説明

幹細胞をイメージングするための組成物及び方法

プロモーターを含む第1の発現制御配列と機能的に連結された第1のレポーター核酸配列、及び1以上の細胞が分化又は脱分化するのに応じて活性化又は不活性化する応答要素を含む第2の発現制御配列と機能的に連結された第2のレポーター核酸配列を含んでなる発現ベクターが提供される。かかる発現ベクターを含んでなる、幹細胞のイメージング及びモニタリングのための方法及びキットも提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般的には細胞のイメージングに関し、さらに詳しくは、幹細胞中の新規な発現ベクターを用いて発現されたレポーター核酸配列をイメージングすることに関する。
【背景技術】
【0002】
生きている被験体における単一の細胞又は細胞群の非侵襲的で反復的なイメージングは、特に細胞ベース療法の分野では、インビボでの細胞の追跡のため決定的に重要である。細胞ベース療法、細胞トラフィッキング及び遺伝子療法研究を含む多くの用途において、正常生理学及び疾患進行を理解するために様々なイメージングモダリティーが使用されてきた。レポーター核酸配列を有する発現ベクターは、生きている被験体における遺伝子発現の非侵襲的な定量的イメージングの可能性を提供する。
【0003】
分子及び細胞事象の複雑性及び動力学を解明するためには、単一又は複数レポーター遺伝子構築物の助けを借りて個々の細胞におけるレポーター遺伝子発現をイメージングすることが望ましい。イメージング用レポーター遺伝子は、各種の非侵襲的イメージング技法によって検出されるタンパク質をエンコードしている。レポーター遺伝子発現は、レポーター遺伝子のタイプに応じて光学イメージング、陽電子放出断層撮影(PET)、単光子放出コンピューター断層撮影(SPECT)又は磁気共鳴イメージング(MRI)を使用することで、生きている被験体においてイメージングすることができる。
【0004】
幹細胞ベース療法は、特に再生医学の分野において多大の可能性を明らかにした。幹細胞ベース療法にとっての障害の1つは、使用した幹細胞を追跡するための効率的なモニタリング方法がないことである。幹細胞の分化状態のモニタリングは、治療効力並びに移植した幹細胞の腫瘍形成性のような副作用の可能性を判定するために不可欠である。細胞培養物又は生きている被験体における内因性遺伝子発現は、内因性プロモーターで駆動されるレポーター遺伝子を含むトランスジーンを用いることで評価できる。移植幹細胞の多分化能性の評価は、将来のテラトーマ形成の予測を可能にすることができる。多分化能性マーカー関連プロモーターで駆動されるレポーター遺伝子系は、幹細胞の分化状態を検出するために役立ち得る。
【0005】
各モダリティーの欠点を解消するためには、複数の相異なるレポーター遺伝子発現を検出するマルチモダリティーアプローチが有用であり得る。その上、生きている動物において非侵襲的なレポーター遺伝子イメージング技法を用いて幹細胞活性をモニターするためのロバストな方法が極めて望ましい目標である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
国際公開第2004/094642号パンフレット
【発明の概要】
【0007】
本発明は一般に、1以上のレポーター配列を含む発現ベクターを包含する。本発明はさらに、レポーター核酸配列をイメージングすることで細胞活性をモニターするための方法及びキットを包含する。
【0008】
幹細胞をモニタリングするための発現ベクターの一例は、第1の発現制御配列と機能的に連結された第1のレポーター核酸配列、及び第2の発現制御配列と機能的に連結された第2のレポーター核酸配列を含んでいる。第1の発現制御配列はプロモーターを含んでいる。第2の発現制御配列は、細胞分化又は脱分化の1以上のステージに応答して活性化又は不活性化する応答要素を含んでいる。
【0009】
発現ベクターの一例は、第1の発現制御配列と機能的に連結された第1のレポーター核酸配列、及び第2の発現制御配列と機能的に連結された第2のレポーター核酸配列を含んでいる。第1の発現制御配列は、1以上の多分化能性マーカーに対するプロモーターを含んでいる。第2の発現制御配列は、1種以上の応答要素特異的タンパク質の結合に応答する応答要素を含んでいる。
【0010】
幹細胞をモニタリングするための方法の一例は、第1のレポーター核酸配列及び第2のレポーター核酸配列を含む第1の発現ベクターを幹細胞に送達する段階、並びに第1及び第2のレポーター核酸配列の少なくとも一方の発現をイメージングすることで幹細胞をモニタリングする段階を含んでいる。第1のレポーター核酸配列は、1以上の多分化能性マーカーに対するプロモーターを含む第1の発現制御配列と機能的に連結されている。第2のレポーター核酸配列は、1種以上の応答要素特異的タンパク質の結合に応答する応答要素又は1種以上の細胞特異的タンパク質によって調節される細胞特異的プロモーターを含む第2の発現制御配列と機能的に連結されている。
【0011】
幹細胞をモニタリングするためのキットの一例は、第1の発現制御配列と機能的に連結された第1のレポーター核酸配列、及び第2の発現制御配列と機能的に連結された第2のレポーター核酸配列を含む発現ベクターを含んでいる。第1の発現制御配列はOct4プロモーターを含み、第2の発現制御配列はGATA4タンパク質の結合に応答する応答要素を含んでいる。
【0012】
発現ベクターの一例は、1以上の多分化能性マーカーに対するプロモーターを含む第1の発現制御配列と機能的に連結された第1のレポーター核酸配列、及び1種以上の細胞特異的タンパク質によって調節される細胞特異的プロモーターを含む第2の発現制御配列と機能的に連結された第2のレポーター核酸配列を含んでいる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
本発明の上記その他の特徴、態様及び利点は、添付の図面を参照しながら以下の詳細な説明を読んだ場合に一層よく理解されよう。添付の図面中では、図面全体を通じて類似の部分は同一の符号で示されている。
【図1】図1は、構成的ユビキチンプロモーター及び細胞特異的Oct4プロモーターを含む本発明の構築物の一実施形態を示す模式図である。
【図2A】図2Aは、胚性幹細胞又は分化成体細胞株におけるOct4発現の特異性を示すグラフである。
【図2B】図2Bは、胚性幹細胞又は分化成体細胞株におけるOct4発現の特異性を示すグラフである。
【図2C】図2Cは、胚性幹細胞又は分化成体細胞株におけるOct4発現の特異性を示すグラフである。
【図2D】図2Dは、胚性幹細胞又は分化成体細胞株におけるOct4発現の特異性を示すグラフである。
【図3】図3は、Oct4−hRLucを一時的にトランスフェクトしたマウスES細胞におけるレニラルシフェラーゼ発現のグラフである。
【図4A】図4Aは、Oct4−hRLuc及びUbiq−FLuc−eGFPを安定に発現するマウスES細胞におけるルシフェラーゼ発現のグラフである。
【図4B】図4Bは、Oct4−hRLuc及びUbiq−FLuc−eGFPを安定に発現するマウスES細胞におけるルシフェラーゼ発現のグラフである。
【図5】図5は、経時的なOct4 mRNAレベル及びβ−アクチンmRNAレベルを示すPCR増幅生成物のアガロースゲル写真である。
【図6A】図6Aは、生きているマウスにおけるOct4−hRLuc発現ベクターを含むES細胞中でのルシフェラーゼ発現を示す、一連のマウスのグラフである。
【図6B】図6Bは、生きているマウスにおけるOct4−hRLuc発現ベクターを含むES細胞中でのルシフェラーゼ発現を示す、一連のマウスの画像である。
【図6C】図6Cは、生きているマウスにおけるUbiq−Fluc発現ベクターを含むES細胞中でのルシフェラーゼ発現を示す、一連のマウスのグラフである。
【図6D】図6Dは、生きているマウスにおけるUbiq−Fluc発現ベクターを含むES細胞中でのルシフェラーゼ発現を示す、一連のマウスの画像である。
【図7】図7は、GATAタンパク質の結合に応答する応答要素及び最小プロモーター配列を複数のクローニング部位に挿入することで発現ベクターを作製する本発明の方法の一例を示す模式図である。図7は、出現の順序でそれぞれ配列番号5及び配列番号6を開示している。
【図8】図8は、pcDNAベクター骨格中にGATA4タンパク質をエンコードするcDNAを含む本発明の発現ベクターの一実施形態を示す模式図である。
【図9】図9は、GATA4タンパク質をエンコードするcDNA配列のPCR増幅生成物のアガロースゲル写真である。
【図10】図10は、インビトロにおける、GATA4タンパク質の結合に応答する応答要素と機能的に連結されたレポーター核酸配列のルシフェラーゼ発現の棒グラフである。
【図11】図11は、HEK 293細胞における、GATA4結合に応答する応答要素と機能的に連結されたレポーター核酸配列のルシフェラーゼ発現の棒グラフである。
【図12】図12は、HCT 116結腸癌細胞における、GATA4結合に応答する応答要素と機能的に連結されたレポーター核酸配列のルシフェラーゼ発現の棒グラフである。
【図13】図13は、HCT 116結腸癌細胞を5−アザシチジンで処理した後における、GATA4結合に応答する応答要素と機能的に連結されたレポーター核酸配列のルシフェラーゼ発現の棒グラフである。
