説明

幹細胞増殖因子(SCF)mRNA発現上昇抑制剤、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)mRNA発現上昇抑制剤、セリンパルミトイルトランスフェラーゼ(SPT)mRNA発現促進剤及びアクアポリン3(AQP3)mRNA発現促進剤

【課題】天然抽出物を含有した幹細胞増殖因子(SCF)mRNA発現上昇抑制剤及び塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)mRNA発現上昇抑制剤、セリンパルミトイルトランスフェラーゼ(SPT)mRNA発現促進剤及びアクアポリン3(AQP3)mRNA発現促進剤を提供する。
【解決手段】幹細胞増殖因子(SCF)mRNA発現上昇抑制剤及び塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)mRNA発現上昇抑制剤、セリンパルミトイルトランスフェラーゼ(SPT)mRNA発現促進剤又はアクアポリン3(AQP3)mRNA発現促進剤にアップルミント熱水抽出物を含有せしめる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、幹細胞増殖因子(SCF)mRNA発現上昇抑制剤、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)mRNA発現上昇抑制剤、セリンパルミトイルトランスフェラーゼ(SPT)mRNA発現促進剤及びアクアポリン3(AQP3)mRNA発現促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
幹細胞増殖因子(Stem Cell Factor,SCF)は、Must Cell Growth Factor、C-Kit Ligand、Steel Factor等とも呼ばれ、角化細胞、線維芽細胞、血管内皮細胞、骨髄ストローマ細胞等から産生されるタンパク質である。SCFは、多能性造血幹細胞、生殖細胞、肥満細胞、巨核球系前駆細胞、顆粒球・マクロファージ系前駆細胞、色素細胞等の増殖や分化を促進する作用を有することが知られている。また、SCFは、シミ部位や紫外線照射等によって発現が亢進することが知られている(非特許文献1参照)。
【0003】
SCFとしては、273のアミノ酸残基からなる膜結合型SCFと、タンパク質分解酵素の作用により切断され、膜から遊離する分泌型SCFとが知られている。膜結合型SCFは、角化細胞等に結合したまま色素細胞のSCFレセプターに結合し、色素細胞の増殖を促進する。また、分泌型SCFは、その結合部位にて切断され、細胞膜から遊離し、色素細胞のSCFレセプターに結合することによって、色素細胞の増殖を促進する。さらに、SCFは、急性骨髄性白血病患者において、インターロイキン−3(Interleukin-3,IL−3)や顆粒球・マクロファージ・コロニー刺激因子(Granulocyte Macrophage Colony Stimulating Factor,GM−CSF)の共存下で骨髄芽球の増殖を促進することが知られている(非特許文献2参照)。
【0004】
塩基性線維芽細胞増殖因子(basic Fibroblast Growth Factor,bFGF)は、FGF−2とも呼ばれ、紫外線照射により角化細胞からの遊離が促進され、遊離されたbFGFが色素細胞に作用してメラニン合成を促進し、かつ色素細胞の細胞分裂をも促進すると考えられている(非特許文献3参照)。また、bFGFは、血管新生促進因子として知られており、腫瘍細胞(特に、悪性腫瘍細胞)における血管新生を促進すること等が知られている。
【0005】
そのため、SCF及びbFGFの異常産生は、色素細胞の異常増殖につながり、メラニン産生を亢進させ、シミ、ソバカス、くすみ等の原因となると考えられる。また、SCFの異常産生は、骨髄芽球の異常増殖につながり、それにより骨髄異形成症候群、急性骨髄性白血病(AML)等の疾患を引き起こすものと考えられ、bFGFの異常産生は、腫瘍細胞における血管新生を促進し、それにより腫瘍細胞の増殖につながるものと考えられる。
【0006】
