細胞型特異的リポーター系を生成するためにhES細胞中で発現しない遺伝子を標的し、および/または修飾することができる。
【0198】
実施例8 第IX因子遺伝子座のZFN標的
第IX因子遺伝子座を標的するように設計したZFNsを下記のように構築した。第IX因子特異的ZFNsおよびその標的部位を下記の表8に示す。
【0199】
【表16】

【0200】
上記したように、図16のK562細胞に関して三角形の短い辺が1μg、長い辺が4μgである拡大する三角形で示され、ヌクレオフェクションについて1、2または4μgのZFN対を用いることでZFN発現プラスミドをK562またはHpe3B細胞のいずれかに導入した。図17はHep3B細胞の類似のデータを示す。ヌクレオフェクションの3日後に、先に記載したように細胞を採取しゲノムDNAを単離した。
【0201】
Surveyor(CEL−I)ヌクレアーゼアッセイでの解析を実施し、第IX因子特異的ZFN対がK562およびHep3B細胞の予想した標的部位にDSBsを効率的に導入したことを図16と図17が示している。NHEJで測定された修飾対立遺伝子の割合を各レーンの下部に示した。この結果はK562およびHep3B細胞の両方においてヒト第IX因子に特異的なZFNsを効率的に切断することができることを示した。
【0202】
第IX因子遺伝子座の配列を導入する能力をテストするために、Nhel制限エンドヌクレアーゼ部位を含有する短い(30bp)タグ配列を包含するドナープラスミドを構築した。30bpタグの配列は5’-gctagcgatatcgtcgaccatatgggatcc-3’(配列番号62)であった。イントロン1内にある内因性遺伝子のZFN標的部位に隣接する相同性の1000bp領域がタグ配列を両側で隣接した。第IX因子特異的ZFNsおよび上述したドナーDNAを含有するドナープラスミドについての発現カセットを伴うプラスミドでK562細胞を形質移入した。また、対照実験をZFN発現プラスミドの不存在下においてドナーDNAを使用して実施した。ゲノムDNAを3日後と10後に抽出し、さらにドナーアームに相同である領域外の領域にハイブリタイズするプライマーを用いて放射標識したdNTPsの存在下で第IX因子遺伝子座をPCR増幅した。PCR産物をNhelで消化し、この産物を5%PAGEにより分離した。つぎに、ゲルをオートラジオグラフした。
【0203】
図18はNhelに対する修復DNAの感受性を示し、ZFN誘導二本鎖切断により望まれる核酸から内因性ヒト第IX因子遺伝子座への効率的で相同性をベースにした標的組込みに繋げることができることを示している。
【0204】
本明細書で言及される全ての特許、特許出願、および刊行物は、参照によりその全体が本明細書に組み入れられるものとする。
【0205】
本開示について、理解を明瞭にする目的で、図示および実施例を用いてある程度詳細に提示したが、当業者には、本開示の範囲の精神または範囲を逸脱することなく、種々の変更および修正が為され得ることが容易に明らかになる。従って、前述の記載および実施例を限定であるとみなしてはならない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トランス遺伝子が遺伝子産物を含有し、さらに、幹細胞が系譜特異的細胞型または成熟細胞型に分化したときまたはその間、遺伝子産物が転写または翻訳されるようにトランス遺伝子が幹細胞のゲノムの特定の領域に組込まれる、トランス遺伝子を含む幹細胞。
【請求項2】
前記トランス遺伝子が、前記遺伝子産物に作動可能に連結された系譜特異的または細胞運命プロモータをさらに含む、請求項1に記載の幹細胞。
【請求項3】
系譜特異的または細胞運命遺伝子の発現が内因性プロモータにより駆動されるように、前記遺伝子産物がゲノムに組込まれる系譜特異的または細胞運命遺伝子を含む、請求項1に記載の幹細胞。
【請求項4】
前記幹細胞が造血幹細胞、間葉系幹細胞、胚幹細胞、ニューロン幹細胞、筋幹細胞、肝幹細胞、皮膚幹細胞、誘導多能性幹細胞、およびこれらを組み合せたものからなる群から選択される、請求項1から請求項3のいずれかに記載の幹細胞。
【請求項5】
前記幹細胞が哺乳動物幹細胞である、請求項1から請求項4のいずれかに記載の幹細胞。
【請求項6】
前記幹細胞がヒト誘導多能性幹細胞(hiPSC)である、請求項5に記載の幹細胞。
【請求項7】
前記遺伝子産物がミクロRNAs(miRNAs)、shRNAs、RNAisおよびこれらを組み合せたものからなる群から選択されるRNA産物に転写されるタンパク質または配列を含有する、請求項1から請求項6のいずれかに記載の幹細胞。
【請求項8】
前記トランス遺伝子がリコンビナーゼ部位で隣接される、請求項1から請求項7のいずれかに記載の幹細胞。
【請求項9】
追加的なリポータ―コンストラクトをさらに有する請求項1から請求項8のいずれかに記載の幹細胞。
【請求項10】
選択された細胞型の細胞を単離する方法であって、該方法は、
遺伝子産物が前記選択された細胞型の細胞で発現する、請求項1から請求項9のいずれかに従う幹細胞の集団を培養し、かつ、
前記遺伝子産物を発現する細胞を単離し、それにより前記選択された型の細胞を単離すること、
を含む方法。
【請求項11】
幹細胞の分化に対する化合物の効果を測定する方法であって、該方法は、
前記化合物の存在下および非存在下で請求項1から請求項9のいずれかに従う幹細胞の第1及び第2の集団を培養し、かつ
前記化合物の存在下で前記遺伝子産物の発現の違いが幹細胞分化に対する化合物の効果を示す、前記第1及び第2の集団における前記遺伝子産物の発現を評価することを含む方法。
【請求項12】
幹細胞における遺伝子産物を産生する方法であって、該方法は、
配列が前記幹細胞内の非必須部位に組込まれる、請求項1から9のいずれかに従う幹細胞の集団を提供し、かつ、
前記培養された幹細胞の集団が前記遺伝子産物を均一に発現する、幹細胞の集団を培養することを含む方法。
【請求項13】
治療が必要な被験対象の機能的な遺伝子産物の発現が減少することを特徴とする疾患を治療する方法であって、幹細胞が前記機能的な遺伝子産物を発現する、請求項1から請求項9のいずれかに従う幹細胞の集団を前記被験対象に投与することを含む方法。
方法。
【請求項14】
前記疾患が血友病Bであり、かつ、前記タンパク質が第IX因子である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記トランス遺伝子がプラスミド、線状DNA、アデノウイルスベクターまたはレトロウイルスベクターを用いて前記幹細胞に導入される、請求項10から請求項14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
幹細胞の特定の領域へのトランス遺伝子挿入に伴う位置変化作用を減少または除去する方法であって、
前記特定の領域の一方の対立遺伝子において挿入された前記トランス遺伝子が調節可能なコンストラクトを含む遺伝子発現コンストラクトを含有し、かつ、前記特定の領域の他方の対立遺伝子が調節可能なプロモータについてのトランス活性化因子を含有する、幹細胞を提供することを含む方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8】
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【図9A】
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【図9B】
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【図10A】
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【図10B】
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【図10C】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公表番号】特表2012−523232(P2012−523232A)
【公表日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−504674(P2012−504674)
【出願日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際出願番号】PCT/US2010/001063
【国際公開番号】WO2010/117464
【国際公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【出願人】(508241200)サンガモ バイオサイエンシーズ, インコーポレイテッド (28)
【出願人】(506188769)ホワイトヘッド インスティテュート フォー バイオメディカル リサーチ (5)
【Fターム(参考)】