【図14】図14は、構成的プロモーター(ユビキチン)、細胞特異的プロモーター(Oct4)及び(GATA4に応答する)応答要素を含む本発明の構築物の一実施形態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
特許請求される発明の主題を一層明確で簡潔に記載しかつ指摘するため、以下の説明及び添付の特許請求の範囲中で使用される特定の用語に関して以下に定義を示す。明細書全体を通じ、特定の用語の例示は非限定的な例と見なすべきである。
【0015】
本明細書中で使用される「発現ベクター」又は「発現構築物」という用語は、特定の遺伝子又は特定の核酸配列又は発現配列タグを標的細胞中に導入するために使用できるプラスミドをいう。発現ベクターが細胞内に存在すれば、核酸配列によってエンコードされるタンパク質が細胞の転写及び翻訳機構によって産生され得る。発現ベクターは、調節核酸配列又は発現制御配列、転写開始配列、興味ある核酸配列(例えば、レポーター核酸配列)、転写終止配列或いはこれらの組合せを含み得る。発現制御配列は、興味あるタンパク質をエンコードする核酸配列又は発現配列タグの効率的な転写のためのエンハンサー及び/又はプロモーターとして作用する配列を含み得る。
【0016】
本明細書中で使用される「レポーター核酸配列」又は「レポーター遺伝子」という用語は、レポーター活性を有するタンパク質又はペプチドをエンコードする核酸配列をいう。レポーター核酸配列は、独立に検出できるタンパク質又はペプチドをエンコードし得る。常用されるレポーター核酸配列は、視覚的に識別可能な特性を本質的に有するタンパク質又はペプチド(例えば、GFPのような蛍光タンパク質)或いは視覚的に識別可能な特性を生じ得るタンパク質又はペプチド(例えば、ルシフェラーゼのような生物発光タンパク質)をエンコードする。レポーター核酸配列は、レポーター核酸配列の発現がマーカーとして使用されるので、試験対象の細胞又は生物において天然に発現されないように選択すればよい。レポーター核酸配列の非限定的な例には、緑色蛍光タンパク質(GFP)、赤色蛍光タンパク質(RFP)、ルシフェラーゼ、β−ラクタマーゼ及びβ−ガラクトシダーゼをエンコードする核酸配列がある。
【0017】
本明細書中で使用される「機能的に連結された」という用語は、核酸分子の2つの配列が互いに連結されていて、両方の配列が同じRNA転写物上に転写されるか、或いは一方の配列中で開始されたRNA転写が第2の配列中にまで延伸する場合を意味する。かくして、プロモーター配列(第1の配列)及びその他任意の第2のDNA配列のような2つの配列が機能的に連結されていれば、プロモーター配列で開始された転写は機能的に連結された第2の配列のRNA転写物を生み出すであろう。例えば、レポータータンパク質をエンコードするレポーター核酸配列及び発現制限配列を、発現制限配列中に存在するプロモーター又はエンハンサーの活性化によってレポーター核酸配列の発現が達成され得るようにして機能的に連結することができる。「機能的に連結されている」ためには、2つの配列が互いに直接に隣接している必要はない。
【0018】
本明細書中で使用される「発現制限配列」という用語は、レポーター核酸配列の上流に位置する核酸配列をいう。これらの発現制限配列は、とりわけ、RNAポリメラーゼがプロモーター配列に特異的に結合して転写を開始する位置を規定する。発現制限配列は、プロモーター、エンハンサー、遺伝子応答要素又は核酸応答要素、或いは転写開始配列を含み得る。発現制限配列は、転写の効率及び/又は下流のレポーター核酸配列の翻訳を向上させるように操作することができる。
【0019】
本明細書中で使用される「応答要素」という用語は、プロモーターの直近又はプロモーターの内部に位置する場合に転写活性を調節できる核酸配列をいう。例えば、GATA4タンパク質結合配列は、最小プロモーターの直近に位置する応答要素として使用できる。GATA4タンパク質の結合は、最小プロモーターのプロモーター活性を調節できる。応答要素の非限定的な例には、ホルモン応答要素、cAMP応答要素及びGATA4タンパク質結合核酸配列がある。
【0020】
本明細書中で使用される「構成的プロモーター」という用語は、その関連遺伝子の継続的な転写を可能にする調節されないプロモーターをいう。構成的プロモーターは、生きている被験体の発生期間を通じて絶えず、その様々な部分における遺伝子の発現を指示する。構成的プロモーターの非限定的な例には、ユビキチンプロモーター、(ATPスルフラーゼをエンコードする)CT2プロモーター、及びCaMV 35S転写物又はアグロバクテリウムTiプラスミドのノパリンシンターゼ遺伝子に関連するプロモーターがある。
【0021】
本明細書中で使用される「モニタリング」という用語は、インビトロ又はインビボで活性を観察又は記録することをいう。例えば、それは細胞、組織又は器官における生物学的過程の進行又は発現に関する情報を日常的に収集するプロセスであり得る。細胞、組織又は器官における特定の活性のモニタリングは、例えば、細胞で産生され又は細胞中に取り込まれるイメージング可能なタンパク質又はペプチドのイメージングによって達成できる。例えば、イメージング可能なタンパク質又はペプチドは生物発光性又は蛍光性であり得る。モニタリングは、例えば、細胞又は組織の存在、不存在、濃度、局在又は分化状態を確認するために実施できる。イメージング可能なタンパク質又はペプチドをモニタリングするための技法の非限定的な例は、光学イメージング(蛍光及び生物発光イメージング)、PET、MRI及びSPECTを含んでいる。
【0022】
本明細書中で使用される「分化」という用語は、特殊化の程度が低い細胞が特殊化の程度が高い細胞タイプになる過程をいう。多細胞生物は単一の接合体から組織及び細胞タイプの複雑な系に変化するので、分化は該生物の発生中に多数回起こる。成体幹細胞は、組織修復中及び正常な細胞代謝回転中に分裂して完全に分化した娘細胞を生み出す。分化は細胞のサイズ、形状、膜電位、代謝活性及びシグナルへの応答性を劇的に変化させる。これらの変化は、主として遺伝子発現の高度に制御された修飾に原因する。例えば、多くの細胞タイプに分化し得る細胞は多分化能性細胞として知られている。
【0023】
本明細書中で使用される「脱分化」という用語は、部分的又は最終的に分化した細胞が、通常は再生過程の一部として早期発生段階に戻る細胞過程をいう。非限定的な例には、誘導多能性幹細胞(iPS)がある。脱分化した細胞は、特殊化細胞タイプに再分化できる。例えば、脂肪細胞のような特殊化細胞タイプは多分化能性幹細胞に脱分化させることができる。
【0024】
本明細書中で使用される「多分化能性マーカー」という用語は、多分化能性細胞特異的マーカータンパク質をいう。本明細書中で使用される「多分化能性細胞」とは、3つの胚葉(例えば、内胚葉、中胚葉及び外胚葉)のすべてに分化し得る細胞集団をいう。多分化能性細胞は、各種の多分化能性細胞特異的マーカーを発現する。かかるマーカーは、未分化細胞の若干の典型的な細胞形態(例えば、コンパクトなコロニー、高い核/細胞質比又は顕著な仁)を有している。多分化能性マーカーは、細胞が未分化の多分化能状態又は脱分化された多分化能状態にある場合にのみ活性化される。多分化能性マーカーの非限定的な例には、Oct4、Sox2、Klf4及びNanogがある。
【0025】
本発明の発現ベクターの1以上の実施形態は、第1の発現制御配列と機能的に連結された第1のレポーター核酸配列、及び第2の発現制御配列と機能的に連結された第2のレポーター核酸配列を含んでいる。第1の発現制御配列はプロモーターを含み得る。一実施形態では、第1の発現制御配列は、1以上の多分化能性マーカー(一例としてはOct4プロモーター)に対するプロモーターを含み得る。第2の発現制御配列は、1種以上の応答要素特異的タンパク質(一例としてはGATA4タンパク質)の結合に応答する応答要素を含み得る。発現ベクターはさらに、第3の発現制御配列と機能的に連結された第3のレポーター核酸配列を含み得る。第3の発現制御配列は構成的プロモーターを含み得る。一実施形態では、構成的プロモーターはユビキチンプロモーターである。発現ベクターにおいては、第1、第2又は第3のレポーター核酸配列は、フレーム内でそれぞれ第1、第2又は第3の発現制御配列と機能的に連結することができる。若干の実施形態では、発現制御配列は、細胞が分化又は脱分化するのに伴い、活性化又は不活性化する任意のプロモーター或いは何らかのタンパク質の結合に応答する任意の応答要素を含み得る。かかる制御配列は、特に限定されないが、Oct4プロモーター又はGATA−4タンパク質の結合に応答する応答要素を含み得る。
【0026】
発現ベクターにおいては、第1、第2又は第3の発現制御配列は、第1、第2又は第3のレポーター核酸配列の転写を調節するか、或いは前記レポーター核酸でエンコードされるタンパク質の翻訳を修飾する。発現制御配列とレポーター核酸配列との距離は、レポータータンパク質の効率的な転写が得られるように操作できる。発現ベクターはさらに、インビボ又はインビトロ或いは生体系においてレポータータンパク質を標識(例えば、蛍光タンパク質で標識)するために使用できる1以上の配列を含み得る。
【0027】