したがって、SCFmRNA及びbFGFmRNAの発現上昇を抑制することは、色素細胞の増殖を抑制し、皮膚におけるメラニンの過剰産生を抑制し、日焼け後の色素沈着、シミ、ソバカス等の予防又は抑制に有用であると考えられる。また、SCFの発現上昇を抑制することは、骨髄芽球の異常増殖を抑制し、骨髄異形成症候群、急性骨髄性白血病等の予防又は治療に有用であると考えられ、bFGFの発現上昇を抑制することは、腫瘍細胞における血管新生を抑制し、腫瘍細胞の増殖を抑制することで、がん治療等に有用であると考えられる。
【0007】
このような考えに基づき、SCFの産生・放出を抑制する作用を有するものとして、例えば、バラエキスローズ水、チャエキス、ホップエキス、サンザシエキス、アズキ末、シラカバエキス、ケイヒエキス、チョウジエキス、アルニカエキス、ボタンエキス、ボダイジュ、クロレラエキス、ローマカミツレエキス、紅茶エキス、ユーカリエキス、ソウジュツエキス末、ビャクジュツエキス末、ウーロン茶エキス末、オノニスエキス、アセンヤクエキス、ブドウ葉エキス、ボウフウエキス、クワエキス、パリエタリアエキス、アンソッコウエキス、ステビアエキス、ヒノキ、ショウブ根エキス、ダイズエキス、カギカズラ、サボンソウエキス、アルテアエキス、オトギリソウエキス及びヨモギエキス等が知られている(特許文献1参照)。また、bFGFの作用を抑制し得るものとして、例えば、オノニスエキス等が知られている(特許文献2参照)。
【0008】
セラミドは、表皮細胞の角化の過程においてセリンとパルミトイル−CoAとを基に、セラミド合成の律速酵素として知られるセリンパルミトイルトランスフェラーゼ(SPT)をはじめとする酵素の働きにより生成される。セラミドは、皮膚最外層を覆う角質細胞間脂質の主成分として特異的に存在し、皮膚本来が持つ生体と外界とのバリア膜としての機能維持に重要な役割を果たしている。
【0009】
角層の構造は、レンガとモルタルとに例えられ、15層ほどに積み重なった角層細胞を細胞間脂質が繋ぎ止める形で強固なバリア膜を形成している。角層細胞は、アミノ酸を主成分とする天然保湿因子を細胞内に含有することによって水分を保持し、一方、角質細胞間脂質は、約50%のセラミドを主成分とし、コレステロール、脂肪酸等の両親媒性脂質から構成されており、疎水性部分と親水性部分とが交互に繰り返される層板構造、いわゆるラメラ構造を特徴としている。
【0010】
様々な内的・外的要因による皮膚のバリア機能の低下は、経表皮水分蒸散量を増加させ、皮膚のかさつき、落屑、掻痒感等を惹き起こし、いわゆる乾燥肌に陥る。また、皮膚のバリア機能の低下は、皮膚の炎症を増大させ、外界からの様々な刺激に対する防御機能が低下するという悪循環に陥る。最近の研究において、加齢により、又はバリア障害として知られるアトピー性皮膚炎患者において、角層セラミド成分(いわゆる細胞間脂質)の減少や組成変化が報告されており(非特許文献4参照)、皮膚のバリア機能の維持、改善にセラミドが重要であることが広く知られるようになっている。このような考え方に基づいて、皮膚のバリア機能を改善する方法として、セラミドを外部から補う方法(非特許文献5参照)や皮膚内部においてセラミド産生能を高める方法(非特許文献6参照)等が知られている。
【0011】
皮膚細胞では、水チャンネルとして知られるアクアポリンが、細胞膜上に発現して、細胞間隙の水をはじめとする低分子物質を細胞内へ取り込む役割を担っていることが知られている。
【0012】
ヒトでは、13種類のアクアポリン(AQP0〜AQP12)の存在が知られている。表皮細胞においては、主としてAQP3が存在しており、水に加えて、水分保持作用に関与するグリセロールや尿素等の低分子化合物をも取り込む役割を担っていると考えられている。
【0013】
しかしながら、AQP3は加齢とともに減少し、このことが水分保持機能の低下の一因であることが示唆されているため、AQP3の発現を促進することにより、加齢による水分保持能やバリア機能等を制御することが可能であると考えられる(非特許文献7参照)。このような考えに基づき、AQP3発現促進作用を有するものとして、例えば、トコフェリルレチノエート(特許文献3参照)、ノウゼンハレン科植物より得られる抽出物(特許文献4参照)等が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2003−194809号公報
【特許文献2】特開2005−104904号公報
【特許文献3】特開2006−290873号公報
【特許文献4】特開2004−168732号公報
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】Hachiya A et al.,J. Invest. Dermatol.,No.116,2001,p.578-586
【非特許文献2】Virginia C. Broudy et al.,Blood,Vol.80,No.1,1992,p.60-67
【非特許文献3】Halaban R. et al.,J. Cell. Biol.,No.107,1988,p.1611-1619
【非特許文献4】Akimoto K et al.,"J. Dermatol.",1993,Vol.20,p.1
【非特許文献5】Kenya I et al.,"フレグランスジャーナル",2004,Vol.11,p.23-32
【非特許文献6】Tanno O et al.,"Br. J. Dermatol.",2000,Vol.143,p.524
【非特許文献7】"フレグランスジャーナル",2006,Vol.34,No.10,p.19-23
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、幹細胞増殖因子(SCF)mRNA発現上昇抑制作用、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)mRNA発現上昇抑制作用、セリンパルミトイルトランスフェラーゼ(SPT)mRNA発現促進作用又はアクアポリン3(AQP3)mRNA発現促進作用を有するものを見出し、それを有効成分とする幹細胞増殖因子(SCF)mRNA発現上昇抑制剤、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)mRNA発現上昇抑制剤、セリンパルミトイルトランスフェラーゼ(SPT)mRNA発現促進剤及びアクアポリン3(AQP3)mRNA発現促進剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するために、本発明の幹細胞増殖因子(SCF)mRNA発現上昇抑制剤、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)mRNA発現上昇抑制剤、セリンパルミトイルトランスフェラーゼ(SPT)mRNA発現促進剤又はアクアポリン3(AQP3)mRNA発現促進は、アップルミント熱水抽出物を有効成分として含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、安全性の高い天然抽出物を有効成分として含有する幹細胞増殖因子(SCF)mRNA発現上昇抑制剤、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)mRNA発現上昇抑制剤、セリンパルミトイルトランスフェラーゼ(SPT)mRNA発現促進剤及びアクアポリン3(AQP3)mRNA発現促進を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明について説明する。
本発明のSCFmRNA発現上昇抑制剤、bFGFmRNA発現上昇抑制剤、SPTmRNA発現促進剤及びAQP3mRNA発現促進剤は、アップルミント熱水抽出物を有効成分として含有する。
【0020】
本発明において「アップルミント熱水抽出物」には、アップルミントを抽出原料として用い、熱水を抽出溶媒として用いて得られる抽出液、当該抽出液の希釈液若しくは濃縮液、当該抽出液を乾燥して得られる乾燥物、又はこれらの粗精製物若しくは精製物のいずれもが含まれる。
【0021】
本発明において使用する抽出原料は、アップルミント(学名:Mentha suaveolens)である。アップルミントは、地中海沿岸からヨーロッパが原産地であるシソ科ハッカ属に属する多年草であり、これらの地域から容易に入手することができる。抽出原料として使用し得るアップルミントの構成部位としては、例えば、葉部、枝部、茎部、果実部、種子部、花部、根部又はこれらの部位の混合物等が挙げられるが、好ましくは葉部である。