発現ベクターは、レポーター核酸配列の構成的発現(一貫した発現)又は細胞特異的発現(特定タイプの細胞系統の下でのみの発現)のために使用できる。例えば、ユビキチンプロモーターは任意の生存可能な細胞において構成的発現を有する。レポーター核酸配列と機能的に連結されたユビキチンプロモーターを含む発現ベクターは、レポーター核酸配列の連続的発現のために使用できる。構成的プロモーター(例えば、ユビキチン)と機能的に連結されたレポーター核酸配列は、細胞の生存及び増殖をイメージングするために使用できる。細胞特異的発現は、特定の細胞タイプに応答するプロモーターを使用することで達成できる。細胞特異的プロモーターは、多分化能性マーカー特異的プロモーターと呼ばれる、多分化能性細胞に対して特異的なプロモーターであり得る。例えば、本発明の発現ベクター中で使用されるOct4プロモーターは、発現ベクターが幹細胞中に存在する場合に活性化される。
【0028】
第2の発現制御配列は、さらに最小プロモーターを含み得る。最小プロモーターは、転写因子の結合及びそれに続くプロモーターと機能的に連結された遺伝子の転写のために要求される基本的な最小核酸配列である。最小プロモーターは、応答要素と機能的に連結することができる。最小プロモーターは応答要素によって活性化され得る。応答要素は、特定の細胞系統において1種以上の応答要素特異的タンパク質の結合に応答する。例えば、応答要素はGATA4タンパク質の結合に応答し得る。最小プロモーターは、応答要素にGATA4タンパク質を結合することで誘導され得る。GATA4タンパク質の発現は心筋細胞において増加する。したがって、GATA4に対する応答要素と機能的に連結された最小プロモーターは、細胞が心臓特異的細胞系統(例えば、心筋細胞)への分化を受けている場合にのみ誘導される。一実施形態では、最小プロモーターはCMVプロモーター、アデノウイルス初期プロモーター、アデノウイルス後期プロモーター及びTATA Boxプロモーターから選択できる。特定の実施形態では、最小プロモーターはCMVプロモーターである。
【0029】
一実施形態では、第1の発現制御配列はOct4細胞特異的プロモーターを含み、第2の発現制御配列はGATA4タンパク質の結合に応答する応答要素と機能的に連結された最小プロモーター(例えば、CMV最小プロモーター)を含んでいる。発現制御配列は、生物の成長中に核酸配列の発現を調節し得る。若干の調節可能な発現制御配列は、宿主細胞の増殖中にスイッチオフし、次いで所望の時点で再びスイッチオンして大量の所望タンパク質を有利に発現させることができる。
【0030】
第1のレポーター核酸配列は、細胞が多分化能性幹細胞又は誘導多能性幹細胞である場合に発現される多分化能性マーカーに対するプロモーターと機能的に連結されている。例えば、Oct4プロモーター活性は細胞が多分化能段階にある場合に増加し、特定の細胞系統への細胞分化後には減少する。したがって、レポーター遺伝子の発現は細胞分化段階ではダウンレギュレートされる。したがって、Oct4プロモーターと機能的に連結されたレポーター核酸配列のイメージングに関連するシグナルは、細胞が多分化能状態にある場合に「オン」であり、前記シグナルは細胞が分化した場合に「オフ」である。
【0031】
第2のレポーター核酸配列は応答要素と機能的に連結されており、応答要素は最小プロモーターと機能的に連結されている。細胞プロモーターは、応答要素への応答要素特異的タンパク質(例えば、GATA4タンパク質)の結合によって活性化され得る。若干の実施形態では、応答要素はGATA4結合配列の4回以上の反復を含んでいる。GATA4タンパク質の発現は、幹細胞が心臓特異的細胞(例えば、心筋細胞)に分化した場合に増加する。したがって、GATA4に連結されたレポーター核酸配列に関連するシグナルは、細胞が(心臓特異的細胞への)分化状態にある場合に「オン」であり、前記シグナルは細胞が多分化能状態又は脱分化状態にある場合に「オフ」である。例えば、幹細胞が心臓特異的細胞系統に分化した場合、GATA4タンパク質の発現は増加する。しかし、GATA4タンパク質の発現は心臓特異的細胞が脱分化して誘導多能性細胞(iPS)になった場合に減少する。
【0032】
若干の実施形態では、最小プロモーターと機能的に連結された第2のレポーター核酸配列は、応答要素への細胞特異的タンパク質の結合によって活性化され得る。一例として、幹細胞が内皮細胞に分化した場合、胎児肝臓キナーゼ−1(FLK−1)が活性化され、第2の発現制御配列中に存在する応答要素に結合し、そして応答要素に関連する細胞プロモーターを活性化し得る。細胞特異的マーカーの非限定的な例を表1に示す。若干の実施形態では、第2の発現制御配列は分化細胞特異的プロモーターを含み得る。分化細胞特異的プロモーターには、特に限定されないが、FLK−1、BM88及びHLA−Draがある。若干の実施形態では、細胞特異的マーカー(非限定的な例を表1に示す)は、応答要素に結合する応答要素特異的タンパク質、又は分化細胞中のプロモーターに結合する細胞特異的タンパク質であり得る。
【0033】
【表1】

ユビキチンのような構成的プロモーターと機能的に連結された第3のレポーター核酸配列は、細胞が生存可能である場合に発現される。ユビキチンプロモーターはメチル化による遺伝子サイレンシングに耐え、細胞分化活性中にも調節されない。したがって、ユビキチンに連結されたレポーター核酸配列の発現に関連するシグナルは、細胞が生きている場合に「オン」である。前記シグナルは、分化段階、脱分化、多分化能性又は細胞再プログラミングにかかわらず、細胞が任意の時点で死んだ場合に「オフ」である。
【0034】
1以上のレポーター核酸配列は、それ自体がイメージング可能であるか、或いは基質又はプローブ又は標的と反応した場合にイメージング可能であり得るポリペプチドをエンコードし得る。ポリペプチドは、光学イメージング、MRI、PET、SPECT又はこれらの組合せによってイメージングすることができる。PETはすべての生きている被験体に適用可能であるという利点を有する。しかし、PETは比較的短寿命の放射性トレーサーを必要とする。ポリペプチドは生物発光性又は蛍光性であり得る。生物発光性又は蛍光性のポリペプチドは光学イメージングによってイメージングすることができる。本明細書中で使用される「バイオルミネセンスポリペプチド」又は「生物発光性ポリペプチド」という用語は、基質と反応してバイオルミネセンスを生じるポリペプチド又はタンパク質である。バイオルミネセンスは単一細胞イメージングのために使用するのが比較的難しいのに対し、蛍光は単一細胞イメージングのために極めて高感度である。蛍光性レポータータンパク質はそれ自体がイメージング可能であるのに対し、生物発光性レポータータンパク質は基質と反応した後にイメージング可能である。PETイメージング可能なレポータータンパク質は、プローブ又は標的を用いてイメージングすることができる。
【0035】
一例では、第1、第2及び第3のレポーター核酸配列の各々が生物発光性ポリペプチドをエンコードするのに対し、別の例では、第1、第2及び第3のレポーター核酸配列の各々が蛍光性ポリペプチドをエンコードし得る。生物発光性ポリペプチドをエンコードするレポーター核酸配列は、ホタルルシフェラーゼ(FL)、レニラルシフェラーゼ(RL)及びガウシアルシフェラーゼ(GL)から選択できる。本発明で使用するのに適した蛍光性ポリペプチドの例には、特に限定されないが、赤色蛍光タンパク質(RFP)及び緑色蛍光タンパク質(GFP)がある。蛍光性ポリペプチドをエンコードするレポーター核酸配列の発現は、蛍光活性化細胞選別法(FACS)を用いる蛍光ベースの細胞選別によって測定できる。第1、第2及び第3のレポーター核酸配列の各々は、MRIイメージング可能なタンパク質であるタンパク質(例えば、フェリチン)をエンコードし得る。若干の実施形態では、第1、第2又は第3のレポーター核酸配列は、PETイメージング可能なタンパク質であるHSV1−sr39チミジンキナーゼをエンコードする。
【0036】
一実施形態では、第1のレポーター核酸配列は生物発光性タンパク質をエンコードする一方、第2のレポーター核酸配列は蛍光性タンパク質をエンコードし、或いはその逆である。例えば、第1のレポーター核酸配列がRLをエンコードし、第2のレポーター核酸配列がGFPをエンコードしてよく、或いはその逆であってもよい。別の実施形態では、第1及び第2のレポーター核酸配列が共に生物発光性タンパク質をエンコードしてよく、これらのタンパク質は相異なるものであり、2つの相異なる波長で独立にイメージングできる。一例としては、第1のレポーター核酸配列がRLをエンコードし、第2のレポーター核酸配列がFLをエンコードしてよく、或いはその逆であってもよい。FLは550〜570nmの範囲内の光を生じるのに対し、RLは480nmの青色光を生じる。これらの酵素は、基質要件及び光出力に違いがあるので、二重レポーターアッセイにおいて使用できる。別の実施形態では、第1及び第2のレポーター核酸配列が共に蛍光性タンパク質をエンコードしてよく、これらのタンパク質は相異なるものであり、2つの相異なる波長で独立にイメージングできる。一例としては、第1のレポーター核酸配列がGFPをエンコードし、第2のレポーター核酸配列がRFPをエンコードしてよく、或いはその逆であってもよい。
【0037】