【0022】
アップルミント熱水抽出物に含有されるSCFmRNA発現上昇抑制作用、bFGFmRNA発現上昇抑制作用、SPTmRNA発現促進作用又はAQP3mRNA発現促進作用を有する物質の詳細は不明であるが、植物の抽出に一般に用いられている抽出方法によって、アップルミントからこれらの作用を有する抽出物を得ることができる。
【0023】
アップルミント熱水抽出物は、抽出原料を乾燥した後、そのまま又は粗砕機を用いて粉砕し、抽出溶媒としての熱水による抽出に供することにより得ることができる。乾燥は天日で行ってもよいし、通常使用される乾燥機を用いて行ってもよい。また、ヘキサン等の非極性溶媒によって脱脂等の前処理を施してから抽出原料として使用してもよい。脱脂等の前処理を行うことにより、アップルミントの熱水による抽出処理を効率よく行うことができる。
【0024】
抽出溶媒として使用し得る水としては、純水、水道水、井戸水、鉱泉水、鉱水、温泉水、湧水、淡水等のほか、これらに各種処理を施したものが含まれる。水に施す処理としては、例えば、精製、加熱、殺菌、濾過、イオン交換、浸透圧調整、緩衝化等が含まれる。したがって、本発明において抽出溶媒として使用し得る水には、精製水、熱水、イオン交換水、生理食塩水、リン酸緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水等も含まれる。
【0025】
抽出処理は、抽出原料に含まれる可溶性成分を抽出溶媒に溶出させ得る限り特に限定はされず、常法に従って行うことができる。例えば、抽出原料の5〜25倍量(質量比)の抽出溶媒である水に抽出原料を浸漬させ、60〜100℃の温度条件下で加熱して可溶性成分を抽出させた後、濾過して抽出残渣を除去することにより抽出液を得ることができる。得られた抽出液から溶媒を留去するとペースト状の濃縮物が得られ、この濃縮物をさらに乾燥すると乾燥物が得られる。
【0026】
以上のようにして得られるアップルミント熱水抽出物は、SCFmRNA発現上昇抑制作用、bFGFmRNA発現上昇抑制作用、SPTmRNA発現促進作用又はAQP3mRNA発現促進作用を有しているため、それらの作用を利用してSCFmRNA発現上昇抑制剤、bFGFmRNA発現上昇抑制剤、SPTmRNA発現促進剤又はAQP3mRNA発現促進剤の有効成分として使用することができる。
【0027】
また、アップルミント熱水抽出物は、そのSCFmRNA発現上昇抑制作用を利用して、SCFmRNAの発現上昇に起因する疾患の予防・治療剤(例えば、骨髄異形成症候群予防・治療剤、急性骨髄性白血病予防・治療剤、抗腫瘍剤等)の有効成分として用いることもできる。
【0028】
さらに、アップルミント熱水抽出物は、そのbFGFmRNA発現上昇抑制作用を利用して、bFGFmRNAの発現上昇に起因する疾患の予防・治療剤(例えば、血管新生抑制剤、抗がん剤、抗腫瘍剤、がん細胞の転移を抑制する医薬組成物等)の有効成分として用いることもできる。
【0029】
さらにまた、アップルミント熱水抽出物は、そのSPTmRNA発現促進作用を通じて、セラミドの合成を促進し、皮膚バリア機能を改善することができるため、皮膚バリア機能改善剤の有効成分として用いることもできる。具体的にはアトピー性皮膚炎等の炎症性疾患による皮膚バリア機能障害の予防・治療剤等の有効成分として用いることもできる。また、アップルミント熱水抽出物は、そのSPTmRNA発現促進作用を通じて、セラミドの合成を促進することができるため、セラミドの合成障害に起因する疾患(例えば、アトピー性皮膚炎等)の予防・治療剤の有効成分として用いることもできる。
【0030】
本発明のSCFmRNA発現上昇抑制剤、bFGFmRNA発現上昇抑制剤、SPTmRNA発現促進剤又はAQP3mRNA発現促進剤は、アップルミント熱水抽出物のみからなるものでもよいし、アップルミント熱水抽出物を製剤化したものでもよい。
【0031】