一態様では、第1のレポーター核酸配列がヘルペス・シンプレックス(Herpes Simplex)ウイルスタイプ1チミジンキナーゼ(HSV1−TK)のようなPETレポータータンパク質をエンコードし、第2のレポーター核酸配列がRLのような生物発光性タンパク質をエンコードしてよく、或いはその逆であってもよい。別の態様では、第1のレポーター核酸配列がHSV1−TKのようなPETレポータータンパク質をエンコードし、第2のレポーター核酸配列がRFPのような蛍光性タンパク質をエンコードしてよく、或いはその逆であってもよい。他の態様では、第1のレポーター核酸配列がHSV1−TKのようなPETレポータータンパク質をエンコードし、第2のレポーター核酸配列がフェリチンのようなMRIイメージング可能なタンパク質をエンコードしてよく、或いはその逆であってもよい。さらに別の態様では、第1及び第2のレポーター核酸配列が共にPETレポータータンパク質をエンコードしてよく、これらのタンパク質は相異なるものであり、2つの相異なる時点でイメージングできる。一実施形態では、第1のレポーター核酸配列がFLのような生物発光性タンパク質をエンコードし、第2のレポーター核酸配列がフェリチンのようなMRIイメージング可能なタンパク質をエンコードしてよく、或いはその逆であってもよい。他の実施形態では、第1のレポーター核酸配列がGFPのような蛍光性タンパク質をエンコードし、第2のレポーター核酸配列がフェリチンのようなMRIイメージング可能なタンパク質をエンコードしてよく、或いはその逆であってもよい。別の実施形態では、第1及び第2のレポーター核酸配列が共にMRIイメージング可能なタンパク質をエンコードしてよく、これら2種のタンパク質は相異なる共鳴シグナルによって区別される。
【0038】
発現ベクターはさらに、第3のレポーター核酸配列を含み得る。この場合、第1、第2及び第3のレポーター核酸配列の各々が生物発光性タンパク質又は蛍光性タンパク質をエンコードしてよく、これら3種のタンパク質は相異なるものであり、相異なる波長でイメージングできる。一例としては、第1のレポーター核酸配列がRLをエンコードし、第2のレポーター核酸配列がFLをエンコードし、第3のレポーター核酸配列がガウシアルシフェラーゼ(GL)をエンコードしてよい。一態様では、第1及び第2のレポーター核酸配列が共に生物発光性タンパク質をエンコードし、第3のレポーター核酸配列がPETイメージング可能なタンパク質をエンコードしてよく、或いはその逆であってもよい。他の態様では、第1及び第2のレポーター核酸配列が共に生物発光性タンパク質をエンコードし、第3のレポーター核酸配列がMRイメージング可能なタンパク質をエンコードしてよく、或いはその逆であってもよい。別の態様では、第1及び第2のレポーター核酸配列が共に蛍光性タンパク質をエンコードし、第3のレポーター核酸配列がPETイメージング可能なタンパク質をエンコードしてよく、或いはその逆であってもよい。さらに他の態様では、第1及び第2のレポーター核酸配列が共に蛍光性タンパク質をエンコードし、第3のレポーター核酸配列がMRイメージング可能なタンパク質をエンコードしてよく、或いはその逆であってもよい。第1のレポーター核酸配列が生物発光性タンパク質をエンコードし、第2のレポーター核酸配列が蛍光性タンパク質をエンコードし、第3のレポーター核酸配列がPETイメージング可能なタンパク質又はMRイメージング可能なタンパク質をエンコードしてもよい。別の態様では、第1のレポーター核酸配列が蛍光性タンパク質をエンコードし、第2のレポーター核酸配列が生物発光性タンパク質をエンコードし、第3のレポーター核酸配列がPETイメージング可能なタンパク質又はMRイメージング可能なタンパク質をエンコードしてもよい。
【0039】
第1のレポーター核酸配列がPETイメージング可能なタンパク質をエンコードし、第2のレポーター核酸配列が蛍光性タンパク質をエンコードし、第3のレポーター核酸配列がMRイメージング可能なタンパク質をエンコードしてもよい。第1のレポーター核酸配列がPETイメージング可能なタンパク質をエンコードし、第2のレポーター核酸配列がMRイメージング可能なタンパク質をエンコードし、第3のレポーター核酸配列が蛍光性タンパク質をエンコードしてもよい。一態様では、第1のレポーター核酸配列がMRイメージング可能なタンパク質をエンコードし、第2のレポーター核酸配列が蛍光性タンパク質をエンコードし、第3のレポーター核酸配列がPETイメージング可能なタンパク質又は生物発光性タンパク質をエンコードしてもよい。
【0040】
幹細胞をモニタリングするための方法の1以上の実施形態は、第1のレポーター核酸配列及び第2のレポーター核酸配列を含む第1の発現ベクターを幹細胞に送達する段階を含んでいる。本方法はさらに、第1及び第2のレポーター核酸配列の少なくとも一方の発現をイメージングすることで幹細胞をモニタリングする段階を含んでいる。第1のレポーター核酸配列は、1以上の多分化能性マーカーに対するプロモーター(一例としてはOct4プロモーター)を含む第1の発現制御配列と機能的に連結されている。第2のレポーター核酸配列は、1種以上の応答要素特異的タンパク質(一例としてはGATA4タンパク質)の結合に応答する応答要素を含む第2の発現制御配列と機能的に連結されている。第2の発現制御系は、さらに最小プロモーターを含んでいる。発現ベクターはさらに、第3の発現制御配列と機能的に連結された第3のレポーター核酸配列を含むことができ、第3の発現制御配列はユビキチンのような構成的プロモーターを含んでいる。
【0041】
若干の実施形態では、本方法は、第1及び第2の発現ベクターを幹細胞に順次又は同時に送達する段階、次いで細胞をモニタリングする段階を含んでいる。第1の発現ベクターは、Oct4プロモーターを含む第1の発現制御配列と機能的に連結された第1のレポーター核酸配列、及びGATA4の結合に応答する応答要素を含む第2の発現制御配列と機能的に連結された第2のレポーター核酸配列を含んでいる。第2の発現ベクターは、ユビキチンのような構成的プロモーターを含む発現制御配列と機能的に連結されたレポーター核酸配列を含んでいる。
【0042】
若干の他の実施形態では、本方法は、第1、第2又は第3の発現ベクターを幹細胞に順次又は同時に送達する段階、次いで細胞をモニタリングする段階を含み得る。第1の発現ベクターは、Oct4を含む発現制御配列と機能的に連結されたレポーター核酸配列を含み得る。第2の発現ベクターは、GATA4の結合に応答する応答要素を含む発現制御配列と機能的に連結されたレポーター核酸配列、及び該応答要素と機能的に連結された最小プロモーターを含んでいる。第3の発現ベクターは、ユビキチンを含む発現制御配列と機能的に連結されたレポーター核酸配列を含み得る。
【0043】
発現ベクターは、トランスフェクション、トランスダクション、ヌクレオフェクション又はこれらの組合せによって幹細胞に送達し得る。発現ベクターはエレクトロポレーションによっても送達でき、これは化学的トランスフェクションより約10倍効果的である。この方法はまた、外来遺伝子を細胞(特に哺乳動物細胞)に導入するためにも極めて効率的である。例えば、エレクトロポレーションはノックアウトマウスの作製方法並びに腫瘍治療、遺伝子療法及び細胞ベース療法において使用できる。
【0044】
一実施形態では、発現ベクターは、外来DNAを真核細胞中に導入するトランスフェクションによって細胞に送達できる。一例では、発現ベクターはヌクレオフェクションによって細胞に送達できる。ヌクレオフェクションは、ニューロン及び休止血液細胞のような非分裂細胞でもトランスフェクトする能力を提供する。他の実施形態では、発現ベクターの送達はDNAナノ粒子技法によっても実施できる。DNAナノ粒子の移入は、ナノ粒子が細胞に侵入して核内にDNAを遊離させる間にナノ粒子を追跡することにより、リアルタイム蛍光分光分析でモニタリングすることができる。
【0045】
本発明の有用な幹細胞用送達系としては、センダイウイルスリポソーム送達系、陽イオン性リポソーム、レトロウイルス発現ベクター、アデノウイルス発現ベクター、レンチウイルス発現ベクター及びこれらの組合せが挙げられる。送達ビヒクルとしてのリポソームの使用は、1つの特に興味深い方法である。リポソームは、標的部位の細胞と融合してその内容物を細胞内に送達することができる。
【0046】
本発明の発現ベクターを含む幹細胞は、様々な生体系に移植できる。患者又はドナー動物から幹細胞試料を採取し、本発明の発現ベクターを挿入することによってエクスビボで修飾し、次いで患者に再移植するか、或いは別のレシピエントに移植すればよい。一例では、患者から幹細胞を採取し、培養で細胞数を拡大し、次いで心臓細胞のような特定の細胞として分化誘導する。かかる方法中の任意の時点で、レポーター核酸配列を含む発現ベクターを細胞中に導入し得る。かかる幹細胞を患者に移植するか、或いは同種又は異種の1以上の異なるレシピエントに移植し得る。次いで、細胞をモニタリングすることで幹細胞に関する様々な細胞段階を決定できる。
【0047】
細胞への1以上の発現ベクターの送達は、レポータータンパク質の発現をモニタリングすることで観察できる。細胞は、単能性幹細胞、多分化能性幹細胞、多能性幹細胞、全能性幹細胞及び誘導多能性幹細胞から選択された幹細胞であり得る。若干の実施形態では、培養細胞又は培養細胞の子孫は、2以上のレポーター核酸配列を含む発現ベクターを含むことができる。
【0048】
幹細胞の分化状態をモニタリングするための方法は、インビボで実施される。幹細胞の分化状態は、特に限定されないが、筋肉組織、結合組織、神経組織、心臓組織及び脂肪組織を含む様々な組織でモニタリングすることができる。幹細胞のモニタリングは、幹細胞の存在、不存在、濃度、局在又は分化状態を確認し得る。発光性又は蛍光性レポータータンパク質から生じる光の強度に応じ、幹細胞の濃度を決定できる。イメージングされた細胞のモニタリング及び追跡により、特定の組織又は器官における特定の時点での幹細胞の局在を決定できる。様々なレポータータンパク質の色変化に応じ、分化又は多分化能性の段階を識別できる。
【0049】
幹細胞には、第1、第2及び第3のレポーター核酸配列を含む発現ベクターをトランスフェクトし得る。第1のレポーター核酸配列は、細胞が幹細胞である場合にのみ活性化される細胞特異的プロモーターであるOct4プロモーターと機能的に連結されている。したがって、第1のレポーター核酸は、細胞が多分化能性幹細胞である場合に発現されるレポータータンパク質をエンコードしている。しかし、このレポータータンパク質は幹細胞が分化状態にある場合には発現されない。第2のレポーター核酸配列は、GATA4タンパク質の結合に対する応答要素と機能的に連結されている。GATA4タンパク質は、細胞が心臓細胞である場合にのみ活性化される細胞特異的タンパク質である。したがって、第2のレポーター核酸は、細胞が心臓細胞である場合に発現されるレポータータンパク質をエンコードしている。しかし、このレポータータンパク質は心臓細胞が幹細胞に脱分化した場合には発現されない。
【0050】
幹細胞をモニタリングするための本発明のキットの一実施形態は、発現ベクターを含んでいる。発現ベクターは、第1の発現制御配列と機能的に連結された第1のレポーター核酸配列、及び第2の発現制御配列と機能的に連結された第2のレポーター核酸配列を含み得る。第1の発現制御配列はOct4プロモーターを含み、第2の発現制御配列はGATA4タンパク質の結合に応答する応答要素及び最小プロモーターを含んでいる。
【0051】
本キットは、さらに追加の発現ベクターを含み得る。追加の発現ベクターは、ユビキチンのような構成的プロモーターを含む発現制御配列と機能的に連結されたレポーター核酸配列を含み得る。本キットはまた、(例えば、凍結状態の)細胞及び/又は細胞を培養するための培地を含み得る。本キットはさらに、発現ベクター及び/又は細胞の取扱い、細胞への発現ベクターの送達、或いは細胞の培養に関するプロトコルを含み得る。本キットは、キットの使用方法を記載した使用説明書と共にパッケージすることができる。特定の実施形態では、本キットは発現ベクターを含む幹細胞又は幹細胞の子孫を含み得る。この場合、発現ベクターは、Oct4プロモーターと機能的に連結された第1のレポーター核酸配列、並びにGATA4タンパク質の結合に対する応答要素及び最小プロモーターと機能的に連結された第2のレポーター核酸配列を含み得る。
【0052】
治療用途のための源としてES細胞を使用する場合、問題は移植ES細胞の免疫拒絶及び腫瘍形成性である。移植ES細胞の免疫拒絶に関連するこのような問題は、患者から採取した体細胞の再プログラミングによって生成された患者特異的な多分化能性幹細胞を使用することで排除できる。ES細胞の多分化能性のインビトロ及びインビボ評価は、腫瘍形成性の検出及び腫瘍形成性を防止するための方策の開発において役立ち得る。
【実施例1】
【0053】
無血清培地を用いた未分化胚性幹細胞の培養
マウスES−D3細胞株(CRL−1934)をAmerican Type Culture Collection(ATCC、マナサス、米国ヴァージニア州)から入手した。空気中5%CO2を有する給湿インキュベーター内において1000IU/mLの白血病阻害因子(LIF、Chemicon社、ESGRO、ESG1107)と共に37℃でインキュベートすることで、ES細胞を未分化の多能性状態に維持した。0.1%ゼラチン被覆プラスチック皿上において、ノックアウトダルベッコ改変イーグル培地であるES培地を用いてES細胞を培養した。イーグル培地には、15%のノックアウト血清リプレースメント、0.1mmol/Lのβ−メルカプトエタノール及び2mmol/Lのグルタミンを補充した。ES培地は毎日交換し、ES細胞は2〜3日毎に継代した。
【実施例2】
【0054】
胚性幹細胞のインビトロ分化
LIFを除去して高濃度のウシ胎児血清を添加することで、ES細胞のインビトロ分化を実施した。0.1%ゼラチン被覆プラスチック皿上において、15%のウシ胎児血清、0.5mmol/Lのモノチオグリセロール及び2mmol/Lのグルタマックスを補充したIscoveのダルベッコ改変イーグル培地を含む分化培地中でES細胞を培養した。ES用の培地は、コエレンテラジン又はD−ルシフェリンで細胞の光学イメージングを行った後に毎日交換した。
【実施例3】
【0055】
幹細胞特異的かつ構成的プロモーター駆動光学レポーター遺伝子系の構築
幹細胞特異的Oct4プロモーターの遺伝子フラグメントを、HindIII及びNotI制限酵素での制限消化によってプラスミドから遊離させた。pRL−CMVベクター(Promega社)のCMVプロモーター領域中にNotI制限酵素部位を生成し、次いでHindIII及びNotI制限酵素で消化した。Oct4プロモーターの付着末端フラグメントをレニラルシフェラーゼ遺伝子の上流領域でpRL−CMVベクター中に連結することで、Oct4プロモーター駆動レニラルシフェラーゼ構築物(Oct4−hRLuc)を作製した。HindIII及びBglII制限酵素でOct4−hRLucからOct4プロモーターの遺伝子フラグメントを遊離させ、多重クローニング部位のpGL4.10ベクター(Promega社)中に連結することで、Oct4プロモーター駆動ヒト化ホタルルシフェラーゼ構築物(Oct4−FLuc2)を作製した。Oct4−hRLucを有するES細胞を作製するため、Oct4プロモーター駆動hRLucセグメントをBglII及びXbaI制限酵素でOct4−hRLucから遊離させ、同じ制限酵素で消化したpcDNA 3.1ピューロ中に連結した(ピューロOct4−hRLuc)。ユビキチンプロモーター駆動ホタルルシフェラーゼ−エンハンスト緑色蛍光タンパク質の融合タンパク質を含むレントウイルスベクター(Ubiq−FLuc−eGFP)を作製した。
【0056】
eGFPと融合したホタルルシフェラーゼ(FLuc)をエンコードする二官能性レポーター遺伝子系を生成するため、FLuc−eGFP及び切頭ヘルペス・シンプレックスチミジンキナーゼを含む三重融合レポーター遺伝子構築物からFLuc−eGFP(FG)をPCR増幅した。下記のプライマーを用いて、eGFPに対する停止コドン並びにそれぞれ5’末端及び3’末端におけるクローニング部位BamHI及びKpnIを生成した。使用したプライマーは、5’−gcggatccGCCACCATGGAAGACGCCAA−3’(配列番号1)及び5’−gcggtaccctaCTTGTACAGCTCGTCCATGCCG−3’(配列番号2)であった。次いで、このフラグメントをpHRG(レニラルシフェラーゼ遺伝子を含むプロモーター無しのレポータープラスミド)中にクローニングしてpHRFGを創製した。下記のプライマーを用いてpFUGからユビキチンプロモーターをPCR増幅することで、5’末端にClaI部位を生成した。使用したプライマーは、5’−ggggatcgatAACCCGTGTCGGCTCCAGAT−3’(配列番号3)及び5’−GGCGTCTTCCATGGATCCTC−3’(配列番号4)であった。次いで、このフラグメントをpHRFGのClaI及びBamHI部位に連結してpHRUFGを創製した。最後に、2つの異なる遺伝子Oct4−hRLuc及びUbiq−FLuc−eGFPに対する2つの発現制御配列を含むベクター(図1)を作製した。図1は、構成的ユビキチンプロモーター及び細胞特異的Oct4プロモーターを含む本発明の構築物を示している。
【実施例4】
【0057】
Oct4−hRLuc及びOct4−FLuc2の一時的トランスフェクション並びにホタル及びレニラルシフェラーゼアッセイによるその幹細胞特異性の評価