アップルミント熱水抽出物は、デキストリン、シクロデキストリン等の薬学的に許容し得るキャリアーその他任意の助剤を用いて、常法に従い、粉末状、顆粒状、液状等の任意の剤形に製剤化することができる。この際、助剤としては、例えば、賦形剤、安定剤、矯臭剤等を用いることができる。アップルミント熱水抽出物を製剤化したSCFmRNA発現上昇抑制剤、bFGFmRNA発現上昇抑制剤、SPTmRNA発現促進剤又はAQP3mRNA発現促進剤の形態としては、例えば、軟膏剤、外用液剤、貼付剤等が挙げられる。
【0032】
なお、本発明のSCFmRNA発現上昇抑制剤、bFGFmRNA発現上昇抑制剤、SPTmRNA発現促進剤又はAQP3mRNA発現促進剤は、必要に応じて、SCFmRNA発現上昇抑制作用、bFGFmRNA発現上昇抑制作用、SPTmRNA発現促進作用又はAQP3mRNA発現促進作用を有する天然抽出物等を、アップルミント熱水抽出物とともに配合して有効成分として用いることができる。
【0033】
本発明のSCFmRNA発現上昇抑制剤、bFGFmRNA発現上昇抑制剤、SPTmRNA発現促進剤又はAQP3mRNA発現促進剤の患者に対する投与方法としては、皮下組織内投与、筋肉内投与、静脈内投与、経口投与、経皮投与等が挙げられるが、疾患の種類に応じて、その予防・治療等に好適な方法を適宜選択すればよい。
【0034】
また、本発明のSCFmRNA発現上昇抑制剤、bFGFmRNA発現上昇抑制剤、SPTmRNA発現促進剤又はAQP3mRNA発現促進剤の投与量も、疾患の種類、重症度、患者の個人差、投与方法、投与期間等によって適宜増減すればよい。
【0035】
本発明のSCFmRNA発現上昇抑制剤は、アップルミント熱水抽出物が有するSCFmRNA発現上昇抑制作用を通じて、SCFの発現の上昇を抑制することができ、これにより色素細胞の増殖やメラニンの産生を抑制し、シミ、ソバカス、皮膚色素沈着症等を予防又は改善することができ、美白効果を得ることができる。また、本発明のSCFmRNA発現上昇抑制剤は、アップルミント熱水抽出物が有するSCFmRNA発現上昇抑制作用を通じて、骨髄芽球の異常増殖を抑制することができ、これにより骨髄異形成症候群、急性骨髄性白血病等の疾患を予防、治療又は改善することができる。ただし、本発明のSCFmRNA発現上昇抑制剤は、これらの用途以外にもSCFmRNA発現上昇抑制作用を発揮することに意義のあるすべての用途に用いることができる。
【0036】
本発明のbFGFmRNA発現上昇抑制剤は、アップルミント熱水抽出物が有するbFGFmRNA発現上昇抑制作用を通じて、bFGFの発現の上昇を抑制することができ、これにより色素細胞の増殖やメラニンの産生を抑制し、シミ、ソバカス、皮膚色素沈着症等を予防又は改善することができ、美白効果を得ることができる。また、本発明のbFGFmRNA発現上昇抑制剤は、アップルミント熱水抽出物が有するbFGFmRNA発現上昇抑制作用を通じて、腫瘍細胞における異常な血管新生を抑制し、がん等の疾患を予防、治療又は改善をすることができる。ただし、本発明のbFGFmRNA発現上昇抑制剤は、これらの用途以外にもbFGFmRNA発現上昇抑制作用を発揮することに意義のあるすべての用途に用いることができる。
【0037】
本発明のSPTmRNA発現促進剤は、アップルミント熱水抽出物が有するSPTmRNA発現促進作用を通じて、セラミドの合成を促進することができ、これにより、しわ、弾力性の低下等の皮膚の老化症状を予防又は改善することができるとともに、アトピー性皮膚炎等の炎症性疾患による皮膚バリア機能障害やアトピー性皮膚炎等のセラミド合成障害に起因する疾患を予防、治療又は改善することができる。ただし、本発明のSPTmRNA発現促進剤は、これらの用途以外にもSPTmRNA発現促進作用を発揮することに意義のあるすべての用途に用いることができる。
【0038】
本発明のAQP3mRNA発現促進剤は、アップルミント熱水抽出物が有するAQP3mRNA発現促進作用を通じて、アクアポリン3(AQP3)の発現を促進することができるため、皮膚の水分保持能やバリア機能を改善することができ、それにより皮膚の乾燥、しわの形成、弾力性の低下等の皮膚の老化症状を予防又は改善することができる。ただし、本発明のAQP3mRNA発現促進剤は、これらの用途以外にもAQP3mRNA発現促進作用を発揮することに意義のあるすべての用途に用いることができる。
【0039】