マウスES細胞、ラット筋芽細胞(H9C2)及びヒト腎臓癌細胞(HEK−293T)に、リポソームに基づく方法でOct4−hRLuc及びPoct4−FLuc2を一時的にトランスフェクトした。トランスフェクションのためには200ng/ウェルのDNA及びLipofectamine(商標)2000を使用した。特記しない限り、すべての一時的トランスフェクション試験において、5ng/ウェルの他の光学レポーター(例えば、CMVプロモーター駆動FLuc2(CMV−FLuc2)又はCMVプロモーター駆動hRLuc(CMV−hRLuc))をトランスフェクション基準化のために使用した。マウスES細胞、H9C2及びHEK−293Tに、対照としてCMV−hRLuc及びCMV−FLuc2を一時的にトランスフェクトした。一時的トランスフェクションから48時間後にホタル及びレニラルシフェラーゼアッセイを実施した。ホタルルシフェラーゼ及びレニラルシフェラーゼ活性に関するルミノメーターアッセイを下記のようにして実施した。簡単に述べれば、Promega社から供給された氷冷1×受動溶解緩衝液200ml中でトランスフェクト細胞を溶解し、氷上で15分間振盪した。細胞溶解物を4℃で1.3×104gで5分間遠心して細胞破片を除去した。レニラルシフェラーゼ活性を測定するため、20mlの上澄み液にpH7.0のリン酸緩衝食塩水(PBS)100mlに溶解した0.5mgのコエレンテラジンを添加し、次いでルミノメーター(モデルT 20/20、Turner Designs社、サニーベール、米国カリフォルニア州)で10秒間光子計数することで分析した。ホタルルシフェラーゼ活性は、Promega社からのルシフェラーゼアッセイ試薬II(LARII)基質をコエレンテラジンの代わりに使用した点を除き、レニラルシフェラーゼ活性に関して記載されたようにして測定した。細胞溶解物中のタンパク質濃度は、Bradfordアッセイ試薬(Bio−Rad Laboratories社、ハーキュリーズ、米国カリフォルニア州)によって測定した。レニラルシフェラーゼ活性は、ホタルルシフェラーゼ活性を用いてタンパク質含有量及びトランスフェクション効率について基準化し、相対光単位(RLU)/マイクログラム(タンパク質)/分(計数時間)として表した。ホタルルシフェラーゼ活性もまた、レニラルシフェラーゼ活性を用いてタンパク質含有量及びトランスフェクション効率について基準化した。
【0058】
Oct4−hRLuc及びCMV−hRLucトランスフェクションでは、マウスES細胞はより高いOct4プロモーター活性を示したが、CMVプロモーター活性はH9C2及びHEK−293T細胞に比べて同等以下であった。(CMVプロモーター活性によって基準化した)Oct4プロモーター活性は、マウスES細胞では、H9C2及びHEK−293T細胞に比べてそれぞれ43倍及び647倍高かった(T検定、p=0.002)。Oct4−FLuc2及びCMV−FLuc2トランスフェクションでは、マウスES細胞はより高いOct4プロモーター活性を示したが、CMVプロモーター活性はHEK−293T細胞より低かった。CMVプロモーター活性によって基準化したOct4プロモーター活性は、マウスES細胞では、HEK−293細胞に比べて401倍高かった(T検定、p=0.001)。図2A〜2Dは、胚性幹細胞に対するOct4発現の特異性を分化成体細胞株と比較して示すグラフである。図2AはマウスES細胞に関してH9C2及びHEK−293T細胞より高いOct4−hRLuc活性を示しているが、CMVプロモーター活性はH9C2及びHEK−293T細胞に比べて同等以下であった。図2BはCMV−hRLuc活性によって基準化されたOct4−hRLuc活性を示しており、Oct4−hRLuc活性はH9C2及びHEK−293細胞のものより有意に高かった。図2CはマウスES細胞に関してHEK−293T細胞より高いOct4−FLuc2活性を示しているが、CMVプロモーター活性はHEK−293T細胞より低かった。図2DはCMV−FLuc2活性によって基準化されたOct4−FLuc2活性を示しており、Oct4−FLuc2活性はHEK−293細胞のものより有意に高かった。
【実施例5】
【0059】
一時的なES細胞トランスフェクション及びOct4−hRLuc活性の経時的変化
マウスES細胞に、リポソームに基づく方法でOct4−hRLuc及びCMV−FLuc2を一時的にトランスフェクトし、分化培地中で培養した。トランスフェクションから1〜6日後の期間において、ルミノメーターアッセイを用いてホタル及びレニラルシフェラーゼアッセイを実施した。細胞当たりのOct4プロモーター活性を評価するため、Oct4−hRLuc活性をCMV−FLuc2活性によって基準化した。
【0060】
マウスES細胞において、CMVプロモーター活性によって基準化されたOct4プロモーター活性を測定した。マウスES細胞に、リポソームを用いてOct4−hRLuc及びCMV−FLuc2を一時的にトランスフェクトした。Oct4活性はトランスフェクションから2日後に最も高く、次いで活性は4日間にわたって徐々に減少した。図3は、トランスフェクトされたマウスES細胞がトランスフェクションから2日後に最も高い基準化RLuc活性を示し、その後は基準化RLuc活性が経時的に徐々に減少することを示している。
【実施例6】
【0061】
Oct4−hRLuc及びUbiq−Fluc−eGFPを有する安定なES細胞の作製
マウスES細胞に、リポソームに基づくトランスフェクションによってピューロOct4−hRLuc及びUbiq−Fluc−eGFPをトランスフェクトし、ピューロマイシン(濃度500ng/ml)で選択した。Oct4−hRLucを安定に発現するマウスES細胞を得た後、かかる細胞を8μg/mlのPolybrene(Sigma社)を含むOptiMEM中に再懸濁した。37℃及び5%CO2の細胞培養インキュベーター内において、5の感染多重度で細胞に3時間形質導入した。3時間後、新鮮な増殖培地を細胞に添加した。細胞を48〜72時間インキュベートした後、フローサイトメトリー及びバイオルミネセンスイメージングによって選別し分析した。ウイルスのトランスフェクト効率は71%であり、最高のeGFP発現を示す細胞を選別してさらなる実験に供した。
【実施例7】
【0062】
分化培地を用いた培養細胞におけるOct4−hRLuc及びUbiq−FLuc−eGFP活性の変化
Oct4−hRLuc及びUbiq−FLuc−eGFPの両方を安定に発現するマウスES細胞を、無血清ES細胞維持培地を用いて6ウェルプレート上にプレーティングした(105/ウェル)。24時間後、細胞を分化培地に移した。冷却電荷結合素子(CCD)カメラ(Xenogen IVIS、Xenogen Corp.、アラメダ、米国カリフォルニア州)を用いたバイオルミネセンスイメージングにより、D−ルシフェリン及びコエレンテラジンを用いてレニラルシフェラーゼ及びホタルルシフェラーゼ活性を測定した。
【0063】
分化培地を用いた細胞培養物においてOct4−hRLuc及びUbiq−FLuc−eGFPを安定に発現するマウスES細胞のhRLuc及びFluc2活性を経時的に測定した。Ubiq−FLuc活性は細胞数の増加と共に増加するのに対し、Oct4−hRLuc活性は分化培地中では細胞数の増加にかかわらず減少する(図4A)。Oct4−hRLuc活性をUbiq−Fluc活性によって基準化した場合、両活性とも経時的に減少する(図4B)。図4A〜4Bは、分化培地中においてOct4−hRLuc及びUbiq−FLuc−eGFPを安定に発現するマウスES細胞のルシフェラーゼ活性を経時的に示すグラフである。PCR分析は、Oct4 mRNAレベルの経時的な減少を示した。図5は、経時的に減少するOct4のPCR増幅mRNAレベルを示している。
【実施例8】
【0064】
生きているマウスにおけるマウスES細胞異種移植片のOct4−hRLuc及びUbiq−FLuc−eGFP活性の変化
動物の取扱いは、スタンフォード大学動物研究委員会のガイドラインに従って行った。すべての注射及びイメージング処置中には、マウスをイソフルオラン(100%酸素中2%イソフルラン、1L/分)を用いてガス麻酔した。冷却電荷結合素子(CCD)カメラ(Xenogen IVIS29、Xenogen Corp.)を用いてマウスのイメージングを行った。マウスES細胞(1×106)に、Oct4−hRLuc及びUbiq−FLuc−eGFPを安定にコトランスフェクトした。次いで、細胞を7週齢の雌マウス(nu/nu、Charles River社)に移植した。生きているマウスにおける移植ES細胞中のOct4プロモーター活性を測定するため、5%エタノールと95%PBSとの混合物に溶解した20μgのコエレンテラジン(最終容量200μL)を尾静脈から注射し、1分の取得時間を有するIVUSシステムを用いてマウスを直ちにイメージングした。動物を光密チャンバー内に入れ、低レベル照明の下でグレースケールの参照画像を得た。画像は、移植細胞から放出される光子を集めた後、Living Image Software(Zenogen Corp.)及びIgor Image Analysis Software(Wavemetrics社)を用いて得た。測定された光を定量化するため、移植細胞の領域にわたって平均及び最大光子数/秒/平方センチメートル/ステラジアンを求めた。
【0065】
生きているマウスにおける移植ES細胞中でのユビキチンプロモーター活性を測定するため、PBS中に溶解した3mgのD−ルシフェリン(最終容量200μL)を尾静脈から注射し、5分後に1分の取得時間を有するIVUSシステムを用いてマウスをイメージングし、光出力が最大点に達するまで続けた。データ解析は、上述したコエレンテラジンイメージングの場合と同じであった。
【0066】