なお、本発明のSCFmRNA発現上昇抑制剤、bFGFmRNA発現上昇抑制剤、SPTmRNA発現促進剤又はAQP3mRNA発現促進剤は、ヒトに対して好適に適用されるものであるが、それぞれの作用効果が奏される限り、ヒト以外の動物に対して適用することもできる。
【実施例】
【0040】
以下、製造例及び試験例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の各例に何ら制限されるものではない。
【0041】
〔製造例1〕アップルミント熱水抽出物の製造
アップルミントの葉部100gに抽出溶媒として水2000mLを加え、90℃で1時間加熱抽出した。得られた抽出液を減圧下に濃縮し、さらに乾燥してアップルミント熱水抽出物31g(試料1)を得た。
【0042】
〔試験例1〕SCFmRNA発現上昇抑制作用試験
アップルミント熱水抽出物(試料1)について、以下のようにしてSCFmRNA発現上昇抑制作用を試験した。
【0043】
正常ヒト新生児包皮表皮角化細胞(normal human epidermal keratinocyte;NHEK)を80cmフラスコで正常ヒト表皮角化細胞長期培養用増殖培地(EpiLife-KG2)において、37℃、5%CO−95%airの条件下で前培養し、トリプシン処理により細胞を回収した。
【0044】
EpiLife-KG2を用いて35mmシャーレ(FALCON)に40×10cells/2mL/シャーレずつ播き、37℃、5%CO−95%airの条件下で一晩培養した。24時間後に培養液を捨て、HEPES緩衝液1mLを加えてUV−B照射(50mJ/cm)を行い、その後EpiLife-KG2で必要濃度に溶解した試験試料(試料1,試料濃度:1μg/mL)を各シャーレに2mLずつ添加し、37℃、5%CO−95%airの条件下で24時間培養した。培養後、培養液を捨て、ISOGEN(NIPPON GENE社製,Cat.no.311-02501)にて総RNAを抽出し、それぞれのRNA量を分光光度計にて測定し、200ng/μLになるように総RNAを調製した。
【0045】
この総RNAを鋳型とし、SCF(Stem Cell Factor)及び内部標準であるGAPDHのmRNAの発現量を測定した。検出はリアルタイムPCR装置Smart Cycler(Cepheid社)を用いて、TaKaRa SYBR PrimeScript RT-PCR Kit(Perfect Real Time,code No.RR063A)によるリアルタイム2 Step RT-PCR反応により行った。SCFのmRNAの発現量は、紫外線未照射・試料無添加、紫外線照射・試料無添加及び紫外線照射・試料添加でそれぞれ培養した細胞から調製した総RNA標品を基にして、GAPDHの値で補正値を求め、さらに紫外線未照射・試料無添加の補正値を100とした時の紫外線照射・試料無添加及び紫外線照射・試料添加の補正値を算出した。得られた結果から、下記式によりSCFmRNA発現上昇抑制率(%)を算出した。
【0046】
SCFmRNA発現上昇抑制率(%)={(A−B)−(A−C)}/(A−B)×100
式中、Aは「紫外線未照射・試料無添加時の補正値」を表し、Bは「紫外線照射・試料無添加時の補正値」を表し、Cは「紫外線照射・試料添加時の補正値」を表す。
【0047】
以上のようにして算出した結果、アップルミント熱水抽出物のSCFmRNA発現上昇抑制率は65.8%であった。この結果から、アップルミント熱水抽出物は、優れたSCFmRNA発現上昇抑制作用を有することが判明した。
【0048】
〔試験例2〕bFGFmRNA発現上昇抑制作用試験
アップルミント熱水抽出物(試料1)について、以下のようにしてbFGFmRNA発現上昇抑制作用を試験した。
【0049】
正常ヒト新生児包皮表皮角化細胞(normal human epidermal keratinocyte;NHEK)を80cmフラスコで正常ヒト表皮角化細胞長期培養用増殖培地(EpiLife-KG2)において、37℃、5%CO−95%airの条件下で前培養し、トリプシン処理により細胞を回収した。
【0050】