Oct4−hRLuc及びUbiq−FLuc−eGFPを安定に発現するマウスES細胞をモニタリングすることで、ルシフェラーゼ活性を測定した。異種移植片のOct4−hRLuc活性は急速に減少した。24時間後に画像を取得したが、この時点でOct4−hRLuc活性はマウスES細胞の移植から5分後に測定した活性の約1.7%であった。Ubiq−FLucも減少し、移植から24時間後に画像を取得した時点で初期活性の19%になったが、その後に活性は徐々に増加した。図6A〜6Dは、生きているマウスにおける異種移植片のOct4−hRLuc及びUbiq−FLuc−eGFP活性の変化を示している。図6A及び図6Bは、異種移植片のOct4−hRLuc活性が急速に減少し、24時間後には細胞の移植から5分後に測定した活性の1.7%になったことを示している。図6C及び図6Dは、Ubiq−FLuc活性が徐々に減少し、24時間後には細胞の移植から5分後に測定した活性の19%になったが、その後は徐々に増加したことを示している。図6A〜6Bは、移植片から24時間以内にシグナルの急速な減少を示した異種移植片のOct4−hRLuc活性をイメージングすることで得た細胞分化状態の画像を示している。図6Cは、Ubiq−FLuc活性が最初は減少したが細胞の生存を追跡した72時間後には徐々に増加したことをグラフであり、図6Dは、Ubiq−FLuc活性をイメージングすることで得た移植後のマウスの一連の画像を示している。
【実施例9】
【0067】
GATA−4応答要素レポーター遺伝子系(GRERG)の創製
内胚葉及び心臓分化にとって決定的に重要なGATA4結合タンパク質の発現を測定するため、転写因子応答性レポーター遺伝子イメージング技法を開発した。GATA4結合配列の4つのコピーを、ヒト化ホタルルシフェラーゼ遺伝子を駆動する(PG5lucベクターからの)最小レポーターと連結することで、GATA4結合タンパク質応答要素レポーター遺伝子系(GRERG)を構築した。(Promega社からの)PGL4.10を骨格として使用した。4つのGATA結合配列及びアデノウイルスの主後期プロモーター配列をpGL4.10の多重クローニング部位に順次に挿入した。GATA応答要素を挿入するためにはXhoI及びHindIII制限酵素部位を使用した(図7)。図7に示すように、4つのGATA結合配列及びアデノウイルスの主後期プロモーター配列をpGL4.10の多重クローニング部位に順次に挿入した。
【実施例10】
【0068】
GATA4結合タンパク質を産生するベクターの作製
GATA4結合タンパク質に対するcDNAを有するプラスミドをOpenbiosystem社から購入した。cDNA配列をPCRで増幅した。NheI及びXhoIの制限酵素部位をPCR増幅DNAの各端に導入した。興味ある遺伝子を、pcDNA 3.1ベクター(図8)を発現する哺乳動物細胞中にクローニングした。ベクターをHEK 293細胞中にトランスフェクトし、GATA4結合タンパク質の発現を評価した。ベクターをトランスフェクトした細胞は、GATA4結合タンパク質mRNAのより高い発現を示した(図9)。図9は、GATA4タンパク質をエンコードするcDNA配列のPCR増幅を示す画像である。
【実施例11】
【0069】
レポーター遺伝子発現:ルミノメーターアッセイ(インビトロ)及びバイオルミネセンスイメージング(インビボ)
構築された発現ベクターをHEK 293細胞にコントランスフェクトすることで、GATA4結合タンパク質応答要素駆動レポーター遺伝子系(GRERG)の発現を判定した。トランスフェクションはLipofectamine(商標)2000(Invitrogen社)を用いて行った。適当なベクター用量を最適化するため、数種の濃度のGATA4結合タンパク質発現ベクターを適用した。GRERGのルシフェラーゼ活性は、図10に示すようにGATA4結合タンパク質発現ベクターのコトランスフェクションでGRERGの活性を高めるルミノメーターアッセイによって測定した。一定濃度のGRE−ルシフェラーゼをトランスフェクトすると共に、GATA結合タンパク質を発現するプラスミドベクターを増加する濃度でコトランスフェクトしたHEK 293T細胞からのルシフェラーゼ活性を測定した(ルミノメーター)。GATA4タンパク質の発現の増加は、GATA4応答要素と結合することによってルシフェラーゼの発現を活性化する。
【0070】
GRERG活性の増加率(約6倍)は、GATA4結合タンパク質発現ベクターの濃度に比例している。HEK 293細胞における(IVUSを用いた)バイオルミネセンスイメージング(BLI)アッセイにより、GRERGに関するルシフェラーゼ活性を測定した。GRERGのBLI活性もまた、HEK 293細胞にGATA4結合タンパク質発現ベクターをコトランスフェクトすることで増加した。GRERGの活性は、1μgのGATA4結合タンパク質発現ベクターを細胞にコトランスフェクトした場合、(GATA4結合タンパク質発現ベクターを含まない)単独のGRERGに比べて約6倍に増加した。図11は、一定濃度のGRE−ルシフェラーゼをトランスフェクトすると共に、GATA結合タンパク質を発現するプラスミドベクターを増加する濃度でコトランスフェクトしたHEK 293T細胞から(CCDカメライメージングで)測定したルシフェラーゼ活性の棒グラフである。GATA4タンパク質の発現の増加は、GATA4応答要素と結合することによってルシフェラーゼの発現を活性化する。
【0071】
構築された発現ベクターをHCT 116細胞にコトランスフェクトすることで、GATA4結合タンパク質応答要素レポーター遺伝子系(GRERG)の発現を測定した。トランスフェクションはLipofectamine(商標)2000(Invitrogen社)によって行った。ベクター用量を最適化するため、GATA4結合タンパク質発現ベクターを数種の濃度で適用した。(IVUSを用いた)BLIによって測定したGRERGのルシフェラーゼ活性もまた、HCT 116結腸癌細胞にGATA4結合タンパク質発現ベクターをコトランスフェクトすることで増加した。GRERGの活性は、図12に示すように、1.5μgのGATA4結合タンパク質発現ベクターを細胞にコトランスフェクトした場合、(GATA4結合タンパク質発現ベクターを含まない)単独のGRERGに比べて約16倍に増加した。一定濃度のGRE−Flucレポーターをトランスフェクトすると共に、GATA結合タンパク質を様々な用量でコトランスフェクトしたHCT 116結腸癌細胞からのルシフェラーゼ活性をバイオルミネセンスイメージングによって測定した(図12)。(IVUSを用いた)BLIアッセイによって測定したGRERGのルシフェラーゼ活性はまた、図13に示すように、HCT 116結腸癌細胞を5−アザシチジンで処理することによっても増加した。GRE−FLUCをトランスフェクトしたHCT 116結腸癌細胞においては、ルシフェラーゼ発現は5−アザシチジンでの処理後に時間(1〜3時間)と共に増加する。5−アザシチジンは、通常は内因性GATA発現を活性化する。
【実施例12】
【0072】
幹細胞特異的、構成的かつ誘導可能なプロモーター駆動光学レポーター遺伝子系の構築
幹細胞特異的Oct4プロモーターの遺伝子フラグメントを、HindIII及びNotI制限酵素での制限消化によってプラスミドから遊離させた。Oct4プロモーターの付着末端フラグメントをレニラルシフェラーゼ遺伝子の上流領域でpRL−CMVベクター中に連結することで、Oct4プロモーター駆動レニラルシフェラーゼ構築物(Oct4−hRLuc)を作製した。Oct4−hRLucを有するES細胞を作製するため、Oct4プロモーター駆動hRLucセグメントをBglII及びXbaI制限酵素でOct4−hRLucから遊離させ、同じ制限酵素で消化したpcDNA 3.1ピューロ中に連結した(ピューロOct4−hRLuc)。
【0073】
eGFPと融合したホタルルシフェラーゼ(FLuc)をエンコードする二官能性レポーター遺伝子系を生成するため、FLuc−eGFP及び切頭ヘルペス・シンプレックスチミジンキナーゼを含む三重融合レポーター遺伝子構築物からFLuc−eGFP(FG)をPCR増幅した。次いで、このフラグメントをpHRG(レニラルシフェラーゼ遺伝子を含むプロモーター無しのレポータープラスミド)中にクローニングしてpHRFGを創製した。下記のプライマーを用いてpFUGからユビキチンプロモーターをPCR増幅することで、5’末端にClaI部位を生成した。使用したプライマーは、5’−ggggatcgatAACCCGTGTCGGCTCCAGAT−3’(配列番号3)及び5’−GGCGTCTTCCATGGATCCTC−3’(配列番号4)であった。次いで、このフラグメントをpHRFGのClaI及びBamHI部位に連結してpHRUFGを創製した。さらに、Oct4−hRLucを含むpcDNA 3.1中にユビキチンに対する発現制御配列をクローニングすることで、Oct4−hRLuc及びUbiq−FLuc−eGFPを有する構築物を形成した。GATA4結合タンパク質に対するcDNA配列をPCRで増幅した。NheI及びXhoIの制限酵素部位をPCR増幅DNAの各端に導入した。興味ある遺伝子を、pcDNA 3.1ベクターを発現する哺乳動物細胞中にクローニングした。最後に、Oct4−hRLuc及びOct4−hRLuc及びUbiq−FLuc−eGFPを含むpcDNA 3.1中にGRERG配列を導入することで、3つの発現制御配列を有するベクターを形成した(図14)。
【0074】
以上、本明細書中には本発明の若干の特徴のみを例示し説明してきたが、当業者には数多くの修正及び変更が想起されるであろう。したがって、添付の特許請求の範囲は本発明の技術的範囲に含まれるこのような修正及び変更のすべてを包含するように意図されていることを理解すべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
幹細胞をモニタリングするための発現ベクターであって、
プロモーターを含む第1の発現制御配列と機能的に連結された第1のレポーター核酸配列、及び
第2の発現制御配列と機能的に連結された第2のレポーター核酸配列
を含んでなり、第2の発現制御配列は細胞分化又は脱分化の1以上のステージに応答して活性化又は不活性化する応答要素を含む、発現ベクター。
【請求項2】
1以上の多分化能性マーカーに対するプロモーターを含む第1の発現制御配列と機能的に連結された第1のレポーター核酸配列、及び
1種以上の応答要素特異的タンパク質の結合に応答する応答要素を含む第2の発現制御配列と機能的に連結された第2のレポーター核酸配列
を含んでなる発現ベクター。
【請求項3】
プロモーターがOct4、FoxD3、Sox2及びNanogから選択される、請求項2記載の発現ベクター。
【請求項4】
プロモーターがOct4である、請求項2記載の発現ベクター。
【請求項5】
応答要素特異的タンパク質がGATA4である、請求項2記載の発現ベクター。
【請求項6】
細胞特異的タンパク質がFLK−1、BM88及びHLA−Draから選択される、請求項2記載の発現ベクター。
【請求項7】
第2の発現制御配列がさらに、応答要素と機能的に連結された最小プロモーターを含む、請求項2記載の発現ベクター。
【請求項8】
最小プロモーターが、CMVプロモーター、アデノウイルス初期プロモーター、アデノウイルス後期プロモーター及びTATA Boxプロモーターからなる群から選択される、請求項7記載の発現ベクター。
【請求項9】
応答要素がGATA−4タンパク質結合配列の4回以上の反復を含む、請求項6記載の発現ベクター。
【請求項10】
さらに、第3の発現制御配列と機能的に連結された第3のレポーター核酸配列を含む、請求項2記載の発現ベクター。
【請求項11】
第3の発現制御配列が構成的プロモーターを含む、請求項10記載の発現ベクター。
【請求項12】
構成的プロモーターがユビキチンプロモーター、ニワトリβ−アクチンプロモーター(CAG)又はヒトROSAプロモーターである、請求項11記載の発現ベクター。
【請求項13】
第1、第2及び第3のレポーター核酸配列の少なくとも1つが、光学イメージング、磁気共鳴イメージング、陽電子放出断層撮影、単光子放出コンピューター断層撮影又はこれらの組合せによってイメージング可能なポリペプチドをエンコードする、請求項10記載の発現ベクター。
【請求項14】
第1及び第2のレポーター核酸配列の少なくとも一方が、陽電子放出断層撮影によってイメージング可能なポリペプチドをエンコードする、請求項2記載の発現ベクター。
【請求項15】
第1及び第2のレポーター核酸配列の少なくとも一方が、基質と反応してバイオルミネセンスを生じるポリペプチドをエンコードする、請求項2記載の発現ベクター。
【請求項16】
第1及び第2のレポーター核酸配列の両方が、基質と反応してバイオルミネセンスを生じるポリペプチドをエンコードする、請求項2記載の発現ベクター。
【請求項17】
基質と反応してバイオルミネセンスを生じるポリペプチドをエンコードする第1及び第2のレポーター核酸配列の一方が、ホタルルシフェラーゼ、レニラルシフェラーゼ及びガウシアルシフェラーゼから選択される、請求項15又は請求項16記載の発現ベクター。
【請求項18】
第1又は第2のレポーター核酸配列或いはその両方がそれ自体で蛍光を発するポリペプチドをエンコードする、請求項2記載の発現ベクター。
【請求項19】
第1のレポーター核酸配列がレニラルシフェラーゼをエンコードし、第2のレポーター核酸配列がホタルルシフェラーゼをエンコードする、請求項2記載の発現ベクター。
【請求項20】
請求項2記載の発現ベクターを含む培養細胞。
【請求項21】
請求項1記載の発現ベクターを含む、請求項20記載の培養細胞の子孫。
【請求項22】
幹細胞をモニタリングするための方法であって、
第1のレポーター核酸配列及び第2のレポーター核酸配列を含む第1の発現ベクターを幹細胞に送達する段階、並びに
第1及び第2のレポーター核酸配列の少なくとも一方の発現をイメージングすることで幹細胞をモニタリングする段階
を含んでなり、第1のレポーター核酸配列は1以上の多分化能性マーカーに対するプロモーターを含む第1の発現制御配列と機能的に連結されており、第2のレポーター核酸配列は1種以上の応答要素特異的タンパク質の結合に応答する応答要素を含む第2の発現制御配列と機能的に連結されている、方法。
【請求項23】
プロモーターがOct4、FoxD3、Sox2及びNanogから選択される、請求項22記載の方法。
【請求項24】
プロモーターがOct4である、請求項22記載の方法。
【請求項25】
応答要素特異的タンパク質がGATA4である、請求項22記載の方法。
【請求項26】
応答要素特異的タンパク質がFLK−1、BM88及びHLA−Draから選択される、請求項22記載の方法。
【請求項27】
第2の発現制御配列がさらに、応答要素と機能的に連結された最小プロモーターを含む、請求項22記載の方法。
【請求項28】
最小プロモーターが、CMVプロモーター、アデノウイルス初期プロモーター、アデノウイルス後期プロモーター及びTATA Boxプロモーターからなる群から選択される、請求項27記載の方法。
【請求項29】
発現ベクターがさらに、第3の発現制御配列と機能的に連結された第3のレポーター核酸配列を含む、請求項22記載の方法。
【請求項30】
第3の発現制御配列が構成的プロモーターを含む、請求項29記載の方法。
【請求項31】
第1、第2及び第3のレポーター核酸配列の少なくとも1つが、光学イメージング、磁気共鳴イメージング、陽電子放出断層撮影、単光子放出コンピューター断層撮影又はこれらの組合せによってイメージング可能なポリペプチドをエンコードする、請求項29記載の方法。
【請求項32】
第1及び第2のレポーター核酸配列のいずれか一方又は両方が、基質と反応してバイオルミネセンスを生じるポリペプチドをエンコードする、請求項22記載の方法。
【請求項33】
基質と反応してバイオルミネセンスを生じるポリペプチドが、ホタルルシフェラーゼ、レニラルシフェラーゼ及びガウシアルシフェラーゼから選択される、請求項32記載の方法。
【請求項34】
幹細胞が、単能性幹細胞、多分化能性幹細胞、多能性幹細胞、全能性幹細胞、誘導多能性幹細胞及びこれらの組合せから選択される、請求項29記載の方法。
【請求項35】
発現ベクターが、トランスフェクション、トランスダクション、ヌクレオフェクション、エレクトロポレーション又はこれらの組合せによって幹細胞に送達される、請求項29記載の方法。
【請求項36】
幹細胞のモニタリング段階が生きている被験体において実施される、請求項29記載の方法。
【請求項37】
モニタリング段階が、幹細胞の存在、不存在、濃度、局在又は分化状態を確認することを含む、請求項29記載の方法。
【請求項38】
分化状態があるタイプの成体細胞から幹細胞への脱分化を示す、請求項37記載の方法。
【請求項39】
さらに、モニタリング段階に先立って第2の発現ベクターを幹細胞に送達する段階を含み、第2の発現ベクターは構成的プロモーターを含む第3の発現制御配列と機能的に連結された第3のレポーター核酸配列を含む、請求項22記載の方法。
【請求項40】
幹細胞をモニタリングするためのキットであって、
第1の発現制御配列と機能的に連結された第1のレポーター核酸配列、及び
第2の発現制御配列と機能的に連結された第2のレポーター核酸配列
を含む発現ベクターを含んでなり、第1の発現制御配列はOct4プロモーターを含み、第2の発現制御配列はGATA4タンパク質の結合に応答する応答要素を含む、キット。
【請求項41】
さらに追加の発現ベクターを含み、追加の発現ベクターは構成的プロモーターを含む第3の発現制御配列と機能的に連結された第3のレポーター核酸配列を含む、請求項40記載のキット。
【請求項42】
1以上の多分化能性マーカーに対するプロモーターを含む第1の発現制御配列と機能的に連結された第1のレポーター核酸配列、及び
1種以上の細胞特異的タンパク質によって調節される細胞特異的プロモーターを含む第2の発現制御配列と機能的に連結された第2のレポーター核酸配列
を含んでなる発現ベクター。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図2D】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図6D】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公表番号】特表2013−503648(P2013−503648A)
【公表日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−528336(P2012−528336)
【出願日】平成22年9月6日(2010.9.6)
【国際出願番号】PCT/EP2010/063054
【国際公開番号】WO2011/029798
【国際公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【Fターム(参考)】