EpiLife-KG2を用いて35mmシャーレ(FALCON)に40×10cells/2mL/シャーレずつ播き、37℃、5%CO−95%airの条件下で一晩培養した。24時間後に培養液を捨て、HEPES緩衝液1mLを加えてUV−B照射(50mJ/cm)を行い、その後EpiLife-KG2で必要濃度に溶解した試験試料(試料1,試料濃度:1μg/mL)を各シャーレに2mLずつ添加し、37℃、5%CO−95%airの条件下で24時間培養した。培養後、培養液を捨て、ISOGEN(NIPPON GENE社製,Cat.no.311-02501)にて総RNAを抽出し、それぞれのRNA量を分光光度計にて測定し、200ng/μLになるように総RNAを調製した。
【0051】
この総RNAを鋳型とし、bFGF(basic Fibroblast Growth Factor)及び内部標準であるGAPDHのmRNAの発現量を測定した。検出はリアルタイムPCR装置Smart Cycler(Cepheid社)を用いて、TaKaRa SYBR PrimeScript RT-PCR Kit(Perfect Real Time,code No.RR063A)によるリアルタイム2 Step RT-PCR反応により行った。bFGFのmRNAの発現量は、紫外線未照射・試料無添加、紫外線照射・試料無添加及び紫外線照射・試料添加でそれぞれ培養した細胞から調製した総RNA標品を基にして、GAPDHの値で補正値を求め、さらに紫外線未照射・試料無添加の補正値を100とした時の紫外線照射・試料無添加および紫外線照射・試料添加の補正値を算出した。得られた結果から、下記式によりbFGFmRNA発現上昇抑制率(%)を算出した。
【0052】
bFGFmRNA発現上昇抑制率(%)={(A−B)−(A−C)}/(A−B)×100
式中、Aは「紫外線未照射・試料無添加時の補正値」を表し、Bは「紫外線照射・試料無添加時の補正値」を表し、Cは「紫外線照射・試料添加時の補正値」を表す。
【0053】
以上のようにして算出した結果、アップルミント熱水抽出物のbFGFmRNA発現上昇抑制率は63.8%であった。この結果から、アップルミント熱水抽出物は、優れたbFGFmRNA発現上昇抑制作用を有することが判明した。
【0054】
〔試験例3〕SPTmRNA発現促進作用試験
アップルミント熱水抽出物(試料1)について、以下のようにしてSPTmRNA発現促進作用を試験した。
【0055】
正常ヒト新生児包皮表皮角化細胞(normal human epidermal keratinocyte:NHEK)を80cmフラスコで正常ヒト表皮角化細胞長期培養用増殖培地(EpiLife-KG2)において、37℃、5%CO−95%airの条件下で前培養し、トリプシン処理により細胞を回収した。
【0056】
EpiLife-KG2を用いて35mmシャーレ(FALCON)に40×10cells/2mL/シャーレずつ播き、37℃、5%CO−95%airの条件下で一晩培養した。24時間後に培養液を捨て、EpiLife-KG2で必要濃度に溶解した試験試料(試料1,試料濃度は下記表1を参照)を各シャーレに2mLずつ添加し、37℃、5%CO−95%airの条件下で24時間培養した。培養後、培養液を捨て、ISOGEN(NIPPON GENE社製,Cat.no.311-02501)にて総RNAを抽出し、それぞれのRNA量を分光光度計にて測定し、200ng/μLになるように総RNAを調製した。
【0057】
この総RNAを鋳型とし、SPT及び内部標準であるGAPDHのmRNAの発現量を測定した。検出はリアルタイムPCR装置Smart Cycler(Cepheid社)を用いて、TaKaRa SYBR PrimeScript RT-PCR Kit(Perfect Real Time,code No.RR063A)によるリアルタイム2 Step RT-PCR反応により行った。SPTのmRNAの発現量は、試料無添加及び試料添加でそれぞれ培養した細胞から調製した総RNA標品を基にして、GAPDHの値で補正値を求め、さらに試料無添加の補正値を100とした時の試料添加の補正値を算出した。得られた結果から、下記式によりSPTmRNA発現促進率(%)を算出した。
【0058】
SPTmRNA発現促進率(%)=A/B×100
式中、Aは「試料添加時の補正値」を表し、Bは「試料無添加時の補正値」を表す。
結果を表1に示す。
【0059】
【表1】

【0060】
表1に示すように、アップルミント熱水抽出物は、優れたSPTmRNA発現促進作用を有することが判明した。
【0061】
〔試験例4〕AQP3mRNA発現促進作用試験
アップルミント熱水抽出物(試料1)について、以下のようにしてAQP3mRNA発現促進作用を試験した。
【0062】
正常ヒト新生児包皮表皮角化細胞(normal human epidermal keratinocyte:NHEK)を80cmフラスコで正常ヒト表皮角化細胞長期培養用増殖培地(EpiLife-KG2)において、37℃、5%CO−95%airの条件下で前培養し、トリプシン処理により細胞を回収した。
【0063】
EpiLife-KG2を用いて35mmシャーレ(FALCON)に40×10cells/2mL/シャーレずつ播き、37℃、5%CO−95%airの条件下で一晩培養した。24時間後に培養液を捨て、EpiLife-KG2で必要濃度に溶解した試験試料(試料1,試料濃度は下記表2を参照)を各シャーレに2mLずつ添加し、37℃、5%CO−95%airの条件下で24時間培養した。培養後、培養液を捨て、ISOGEN(NIPPON GENE社製,Cat.no.311-02501)にて総RNAを抽出し、それぞれのRNA量を分光光度計にて測定し、200ng/μLになるように総RNAを調製した。
【0064】
この総RNAを鋳型とし、AQP3及び内部標準であるGAPDHのmRNAの発現量を測定した。検出はリアルタイムPCR装置Smart Cycler(Cepheid社)を用いて、TaKaRa SYBR PrimeScript RT-PCR Kit(Perfect Real Time,code No.RR063A)によるリアルタイム2 Step RT-PCR反応により行った。AQP3のmRNAの発現量は、試料無添加及び試料添加でそれぞれ培養した細胞から調製した総RNA標品を基にして、GAPDHの値で補正値を求め、さらに試料無添加の補正値を100とした時の試料添加の補正値を算出した。得られた結果から、下記式によりAQP3mRNA発現促進率(%)を算出した。
【0065】
AQP3mRNA発現促進率(%)=A/B×100
式中、Aは「試料添加時の補正値」を表し、Bは「試料無添加時の補正値」を表す。
結果を表2に示す。
【0066】
【表2】

【0067】
表2に示すように、アップルミント熱水抽出物は、優れたAQP3mRNA発現促進作用を有することが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の幹細胞増殖因子(SCF)mRNA発現上昇抑制剤及び塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)mRNA発現上昇抑制剤は、シミ、ソバカス、皮膚の色黒(皮膚色素沈着症)等の予防・改善に、本発明のセリンパルミトイルトランスフェラーゼ(SPT)mRNA発現促進剤及びアクアポリン3(AQP3)mRNA発現促進剤は、加齢による水分保持能や皮膚バリア機能の低下等の予防・改善に大きく貢献できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アップルミント熱水抽出物を有効成分として含有することを特徴とする幹細胞増殖因子(SCF)mRNA発現上昇抑制剤。
【請求項2】
アップルミント熱水抽出物を有効成分として含有することを特徴とする塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)mRNA発現上昇抑制剤。
【請求項3】
アップルミント熱水抽出物を有効成分として含有することを特徴とするセリンパルミトイルトランスフェラーゼ(SPT)mRNA発現促進剤。
【請求項4】
アップルミント熱水抽出物を有効成分として含有することを特徴とするアクアポリン3(AQP3)mRNA発現促進剤。

【公開番号】特開2010−202588(P2010−202588A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−50236(P2009−50236)
【出願日】平成21年3月4日(2009.3.4)
【出願人】(591082421)丸善製薬株式会社 (239)
【Fターム(参考)】